説明

残糸除去装置及びピッカー部材

【課題】径方向変位量が大きく、内径の異なる複数種類のボビンに共通に使用可能であり、さらに、耐久性が向上したピッカー部材を提供すること。
【解決手段】ボビンB内に挿入されるピッカー部材20は、ボビンBの内周方向に互いに隙間を空けて配置され、縮径状態とこの縮径状態よりもボビンBの径方向外側に広がった拡径状態とにわたって、ボビンBの径方向に変位可能な複数の密着部23と、複数の密着部23を連結する連結部24とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボビンの残糸を除去する残糸除去装置、及び、この残糸除去装置のピッカー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、糸巻取装置のボビン搬送装置に設けられ、糸巻取装置から排出されたボビンに残っている糸(残糸)を除去する残糸除去装置(ボビンストリッパ)が知られている。このような残糸除去装置は、一般的に、搬送されてくるボビンの中から、残糸を除去する対象となるボビンをピックアップするためのピッカー部材を有する。例えば、特許文献1の残糸除去装置は、その軸方向中央部に内周溝が形成されたゴム管からなり、筒状のボビンに挿入されるピッカー部材を有する。そして、この残糸除去装置は、エアシリンダによりピッカー部材をその軸方向に圧縮し、溝が形成された軸方向中央部を径方向外側に弾性変形させてボビンの内面に密着させることにより、ボビンを保持するように構成されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−100171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されているようなピッカー部材は、拡径してボビンを保持している状態から、縮径状態に戻る際には、ピッカー部材自身の弾性復元力のみによって、拡径状態から収縮するようになっているため、戻り不良によってピッカー部材がボビンから抜けなくなることがあった。
【0005】
本発明の目的は、ピッカー部材が拡径状態から縮径状態へ戻る際の、戻り不良を防止して、ボビンの保持解除を確実に行うことが可能な残糸除去装置を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
第1の発明の残糸除去装置は、筒状のボビンの残糸を除去する残糸除去装置であって、
前記ボビンの内面に密着してボビンを保持する拡径状態と、前記ボビンの内径よりも小さい外径の縮径状態とに変位可能なピッカー部材と、前記ピッカー部材の前記拡径状態と前記縮径状態とを切り換えるピッカー駆動手段と、前記ピッカー駆動手段を支持する支持基部と、前記支持基部を前記ボビンの軸方向に駆動する支持基部駆動手段とを有することを特徴とするものである。
【0007】
この残糸除去装置においては、まず、縮径状態のピッカー部材がボビンに挿入された状態で、ピッカー駆動手段によりピッカー部材が径方向外側へ強制的に広げられて拡径状態となり、ピッカー部材がボビン内面に密着してボビンが保持される。そして、ピッカー部材により保持されたボビンから残糸が除去された後には、ピッカー駆動手段によりピッカー部材が径方向内側へ強制的にすぼめられて縮径状態に戻され、ボビンの保持が解除される。
【0008】
本発明によれば、ピッカー駆動手段により、ピッカー部材の拡径状態と縮径状態とが強制的に切り換えられることから、ピッカー部材が拡径状態から縮径状態へ戻る際に、戻り不良が発生せず、ボビンの保持解除を確実に行うことができる。
【0009】
第2の発明の残糸除去装置は、前記第1の発明において、前記ピッカー駆動手段は、前記ピッカー部材内に挿通されたピッカー軸を有し、前記ピッカー部材の一端部が前記ピッカー軸に固定されるとともに、その他端部が前記支持基部に固定され、前記ピッカー駆動手段の前記ピッカー軸が、前記支持基部に対して前記ボビンの軸方向に移動することにより、前記ピッカー部材の前記拡径状態と前記縮径状態とが切り換えられることを特徴とするものである。
【0010】
この構成によれば、ピッカー部材の一端部がピッカー軸に固定されるとともに、その他端部が支持基部に固定されていることから、ピッカー軸が支持基部に対してボビンの軸方向に移動することにより、ピッカー部材が軸方向に圧縮/伸張され、拡径状態と縮径状態とが強制的に切り換えられる。
【0011】
第3の発明の残糸除去装置は、前記第1又は第2の発明において、前記ピッカー部材は、前記ボビンの内周方向に並べて配置されるとともに、前記ボビンの径方向に変位可能な複数の密着部と、前記複数の密着部を連結する連結部とを有することを特徴とするものである。
【0012】
前述した、ゴム管からなる従来のピッカー部材(特許文献1)においては、ピッカー部材を軸方向に圧縮したときの、径方向の弾性変形量(拡径量)は、ゴム管自体の弾性変形特性を利用したものであるため、ゴム自体の弾性変形能力を超えて大きく変形させることは困難であった。そのため、内径の異なる複数種類のボビンに対して1種類のピッカー部材で対応することが困難となっていた。つまり、ボビン搬送装置で扱われるボビンの種類が変わるごとに、ピッカー部材を、使用されるボビンに適したものと交換する必要があった。さらに、この従来のピッカー部材においては、ピッカー部材の軸方向中央部において、局部的な伸縮と曲げ変形の両方が繰り返し発生するため、この軸方向中央部において疲労破壊が生じやすく、耐久性が低いものとなっていた。
【0013】
一方、本発明においては、ピッカー部材が複数の密着部に分割されることにより、ピッカー部材に対してボビンの軸方向に荷重が作用したときには、各密着部は容易に連結部に対して曲げ変形して、ボビンの径方向に大きく変位できるようになる。このように、分割された複数の密着部が、それぞれ曲げ変形によって径方向に変位することから、ピッカー部材の径方向の変位量(即ち、拡径量)を大きく確保することができる。従って、内径の異なる複数種類のボビンに対して1種類のピッカー部材を共通に使用することができ、ボビンの種類に合わせてピッカー部材を交換する手間を減らすことができる。
【0014】
また、ピッカー部材の複数の密着部は、ほとんど曲げ変形のみで拡径と縮径を繰り返すことから、拡径状態から縮径状態に変位する際、又は、縮径状態から拡径状態へ変位する際に、ピッカー部材、特に、密着部に生じる伸び縮みは非常に小さい。そのため、伸縮と曲げ変形の両方が繰り返し生じる従来のピッカー部材と比べて、繰り返し応力による疲労破断が発生しにくくなり、ピッカー部材の耐久性が向上する。
【0015】
第4の発明の残糸除去装置は、前記第3の発明において、前記ピッカー部材は、その軸方向中央部に、軸方向に沿って延びるとともに周方向に並んだ複数のスリットが形成された筒状体からなり、
前記筒状体の前記軸方向中央部が前記複数のスリットにより周方向に分割されることにより、前記複数の密着部が形成され、前記筒状体の軸方向両端部が、それぞれ、前記複数の密着部を連結する前記連結部を構成していることを特徴とするものである。
【0016】
筒状体からなるピッカー部材がその軸方向に圧縮されると、複数のスリットによって周方向に分割形成された複数の密着部が径方向外側へ膨らむように曲げ変形され、全体として拡径状態となってボビンの内周面に密着する。
【0017】
尚、複数のスリットは、筒状のピッカー部材の軸方向中央部を周方向に分割して複数の密着部を形成することができるように、全体的に筒状体の軸方向に沿って延在するものであれば、その形状は特に限定されない。従って、本発明のスリットは、ピッカー部材の軸方向と平行なものに限られず、例えば、軸方向に対して傾斜した方向に延在するものや、曲線状、あるいは、ジグザグ状に延びるものも含まれる。
【0018】
第5の発明の残糸除去装置は、前記第4の発明において、前記ピッカー部材は弾性部材で形成され、前記スリットの両端には、円弧状の応力緩和部がそれぞれ形成されていることを特徴とするものである。
【0019】
この構成によれば、拡径時又は縮径時に複数の密着部が曲げ変形する際に、スリットの両端位置において発生する応力集中が、応力緩和部によって緩和される。そのため、スリットの両端から亀裂が発生して進展するのが防止される。
【0020】
第6の発明のピッカー部材は、筒状のボビン内に挿入され、その軸方向中央部に、軸方向に沿って延びるとともに周方向に並んだ複数のスリットが形成された、弾性部材である筒状体からなり、
前記筒状体が前記複数のスリットによって周方向に分割されることにより形成され、且つ、縮径状態とこの縮径状態よりも外側に広がった拡径状態とにわたって、前記ボビンの径方向に変位可能な複数の密着部と、前記筒状体の軸方向両端部にそれぞれ設けられて、前記複数の密着部を連結する連結部と、前記スリットの両端に形成された円弧状の応力緩和部とを有することを特徴とするものである。
【0021】
ピッカー部材が、ボビンの内周方向に関して複数の密着部に分割されることにより、各密着部は容易に連結部に対して曲げ変形して、ボビンの径方向に大きく変位できるようになる。つまり、ピッカー部材の径方向の変位量(即ち、拡径量)を大きく確保することができる。従って、内径の異なる複数種類のボビンに対して1種類のピッカー部材を共通に使用することができ、ボビンの種類に合わせてピッカー部材を交換する手間を減らすことができる。また、伸縮と曲げ変形の両方が繰り返し生じる従来のピッカー部材と比べて、繰り返し応力による疲労破断が発生しにくくなり、ピッカー部材の耐久性が向上する。
【0022】
さらに、拡径時又は縮径時に複数の密着部が曲げ変形する際に、スリットの両端位置において発生する応力集中が、応力緩和部によって緩和される。そのため、スリットの両端から亀裂が発生して進展するのが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施形態の残糸除去装置(ボビンストリッパ)の正面図である。本実施形態の残糸除去装置1は、給糸ボビンから解舒された糸を巻き返して巻取パッケージを形成する自動ワインダのボビン搬送装置に設けられている。
【0024】
自動ワインダにおいて、ボビンに巻かれている糸が不良糸と判断された場合には、そのボビンからの糸の解舒は途中で中断され、糸が残った状態のボビンが自動ワインダから排出される。このような糸が残っているボビンをそのまま精紡機へ返してしまうと、精紡機において、不良糸の上に新たな糸が巻かれてしまう。そこで、精紡機へ返す前にボビンから残糸を除去する残糸除去装置が、ボビン搬送装置に一般的に設けられる。
【0025】
図1に示すように、残糸除去装置1は、鉛直姿勢の筒状のボビンB内にその上端から挿入されて、ボビンBを保持するボビンピッカー2と、このボビンピッカー2に連結された棒状のプッシャー3(支持基部)と、ボビンピッカー2に保持されているボビンBの残糸Yを把持するクランパー4等を備えている。尚、ボビンピッカー2、プッシャー3、クランパー4等の残糸除去装置1の各構成部は、固定的に設けられたフレーム5に支持されている。
【0026】
また、残糸除去装置1は、ボビンBに糸が残っているか否かの判別を行う残糸検出センサ(図示省略)を備えている。そして、搬送されてきたボビンBに残糸Yがあることが、このセンサによって検出されたときにのみ、残糸除去動作を行う。
【0027】
ボビンピッカー2は、筒状のピッカー部材20を有する。そして、プッシャー3内に配設されるとともに、このプッシャー3に支持されたピッカーシリンダ22(図7、図9参照)により、このピッカー部材20を拡径させてボビンBの内面に密着させることで、ボビンBを保持するように構成されている。このボビンピッカー2の具体的構成については、後ほど詳しく説明する。
【0028】
プッシャー3は、フレーム5に上下方向に関して移動可能に支持されており、プッシャーシリンダ6(支持基部駆動手段)により上下方向(ボビンBの軸方向)に駆動される。また、このプッシャー3の先端部(下端部)は、ボビンピッカー2の上端部に連結されている。従って、プッシャーシリンダ6により駆動されてプッシャー3が上下方向に移動するときには、ボビンピッカー2(及び、ボビンピッカー2に保持されたボビンB)は、プッシャー3と一体的に昇降移動することになる。
【0029】
フレーム5の下部には、左右1対のクランパー4が設けられている。この1対のクランパー4は、図示しないエアシリンダ等の駆動手段により、互いに接近/離間するように駆動されることで、ボビンBの残糸Yの把持及び把持解除を行うことが可能となっている。
【0030】
本実施形態の残糸除去装置1においては、ピッカーシリンダ22、プッシャーシリンダ6、クランパー4等が、図示しない制御装置によりそれぞれ制御されることによって、ボビンBから残糸Yを除去する。
【0031】
図1に示すように、ボビン搬送装置により、ボビンBを鉛直姿勢に保持したトレイ7が残糸除去装置1に搬送されてくると、残糸検出センサ(図示省略)によってボビンBに残糸Yが存在することが検出されたときに限り、残糸除去装置1は、以下のような一連の残糸除去動作を行う。
【0032】
まず、図2に示すように、ピッカーシリンダ22によりピッカー部材20を拡径させて、ボビンピッカー2によりボビンBを保持させる。次に、図3に示すように、プッシャーシリンダ6によりプッシャー3とともにボビンピッカー2を上方へ駆動して、ボビンBを吊り上げる。
【0033】
次に、図4に示すように、左右1対のクランパー4によりボビンBの残糸Yを把持してから、プッシャーシリンダ6によりプッシャー3を下方へ駆動して、ボビンBを下方へ押し出すことにより、残糸YからボビンBを抜き取る。
【0034】
最後に、図5に示すように、1対のクランパー4による残糸Yの把持を解除してから、ボビンBの上端に位置する残糸Yに対して、図示しないブラストによって残糸Yにエアを吹き付けるとともに、エアシリンダ9により開閉弁10を開けてサクションパイプ8で吸引することにより、ボビンBから残糸Yを取り除く。
【0035】
次に、ボビンピッカー2について詳細に説明する。図6は縮径状態のボビンピッカーの拡大図、図7はボビンピッカーの鉛直断面図、図8は図6のVIII-VIII線断面図、図9は拡径状態のボビンピッカーの鉛直断面図である。図6〜図9に示すように、ボビンピッカー2は、筒状のピッカー部材20と、このピッカー部材20内に挿通されたピッカー軸21とを有する。
【0036】
ピッカー部材20を構成する筒状体は、例えば、ゴム材料や樹脂材料等の比較的軟質の弾性材料で形成される。図6、図8に示すように、ピッカー部材20の軸方向(上下方向)中央部には、軸方向に平行に延びるとともに、周方向に並んだ複数(本実施形態では8つ)のスリット25が、周方向等間隔位置に形成されている。また、図8に示すように、各スリット25は、ピッカー部材20の外面から内面まで径方向に貫通している。従って、ピッカー部材20の軸方向中央部が、複数のスリット25により周方向に分割されている。言い換えれば、ピッカー部材20の軸方向中央部に、複数のスリット25によって分割され、周方向に並べて配置された複数の密着部23が形成されている。尚、これら密着部23は、ピッカー軸21に対し、接するように配置されているが、ピッカー軸21そのものには固定されていない。また、スリット25の幅は非常に小さく、ピッカー部材20の縮径状態(図6の状態)においては、周方向に隣接する密着部23同士がほぼ接触した状態となっている。
【0037】
このように、ピッカー部材20の軸方向中央部が、その周方向(ボビンBの内周方向)に関して複数の密着部23に分割されていることから、ピッカー部材20に対して軸方向の荷重が作用したときに、複数の密着部23がそれぞれ容易に曲げ変形して、径方向に大きく変位できるようになる。
【0038】
尚、図6に示すように、各スリット25の両端には、スリット25の幅よりも大きい直径を有する円弧状の切欠部26(応力緩和部)がそれぞれ形成されている。この切欠部26によって、密着部23が曲げ変形して径方向に変位する際にスリット25の両端に生じる応力集中が緩和される。
【0039】
また、複数のスリット25によって周方向に分割された複数の密着部23は、ピッカー部材20の軸方向両端部によって互いに連結されている。つまり、ピッカー部材20の軸方向両端部が、複数の密着部23を連結する連結部24を構成している。尚、図7、図9に示すように、ピッカー部材20の軸方向両端部には、このピッカー部材20をピッカー軸21及びプッシャー3と固定するための環状係合部20a,20bがそれぞれ形成されている。
【0040】
ピッカー軸21は、プッシャー3に、上下方向(ボビンBの軸方向)に移動可能に支持されており、プッシャー3内に配設されたピッカーシリンダ22により、プッシャー3に対して上下方向に駆動(進退駆動)される。尚、ピッカー軸21とピッカーシリンダ22が、本願発明のピッカー駆動手段に相当する。
【0041】
また、ピッカー軸21は、前述した筒状のピッカー部材20内に挿通されている。このピッカー軸21の先端部に形成されたネジ部には、先細り状の固定金具27が外嵌状に螺合している。即ち、固定金具27はピッカー軸21に固定されている。また、固定金具27の上端部には環状の係合部27aが形成されており、この係合部27aがピッカー部材20の下端部の環状係合部20aと係合することで、固定金具27を介して、ピッカー部材20とピッカー軸21が固定されるようになっている。
【0042】
さらに、ピッカー軸21のピッカー部材20よりも上側の部分には、筒状の固定金具28が摺動自在に外嵌されている。この固定金具28の上半部外周にはネジ部が形成され、このネジ部にプッシャー3の下端部が外嵌状に螺合している。即ち、固定金具28はプッシャー3に固定されている。また、固定金具28の下端部には環状の係合部28aが形成されており、この係合部28aがピッカー部材20の上端部の環状係合部20bと係合することで、固定金具28を介して、ピッカー部材20とプッシャー3とが固定されるようになっている。
【0043】
このように、ピッカー部材20の軸方向両端部にそれぞれ位置して、その間の複数の密着部23を連結する2つの連結部24の、一方が固定金具27を介してピッカー軸21に固定され、他方が固定金具28を介してプッシャー3に固定されている。従って、図7のように、ピッカー部材20が径方向外側に膨らんでいない縮径状態から、ピッカーシリンダ22によりピッカー軸21がプッシャー3に対して退入するように上方へ駆動されると、ピッカー軸21とプッシャー3の両者と固定されたピッカー部材20には、軸方向の圧縮力が生じる。
【0044】
ここで、前述したように、ピッカー部材20の軸方向中央部は、周方向に関して複数の密着部23に分割されており、軸方向の圧縮力を受けたときに、各密着部23が、連結部24に対して容易に曲げ変形できるようになっている。そのため、ピッカー部材20が軸方向に圧縮されると、その圧縮は、密着部23に局所的な伸縮をほとんど生じさせることなく、密着部23の曲げ変形に変換される。
【0045】
従って、図9のように、ピッカー部材20の複数の密着部23が、連結部24に対して、それぞれ径方向外側へ突き出るように大きく曲げ変形し、径方向外側に膨らんだ拡径状態となる。これにより、複数の密着部23がボビンBの内周に密着し、ピッカー部材20によりボビンBが保持されることになる。
【0046】
また、拡径状態のピッカー部材20によってボビンBが保持されている状態から、ピッカーシリンダ22によりピッカー軸21がプッシャー3に対して進出するように下方へ駆動されると、ピッカー部材20の2つの連結部24がピッカー軸21とプッシャー3にそれぞれ固定されていることから、ピッカー部材20は速やかに伸張する。これに伴って、径方向外側へ突き出すように曲げ変形を生じていた複数の密着部23が、図7の縮径状態に戻る。すると、複数の密着部23がボビンBの内面からそれぞれ離れることになり、ピッカー部材20によるボビンBの保持が速やかに解除される。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の残糸除去装置1は、ピッカー駆動手段(ピッカー軸21及びピッカーシリンダ22)により、ピッカー部材20の拡径状態と縮径状態とが切り換えられるように構成されている。つまり、ピッカー軸21及びピッカーシリンダ22によって、ピッカー部材20の縮径状態から拡径状態への変位だけでなく、拡径状態から縮径状態への変位も強制的に行うことができる。従って、ピッカー部材20が、ボビンBを保持している拡径状態から縮径状態へ戻る際に、戻り不良が発生せず、ボビンBの保持解除を確実に行うことができる。
【0048】
より具体的には、ピッカー部材20の一端部がピッカー軸21に固定されるとともに、その他端部がプッシャー3に固定されているため、ピッカー軸21がプッシャー3に対してボビンBの軸方向に移動することにより、ピッカー部材20が軸方向に圧縮/伸張され、拡径状態と縮径状態が強制的に切り換えられる。
【0049】
また、ピッカー部材20には、その軸方向中央部がスリット25によって周方向に分割されることにより、複数の密着部23が形成されている。そのため、複数の密着部23が、連結部24に対してそれぞれ容易に曲げ変形でき、ピッカー部材20の径方向の変位量(拡径量)を大きく確保することができる。従って、内径の異なる複数種類のボビンBに対して1種類のピッカー部材20を共通に使用することができ、ボビンBの種類に合わせてピッカー部材20を交換する手間を減らすことができる。
【0050】
また、ほとんど曲げ変形のみで複数の密着部23が拡径と縮径を繰り返すことから、拡径時又は縮径時に密着部23に生じる局部的な伸縮は非常に小さくなる。そのため、拡径時又は縮径時に伸縮と曲げ変形の両方が繰り返し生じる従来のピッカー部材と比べて、繰り返し応力による疲労破断が発生しにくくなり、ピッカー部材20の耐久性が向上する。
【0051】
さらに、ピッカー部材20の各スリット25の両端位置に、円弧状の切欠部26(応力緩和部)が形成されているため、密着部23が連結部24に対して曲げ変形する際に、スリット25の両端位置において発生する応力集中が緩和される。そのため、スリット25の両端から亀裂が発生して進展し、最終的に破断してしまうのが防止される。
【0052】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0053】
1]複数の密着部23を分割形成するために、ピッカー部材に設けられる複数のスリットは、前記実施形態の形状のものに限られない。即ち、ピッカー部材の軸方向中央部を、周方向に複数の密着部に分割するように、全体的に軸方向に沿って延在するものであれば、その形状は特に限定されない。
【0054】
例えば、図10(a)に示すように、ピッカー部材20の縮径状態においても、隣接する密着部23Aの間に隙間が形成される程度に、スリット25Aの幅が広いものであってもよい。
【0055】
また、図10(b)に示すように、スリット25Bが、軸方向に対して傾斜した方向に延びていてもよい。また、図10(c)に示すように、スリット25Cが、曲線状(例えば、弧状)に延びるものであってもよい。あるいは、図10(d)に示すように、スリット25Dが、局所的にはジグザグ状に屈折しつつ、全体的には軸方向に沿って延びるものであってもよい。
【0056】
さらに、スリットが、ピッカー部材20の一方の端まで到達しており、スリットによって分割された複数の密着部がピッカー部材20の他端部の1つの連結部によってのみ連結された構造を採用することもできる。この場合には、スリットによって分割された複数の密着部を、傘状に拡径させることも可能となる。
【0057】
また、筒状のピッカー部材に形成されるスリットの数は、要求される径方向の変位量(拡径量)等の条件から、適宜決定することができる。
【0058】
2]ピッカー部材は、筒状体からなるものには限られない。例えば、図11に示すように、ピッカー部材30が周方向に完全に分離された2つの分割体31,32で構成されていてもよい。2つの分割体31,32は、互いに連結されておらず、それぞれ独立してピッカー軸21に取り付けられる。さらに、各分割体31,32には、軸方向(図11の紙面垂直方向)に延びる1以上のスリット35が形成され、スリット35により複数の密着部33が周方向に分割形成される。
【0059】
このピッカー部材30においては、左右2つの分割体31,32にそれぞれ軸方向の圧縮力が作用したときに、これら分割体31,32の各々に設けられた複数の密着部33が曲げ変形して、それぞれ径方向に変位することで、ピッカー部材30が全体として拡径状態となり、ボビンBを保持することができるようになる。
【0060】
3]ピッカー部材の構成材料は、ゴム材料や樹脂材料等の軟質な弾性材料に限られるものではなく、複数の密着部が連結部に対して容易に曲げ変形して径方向へ変位できるような、可撓性を有する材料であれば、特に限定されない。従って、可撓性を有する薄い金属板のような硬質材料によりピッカー部材が形成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態に係る残糸除去装置(待機状態)の正面図である。
【図2】残糸除去装置(ボビン保持状態)の正面図である。
【図3】残糸除去装置(ボビン吊り上げ状態)の正面図である。
【図4】残糸除去装置(ボビン抜き取り中)の正面図である。
【図5】残糸除去装置(ボビン抜き取り完了状態)の正面図である。
【図6】ボビンピッカーの拡大図である。
【図7】図6のボビンピッカー(縮径状態)の鉛直断面図である。
【図8】図6のVIII-VIII線水平断面図である。
【図9】ボビンピッカー(拡径状態)の鉛直断面図である。
【図10】変更形態のピッカー部材を示す図である。
【図11】別の変更形態における、ピッカー部材及びピッカー軸の水平断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 残糸除去装置
2 ボビンピッカー
3 プッシャー
4 クランパー
6 プッシャーシリンダ
20 ピッカー部材
21 ピッカー軸
22 ピッカーシリンダ
23,23D 密着部
24,24D 連結部
25,25A,25B,25C,25D スリット
26 切欠部(応力緩和部)
30 ピッカー部材
33 密着部
35 スリット
B ボビン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のボビンの残糸を除去する残糸除去装置であって、
前記ボビンの内面に密着してボビンを保持する拡径状態と、前記ボビンの内径よりも小さい外径の縮径状態とに変位可能なピッカー部材と、
前記ピッカー部材の前記拡径状態と前記縮径状態とを切り換えるピッカー駆動手段と、
前記ピッカー駆動手段を支持する支持基部と、
前記支持基部を前記ボビンの軸方向に駆動する支持基部駆動手段と、
を有することを特徴とする残糸除去装置。
【請求項2】
前記ピッカー駆動手段は、前記ピッカー部材内に挿通されたピッカー軸を有し、
前記ピッカー部材の一端部が前記ピッカー軸に固定されるとともに、その他端部が前記支持基部に固定され、
前記ピッカー駆動手段の前記ピッカー軸が、前記支持基部に対して前記ボビンの軸方向に移動することにより、前記ピッカー部材の前記拡径状態と前記縮径状態とが切り換えられることを特徴とする請求項1に記載の残糸除去装置。
【請求項3】
前記ピッカー部材は、
前記ボビンの内周方向に並べて配置されるとともに、前記ボビンの径方向に変位可能な複数の密着部と、
前記複数の密着部を連結する連結部と、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の残糸除去装置。
【請求項4】
前記ピッカー部材は、その軸方向中央部に、軸方向に沿って延びるとともに周方向に並んだ複数のスリットが形成された筒状体からなり、
前記筒状体の前記軸方向中央部が前記複数のスリットにより周方向に分割されることにより、前記複数の密着部が形成され、
前記筒状体の軸方向両端部が、それぞれ、前記複数の密着部を連結する前記連結部を構成していることを特徴とする請求項3に記載の残糸除去装置。
【請求項5】
前記ピッカー部材は弾性部材で形成され、
前記スリットの両端には、円弧状の応力緩和部がそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項4に記載の残糸除去装置。
【請求項6】
筒状のボビン内に挿入され、その軸方向中央部に、軸方向に沿って延びるとともに周方向に並んだ複数のスリットが形成された、弾性部材である筒状体からなり、
前記筒状体が前記複数のスリットによって周方向に分割されることにより形成され、且つ、縮径状態とこの縮径状態よりも外側に広がった拡径状態とにわたって、前記ボビンの径方向に変位可能な複数の密着部と、
前記筒状体の軸方向両端部にそれぞれ設けられて、前記複数の密着部を連結する連結部と、
前記スリットの両端に形成された円弧状の応力緩和部と、
を有することを特徴とするピッカー部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−51626(P2009−51626A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220616(P2007−220616)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)