説明

母型の製造方法、母型及び眼鏡レンズの製造方法

【課題】眼鏡レンズの材料の無駄を低減することができ、レンズのプリズム制御を容易に行うことが可能な母型の製造方法、母型及び眼鏡レンズの製造方法を提供すること。
【解決手段】第一面及び第二面のうち少なくとも一方が自由曲面である眼鏡レンズの製造に用いられる母型の製造方法であって、本体部材に自由曲面を含む型面を形成する型面形成工程と、型面の光学中心における光軸に垂直な接平面と型面の外周との光軸方向の距離が一定となるように型面の外周を形成する外周形成工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母型の製造方法、母型及び眼鏡レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば累進焦点設計のレンズなど、自由曲面を有するレンズ製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。一例として、表面に累進焦点設計を有するセミフィニッシュレンズを、装用者の度数、最適な光学性能になるように裏面を加工する製造方法が挙げられる。また、他の例として、表面に球面形状を有するセミフィニッシュレンズを、装用者の度数、最適な光学性能になるように裏面に累進設計を有する形状に加工する製造方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−175149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の製造方法においては、セミフィニッシュレンズを加工をする場合に、当該セミフィニッシュレンズを研磨する必要がある。この製造方法では、研磨による度数のズレや面ダレ、研磨残り等による外観不良、更にはセミフィニッシュレンズを冶具に固定する際とレンズを加工する際に加工機にセットする際に発生するズレがレンズプリズムに影響を及ぼす等の問題が有る。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明は、眼鏡レンズのプリズム制御を容易に行うことが可能な母型の製造方法、母型及び眼鏡レンズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様に従えば、第一面及び第二面のうち少なくとも一方が自由曲面である眼鏡レンズの製造に用いられる母型の製造方法であって、本体部材に自由曲面を含む型面を形成する型面形成工程と、型面のうち眼鏡レンズの光学中心に一致する点における接平面と型面の外周との距離が一定となるように型面の外周を形成する外周形成工程とを含む母型の製造方法が提供される。
【0007】
本発明の第二の態様に従えば、第一面及び第二面のうち少なくとも一方が自由曲面である眼鏡レンズの製造に用いられる母型であって、自由曲面を含む型面を有する本体部材を有し、本体部材は、型面のうち眼鏡レンズの光学中心に一致する点における接平面と型面の外周との距離が一定となるように形成されている母型が提供される。
【0008】
本発明の第三の態様に従えば、眼鏡レンズの第一面及び第二面のうち自由曲面を含む一方の面に対応する本発明の第二の態様に従う母型と、眼鏡レンズの第一面及び第二面のうち他方の面に対応する第二母型と、を対向配置させる母型配置工程と、対向配置された母型と第二母型とを用いて眼鏡レンズを成形する成形工程とを含む眼鏡レンズの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様によれば、眼鏡レンズのプリズム制御を容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る母型の構成を示す平面図。
【図2】図1におけるA−A断面に沿った形状を示す図。
【図3】母型の製造工程の流れを示すフローチャート。
【図4】(a)〜(c)母型の製造過程を示す工程図。
【図5】眼鏡レンズの製造工程の流れを示すフローチャート。
【図6】(a)〜(c)眼鏡レンズの製造過程を示す工程図。
【図7】(a)〜(c)眼鏡レンズの製造過程の他の例を示す工程図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本実施形態に係る眼鏡レンズ製造用の第一母型の構成を示す平面図である。図2は、図1におけるA−A断面に沿った構成を示す図である。
【0012】
図1及び図2に示すように、第一母型M1は、表面及び後面を有する眼鏡レンズのうち、後面を形成するための母型である。第一母型M1は、例えばガラスや金属などによって形成されている。本実施形態の第一母型M1を用いて形成される眼鏡レンズとしては、例えば後面に自由曲面を含むレンズが挙げられる。このような眼鏡レンズとして、例えば、累進焦点レンズなどがある。
【0013】
第一母型M1は、本体部材10を有している。本体部材10は、平面視で円形に形成されている。本体部材10は、型面11、底面12及び側面13を有している。型面11は、凸型に形成されている。型面11は、眼鏡レンズの後面に対応する面である。型面11は、自由曲面部11aと周縁部11bとを有している。
【0014】
自由曲面部11aは、眼鏡レンズの後面に含まれる自由曲面に対応する形状に形成されている。したがって、型面11は上記自由曲面を含んだ形状に形成されている。自由曲面部11aは、図1に示すように、本体部材10の中心よりもやや上側に偏って配置されている。このため、周縁部11bは、図中下側の方が広く形成されている。
【0015】
周縁部11bは、自由曲面を延長した部分(図2の破線部分)に対して底面12側に配置されるように面取りされている。周縁部11bが面取りされていることにより、本実施形態では、型面11のうち眼鏡レンズの光学中心に一致する点Oにおける接平面Fと型面11の外周11cとの距離が一定となっている。したがって、外周11cのうち例えば図2の上端部と接平面Fとの距離をt1、外周11cのうち図2の下端部と接平面Fとの距離をt2とすると、t1=t2となっている。
【0016】
底面12は、当該型面11の反対側に形成されている。底面12の形状については、図2では曲面に形成されているが、この形状に限定されず、平坦面など他の形状であっても構わない。側面13は、眼鏡レンズの光軸となる直線に平行に形成されており、円筒状に形成されている。
【0017】
次に、上記のように構成された第一母型M1の製造方法を説明する。
図3は、第一母型M1の製造工程の流れを示すフローチャートである。
図3に示すように、第一母型M1の製造方法は、前加工工程(ST31)、型面研削・研磨工程(ST32)、外周研磨工程(ST33)及び化学強化工程(ST34)を有している。
【0018】
前加工工程では、例えば図4(a)に示すようなプレス材Pと呼ばれるブランクス材を用意する。プレス材Pは、凸面Pa及び凹面Pbを有している。前加工工程では、このプレス材Pの凸面Pa及び凹面Pbを研削する。その後、凹面Pbを研磨して、底面12を形成する。
【0019】
型面研削・研磨工程では、例えば高精度研削装置などを用いて凸面Paを研削し、図4(b)に示すように、眼鏡レンズの自由曲面に対応する形状の自由曲面部11aを形成する。この時点では、自由曲面部11aのうち眼鏡レンズの光学中心に一致する点Oにおける接平面Fとプレス材Pの外周Pcとの距離は一定にはなっていない。例えば、図4(b)の左端部における当該距離をt3、右端部における当該距離をt4とすると、t3>t4となっている。
【0020】
外周研磨工程では、例えば高精度研磨装置などを用いてプレス材Pの外周Pcを研削し、図4(c)に示すように周縁部11bを形成する。このとき、自由曲面部11aのうち眼鏡レンズの光学中心に一致する点Oにおける接平面Fとプレス材Pの外周Pcとの距離が一定となるように研磨する。例えば、図4(c)の左端部における当該距離をt5、右端部における当該距離をt6とすると、t5=t6となっている。
【0021】
化学強化工程では、自由曲面部11a及び周縁部11bが形成されたプレス材Pに対して化学強化を行う。このような工程を経て、第一母型M1が完成する。
【0022】
次に、第一母型M1を用いた眼鏡レンズの製造方法を説明する。
図5は、眼鏡レンズの製造工程の流れを示すフローチャートである。
図5に示すように、眼鏡レンズの製造方法は、母型洗浄工程(ST51)、型組み工程(ST52)、成形工程(ST53)、離型工程(ST54)及び洗浄・アニール工程(ST55)を有している。
【0023】
母型洗浄工程では、上記の第一母型M1及び第二母型M2(図6(a)等を参照)を洗浄する。型組み工程では、図6(a)に示すように、洗浄を行った後の第一母型M1と第二母型M2とをガスケットGを用いて型組みする。
【0024】
型組み工程で用いられるガスケットGは、本体部40及び突出部41を有している。本体部40は、例えば円筒状に形成されている。本体部40は、例えばエラストマー、ポリオレフィン等の可撓性を有する樹脂材料により形成されている。本体部40のうち図中上下方向の端部は、開口されている。
【0025】
本体部40には、不図示の材料注入孔が形成されている。当該材料注入孔は、本体部40の内側の空間と外側の空間とを連通して形成されている。眼鏡レンズ材料は、材料注入孔を介して本体部40の外側から本体部の内側へ注入されるようになっている。突出部41は、本体部40の内周面に設けられており、本体部40の中心へ向けて凸状に形成されている。
【0026】
第二母型M2は、眼鏡レンズのうち自由曲面を有する面とは異なる面(本実施形態では表面)を形成するための母型である。第二母型M2は、第一母型M1と同様、例えばガラスや金属などによって形成されている。第二母型M2は、眼鏡レンズの表面に対応した形状に形成された型面21を有している。ここでは、例えば型面21が球面を含む形状である場合を例に挙げて説明する。
【0027】
型組み工程では、ガスケットGの図中上側の開口部から第一母型M1を挿入し、当該第一母型M1の型面11のうち外周11cを含む周縁部11bを突出部41の第一面41a上に配置させる。また、ガスケットGの図中下側の開口部から第二母型M2を挿入し、当該第二母型M2の型面21を突出部41の第二面41b上に配置させる。その後、不図示の固定冶具を用いて固定する。
【0028】
第一母型M1を配置させる場合において、本実施形態では型面11の点O(眼鏡レンズの光学中心に一致する点)における接平面Fと型面11の外周11cとの距離が一定となっているため、第一母型M1の配置がずれた場合であっても、眼鏡レンズのプリズム制御が適切に行われることになる。
【0029】
成形工程では、図6(b)に示すように、本体部40に形成された材料注入孔から眼鏡レンズ材料35を注入する。この工程により、本体部40、第一母型M1及び第二母型M2によって囲まれた空間に眼鏡レンズ材料35が注入される。この眼鏡レンズ材料35としては、例えば熱硬化性樹脂(例、ポリウレタン系樹脂)のモノマーなどが用いられる。眼鏡レンズ材料35は、第一母型M1の型面11、第二母型M2の型面21に沿って当該空間に充填される。その後、眼鏡レンズ材料35に対する加熱処理(重合処理)を実行する。モノマーを所定の加熱条件で加熱することによって、眼鏡レンズ30が成形される。
【0030】
離型工程では、図6(c)に示すように、ガスケットGの型組みを解除し、成形された眼鏡レンズ30を取り出す。眼鏡レンズ30は、後面である第一面31と、表面である第二面32とを有する形状に形成される。第一面31は、第一母型M1の型面11に沿った形状であり、自由曲面を含んだ形状となる。第二面32は、第二母型M2の型面21に沿った形状であり、球面を含んだ形状となる。
【0031】
洗浄・アニール工程では、眼鏡レンズ30に対して洗浄処理及びアニール処理を行う。その後、眼鏡レンズ30に対して所定の検査を行い、袋詰め・出荷される。このように、眼鏡レンズ30を成形した後、研磨を行うことなく、出荷までの各処理が行われることになる。
【0032】
以上のように、本実施形態によれば、第一面31及び第二面32のうち少なくとも一方が自由曲面である眼鏡レンズ30の製造に用いられる第一母型M1において、自由曲面を含む型面11を有する本体部材10を有し、本体部材10が型面11のうち眼鏡レンズ30の光学中心に一致する点Oにおける接平面Fと型面11の外周11cとの距離t1及びt2が一定となるように形成されているので、当該第一母型M1を用いて眼鏡レンズを形成する場合、第一母型M1の配置がずれた場合であっても、眼鏡レンズ30のプリズム制御を適切に行うことができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、このように第一母型M1を用いて眼鏡レンズ30を成形することにより、眼鏡レンズ30のプリズム制御を容易に行うことが可能となるため、研磨を行うことなく眼鏡レンズ30を製造することができる。これにより、眼鏡レンズ材料35の無駄を低減することができる。
【0034】
また、本実施形態によれば、第一面31及び第二面32のうち少なくとも一方が自由曲面である眼鏡レンズ30の製造に用いられる第一母型M1の製造方法であって、本体部材10に自由曲面を含む型面11を形成する型面形成工程と、型面11のうち眼鏡レンズ30の光学中心に一致する点Oにおける接平面Fと型面11の外周11cとの距離t1及びt2が一定となるように型面11の外周11cを形成する外周形成工程とを含むので、第一母型M1を効率的に製造することができる。
【0035】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、上記実施形態においては、眼鏡レンズ30を製造する工程において、ガスケットGを用いて第一母型M1及び第二母型M2を固定させる態様を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。
【0036】
例えば図7(a)に示すように、第一母型M1及び第二母型M2をテープ成形法によって固定させる態様であっても構わない。
図7(a)に示す構成においては、第一母型M1と第二母型M2とが対向して配置されており、第一母型M1の側面13、第二母型M2の側面23にテープTPが巻かれている。
【0037】
また、上記実施形態においては、第一面31が自由曲面である眼鏡レンズ30を製造する場合の第一母型M1の構成を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。
例えば、第二面32が自由曲面である眼鏡レンズ30を製造する場合には、図7(b)に示すように、第二母型M2の構成において、型面21のうち眼鏡レンズ30の光学中心に一致する点における接平面と型面21の外周との距離が一定となるように本体部材20の周縁部21bが形成されている構成としても構わない。
【0038】
なお、図7(b)は、ガスケットGを用いて眼鏡レンズ30を製造する場合の構成を例に挙げているが、これに限られることは無い。例えば、図7(c)に示すように、テープ成形法によって固定させる態様であっても構わない。
【0039】
また、上記実施形態においては、第一母型M1の側面13が光軸方向にフラットに形成された構成を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。例えば、側面13が第一母型M1の径方向の外側及び内側のうち少なくとも一方に湾曲した形状であっても構わない。
【符号の説明】
【0040】
M1…第一母型 O…点 F…接平面 P…プレス材 Pa…凸面 Pb…凹面 Pc…外周 G…ガスケット t1〜t6…距離 10…本体部材 11…型面 11a…自由曲面部 11b…周縁部 11c…外周 13…側面 30…眼鏡レンズ 31…第一面 32…第二面 35…眼鏡レンズ材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一面及び第二面のうち少なくとも一方が自由曲面である眼鏡レンズの製造に用いられる母型の製造方法であって、
本体部材に前記自由曲面を含む型面を形成する型面形成工程と、
前記型面のうち前記眼鏡レンズの光学中心に一致する点における接平面と前記型面の外周との距離が一定となるように前記型面の外周を形成する外周形成工程と
を含む母型の製造方法。
【請求項2】
前記外周形成工程は、前記本体部材の前記型面のうち前記外周を含む部分を研磨することを含む
請求項1に記載の母型の製造方法。
【請求項3】
前記外周形成工程は、前記外周を含む前記本体部材の側面が前記光軸方向に平坦になるように前記側面を形成することを含む
請求項1又は請求項2に記載の母型の製造方法。
【請求項4】
前記外周形成工程は、前記外周を含む前記本体部材の側面が前記光軸方向に曲率を有するように前記側面を形成することを含む
請求項1又は請求項2に記載の母型の製造方法。
【請求項5】
第一面及び第二面のうち少なくとも一方が自由曲面である眼鏡レンズの製造に用いられる母型であって、
前記自由曲面を含む型面を有する本体部材を有し、
前記本体部材は、前記型面のうち前記眼鏡レンズの光学中心に一致する点における接平面と前記型面の外周との距離が一定となるように形成されている
母型。
【請求項6】
前記眼鏡レンズの前記第一面及び前記第二面のうち前記自由曲面を含む一方の面に対応する請求項5に記載の母型と、前記眼鏡レンズの前記第一面及び前記第二面のうち他方の面に対応する第二母型と、を対向配置させる母型配置工程と、
対向配置された前記母型と前記第二母型とを用いて前記眼鏡レンズを成形する成形工程と
を含む眼鏡レンズの製造方法。
【請求項7】
前記成形工程は、成形により前記眼鏡レンズのプリズムの制御を行うことを含む
請求項6に記載のレンズの製造方法。
【請求項8】
前記母型配置工程は、前記母型と前記第二母型とをテープ成形法によって型組みすることを含む
請求項6又は請求項7に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項9】
前記母型配置工程は、前記母型と前記第二母型とをガスケットを用いて型組することを含む
請求項6又は請求項7に記載の眼鏡レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−234036(P2012−234036A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102381(P2011−102381)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(300035870)株式会社ニコン・エシロール (51)
【Fターム(参考)】