説明

残留応力算出装置、残留応力測定装置、残留応力算出方法、残留応力測定方法およびプログラム

【課題】塑性変形している被検査体の内部に残留している応力を、安全かつ正確に測定することが可能な、残留応力算出装置、残留応力測定装置、残留応力算出方法、残留応力測定方法およびプログラムを提供すること。
【解決手段】本発明に係る残留応力算出装置は、塑性変形した金属板中の超音波音速に関する音速情報を取得する音速情報取得部と、金属板の塑性変形量又は塑性変形量に換算可能な値である塑性変形特徴量を算出する塑性変形特徴量算出部と、音速情報に基づいて、金属板中の複数の超音波音速から算出される、主応力和又は主応力差と相関のある音弾性パラメータを算出する音弾性パラメータ算出部と、算出された塑性変形特徴量を利用して、音弾性パラメータの応力による変化を表す係数の補正を行う音弾性パラメータ係数補正部と、算出された音弾性パラメータと、補正された係数とに基づいて、金属板の残留応力を算出する残留応力算出部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残留応力算出装置、残留応力測定装置、残留応力算出方法、残留応力測定方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属板等の被検査体の内部に残留している応力(残留応力)は、複雑で不均一な応力分布を生じ、被検査体の機械的な性質に大きな影響を与えるものであるため、残留応力の大きさを正確に測定することは、被検査体の性能を維持する上で重要な技術である。そのため、金属板等の被検査体に残留している応力を測定するための技術について、様々な検討がなされており、各種の方法が提案されている。
【0003】
例えば、以下の特許文献1及び特許文献2には、X線又は中性子線を被検査体に照射し、得られた回折パターンから結晶の格子間隔を測定して、被検査体の応力を測定する方法が開示されている。また、以下の非特許文献1には、被検査体中を伝播する縦波及び横波の音速から音弾性パラメータを測定し、予め測定しておいた主応力和と主応力差の関係から主応力を算出する方法が開示されている。ここで、上記音弾性パラメータとは、主応力和、又は、主応力差と相関のある複数の超音波音速から算出されるパラメータのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−78336号公報
【特許文献2】特開平8−327471号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】社団法人日本非破壊検査協会編、「音弾性」、1994年版、社団法人日本非破壊検査協会、1994年11月、p.25−26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、被検査体表面の残留応力しか測定することができないという問題がある。また、上記特許文献2に記載の方法では、被検査体内部の残留応力も測定可能ではあるが、測定装置が大規模になってしまうという問題がある。また、上記特許文献1及び特許文献2に記載の方法は、X線又は中性子線を利用する方法であるため、被爆の危険性があるという問題も存在する。
【0007】
他方、上記非特許文献1の方法は、比較的簡単な測定装置で被検査体内部の残留応力を測定可能ではあるが、被検査体が塑性変形している場合には、測定誤差が大きくなるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、塑性変形している被検査体の内部に残留している応力を、安全かつ正確に測定することが可能な、残留応力算出装置、残留応力測定装置、残留応力算出方法、残留応力測定方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、塑性変形した金属板中に複数の超音波を発生させることで測定された金属板中の複数の超音波音速に関する音速情報を取得する音速情報取得部と、前記金属板の塑性変形量又は塑性変形量に換算可能な値である塑性変形特徴量を算出する塑性変形特徴量算出部と、前記音速情報取得部が取得した前記音速情報に基づいて、前記金属板中の音弾性パラメータを算出する音弾性パラメータ算出部と、前記塑性変形特徴量算出部により算出された前記塑性変形特徴量を利用して、前記音弾性パラメータの応力による変化を表す係数の補正を行う音弾性パラメータ係数補正部と、前記音弾性パラメータ算出部が算出した音弾性パラメータと、前記音弾性パラメータ係数補正部が補正した係数とに基づいて、前記金属板に残留している応力を算出する残留応力算出部と、を備える残留応力算出装置が提供される。
【0010】
前記残留応力算出装置は、前記係数と前記塑性変形特徴量との関係を表す相関情報が格納された記憶部を更に備え、前記音弾性パラメータ係数補正部は、前記記憶部に格納された前記相関情報と、前記塑性変形特徴量算出部が算出した前記塑性変形特徴量とを利用して、前記係数を決定することが好ましい。
【0011】
前記音弾性パラメータ算出部は、前記音速情報を利用して、前記音弾性パラメータとして音速比R及び音響複屈折Bを算出し、前記音弾性パラメータ係数補正部は、前記塑性変形特徴量算出部が算出した前記塑性変形特徴量に基づいて、以下の式1における係数C及びR、並びに、以下の式2における係数C及びBを決定することが好ましい。
【0012】
ここで、下記式1及び式2において、σ及びσは、金属板中に残留している主応力を表す。
【0013】
【数1】

【0014】
前記残留応力算出部は、前記音弾性パラメータ算出部が算出した音速比R及び音響複屈折Bと、前記音弾性パラメータ係数補正部が決定した前記係数R、C、B及びCと、を利用し、前記式1及び前記式2に基づいて金属板に残留している主応力を算出することが好ましい。
【0015】
前記塑性変形特徴量は、前記金属板に生じた塑性歪であってもよい。
また、前記塑性変形特徴量は、塑性変形に伴う前記金属板の板厚の変化の割合である減肉比であってもよい。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、塑性変形した金属板中に複数の超音波を発生させることで、当該金属板中を伝播する前記複数の超音波の音速を測定する音速測定装置と、前記音速測定装置が測定した音速の測定結果を利用して、前記塑性変形した金属板中に残留する応力を算出する残留応力算出装置と、を備え、前記残留応力算出装置は、前記音速測定装置から、前記塑性変形した金属板中を伝播する複数の超音波音速に関する測定結果である音速情報を取得する音速情報取得部と、前記金属板の塑性変形量又は塑性変形量に換算可能な値である塑性変形特徴量を算出する塑性変形特徴量算出部と、前記音速情報取得部が取得した前記音速情報に基づいて、前記金属板中の音弾性パラメータを算出する音弾性パラメータ算出部と、前記塑性変形特徴量算出部により算出された前記塑性変形特徴量を利用して、前記音弾性パラメータの応力による変化を表す係数の補正を行う音弾性パラメータ係数補正部と、前記音弾性パラメータ算出部が算出した音弾性パラメータと、前記音弾性パラメータ係数補正部が補正した係数とに基づいて、前記金属板に残留している応力を算出する残留応力算出部と、を有する残留応力測定装置が提供される。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、塑性変形した金属板中に複数の超音波を発生させることで測定された金属板中の複数の超音波音速に関する音速情報を取得するステップと、前記金属板の塑性変形量又は塑性変形量に換算可能な値である塑性変形特徴量を算出するとともに、取得した前記音速情報に基づいて、前記金属板中の音弾性パラメータを算出するステップと、算出した前記塑性変形特徴量を利用して、前記音弾性パラメータの応力による変化を表す係数の補正を行うステップと、算出された音弾性パラメータと、補正された係数とに基づいて、前記金属板に残留している応力を算出するステップと、を含む残留応力算出方法が提供される。
【0018】
また、上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、塑性変形した金属板中に複数の超音波を発生させることで、当該金属板中を伝播する前記複数の超音波の音速を測定するステップと、前記金属板中を伝播する複数の超音波音速に関する測定結果である音速情報を取得するステップと、前記金属板の塑性変形量又は塑性変形量に換算可能な値である塑性変形特徴量を算出するとともに、取得した前記音速情報に基づいて、前記金属板中の音弾性パラメータを算出するステップと、算出した前記塑性変形特徴量を利用して、前記音弾性パラメータの応力による変化を表す係数の補正を行うステップと、算出された音弾性パラメータと、補正された係数とに基づいて、前記金属板に残留している応力を算出するステップと、を含む残留応力測定方法が提供される。
【0019】
また、上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、コンピュータに、塑性変形した金属板中に複数の超音波を発生させることで測定された金属板中の複数の超音波音速に関する音速情報を取得する音速情報取得機能と、前記金属板の塑性変形量又は塑性変形量に換算可能な値である塑性変形特徴量を算出する塑性変形特徴量算出機能と、前記音速情報取得機能が取得した前記音速情報に基づいて、前記金属板中の音弾性パラメータを算出する音弾性パラメータ算出機能と、前記塑性変形特徴量算出機能が算出した前記塑性変形特徴量を利用して、前記音弾性パラメータの応力による変化を表す係数の補正を行う音弾性パラメータ係数補正機能と、前記音弾性パラメータ算出機能が算出した音弾性パラメータと、前記音弾性パラメータ係数補正機能が補正した係数とに基づいて、前記金属板に残留している応力を算出する残留応力算出機能と、を実現させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば、金属板内部を伝播する音波の音速の関係から算出した音弾性パラメータと、塑性変形が音弾性パラメータに及ぼす影響を補正するための補正値とを利用して、金属板中の残留応力を算出するため、塑性変形している被検査体の内部に残留している応力を、安全かつ正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る残留応力測定装置の構成を示した説明図である。
【図2】同実施形態に係る音速測定装置の例を示した説明図である。
【図3】同実施形態に係る残留応力算出装置の構成を示したブロック図である。
【図4A】塑性歪と音弾性パラメータの係数との関係を示したグラフ図である。
【図4B】塑性歪と音弾性パラメータの係数との関係を示したグラフ図である。
【図5A】塑性歪と音弾性パラメータの係数との関係を示したグラフ図である。
【図5B】塑性歪と音弾性パラメータの係数との関係を示したグラフ図である。
【図6】塑性歪による補正をしたときの応力測定結果を示したグラフ図である。
【図7】塑性歪による補正をしたときの応力測定結果を示したグラフ図である。
【図8】塑性歪による補正をしたときの測定誤差の変化を示したグラフ図である。
【図9】塑性歪による補正をしたときの測定誤差の変化を示したグラフ図である。
【図10】塑性歪と減肉比との関係を示したグラフ図である。
【図11A】減肉比と音弾性パラメータの係数との関係を示したグラフ図である。
【図11B】減肉比と音弾性パラメータの係数との関係を示したグラフ図である。
【図12A】減肉比と音弾性パラメータの係数との関係を示したグラフ図である。
【図12B】減肉比と音弾性パラメータの係数との関係を示したグラフ図である。
【図13】減肉比による補正をしたときの応力測定結果を示したグラフ図である。
【図14】減肉比による補正をしたときの応力測定結果を示したグラフ図である。
【図15】減肉比による補正をしたときの測定誤差の変化を示したグラフ図である。
【図16】減肉比による補正をしたときの測定誤差の変化を示したグラフ図である。
【図17】同実施形態に係る残留応力算出方法の流れを示した流れ図である。
【図18】本発明の実施形態に係る残留応力算出装置のハードウェア構成を示したブロック図である。
【図19】従来の音弾性効果を利用した残留応力測定方法の流れを示した流れ図である。
【図20】塑性歪がないときの音弾性パラメータの測定結果を示したグラフ図である。
【図21】塑性歪がないときの音弾性パラメータの測定結果を示したグラフ図である。
【図22】塑性歪があるときの音弾性パラメータの測定結果を示したグラフ図である。
【図23】塑性歪があるときの音弾性パラメータの測定結果を示したグラフ図である。
【図24】塑性歪を考慮しないときの応力測定結果を示したグラフ図である。
【図25】塑性歪を考慮しないときの応力測定結果を示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
(目的)
まず、本発明の実施形態について説明するに先立ち、図19〜図25を参照しながら従来の音弾性効果を利用した残留応力の測定方法について説明し、従来の残留応力測定方法の問題点を明らかにする。また、この従来の残留応力測定方法の問題点を踏まえたうえでの本発明が目的とするところについて、説明を行う。図19は、従来の音弾性効果を利用した残留応力測定方法の流れを示した流れ図である。図20及び図21は、塑性歪がないときの音弾性パラメータの測定結果を示したグラフ図である。図22及び図23は、塑性歪があるときの音弾性パラメータの測定結果を示したグラフ図である。図24及び図25は、塑性歪を考慮しないときの応力測定結果を示したグラフ図である。
【0024】
まず、図19を参照しながら、従来の音弾性(acoustoelasticity)効果を利用した残留応力測定方法の流れを簡単に説明する。
【0025】
従来の音弾性効果を利用した残留応力測定方法では、まず、所定の音速測定装置を利用して、被検査体(例えば、金属板等)の内部を伝播する音波(超音波)の音速を測定する(ステップS11)。具体的には、音速測定装置を利用して、被検査体の内部に縦波超音波及び横波超音波を発生させて、多重反射エコー間隔を測定したり、共振周波数を測定したりする。これにより、縦波超音波及び横波超音波について、例えば以下のような物理量を測定することができる。
【0026】
・縦波について
エコー間隔 T
共振周波数 fLn(nは、次数である。)
・横波について
エコー間隔 TS1,TS2
共振周波数 fS1n,fS2n(nは、次数である。)
【0027】
ここで、音速とエコー間隔の間、及び、音速と共振周波数の間には、超音波の伝播距離(例えば、被検査体の厚み)tを用いて、以下の式11及び式12で表される関係が成立する。なお、以下の式11及び式12において、Cは音速を表す。また、nは、共振周波数の次数である。
【0028】
C=2t/T ・・・(式11)
C=2ft/n ・・・(式12)
【0029】
ここで、上記式11において、Tは、縦波のエコー間隔T及び横波のエコー間隔TS1,TS2を指し、上記式12において、fは、縦波の共振周波数fLn及び横波の共振周波数fS1n,fS2nを指すものである。
【0030】
よって、縦波超音波から得られた物理量(エコー間隔又は共振周波数)を利用することで、縦波超音波の音速Cを算出することができ、横波超音波から得られた物理量を利用することで、横波超音波の音速CS1,CS2を算出することができる。
【0031】
続いて、従来の音弾性効果を利用した残留応力測定方法では、測定した音速を利用して、各種の音弾性パラメータを算出する(ステップS13)。このような音弾性パラメータの例として、以下の式13で表される音速比Rと、以下の式14で表される音響複屈折Bと、を挙げることができる。
【0032】
【数2】

【0033】
ここで、音弾性効果を利用した残留応力測定方法では、以下で説明するように音速を測定することが目的ではなく、上記式13及び式14に示したような音弾性パラメータを用いて、被検査体に残留している主応力を測定することが目的である。上記式13及び式14の内容から明らかなように、音弾性パラメータを表す式の分子及び分母それぞれには、音速が同一の次数で含まれているため、上記式11及び式12におけるt(超音波の伝播距離)は、分子と分母で打ち消しあうこととなる。従って、従来の音弾性効果を利用した残留応力測定方法では、エコー間隔や共振周波数等の測定値を利用するようにすれば、超音波の伝播距離(例えば、被検査体の厚み等)は、測定する必要はない。
【0034】
続いて、従来の残留応力測定方法では、算出した音弾性パラメータを利用して、被検査体に残留している応力を算出する(ステップS15)。
【0035】
ここで、音速比R及び音響複屈折Bは、被検査体に残留している主応力σ及びσとの間に以下の式15及び式16で表されるような関係が成立することが知られている。
【0036】
【数3】

【0037】
ここで、上記式15において、Cは主応力和変化による音速比の変化を表す係数であり、定数項Rは無応力時の音速比である。また、上記式16において、Cは主応力差変化による音響複屈折の変化を表す係数であり、定数項Bは被検査体の無応力時の組織異方性を表す。
【0038】
そこで、ある被検査体について、音速比Rと主応力和(σ+σ)との関係、及び、音響複屈折Bと主応力差(σ−σ)との関係を予め測定しておき、算出した音弾性パラメータから主応力和及び主応力差を算出して、被検査体に残留している主応力σ及びσを算出する。
【0039】
ここで、被検査体として、引張強度の異なる2種類の鋼板(サンプルA:板厚1mmの引張強度980MPa級高張力鋼板、サンプルB:板厚1.4mmの引張強度590MPa級高張力鋼板)を用意し、引張試験機により荷重を加えながら音弾性パラメータを測定した。準備した2種類の鋼板には、塑性変形は生じていない。得られた測定結果を、図20及び図21に示す。
【0040】
図20及び図21において、上側のグラフ図が音速比Rと応力(すなわち、鋼板に加えた荷重の大きさであり、主応力和に相当するもの)との関係を示したグラフ図である。また、下側のグラフ図が音響複屈折Bと応力(すなわち、鋼板に加えた荷重の大きさであり、主応力差に相当するもの)との関係を示したグラフ図である。
【0041】
図20及び図21から明らかなように、被検査体である鋼板に塑性変形が生じていない場合、加えた荷重(応力)と音弾性パラメータとの間には、線形関係があることがわかる。従って、この線形関係を利用することで、算出した音弾性パラメータから主応力和及び主応力差を算出することができるため、被検査体に残留している主応力σ及びσを特定することができる。
【0042】
他方、被検査体に大きな歪が加えられており、被検査体が塑性歪を受けているときの音弾性パラメータの測定結果について説明する。上述のサンプルA及びサンプルBに対して予め所定の塑性歪を与えておき、これら塑性歪が与えられたサンプルに対して、引張試験機により引張応力を加えながら、音弾性パラメータを測定した。
【0043】
得られた結果を、図22及び図23に示した。
なお、鋼板に対して与えた塑性歪の大きさは、鋼板が伸びた割合で示している。例えば、各グラフ図において2%という表記が意味するものは、鋼板に引張応力を加えることで鋼板の長さが2%伸びる程度の引張応力を加えたということである。各グラフ図から明らかなように、塑性歪の存在により、グラフ図の傾きや切片の位置が変化している。グラフ図の傾きや切片の位置が異なるということは、塑性歪が生じることで同一応力条件下であっても音弾性パラメータが変化しているということを示すものである。
【0044】
図20及び図21に示した、塑性歪が存在しないときの音弾性パラメータと応力との関係を利用して、図22及び図23に示した音弾性パラメータに基づいて残留応力を算出した結果を、図24及び図25に示す。図24が、サンプルAについての残留応力測定結果であり、図25が、サンプルBについての残留応力測定結果である。
【0045】
行った測定は、被検査体である鋼板に対して一軸引張試験を行った結果に基づくものである。そのため、引っ張り方向と平行な方向の主応力σについては引張応力に応じて増加する線形関係が成り立つとともに、引っ張り方向に直交する方向の主応力σについては、引張応力によらず0近傍で一定の値となることが予想される。図24及び図25をみると、塑性歪が大きくなるにつれて、塑性歪がない場合(0%)に比べて測定結果の誤差が大きくなっていることがわかる。
【0046】
このように、従来の音弾性効果を利用した残留応力測定方法では、弾性変形領域ではなく塑性変形領域に相当する歪みが被検査体に加えられた場合には誤差が大きくなって、被検査体に残留している応力の大きさを正確に測定できないという問題があった。
【0047】
そこで、本発明者らは、塑性変形した被検査体であっても、被検査体に残留している応力の大きさを正確に算出することが可能な残留応力の算出方法を見いだすことを目的として、鋭意検討を行った。その結果、以下で説明するような、本発明の実施形態に係る残留応力の算出方法及び残留応力の測定方法に想到した。
【0048】
(第1の実施形態)
<残留応力測定装置の構成について>
まず、図1を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る残留応力測定装置の構成について、説明を行う。図1は、本実施形態に係る残留応力測定装置の構成を示した説明図である。
【0049】
本実施形態に係る残留応力測定装置10は、被検査体である金属板サンプルSに残留する応力を測定する装置である。この残留応力測定装置10は、図1に例示したように、音速測定装置100と、残留応力算出装置200と、を主に備える。
【0050】
また、本実施形態に係る残留応力測定装置10は、図1に示した装置のほかに、表面粗度を測定する装置や、歪ゲージなどの歪みを測定する装置や、被検査体である金属板の板厚を測定する各種の装置等を備えていてもよい。
【0051】
[音速測定装置について]
音速測定装置100は、被検査体である金属板サンプルSに超音波を発生させて、金属板S中を伝播する超音波の音速を測定する装置である。この音速測定装置100は、シングアラウンド法、パルスエコーオーバーラップ法、パルス重畳法、共振法、時間間隔平均法等といったものであってもよい。以下では、例えば図2に示したような、多重反射エコー間隔を利用した音速測定装置100、又は、共振周波数を利用した音速測定装置100を使用する場合について説明するが、本発明に係る音速測定装置100が図2に示した例に限定されるわけではない。
【0052】
図2は、本実施形態に係る音速測定装置100の構成を示した説明図である。
まず、図2(a)を参照しながら、多重反射エコー間隔を利用した音速測定装置の構成について、簡単に説明する。
【0053】
多重反射エコー間隔を利用した音速測定装置100は、図2(a)に示したように、パルサーレシーバー101と、プローブ103と、を主に備える。
【0054】
パルサーレシーバー101は、いわゆる超音波受発信装置であり、後述するプローブ103を介して、発生させた超音波を被検査体である金属板Sに発信するとともに、金属板S内で反射した反射波を受信する装置である。
【0055】
また、プローブ103は、パルサーレシーバー101が発生させた超音波を金属板Sに送信するとともに、金属板S内で反射した反射波を受信する。
【0056】
多重反射エコー間隔を利用した音速測定法では、図2(a)右側に示したグラフ図のように、第1反射波、第2反射波・・・といった多重反射波を観測し、この反射波の間隔(エコー間隔、図2(a)のグラフ図における時間T)を測定する。多重反射波のエコー間隔は、金属板Sの板厚tをパラメータとすると、金属板中の音速Cとの間に、上記式11に示したような関係を有するため、この多重反射波のエコー間隔Tから金属板S中の音速を算出することが可能である。
【0057】
次に、図2(b)を参照しながら、共振周波数を利用した音速測定装置の構成について、簡単に説明する。
【0058】
共振周波数を利用した音速測定装置100は、図2(b)に示したように、正弦波発生装置111と、バースト波発生装置113と、電磁超音波変換素子(Electro−Magnetic Acoustic Transducer:EMAT)115と、積分器117と、を主に備える。
【0059】
正弦波発生装置111は、任意の周波数を有する正弦波を発生させる装置である。正弦波発生装置111が発生させた正弦波は、後述するバースト波発生装置113がバースト波を発生させる際の搬送波として利用される。
【0060】
バースト波発生装置113は、正弦波発生装置111が発生させた正弦波を搬送波として利用し、バースト波を発生させる装置である。バースト波発生装置113が発生させたバースト波は、後述するEMAT115を介して金属板Sに発信される。また、バースト波発生装置113は、EMAT115を介して受信した金属板S中で反射された反射波を、後述する積分器117に伝送する。
【0061】
電磁超音波変換素子(EMAT)115は、バースト波発生装置113が発生させたバースト波を振動(すなわち、超音波)に変換して、被検査体である金属板Sに伝達させる。また、EMAT115は、金属板S中で反射された反射波を受信して電気信号へと変換し、バースト波発生装置113に伝送する。このEMAT115を利用することで、水や油などの接触媒質が不要となり、金属板S中を伝播する超音波の音速を非接触で測定することが可能となる。
【0062】
積分器117は、EMAT115が受信した超音波(金属板S中で反射された反射波)に対応する電気信号を積分する装置である。この積分器117により、金属板S中を伝播した超音波の共振周波数を特定することが可能となる。
【0063】
共振周波数を利用した音速測定法では、図2(b)右側に示したグラフ図のように、共振周波数f,f,f,・・・を観測し、これらの共振周波数fを測定する。共振周波数は、金属板Sの板厚tをパラメータとすると、金属板中の音速Cとの間に、上記式12に示したような関係を有するため、この共振周波数から金属板S中の音速を算出することが可能である。
【0064】
なお、図2に示した音速測定装置100は、被検査体である金属板Sに対して縦波超音波及び横波超音波を発生させることが好ましいが、音速測定装置100が発生させる超音波の種類は、上述の例に限定されるわけではない。音速測定装置100は、SH波などの各種の超音波を発生させて、被検査体中を伝播する超音波の音速を測定してもよい。
【0065】
例えば、表面SH波を利用して音速を測定する場合には、上記式15と組み合わせる式として、上記式16のかわりに以下の式17に示す音響異方性ΦSを用いて、音速を測定することが可能である。
【0066】
【数4】

【0067】
ここで、上記式17において、VS1、VS2は主応力方向に偏向した表面SH波の音速であり、Cは、主応力差変化による音響異方性の変化を表す係数である。
【0068】
このような音速測定装置100で測定された金属板S中を伝播する超音波の音速に関する測定結果は、音速に関する音速情報として、後述する残留応力算出装置200に通知される。
【0069】
以上、本実施形態に係る音速測定装置100について説明した。
続いて、図3を参照しながら、本実施形態に係る残留応力測定装置10が備える残留応力算出装置200の構成について説明する。
【0070】
[残留応力算出装置について]
図3は、本実施形態に係る残留応力算出装置200の構成を示したブロック図である。本実施形態に係る残留応力算出装置200は、図3に示したように、音速情報取得部201と、音弾性パラメータ算出部203と、塑性変形特徴量算出部205と、音弾性パラメータ係数補正部207と、記憶部209と、残留応力算出部211と、を主に備える。また、残留応力算出装置200は、更に、表示制御部213と、表示部215とを備えていてもよい。
【0071】
音速情報取得部201は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、通信装置等により実現される。音速情報取得部201は、音速測定装置100が塑性変形した金属板中に超音波を発生させることで測定した金属板中の音速に関する情報(音速情報)を取得する。この音速情報は、縦波超音波を用いて測定された縦波の音速に関する情報と、2種類の横波超音波を用いて測定された横波の音速に関する情報と、を含むことが好ましい。この音速情報は、音速そのものを表す情報であってもよく、エコー間隔や共振周波数などの音速を算出するために利用可能な情報であってもよい。音速情報取得部201は、取得した音速情報(すなわち、音速測定値に関する情報)を、後述する音弾性パラメータ算出部203に出力する。
【0072】
音弾性パラメータ算出部203は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。音弾性パラメータ算出部203は、音速情報取得部201から通知された音速情報に基づいて、被検査体である金属板Sに関する音弾性パラメータを算出する。具体的には、音弾性パラメータ算出部203は、音速情報取得部201から通知された音速情報に基づいて、金属板中に残留する主応力の和又は差と相関のある物理量を、音弾性パラメータとして算出する。このような、主応力の和又は差と相関のある物理量の例として、例えば、音速比R及び音響複屈折Bを挙げることができる。なお、以下では、音弾性パラメータ算出部203が、音弾性パラメータとして、音速比R及び音響複屈折Bを算出する場合について、説明を行うものとする。
【0073】
音弾性パラメータ算出部203は、音速情報取得部201から通知された音速情報を利用して、下記式101に基づいて音速比Rを算出する。また、音弾性パラメータ算出部203は、音速情報取得部201から通知された音速情報を利用して、下記式102に基づいて音響複屈折Bを算出する。音弾性パラメータ算出部203は、これら音速比R及び音響複屈折Bの算出が終了すると、算出したこれらの音弾性パラメータを、後述する残留応力算出部211に出力する。
【0074】
【数5】

【0075】
塑性変形特徴量算出部205は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。塑性変形特徴量算出部205は、金属板の塑性変形の大きさを表す塑性変形特徴量を算出する。この塑性変形特徴量は、歪ゲージ等で測定された塑性変形量そのものであってもよく、塑性変形量に換算可能な、変形前後の板厚から算出される減肉比であってもよい。ここで、変形前後の板厚から算出される減肉比は、以下の式により定義される値である。また、塑性変形量に換算可能な値としては、他に表面粗度や硬度、FEM解析結果から推定した塑性変形量等がある。
【0076】
減肉比=(t−t)/t
【0077】
ここで、上記減肉比の定義式において、tは、塑性変形が加えられる前の金属板の板厚を示しており、tは、塑性変形が加えられた後の金属板の板厚を示している。
【0078】
塑性変形特徴量算出部205は、取得した塑性変形量そのもの、又は、塑性変形量に換算可能な値である塑性変形特徴量を、後述する音弾性パラメータ係数補正部207に出力する。
【0079】
なお、塑性変形特徴量算出部205は、塑性変形特徴量の算出に際して、後述する記憶部209等に格納されている各種の検量線、近似式、ルックアップテーブル、データベース等を参照してもよい。
【0080】
音弾性パラメータ係数補正部207は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。音弾性パラメータ係数補正部207は、前記塑性変形特徴量算出部により算出された前記塑性変形特徴量を利用して、前記音弾性パラメータの応力による変化を表す係数の補正を行う。以下、より詳細に、音弾性パラメータ係数補正部207が実施する係数の補正処理について説明する。
【0081】
先に挙げた式15及び式16に示したように、音弾性パラメータ算出部203によって算出される音弾性パラメータは、主応力の和及び差を用いて定式化される量である。そこで、本実施形態に係る残留応力算出装置200では、塑性変形による音弾性パラメータの変化を補正するために、式15及び式16等の理論式に含まれる係数の値を補正する。
【0082】
本実施形態に係る残留応力算出装置200では、塑性変形特徴量算出部205により算出される塑性変形特徴量と、式15及び式16等に記載されているような、理論式の係数との関係を表す相関情報を、予め生成しておく。
【0083】
例えば、音弾性パラメータ算出部203の算出する音弾性パラメータが音速比R及び音響複屈折Bであり、塑性変形特徴量算出部205の算出する塑性変形特徴量が塑性歪に関するものである場合を考える。この場合、以下に示す相関情報に対応する検量線、近似式、ルックアップテーブル、データベース等が予め作成され、残留応力算出装置200の記憶部209等に格納される。
【0084】
−塑性歪と式15に示した係数Cとの関係を表す相関情報
−塑性歪と式15に示した係数Rとの関係を表す相関情報
−塑性歪と式16に示した係数Cとの関係を表す相関情報
−塑性歪と式16に示した係数Bとの関係を表す相関情報
【0085】
音弾性パラメータ係数補正部207は、これらの相関情報に対応する各種の検量線等と、塑性変形特徴量算出部205から通知された塑性変形特徴量とを利用して、通知された塑性変形特徴量に対応する係数の値を算出する。これにより、式15及び式16に記載されている各係数が補正されたこととなる。
【0086】
音弾性パラメータ係数補正部207は、補正後の係数を、後述する残留応力算出部211に出力する。
【0087】
記憶部209は、本実施形態に係る残留応力算出装置200が備えるストレージ装置の一例である。記憶部209には、音弾性パラメータ係数補正部207が音弾性パラメータの係数の補正に際して利用する、塑性変形特徴量と比例係数との相関関係及び塑性変形特徴量と定数項との相関関係を示す各種の検量線、近似式、ルックアップテーブル、データベース等が格納されている。また、記憶部209には、塑性変形特徴量算出部205が塑性変形特徴量を算出する際に利用する各種の検量線、近似式、ルックアップテーブル、データベース等が格納されていてもよい。更に、記憶部209には、本実施形態に係る残留応力算出装置200が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、または、各種のデータベース等が、適宜記録される。この記憶部209は、残留応力算出装置200が備える各処理部が、自由に読み書きを行うことが可能である。
【0088】
残留応力算出部211は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。残留応力算出部211は、音弾性パラメータ算出部203が算出した音弾性パラメータと、音弾性パラメータ係数補正部207が補正した係数とを利用して、被検査体である金属板Sに残留している主応力の大きさを算出する。以下、残留応力算出部211が実行する残留応力の算出手順について、詳細に説明する。
【0089】
残留応力算出部211には、音弾性パラメータ算出部203が算出した、主応力の和を用いて定式化される音弾性パラメータと、主応力の差を用いて定式化される音弾性パラメータとが入力される。残留応力算出部211は、この2種類の音弾性パラメータの値を、音弾性パラメータ係数補正部207から通知された係数を利用して補正する。その後、残留応力算出部211は、2種類の補正後の音弾性パラメータを利用して、主応力σ及び主応力σの大きさを算出する。
【0090】
ここで、音弾性パラメータ算出部203により算出される音弾性パラメータが、音速比R(主応力の和を用いて定式化される音弾性パラメータ)及び音響複屈折B(主応力の差を用いて定式化される音弾性パラメータ)であるものとする。
【0091】
残留応力算出部211は、音弾性パラメータ算出部203より通知された音速比R及び音響複屈折Bを、音弾性パラメータ係数補正部207から通知された係数R,C,B,Cを用いて、以下に示す式103及び式104の右辺に示したように補正する。ここで、以下に示した式103及び式104は、音速比R及び音響複屈折Bの定義式(式15及び式16)を変形したものである。
【0092】
補正の結果得られる値は、式103及び式104の左辺から明らかなように、主応力の和及び主応力の差に対応する値である。そこで、残留応力算出部211は、以下に示す式105及び式106と、補正の結果得られる値とを利用して、金属板Sに残留している主応力σ及びσを算出する。
【0093】
【数6】

【0094】
このようにして算出される主応力σ及びσは、塑性変形が音弾性パラメータに及ぼす影響を考慮した上で算出されたものであり、塑性変形が生じている被検査体であっても、従来の音弾性効果を利用した残留応力測定方法に比べて精度の良い結果を得ることができる。
【0095】
残留応力算出部211は、このようにして算出した被検査体に残留している残留応力の算出結果を、後述する表示制御部213に出力する。また、残留応力算出部211は、残留応力の算出結果を、残留応力を算出した日時に関する情報や、被検査体に関する情報等と関連付けて、履歴情報として記憶部209等に記録してもよい。また、残留応力算出部211は、算出した残留応力を、残留応力算出装置200の外部に設けられた各種の装置に出力してもよい。この算出結果の出力は、所定の通信網を介して直接行われてもよく、各種の記録媒体を介して間接的に行われてもよい。
【0096】
表示制御部213は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。表示制御部213は、残留応力算出部211が算出した被検査体である金属板Sの残留応力の大きさを残留応力算出装置200が備える表示部215に表示する際の表示制御を行う。また、表示制御部213は、残留応力の算出結果以外にも、算出した音弾性パラメータの値や、補正された係数の値や、塑性変形特徴量と音弾性パラメータの係数との間の相関関係を表すグラフ図等など、各種の情報を表示部215に表示させることができる。
【0097】
表示部215は、例えば、CPU、ROM、RAM、出力装置等により実現される。表示部215は、表示制御部213によって制御されながら、残留応力算出装置200が備えるディスプレイ等の出力装置に、残留応力の算出結果を含む各種の情報を表示する。これにより、残留応力算出装置200の利用者は、被検査体である金属板に残留している残留応力の大きさを、その場で把握することができる。
【0098】
以上、本実施形態に係る残留応力算出装置200の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0099】
なお、上述のような本実施形態に係る残留応力算出装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0100】
<残留応力算出方法の具体例について>
続いて、本実施形態に係る残留応力算出装置200が実施する残留応力算出方法の具体例について、図4A〜図16を参照しながら説明する。
【0101】
[塑性変形特徴量として塑性歪を利用する場合について]
まず、図4A〜図9を参照しながら、塑性変形特徴量として塑性歪を利用する場合の例について、具体的に説明する。図4A〜図5Bは、塑性歪と音弾性パラメータの係数との関係を示したグラフ図である。図6及び図7は、塑性歪による補正をしたときの応力測定結果を示したグラフ図である。図8及び図9は、塑性歪による補正をしたときの測定誤差の変化を示したグラフ図である。
【0102】
以下に示す具体例は、被検査体として引張強度の異なる2種類の鋼板(サンプルA:板厚1mmの引張強度980MPa級高張力鋼板、サンプルB:板厚1.4mmの引張強度590MPa級高張力鋼板)を用意して、測定を行った結果である。
【0103】
まず、図4A〜図5Bに着目する。図4A及び図4Bは、サンプルAについて、塑性歪と音弾性パラメータの係数との関係を示したグラフ図であり、図5A及び図5Bは、サンプルBについて、塑性歪と音弾性パラメータの係数との関係を示したグラフ図である。また、図4A及び図5Aは、各サンプルの音速比Rに関する測定結果を示しており、図4B及び図5Bは、各サンプルの音響複屈折Bに関する測定結果を示している。
【0104】
ここで、図4A〜図5Bについて、横軸は、被検査体に予め与えられた塑性歪(%)を表しており、塑性歪の大きさは、鋼板が伸びた割合で示している。また、各グラフ図の縦軸は、係数の大きさを示している。各係数は、各塑性歪の値に対応する塑性変形を有するサンプルそれぞれについて引張試験機を用いた測定を行って、例えば図20及び図21に示したようなグラフ図を作成し、各グラフ図の傾き及び切片の値を求めることで算出した。また、各グラフ図には、塑性歪と係数との関係を表す近似直線と、その近似式が記してある。
【0105】
各グラフ図から明らかなように、係数と塑性歪との間には相関関係が認められ、両者の関係は、例えば線形近似が可能であることがわかった。そこで、各グラフ図から得られた近似式を、塑性歪と係数との相関関係を表す情報として利用し、サンプルA及びサンプルBの残留応力を算出した。
【0106】
すなわち、塑性変形特徴量算出部205は、塑性変形が加えられる前後の金属板の長さの変化に関する情報を取得して長さの変化の割合を算出し、得られた値を塑性変形特徴量(すなわち、図4A〜図5Bにおける塑性歪)とする。また、音弾性パラメータ係数補正部207は、該当するサンプルの各近似式に算出された塑性歪の大きさを代入して、各係数を決定する。その後、残留応力算出部211は、音弾性パラメータ係数補正部207が算出した係数と、音弾性パラメータ算出部203が算出した音弾性パラメータとを利用して、サンプルA及びサンプルBの残留応力を算出した。
【0107】
得られた結果(残留応力の測定結果)を、図6及び図7に示す。図6及び図7において、横軸は応力(引張応力、単位MPa)を示し、縦軸は、主応力の大きさ(MPa)を示している。図6及び図7について、引張応力が加えられた方向に対して平行な方向の主応力σに着目すると、金属板に加えられた塑性変形の大きさが変化しても、得られる主応力σの大きさには、図24及び図25に示したような大きな変化は見られない。また、引っ張り応力が加えられた方向に直交する方向の主応力σに着目すると、図6及び図7では、値が0近傍でほぼ一定となっていることがわかる。
【0108】
また、図8及び図9は、塑性歪による補正をしたときの測定誤差の変化の様子を示している。図8及び図9は、実際に加えられた引張応力の大きさと算出した主応力との差をプロットしたものである。図8及び図9から明らかなように、塑性歪による補正をしなかった場合(図8(a)及び図9(a))には、塑性歪の大きさが大きくなるにつれて誤差も大きくなっていることがわかる。また、塑性歪による補正を行った場合(図8(b)及び図9(b))には、塑性歪の大きさが大きくなっても、誤差は大きくなっておらず、また、誤差の絶対値も補正をしなかった場合に比べて小さいことがわかる。
【0109】
このように、塑性歪による補正を行った上で残留応力の算出を行うことで、被検査体である金属板に塑性変形が加わっている場合であっても、残留応力を精度良く算出することが可能となる。
【0110】
[塑性変形特徴量として減肉比を利用する場合について]
続いて、図10〜図16を参照しながら、塑性変形特徴量として減肉比を利用する場合の例について、具体的に説明する。図10は、塑性歪と減肉比との関係を示したグラフ図である。図11A〜図12Bは、減肉比と音弾性パラメータの係数との関係を示したグラフ図である。図13及び図14は、減肉比による補正をしたときの応力測定結果を示したグラフ図である。図15及び図16は、減肉比による補正をしたときの測定誤差の変化を示したグラフ図である。
【0111】
以下では、塑性変形特徴量として、以下の式107で表される減肉比を利用した場合の例について、説明を行う。なお、以下の式107について、tは、塑性変形が加えられる前の金属板の板厚を示しており、tは、塑性変形が加えられた後の金属板の板厚を示している。下記式107からも明らかなように、減肉比は、塑性変形による板厚の変化の割合を示すパラメータである。
【0112】
減肉比=(t−t)/t ・・・(式107)
【0113】
ここで、被検査体である金属板の板厚は、マイクロメータ等による測定結果を利用することも可能であり、FEM解析による推定結果を利用することも可能であるが、以下に示す例では、マイクロメータによる測定結果を利用した。
【0114】
図10は、上述のサンプルA及びサンプルBについて実際に塑性歪及び減肉比を算出し、その対応関係を示したものである。図10から明らかなように、塑性歪と減肉比との間には相関関係が認められるため、塑性歪に換えて減肉比を利用することでも、被検査体に残留する残留応力を算出することが可能であると考えられる。
【0115】
そこで、サンプルA及びサンプルBについて、塑性変形による減肉比と係数との関係を測定した。得られた結果が、図11A〜図12Bである。図11A及び図11Bは、サンプルAについて、減肉比と音弾性パラメータの係数との関係を示したグラフ図であり、図12A及び図12Bは、サンプルBについて、減肉比と音弾性パラメータの係数との関係を示したグラフ図である。また、図11A及び図12Aは、各サンプルの音速比Rに関する測定結果を示しており、図11B及び図12Bは、各サンプルの音響複屈折Bに関する測定結果を示している。
【0116】
なお、図11A等において、「8.0E−06」のような記載がなされているが、これは、「8.0×10−6」という値に対応している。
【0117】
各グラフ図から明らかなように、音弾性パラメータの係数と減肉比との間には相関関係が認められ、両者の関係は、例えば線形近似が可能であることがわかった。そこで、各グラフ図から得られた近似式を、減肉比と音弾性パラメータの係数との相関関係を表す情報として利用し、サンプルA及びサンプルBの残留応力を算出した。
【0118】
得られた結果(残留応力の測定結果)を、図13及び図14に示す。図13及び図14において、横軸は応力(引張応力、単位MPa)を示し、縦軸は、主応力の大きさ(MPa)を示している。図13及び図14について、引張応力が加えられた方向に対して平行な方向の主応力σに着目すると、金属板に加えられた塑性変形の大きさが変化しても、得られる主応力σの大きさには、図24及び図25に示したような大きな変化は見られない。また、引っ張り応力が加えられた方向に直交する方向の主応力σに着目すると、図13及び図14では、値が0近傍でほぼ一定となっていることがわかる。
【0119】
また、図15及び図16は、減肉比による補正をしたときの測定誤差の変化の様子を示している。図15及び図16から明らかなように、減肉比による補正をしなかった場合(図15(a)及び図16(a))には、減肉比の絶対値が大きくなるにつれて誤差も大きくなっていることがわかる。また、減肉比による補正を行った場合(図15(b)及び図16(b))には、減肉比の絶対値が大きくなっても、誤差は大きくなっておらず、また、誤差の絶対値も補正をしなかった場合に比べて小さいことがわかる。
【0120】
このように、塑性歪そのものではなく塑性歪と相関のある特徴量を利用して補正を行った上で残留応力の算出を行うことで、被検査体である金属板に塑性変形が加わっている場合であっても、残留応力を精度良く算出することが可能となる。
【0121】
なお、図4A〜図5B、及び、図11A〜図12Bでは、音弾性パラメータの係数と塑性変形特徴量との間の相関関係を線形近似で近似しているが、2次関数、3次関数・・・等の多次関数、指数関数、対数関数等の各種の曲線で近似を行ってもよい。
【0122】
<残留応力算出方法の流れについて>
続いて、図17を参照しながら、本実施形態に係る残留応力算出装置200で実施される残留応力算出方法の流れについて、簡単に説明する。図17は、本実施形態に係る残留応力算出方法の流れを示した流れ図である。
【0123】
なお、以下の説明に先立ち、残留応力算出装置200の記憶部209等には、塑性変形特徴量と音弾性パラメータの係数との相関関係を表す情報が予め格納されているものとする。
【0124】
まず、残留応力算出装置200の音速情報取得部201は、例えば音速測定装置100等から、被検査体である金属板についての音速情報(音速の測定結果)を取得する(ステップS101)。音速情報取得部201は、被検査体についての音速情報を取得すると、取得した音速情報を、音弾性パラメータ算出部203に出力する。
【0125】
次に、音弾性パラメータ算出部203は、音速情報取得部201から通知された音速情報を利用して、金属板の音弾性パラメータを算出する(ステップS103)。算出される音弾性パラメータは、例えば、主応力の和を用いて定式化される音弾性パラメータ、及び、主応力の差を用いて定式化される音弾性パラメータであり、このような音弾性パラメータの一例として、音速比R及び音響複屈折Bを挙げることができる。音弾性パラメータ算出部203は、算出した音弾性パラメータを、残留応力算出部211に出力する。
【0126】
他方、残留応力算出装置200の塑性変形特徴量算出部205は、被検査体である金属板の塑性歪、板厚、長さ等の情報を取得して、塑性変形の度合いを示す特徴量である塑性変形特徴量を算出する(ステップS105)。このような塑性変形特徴量の一例として、塑性歪や減肉比等を挙げることができる。塑性変形特徴量算出部205は、算出した塑性変形特徴量を、音弾性パラメータ係数補正部207に出力する。
【0127】
音弾性パラメータ係数補正部207は、塑性変形特徴量算出部205から通知された塑性変形特徴量と、記憶部209等に格納されている相関関係を表す情報とを利用して、音弾性パラメータの係数を補正する(ステップS107)。この音弾性パラメータの係数は、例えば、音弾性パラメータを主応力の和又は差を用いて定式化する際に式中に表れる係数である。音弾性パラメータ係数補正部207は、音弾性パラメータの係数を補正すると、補正した音弾性パラメータの係数を残留応力算出部211に出力する。
【0128】
次に、残留応力算出部211は、音弾性パラメータ算出部203から通知された音弾性パラメータを、音弾性パラメータ係数補正部207から通知された係数を利用して補正する。これにより、塑性変形による影響を考慮した音弾性パラメータの値を得ることができる。その後、残留応力算出部211は、補正後の音弾性パラメータを利用して、被検査体である金属板に残留している残留応力を算出する(ステップS109)。
【0129】
以上説明したような流れで処理が行われることにより、本実施形態に係る残留応力算出方法では、被検査体である金属板が塑性変形している場合であっても、精度良く残留応力を算出することが可能となる。
【0130】
なお、図17では、音弾性パラメータを算出するための一連の流れと、塑性変形特徴量を算出するための一連の流れとが平行して実施される場合について示しているが、音弾性パラメータの算出に関する流れと塑性変形特徴量の算出に関する流れとは、平行して行われなくとも良い。
【0131】
(ハードウェア構成について)
次に、図18を参照しながら、本発明の実施形態に係る残留応力算出装置200のハードウェア構成について、詳細に説明する。図18は、本発明の実施形態に係る残留応力算出装置200のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【0132】
残留応力算出装置200は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、残留応力算出装置200は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
【0133】
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、またはリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、残留応力算出装置200内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901の実行において使用するプログラムや、その実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
【0134】
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
【0135】
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、残留応力算出装置200の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。さらに、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。残留応力算出装置200のユーザは、この入力装置909を操作することにより、残留応力算出装置200に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0136】
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、残留応力算出装置200が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、残留応力算出装置200が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0137】
ストレージ装置913は、残留応力算出装置200の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
【0138】
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、残留応力算出装置200に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−rayメディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
【0139】
接続ポート917は、機器を残留応力算出装置200に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、残留応力算出装置200は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
【0140】
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
【0141】
以上、本発明の実施形態に係る残留応力算出装置200の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
【0142】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0143】
例えば、上述の実施形態では、音弾性パラメータとして音速比R及び音響複屈折Bを例に挙げたが、本発明の実施形態に係る残留応力算出方法では、音弾性パラメータは上述の例に限定されるわけではない。例えば、音響複屈折Bの替わりに、表面SH波の音速異方性に関する音弾性パラメータを利用しても良い。
【符号の説明】
【0144】
10 残留応力測定装置
100 音速測定装置
101 パルサーレシーバー
103 プローブ
111 正弦波発生装置
113 バースト波発生装置
115 電磁超音波変換素子(EMAT)
117 積分器
200 残量応力算出装置
201 音速情報取得部
203 音弾性パラメータ算出部
205 塑性変形特徴量算出部
207 音弾性パラメータ係数補正部
209 記憶部
211 残留応力算出部
213 表示制御部
215 表示部
S 金属板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塑性変形した金属板中に複数の超音波を発生させることで測定された金属板中の複数の超音波音速に関する音速情報を取得する音速情報取得部と、
前記金属板の塑性変形量又は塑性変形量に換算可能な値である塑性変形特徴量を算出する塑性変形特徴量算出部と、
前記音速情報取得部が取得した前記音速情報に基づいて、前記金属板中の複数の超音波音速から算出される、主応力和又は主応力差と相関のあるパラメータである音弾性パラメータを算出する音弾性パラメータ算出部と、
前記塑性変形特徴量算出部により算出された前記塑性変形特徴量を利用して、前記音弾性パラメータの応力による変化を表す係数の補正を行う音弾性パラメータ係数補正部と、
前記音弾性パラメータ算出部が算出した音弾性パラメータと、前記音弾性パラメータ係数補正部が補正した係数とに基づいて、前記金属板に残留している応力を算出する残留応力算出部と、
を備えることを特徴とする、残留応力算出装置。
【請求項2】
前記残留応力算出装置は、前記係数と前記塑性変形特徴量との関係を表す相関情報が格納された記憶部を更に備え、
前記音弾性パラメータ係数補正部は、前記記憶部に格納された前記相関情報と、前記塑性変形特徴量算出部が算出した前記塑性変形特徴量とを利用して、前記係数を決定することを特徴とする、請求項1に記載の残留応力算出装置。
【請求項3】
前記音弾性パラメータ算出部は、前記音速情報を利用して、前記音弾性パラメータとして音速比R及び音響複屈折Bを算出し、
前記音弾性パラメータ係数補正部は、前記塑性変形特徴量算出部が算出した前記塑性変形特徴量に基づいて、以下の式1における係数C及びR、並びに、以下の式2における係数C及びBを決定することを特徴とする、請求項2に記載の残留応力算出装置。
ここで、下記式1及び式2において、σ及びσは、金属板中に残留している主応力を表す。
【数1】

【請求項4】
前記残留応力算出部は、前記音弾性パラメータ算出部が算出した音速比R及び音響複屈折Bと、前記音弾性パラメータ係数補正部が決定した前記係数R、C、B及びCと、を利用し、前記式1及び前記式2に基づいて金属板に残留している主応力を算出することを特徴とする、請求項3に記載の残留応力算出装置。
【請求項5】
前記塑性変形特徴量は、前記金属板に生じた塑性歪であることを特徴とする、請求項1に記載の残留応力算出装置。
【請求項6】
前記塑性変形特徴量は、塑性変形に伴う前記金属板の板厚の変化の割合である減肉比であることを特徴とする、請求項1に記載の残留応力算出装置。
【請求項7】
塑性変形した金属板中に複数の超音波を発生させることで、当該金属板中を伝播する前記複数の超音波の音速を測定する音速測定装置と、
前記音速測定装置が測定した音速の測定結果を利用して、前記塑性変形した金属板中に残留する応力を算出する残留応力算出装置と、
を備え、
前記残留応力算出装置は、
前記音速測定装置から、前記塑性変形した金属板中を伝播する複数の超音波音速に関する測定結果である音速情報を取得する音速情報取得部と、
前記金属板の塑性変形量又は塑性変形量に換算可能な値である塑性変形特徴量を算出する塑性変形特徴量算出部と、
前記音速情報取得部が取得した前記音速情報に基づいて、前記金属板中の複数の超音波音速から算出される、主応力和又は主応力差と相関のあるパラメータである音弾性パラメータを算出する音弾性パラメータ算出部と、
前記塑性変形特徴量算出部により算出された前記塑性変形特徴量を利用して、前記音弾性パラメータの応力による変化を表す係数の補正を行う音弾性パラメータ係数補正部と、
前記音弾性パラメータ算出部が算出した音弾性パラメータと、前記音弾性パラメータ係数補正部が補正した係数とに基づいて、前記金属板に残留している応力を算出する残留応力算出部と、
を有することを特徴とする、残留応力測定装置。
【請求項8】
塑性変形した金属板中に複数の超音波を発生させることで測定された金属板中の複数の超音波音速に関する音速情報を取得するステップと、
前記金属板の塑性変形量又は塑性変形量に換算可能な値である塑性変形特徴量を算出するとともに、取得した前記音速情報に基づいて、前記金属板中の複数の超音波音速から算出される、主応力和又は主応力差と相関のあるパラメータである音弾性パラメータを算出するステップと、
算出した前記塑性変形特徴量を利用して、前記音弾性パラメータの応力による変化を表す係数の補正を行うステップと、
算出された音弾性パラメータと、補正された係数とに基づいて、前記金属板に残留している応力を算出するステップと、
を含むことを特徴とする、残留応力算出方法。
【請求項9】
塑性変形した金属板中に複数の超音波を発生させることで、当該金属板中を伝播する前記複数の超音波の音速を測定するステップと、
前記金属板中を伝播する複数の超音波音速に関する測定結果である音速情報を取得するステップと、
前記金属板の塑性変形量又は塑性変形量に換算可能な値である塑性変形特徴量を算出するとともに、取得した前記音速情報に基づいて、前記金属板中の複数の超音波音速から算出される、主応力和又は主応力差と相関のあるパラメータである音弾性パラメータを算出するステップと、
算出した前記塑性変形特徴量を利用して、前記音弾性パラメータの応力による変化を表す係数の補正を行うステップと、
算出された音弾性パラメータと、補正された係数とに基づいて、前記金属板に残留している応力を算出するステップと、
を含むことを特徴とする、残留応力測定方法。
【請求項10】
コンピュータに、
塑性変形した金属板中に複数の超音波を発生させることで測定された金属板中の複数の超音波音速に関する音速情報を取得する音速情報取得機能と、
前記金属板の塑性変形量又は塑性変形量に換算可能な値である塑性変形特徴量を算出する塑性変形特徴量算出機能と、
前記音速情報取得機能が取得した前記音速情報に基づいて、前記金属板中の複数の超音波音速から算出される、主応力和又は主応力差と相関のあるパラメータである音弾性パラメータを算出する音弾性パラメータ算出機能と、
前記塑性変形特徴量算出機能が算出した前記塑性変形特徴量を利用して、前記音弾性パラメータの応力による変化を表す係数の補正を行う音弾性パラメータ係数補正機能と、
前記音弾性パラメータ算出機能が算出した音弾性パラメータと、前記音弾性パラメータ係数補正機能が補正した係数とに基づいて、前記金属板に残留している応力を算出する残留応力算出機能と、
を実現させるためのプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−196953(P2011−196953A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66987(P2010−66987)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)