説明

歯車の製造方法

【課題】 より成形圧力が低減された冷間鍛造による歯車の製造方法を提供すること。
【解決手段】 外歯歯車Pの歯先円直径よりも大きい外径を有する大径部W1と大径部W1の径よりも小さい外径を有する小径部W2が形成された歯車素材Wを歯部成形ダイス21に載置し、歯部成形パンチ22で歯部成形ダイス21に載置された歯車素材Wの大径部W1を加圧して、大径部W1を歯型キャビティ部212bに押し込むことにより歯部X11を成形するとともに、加圧により流動する歯車素材Wの余剰部分が歯部成形パンチ22の型合わせ面221と歯部成形ダイス21の型合わせ面211との間の隙間を流れることによって歯部X11から径方向外方に延出するバリ部X3を形成する歯部成形工程と、バリ部X3を除去するバリ除去工程と、を含む、歯車の製造方法とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間鍛造による歯車の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車を冷間鍛造により製造する場合、鍛造用金型に大きな成形圧力が作用する。成形圧力を低減するための歯車の製造方法が開発されている。
【0003】
特許文献1は、歯車の径方向に垂直な平面で切断した歯部の断面積が、歯底から歯先にかけて一定になるように歯車を冷間鍛造する方法を開示する。この方法によれば、歯車の冷間鍛造時における成形圧力が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭60−43818号公報
【発明の概要】
【0005】
(発明が解決しようとする課題)
特許文献1に記載の歯車の製造方法においても、依然として成形圧力は高い。本発明は、より成形圧力が低減された冷間鍛造による歯車の製造方法を提供することを、目的とする。
【0006】
(課題を解決するための手段)
本発明は、冷間鍛造により外歯歯車を製造する歯車の製造方法であって、目的とする外歯歯車の歯先円直径よりも大きい外径を有する大径部と前記大径部の径よりも小さい外径を有する小径部が形成された歯車素材をダイスに載置し、パンチの型合わせ面が前記ダイスの型合わせ面に近づくように前記パンチを移動させ、前記パンチで前記ダイスに載置された前記歯車素材の前記大径部を加圧して、前記大径部を、前記ダイスの前記型合わせ面に開口するように形成され前記外歯歯車の歯部を成形するための歯型キャビティ部に押し込むことにより前記歯部を成形するとともに、前記加圧により流動する前記歯車素材の余剰部分が前記パンチの前記型合わせ面と前記ダイスの前記型合わせ面との間の隙間を前記歯部の径方向外方に流れることによって前記歯部から径方向外方に延出するバリ部を形成する歯部成形工程と、前記バリ部を除去するバリ除去工程と、を含む、歯車の製造方法を提供する。この場合において、前記歯部成形工程にて、前記隙間が開放されているのがよい。ここで、「隙間が開放されている」とは、隙間内の空間が外部空間に連通していることを意味する。
【0007】
本発明の歯車の製造方法は、歯部成形工程とバリ除去工程を含む。歯部成形工程では、歯車素材の大径部がダイスの歯型キャビティ部にパンチの加圧力で押し込められることによって、目的とする外歯歯車の歯部が冷間鍛造成形される。また、パンチによる加圧によって、例えば歯型キャビティ部に入りきらない歯車素材の余剰部分が流動する。この余剰部分は、パンチの型合わせ面とダイスの型合わせ面との間の隙間を歯部の径方向外方に流れる。隙間を流れた余剰部分によって、歯部から径方向外方に延出するバリ部が形成される。なお、歯部の径方向外方とは、歯部成形工程を経て成形される歯部を備える歯車部材(後述の実施形態では中間体X)の径方向外方を意味する。
【0008】
このように、本発明によれば、パンチによる歯車素材の大径部の加圧時に、加圧により生じた余剰部分がパンチの型合わせ面とダイスの型合わせ面との間の隙間を歯部の径方向外方に流れることにより成形圧力の上昇が抑えられる。故に、成形圧力を低下させることができる。特に隙間が開放されている場合、隙間内の圧力を例えば大気と同程度に設定することができるので、余剰部分が隙間内により張り出しやすい。つまり、本発明に係る鍛造による歯車の製造方法は、パンチの型合わせ面とダイスの型合わせ面とを密着させた状態で歯車を鍛造成形する閉塞鍛造方法ではなく、パンチの型合わせ面とダイスの型合わせ面との間に隙間が生じている状態で歯車を鍛造成形する開放鍛造方法である。したがって、成形圧力をより低下させることができる。
【0009】
また、歯車素材の大径部の外径が、目的とする外歯歯車の歯先円直径よりも大きい。したがって、歯部成形工程においては、歯型キャビティ部の径方向における長さよりも長い大径部が歯型キャビティ部に押し込められる。大径部の長さ(大径部の半径と小径部の半径との差)が歯型キャビティ部の径方向における長さよりも短い場合、バリ部として発生させるべき部分が歯型キャビティ部内に流れ込み、歯部を成形する材料の流動をかき乱す結果、歯先部にまくれ込みによる不良や、欠損による不良が発生する。したがって、歯車素材の大径部の外径が、目的とする外歯歯車の歯先円直径よりも大きくなるように歯車素材を成形し、大径部の長さを歯型キャビティ部の径方向における長さよりも長くすることで、上記した不具合の発生が防止される。
【0010】
本発明に用いられる歯車素材は、大径部とこの大径部の径よりも小さい径を有する小径部とを有する。大径部と小径部は軸方向に連なって形成されている。特に、同軸的に大径部と小径部が形成されているのがよい。また、上記「歯型キャビティ部」は、ダイスに形成されたキャビティの一部であり、そこに歯車素材(大径部)が押し付けられることによって目的とする外歯歯車の歯部が鍛造成形されるような形状に形成されている。
【0011】
前記歯車素材は、その大径部の軸方向長さが前記歯型キャビティ部の軸方向長さよりも長く形成されているのがよい。そして、前記歯部成形工程の完了時に、前記隙間の長さと前記歯型キャビティ部の軸方向長さとの和に相当する長さが前記大径部の軸方向長さよりも短くなるように、前記歯部成形工程にて前記パンチが前記大径部を加圧するものであるとよい。ここで、歯型キャビティ部の軸方向長さとは、その歯型キャビティ部により成形される歯部を備える歯車部材の軸方向における長さを意味する。
【0012】
歯部成形工程の完了時におけるパンチの型合わせ面とダイスの型合わせ面との間の隙間の長さとダイスの型合わせ面に開口した歯型キャビティ部の軸方向長さとの和に相当する長さが、歯車素材の大径部の軸方向長さよりも短い場合、歯部成形工程において歯車素材の大径部が初期の軸方向長さよりも短い長さになるまでパンチにより加圧される。こうしたパンチの加圧によって、歯車素材が十分に歯型キャビティ部に充填される。その結果、成形される外歯歯車の歯先部のダレ等の発生が防止される。
【0013】
また、前記歯部成形工程にて、前記バリ部の厚さが前記歯部の径方向外方に向かうにつれて厚くなるように、前記バリ部を成形するのがよい。ここで、バリ部の厚さとは、歯部の歯幅方向におけるバリ部の長さを意味する。バリ部の厚さが歯部の径方向外方に向かうにつれて厚くなっていれば、バリ部を除去する際に、バリ部が根元から破断され易い。このためバリ除去工程にて、バリ部を確実に除去することができる。また、バリ部を除去するための荷重を低減することができる。
【0014】
また、前記歯部成形工程にて、前記バリ部が、前記歯部の歯幅方向における一方の端部から径方向外方に延出するように形成されるのがよい。バリ部を除去したときに、バリ部の破断面が歯部の歯幅方向の略中央に形成されていると、歯車としての機能に影響を及ぼす可能性がある。これに対し、本発明ではバリ部が歯部の歯幅方向における一方の端部から形成されているので、バリ部を除去した場合においても歯部の歯幅方向の略中心部分にはバリ部の破断面が形成されない。よって、バリ部の破断面が歯車の機能に影響を及ぼす可能性を減少させることができる。
【0015】
また、本発明の歯車の製造方法は、前記大径部と前記大径部の径よりも小さい外径を有する前記小径部が同軸的に形成された歯車素材を成形する予備成形工程をさらに含むものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態において、外歯歯車を成形するための素材の形状と、外歯歯車を成形するまでの工程で得られる中間体の形状と、成形された外歯歯車の形状とを示す図である。
【図2】予備成形工程を示す図である。
【図3】歯部成形工程を示す図である。
【図4】バリ除去工程を示す図である。
【図5】歯部成形工程において、歯部成形パンチの第1水平面が歯車素材Wの大径部W1の上面に接触するときにおける歯車素材Wの大径部W1と歯部成形ダイスおよび歯部成形パンチの配置状態を示した部分断面概略図である。
【図6】歯部成形工程において、大径部W1の下面が歯型キャビティ部の下面に当接するまで大径部W1が歯型キャビティ部に押し込まれた状態を示す図である。
【図7】歯部成形工程が完了した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、軸部および歯車部を備える外歯歯車を冷間鍛造により製造する方法について説明する。図1は、外歯歯車を成形するための素材の形状と、外歯歯車を成形するまでの工程で得られる中間体の形状と、成形された外歯歯車の形状とを示す図である。本実施形態では、予備成形工程と、歯部成形工程と、バリ除去工程とを経て、外歯歯車Pが成形される。予備成形工程により素材W0から歯車素材Wが得られる。歯部成形工程により歯車素材Wから中間体Xが得られる。バリ除去工程により中間体Xから最終成形品である外歯歯車Pが得られる。図1(a−1)が素材W0の平面図、図1(a−2)が図1(a−1)のA−A断面図、図1(b−1)が予備成形工程で得られる歯車素材Wの平面図、図1(b−2)が図1(b−1)のB−B断面図、図1(c−1)が歯部成形工程で得られる中間体Xの平面図、図1(c−2)が図1(c−1)のC−C断面図、図1(d−1)がバリ除去工程後に得られる外歯歯車(成形品)Pの平面図、図1(d−2)が図1(d−1)のD−D断面図である。
【0018】
図1(a−1)および(a−2)からわかるように、素材W0は円柱形である。素材W0は中空円筒形状でもよい。素材W0の材質は例えば鉄である。図1(b−1)および(b−2)からわかるように、予備成形工程で成形される歯車素材Wは段付円柱形である。この歯車素材Wは、円板状の大径部W1および大径部W1に同軸的に形成されている小径部W2を有する。大径部W1の直径は小径部W2の直径よりも大きい。大径部W1は小径部W2の軸方向中央部付近に形成されている。小径部W2の直径は素材W0の直径に等しい。
【0019】
図1(c−1)および(c−2)からわかるように、歯部成形工程で成形される中間体Xは段付円柱形状である。この中間体Xは、円板状の歯車部X1と、歯車部X1に同軸的に形成されている軸部X2と、バリ部X3とを有する。歯車部X1の外周に歯部X11が形成されている。歯車部X1は歯車素材Wの大径部W1が冷間鍛造されることにより成形される。歯車素材Wの小径部W2が中間体Xの軸部X2を形成する。また、バリ部X3は、歯車部X1の歯部X11の歯幅方向における一方の端部(図においては上端部)から歯部X11の径方向外方に向けて延出されている。このバリ部X3は、歯車素材Wの大径部W1が冷間鍛造されて歯車部X1に歯部X11が成形されるときに形成される。図1(c−1)からわかるように、バリ部X3は、歯部X11の全周に亘り、歯部X11の径方向外方に向けて形成されている。
【0020】
図1(d−1)および(d−2)からわかるように、バリ除去工程で成形される最終成形品である外歯歯車Pは、中間体Xからバリ部X3を除去することにより成形される。外歯歯車Pは、円板状の歯車部P1と、歯車部P1に同軸的に形成されている軸部P2とを有する。歯車部P1の外周に歯部P11が形成されている。歯車部P1は、図1(d−1)に示すように周方向に沿った2位置にて欠損している。欠損部分K1,K2によって二面幅が形成されている。
【0021】
次に、外歯歯車Pを成形するための各工程について説明する。
【0022】
(予備成形工程)
図2は、予備成形工程を示す図である。予備成形工程により、図1(a−1)および図1(a−2)に示す素材W0から、図1(b−1)および図1(b−2)に示す歯車素材Wが成形される。図2(a)は素材W0が歯車素材Wに成形される前の状態を示し、図2(b)は素材W0が歯車素材Wに成形された状態を示す。予備成形工程においては、予備成形型10が用いられる。予備成形型10は、予備成形ダイス11と予備成形パンチ12とを備える。
【0023】
予備成形ダイス11は基部111とワーク載置部112とを有する。基部111の中央には図1の上下方向に延びた円柱状凹部111aが形成されている。円柱状凹部111aは基部111の上面111bに開口する。円柱状凹部111a内に円柱状のワーク載置部112が挿通される。ワーク載置部112上に素材W0が載置される。ワーク載置部112は円柱状凹部111a内を所定距離だけ上下方向に移動可能に構成されていてもよい。
【0024】
ワーク載置部112の直径は、素材W0の直径にほぼ等しい。したがって、図2(a)に示すようにワーク載置部112上に素材W0が載置された場合、素材W0が基部111の円柱状凹部111a内に進入することにより、素材W0の側周面が拘束される。また、ワーク載置部112が図2(a)に示す位置から下方に移動しないように、図示しないストッパ等が設けられている。
【0025】
予備成形パンチ12は図示しない油圧シリンダ等の駆動手段に接続されており、駆動手段の駆動力によって図2の上下方向に移動可能に構成される。予備成形パンチ12の下面12aには断面円形状の凹部12bが形成される。この凹部12bの外径は素材W0の外径にほぼ等しい。
【0026】
図2に示すように、予備成形パンチ12の凹部12bが予備成形ダイス11のワーク載置部112の上面に所定の間隔を隔てて対面するように、予備成形ダイス11と予備成形パンチ12が配設される。
【0027】
予備成形工程を実施するにあたっては、図2(a)に示すようにワーク載置部112上に素材W0を載置した後に、予備成形パンチ12を下降させる。予備成形パンチ12が所定量下降したときに、予備成形パンチ12の凹部12bの底面が素材W0の上面に接触する。これにより素材W0が予備成形パンチ12の凹部12bとワーク載置部112とで挟まれる。
【0028】
その後さらに予備成形パンチ12を下降させる。なお、このときワーク載置部112は下降しない。つまり予備成形パンチ12が予備成形ダイス11に対して相対的に下降する。
【0029】
予備成形パンチ12は、図2(b)で示す上下方向位置まで予備成形ダイス11に対して相対的に下降した後に、その下降を停止する。予備成形パンチ12の下降が停止したときに、予備成形ダイス11の型合わせ面と予備成形パンチ12の型合わせ面との間に隙間G0が形成される。隙間G0は、図1(b−2)に示す歯車素材Wの大径部W1の厚さ(軸方向長さ)tW1と等しい。なお、隙間G0は、厚さtw1よりも厚くても良い。
【0030】
予備成形ダイス11に対する予備成形パンチ12の相対的な下降によって、両者の間に挟まれた素材W0が加圧される。この加圧によって素材W0が塑性変形されるとともに塑性変形によって押し出された部分が予備成形ダイス11と予備成形パンチ12との間に形成された隙間G0内に逃げる。隙間G0内に逃げ込んだ部分が歯車素材Wの大径部W1を形成する。上記のような素材W0の加圧によって、素材W0から、大径部W1と小径部W2とを有する歯車素材Wが成形される。
【0031】
なお、予備成形工程は、本発明を実施する上で必須の工程ではない。予備成形工程は素材に大径部と小径部が形成されていないようなときに必要な工程であって、もともと鋳造等によって素材に大径部と小径部が形成されていれば、この予備成形工程を省略することができる。
【0032】
(歯部成形工程)
図3は、歯部成形工程を示す図である。歯部成形工程により、図1(b−1)および図1(b−2)に示す歯車素材Wから、図1(c−1)および図1(c−2)に示す中間体Xが成形される。図3(a)は歯車素材Wが中間体Xに成形される前の状態を示し、図3(b)は中間体Xが成形された状態を示す。図3に示すように、歯部成形工程においては歯部成形型20が用いられる。歯部成形型20は、歯部成形ダイス21と歯部成形パンチ22とを備える。歯部成形ダイス21および歯部成形パンチ22にはそれぞれ型合わせ面211,221が形成されている。歯部成形ダイス21および歯部成形パンチ22は、それぞれの型合わせ面211,221が対面するように所定の間隔を隔てて配設されている。
【0033】
歯部成形ダイス21にはキャビティ212が形成されている。キャビティ212は、型合わせ面211に開口し型合わせ面211に直交する方向に延びた円柱状の凹部212aと、凹部212aの型合わせ面211への開口端周縁に形成された歯型キャビティ部212bとを有する。凹部212aの径は歯車素材Wの小径部W2の径とほぼ等しい。歯型キャビティ部212bは、目的とする外歯歯車Pの歯車部P1の歯部P11を成形するための部分である。ここで、外歯歯車Pの歯部P11の歯幅は、歯型キャビティ部212bの歯幅方向長さ(軸方向長さ)と中間体Xに形成されるバリ部X3の厚さとの総和である。したがって、歯型キャビティ部212bの歯幅方向長さ(軸方向長さ)は外歯歯車Pの歯部P11の歯幅よりも浅い(短い)。また、歯型キャビティ部212bの歯先円直径(歯車大径)は、外歯歯車Pの歯車部P1の歯先円直径に等しい。
【0034】
歯部成形パンチ22は図示しない油圧シリンダ等の駆動手段に接続されており、駆動手段の駆動力によって図3の上下方向に移動可能に構成される。歯部成形パンチ22には、その型合わせ面221に開口し、型合わせ面221に直交する方向に延びた円柱状の凹部222が形成されている。凹部222の径は歯車素材Wの小径部W2の径とほぼ等しい。
【0035】
歯部成形ダイス21の型合わせ面211には、歯型キャビティ部212bの開口端から図3の水平方向に向けて放射状に延びる第1水平面211aと、第1水平面211aの外周端から図3の下方側に傾斜するように放射状に延びる下降傾斜面211bと、下降傾斜面211bの外周端から図3の水平方向に向けて延びる第2水平面211cとが形成されている。一方、歯部成形パンチ22の型合わせ面221には、凹部222の開口端から図3の水平方向に向けて放射状に延びる第1水平面221aと、第1水平面221aの外周端から図3の上方側に傾斜するように放射状に延びる上昇傾斜面221bと、上昇傾斜面221bの外周端から図3の水平方向に向けて延びる第2水平面221cとを有する。第1水平面221aが、歯型キャビティ部212bの開口面に対面する。
【0036】
歯部成形工程を実施するにあたっては、図3(a)に示すように、歯部成形ダイス21に歯車素材Wが載置される。この場合において、歯車素材Wの小径部W2の下方部分がキャビティ212の凹部212aに進入し、大径部W1が歯型キャビティ部212b上に載置するように、歯車素材Wがキャビティ212に対して配置される。
【0037】
歯部成形ダイス21に歯車素材Wをセットした後に、歯部成形パンチ22の型合わせ面221が歯部成形ダイス21の型合わせ面211に近づくように、歯部成形パンチ22を歯部成形ダイス21に対して相対的に下降させる。歯部成形パンチ22が所定量下降したときに、歯部成形パンチ22の型合わせ面221に形成された第1水平面221aが歯車素材Wの大径部W1の上面に接触する。図5は、このときにおける歯車素材Wの大径部W1と歯部成形ダイス21および歯部成形パンチ22の配置状態を示した部分断面概略図である。
【0038】
図5に示すように、歯車素材Wの大径部W1が歯部成形パンチ22の第1水平面221aと歯部成形ダイス21の歯型キャビティ部212bとに挟まれている。また、歯車素材Wの大径部W1の厚さtW1は、歯型キャビティ部212bの軸方向長さである厚さtよりも大きい。つまり、目的とする外歯歯車Pの歯部P11が成形される部分である歯車素材Wの大径部W1の厚さtW1が歯部P11の歯幅よりも大きくなるように、予備成形工程で歯車素材Wが成形される。好ましくは、大径部W1の厚さtW1が歯型キャビティ部212bの厚さtよりも0.5mm〜1.0mm程度大きくなるように、歯車素材Wが成形されているとよい。また、歯車素材Wの大径部W1の半径と小径部W2の半径との差を表す大径部W1の突出長さLW1は、歯型キャビティ部212bの径方向における長さLよりも大きい。つまり、目的とする外歯歯車Pの歯部P11が成形される部分である歯車素材Wの大径部W1の突出長さLW1が歯部P11の歯丈よりも大きくなるように、予備成形工程で歯車素材Wが成形される。換言すれば、歯車素材Wが目的とする外歯歯車Pの歯先円直径よりも大きい外径の大径部W1を有するように、予備成形工程で歯車素材Wが成形される。好ましくは、大径部W1の突出長さLW1と歯型キャビティ部212bの径方向における長さLとの差ΔL(=LW1−L)が、歯部P11をシェービングする場合におけるシェービング代程度であるように、より好ましくは、差ΔLが0.1〜0.5mmであるように歯車素材Wが成形されているとよい。
【0039】
図5に示した状態からさらに歯部成形パンチ22が歯部成形ダイス21に対して下降すると、歯車素材Wの大径部W1が歯部成形パンチ22の第1水平面221aに加圧される。この加圧によって大径部W1が歯型キャビティ部212bに押し込まれる。図6は、大径部W1の下面が歯型キャビティ部212bの下面212b1に当接するまで大径部W1が歯型キャビティ部212bに押し込まれた状態を示す図である。このとき歯部成形パンチ22の第1水平面221aと歯型キャビティ部212bの下面212b1との間の距離は、大径部W1の厚さtW1に等しい。また、大径部W1の厚さtW1は歯型キャビティ部212bの厚さtよりも大きいので、図6に示した状態では、歯部成形パンチ22の第1水平面221aと歯部成形ダイス21の第1水平面211aとの間に隙間G1が形成される。
【0040】
大径部W1は、歯部成形パンチ22の第1水平面221aから受ける加圧力によって、歯型キャビティ部212bに押し込まれるとともに歯型キャビティ部212bで塑性加工される。また、大径部W1の塑性加工に伴い歯型キャビティ部212bから押し出された余剰部分が、圧力の低い空間である隙間G1に逃げる。隙間G1に逃げた余剰部分は、大径部W1の厚み方向の端部(上端部)から径方向外方に張り出す。
【0041】
図7は、図6に示す状態から歯部成形パンチ22がさらに下降して歯部成形工程が完了した状態を示す図である。図7に示す歯部成形工程の完了時において、歯車素材Wの小径部W2によって中間体Xの軸部X2が形成されるとともに、大径部W1が塑性加工されることによって歯部X11を有する中間体Xの歯車部X1が成形される。また、歯部成形ダイス21の型合わせ面211(第1水平部211a)と歯部成形パンチ22の型合わせ面221(第1水平面221a)との間に隙間G2が形成されている。この隙間G2内の空間は、歯部成形型20の外部空間と連通している。つまり、本実施形態では、隙間G2が形成された状態で、歯部成形工程が完了する。隙間G2の幅(長さ)は、本実施形態では1mm以下(好ましくは0.7mm以下)である。この隙間G2内を、大径部W1の塑性加工によって歯型キャビティ部212bから押し出された余剰部分が流れ込み、その結果、余剰部分がバリ部X3として、歯部X11の図において上下方向である厚さ方向(歯幅方向)における一方の端部から歯部X11の図において水平方向である径方向外方に延出される。歯部X11から径方向外方に延びたバリ部X3は、歯部成形ダイス21の下降傾斜面211bと歯部成形パンチ22の上昇傾斜面221bとの間の空間内まで張り出す。下降傾斜面211bと上昇傾斜面221bは互いに対面しており、且つ径方向外方に向かうにつれて両傾斜面間の距離が増加するように、それぞれ傾斜している。したがって、この空間内まで張り出したバリ部X3は、径方向外方に向かうにつれて、その厚さ(上下方向長さ)が大きくなるように形成される。
【0042】
また、図7に示す歯部成形工程完了時においては、隙間G2と歯型キャビティ部212bの厚さ(軸方向長さ)tの和(G2+t)に相当する距離が、歯車素材Wの大径部W1の初期の厚さtW1よりも短くされる。
【0043】
上述のような歯部成形工程によって、図3(b)に示すように、歯部X11を有する歯車部X1と、歯車部X1に同軸的に形成され歯車部X1の径よりも小さい径を有する軸部X2と、歯部X11の歯幅方向における一方の端部から歯部X11の径方向外方に延出されたバリ部X3とを有する中間体Xが成形される。
【0044】
(バリ除去工程)
図4は、バリ除去工程を示す図である。バリ除去工程により、図1(c−1)および図1(c−2)に示す中間体Xからバリ部X3が除去され、図1(d−1)および図1(d−2)に示す外歯歯車Pが成形される。図4(a)は中間体Xからバリ部X3が除去される前の状態を示し、図4(b)は中間体Xからバリ部X3が除去された状態を示す。図4に示すように、バリ除去工程においてはトリム型30が用いられる。トリム型30は、基台31と、トリム用ダイス32と、押えプレート33と、トリム用パンチ34とを備える。
【0045】
トリム用ダイス32は基台31上に配設される。トリム用ダイス32には、図4の上方を向いた上面321と、上面321に開口する貫通孔322が形成されている。貫通孔322の径は中間体Xの歯車部X1の径に等しい。また、貫通孔322の内周壁には、スプライン状の歯部323が形成されている。歯部323に中間体Xの歯部X11が噛合し得るように、貫通孔322の径および歯部323の形状が決められる。
【0046】
押えプレート33はトリム用ダイス32の上方に配置される。押えプレート33には、図4の下方を向いた下面331と、図4の上方を向いた上面332と、下面331および上面332に開口した貫通孔333が形成されている。貫通孔333の径はトリム用ダイス32に形成された貫通孔322の径に等しい。また、貫通孔333の内周壁にスプライン状の歯部334が形成されている。歯部334の形状は、トリム用ダイス32に形成されている歯部323と同一形状である。押えプレート33は、その貫通孔333がトリム用ダイス32の貫通孔322と同軸的に配置され、且つ、その歯部334の位相がトリム用ダイス32の歯部323の位相に一致するように、トリム用ダイス32に対して配設されている。
【0047】
トリム用パンチ34は押えプレート33の上方に配設される。トリム用パンチ34は、固定プレート341と、外側パンチ部342と、内側パンチ部343を備える。固定プレート341は平板状に形成され、図示しない駆動手段によって図4の上下方向に移動可能に構成される。
【0048】
外側パンチ部342は、固定プレート341の図4において下面に固定される。この外側パンチ部342の図において下面から下方に突出した円筒状の突出部342aが形成される。また、突出部342aの内側には、図4の上下方向に沿って貫通孔342bが形成される。突出部342aの外周にスプライン状の歯部342cが形成される。突出部342aの内径、即ち貫通孔342bの径は、中間体Xの軸部X2の径にほぼ等しい。突出部342aの外径および歯部342cの形状は、歯部342cが押えプレート33の貫通孔333の内周壁に形成されている歯部334に噛合し得るように、構成されている。したがって、突出部342aは、歯部342cと歯部334とが噛合して軸周り回転が不能とされた状態で、軸方向に移動可能に構成される。
【0049】
内側パンチ部343は段付き円筒状に形成され、貫通孔333内に挿通されている。図4に示すように貫通孔333の上部は段差状に形成されており、この段差部分と固定プレート341とで囲まれる部分に内側パンチ部343の上端に形成された拡径部343aが係止されることにより、内側パンチ部343が固定される。
【0050】
バリ除去工程を実施するにあたっては、まず、押えプレート33をトリム用ダイス32から上方向に離間させ、歯部成形工程で成形した中間体Xをトリム用ダイス32にセットする。この場合において、図4(a)に示すように、中間体Xの歯部X11がトリム用ダイス32に形成された歯部323に噛み合わされ、且つ、中間体Xのバリ部X3がトリム用ダイス32の上面321に載置されるように、中間体Xがトリム用ダイス32にセットされる。
【0051】
その後、押えプレート33を下降させる。押えプレート33が所定量下降すると、押えプレート33の下面331が中間体Xのバリ部X3の上面に当接する。なお、図4(a)からわかるように、中間体Xのバリ部X3の厚みが歯部X11の径方向外方に向かうにつれて厚くなるように、バリ部X3の上面側および下面側が水平方向に対して傾斜している。一方、トリム用ダイスの上面321には、貫通孔322の周縁から径方向外方に向かうにつれて下方に傾斜する傾斜面321aが放射状に形成され、押えプレート33の下面331には、貫通孔333の周縁から径方向外方に向かうにつれて上方に傾斜する傾斜面331aが放射状に形成される。したがって、バリ部X3は、その上面側が押えプレート33の傾斜面331aに面接触し、その下面側がトリム用ダイス32の傾斜面321aに面接触するように、押えプレート33とトリム用ダイス32とで挟まれる。このようにして、中間体Xは、そのバリ部X3のみがトリム用ダイス32と押えプレート33とで押えられた状態で、保持される。
【0052】
中間体Xを押えプレート33とトリム用ダイス32とで挟んだ後に、トリム用パンチ34の固定プレート341を下降させる。すると、固定プレート341の下降に伴って外側パンチ部342および内側パンチ部343が下降する。外側パンチ部342の突出部342aは、歯部342cが押えプレート33の歯部334と噛み合った状態を維持したまま、押えプレート33に対して下降する。突出部342aが所定量下降すると、その先端面が中間体Xの歯車部X1の上面に当接する。また、内側パンチ部343が所定量下降すると、内側パンチ部343の下面が、中間体Xの軸部X2の上端面に当接する。
【0053】
外側パンチ部342の突出部342aの先端面の歯車部X1への当接と、内側パンチ部343の下面の軸部X2への当接は、同時になされる。突出部342aおよび内側パンチ部343が中間体Xに当接することで、中間体Xは衝撃力を受ける。中間体Xは、バリ部X3のみが押えられた状態で保持されているので、斯かる衝撃力により、押さえられている部分であるバリ部X3が押えられていない部分である歯部X11から破断する。
【0054】
その後、さらにトリム用パンチ34の固定プレート341を下降させる。すると、図4(b)に示すように、歯部X11がトリム用ダイス32の貫通孔322の内壁に形成されている歯部323に噛み合わされた状態を維持したまま、中間体Xのバリ部X3以外の部分が歯部323に沿って下方に移動する。一方、バリ部X3はトリム用ダイス32と押えプレート33に挟まれたままである。こうしてバリ部X3がトリムされることによって、中間体Xから最終成形品である外歯歯車Pが成形される。
【0055】
以上のように、本実施形態で説明した外歯歯車Pの冷間鍛造による製造方法は、目的とする外歯歯車Pの歯先円直径よりも大きい外径を有する大径部W1と大径部W1の径よりも小さい外径を有する小径部W2が形成された歯車素材Wを歯部成形ダイス21に載置し、歯部成形パンチ22の型合わせ面221が歯部成形ダイス21の型合わせ面211に近づくように歯部成形パンチ22を移動させ、歯部成形パンチ22で歯部成形ダイス21に載置された歯車素材Wの大径部W1を加圧して、大径部W1を、歯部成形ダイス21の型合わせ面211に開口するように形成され外歯歯車Pの歯部P11を成形するための歯型キャビティ部212bに押し込むことにより歯部X11を成形するとともに、大径部W1の加圧により流動する歯車素材Wの余剰部分が歯部成形パンチ22の型合わせ面221(第1水平面221a)と歯部成形ダイス21の型合わせ面211(第1水平面211a)との間の隙間を流れることによって歯部X11から径方向外方に延出するバリ部X3を形成する歯部成形工程と、バリ部X3を除去するバリ除去工程と、を含む。
【0056】
本実施形態によれば、歯部成形工程にて、歯部成形パンチ22による大径部W1の加圧時に、歯部成形パンチ22の型合わせ面221と歯部成形ダイス21の型合わせ面211との間に隙間が形成されているため、加圧により生じた余剰部分がこの隙間を流れる。余剰部分がこうして流動することにより成形圧力の上昇が抑えられる。故に、成形圧力を低下させることができる。また、図3(b)および図7からわかるように歯部成形工程時に歯部成形パンチ22の型合わせ面221(第1水平面221a)と歯部成形ダイス21の型合わせ面211(第1水平面211a)との間に開放された隙間(G2)が設けられている。つまり本実施形態の冷間鍛造は、閉塞式の冷間鍛造ではなく、開放式の冷間鍛造である。そのため隙間内の圧力が大気と同程度となり、余剰部分が隙間内をより流れやすい環境が形成される。このように余剰部分が速やかに流れることによって、歯部X11を成形する際に必要な成形圧力をより一層低下させ、且つ成形圧力の急激な増加を防止することができる。
【0057】
また、図5からわかるように、歯車素材Wの大径部W1の突出長さLW1は、歯部成形工程で用いられる歯部成形ダイス21の歯型キャビティ部212bの径方向における長さLよりも長い。すなわち、歯車素材Wの大径部W1の径が、目的とする外歯歯車Pの歯先円直径よりも大きくなるように歯車素材Wが形成されている。大径部W1の突出長さLW1が歯型キャビティ部212bの径方向における長さLよりも短い場合、バリ部X3として発生させる部分が歯型キャビティ部212b内に流れ込み、歯部を成形する材料の流動をかき乱す結果、歯先部にまくれ込みによる不良や欠損による不良が発生する。したがって、大径部W1の突出長さLW1を歯型キャビティ部212bの径方向における長さLよりも長くすることで、すなわち歯車素材Wの大径部W1の径が外歯歯車Pの歯先円直径よりも大きくなるように歯車素材Wを成形することで、上記した不具合の発生が防止される。
【0058】
なお、歯車素材Wの大径部W1の突出長さLW1が歯型キャビティ部212bの径方向における長さLよりも必要以上に長いと良くない。歯部成形工程にて中間体Xの歯部X11の歯先部分から径方向外方に延出されるバリの体積と歯部X11の歯底部分から径方向外方に延出されるバリの体積とは異なる。両体積の差は、大径部W1の突出長さLW1と歯型キャビティ部212bの径方向における長さLとの差(LW1−L)が大きいほど大きい。両体積の差が大きいと、歯部X11の歯底部分から張り出すバリに歯部X11の歯先部分から張り出すバリが引っ張られる。そして、材料の引張限界を越えた場合に破断が発生する。斯かる破断の発生により、成形される外歯歯車の歯先の精度が悪化する。
【0059】
故に、歯部成形工程にて中間体Xの歯部X11の歯先部分から径方向外方に延出されるバリの体積と歯部X11の歯元部分から径方向外方に延出されるバリの体積との差が所定量以下となるように、大径部W1の突出長さLW1が歯型キャビティ部212bの径方向における長さLに対して適度に長く設定するのがよい。好ましくは、長さLW1と長さLとの差ΔL(=LW1−L)が、歯部P11をシェービングする場合におけるシェービング代程度であるとよい。より好ましくは、差ΔLが0.1〜0.5mmであるように歯車素材Wが成形されているとよい。
【0060】
また、図5からわかるように、歯車素材Wの大径部W1の厚さ(軸方向長さ)tW1が歯型キャビティ部212bの厚さ(軸方向長さ)tよりも長く形成されている。そして、歯部成形工程にて、歯部成形工程の完了時における隙間G2の長さと歯型キャビティ部212bの厚さ(軸方向長さ)との和に相当する長さ(図7におけるG2+t)が大径部W1の厚さtW1よりも短くなるように、歯部成形パンチ22で大径部W1が加圧される。こうした歯部成形パンチ22の加圧によって歯車素材Wが十分に歯型キャビティ部212bに充填される。このため、図6に示した大径部W1の先端の角部Rの丸みが、その後の加圧による歯型キャビティ部212b内への歯車素材Wの十分な充填により縮小される。その結果、図7に示すように、歯部成形工程の完了時には、歯部X11の角部Rの丸みが小さくされている。よって、成形される外歯歯車Pの歯先部のダレ等の発生が防止される。
【0061】
また、歯部成形工程完了時において、隙間G2の幅(長さ)が1mm以下(好ましくは0.7mm以下)にされている。隙間G2を1mm以下に調整することにより、中間体Xのバリ部X3を薄くすることができる。また、歯部成形工程時における加圧力はバリ部X3にも作用することから、バリ部X3は加工硬化して脆くなっている。脆い部分を薄く成形することにより、その後のバリ除去工程でバリ部X3を確実に除去することができる。また、バリ部X3が、バリ部X3の破断面よりも厚くなるため、一定の破断長さを得ることができる。さらに、本実施形態で示した外歯歯車Pの歯車部P1の外周に、図1(d−1)に示すように欠損部分K1,K2が形成される。また、欠損部分K1,K2からも、図1(c−1)に示すように径方向外方にバリが発生する。欠損部分K1,K2は、バリ除去工程で突出部342aに当接しない。つまりパンチ面積が確保できない。この場合においても、バリ部X3の全体が脆く、且つ薄く成形されているので、欠損部分K1,K2以外の部分から発生したバリが破断されることに伴って欠損部分K1,K2から発生したバリも破断される。よって、バリ除去工程にてパンチ面積が十分に確保できない部位があっても、その部位から発生したバリを除去することができる。
【0062】
また、歯部成形工程にて成形された中間体Xのバリ部X3の厚さが歯部X11の径方向外方に向かうにつれて厚くなるように、バリ部X3が成形される。バリ部X3の厚さが径方向外方に向かうにつれて厚くなっていれば、その後のバリ除去工程にてバリ部X3を除去する際に、バリ部X3が根元から破断し易い。このためバリ除去工程にて、バリ部X3を確実に除去することができる。また、バリ部X3を除去するための荷重を低減することができる。
【0063】
また、歯部成形工程にて、バリ部X3が、歯部X11の歯幅方向における一方の端部から径方向外方に延出するように形成される。換言すれば、歯部X11の歯幅方向の中央部位にバリが発生しない。よって、バリ部X3を除去する際に生じる破断面が歯車の機能に影響を及ぼす可能性を減少させることができる。
【0064】
また、歯部成形ダイス21の型合わせ面211に下降傾斜面211bが形成されるとともに、歯部成形パンチ22の型合わせ面221に上昇傾斜面221bが形成されている。このため、歯部成形工程にて、バリ部X3の厚さが歯部X11の径方向外方に向かうにつれて厚くなるようにバリ部X3が形成されるとともに、バリ部X3が両傾斜面間に張り出す際にバリ部X3から歯部成形ダイス21および歯部成形パンチ22に作用する圧力が加圧方向に垂直な方向に分散される。このため成形圧力をより低減することができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることはない。例えば、上記実施形態においては、予備成形工程により歯車素材Wを成形しているが、予め歯車素材Wを鋳造等によって成形してもよい。また、上記実施形態では、歯部成形ダイス21の型合わせ面211および歯部成形パンチ22の型合わせ面221に傾斜面を設けたが、段差面を設けても良い。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。
【符号の説明】
【0066】
10…予備成形型、11…予備成形ダイス、12…予備成形パンチ、12b…凹部、20…歯部成形型、21…歯部成形ダイス、211…型合わせ面、211a…第1水平面、211b…下降傾斜面、211c…第2水平面、212…キャビティ、212a…凹部、212b…歯型キャビティ部、212b1…下面、22…歯部成形パンチ、221…型合わせ面、221a…第1水平面、221b…上昇傾斜面、221c…第2水平面、222…凹部、30…トリム型、31…基台、32…トリム用ダイス、321…上面、321a…傾斜面、322…貫通孔、323…歯部、33…押えプレート、331…下面、331a…傾斜面、332…上面、333…貫通孔、334…歯部、34…トリム用パンチ、341…固定プレート、342…外側パンチ部、342a…突出部、342b…貫通孔、342c…歯部、343…内側パンチ部、G2…隙間、K1,K2…欠損部分、P…外歯歯車、P1…歯車部、P11…歯部、P2…軸部、W…歯車素材、W1…大径部、W2…小径部、X…中間体、X1…歯車部、X11…歯部、X2…軸部、X3…バリ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間鍛造により外歯歯車を製造する歯車の製造方法であって、
目的とする外歯歯車の歯先円直径よりも大きい外径を有する大径部と前記大径部の径よりも小さい外径を有する小径部が形成された歯車素材をダイスに載置し、パンチの型合わせ面が前記ダイスの型合わせ面に近づくように前記パンチを移動させ、前記パンチで前記ダイスに載置された前記歯車素材の前記大径部を加圧して、前記大径部を、前記ダイスの前記型合わせ面に開口するように形成され前記外歯歯車の歯部を成形するための歯型キャビティ部に押し込むことにより前記歯部を成形するとともに、前記加圧により流動する前記歯車素材の余剰部分が前記パンチの前記型合わせ面と前記ダイスの前記型合わせ面との間の隙間を前記歯部の径方向外方に流れることによって前記歯部から径方向外方に延出するバリ部を形成する歯部成形工程と、
前記バリ部を除去するバリ除去工程と、
を含む、歯車の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の歯車の製造方法において、
前記歯部成形工程にて、前記隙間が開放されている、歯車の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の歯車の製造方法において、
前記歯車素材は、その大径部の軸方向長さが前記歯型キャビティ部の軸方向長さよりも長く形成されており、
前記歯部成形工程の完了時に前記隙間の長さと前記歯型キャビティ部の軸方向長さとの和に相当する長さが前記大径部の軸方向長さよりも短くなるように、前記歯部成形工程にて前記パンチが前記大径部を加圧する、歯車の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の歯車の製造方法において、
前記歯部成形工程にて、前記バリ部の厚さが前記歯部の径方向外方に向かうにつれて厚くなるように、前記バリ部を成形する、歯車の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の歯車の製造方法において、
前記歯部成形工程にて、前記バリ部が、前記歯部の軸方向における一方の端部から径方向外方に延出するように形成される、歯車の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の歯車の製造方法において、
前記大径部と前記大径部の径よりも小さい外径を有する前記小径部が同軸的に形成された歯車素材を成形する予備成形工程をさらに含む、歯車の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−111627(P2013−111627A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261306(P2011−261306)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】