説明

残留農薬の抽出方法及び抽出キット

【課題】 農産物中の残留農薬の抽出方法及びそれに使用するキットである。
【解決手段】 本発明の残留農薬の抽出方法は、(1)農産物を、残留農薬を抽出可能な形状に加工する工程;(2)当該処理がされた農産物を脱水剤で処理する工程;及び(3)脱水処理された農産物から、オクタノール/水分配係数(logPow)が0〜4である疎水性溶媒又は疎水性溶媒−親水性溶媒の混合溶媒を使用して残留農薬を抽出する工程からなる。また本発明のキットは当該方法に使用されるキットである。本発明の方法及びキットによれば、操作の簡便化が図れると共に色素などの夾雑物の抽出量を低減することができるという効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は残留農薬の抽出方法及び抽出キットに関する。より詳細には、農産物が含有する残留農薬を簡便にして且つ効率的に抽出する方法及びそれに使用する抽出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、農産物の生産性を高めるために種々の農薬が使用されてきた。近年、食物中の残留物質への関心が高まり、残留物質の測定が重視されてきている。これに対応する形で、国の方でも、農産物中に残存する残留物質に関する基準を設定しようとしている(非特許文献1参照)。
しかし、従来法は、少数の残留物質の測定を目標にしており、多くの残留物質の測定には適していなかった。農薬としては極めて多種多様の薬剤が使用されており、測定の簡便化及び迅速化を図るためには、多種類の農薬を一度に測定する方法の重要性が高まっている(非特許文献2参照)。
具体的には、従来の残留農薬の測定法は、測定ステップが煩雑で、時間(約6H)、費用、手間(約30工程)がかかり、より簡便な手法及びキットが必要とされていた。また、水分の多い野菜・果実の測定では、親水性の高いアセトニトリルやアセトンなどの溶媒を使用しているため、色素など測定対象以外の成分も抽出され、これら夾雑物の除去に手間がかかること、更に、係る手間をかけても残存する夾雑物が、測定時のノイズとなることが問題となっていた。
一方、農薬の多くは低極性であり親水性の高い溶媒による抽出が適当でないものが多かった。また、従来法では、タマネギやキャベツなどのようにイオウ成分を含む場合、産生した硫酸イオンで酸性となり、酸性条件下では破壊される農薬成分もあったためpH調整が必要であった。さらに、大豆など脂肪含量の高いものについては脱脂のために工程を増やすかあるいはGPCなどの高価な機器が必要とされていた。
【非特許文献1】食安発第0124001号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知 別添 「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法」
【非特許文献2】食衛誌44.(5).234-245(2003),「農作物中の104種農薬残留スクリーニング分析に関わる試験技能評価の試み」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、従来の残留農薬の測定法においては、農産物から残留農薬を抽出する工程(前処理工程)が非常に長く且つ煩雑であって、時間を要し、測定上の問題となっていた。
そこで、本発明者らは、簡易な前処理法(残留農薬の抽出方法)を検討したところ、従来の抽出溶媒と全く異なる抽出溶媒を使用すること及び農産物を前処理剤で処理することにより、簡便且つ効率的に残留農薬を抽出し得ることを見出した。
より具体的には、本発明者らは1)目的とする農薬を効率良く抽出でき、その一方で夾雑物質を抽出することのない抽出溶媒と2)前処理剤との組み合わせを検討した。
まず、上記1)を検討するに当たっては、農薬の化学的性質に着目して検討を行った。具体的には、化合物の極性の指標としてオクタノール/水分配係数(本明細書では、logPowと表記する)に着目した(logPowについては、国立医薬品食品衛生研究所HP 医薬品情報検索のデータベースなど参照)。
農薬の多くはlogPowが2〜7の間である。これらの農薬を幅広く効率的に溶解するにはlogPowが3〜4程度の極性を示す溶媒が適当である。一方、ジクロルボスの様にlogPow が1程度のものや、アセフェート、メタミドホスのようにマイナスの値を示す農薬もある。これらの農薬をも溶解するためにはより高い極性の溶媒が必要となる。
そこで、logPowを0から4程度の極性の疎水性溶媒を使用するか、又は疎水性溶媒と親水性溶媒の混合溶媒を使用して、脱水処理を施した試料を材料に農薬の抽出を行ったところ、色素やその他の夾雑物の抽出量が著しく低くなることを見出した。上記の混合溶媒としては、疎水性溶媒、好ましくは、n−ヘキサン(logPow, 3.9)を主体として、そこにlogPowが-1.0〜0程度の親水性溶媒、好ましくは、アセトン(logPow, -0.24)を適量添加した溶媒が例示される。
【0004】
次に、前記の2)に関し、上記の溶媒は疎水性溶媒を主体とするため水分の多い野菜などへの浸透性に問題がある。そこで、農産物試料を脱水剤、好ましくは珪藻土を使用する脱水工程に、予め付すことにより問題点を改善した。本方法により従来は使用できなかったn−ヘキサンのような低極性の疎水性溶媒を用いた抽出が可能になった。
本発明は係る知見に基づくもので、農産物から簡便且つ効率的に残留農薬を抽出する方法及びそれに使用する抽出キットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するためになされた本願発明は、下記の工程からなる農産物中の残留農薬の抽出方法である。
(1)農産物を、残留農薬を抽出可能な形状に加工する工程;
(2)上記の処理がされた農産物を脱水剤で処理する工程;及び
(3)脱水処理された農産物から、logPowが0〜4である疎水性溶媒又は疎水性溶媒−親水性溶媒の混合溶媒を使用して残留農薬を抽出する工程。
上記の疎水性溶媒−親水性溶媒の混合溶媒としてはn−ヘキサン−アセトン混合溶媒を使用するのが好ましく、更に脱水剤で処理する工程と同時又はその後に、活性炭処理及び/又は逆相クロマトグラフィー用担体で処理するのがより好ましい。
本発明の抽出キットは、上記の方法に使用されるキットであり、脱水剤を主成分とする前処理剤、及びlogPowが0〜4である疎水性溶媒又は疎水性溶媒−親水性溶媒の混合溶媒からなる抽出剤で構成される。上記の疎水性溶媒−親水性溶媒の混合溶媒としてはn−ヘキサン−アセトン混合溶媒を使用するのが好ましく、また上記の前処理剤は脱水剤と共に、活性炭及び逆相クロマトグラフィー用担体の少なくとも一種を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法及びキットによれば、抽出溶媒として疎水性溶媒を主体とする溶媒が使用されるので、色素などの夾雑物の抽出量が少なくなり、操作が簡便化されると共に測定精度の向上が図れる。更に、農産物を脱水剤で処理しているので、含硫農産物からの硫酸イオンの産生を抑制でき、酸性条件下で不安定な農薬成分の測定をも行うことができるという格別な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の方法は前記の工程よりなる残留農薬の抽出方法である。
本発明の方法においては、最初に農産物を残留農薬を抽出可能な形状に加工する。この工程は農産物の種類に応じて適宜な態様にて行われる。例えば、農産物が野菜類、果実類などのような場合には、裁断して小片化することにより行われ、豆類、穀類のような場合には粉砕して粉末化することにより行われる。何れにしても、農産物の形態に応じて、残留農薬の抽出効率が向上するような形状に加工する。
【0008】
かくして加工された農産物(以下、農産物試料という)は次いで脱水工程に付される。前述のように、本発明の方法においては、抽出溶媒として疎水性溶媒を主体とする溶媒が使用されるので、農産物試料の含水量が多いと溶媒との親和性に欠けるので、脱水剤により水分含量を低減させる。
脱水剤としては慣用の脱水剤の何れも使用することができ、例えば珪藻土、モレキュラーシーブ、シリカゲル、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウムなどが例示できる。
係る脱水剤の使用量は、農産物試料中の水分含量、脱水剤の脱水能などに応じて適宜調整することができるが、通常、農産物試料に対して0.5〜3倍量(重量比)程度とされる。
【0009】
上記の工程で脱水された農産物試料は、logPowが0〜4である疎水性溶媒又は疎水性溶媒−親水性溶媒からなる混合溶媒による抽出工程に付される。
この工程で使用されるlogPowが0〜4である疎水性溶媒としては、logPowがこの範囲であれば慣用の溶媒を使用することができるが、例えばn−ヘキサン(logPow, 3.9)、酢酸エチル(logPow, 0.73)、ジクロロメタン(logPow, 1.25)、ベンゼン(logPow, 2.13)、トルエン(logPow, 2.69)、四塩化炭素(logPow, 2.64)などが例示され、これらの溶媒は2種以上を混合して使用してもよい。
また、抽出溶媒としては、疎水性溶媒と親水性溶媒の混合溶媒を使用してもよく、疎水性溶媒としては、上記記載の溶媒の他、オクタン(logPow, 5.0)などが例示できる。
親水性溶媒としては、例えばアセトン(logPow, -0.24)、メタノール(logPow, -0.82)、エタノール(logPow, -0.32)、アセトニトリル(logPow, -0.3)などの慣用の溶媒を使用することができる。
疎水性溶媒−親水性溶媒における混合比としては、疎水性溶媒:親水性溶媒=95〜30:5〜70(容量比、溶媒の混合比に関しては以下同様)、好ましくは80〜45:20〜55、より好ましくは50:50の比率の溶媒が使用される。親水性溶媒量がこの範囲より多くなると色素などの夾雑物の抽出量が増え、またこの範囲より少なくなると残留農薬の抽出量が低減するおそれがある。
【0010】
上述の疎水性溶媒及び親水性溶媒において、溶媒の毒性、沸点、融点、価格などを勘案すると、疎水性溶媒としてはn−ヘキサンを使用するのが好ましく、また親水性溶媒としてはアセトンを使用するのが好ましい。従って、疎水性溶媒−親水性溶媒の混合溶媒の好ましい例としては、n−ヘキサン−アセトン混合溶媒が挙げられる。
【0011】
抽出工程は、上記の抽出溶媒と農産物試料を適宜な方法で混合することに行われ、例えばホモジナイザーを使用した混合などが例示できる。この際、適当な脱水剤を共存させてもよい。
抽出時間は、農産物試料の種類、混合手段などに応じて適宜調整することができるが、ホモジナイザーを使用した場合には1〜10分程度、通常2〜5分程度でホモジナイズすることにより行われる。
【0012】
なお、本発明の方法においても、色素などの成分が抽出されて来る場合には活性炭処理を行ってもよい。また、大豆などのように脂肪分が多い農産物の場合には逆相クロマトグラフィー用担体(例えばC18担体、C担体等)を使用した脱脂処理をしてもよい。これらの操作により、抽出液中の色素などの夾雑物含量及び脂肪含量が著しく低減するので、機器分析に際してもサンプルの前処理工程の簡略化や測定時のノイズの低減に寄与することができる。
これらの活性炭処理及び脱脂処理は、前記の脱水工程及び/又は抽出工程において行うことができる。
【0013】
上記の抽出工程の後、濾過、遠心分離などの慣用の手段で抽出液を分離する。分離された抽出液は、必要に応じて、乾固、再溶解などの工程を経た後、GC/MSなどの慣用の機器分析手段を用いて、残留農薬の分析・定量を行うことができる。
【0014】
本発明の方法によれば、色素やその他夾雑物の除去の手間を軽減でき、ノイズのない測定データを、時間(約6H→約1H)、費用、手間(約30工程→約10工程)をかけずに得ることが可能となった。また、水分が除去されているために硫酸イオンが生じることによるpH低下も起こらず、従来法で必要だったタマネギやキャベツなどのイオウ成分含有農産物の測定時のpH調整も不必要となった。
このように、農産物中の残留農薬測定において、従来法より簡便に、短時間で、少ない有機溶媒の使用で、よりノイズの少ないデータを得ることが可能となった。
【0015】
本発明の残留農薬抽出キットは、上記の方法に使用されるキットであり、脱水剤を主成分とする前処理剤、及びlogPowが0〜4である疎水性溶媒又は疎水性溶媒−親水性溶媒の混合溶媒からなる抽出剤で構成される。
前処理剤に含まれる脱水剤としては前記の脱水剤が例示でき、また抽出剤であるlogPowが0〜4である疎水性溶媒又は疎水性溶媒−親水性溶媒の混合溶媒も前記の溶媒を例示することができる。
なお、前処理剤には、脱水剤と共に、前述した活性炭及び逆相クロマトグラフィー用担体の少なくとも一種を含んでいてもよく、活性炭及び逆相クロマトグラフィー用担体は前記のとおり、色素成分の除去と脱脂剤として作用する。
本発明のキットの使用方法としては、前記の本発明の抽出方法に準じて使用すればよい。
【0016】
本発明の対象となる農産物としては残留農薬の測定を必要とする農産物であれば特に限定されず、例えば、野菜類(例えばホウレン草、玉ねぎ、白菜、キャベツ、きゅうり、なす、トマト等)、果実類(例えば柿、りんご、梨、みかん等)、豆類(例えば大豆、小豆、そらまめ、ささげ等)、種実類(例えばごま、栗、落花生等)、穀類(例えば米、小麦、大麦、蕎麦、とうもろこし等)、芋類(例えばじゃがいも、さつまいも、さといも、ながいも等)などが例示できる。
抽出対象とされる農薬は、農業の分野で使用されている農薬である限り限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
以下、比較例及び実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各例において、カッコ付の数字は工程のステップ数を表す。
【0018】
比較例1(従来法1)
ホウレン草全草からひげ根および変質葉を除去し(1)、フードプロッセッサーで細切・均質化した(2)。20gを秤量し (3)、アセトニトリル50mlを加え(4)、10000回転で3分間ホモジナイズした(5)。吸引ろ過(6)の後、残留物にアセトニトリル20mlを加え(7)再度ホモジナイズ(8)し、吸引ろ過した(9)。2つのろ液をあわせて(10)、アセトニトリルを添加し100mlに定容した(11)。そのうち20mlを分液ロートに分取(12)し、塩化ナトリウム10g(13)と0.5Mリン酸緩衝液(pH7.0)20mlを加え(14)、10分間振盪(15)した。アセトニトリル層を分取し(16)、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水(17)したものをろ過し(18)、35℃の温度条件下で減圧濃縮(19)をおこなった。乾固直前に減圧濃縮を中止し、窒素気流下で乾固(20)した後、残留物をトルエン・アセトニトリル混液(1:3)2mlに溶解(21)し抽出液とした。ENVI-Carv/LC-NH2(6ml,500mg/5oomg)固相抽出カラムをトルエン・アセトニトリル混液(1:3)10mlでコンディショニングしておき(22)、抽出液を負荷(23)した。さらに20mlのトルエン・アセトニトリル混液(1:3)20mlを流し溶出液を分取 (24)後、35℃の温度条件下で減圧濃縮をおこない1ml以下に濃縮した(25)。アセトン10mlを加え、再度1ml以下に濃縮(26)した後、アセトン5mlを加えさらに濃縮を行った(27)。乾固直前に減圧濃縮を中止し、窒素気流下で乾固(28)した。残留物をアセトン・n−ヘキサン混液(1:1)2mlで溶解して(29)試験溶液とし、サンプルバイアルに移して(30)GC/MSによる分析(31)に供した。
【0019】
比較例2(従来法2)
粉砕(1)した大豆10gを秤量し(2)、水20mlを添加し15分間放置した(3)。アセトニトリル50mlを加え(4)、10000回転で3分間ホモジナイズした(5)。吸引ろ過(6)の後、残留物にアセトニトリル20mlを加え(7)再度ホモジナイズ(8)し、吸引ろ過した(9)。2つのろ液をあわせて(10)、アセトニトリルを添加し100mlに定容した(11)。そのうち20mlを分液ロートに分取(12)し、塩化ナトリウム10g(13)と0.5Mリン酸緩衝液(pH7.0)20mlを加え(14)、10分間振盪(15)した後、アセトニトリル層を分取した(16)。Bond Elut C18(6ml, 1g)固相抽出カラムをアセトニトリル10mlでコンディショニングしておき(17)、分取したアセトニトリル層を負荷(18)した。カラムに2mlのアセトニトリルを加え溶出をおこなった(19)。溶出液に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水(20)したしたものをろ過し(21)、35℃の温度条件下で減圧濃縮(22)をおこなった。乾固直前に減圧濃縮を中止し、窒素気流下で乾固(23)した後、残留物をトルエン・アセトニトリル混液(1:3)2mlに溶解(24)し抽出液とした。ENVI-Carv/LC-NH2(6ml,500mg/5oomg)固相抽出カラムをトルエン・アセトニトリル混液(1:3)10mlでコンディショニングしておき(25)、抽出液を負荷(26)した。さらに20mlのトルエン・アセトニトリル混液(1:3)20mlを流し溶出液を分取 (27)後、35℃の温度条件下で減圧濃縮をおこない1ml以下に濃縮した(28)。アセトン10mlを加え、再度1ml以下に濃縮(29)した後、アセトン5mlを加えさらに濃縮を行った(30)。乾固直前に減圧濃縮を中止し、窒素気流下で乾固(31)した。残留物をアセトン・n−ヘキサン混液(1:1)2mlで溶解して(32)試験溶液とし、サンプルバイアルに移して(33)GC/MSによる分析(34)に供した。
【0020】
実施例1(本発明方法1)
ホウレン草全草からひげ根および変質葉を除去し(1)、フードプロッセッサーで細切・均質化した(2)。2gを秤量し(3)、前処理剤(珪藻土2g、活性炭0.3g)とよく混ぜ合わせ(4)た後 、抽出液(n−ヘキサン:アセトン=1:1)25ml(5)と無水硫酸ナトリウム5gを加え(6)、10000回転で3分間ホモジナイズした(7)。5000回転で10分の遠心により上清を得(8)、35℃で減圧乾固し(9)、アセトン2mlに溶解した(10)。これをサンプルバイアルに移して(11)、GC/MSによる分析(12)に供した。
【0021】
実施例2(本発明方法2)
粉砕(1)した大豆2gを秤量し(2)、前処理剤(珪藻土2g、C18逆相ビーズ2g、活性炭0.3g)とよく混ぜ合わせ(3)た後 、抽出液(n−ヘキサン:アセトン=1:1)25ml(4)と無水硫酸ナトリウム5gを加え(5)、10000回転で3分間ホモジナイズした(6)。5000回転で10分の遠心により上清を得(7)、35℃で減圧乾固し(8)、アセトン2mlに溶解した(9)。これをサンプルバイアルに移して(10)、GC/MSによる分析(11)に供した。
【0022】
上記従来法1及び2と本発明方法1及び2の工程数及びその方法を実施する際の所要時間(分)は以下のとおりである。
従来法1 31工程 310分
従来法2 34工程 340分
本発明方法1 12工程 64分
本発明方法2 11工程 59分
【0023】
上記従来法1及び2と本発明方法1及び2において、対象農産物に各種農薬を100ppb添加した場合の回収試験を行った。その結果を、表1〜4に示す。なお、表1及び2は、それぞれ本発明方法1及び2の結果であり、表3及び4は、それぞれ従来法1及び2による結果(回収率:%、以下同様)である。
【0024】

【0025】

【0026】

【0027】

【0028】
上記表1〜4を比較すると明らかなように、2、3の例外を除き、本発明の方法の方が高い回収率を示し、本発明の方法によれば、種々の残留農薬を効率的に抽出できることが判明した。
【0029】
次いで、抽出液のn−ヘキサン:アセトンの混合比率を変えて、各成分の抽出効率を調べた。
実施例3
前記本発明方法1において、抽出液としてn−ヘキサン:アセトン=10:0を使用し、対象農産物に各種農薬を100ppb添加した場合の回収試験を行った。その結果を表5に示す。
【0030】
実施例4
実施例3において、抽出液としてn−ヘキサン:アセトン=7:3の混合比率の液を用いた以外は同様にして添加回収試験を行った。その結果を表5に併せて示す。
【0031】
実施例5
実施例3において、抽出液としてn−ヘキサン:アセトン=3:7の混合比率の液を用いた以外は同様にして添加回収試験を行った。その結果を表5に併せて示す。
【0032】
比較例3
実施例3において、抽出液としてn−ヘキサン:アセトン=0:10の混合比率の液を用いた以外は同様にして添加回収試験を行った。その結果を表5に併せて示す。
【0033】

【0034】
表5に示されるように、抽出液としてアセトンのみを使用した場合には抽出結果が良くないが、アセトンにn−ヘキサンが混合してある抽出液、好ましくは少なくとも30%程度以上のn−ヘキサンが混合された抽出液が好ましい抽出結果を示すことが確認された。
【0035】
更に、n−ヘキサン−アセトン系以外の有機溶媒の抽出液での抽出結果を調べた。
実施例6
前記本発明方法1において、抽出液としてn−ヘキサンを使用し、対象農産物に各種農薬を100ppb添加した場合の回収試験を行った。その結果を表6に示す。
【0036】
実施例7
実施例6において、抽出液としてベンゼン(logPow, 2.13)を用いた以外は、実施例6と同様に添加回収試験を行った。その結果を表6に併せて示す。
【0037】
比較例4
実施例6において、抽出液としてオクタン(logPow, 5.0)を用いた以外は、実施例6と同様に添加回収試験を行った。その結果を表6に併せて示す。
【0038】
比較例5
実施例6において、抽出液としてアセトニトリル(logPow, -0.3)を用いた以外は、実施例6と同様に添加回収試験を行った。その結果を表6に併せて示す。
【0039】

【0040】
表6に示されるように、実施例6と7及び比較例4と5の対比によりlogPowが0〜4の範囲の外にあるオクタン(logPow, 5.0)やアセトニトリル(logPow, -0.3)を抽出液に用いた場合は良い結果を得られなかった。一方、logPowが0〜4の範囲内であるn−ヘキサン(logPow, 3.9)やベンゼン(logPow, 2.13)を用いた場合は、良好な抽出効率を得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程からなる農産物中の残留農薬の抽出方法。
(1)農産物を、残留農薬を抽出可能な形状に加工する工程;
(2)上記の処理がされた農産物を脱水剤で処理する工程;及び
(3)脱水処理された農産物から、オクタノール/水分配係数(logPow)が0〜4である疎水性溶媒又は疎水性溶媒−親水性溶媒の混合溶媒を使用して残留農薬を抽出する工程。
【請求項2】
疎水性溶媒−親水性溶媒の混合溶媒がn−ヘキサン−アセトン混合溶媒である請求項1記載の抽出方法。
【請求項3】
脱水剤で処理する工程と同時又はその後に、活性炭処理及び/又は逆相クロマトグラフィー用担体で処理する請求項1又は2記載の抽出方法。
【請求項4】
脱水剤を主成分とする前処理剤、及びオクタノール/水分配係数(logPow)が0〜4である疎水性溶媒又は疎水性溶媒−親水性溶媒の混合溶媒からなる抽出剤で構成される農産物中の残留農薬の抽出キット。
【請求項5】
疎水性溶媒−親水性溶媒の混合溶媒がn−ヘキサン−アセトン混合溶媒である請求項4記載の抽出キット。
【請求項6】
前処理剤が脱水剤と共に、活性炭及び逆相クロマトグラフィー用担体の少なくとも一種を含む請求項4又は5記載の抽出キット。