説明

歯車噛合式変速機の操作装置

【課題】シフトアンドセレクトシャフトの動作を規制するガイドプレートを有さない変速機構成において、斜めシフト操作の操作性を従来よりも向上した歯車噛合式変速機の操作装置を提供する。
【解決手段】シフトアンドセレクトシャフト2と3軸以上のフォークシャフト4、5、6とインナーレバー3とを備え、各シフトヘッド41、51、61の並び順にしたがうとともに軸方向の一側を低速シフト側とし他側を高速シフト側とするように各変速段を割り当て、シフトアンドセレクトシャフトをフォークシャフトに対して傾斜配置し(傾斜角度θ)、シフトヘッドのニュートラル位置を結んだ線を中心線CLとし、インナーレバーの移動軌跡を動作線M1としたときに、低速段を割り当てられたシフトヘッド41では動作線が中心線よりも低速シフト側に偏移するとともに、高速段を割り当てられたシフトヘッド61では動作線が中心線よりも高速シフト側に偏移するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレクト操作及びシフト操作によって変速段を切り替え操作する歯車噛合式変速機の操作装置に関し、より詳細には、次段変速段に順次変速操作するときの斜めシフト操作の操作性を従来よりも向上した歯車噛合式変速機の操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される変速機の一方式として、平行する2つの回転軸の間に遊転する複数の変速歯車組を備え、同期装置により一つの変速歯車組を選択的に噛合結合させて所定変速比の変速段を実現する噛合歯車式変速機がある。この変速機では、2つの変速段に対して1つの同期装置を設けてフォークシャフトで操作する構造が採用され、前進5速以上の構成では同期装置及びフォークシャフトは3組以上設けられている。そして、フォークシャフトを選択するセレクト操作、ならびに選択したフォークシャフトを駆動するシフト操作を行うために、シフトアンドセレクトシャフトが用いられる。
【0003】
より詳細には、各フォークシャフトにシフトヘッドが設けられ、シフトアンドセレクトシャフトにインナーレバーが設けられる。インナーレバーは、シフトアンドセレクトシャフトの軸方向の移動および軸周りの回動のうちの一方の動作に伴い1つのシフトヘッドに係合してセレクト操作し、他方の動作に伴いセレクト操作したシフトヘッドを軸方向にシフト操作する。シフトアンドセレクトシャフトは、手動変速機ではドライバーによるシフトレバーの直交2方向の操作によって駆動され、自動変速機では2つのアクチュエータにより駆動されるのが一般的である。ここで、シフトレバーは、必ずしも厳密に直交2方向のみに操作されず、斜めの方向に操作される場合が生じ得る。このような斜めシフト操作を許容しつつ、安定した変速操作を行えるようにした技術の例が特許文献1及び2に開示されている。
【0004】
特許文献1に開示された変速機シフトノブの誤操作防止構造では、シフトレバーはシフト方向に円弧部を有するとともにセレクト方向に第2及び第4の傾斜平面を有し、ガイドプレートのシフトストローク溝には第1および第2の傾斜面が形成されている。これにより、傾斜平面と傾斜面とが対向して斜めセレクト可能範囲が大きくなり、ラフな変速操作でもシフトが可能になる、とされている。
【0005】
また、特許文献2に開示された変速機のミスシフト防止機構は、ゲート溝を有するガイドプレートと、ゲート溝に挿入されるガイドピンとを備え、さらにゲート溝の開口幅の広狭を変更する案内溝可変部材が設けられたことを特徴としている。ガイドプレート及びガイドピンは、特許文献1のガイドプレート及びシフトレバーと類似の構成で同様の機能を果たすようになっている。また、ガイドプレート及びガイドピンは、変速機内に設けてもよいとされ、実施形態には、シフトアンドセレクトシャフトに一体的に設けられたガイドプレート及びケースから内向きに突出したガイドピンが例示されている。そして、案内溝可変部材を設けたことにより、斜めシフトの操作性を良好に維持しながらも意図しない前進変速段への防止できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平5−93954号公報
【特許文献2】特開2010−185536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1及び2では、ガイドプレートに設けたシフトストローク溝またはゲート溝により、シフトアンドセレクトシャフトの軸方向の移動範囲および軸周りの回動範囲を規制している。そして、斜めシフト操作時に、シフトレバーまたはガイドピンが溝の途中で引っ掛かることを低減するために、溝形状を工夫している。しかしながら、斜めシフト操作の操作性は、必ずしも十分に改善されているとは言えない。また、ガイドプレートによる規制は必須ではなく、コストダウンの観点からガイドプレート無くした構造も採用されている。
【0008】
ガイドプレートを無くした変速機構成において、シフトアンドセレクトシャフトの移動範囲及び回動範囲は、インナーレバーがシフトヘッドに係合して操作するときの相対位置関係及び寸法裕度によって規制される。セレクト操作及びシフト操作を安定して行うために或る程度の寸法裕度は必要であるが、これが大き過ぎるとガタツキなどが生じて逆効果となる。このため、インナーレバー及びシフトヘッドに面取り加工を施して部分的に寸法裕度を拡げ、両者の引っ掛かりを抑制しているが、斜めシフト操作に対する改善効果は必ずしも十分でない。
【0009】
本発明は上記背景技術の問題点に鑑みてなされたものであり、シフトアンドセレクトシャフトの動作範囲を規制するガイドプレートを有さない変速機構成において、次段変速段に順次変速操作するときの斜めシフト操作の操作性を従来よりも向上した歯車噛合式変速機の操作装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の歯車噛合式変速機の操作装置は、軸方向の移動および軸周りの回動が可能なシフトアンドセレクトシャフトと、軸方向に操作されるシフトヘッドをそれぞれ有して互いに平行配置され、軸方向に移動することにより各変速段を構成する複数組の変速歯車組のうちの一組を選択して噛合結合させる3軸以上のフォークシャフトと、前記シフトアンドセレクトシャフトに一体的に結合され、前記シフトアンドセレクトシャフトの前記軸方向の移動および前記軸周りの回動のうちの一方の動作に伴い前記3軸以上のフォークシャフトのいずれか1軸のシフトヘッドをセレクト操作し、他方の動作に伴いセレクト操作したシフトヘッドを軸方向にシフト操作するインナーレバーと、を備える歯車噛合式変速機の操作装置であって、前記3軸以上のフォークシャフトの各シフトヘッドの並び順にしたがって低速段から高速段までを順番に並べ、さらに各シフトヘッドの軸方向の一側を低速シフト側とし軸方向の他側を高速シフト側とするように前記各変速段を割り当て、前記シフトアンドセレクトシャフトを前記3軸以上のフォークシャフトに対して傾斜配置し、各シフトヘッドの軸方向にシフト操作されていないニュートラル位置を結んだ線を中心線とし、前記インナーレバーが前記セレクト操作するときに移動する軌跡を動作線としたときに、前記低速段を割り当てられたシフトヘッドでは前記動作線が前記中心線よりも前記低速シフト側に偏移するとともに、前記高速段を割り当てられたシフトヘッドでは前記動作線が前記中心線よりも前記高速シフト側に偏移するようにしたことを特徴とする。
【0011】
さらに、前記シフトアンドセレクトシャフトの前記3軸以上のフォークシャフトに対する傾斜角度は、前記セレクト操作及び前記シフト操作を順番に実施して全ての変速段を実現できる範囲内であることが好ましい。
【0012】
さらに、前記シフトアンドセレクトシャフトは、操作者が操作するシフトレバーによって直接駆動され、あるいは前記シフトレバーから操作ケーブルを介して間接駆動されてもよい。
【0013】
あるいは、前記シフトアンドセレクトシャフトは、アクチュエータによって駆動されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の歯車噛合式変速機の操作装置では、シフトアンドセレクトシャフトを3軸以上のフォークシャフトに対して傾斜配置しているので、シフトアンドセレクトシャフトの軸方向の移動および軸周りの回動がフォークシャフトに対して傾斜角度分だけ傾く。かつ、この傾斜角度は、フォークシャフトを変更セレクト操作しながらシフト操作する斜めシフト操作の斜行許容角度を拡げるように作用する。したがって、斜めシフト操作の操作性を従来よりも向上できる。
【0015】
さらに、シフトアンドセレクトシャフトの傾斜角度を、セレクト操作及びシフト操作を順番に実施して全ての変速段を実現できる範囲内とした態様では、斜めシフト操作を行わない場合の通常の変速操作を従来と変わりなく行える。したがって、斜めシフト操作の操作性を従来よりも向上でき、かつ斜めシフト操作を行わない場合の操作性は従来と同等になる。
【0016】
さらに、シフトアンドセレクトシャフトがシフトレバーによって直接あるいは間接駆動される態様では、本発明を手動変速機で実施できる。これにより、操作者が斜めシフト操作するときの操作性を従来よりも向上できる。
【0017】
あるいは、シフトアンドセレクトシャフトがアクチュエータによって駆動される態様では、本発明を自動動変速機で実施できる。これにより、アクチュエータによる駆動の自由度が拡がる。例えば、シフトアンドセレクトシャフトの軸方向の移動および軸周りの回動をそれぞれモータで駆動する構成では、2つのモータを同時に動作させて変速所要時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態の歯車噛合式変速機の操作装置を示す斜視図である。
【図2】従来技術の操作装置を示す斜視図である。
【図3】図1の実施形態の操作装置の矢印Y方向から見たインナーレバーの嵌入ヘッド及び3つのシフトヘッドの位置関係を模式的に示す図である。
【図4】図2の従来技術の操作装置の矢印Y方向から見たインナーレバーの嵌入ヘッド及び3つのシフトヘッドの位置関係を模式的に示す図である。
【図5】実施形態において斜めシフト操作の許容範囲を説明する図である。
【図6】従来技術において斜めシフト操作の許容範囲を説明する図である。
【図7】シフトアンドセレクトシャフトの傾斜角度を変更した場合のインナーレバーの嵌入ヘッドの動作範囲及び軌跡を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態を、図面を参考にして説明する。図1は車両に搭載される本発明の実施形態の歯車噛合式変速機の操作装置1を示す斜視図であり、図2は従来技術の操作装置9を示す斜視図である。実施形態の操作装置1は、従来技術と同じ部材を用いて構成され、シフトアンドセレクトシャフト2が第1〜第3フォークシャフト4、5、6(図中に一部のみ示す)に対して従来技術の直交配置でなく傾斜配置されている点が異なる。実施形態及び従来技術の操作装置1、9はそれぞれ、シフトアンドセレクトシャフト2、第1〜第3フォークシャフト4、5、6、及びインナーレバー3を備えており、まず共通する部材2〜6の構造について説明する。
【0020】
図1及び図2で、シフトアンドセレクトシャフト2は、軸線AX1、AX2が変速機内で略上下方向に延在するように設けられている。シフトアンドセレクトシャフト2は、上下2つのメタルブッシュ28、29により図略のケースに軸周りの回動可能に軸承され、図略の軸支ばねにより軸線AX1、AX2の方向(上下方向)に移動可能に保持されている。シフトアンドセレクトシャフト2の上端21から半径方向にアウターシフトレバー22が延設されている。アウターシフトレバー22の先端寄りにはシフト操作ケーブル取付ピン23が立設されている。
【0021】
また、シフトアンドセレクトシャフト2の上方寄りの縮径部24には、アウターセレクトレバー25が嵌合されている。アウターセレクトレバー25は、軸部251、アーム部252、及びレバー部254が一体となって構成されている。軸部251は、シフトアンドセレクトシャフト2から離れて直交するように水平方向に配置され、回動自在に軸承されている。軸部251の一端(図中の右奥側の端)から半径方向にアーム部252が延設されており、アーム部252の先端253はシフトアンドセレクトシャフト2の縮径部24に嵌入している。軸部251の他端(図中の左前側の端)から半径方向にレバー部254が延設されており、レバー部254の先端寄りにはセレクト操作ケーブル取付ピン26が立設されている。
【0022】
シフト操作ケーブル取付ピン23及びセレクト操作ケーブル取付ピン26は、操作者であるドライバーが操作するシフトレバー(図略)に操作ケーブルを介して接続されており、シフトレバー操作時の操作力を伝達してシフトアンドセレクトシャフト2を間接駆動するようになっている。シフトレバーは、直交するセレクト方向及びシフト方向に操作可能とされ、斜め方向の斜めシフト操作も許容されている。
【0023】
シフトレバーがセレクト方向に操作されると、セレクト操作ケーブル取付ピン26によって操作力が伝達され、アウターセレクトレバー25が軸部251を中心にして回転揺動する。これにより、アーム部252の先端253が上下方向に首振り揺動してシフトアンドセレクトシャフト2を軸線AX1、AX2の方向(上下方向)に移動させる。シフトレバーがシフト方向に操作されると、シフト操作ケーブル取付ピン23によって操作力が伝達され、アウターシフトレバー22が軸線AX1、AX2を中心にして首振り揺動する。これにより、シフトアンドセレクトシャフト2は軸周りに回動する。また、シフトレバーがセレクト方向及びシフト方向の操作成分を含む斜め方向に斜めシフト操作されると、セレクト操作ケーブル取付ピン26及びシフト操作ケーブル取付ピン23により、斜め方向に応じた操作力が伝達される。これにより、シフトアンドセレクトシャフト2の軸方向の移動と軸周りの回動とが同時に発生する。
【0024】
なお、実施形態においてシフトレバーと変速機の間に隔たりがあるので、操作ケーブル取付ピン23、26を用いた間接駆動を採用している。これに限定されず、例えば、FF車でシフトレバーの直下に変速機が配置される構成では、シフトレバーでシフトアンドセレクトシャフト2を直接駆動するようにしてもよい。シフトレバーからシフトアンドセレクトシャフト2まで操作力を伝達する構成には、公知の各種技術を適宜用いることができる。
【0025】
第1〜第3フォークシャフト4、5、6は、シフトアンドセレクトシャフト2から離れて水平方向に延在し互いに平行配置され、それぞれの軸方向に移動できるようにケースに保持されている。第1〜第3フォークシャフト4、5、6はそれぞれ、第1〜第3シフトヘッド41、51、61を有し、第1〜第3シフトヘッド41、51、61によって軸方向に操作される。各シフトヘッド41、51、61の一端42、52、62は、フォークシャフト4、5、6を取り巻くようにして固定されている。各シフトヘッド41、51、61の他端は、シフトアンドセレクトシャフト2に接近するように延設され、水平方向に並ぶ一対の突起部とその中間の第1〜第3凹部43、53、63とからなる第1〜第3係合ヘッド部44、54、64が形成されている。
【0026】
第1〜第3係合ヘッド部44、54、64は同一形状であり、相互に離隔しつつこの順番で上から下に並んでいる。図1及び図2において、各シフトヘッド41、51、61は軸方向にシフト操作されていないニュートラル位置にあり、このときの各凹部43、53、63の中心を結んだ線が本発明の中心線CLとなる。
【0027】
また、第1〜第3フォークシャフト4、5、6の各シフトヘッド41、51、61の並び順にしたがって低速段から高速段までが順番に並んで配置されている。さらに、各シフトヘッド41、51,61の軸方向の一側が低速シフト側で軸方向の他側が高速シフト側となるように各変速段が割り当てられている。具体的には、上側の第1フォークシャフト4には第1速(低速段、1st)及び第2速(2nd)が並び、中間の第2フォークシャフト5には第3速(3rd)及び第4速(4th)が並び、下側の第3フォークシャフト6には第5速(5th)及び第6速(高速段、6th)が配置されている。さらに、各フォークシャフト4、5、6の軸方向の一側(図中の左前側)には低速シフト側となる第1速、第3速、及び第5速が割り当てられ、軸方向の他側(図中の右奥側)には高速シフト側となる第2速、第4速、及び第6速が割り当てられている。
【0028】
上述した変速段の割り当て方法は一例であって、上下関係を逆にして割り当て、あるいは軸方向の一側と他側とを全て入れ替えて割り当てるようにしてもよい。また、第6速に代えて後進変速段を割り当てることもできる。さらには、4軸以上のフォークシャフトを備えて、7速以上の変速段を割り当てることもできる。ただし、各シフトヘッドの並び順にしたがって低速段から高速段までを順番に並べ、さらに各シフトヘッドの軸方向の一側を低速シフト側とし軸方向の他側を高速シフト側とすることは、本発明を実施する前提条件である。
【0029】
インナーレバー3は、シフトアンドセレクトシャフト2の軸方向の下方寄りに結合されており、シフトアンドセレクトシャフト2と一体的に移動及び回動するようになっている。図1及び図2に示されるように、インナーレバー3は、各係合ヘッド部44、54、64と対向する向きに突出した嵌入ヘッド31を有している。嵌入ヘッド31は、図中に矢印Zで示されるように、各係合ヘッド44、54、64部の凹部43、53、63に択一的に嵌入して係合する。
【0030】
したがって、シフトアンドセレクトシャフト2が軸線AX1、AX2方向に移動すると、嵌入ヘッド31は上下方向に移動して、いずれか1軸のシフトヘッドをセレクト操作する。このときに、嵌入ヘッド31の中心Oが移動する軌跡が本発明の動作線M1、M2となる。また、シフトアンドセレクトシャフト2が軸周りに回動すると、嵌入ヘッド31は水平方向に首振り揺動して、セレクト操作したシフトヘッドを軸方向にシフト操作する。
【0031】
なお、図1及び図2には省略したが、シフトアンドセレクトシャフト2は、セレクト操作しなかったシフトヘッドがシフト動作することを防止する公知のインターロック機構を備えている。シフトアンドセレクトシャフト2は、他に公知のロックボール機構やディテント機構などを備えていてもよい。
【0032】
ここで、図2に示される従来技術では、第1〜第3フォークシャフト4、5、6に対して、シフトアンドセレクトシャフト2が離隔して正確に直交配置されている。したがって、凹部43、53、63の中心を結んだ中心線CLと、シフトアンドセレクトシャフト2の軸線AX2とは平行関係になり、嵌入ヘッド31の中心Oの動作線M2は中心線CLに重なる。これに対し、図1に示される実施形態では、図2と比較してシフトアンドセレクトシャフト2の上部が傾斜角度θだけ低速シフト側(図中の左前側方向)に傾斜配置されている。したがって、中心線CLと軸線AX1とは平行関係にならず、嵌入ヘッド31の中心Oの動作線M1は中心線CLに対して傾斜角度θだけ傾斜する。以下詳述する。
【0033】
図3は、図1の実施形態の操作装置1の矢印Y方向から見たインナーレバー3の嵌入ヘッド31及び第1〜第3シフトヘッド41、51、61の位置関係を模式的に示す図である。また、図4は、図2の従来技術の操作装置9の矢印Y方向から見たインナーレバー3の嵌入ヘッド31及び3つのシフトヘッド41、51、61の位置関係を模式的に示す図である。図3及び図4において、(1)は第2シフトヘッド51へのセレクト操作が行われた状況を示し、(2)は第3速へのシフト操作が行われた状況を示し、(3)は嵌入ヘッド31の動作範囲及び軌跡を模式的に示している。また、図中の中心線CLは、前述したニュートラル位置における凹部43、53、63の中心を結んだ線である。
【0034】
従来技術を示す図4の(1)において、インナーレバー3の嵌入ヘッド31の幅寸法W1は、各シフトヘッド41、51、61の凹部43、53、63の軸方向の間隙寸法G1よりも小さく、水平方向の寸法裕度2×d1(=G1−W1)がある。また、嵌入ヘッド41の厚さ寸法W2は、第1シフトヘッド41と第3シフトヘッド61との間隙寸法G2よりも小さく、上下方向の寸法裕度2×d2(=G2−W2)がある。上下方向の寸法裕度2×d2は、各シフトヘッド41、51、61に対して概ね等しく設定されている。また、図4の(2)に例示されるように、嵌入ヘッド41が中心線CLから水平方向に所定距離Dだけ移動すると、第2フォークシャフト5が第3速歯車組を噛合結合するようになっている。所定距離Dは、第1速〜第6速の各変速段で概ね等しく設定されている。
【0035】
したがって、嵌入ヘッド31の中心Oの動作範囲Rは、各シフトヘッド41、51、61のニュートラル位置の配置を基準として、図4の(3)に細い実線で囲まれた範囲となる。つまり、動作範囲Rは、嵌入ヘッド31が上下方向にセレクト操作するときに水平方向の寸法裕度2×d1を有し、水平方向にシフト操作するときに上下方向の寸法裕度2×d2を有している。また、太い実線は、まずセレクト操作を行い次にシフト操作を行うときに、嵌入ヘッド41の中心Oが移動する軌跡K2を示している。軌跡K2のうちセレクト操作するときの上下方向の動作線M2は、中心線CLに重なっている。
【0036】
一方、実施形態を示す図3の(1)では、シフトアンドセレクトシャフト2の傾斜配置に起因して、嵌入ヘッド31が各シフトヘッド41、51、61に対して傾斜角度θだけ傾斜して配置される。それでも、傾斜角度θが過大でなければ、水平方向及び上下方向の寸法裕度2×d1、2×d2は著変しない。そして、シフトアンドセレクトシャフト2と一体的に動作する嵌入ヘッド31は、セレクト操作時に上下方向から傾斜角度θだけ傾斜した角度で移動し、また図3の(2)に示されるように、シフト操作時に水平方向から傾斜角度θだけ傾斜した角度で移動する。
【0037】
実施形態を示す図3の(3)において、各シフトヘッド41、51、61の配置によって定まる嵌入ヘッド31の中心Oの動作範囲Rは、細い実線で示されて従来技術に一致する。そして、まずセレクト操作を行い次にシフト操作を行うときに、嵌入ヘッド31の中心Oが移動する軌跡K1は、太い実線で示されるように、動作範囲Rに対して傾斜角度θだけ傾斜する。また、軌跡K1のうちセレクト操作するときの上下方向の動作線M1は、中心線CLに重ならずに偏移する。すなわち、第1速(低速段)を割り当てられた第1シフトヘッド41では動作線M1が中心線CLよりも第1速側(低速シフト側)に偏移するとともに、第6速(高速段)を割り当てられた第3シフトヘッド61では動作線M1が中心線CLよりも第6速側(高速シフト側)に偏移する。
【0038】
さらに、図3の(3)において、セレクト操作及びシフト操作を順番に実施したときの軌跡K1は、各変速段で中心線CLから水平方向に所定距離Dだけ移動したときにちょうど動作範囲Rの境界線上(例えば図中の点k1)に達している。つまり、斜めシフト操作でなくセレクト操作及びシフト操作を順番に実施したときに、全ての変速段を実現できる範囲の限界となっている。図3の(3)に示される傾斜角度θは、良好な変速操作を行える好ましい角度範囲の最大値を示している。
【0039】
次に、実施形態の歯車噛合式変速機の操作装置1の作用及び効果について、従来技術と比較しながら説明する。図5は実施形態において斜めシフト操作の許容範囲を説明する図であり、図6は従来技術において斜めシフト操作の許容範囲を説明する図である。図1の実施形態及び図2の従来技術において、ドライバーがシフトレバーを斜めシフト操作すると、インナーレバー3は、図3の(3)の軌跡K1及び図4の(3)の軌跡K2から外れて動作する。
【0040】
例えば、図5の実施形態で、第2速から第3速にシフトアップ変速操作するときに、図中の矢印Pの軌跡を描いての斜めシフト操作が可能である。矢印Pの軌跡は、第1速と第2速の間のシフト操作軌跡上の一点p1と、第3速と第4速の間のシフト操作軌跡上の一点p2とを動作範囲Rから逸脱しない範囲内で結び、かつ動作線M1と交わる斜行許容角度αが最も大きくなる線分によって求めたものである。矢印Pの斜めシフト操作より、第1シフトヘッド41から第2シフトヘッド51への切り替えセレクト操作と、第1シフトヘッド41の第2速からニュートラル位置までの戻しシフト操作及び第2シフトヘッド51のニュートラル位置から第3速までの入りシフト操作と、を同時に並行して行える。
【0041】
一方、図6の従来技術でも、第2速から第3速にシフトアップ変速操作するときに、図中の矢印Q軌跡を描いての斜めシフト操作が可能である。矢印Qの軌跡は、第1速と第2速の間のシフト操作軌跡上の一点q1と、第3速と第4速の間のシフト操作軌跡上の一点q2とを動作範囲Rから逸脱しない範囲内で結び、かつ動作線M2と交わる斜行許容角度βが最も大きくなる線分によって求めたものである。
【0042】
ここで、従来技術における斜めシフト操作の斜行許容角度βとしたとき、実施形態における斜めシフト操作の斜行許容角度α≒β+θで求められる。これは、動作線M1の傾斜角度θ分だけ斜行許容角度αが改善されたことを示している。この改善は、シフトアンドセレクトシャフト2を傾斜角度θだけ傾斜配置したことから発生している。
【0043】
また、斜行許容角度αの改善効果は、第3速から第2速へのシフトダウン変速操作、第4速から第5速へのシフトアップ変速操作、及び第5速から第4速へのシフトダウン変速操作でも同様に発生する。逆に、第1速と第4速との間,及び第3速と第6速との間の飛び越し変速操作では、斜めシフト操作時の斜行許容角度は減少するが、このような変速操作は稀有であり弊害にならない。
【0044】
次に、シフトアンドセレクトシャフト2の傾斜角度θを変更した場合について説明する。図7は、シフトアンドセレクトシャフト2の傾斜角度θを変更した場合のインナーレバー3の嵌入ヘッド31の動作範囲R及び軌跡K3、K4を模式的に示した図である。図7において、(1)は傾斜角度θ2が好ましい最大角度よりも小さい場合、(2)は傾斜角度θ3が好ましい最大角度よりも大きい場合を示している。
【0045】
図7の(1)において、セレクト操作及びシフト操作を順番に実施したときの嵌入ヘッド31の軌跡K3は、各変速段で水平方向に所定距離Dだけ移動したときに動作範囲Rの境界線上まで達していない(例えば図中の点k3)。したがって、セレクト操作及びシフト操作を順番に実施したときに、全ての変速段を実現できる範囲に対して余裕がある。つまり、図7の(1)に示される傾斜角度θ2は好ましい角度範囲内にある。ただし、斜めシフト操作時の斜行許容角度の改善効果は、図5の(3)と比較して減少する。
【0046】
また、図7の(2)において、セレクト操作及びシフト操作を順番に実施したときの嵌入ヘッド31の軌跡K4は、各変速段で水平方向に所定距離Dだけ移動する以前に動作範囲Rの境界線に達してしまう(例えば図中の点k4)。したがって、水平方向に嵌入ヘッド31が所定距離Dだけ移動するために、シフト操作の途中からセレクト方向の操作成分が必要になって円滑な変速操作が難しくなる。つまり、図7の(2)に示される傾斜角度θ3は過大であり好ましくない。
【0047】
なお、本発明は、嵌入ヘッド31及び第1〜第3係合ヘッド部44、54、64を面取りして丸みをつける従来技術と併用することにより、斜行許容角度の改善効果が一層顕著になる。
【0048】
また、本発明は、シフトアンドセレクトシャフト2をアクチュエータによって駆動する歯車噛合式の自動変速機の操作装置で実施することもできる。このとき、斜めシフト操作を行って変速所要時間を短縮する効果が生じる。さらには、シフトアンドセレクトシャフト2の軸周りの回動でセレクト操作し、軸方向の移動でシフト操作する方式の操作装置で実施することもできる。本発明は、その他さまざまな変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1:歯車噛合式変速機の操作装置
2:シフトアンドセレクトシャフト
21:上端 22:アウターシフトレバー
23:シフト操作ケーブル取付ピン 24:縮径部
25:アウターセレクトレバー 26:セレクト操作ケーブル取付ピン
28、29:メタルブッシュ
3:インナーレバー 31:嵌入ヘッド
4、5、6:第1〜第3フォークシャフト
41、51、61:第1〜第3シフトヘッド
43、53、63:第1〜第3凹部
44、54、64:第1〜第3係合ヘッド部
AX1、AX2:軸線 CL:中心線 D:所定距離
R:嵌入ヘッドの動作範囲 K1〜K4:軌跡 M1、M2:動作線
θ、θ2、θ3:傾斜角度 α、β:斜行許容角度
P、Q:斜めシフト操作の軌跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の移動および軸周りの回動が可能なシフトアンドセレクトシャフトと、
軸方向に操作されるシフトヘッドをそれぞれ有して互いに平行配置され、軸方向に移動することにより各変速段を構成する複数組の変速歯車組のうちの一組を選択して噛合結合させる3軸以上のフォークシャフトと、
前記シフトアンドセレクトシャフトに一体的に結合され、前記シフトアンドセレクトシャフトの前記軸方向の移動および前記軸周りの回動のうちの一方の動作に伴い前記3軸以上のフォークシャフトのいずれか1軸のシフトヘッドをセレクト操作し、他方の動作に伴いセレクト操作したシフトヘッドを軸方向にシフト操作するインナーレバーと、を備える歯車噛合式変速機の操作装置であって、
前記3軸以上のフォークシャフトの各シフトヘッドの並び順にしたがって低速段から高速段までを順番に並べ、さらに各シフトヘッドの軸方向の一側を低速シフト側とし軸方向の他側を高速シフト側とするように前記各変速段を割り当て、
前記シフトアンドセレクトシャフトを前記3軸以上のフォークシャフトに対して傾斜配置し、
各シフトヘッドの軸方向にシフト操作されていないニュートラル位置を結んだ線を中心線とし、前記インナーレバーが前記セレクト操作するときに移動する軌跡を動作線としたときに、前記低速段を割り当てられたシフトヘッドでは前記動作線が前記中心線よりも前記低速シフト側に偏移するとともに、前記高速段を割り当てられたシフトヘッドでは前記動作線が前記中心線よりも前記高速シフト側に偏移するようにしたことを特徴とする歯車噛合式変速機の操作装置。
【請求項2】
請求項1において、前記シフトアンドセレクトシャフトの前記3軸以上のフォークシャフトに対する傾斜角度は、前記セレクト操作及び前記シフト操作を順番に実施して全ての変速段を実現できる範囲内である歯車噛合式変速機の操作装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記シフトアンドセレクトシャフトは、操作者が操作するシフトレバーによって直接駆動され、あるいは前記シフトレバーから操作ケーブルを介して間接駆動される歯車噛合式変速機の操作装置。
【請求項4】
請求項1または2において、前記シフトアンドセレクトシャフトは、アクチュエータによって駆動される歯車噛合式変速機の操作装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−104531(P2013−104531A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250711(P2011−250711)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】