説明

殺生物剤

【課題】第4級アンモニウム塩、及び、ピリチオン又はその金属塩化合物を含有する殺生物剤を低コストで提供する。
【解決手段】第4級アンモニウム塩化合物とピリチオン又はその金属塩化合物とを含有する殺生物剤とする。前記第4級アンモニウム塩化合物は、好ましくは、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、N,N−ジデシル−N−メチルポリオキシエチルアンモニウムプロピオネート、及び、ジデシルジメチルアンモニウムカーボネートから選ばれる少なくとも1種の化合物である。前記ピリチオン金属塩化合物は、好ましくは、ナトリウムピリチオン、亜鉛ピリチオン、及び、銅ピリチオンから選ばれる少なくとも1種の化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材劣化を引き起こす生物から木材を保護する殺生物剤に関し、さらに詳しくは、オオウズラタケ、カワラタケ等の微生物やシロアリ等の害虫から木材を保護するのに有用な第4級アンモニウム塩を含有する殺生物剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木材防腐剤として、第4級アンモニウム塩(特許文献1,2を参照。)が提案されている。しかしながら、これらの第4級アンモニウム塩は、水に溶けやすいので、注入等によって処理された木材から流出し易く、そのために、これらの第4級アンモニウム塩を単独で木材防腐剤として使用する場合には、高濃度で使用しなければ防腐効果の持続性が得られず、よって、これらの第4級アンモニウム塩を単独で用いた木材防腐剤の製造コストは、高くなってしまう、という問題があった。
【0003】
また、薬液吐出装置及び薬液吐出方法に係わる発明において、防腐防カビ防藻剤として、ピリチオン系化合物(特許文献3を参照。)が挙げられているが、ピリチオン又はその金属塩化合物は、防腐効果が十分でない、という問題があったので、従来において、ピリチオン又はその金属塩化合物が木材保存剤として、実用化された例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−64701号公報
【特許文献2】特開昭63−71303号公報
【特許文献3】特開2009−172533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる問題を解決することを目的としている。
【0006】
即ち、本発明は、第4級アンモニウム塩の含有率が低くても木材防腐防蟻効果の向上させた殺生物剤を低コストで提供することを目的としている。
【0007】
本発明者は、第4級アンモニウム塩の含有率が低い殺生物剤の木材防腐防蟻効果を向上さる実験を続けているうちに、第4級アンモニウム塩の含有率が低い殺生物剤にピリチオン又はその金属塩化合物を含有させたところ、第4級アンモニウム塩の含有率が低くても木材防腐防蟻効果の向上させた殺生物剤を低コストで提供できることを見出して本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、請求項1に記載された発明は、上記目的を達成するために、第4級アンモニウム塩化合物とピリチオン又はその金属塩化合物とを含有することを特徴とする殺生物剤である。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記第4級アンモニウム塩化合物が、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、N,N−ジデシル−N−メチルポリオキシエチルアンモニウムプロピオネート、及び、ジデシルジメチルアンモニウムカーボネートから選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は2に記載された発明において、前記ピリチオン金属塩化合物が、ナトリウムピリチオン、亜鉛ピリチオン、及び、銅ピリチオンから選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に記載された発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載された発明において、前記第4級アンモニウム塩化合物0.2〜1.6重量%と前記ピリチオン又はその金属塩化合物0.05〜2重量%とを含有することを特徴とするものである。
【0012】
請求項5に記載された発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載された発明において、前記第4級アンモニウム塩化合物1.6〜20重量%と前記ピリチオン又はその金属塩化合物0.5〜10重量%とを含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1,2,3に記載された発明によれば、第4級アンモニウム塩化合物とピリチオン又はその金属塩化合物とを含有しているので、第4級アンモニウム塩の含有率が低くても木材防腐防蟻効果の向上した殺生物剤を低コストで提供することができる。
【0014】
請求項4に記載された発明によれば、前記第4級アンモニウム塩化合物0.2〜1.6重量%と前記ピリチオン又はその金属塩化合物0.05〜2重量%とを含有しているので、第4級アンモニウム塩の含有率が0.2〜1.6重量%と低くても、木材の注入処理に好適に適用される木材防腐防蟻効果のいっそう向上した殺生物剤を低コストで提供することができる。
【0015】
請求項5に記載された発明によれば、前記第4級アンモニウム塩化合物1.6〜20重量%と前記ピリチオン又はその金属塩化合物0.5〜10重量%とを含有しているので、第4級アンモニウム塩の含有率が1.6〜20重量%と低くても、木材の表面処理に好適に適用される木材防腐防蟻効果のいっそう向上した殺生物剤を低コストで提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の殺生物剤は、第4級アンモニウム塩化合物とピリチオン又はその金属塩化合物とを含有している。前記第4級アンモニウム塩化合物は、好ましくは、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、N,N−ジデシル−N−メチルポリオキシエチルアンモニウムプロピオネート、及び、ジデシルジメチルアンモニウムカーボネートから選ばれる少なくとも1種の化合物である。そして、前記ピリチオン又はその金属塩化合物は、好ましくは、ナトリウムピリチオン、亜鉛ピリチオン、及び、銅ピリチオンから選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0017】
このように、第4級アンモニウム塩化合物とピリチオン又はその金属塩化合物とを含有していると、第4級アンモニウム塩の含有率が低くても木材防腐防蟻効果の向上した殺生物剤を低コストで提供することができる。
【0018】
本発明の殺生物剤は、後述する表1,2に示されているように、好ましくは、前記第4級アンモニウム塩化合物0.2〜1.6重量%と前記ピリチオン又はその金属塩化合物0.05〜2重量%とを含有している。このように、前記第4級アンモニウム塩化合物0.2〜1.6重量%と前記ピリチオン又はその金属塩化合物0.05〜2重量%とを含有していると、前記第4級アンモニウム塩の含有率が0.2〜1.6重量%と低くても、木材の注入処理に好適に適用される木材防腐防蟻効果のいっそう向上した殺生物剤を低コストで提供することができる。
【0019】
また、本発明の殺生物剤は、後述する表3,4に示されているように、好ましくは、前記第4級アンモニウム塩化合物1.6〜20重量%と前記ピリチオン又はその金属塩化合物0.5〜10重量%とを含有している。このように、前記第4級アンモニウム塩化合物1.6〜20重量%と前記ピリチオン又はその金属塩化合物0.5〜10重量%とを含有していると、第4級アンモニウム塩の含有率が1.6〜20重量%と低くても、木材の表面処理に好適に適用される木材防腐防蟻効果のいっそう向上した殺生物剤を低コストで提供することができる。
【0020】
本発明は、第4級アンモニウム塩化合物とピリチオン又はその金属塩化合物とを含有する殺生物剤に関するものであるが、かかる殺生物剤で木材を処理する際に該殺生物剤に添加される溶媒、界面活性剤等の添加剤は、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(以下、「DDAC」という。)0.2重量%、ナトリウムピリチオン1重量%、界面活性剤2重量%及び水96.8重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0022】
(実施例2)
ジデシルジメチルアンモニウムカーボネート(以下、「DDA−CA」という。)0.2重量%、ナトリウムピリチオン1重量%、界面活性剤2重量%及び水96.8重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0023】
(実施例3)
DDAC0.4重量%、ナトリウムピリチオン0.05重量%、界面活性剤2重量%及び水97.55重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0024】
(実施例4)
DDA−CA0.4重量%、ナトリウムピリチオン0.05重量%、界面活性剤2重量%及び水97.55重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0025】
(実施例5)
DDAC1.6重量%、ナトリウムピリチオン2重量%、界面活性剤2重量%及び水94.4重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0026】
(比較例1)
DDAC0.4重量%及び水99.6重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0027】
(比較例2)
DDA−CA0.4重量%及び水99.6重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0028】
(比較例3)
DDAC1.6重量%及び水98.4重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0029】
(比較例4)
ナトリウムピリチオン1重量%及び水99重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0030】
(比較例5)
DDAC0.1重量%、ナトリウムピリチオン0.05重量%、界面活性剤2重量%及び水97.85重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0031】
(比較例6)
DDAC0.2重量%、ナトリウムピリチオン0.03重量%、界面活性剤2重量%及び水97.77重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0032】
(比較例7)
(無処理材)
【0033】
以上、実施例1〜5及び比較例1〜6で得た殺生物剤溶液で注入処理した木材、並びに、比較例7で得た無処理材の防腐防蟻性能試験を行った。この試験は、JIS K 1571に規定された注入処理用防腐防蟻性能試験の室内試験によって行った。
【0034】
前記JIS K 1571に規定された注入処理用防腐防蟻性能試験の室内試験によって得られた前記防腐性能試験結果及び防蟻性能試験結果は、それぞれ、次の表1及び表2に示される。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
表1,2からみると、前記実施例1〜5で得たDDAC又はDDA−CAとナトリウムピリチオンとの含有率の低い殺生物剤溶液で注入処理した木材は、いずれも、JIS K 1571に規定されている性能基準値である質量減少率3%以下を満足しているが、比較例1〜4で得たDDAC又はDDA−CA単属の含有率の低い殺生物剤溶液で注入処理した木材、前記比較例5,6で得たDDAC又はDDA−CAとナトリウムピリチオンとの含有率の極端に低い殺生物剤溶液で注入処理した木材、及び、比較例7で得た無処理材は、いずれも、JIS K 1571に規定されている性能基準値である質量減少率3%以下を満足していないことからみると、本発明の殺生物剤が顕著な効果を奏しているものであることがわかる。
【0038】
(実施例6)
DDAC1.6重量%、ナトリウムピリチオン10重量%、界面活性剤10重量%及び水78.4重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0039】
(実施例7)
DDA−CA1.6重量%、ナトリウムピリチオン10重量%、界面活性剤10重量%及び水78.4重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0040】
(実施例8)
DDAC12.5重量%、ナトリウムピリチオン4.5重量%、界面活性剤10重量%及び水73重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0041】
(実施例9)
DDA−CA12.5重量%、ナトリウムピリチオン4.5重量%、界面活性剤10重量%及び水73重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0042】
(実施例10)
DDAC20重量%、ナトリウムピリチオン0.5重量%、界面活性剤2重量%及び水77.5重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0043】
(比較例8)
DDAC20重量%及び水80重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0044】
(比較例9)
DDA−CA20重量%及び水80重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0045】
(比較例10)
DDAC1.6重量%及び水98.4重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0046】
(比較例11)
ナトリウムピリチオン10重量%及び水90重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0047】
(比較例12)
DDAC1重量%、ナトリウムピリチオン10重量%、界面活性剤10重量%及び水79重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0048】
(比較例13)
DDAC20重量%、ナトリウムピリチオン0.3重量%、界面活性剤2重量%及び水77.7重量%を含有する殺生物剤溶液とした。
【0049】
(比較例14)
(無処理材)
【0050】
以上、実施例6〜10及び比較例8〜13で得た殺生物剤溶液で表面処理した木材、並びに、比較例14で得た無処理材の防腐防蟻性能試験を行った。これらの試験は、JIS K 1571に規定された表面処理用防腐防蟻性能試験の室内試験によって行った。
【0051】
前記JIS K 1571に規定された表面処理用防腐防蟻性能試験の室内試験によって得られた前記防腐性能試験結果及び防蟻性能試験結果は、それぞれ、次の表3及び表4に示される。
【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
表3,4からみると、前記実施例6〜10で得たDDAC又はDDA−CAとナトリウムピリチオンとの含有率の低い殺生物剤溶液で表面処理した木材は、いずれも、JIS K 1571に規定されている性能基準値である質量減少率3%以下を満足しているが、比較例8〜11で得たDDAC又はDDA−CA単属の含有率の低い殺生物剤溶液で表面処理した木材、前記比較例12,13で得たDDAC又はDDA−CAとナトリウムピリチオンとの含有率の極端に低い殺生物剤溶液で表面処理した木材、及び、無処理材は、いずれも、JIS K 1571に規定されている性能基準値である質量減少率3%以下を満足していないことからみると、本発明の殺生物剤が顕著な効果を奏しているものであることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第4級アンモニウム塩化合物とピリチオン又はその金属塩化合物とを含有することを特徴とする殺生物剤。
【請求項2】
前記第4級アンモニウム塩化合物が、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、N,N−ジデシル−N−メチルポリオキシエチルアンモニウムプロピオネート、及び、ジデシルジメチルアンモニウムカーボネートから選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の殺生物剤。
【請求項3】
前記ピリチオン金属塩化合物が、ナトリウムピリチオン、亜鉛ピリチオン、及び、銅ピリチオンから選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の殺生物剤。
【請求項4】
前記第4級アンモニウム塩化合物0.2〜1.60重量%と前記ピリチオン又はその金属塩化合物0.05〜2重量%とを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の殺生物剤。
【請求項5】
前記第4級アンモニウム塩化合物1.6〜20重量%と前記ピリチオン又はその金属塩化合物0.5〜10重量%とを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の殺生物剤。

【公開番号】特開2011−184419(P2011−184419A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54591(P2010−54591)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000180081)株式会社ザイエンス (11)
【Fターム(参考)】