説明

段ポール状明渠構成体及びこれを使用した植物栽培方法

【目的】 圃場、育苗容器などでそ菜、花卉、花木等を育成するに際し、これら植物の根部に育成当初から終期まで、これら育成培地中に極めて良好に空気の供給のできる明渠構成体及び明渠構成体を用いた栽培方法を得るものである。
【構成】 耐腐性のライナーに、耐腐性の中芯原紙に波段を多数形成させて耐水性接着剤で接着して段ボール状となし、これを適宜大きさに裁断して段ボール状明渠構成体となし、これを圃場に所定間隔に設けた細溝に埋込み、明渠構成体間に畦を形成させて植物を栽培する、あるいは鉢などの育苗容器の植物根部近傍に明渠構成体を埋込み、根部周辺に空気を供給する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はそ菜、花卉、花木等の栽培培地に実質的に明渠を形成する新規な明渠構成体とこれを使用した植物の栽培方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、そ菜、花卉、花木等の圃場での栽培は、十分の深さの耕起を行い、次いで施肥を行った後所定間隔に畦を作り、播種あるいは移植苗を植え付けるものである。この時作る畦は栽培する植物に耐湿性がある場合は平畦で良く、又、耐湿性があまり強くないものにおいては高畦として栽培した方が良いとされ、そして高畦にした場合は両側面をより広く大気面と接触させることにより、培土への通気が良くなり、植物の良好な育成が行われることになる。又、植木鉢等における花卉、花木等の育成において通気を要求されるものについては、その培地に水苔等を使用して対応している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし高畦栽培においては、耕起施肥後、所定畦巾毎に一定高さの山型に土盛りする高畦造成の手間が必要となる。又、これら高畦栽培では栽培期間中の降雨あるいは潅水等により次第に高畦が崩れ、培土の膨軟性は失われ硬くなり通気性が低下する。そして崩壊した高畦は排水をも不良とし生育にも悪影響を及ぼすことになる。一方、平畦の場合においても、通気性をより良くすべく畦間に巾100mm深さ300mm前後の明渠を設けて大気との接触面を培土中に設け、実質的に高畦とする方法もあるが、明渠からの水分の蒸発が激しく、又、経時的に明渠の壁が崩れて埋まり、高畦としての作用を喪失してしまう。又、植木鉢の育成においては、水苔等の特殊培地は高価なものであり取扱いも難しいものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記の様な事情に鑑み、培土を山型に盛土する畦立による高畦を形成せずに、実質的に高畦と同じ通気効果を有する栽培方法、植木鉢等の培地に実質的に通気効果をもたらす栽培方法について種々研究した結果、耐腐性を持たせた通気性のあるライナーに、同じく耐腐性を持たせた通気性のある中芯原紙を波段形に形成して耐水性のある接着剤により接着して段ボール状構成体となし、これを植物根近くとなる平畦間に設けた細溝に適当長さで埋め込み、耐腐性段ボール状構成体による明渠構成体を設けて栽培することにより、長期間に渡る平畦状圃場での栽培においても、畦間に明渠を形成した耐腐性段ボール状構成体は、つぶれることなく大気との接触面が十分維持され、極めて良好な通気性を保持していることを見いだし、又、植木鉢等においては短冊状に切断した耐腐性段ボール状明渠構成体を適宜鉢内の培地に埋設することにより極めて良好な通気性が保持されることを見いだし、本発明を達成したものである。
【0005】即ち、本発明者は耐腐性段ボール状構成体よりなる明渠構成体として、耐腐付与薬剤8−オキシキノリン銅を紙の重量当り3%となる濃度で全面に塗布して耐腐処理した巾250mmの中芯原紙(米坪80g/m)に30cm当り50段の波段を設けて、同じく耐腐付与薬剤8−オキシキノリン銅を紙の重量当り3%となる濃度で全面に塗布した巾250mmのライナー(米坪100g/m)に耐水性接着剤として酢酸ビニル樹脂で接着した片面段ボール状構成体を得ると共に、順次長1.5mづつ切断した。一方、横15m縦8mの圃場に巾10mm深さ200mmの細溝を40cm間隔で設けた後、前記耐腐性段ボール状構成体よりなる明渠構成体を細溝に埋め込み、明渠構成体間に畦20本を形成させ、各畦に20日間育苗したレタス苗を40cm間隔で移植した。対照区として同じ圃場に高畦及び平畦に明渠を設けて、同じレタスの苗を移植した。高畦は巾60cm高さ20cmとして畦を20本作り、株間は40cmとした。平畦における明渠は巾100mm深さ300mmで畦間を50cmとして20本作り、株間は他処理区と同じく40cmとした。これらの移植から収穫までの栽培結果並びに畦の経時的状態を表1に示す。
【0006】
【表1】


【0007】上記表1に示す様に段ボール状とした明渠構成体を畦仕切として埋め込んだ圃場では、明渠構成体は大気接触面を培土深くまで達しさせているので土壌中へ高畦同様の通気が行われて、移植後の初期生育においては差なく生育したが、中期から後期にかけては高畦は側面が崩壊し培土の通気性が低下するのに対し、段ボール状明渠構成体は崩れることなく設置した当初と同様の通気性を維持して収穫期日を7日早めているものである。又、単に明渠のみを設けた対照区では生育初期より明渠の崩壊が始まり、中期で殆ど埋まり生育後期では明渠としての作用は全くないものであって、このため他の栽培区に比して生育も著しい遅れがある。斯様に段ボール状明渠構成体を圃場に垂直方向に埋め込み、明渠構成体間で高畦形状を形成させ、明渠構成体を栽培が完了するまで崩壊することなく保持させ、通気性を維持せしめた栽培を可能としているものである。又、上記で作られた段ボール状構成体を長さ25mmに波段に平行して切断し、250mm×25mmの短冊状明渠構成体を多数作製した。そして直径210mm深さ210mmの植木鉢に土壌を用いて観用植物のコンパクターを植えつけるのに当り、この短冊状明渠構成体を5片、長辺方向の一部が培地から出る状態でヘラ等を利用して培地内にランダムに埋設した。一方、対照区として同一植木鉢、同一土壌でコンパクターを植えつけて、育成状態を観察した。1ケ月後、短冊状明渠構成体処理区は、その構成体が崩れることもなく生育は良好で、対照区に対して1.3倍の茎数となると共に葉色も優れていた。又、200ccの潅水をしたところ短冊状明渠構成体処理区は、約5分後には殆ど余剰水分が排出されたのに対し、対照区は約半日水分過剰の状態であった。
【0008】本発明の明渠構成体は圃場あるいはビニールハウス等の栽培床に所定間隔で垂直方向に埋め込むのでその埋め込み深さに応じた巾としてあるが、通常は100mm〜300mm巾を使用し、常用は100mm〜200mm程度となる。又、長さは取扱いに応じ巻取のままでも良く、又、200mm〜2000mm角あるいは長方形等に所定の切取り線を設けて使用時に順次切取りしても良い。又、波段は1段とせず複数段設けても明渠構成体として十分使用可能であるが、余り巾広の多段とすると水分の蒸散が激しくなるので本発明では1段〜3段程度を使用し、通常は1段を使用する。本発明の明渠構成体となるライナー及び中芯原紙に塗布あるいは混合する耐腐付与薬剤は栽培期間中ライナー、中芯原紙が腐敗しないものであれば何れも使用できるが、通常は育苗移植用紙筒集合体に用いる原紙に使用されている植物根の伸長を阻害しない8−オキシキノリン銅、ベンツイミダゾール、クロロタロニル等が用いられ、中芯原紙とライナーとの接着に用いられる耐水性接着剤については栽培期間中の潅水あるいは降雨等により流出しない程度の耐水性を有していれば何れも使用可能であり、例えばポリビニルアルコールの様な水溶性接着剤に酢酸ビニル樹脂の様な耐水性接着剤を混合し、耐水性を高めて使用できる。植木鉢等に用いる明渠構成体は通常1段の波段とし、その巾は用いる鉢の深さに合わせて適宜とするが、通常は100mm〜250mm程度で使用し、その長さは15mm〜30mm程度が常用となる。本発明の明渠構成体は植物根の伸長を阻害しないかぎり近接して埋設することができ、植物の中心から100mm〜200mmが通常の埋設位置として使用できるが、栽培植物の大きさによっては更に巾広にすることもある。又、圃場における明渠構成体の埋設を連続とせず、植物体の近傍のみに間欠的にするのも経済的で効果的となる。又、通常は垂直方向へ埋設するが栽培植物の特性等により外方向、内方向等の斜方向あるいはL字U字状に根圏を包み込む様な埋設方法も効果的となる。
【0009】
【作用】本発明の明渠構成体は、耐腐性のライナーに耐腐性の中芯原紙を波段に形成して耐水性接着剤により接着して段ボール状構成体に形成したので、各波段が側面からの圧力に極めて強い構造となって、培土への埋設中における崩壊、押しつぶしを防ぎ、且つこの多数の波段が大気接触面となって培土中へ通気を行うものである。又、植木鉢等においては余剰水分の排水作用をも行うものである。次に実施例により本発明を説明する。
【0010】
【実施例】
実施例1 明渠構成体の製造巾1125mm、米坪100g/mのクラフトライナー原紙の全面に耐腐付与薬剤としてベンツイミダゾールを原紙重量に対し5%となる量を塗布し巻取り、これを2巻用意した。一方巾1125mm米坪100g/mのセミケミカルパルプの中芯原紙にもライナー同様ベンツイミダゾールを原紙重量当り5%となる量を全面塗布して巻取った。次いでこれらライナー及び中芯原紙をコルゲートマシンに掛け、順次繰り出された中芯原紙を段ロールにて300mm当り34段の波段を設けてその外周面に耐水性接着剤ポバール117(商品名)を塗布すると共に、ライナー巻取りより順次引出されたライナーを段付けされた中芯原紙の接着剤塗布面とプレスロールにて圧着して順次片面段ボールを構成した。更に片面段ボール状構成体の波段面上に先と同じ耐水性接着剤ポバール117を塗布し、別の巻取りよりのライナーを順次引出して接着剤塗布面に貼着させ、そのまゝ走行させながら乾燥部、冷却部を通過させ両面段ボール状構成体とし、これを順次1800mm長さつづに切断し、次いで巾225mm毎に切取り線を設けて1125×1800mm角の耐腐性段ボール状構成体1枚より225mm巾の明渠構成体5枚を順次作成した。
【0011】実施例2 明渠構成体を埋設した畦によるキャベツの栽培実施例1で作られた1125mm巾で切取り線で連接された明渠構成体を、切取り線で分離し1枚が巾225mm長さ1800mmの明渠構成体とした。これを予め耕起済みの長さ18mの圃場に巾40cm間隔で巾10mm深さ200mmの細溝を設けた後、この細溝に明渠構成体を埋め込んだ。1列当りの埋め込み枚数は10枚となった。次いで明渠構成体間に設けられた4本の畦にキャベツの苗を株間45cmで移植した。活着は良好で80日後には十分生育し収穫することができた。収穫時の明渠構成体は埋設時と同様各波段は押しつぶされることなく十分間隙を有していた。収穫物の1個体当りの平均重量は1250gであった。一方対照区として同じ圃場に巾60cm高さ20cmの高畦を4本作り、同じキャベツの苗を株間45cmで移植した。高畦は30日前後から崩れ始め、生育は明渠構成体使用区に比して約7日遅延すると共に1個体当りの平均重量も1100gと下回っていた。
【0012】実施例3 明渠構成体を埋設した畦による人参の栽培実施例1で作られた巾225mm長さ1800mmの明渠構成体を、予め耕起済みの長さ10.8mの圃場に、巾45cm間隔で巾10mm深さ200mmの細溝を設けて、この細溝に埋設した。1列当りの埋め込み枚数は6枚となった。次いで明渠構成体間に設けられた5本の畦に28日間育苗した人参の苗を株間12cmで移植した。生育は良好で移植後120日で収穫した。長期の育成にもかかわらず明渠構成体は押しつぶされることなく明渠状態を十分保っていた。又、収穫物1本当りの平均重量は170gであった。一方対照区として同じ圃場に巾100mm深さ200mmの明渠を45cm毎に6本設け、明渠間の5畦に上記と同じ人参苗を株間12cmで移植した。明渠区は移植後30日で半崩れの状態になると共に、明渠側壁からの水分の蒸発により乾燥状態となり生育は遅延し、段ボール状明渠構成体区と同時収穫の時点における1本当りの平均重量は140gであった。
【0013】実施例3 明渠構成体を間欠的に埋設した畦による白菜の栽培実施例1で作られた巾225mm長さ1800mmの明渠構成体を更に長さ200mmで9枚に切断し、予め耕起済みの長さ9mの圃場に55cm間隔に巾200mmで、巾10m深さ200mmの細溝を2本設けて、この細溝に30cm間隔で間欠的に埋設した。1列当りの埋め込み枚数は225mm×200mmの明渠構成体で18枚であり、1畦2列で36枚となった。次いで各畦の2列の明渠構成体間に30日間育苗した白菜の苗を株間50cmで移植した。生育は良好で移植後60日で収穫した。収穫物の1個体当りの平均重量は2290gであった。又、明渠構成体は押しつぶされることなく明渠状態を十分保っていた。一方対照区として同じ圃場に通常の平畦を設定し、畦間75cm株間50cmで上記と同じ白菜の苗を移植した。生育は明渠構成体区に比較して遅れ気味であり、同時収穫時点における1個体当りの収穫物の平均重量は1847gであった。
【0014】実施例4 明渠構成体を埋設した植木鉢による観用植物の育成実施例1で作られた巾225mmの明渠構成体を長さ20mmに切断し、巾225mm長さ20mmの短冊状明渠構成体とした。これを1鉢当り6片、予め直径180mm深さ190mmの植木鉢に乾性火山灰土を主体とした培地により植えつけた5鉢の観用植物カラジューム周囲の鉢内培地に長方形のヘラを使用して、挿入、埋設した。一方、対照区として同一の鉢、植物で5鉢用意し生育を見た。1ケ月半後に生育量を調査したところ、短冊状明渠構成体は対照区に比して茎数で50%、草丈で18%勝っており、葉色も濃い状態であった。
【0015】
【効果】本発明は耐腐性のライナーと耐腐性の中芯原紙を耐水性の接着剤で貼着させて段ボール状明渠構成体とし、その波段が栽培期間中の明渠崩壊圧からの押しつぶしに十分耐えることにより、栽培初期から終期まで大気面に接する波段から培土への通気を可能にしているものであり、又、更に山型を形成せずに畦巾を狭くして高畦と同様に培土へ通気し、植物根に通気できるので圃場、ハウス等における栽培可能面積当りの栽培効率がより向上するものである。又、植木鉢においては、鉢内の培地に短冊状とした段ボール状明渠構成体を埋設することにより、植物根に通気すると共に余剰水分を排出し培地を適湿に保ち、健全な植物の育成を計るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 大気接触面となる波段形を多数形成させてある耐腐性を有する中芯原紙と耐腐性を有するライナーを用い、耐水性を有する接着剤にて中芯原紙を一層又は複数層となる様接着してあることを特徴とする段ボール状明渠構成体。
【請求項2】 大気接触面となる波段形を多数形成させてある耐腐性を有する中芯原紙と耐腐性を有するライナーを用い、耐水性を有する接着剤にて中芯原紙を一層又は複数層となる様接着してある段ボール状明渠構成体を、適当長さにて培地に埋設すると共にこの埋設された段ボール状明渠構成体に近接して植物を栽培する方法。

【公開番号】特開平6−86612
【公開日】平成6年(1994)3月29日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−295252
【出願日】平成3年(1991)8月26日
【出願人】(000231981)日本甜菜製糖株式会社 (58)
【出願人】(391046300)株式会社プランテク・ニッテン (1)