説明

残骨灰に含まれる歯科用金属を使用した形見物の製造方法

【課題】貴金属としての価値があるにも関わらず、多くの場合で遺体から外されることがなく、遺体の火葬後は残骨灰と共に廃棄されていた歯科用金属を材料とすることで、亡くなった人を偲ぶ形見物としての価値が高い形見物の製造方法を提供する。
【解決手段】残骨灰に混入して残っている歯科用金属を採取し、これを貴金属と非貴金属に選別する。ワックスパターンをつくり、歯科鋳造用の円錐台にスプルー線を介しワックスパターンを固定する。円錐台に鋳造用リングを装着し、鋳造用リングの内部に埋没材を充填してワックスパターンを埋没させ、埋没材が固化した後、円錐台とスプルー線を除去して湯口と湯道を形成する。これを電気炉で加熱し、ワックスパターンを焼却してキャビティを形成して鋳型とし、歯科用金属を加熱熔解して鋳型に鋳込み、できた鋳造体から埋没材を取り除き、鋳造体から形見物を切り離して表面仕上げをする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残骨灰に含まれる歯科用金属を使用した形見物の製造方法に関するものである。更に詳しくは、亡くなった人を火葬する際に、貴金属であるにも関わらず、多くの場合で遺体から外されることがなく、火葬後は残骨灰と共に廃棄されていた歯科用金属の焼け残ったものを材料とすることで、例えば指輪やペンダントトップ等の亡くなった人を偲ぶ形見物として自然に感情移入をすることができ、形見物としての価値も高い形見物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
旧来より、亡くなった人を偲ぶために、遺族の心の拠り所となる形見物がつくられている。このような形見物には様々な形態があり、例えば亡くなった人が生前使用していたものや好んで身に付けていたもの等を他の形状の装飾品等に加工したもの、あるいは火葬した際の残骨灰を使用し、これを材料に混合して人形や置物等、何某かの形の物に成形したもの等がある。
【0003】
また、火葬と共に形見物をつくる方法としては、前記の他にも、例えば特許文献1に開示された、魂の拠り所の作成方法がある。この方法は、「魂の拠り所」となる物質である「魂の写し所」を、火葬の高熱に耐える粘土等の整形物、セラミックス、耐熱金属等を用いて、教義、宗派等を考慮した仏像、十字架、若しくは教義、宗派等と関係のない装飾品、人形、像、及び生前の面影を残す整形物等としてあらかじめ準備しておき、これを遺体と一緒に棺桶に入れて火葬し、遺骨とともに残すことで、遺族の要望に沿った材質、形状の「魂の拠り所」を作成するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−195174
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の「魂の拠り所の作成方式」には次のような課題があった。すなわち、「魂の拠り所」の材料となる「魂の写し所」としては、火葬における高熱に耐え、元の形を損なわず、遺骨をも損ねることのない物質、例えば粘土等の成形物、セラミックス、耐熱金属等を用いるようになっている。
【0006】
そして、つくられた「魂の拠り所」が、遺体と一緒に火葬されて残ったものだとしても、その元となった「魂の写し所」自体が、亡くなった人の生前の生活に直接関係のない、後でつくられたものである。したがって、これを心の拠り所とする遺族の側としては、「魂の拠り所」に対し、亡くなった人を偲ぶ形見物として感情を移入できないか、又は感情の移入が難しいと思われる。
【0007】
ところで、大方の人は、生前において、貴金属である銀歯や金歯等、様々な歯科用金属を使用した歯の治療を受けている。しかし、亡くなった人を火葬する際には、多くの場合、これらの貴金属が遺体から外されることはない。したがって、歯科用金属は、遺体と一緒に火葬されるので、残骨灰にはこの歯科用金属が含まれることになる。
【0008】
従来、このようにして焼け残った歯科用金属は、そのほとんどが特に採取されることなく残骨灰と共に廃棄されていたが、本発明者は亡くなった人の身体の一部であったこの貴金属に着目し、これを材料として形見物をつくれば、形見物としてより価値の高いものとなるのではないかとの着想を得て、本発明を完成するに至った。
【0009】
(本発明の目的)
本発明は、亡くなった人を火葬する際に、貴金属としての価値があるにも関わらず、多くの場合で遺体から外されることがなく、火葬後は残骨灰と共に廃棄されていた歯科用金属の焼け残ったものを材料とすることで、例えば指輪やペンダントトップ等の亡くなった人を偲ぶ形見物として自然に感情移入をすることができ、形見物としての価値も高い形見物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
【0011】
(1)本発明は、
亡くなった人の火葬後の残骨灰に混入して残っている歯科用金属を採取し、該採取した歯科用金属を材料として所要形状の形見物に加工する、
残骨灰に含まれる歯科用金属を使用した形見物の製造方法である。
【0012】
(2)本発明は、
亡くなった人の火葬後の残骨灰に混入して残っている歯科用金属を採取するステップ、
採取した歯科用金属の粒や塊を加熱熔解し、貴金属と非貴金属に選別するステップ、
所要形状のワックスパターンの型をつくり、該ワックスパターンの型にワックスを流し込み、ワックスパターンをつくるステップ、
歯科鋳造用の円錐台にスプルー線を介して前記ワックスパターンを固定し、円錐台に円筒形の鋳造用リングを装着するステップ、
前記鋳造用リングの内部に埋没材を充填して前記ワックスパターンを埋没させ、埋没材が固化した後、前記円錐台と前記スプルー線を除去して湯口と湯道を形成するステップ、
前記鋳造用リングを炉で加熱し、前記ワックスパターンを焼却してキャビティを形成し、鋳造用リングを外して鋳型とするステップ、
前記選別した歯科用金属を加熱熔解して前記鋳型に鋳込むステップ、
鋳込んだ歯科用金属が冷却されて形成された鋳造体から前記埋没材を取り除き、鋳造体から形見物を切り離すステップ、
を含む、
残骨灰に含まれる歯科用金属を使用した形見物の製造方法である。
【0013】
また、形見物の形態としては、例えば指輪やペンダントトップ等の装身具、装飾品、あるいは置物等があげられるが、これらに限定されるものではない。その他、亡くなった人の趣味が釣りであれば魚を象ったものとする等、遺族側から依頼があればそれに対応することもできる。
【0014】
加工する対象となる歯科用金属としては、例えば(1)金銀パラジウム合金(金12.0%、パラジウム20.0%、銀52.5%、銅13.0%、その他「亜鉛、錫、インジウム等」)、(2)高カラット金合金・白金加金(金85〜90%、白金7〜10%、その他「パラジウム、インジウム等」)、(3)中カラット金合金(金40〜55%、その他「パラジウム、インジウム等」)、(4)銀合金(銀70%、その他「パラジウム、インジウム等」)、(5)チタン合金、純チタン等があるが、他の合金でもよく、これらに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、亡くなった人を火葬する際に、貴金属としての価値があるにも関わらず、多くの場合で遺体から外されることがなく、火葬後は残骨灰と共に廃棄されていた歯科用金属を指輪やペンダントトップ等の形見物の材料として無駄なく有効に利用でき、しかも、歯科用金属が亡くなった人の身体の一部であったこととも相まって、遺族にとって故人を偲ぶ形見物として自然に感情移入をすることができるものであり、形見物としての価値が高い形見物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る、残骨灰に含まれる歯科用金属を使用した形見物の製造方法を詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
(1)火葬に立ち会った遺族又は加工業者が、亡くなった人の火葬後の残骨灰に混入して残っている歯科用金属(歯に被せられていた歯科用金属等)を採取する。
(2)採取した歯科用金属の粒や塊を一つ一つ歯科用ガスバーナーで加熱熔解し、歯科鋳造用金銀パラジウム合金等の貴金属か、鉄等の非貴金属かを金属が熔解する特性を見極めながら選別する。
【0018】
(3)歯科複模型用ゴム質弾性印象材料(シリコーンゴム)により、指輪やペンダントトップ等を象ったワックスパターンを成形するための型をつくる。
(4)できた成形型に、歯科用パラフィンワックスやキャスティングワックス(蝋)を流し込み、指輪やペンダントトップを象ったワックスパターンをつくる。
【0019】
(5)できたワックスパターンをスプルー線を介して歯科鋳造用の円錐台に固定する。円錐台に固定したワックスパターンに、面荒れを防止するための表面活性剤を塗布し、その後で水洗いをする。そして、円錐台に円筒形の鋳造用リングを装着する。
(6)歯科鋳造用石膏系埋没材(クリストバライト)を水で練和し、バキュームミキサー(真空撹拌機)で所要の時間(本実施例では約40秒間)練和する。なお、練和が終わった埋没材に気泡が残らないようにするため、バイブレータを使用して消泡しておく。
【0020】
(7)鋳造用リングの内部に、ワックスパターンを埋没させるようにして前記埋没材を流し込む。埋没材が固化した後、円錐台とスプルー線を除去して、ワックスパターンにつながる湯口と湯道を形成する。
(8)電気炉の温度を所要の温度(本実施例では700℃)に設定し、電気炉に前記湯口と湯道を形成した鋳造用リングを入れる。
【0021】
(9)鋳造用リングを電気炉で所要時間加熱し(本実施例では、700℃で30分間程度係留する)、ワックスパターンを焼却してキャビティを形成した後、電気炉から取り出し、鋳造用リングを取り外して鋳型とする。
(10)坩堝(るつぼ)を用意して、前記選別した歯科鋳造用金属(金銀パラジウム合金等)を入れ、ガスバーナーを使用し約1000℃で熔解させる。なお、歯科鋳造用金属を熔解させるときには、金属に混入した異物を取り除くために炭を少量加えるようにする。また、歯科鋳造用金属が量的に足りない場合は、適宜新しい歯科鋳造用金属を加えて量を調節する。
【0022】
(11)鋳型を遠心鋳造機にセットし、ワックスが焼却されてできたキャビティに前記熔解させた歯科鋳造用金属を鋳込む。
(12)鋳込んだ歯科用金属が冷却されて形成された鋳造体からサンドブラスターを使用して埋没材を取り除く。それを所要濃度の希塩酸に所要時間(本実施例では数分間)浸漬し、鋳造体の表面に付いた酸化膜を取り除く。
【0023】
(13)研磨ルーターのカッティングディスク等で鋳造体から指輪やペンダントトップの基材を切り離し、これら基材をペーパーコーンやシリコンポイントで研磨し、更に研磨剤を付けて布バフや鹿皮バフ等を使用して艶出しを行い、鏡面仕上げをして形見物である指輪やペンダントトップを完成させる。
【0024】
このように、本発明に係る残骨灰に含まれる歯科用金属を使用した形見物の製造方法によれば、亡くなった人を火葬する際に、貴金属としての価値があるにも関わらず、多くの場合で遺体から外されることがなく、火葬後は残骨灰と共に廃棄されていた歯科用金属の焼け残ったものを形見物の材料として無駄なく有効に利用できる。
【0025】
しかも、それによってつくられた指輪やペンダントトップ等の形見物は、歯科用金属が亡くなった人の身体の一部であったこととも相まって、遺族にとっては故人を偲ぶ形見物として自然に感情移入をすることができるものであり、形見物としての価値も高い。
【0026】
なお、宝石店等で扱われる金配合の指輪やペンダントトップは、一般に24金(金の配合割合100%)や18金(金の配合割合75%)であり、やわらかく可鍛性に優れるため、曲げや伸ばし等の加工が比較的容易にできる。これに対して、歯科用金属として一般的な金銀パラジウム合金では、前記したように金の配合割合が12.0%で相当に少なく、曲げや伸ばし等による加工は困難である。このため、歯科用金属については、歯科用金属の特性を熟知した歯科技工士によって加工を行うのが、精度が良く意匠的にも優れた形見物をつくるうえでは、より好ましい。
【0027】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形が可能であるということは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亡くなった人の火葬後の残骨灰に混入して残っている歯科用金属を採取し、該採取した歯科用金属を材料として所要形状の形見物に加工する、
残骨灰に含まれる歯科用金属を使用した形見物の製造方法。
【請求項2】
亡くなった人の火葬後の残骨灰に混入して残っている歯科用金属を採取するステップ、
採取した歯科用金属の粒や塊を加熱熔解し、貴金属と非貴金属に選別するステップ、
所要形状のワックスパターンの型をつくり、該ワックスパターンの型にワックスを流し込み、ワックスパターンをつくるステップ、
歯科鋳造用の円錐台にスプルー線を介して前記ワックスパターンを固定し、円錐台に円筒形の鋳造用リングを装着するステップ、
前記鋳造用リングの内部に埋没材を充填して前記ワックスパターンを埋没させ、埋没材が固化した後、前記円錐台と前記スプルー線を除去して湯口と湯道を形成するステップ、
前記鋳造用リングを炉で加熱し、前記ワックスパターンを焼却してキャビティを形成し、鋳造用リングを外して鋳型とするステップ、
前記選別した歯科用金属を加熱熔解して前記鋳型に鋳込むステップ、
鋳込んだ歯科用金属が冷却されて形成された鋳造体から前記埋没材を取り除き、鋳造体から形見物を切り離すステップ、
を含む、
残骨灰に含まれる歯科用金属を使用した形見物の製造方法。

【公開番号】特開2012−135780(P2012−135780A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288411(P2010−288411)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年10月21日 インターネットアドレス「http://www.f−press.jp/index.cgi?MN_disp_releseSpecialList=1」「http://www.f−press.jp/index.cgi?MN_disp_press&press_id=154&category_id=27」「http://www.f−press.jp/adminctrl.cgi?press_id=154&MN_disp_admPrsEdit=&95%D2...」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年11月6日 インターネットアドレス「http://www.terasuring.Jp/right.html」「http://www.terasuring.Jp/newpage16.html」に発表
【出願人】(510341662)
【Fターム(参考)】