説明

殺虫作用を有する樹脂被覆鋼板およびそれを用いた構造体

【課題】殺虫作用を有する樹脂被覆鋼板およびそれを利用した構造体を提供する。
【解決手段】鋼板の少なくとも片方の表面に、質量%で、ピレスロイド系化合物を5〜40%、ウレタン樹脂を50〜90%、エポキシ樹脂を3〜10%、腐食抑制剤を0.5〜2%、含有する樹脂組成物からなる樹脂層を有する樹脂被覆鋼板とする。そして、樹脂層の平均膜厚を0.1〜5μmとする。また、樹脂層を、質量%で、ピレスロイド系化合物を5〜40%、熱硬化型アクリル樹脂を60〜95%を含有する樹脂組成物からなる樹脂層としてもよい。この場合には、最高到達板温を160℃以下として硬化させることが好ましい。このような樹脂被覆鋼板を、昆虫の侵入経路に設置可能に加工して、白アリ等の昆虫を殺虫することができる構造体とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人に不快感を抱かせる昆虫(不快害虫)、衛生上、害を及ぼす昆虫(衛生害虫)、あるいは建築物の木材に害を及ぼす昆虫等の殺虫作用を有する樹脂被覆鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品、自動車部品、建築部材等では、意匠性や、さらには防錆性、耐食性、耐熱性等の向上を目的として、予め表面に塗装を施した塗装鋼板が使用されるようになっている。近年、家電製品等では、機器内で発生する熱に誘引されて、機器内にゴキブリをはじめとする昆虫(害虫)が侵入して、様々な被害を発生させる場合が多い。例えば、機器内に侵入した昆虫が、機器内のプリント回路基板上での絶縁不調や導通不良を発生させる場合がある。このような被害を防ぐために、例えば特許文献1には、プリント回路基板に昆虫の忌避剤を塗布等して昆虫の侵入防止を図るプレコート鋼板が提案されている。しかし、このような方法では、忌避剤を充分な量とすることができず、また昆虫が基板に接触することが避けられず、昆虫の忌避という効果を充分に期待できないという問題があった。
【0003】
このような問題に対し、例えば、特許文献2には、25℃条件下における蒸気圧が1×10−3Pa以下であるピレスロイド系害虫定住防止成分と、あるいはさらに害虫定住防止成分の溶出助剤として多価アルコ−ルの脂肪酸エステルとを含有する金属塗装用塗料で塗装された害虫定住性防止プレコート鋼板が記載されている。特許文献1に記載された、ピレスロイド系害虫定住防止成分と多価アルコールの脂肪酸エステルとの混合比は、ピレスロイド系害虫定住防止成分:多価アルコールの脂肪酸エステルの比で、1:1〜1:10とすることが好ましく、より好ましくは1:1〜1:5であるとしている。特許文献2に記載された技術によれば、強固な塗膜からも害虫の定住防止効果が発揮しやすいうえ、その効果が良好に維持されるとしている。
【0004】
また、特許文献3には、鋼板の表面に、潤滑剤と、忌避材とを含有する樹脂組成物からなる潤滑被膜層を有する防虫鋼板が記載されている。そして、忌避材としては、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分と、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルとの混合物が好ましいとし、その混合比は、質量比で昆虫忌避成分:多価アルコールの脂肪酸エステルの比で、10:1〜1:10、好ましくは1:1〜1:5であるとしている。特許文献3に記載された技術によれば、プレス成形時にとくに潤滑剤を使用することなくプレス加工が可能で、さらに溶接性も高く、ゴギブリ等の昆虫を寄せ付けない防虫性に優れるとしている。
【0005】
しかし、特許文献2、特許文献3に記載された技術では、ピレスロイド系害虫定住防止成分に対する多価アルコールの脂肪酸エステルの含有比率が高くなると、早期に有効成分が溶出し、忌避効果の持続性が低下するという問題があった。
このような問題に対し、例えば、特許文献4には、少なくとも片方の表面に樹脂被膜を有し、昆虫忌避性を有する樹脂被覆金属板が記載されている。特許文献4に記載された技術では、樹脂被膜がピレスロイド系化合物と多価アルコールの脂肪酸エステルとを含有する樹脂組成物からなり、該樹脂組成物中のピレスロイド系化合物に対する多価アルコールの脂肪酸エステルの割合を質量比で0.2〜1とし、ピレスロイド系化合物と多価アルコールの脂肪酸エステルとの合計が樹脂成分100重量部に対し5〜50重量部で、樹脂被膜の付着量を片面当たり0.2〜5g/mとしている。これにより、昆虫忌避効果が10年程度以上の長期間持続するとしている。
【0006】
また、特許文献5、特許文献6、特許文献7には、加工性、溶接性、あるいはさらに耐食性と、昆虫忌避性を兼備した防虫鋼板が記載されている。特許文献5,6,7に記載された技術では、昆虫忌避性を確保するために、少なくともピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分の少なくとも1種と、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルの少なくとも1種の混合物である忌避剤を含有する樹脂組成物からなる樹脂被覆層を鋼板表面に付着させている。特許文献5,6,7に記載された技術によれば、ゴギブリ等の昆虫を寄せ付けない優れた昆虫忌避性を有する防虫鋼板を安定して製造できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−300884号公報
【特許文献2】特開2006−212865号公報
【特許文献3】特開2006−231690号公報
【特許文献4】特開2010−158801号公報
【特許文献5】特開2009−114169号公報
【特許文献6】特開2009−113464号公報
【特許文献7】特開2009−114168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献4〜7に記載された技術では、ゴギブリ等の昆虫を寄せ付けない昆虫忌避性を保持させることを目的としており、ゴギブリ等を殺虫するまでは意図していない。またさらに、特許文献4〜7には、ゴギブリ等の昆虫についての記載はあるが、建築物の内部に侵入して、建築物の木材に害を及ぼす白アリについてまでの言及はない。
従来から、白アリの建築物への侵入を防止するために、防蟻剤の塗布や、防蟻マット等の設置を行っていた。しかし、それらの効果は、長期間を経るにしたがい薄れるため、所定期間ごとに、防蟻剤の再塗布や防蟻マットの交換を行う工事を必要とするという問題を残していた。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、加工性、耐食性を損なうことなく、白アリ等の有害昆虫を殺虫できる、優れた殺虫作用を有する樹脂被覆鋼板、および、該樹脂被覆鋼板を加工してなり、白アリを駆除でき、白アリの建築物への侵入の防止を可能とする、構造体を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、白アリによる建築物の被害を防止するには、単に昆虫を寄せ付けない昆虫忌避性のみではなく、とくに建築物に害を及ぼす白アリを駆除できる殺虫作用までを具備する鋼板製の構造体を建築物に設置することが肝要となることに想到した。
そこで、本発明者らは、構造体の素材となる鋼板を、昆虫忌避性に加えて、とくに白アリ等を駆除できる殺虫作用を具備する樹脂被覆鋼板とすることに思い至り、樹脂被覆鋼板に殺虫作用を具備させる方策について鋭意研究した。その結果、ピレスロイド系化合物が、昆虫忌避性に加えて、白アリに対する殺虫作用を有することを見出し、鋼板表面に、ピレスロイド系化合物を所定量(5〜40質量%)含有する樹脂組成物からなる樹脂被覆層を形成し、しかもその膜厚を特定厚さ(0.1〜5μm)とすることにより、とくに白アリに対する殺虫作用を強く具備する樹脂被覆鋼板が得られることを知見した。
【0011】
さらに、本発明者らの検討によれば、成型加工の観点から、ピレスロイド系化合物を含む樹脂被覆層は、未塗装鋼板への塗布用として、樹脂と、腐食抑制剤、あるいはさらに潤滑剤を含む水溶性前処理剤を用いて形成することが好ましいことを知見した。なお、塗装鋼板への塗布用として、水溶性前処理剤に代えて、熱硬化型アクリル樹脂を用いたピレスロイド系化合物を含む樹脂層としても同様に白アリに対する殺虫作用を有する樹脂層を形成できることを知見した。
【0012】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)鋼板の少なくとも片方の表面に樹脂層を有する樹脂被覆鋼板であって、前記樹脂層の平均膜厚を0.1〜5μmとし、該樹脂層を、質量%で、ピレスロイド系化合物を5〜40%、ウレタン樹脂を50〜90%、エポキシ樹脂を3〜10%、腐食抑制剤を0.5〜2%、含有する樹脂組成物からなる樹脂層することを特徴とする殺虫作用を有する樹脂被覆鋼板。
【0013】
(2)(1)において、前記樹脂層を、質量%で、ピレスロイド系化合物を5〜40%、熱硬化型アクリル樹脂を60〜95%を含有する樹脂組成物からなり、最高到達板温を160℃以下として硬化させた樹脂層とすることを特徴とする樹脂被覆鋼板。
(3)(1)または(2)に記載の樹脂被覆鋼板を用いて、昆虫の侵入経路に設置可能に加工された殺虫用構造体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鋼板の加工性、耐食性を損なうことなく、優れた、白アリ等昆虫の殺虫作用を有する樹脂被覆鋼板を製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明になる構造体を、木造建築物に適用することにより、白アリによる木材の被害を著しく軽減できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例で使用した構造体の形状の一例を模式的に示す説明図である。(a)は上部下部ともに折返しのあるもの、(b)は上部のみに折返しのあるもの、(c)折返しのないもの、である。
【図2】本発明の構造体を建築物に設置した状況を模式的に示す断面図である。点線は、白アリの侵入経路の一例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明になる樹脂被覆鋼板は、基板である鋼板の表面に、樹脂層を有する。ここで、基板は、鋼板であればよく、その種類をとくに限定する必要はない。なお、耐食性の観点からは、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウム合金(Zn−5mass%Al)めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウム合金(Zn−55mass%Al)めっき鋼板、電気亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼板、亜鉛合金系めっき鋼板や、さらにアルミめっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、ステンレス鋼板等の鋼板とすることが好ましい。
【0017】
本発明になる樹脂被覆鋼板は、上記した基板の少なくとも片面に、樹脂層を形成する。なお、樹脂層は、両面に形成してもよいことは言うまでもない。
形成する樹脂層の平均膜厚は0.1〜5μmとする。平均膜厚が0.1μm未満では、薄すぎて、所望の昆虫に対する殺虫作用が不十分となる。一方、5μmを超えて厚くなると、樹脂層の加工性が低下し、加工部の接着性が低下する。このため、樹脂層の平均膜厚は0.1〜5μmの範囲に限定した。なお、好ましくは0.5〜3.0μmである。
【0018】
基板表面に形成される樹脂層は、樹脂層全体の質量%で、ピレスロイド系化合物を5〜40%含有する樹脂組成物からなる樹脂層とする。なお、ここでいう含有量は、乾燥後の当該成分の含有量をいうものとする。
従来、ピレスロイド系化合物は、昆虫忌避成分として利用されているが、本発明では、昆虫とくに、白アリの殺虫成分として利用し、樹脂層に含有させる。ピレスロイド系化合物の含有量が、樹脂層全体の質量%で5%未満では、昆虫に対する殺虫作用が不足し、所望の効果が期待できない。一方、40%を超えて多量に含有すると、樹脂本来の性能である密着性、耐食性を低下させ、かつ均一な樹脂層の形成が困難となる。なお、好ましくは5〜20%である。
【0019】
なお、ピレスロイド系化合物としては、例えば、α−シアノ−3−フェノキシベンジル(+)シス/トランス−2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロぺニル)シクロプロンカルボキシラート、α−シアノ−3−フェノキシベンジル(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−(1,2,2,2−テトラブロモエチル)シクロプロパンカルボキシラート、(S)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1R,3S)−2,2−ジメチル−3−〔2−(2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル〕シクロプロパンカルボキシラート、(RS)−α−シアノ−3−フェノキシベンジル=(Z)−(1RS,3RS)−3−(2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピニル)−2,2−ジメチルシキロプロパンカルボキシラートが挙げられる。殺虫成分として、これら化合物を単独、あるいは適宜組み合わせて使用してもよい。
【0020】
本発明樹脂被覆鋼板で基板表面に形成する樹脂層は、上記したピレスロイド系化合物に加えて、樹脂層全体に対する質量%で、ウレタン樹脂を50〜90%、エポキシ樹脂を3〜10%、さらに腐食抑制剤を0.5〜2%、含有し、あるいはさらに潤滑剤を含有する樹脂組成物からなる樹脂層とする。このような組成の樹脂層とすることにより、加工性、耐食性を損なうことなく、白アリに対する殺虫作用が顕著に向上した樹脂被覆鋼板とすることができる。
【0021】
樹脂層を形成するための樹脂としては、未塗装鋼板用としてウレタン樹脂を用いる。ウレタン樹脂であれば、ピレスロイド系化合物、腐食抑制剤、あるいはさらに潤滑剤を均一に分散または溶解できる。ウレタン樹脂の含有量が、樹脂層全体の質量%で、50%未満では、塗膜の造膜性が低下する。一方、95%を超えると、ピレスロイド系化合物の添加量が減少して殺虫性が低下する。このようなことから、樹脂層中のウレタン樹脂の含有量を、樹脂層全体に対する質量%で50〜90%の範囲に限定した。なお、好ましくは70〜90%である。
【0022】
また、樹脂層を形成するための樹脂としては、ウレタン樹脂に加えて、エポキシ樹脂を使用する。ウレタン樹脂に加えて、エポキシ樹脂を混合することにより、素地との密着性が向上する。エポキシ樹脂の含有量が、樹脂層全体に対する質量%で、3%未満では、密着性向上の効果が得られない。一方、10%を超えると、塗膜が厚くなり加工性が低下する。このようなことから、樹脂層中のエポキシ樹脂の含有量を、質量%で3〜10%の範囲に限定した。なお、好ましくは5〜8%である。
【0023】
また、樹脂層には、腐食抑制剤を含有させる。腐食抑制剤の種類はとくに限定する必要はないが、樹脂層に均一に分散でき、しかも樹脂、殺虫成分を劣化させないものとすることが肝要である。このような腐食抑制剤としては、ジルコニウム化合物、バナジウム化合物、リン酸化合物、シリカ粒子等が例示できるが、本発明ではこれらを単独または複合して含有できる。腐食抑制剤の含有量は、樹脂層全体に対する質量%で0.5〜2%とする。腐食抑制剤の含有量が0.5%未満では、所望の防錆効果が期待できない。一方、2%超えて含有しても、効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できず経済的に不利となる。このようなことから、樹脂層中の腐食抑制剤は、樹脂層全体に対する質量%で0.5〜2%の範囲に限定した。
【0024】
上記した組成の樹脂層の形成には、市販の薬剤である水溶性前処理剤が利用できる。市販の水溶性前処理剤としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、腐食抑制剤、さらには潤滑剤を上記した範囲内で含む、CT-E364K(日本パーカー社製)、CT-E312W(日本パーカー社製)、が例示できる。
また、本発明樹脂被覆鋼板では、上記した樹脂層に代えて、塗装鋼板用として樹脂層全体に対する質量%で、ピレスロイド系化合物を5〜40%、熱硬化型アクリル樹脂を60〜90%を含む樹脂組成物からなる樹脂層とすることもできる。この樹脂層は、樹脂として、熱硬化型アクリル樹脂を使用する。この樹脂であれば、ピレスロイド系化合物を均一に分散または溶解でき、塗装鋼板との密着性が向上する。この樹脂の含有量が、樹脂層全体に対する質量%で、60%未満では、塗装鋼板との密着性が低下する。一方、90%を超えて含有すると、ピレスロイド系化合物の添加量が少なくなり殺虫性が低下する。このため、熱硬化型アクリル樹脂を60〜90%の範囲に限定した。なお、この樹脂層は、最高到達板温が160℃以下で硬化させた層とすることが、ピレスロイド系化合物の蒸散を抑えるという観点から好ましい。樹脂の硬化温度が最高到達板温で160℃を超えて高温とすると、ピレスロイド系化合物の蒸散が大きくなる。
【0025】
上記した組成の樹脂層は、市販の薬剤である熱硬化型アクリル樹脂剤を利用して形成できる。市販の熱硬化型アクリル樹脂剤としては、例えば、JR110010−8(日本ファインコーティング社製)、JR11010−6(日本ファインコーティング社製)、が例示できる。
つぎに、本発明の樹脂被覆鋼板の好ましい製造方法について説明する。
まず、基板を用意する。本発明では、基板に使用する鋼板はとくに限定する必要はないが、上記したように表面処理鋼板である亜鉛系めっき鋼板やアルミめっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、とすることが好ましく、また、ステンレス鋼板を使用してもよい。さらに塗装鋼板を使用してもよい。
【0026】
そして、上記したように、樹脂、ピレスロイド系化合物、腐食抑制剤、あるいはさらに潤滑剤、必要に応じてその他の成分を所定範囲内となるように配合し、水または有機溶剤に溶解、または分散させ、エマルジョンとした塗布用溶液(樹脂組成物を含有する溶液)を用意する。塗布用溶液は、市販の水溶性前処理剤あるいは熱硬化型アクリル樹脂剤を利用して、上記した組成範囲の樹脂組成物を含む溶液としてもよい。
【0027】
ついで、用意した溶液を、基板表面に、所定の膜厚となるように塗布する。塗布方法は、スプレー、バーコーター、ロールコーター、浸漬等、常用の塗布方法がいずれも適用できる。ついで、上記した溶液を塗布された鋼板は、加熱炉に装入され、乾燥して表面に樹脂層を形成する。使用する加熱炉は、常用の高周波誘導炉、熱風炉等がいずれも好適に利用できる。なお、加熱炉の雰囲気温度は、300℃以下とすることが好ましい。加熱炉の雰囲気温度が、300℃を超える温度となると、ピレスロイド化合物が蒸散し、樹脂層中に残存しなくなる。なお、より好ましくは250℃以下である。
【0028】
加熱炉での加熱により、基板温度が160℃以下となるように調整することが好ましい。基板の最高到達温度を160℃以下とすることができ、ピレスロイド化合物の蒸散を抑制することができる。
好ましくは上記したような製造方法で製造された樹脂被覆鋼板を、本発明では、所定の寸法形状に加工した構造体として利用する。この構造体は、例えば、建築物への白アリの侵入を防止する構造体として用いるため、白アリの侵入経路に設置可能な、寸法形状に加工される。白アリの侵入経路に本発明構造体を設置すれば、侵入してきた白アリが本発明構造体に触れることにより、白アリを短時間で死滅(殺虫)させることができる。
【0029】
白アリの被害が多い建築物部材としては、建築物の外壁、土台、火打土台、大引、根太、根太掛、床束、根搦め、柱、間柱、筋かい、胴縁、下地材、造作部分等に用いられる木材である。白アリは、一般に、地中を通り、建築物内部に侵入し、木材製部材に害を加える場合が多い。このため、上記したような構造体を、図2に示すように、白アリの侵入経路である建築物の基礎や、配管、束石の周辺に設置することが好ましい。さらに、白アリの侵入する可能性がある、例えば、木材とコンクリートとの継目、セパレータの穴、換気口等にも設置することが望ましい。
【0030】
なお、本発明構造体は、地盤からの長さ(高さ)を400mm以上、好ましくは500mm以上とすることが好ましい。というのは、侵入する白アリ等の昆虫との接触時間を長くするためである。地盤からの高さが400mm程度以上あれば、ほぼ白アリは死滅し、建築物への侵入を防止できる。
図2(a)では、建築物の内部に本発明構造体を設置した例であるが、上部および下部に折返しを有する。上部や下部の折返しが存在することにより、構造体における白アリ等の昆虫の滞在時間を長くすることができる。また、図2(b)は、地盤からの立ち上がり配管の周囲に本発明構造体を巻きつけた例である。上部に折返しを付して、構造体における白アリ等の昆虫の滞在時間を長くできるように工夫をしている。また、図2(b)は、建築物の束の周囲に、本発明構造体を巻きつけたものである。この場合も上部に折返しを付している。なお、折返しは必要に応じて形成するものとする。図2(c)は、束石のまわりに構造体を巻き付けたものである。なお、折返しはなくてもよい。
【0031】
また、白アリの被害は、建築物の構造を問わず、木材を使用している箇所に発生する。そのため、本発明構造体は、木造建築物以外にも、鉄骨造、コンクリート造、ブロック造などの建築物にも適用することが好ましい。
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
【実施例】
【0032】
塗布溶液Aには、基板として、板厚:0.35mm、めっき付着量:150g/mの溶融亜鉛−アルミニウム合金(Zn−55mass%Al)めっき鋼板を用いた。そして、基板に、表1に示す配合の樹脂組成物を含む塗布溶液を、バーコーダを用いて、表1に示す平均膜厚(乾燥後)となるように塗布し、ついで熱風乾燥機で表1に示す最高到達板温となるまで乾燥し、樹脂層とした。
【0033】
なお、塗布溶液Aは、表1に示す量のウレタン樹脂、エポキシ樹脂、腐食抑制剤およびピレスロイド化合物、さらに潤滑剤を配合した樹脂組成物を含む溶液とした。
また、塗布溶液Bには、基板として板厚:0.35mm、ポリエステル塗料を塗装したカラー鋼板を用いた。そして、基板に、表1に示す配合の樹脂組成物を含む塗布溶液を、バーコーダを用いて表1に示す平均膜厚(乾燥後)となるように塗布し、ついで熱風乾燥機で表1に示す最高到達板温となるまで乾燥し、樹脂層とした。
【0034】
また、塗布溶液Bは、熱硬化型アルカリ樹脂剤(JR110010-8:日本ファインコーティング社製)に、表1に示す量のピレスロイド化合物、必要に応じ溶剤を配合して濃度を調整した樹脂組成物を含む溶液とした。なお、熱硬化型アルカリ樹脂剤(JR110010-8)には、熱硬化型アルカリ樹脂を含有するクリヤー塗料である。
得られた樹脂被覆鋼板から、試験材を採取し、腐食試験、密着性試験、白ありの殺虫試験を実施した。試験方法はつぎのとおりである。
【0035】
(1)密着性試験
得られた樹脂被覆鋼板から試験材(大きさ:70mm×70mm)を採取し、得られた試験片の表面に、カッターナイフで1mm角の碁盤目を100個、導入した。そして、試験片に、導入した碁盤目の裏側からエリクセン試験機で6mm、押出す加工を施した。押出し加工部にセロハンテープを貼り、そして引き離して、被膜(樹脂層)の剥離状況を観察した。樹脂層の剥離がない場合を◎、樹脂層が1〜5個の碁盤目で剥離している場合を○、6〜10個の碁盤目で剥離している場合を△、11個以上の碁盤目で剥離している場合を×として、樹脂層の密着性を評価した。
【0036】
(2)腐食試験
得られた樹脂被覆鋼板から試験片(大きさ:70mm×150mm)を採取し、試験片の裏面および端面にシールを施した。そして、JIS Z 2371の規定に準拠して、雰囲気温度:35℃で、試験片に、5%NaCl水溶液を噴霧する塩水噴霧試験を実施した。試験時間:500 hr後に、試験片の表面を観察し、錆が発生した面積を測定し、錆発生面積率を算出した。錆発生面積率が0%の場合を◎、錆発生面積率が10%未満の場合を○、10%以上30%未満の場合を△、30%以上を×として、耐食性を評価した。
【0037】
(3)白ありの殺虫試験
得られた樹脂被覆鋼板から試験材(大きさ:150mm幅×200mm長さ)を採取し、加工して、図1(a),(b),(c)に示す形状の構造体1、2、3とした。なお、構造体1は、上部および下部に折返しを付した。また、構造体2は、上部のみに折返しを付し、構造体3には、折返しを付さなかった。
【0038】
ついで、これら構造体を、容器(縦200mm×横300mm×高さ300mm)に装入し、容器の壁に垂直に設置したのち、容器と構造体に隙間がないようにテープで密封した。そして、容器に、イエシロアリ30匹を放置し、1時間後に殺虫されるイエシロアリの数を測定し、殺虫率(%)(=殺虫数/投入数×100)を算出した。また、投入したイエシロアリが全て(100%)殺虫されるまでの時間(min)を測定した。
【0039】
得られた結果を表2に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
本発明例はいずれも、白アリ等昆虫の殺虫作用を有する樹脂被覆鋼板であり、白アリに対する殺虫作用が強く、侵入経路に設置可能な形状の構造体に加工して建築物の白アリ侵入経路に設置すれば、白アリの侵入を有効に防止でき、白アリによる木材の被害を著しく軽減できることが推察される。なお、ピレスロイド系化合物等の配合量を調整すれば、複雑な加工を必要とする構造体に加工しても、耐食性、密着性を損なわずに、建築物の白アリ被害を軽減できる。本発明の範囲を外れる比較例では、白アリ等昆虫を死滅(殺虫)させることができないか、その能力が低いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の少なくとも片方の表面に樹脂層を有する樹脂被覆鋼板であって、前記樹脂層の平均膜厚を0.1〜5μmとし、該樹脂層を、質量%で、ピレスロイド系化合物を5〜40%、ウレタン樹脂を50〜90%、エポキシ樹脂を3〜10%、腐食抑制剤を0.5〜2%、含有する樹脂組成物からなる樹脂層することを特徴とする殺虫作用を有する樹脂被覆鋼板。
【請求項2】
前記樹脂層を、質量%で、ピレスロイド系化合物を5〜40%、熱硬化型アクリル樹脂を60〜95%を含有する樹脂組成物からなり、最高到達板温を160℃以下として硬化させた樹脂層とすることを特徴とする請求項1に記載の樹脂被覆鋼板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂被覆鋼板を用いて、昆虫の侵入経路に設置可能に加工された殺虫用構造体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−56423(P2013−56423A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194525(P2011−194525)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【Fターム(参考)】