残留農薬自動前処理システム及びそれを用いた残留農薬抽出方法
【課題】残留農薬検査における農産物等の検査対象物の前処理を自動化し、高い回収率で残留農薬を抽出でき、かつクロスコンタミネーションが低減された残留農薬自動前処理システムを提供すること。
【解決手段】試料コップ110と、可動式試料ストックテーブル100と、溶媒供給装置と、ホモジナイザーと、第1の試料容器と、第1の可動式容器ストックテーブル200と、メスアップ装置30と、第1の撹拌手段40と、第2の試料容器と、分注装置50と、第2の撹拌手段80と、第3の試料容器と、溶媒回収装置60と、を備える、残留農薬自動前処理システム。
【解決手段】試料コップ110と、可動式試料ストックテーブル100と、溶媒供給装置と、ホモジナイザーと、第1の試料容器と、第1の可動式容器ストックテーブル200と、メスアップ装置30と、第1の撹拌手段40と、第2の試料容器と、分注装置50と、第2の撹拌手段80と、第3の試料容器と、溶媒回収装置60と、を備える、残留農薬自動前処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残留農薬自動前処理システム及びそれを用いた残留農薬抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食の安全に関する関心が高まってきている。特に、食品中に残留する農薬、飼料添加物及び動物用医薬品(農薬等)について、一定の量を超えて農薬等が残留する食品の販売等を原則禁止するポジティブリスト制度が平成15年5月29日から施行されている。これに関連して、「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法について」(平成17年1月24日付け食安発第0124001号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知)には、農薬等の一斉試験法が定められている。
【0003】
ところで残留農薬検査では、農産物等の検査対象物に対して前処理が必要である。この前処理を一台の装置で一貫して自動的に行う残留農薬自動前処理装置が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−3233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
残留農薬等の検査における農産物等の検査対象物に対する前処理は多大な手間と時間がかかるため、これを自動化する要請はいまだ強い。また、上記ポジティブリスト制度では、残留基準が定められていない農薬等が一定量(0.01ppm)を超えて残留するものの販売等が禁止される。したがって、これまで以上に他の検査対象物試料に由来する成分の混入(本明細書において、「クロスコンタミネーション」ともいう。)を低減した自動前処理システムが求められる。
【0006】
特許文献1に記載された残留農薬自動前処理装置は、抽出された残留農薬を含む溶媒等の溶液が、工程順にパイプ(チューブ)を通って送出されて行くため、パイプ内をよく洗浄する必要があり、パイプ内の洗浄に多量の洗浄用溶媒が必要である。また、パイプによる長い流路を有するために、クロスコンタミネーションの可能性や、回収率低下の恐れがあり、更に改良された自動前処理装置が求められていた。
【0007】
そこで、本発明は残留農薬検査における農産物等の検査対象物の前処理を自動化し、高い回収率で残留農薬を抽出でき、かつクロスコンタミネーションが低減された残留農薬自動前処理システムを提供することを目的とする。本発明はまた、上記残留農薬自動前処理システムを用いた残留農薬抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、内部に濾紙を具備するとともに、開閉自在の放出口を底部に有する試料コップと、1個又は複数個の上記試料コップを保持する可動式試料ストックテーブルと、水又は抽出溶媒を上記試料コップ内に注入する溶媒供給装置と、脱着自在のシャフトに設けられたカッターを有し、上記試料コップ内の試料、水及び抽出溶媒を粉砕撹拌するホモジナイザーと、上記試料コップの放出口から放出される濾液を受けるための第1の試料容器と、上記第1の試料容器を保持する第1の可動式容器ストックテーブルと、上記濾液を受けた上記第1の試料容器に、総量が所定量となるように抽出溶媒を注入し、試料液を調整するメスアップ装置と、上記第1の試料容器内の上記試料液を撹拌する第1の撹拌手段と、上記試料液を緩衝液で液−液抽出するための第2の試料容器と、上記第1の試料容器内の上記試料液の所定量を、上記第2の試料容器内へ分注する分注装置と、上記第2の試料容器内の上記試料液と上記緩衝液を撹拌する第2の撹拌手段と、液−液抽出後の抽出溶媒層を回収するための第3の試料容器と、液−液抽出後の前記第2の試料容器内の抽出溶媒層を吸い上げ、上記第3の試料容器内に吐出する溶媒回収装置と、を備える、残留農薬自動前処理システムを提供する。
【0009】
上記残留農薬自動前処理システムは、可動式試料ストックテーブル及び可動式容器ストックテーブルを備えるため、農薬等を含む濾液、試料液又は抽出溶媒層を移送するチューブ等の流路が不要である。また、着脱自在のシャフトを有するホモジナイザーを備えるため、試料毎にシャフトを取り外して交換することができる。上記残留農薬自動前処理システムはこのような構成を備えているため、先に処理した試料に由来する農薬等が残存せず、クロスコンタミネーションを低減することができる。また、これまで流路に付着して回収しきれなかった農薬等も回収することが可能となり、回収率が向上する。さらに、流路及びシャフトの自動洗浄が不要であるため、これらを洗浄するために用いられる有機溶媒の廃液処理が不要となり、環境負荷の低減、前処理操作のコスト低減も可能となる。
【0010】
なお、本明細書において、「農薬等」とは、農薬、飼料添加物及び動物用医薬品を意味する。また、本明細書において、「残留農薬」とは、食品中に残留する農薬、飼料添加物及び動物用医薬品(農薬等)を意味する。
【0011】
上記残留農薬自動前処理システムは、上記第2の試料容器に緩衝液を注入する緩衝液供給装置を更に備えていてもよい。
【0012】
上記残留農薬自動前処理システムはまた、上記第3の試料容器を保持する第2の可動式容器ストックテーブル、及び上記第3の試料容器内の抽出溶媒の少なくとも一部を蒸発させる気化装置を更に備えていてもよい。上記第2の可動式容器ストックテーブル及び上記気化装置を備えることにより、上記第3の試料容器内の農薬等を濃縮又は乾固することが可能となり、以降の分析操作に適した溶媒に容易に置換することができ、分析効率が向上する。
【0013】
上記残留農薬自動前処理システムは、上記第3の試料容器の口に装着される、脱水剤が充填された漏斗を更に備えていてもよい。上記漏斗を有することにより、抽出溶媒層に含まれる水分を除去することが可能となり、以降の分析操作において残留水分による影響を除去でき、また上記気化装置を備える場合には、蒸発効率を上げることができる。
【0014】
上記残留農薬自動前処理システムは、上記溶媒回収装置により所定量の上記抽出溶媒層が吸い上げられた上記第2の試料容器内に、所定量の抽出溶媒を注入する抽出溶媒供給装置を更に備えていてもよい。上記抽出溶媒供給装置を備えることにより、上記液−液抽出を再度行うことが可能となり、農薬等の回収率を向上させることができる。
【0015】
上記分注装置又は溶媒回収装置は、着脱自在のピペット端を有するピペット装置としてもよい。上記ピペット装置は試料に接触するピペット端が着脱自在であるため、試料毎にピペット端を取り外して交換することができる。これにより、クロスコンタミネーションをより一層低減できる。また、ピペット端をディスポーザブルのものにすることで、ピペット端の洗浄が不要となる。
【0016】
上記可動式試料ストックテーブルは、複数個の試料コップを保持するものとしてもよい。上記残留農薬自動前処理システムは、農薬等を含む濾液、試料液又は抽出溶媒層を移送するチューブ等の流路が設けられていないため、充分なスペースの確保が可能となり、一度に処理可能な試料コップ数を容易に増加させることができる。また、一度に処理可能な試料数が増加するため、前処理効率を向上させることができる。
【0017】
上記可動式試料ストックテーブルを複数個の試料コップを保持するものとした場合、上記可動式ストックテーブルに保持された上記試料コップの上部に所定のタイミングで移動し、上記ホモジナイザー又は上記溶媒供給装置からの落下物を受けるための受け皿を更に備えていてもよい。上記受け皿を備えることにより、上記可動式試料ストックテーブルと、上記ホモジナイザー又は上記溶媒供給装置とが相対的に移動した場合でも、他の試料に由来する落下物が試料コップ内に混入することを防ぐことができる。これにより、クロスコンタミネーションをより一層低減できる。
【0018】
本発明はまた、上記残留農薬自動前処理システムにおける残留農薬の抽出方法であって、上記溶媒供給装置により水及び抽出溶媒を注入された試料コップが、上記ホモジナイザーの下方に位置するように、上記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、上記ホモジナイザーにより内部の試料、水及び抽出溶媒が粉砕撹拌された試料コップが、上記第1の可動式容器ストックテーブルに保持された上記第1の試料容器の上方に位置するように、上記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、試料コップの放出口から放出される濾液を受けた第1の試料容器が、上記メスアップ装置の下方に位置するように、上記第1の可動式容器ストックテーブルを移動させるステップと、上記メスアップ装置により内部に上記試料液が調整された第1の試料容器が、上記第1の撹拌手段の動作範囲内に位置するように、上記第1の可動式容器ストックテーブルを移動させるステップと、上記第1の撹拌手段により内部の前記試料液が撹拌された第1の試料容器が、上記分注装置の動作範囲内に位置するように、上記第1の可動式容器ストックテーブルを移動させるステップと、を含む、残留農薬の抽出方法を提供する。
【0019】
上記抽出方法によれば、上記可動式試料ストックテーブル及び上記第1の可動式容器ストックテーブルにより、試料コップ及び第1の試料容器が直接移動しながら抽出操作が進んでいくため、抽出された残留農薬を含む溶媒等の溶液を、パイプ(チューブ)等の流路を通して移送する必要がない。したがって、クロスコンタミネーションを充分に低減でき、かつ高い回収率で残留農薬を抽出することができる。
【0020】
上記残留農薬の抽出方法は、上記試料コップから濾液を放出させた後に該試料コップ内に残存する濾過残渣を抽出溶媒で再抽出する工程を少なくとも1回実行するものであり、再抽出する工程が、上記溶媒供給装置が、濾液を放出して濾過残渣が残った試料コップに抽出溶媒を再注入するステップと、上記溶媒供給装置により抽出溶媒を再注入された試料コップが、上記ホモジナイザーの下方に位置するように、上記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、上記ホモジナイザーが、試料コップ内部の上記濾過残渣及び抽出溶媒を粉砕撹拌するステップと、上記ホモジナイザーにより、内部の濾過残渣と再注入された抽出溶媒とが粉砕撹拌された試料コップが、上記第1の可動式容器ストックテーブルに保持された第1の試料容器の上方に位置するように、上記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、を含むものとすることができる。これにより、農薬等の回収率をより向上させることができる。
【0021】
また、上記残留農薬の抽出方法は、液−液抽出後の緩衝液層を再抽出する工程を少なくとも1回実行するものであり、液−液抽出後の緩衝液相を再抽出する工程が、上記抽出溶媒供給装置が、上記溶媒回収装置により所定量の上記抽出溶媒層が吸い上げられ、緩衝液層及び残余の抽出溶媒層が残存した第2の試料容器内に、所定量の抽出溶媒を再注入するステップと、上記第2の撹拌手段が、第2の試料容器内部の上記緩衝液層、残余の抽出溶媒層、及び再注入した抽出溶媒を撹拌するステップと、上記溶媒回収装置が、第2の試料容器内部の抽出溶媒層を吸い上げ、第3の試料容器内に吐出するステップと、を含むものとすることもできる。これにより、農薬等の回収率をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、残留農薬検査における農産物の前処理を自動化し、高い回収率で残留農薬を抽出でき、かつクロスコンタミネーションが低減された残留農薬自動前処理システムが提供される。また、上記残留農薬自動前処理システムを用いた残留農薬抽出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る残留農薬自動前処理システムを示す正面図である。
【図2】図1に示す残留農薬自動前処理システムの平面図である。
【図3】試料コップの一態様を示す斜視図である。
【図4】ホモジナイザーの一態様を示す斜視図である。
【図5】試料破砕部の一態様を示す斜視図である。
【図6】溶媒供給部の一態様を示す斜視図である。
【図7】第1の可動式容器ストックテーブルの一態様を示す斜視図である。
【図8】受け皿の一態様を示す斜視図である。
【図9】メスアップ装置の一態様を示す正面図である。
【図10】第1の撹拌手段の一態様を示す斜視図である。
【図11】分注装置の一態様を示す正面図である。
【図12】チップストックテーブルの一態様を示す斜視図である。
【図13】図11の分注装置の動作を示す斜視図である。
【図14】スターラーの一態様を示す斜視図である。
【図15】第2の可動式容器ストックテーブルの一態様を示す斜視図である。
【図16】緩衝液供給装置の一態様を示す斜視図である。
【図17】溶媒回収装置の一態様を示す正面図である。
【図18】漏斗ストックテーブルの一態様を示す斜視図である。
【図19】気化装置の一態様を示す斜視図である。
【図20】ポンプ機構の一態様を示す斜視図である。
【図21】抽出濾過工程の一態様を示す操作フローである。
【図22】メスアップ工程、及びバッファ分注工程の一態様をそれぞれ示す操作フローである。
【図23】第1の分注工程の一態様を示す操作フローである。
【図24】第2の分注工程の一態様を示す操作フローである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
本発明の残留農薬自動前処理システムは、厚生労働省が定める「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法」(平成17年1月24日付け食安発第0124001号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通)第2章に規定される一斉試験法のうち、「(ア)GC/MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)」(以下、「GC/MS法」ともいう。)、「(イ)LC/MSによる農薬等の一斉試験法I(農産物)」(以下、「LC/MS−I法」ともいう。)、「(ウ)LC/MSによる農薬等の一斉試験法II(農産物)」(以下、「LC/MS−II法」ともいう。)の前処理(抽出)に好適に用いることができる。
【0026】
(ア)GC/MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)における抽出の手順は以下のとおりである。
(1)穀類、豆類及び種実類の場合
試料10.0gに水20mLを加え、15分間放置する。これにアセトニトリル50mLを加え、ホモジナイズした後、吸引濾過する。ろ紙上の残留物にアセトニトリル20mLを加え、ホモジナイズした後、吸引濾過する。得られた濾液を合わせ、アセトニトリルを加えて正確に100mLとする。抽出液20mLを採り、塩化ナトリウム10g及び0.5mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)20mLを加え、10分間振とうする。静置した後、分離した水層を捨てる。オクタデシルシリル化シリカゲルミニカラム(1,000mg)にアセトニトリル10mLを注入し、流出液は捨てる。このカラムに上記のアセトニトリル層を注入し、さらに、アセトニトリル2mLを注入して、全溶出液を採り、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、無水硫酸ナトリウムを濾別した後、濾液を40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。残留物にアセトニトリル及びトルエン(3:1)混液2mLを加えて溶かす。
(2)果実、野菜、ハーブ、茶及びホップの場合
果実、野菜及びハーブの場合は、試料20.0gを量り採る。茶及びホップの場合は、試料5.00gに水20mLを加え、15分間放置する。これにアセトニトリル50mLを加え、ホモジナイズした後、吸引濾過する。ろ紙上の残留物にアセトニトリル20mL加え、ホモジナイズした後、吸引濾過する。得られた濾液を合わせ、アセトニトリルを加えて正確に100mLとする。抽出液20mLを採り、塩化ナトリウム10g及び0.5mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)20mLを加え、振とうする。静置した後、分離した水層を捨てる。アセトニトリル層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、無水硫酸ナトリウムを濾別した後、濾液を40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。残留物にアセトニトリル及びトルエン(3:1)混液2mLを加えて溶かす。
【0027】
(イ)LC/MSによる農薬等の一斉試験法I(農産物)における抽出の手順は、(ア)GC/MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)における手順と同一となっている。また、(ウ)LC/MSによる農薬等の一斉試験法II(農産物)における抽出の手順は、0.5mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)に代えて0.01mol/L塩酸を用いること、その際の振とう時間を15分間に変更すること以外は(ア)GC/MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)における手順と同じである。なお、上記公定法における添加量、時間等の数値パラメーターは、上記公定法と同等以上の回収率が担保されれば、適宜変更してよいとされる。
【0028】
図1は本実施形態に係る残留農薬自動前処理システムを示す正面図であり、図2はその平面図である。なお、図2は後述する溶媒量制御装置400を手前に引き出した状態を示したものである。
【0029】
図1及び図2に示す残留農薬自動前処理システム1000は、農産物等の試料からの農薬等の抽出、及び抽出液からの残渣の除去を実行する抽出濾過部Aと、濾液のメスアップを実行するメスアップ部Bと、溶液(試料液、緩衝液及び抽出溶媒)の分注、試料液の液−液抽出、及び抽出溶媒層の回収を実行する分注部Cとを備える。残留農薬自動前処理システム1000は、筐体1の上段に抽出濾過部A、メスアップ部B及び分注部Cが配置されており、下段に溶媒量制御装置400、タンク3,4,5及び制御用コンピュータPC等が配置されている。
【0030】
抽出濾過部Aは、試料コップ110と、可動式試料ストックテーブル100と、試料破砕部10と、溶媒供給部20と、第1の可動式容器ストックテーブル200とを含む。第1の可動式容器ストックテーブル200は複数の第1の試料容器210を保持できるようになっている(図5参照)。抽出濾過部Aは、クロスコンタミネーションをより一層低減する観点から受け皿700を更に含んでもよい(図8参照)。以下、抽出濾過部Aの各構成を図面に基づいて詳細に説明する。
【0031】
図3に示す試料コップ110は、その内部に濾紙140を具備するとともに、開閉自在の放出口120を底部に有する。放出口120は、把手130の水平方向の回転に伴って、開口状態と閉口状態とを切り替えられる。
【0032】
図1及び図2に示す可動式試料ストックテーブル100は、モータ(図示せず)の動作により左右方向にスライドでき、水平移動が可能となっている。可動式試料ストックテーブル100には12個の試料コップ110が配置されている。なお、本実施形態では試料コップ110の数が12個の場合を示したが、これに限定されるものではなく、これよりも多くても少なくてもよい。
【0033】
図4に示すホモジナイザー11は、脱着自在のシャフト12に設けられたカッター15を有する。シャフト12は、試料コップ110の口に嵌合する蓋部13に脱着可能なように取り付けられている。蓋部13は、試料コップ110の口に密着させるためのOリング14を有している。ホモジナイザー11は、シャフト12がモータ(図示せず)により回転し、シャフト12の先端部に設けられたカッター15で試料コップ110内の農産物等の試料を粉砕撹拌するように作動する。
【0034】
図5に示す試料破砕部10は、支持部材(図示せず)に、可動式試料ストックテーブル100が保持できる試料コップ110の数と同数(12個)のホモジナイザー11が配置されている(図5には6個のみ図示。)。ホモジナイザー11が配置されている間隔は、試料コップ110が保持されている間隔と一致しており、全ての試料コップ110内の試料、水及び抽出溶媒を同時に粉砕撹拌するように作動する。なお、試料破砕部10は、可動式試料ストックテーブル100の上方に配置されている。
【0035】
図6に示す溶媒供給部20は、支持部材に、可動式試料ストックテーブル100が保持できる試料コップ110の数と同数(12個)の溶媒供給装置21が配置されている(図6には6個のみ図示。)。溶媒供給装置21は、水若しくは抽出溶媒又は加圧空気を移送するチューブ22と、試料コップ110の口に嵌合するとともに、水若しくは抽出溶媒又は加圧空気を試料コップ110内に注入する複数の注入口を底部に有する蓋部23とを具備する。チューブ22は、水を貯蔵するタンク3、抽出溶媒を貯蔵するタンク4、及び加圧空気を送るコンプレッサー(図示せず)と自動1点4方バルブ(図示せず)を介して接続されている(図1参照)。蓋部23は、試料コップ110の口に密着させるためのOリング24を有している。溶媒供給装置21が配置されている間隔は、試料コップ110が配置されている間隔と一致しており、全ての試料コップ110内に水若しくは抽出溶媒又は加圧空気を同時に注入するように作動する。なお、溶媒供給部20は、可動式試料ストックテーブル100の上方に配置されている。
【0036】
図7に示す第1の可動式容器ストックテーブル200は、可動式試料ストックテーブル100が保持できる試料コップ110の数と同数(12個)の第1の試料容器210が配置されるとともに、第1の試料容器210と同数の界面センサー205が設けられている。第1の可動式容器ストックテーブル200は、モータ(図示せず)の動作によりレール(図示せず)に沿って、左右水平方向に移動することが可能となっている。なお、第1の可動式容器ストックテーブル200は、可動式試料ストックテーブル100よりも低い位置に設けられている(図1参照)。ここで、界面センサー205としては、赤外線センサー、重量センサー、超音波センサー等を利用することができる。また、第1の試料容器210としては、ガラス製容器、プラスチック製容器、金属製容器等が用いられる。
【0037】
図8に示した受け皿700は、ホモジナイザー11又は溶媒供給装置21からの液垂れ等の落下物を受けるためのものである。受け皿700としては、上記落下物を受けることができるものであればよいが、液体の落下物を受け皿700上に保持することができるため、辺縁部に立設された壁を有するものが好ましい。受け皿700は、試料破砕部10及び溶媒供給部20の下方、かつ可動式試料ストックテーブル100の上方に配置され、前後に水平移動が可能となっている。受け皿700は1枚であっても2枚以上であってもよく、また独立に移動可能な2枚以上であってもよい。
【0038】
抽出濾過部Aにおける作用を説明する。可動式試料ストックテーブル100には、所定量の農産物等の試料が入れられた試料コップ110が配置される。試料コップ110には溶媒供給部20から水及び抽出溶媒が順次注入される。好ましくは、水が注入された後、水を試料に浸透させる時間を設けてから抽出溶媒が注入される。次に、試料コップ110の上に試料破砕部10が位置するように、可動式試料ストックテーブル100が移動する。試料破砕部10に設けられたホモジナイザー11が試料コップ110内に降ろされ、シャフト12の回転によりカッター15で試料コップ110内の試料、水及び抽出溶媒を破砕撹拌する。破砕撹拌後、試料コップ110の下に第1の試料容器210が位置するように、可動式試料ストックテーブル100及び必要に応じて第1の可動式容器ストックテーブル200が移動する。次に、試料コップ110の放出口120が開口され、試料コップ110内部の濾紙140を通過した濾液が第1の試料容器210に注入される(濾過)。このとき、溶媒供給装置21の蓋部23が試料コップ110の口に嵌合するとともに、チューブ22から加圧空気が注入されてもよい(加圧濾過)。なお、ホモジナイザー11のシャフト12は脱着可能となっているため、破砕撹拌操作毎に取り外して洗浄又は交換することができる。
【0039】
濾液が注入された第1の試料容器210は、第1の可動式容器ストックテーブル200が移動することによりメスアップ部Bへと移送される。また、必要に応じて、メスアップ部Bへと移送される前に、「洗い込み」を実施するための動作が追加的に実行されてもよい。「洗い込み」により、濾過残渣、濾紙140又は試料コップ110に残存する農薬等の更なる回収が可能となり、農薬等の回収率が向上する。
【0040】
抽出濾過部Aにおける「洗い込み」の作用を説明する。試料コップ110から第1の試料容器210内に濾液が注入された後、試料コップ110の放出口120が閉口され、試料コップ110に溶媒供給装置21から抽出溶媒が再度注入される。次に試料コップ110の上に試料破砕部10が位置するように、可動式試料ストックテーブル100が移動する。試料破砕部10に設けられたホモジナイザー11が試料コップ110内に降ろされ、シャフト12の回転によりカッター15で試料コップ110内の濾過残渣及び抽出溶媒を破砕撹拌する。破砕撹拌後、試料コップ110の下に、濾液が注入された第1の試料容器210が位置するように、可動式試料ストックテーブル100が移動する。次に、試料コップ110の放出口120が開口され、試料コップ内部の濾紙140を通過した濾液が再度第1の試料容器210に注入される(濾過)。このとき、溶媒供給装置21の蓋部23が試料コップ110の口に嵌合するとともに、チューブ22から加圧空気が注入されてもよい(加圧濾過)。なお、この「洗い込み」は、ホモジナイザー11による破砕撹拌が省略され、第1の試料容器210の上に試料コップ110が配置されたまま、溶媒供給装置21から抽出溶媒が試料コップ110内に注入される等の簡易的なものであってもよい。また、上述の「洗い込み」は、複数回繰り返し実行されてもよい。
【0041】
受け皿700を含む場合、試料コップ110とホモジナイザー11又は溶媒供給装置21とが分離した際、試料破砕部10又は溶媒供給部20と可動式試料ストックテーブル100との間に位置するよう受け皿700がF方向にスライドされる(図8参照)。受け皿700が上記所定の位置に位置した後、受け皿700が可動式試料ストックテーブルの上に位置したまま、試料破砕部10又は溶媒供給部20が移動する。これにより、他の試料に由来する落下物(溶媒等の液垂れ)の混入を防ぐことができる。
【0042】
メスアップ部Bは、第1の試料容器210と、第1の可動式容器ストックテーブル200と、メスアップ装置30と、第1の撹拌手段40とを含む。次に、メスアップ部Bの各構成を図面に基づいて詳細に説明する。
【0043】
図9に示すメスアップ装置30は、タンク4から抽出溶媒が供給されるパイプ31と、プーリ32と、プーリ32に張られたベルト33とを具備する。パイプ31は、プーリ32及びベルト33により、上下方向に移動が可能となっている。メスアップ装置30は、モータ(図示せず)により前後水平方向に移動が可能となっており、複数の第1の試料容器210に順に抽出溶媒を注入するように作動する。
【0044】
図10に示す第1の撹拌手段40は、支持部材に、第1の可動式容器ストックテーブル200が保持できる第1の試料容器210の数と同数(12個)のバブリング装置41が配置されている(図10には6個のみ図示。)。バブリング装置41が配置されている間隔は、第1の試料容器210が配置されている間隔と一致しており、全ての第1の試料容器210内の試料液を同時に撹拌するように動作する。バブリング装置41は、コンプレッサー(図示せず)に接続されたチューブ42と、接続部43と、脱着自在のパイプ44とを具備する。バブリング装置41は、上下方向に移動が可能となっている。また、パイプ44は接続部43で脱着が可能となっている。なお、第1の撹拌手段40としては、バブリング装置41のほかに、振盪装置、超音波発生装置、撹拌子と磁気スターラーとの組み合わせ等の手段を用いることができる。ここで、第1の撹拌手段40として、試料液に触れない超音波発生装置等の撹拌手段とすれば、試料毎の洗浄又は交換が不要となる点で好ましい。一方、第1の撹拌手段40として、本実施形態に係るバブリング装置41とすれば、短時間で効率よく撹拌できる点で好ましい。
【0045】
メスアップ部Bにおける作用を説明する。抽出濾過部Aで濾液を注入された第1の試料容器210がメスアップ装置30の下に位置するように、第1の可動式容器ストックテーブル200が移動する。メスアップ装置30のパイプ31が、第1の試料容器210内まで降ろされ、第1の可動式容器ストックテーブル200に設けられた界面センサー205からの制御信号に基づいて、メスアップ装置30から総量が所定量となるよう抽出溶媒を第1の試料容器210に注入する。なお、このときパイプ31の下端位置は、所定量にメスアップされた際の試料液の液面より上方に位置するように制御されている。これにより、パイプ31が第1の試料容器210内の試料液に触れないため、試料毎のパイプ31の交換又は洗浄が不要である。
【0046】
次に、第1の試料容器210がバブリング装置41の動作範囲内(バブリング装置41の下)に位置するように、第1の可動式容器ストックテーブル200が移動する。バブリング装置41のパイプ44が第1の試料容器210内に降ろされ、パイプ44が試料液に浸かった状態で空気のバブリングが行われる。これにより、第1の試料容器210内の試料液が撹拌される。なお、パイプ44は接続部43で脱着可能となっているため、試料毎に取り外して洗浄又は交換することができる。
【0047】
試料液が撹拌された第1の試料容器210は、第1の可動式容器ストックテーブル200が移動することにより分注部Cへと移送される。
【0048】
分注部Cは、第1の試料容器210と、第1の可動式容器ストックテーブル200と、分注装置50と、チップストックテーブル600と、第2の撹拌手段80と、第3の試料容器310と、第2の可動式容器ストックテーブル300と、緩衝液供給装置500と、第2の試料容器810と、溶媒回収装置60とを含む。なお、チップストックテーブル600は複数備えられていてもよい。本実施形態に係る残留農薬自動前処理システムでは分注装置50用チップストックテーブル600と溶媒回収装置60用チップストックテーブル600とが備えられている(図1及び2参照)。分注部Cは、抽出溶媒供給装置と、漏斗91と、漏斗ストックテーブル90とを更に含んでもよい。以下、分注部Cの各構成を図面に基づいて詳細に説明する。
【0049】
図11に示す分注装置50は、支持部材57と、着脱自在のピペット端51と、ピペット端51に嵌合するとともに、内部に通気口を具備する嵌合部位52と、一端を注射器(図示せず)の先端に、他端を嵌合部位52に接続されたチューブ53と、押下棒55と連動してピペット端51を押し下げ、ピペット端51を嵌合部位52から離脱させるイジェクト部54と、ピペット端51、嵌合部位52及びイジェクト部54の上下動を制御する制御棒56とを具備する。分注装置50(ピペット装置)は、前後左右に水平移動が可能となっている。また、上下位置を制御する制御棒56の上下動により、鉛直方向に垂直移動が可能となっている。2つあるピペット装置はそれぞれ独立に制御される。
【0050】
図12に示すチップストックテーブル600は未使用のピペット端51を保持するホルダー部650と、使用済みのピペット端51を廃棄するための廃棄部640と、ピペット端51の有無を感知するセンサー部630とを具備する。ピペット端51はプラスチック製チップ等のディスポーザブルタイプとするのが、洗浄等が不要となるため好ましい。
【0051】
ここで、分注装置50の作用を説明する。分注装置50は、チューブ53で接続された注射器の動作に従って、ピペット端51で空気の出し入れが生じる。試料液にピペット端51の先端を浸漬した状態で、注射器で空気を引き込むことにより試料液を吸い上げる。他方、注射器で空気を押出すことによりピペット端51に保持されている試料液を吐出する。分注装置50はピペット端51のない状態でチップストックテーブル600の上に移動する。次に制御棒56の下方への移動に伴い、嵌合部位52とピペット端51とが嵌合する。ピペット端51を装填したピペット装置は、制御棒56が元の位置に戻った後、試料液の入った第1の試料容器210の上へ移動する。制御棒56により試料液とピペット端51が接触する位置まで下方へ降ろされ、注射器の動作に従って試料液を吸い上げる。制御棒56が元の位置に戻った後、第2の試料容器810の上へ移動する。制御棒56によりピペット端51が第2の試料容器810内に位置するよう降ろされ、注射器の動作に従って試料液を吐出する。なお、例えば、上記動作の実行が1回のみでは第2の試料容器810内の試料液量が所定量に達しない場合、ピペット端51から試料液が吐出された後、ピペット端51を装填したままピペット装置は、制御棒56が元の位置に戻った後、第1の試料容器210の上へ再度移動する。以降、上記動作を繰り返して、第2の試料容器810内に試料液を吐出する。この繰り返し操作を数回実行して所定量とすることもできる。
【0052】
次に、制御棒56が元の位置に戻った後、センサー部630を通過するようにして、チップストックテーブル600の廃棄口640まで移動する。センサー部630を通過する際、赤外線センサー発信部610と受信部620により、分注装置50の先端にピペット端51の存在を感知し、分注装置50の先端にピペット端51が装着されているか否かが判別される。ピペット端51の存在が感知されなかった場合、第2の試料容器810への分注作業が正しく行われなかったものとして、警報等によるオペレーターへの通知がなされる。また、第2の試料容器810が複数ある場合、ピペット端51が感知されなかった試料(検体)についてのみ、分注作業が正しく行われなかったものとして、当該試料のみ以降の動作を中止するようプログラムすることもできる。なお、センサー部630は設置しなくてもよい。また、分注作業後にセンサー部630で感知するだけではなく、分注作業前のピペット端51装着時にもセンサー部630を通過させ、ピペット端51の装着ミスを感知させることもできる。分注装置50は、ピペット端51がセンサー部630を通過後、ピペット端51が廃棄口640上まで移動すると、押下棒55が制御棒56に対して相対的に押し下げられてピペット端51が嵌合部位52から外れ、廃棄口640にピペット端51が廃棄される。
【0053】
図13は、本実施形態に係る分注装置(ピペット装置)50の動作を示す説明図である。図13には、第2の試料容器810を保持するストックテーブル800を例として示した。ピペット装置50(図示せず)は、ピペット端51が第2の試料容器810の間を通るように(すなわち、第2の試料容器810の真上を通らないように)前後水平方向M、左右水平方向Rに移動する。これにより、ピペット端51からの落下物が第2の試料容器810内に入ることを防ぐことができる。なお、本実施形態では、第2の試料容器810の数(ストックテーブル800に保持できる数)は、第1の試料容器210の数の2倍(24本)である。分注装置50により、1本の第1の試料容器210から2本の第2の試料容器810に試料液が分注される。これにより、同一の試料液からGC/MS分析用のサンプルとLC/MS分析用のサンプルが得られる。また、本実施形態では、第2の試料容器810の数が、第1の試料容器210の数の2倍となっているが、この点は適宜設定可能なものであって、第2の試料容器810の数を第1の試料容器210の数と同じに設定することもできるし、又は3倍、4倍に設定することもできる。
【0054】
図14に示す第2の撹拌手段80はマグネチックスターラー81を具備する。第2の試料容器810内には予め撹拌子が備えられている。この撹拌子とマグネチックスターラー81とで、第2の試料容器810内の有機溶媒(抽出溶媒)と水溶液(緩衝液及び試料液)とを撹拌混合する。なお、第2の撹拌手段80としては、これに限られず、バブリング装置、振盪装置等を用いることもできる。また、第2の試料容器810としては、ガラス製容器、プラスチック製容器、金属製容器等が用いられる。
【0055】
図15に示す第2の可動式容器ストックテーブル300は、第2の試料容器810の数と同数(24個)の第3の試料容器310が配置される。第2の可動式容器ストックテーブル300は、ヒートブロック320を備えている。また、第2の可動式容器ストックテーブル300は、モータ(図示せず。)の動作によりレール(図示せず。)に沿って、左右水平方向に移動が可能となっている。第3の試料容器310としては、ガラス製容器、プラスチック製容器、金属製容器等が用いられる。
【0056】
図16に示す緩衝液供給装置500は、タンク5から緩衝液が供給されるパイプ510と、プーリ520と、プーリ520に張られたベルト530とを具備する。パイプ510は、プーリ520及びベルト530により、上下方向に移動する。緩衝液供給装置500は、モータ(図示せず)により前後左右水平方向に移動が可能となっており、複数(24個)の第2の試料容器810に順に緩衝液を注入するように動作する。なお、緩衝液の注入時、パイプ510の先端は第2の試料容器810内に下降されるが、緩衝液注入後の液面に触れないように制御される。これにより、試料毎のパイプ510の洗浄又は交換が不要である。
【0057】
図17に示す溶媒回収装置(ピペット装置)60は、支持部材67と、着脱自在のピペット端61と、ピペット端61に嵌合するとともに、内部に通気口を具備する嵌合部位62と、一端を注射器(図示せず)の先端に、他端を嵌合部位62に接続されたチューブ63と、押下棒65と連動してピペット端61を押し下げ、ピペット端61を嵌合部位62から離脱させるイジェクト部64と、ピペット端61、嵌合部位62及びイジェクト部64の上下動を制御する制御棒66とを具備する。溶媒回収装置60(ピペット装置)は、前後左右に水平移動が可能となっている。また、上下位置を制御する制御棒66の上下動により、鉛直方向に垂直移動が可能となっている。2つあるピペット装置はそれぞれ独立に制御される。具体的な作動は分注装置50と同様である。また、分注装置50の場合と同様に、ピペット端61はプラスチック製チップ等のディスポーザブルタイプとすることができる。さらに、図12に示すチューブストックテーブル600が溶媒回収装置60用に備えられていてもよい。この場合のチューブストックテーブル600の構成及び作用は、上述したものと同様である。
【0058】
図18に示す漏斗ストックテーブル90は、第3の試料容器310の数と同数(24個)の、脱水剤92が充填された漏斗91が配置されている。漏斗91が配置されている間隔は、第3の試料容器310が配置されている間隔と一致している。第2の可動式容器ストックテーブル300の上に漏斗ストックテーブル90が配置され、各漏斗91からの抽出溶媒層の落下完了を待つことなく、全ての漏斗91に抽出溶媒層を注入するように作動する。また、脱水剤92としては、例えば、無水硫酸ナトリウム、シリカゲル、塩化カルシウム、五酸化ニリンが挙げられる。
【0059】
図16に示す緩衝液供給装置500は、再抽出のための抽出溶媒供給装置としても用いられる。パイプ510と、緩衝液を貯蔵するタンク5との接続を、バルブ(図示せず。)により、パイプ510と、抽出溶媒を貯蔵するタンク4との接続に切り替えることによって、抽出溶媒供給装置として作動する。なお、本実施形態では緩衝液供給装置500を、抽出溶媒供給装置として兼用しているが、それぞれ別々に設けることもできる。
【0060】
分注部Cにおける作用を説明する。予め所定量の塩化ナトリウムが入れられた第2の試料容器810に、緩衝液供給装置500により所定量の緩衝液が注入される。なお、空の第2の試料容器810に、緩衝液供給装置500により所定量の緩衝液が注入された後、所定量の塩化ナトリウムが投入されてもよい。また、緩衝液供給装置500を用いない場合、所定量の塩化ナトリウム、及び所定量の緩衝液が予め入れられた第2の試料容器810を用いてもよい。
【0061】
メスアップ部Bによってメスアップされた試料液を含む第1の試料容器210が所定の位置に位置するよう、第1の可動式容器ストックテーブル200が移動する。所定の位置に到達した後、上述した分注装置50の動作に従って、分注装置50が第1の試料容器210から所定量の上記試料液を吸い上げる。次に分注装置50が上記緩衝液の入った第2の試料容器810の上に移動し、吸い上げた試料液を第2の試料容器810内に吐出する。第2の試料容器810内に吐出された試料液の量が所定量に達するまで、分注装置50の上記動作が繰り返される。
【0062】
次に、第2の試料容器810内の上記緩衝液と上記試料液が第2の撹拌手段80により撹拌される(液−液抽出)。撹拌後、水層(緩衝液層)と有機溶媒層(抽出溶媒層)とが分離するまでの所定の時間、第2の試料容器810は静置される。所定時間静置した後、溶媒回収装置60が第2の試料容器810の上に移動し、上述した分注装置50と同様の動作により、第2の試料容器810内の上層(有機溶媒層)を吸い上げる。その後、溶媒回収装置60が、第3の試料容器310の上に移動し、吸い上げた有機溶媒層を第3の試料容器310内に吐出する。第3の試料容器310内に吐出された有機溶媒層の量が所定量に達するまで、溶媒回収装置60の上記動作が繰り返される。
【0063】
これらの作用により、第3の試料容器310内に有機溶媒層に抽出された農薬等が回収される。この回収された農薬等は、そのまま以降の分析検査に用いることができる。なお、上記実施形態では、予め緩衝液が入れられた第2の試料容器810に、分注装置50によって試料液を吐出するように作用しているが、分注装置50によって第2の試料容器810内に試料液を吐出した後に、緩衝液供給装置500で緩衝液を加えてもよい。
【0064】
抽出溶媒供給装置(本実施形態の場合、緩衝液供給装置500と兼用)の作用について説明する。抽出溶媒供給装置は、溶媒回収装置60により所定量の上記抽出溶媒層が吸い上げられた第2の試料容器810内に所定量の抽出溶媒を注入する。ここで、第2の撹拌手段80により、第2の試料容器810内の緩衝液層、抽出溶媒層及び注入された抽出溶媒が撹拌される(再抽出)。撹拌後、水層(緩衝液層)と有機溶媒層(抽出溶媒層)とが分離するまでの所定の時間、第2の試料容器810は静置される。所定時間静置した後、溶媒回収装置60が第2の試料容器810の上に移動し、上述した分注装置50と同様の動作により、第2の試料容器810内の上層(有機溶媒層)を吸い上げる。その後、溶媒回収装置60が、先の液−液抽出で回収した抽出溶媒層を含む第3の試料容器310の上に移動し、吸い上げた有機溶媒層を第3の試料容器310内に吐出する。この再抽出により、農薬等の回収率を向上させることができる。また、更に回収率を向上させるために、この再抽出の動作が複数回繰り返されてもよい。なお、農薬等を含む抽出溶媒層を回収する手段としては、分液ロートを用いる場合のように水層(緩衝液層)を廃棄することで残った抽出溶媒層を回収する手段と、溶媒回収装置60のように抽出溶媒層を吸い上げて回収する手段が考えられるが、液−液抽出の際、稀に水層と抽出溶媒層の間にエマルジョン層が形成されることがあるが、このような場合、本実施形態のように抽出溶媒層を吸い上げて回収する手段において、再抽出を行って、抽出溶媒層を繰り返し回収する方が有利である。
【0065】
分注部Cが、漏斗91と、漏斗ストックテーブル90とを更に含む場合の作用について説明する。第3の試料容器310がセットされた第2の可動式容器ストックテーブル300の上方に、脱水剤92が充填された漏斗91がセットされた漏斗ストックテーブル90が配置するように移動する。上述の液−液抽出及び再抽出の動作において、溶媒回収装置60は抽出溶媒層を漏斗91内に吐出する。これにより、抽出溶媒層が各漏斗91を通して第3の試料容器310内に注入される。漏斗91内には脱水剤92が充填されているため、脱水剤92により水分が吸収された有機溶媒層が第3の試料容器310内に回収される。
【0066】
本実施形態に係る残留農薬自動前処理システムは、上記のほか、気化装置70、溶媒量制御装置400等を更に備えていてもよい。
【0067】
図19に示す気化装置70は、窒素ガスボンベに接続されたチューブ72と、チューブ72と接続されたパイプ71と、チューブ72及びパイプ71の接続部を支持する支持台73とを具備する。支持台73は鉛直方向に上下運動することができる。気化装置70の作用を説明する。抽出溶媒層を回収した第3の試料容器310が、パイプ71の下に位置するように第2の可動式容器ストックテーブル300が移動する。パイプ71は支持台73の上下動に随伴して上下方向に移動する。チューブ72から送られてきた窒素ガスがパイプ71を通して第3の試料容器310内に送られ、第3の試料容器310内の抽出溶媒を蒸発させることができる。このとき、第2の可動式容器ストックテーブル300のヒートブロック320で第3の試料容器310を加熱してもよい。加熱は通常40℃程度の低温で行われる。気化装置70の作用により、農薬等を濃縮又は乾固することが可能となり、以降の分析操作に適した溶媒に容易に置換することができ、分析効率が向上する。
【0068】
図20に示す溶媒量制御装置400は、注射器本体410と、注射器内容量を制御するピストン430と、制御信号に基づいてピストン430を所要距離上下動させるモータ440と、自動1点4方バルブを介して貯蔵タンク3、4又は5に接続されたチューブ420とを具備する。溶媒量制御装置400は、貯蔵タンク3、4又は5から水、抽出溶媒又は緩衝液を吸い上げ、制御信号に従って所定量の水、抽出溶媒又は緩衝液を送り出すことができる。
【0069】
次に本実施形態に係る残留農薬自動前処理システム1000を用いた残留農薬抽出方法について図21〜24に示す操作フローを参照しながら説明する。ただし、時間、添加量等の数値パラメーターは、以下に記載したものに限られず、公定法と同等以上の回収率が担保される限り、適宜設定することができる。
【0070】
〔抽出濾過工程〕
抽出濾過工程は、農産物等の試料から抽出溶媒(例えば、アセトニトリル、アセトン)に農薬等を溶出させ、固液分離を行う工程である。以下、図21に示す操作フローに基づいて抽出濾過工程についてより具体的に説明する。
【0071】
試料コップ110を取り出して、検査対象となる農産物等の試料(例えば、乾燥ネギ)を必要量天秤等にて計量して投入する。試料を投入した試料コップ110を可動式試料ストックテーブル100に配置する。試料コップ110が複数ある場合、それぞれについて上記操作を行う。
【0072】
試料コップ110の配置が完了したら、残留農薬自動前処理システム1000により、抽出濾過以降の工程を行う。以降の工程(ステップ)は、特に明記しない限り、自動化されており、例えば、自動化プログラムの制御に基づき、残留農薬自動前処理システム1000により自動的に実行される。なお、自動化プログラムは公知のものを適宜修正、又は組み合わせて使用することができる。以下、残留農薬自動前処理システム1000における装置の動作に基づいて、抽出濾過工程を説明する。
【0073】
まず、試料コップ110の上方に溶媒供給部20が位置するように、可動式試料ストックテーブル100を移動させるステップが実行される。次に溶媒供給装置21が、試料の入った試料コップ110内に水及び抽出溶媒を順次注入するステップが実行される。このステップでは、まず水20mlを注入し、10分間静置して水を農産物試料に浸透させた後、抽出溶媒(アセトニトリル)50mlを注入する。その後、溶媒供給装置21により水及び抽出溶媒を注入された試料コップ110が、試料破砕部10(ホモジナイザー11)の下方に位置するように、可動式試料ストックテーブル100を移動させるステップが実行される。
【0074】
引き続き、ホモジナイザー11が、試料コップ110内部の試料、水及び抽出溶媒を粉砕撹拌するステップが実行される。このステップでは、粉砕撹拌を5分間行う。
【0075】
粉砕撹拌後、ホモジナイザー11により内部の試料、水及び抽出溶媒が粉砕撹拌された試料コップ110が、第1の可動式容器ストックテーブル200に保持された第1の試料容器210の上方に位置するように、可動式試料ストックテーブル100を移動させるステップが実行される。
【0076】
その後、可動式試料ストックテーブル100に備えられた放出口開閉制御部(図示せず)により、試料コップ110の放出口120が開口されるステップが実行される。このステップにより、試料コップ110内に備えられている濾紙140を通して濾液(溶質を含む水、抽出溶媒等の液体分)が放出口120から吐出され、第1の試料容器210に回収される。そして、試料コップ110内には濾過残渣(農産物試料の破砕物等の固体分)が残る。この濾過操作は、自然落下による濾過であってもよく、また溶媒供給装置21が、溶媒供給装置21に接続されたコンプレッサーから送られる加圧空気を試料コップ110内に注入するステップが実行されてもよい。このステップにより、試料コップ110内に圧力がかかり、加圧濾過となる。
【0077】
次に、試料コップ110内の濾過残渣を抽出溶媒で再抽出する工程(濾過残渣再抽出工程)を実行する。この再抽出の工程では、まず、試料コップ110から濾液を吐出させた後、可動式試料ストックテーブル100に備えられた放出口開閉制御部により試料コップ110の放出口120が閉口されるステップが実行される。次に、溶媒供給装置21が、濾液を放出し、濾過残渣が残った試料コップ110に抽出溶媒を再注入するステップが実行される。このときの抽出溶媒(アセトニトリル)量は20mlである。溶媒供給装置21により抽出溶媒を再注入された試料コップ110が、試料破砕部10(ホモジナイザー11)の下方に位置するように、可動式試料ストックテーブル100を移動させるステップが実行される。ホモジナイザー11が、試料コップ110内部の濾過残渣及び抽出溶媒を粉砕撹拌するステップが実行される。このステップでは、粉砕撹拌を1分間行う。内部の濾過残渣と、再注入された抽出溶媒とが、ホモジナイザー11により粉砕撹拌された後、試料コップ110が、第1の可動式容器ストックテーブル200に保持された第1の試料容器210の上方に位置するように、可動式試料ストックテーブル100を移動させるステップが実行される。可動式試料ストックテーブル100に備えられた放出口開閉制御部(図示せず)により、試料コップ110の放出口120が開口されるステップが実行される。これにより、濾紙140を通して放出口120から吐出される(再抽出)濾液を、最初の濾過による濾液が入った第1の試料容器210に回収する。上述した再抽出する工程により、農薬等の回収率が向上する。なお、この再抽出する工程において、ホモジナイザー11による粉砕撹拌を省略してもよい。また、再抽出する工程は複数回繰り返してもよいし、再抽出する工程自体を省略することもできる。
【0078】
なお、ホモジナイザー11はシャフト12が脱着自在となっているため、オペレーターが、農産物試料毎にホモジナイザー11のシャフト12を取り外して洗浄又は交換することができる。これによりクロスコンタミネーションを低減できる。
【0079】
〔メスアップ工程〕
メスアップ工程は、抽出濾過工程で得た濾液の総容量を予め設定された容量に調整し、試料液を調整する工程である。以下、図22に示す操作フローに基づいてメスアップ工程についてより具体的に説明する。
【0080】
まず、試料コップ110の放出口120から放出される濾液を受けた第1の試料容器210が、メスアップ装置30の下方に位置するように、第1の可動式容器ストックテーブル200を移動させるステップが実行される。
【0081】
メスアップ装置30が、濾液を回収した第1の試料容器210内に、抽出溶媒(アセトニトリル)を加えて100mlにメスアップするステップが実行される。なお、第1の可動式ストックテーブル200に設けられた界面センサー205は、メスアップ規定位置に配置されており、界面センサーが液面を感知するまでメスアップ装置30により抽出溶媒(アセトニトリル)を加えることで、規定量にメスアップすることができる。
【0082】
メスアップ後、メスアップ装置30により内部に試料液が調整された第1の試料容器210が、第1の撹拌手段40(バブリング装置41)の下方に位置するように、第1の可動式容器ストックテーブル200を移動させるステップが実行される。第1の撹拌手段40(バブリング装置41)が、第1の試料容器210内の試料液を撹拌するステップが実行される。第1の撹拌手段40がバブリング装置41の場合、バブリング装置41が加圧空気(又は窒素ガス)を第1の試料容器210内の試料液にバブリングするステップが実行される。
【0083】
〔バッファ分注工程〕
バッファ分注工程は、農薬等を含む抽出溶媒を液−液抽出するための所定量の緩衝液を分注する工程である。以下、図22に示す操作フローに基づいてバッファ分注工程についてより具体的に説明する。
【0084】
オペレーターが、所定量の塩化ナトリウム、及び撹拌子を投入した第2の試料容器810を、第2の撹拌手段80(マグネチックスターラー81)の上に設けられたストックテーブル800に配置する。続いて緩衝液供給装置500により、第2の試料容器810内に緩衝液20ml(リン酸バッファ)を注入するステップが、メスアップ工程と並行して、実行される。
【0085】
本実施形態の場合、第2の試料容器810の数は、第1の試料容器210の数の2倍である。第1の試料容器210内の試料液を2本の第2の試料容器810に分配することで、ガスクロマトグラフィー(GC)分析用のサンプルと、液体クロマトグラフィー(LC)分析用のサンプルを得ることができる。なお、この点は適宜設定可能なものであって、第2の試料容器810の数を第1の試料容器210の数と同じにしてもよいし、又は3倍、4倍に設定することもできる。
【0086】
なお、バッファ分注工程は、必ずしもメスアップ工程と並行して実施する必要はなく、以下に説明する第1の分注工程において、第2の試料容器810内に試料液を分注した後に実施してもよい。また、緩衝液供給装置500を使用せず、予め、オペレーターが、所定量の塩化ナトリウム、及び撹拌子に加えて、所定量の緩衝液(リン酸バッファ)を投入した第2の試料容器810を準備しておき、これをストックテーブル810に配置してもよい。所定量の塩化ナトリウム、撹拌子、所定量の緩衝液(リン酸バッファ)を第2の試料容器810に投入する操作は、オペレーターによらず、これらを投入する装置を残留農薬自動前処理システム1000に組み込んで自動化してもよい。
【0087】
〔第1の分注工程〕
第1の分注工程は、メスアップ工程で得た試料液をバッファ分注工程で分注した緩衝液で液−液抽出する工程である。以下、図23に示す操作フローに基づいて第1の分注工程についてより具体的に説明する。
【0088】
第1の撹拌手段40により内部の試料液が撹拌された第1の試料容器210が、分注装置50(ピペット装置)の動作範囲内に位置するように、第1の可動式ストックテーブル200を移動させるステップが実行される。分注装置50(ピペット装置)が、チップストックテーブル600の上方に移動し、ピペット端51をセットするステップが実行される。次に分注装置50(ピペット装置)が、第1の試料容器210の上方に移動し、試料液を吸い上げた後、第2の試料容器810の上方に位置するように移動し、吸い上げた試料液を第2の試料容器810内に注入するステップが実行される。このステップで吸い上げる試料液の量は10mlである。また、このステップは2回繰り返され、第2の試料容器810の1個あたり計20mlの試料液が分注される。なお、ピペット端51は、ディスポーザブルタイプのプラスチック製チップとなっており、試料毎にピペット端51を交換することができる。
【0089】
第2の撹拌手段80(マグネチックスターラー81及び予め第2の試料容器810内に投入されていた撹拌子)が、第2の試料容器810内部の試料液及び緩衝液(塩化ナトリウムを含む。)を撹拌するステップが実行される。このステップにおける撹拌時間は10分間である。撹拌後、第2の試料容器810は10分間静置され、抽出溶媒層と緩衝液層とが分離する。
【0090】
溶媒回収装置60(ピペット装置)が、チップストックテーブル600の上方に移動し、ピペット端61をセットするステップが実行される。次に溶媒回収装置60(ピペット装置)が、第2の試料容器810の上方に移動し、分離した抽出溶媒層(上層)を吸い上げた後、第3の試料容器310の上方に位置するように移動し、吸い上げた抽出溶媒層を第3の試料容器310内に注入するステップが実行される。このステップで吸い上げる抽出溶媒層の量は5mlである。また、このステップは3回繰り返され、第3の試料容器310の1個あたり計15mlの抽出溶媒層が注入される。なお、ピペット端61は、ディスポーザブルタイプのプラスチック製チップとなっており、試料毎にピペット端61を交換することができる。
【0091】
なお、本実施形態では、第3の試料容器310の口には、脱水剤92(無水硫酸ナトリウム)が充填された漏斗91(グーチロート)が装着されており、回収された抽出溶媒層は脱水剤92及びグーチロートを通って第3の試料容器310内に回収される。これにより抽出溶媒層の水分が除去される。
【0092】
〔第2の分注工程〕
第2の分注工程は、第1の分注工程を繰り返すことにより、液−液抽出後の緩衝液相層を再抽出する工程である。第2の分注工程は、実施しなくてもよく、また、1回又は2回以上繰り返してもよい。以下、図24に示す操作フローに基づいて第2の分注工程についてより具体的に説明する。
【0093】
抽出溶媒供給装置(本実施形態では緩衝液供給装置500の併用)が、溶媒回収装置60により所定量(15ml)の抽出溶媒層が吸い上げられ、緩衝液層及び残余の抽出溶媒層(約5ml)が残存した第2の試料容器810内に、所定量(5ml)の抽出溶媒(アセトニトリル。図24では、「洗浄液」として示す。)を再注入するステップが実行される。
【0094】
第2の撹拌手段80(マグネチックスターラー81及び予め第2の試料容器810内に投入されていた撹拌子)が、第2の試料容器810内部の緩衝液層、残余の抽出溶媒層、及び抽出溶媒(洗浄液)を撹拌するステップが実行される。撹拌後、第2の試料容器810は5分間静置され、抽出溶媒層と緩衝液層とが分離する。溶媒回収装置60(ピペット装置)が、チップストックテーブル600の上方に移動し、ピペット端61をセットするステップが実行される。なお、第1の分注工程において溶媒回収装置60(ピペット装置)により抽出溶媒層(上層)を回収した試料と、第2の分注工程において溶媒回収装置60(ピペット装置)により抽出溶媒層(上層)を回収する試料とが同一の試料である場合、ピペット端61は第1の分注工程で用いたものを使い回すことができるため、このステップは省略されることもある。次に溶媒回収装置60(ピペット装置)が、第2の試料容器810の上方に移動し、分離した抽出溶媒層を吸い上げた後、第3の試料容器310の上方に位置するように移動し、吸い上げた抽出溶媒層を第3の試料容器310内に注入するステップが実行される。このステップで吸い上げる抽出溶媒層の量は5mlである。また、このステップは2回繰り返され、第3の試料容器310の1個あたり計10mlの抽出溶媒層が更に注入される(合計25mlとなる)。
【0095】
また、本実施形態では、第3の試料容器310の口には、脱水剤92(無水硫酸ナトリウム)が充填された漏斗91(グーチロート)が装着されており、回収された抽出溶媒層は脱水剤92及びグーチロートを通って第3の試料容器310内に回収される。これにより抽出溶媒層の水分が除去される。なお、脱水剤92及びグーチロートは、第2の分注工程のために未使用のものを用意する必要はなく、各試料について、第1の分注工程で使用したものと同じものを用いることができる。これにより回収率が更に向上する。
【0096】
抽出溶媒層回収後の第3の試料容器310は、下記チッソガス乾固工程を実施しない場合は、第2の可動式容器ストックテーブル300のヒートブロック320(加熱及び冷却が可能となっている)により温度を調節し、10℃で保持することができる。
【0097】
〔チッソガス乾固工程〕
チッソガス乾固工程は、農薬等を含む抽出溶媒から抽出溶媒のみを蒸発させ、農薬等を濃縮又は乾固する工程である。
【0098】
抽出溶媒層が回収された第3の試料容器310が、気化装置70の下方に位置するように、第2の可動式容器ストックテーブル300を移動させるステップが実行される。気化装置70が、第3の試料容器310内に窒素ガスを噴き込むステップが実行される。このステップにより第3の試料容器310内の抽出溶媒が気化し、残留農薬が乾固又は濃縮される。チッソガス乾固工程においては、第2の可動式容器ストックテーブル300のヒートブロック320により、第3の試料容器310を30〜40℃に加温するステップが実行されてもよい。
【実施例】
【0099】
<農薬等の一斉試験法(農産物)>
GC/MS法、LC/MS−I法及びLC/MS−II法について、前処理(農薬等の抽出)を、本発明に係る残留農薬自動前処理システム(以下、「本システム」ともいう。)を用いて実施した場合と、上述した厚生労働省が定める「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法」(平成17年1月24日付け食安発第0124001号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通)の、(ア)、(イ)、(ウ)に規定される抽出の手順(いずれも「(2)果実、野菜、ハーブ、茶及びホップの場合」の手順)(以下、「公定法」ともいう。)に従って、試験官により実施した場合とで、抽出される農薬等を比較した。
【0100】
〔本システムを用いた試験溶液の調製〕
[本システムにおける乾燥ネギの前処理]
栽培過程において農薬等が使用されていることが明らかなネギを熱風乾燥して乾燥ネギを得た。乾燥ネギ5.00gを電子天秤で秤量し、試料コップ110に投入後、可動式試料ストックテーブル100にセットして、本システムを用いて自動的に残留農薬を抽出した(図21〜図24の方法)。気化装置70を用いて濃縮又は乾固させGC−MS分析用及びLC−MS分析用のサンプルを得た。秤量から濃縮又は乾固までの操作を独立に3回繰り返し、n=3のサンプルを得た。
【0101】
具体的には、5.00gの乾燥ネギを入れた試料コップ110に溶媒供給装置21から水20mlを注入して10分間放置して浸透させ、続いて溶媒供給装置21からアセトニトリル50mlを注入し、ホモジナイザー11で5分間粉砕撹拌した。粉砕撹拌後試料コップ110の放出口120を開け、溶媒供給装置21から加圧空気を注入して加圧濾過し、濾液を第1の試料容器210で受けた。次いで、試料コップ110の放出口120を閉じ、今度は溶媒供給装置21からアセトニトリル20mlを添加し、再びホモジナイザイー11で1分間撹拌粉砕した。その後、試料コップ110の放出口120を開け、溶媒供給装置21から加圧空気を注入して加圧濾過し、濾液を再び第1の試料容器210で受けた。
【0102】
メスアップ装置30によってアセトニトリルを加え、第1の試料容器210内の溶液容量を100mlにメスアップし、バブリング装置41で3分間バブリングし、試料液を得た。このメスアップ操作と並行して、第2の試料容器810に塩化ナトリウム10gを秤量して加え、更に撹拌子を投入した後、緩衝液供給装置500によって、0.05mol/Lのリン酸バッファ(pH7.0)20ml(LC/MS−II法の場合は、0.01mol/Lの塩酸20ml)を注入した。
【0103】
この塩化ナトリウムと緩衝液(リン酸バッファ)の入った第2の試料容器810に、第1の試料容器210から分注装置50(ピペット装置)で試料液20ml(10mlの分注操作を2回繰り返した)を分注した。その後、マグネチックスターラー81により予め第2の試料容器810内に投入してあった撹拌子を回転させ、5分間撹拌した。なお、第2の試料容器810は第1の試料容器210の倍の本数を用意し、デュプリケートを作製して、それぞれGC−MS分析用及びLC−MS分析用のサンプルとした。マグネチックスターラー81を停めて5分間静置し、第2の試料容器810内の液を二層(緩衝液層と抽出溶媒層)に分離させ、溶媒回収装置60(ピペット装置)で上層(抽出溶媒層)を5mlづつ3回、合計15mlを第3の試料容器310に回収した。なお、第3の試料容器310の上方には、脱水剤92(無水硫酸ナトリウム20g)を充填した漏斗91(グーチロート)がセットされており、これを通して回収した抽出溶媒層を第3の試料容器310に移すことで脱水処理した。この後、グーチロート及び無水硫酸ナトリウムをアセトニトリル5mlで洗浄し、第3の試料容器310に回収した。
【0104】
次に、緩衝液層と少量の抽出溶媒層の残った第2の試料容器810に、抽出溶媒供給装置500(本実施例では緩衝液供給装置を兼用)からアセトニトリル5mlを加え、再びマグネチックスターラー81により撹拌子を回転させ1分間撹拌した。マグネチックスターラー81を停めて5分間静置し、溶媒回収装置60(ピペット装置)で上層(抽出溶媒層)を5ml、上記グーチロートを通して第3の試料容器310に回収した(再抽出工程)。この再抽出工程をもう一度繰り返した後、再度、グーチロート及び無水硫酸ナトリウムをアセトニトリル10mlで洗浄し、第3の試料容器310に回収した。
【0105】
上記のようにして第3の試料容器310内に回収した抽出溶媒を20ml以下に濃縮(GC/MS法及びLC/MS−I法の場合)、又は全て蒸発乾固させる(LC/MS−II法の場合)ため、第2の可動式ストックテーブル300のヒートブロック320を35℃に加温し、気化装置70で第3の試料容器310内に窒素ガスを吹き込んだ。窒素ガスの吹き込みは、濃縮の場合は20分間、乾固の場合は90分間行った。
【0106】
以上のようにして、本システムを用いて、前処理(農薬等の抽出)を行った。
【0107】
[GC/MS、LC/MS試験溶液の調製]
次に、上記[本システムにおける乾燥ネギの前処理]で得たサンプル(各n=3)それぞれに対し、以下の処理を施して試験溶液を調製した。
【0108】
GC/MS法及びLC/MS−I法の場合は、20ml以下に濃縮した液を、アセトニトリル10mlでコンディショニングしたオクタデシルシリル化シリカゲルミニカラム(1000ml)に注入し、更にアセトニトリル2mlを注入し、溶出液全量を回収した。溶出液を40℃以下で濃縮し、残留物にアセトニトリル及びトルエン(3:1)混液2mlを加えて溶かした。アセトニトリル及びトルエン(3:1)混液10mlでコンディショニングしたグラファイトカーボン/アミノプロピルシリル化シリカゲル積層ミニカラム(500mg/500mg)に、前操作で得られた液2mlを注入し、その後アセトニトリル及びトルエン(3:1)混液20mlを注入し、溶出液全量を回収した。ろ液を40℃以下で濃縮し、残留物をアセトン及びn−ヘキサン(1:1)混液に溶かして、正確に1mlとしたものを試験溶液とした。
【0109】
LC/MS−II法の場合は、乾固したサンプルに対し、第3の試料容器310にアセトン、トリエチルアミン及びn−ヘキサン(20:0.5:80)混液2mlを加えて溶解したものを、メタノール5ml、アセトン5ml、及びn−ヘキサン10mlでコンディショニングしたシリカゲルミニカラムに注入し、アセトン、トリエチルアミン及びn−ヘキサン(20:0.5:80)混液10mlを注入し、流出液は捨てた。第3の試料容器310内をアセトン及びメタノール(1:1)混液2mlで洗い、その洗液をシリカゲルミニカラムに注入し、更にアセトン及びメタノール(1:1)混液18mlを注入し、溶出液全量を回収した。濾液を40℃以下で濃縮し、残留物をメタノールに溶かして、正確に1mlとしたものを試験溶液とした。
【0110】
〔公定法による試験溶液の調製〕
[公定法による乾燥ネギの前処理、及び試験溶液の調製]
上記〔本システムを用いた試験溶液の調製〕で用いたものと同一ロットの乾燥ネギ5.00gを電子天秤で秤量し、公定法に従って試験官により前処理を行い、GC/MS、LC/MS試験溶液を調製した。前処理から試験溶液の調製までを、独立に3回行い、n=3の試験溶液を得た。また、バラつきを低減するため、本試験法(公定法)に精通した熟練の試験官一名によって前処理を行った。
【0111】
具体的には、GC/MS法及びLC/MS−I法の場合は、上記乾燥ネギ5.00gに水20mlを加え、15分間放置した。これにアセトニトリル50mLを加え、3分間ホモジナイズした後、ロートを使用し、吸引濾過した。得られた濾液にアセトニトリルを加え、100mlに定容した。塩化ナトリウム10g及び0.5mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)20mLが入った分液ロートに、定容した濾液20mlを正確に分取し、10分間振とうした。5分間静置した後、分離した水層(下層)を捨てた。次に、アセトニトリル10mlでコンディショニングしたオクタデシルシリル化シリカゲルミニカラム(1000ml)にアセトニトリル層(上層)を注入し、更にアセトニトリル2mlを注入し、溶出液全量を回収した。溶出液に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、濾過した。濾液を40℃以下でエバポレーターを用いて濃縮し、残留物にアセトニトリル及びトルエン(3:1)混液2mlを加えて溶解した(溶解液A)。アセトニトリル及びトルエン(3:1)混液10mlでコンディショニングしたグラファイトカーボン/アミノプロピルシリル化シリカゲル積層ミニカラム(500mg/500mg)に、溶解液A2mlを注入し、その後アセトニトリル及びトルエン(3:1)混液20mlを注入し、溶出液全量を回収した。濾液を40℃以下でエバポレーターを用いて濃縮し、GC/MS法の場合は残留物をアセトン及びn−ヘキサン(1:1)混液に溶かして、正確に1mlとしたものを試験溶液とした。一方、LC/MS―I法の場合はメタノールに溶かして正確に1mlとしたものを試験溶液とした。
【0112】
LC/MS−II法の場合は、上記乾燥ネギ5.00gに水20mlを加え、15分間放置した。これにアセトニトリル50mLを加え、3分間ホモジナイズした後、ロートを使用し、吸引濾過した。得られた濾液にアセトニトリルを加え、100mlに定容した。塩化ナトリウム10g及び0.01M塩酸20mLが入った分液ロートに、定容した濾液20mlを正確に分取し、10分間振とうした。5分間静置した後、分離した水層(下層)を捨てた。アセトニトリル層(上層)に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、濾過した。濾液を40℃以下でエバポレーターを用いて濃縮し、残留物にアセトン、トリエチルアミン及びn−ヘキサン(20:0.5:80)混液2mlを加えて溶解した(溶解液B)。次に、メタノール5ml、アセトン5ml、及びn−ヘキサン10mlでコンディショニングしたシリカゲルミニカラムに溶解液B2mlを注入し、アセトン、トリエチルアミン及びn−ヘキサン(20:0.5:80)混液10mlを注入し、流出液は捨てた。溶解液Bの入っていた容器内をアセトン及びメタノール(1:1)混液2mlで洗い、その洗液をシリカゲルミニカラムに注入し、更にアセトン及びメタノール(1:1)混液18mlを注入し、溶出液全量を回収した。濾液を40℃以下でエバポレーターを用いて濃縮し、残留物をメタノールに溶かして、正確に1mlとしたものを試験溶液とした。
【0113】
〔農薬等の定性及び定量〕
上記〔本システムを用いた試験溶液の調製〕及び〔公定法による試験溶液の調製〕で得た試験溶液(各n=3)に対し、GC/MS/MS測定及びLC/MS/MS測定により、上記各試験溶液中の農薬等の定性及び定量を行った。
【0114】
GC/MS/MS測定条件は下記のとおり。
測定機器:GC/MS/MS
カラム:5%フェニル−メチルシリコン(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)
カラム温度:50℃(1分)−25℃/分−125℃(0分)−10℃/分−300℃(10分)
注入口温度:240℃
キャリヤーガス:ヘリウム
イオン化モード:EI
注入量:1μl
【0115】
LC/MS/MS測定条件は下記のとおり。
測定機器:LC/MS/MS
カラム:オクタデシルシリル化シリカゲル
カラム温度:40℃
移動相:A液(5mmol/L酢酸アンモニウム水溶液)及びB液(5mmol/L酢酸アンモニウムメタノール溶液)について濃度勾配をかけて送液する。
移動相流量:0.30ml/分
イオン化モード:ESI
注入量:10μl
【0116】
〔検量線の作成〕
GC/MS法では、シペルメトリン、クロルピリホス、エチオン等をはじめとする369種の農薬等について、LC/MS−I法では、ダイムロン、カルボフラン、カルペンタジム等をはじめとする144種の農薬等について、LC/MS−II法では、フルアジホップ、ハロキシホップ、トリアスルフロン等をはじめとする64種の農薬等について、それぞれ標準品を入手し、これらの標準品それぞれについて10ppb、100ppb、200ppbスタンダード溶液を調製して、上記測定条件で測定し、別途検量線を作成した。
【0117】
〔乾燥ネギの分析結果〕
〔本システムを用いた試験溶液の調製〕で得た試験溶液及び〔公定法による試験溶液の調製〕で得た試験溶液のいずれについても表1に記載した農薬等6種が検出された(6種以外の農薬等は全て不検出(N.D.)であった)。GC/MS法についてはメタラキシル(Metalaxyl)、プロシミドン(Procymidone)、ピリメタニル(Pyrimethanil)の3種が検出され、LC/MS−I法ではカルベンダジム(Carbendazim)、オメトエート(Omethoate)、プロパモカルブ(Propamopcarb)の3種が検出され、LC/MS−II法では農薬等は検出されなかった。表1に示した結果のとおり、本システムでも公定法でもほぼ同じ結果が得られており、本システムは公定法を代替可能であることが明らかとなった。
【0118】
【表1】
【0119】
<添加回収試験(1):乾燥ネギ>
上記<農薬等の一斉試験法(農産物)>の試験に用いたものと同一ロットの乾燥ネギ5.00gに対して、所定濃度の各農薬等を含む添加回収用溶液を調製し、この添加回収用溶液を、各農薬等の添加濃度が50ppbになるように、上記乾燥ネギに添加した。その後、上記<農薬等の一斉試験法(農産物)>の試験と同様にして、本システムを用いた前処理、又は公定法に従った試験官による前処理を行い、試験溶液を調製した。この試験溶液中に回収された上記農薬等を定量することで、農薬等の添加回収試験を行った。
【0120】
添加回収試験は、GC/MS法では、上述した369種の農薬等について、LC/MS−I法では、上述した144種の農薬等について、LC/MS−II法では、上述した64種の農薬等について、本システムを用いて抽出したもの、公定法に従い試験官によって抽出したもの、ともにn=5で行い、それぞれの平均回収率、及びデータのバラつきを見るための変動係数(CV)を計算した。回収率は70〜120%の範囲にあるものを良好とし、変動係数CV(標準偏差÷平均)が15%以下であるものを良好とし、本システムと公定法との結果を比較した。結果を表2及び表3に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
表2は、「回収率が70%以上120%以下であった農薬等の数/試験した農薬等の総数」を示す。また表3は、「CVが15%以下であった農薬等の数/試験した農薬等の総数」を示す。表2及び表3から明らかなように、本発明に係る残留農薬自動前処理システムを用いた方が、熟練した試験官が公定法に従って行うよりも、回収率、ばらつき(CV)ともに優れた結果が得られた。
【0124】
<添加回収試験(2):生鮮キャベツ>
農薬等が検出されなかった生鮮キャベツを用い、添加回収試験を行った。上記<添加回収試験(1):乾燥ネギ>に記載の添加回収用溶液を、各農薬等の添加濃度が25ppbになるように、上記生鮮キャベツ20gに添加した。その後、水20mlを注入しなかったこと、オクタデシルシリル化シリカゲルミニカラム(1000ml)を使用しなかったこと(GC/MS法及びLC/MS−I法の場合)、試験溶液量(最終調製溶媒量)を2mlにしたこと以外は、上記〔本システムを用いた試験溶液の調製〕及び〔公定法による試験溶液の調製〕と同様にして、本システムを用いた前処理、又は公定法に従った試験官による前処理を行い、試験溶液を得た。この試験溶液を用いたこと以外は、上記<添加回収試験(1):乾燥ネギ>と同様にして、平均回収率、及びデータのバラつきを見るための変動係数(CV)を計算した。結果を表4及び表5に示す。
【0125】
【表4】
【0126】
【表5】
【0127】
<添加回収試験(3):小麦粉>
農薬等が検出されなかった小麦粉を用い、添加回収試験を行った。上記<添加回収試験(1):乾燥ネギ>に記載の添加回収用溶液を、各農薬等の添加濃度が25ppbになるように、上記小麦粉10gに添加した。その後、試験溶液の調製において、分液後のアセトニトリル層を、アセトニトリル10mlでコンディショニングしたオクタデシルシリル化シリカゲルミニカラム(1000ml)に注入し、更にアセトニトリル2mlを注入し、溶出液全量を回収する操作を追加で実施し、その後に無水硫酸ナトリウムによる脱水以降の操作を行ったこと(公定法におけるLC/MS−II法の場合のみ)以外は、上記〔本システムを用いた試験溶液の調製〕及び〔公定法による試験溶液の調製〕と同様にして、本システムを用いた前処理、又は公定法に従った試験官による前処理を行い、試験溶液を得た。この試験溶液を用いたこと以外は、上記<添加回収試験(1):乾燥ネギ>と同様にして、平均回収率、及びデータのバラつきを見るための変動係数(CV)を計算した。結果を表6及び表7に示す。
【0128】
【表6】
【0129】
【表7】
【0130】
表4〜7から明らかなように、生鮮キャベツの場合、及び小麦粉の場合であっても、本発明に係る残留農薬自動前処理システムを用いた方が、熟練した試験官が公定法に従って行うよりも、回収率、ばらつき(CV)ともに優れた結果が得られた。
【0131】
<ペースト状加工食品中の農薬等の検出試験>
タイ国で入手したトムヤムクンペースト(ペースト状のトムヤムクンの素)について、当該食品中に残留する農薬等の検出試験を行った。なお、上記トムヤムクンペーストは、レモングラス、唐辛子、タマネギ、ニンニク等を原料とする食品(加工食品)である。
【0132】
上記トムヤムクンペースト5gを試料としたこと、サンプル数をn=10としたこと、LC/MS−II法は実施しなかったこと以外は、上記<添加回収試験(3):小麦粉>と同様にして試験溶液を調製し、この試験溶液を用いたこと以外は、上記<農薬等の一斉試験法(農産物)>と同様にして、上記トムヤムクンペースト中の農薬等の検出試験を行った。なお、公定法においては、本試験法に精通した熟練の試験官三名によって、それぞれ独立に前処理を行った。
【0133】
【表8】
【0134】
その結果、本システムで前処理した試験溶液、及び公定法により前処理した試験溶液のいずれについても表8に記載した農薬等4種が検出された。GC/MS法では、エチオン(Ethion)、シペルメトリン(Cypermethrin)、トリアゾホス(Triazophos)の3種が検出され、LC/MS−I法では、カルベンダジム(Carbendazim)の1種が検出された。表8に示した結果のとおり、本システムでも公定法でもほぼ同じ濃度で検出されており、公定法を代替可能であることが明らかである。また、バラツキについては、総じて本システムの方が低い値となっており、本システムによればより信頼性の高い試験結果が得られることが明らかである。
【符号の説明】
【0135】
11…ホモジナイザー、12…シャフト、15…カッター、21…溶媒供給装置、30…メスアップ装置、40…第1の撹拌手段、50…分注装置、51…ピペット端、60…溶媒回収装置、61…ピペット端、70…気化装置、80…第2の撹拌手段、91…漏斗、92…脱水剤、100…可動式試料ストックテーブル、110…試料コップ、120…放出口、140…濾紙、200…第1の可動式容器ストックテーブル、210…第1の試料容器、300…第2の可動式容器ストックテーブル、310…第3の試料容器、500…緩衝液供給装置(抽出溶媒供給装置)、700…受け皿、800…ストックテーブル、810…第2の試料容器、1000…残留農薬自動前処理システム。
【技術分野】
【0001】
本発明は、残留農薬自動前処理システム及びそれを用いた残留農薬抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食の安全に関する関心が高まってきている。特に、食品中に残留する農薬、飼料添加物及び動物用医薬品(農薬等)について、一定の量を超えて農薬等が残留する食品の販売等を原則禁止するポジティブリスト制度が平成15年5月29日から施行されている。これに関連して、「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法について」(平成17年1月24日付け食安発第0124001号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知)には、農薬等の一斉試験法が定められている。
【0003】
ところで残留農薬検査では、農産物等の検査対象物に対して前処理が必要である。この前処理を一台の装置で一貫して自動的に行う残留農薬自動前処理装置が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−3233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
残留農薬等の検査における農産物等の検査対象物に対する前処理は多大な手間と時間がかかるため、これを自動化する要請はいまだ強い。また、上記ポジティブリスト制度では、残留基準が定められていない農薬等が一定量(0.01ppm)を超えて残留するものの販売等が禁止される。したがって、これまで以上に他の検査対象物試料に由来する成分の混入(本明細書において、「クロスコンタミネーション」ともいう。)を低減した自動前処理システムが求められる。
【0006】
特許文献1に記載された残留農薬自動前処理装置は、抽出された残留農薬を含む溶媒等の溶液が、工程順にパイプ(チューブ)を通って送出されて行くため、パイプ内をよく洗浄する必要があり、パイプ内の洗浄に多量の洗浄用溶媒が必要である。また、パイプによる長い流路を有するために、クロスコンタミネーションの可能性や、回収率低下の恐れがあり、更に改良された自動前処理装置が求められていた。
【0007】
そこで、本発明は残留農薬検査における農産物等の検査対象物の前処理を自動化し、高い回収率で残留農薬を抽出でき、かつクロスコンタミネーションが低減された残留農薬自動前処理システムを提供することを目的とする。本発明はまた、上記残留農薬自動前処理システムを用いた残留農薬抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、内部に濾紙を具備するとともに、開閉自在の放出口を底部に有する試料コップと、1個又は複数個の上記試料コップを保持する可動式試料ストックテーブルと、水又は抽出溶媒を上記試料コップ内に注入する溶媒供給装置と、脱着自在のシャフトに設けられたカッターを有し、上記試料コップ内の試料、水及び抽出溶媒を粉砕撹拌するホモジナイザーと、上記試料コップの放出口から放出される濾液を受けるための第1の試料容器と、上記第1の試料容器を保持する第1の可動式容器ストックテーブルと、上記濾液を受けた上記第1の試料容器に、総量が所定量となるように抽出溶媒を注入し、試料液を調整するメスアップ装置と、上記第1の試料容器内の上記試料液を撹拌する第1の撹拌手段と、上記試料液を緩衝液で液−液抽出するための第2の試料容器と、上記第1の試料容器内の上記試料液の所定量を、上記第2の試料容器内へ分注する分注装置と、上記第2の試料容器内の上記試料液と上記緩衝液を撹拌する第2の撹拌手段と、液−液抽出後の抽出溶媒層を回収するための第3の試料容器と、液−液抽出後の前記第2の試料容器内の抽出溶媒層を吸い上げ、上記第3の試料容器内に吐出する溶媒回収装置と、を備える、残留農薬自動前処理システムを提供する。
【0009】
上記残留農薬自動前処理システムは、可動式試料ストックテーブル及び可動式容器ストックテーブルを備えるため、農薬等を含む濾液、試料液又は抽出溶媒層を移送するチューブ等の流路が不要である。また、着脱自在のシャフトを有するホモジナイザーを備えるため、試料毎にシャフトを取り外して交換することができる。上記残留農薬自動前処理システムはこのような構成を備えているため、先に処理した試料に由来する農薬等が残存せず、クロスコンタミネーションを低減することができる。また、これまで流路に付着して回収しきれなかった農薬等も回収することが可能となり、回収率が向上する。さらに、流路及びシャフトの自動洗浄が不要であるため、これらを洗浄するために用いられる有機溶媒の廃液処理が不要となり、環境負荷の低減、前処理操作のコスト低減も可能となる。
【0010】
なお、本明細書において、「農薬等」とは、農薬、飼料添加物及び動物用医薬品を意味する。また、本明細書において、「残留農薬」とは、食品中に残留する農薬、飼料添加物及び動物用医薬品(農薬等)を意味する。
【0011】
上記残留農薬自動前処理システムは、上記第2の試料容器に緩衝液を注入する緩衝液供給装置を更に備えていてもよい。
【0012】
上記残留農薬自動前処理システムはまた、上記第3の試料容器を保持する第2の可動式容器ストックテーブル、及び上記第3の試料容器内の抽出溶媒の少なくとも一部を蒸発させる気化装置を更に備えていてもよい。上記第2の可動式容器ストックテーブル及び上記気化装置を備えることにより、上記第3の試料容器内の農薬等を濃縮又は乾固することが可能となり、以降の分析操作に適した溶媒に容易に置換することができ、分析効率が向上する。
【0013】
上記残留農薬自動前処理システムは、上記第3の試料容器の口に装着される、脱水剤が充填された漏斗を更に備えていてもよい。上記漏斗を有することにより、抽出溶媒層に含まれる水分を除去することが可能となり、以降の分析操作において残留水分による影響を除去でき、また上記気化装置を備える場合には、蒸発効率を上げることができる。
【0014】
上記残留農薬自動前処理システムは、上記溶媒回収装置により所定量の上記抽出溶媒層が吸い上げられた上記第2の試料容器内に、所定量の抽出溶媒を注入する抽出溶媒供給装置を更に備えていてもよい。上記抽出溶媒供給装置を備えることにより、上記液−液抽出を再度行うことが可能となり、農薬等の回収率を向上させることができる。
【0015】
上記分注装置又は溶媒回収装置は、着脱自在のピペット端を有するピペット装置としてもよい。上記ピペット装置は試料に接触するピペット端が着脱自在であるため、試料毎にピペット端を取り外して交換することができる。これにより、クロスコンタミネーションをより一層低減できる。また、ピペット端をディスポーザブルのものにすることで、ピペット端の洗浄が不要となる。
【0016】
上記可動式試料ストックテーブルは、複数個の試料コップを保持するものとしてもよい。上記残留農薬自動前処理システムは、農薬等を含む濾液、試料液又は抽出溶媒層を移送するチューブ等の流路が設けられていないため、充分なスペースの確保が可能となり、一度に処理可能な試料コップ数を容易に増加させることができる。また、一度に処理可能な試料数が増加するため、前処理効率を向上させることができる。
【0017】
上記可動式試料ストックテーブルを複数個の試料コップを保持するものとした場合、上記可動式ストックテーブルに保持された上記試料コップの上部に所定のタイミングで移動し、上記ホモジナイザー又は上記溶媒供給装置からの落下物を受けるための受け皿を更に備えていてもよい。上記受け皿を備えることにより、上記可動式試料ストックテーブルと、上記ホモジナイザー又は上記溶媒供給装置とが相対的に移動した場合でも、他の試料に由来する落下物が試料コップ内に混入することを防ぐことができる。これにより、クロスコンタミネーションをより一層低減できる。
【0018】
本発明はまた、上記残留農薬自動前処理システムにおける残留農薬の抽出方法であって、上記溶媒供給装置により水及び抽出溶媒を注入された試料コップが、上記ホモジナイザーの下方に位置するように、上記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、上記ホモジナイザーにより内部の試料、水及び抽出溶媒が粉砕撹拌された試料コップが、上記第1の可動式容器ストックテーブルに保持された上記第1の試料容器の上方に位置するように、上記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、試料コップの放出口から放出される濾液を受けた第1の試料容器が、上記メスアップ装置の下方に位置するように、上記第1の可動式容器ストックテーブルを移動させるステップと、上記メスアップ装置により内部に上記試料液が調整された第1の試料容器が、上記第1の撹拌手段の動作範囲内に位置するように、上記第1の可動式容器ストックテーブルを移動させるステップと、上記第1の撹拌手段により内部の前記試料液が撹拌された第1の試料容器が、上記分注装置の動作範囲内に位置するように、上記第1の可動式容器ストックテーブルを移動させるステップと、を含む、残留農薬の抽出方法を提供する。
【0019】
上記抽出方法によれば、上記可動式試料ストックテーブル及び上記第1の可動式容器ストックテーブルにより、試料コップ及び第1の試料容器が直接移動しながら抽出操作が進んでいくため、抽出された残留農薬を含む溶媒等の溶液を、パイプ(チューブ)等の流路を通して移送する必要がない。したがって、クロスコンタミネーションを充分に低減でき、かつ高い回収率で残留農薬を抽出することができる。
【0020】
上記残留農薬の抽出方法は、上記試料コップから濾液を放出させた後に該試料コップ内に残存する濾過残渣を抽出溶媒で再抽出する工程を少なくとも1回実行するものであり、再抽出する工程が、上記溶媒供給装置が、濾液を放出して濾過残渣が残った試料コップに抽出溶媒を再注入するステップと、上記溶媒供給装置により抽出溶媒を再注入された試料コップが、上記ホモジナイザーの下方に位置するように、上記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、上記ホモジナイザーが、試料コップ内部の上記濾過残渣及び抽出溶媒を粉砕撹拌するステップと、上記ホモジナイザーにより、内部の濾過残渣と再注入された抽出溶媒とが粉砕撹拌された試料コップが、上記第1の可動式容器ストックテーブルに保持された第1の試料容器の上方に位置するように、上記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、を含むものとすることができる。これにより、農薬等の回収率をより向上させることができる。
【0021】
また、上記残留農薬の抽出方法は、液−液抽出後の緩衝液層を再抽出する工程を少なくとも1回実行するものであり、液−液抽出後の緩衝液相を再抽出する工程が、上記抽出溶媒供給装置が、上記溶媒回収装置により所定量の上記抽出溶媒層が吸い上げられ、緩衝液層及び残余の抽出溶媒層が残存した第2の試料容器内に、所定量の抽出溶媒を再注入するステップと、上記第2の撹拌手段が、第2の試料容器内部の上記緩衝液層、残余の抽出溶媒層、及び再注入した抽出溶媒を撹拌するステップと、上記溶媒回収装置が、第2の試料容器内部の抽出溶媒層を吸い上げ、第3の試料容器内に吐出するステップと、を含むものとすることもできる。これにより、農薬等の回収率をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、残留農薬検査における農産物の前処理を自動化し、高い回収率で残留農薬を抽出でき、かつクロスコンタミネーションが低減された残留農薬自動前処理システムが提供される。また、上記残留農薬自動前処理システムを用いた残留農薬抽出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る残留農薬自動前処理システムを示す正面図である。
【図2】図1に示す残留農薬自動前処理システムの平面図である。
【図3】試料コップの一態様を示す斜視図である。
【図4】ホモジナイザーの一態様を示す斜視図である。
【図5】試料破砕部の一態様を示す斜視図である。
【図6】溶媒供給部の一態様を示す斜視図である。
【図7】第1の可動式容器ストックテーブルの一態様を示す斜視図である。
【図8】受け皿の一態様を示す斜視図である。
【図9】メスアップ装置の一態様を示す正面図である。
【図10】第1の撹拌手段の一態様を示す斜視図である。
【図11】分注装置の一態様を示す正面図である。
【図12】チップストックテーブルの一態様を示す斜視図である。
【図13】図11の分注装置の動作を示す斜視図である。
【図14】スターラーの一態様を示す斜視図である。
【図15】第2の可動式容器ストックテーブルの一態様を示す斜視図である。
【図16】緩衝液供給装置の一態様を示す斜視図である。
【図17】溶媒回収装置の一態様を示す正面図である。
【図18】漏斗ストックテーブルの一態様を示す斜視図である。
【図19】気化装置の一態様を示す斜視図である。
【図20】ポンプ機構の一態様を示す斜視図である。
【図21】抽出濾過工程の一態様を示す操作フローである。
【図22】メスアップ工程、及びバッファ分注工程の一態様をそれぞれ示す操作フローである。
【図23】第1の分注工程の一態様を示す操作フローである。
【図24】第2の分注工程の一態様を示す操作フローである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
本発明の残留農薬自動前処理システムは、厚生労働省が定める「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法」(平成17年1月24日付け食安発第0124001号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通)第2章に規定される一斉試験法のうち、「(ア)GC/MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)」(以下、「GC/MS法」ともいう。)、「(イ)LC/MSによる農薬等の一斉試験法I(農産物)」(以下、「LC/MS−I法」ともいう。)、「(ウ)LC/MSによる農薬等の一斉試験法II(農産物)」(以下、「LC/MS−II法」ともいう。)の前処理(抽出)に好適に用いることができる。
【0026】
(ア)GC/MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)における抽出の手順は以下のとおりである。
(1)穀類、豆類及び種実類の場合
試料10.0gに水20mLを加え、15分間放置する。これにアセトニトリル50mLを加え、ホモジナイズした後、吸引濾過する。ろ紙上の残留物にアセトニトリル20mLを加え、ホモジナイズした後、吸引濾過する。得られた濾液を合わせ、アセトニトリルを加えて正確に100mLとする。抽出液20mLを採り、塩化ナトリウム10g及び0.5mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)20mLを加え、10分間振とうする。静置した後、分離した水層を捨てる。オクタデシルシリル化シリカゲルミニカラム(1,000mg)にアセトニトリル10mLを注入し、流出液は捨てる。このカラムに上記のアセトニトリル層を注入し、さらに、アセトニトリル2mLを注入して、全溶出液を採り、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、無水硫酸ナトリウムを濾別した後、濾液を40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。残留物にアセトニトリル及びトルエン(3:1)混液2mLを加えて溶かす。
(2)果実、野菜、ハーブ、茶及びホップの場合
果実、野菜及びハーブの場合は、試料20.0gを量り採る。茶及びホップの場合は、試料5.00gに水20mLを加え、15分間放置する。これにアセトニトリル50mLを加え、ホモジナイズした後、吸引濾過する。ろ紙上の残留物にアセトニトリル20mL加え、ホモジナイズした後、吸引濾過する。得られた濾液を合わせ、アセトニトリルを加えて正確に100mLとする。抽出液20mLを採り、塩化ナトリウム10g及び0.5mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)20mLを加え、振とうする。静置した後、分離した水層を捨てる。アセトニトリル層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、無水硫酸ナトリウムを濾別した後、濾液を40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。残留物にアセトニトリル及びトルエン(3:1)混液2mLを加えて溶かす。
【0027】
(イ)LC/MSによる農薬等の一斉試験法I(農産物)における抽出の手順は、(ア)GC/MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)における手順と同一となっている。また、(ウ)LC/MSによる農薬等の一斉試験法II(農産物)における抽出の手順は、0.5mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)に代えて0.01mol/L塩酸を用いること、その際の振とう時間を15分間に変更すること以外は(ア)GC/MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)における手順と同じである。なお、上記公定法における添加量、時間等の数値パラメーターは、上記公定法と同等以上の回収率が担保されれば、適宜変更してよいとされる。
【0028】
図1は本実施形態に係る残留農薬自動前処理システムを示す正面図であり、図2はその平面図である。なお、図2は後述する溶媒量制御装置400を手前に引き出した状態を示したものである。
【0029】
図1及び図2に示す残留農薬自動前処理システム1000は、農産物等の試料からの農薬等の抽出、及び抽出液からの残渣の除去を実行する抽出濾過部Aと、濾液のメスアップを実行するメスアップ部Bと、溶液(試料液、緩衝液及び抽出溶媒)の分注、試料液の液−液抽出、及び抽出溶媒層の回収を実行する分注部Cとを備える。残留農薬自動前処理システム1000は、筐体1の上段に抽出濾過部A、メスアップ部B及び分注部Cが配置されており、下段に溶媒量制御装置400、タンク3,4,5及び制御用コンピュータPC等が配置されている。
【0030】
抽出濾過部Aは、試料コップ110と、可動式試料ストックテーブル100と、試料破砕部10と、溶媒供給部20と、第1の可動式容器ストックテーブル200とを含む。第1の可動式容器ストックテーブル200は複数の第1の試料容器210を保持できるようになっている(図5参照)。抽出濾過部Aは、クロスコンタミネーションをより一層低減する観点から受け皿700を更に含んでもよい(図8参照)。以下、抽出濾過部Aの各構成を図面に基づいて詳細に説明する。
【0031】
図3に示す試料コップ110は、その内部に濾紙140を具備するとともに、開閉自在の放出口120を底部に有する。放出口120は、把手130の水平方向の回転に伴って、開口状態と閉口状態とを切り替えられる。
【0032】
図1及び図2に示す可動式試料ストックテーブル100は、モータ(図示せず)の動作により左右方向にスライドでき、水平移動が可能となっている。可動式試料ストックテーブル100には12個の試料コップ110が配置されている。なお、本実施形態では試料コップ110の数が12個の場合を示したが、これに限定されるものではなく、これよりも多くても少なくてもよい。
【0033】
図4に示すホモジナイザー11は、脱着自在のシャフト12に設けられたカッター15を有する。シャフト12は、試料コップ110の口に嵌合する蓋部13に脱着可能なように取り付けられている。蓋部13は、試料コップ110の口に密着させるためのOリング14を有している。ホモジナイザー11は、シャフト12がモータ(図示せず)により回転し、シャフト12の先端部に設けられたカッター15で試料コップ110内の農産物等の試料を粉砕撹拌するように作動する。
【0034】
図5に示す試料破砕部10は、支持部材(図示せず)に、可動式試料ストックテーブル100が保持できる試料コップ110の数と同数(12個)のホモジナイザー11が配置されている(図5には6個のみ図示。)。ホモジナイザー11が配置されている間隔は、試料コップ110が保持されている間隔と一致しており、全ての試料コップ110内の試料、水及び抽出溶媒を同時に粉砕撹拌するように作動する。なお、試料破砕部10は、可動式試料ストックテーブル100の上方に配置されている。
【0035】
図6に示す溶媒供給部20は、支持部材に、可動式試料ストックテーブル100が保持できる試料コップ110の数と同数(12個)の溶媒供給装置21が配置されている(図6には6個のみ図示。)。溶媒供給装置21は、水若しくは抽出溶媒又は加圧空気を移送するチューブ22と、試料コップ110の口に嵌合するとともに、水若しくは抽出溶媒又は加圧空気を試料コップ110内に注入する複数の注入口を底部に有する蓋部23とを具備する。チューブ22は、水を貯蔵するタンク3、抽出溶媒を貯蔵するタンク4、及び加圧空気を送るコンプレッサー(図示せず)と自動1点4方バルブ(図示せず)を介して接続されている(図1参照)。蓋部23は、試料コップ110の口に密着させるためのOリング24を有している。溶媒供給装置21が配置されている間隔は、試料コップ110が配置されている間隔と一致しており、全ての試料コップ110内に水若しくは抽出溶媒又は加圧空気を同時に注入するように作動する。なお、溶媒供給部20は、可動式試料ストックテーブル100の上方に配置されている。
【0036】
図7に示す第1の可動式容器ストックテーブル200は、可動式試料ストックテーブル100が保持できる試料コップ110の数と同数(12個)の第1の試料容器210が配置されるとともに、第1の試料容器210と同数の界面センサー205が設けられている。第1の可動式容器ストックテーブル200は、モータ(図示せず)の動作によりレール(図示せず)に沿って、左右水平方向に移動することが可能となっている。なお、第1の可動式容器ストックテーブル200は、可動式試料ストックテーブル100よりも低い位置に設けられている(図1参照)。ここで、界面センサー205としては、赤外線センサー、重量センサー、超音波センサー等を利用することができる。また、第1の試料容器210としては、ガラス製容器、プラスチック製容器、金属製容器等が用いられる。
【0037】
図8に示した受け皿700は、ホモジナイザー11又は溶媒供給装置21からの液垂れ等の落下物を受けるためのものである。受け皿700としては、上記落下物を受けることができるものであればよいが、液体の落下物を受け皿700上に保持することができるため、辺縁部に立設された壁を有するものが好ましい。受け皿700は、試料破砕部10及び溶媒供給部20の下方、かつ可動式試料ストックテーブル100の上方に配置され、前後に水平移動が可能となっている。受け皿700は1枚であっても2枚以上であってもよく、また独立に移動可能な2枚以上であってもよい。
【0038】
抽出濾過部Aにおける作用を説明する。可動式試料ストックテーブル100には、所定量の農産物等の試料が入れられた試料コップ110が配置される。試料コップ110には溶媒供給部20から水及び抽出溶媒が順次注入される。好ましくは、水が注入された後、水を試料に浸透させる時間を設けてから抽出溶媒が注入される。次に、試料コップ110の上に試料破砕部10が位置するように、可動式試料ストックテーブル100が移動する。試料破砕部10に設けられたホモジナイザー11が試料コップ110内に降ろされ、シャフト12の回転によりカッター15で試料コップ110内の試料、水及び抽出溶媒を破砕撹拌する。破砕撹拌後、試料コップ110の下に第1の試料容器210が位置するように、可動式試料ストックテーブル100及び必要に応じて第1の可動式容器ストックテーブル200が移動する。次に、試料コップ110の放出口120が開口され、試料コップ110内部の濾紙140を通過した濾液が第1の試料容器210に注入される(濾過)。このとき、溶媒供給装置21の蓋部23が試料コップ110の口に嵌合するとともに、チューブ22から加圧空気が注入されてもよい(加圧濾過)。なお、ホモジナイザー11のシャフト12は脱着可能となっているため、破砕撹拌操作毎に取り外して洗浄又は交換することができる。
【0039】
濾液が注入された第1の試料容器210は、第1の可動式容器ストックテーブル200が移動することによりメスアップ部Bへと移送される。また、必要に応じて、メスアップ部Bへと移送される前に、「洗い込み」を実施するための動作が追加的に実行されてもよい。「洗い込み」により、濾過残渣、濾紙140又は試料コップ110に残存する農薬等の更なる回収が可能となり、農薬等の回収率が向上する。
【0040】
抽出濾過部Aにおける「洗い込み」の作用を説明する。試料コップ110から第1の試料容器210内に濾液が注入された後、試料コップ110の放出口120が閉口され、試料コップ110に溶媒供給装置21から抽出溶媒が再度注入される。次に試料コップ110の上に試料破砕部10が位置するように、可動式試料ストックテーブル100が移動する。試料破砕部10に設けられたホモジナイザー11が試料コップ110内に降ろされ、シャフト12の回転によりカッター15で試料コップ110内の濾過残渣及び抽出溶媒を破砕撹拌する。破砕撹拌後、試料コップ110の下に、濾液が注入された第1の試料容器210が位置するように、可動式試料ストックテーブル100が移動する。次に、試料コップ110の放出口120が開口され、試料コップ内部の濾紙140を通過した濾液が再度第1の試料容器210に注入される(濾過)。このとき、溶媒供給装置21の蓋部23が試料コップ110の口に嵌合するとともに、チューブ22から加圧空気が注入されてもよい(加圧濾過)。なお、この「洗い込み」は、ホモジナイザー11による破砕撹拌が省略され、第1の試料容器210の上に試料コップ110が配置されたまま、溶媒供給装置21から抽出溶媒が試料コップ110内に注入される等の簡易的なものであってもよい。また、上述の「洗い込み」は、複数回繰り返し実行されてもよい。
【0041】
受け皿700を含む場合、試料コップ110とホモジナイザー11又は溶媒供給装置21とが分離した際、試料破砕部10又は溶媒供給部20と可動式試料ストックテーブル100との間に位置するよう受け皿700がF方向にスライドされる(図8参照)。受け皿700が上記所定の位置に位置した後、受け皿700が可動式試料ストックテーブルの上に位置したまま、試料破砕部10又は溶媒供給部20が移動する。これにより、他の試料に由来する落下物(溶媒等の液垂れ)の混入を防ぐことができる。
【0042】
メスアップ部Bは、第1の試料容器210と、第1の可動式容器ストックテーブル200と、メスアップ装置30と、第1の撹拌手段40とを含む。次に、メスアップ部Bの各構成を図面に基づいて詳細に説明する。
【0043】
図9に示すメスアップ装置30は、タンク4から抽出溶媒が供給されるパイプ31と、プーリ32と、プーリ32に張られたベルト33とを具備する。パイプ31は、プーリ32及びベルト33により、上下方向に移動が可能となっている。メスアップ装置30は、モータ(図示せず)により前後水平方向に移動が可能となっており、複数の第1の試料容器210に順に抽出溶媒を注入するように作動する。
【0044】
図10に示す第1の撹拌手段40は、支持部材に、第1の可動式容器ストックテーブル200が保持できる第1の試料容器210の数と同数(12個)のバブリング装置41が配置されている(図10には6個のみ図示。)。バブリング装置41が配置されている間隔は、第1の試料容器210が配置されている間隔と一致しており、全ての第1の試料容器210内の試料液を同時に撹拌するように動作する。バブリング装置41は、コンプレッサー(図示せず)に接続されたチューブ42と、接続部43と、脱着自在のパイプ44とを具備する。バブリング装置41は、上下方向に移動が可能となっている。また、パイプ44は接続部43で脱着が可能となっている。なお、第1の撹拌手段40としては、バブリング装置41のほかに、振盪装置、超音波発生装置、撹拌子と磁気スターラーとの組み合わせ等の手段を用いることができる。ここで、第1の撹拌手段40として、試料液に触れない超音波発生装置等の撹拌手段とすれば、試料毎の洗浄又は交換が不要となる点で好ましい。一方、第1の撹拌手段40として、本実施形態に係るバブリング装置41とすれば、短時間で効率よく撹拌できる点で好ましい。
【0045】
メスアップ部Bにおける作用を説明する。抽出濾過部Aで濾液を注入された第1の試料容器210がメスアップ装置30の下に位置するように、第1の可動式容器ストックテーブル200が移動する。メスアップ装置30のパイプ31が、第1の試料容器210内まで降ろされ、第1の可動式容器ストックテーブル200に設けられた界面センサー205からの制御信号に基づいて、メスアップ装置30から総量が所定量となるよう抽出溶媒を第1の試料容器210に注入する。なお、このときパイプ31の下端位置は、所定量にメスアップされた際の試料液の液面より上方に位置するように制御されている。これにより、パイプ31が第1の試料容器210内の試料液に触れないため、試料毎のパイプ31の交換又は洗浄が不要である。
【0046】
次に、第1の試料容器210がバブリング装置41の動作範囲内(バブリング装置41の下)に位置するように、第1の可動式容器ストックテーブル200が移動する。バブリング装置41のパイプ44が第1の試料容器210内に降ろされ、パイプ44が試料液に浸かった状態で空気のバブリングが行われる。これにより、第1の試料容器210内の試料液が撹拌される。なお、パイプ44は接続部43で脱着可能となっているため、試料毎に取り外して洗浄又は交換することができる。
【0047】
試料液が撹拌された第1の試料容器210は、第1の可動式容器ストックテーブル200が移動することにより分注部Cへと移送される。
【0048】
分注部Cは、第1の試料容器210と、第1の可動式容器ストックテーブル200と、分注装置50と、チップストックテーブル600と、第2の撹拌手段80と、第3の試料容器310と、第2の可動式容器ストックテーブル300と、緩衝液供給装置500と、第2の試料容器810と、溶媒回収装置60とを含む。なお、チップストックテーブル600は複数備えられていてもよい。本実施形態に係る残留農薬自動前処理システムでは分注装置50用チップストックテーブル600と溶媒回収装置60用チップストックテーブル600とが備えられている(図1及び2参照)。分注部Cは、抽出溶媒供給装置と、漏斗91と、漏斗ストックテーブル90とを更に含んでもよい。以下、分注部Cの各構成を図面に基づいて詳細に説明する。
【0049】
図11に示す分注装置50は、支持部材57と、着脱自在のピペット端51と、ピペット端51に嵌合するとともに、内部に通気口を具備する嵌合部位52と、一端を注射器(図示せず)の先端に、他端を嵌合部位52に接続されたチューブ53と、押下棒55と連動してピペット端51を押し下げ、ピペット端51を嵌合部位52から離脱させるイジェクト部54と、ピペット端51、嵌合部位52及びイジェクト部54の上下動を制御する制御棒56とを具備する。分注装置50(ピペット装置)は、前後左右に水平移動が可能となっている。また、上下位置を制御する制御棒56の上下動により、鉛直方向に垂直移動が可能となっている。2つあるピペット装置はそれぞれ独立に制御される。
【0050】
図12に示すチップストックテーブル600は未使用のピペット端51を保持するホルダー部650と、使用済みのピペット端51を廃棄するための廃棄部640と、ピペット端51の有無を感知するセンサー部630とを具備する。ピペット端51はプラスチック製チップ等のディスポーザブルタイプとするのが、洗浄等が不要となるため好ましい。
【0051】
ここで、分注装置50の作用を説明する。分注装置50は、チューブ53で接続された注射器の動作に従って、ピペット端51で空気の出し入れが生じる。試料液にピペット端51の先端を浸漬した状態で、注射器で空気を引き込むことにより試料液を吸い上げる。他方、注射器で空気を押出すことによりピペット端51に保持されている試料液を吐出する。分注装置50はピペット端51のない状態でチップストックテーブル600の上に移動する。次に制御棒56の下方への移動に伴い、嵌合部位52とピペット端51とが嵌合する。ピペット端51を装填したピペット装置は、制御棒56が元の位置に戻った後、試料液の入った第1の試料容器210の上へ移動する。制御棒56により試料液とピペット端51が接触する位置まで下方へ降ろされ、注射器の動作に従って試料液を吸い上げる。制御棒56が元の位置に戻った後、第2の試料容器810の上へ移動する。制御棒56によりピペット端51が第2の試料容器810内に位置するよう降ろされ、注射器の動作に従って試料液を吐出する。なお、例えば、上記動作の実行が1回のみでは第2の試料容器810内の試料液量が所定量に達しない場合、ピペット端51から試料液が吐出された後、ピペット端51を装填したままピペット装置は、制御棒56が元の位置に戻った後、第1の試料容器210の上へ再度移動する。以降、上記動作を繰り返して、第2の試料容器810内に試料液を吐出する。この繰り返し操作を数回実行して所定量とすることもできる。
【0052】
次に、制御棒56が元の位置に戻った後、センサー部630を通過するようにして、チップストックテーブル600の廃棄口640まで移動する。センサー部630を通過する際、赤外線センサー発信部610と受信部620により、分注装置50の先端にピペット端51の存在を感知し、分注装置50の先端にピペット端51が装着されているか否かが判別される。ピペット端51の存在が感知されなかった場合、第2の試料容器810への分注作業が正しく行われなかったものとして、警報等によるオペレーターへの通知がなされる。また、第2の試料容器810が複数ある場合、ピペット端51が感知されなかった試料(検体)についてのみ、分注作業が正しく行われなかったものとして、当該試料のみ以降の動作を中止するようプログラムすることもできる。なお、センサー部630は設置しなくてもよい。また、分注作業後にセンサー部630で感知するだけではなく、分注作業前のピペット端51装着時にもセンサー部630を通過させ、ピペット端51の装着ミスを感知させることもできる。分注装置50は、ピペット端51がセンサー部630を通過後、ピペット端51が廃棄口640上まで移動すると、押下棒55が制御棒56に対して相対的に押し下げられてピペット端51が嵌合部位52から外れ、廃棄口640にピペット端51が廃棄される。
【0053】
図13は、本実施形態に係る分注装置(ピペット装置)50の動作を示す説明図である。図13には、第2の試料容器810を保持するストックテーブル800を例として示した。ピペット装置50(図示せず)は、ピペット端51が第2の試料容器810の間を通るように(すなわち、第2の試料容器810の真上を通らないように)前後水平方向M、左右水平方向Rに移動する。これにより、ピペット端51からの落下物が第2の試料容器810内に入ることを防ぐことができる。なお、本実施形態では、第2の試料容器810の数(ストックテーブル800に保持できる数)は、第1の試料容器210の数の2倍(24本)である。分注装置50により、1本の第1の試料容器210から2本の第2の試料容器810に試料液が分注される。これにより、同一の試料液からGC/MS分析用のサンプルとLC/MS分析用のサンプルが得られる。また、本実施形態では、第2の試料容器810の数が、第1の試料容器210の数の2倍となっているが、この点は適宜設定可能なものであって、第2の試料容器810の数を第1の試料容器210の数と同じに設定することもできるし、又は3倍、4倍に設定することもできる。
【0054】
図14に示す第2の撹拌手段80はマグネチックスターラー81を具備する。第2の試料容器810内には予め撹拌子が備えられている。この撹拌子とマグネチックスターラー81とで、第2の試料容器810内の有機溶媒(抽出溶媒)と水溶液(緩衝液及び試料液)とを撹拌混合する。なお、第2の撹拌手段80としては、これに限られず、バブリング装置、振盪装置等を用いることもできる。また、第2の試料容器810としては、ガラス製容器、プラスチック製容器、金属製容器等が用いられる。
【0055】
図15に示す第2の可動式容器ストックテーブル300は、第2の試料容器810の数と同数(24個)の第3の試料容器310が配置される。第2の可動式容器ストックテーブル300は、ヒートブロック320を備えている。また、第2の可動式容器ストックテーブル300は、モータ(図示せず。)の動作によりレール(図示せず。)に沿って、左右水平方向に移動が可能となっている。第3の試料容器310としては、ガラス製容器、プラスチック製容器、金属製容器等が用いられる。
【0056】
図16に示す緩衝液供給装置500は、タンク5から緩衝液が供給されるパイプ510と、プーリ520と、プーリ520に張られたベルト530とを具備する。パイプ510は、プーリ520及びベルト530により、上下方向に移動する。緩衝液供給装置500は、モータ(図示せず)により前後左右水平方向に移動が可能となっており、複数(24個)の第2の試料容器810に順に緩衝液を注入するように動作する。なお、緩衝液の注入時、パイプ510の先端は第2の試料容器810内に下降されるが、緩衝液注入後の液面に触れないように制御される。これにより、試料毎のパイプ510の洗浄又は交換が不要である。
【0057】
図17に示す溶媒回収装置(ピペット装置)60は、支持部材67と、着脱自在のピペット端61と、ピペット端61に嵌合するとともに、内部に通気口を具備する嵌合部位62と、一端を注射器(図示せず)の先端に、他端を嵌合部位62に接続されたチューブ63と、押下棒65と連動してピペット端61を押し下げ、ピペット端61を嵌合部位62から離脱させるイジェクト部64と、ピペット端61、嵌合部位62及びイジェクト部64の上下動を制御する制御棒66とを具備する。溶媒回収装置60(ピペット装置)は、前後左右に水平移動が可能となっている。また、上下位置を制御する制御棒66の上下動により、鉛直方向に垂直移動が可能となっている。2つあるピペット装置はそれぞれ独立に制御される。具体的な作動は分注装置50と同様である。また、分注装置50の場合と同様に、ピペット端61はプラスチック製チップ等のディスポーザブルタイプとすることができる。さらに、図12に示すチューブストックテーブル600が溶媒回収装置60用に備えられていてもよい。この場合のチューブストックテーブル600の構成及び作用は、上述したものと同様である。
【0058】
図18に示す漏斗ストックテーブル90は、第3の試料容器310の数と同数(24個)の、脱水剤92が充填された漏斗91が配置されている。漏斗91が配置されている間隔は、第3の試料容器310が配置されている間隔と一致している。第2の可動式容器ストックテーブル300の上に漏斗ストックテーブル90が配置され、各漏斗91からの抽出溶媒層の落下完了を待つことなく、全ての漏斗91に抽出溶媒層を注入するように作動する。また、脱水剤92としては、例えば、無水硫酸ナトリウム、シリカゲル、塩化カルシウム、五酸化ニリンが挙げられる。
【0059】
図16に示す緩衝液供給装置500は、再抽出のための抽出溶媒供給装置としても用いられる。パイプ510と、緩衝液を貯蔵するタンク5との接続を、バルブ(図示せず。)により、パイプ510と、抽出溶媒を貯蔵するタンク4との接続に切り替えることによって、抽出溶媒供給装置として作動する。なお、本実施形態では緩衝液供給装置500を、抽出溶媒供給装置として兼用しているが、それぞれ別々に設けることもできる。
【0060】
分注部Cにおける作用を説明する。予め所定量の塩化ナトリウムが入れられた第2の試料容器810に、緩衝液供給装置500により所定量の緩衝液が注入される。なお、空の第2の試料容器810に、緩衝液供給装置500により所定量の緩衝液が注入された後、所定量の塩化ナトリウムが投入されてもよい。また、緩衝液供給装置500を用いない場合、所定量の塩化ナトリウム、及び所定量の緩衝液が予め入れられた第2の試料容器810を用いてもよい。
【0061】
メスアップ部Bによってメスアップされた試料液を含む第1の試料容器210が所定の位置に位置するよう、第1の可動式容器ストックテーブル200が移動する。所定の位置に到達した後、上述した分注装置50の動作に従って、分注装置50が第1の試料容器210から所定量の上記試料液を吸い上げる。次に分注装置50が上記緩衝液の入った第2の試料容器810の上に移動し、吸い上げた試料液を第2の試料容器810内に吐出する。第2の試料容器810内に吐出された試料液の量が所定量に達するまで、分注装置50の上記動作が繰り返される。
【0062】
次に、第2の試料容器810内の上記緩衝液と上記試料液が第2の撹拌手段80により撹拌される(液−液抽出)。撹拌後、水層(緩衝液層)と有機溶媒層(抽出溶媒層)とが分離するまでの所定の時間、第2の試料容器810は静置される。所定時間静置した後、溶媒回収装置60が第2の試料容器810の上に移動し、上述した分注装置50と同様の動作により、第2の試料容器810内の上層(有機溶媒層)を吸い上げる。その後、溶媒回収装置60が、第3の試料容器310の上に移動し、吸い上げた有機溶媒層を第3の試料容器310内に吐出する。第3の試料容器310内に吐出された有機溶媒層の量が所定量に達するまで、溶媒回収装置60の上記動作が繰り返される。
【0063】
これらの作用により、第3の試料容器310内に有機溶媒層に抽出された農薬等が回収される。この回収された農薬等は、そのまま以降の分析検査に用いることができる。なお、上記実施形態では、予め緩衝液が入れられた第2の試料容器810に、分注装置50によって試料液を吐出するように作用しているが、分注装置50によって第2の試料容器810内に試料液を吐出した後に、緩衝液供給装置500で緩衝液を加えてもよい。
【0064】
抽出溶媒供給装置(本実施形態の場合、緩衝液供給装置500と兼用)の作用について説明する。抽出溶媒供給装置は、溶媒回収装置60により所定量の上記抽出溶媒層が吸い上げられた第2の試料容器810内に所定量の抽出溶媒を注入する。ここで、第2の撹拌手段80により、第2の試料容器810内の緩衝液層、抽出溶媒層及び注入された抽出溶媒が撹拌される(再抽出)。撹拌後、水層(緩衝液層)と有機溶媒層(抽出溶媒層)とが分離するまでの所定の時間、第2の試料容器810は静置される。所定時間静置した後、溶媒回収装置60が第2の試料容器810の上に移動し、上述した分注装置50と同様の動作により、第2の試料容器810内の上層(有機溶媒層)を吸い上げる。その後、溶媒回収装置60が、先の液−液抽出で回収した抽出溶媒層を含む第3の試料容器310の上に移動し、吸い上げた有機溶媒層を第3の試料容器310内に吐出する。この再抽出により、農薬等の回収率を向上させることができる。また、更に回収率を向上させるために、この再抽出の動作が複数回繰り返されてもよい。なお、農薬等を含む抽出溶媒層を回収する手段としては、分液ロートを用いる場合のように水層(緩衝液層)を廃棄することで残った抽出溶媒層を回収する手段と、溶媒回収装置60のように抽出溶媒層を吸い上げて回収する手段が考えられるが、液−液抽出の際、稀に水層と抽出溶媒層の間にエマルジョン層が形成されることがあるが、このような場合、本実施形態のように抽出溶媒層を吸い上げて回収する手段において、再抽出を行って、抽出溶媒層を繰り返し回収する方が有利である。
【0065】
分注部Cが、漏斗91と、漏斗ストックテーブル90とを更に含む場合の作用について説明する。第3の試料容器310がセットされた第2の可動式容器ストックテーブル300の上方に、脱水剤92が充填された漏斗91がセットされた漏斗ストックテーブル90が配置するように移動する。上述の液−液抽出及び再抽出の動作において、溶媒回収装置60は抽出溶媒層を漏斗91内に吐出する。これにより、抽出溶媒層が各漏斗91を通して第3の試料容器310内に注入される。漏斗91内には脱水剤92が充填されているため、脱水剤92により水分が吸収された有機溶媒層が第3の試料容器310内に回収される。
【0066】
本実施形態に係る残留農薬自動前処理システムは、上記のほか、気化装置70、溶媒量制御装置400等を更に備えていてもよい。
【0067】
図19に示す気化装置70は、窒素ガスボンベに接続されたチューブ72と、チューブ72と接続されたパイプ71と、チューブ72及びパイプ71の接続部を支持する支持台73とを具備する。支持台73は鉛直方向に上下運動することができる。気化装置70の作用を説明する。抽出溶媒層を回収した第3の試料容器310が、パイプ71の下に位置するように第2の可動式容器ストックテーブル300が移動する。パイプ71は支持台73の上下動に随伴して上下方向に移動する。チューブ72から送られてきた窒素ガスがパイプ71を通して第3の試料容器310内に送られ、第3の試料容器310内の抽出溶媒を蒸発させることができる。このとき、第2の可動式容器ストックテーブル300のヒートブロック320で第3の試料容器310を加熱してもよい。加熱は通常40℃程度の低温で行われる。気化装置70の作用により、農薬等を濃縮又は乾固することが可能となり、以降の分析操作に適した溶媒に容易に置換することができ、分析効率が向上する。
【0068】
図20に示す溶媒量制御装置400は、注射器本体410と、注射器内容量を制御するピストン430と、制御信号に基づいてピストン430を所要距離上下動させるモータ440と、自動1点4方バルブを介して貯蔵タンク3、4又は5に接続されたチューブ420とを具備する。溶媒量制御装置400は、貯蔵タンク3、4又は5から水、抽出溶媒又は緩衝液を吸い上げ、制御信号に従って所定量の水、抽出溶媒又は緩衝液を送り出すことができる。
【0069】
次に本実施形態に係る残留農薬自動前処理システム1000を用いた残留農薬抽出方法について図21〜24に示す操作フローを参照しながら説明する。ただし、時間、添加量等の数値パラメーターは、以下に記載したものに限られず、公定法と同等以上の回収率が担保される限り、適宜設定することができる。
【0070】
〔抽出濾過工程〕
抽出濾過工程は、農産物等の試料から抽出溶媒(例えば、アセトニトリル、アセトン)に農薬等を溶出させ、固液分離を行う工程である。以下、図21に示す操作フローに基づいて抽出濾過工程についてより具体的に説明する。
【0071】
試料コップ110を取り出して、検査対象となる農産物等の試料(例えば、乾燥ネギ)を必要量天秤等にて計量して投入する。試料を投入した試料コップ110を可動式試料ストックテーブル100に配置する。試料コップ110が複数ある場合、それぞれについて上記操作を行う。
【0072】
試料コップ110の配置が完了したら、残留農薬自動前処理システム1000により、抽出濾過以降の工程を行う。以降の工程(ステップ)は、特に明記しない限り、自動化されており、例えば、自動化プログラムの制御に基づき、残留農薬自動前処理システム1000により自動的に実行される。なお、自動化プログラムは公知のものを適宜修正、又は組み合わせて使用することができる。以下、残留農薬自動前処理システム1000における装置の動作に基づいて、抽出濾過工程を説明する。
【0073】
まず、試料コップ110の上方に溶媒供給部20が位置するように、可動式試料ストックテーブル100を移動させるステップが実行される。次に溶媒供給装置21が、試料の入った試料コップ110内に水及び抽出溶媒を順次注入するステップが実行される。このステップでは、まず水20mlを注入し、10分間静置して水を農産物試料に浸透させた後、抽出溶媒(アセトニトリル)50mlを注入する。その後、溶媒供給装置21により水及び抽出溶媒を注入された試料コップ110が、試料破砕部10(ホモジナイザー11)の下方に位置するように、可動式試料ストックテーブル100を移動させるステップが実行される。
【0074】
引き続き、ホモジナイザー11が、試料コップ110内部の試料、水及び抽出溶媒を粉砕撹拌するステップが実行される。このステップでは、粉砕撹拌を5分間行う。
【0075】
粉砕撹拌後、ホモジナイザー11により内部の試料、水及び抽出溶媒が粉砕撹拌された試料コップ110が、第1の可動式容器ストックテーブル200に保持された第1の試料容器210の上方に位置するように、可動式試料ストックテーブル100を移動させるステップが実行される。
【0076】
その後、可動式試料ストックテーブル100に備えられた放出口開閉制御部(図示せず)により、試料コップ110の放出口120が開口されるステップが実行される。このステップにより、試料コップ110内に備えられている濾紙140を通して濾液(溶質を含む水、抽出溶媒等の液体分)が放出口120から吐出され、第1の試料容器210に回収される。そして、試料コップ110内には濾過残渣(農産物試料の破砕物等の固体分)が残る。この濾過操作は、自然落下による濾過であってもよく、また溶媒供給装置21が、溶媒供給装置21に接続されたコンプレッサーから送られる加圧空気を試料コップ110内に注入するステップが実行されてもよい。このステップにより、試料コップ110内に圧力がかかり、加圧濾過となる。
【0077】
次に、試料コップ110内の濾過残渣を抽出溶媒で再抽出する工程(濾過残渣再抽出工程)を実行する。この再抽出の工程では、まず、試料コップ110から濾液を吐出させた後、可動式試料ストックテーブル100に備えられた放出口開閉制御部により試料コップ110の放出口120が閉口されるステップが実行される。次に、溶媒供給装置21が、濾液を放出し、濾過残渣が残った試料コップ110に抽出溶媒を再注入するステップが実行される。このときの抽出溶媒(アセトニトリル)量は20mlである。溶媒供給装置21により抽出溶媒を再注入された試料コップ110が、試料破砕部10(ホモジナイザー11)の下方に位置するように、可動式試料ストックテーブル100を移動させるステップが実行される。ホモジナイザー11が、試料コップ110内部の濾過残渣及び抽出溶媒を粉砕撹拌するステップが実行される。このステップでは、粉砕撹拌を1分間行う。内部の濾過残渣と、再注入された抽出溶媒とが、ホモジナイザー11により粉砕撹拌された後、試料コップ110が、第1の可動式容器ストックテーブル200に保持された第1の試料容器210の上方に位置するように、可動式試料ストックテーブル100を移動させるステップが実行される。可動式試料ストックテーブル100に備えられた放出口開閉制御部(図示せず)により、試料コップ110の放出口120が開口されるステップが実行される。これにより、濾紙140を通して放出口120から吐出される(再抽出)濾液を、最初の濾過による濾液が入った第1の試料容器210に回収する。上述した再抽出する工程により、農薬等の回収率が向上する。なお、この再抽出する工程において、ホモジナイザー11による粉砕撹拌を省略してもよい。また、再抽出する工程は複数回繰り返してもよいし、再抽出する工程自体を省略することもできる。
【0078】
なお、ホモジナイザー11はシャフト12が脱着自在となっているため、オペレーターが、農産物試料毎にホモジナイザー11のシャフト12を取り外して洗浄又は交換することができる。これによりクロスコンタミネーションを低減できる。
【0079】
〔メスアップ工程〕
メスアップ工程は、抽出濾過工程で得た濾液の総容量を予め設定された容量に調整し、試料液を調整する工程である。以下、図22に示す操作フローに基づいてメスアップ工程についてより具体的に説明する。
【0080】
まず、試料コップ110の放出口120から放出される濾液を受けた第1の試料容器210が、メスアップ装置30の下方に位置するように、第1の可動式容器ストックテーブル200を移動させるステップが実行される。
【0081】
メスアップ装置30が、濾液を回収した第1の試料容器210内に、抽出溶媒(アセトニトリル)を加えて100mlにメスアップするステップが実行される。なお、第1の可動式ストックテーブル200に設けられた界面センサー205は、メスアップ規定位置に配置されており、界面センサーが液面を感知するまでメスアップ装置30により抽出溶媒(アセトニトリル)を加えることで、規定量にメスアップすることができる。
【0082】
メスアップ後、メスアップ装置30により内部に試料液が調整された第1の試料容器210が、第1の撹拌手段40(バブリング装置41)の下方に位置するように、第1の可動式容器ストックテーブル200を移動させるステップが実行される。第1の撹拌手段40(バブリング装置41)が、第1の試料容器210内の試料液を撹拌するステップが実行される。第1の撹拌手段40がバブリング装置41の場合、バブリング装置41が加圧空気(又は窒素ガス)を第1の試料容器210内の試料液にバブリングするステップが実行される。
【0083】
〔バッファ分注工程〕
バッファ分注工程は、農薬等を含む抽出溶媒を液−液抽出するための所定量の緩衝液を分注する工程である。以下、図22に示す操作フローに基づいてバッファ分注工程についてより具体的に説明する。
【0084】
オペレーターが、所定量の塩化ナトリウム、及び撹拌子を投入した第2の試料容器810を、第2の撹拌手段80(マグネチックスターラー81)の上に設けられたストックテーブル800に配置する。続いて緩衝液供給装置500により、第2の試料容器810内に緩衝液20ml(リン酸バッファ)を注入するステップが、メスアップ工程と並行して、実行される。
【0085】
本実施形態の場合、第2の試料容器810の数は、第1の試料容器210の数の2倍である。第1の試料容器210内の試料液を2本の第2の試料容器810に分配することで、ガスクロマトグラフィー(GC)分析用のサンプルと、液体クロマトグラフィー(LC)分析用のサンプルを得ることができる。なお、この点は適宜設定可能なものであって、第2の試料容器810の数を第1の試料容器210の数と同じにしてもよいし、又は3倍、4倍に設定することもできる。
【0086】
なお、バッファ分注工程は、必ずしもメスアップ工程と並行して実施する必要はなく、以下に説明する第1の分注工程において、第2の試料容器810内に試料液を分注した後に実施してもよい。また、緩衝液供給装置500を使用せず、予め、オペレーターが、所定量の塩化ナトリウム、及び撹拌子に加えて、所定量の緩衝液(リン酸バッファ)を投入した第2の試料容器810を準備しておき、これをストックテーブル810に配置してもよい。所定量の塩化ナトリウム、撹拌子、所定量の緩衝液(リン酸バッファ)を第2の試料容器810に投入する操作は、オペレーターによらず、これらを投入する装置を残留農薬自動前処理システム1000に組み込んで自動化してもよい。
【0087】
〔第1の分注工程〕
第1の分注工程は、メスアップ工程で得た試料液をバッファ分注工程で分注した緩衝液で液−液抽出する工程である。以下、図23に示す操作フローに基づいて第1の分注工程についてより具体的に説明する。
【0088】
第1の撹拌手段40により内部の試料液が撹拌された第1の試料容器210が、分注装置50(ピペット装置)の動作範囲内に位置するように、第1の可動式ストックテーブル200を移動させるステップが実行される。分注装置50(ピペット装置)が、チップストックテーブル600の上方に移動し、ピペット端51をセットするステップが実行される。次に分注装置50(ピペット装置)が、第1の試料容器210の上方に移動し、試料液を吸い上げた後、第2の試料容器810の上方に位置するように移動し、吸い上げた試料液を第2の試料容器810内に注入するステップが実行される。このステップで吸い上げる試料液の量は10mlである。また、このステップは2回繰り返され、第2の試料容器810の1個あたり計20mlの試料液が分注される。なお、ピペット端51は、ディスポーザブルタイプのプラスチック製チップとなっており、試料毎にピペット端51を交換することができる。
【0089】
第2の撹拌手段80(マグネチックスターラー81及び予め第2の試料容器810内に投入されていた撹拌子)が、第2の試料容器810内部の試料液及び緩衝液(塩化ナトリウムを含む。)を撹拌するステップが実行される。このステップにおける撹拌時間は10分間である。撹拌後、第2の試料容器810は10分間静置され、抽出溶媒層と緩衝液層とが分離する。
【0090】
溶媒回収装置60(ピペット装置)が、チップストックテーブル600の上方に移動し、ピペット端61をセットするステップが実行される。次に溶媒回収装置60(ピペット装置)が、第2の試料容器810の上方に移動し、分離した抽出溶媒層(上層)を吸い上げた後、第3の試料容器310の上方に位置するように移動し、吸い上げた抽出溶媒層を第3の試料容器310内に注入するステップが実行される。このステップで吸い上げる抽出溶媒層の量は5mlである。また、このステップは3回繰り返され、第3の試料容器310の1個あたり計15mlの抽出溶媒層が注入される。なお、ピペット端61は、ディスポーザブルタイプのプラスチック製チップとなっており、試料毎にピペット端61を交換することができる。
【0091】
なお、本実施形態では、第3の試料容器310の口には、脱水剤92(無水硫酸ナトリウム)が充填された漏斗91(グーチロート)が装着されており、回収された抽出溶媒層は脱水剤92及びグーチロートを通って第3の試料容器310内に回収される。これにより抽出溶媒層の水分が除去される。
【0092】
〔第2の分注工程〕
第2の分注工程は、第1の分注工程を繰り返すことにより、液−液抽出後の緩衝液相層を再抽出する工程である。第2の分注工程は、実施しなくてもよく、また、1回又は2回以上繰り返してもよい。以下、図24に示す操作フローに基づいて第2の分注工程についてより具体的に説明する。
【0093】
抽出溶媒供給装置(本実施形態では緩衝液供給装置500の併用)が、溶媒回収装置60により所定量(15ml)の抽出溶媒層が吸い上げられ、緩衝液層及び残余の抽出溶媒層(約5ml)が残存した第2の試料容器810内に、所定量(5ml)の抽出溶媒(アセトニトリル。図24では、「洗浄液」として示す。)を再注入するステップが実行される。
【0094】
第2の撹拌手段80(マグネチックスターラー81及び予め第2の試料容器810内に投入されていた撹拌子)が、第2の試料容器810内部の緩衝液層、残余の抽出溶媒層、及び抽出溶媒(洗浄液)を撹拌するステップが実行される。撹拌後、第2の試料容器810は5分間静置され、抽出溶媒層と緩衝液層とが分離する。溶媒回収装置60(ピペット装置)が、チップストックテーブル600の上方に移動し、ピペット端61をセットするステップが実行される。なお、第1の分注工程において溶媒回収装置60(ピペット装置)により抽出溶媒層(上層)を回収した試料と、第2の分注工程において溶媒回収装置60(ピペット装置)により抽出溶媒層(上層)を回収する試料とが同一の試料である場合、ピペット端61は第1の分注工程で用いたものを使い回すことができるため、このステップは省略されることもある。次に溶媒回収装置60(ピペット装置)が、第2の試料容器810の上方に移動し、分離した抽出溶媒層を吸い上げた後、第3の試料容器310の上方に位置するように移動し、吸い上げた抽出溶媒層を第3の試料容器310内に注入するステップが実行される。このステップで吸い上げる抽出溶媒層の量は5mlである。また、このステップは2回繰り返され、第3の試料容器310の1個あたり計10mlの抽出溶媒層が更に注入される(合計25mlとなる)。
【0095】
また、本実施形態では、第3の試料容器310の口には、脱水剤92(無水硫酸ナトリウム)が充填された漏斗91(グーチロート)が装着されており、回収された抽出溶媒層は脱水剤92及びグーチロートを通って第3の試料容器310内に回収される。これにより抽出溶媒層の水分が除去される。なお、脱水剤92及びグーチロートは、第2の分注工程のために未使用のものを用意する必要はなく、各試料について、第1の分注工程で使用したものと同じものを用いることができる。これにより回収率が更に向上する。
【0096】
抽出溶媒層回収後の第3の試料容器310は、下記チッソガス乾固工程を実施しない場合は、第2の可動式容器ストックテーブル300のヒートブロック320(加熱及び冷却が可能となっている)により温度を調節し、10℃で保持することができる。
【0097】
〔チッソガス乾固工程〕
チッソガス乾固工程は、農薬等を含む抽出溶媒から抽出溶媒のみを蒸発させ、農薬等を濃縮又は乾固する工程である。
【0098】
抽出溶媒層が回収された第3の試料容器310が、気化装置70の下方に位置するように、第2の可動式容器ストックテーブル300を移動させるステップが実行される。気化装置70が、第3の試料容器310内に窒素ガスを噴き込むステップが実行される。このステップにより第3の試料容器310内の抽出溶媒が気化し、残留農薬が乾固又は濃縮される。チッソガス乾固工程においては、第2の可動式容器ストックテーブル300のヒートブロック320により、第3の試料容器310を30〜40℃に加温するステップが実行されてもよい。
【実施例】
【0099】
<農薬等の一斉試験法(農産物)>
GC/MS法、LC/MS−I法及びLC/MS−II法について、前処理(農薬等の抽出)を、本発明に係る残留農薬自動前処理システム(以下、「本システム」ともいう。)を用いて実施した場合と、上述した厚生労働省が定める「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法」(平成17年1月24日付け食安発第0124001号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通)の、(ア)、(イ)、(ウ)に規定される抽出の手順(いずれも「(2)果実、野菜、ハーブ、茶及びホップの場合」の手順)(以下、「公定法」ともいう。)に従って、試験官により実施した場合とで、抽出される農薬等を比較した。
【0100】
〔本システムを用いた試験溶液の調製〕
[本システムにおける乾燥ネギの前処理]
栽培過程において農薬等が使用されていることが明らかなネギを熱風乾燥して乾燥ネギを得た。乾燥ネギ5.00gを電子天秤で秤量し、試料コップ110に投入後、可動式試料ストックテーブル100にセットして、本システムを用いて自動的に残留農薬を抽出した(図21〜図24の方法)。気化装置70を用いて濃縮又は乾固させGC−MS分析用及びLC−MS分析用のサンプルを得た。秤量から濃縮又は乾固までの操作を独立に3回繰り返し、n=3のサンプルを得た。
【0101】
具体的には、5.00gの乾燥ネギを入れた試料コップ110に溶媒供給装置21から水20mlを注入して10分間放置して浸透させ、続いて溶媒供給装置21からアセトニトリル50mlを注入し、ホモジナイザー11で5分間粉砕撹拌した。粉砕撹拌後試料コップ110の放出口120を開け、溶媒供給装置21から加圧空気を注入して加圧濾過し、濾液を第1の試料容器210で受けた。次いで、試料コップ110の放出口120を閉じ、今度は溶媒供給装置21からアセトニトリル20mlを添加し、再びホモジナイザイー11で1分間撹拌粉砕した。その後、試料コップ110の放出口120を開け、溶媒供給装置21から加圧空気を注入して加圧濾過し、濾液を再び第1の試料容器210で受けた。
【0102】
メスアップ装置30によってアセトニトリルを加え、第1の試料容器210内の溶液容量を100mlにメスアップし、バブリング装置41で3分間バブリングし、試料液を得た。このメスアップ操作と並行して、第2の試料容器810に塩化ナトリウム10gを秤量して加え、更に撹拌子を投入した後、緩衝液供給装置500によって、0.05mol/Lのリン酸バッファ(pH7.0)20ml(LC/MS−II法の場合は、0.01mol/Lの塩酸20ml)を注入した。
【0103】
この塩化ナトリウムと緩衝液(リン酸バッファ)の入った第2の試料容器810に、第1の試料容器210から分注装置50(ピペット装置)で試料液20ml(10mlの分注操作を2回繰り返した)を分注した。その後、マグネチックスターラー81により予め第2の試料容器810内に投入してあった撹拌子を回転させ、5分間撹拌した。なお、第2の試料容器810は第1の試料容器210の倍の本数を用意し、デュプリケートを作製して、それぞれGC−MS分析用及びLC−MS分析用のサンプルとした。マグネチックスターラー81を停めて5分間静置し、第2の試料容器810内の液を二層(緩衝液層と抽出溶媒層)に分離させ、溶媒回収装置60(ピペット装置)で上層(抽出溶媒層)を5mlづつ3回、合計15mlを第3の試料容器310に回収した。なお、第3の試料容器310の上方には、脱水剤92(無水硫酸ナトリウム20g)を充填した漏斗91(グーチロート)がセットされており、これを通して回収した抽出溶媒層を第3の試料容器310に移すことで脱水処理した。この後、グーチロート及び無水硫酸ナトリウムをアセトニトリル5mlで洗浄し、第3の試料容器310に回収した。
【0104】
次に、緩衝液層と少量の抽出溶媒層の残った第2の試料容器810に、抽出溶媒供給装置500(本実施例では緩衝液供給装置を兼用)からアセトニトリル5mlを加え、再びマグネチックスターラー81により撹拌子を回転させ1分間撹拌した。マグネチックスターラー81を停めて5分間静置し、溶媒回収装置60(ピペット装置)で上層(抽出溶媒層)を5ml、上記グーチロートを通して第3の試料容器310に回収した(再抽出工程)。この再抽出工程をもう一度繰り返した後、再度、グーチロート及び無水硫酸ナトリウムをアセトニトリル10mlで洗浄し、第3の試料容器310に回収した。
【0105】
上記のようにして第3の試料容器310内に回収した抽出溶媒を20ml以下に濃縮(GC/MS法及びLC/MS−I法の場合)、又は全て蒸発乾固させる(LC/MS−II法の場合)ため、第2の可動式ストックテーブル300のヒートブロック320を35℃に加温し、気化装置70で第3の試料容器310内に窒素ガスを吹き込んだ。窒素ガスの吹き込みは、濃縮の場合は20分間、乾固の場合は90分間行った。
【0106】
以上のようにして、本システムを用いて、前処理(農薬等の抽出)を行った。
【0107】
[GC/MS、LC/MS試験溶液の調製]
次に、上記[本システムにおける乾燥ネギの前処理]で得たサンプル(各n=3)それぞれに対し、以下の処理を施して試験溶液を調製した。
【0108】
GC/MS法及びLC/MS−I法の場合は、20ml以下に濃縮した液を、アセトニトリル10mlでコンディショニングしたオクタデシルシリル化シリカゲルミニカラム(1000ml)に注入し、更にアセトニトリル2mlを注入し、溶出液全量を回収した。溶出液を40℃以下で濃縮し、残留物にアセトニトリル及びトルエン(3:1)混液2mlを加えて溶かした。アセトニトリル及びトルエン(3:1)混液10mlでコンディショニングしたグラファイトカーボン/アミノプロピルシリル化シリカゲル積層ミニカラム(500mg/500mg)に、前操作で得られた液2mlを注入し、その後アセトニトリル及びトルエン(3:1)混液20mlを注入し、溶出液全量を回収した。ろ液を40℃以下で濃縮し、残留物をアセトン及びn−ヘキサン(1:1)混液に溶かして、正確に1mlとしたものを試験溶液とした。
【0109】
LC/MS−II法の場合は、乾固したサンプルに対し、第3の試料容器310にアセトン、トリエチルアミン及びn−ヘキサン(20:0.5:80)混液2mlを加えて溶解したものを、メタノール5ml、アセトン5ml、及びn−ヘキサン10mlでコンディショニングしたシリカゲルミニカラムに注入し、アセトン、トリエチルアミン及びn−ヘキサン(20:0.5:80)混液10mlを注入し、流出液は捨てた。第3の試料容器310内をアセトン及びメタノール(1:1)混液2mlで洗い、その洗液をシリカゲルミニカラムに注入し、更にアセトン及びメタノール(1:1)混液18mlを注入し、溶出液全量を回収した。濾液を40℃以下で濃縮し、残留物をメタノールに溶かして、正確に1mlとしたものを試験溶液とした。
【0110】
〔公定法による試験溶液の調製〕
[公定法による乾燥ネギの前処理、及び試験溶液の調製]
上記〔本システムを用いた試験溶液の調製〕で用いたものと同一ロットの乾燥ネギ5.00gを電子天秤で秤量し、公定法に従って試験官により前処理を行い、GC/MS、LC/MS試験溶液を調製した。前処理から試験溶液の調製までを、独立に3回行い、n=3の試験溶液を得た。また、バラつきを低減するため、本試験法(公定法)に精通した熟練の試験官一名によって前処理を行った。
【0111】
具体的には、GC/MS法及びLC/MS−I法の場合は、上記乾燥ネギ5.00gに水20mlを加え、15分間放置した。これにアセトニトリル50mLを加え、3分間ホモジナイズした後、ロートを使用し、吸引濾過した。得られた濾液にアセトニトリルを加え、100mlに定容した。塩化ナトリウム10g及び0.5mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)20mLが入った分液ロートに、定容した濾液20mlを正確に分取し、10分間振とうした。5分間静置した後、分離した水層(下層)を捨てた。次に、アセトニトリル10mlでコンディショニングしたオクタデシルシリル化シリカゲルミニカラム(1000ml)にアセトニトリル層(上層)を注入し、更にアセトニトリル2mlを注入し、溶出液全量を回収した。溶出液に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、濾過した。濾液を40℃以下でエバポレーターを用いて濃縮し、残留物にアセトニトリル及びトルエン(3:1)混液2mlを加えて溶解した(溶解液A)。アセトニトリル及びトルエン(3:1)混液10mlでコンディショニングしたグラファイトカーボン/アミノプロピルシリル化シリカゲル積層ミニカラム(500mg/500mg)に、溶解液A2mlを注入し、その後アセトニトリル及びトルエン(3:1)混液20mlを注入し、溶出液全量を回収した。濾液を40℃以下でエバポレーターを用いて濃縮し、GC/MS法の場合は残留物をアセトン及びn−ヘキサン(1:1)混液に溶かして、正確に1mlとしたものを試験溶液とした。一方、LC/MS―I法の場合はメタノールに溶かして正確に1mlとしたものを試験溶液とした。
【0112】
LC/MS−II法の場合は、上記乾燥ネギ5.00gに水20mlを加え、15分間放置した。これにアセトニトリル50mLを加え、3分間ホモジナイズした後、ロートを使用し、吸引濾過した。得られた濾液にアセトニトリルを加え、100mlに定容した。塩化ナトリウム10g及び0.01M塩酸20mLが入った分液ロートに、定容した濾液20mlを正確に分取し、10分間振とうした。5分間静置した後、分離した水層(下層)を捨てた。アセトニトリル層(上層)に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、濾過した。濾液を40℃以下でエバポレーターを用いて濃縮し、残留物にアセトン、トリエチルアミン及びn−ヘキサン(20:0.5:80)混液2mlを加えて溶解した(溶解液B)。次に、メタノール5ml、アセトン5ml、及びn−ヘキサン10mlでコンディショニングしたシリカゲルミニカラムに溶解液B2mlを注入し、アセトン、トリエチルアミン及びn−ヘキサン(20:0.5:80)混液10mlを注入し、流出液は捨てた。溶解液Bの入っていた容器内をアセトン及びメタノール(1:1)混液2mlで洗い、その洗液をシリカゲルミニカラムに注入し、更にアセトン及びメタノール(1:1)混液18mlを注入し、溶出液全量を回収した。濾液を40℃以下でエバポレーターを用いて濃縮し、残留物をメタノールに溶かして、正確に1mlとしたものを試験溶液とした。
【0113】
〔農薬等の定性及び定量〕
上記〔本システムを用いた試験溶液の調製〕及び〔公定法による試験溶液の調製〕で得た試験溶液(各n=3)に対し、GC/MS/MS測定及びLC/MS/MS測定により、上記各試験溶液中の農薬等の定性及び定量を行った。
【0114】
GC/MS/MS測定条件は下記のとおり。
測定機器:GC/MS/MS
カラム:5%フェニル−メチルシリコン(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)
カラム温度:50℃(1分)−25℃/分−125℃(0分)−10℃/分−300℃(10分)
注入口温度:240℃
キャリヤーガス:ヘリウム
イオン化モード:EI
注入量:1μl
【0115】
LC/MS/MS測定条件は下記のとおり。
測定機器:LC/MS/MS
カラム:オクタデシルシリル化シリカゲル
カラム温度:40℃
移動相:A液(5mmol/L酢酸アンモニウム水溶液)及びB液(5mmol/L酢酸アンモニウムメタノール溶液)について濃度勾配をかけて送液する。
移動相流量:0.30ml/分
イオン化モード:ESI
注入量:10μl
【0116】
〔検量線の作成〕
GC/MS法では、シペルメトリン、クロルピリホス、エチオン等をはじめとする369種の農薬等について、LC/MS−I法では、ダイムロン、カルボフラン、カルペンタジム等をはじめとする144種の農薬等について、LC/MS−II法では、フルアジホップ、ハロキシホップ、トリアスルフロン等をはじめとする64種の農薬等について、それぞれ標準品を入手し、これらの標準品それぞれについて10ppb、100ppb、200ppbスタンダード溶液を調製して、上記測定条件で測定し、別途検量線を作成した。
【0117】
〔乾燥ネギの分析結果〕
〔本システムを用いた試験溶液の調製〕で得た試験溶液及び〔公定法による試験溶液の調製〕で得た試験溶液のいずれについても表1に記載した農薬等6種が検出された(6種以外の農薬等は全て不検出(N.D.)であった)。GC/MS法についてはメタラキシル(Metalaxyl)、プロシミドン(Procymidone)、ピリメタニル(Pyrimethanil)の3種が検出され、LC/MS−I法ではカルベンダジム(Carbendazim)、オメトエート(Omethoate)、プロパモカルブ(Propamopcarb)の3種が検出され、LC/MS−II法では農薬等は検出されなかった。表1に示した結果のとおり、本システムでも公定法でもほぼ同じ結果が得られており、本システムは公定法を代替可能であることが明らかとなった。
【0118】
【表1】
【0119】
<添加回収試験(1):乾燥ネギ>
上記<農薬等の一斉試験法(農産物)>の試験に用いたものと同一ロットの乾燥ネギ5.00gに対して、所定濃度の各農薬等を含む添加回収用溶液を調製し、この添加回収用溶液を、各農薬等の添加濃度が50ppbになるように、上記乾燥ネギに添加した。その後、上記<農薬等の一斉試験法(農産物)>の試験と同様にして、本システムを用いた前処理、又は公定法に従った試験官による前処理を行い、試験溶液を調製した。この試験溶液中に回収された上記農薬等を定量することで、農薬等の添加回収試験を行った。
【0120】
添加回収試験は、GC/MS法では、上述した369種の農薬等について、LC/MS−I法では、上述した144種の農薬等について、LC/MS−II法では、上述した64種の農薬等について、本システムを用いて抽出したもの、公定法に従い試験官によって抽出したもの、ともにn=5で行い、それぞれの平均回収率、及びデータのバラつきを見るための変動係数(CV)を計算した。回収率は70〜120%の範囲にあるものを良好とし、変動係数CV(標準偏差÷平均)が15%以下であるものを良好とし、本システムと公定法との結果を比較した。結果を表2及び表3に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
表2は、「回収率が70%以上120%以下であった農薬等の数/試験した農薬等の総数」を示す。また表3は、「CVが15%以下であった農薬等の数/試験した農薬等の総数」を示す。表2及び表3から明らかなように、本発明に係る残留農薬自動前処理システムを用いた方が、熟練した試験官が公定法に従って行うよりも、回収率、ばらつき(CV)ともに優れた結果が得られた。
【0124】
<添加回収試験(2):生鮮キャベツ>
農薬等が検出されなかった生鮮キャベツを用い、添加回収試験を行った。上記<添加回収試験(1):乾燥ネギ>に記載の添加回収用溶液を、各農薬等の添加濃度が25ppbになるように、上記生鮮キャベツ20gに添加した。その後、水20mlを注入しなかったこと、オクタデシルシリル化シリカゲルミニカラム(1000ml)を使用しなかったこと(GC/MS法及びLC/MS−I法の場合)、試験溶液量(最終調製溶媒量)を2mlにしたこと以外は、上記〔本システムを用いた試験溶液の調製〕及び〔公定法による試験溶液の調製〕と同様にして、本システムを用いた前処理、又は公定法に従った試験官による前処理を行い、試験溶液を得た。この試験溶液を用いたこと以外は、上記<添加回収試験(1):乾燥ネギ>と同様にして、平均回収率、及びデータのバラつきを見るための変動係数(CV)を計算した。結果を表4及び表5に示す。
【0125】
【表4】
【0126】
【表5】
【0127】
<添加回収試験(3):小麦粉>
農薬等が検出されなかった小麦粉を用い、添加回収試験を行った。上記<添加回収試験(1):乾燥ネギ>に記載の添加回収用溶液を、各農薬等の添加濃度が25ppbになるように、上記小麦粉10gに添加した。その後、試験溶液の調製において、分液後のアセトニトリル層を、アセトニトリル10mlでコンディショニングしたオクタデシルシリル化シリカゲルミニカラム(1000ml)に注入し、更にアセトニトリル2mlを注入し、溶出液全量を回収する操作を追加で実施し、その後に無水硫酸ナトリウムによる脱水以降の操作を行ったこと(公定法におけるLC/MS−II法の場合のみ)以外は、上記〔本システムを用いた試験溶液の調製〕及び〔公定法による試験溶液の調製〕と同様にして、本システムを用いた前処理、又は公定法に従った試験官による前処理を行い、試験溶液を得た。この試験溶液を用いたこと以外は、上記<添加回収試験(1):乾燥ネギ>と同様にして、平均回収率、及びデータのバラつきを見るための変動係数(CV)を計算した。結果を表6及び表7に示す。
【0128】
【表6】
【0129】
【表7】
【0130】
表4〜7から明らかなように、生鮮キャベツの場合、及び小麦粉の場合であっても、本発明に係る残留農薬自動前処理システムを用いた方が、熟練した試験官が公定法に従って行うよりも、回収率、ばらつき(CV)ともに優れた結果が得られた。
【0131】
<ペースト状加工食品中の農薬等の検出試験>
タイ国で入手したトムヤムクンペースト(ペースト状のトムヤムクンの素)について、当該食品中に残留する農薬等の検出試験を行った。なお、上記トムヤムクンペーストは、レモングラス、唐辛子、タマネギ、ニンニク等を原料とする食品(加工食品)である。
【0132】
上記トムヤムクンペースト5gを試料としたこと、サンプル数をn=10としたこと、LC/MS−II法は実施しなかったこと以外は、上記<添加回収試験(3):小麦粉>と同様にして試験溶液を調製し、この試験溶液を用いたこと以外は、上記<農薬等の一斉試験法(農産物)>と同様にして、上記トムヤムクンペースト中の農薬等の検出試験を行った。なお、公定法においては、本試験法に精通した熟練の試験官三名によって、それぞれ独立に前処理を行った。
【0133】
【表8】
【0134】
その結果、本システムで前処理した試験溶液、及び公定法により前処理した試験溶液のいずれについても表8に記載した農薬等4種が検出された。GC/MS法では、エチオン(Ethion)、シペルメトリン(Cypermethrin)、トリアゾホス(Triazophos)の3種が検出され、LC/MS−I法では、カルベンダジム(Carbendazim)の1種が検出された。表8に示した結果のとおり、本システムでも公定法でもほぼ同じ濃度で検出されており、公定法を代替可能であることが明らかである。また、バラツキについては、総じて本システムの方が低い値となっており、本システムによればより信頼性の高い試験結果が得られることが明らかである。
【符号の説明】
【0135】
11…ホモジナイザー、12…シャフト、15…カッター、21…溶媒供給装置、30…メスアップ装置、40…第1の撹拌手段、50…分注装置、51…ピペット端、60…溶媒回収装置、61…ピペット端、70…気化装置、80…第2の撹拌手段、91…漏斗、92…脱水剤、100…可動式試料ストックテーブル、110…試料コップ、120…放出口、140…濾紙、200…第1の可動式容器ストックテーブル、210…第1の試料容器、300…第2の可動式容器ストックテーブル、310…第3の試料容器、500…緩衝液供給装置(抽出溶媒供給装置)、700…受け皿、800…ストックテーブル、810…第2の試料容器、1000…残留農薬自動前処理システム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に濾紙を具備するとともに、開閉自在の放出口を底部に有する試料コップと、
1個又は複数個の前記試料コップを保持する可動式試料ストックテーブルと、
水又は抽出溶媒を前記試料コップ内に注入する溶媒供給装置と、
脱着自在のシャフトに設けられたカッターを有し、前記試料コップ内の試料、水及び抽出溶媒を粉砕撹拌するホモジナイザーと、
前記試料コップの放出口から放出される濾液を受けるための第1の試料容器と、
前記第1の試料容器を保持する第1の可動式容器ストックテーブルと、
前記濾液を受けた前記第1の試料容器に、総量が所定量となるように抽出溶媒を注入し、試料液を調整するメスアップ装置と、
前記第1の試料容器内の前記試料液を撹拌する第1の撹拌手段と、
前記試料液を緩衝液で液−液抽出するための第2の試料容器と、
前記第1の試料容器内の前記試料液の所定量を、前記第2の試料容器内へ分注する分注装置と、
前記第2の試料容器内の前記試料液と前記緩衝液を撹拌する第2の撹拌手段と、
液−液抽出後の抽出溶媒層を回収するための第3の試料容器と、
液−液抽出後の前記第2の試料容器内の抽出溶媒層を吸い上げ、前記第3の試料容器内に吐出する溶媒回収装置と、
を備える、残留農薬自動前処理システム。
【請求項2】
前記第2の試料容器に緩衝液を注入する緩衝液供給装置を更に備える、請求項1に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項3】
前記第3の試料容器を保持する第2の可動式容器ストックテーブル、及び
前記第3の試料容器内の抽出溶媒の少なくとも一部を蒸発させる気化装置を更に備える、請求項1又は2に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項4】
前記第3の試料容器の口に装着される、脱水剤が充填された漏斗を更に備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項5】
前記溶媒回収装置により所定量の前記抽出溶媒層が吸い上げられた前記第2の試料容器内に、所定量の抽出溶媒を注入する抽出溶媒供給装置を更に備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項6】
前記分注装置が、着脱自在のピペット端を有するピペット装置である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項7】
前記溶媒回収装置が、着脱自在のピペット端を有するピペット装置である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項8】
前記可動式試料ストックテーブルは、複数個の試料コップを保持するものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項9】
前記可動式試料ストックテーブルに保持された前記試料コップの上部に所定のタイミングで移動し、前記ホモジナイザー又は前記溶媒供給装置からの落下物を受けるための受け皿を更に備える、請求項8に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の残留農薬自動前処理システムにおける残留農薬の抽出方法であって、
前記溶媒供給装置により水及び抽出溶媒を注入された試料コップが、前記ホモジナイザーの下方に位置するように、前記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、
前記ホモジナイザーにより内部の試料、水及び抽出溶媒が粉砕撹拌された試料コップが、前記第1の可動式容器ストックテーブルに保持された前記第1の試料容器の上方に位置するように、前記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、
試料コップの放出口から放出される濾液を受けた第1の試料容器が、前記メスアップ装置の下方に位置するように、前記第1の可動式容器ストックテーブルを移動させるステップと、
前記メスアップ装置により内部に前記試料液が調整された第1の試料容器が、前記第1の撹拌手段の動作範囲内に位置するように、前記第1の可動式容器ストックテーブルを移動させるステップと、
前記第1の撹拌手段により内部の前記試料液が撹拌された第1の試料容器が、前記分注装置の動作範囲内に位置するように、前記第1の可動式容器ストックテーブルを移動させるステップと、を含む、残留農薬の抽出方法。
【請求項11】
請求項10に記載の残留農薬の抽出方法であって、
該抽出方法は、前記試料コップから濾液を放出させた後に該試料コップ内に残存する濾過残渣を抽出溶媒で再抽出する工程を少なくとも1回実行するものであり、
前記再抽出する工程は、
前記溶媒供給装置が、濾液を放出して濾過残渣が残った試料コップに抽出溶媒を再注入するステップと、
前記溶媒供給装置により抽出溶媒を再注入された試料コップが、前記ホモジナイザーの下方に位置するように、前記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、
前記ホモジナイザーが、試料コップ内部の前記濾過残渣及び抽出溶媒を粉砕撹拌するステップと、
前記ホモジナイザーにより、内部の濾過残渣と再注入された抽出溶媒とが粉砕撹拌された試料コップが、前記第1の可動式容器ストックテーブルに保持された第1の試料容器の上方に位置するように、前記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、を含む、請求項10に記載の残留農薬の抽出方法。
【請求項12】
請求項5に記載の残留農薬自動前処理システムにおける残留農薬の抽出方法であって、
該抽出方法は、液−液抽出後の緩衝液層を再抽出する工程を少なくとも1回実行するものであり、
前記液−液抽出後の緩衝液相を再抽出する工程が、
前記抽出溶媒供給装置が、前記溶媒回収装置により所定量の前記抽出溶媒層が吸い上げられ、緩衝液層及び残余の抽出溶媒層が残存した第2の試料容器内に、所定量の抽出溶媒を再注入するステップと、
前記第2の撹拌手段が、第2の試料容器内部の前記緩衝液層、残余の抽出溶媒層、及び再注入した抽出溶媒を撹拌するステップと、
前記溶媒回収装置が、第2の試料容器内部の抽出溶媒層を吸い上げ、第3の試料容器内に吐出するステップと、を含む、残留農薬の抽出方法。
【請求項1】
内部に濾紙を具備するとともに、開閉自在の放出口を底部に有する試料コップと、
1個又は複数個の前記試料コップを保持する可動式試料ストックテーブルと、
水又は抽出溶媒を前記試料コップ内に注入する溶媒供給装置と、
脱着自在のシャフトに設けられたカッターを有し、前記試料コップ内の試料、水及び抽出溶媒を粉砕撹拌するホモジナイザーと、
前記試料コップの放出口から放出される濾液を受けるための第1の試料容器と、
前記第1の試料容器を保持する第1の可動式容器ストックテーブルと、
前記濾液を受けた前記第1の試料容器に、総量が所定量となるように抽出溶媒を注入し、試料液を調整するメスアップ装置と、
前記第1の試料容器内の前記試料液を撹拌する第1の撹拌手段と、
前記試料液を緩衝液で液−液抽出するための第2の試料容器と、
前記第1の試料容器内の前記試料液の所定量を、前記第2の試料容器内へ分注する分注装置と、
前記第2の試料容器内の前記試料液と前記緩衝液を撹拌する第2の撹拌手段と、
液−液抽出後の抽出溶媒層を回収するための第3の試料容器と、
液−液抽出後の前記第2の試料容器内の抽出溶媒層を吸い上げ、前記第3の試料容器内に吐出する溶媒回収装置と、
を備える、残留農薬自動前処理システム。
【請求項2】
前記第2の試料容器に緩衝液を注入する緩衝液供給装置を更に備える、請求項1に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項3】
前記第3の試料容器を保持する第2の可動式容器ストックテーブル、及び
前記第3の試料容器内の抽出溶媒の少なくとも一部を蒸発させる気化装置を更に備える、請求項1又は2に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項4】
前記第3の試料容器の口に装着される、脱水剤が充填された漏斗を更に備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項5】
前記溶媒回収装置により所定量の前記抽出溶媒層が吸い上げられた前記第2の試料容器内に、所定量の抽出溶媒を注入する抽出溶媒供給装置を更に備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項6】
前記分注装置が、着脱自在のピペット端を有するピペット装置である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項7】
前記溶媒回収装置が、着脱自在のピペット端を有するピペット装置である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項8】
前記可動式試料ストックテーブルは、複数個の試料コップを保持するものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項9】
前記可動式試料ストックテーブルに保持された前記試料コップの上部に所定のタイミングで移動し、前記ホモジナイザー又は前記溶媒供給装置からの落下物を受けるための受け皿を更に備える、請求項8に記載の残留農薬自動前処理システム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の残留農薬自動前処理システムにおける残留農薬の抽出方法であって、
前記溶媒供給装置により水及び抽出溶媒を注入された試料コップが、前記ホモジナイザーの下方に位置するように、前記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、
前記ホモジナイザーにより内部の試料、水及び抽出溶媒が粉砕撹拌された試料コップが、前記第1の可動式容器ストックテーブルに保持された前記第1の試料容器の上方に位置するように、前記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、
試料コップの放出口から放出される濾液を受けた第1の試料容器が、前記メスアップ装置の下方に位置するように、前記第1の可動式容器ストックテーブルを移動させるステップと、
前記メスアップ装置により内部に前記試料液が調整された第1の試料容器が、前記第1の撹拌手段の動作範囲内に位置するように、前記第1の可動式容器ストックテーブルを移動させるステップと、
前記第1の撹拌手段により内部の前記試料液が撹拌された第1の試料容器が、前記分注装置の動作範囲内に位置するように、前記第1の可動式容器ストックテーブルを移動させるステップと、を含む、残留農薬の抽出方法。
【請求項11】
請求項10に記載の残留農薬の抽出方法であって、
該抽出方法は、前記試料コップから濾液を放出させた後に該試料コップ内に残存する濾過残渣を抽出溶媒で再抽出する工程を少なくとも1回実行するものであり、
前記再抽出する工程は、
前記溶媒供給装置が、濾液を放出して濾過残渣が残った試料コップに抽出溶媒を再注入するステップと、
前記溶媒供給装置により抽出溶媒を再注入された試料コップが、前記ホモジナイザーの下方に位置するように、前記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、
前記ホモジナイザーが、試料コップ内部の前記濾過残渣及び抽出溶媒を粉砕撹拌するステップと、
前記ホモジナイザーにより、内部の濾過残渣と再注入された抽出溶媒とが粉砕撹拌された試料コップが、前記第1の可動式容器ストックテーブルに保持された第1の試料容器の上方に位置するように、前記可動式試料ストックテーブルを移動させるステップと、を含む、請求項10に記載の残留農薬の抽出方法。
【請求項12】
請求項5に記載の残留農薬自動前処理システムにおける残留農薬の抽出方法であって、
該抽出方法は、液−液抽出後の緩衝液層を再抽出する工程を少なくとも1回実行するものであり、
前記液−液抽出後の緩衝液相を再抽出する工程が、
前記抽出溶媒供給装置が、前記溶媒回収装置により所定量の前記抽出溶媒層が吸い上げられ、緩衝液層及び残余の抽出溶媒層が残存した第2の試料容器内に、所定量の抽出溶媒を再注入するステップと、
前記第2の撹拌手段が、第2の試料容器内部の前記緩衝液層、残余の抽出溶媒層、及び再注入した抽出溶媒を撹拌するステップと、
前記溶媒回収装置が、第2の試料容器内部の抽出溶媒層を吸い上げ、第3の試料容器内に吐出するステップと、を含む、残留農薬の抽出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2013−3003(P2013−3003A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135294(P2011−135294)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000226976)日清食品ホールディングス株式会社 (127)
【出願人】(392017303)システム・インスツルメンツ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000226976)日清食品ホールディングス株式会社 (127)
【出願人】(392017303)システム・インスツルメンツ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
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