説明

殺菌剤

【課題】腐植土由来物質を利用して、フミン酸水溶液より優れた抗菌・殺菌作用などを有する抗菌剤・殺菌剤を提供する。
【解決手段】フルボ酸を有効成分として含有する殺菌剤。好ましい形態はフルボ酸の水性液の形態である。フルボ酸の水性液が噴射剤とともにエアゾール容器に充填されたエアゾール製品も好ましい形態である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフルボ酸を有効成分として含有する殺菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フルボ酸は、フミン酸と共に腐植土からの抽出物として得られるフミン物質の1種である。
【0003】
腐植土は、通常、500万年以上前に海草、藻類などの植物、魚介類、そのほか無機質類などが海底、湖や沼などの底に堆積した堆積物が嫌気性微生物などにより分解、合成、有機化を受けたものであり、たとえば地下約20mに約10mの厚さの層として存在している。
【0004】
フミン酸は、腐植土からの抽出液に存在する物質のうち、アルカリに可溶な着色物質で腐植酸ともいわれている。フルボ酸は、腐植土からの抽出液からフミン酸を酸析除去したのちに溶液中に残る着色物質である。
【0005】
フルボ酸は、フミン酸に比べて分子量が小さく、炭素含量が低く酸素含量が高い(カルボキシル基含量が高い)ことが特徴である。その結果、フルボ酸の全酸量は900〜1400meq/100g程度で、フミン酸の500〜870meq/100g程度と比べてかなり高い値を示している。
【0006】
腐植土からの抽出物を利用したものとして、特公昭62−3806号公報に、腐植土中のフミン酸を水で抽出して得たフミン酸水溶液を加熱殺菌するとともに、0.6μmのフィルターにより濾過し、濃度調整およびpH2.0〜5.0に調整したフミン酸水溶液を食品保存用殺菌剤として用いることが記載されている。
【0007】
しかしながら、このフミン酸を含有する食品保存用殺菌剤は抗菌・殺菌作用が必ずしも充分でなく、熱処理しているにもかかわらず、2〜3ヵ月間保存しただけで褐変するなど、保存安定性が優れていないという問題がある。このように従来技術では、腐植土由来物質の特徴を充分に生かしきれていない。
【0008】
【特許文献1】特公昭62−3806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の点に鑑みて、腐植土由来物質を利用して、特許文献1に記載のフミン酸水溶液より優れた抗菌・殺菌作用などを有する抗菌剤・殺菌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明はつぎの殺菌剤を提供する。
(1)フルボ酸を有効成分として含有する殺菌剤。
(2)フルボ酸の水性液の形態である前記(1)項記載の殺菌剤。
(3)フルボ酸の水性液が噴射剤とともにエアゾール容器に充填されたエアゾール製品の形態である前記(2)項記載の殺菌剤。
【0011】
ここで、本発明の殺菌剤は、殺菌作用の他に、抗菌作用、防腐作用などを有するものであり、抗菌剤、防腐剤などの概念を包含するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の殺菌剤は、特許文献1に記載されているフミン酸水溶液に比べて抗菌・殺菌作用が優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明の殺菌剤における有効成分としてのフルボ酸は、通常腐植土を水で抽出して得られた水性液の形態のものを使用する。以下、腐植土を水で抽出してフルボ酸を含有する水性液を得る方法について説明する。
【0015】
本発明に用いる腐植土は、何処から採取したものでも用いることができるが、とりわけ長崎県北高来郡森山町唐比西名で採取した腐植土が好ましい。
【0016】
採取した腐植土は水分を含んでおり、水田からとった土のようにべとついたものであり、粗乾燥および精密乾燥の2段階の乾燥工程をへてから抽出工程に供される。乾燥工程は、腐植土を乾燥させて細分化するとともに、好気性微生物のはたらきを活性化させて嫌気性菌のはたらきを抑制し、太陽熱殺菌を行なうと同時に、紫外線等吸収(光合成)によってアミノ酸、ビタミン、酵素などを活性化(熟成)するなどすると考えられる。これにより抗酸化作用、防腐食作用などの有益な作用が奏されると考えられる。乾燥工程を2段階で行なうことにより構成成分の均一化と腐植土以外の泥土の除去、抽出時のpHのばらつきの少ない安定した腐食土抽出物質含有水性液の取得を行なうことができる。前記粗乾燥は、まず採取した径が5〜50cm程度の塊状の腐植土をコンクリートなどの腐植土と混ざらないもののうえで雨ざらし、日ざらしの状態(天日)で半年〜1年間乾燥させることにより行なわれる。この間、適宜腐植土をひっくりかえして全体によく天日があたるようにするのが好ましい。この工程により腐植土は乾燥した塊状物になる。ついで、ビニールハウス内でさらに乾燥させる(精密乾燥)。この乾燥は最短では1ヵ月間、通常1.5〜2ヵ月間行なわれる。これにより塊状物の乾燥がさらにすすみ、塊状のものは耕運機などでさらに粉砕して、砂状のさらさらにしたものにする。本発明でいう「腐植土」とは、前述した工程を経て得られる、乾燥し粉砕された腐植土のことである。
【0017】
得られた腐植土の性質の一例を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
前記抽出に用いる水(さらには溶媒としての水を含む)としては、pHが中性である7を下回る6〜6.5の微酸性のものが最適である。pHが7を超えたアルカリ性の水や不純物を含む水は、同時にフミン酸を抽出するから、好ましくない。
【0020】
抽出は、腐植土と水との混合物を撹拌することにより行なうことができる。抽出時の温度は通常常温である。撹拌時間は通常1〜3時間、好ましくは2〜3時間である。
【0021】
腐植土と用いる水との好ましい割合は、1:1〜1:5、さらには1:3〜1:5、とくには1:5(重量/容量比)である。水の量が前記範囲より少ないと、使用した腐植土に対する抽出液の収量が少なくなり、また、少なくした場合でも得られるpHはある程度の値よりは低くならないので無意味である。一方、水の量が前記範囲より多いと、得られる抽出液のpHが2.99より高くなり、菌やウイルスの種類によっては、殺菌、滅菌、抗ウイルス効果などが充分でなくなり、用途が制限される場合が生じる。ただし、得られた抽出液のpHが高い場合や、pHの低い抽出液を希釈してpHの高い液にした場合でも、高いpHでもよい用途には使用することができる。この場合でも、特公昭62−3806号公報に記載されているフミン酸水溶液で同じpHのものよりも広い用途に使用することができる。
【0022】
撹拌終了後、2〜4週間、好ましくは約3週間静置して浮遊微粒子を沈降させたのち、上澄液をデカンテーション、吸引、50〜100μmのバッグフィルターによる予備濾過などの濾過工程に通常用いられる分離方法により分離する。上澄液と腐植土層との界面から5〜10cm上に吸引口がくるようにし、吸引する場合には、腐植土層を吸引することなく上澄液を高い収率で吸引することができる。
【0023】
つぎに抽出液を0.3μm以下のフィルターを用いて濾過する。この濾過を行なうことにより、雑菌の除去、浮遊物、懸濁物または経時に沈殿を起こす不溶性物質の排除を行なうことができる。0.3μmより大きい孔径のフィルターでは前記のごとき抽出液を得ることができない。
【0024】
用いるフィルターの孔径は0.3μm以下、好ましくは0.2μm以下であり、下限は0.1μmである。フィルターの濾材は、濾液に影響を与えないかぎり制限されないが、具体的には、ナイロン、ポリプロピレン、ポリビニリデンフルオライドなどがあげられる。これらのなかでもポリビニリデンフルオライドが好ましい。
【0025】
濾過は、加圧下、減圧下のいずれで行なうこともできるが、一般的には加圧下で行なう。その方法は、たとえば、前記材質のメンブレンフィルターのカートリッジをハウジングにセットし、これを加圧タンクに接続して2kg/cm2以下の圧力で圧送して行なう。この濾過を行なう前に、予備濾過を行なうことは、濾過の効率向上、濾過装置の負担軽減などの観点から好ましい。実際には50〜100μmのバッグフィルターで濾過すれば充分である。
【0026】
得られた濾液は、好ましくはpH2.50〜2.99、さらにはpH2.85〜2.95、とくにはpH2.9である。pHが2.50未満のものは通常は得られず、2.99を超える場合には、菌やウイルスの種類によっては殺菌、滅菌抗ウイルス効果などが充分でなくなる場合が生じ、防腐食効果の低下、抗酸化力の低下などがおこる。前記範囲より低いpHの濾液を、酸(たとえば塩酸)を添加する、加熱するなど抽出液を変質させる以外の手段で得ることは困難である。たとえば高いpHのものを酸(たとえば塩酸)を添加するなどしてpHを下げても、何もせずに得られた同じpHのものと比較したとき、性能が劣る。
【0027】
このようにして得られたフルボ酸含有水性液は、抗菌・殺菌作用の他に、ウイルス不活性化作用、抗酸化作用、防腐食作用、界面活性作用、重金属溶解作用、有害化学物質溶解・中和能などをも有する。
【0028】
これらの作用は、微生物により合成されたアミノ酸、タンパク質、ビタミン、酵素と、火成岩の侵触などで堆積したマグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウムなどのミネラルとが相互に影響して得られるものである。とりわけ、ミネラルとしては特にアルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウムなどのイオンが大量に含まれており、イオン交換を行なった後ではpH値が上昇することから、本発明のフルボ酸含有水性液の殺菌機序はフルボ酸が示す低pHとミネラルに影響するところが大きいと考える。
【0029】
本発明のフルボ酸含有水性液は、原液のまま用いることもできるが、目的とする用途に応じて適宜希釈して用いることもできる。
【0030】
本発明のフルボ酸含有水性液(原液)におけるフルボ酸の含有量は、腐植土の腐食の度合い、母生物の種類などにより異なるが、通常3mg/L〜8mg/L(吸光光度法)の範囲である。フルボ酸の含有率はpHに直接関係しており、低pHのものほどフルボ酸の含有率が多くなり、腐食が進化していると考えられる。これらの点から、フルボ酸の含有量は5mg/L〜8mg/Lであるのが好ましい。フルボ酸の定性分析、定量分析は、日本食品分析センター、千葉工業大学などの機関で可能である。
【0031】
飲用する場合は、希釈せずにそのまま飲むこともできるが、2〜500倍に希釈して飲むこともできる。本発明のフルボ酸含有水性液を飲用する場合には、さらに陽イオン交換樹脂に通して、アルミニウムイオンを除去するのが好ましい。このとき他の陽イオンも除去される。
【0032】
本発明のフルボ酸含有水性液を原液のまま、あるいは希釈して、たとえば以下に示すような用法で用いることができる。
【0033】
殺菌剤(抗菌剤)として用いる場合、たとえば、食堂などの入口の手洗場などに本発明のフルボ酸含有水性液を入れた手洗用石鹸タンクを設け、手洗を行なえば手指の殺菌を行なうことができる。また、エアゾール容器に本発明のフルボ酸含有水性液を噴射剤とともに充填してエアゾール製品の形態として、食器、調理器具、手指などに噴霧すれば殺菌を行なうことができる。生鮮食料品を調理前に洗浄殺菌することは食中毒の予防や衛生上有効であるし、食品の鮮度向上につながる。また適度に希釈した水溶液でうがいをすれば、口内炎、歯周病、インフルエンザ、風邪などに有効である。化粧品に用いれば、ニキビ、アトピー肌、肌荒れに効果がある。対象としうる菌としては、大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、レジオネラ菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ、その他種々のグラム陽性菌およびグラム陰性菌、真菌などがあげられる。
【0034】
ウイルス不活性化剤として用いる場合、たとえばヘルペスウイルス、インフルエンザウイルスに対する場合、原液〜2倍希釈のもので、うがいなどを行なえば感染防止につながるし、エイズウイルスなどは飲用や局所洗浄などを行なうことにより、感染防止や予防につながる。
【0035】
本発明の殺菌剤、ウイルス不活性剤などの薬剤は、フルボ酸含有水性液をフルボ酸に換算して3mg/L〜8mg/L含有するのが好ましく、より好ましくは5mg/L〜8mg/Lである。フルボ酸の含有量が前記範囲未満では、殺菌作用などが充分に奏されない傾向があり、一方前記範囲を超える含有量のものは得ることが困難である。
【0036】
本発明の薬剤は、フルボ酸含有水性液に加えて、グリセリン、1,3−ブチレングリコールなどの保湿剤、香料、エタノールなどの清涼剤などの通常の配合剤を添加してもよい。前記エアゾール製品に使用する噴射剤としては、炭酸ガス、炭化水素類、エーテル類、窒素ガスなどの1種または2種以上が挙げられる。
【0037】
抗酸化剤として用いる場合、たとえば食品類、飲料水、ドリンク剤へ酸化防止、腐敗防止などの目的で添加する場合、安全に商品寿命の延長を見込むことができる。また、化粧品分野で使用する場合には、配合基剤(とくに油性基剤)の酸化変敗防止が可能である。その他の工業用としては、錆の発生しやすい個所の洗浄および潤滑水として利用することができる。
【0038】
防腐食剤として用いる場合、食料品、飲料水、ドリンク剤に添加すると、酸化防止効果とともに防腐食効果が得られる。バクテリア、カビ、細菌類は低pH領域では生存が不可能であるため、それらの発生をくい止めることができる。化粧品に使用すると、天然防腐食剤として作用し、パラベンその他のかわりに使用することができる。
【0039】
さらに本発明のフルボ酸含有水性液は、そのほか以下にあげる種々の産業分野において用いることができる。
【0040】
化粧品産業において用いた場合は、たとえば、保湿効果を有する化粧品、ニキビ、吹き出物および炎症の抑制作用を有する化粧品、新陳代謝の活性化を目的とした化粧品、抗酸化力に優れた化粧品、それ自体を天然界面活性剤および(または)天然防腐食剤として利用した化粧品、無添加・無香料かつ無着色の化粧品、化粧品原材料が無毒化もしくは緩和された化粧品、皮膚刺激性のない化粧品、分泌物を調節することを目的としたデオドラント効果を有する化粧品またはエチケット商品、頭皮の老化防止作用を有するシャンプー、リンス、トリートメント、増毛剤もしくは育毛剤、天然ミネラル配合化粧品、低pHの弱酸性化粧品などを製造することができる。
【0041】
また、食品産業において用いた場合は、生鮮食品の殺菌、滅菌および鮮度保持、食品機器の洗浄、殺菌および滅菌、一般食品の酸化防止、抗酸化食品の無添加化、食品添加物の無害化と緩和、食品保存期間の延長、食品の変敗および変質の防止、微生物利用商品の効果の安定化と増進、製造工場内の殺菌および滅菌、商品への添加による味覚の向上などの効果が奏される。
【0042】
また医療分野において用いた場合は、院内感染の防止、器具の洗浄および消毒、口腔の洗浄、それに供う口臭の減少、入院患者の床ずれ予防および寝たきり患者の衛生管理、手指の消毒殺菌、膀胱洗浄、肛内洗浄、手術室や無菌室の洗浄、医療従事者の衣服、帽子および靴の殺菌などの効果が奏される。
【0043】
また一般家庭用として、室内の抗菌、殺菌を目的として、カーペット、カーテン、装飾品に使用することができ、安全無害のものであるため、吸入、皮膚障害の心配もなく、塩素系殺菌剤に比較して全く安心して使用できる。さらに子供用品や室内ペットの抗菌、殺菌も可能である。
【0044】
また水産業および養殖業において用いた場合は、水産物の鮮度保持および向上、肉質の向上、耐病性の向上、成長の促進、色艶の改良、微量栄養素の補給などの効果が奏される。畜産業では、肉質の向上、耐病性の向上、糞尿臭の低減などがみられる。
【0045】
そのほか、学校、幼稚園および保育所などの人の出入りの多い場所での感染予防に手洗い水、うがい水として、調理場の殺菌・滅菌処理水として、あるいは室内の殺菌、滅菌および浄化の目的で、貯水槽の水質保持、防腐食および殺菌の目的で、産業廃棄物処理の目的で、ヘドロ、ダイオキシンおよびPCB分解の目的で、用いることができる。
【0046】
前述したように、本発明のフルボ酸含有水性液は、希釈して食品産業、医療関連産業、化粧品産業、農業工業分野あるいは各家庭において用いることもできる。たとえば、10倍に希釈した場合、pHは3.65となるが、ウイルス以外の一般雑菌や食中毒の原因となるような菌のほとんどに効果を示すため、ウイルス以外への使用では原液(たとえばpH2.9)とほぼ同等の効果がある。また、100倍に希釈した場合、pHは4.35となるが、その場合では、滅菌効果においてはバラつきが発生し、有効範囲が狭くなるが、それでも黄色ブドウ球菌などは100%殺菌できることから使用目的に応じた希釈が望ましい。また、500倍に希釈した場合、pHは4.68となるが、この場合は、滅菌効果というより殺菌、消毒の目的で使用する方が望ましい。各家庭での使用や化粧品産業ではこの希釈倍率でも応用は広い。そのほか、たとえば10〜50倍に希釈したものを赤ちゃんの尻の清拭に用いれば、かぶれ防止、尻の消毒などを行なうことができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例をあげて本発明のフルボ酸を有効成分として含有する殺菌剤をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
製造例1
長崎県北高来郡森山町唐比西名の湿地帯から腐植土を採取した。採取した腐植土を約1年間コンクリート上で天日にあてて乾燥させた。ついで1.5ヵ月間ビニールハウス内でさらに乾燥させた。得られた腐植土を粉砕して、粒径約0.01〜0.5mmの粒子にした。
【0049】
得られた腐植土約140kgを1t槽(ポリエチレン製)に入れ(1t槽に入れたときの容量が約0.6m3)、精製水(pH6.5)700リットルを加えた。これを竹ベラを用いて約2時間常温で撹拌し、3週間静置して浮遊微粒子を沈降させたのち、pH2.7の上澄液をポンプで吸引して取り出した。取り出した上澄液の量は約600kgであった。
【0050】
得られた抽出液をバッグフィルターで予備濾過したのち、フィルター(孔径:0.2μm、商品名:フィルターカートリッジ0.2μm MCY4440NFPH4、日本ポール(株)製)で濾過し、pH2.85の抽出液を得た。得られた本発明のフルボ酸含有水性液は、固形分含量1重量%、フルボ酸含量7.4mg/Lであった。その性質を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
得られたフルボ酸含有水性液は、常温で長期間(6〜12ヵ月)保存してもほとんど変化はなかった。
【0053】
比較例1
特公昭62−3806号公報記載のフミン酸水溶液(原液)を常温で2〜3ヵ月間保存したところ、茶褐色に変色していた。このことから特公昭62−3806号公報記載のフミン酸水溶液は長期保存に適しておらず、本発明のフルボ酸含有水性液の方が保存性にすぐれていることがわかる。
【0054】
試験例1(抗菌・殺菌作用)
試験菌として大腸菌(Escherichia coli IFO 3972)および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus IFO 12732)を用いた。NA培地(標準寒天培地(栄研化学株式会社製))で35℃、16〜24時間培養した試験菌をNA培地に再度接種して35℃、16〜20時間培養した。この菌体を精製水に均一に分散させ、1mlあたりの菌数が約107となるようにした菌液を調製した。
【0055】
試験液として、製造例1で得られたフルボ酸含有水性液(原液)、該原液を精製水で100倍に希釈した溶液を用いた。
【0056】
前記試験液100mlに、前記菌液1mlを添加後、25℃で保存し、2時間、24時間および48時間後の生菌数をSA培地(標準寒天培地(栄研化学株式会社製))を用いた寒天平板培養法(35℃、2日間培養)により測定した。また、対照として、リン酸緩衝液に菌液を接種したものについても同様に試験した。結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
大腸菌、黄色ブドウ球菌のいずれにおいても、生菌数が24時間後では殆ど0に近く、48時間後では0であったことから、本フルボ酸含有水性液は、殺菌効果がすぐれることがわかる。
【0059】
試験例2(抗菌・殺菌作用)
試験菌として緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa IFO 13275)を用いた。NA培地(標準寒天培地(栄研化学株式会社製))で35℃、16〜24時間培養した試験菌をNA培地に再度接種して35℃、16〜20時間培養した。この菌体を精製水に均一に分散させ、1mlあたりの菌数が約107となるようにした菌液を調製した。
【0060】
試験液として、製造例1で得られたフルボ酸含有水性液(原液)、該原液を精製水で20倍に希釈した溶液を用いた。
【0061】
前記試験液100mlに、前記菌液1mlを添加後、25℃で保存し、2時間、6時間および24時間後の生菌数をSA培地(標準寒天培地(栄研化学株式会社製))を用いた寒天平板培養法(35℃、2日間培養)により測定した。また、対照として、リン酸緩衝液に菌液を接種したものについても同様に試験した。結果を表4に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
フルボ酸含有水性液の原液を用いた場合は、生菌数が2時間後で殆ど0に近く、殺菌効果があることがわかる。また、20倍希釈液の場合、24時間後でもゆるやかな殺菌を行っており、殺菌効果があることがわかる。
【0064】
試験例3(抗菌・殺菌作用)
試験菌としてサルモネラ菌(Salmonella enteritidis IFO 3313)を用いた。NA培地(標準寒天培地(栄研化学株式会社製))で35℃、16〜24時間培養した試験菌をNA培地に再度接種して35℃、16〜20時間培養した。この菌体を精製水に均一に分散させ、1mlあたりの菌数が約107となるようにした菌液を調製した。
【0065】
試験水として、製造例1で得られたフルボ酸含有水性液(原液)、該原液を精製水で20倍に希釈した溶液を用いた。
【0066】
前記試験液100mlに、前記菌液1mlを添加後、25℃で保存し、2時間、6時間および24時間後の生菌数をSA培地(標準寒天培地(栄研化学株式会社製))を用いた寒天平板培養法(35℃、2日間培養)により測定した。また、対照として、リン酸緩衝液に菌液を接種したものについても同様に試験した。結果を表5に示す。
【0067】
【表5】

【0068】
フルボ酸含有水性液の原液を用いた場合は、生菌数が24時間後で殆ど0に近く、殺菌効果があることがわかる。また、20倍希釈液の場合、24時間後でも生菌数は増えておらず、抗菌効果があることがわかる。
【0069】
試験例4(抗菌・殺菌作用)
試験菌としてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)(Staphylococcus aureus IID 1677)を用いた。NA培地(標準寒天培地(栄研化学株式会社製))で35℃、16〜24時間培養した試験菌をNA培地に再度接種して35℃、16〜20時間培養した。この菌体を精製水に均一に分散させ、1mlあたりの菌数が約107となるようにした菌液を調製した。
【0070】
試験液として、製造例1で得られたフルボ酸含有水性液(原液)、該原液を精製水で50倍、100倍に希釈した溶液を用いた。
【0071】
前記試験液100mlに、前記菌液1mlを添加後、25℃で保存し、2時間、24時間および48時間後の生菌数をSA培地(標準寒天培地(栄研化学株式会社製))を用いた寒天平板培養法(35℃、2日間培養)により測定した。また、対照として、リン酸緩衝液に菌液を接種したものについても同様に試験した。結果を表6に示す。
【0072】
【表6】

【0073】
フルボ酸含有水性液の原液を用いた場合は、生菌数が24時間後に0であり、MRSAに対して殺菌効果があることがわかる。また、50倍希釈液、100倍希釈液の場合、48時間後では生菌数が殆ど0に近く、殺菌効果があることがわかる。
【0074】
試験例5(抗菌・殺菌作用)
試験菌としてバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)(Enterococcus faecium NCTC 12204)を用いた。TSA培地(トリプトソイ寒天培地(栄研化学株式会社製))で35℃、16〜20時間培養した試験菌をTSA培地に再度接種して35℃、16〜20時間培養した。この菌体を滅菌精製水に均一に分散させ、1mlあたりの菌数が約107となるようにした菌液を調製した。
【0075】
試験液として、製造例1で得られたフルボ酸含有水性液(原液)、該原液を滅菌精製水で10倍、100倍に希釈した溶液にそれぞれウサギ血清(SIGMA CHEMICAL CO.)を3v/v%加えたものを用いた。
【0076】
前記試験液100mlに、前記菌液1mlを添加後、25℃で保存し、3時間、6時間、24時間および48時間後の生菌数をTSA培地を用いた寒天平板培養法(35℃、2日間培養)により測定した。また、対照として、滅菌精製水にウサギ血清(SIGMA CHEMICAL CO.)を3v/v%加えた後、菌液を接種したものについても同様に試験した。結果を表7に示す。
【0077】
【表7】

【0078】
フルボ酸含有水性液の原液を用いた場合は、生菌数が48時間後にほぼ0となり、VREに対して殺菌効果があることがわかる。また、50倍希釈液、100倍希釈液の場合、48時間後でも生菌数が増えず、抗菌効果があることがわかる。
【0079】
試験例6(マウスにおける急性毒性試験)
製造例1で得られたフルボ酸含有水性液について、OECD化学物質毒性試験指針(1987)に準拠し、マウスにおける急性経口毒性を調べた。
【0080】
4週齢のICR系雌雄マウス(日本エスエルシー株式会社)を購入し、約1週間予備飼育を行って一般状態に異常のないことを確認した後、試験に使用した。試験動物はポリカーボネート製ケージに各5匹収容し、室温23±2℃、照明時間12時間/日に設定した飼育室において飼育した。飼料(マウス、ラット用固型飼料:ラボMRストック、日本農産工業株式会社)および飲料水(水道水)は自由に摂取させた。
【0081】
試験群および対照群ともに雌雄それぞれ10匹を用いた。投与前に約4時間試験動物を絶食させた。体重を測定した後、試験群には雌雄ともに検体投与量として50ml/kgの用量を胃ゾンデを用いて強制単回経口投与した。対照群には雄は1.7ml、雌では1.4mlの精製水を同様に投与した。観察期間は14日間とした。投与後7および14日に体重を測定し、t−検定により有意水準5%で群間の比較を行った。体重測定の結果を表8(雄)、表9(雌)に示す。観察期間終了時に動物すべてを剖検した。
【0082】
【表8】

【0083】
【表9】

【0084】
試験の結果、死亡例に関しては、雌雄ともに観察期間中に死亡例は認められなかった。一般性状に関しては、雌雄ともに観察期間中に異常は認められなかった。投与後7および14日の体重測定では、雌雄ともに各群間で体重増加に差は見られなかった。観察期間終了時の剖検では、雌雄ともにすべての試験動物の主要臓器に異常は見られなかった。これらの結果から、本発明のフルボ酸含有水性液のマウスにおける単回経口投与によるLD50値は、雌雄ともに50ml/kg以上であるものと考えられる。
【0085】
試験例7(ウサギにおける眼刺激性試験)
製造例1で得られたフルボ酸含有水性液(検体)について、OECD化学物質毒性試験指針(1987)に準拠し、ウサギを用いた眼刺激性を調べた。
【0086】
日本白色種雄ウサギ(北山ラベス株式会社)を購入し、1週間以上の予備飼育を行って一般状態に異常のないことを確認した後、3匹を試験に使用した。試験動物はFRP製ケージに個別に収容し、室温22±2℃、照明時間12時間/日に設定した飼育室において飼育した。飼料はウサギ用固型飼料(CR−3、日本クレア株式会社)を制限給与し(120g/日)、飲料水は水道水を自由摂取させた。試験開始時の体重が3.27kg、3.49kg、3.54kgのウサギをそれぞれウサギNo.1、ウサギNo.2、ウサギNo.3とした。
【0087】
各試験動物の両眼の前眼部を試験開始当日に検査し、異常のないことを確かめた。体重測定後、各試験動物の片眼結膜嚢内に検体0.1mlを点眼し、約1秒間上下眼瞼を穏やかに合わせ保持した。他眼は無処置の対照とした。点眼後1、24、48および72時間に、スリットランプ(×10)(興和株式会社)を用いて角膜、虹彩、結膜などの観察を行い、Draize 法の基準に従って眼刺激性の程度を採点した。結果を表10(ウサギNo.1)、表11(ウサギNo.2)、表12(ウサギNo.3)に示す。
【0088】
【表10】

【0089】
【表11】

【0090】
【表12】

【0091】
検体0.1mlをウサギ3匹の片目に点眼した結果、試験眼では点眼後1時間に2例、24時間および48時間に1例、対照眼では24時間に1例で結膜の発赤が見られたが、72時間までに消失した。Draize 法に従って算出した観察期間中の平均合計評点の最高値は、試験眼では1.3(点眼後1時間)、対照眼では0.7(点眼後24時間)であった。これらの結果から、ウサギを用いた眼刺激性試験において、本発明のフルボ酸含有水性液は「無刺激物」の範疇にあるものと評価される。
【0092】
試験例8(ウサギにおける皮膚一次刺激性試験)
製造例1で得られたフルボ酸含有水性液(検体)について、OECD化学物質毒性試験指針(1981)に準拠し、ウサギにおける皮膚一次刺激性を調べた。
【0093】
日本白色種雄ウサギ(北山ラベス株式会社)を購入し、1週間以上の予備飼育を行って一般状態に異常のないことを確認した後、3匹を試験に使用した。試験動物はFRP製ケージに個別に収容し、室温22±2℃、照明時間12時間/日に設定した飼育室において飼育した。飼料はウサギ用固型飼料(CR−3、日本クレア株式会社)を制限給与し(120g/日)、飲料水は水道水を自由摂取させた。試験開始時の体重が2.87kg、3.12kg、3.15kgのウサギをそれぞれウサギNo.1、ウサギNo.2、ウサギNo.3とした。
【0094】
各々の試験動物の体幹背部被毛を試験の約24時間前に剪毛した。体重測定後、試験動物1匹につき、約6cm2の面積で4箇所を設定し、そのうち2箇所には真皮までは達しないように角化層にすり傷を付け(有傷皮膚)、他の2箇所を無処置(無傷皮膚)とした。約2cm×3cmに裁断したガーゼパッチに検体0.5mlを均一に塗布し、無傷および有傷皮膚の各1箇所ずつに貼付した後、絆創膏(日局)で固定した。また、パッチが皮膚と接触するように、さらにブレンダームサージカルテープ(スリーエムヘルスケア株式会社)で保持した。残りの無傷および有傷皮膚は対照とした。暴露時間は4時間とし、その後パッチを取り除き、暴露面を精製水で清拭した。除去後1時間、24時間、48時間および72時間に観察を行い、下記基準に従って刺激反応の採点を実施した。
【0095】
<紅斑および痂皮の形成>
紅斑なし 0
非常に軽度な紅斑(かろうじて識別できる) 1
はっきりした紅斑 2
中程度ないし高度紅斑 3
高度紅斑からわずかな痂皮の形成(深部損傷まで) 4*
(最高点4)
*出血、潰瘍および壊死は深部損傷として点数4に分類した。
【0096】
<浮腫の形成>
浮腫なし 0
非常に軽度な浮腫(かろうじて識別できる) 1
軽度浮腫(はっきりした膨隆による明確な縁が識別できる) 2
中程度浮腫(約1mmの膨隆) 3
高度浮腫(1mm異常の膨隆と曝露範囲を超えた広がり) 4*
(最高点4)
【0097】
また、Federal Register(1972)に準拠して、パッチ除去後1時間、24時間および48時間の採点値を合計して6で除し、さらに各試験動物の平均を算出して一時刺激性インデックス(P.I.I.)とし、Draize法の基準に基づき、検体の刺激性の評価を行った。結果を表13に示す。
【0098】
【表13】

【0099】
無傷皮膚では、各観察時間において刺激反応は見られなかった。一方、有傷皮膚ではパッチ除去後1時間に2例(ウサギNo.2、ウサギNo.3)で非常に軽度な紅斑(点数1)が見られたが(このうちウサギNo.2ではすり傷に局限)、24時間には消失した。残る1例では各観察時間において刺激反応は見られなかった。Federal Register(1972)に準拠して求めた一次刺激性インデックス(P.I.I.)は0.1となり、ウサギを用いた皮膚一次刺激性試験において、検体は「弱い刺激物」の範疇に入るものと評価される。
【0100】
試験例9(ヒトにおける皮膚一次刺激性試験)
製造例1で得られたフルボ酸含有水性液(検体)について、ヒトにおける皮膚一次刺激性を調べた。
【0101】
下記の条件に適合した18歳から74歳の男女54名(男17名、女37名)の被験者を選出した。54名の被験者全員が本試験を終了した。
【0102】
<被験者参入基準>
a.16歳以上の男女。
b.検体による反応と紛らわしい明らかな皮膚病のない人。
c.試験開始前の最低7日間、局所的または全身的ステロイド使用、抗ヒスタミン薬服用をしていない人。
d.カルテに完全に記入し、インフォームドコンセントを読み、理解した上で署名した人。
e.指示に従う能力があり、信頼できる人。
【0103】
<被験者除外基準>
a.健康上、問題のある人。
b.医師の診断を受けている人、あるいは試験の結果に影響を及ぼす可能性のある投薬を受けている人。
c.妊娠中または授乳中の女性。
d.化粧品その他のパーソナルケア製品に対して副作用が生じたことのある人。
【0104】
肩胛骨の間の上背部を被験部位として使用した。接触面を充分に覆う量の検体を透明粘着性包帯の3/4インチ×3/4インチの吸収パッド部分に塗布した。このパッチを閉塞性パッチとして被験部位に貼付した。検体を48時間皮膚に接触させた後、被験部位の変化を目視により下記基準に従って評点した。肉眼で観察可能な皮膚の変化が見られない場合は、0と評価した。72時間後に被験部位を再度評点した。
【0105】
<評点基準>
0: 反応なし
+: ごく僅かに識別できる、あるいは点状の紅斑反応
1: 被験部位のほとんどをカバーしている弱度の紅斑反応
2: 中程度の紅斑反応、弱度の浮腫反応
3: 明らかな紅斑反応、浮腫反応
4: 強度の紅斑反応、硬結、浸潤、浮腫
【0106】
その結果、全ての被験者について、所見は陰性(0=反応なし)であり、一次刺激性は認められなかった。
【0107】
実施例1(消毒液)
製造例1で得られたフルボ酸含有水性液をそのまま消毒用洗面器に入れ、食堂などの入り口におき、従業員が出入りするたびに手を消毒するようにした。
【0108】
実施例2(スプレー式消毒液)
エアゾール容器に製造例1で得られたフルボ酸含有水性液と窒素ガスを充填してエアゾール製品(スプレー式消毒液)を作製した。
【0109】
これを食堂などの入り口におき、従業員が出入りするたびにスプレーして手を消毒するようにした。
【0110】
実施例3(美容液の製造)
製造例1で得られたフルボ酸含有水性液を市販の美容液(商品名:レルマス、太陽製薬(株)製)に6重量%の割合で配合し、フルボ酸含有美容液を得た。この美容液を18〜30才の敏感肌、アトピー体質、アレルギー体質やニキビで化膿した肌に適用した場合、ニキビ肌、アレルギー肌、アトピー肌特有の顔の赤みが消え、かゆみがなくなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルボ酸を有効成分として含有する殺菌剤。
【請求項2】
フルボ酸の水性液の形態である請求項1記載の殺菌剤。
【請求項3】
フルボ酸の水性液が噴射剤とともにエアゾール容器に充填されたエアゾール製品の形態である請求項2記載の殺菌剤。

【公開番号】特開2008−7451(P2008−7451A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178341(P2006−178341)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(399110764)株式会社レイアンドカンパニー (1)
【Fターム(参考)】