説明

段差部が強化された段差付きプレキャストコンクリート版

【課題】寸法的にも、内部構造的にも補強された段差付きコンクリート版の提供。
【解決手段】上段部と下段部を有する段差付きコンクリート版において、少なくとも段差部の上方部に、コンクリート版の上段部に将来現場打設されるコンクリートの高さに等しい高さを有する領域を一体形成して段差付きコンクリート版とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段差部が構造的に強化された段差付きプレキャストコンクリート版に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ホテルや集合住宅等において浴室等の水まわりの床は、隣接する洗面所や廊下の床よりも低く構成する必要があるが、このように高低差のある隣接する床相互を、現場で型枠を組んでコンクリートを打設して構築することは相当の作業日数と手間とを要する。このため従来、図5に示すように、このような構造を要する現場に予め段差を設けてあるコンクリート版1を梁上に並列に敷き詰め、これらコンクリート版のそれぞれの高さの面上に配筋をなし、その後コンクリートを打設することによって、比較的に作業の軽減された段差付きの床面を施工することが提案されている(例えば特開平8−42035号公報参照)。
【特許文献1】特開平8−42035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところでこのような段差のあるコンクリート版においては、その形状ゆえに、例えば段差部付近に応力が集中することが避けられないと考えられるから、その段差部付近の強度対策が問題となる。これに対して単純に全体的に版の厚みを増加させることが先ず考えられるが、これによって強度の増大を得ることは不経済であるし、また、そのようなコンクリート版を利用することは、建物における上方ないし下方の空間を制限することにもなりかねないから適切ではない。コンクリート版の厚さをさほど大きくできないとなると内部補強材に頼ることが考えられるが、上記のように一定の厚みで段差を形成すべきコンクリート版において、その内部に配する補強材によって段差部付近における強度を上げることは、スペース的に非常に難しい問題である。
【0004】
一方、このようなコンクリート版を利用する前記工法においても、図5に示されるようにコンクリートを打設する際、図5の右側に示されている底面部F’の形成のためには、この低面部F’の左右側への型枠を設置作業自体は避けられない。本願発明は、このような工場製作のコンクリート版を利用する床面施工に使用する段差付きコンクリート版において、従来例の有する問題点をできうる限り解消することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明によれば、予め工場で製作される段差付きコンクリート版において、少なくとも段差部の上方部に、コンクリート版の上段部に将来現場打設されるコンクリートの高さに等しい高さをする領域を一体形成してある段差付きコンクリート版が提供される。
【0006】
請求項2記載の発明によれば、工場内において、既製の2枚の穴付きコンクリート版の穴の上面部を部分的に取り除いたコンクリート版を段差を持って対峙した状態に維持し、少なくとも段差周辺を、コンクリート版の上段部上に将来現場打設されるコンクリートの高さをカバーする型枠で包囲し、コンクリートを打設する段差付きコンクリート版の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本願発明の一実施例を図面に基づいて説明する。図1〜図3に示すように、本願発明においては、左方側の高い上段部1aと、右方側の低い下段部1Bを有する工場製作の段差付きコンクリート版1において、更にその段差部1cの上部に、中央突出領域1dを予め一体的に形成しておくことを特徴とする。このような中央突出領域1dの大きさは次のように選択される。先ず、コンクリート版の長手方向に見た長さ(以下単に長さという)は例えば段差部の長さに等しくされるか、あるいは図1の例のように左方側の上段部に幾分延長された長さとする。
【0008】
一方、コンクリート版の巾方向に見た巾(以下単に巾という)は、図2及び図3の符号8で示されるように、コンクリート版の両側より若干短い巾とされる。このような巾とする理由は、施工時に段差付きコンクリート版は、横方向に複数枚整列された後、それらの上方部にコンクリートが中央突出領域1dの表面と面一をなすように現場打設される際、複数の中央突出領域1dの巾間にもコンクリートが打設されるようにするためである。また、中央突出領域の高さは、コンクリート版の左方側の高い上段部からの高さは、例えば後時的に現場打設されるコンクリート2の高さに等しいものとされる。
【0009】
このように段差部に、高さのある中央突出領域を設けても、本願発明ではその高さは例えば後事的に現場打設されるコンクリートの高さと等しくされているから、施工後の床の上方空間を邪魔することはないが、このコンクリート版の左方側にコンクリートを現場打設する際の型枠を少なくとも部分的に構成することが理解されよう。そして、この中央突出領域の長さが例えば段差部の長さと等しくするか、あるいはそれよりも上段部側に延長されていること、つまり、中央突出部の長さを十分とることによって、その高さの存在と相まって、次のように、構造的に相乗的な効果が奏される。
【0010】
先ず第一に、このような段差付きコンクリート版は、段差部の厚さが有効な長さをもって増すことになるから、コンクリート版は寸法的に強度が増している。そして更に本願発明では、段差部の高さが増したことにより、その内部に十分な高さ補強筋を配置できる。即ち本願発明においては、図1に示すように段差部1c内部に、例えば正方形に近い形状の一種のあばら筋からなる補強筋4を図の奥行き方向に間隔をおいて配置し、この補強筋4の内側の三偶角部に水平筋5を図1の奥行き方向に配置することが可能である。
【0011】
又、この実施例においては、各補強筋4は、段差部1cにおいて一定角度の折れ曲がり部3aを有する段差付きコンクリート用の主筋3で支持されるよう構成されている。即ち、図1の透視的平面図である図2に示すように各補強筋4は二本の主筋3の折れ曲がり部間で立設するよう支持されている
以上のような本願発明に係る段差付きコンクリート版においては、段差部付近の強度が最大限強化しうるとともに、後時的なコンクリートの現場打設のための型枠形成作業が軽減されることになるのが理解されよう。
【0012】
次にこのような本願発明に係る段差付きコンクリート版の工場での製作の一例を示す。もちろん段差付きの大きな型枠を用意し、その中に主筋と補強筋を配筋した後、この型枠内にコンクリートを打設することによって、本願発明に係る段差付きコンクリート版を工場において製作することは、当然可能であるが、ここでは、既製の穴あきプレキャストコンクリート版を使用して、より簡単に段差付きコンクリート版を作成するための一製造方法を示す。
【0013】
まず、図4の側面図で示される既製の穴あき(図示の例では6個の通過穴を有する)コンクリート版二枚が用意される。これら2枚のコンクリート版は、各々その上面の穴の上方に位置する部分のみが1側から一定の距離を除いて、全て取り除かれているものであるか、あるいは、最初からそのように製作されたコンクリート版である。そして各穴は上面が取り除かれた部分に隣接する内部位置で閉鎖材(図1の7参照)で閉鎖される。
【0014】
次に、このような2枚のコンクリート版は、図1に示すように、穴の上方に位置する表面が取り除かれた側同士を若干の間隔、例えば10cm隔て、かつ、高さ方向に段差を有して固定された後、主筋3、補強筋4等が配置され、次に必要な部位に型枠が配置され、コンクリートが打設される。このような段差付きコンクリートの製造方法は、大きな型枠を必要としない点でその製造が比較的に経済的になすことができる。
【0015】
以上のような本願発明によれば、寸法上も、内部補強構造的にも強度の改善された段差付きコンクリート版であって、かつ、後時的な現場打ちコンクリートの作業のし易い段差付きコンクリート版が提供されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本願発明に係る段差付きコンクリート版の一実施例の 長手方向縦断面図である。
【図2】図1の段差付きコンクリート版を上面から透視的に示した図である。
【図3】図1の段差付きコンクリートの斜視図である。
【図4】図1の段差付きコンクリート版の製造に使用されている既製の穴付きコンクリート版の一例の側面図である。
【図5】従来例に係る段差付きコンクリート版を使用した施工状況を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0017】
1 (工場打設の)段差付きコンクリート版
2 現場打設のコンクリート
3 主筋
4 補強筋
5 水平筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上段部と下段部を有する段差付きコンクリート版において、少なくとも段差部の上方部に、コンクリート版の上段部に将来現場打設されるコンクリートの高さに等しい高さを有する領域を一体形成してあることを特徴とする段差付きコンクリート版。
【請求項2】
既製の穴付きコンクリート版の穴の上面部を部分的に取り除いたコンクリート版二枚を段差を持って対峙した状態に維持し、少なくとも段差周辺を、コンクリート版の上段部上に将来現場打設されるコンクリートの高さをカバーする型枠で包囲し、コンクリートを打設することを特徴とする段差付きコンクリート版の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−284980(P2007−284980A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112920(P2006−112920)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(591043905)株式会社建研 (3)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【出願人】(000186898)昭和コンクリート工業株式会社 (13)