説明

残留塩素濃度測定用組成物

【課題】 5℃の温度条件で、薬液内での呈色試薬の結晶化を防止することのできる残留塩素測定用組成物を実現する。
【解決手段】 被測定水の残留塩素濃度を測定するための組成物において、ジアルキルベンジジン化合物およびテトラアルキルベンジジン化合物からなる群より選ばれた1種以上の呈色試薬と、酸と、アルコール化合物とを含有させる。アルコール化合物は、たとえば一価アルコール,二価アルコールおよび三価アルコールから選択され、組成物は、このアルコール化合物を呈色試薬の20〜100重量倍含むように調製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被測定水の残留塩素濃度を測定するための組成物に関し、とくに呈色反応を利用して被測定水の残留塩素濃度を測定するための一液型の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水や井戸水などの生活用水,あるいはプール水には、次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素剤が添加されている。この塩素剤は、酸化作用による殺菌や消毒などの効果を有するが、水中に懸濁物,有機物,あるいは金属イオンなどが存在すると、これらの物質との反応によって、その効果が低減する場合がある。また、塩素剤は、貯水タンクやプールなどの開放系において、大気中への拡散によって、その効果が経時的に失われる場合もある。このため、水中の残留塩素濃度を定期的に測定し、所定の濃度が維持されているか否かを確認する必要がある。
【0003】
一方、精密濾過膜,限外濾過膜,逆浸透膜,あるいはナノ濾過膜などの各種濾過膜を使用する水処理システムにおいては、被処理水中に塩素剤が存在すると、濾過膜が酸化を受けて劣化しやすい。濾過膜が劣化すると、処理水の水質が悪化するため、通常、濾過膜の上流側に活性炭フィルタ装置や重亜硫酸ナトリウム(SBS)の添加装置を設置し、塩素剤を除去している。この場合、活性炭フィルタ装置を通過した被処理水や重亜硫酸ナトリウムが添加された被処理水の残留塩素濃度を定期的に測定し、塩素剤が確実に除去されているか否かを確認する必要がある。
【0004】
従来、水中の残留塩素濃度の測定には、o−トリジンやN,N−ジエチルフェニレンジアミン(DPD)などの呈色試薬を使用した測定法が広く利用されている。さらに、近年では、DPDよりも安全性に優れたジアルキルベンジジン化合物やテトラアルキルベンジジン化合物を呈色試薬に用いる測定法も提案されており、たとえば特許文献1および特許文献2には、ジアルキルベンジジン化合物,あるいはテトラアルキルベンジジン化合物の呈色試薬への適用が記載されている。
【0005】
さて、現場における残留塩素濃度の測定には、一般に携帯型測定装置や簡易型測定キットが使用されることが多い。しかしながら、これらの携帯型測定装置や簡易型測定キットは、操作に習熟する必要があり、また測定頻度が高くなると操作そのものが煩わしくなるため、自動型測定装置の需要も増加している。この自動型測定装置は、被測定水の採取工程,呈色試薬の添加工程および残留塩素濃度の測定工程までの一連の操作を自動で処理するように構成されており、連続的な測定を可能にしている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−350416号公報
【特許文献2】特開平9−133671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記の自動型測定装置は、通常、呈色試薬を薬液の状態で装置内に貯蔵しておき、呈色試薬の添加工程において、所定量の薬液を被測定水へ添加するように構成している。そして、薬液が消費されて不足すると、新たな薬液を補充する。このような自動型測定装置は、監視対象水系に応じて様々な場所に設置されるが、温度調節のなされた場所に設置されることは希であるため、たとえば5〜50℃の苛酷な温度条件で薬液が変質しないことが求められる。しかしながら、残留塩素濃度の測定に用いられる呈色試薬は、たとえば水溶液中において、温度の低下とともに、その溶解度が低下する特性を示す。この
ため、冬季など周囲の温度が5〜10℃付近まで下がると、薬液内で呈色試薬が結晶化することによって、薬液の供給経路などに詰まりを生じさせ、呈色試薬の添加工程において、所定量の薬液を正常に被測定水へ添加できなくなると云う問題があった。また、所定量の薬液を被測定水へ添加できたとしても、薬液中の呈色試薬の濃度に変化が生じているため、測定の信頼性を欠くと云う問題があった。
【0008】
この発明は、前記の事情に鑑みてなされたもので、その解決しようとする課題は、5℃の温度条件で、薬液内での呈色試薬の結晶化を防止することのできる残留塩素測定用組成物を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、被測定水の残留塩素濃度を測定するための組成物であって、ジアルキルベンジジン化合物およびテトラアルキルベンジジン化合物からなる群より選ばれた1種以上の呈色試薬と、酸と、アルコール化合物とを含むことを特徴としている。
【0010】
さらに、請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記アルコール化合物を前記呈色試薬の20〜100重量倍含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、5℃の温度条件で、薬液内での呈色試薬の結晶化を防止することのできる残留塩素測定用組成物を実現することができる。すなわち、冬季などの低温条件においても、アルコール化合物の作用により、呈色試薬であるジアルキルベンジジン化合物,あるいはテトラアルキルベンジジン化合物の溶解度が高められ、薬液内での結晶化が防止される。この結果、たとえば自動型の残留塩素濃度測定装置において、薬液の所定量を安定して被測定水に添加でき、また薬液の濃度を一定に保つことができ、測定値の信頼性が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施形態を詳細に説明する。この実施形態に係る残留塩素濃度測定用組成物(以下、単に「組成物」と云う。)は、被測定水の残留塩素濃度を光学的に測定するために用いられる一液型の薬液であって、ジアルキルベンジジン化合物およびテトラアルキルベンジジン化合物からなる群か選ばれた1種以上の呈色試薬と、酸と、アルコール化合物を含むものである。
【0013】
ジアルキルベンジジン化合物およびテトラアルキルベンジジン化合物は、酸性領域で残留塩素と反応したときに、波長360〜380nm付近,450〜470nm付近および640〜660nm付近に吸収ピークを示して、黄〜青緑色に発色する酸化発色性の呈色試薬であって、一般式(I)で示される。
【0014】
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基を示す。RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基を示すか,あるいは同時に水素原子を示す。RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基を示すか,あるいは同時に水素原子を示す。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子,1個以上の水酸基を有することもある炭素数1〜8のスルホアルキル基,または1個以上の水酸基を有することもある炭素数1〜8のカルボキシアルキル基を示すが、RとRが同時に水素原子であることはない。)
【0015】
一般式(I)のRおよびRにおける炭素数1〜6のアルキル基としては、たとえばメチル基,エチル基,プロピル基,イソプロピル基,ブチル基,イソブチル基,sec−ブチル基,tert−ブチル基,ペンチル基,1−メチルブチル基,2−メチルブチル基,3−メチルブチル基,1−エチルプロピル基,tert−ペンチル基,1,2−ジエチルプロピル基およびヘキシル基などが挙げられる。これらのアルキル基のうち、ジアルキルベンジジン化合物の場合、RおよびRのいずれかがメチル基であることが好ましく、RおよびRがともにメチル基であることがより好ましい。また、テトラアルキルベンジジン化合物の場合、RおよびRがともにメチル基またはエチル基であることが好ましい。
【0016】
一般式(I)のRおよびRにおける炭素数1〜6のアルキル基としては、前記したRおよびRと同じものが挙げられる。これらのアルキル基のうち、テトラアルキルベンジジン化合物の場合、RおよびRがともにメチル基またはエチル基であることが好ましい。
【0017】
一般式(I)のRおよびRにおける炭素数1〜8のアルキル基としては、前記したRおよびRと同じもの、並びにベンジル基,フェニル基およびアルキルフェニル基などが挙げられる。これらのアルキル基のうち、RおよびRがともにメチル基またはエチル基であることが好ましい。この実施形態においては、RおよびRがともに水素原子である場合,あるいはRおよびRがともにエチル基である場合がとくに好ましい。
【0018】
一般式(I)のRおよびRにおける1個以上の水酸基を有することもある炭素数1〜8のスルホアルキル基とは、前記したRおよびRと同じアルキル基がスルホン酸基で置換された誘導体を云う。スルホン酸基の置換位置は、とくに限定されないが、通常、アルキル基の末端,ベンジル基またはフェニル基に置換されていることが好ましい。また、このスルホアルキル基は、1個以上の水酸基を有していてもよく、この水酸基の置換位置およびその個数は、とくに限定されない。この実施形態において、好適なスルホアルキル基としては、たとえば2−スルホエチル基,3−スルホプロピル基,2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル基,2−ヒドロキシ−2−スルホエチル基,4−スルホブチル基および2,4−ジスルホベンジル基などが挙げられる。
【0019】
一般式(I)のRおよびRにおける1個以上の水酸基を有することもある炭素数1〜8のカルボキシアルキル基とは、前記したRおよびRと同じアルキル基がカルボキシル基で置換された誘導体を云う。カルボキシル基の置換位置は、とくに限定されないが、通常、アルキル基の末端,ベンジル基またはフェニル基に置換されていることが好ましい。また、このカルボキシアルキル基は、1個以上の水酸基を有していてもよく、この水酸基の置換位置およびその個数は、とくに限定されない。この実施形態において、好適なカルボキシアルキル基としては、たとえば2−カルボキシエチル基,3−カルボキシプロピル基,2−ヒドロキシ−3−カルボキシプロピル基,2−ヒドロキシ−2−カルボキシエチル基,4−カルボキシブチル基および2,4−ジカルボキシベンジル基などが挙げられる。
【0020】
一般式(I)で表されるジアルキルベンジジン化合物の好ましい例としては、N,N’
−ビス(2−スルホエチル)−3,3’−ジメチルベンジジン;N,N’−ビス(3−スルホプロピル)−3,3’−ジメチルベンジジン;N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−2−スルホエチル)−3,3’−ジメチルベンジジン;N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,3’−ジメチルベンジジン;N,N’−ビス(4−スルホブチル)−3,3’−ジメチルベンジジン;N,N’−ビス(3−スルホプロピル)−N,N’−ジエチル−3,3’−ジメチルベンジジン;N,N’−ビス(2,4−ジスルホベンジル)−3,3’−ジメチルベンジジンおよびこれらのアルカリ金属塩などが挙げられる。これらの化合物のうち、ナトリウム塩の形態のものは、水溶性が高く、常温で結晶化が起こりにくいため、とくに好適に利用することができる。
【0021】
また、一般式(I)で表されるテトラアルキルベンジジン化合物の好ましい例としては、N−(2−スルホエチル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン;N−(3−スルホプロピル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン;N−(4−スルホブチル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン;N−(2−ヒドロキシ−2−スルホエチル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン;N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン;N−(2,4−ジスルホベンジル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン;N,N’−ビス(2−スルホエチル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン;N,N’−ビス(3−スルホプロピル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン;N,N’−ビス(4−スルホブチル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン;N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−2−スルホエチル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンおよびN,N’−ビス(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン;N,N’−ビス(2,4−ジスルホベンジル)−3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンおよびこれらのアルカリ金属塩などが挙げられる。これらの化合物のうち、ナトリウム塩の形態のものは、水溶性が高く、常温で結晶化が起こりにくいため、とくに好適に利用することができる。
【0022】
ここにおいて、ジアルキルベンジジン化合物およびテトラアルキルベンジジン化合物は、通常、単独で用いられるが、二種以上を混合して用いることもできる。
【0023】
組成物における呈色試薬の含有量は、とくに限定されず、通常、被測定水の採水量と、測定可能とする残留塩素濃度の上限値と、被測定水への組成物の添加量とに基づいて設定される。すなわち、被測定水の採水量および測定可能とする残留塩素濃度の上限値の積から求められる残留塩素量を含む被測定水に対し、所定量の組成物を添加した場合に、呈色試薬と残留塩素とが当量反応できる量が配合される。呈色試薬にN,N’−ビス(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,3’−ジメチルベンジジン二ナトリウム塩を用いた配合の一例を挙げると、被測定水の採水量4ミリリットル,測定可能とする残留塩素濃度の上限値0.5〜2.5mg/リットル(Cl換算)および被測定水への組成物の添加量30マイクロリットルに設定した場合、呈色試薬の含有量を0.1〜0.5重量%に設定する。
【0024】
組成物に含有される酸は、組成物のpHを酸性領域に調整するために用いられる。具体的には、組成物のpHは、3.5以下が好ましく、3.0以下がより好ましく、1.9以下がとくに好ましい。組成物のpHを酸性領域,とくに3.5以下に調整することにより、5〜50℃の温度条件で長期間保存した場合でも呈色試薬が発色したときの極大吸収波長付近における吸光度の経時的な上昇を抑制し、安定した残留塩素濃度の測定を行うことができる。酸としては、無機酸または有機酸を単独で,あるいはこれらを適宜組み合わせて用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸,塩酸およびリン酸などの酸化性や還元性を示さない酸が挙げられる。有機酸としては、たとえばクエン酸,酢酸,コハク酸およびシュウ酸などが挙げられる。
【0025】
組成物に含有されるアルコール化合物は、呈色試薬の低温時における溶解度を高め、結晶化を防止するために用いられる。アルコール化合物としては、一価アルコールまたは多価アルコールを単独で,あるいはこれらを適宜組み合わせて用いることができる。多価アルコールとしては、組成物中で相分離を起こさず、呈色試薬と均一に混合した状態を維持する観点から、二価アルコールまたは三価アルコールであることが好ましい。また、アルコール化合物は、同様の観点から、炭素数1〜3の低級アルコール化合物であることが好ましい。この実施形態における好適なアルコール化合物を例示すると、一価アルコールとしては、たとえばエタノールおよび1−プロパノールなどが挙げられる。また、二価アルコールとしては、たとえばエタン−1,2−ジオールおよびプロパン−1,2−ジオールなどが挙げられる。さらに、三価アルコールとしては、たとえばプロパン−1,2,3−トリオールなどが挙げられる。
【0026】
この実施形態における組成物は、通常、アルコール化合物を呈色試薬の20〜100重量倍含むことが好ましく、30〜60重量倍含むことがより好ましい。アルコール化合物の含有量が呈色試薬の20重量倍未満の場合は、薬液の温度が5℃まで低下した際に短期間で結晶化物が生成しやすくなるため、薬液の供給経路などに詰まりを生じさせたり,あるいは薬液中の呈色試薬の濃度が変化したりする可能性がある。逆に、アルコール化合物の含有量が呈色試薬の100重量倍を超える場合は、超過分のアルコール化合物が結晶化物の生成防止に寄与しなくなるため、不経済である。ここにおいて、組成物中のアルコール化合物の含有量が80重量%を超えると、被測定水と薬液との均一混合に時間を要し、呈色反応が阻害されるおそれがある。このため、組成物中におけるアルコール化合物の含有量を80重量%以下に設定できるように、あらかじめ呈色試薬の含有量を0.8重量%以下に設定しておくことが望ましい。
【0027】
この実施形態では、組成物のpHを微調整するために、必要に応じて、酸のアルカリ金属塩を含有させることができる。酸のアルカリ金属塩としては、たとえばリン酸三ナトリウム,リン酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムなどが挙げられる。たとえば、組成物のpHを1.0以下,たとえば0.6に設定したい場合、まず硫酸とリン酸を用いてpH0.6未満の組成物を調製し、ついでリン酸三ナトリウムを加えることで簡単に所望のpHとすることができる。
【0028】
ここにおいて、組成物にリン酸やリン酸塩を含む場合、被測定水に含まれるFe2+等の還元性金属イオンまたはCr6+,Fe3+等の酸化性金属イオンなどの妨害金属イオンと錯体を形成させ、これらの妨害金属イオンをマスキングすることができる。
【0029】
また、組成物には、被測定水へ組成物を添加したとき、正常に添加されたか否かを光学的に判定するために、必要に応じて、所定の色相の色素を含有させることができる。ジアルキルベンジジン化合物およびテトラアルキルベンジジン化合物は、残留塩素濃度がゼロの場合に吸収を示さない(発色しない)化合物であるため、色素を組成物に含有させることにより、残留塩素濃度がゼロであっても、被測定水の着色度合に基づいて、組成物の添加状態を確認できる。色素の種類は、測定波長以外に吸収を示すものであればとくに限定されず、たとえば測定波長を640〜660nm付近に設定した場合、ニューコクシン(食用赤色102号)およびアシッドレッド(食用赤色106号)などの合成色素を用いることができる。
【0030】
組成物における色素の含有量は、とくに限定されないが、通常、着色性,溶解性および経済性の観点から、0.01〜0.5重量%の範囲で適宜設定することができる。
【0031】
さらに、組成物には、光学測定用のセルに汚れが付着することを防止するために、必要
に応じて、界面活性剤を含有させることができる。この界面活性剤としては、臨界ミセル濃度(CMC)が相対的に低く、また被測定水中の有機物と結合して不溶性の懸濁物を生じさせない観点から、非イオン性界面活性剤または陰イオン性界面活性剤が好ましく用いられる。利用可能な非イオン性界面活性剤としては、たとえばポリオキシエチレンアルキルエーテル,ポリアルキレンアルキルエーテルおよびポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルなどのほか、高級アルコール系非イオン性界面活性剤が挙げられる。また、利用可能な陰イオン性界面活性剤としては、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩などが挙げられる。
【0032】
組成物における界面活性剤の含有量は、とくに限定されないが、通常、溶解性および経済性の観点から、0.1〜5重量%の範囲で適宜設定することができる。
【0033】
この実施形態の組成物は、呈色試薬,酸,アルコール化合物およびその他の添加物(色素,界面活性剤および酸のアルカリ金属塩など)を均一に混合することで製造することができる。たとえば、組成物は、酸の水溶液に呈色試薬およびアルコール化合物を溶解し、必要に応じて酸のアルカリ金属塩,色素および界面活性剤を溶解することにより製造することができ、一液型の薬液として残留塩素濃度の測定に適用される。
【0034】
この実施形態の組成物は、水中の残留塩素濃度の測定に用いることができる。残留塩素を含む水の種類は、とくに限定されず、たとえば生活用水,プール水,工業用水,あるいは産業用プロセス水などに広く適用することができる。
【0035】
また、残留塩素濃度の測定にあたっては、通常、事前に組成物に含まれる呈色試薬の濃度,被測定水の採水量,測定可能とする残留塩素濃度の上限値および被測定水への前記組成物の添加量などの測定条件をあらかじめ設定した上で測定する。まず、測定プロセスでは、監視対象水系から採取した被測定水に対して、呈色試薬が被測定水の採水量および残留塩素濃度の上限値の積から求められる残留塩素量の当量以上含まれるように組成物を添加する。すなわち、被測定水へ組成物を添加する際には、あらかじめ設定した測定可能範囲を充分カバーするに足りる量の呈色試薬が被測定水に含まれるように操作する。つぎに、組成物が添加された被測定水に対して、呈色試薬が発色したときの極大吸収波長付近(たとえば、市販の赤色LEDが利用可能な655nmや市販の青色LEDが利用可能な470nm)の透過率(または吸光度)を検出する。そして、あらかじめ求めておいた残留塩素濃度と透過率(または吸光度)の関係を示す検量線に基づいて、被測定水の残留塩素濃度を求める。
【0036】
以上説明したように、この実施形態によれば、5℃の温度条件で、薬液内での呈色試薬の結晶化を防止することのできる残留塩素測定用組成物を実現することができる。すなわち、冬季などの低温条件においても、アルコール化合物の作用により、呈色試薬であるジアルキルベンジジン化合物,あるいはテトラアルキルベンジジン化合物の溶解度が高められ、薬液内での結晶化が防止される。この結果、たとえば自動型の残留塩素濃度測定装置において、薬液の所定量を安定して被測定水に添加でき、また薬液の濃度を一定に保つことができ、測定値の信頼性が確保される。
【実施例】
【0037】
比較例1〜7
呈色試薬としてN,N’−ビス(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,3’−ジメチルベンジジン二ナトリウム塩(株式会社同仁化学研究所;商品名「SAT−3」)を用い、表1に示す配合割合で各種の成分を混合して一液型の薬液を調製した。表1において、界面活性剤は、高級アルコール系非イオン性界面活性剤(三洋化成工業株式会社;商品名「ナロアクティーHN−100」)を使用した。つぎに、各比較例の薬液100ミ
リリットルを温度5℃に設定した冷蔵庫内で保存し、2日,7日,15日,30日,45日および60日経過後における結晶化物の有無を調べた。結果を表2に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
実施例1〜7
呈色試薬としてN,N’−ビス(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,3’−ジメチルベンジジン二ナトリウム塩(株式会社同仁化学研究所;商品名「SAT−3」)を用い、表3に示す配合割合で各種の成分を混合して一液型の薬液を調製した。表3において、界面活性剤は、高級アルコール系非イオン性界面活性剤(三洋化成工業株式会社;商品名「ナロアクティーHN−100」)を使用した。つぎに、各実施例の薬液100ミリリットルを温度5℃に設定した冷蔵庫内で保存し、2日,7日,15日,30日,45日および60日経過後における結晶化物の有無を調べた。結果を表4に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
評価
表2によれば、アルコール化合物を呈色試薬の0〜15重量倍含むように調製された各薬液は、5℃の温度条件において、2〜14日の短期間で呈色試薬の結晶化物が生成した。一方、表4によれば、アルコール化合物を呈色試薬の20〜40重量倍含むように調製された各薬液は、5℃の温度条件において、60日経過時点で、いずれも結晶化物の生成が見られなかった。したがって、薬液中にアルコール化合物を呈色試薬の20重量倍以上含有させた場合、呈色試薬の結晶化を長期的に防止できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定水の残留塩素濃度を測定するための組成物であって、
ジアルキルベンジジン化合物およびテトラアルキルベンジジン化合物からなる群より選ばれた1種以上の呈色試薬と、
酸と、
アルコール化合物と
を含むことを特徴とする残留塩素濃度測定用組成物。
【請求項2】
前記アルコール化合物を前記呈色試薬の20〜100重量倍含むことを特徴とする請求項1に記載の残留塩素濃度測定用組成物。

【公開番号】特開2007−93399(P2007−93399A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283546(P2005−283546)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】