説明

殺菌防カビ性多層塗膜およびその形成方法

【課題】基材との密着性および各層間の密着性に優れ、環境負荷が小さく、且つ長期間に亘って優れた殺菌防カビ作用を発揮し続ける殺菌防カビ性多層塗膜およびその形成方法を提供する。
【解決手段】基材上にイソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物を含有する下塗り塗料組成物を塗工し、次いで防カビ剤を含有する上塗り塗料組成物を塗工することによって、イソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物を含有する下塗り層と、該下塗り層と接してまたは中塗り層を介して形成された防カビ剤を含有する上塗り層とを含んでなる殺菌防カビ性多層塗膜を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌防カビ性多層塗膜およびその形成方法に関する。より詳細には、本発明は、プラスチック材、紙材、木材、繊維材、金属材、コンクリート材、その他の無機系材料などからなる基材上に形成され、基材との密着性および各層間の密着性に優れ、環境負荷が小さく、且つ長期間に亘って殺菌防カビ作用を発揮し続ける殺菌防カビ性多層塗膜およびその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以前から、殺菌剤および/または防カビ剤を含有する塗料が知られている。この塗料をプラスチック材、紙材、木材、繊維材、金属材、コンクリート材、その他の無機系材料などからなる基材の表面に塗ると、殺菌防カビ性が付与された塗膜が得られる。
【0003】
このような殺菌防カビ性を付与するための塗料として、例えば、特許文献1には、ヒバから抽出されたヒノキチオール含有の蒸留水を5.0%〜10.0%含む塗料組成物が示されている。この塗料を、例えば、下塗り、中塗りおよび上塗りからなる多層塗膜において、中塗りおよび上塗りに使用したり、下塗り、ベース塗り、模様塗りおよびトップコートからなる多層塗膜において、ベース塗りおよび模様塗りに使用したりすることができると、特許文献1は述べている。
【0004】
特許文献2には、アルテルナリアに対して活性であるピリチオン類から選ばれる少なくとも一つの化合物と、殺藻的に活性なトリアジン類から選ばれる少なくとも一つの化合物、および/または抗菌的に活性なベンズイミダゾール類またはチオフェン類から選ばれる少なくとも一つの化合物とを含有する保存剤を、塗料、ワニスおよび下塗り、または織物の仕上げ剤、シーラント、膠および接着剤に、抗菌性および殺藻性を付与するために使用することが示されている。
特許文献5には、イソチアゾロン、第四級アンモニウム化合物、および安定剤を含むコーティング組成物が開示されている。該コーティング組成物は、塗料や下塗り等に使用されることが示されている。
【0005】
特許文献3には、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンと、イマザリル又はその塩とを含有する殺菌剤組成物、および該組成物を含有する塗料が開示されている。この塗料によって形成される塗膜は、細菌、かび、酵母、藻等に対して優れた防除効果を発揮する。
【0006】
特許文献4には金属ピリチオン化合物、及びアミン系界面活性剤を含有する塗料用抗菌・防カビ組成物が開示されている。該殺菌剤組成物は、少ない薬量でも高い防腐・防かび効果を発揮する薬剤である。また当該殺菌剤組成物は、刺激性及び毒性が弱く、安定性に優れるので、人畜毒性等の問題がなく、安定剤等を特に添加しなくとも長期にわたって安定した防腐・防かび効果を発揮する薬剤である。そして、塗料に繁殖する細菌、かび、酵母、藻の防除効果を有する。
また、カルベンダジン(BCM)、チアベンダゾール(TBZ)、オクチルイソチアゾリン(OIT)などの防カビ剤が配合された上塗り塗料組成物が開発され、市販されている。
【0007】
しかしながら、上記文献に記載された塗料においては、(i)殺菌防カビ性塗膜を形成する前に、被塗装物(基材)表面を塩素剤やホルマリン剤などを用いて殺菌殺カビ処理(養生)する必要がある。これら養生剤は毒性や臭気があり、環境への悪影響が懸念されている。(ii)基材のカビ汚染が顕著な場合に、上記養生が適切に行われていないと、防カビ剤を含有する塗料組成物を用いて殺菌防カビ性塗膜を形成しても、基材面からのカビの繁茂を効果的に抑制できず、表面にカビが発生したり、塗膜が基材から剥離したり、塗膜各層間が剥離したりする場合があった。また、(iii)形成された塗膜は、流水、雨水などによって活性成分が流出するなどして、殺菌防カビ性が長期間持続しないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−126602号公報
【特許文献2】特表2001−510469号公報
【特許文献3】特開2008−19215号公報
【特許文献4】特開2008−137913号公報
【特許文献5】特開2007−84823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、基材との密着性および塗膜各層間の密着性に優れ、塩素剤やホルマリン剤を用いなくても簡便かつ安全に下地の養生を行うことが可能で環境負荷が小さく、しかも、長期間に亘って優れた殺菌防カビ作用を発揮し続ける殺菌防カビ性多層塗膜およびその形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、基材上にイソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物を含有する下塗り塗料組成物を塗工し、次いで防カビ剤を含有する上塗り塗料組成物を塗工することによって得られる、イソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物を含有する下塗り層と、該下塗り層と接してまたは中塗り層を介して形成された防カビ剤を含有する上塗り層とを含んでなる殺菌防カビ性多層塗膜が、基材との密着性および各層間の密着性に優れ、環境負荷が小さく、且つ長期間に亘って殺菌防カビ作用を発揮し続けることを見出した。
本発明は、この知見に基づきさらに検討することによって完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は以下のものである。
(1) イソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物を含有する下塗り層と、該下塗り層と接してまたは中塗り層を介して形成された防カビ剤を含有する上塗り層とを含んでなる殺菌防カビ性多層塗膜。
(2) 前記下塗り層はアニオン性樹脂をさらに含有する前記(1)に記載の殺菌防カビ性多層塗膜。
(3) 前記上塗り層に含まれる防カビ剤が、イソチアゾリン系化合物、ニトロアルコール系化合物、ニトリル系化合物、ジチオール系化合物、フェノール系化合物、フェニルウレア系化合物、カーバメート系化合物、スルファミド系化合物、フタルイミド系化合物、ピリジン系化合物、ピリチオン系化合物、トリアジン系化合物、グアニジン系化合物、トリアゾール系化合物、チアゾール系化合物、およびベンズイミダゾール系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のものである、前記(1)または(2)に記載の殺菌防カビ性多層塗膜。
(4) 前記上塗り層に含まれる防カビ剤が、イソチアゾリン系化合物および/またはベンズイミダゾール系化合物である、前記(1)または(2)に記載の殺菌防カビ性多層塗膜。
【0012】
(5) 基材上にイソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物を含有する下塗り塗料組成物を塗工することによって下塗り層を形成する工程と、該下塗り層の上にまたは下塗り層の上に形成された中塗り層の上に防カビ剤を含有する上塗り塗料組成物を塗工することによって上塗り層を形成する工程とを有する殺菌防カビ性多層塗膜の形成方法。
(6) 前記下塗り塗料組成物はアニオン性樹脂をさらに含有する前記(5)に記載の殺菌防カビ性多層塗膜の形成方法。
(7) 前記上塗り塗料組成物に含まれる防カビ剤が、イソチアゾリン系化合物、ニトロアルコール系化合物、ニトリル系化合物、ジチオール系化合物、フェノール系化合物、フェニルウレア系化合物、カーバメート系化合物、スルファミド系化合物、フタルイミド系化合物、ピリジン系化合物、ピリチオン系化合物、トリアジン系化合物、グアニジン系化合物、トリアゾール系化合物、チアゾール系化合物、およびベンズイミダゾール系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のものである前記(5)または(6)に記載の殺菌防カビ性多層塗膜の形成方法。
(8) 前記上塗り塗料組成物に含まれる防カビ剤が、イソチアゾリン系化合物および/またはベンズイミダゾール系化合物である、前記(5)または(6)に記載の殺菌防カビ性多層塗膜の形成方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の殺菌防カビ性多層塗膜は、プラスチック材、紙材、木材、繊維材、金属材、コンクリート材、その他の無機系材料などからなる基材との密着性に優れ、且つ、塗膜の各層間の密着性にも優れているので、長期間剥離せずに基材の保護ができる。
本発明の殺菌防カビ性多層塗膜を用いると、基材に塩素剤やホルマリン剤といった有害な薬品を使用するような養生を行う必要が無くなる。このことから、本発明の殺菌防カビ性多層塗膜を用いると、簡便かつ安全に防カビ塗装ができ、また塗工期間の短縮化に寄与する。しかも、本発明の殺菌防カビ性多層塗膜は、長期間に亘って優れた殺菌防カビ作用を発揮し続ける。
【0014】
このような特長を有する本発明の殺菌防カビ性多層塗膜は、病院、学校、養護施設、保育所、幼稚園、一般住宅、食品工場、薬品工場、倉庫などの内装(例えば、浴室、トイレ、台所などの湿気の多い部屋の壁、天井、床など)用に好適である。
本発明の殺菌防カビ性多層塗膜は、基材上にイソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物を含有する下塗り塗料組成物を塗工することによって下塗り層を形成する工程と、該下塗り層の上にまたは下塗り層の上に形成された中塗り層の上に防カビ剤を含有する上塗り塗料組成物を塗工することによって上塗り層を形成する工程とを含む方法によって容易に形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
[殺菌防カビ性多層塗膜]
本発明の殺菌防カビ性多層塗膜は、イソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物を含有する下塗り層と、該下塗り層と接してまたは中塗り層を介して形成された防カビ剤を含有する上塗り層とを含んでなるものである。
【0016】
(下塗り層およびその形成方法)
本発明の殺菌防カビ性多層塗膜の下塗り層は、イソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物(これらを総称して活性成分Aということがある。)を含有するものである。イソチアゾリン系化合物およびピリチオン系化合物は防カビ剤の一種である。
【0017】
イソチアゾリン系化合物としては、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(BIT)、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(MIT)、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(Cl−MIT)、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(OIT)、2−メチル−4,5−トリメチレン−4−イソチアゾリン−3−オン(MTI)、N−n−ブチル−1,2−ベンツイソチアゾリン−3−オン(Bu−BIT)などが挙げられる。これらのイソチアゾリン系化合物は、1種単独でもしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。イソチアゾリン系化合物の中では、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(OIT)が好ましい。
【0018】
ピリチオン系化合物としては、ジンクピリチオン(ZPT)、ピリチオンナトリウム、ピリチオン銅などが挙げられる。これらのピリチオン系化合物は、1種単独でもしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。ピリチオン系化合物の中では、ピリチオンナトリウムが好ましい。
【0019】
下塗り層における活性成分Aの含有量は、通常0.1〜50重量%、好ましくは0.3〜30重量%である。活性成分Aの含有量が少なすぎると、その効力が十分に発揮されない傾向がある。活性成分Aの含有量が多すぎると、活性成分Aの添加効果が飽和する上に、製膜が難しくなり、膜の耐久性が損なわれる傾向がある。
【0020】
下塗り層には、さらにアニオン性樹脂が含まれていることが好ましい。
アニオン性樹脂は、分子内にアニオン残基を有する樹脂である。アニオン残基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。アニオン残基は、塩基で中和することにより負に荷電する性質(アニオン性)と、親水性とを樹脂に付与する。アニオン性樹脂の本体部分(アニオン残基以外の部分)は、特に制限されず、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、などが挙げられる。
アニオン性樹脂として、例えば、塗膜の耐候性、平滑性に優れる点から、カルボキシル基を有するアクリル樹脂またはカルボキシル基を有するポリウレタン樹脂、カルボキシル基および水酸基を有するアクリル樹脂またはカルボキシル基および水酸基を有するポリウレタン樹脂が挙げられる。
【0021】
アニオン性樹脂を含有する下塗り塗料として、例えば、水性シーラーエコタイプ(アトムサポート社製)、水性カベ塗料用下塗り剤(アサヒペン社製)などが市販されており、それらを後述する下塗り塗料組成物の調製のために用いてもよい。
下塗り層におけるアニオン性樹脂の含有量は、通常1〜30重量%、好ましくは2〜20重量%である。アニオン性樹脂の含有量が少なすぎると塗膜の強度が不足しがちである。逆にアニオン性樹脂の含有量が多すぎると塗工時の作業性が悪化する傾向がある。
【0022】
下塗り層には、上記以外に、必要に応じて、溶剤、防腐剤、防藻剤、顔料、染料、顔料分散剤、可塑剤、乾燥促進剤、界面活性剤、消泡剤、皮張り防止剤、低温造膜剤、造膜助剤、増粘剤、レベリング剤、分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、硬化剤、硬化助剤、凍結防止剤、などが含有していても良い。
【0023】
顔料または染料としては、二酸化チタン、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、オーカー、酸化亜鉛、クロム酸亜鉛、クロム酸鉛、金属亜鉛末、アルミニウム粉、群青、紺青、ベンガラ、水酸化アルミニウム、ジルコニア、サチンホワイト、カーボンブラック、グラファイト、硫酸バリウムなどの無機顔料;アゾ系顔料、アゾ系分散染料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系分散染料などの有機染顔料が挙げられる。
顔料分散剤としては、ベントナイト、金属石けん(アルカリ金属以外の脂肪酸金属塩、たとえばステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノレン酸、亜麻仁油脂肪酸、トール油脂肪酸、オクチル酸等の脂肪酸と、Li、Mg、Ca、Ba、Co、Cu、Mn、Pb、Sn、Zn、Zr、Al、Fe、Cr、Ce、Mo、Ni等の金属との組み合わせ)、水添ひまし油ワックス、ジベンジリデンソルビトール等が挙げられる。
【0024】
凍結防止剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール等;消泡剤としてはシリコーン系、鉱物油、高級アルコール(2−エチルヘキサノール、セチルアルコール等)、ソルビタンラウリン酸モノエステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、プルロニック型非イオン界面活性剤、ポリプロピレングリコール、アセチレングリコール、トリブチルホスフェート等が挙げられる。
造膜助剤としては、金属(コバルト、マンガン、カルシウム等)、金属硫酸化物(硫酸コバルト、硫酸マンガン等)、ナフテン酸、オレイン酸、2−エチルヘキサン酸等が挙げられる。
皮張防止剤としてはメチルエチルケトオキシム、ブチルアルドオキシム、シクロヘキサノンオキシム、フェノール化合物[2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)、カテコール、グアイアコール等]、ジペンテン等が挙げられる。
【0025】
難燃剤としては、リン酸エステル系難燃剤[トリクレジルホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート等]、臭素系難燃剤(デカブロモビフェニルエーテル等)、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸塩系難燃剤(ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム等)、水酸化アルミニウム、赤リン、水酸化マグネシウム、ポリリン酸アンモニウム、ヘット酸、テトラブロモビスフェノールA等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤[2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等];硫黄系酸化防止剤[ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート(DLTDP)、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート(DSTDP)等];リン系酸化防止剤[トリフェニルホスファイト(TPP)、トリイソデシルホスファイト(TDP)等];アミン系酸化防止剤[オクチル化ジフェニルアミン、N−n−ブチル−p−アミノフェノール、N,N−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン等]等が挙げられる。
【0026】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン等)、サリチレート系紫外線吸収剤(フェニルサリチレート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等)、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤[(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等]、アクリル系紫外線吸収剤[エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、メチル−2−カルボメトキシ−3−(パラメトキシベンジル)アクリレート等]等が挙げられる。
【0027】
下塗り層の厚さは、通常、0.1μm〜1cm、好ましくは1μm〜5mmである。
【0028】
下塗り層は、基材上にイソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物を含有する下塗り塗料組成物を塗工することによって形成できる。
【0029】
基材は、その表面に殺菌防カビ性を付与する必要があるものであれば、特に限定されない。例えば、アルミニウム、亜鉛メッキ、鉄、ステンレスなどからなる金属製基材や各種合金製基材;木材、石膏ボード、ゴム材、プラスチック材、紙、布、繊維材、コンクリート材、モルタル材、レンガ、タイルなどからなる基材が挙げられる。基材は、塩素剤やホルマリン剤を用いた養生がなされたものであっても、該養生がなされていないものであってもよい。環境負荷の低減の観点から、当該養生がなされていないものが好ましい。塩素剤やホルマリン剤を用いた養生がなされていない基材であっても、本発明の殺菌防カビ性多層塗膜を適用すれば、長期間に亘って優れた殺菌防カビ作用を発揮し続けることができる。
【0030】
下塗り塗料組成物は、イソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物を含有し、好ましくはアニオン性樹脂をさらに含有する塗料組成物である。該下塗り塗料組成物には、上述した、活性成分Aおよびアニオン性樹脂以外の下塗り層に含有させることができる成分を含有していてもよい。
下塗り塗料組成物は、塗工作業の容易さや基材への浸透性等の観点から、下塗り塗料組成物中の固形分または不揮発成分の含有量が、3〜30重量%であることが好ましい。固形分または不揮発成分の含有量が少なすぎると塗膜の強度が不足しやすい。固形分または不揮発成分の含有量が多すぎると、塗工時の作業性が低下するおそれがある。下塗り塗料組成物は、その粘度が、好ましくは10〜200mPa・s、より好ましくは10〜100mPa・sである。粘度は公知の粘度計を用いて測定することができる。
【0031】
下塗り塗料組成物は、その調製方法によって、制限されない。例えば、公知のアニオン性樹脂を含有する下塗り塗料に所定量の活性成分Aを添加し、混合することによって調製することができ、また、活性成分A、アニオン性樹脂および他の成分を順にまたは同時に溶剤に添加し混合することによって、若しくは活性成分A、アニオン性樹脂および他の成分をそれぞれ別々に溶剤に溶解または分散させ、次いで得られた溶液および分散液を混合することによって、調製することができる。下塗り塗料組成物の調製においては、溶剤に各成分が均一に溶解または分散されるように、十分に攪拌することが好ましい。下塗り塗料組成物に使用される溶剤としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、グリコール、ブチルアルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;エタノールアミン、メタノールアミンなどのアミノアルコール類;灯油、トルエン、テレピン油、ジペンテンなどの炭化水素類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸オクチル、酢酸シクロヘキサンなどのエステル類;等が挙げられる。また、下塗り塗料組成物に使用されるアニオン性樹脂は、エマルジョンやディスパージョンとなったものが好適である。
【0032】
下塗り塗料組成物を塗工する方法は、特に制限されず、例えば、刷毛塗り、ローラー塗り、スプレー塗布、ディップ塗布、静電塗装(電着塗装)などが挙げられる。下塗り塗料組成物の塗布量は基材の種類や目的によって異なるが、通常、ウェットな状態で10〜500g/m2程度である。
塗工後、必要に応じて、下塗り塗料組成物の塗布膜を乾燥(場合によっては、硬化・乾燥)することができる。乾燥は、基材の種類、塗膜の目的等に応じてその条件が異なるが、通常は0〜250℃で1分間〜1日間、好ましくは常温(20℃)〜45℃で10分間〜12時間で行う。
【0033】
(上塗り層およびその形成方法)
本発明の殺菌防カビ性多層塗膜の上塗り層は、防カビ剤を含有するものである。
上塗り層に含有される防カビ剤は、特に限定されない。例えば、イソチアゾリン系化合物、ニトロアルコール系化合物、ニトリル系化合物、ジチオール系化合物、フェノール系化合物、フェニルウレア系化合物、カーバメート系化合物、スルファミド系化合物、フタルイミド系化合物、ピリジン系化合物、ピリチオン系化合物、トリアジン系化合物、グアニジン系化合物、トリアゾール系化合物、チアゾール系化合物、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
イソチアゾリン系化合物およびピリチオン系化合物としては、下塗り層に含有させる成分として上記に挙げたものが挙げられる。
【0034】
ニトロアルコール系化合物としては、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール(DBNE)、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール(BNPD)、2−ヒドロキシメチル−2−ニトロ−1,3−プロパンジオールなどが挙げられる。
ニトリル系化合物としては、テトラクロロイソフタロニトリル、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリルなどが挙げられる。
ジチオール系化合物としては、4,5−ジクロロ−1,2−ジチオール−3−オン、4,5−ジブロモ−1,2−ジチオール−3−オンなどが挙げられる。
フェノール系化合物としては、o−フェニル−フェノール、p−クロロメタキシレノールなどが挙げられる。
フェニルウレア系化合物としては、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレアなどが挙げられる。
【0035】
カーバメート系化合物としては、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート(IPBC)、ジンクジメチルジチオカーバメート、マンガン−2−エチレンビスジチオカーバメートなどが挙げられる。
スルファミド系化合物としては、N−ジメチルアミノスルホニル−N−トリル−ジクロロフルオロメタンスルファミド(Tolylfluanide)、N−ジメチルアミノスルホニル−N−フェニル−ジクロロフルオロメタンスルファミド(Dichlofluanide)などが挙げられる。
フタルイミド系化合物としては、N−1,1,2,2−テトラクロロエチルチオ−テトラヒドロフタルイミド(Captafol)、N−トリクロロメチルチオ−テトラヒドロフタルイミド(Captan)、N−ジクロロフルオロメチルチオフタルイミド(Fluorfolpet)、N−トリクロロメチルチオフタルイミド(Folpet)などが挙げられる。
【0036】
ピリジン系化合物としては、2−ピリジンチオール−1−オキシドの塩(亜鉛塩、ナトリウム塩、銅塩など)、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジンなどが挙げられる。
トリアジン系化合物としては、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−s−トリアジンなどが挙げられる。
グアニジン系化合物としては、ドデシルグアニジンハイドロクロライド、ドデシルグアニジンハイドロブロマイド、デシルグアニジンハイドロクロライド、1,1’−ヘキサメチレンビス[5−(4−クロロフェニル)ビグアニド]ジハイドロクロライドなどが挙げられる。
【0037】
トリアゾール系化合物としては、α−[2−(4−クロロフェニル)エチル]−α−(1,1−ジメチルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール(テブコナゾール)、1−[[2−(2,4−ジクロロフェニル)−4−n−プロピル−1,3−ジオキソラン−2−イル]メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール(プロピコナゾール)、1−[[2−(2,4−ジクロロフェニル)−1,3−ジオキソラン−2−イル]メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール(アザコナゾール)、α−(4−クロロフェニル)−α−(1−シクロプロピルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール(シプロコナゾール)などが挙げられる。
チアゾール系化合物としては、2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾールなどが挙げられる。
ベンズイミダゾール系化合物としては、メチル−2−ベンズイミダゾールカーバメート(MBC)、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾールなどが挙げられる。
【0038】
これらの中でも、多種類のカビに対して優れた防カビ性を有し安価であるという観点から、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(OIT)などのイソチアゾリン系化合物、メチル−2−ベンズイミダゾールカーバメート(MBC)などのベンズイミダゾール系化合物が好ましい。
【0039】
上塗り層における防カビ剤の含有量は、通常0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%である。防カビ剤の含有量が少なすぎるとその効力が不足し、逆に防カビ剤の含有量が多すぎると防カビ剤を添加する効果が飽和する上に製膜性が低下し、膜としての耐久性が損なわれるおそれがある。
【0040】
上塗り層には、防カビ剤以外に、必要に応じて、溶剤、防腐剤、防藻剤、顔料、染料、顔料分散剤、可塑剤、乾燥促進剤、界面活性剤、消泡剤、皮張り防止剤、低温造膜剤、造膜助剤、増粘剤、レベリング剤、分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、硬化剤、硬化助剤、凍結防止剤、などが含有されていても良い。
【0041】
上塗り層は本発明の殺菌防カビ性多層塗膜の最外層となる場合が多いので、上塗り層の強度や表面平滑性などの観点から、上塗り層にその目的に適した様々な樹脂やエラストマーを含ませることができる。
上塗り層に含有させることができる樹脂としては、フェノール樹脂;アルキド樹脂などのフタル酸樹脂;マレイン酸樹脂;尿素樹脂塗料;メラミン樹脂;酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂などのビニル樹脂;エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フラン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ニトロセルロース樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。上塗り層に含有させることができるエラストマーとしては、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、スチレンイソプレンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴムなどが挙げられる。
【0042】
上塗り層の厚さは、通常0.1μm〜1cm、好ましくは1μm〜5mmである。
【0043】
上塗り層は、前記下塗り層の上にまたは下塗り層の上に形成された中塗り層の上に防カビ剤を含有する上塗り塗料組成物を塗工することによって形成できる。
【0044】
中塗り層は、下塗り層と上塗り層との中間にあって、両者に対して付着性を持つ層である。中塗り層は、多層塗膜の耐久性を向上させる目的、下塗り層の表面平滑性の不足を補う目的などのために用いられる。中塗り層に含有される成分は目的に応じて適宜選択され特に限定されない。中塗り層は、中塗り塗料組成物を下塗り層の上に塗工することによって形成できる。中塗り層の厚さは、通常0.1μm〜1cm、好ましくは1μm〜5mmである。また、表面平滑性を向上させるために、中塗り塗料組成物を厚めに塗布し、該塗膜(中塗り層)を研磨することもできる。中塗り層は1層だけ設けてもよいし、2層以上設けてもよい。2層以上設けるときには、該中塗り層に含まれる成分が、同じであっても、異なっていてもよい。
【0045】
上塗り塗料組成物は、防カビ剤を含有する塗料組成物である。該上塗り塗料組成物には、上述した、防カビ剤以外の上塗り層に含有させることができる成分を含有していてもよい。
【0046】
上塗り塗料組成物は、塗膜の強度、塗工作業の容易さなどの観点から、その固形分または不揮発成分の含有量が、5〜50重量%であることが好ましい。固形分または不揮発成分の含有量が少なすぎると塗膜の強度が不足しやすい。固形分または不揮発成分の含有量が多すぎると塗工時の作業性が低下傾向になる。上塗り塗料組成物は、その粘度が、好ましくは10〜200mPa・s、より好ましくは10〜100mPa・sである。粘度は公知の粘度計を用いて測定することができる。
【0047】
上塗り塗料組成物は、その調製方法によって、制限されない。例えば、公知のベース塗料に防カビ剤を添加することにより調製することができる。
ベース塗料としては、例えば、油性塗料、酒精塗料、NAD塗料、電着塗料、粉体塗料、セルロース塗料、合成樹脂塗料、水性塗料、漆系塗料、ゴム系塗料などが挙げられる。これらの中で、合成樹脂塗料、水性塗料が好ましい。
【0048】
合成樹脂塗料としては、フェノール樹脂塗料、フタル酸樹脂塗料(例えば、アルキド樹脂塗料など)、マレイン酸樹脂塗料、尿素樹脂塗料、メラミン樹脂塗料、ビニル樹脂塗料(例えば、酢酸ビニル樹脂塗料、塩化ビニル樹脂塗料、スチレン樹脂塗料、アクリル酸樹脂塗料、ポリビニルブチラール樹脂塗料など)、エポキシ樹脂塗料、シリコーン樹脂塗料、フラン樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、ニトロセルロース樹脂塗料、アミノ樹脂塗料、フッ素樹脂塗料などが挙げられる。
【0049】
水性塗料としては、水性ペイント、エマルション油ペイント、乳化重合塗料(例えば、酢酸ビニル樹脂乳化重合塗料、塩化ビニリデン塩化ビニル共重合体乳化重合塗料、アクリル酸樹脂乳化重合塗料、スチレン樹脂乳化重合塗料、合成ゴムラテックス塗料など)などが挙げられる。
【0050】
また、上塗り塗料組成物は、市販の防カビ剤入り上塗り塗料であってもよい。例えば、「浴室・かべ用スプレーA(カンペハピオ社)」、「抗菌かべ・浴室用(カンペハピオ社)」などが挙げられる。
【0051】
上塗り塗料組成物を塗工する方法は、特に制限されず、例えば、刷毛塗り、ローラー塗り、スプレー塗布、ディップ塗布、静電塗装(電着塗装)などが挙げられる。上塗り塗料組成物の塗布量は基材の種類や目的によって異なるが、通常、ウェットな状態で10〜500g/m2程度である。
塗工後、必要に応じて、上塗り塗料組成物の塗布膜を乾燥(場合によっては、硬化・乾燥)することができる。乾燥は、基材の種類、塗膜の目的等に応じてその条件が異なるが、通常は0〜250℃で1分間〜1日間、好ましくは常温(20℃)〜45℃で10分間〜12時間で行う。
【0052】
本発明の殺菌防カビ性多層塗膜は、下塗り層、上塗り層、および必要に応じて設けられる中塗り層以外に、下塗り層の下(すなわち、基材と下塗り層の間)に、または上塗り層の上に、さらに別の層を有していてもよい。
【0053】
本発明の殺菌防カビ性多層塗膜は、活性成分Aを含有する下塗り層と、防カビ剤を含有する上塗り層とを有するものである。この構成によって、耐水性に優れ、かつ長期に亘って優れた殺菌防カビ性を発揮するようになる。
【0054】
本発明の殺菌防カビ性多層塗膜は、建築物全般の塗装(特に医療関係建築物、食品関係建築物および一般建築物の塗装)、建築資材の塗装、自動車の一般塗装、電着塗装および補修用塗装、船舶の耐水塗装、金属、木工およびプラスチック製品の塗装、さらに繊維および紙のコーティングなどに適用することができる。
【0055】
本発明の殺菌防カビ性多層塗膜を用いると、基材に塩素剤やホルマリン剤といった有害な薬品を使用するような養生を行う必要が無くなる。このことから、本発明の殺菌防カビ性多層塗膜を用いると、簡便かつ安全に防カビ塗装ができ、また塗工期間の短縮化も可能である。本発明の殺菌防カビ性多層塗膜は、有害薬品による養生が不要なので、病院、学校、養護施設、保育所、幼稚園、一般住宅、食品工場、薬品工場、倉庫などの内装(浴室、トイレの壁、台所の壁、天井、床など)用の塗装に有効である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら制限されるものではない。
【0057】
〔実施例1〕
Aspergillus niger NBRC 6342、Penicillium pinophilum(旧名Penicillium funiculosum) NBRC 6345、Cladosporium cladosporioides NBRC 6348、Aureobasidium pullulans NBRC 6352、Gliocladium virens NBRC 6355、およびRhizopus oryzae ATCC 10404からなる6菌株の胞子懸濁液を定法に従って調製した。
50mm×50mmに裁断した濾紙(型番26、ADVANTEC社製)をアルミ箔で包みオートクレーブ滅菌した。これを、滅菌シャーレに固化されたPDA(potato dextrose agar)培地(「パールコア ポテトデキストロース寒天培地‘栄研’」栄研化学(株)社製)上に置いた。
一般工業製品の防黴試験(JIS−Z−2911 2000年版 かび抵抗性試験方法)の塗料の試験に準じて、前記の胞子懸濁液を培地に接種し、27±1℃の恒温槽に2週間放置することによって前培養を実施した。十分な菌叢の生育および色素産生が見られた濾紙をシャーレから取り出した。金属ヘラを用いて付着した培地と余剰な菌叢を除去した。常温で4時間風乾したものをカビ汚染壁面に見立てた基材サンプルとした。
【0058】
アニオン系シーラー(「水性シーラー エコタイプ 下塗り剤」アトムハウスペイント社製)99.75重量部に対して殺菌剤(「バイオカットTR120(有効成分 2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンを20(w/w)%含有)」日本曹達社製)0.25重量部を添加してよく攪拌混溶して殺菌剤含有アニオン系シーラー(下塗り塗料組成物)を得た。
防カビ剤を含まないアクリルエマルション塗料(「水系 外壁用」防カビ剤抜き、恒和化学社製)100重量部に対して防カビ剤(「バイオカットBM10(有効成分 2−メトキシカルボニルアミノベンツイミダゾールを10(w/w)%含有)」日本曹達社製)0.1重量部を添加しよく混合して、塗料(上塗り塗料組成物)を得た。
【0059】
該下塗り塗料組成物を上記基材サンプルに150g/m2になるように塗布し、常温で2時間風乾し、下塗り層を形成した。得られた下塗り層の上に、前記上塗り塗料組成物を200g/m2になるように塗布し、常温で2時間風乾して、培養試験用多層塗膜を得た。
【0060】
滅菌シャーレに固化されたPDA培地の上に培養試験用多層塗膜を置き、上記胞子懸濁液を培地に接種し、27±1℃の恒温槽に1週間放置することによって培養を実施した。本発明に従って得られた培養試験用多層塗膜は、その表面にカビの発育は見られず、防カビ効果を発揮していた。
【0061】
〔実施例2〜4〕
下塗り塗料組成物および上塗り塗料組成物に含有させる薬剤を、表1に記載の処方に変えた以外は実施例1と同じ方法で、培養試験用多層塗膜(実施例2〜4)を得た。実施例1と同様にして防カビ効果を調べた。
【0062】
〔比較例1〜12〕
下塗り塗料組成物および上塗り塗料組成物に含有させる薬剤を、表1に記載の処方に変えた以外は実施例1と同じ方法で、培養試験用多層塗膜(比較例1〜12)を得た。実施例1と同様にして防カビ効果を調べた。塗装膜面にカビが発育し、防カビ効果はみられなかった。
なお、表1中のNAPT40は「ソディウム オマジン 40%」〔有効成分 ナトリウムピリチオン 40(w/w)%含有(アーチ・ケミカルズ・ジャパン社製)〕である。
【0063】
【表1】

凡例 : 「×」……カビ発生、「○」……カビ発生なし
【0064】
以上の結果から、イソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物を含有する下塗り層と防カビ剤を含有しない上塗り層とを合わせた多層塗膜(比較例2〜7)、およびイソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物を含有しない下塗り層と防カビ剤を含有する上塗り層とを合わせた多層塗膜(比較例8〜12)では、塩素剤やホルマリン剤を用いた養生を行わないと、防カビ効果が不十分で、カビ発生によって層間剥離が生じることがわかる。また、上塗り層に複数種の防カビを含有させ、防カビ効果の向上を狙ったが、塩素剤やホルマリン剤を用いた養生を行わないと、防カビ効果が不十分で、カビ発生によって層間剥離が生じることがわかる(比較例9〜12)。
一方、本発明に従って、イソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物を含有する下塗り層と防カビ剤を含有する上塗り層とを合わせた多層塗膜では、塩素剤やホルマリン剤を用いた養生を行わなくても、防カビ効果が高いことが判る(実施例)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物を含有する下塗り層と、該下塗り層と接してまたは中塗り層を介して形成された防カビ剤を含有する上塗り層とを含んでなる殺菌防カビ性多層塗膜。
【請求項2】
前記下塗り層はアニオン性樹脂をさらに含有する請求項1に記載の殺菌防カビ性多層塗膜。
【請求項3】
前記上塗り層に含まれる防カビ剤が、イソチアゾリン系化合物、ニトロアルコール系化合物、ニトリル系化合物、ジチオール系化合物、フェノール系化合物、フェニルウレア系化合物、カーバメート系化合物、スルファミド系化合物、フタルイミド系化合物、ピリジン系化合物、ピリチオン系化合物、トリアジン系化合物、グアニジン系化合物、トリアゾール系化合物、チアゾール系化合物、およびベンズイミダゾール系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のものである、請求項1または2に記載の殺菌防カビ性多層塗膜。
【請求項4】
前記上塗り層に含まれる防カビ剤が、イソチアゾリン系化合物および/またはベンズイミダゾール系化合物である、請求項1または2に記載の殺菌防カビ性多層塗膜。
【請求項5】
基材上にイソチアゾリン系化合物および/またはピリチオン系化合物を含有する下塗り塗料組成物を塗工することによって下塗り層を形成する工程と、該下塗り層の上にまたは下塗り層の上に形成された中塗り層の上に防カビ剤を含有する上塗り塗料組成物を塗工することによって上塗り層を形成する工程とを有する殺菌防カビ性多層塗膜の形成方法。
【請求項6】
前記下塗り塗料組成物はアニオン性樹脂をさらに含有する請求項5に記載の殺菌防カビ性多層塗膜の形成方法。
【請求項7】
前記上塗り塗料組成物に含まれる防カビ剤が、イソチアゾリン系化合物、ニトロアルコール系化合物、ニトリル系化合物、ジチオール系化合物、フェノール系化合物、フェニルウレア系化合物、カーバメート系化合物、スルファミド系化合物、フタルイミド系化合物、ピリジン系化合物、ピリチオン系化合物、トリアジン系化合物、グアニジン系化合物、トリアゾール系化合物、チアゾール系化合物、およびベンズイミダゾール系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のものである請求項5または6に記載の殺菌防カビ性多層塗膜の形成方法。
【請求項8】
前記上塗り塗料組成物に含まれる防カビ剤が、イソチアゾリン系化合物および/またはベンズイミダゾール系化合物である、請求項5または6に記載の殺菌防カビ性多層塗膜の形成方法。

【公開番号】特開2010−254597(P2010−254597A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104467(P2009−104467)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】