説明

殺菌剤を作製するための濃縮物及びその作製及び使用方法

殺菌剤の作製のための保存に安定した水性濃縮物、及びそのような濃縮物から希釈によって得られる殺菌剤を開示する。濃縮物は、過酸化水素、コロイド銀、アラビア・ゴム等のバイオポリマー安定剤、及びリン酸を含む。長期安定性の改善、及び、濃縮物作製後最初の数日中の過酸化水素の初期の分解を低減するため、濃縮物はさらに硝酸ナトリウム又は硫酸ナトリウムを含む。濃縮物は合成有機錯化剤を含まないため、食品及び飲料水適用に好適となる。また、濃縮物の作製及び使用方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌剤を作製するための水性濃縮物、水での希釈によってそのような濃縮物から得られる殺菌剤、そのような濃縮物を作製する方法、及びそのような濃縮物又は前記濃縮物から得た殺菌剤の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウィルス、バクテリア及び菌類等の感染体による、飲料水及びダクトやチューブ等の水を運ぶ装置の汚染は、世界中で重大な健康問題である。飲料水衛生は、病院等の健康に敏感な環境において特に重要であるが、また、特に世界の温暖な地域では、広大な飲料水システムにおいて大規模に必要とされる。この問題を解決するために、塩素、臭素、又はヨウ素等のハロゲンの付加、又はこのようなハロゲンを水に放出する化合物の付加を含む多くの方法が提案された。しかしながら、これらの方法の大部分は、時に、健康に敏感な物質の使用を非常に大量に必要とするため、環境又は健康への懸念そのものとなる。
【0003】
既にかなり前に、イオン銀化合物又はコロイド元素銀の微量作用特性を過酸化水素の殺菌特性と相乗的に組み合わせて利用し、少なくも原理的には、表面消毒等の適用だけでなく飲料水衛生にも適した効果的な殺菌剤を作製することが提案された。これに関連して、コロイド銀は、そのより良好な薬理学的受容性のために、イオン銀化合物より好ましい。
【0004】
しかしながら、過酸化水素及びコロイド銀を共に含む組成物の安定性は、多くの場合十分ではない。注意するべきことは、通常、少なくとも数ヶ月、典型的には少なくとも1年又は2年もの期間にわたる長期安定性が、任意の商業的成功製品には求められるということだ。この期間、製品は、昇温等の悪条件下にあってさえ、殺菌活性を数パーセントより多く失ってはいけない。同時に、製品はその外観を変えてはいけない、つまり、沈殿物なしに常に澄んだ状態であり続けなければならない。
【0005】
文献では、コロイド銀が存在しない状態での、過酸化水素の水溶液のための様々な安定剤を記載しており、リン酸塩等の無機安定剤、有機安定剤及びバイオポリマー、特にゼラチンを含んでいる。しかしながら、コロイド銀が存在する場合には、このような安定剤だけでは、通常、求められる長期安定性は得られない。錯化剤、特に重金属イオンと強い錯体を形成するキレート剤を加えて、銀イオンが及ぼす過酸化水素の安定性への悪影響を妨げることによって、長期安定性を改善することができる。しかしながら、このようなキレート剤は、通常、特に飲料水衛生への適用又は食品に関する適用には、薬理学的にも環境的にも容認されない。
【0006】
過酸化水素とコロイド銀の両方を含む先行技術の組成物のもつ特有の問題は、銀コロイドとの最初の混合後数時間から数日の期間において、過酸化水素の分解速度が比較的速く、その後は分解速度が落ちることである。時にこの現象は、コロイド銀との混合後の最初の数時間に過酸化水素水の一種の「バブリング」として観察できるが、炭酸水の発泡と非常によく似ている。この挙動は、あまり分かっておらず、コロイド銀と過酸化水素をベースとする殺菌剤の製造にとっての主要な実際的問題である。この問題の解決法は、今までのところ、先行技術には記載されているようには見えない。
【0007】
Goemoeriの特許文献1は、イオン銀化合物又はコロイド銀のいずれかを含む濃縮物を開示し、これは、過酸化水素と混合すると殺菌剤を形成する。濃縮物も過酸化水素との混合後の最終生成物も、ともに、優れた長期安定性を示す。この特許には実施例が二つ挙げられている。第1の実施例では、イオン銀化合物が用いられ、第2の実施例はコロイド銀を含む濃縮物に関する。この実施例では、コロイドは、銀イオンと錯体を形成することが公知の含水のポリヒドロキシモノカルボン酸水溶液によって安定化される(Roempp Chemie Lexikon, CD Version 1.0, Stuttgart/New York: Georg Thieme Verlag 1995, section “Hydroxycarbonsaeuren” を参照)。さらなる有機化合物、特にアルカリベンゾエートを、付加的な安定剤として使用した。濃縮物を50%過酸化水素と混合して、濃縮殺菌剤を得た。このすぐに使える殺菌剤は、優れた有効性と良好な安定性を示す一方で、有機錯化剤及び他の有機安定剤が存在することにより、環境的及び毒物学的な懸念がある。特に、この殺菌剤は、大抵の先進国において現在実施されているような飲料水システムの衛生に対する法令に適合しない。
【0008】
Hungerbach et al.の特許文献2は、「コロイド銀を用いて安定化させた」とクレームされる、過酸化水素水をベースにした口腔衛生剤を開示する。この「安定化させた」水溶液の組成物又はその作製についての詳細は開示されていない。
【0009】
Breitenbach et al.の特許文献3及び特許文献4は、ポリマーに結合した過酸化水素、及び、ポリマー中に付加的に結合する金属コロイド、特にコロイド銀を含む殺菌組成物を開示する。ポリマーは、好ましくは、1以上のN−ビニルラクタムのホモポリマー又はコポリマーである。これらのポリマーは、一般的に、例えば局所的に塗布される軟膏の作製のため、又はエアフィルターをコーティングするためといった局所使用では、環境的に安全で薬理学的に容認可能であると見なされるが、水衛生のために求められるような大量の使用については、環境的及び薬理学的な懸念がある。
【0010】
Tichy et al.の特許文献5は、有機ペルオキシ酸、過酸化物及び遷移金属、特にコロイド銀を含む殺菌剤を開示する。このような殺菌剤は、食用原料だけを含むとクレームされるが、有機ペルオキシ酸の存在は多くの食品及び飲料に関係する使用において望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US 4,915,955
【特許文献2】US 5,437,858
【特許文献3】US 5,945,032
【特許文献4】US 6,231,848
【特許文献5】US 7,351,684
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の第1の目的は、組成物、特に殺菌剤又はこのような殺菌剤を作製するための濃縮物を提供することであり、該組成物は、過酸化水素及びコロイド銀の両方を含み、合成有機錯化剤又は有機ペルオキシ酸等の環境的及び/又は薬理学的に危機的な(critical)成分を含まないのに、良好な長期安定性を示し、該組成物を飲料水適用又は食品に関連した適用において使用できるようにする。
【0013】
本発明の第2の目的は、過酸化水素及びコロイド銀を含む、長期間保存可能且つ先行技術で観察された過酸化水素と銀の最初の混合後の急速な初期の分解を示さない組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これら及び他の目的は、請求項1の特徴を有する濃縮物によって達成される。従って、殺菌剤の作製のための保存に安定した水性濃縮物を提供し、この濃縮物は、最終濃縮物に対する濃度が30〜70体積%(v/v)の過酸化水素;最終濃縮物に対する濃度が150〜1000重量ppm(w/w)のコロイド銀;少なくとも1つのバイオポリマーを含む、最終濃縮物に対する濃度が10〜100重量ppmの安定剤;及び濃縮物のpH値を3.0以下に調節するのに効果的な量の、好ましくは最終濃縮物に対する濃度が500重量ppm以下のリン酸を含む。
濃縮物の保存時の過酸化水素の分解を抑制するため、濃縮物は、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのナトリウム塩を、最終濃縮物に対し、100〜500重量ppmの量で含む。この濃縮物は、銀と錯体を形成する合成有機錯化剤を実質的に含まないため、環境的に安全で薬理学的に容認可能となる。
【0015】
好ましくは、濃縮物は、実質的に上述の成分、つまり過酸化水素、コロイド銀、安定剤としての1以上のバイオポリマー、リン酸及びナトリウム塩からのみ成る。本明細書では、「実質的に〜から成る」とは、「もっぱら〜から成る」と理解されるべきであるが、他の成分と化学的に相互作用しない化学的に不活性な材料の存在を許し、及び/又は、微量の他の物質の存在を許す。ここで、微量とは濃縮物の成分の製造から生じる副生物であり、このような副生物がいわば10ppmに満たない範囲の非常に小さい濃度でしか存在しないことである。
【0016】
「コロイド銀」又は「銀コロイド」とは、化学の分野における通常の方法で理解されるべきである。特に、これらの用語は、水に分散させると、コロイド溶液を形成するように十分に細かく分散させた元素銀の任意の作製に関する。平均粒径(同じ数の銀原子を有する仮想球体の直径についての(over)算術平均)は、一般的に、1〜100ナノメートル、通常は1〜10ナノメートルの範囲にあり、一般的には1粒子につき10原子未満に相当する。機械製粉、電解法、及び、溶液中の銀塩の化学的還元を含む(しかし、これらに限定されない)、塩コロイドの作製のためのいくつかの異なる方法が存在するが、本発明は何らかの特定の方法によって作製される銀コロイドに限定されない。コロイドは、粉末又は水分散液(「コロイド溶液」)の形で供給され得る。コロイド銀は、銀粒子の表面での酸化還元反応により、常に、元素銀に加えてイオン銀を一定の割合で含んでもよいと理解されるべきである。
【0017】
重要なことには、本製品は、コロイド銀溶液を安定化するために先行技術で使用されたポリヒドロキシモノカルボン酸等の合成有機錯化剤を実質的に含んでいない。これによって、濃縮物又は結果として生じる殺菌剤を、飲料水又は食品適用において使用するとき、飲料水規則又は食品規則並びに環境規則のより良好な順守が可能となる。「合成有機錯化剤を実質的に含んでいない」とは、一般的に、このような化学物質が、多くとも、あまりに少なすぎて濃縮物中にある有意な量(数パーセント未満、特に5パーセント未満、好ましくは1パーセント未満)の銀と結合できないほどのわずかな量で(in trace amounts)存在することを意味すると理解されるべきである。
【0018】
コロイド銀及び過酸化水素に加えて、濃縮物は、リン酸、バイオポリマー安定剤及び硝酸ナトリウム及び/又は硫酸ナトリウムを含む。リン酸及びゼラチン等のバイオポリマーの安定化効果はよく知られているが、驚くべきことに、硝酸ナトリウム又は硫酸ナトリウムを濃縮物に加えると、長期安定性が著しく改善され、特に、過酸化水素の初期の分解が劇的に減少することを発見した。この効果は、完全に予期しなかったことであり、これらのナトリウム塩が濃縮物を安定化するために作用するメカニズムは、今のところ未知のままである。
【0019】
好ましくは、ナトリウム塩は硝酸ナトリウムである。ナトリウム塩は好ましくは、最終濃縮物に対し、200〜350重量ppmの量で存在する。これより高い又は低い濃度でも好ましい効果をもたらすかもしれないが、この範囲の濃度は、最小限の硝酸又は硫酸ナトリウムの量で、良好な安定化効果をもたらすことがわかった。濃度が高すぎると、特に500ppm w/wを大幅に超えると、好ましくない沈殿物が生じる恐れがある。
【0020】
コロイド銀の量は、好ましくは、最終濃縮物に対し、300〜700重量ppmである。この範囲の濃度は、濃度が30〜70体積%の範囲の過酸化水素とともに高い殺菌活性を生み出すことがわかった。特に、過酸化水素が、45〜55体積%の濃度で存在するのが好ましく、最も好ましくは約50%であり、濃度が低ければ低いほど、より速く劣化する傾向がある。その際、コロイド銀の濃度は、好ましくは、約450〜550重量ppmであり、最も好ましくは、約500重量ppmである。より一般的な言い方をすると、重量ppmで表されるコロイド銀の含有量の数値は、体積パーセントで表される過酸化水素の濃度の数値の、好ましくは約8〜12倍、最も好ましくは約10倍である。
【0021】
バイオポリマー安定剤は、好ましくは、アラビア・ゴム、ゼラチン、グアーガム、カラギーン及びペクチンからなる群から選択される。このような自然発生的な高分子バイオポリマーは、時折、過酸化水素及びコロイド銀粒子の両方と相互作用する「保護コロイド」として文献に示される。これらは、一般的に、タンパク質、糖タンパク質、多糖又はこれらの混合物を含む。
【0022】
アラビア・ゴムが好ましい。アラビア・ゴム(E414,CAS9000−01−05)は、長きに渡り食品産業において、安定剤及び増粘剤として使用されてきた天然ゴムである。これは、欧州連合では、指令67/548/ECCによる安全性マーキング(safety marking)がない。アラビア・ゴムは、一般に、多糖と糖タンパク質との複雑な混合物からなり、特に、かなり多くの割合が、いわゆるアラビン酸(ポリアラビン酸)のアルカリ土類塩、及びアルカリ塩であり、おおよそ3:3:1:1の割合で、L−アラビノース、D−ガラクトース、L−ラムノース及びD−グルクロン酸(D-glururonic acid)からなる分岐多糖を示す。アラビア・ゴムは、主に、様々なアカシアの木(大抵は、アラビアゴムノキ又はアカシア・セイアルから)の樹皮から得られる。主要な利点は、アラビア・ゴムが非動物源であり、完全に食用で、それゆえ、任意の食品又は飲料に関する適用において完全に容認可能なことである。コロイド銀及び過酸化水素をベースとする殺菌組成物は、アラビア・ゴムで安定化されると、ゼラチンで安定化されたそのような組成物と同様の長期安定性を示すことが分かった。従って、アラビア・ゴムは、このような殺菌組成物における安定剤としてゼラチンに完全に置き換わることができる。
【0023】
バイオポリマー安定剤、特に、アラビア・ゴムは、非常に少ない量で存在するだけでよい。経済的観点から、この含有量は、好ましくは、たった30重量ppm以下である。
【0024】
最も好ましい実施形態では、本発明の濃縮物は、濃度49〜51% v/vの過酸化水素、濃度490〜510ppm w/wのコロイド銀、濃度400〜500ppm w/wのリン酸、濃度250〜300ppm w/wの硝酸ナトリウム、濃度20〜25ppm w/wのアラビア・ゴム、及び水(好ましくは、脱イオン化された、限外ろ過された、又は逆浸透法で処理した)から実質的に成り、前記水は好ましくは、0.1μS/cm(マイクロジーメンス パー センチメートル)以下の伝導率を有する。伝導率は、外来イオン(OH又はHイオン以外のイオン)の含有量に対する直接的尺度であり、実質的なイオンの含有量は全て、長期安定性を下げ、特に濃縮物を沈殿させる傾向につながる恐れがある。
【0025】
異なる態様では、本発明は、上述の濃縮物作製方法、及び、そのような方法から一般的に得られる(すなわち、方法から実際に得られる濃縮物と同じ物理的及び化学的特性を有する)、又はこの方法から実際に得られる濃縮物に関する。本方法は以下の工程を含む:
(a)少なくとも1つのバイオポリマーを含む安定剤、好ましくはアラビア・ゴムである安定剤を、脱イオン化水に溶かして、好ましくは2〜20g/l、より好ましくは3〜10g/lの濃度の水溶液を作製する工程;
(b)60℃以下の温度で前記溶液を保ち、好ましくは50〜90体積%の濃度のリン酸を、温度を60℃以下に保持しながら、pH3.0以下、好ましくはpH0.8〜3.0の酸性化安定剤溶液を得るのに十分な量だけ前記溶液に加える工程;
(c)硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるナトリウム塩を、好ましくは前記ナトリウム塩の水溶液の形で、好ましくは30〜150g/lの濃度で、前記酸性化安定剤溶液に加える工程;
(d)結果として生じた溶液に、好ましくは20〜200g/l、より好ましくは50〜150g/lの濃度の銀コロイド水溶液を加えて、中間体を得る工程;
(e)得られた中間体を均質にする工程;
(f)前記中間体を、30℃以下の温度で、好ましくは30〜70体積%、より好ましくは45〜55体積%の濃度の過酸化水素の水溶液に加える工程;及び
(g)結果として生じた混合物を、特に、少なくとも120分間、より好ましくは少なくとも4時間、大気圧下で撹拌することにより均質にして、前記安定した濃縮物を得る工程。
【0026】
好ましくは、前記中間体を均質にする工程は、中間体を、圧力を上げて、特に1.5〜3.0バールの圧力、より好ましくは約2バールの圧力で、少なくとも60分間撹拌することを含む。
【0027】
本発明は、さらに、先行する請求項のいずれかの濃縮物、及び、好ましくは脱イオン化された、限外ろ過された又は逆浸透法(RO)で処理された水を含む水性殺菌剤に関し、最終殺菌剤中の濃縮物の濃度が少なくとも0.4体積%である。この場合もやはり、水は、好ましくは、十分な長期安定性を保証し、沈殿物の生成を最小限にするために、0.1μS/cm未満の(below)伝導率を生じる純度を有する。好ましくは、最終殺菌剤は、濃縮物を少なくとも1体積%、より好ましくは少なくとも2体積%の濃度で含む。
【0028】
さらなる態様において、本発明は、任意の材料、特に以下のいずれかの処理のための、上に定義するような濃縮物、又は、そのような濃縮物を少なくとも0.5体積%の濃度で含む殺菌剤の使用方法を提供する:
飲料水;
特に病院の、チューブ、バルブ及び蛇口等の部品(armatures)、タンク、ボイラー等の飲料水装置;
食品又は動物飼料;
食品容器、カトラリー、皿、台所用品等の食品関連装置;
トイレ、流し台等の衛生設備;又は
人間の皮膚、特に手の皮膚。
【0029】
これらの方法は、最も簡単な形として、前記濃縮物を含む殺菌剤を作製する工程、及び、前記殺菌剤を処理されるべき材料に好ましくは少なくとも30秒間接触させる工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、約一年の期間にわたる、三つの異なる濃縮物1,2,3の、体積%(v/v)で表した過酸化水素含有量[H]を示す図である(時間tを日数dで表す)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の好ましい実施形態を、図を参照して以下で説明する。
以下の実施例は、例示の目的のためだけに記載されており、本発明の範囲を制限する目的で記載されるものではないと理解されるべきである。
【実施例】
【0032】
(実施例1:硝酸ナトリウムを含む濃縮物の作製)
安定剤(アラビア・ゴム“quick-gum type 8074”、精製標準化済み、E414/CAS 9000-01-05;Alfred L. Wolff, D-Hamburg)50グラムを、55℃にて、脱イオン化水(伝導率0.1μS/cm以下)950mlに溶解させた。この混合物を撹拌器(ステンレススチールV2A又はV4A、低速U字形ミキサー、加熱冷却設備、3バールまで圧力制御可能、使用前不動態化)に満たし、約15分間撹拌した。リン酸(CAS 7664-38-2、85%、purum;Fluka Chemie、CH-Buchs)400mlをゆっくり加えて、pH1.2とし、生じた混合物を、温度を50℃に下げながら、30分間撹拌した。硝酸ナトリウム水溶液(CAS 7631-99-4、ultra pure;Fluka Chemie、CH-Buchs)600mlをゆっくり加え、生じた混合物を30分間撹拌した。水性コロイド銀(Argentum colloidale、CAS 7440-22-4、精製水中120g/l;Johnson Matthey、CH-Zurich)10,000mlを一部一部(in portions)加え、圧力を2バールまで上げて、混合物を120分間撹拌した。温度は30℃まで下げた。結果として生じた保存に安定した中間生成物(12リットル)を、HDPE(高密度ポリエチレン)製の標準容器に満たした。
【0033】
過酸化水素水溶液(CAS 7722-84-1、49.0〜49.9%、purum;Solvay,BE-Bruxelles)2,388リットルをステンレススチールV2A又はV4A製の撹拌器(過酸化水素に耐性、圧力逃がし弁でシール可能、使用前不動態化)に満たした。中間生成物12リットルを一部一部加えて、結果として生じた混合物を、4時間撹拌した。こうして濃縮物2,400リットルを得た。硝酸ナトリウムの最終含有量は300ppm w/wであった。この濃縮物を圧力逃がし弁を備えた標準容器に満たした。
【0034】
(実施例2:硫酸ナトリウムを含む濃縮物の作製)
硝酸ナトリウムを同じ量の硫酸ナトリウムで置き換えて、実施例1と同様に、第2の濃縮物を作製した。
【0035】
(実施例3:ナトリウム塩なしの濃縮物の作製)
硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム又は任意の他の塩を加えずに、実施例1のように濃縮物を作製した。
【0036】
(実施例4:安定性試験)
実施例1〜3の濃縮物に、およそ一年にわたる安定性試験を施した。各濃縮物1リットルを、圧力緩和(relieve)弁の備わった標準容器に満たした(試料1〜3)。これら容器をともに20〜25℃の温度で保存した。濃縮物の作製後、0、4、97、188、277及び375日に、過酸化水素の濃度を測定した。測定は、通常の方法で、KMnO法(過マンガン酸塩滴定)によって酸化滴定的に(oxidimetrically)実施した。表1に結果を示し、図1には図式で表す。
【0037】
【表1】

【0038】
試料3では、過酸化水素の濃度が、たった4日間で、50.1%から48.0%へと下がった。この過酸化水素の急速な初期の分解は、中間生成物を過酸化水素水と混合した直後に始まる気泡形成に現れた。その後、過酸化水素濃度は、およそ一年の期間にわたって、ゆっくりとであるが、46%まで減少した。
【0039】
対照的に、試料1及び2は、最初の4日間に著しい過酸化水素の分解を示さなかった。中間生成物を過酸化水素水と混合後、気泡形成は観察されなかった。長期安定性が最も良好だったのは、硝酸ナトリウムを含む試料1であり、約1年の期間にわたる過酸化水素濃度の減少はたった1.4%であった。従って、試料1は、過酸化水素の初期の分解を回避しただけでなく、予想外に高い長期安定性を示した。硫酸ナトリウムを含む試料2は、1.9%というわずかに多い過酸化水素の減少を示した。これは、最初の4日間における初期の過酸化水素の低下を無視すれば試料3と同程度であるが、商業的には十分に魅力がある。
【0040】
要約すれば、硝酸ナトリウムか硫酸ナトリウムのいずれかを加えることにより、コロイド銀作製物を過酸化水素水と混合した後に大抵の場合観察される急速な低下を阻止できた。さらに、硝酸ナトリウムの存在により、長期安定性をさらに改善した。
【0041】
実施例1〜3によって作製した濃縮物(試料1〜3)、さらに、実施例1で硝酸ナトリウムを同じ量のリン酸ナトリウムNaPOで置き換えた濃縮物(試料4)、炭酸水素ナトリウムNaHCOで置き換えた濃縮物(試料5)、又は硝酸カリウムKNOで置き換えた濃縮物(試料6)を用いて、さらなる安定性試験を実施した。
【0042】
試料1〜6に、1996年9月のSolvay手順SPZ22に従う分解試験を施した。特に、試料における過酸化水素の分解速度を、放出酸素の体積を測定することにより気体定量的に(gasometrically)決定した。ガラスフラスコ(30ml)を硝酸で12時間酸洗浄し、脱イオン化水ですすぎ、乾燥させた。各試料25mlを、それぞれ、このようなガラスフラスコ1つずつに満たした。各フラスコを還流冷却器に接続し、ガス・ビュレット及び水で満たした均等器(equalizing vessel)を有する気体定量測定システムに接続した。システムを大気にさらした状態で、各フラスコを15分間100℃に予熱した。その後、システムを閉じて、放出酸素の体積を30分後に測定した。この体積から、1時間且つH1キログラム当たりの、グラムで表した分解過酸化水素の量aを、次の式を適用して決定した。

ここで、Tは気体温度(K)、cはHの濃度(%)、及びdは試料の濃度(50%濃度で約1.196g/ml)である。この試験は、長期安定性の良い指標となる。
【0043】
結果を表2に示す。
【表2】

【0044】
これらの結果から、調査した安定剤の群の中で、硝酸ナトリウム及び硫酸ナトリウムが最も効果的な安定剤であることがわかる。リン酸ナトリウムはわずかに効果が落ちるだけだが、リン酸塩は環境懸念の理由から、廃水中の許容量が低い。他の安定剤はずっと効果が少ない。
【0045】
(実施例5:殺ウィルス作用(表面試験))
実施例1の濃縮物から得られる殺菌剤に、それらの殺ウィルス活性、殺菌活性及び殺真菌活性に対する広範囲に及ぶ試験を施した(実施例5〜9)。
【0046】
表面殺菌剤としての殺ウィルス活性をテストするために、濃縮物を脱イオン化水で希釈して、殺菌剤における濃縮物の最終濃度が3%のもの(試薬A、約1.5%の過酸化水素濃度に相当)及び6%のもの(試薬B、約3%の過酸化水素濃度に相当)をそれぞれ得た。
【0047】
EN14476(フェーズ2、ステップ1)に準じる手順に従い、ポリオウィルスI型及びアデノウィルス5型に対する殺ウィルス作用を、ステンレススチール表面上で試験した。
【0048】
試薬A及びBを、密閉された1l容器に入れた。これらの試薬を使用するまで暗所で保存した。これら試薬を容器から薄めないで(straight)使用した。各実験直前に、殺菌したピペットを用いて10mlの一定分量で取り出し、殺菌した12mlの試薬管(Falcon、BD、USA)に移した。試薬をこれら管から、エアロゾルバリアが備わった、殺菌した使い切りマイクロピペットフィルターチップ(Eppendorf、DE)を用いてピペットで取った。
【0049】
アデノイド75起因の(stem adenoid 75)アデノウィルス5型の株(stock)を、細胞培養用標準インビトロ感染プロトコルに従って作製した。接種材料の連続希釈法を用いて、細胞感染によってウィルス力価を決定した。多重平行培養に現れる細胞変性の変化によって、50%細胞培養感染量(TCID50)を決定した。本研究で使用した株は、TCID50が3×10−8で、1ミリリットル当たり3×10感染単位の力価を示した。
【0050】
ポリオウィルスI型、LSc2−ab株を、標準プロトコルに従い作製し、上述のように特徴付けた。本研究で使用した株は、TCIDが2×10−6で、1ミリリットル当たり10感染単位の力価を示した。
【0051】
それぞれのウィルス接種材料を沈着させる(deposite)ためにドライスポット形式を選択した。標準的な手順(UV処理、証明済みの殺菌剤での拭き取り、滅菌水でのすすぎ及び乾燥、70%エタノールでの拭き取り)で、ステンレススチールの表面(層流ベンチ、Skan AG、CH-Allschwil)を殺菌した。ウィルス接種材料(それぞれ10マイクロリットル体積)を、マイクロピペットを用いて表面にスポット状に沈着させ、30分間乾燥させた。プレーンな、ウィルスのない培地のスポットを同じ方法で塗布した。このスポットを、対照として、試薬の1つ又は培地で覆った。スポットを30又は60分間培養した。
【0052】
各スポットに50マイクロリットルのMEMを加えて、ウィルスを正常な状態に戻した。ウィルス感染性を、ヒトのRD−6細胞(ポリオウィルス)又はヒトのヒーラ細胞(アデノウィルス)それぞれのインビトロ感染によって、標準的な手法で決定した。
【0053】
ポリオウィルスに対しては、結果は、両試薬によって、4log10以上のウィルス感染性の大幅な低減がもたらされることを示した。この低減を達成するために十分な暴露時間は、試薬A(3%)に対しては60分、試薬B(6%)に対しては30分であると思われた。
【0054】
アデノウィルスに対しては、結果は、両試薬による感染性の大幅な低減を示した。試薬A(3%)に対しては、3log10以上のウィルス感染性の減少を達成するために十分な暴露時間が60分、試薬B(6%)に対しては、4log10以上のウィルス感染性の減少を達成するために十分な暴露時間が60分であると思われた。
【0055】
(実施例6:殺ウィルス活性(インビトロ試験))
以下のウィルスに対し、インビトロで、EN14675(フェーズ2、ステップ1)に従って、さらなる殺ウィルス試験を実施した:牛のエンテロウィルス1型、ATCC VR−248(ピコルナウィルス科;RNS、無鞘);Deparvacグースパルボウィルス株(パルボウィルス科;DNS、無鞘);La Sota 家禽ペストウィルス株(パラミクソウィルス科;RNS、有鞘);標準的な(classic)豚ペストAlfort株(フラビウィルス科;RNS、有鞘);グンボロ病GP−14株(ビルナウィルス科、RNS、無鞘);及びAujeskyウィルス(ヘルペスウィルス科、DNS、有鞘)。
【0056】
実施例1による濃縮物から脱イオン化水での希釈によって作製した殺菌剤を、温度10℃、暴露時間30分、1時間及び3時間で、3つの希釈物(最終殺菌剤中の実施例1による濃縮物の濃度:0.5%、3.0%及び6.0%)に対しテストした。この殺菌剤を、硬水で希釈した、ウィルスの3%BSA懸濁液に加えた。結果として生じた混合物を、上述の暴露時間培養し、標準的な方法によりウィルス感染性を測定した。さらに、標準的な立証実験を行った(ウィルス懸濁液がない場合の毒性試験;比較滴定実験;及びホルムアルデヒド溶液での参照不活性化試験)。
【0057】
試験結果によると、殺菌剤は、濃度が少なくとも3.0%であれば、全暴露時間で、上述のウィルスのそれぞれに対して、少なくとも4log10だけウィルス感染性を減少させることができた。
【0058】
(実施例7:殺菌活性及び殺真菌活性)
脱イオン化水で3%の最終濃度まで希釈することによって実施例1による濃縮物から作製した殺菌剤の殺菌活性及び殺真菌活性を、規格SN EN 1276(化学殺菌剤の殺菌活性を決定するための量的懸濁実験;フェーズ2、ステップ1);SN EN 1560(化学殺菌剤の殺真菌活性を決定するための量的懸濁実験;フェーズ2、ステップ1)、及びSN EN 13697(化学殺菌剤の殺菌活性及び殺真菌活性を決定するための量的表面実験;フェーズ2、ステップ2)に従って測定した。
【0059】
懸濁実験を、標準的な手順に従い、以下の細菌に対して行った:大腸菌、ATCC 8739;黒カビ、ATCC 9642;緑膿菌、ATCC 9027;黄色ブドウ球菌、ATCC 6538;及びカンジダアルビカンス、ATCC 10231。殺菌剤は、全テスト時間(15,30及び60分)で、カンジダアルビカンス以外のテストした細菌全ての完全除去を示した。カンジダアルビカンスに対しては、60分のテスト時間後、十分な殺菌力(dispatch rate)に達した。
【0060】
表面殺菌実験を、21℃、アルミニウムプレート上で、同じ種類の細菌に対して行った。殺菌剤は、全テスト時間(15,30及び60分)で、テストした細菌全て(上記参照)の完全除去を示した。
【0061】
(実施例8:手の殺菌剤としての適合性)
基準SN EN 1500(フェーズ2、ステップ2)に従って、手の殺菌剤としての適合性を提供するための試験を実施した。試験は、大腸菌、ATCC 8739に対して行った。試験は、3%濃度まで脱イオン化水で希釈することによって、実施例1による濃縮物から作製した殺菌剤に対して実施した。参照製品として、プロパン−2−オールを、60% v/vの濃度で使用した。試験に対し、殺菌剤及び参照製品それぞれ3mlを、10名の試験者の手に二度塗布した。塗布時間は、8名に対しては60秒、2名に対しては30秒とした。中和試験は行わなかった。殺菌剤は、参照製品と同じ大腸菌殺菌力を示した。60秒の相互作用時間では、殺菌剤は、基準SN EN 1500の要件を完全に満たした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺菌剤の作製のための保存に安定した水性濃縮物であって、
最終濃縮物に対する濃度が30〜70体積%の過酸化水素;
最終濃縮物に対する濃度が150〜1000重量ppmのコロイド銀;
最終濃縮物に対する濃度が10〜100重量ppmである、少なくとも1つのバイオポリマーを含む安定剤;及び
前記濃縮物のpH値を3以下に調整するためのリン酸を含む濃縮物において、
前記濃縮物が、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのナトリウム塩を、前記最終濃縮物に対して100〜500重量ppmの量で含み、前記濃縮物が合成有機錯化剤を実質的に含まないことを特徴とする濃縮物。
【請求項2】
前記ナトリウム塩が硝酸ナトリウムである、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項3】
前記ナトリウム塩が、前記最終濃縮物に対し200〜350重量ppmの量で存在する、請求項1又は2に記載の濃縮物。
【請求項4】
前記コロイド銀の量が、前記最終濃縮物に対し300〜700重量ppmである、請求項1〜3のいずれかに記載の濃縮物。
【請求項5】
前記最終濃縮物に対する重量ppmで数値的に表される前記コロイド銀の量が、体積パーセントで数値的に表される前記過酸化水素の濃度の8〜12倍である、請求項1〜4のいずれかに記載の濃縮物。
【請求項6】
前記安定剤が、アラビア・ゴム、ゼラチン、グアーガム、カラギーン、ペクチン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の濃縮物。
【請求項7】
前記安定剤がアラビア・ゴムである、請求項6に記載の濃縮物。
【請求項8】
前記安定剤の量が、10〜30重量ppmである、請求項1〜7のいずれかに記載の濃縮物。
【請求項9】
前記濃縮物が、実質的に、濃度が49〜51% v/vの過酸化水素、濃度が490〜510ppm w/wのコロイド銀、濃度が400〜500ppm w/wのリン酸、濃度が250〜300ppm w/wの硝酸ナトリウム、濃度が20〜25ppm w/wのアラビア・ゴム、及び水からなる、請求項1〜8のいずれかに記載の濃縮物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の濃縮物及び水を含む水性殺菌剤であって、前記濃縮物が、少なくとも0.4重量%の濃度で前記殺菌剤中に存在する殺菌剤。
【請求項11】
前記濃縮物を少なくとも2重量%の濃度で含む、請求項10に記載の殺菌剤。
【請求項12】
飲料水、又は、通常の使用で飲料水と接触する装置の処理のための、請求項1〜11のいずれかに記載の濃縮物又は殺菌剤の使用。
【請求項13】
保存に安定した水性濃縮物、好ましくは請求項1〜9のいずれかに記載の濃縮物の作製方法であって、
(a)少なくとも1つのバイオポリマーを含む安定剤の水溶液を作製する工程;
(b)60℃以下の温度で前記溶液を保ち、温度を60℃以下に保持しながら、前記溶液にリン酸を加えて、pH3.0以下の酸性化安定剤溶液を得る工程;
c)硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるナトリウム塩を、前記酸性化安定剤溶液に加える工程;
(d)銀コロイド水溶液を加えて、中間体を得る工程;
(e)前記得られた中間体を均質にする工程;
(f)前記中間体を、30℃以下の温度で、過酸化水素の水溶液に加える工程;及び
(g)結果として生じた混合物を均質にして、前記安定した濃縮物を得る工程を含む方法。
【請求項14】
前記中間体を均質にする工程が、少なくとも60分間、圧力を上げて、前記中間体を撹拌することを含む、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−527288(P2011−527288A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516940(P2011−516940)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【国際出願番号】PCT/CH2009/000234
【国際公開番号】WO2010/003263
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(511007233)ザノジール アーゲー (1)
【Fターム(参考)】