説明

母液からのCCI−779の回収

本発明は、母液からCCI−779を回収する方法を提供する。この方法は、母液からCCI−779を回収する方法であって、(a)母液を濃縮する工程;(b)母液の濃縮によって得られたCCI−779を、約5〜約5.5のpHを有するpH調整緩衝液での処理に付す工程;(c)混合物を溶媒抽出に付す工程;(d)得られた有機相を乾燥し、濃縮する工程;および(e)CCI−779を再結晶する工程を含む。別の実施形態において、工程(e)から得た母液を使用して、工程(a)から(d)を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母液からのCCI−779の回収に関する。
CCI−779(3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオン酸とのラパマイシン42−エステル)はラパマイシンのエステルであり、これはインビトロおよびインビボモデルの両方において腫瘍成長に有意な阻害作用を示す。CCI−779は、細胞質タンパク質FKBPに結合して複合体を形成し、これは、酵素mTOR(ラパマイシンの哺乳類標的;FKBP12−ラパマイシン関連タンパク質[FRAP]としても公知)を阻害する。mTORのキナーゼ活性の阻害は、サイトカイン刺激細胞増殖、細胞周期のG1期を調節するいくつかの主要タンパク質のmRNAの翻訳、およびIL−2−誘発転写を含む種々のシグナル伝達経路を阻害して、G1からSへの細胞周期の進行の阻害を生じる。CCI−779は、中枢神経系癌、白血病、乳癌、前立腺癌、メラノーマ、グリオーマおよびグリオブラストーマの阻害を含む多くの適用において、有効であることが示されている。
【背景技術】
【0002】
CCI−779を含むラパマイシンのヒドロキシエステルの生成および使用は、米国特許第5,362,718号に開示されている。CCI−779の位置選択的合成は、米国特許第6,277,983号に開示されている。しかし、得られるCCI−779の収率は70〜80%にすぎない。他の位置選択的合成が、米国特許出願公開第2005−0033046A1号に開示されている。臨床用途に使用される結晶性生成物を得るために、CCI−779の再結晶が必要である。
【特許文献1】米国特許第5,362,718号明細書
【特許文献2】米国特許第6,277,983号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005−0033046号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
必要とされるのは、CCI−779結晶化の副生成物として得られる母液から、付加的結晶性CCI−779を回収する方法である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、母液からのCCI−779の回収法を提供する。該方法は、母液を濃縮し、濃縮CCI−779を緩衝剤で処理し、有機相を乾燥し、濃縮し、好ましくはエーテルから、CCI−779を再結晶することを含む。
【0005】
他の実施形態において、付加的収量を得るために、該方法から得られた母液を、該方法に使用する。他の実施形態において、該方法を多数回繰り返す。
【0006】
本発明の他の態様および利点は、以下の本発明の詳細な説明から明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、母液からCCI−779を回収する新規方法を提供する。
【0008】
CCI−779(3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオン酸とのラパマイシン42−エステル)は、下記の反応式2に示す2つの異性体の形態で存在しうる。本発明によって母液から回収されたCCI−779は、約95wt%のCCI−779異性体B、および約3wt%の異性体Cを一般に含有する。
【0009】
本明細書において使用される「合計収量または合計総収量」は、従来法による初期再結晶を含む全ての再結晶工程から回収されたCCI−779、および本発明の方法によって母液から回収されたCCI−779の総量を意味する。
【0010】
一実施形態において、CCI−779は、米国特許第5,362,718号に開示のように調製される。他の実施形態において、CCI−779は、米国特許出願公開第US2005−0033046A1号に開示のように調製される。
【0011】
他の実施形態において、CCI−779は、2,2,5−トリメチル[1.3−ジオキサン]−5−カルボン酸とのラパマイシン42−エステルの酸加水分解から得られる。一実施形態において、硫酸を使用してこれを行い、次に、シリカゲルクロマトグラフィーに付す。酸加水分解は、米国特許第6,277,983号(Shawら)に開示されている。本明細書に示す反応式1は、加水分解工程の概略を示している。加水分解後に、従来法によって再結晶を行う。一実施形態において、エーテルを用いて再結晶を行う。一般に、再結晶から得られたCCI−779は、B:C異性体比約30:1〜約35:1、収率約70%〜約80%、または約72%〜約76%を有する。一実施形態において、再結晶から得られたCCI−779は、B:C異性体比約32:1、収率約74%を有する。
【化1】

【0012】
再結晶工程の副生成物は、付加的CCI−779を含有する母液である。一般に、母液に存在するCCI−779の量は、再結晶後の生成物の20%またはそれ以上である。一実施形態において、CCI−779生成物の25〜26%が、母液に存在する。さらに、これらの母液中のCCI−779は、CCI−779に一般に見られるより高い比率のCCI−779異性体Cを含有し、即ち、より低いB:C比を有する。一実施形態において、母液におけるB:C異性体比は、約1.5:1〜3:1、約1.5:1〜2.5:1、約2:1または約1.6:1である。
【0013】
結晶性CCI−779と対比して、母液におけるより高い比率の異性体Cの存在は、結晶化溶媒における異性体Cのより高い溶解性を示している。理論に縛られるものではないが、異性体Cは異性体Bより低い結晶性であり、それによって母液中の異性体Cの存在が増加すると考えられる。本出願人は、母液からの付加的収量を回収するために、pHの調整によって、異性体比を増加しうることを見出した。本明細書における反応式2は、所望の異性体シフトを示している。
【化2】

【0014】
前記のようにCCI−779の結晶化から得られた母液を、先ず、減圧下に濃縮する。得られた泡状物を、緩衝系、即ち、pH調整緩衝剤(緩衝液)および溶媒と合わせる。一実施形態において、緩衝液のpHは約5〜6.5である。他の実施形態において、緩衝液のpHは約5〜5.5である。
【0015】
一実施形態において、緩衝液は、酢酸ナトリウムを含有する。他の実施形態において、緩衝液は、酢酸カリウムまたは酢酸亜鉛を含有する。さらに他の実施形態において、緩衝液は、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムおよび/または酢酸亜鉛の混合物を含有する。一実施形態において、溶媒は有機溶媒である。さらなる実施形態において、有機溶媒はアセトンである。さらに他の実施形態において、有機溶媒は、テトラヒドロフラン、アセトニトリルまたは酢酸である。他の実施形態において、溶媒は、溶媒の混合物、例えば、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリルおよび対または酢酸の混合物である。一実施形態において、溶媒/緩衝液の容量比は、1.5〜1.1:1.0である。他の実施形態において、該容量比は1.1:1.0である。pHを調整するために、他の緩衝系、緩衝液、溶媒および容量比が、本発明によって考えられ、かつ当業者に公知である。
【0016】
母液からの残留泡状物および緩衝系(即ち、緩衝液および溶媒)の溶液を混合する。一実施形態において、溶液を窒素下に約20〜25℃の温度で24時間混合する。他の実施形態において、溶液を48時間混合物する。異性体B対異性体Cの比率を最大にするために、時間を調節しうる。他の実施形態において、例えばHPLCによって、混合の際に比率を監視する。
【0017】
混合後、生成物を従来手段によって分離する。一実施形態において、混合物を酢酸エチルで希釈し、ブライン溶液で洗浄する。次に、有機相(または合わせた有機相)を水およびブラインで洗浄する。次に、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、泡状物を得る。生成物を分離する他の方法は、当業者に公知であり、本発明に使用しうる。生成物の分離方法は、有機相を形成するために有機媒体の添加を含む。分離後、泡状物を、従来法、例えば析出によって、再結晶する。一実施形態において、泡状物をエーテルから再結晶する。他の実施形態において、エーテルは、ジエチルエーテルまたはt−ブチルメチルエーテルである。再結晶用の溶媒として、アセトニトリル、エーテルとヘキサンまたはヘプタンとの混合物、t−ブチルメチルエーテルとヘキサンまたはヘプタンとの混合物も使用しうる。さらに他の実施形態において、エーテルはジエチルエーテルである。一実施形態において、析出CCI−779を、例えば真空下に従来法によって、乾燥しうる。
【0018】
一実施形態において、再結晶CCI−779は、約30:1より大きいB:C異性体比を有する。他の実施形態において、再結晶CCI−779は、約45:1、または約49:1、またはそれ以上の、B:C異性体比を有する。さらに他の実施形態において、再結晶CCI−779は、約55:1、または約57:1、またはそれ以上の、B:C異性体比を有する。
【0019】
他の実施形態において、CCI−779の所望の総収量を得るために、該方法から得た母液を使用して該方法を繰り返す。一実施形態において、本発明の方法によって得られる合計総収量は、約90%、または約95%、またはそれ以上である。他の実施形態において、合計総収量は、約98%またはそれ以上である。下記の反応式3は該方法を示している。
【化3】

【0020】
以下の実施例は、本発明を例示するものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0021】
母液からのCCI−779の回収
適切な容器に、400mlの水、次に、5.5gの酢酸ナトリウムを添加することにより酢酸緩衝液(pH5〜5.5)を調製し、撹拌して、溶液を形成した。この溶液に、0.05M 酢酸(300ml)を添加し、撹拌して、酢酸緩衝液(pH5〜5.5)を形成した。2Lのフラスコに、600mlのアセトン、次に、545mlの酢酸緩衝液(pH5〜5.5)を装填した。混合物を撹拌して、均質溶液を、1.1:1のアセトン−酢酸緩衝液(pH5〜5.5)として形成する。
【0022】
500gのCCI−779母液(ジエチルエーテル溶媒)(分析物は、異性体比B:C=1.6:1を有する7.9%のCCI−779を含有していた)を、1Lのフラスコに装填した。母液を減圧濃縮して、49.85gの生成物を泡状物として得た。泡状物を750mlの1.1:1のアセトン−酢酸緩衝液に溶解させ、窒素下に20〜25℃で少なくとも24時間混合し、その間、反応の進行をHPLCで監視した。1日後、ワークアップ試料のB:Cの比率は8.1:1であり、48時間後に9:1であった。2つの異性体の比率は48時間後に同じに維持された。
【0023】
反応混合物を、1200mlの酢酸エチルで希釈し、300mlのブラインで洗浄した。水性相を分離し、300mlの酢酸エチルで抽出した。有機相を合わせ、水(300ml)およびブライン(300ml)で洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、次に、減圧濃縮して、45.45gの生成物を淡黄色泡状物として得た。泡状物をエーテル(180ml)から再結晶した。生成物を真空炉において50〜55℃で一定量まで乾燥して、22.5gの生成物を白色結晶性固形物として得、それは純度93.2%(異性体B+C)および異性体比B:C=57:1を有していた。回収率は57%であった。
【0024】
母液を減圧濃縮して、19.5gの生成物を淡黄色泡状物として得、それはB:C異性体比〜約3.3:1を有していた。泡状物を300mlのアセトン−酢酸緩衝液で20〜25℃で48時間処理した。反応混合物を450mlの酢酸エチルで希釈し、150mlのブラインで洗浄した。水性相を分離し、150mlの酢酸エチルで抽出した。有機相を合わせ、水(200ml)、ブライン(200ml)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧濃縮した後、17.24gの生成物を淡黄色泡状物として得、それはB:C異性体比9:1を有していた。工程サイクルに記載のように、この物質をエーテルから再結晶して、さらに結晶性CCI−779を得ることができる。
【0025】
本明細書で特定された全ての特許、刊行物および他の文献は、参照により本明細書に組み込まれる。当業者は、本発明から逸脱せずに、本明細書に開示した特定実施形態に記載されている条件および方法に軽微な変更を加えうることを認識する。そのような軽微な変更および変形は、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母液からCCI−779を回収する方法であって、
(a)母液を濃縮する工程;
(b)母液の濃縮によって得られたCCI−779を、約5〜約5.5のpHを有するpH調整緩衝液での処理に付す工程;
(c)混合物を溶媒抽出に付す工程;
(d)得られた有機相を乾燥し、濃縮する工程;および
(e)CCI−779を再結晶する工程
を含む方法。
【請求項2】
工程(e)から得た母液を使用して、工程(a)から(d)を繰り返す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
最終合計収率が95%を超える、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
最終合計収率が98%を超える、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
pH調整緩衝液が、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムまたは酢酸亜鉛を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
pH調整緩衝液が、酢酸ナトリウムを含有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
pH調整緩衝液を、溶媒としてのアセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリルまたは酢酸と共に使用する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
pH調整緩衝液を、溶媒としてのアセトンと共に使用する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
エーテルを再結晶に使用する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、アセトニトリル、エーテルとヘキサンもしくはヘプタンとの混合物、またはt−ブチルメチルエーテルとヘキサンもしくはヘプタンとの混合物を、再結晶用の溶媒として使用する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
溶媒がジエチルエーテルである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
(f)CCI−779を析出させる工程;および
(g)CCI−779を減圧乾燥させる工程
をさらに含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
生成されたCCI−779が、30:1より大きいB:C異性体比を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
生成されたCCI−779が、45:1より大きいB:C異性体比を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
酢酸エチルを、溶媒抽出用の溶媒として使用する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−531685(P2008−531685A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−558061(P2007−558061)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【国際出願番号】PCT/US2006/006207
【国際公開番号】WO2006/093743
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】