説明

残存窒素量を調整した発酵飲料の製造方法

【課題】
穀物を分画加工した原料を使用して発酵飲料を製造する際、安定性や香味といった特性を満足する飲料を提供する技術を提供する。
【解決手段】
水を除く原料中の麦の使用比率が25%未満である発酵飲料の製造方法において、製造される発酵飲料中の残存窒素源の量を、1〜10(mg/100ml)の間にコントロールすることにより、旨味を高め、且つ発酵酒の保存安定性を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーンなどの非麦穀物を原料とした発酵飲料に関する。中でも、安定性に優れ、香味の良好なビールテイスト飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ビールテイスト飲料など発酵飲料において未発芽穀物原料100%使用で醸造する試みがしばしば行われてきている。しかしこのような発酵原料を使用する場合には、克服すべき種々の問題がある。
【0003】
一つの問題は、従来のビールや発泡酒の仕込みと異なっており、麦芽に内在する酵素(例えばアミラーゼ類やプロテアーゼ類)が含まれておらず、それぞれ外部からの数種の酵素を組み合わせて作用させる必要があったが、このようにして製造した糖化液は、外部酵素の反応が充分に働かず、発酵工程での酵母の栄養源である糖類やアミノ酸類が発酵に必要な目的の量に達しない場合も生じる可能性があったことである。この問題に対処するため、本発明者らは、穀物原料から、デンプン画分とタンパク質画分を分画し、両画分をそれぞれ外部酵素で処理して、デンプン分解物およびタンパク分解物としてから、発酵工程の仕込み液の原料として用いれば、仕込工程での不具合が解消することを見出し、特願2005−80708として出願している。
【0004】
別の問題は、非麦穀物、中でもコーンはデンプン画分とタンパク質画分を分画して使用した際に、ビタミンやミネラル類が欠乏し、発酵工程での発酵不良を招くことであった。この問題に対処するため、本発明者らは特願2005−88218において、特定の性質を有する酵母エキスを発酵助剤として用いることを提案している。
【0005】
さらに別の問題は、未発芽穀物原料100%使用の発酵原料で醸造したビールテイスト飲料は、香味の点で改良の余地があり、さらに保存の面での品質の安定性に改善の余地があることである。

【特許文献1】特願2005−80708
【特許文献2】特願2005−88218〔発明が解決しようとする課題〕
【0006】
したがって本発明は、コーン等の穀物を分画加工した原料を使用して発酵飲料を製造する際、安定性や香味といった特性を満足する飲料を提供する技術を提供することを課題とする。

〔課題を解決するための手段〕
【0007】
本発明者らは、特願2005−80708の開示にしたがって、コーンなどの穀物を分画加工した原料を使用して発酵飲料を製造する場合において、製造される発酵飲料に含まれるアミノ態窒素量が香味や安定性に与えるのではないかと考え、その影響を詳細に検討した。その結果、製造される発酵飲料中のアミノ態窒素量を一定の範囲にコントロールすれば、ビールテイスト飲料の製品の品質、嗜好度を高めることが可能であることを見出した。更に、ビールテイスト飲料のアミノ態窒素量の調整は、発酵工程での穀物由来のタンパク分解物など窒素源の使用量を制御することにより達成できることを見出した。
【0008】
これによって穀物由来タンパク分解物などの窒素源を発酵飲料に最適量使用することにより、香味品質、劣化耐性を損なわない、高嗜好度のビールテイスト飲料を提供する技術を完成した。

〔発明の効果〕
【0009】
本発明により、穀物原料を分画加工した原料を使用する発酵飲料の製造において、発酵飲料中の残存窒素含量を調整し、香味品質、劣化耐性を損なわない高嗜好度のビールテイスト飲料を提供することができる。以下、発酵飲料の代表としてビールテイスト飲料(以下、ビールテイスト飲料と呼ぶこともある)を例にして、本発明を説明するが、以下の説明は特に記載がない限り、発酵飲料一般にあてはまる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
アミノ態窒素量のコントロール
穀物原料を分画加工したものを主な発酵原料として使用し、麦や麦芽を全くまたは少量しか使用せずにビールテイスト飲料を製造する場合には、ビールテイスト飲料中の残存アミノ態窒素量を最適にコントロールすることが、望ましい風味および保存安定性を付与する決め手の一つであることが判明した。残存アミノ態窒素量が少なすぎると、旨味、コクが不十分となり、残存アミノ態窒素量が多すぎるとビールテイスト飲料の保存安定性が損なわれる。従って、本発明の方法においては、ビールテイスト飲料中に残存するアミノ態窒素量を、一定範囲内、特に1〜10(mg/100ml)の間、より好ましくは3〜8(mg/100ml)の間にコントロールする。ビールテイスト飲料の残存アミノ態窒素の主成分は、グルタミン酸等のアミノ酸であり、その量は公知の方法、例えばニンヒドリン呈色反応で測定することができる。
【0011】
ビールテイスト飲料に残存するアミノ態窒素を上記の範囲にコントロールするためには、例えば、発酵原液のアミノ態窒素量を所定の値、例えば10〜20(mg/100ml)にする。そのためには、穀物原料(例えばコーン)から分画したタンパク画分の使用量を1〜10g/L程度とする。但し、本発明のビールテイスト飲料の製造においては、発酵原料中に麦および/または麦芽を25%程度未満まで使用してもよく、および/または特願2005−88218の開示に従って酵母エキスを用いてもよく、それらの場合には麦、麦芽および/または酵母エキスの使用量に応じて穀物原料由来のタンパク画分の使用量は上記範囲より若干低くてもよい。
【0012】
残存アミノ態窒素は、発酵工程における酵母の資化量でもコントロールできる。この場合は発酵工程条件、例えば温度にて酵母の増殖程度をコントロールすることで残存アミノ態窒素量を制御することができる。

穀物
本発明においては麦以外の各種穀物を分画して用いる。穀物の例は、コーン、麦芽や大麦などの麦、米、そば、ソルガム、粟、ひえ、および大豆やエンドウといった豆類である。
【0013】
これら穀物のうち、コーンは、タンパクの構成アミノ酸中に、ロイシンを非常に豊富に含むことがわかっている。ロイシンは発酵飲料、特にビールテイスト飲料の良好な香味の前駆体であることから、コーンを好適に用いることができる。コーンは麦芽同様に発芽させて用いようとしても、仕込工程での酵素分解の不良により、発酵不良等の問題を伴うが、本発明にしたがい、成分を分画してから用いると発酵不良の問題が解消される。コーンは発芽コーン、未発芽コーンのいずれも本発明に使用できるが、未発芽のコーンの使用が好適である。
【0014】
コーンの種類はデントコーン、フリントコーン、ポップコーン、ワキシーコーン等特に限定されない。このうち、デントコーンがビールテイスト飲料の原料として適している。コーンは、粒状コーンを粉砕して用いてもよいし、デンプンやペプチドが未分画であれば、コーングリッツやコーンフラワーといった加工品を出発原料として用いても良い。

穀物の成分の分画
本発明においてはコーンなどの穀物を各成分に分画してから発酵原料とする。分画により、少なくともデンプン画分およびタンパク画分に分画する。分画方法に特別の制限はないが、例えば、以下の工程で行うことができる。
【0015】
コーンを浸漬水に浸漬する(浸漬温度はほぼ室温、浸漬時間は48時間程度である);吸水したコーンを粉砕する(好ましい粉砕条件としては、ディスクミルである);粉砕後、水面に浮かんだ胚芽を分離する;胚芽を分離した粉砕コーンを磨砕する(好ましい磨砕条件はディスクミルである);磨砕後のコーンを篩に通し、篩上に残った繊維画分を分離する(好ましい篩は50〜100μm程度である)、遠心分離などで比重の違いに基づいてデンプン画分とタンパク画分とを分離回収する。あるいはこれを、遠心分離で分離しても良い。

分画成分の酵素分解
デンプン画分の糖化は、醸造用糖化液の調製のための公知の方法で行うことができる。例えば、外部酵素として液化酵素(アミラーゼ)を用い、スターチ分解物(コーン糖化スターチ)を調製することができる。液化酵素の種類、使用量、酵素反応温度、酵素反応時間は、製造すべき発酵飲料に応じて適宜決定できるが、ビールテイスト飲料の製造を目的とする場合で例示すると例えば、以下のとおりである。
【0016】
pHを水酸化カルシウムを使いpH6に調整し、耐熱αアミラーゼ(ターマミル120L:ノボ社)を適量(0.025〜0.5%)添加し、よく混合し攪拌しながら103℃で5分間加熱を行う。温度を95℃に下げ、90分間保持する。温度を65℃に下げβアミラーゼ・プルラナーゼ酵素として、ビオザイムM5(アマノエンザイム社)やライスターゼPL(大和化成)を0.01〜0.1%添加して、約20時間攪拌する。それを80℃以上まで昇温を行い酵素類を失活させる。この糖液を珪藻土で濾過し、イオン交換樹脂を通して脱塩を行い、活性炭で脱色・脱臭し、デンプン分解物(コーン糖化スターチ)液を得ることができる。分解が酵母発酵に適する程度に達成されたか否かは資化性糖をHPLCで測定することにより調べることができる。
【0017】
得られたデンプン分解物(コーン糖化スターチと称することもある)の溶液は、そのままでまたは適宜濃縮もしくは希釈して用いることもできるが、微生物的に安定な程度、例えば固形分75%まで減圧濃縮することが好ましい。
【0018】
タンパク画分の分解は、発酵段階で酵母が利用するアミノ酸やペプチドといったタンパク分解物を得るために行う。分解のために使用可能な酵素および酵素反応方法は一般に公知であり、例えば以下の方法で分解することができる。
【0019】
タンパク画分を固形分で30%になるように温水に懸濁し、殺菌のため95℃に昇温し20分間保持する。温度を50℃に下げ、水酸化ナトリウムと塩酸で中性になるようpHを調整し、フレーバーザイム(ノボ社)やプロチンFA(大和化成)といったプロテアーゼを0.1〜1.0%程度添加し20時間反応させる。分解度は遊離アミノ酸が20%以上になるのを目処とし、酵素失活のため95℃に昇温し20分間保持する。この反応液を、珪藻土で濾過し、活性炭で脱色・脱臭を行いコーン蛋白分解液を得た。酵母発酵に適するまで分解されたか否かはHPLCにより調べることができる。
【0020】
得られたコーン蛋白分解液は、そのままでまたは適宜濃縮もしくは希釈して用いることもできるが、固形分30%まで減圧濃縮し、105℃にて5〜10秒間スプレードライしてコーン蛋白分解物の粉末としても良い。

繊維画分の高温高圧処理
繊維画分は、高温高圧の流体(例えば、飽和水蒸気や、水など)で処理することで、ビールテイスト飲料用の着味着香原料として好適に用いることができる。流体処理時の流体の温度は約170℃〜200℃であれば特に限定されない。前記温度範囲のうち、180℃〜200℃であるのが好ましい。処理温度が170℃未満であるとコクや刺激感の付与に寄与する成分の増大効果が少なく、また、200℃より高い場合、バニリンの生成量が急激に増大し、バニラ香が強くなり、香味の設計によっては発酵飲料の原料としては適さなくなる場合がある。
【0021】
また、繊維画分にコーングリッツなど他のコーン由来成分を混ぜて処理してもよい。流体処理は低酸素濃度下で行うことが望ましい。
発酵飲料の原料中、高温高圧処理したコーンの繊維画分の添加量は、良好な香味の発酵飲料が得られる範囲であれば、特に限定されないが、例えば、水を除く原料当たり、0.01〜1%程度添加することができる。

発酵飲料
本発明の発酵飲料は、酵母による発酵工程を経て製造される飲料を全て包含する。例えば、発泡酒、ビール、低アルコール発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の発酵飲料)、雑酒、リキュール類、スピリッツ類が挙げられる。そのなかでもビールテイスト飲料とは、炭素源、窒素源、ホップ類などを原料とし、酵母で発酵させた飲料であって、ビールのような風味を有するものをいう。ビールテイスト飲料としては、例えば、雑酒、リキュール類、スピリッツ類、低アルコール発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の麦芽発酵飲料)などが挙げられる。
【0022】
本発明の発酵飲料のアルコール分は特に限定されないが、1〜15%(v/v)であることが望ましい。特にビールや発泡酒といった麦芽発酵飲料として消費者に好んで飲用されるアルコールと同程度の濃度、すなわち、3〜8%(v/v)の範囲であることが望ましい。

炭素源、窒素源
炭素源としては、米、コーンなどの穀物類を糖化して得た糖液や、糖類そのものから得た糖液などを用いることができる。発酵原液中の添加量は、100〜150g/L程度が好ましい。
【0023】
窒素源としては、コーンなど植物由来のタンパク質もしくはその加水分解物を利用することができる。市販のタンパク分解物を用いても良い。
本発明において、製造されるビールテイスト飲料のアミノ態窒素量を1〜10(mg/100ml)にすることが肝要である。例えば、発酵原料中の窒素源の使用量を調節することにより、ビールテイスト飲料のアミノ態窒素量が1〜10(mg/100ml)になるように調節する。そのためには、他の原料の種類や配合量にもよるが、主な窒素源をコーンタンパク分解物とする場合、発酵原液中への添加量は、1〜10g/L程度程度が好ましい。
【0024】
本発明は、麦(麦芽および大麦)は全くまたは僅かしか使用しない発酵飲料に好適に用いることができる。具体的には、麦(麦芽および大麦)の使用比率が水を除く原料中の重量比で25%以上の場合、窒素源は麦から十分に供給されることから本発明の技術を用いる必要はない。
【0025】
従って、本発明においては、麦(麦芽および大麦)の使用比率は、水を除く原料中の25重量%未満の場合に好適に用いることができる。
麦芽など麦を用いる場合には、内部酵素または外部酵素を用いて、定法により仕込み工程を経てから発酵原液に混合すればよい。

発酵飲料の製造
本発明においては、発酵飲料の原料として、コーンを分画して加工したデンプン分解物およびタンパク分解物を用いて、場合によりホップ類を加えて混合し、混合液を煮沸し、固液分離した清澄な発酵原液に酵母を添加し酵母発酵を行う。なお、固液分離は発酵後にも或いは発酵後にのみ行ってもよい。
【0026】
より詳細に説明すると、発酵飲料の製造のために下記の成分を用意して混合する:
(1) デンプン分解物の使用量は、水とホップ(使用される場合)を除く原料当たり、0.1〜99%程度使用することができる。デンプン分解物は、前述の方法でコーンを酵素処理して得たものが好ましいが、コーンを原料とする市販の糖化スターチや水飴などを用いても良い。
(2) 一方、タンパク分解物の使用量は、発酵原液当たり、0.1〜50g/L使用することができる。タンパク分解物は前述の方法でコーンから分画して外来酵素で分解して得たものが好ましいが、市販のコーンタンパク分解物(コーンペプチド)などを用いても良い。
【0027】
また、発酵のための糖源として麦芽など多量の酵素を有する原料を用いない本発明の好ましい態様の場合、例えば、水とホップ(使用される場合)を除く原料当たり、95〜99.9%のスターチ分解物と、発酵原液当たり、1〜10g/Lを配合すると、発酵工程における発酵不良の回避や、得られる発酵飲料の優れた香味の面で好ましい。
(3) ホップの使用は、ビールテイスト飲料、発泡酒、リキュール類、スピリッツ類を含むビール等の製造の場合においては、ビール用の風味を与えるために必要である。ホップはビール等の製造に使用する通常のペレットホップ、粉末ホップ、ホップエキスを香味に応じて適宜選択使用する。さらに、イソ化ホップ、ヘキサホップ、テトラホップなどのホップ加工品を用いることもできる。その使用量は、糖液1L当たり0.1〜10gまでである。
(4) また所望成分として、非麦穀物の分画の途中で分離されたデンプン画分とタンパク画分以外の画分を、所望により適宜加工して用いることができる。この中でも、繊維画分は、例えば170℃から200℃程度の高温高圧水蒸気で処理することで、ビールテイスト飲料用の着味着香原料として好適に用いることができる。その添加量は水とホップ(使用される場合)を除く原料当たり、0.01〜1%程度が好ましい。
(5) 発酵原料には、また、必要に応じ、酵母エキス、イーストフードなどの発酵助剤、その他の糖源、窒素源などを添加剤することができる。
【0028】
上記成分(1) および(2)、および必要に応じて(3)および(4)の一部ないしまたは全部、(5) の一部または全部を混合し、水に分散して、約100℃に加熱滅菌し、必要なら上清を分離して発酵原液とする。
【0029】
発酵飲料の製造に使用する酵母は、製造すべき発酵飲料の種類、目的とする香味や発酵条件などを考慮して自由に選択できる。例えばWeihenstephan-34株など、市販のビール酵母を用いることができる。
【0030】
発酵飲料の製造における発酵時間、発酵温度は、製造すべき発酵飲料の種類、目的とする香味や発酵条件などを考慮して自由に選択できる。例えば、ビールテイスト飲料の製造においては、発酵温度を13℃に設定して、所定のアルコール濃度を得るまで発酵を行う。
【0031】
発酵後の混合物は、そのままで発酵飲料としてもよく、濾過、加熱等の滅菌を行って発酵飲料としてもよい。発酵飲料には、必要に応じて色素や泡形成剤、香料、水溶性食物繊維などを添加することができる。色素についてはビール様の色を与えるために使用するものであり、カラメル色素などをビール様の色彩を呈する量添加する。ビール様の泡を形成させるため、大豆サポニン、キラヤサポニン等の植物抽出サポニン系物質、牛血清アルブミン等のタンパク質系物質などを適宜使用する。ビール様の風味付けのためにビール風味を有する香料を適量使用することができる。さらに難消化性デキストリン、ポリデキストロース、水溶性トウモロコシ繊維などの水溶性食物繊維を必要により添加することができる。

低糖質または低カロリー発酵飲料
本発明の技術は低糖質発酵飲料に適用することもできる。低糖質とは、発酵飲料中の糖質濃度が、固形分換算で0.8重量%、特に0.5重量%未満であることを意味する。低糖質であることが好ましい発酵飲料には、清酒、ワイン、ビール、発泡酒、リキュール類、スピリッツ類、雑酒、ビールテイスト発酵飲料などが含まれる。特に発泡酒、ビールテイスト発酵飲料が好ましく、特にビールテイスト発酵飲料が好ましい。
【0032】
低糖質発酵飲料の製造方法の一つとして、発酵が終了した発酵液を水などで希釈する方法がある。このとき、希釈率は通常は任意であるが、本発明の示す残存窒素源の量となるように希釈することで、安定性に優れ、香味の良好な低糖質発酵飲料を製造することができる。希釈は水により行うが、このとき低糖質発酵飲料に不足する呈味物質を補うため、酸味料、甘味料、苦味料、アルコールを一緒に添加してもよく、あるいは呈味物質の補足は、希釈操作後に別途行うこともできる(特願2005-157921)。
【0033】
糖質の低下は希釈による方法の代わりに、または希釈による方法と組み合わせて、炭素源として酵母が資化しやすい3糖類、2糖類および単糖類の比率を高めた(例えば全炭素源の80%以上にした)、発酵原料を用いることで行うことも可能である(特願2005-157921)。
【0034】
また、別の好適の飲料の例として、低カロリー飲料、特にビールテイストの低カロリー発酵飲料が挙げられる。低カロリー飲料は、カロリーが20kcal/100ml未満の飲料で、低糖質および/または低アルコールとすることによって実現することができることから、同様に本発明の技術を用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下に実施により本発明をさらに説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例1
ビールテイスト飲料のアミノ態窒素量が香味や安定性に与える影響を検討した。
【0036】
表1に記載の原料で各種ビールテイストの発酵飲料を調整した。原料はいずれも市販のものを用いた。窒素源としてコーンタンパク分解物、大豆タンパク分解物、小麦タンパク分解物を用いた。なお酵母発酵促進剤として酵母エキスを用いた。酵母エキスを一定量とし、各種タンパク分解物の添加量は、目標のアミノ態窒素量の飲料が得られるように添加量を調整した。
【0037】
【表1】

【0038】
これら6試料について、定法によりホップ煮沸、清澄化、糖化液冷却、発酵、濾過瓶詰を行った。これらの操作により、6種類のビールテイスト飲料を得た。得られた飲料について、硫化水素濃度、飲用時のコクの有無、および保存安定性を評価した。
【0039】
硫化水素濃度は、発酵終了時のヘッドスペースガス中の濃度をGC法で測定した。測定条件は次のとおりとした。カラム:パックドカラム(島津製作所製)、カラム温度:80〜100℃、キャリアガス:窒素、検出器:FPD。
【0040】
コクは、訓練されたパネラー10名によって、飲用時のコクの有無を官能試験法により評価した。試料の温度は5℃とした。保存安定性については、瓶詰した試料を28℃で3週間保存し、劣化臭(カードボード臭)の有無を評価した。また、ビールテイスト飲料のアミノ態窒素はニンヒドリン比色法を用いて測定した。なお、発酵原液や仕込み液のアミノ態窒素を測定する場合も同じ方法を用いた。
【0041】
結果を表2に示す。アミノ態窒素量が0mg/100mlの本発明外の飲料(試料1)は、窒素源枯渇に起因すると思われる硫化水素発生にともなう腐卵臭があり、旨味、コクに欠けていた。また、アミノ態窒素量が20mg/100mlの試料(試料4)は、旨味、コクは強かったものの、保存安定性が劣ることが判った。
【0042】
一方、アミノ態窒素量が1〜10 mg/100mlの本発明のビールテイスト飲料(試料2および試料3)は、腐卵臭がなく、旨味、コクがあり、且つ保存安定性の良い飲料であった。
すなわち、コーン等の穀物を分画加工した原料を使用して発酵飲料を製造する際には、ビールテイスト飲料のアミノ態窒素量が1〜10 mg/100mlとなるようにすることで、香味品質、劣化耐性を損なわない、高嗜好度のビールテイスト飲料を提供できることが判った。
【0043】
【表2】

【0044】
製造例1
(発明品1)非麦発酵飲料の製造例
市販の糖シロップを用いて100Lの10重量%の糖液を作成した。これにとうもろこしタンパク分解物0.2%、カラメル0.03%、ホップ0.03%、高温高圧処理したコーンの繊維画分0.01%を添加した後、発酵助剤として酵母エキスを0.2%添加し60-90分間煮沸し、静置にてホップ粕を除去して発酵原液を得た。
【0045】
この発酵原液に0.5%の市販ビール酵母(Weihenstephan-34株)を添加し、10-15℃で約一週間発酵させた。その後0℃で3日保管したのち、フィルターにて酵母を除去し、炭酸ガスを添加してビールテイスト飲料を作成した。この飲料中のアミノ態窒素量は5mg/100mlであった。
【0046】
(発明品2)低麦芽使用比率の発酵飲料の製造例
粉砕麦芽1.5kgを、10kgの仕込水と懸濁し、糖化槽内で攪拌温度調節にて糖化およびタンパク分解を行った後、麦汁濾過にて加水しながらできるだけエキス分を回収した。そこにBrix75の市販糖シロップを12kg添加し、仕込水加水後、最終的に100Lの10重量%の糖液を作成した。これにとうもろこしタンパク分解物0.1%、カラメル0.02%、ホップ0.03%、酵母エキス0.1%を添加し60-90分間煮沸し、静置にてホップ粕を除去して発酵原液を得た。
【0047】
この発酵原液に0.5%の市販ビール酵母(Weihenstephan-34株)を添加し、10-15℃で約一週間発酵させた。その後0℃で3日保管したのち、フィルターにて酵母を除去し、炭酸ガスを添加してビールテイスト飲料を作成した。この飲料中のアミノ態窒素量は6mg/100mlであった。
【0048】
(発明品3)低糖質、低カロリー発酵飲料の製造例
仕込水85kgに対し、四糖類以上の糖組成が7%の糖シロップ(加藤化学製)を15kg、とうもろこしタンパク分解物200g(0.2重量%)、酵母エキス200g(0.2重量%)、カラメル色素200g、ペレットホップ160g、高温高圧処理(180℃ 1.8MPa 1分)したコーンの繊維画分を10g加えた。これらを60分間煮沸した後、静置してホップ粕を除き、発酵原液を得た。この発酵原液に、ビール酵母(Weihenstephan-34株)を20×106cells/mlになるように添加し、温度13℃にて8日間発酵させた。炭素源資化終了後、ろ過により酵母を取り除き、5Lの発酵後液に対し15Lの脱気水にて4倍希釈し、炭酸ガスを加え、低糖質発酵飲料を作成した。この飲料中のアミノ態窒素量は1.2mg/100mlであった。また得られた飲料の糖質濃度は0.46w/w%、カロリーは12kcal/100ml、アルコールは1.5v/v%であった。糖質の量は0.46であった。
【0049】
なお、発明品3で用いたとうもろこしタンパク分解物およびとうもろこし繊維画分の高温高圧処理加工品は、本出願と同日に本出願人によりされた特許出願(発明の名称:分画したコーンを用いた発酵飲料)の実施例3および実施例4でそれぞれ製造されたものである。
【0050】
発明品1,2,3ともに製造中、発酵不良は認められなかった。また、得られた発酵飲料は、好適な香りとコクを有し、と十分な保存安定性を有していた。結果を表3に示す。
【0051】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を除く原料中の麦の使用比率が25%未満である発酵飲料の製造方法において、製造される発酵飲料中の残存窒素源の量をコントロールすることを特徴とする発酵飲料の製造方法。
【請求項2】
製造される発酵飲料中のアミノ態窒素量を、1〜10(mg/100ml)の間にコントロールすることを特徴とする請求項1記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項3】
発酵原液のアミノ態窒素量を、10〜20(mg/100ml)にすることにより、製造される発酵飲料のアミノ態窒素量を1〜10(mg/100ml)の間にコントロールする、請求項2記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項4】
穀物をデンプン画分およびタンパク画分に分画してから発酵原料に用いて醸造することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項5】
デンプン画分を分解してデンプン分解物を得、別途、タンパク画分を分解してタンパク分解物を得、それらの分解物を混合したものを発酵原料として醸造することを特徴とする請求項4記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項6】
穀物がコーンである請求項4または5項記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項7】
コーンが未発芽のコーンである請求項6記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項8】
発酵原料にホップも添加したことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項9】
発酵飲料がビールテイスト飲料である請求項8記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項10】
発酵飲料が低糖質発酵飲料または低カロリー発酵飲料である請求項1ないし8のいずれか1項記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項11】
発酵飲料が低糖質ビールテイスト飲料または低カロリービールテイスト飲料である請求項10に記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項12】
発酵飲料がビールテイスト飲料以外の低糖質または低カロリー発酵飲料である請求項1ないし8のいずれか1項記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項13】
主な炭素源がコーンのデンプン分解物である請求項1ないし12のいずれか1項記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項14】
麦芽を含めて麦を原料として用いていないことを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1項記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項15】
コーンのタンパク分解物の添加量が、発酵原液当たり、1〜10g/Lである請求項6ないし14のいずか1項記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項16】
高温高圧処理したコーンの繊維画分を添加することを特徴とする請求項1ないし15のいずれか1項記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項17】
高温高圧処理したコーンの繊維画分の添加量が、水を除く原料当たり、0.01〜1%である請求項16記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項記載の製造方法で得られた発酵飲料。

【公開番号】特開2006−304764(P2006−304764A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175785(P2005−175785)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)