説明

毒性が低下したTNFファミリーのリガンド、リガンドのアゴニストの投与方法

【課題】細胞増殖が制御されなければない疾患を治療する目的で、適切な体腔へ注入するための薬物を調製する方法の提供。
【解決手段】毒性が低下したTNFファミリーのリガンド及びリガンドのアゴニストの新たな投与方法として、多量体型のTNFファミリーのリガンドを使用するものであり、TNFファミリーのリガンドはFasリガンド、CD40L, TRAILとAPRILの間から選択される。また、多量体型のTNFファミリーのリガンドは6つのモノマーからなる6量体であり、互いに集合し、モノマーの各々は式(I)のポリペプチドからなり、H-L(I)ここで、LはTNFファミリーのリガンドの可溶性細胞外画分からなるC末端のリガンド部分を表し、且つ、HはN末端の6量体部分を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毒性が低下したTNFファミリーのリガンドの新たな投与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TNF受容体ファミリーのメンバーとそれらの同族のリガンドは、哺乳動物における細胞増殖と細胞死の間のバランスの制御において主要な役割を果たしていると認識されてきた。TNFファミリーのメンバーのリガンド/受容体システムと関わる多くの機能は、細胞増殖、分化およびアポトーシスの制御と関連している。細胞死と細胞増殖の間の不均衡により、自己免疫疾患、炎症性疾患及び癌のような種々の病理学的な状態に至ることがある。
【0003】
TNF受容体ファミリーの受容体とそれらのリガンド(サイトカイン)は、過去何10年の間に研究され、本技術分野で良く知られている(Bodmer & al., TIBS, Vol.27, No.1, January 2002, pp19-27; Locksley & al., Cell 104, 487-501 (2001); Gruss and Dower, Blood, 85:3378-3404 (1995); 米国出願番号20020123116の書誌的部分、段落2-10および米国出願番号20020006391見よ)。
【0004】
TNF受容体ファミリーの受容体はI型膜貫通型蛋白質である。それらは全て、N-末端細胞外ドメイン、膜貫通及び細胞内ドメインを有する細胞表面受容体の典型的な構造を共に有する。ファミリーのメンバーの間で同定された相同性は、反復されるシステインリッチなパターンからなる細胞外ドメイン(”ECD”)の中に主として見出される。TNF受容体ファミリー蛋白質は通常蛋白分解により開裂し、同族のサイトカインの阻害剤として機能できる可溶性受容体ECDsを放出する(Nophar, Y. et al., EMBO J., 9:3269 (1990); およびKohno, T et al., Proc. Natl. Acad Sci. U.S.A.,87:8331 (1991))。
【0005】
それらの受容体とは対照的に、TNFファミリーのサイトカインは、そのC末端が細胞外の球状先端(globular head)であるII型膜貫通型蛋白質である。TNFファミリーのいくつかのサイトカインは細胞表面で蛋白分解により開裂し、可溶性サイトカインとして機能するホモ三量体分子を形成する。
【0006】
TNFファミリーの受容体は、それらのリガンドと結合したときにホモトリマーを形成する(Cha & al., J.Biol.Chem. 275, 31171-31177 (2000); Hymowitz & al., Moll. Cell 4, 563-571 (1999); Mongkolsapaya & al., Nat. Struct. Biol. 6, 1048-1053 (1999))。
【0007】
TNFファミリーのいくつかの受容体とそれらの同族のリガンドは、種々の異なった術語で同定および開示されてきた。TNF受容体スーパーファミリーは近年体系づけられており、そこで受容体遺伝子のシンボルはそれらのリガンドとの関係に基づいている:
− http://www.gene.ucl.ac.uk/nomenclature/genefamily/tnfrec2.html.。
【0008】
本技術分野でリガンドは良く知られていて種々の出版物の中で開示されており、
− http://www-personal.umich.edu/〜ino/List/996.htm;
− http://www.gene.ucl.ac.uk/nomenclature/genefamily/tnflig.html
下記のリガンドからなる。
【0009】

【0010】
TNFファミリーのリガンド/受容体相互作用の障害に関連した疾患の治療の製品と方法は本技術分野に開示されており、それは関節リウマチ又はクローン病の治療のための抗体又はリガンドを投与することからなる。
【0011】
そのような多量体型のリガンドも本技術分野において開示されており、より特異的には、リガンドの少なくとも6つの可溶性画分を含む多量体型が重合化テイルに結合している(WO 01/49866)。メガリガンドとも呼ばれているそのような多量体型は、膜結合サイトカインのアゴニストであって細胞死を誘導する。これらのメガリガンドは、良性及び悪性の腫瘍(悪性中皮炎、転移性卵巣腫瘍、グリア芽腫、転移性大腸癌を含む)、自己免疫疾患及び自己炎症性疾患を含む、細胞増殖が制御されなければならない種々の疾患を治療するために開示されている。
【0012】
しかし、それらの効力のために、これらの分子のいくつかは投与経路によっては毒性高い危険性を示すかもしれないことが見出された。即ちメガ−FasL(Fasリガンド細胞外可溶性画分のヘキサマー)をマウスに静脈注射すると、肝毒性と肝不全を通じてマウスが殆ど即死するという結果がもたらされる。
【0013】
多量体型のTNFファミリーのリガンドを体の特異的な「地理的(geographical)」地域に注射すると、同じ多量体化したリガンドの毒性が実質的に低下することが今や見出され、細胞増殖を制御しなければならない体のこれらの「地理的」地域の病理を治療することが可能となるであろう。
【0014】
本発明における体の「地理的」地域は、障壁または膜によって器官が体の残りの部分から分離された体腔である。一度その体腔に注入されると、体腔の膜又は障壁とその細胞内成分は、多量体型のリガンドが、肝臓のような本質的な器官に影響を及ぼすかもしれない一般血流に実質的に移動する事を防ぐであろう。そのような体腔には腹腔、胸腔、心嚢、気道(上部及び下部気道)、上部消化管(口腔を含む)、尿路(膀胱を含む)、関節空間及び中枢神経系が含まれる。
【0015】
そこで本発明は、多量体型のTNFファミリーのリガンドを適切な体腔に注射することからなる、細胞増殖を制御しなければならない疾患の新たな治療方法に関するものであり、そのリガンドは、Fasリガンド、CD40L、TRAILおよびAPRIL、好ましくはヒトFasリガンド、CD40L、TRAILおよびAPRILである。
【0016】
本発明は、より好ましくは、細胞増殖を制御しなければならない疾患の治療の目的で、適切な体腔に注入するための薬剤を調製するために、多量体型のTNFファミリーのリガンドを使用する方法に関し、TNFファミリーのリガンドはFasリガンド、CD40L、TRAILおよびAPRIL、好ましくはヒトFasリガンド、CD40L、TRAILおよびAPRILの間で選択される。
【0017】
適切な体腔とは、疾患と関連した細胞増殖が制御されるべき体腔である。
【0018】
上記体腔の疾患又は病理には、細胞増殖からなる全ての病理を含む。より特異的には、それの制御及び/又は治療のために細胞死が誘導されなければならない病理が含まれ、それには例えば上記体腔の癌、グリア芽腫又は中皮腫(胸膜性及び腹膜性)のような一次性腫瘍、または又は卵巣転移性腫瘍及び結腸直腸癌のような上記の体腔中に転移する任意の癌の形態に由来する二次性腫瘍がある。
【0019】
多量体型のTNFファミリーのリガンドは、TNFファミリーのリガンドの球状の(globular)可溶型細胞外画分を少なくとも4つ、好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは6つ、更により好ましくは多量体化した部分(moiety)と結合したTNFファミリーのリガンドの球状の(globular)可溶型細胞外画分を6つ含む。
【0020】
本発明の好ましい態様において、多量体型のTNFファミリーのリガンドは、6つのモノマーからなる6量体であり、互いに集合し、モノマーの各々は式(I)のポリペプチドからなり、
H-L(I)
ここでLは、Fasリガンド、CD40L、TRAILおよびAPRILの間から選択されたTNFファミリーのリガンドの、可溶性細胞外画分からなるC末端のリガンド部分を表し、且つ、HはN末端の6量体部分(moiety)を表す。
【0021】
本発明によれば、リガンド部分Lは、リガンドの可溶性細胞外画分の「全長」及び同じ画分の生物学的な機能を有する断片を含む。「生物学的な機能を有する断片」とは、本質的に同じ親和性でもって同じ受容体に結合する能力を保持した、TNFファミリーのリガンドの可溶性細胞外画分の断片である。
【0022】
好ましくはLは上記のリガンドの全長の細胞外可溶性画分である。
【0023】
本発明の態様によれば、LはヒトFASリガンド(hFasL)の細胞外領域であり、hFasLのアミノ酸Glu 139からLeu 281からなる。
【0024】
本発明の6量体は、「真の」6量体、3量体の2量体または2量体の3量体のいずれかである。最初の場合にはHは6量体したポリペプチドHPである。後者の場合にはHは2つの部分からなり、第1の部分は2量体ポリペプチド(DP)からなり、第2の部分は3量体ポリペプチド(TP)からなる。
【0025】
本発明のポリペプチドは、下記の式(1a)、(1b)および(1c)の1つで表されるポリペプチドからなり:
HP - L (1a)(「真の」6量体)、
DP - HP - L (1b)(2量体の3量体)、および
TP - DP - L (1c)(3量体の2量体)
ここでL、HP、DPおよびTPは上記のように定義されている。
【0026】
HP、TPおよびDPの例は本技術分野で良く知られていて天然の6量体、3量体または2量体ポリペプチドの単離された断片を構成し、前記の単離された断片は、前記天然の6量体、2量体又は3量体の、6量体化、2量体化又は3量体化を担っている。
【0027】
そのような分子は本技術分野で良く知られており、ACRP30又はACRP30様蛋白質(WO 96/39429, WO 99/10492, WO 99/59618, WO 99/59619, WO 99/64629, WO 00/26363, WO 00/48625, WO 00/63376, WO 00/63377, WO 00/73446, WO 00/73448又はWO 01/32868)、apM1(Maeda et al.,Biochem. Biophys. Res. Comm. 221:286-9, 1996)、C1q(Sellar et al., Biochem. J. 274: 481-90, 1991)、又はC1q様蛋白質(WO 01/02565)などのコレクチンファミリーのポリペプチドを含み、その蛋白質はコラーゲン反復Gly-Xaa-Xaa’からなる「コラーゲンドメイン」を含む。
【0028】
他のオリゴマー化したポリペプチドがこの分野に知られており、それには、カリレージ(Carilage)マトリックス蛋白質(CMP)のような、「コイルド−コイル」ドメイン(Kammerer RA, Matrix Biol 1997 Mar; 15 (8-9): 555-65; ディスカッション567-8; Lombardi & al., Biopolymers 1996; 40 (5): 495-504; http://mdl.ipc.pku.edu.cn/scop/data/scop.1.008.001.html)を有するポリペプチド、あるいはロイシンジッパー又はオステオプロテゲリン(Yamaguchi & al., 1998)を有するポリペプチドのような、2量体化ドメインを有するポリペプチドが含まれる。
【0029】
本発明の特定の態様においてHPは、C1qファミリーのポリペプチドのA, B又はC鎖の6量体化ドメインからなる。
【0030】
TPは本技術分野において知られており、CMP(即ちGeneBank 115555、アミノ酸451-493)の3量体化ドメイン(C末端部分)、又はACRP30及びACRP30様分子の3量体化ドメインからなる。本発明の好適な態様によると、TPはコラーゲン反復の鎖からなる。
【0031】
本発明によると、「コラーゲン反復の鎖」は式(II)の一連の隣接したコラーゲン反復からなり、
-(Gly - Xaa - Xaa’)n-(II)
ここでXaaとXaa’は独立にアミノ酸残基を表し、nは10から40の整数を表す。
【0032】
好ましくは、XaaとXaa’は、Ala, Arg, Asn, Asp, Cys, Gln, Glu, Gly, His, Ile, Leu, Lys, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, Trp, Tyr又はValのような天然アミノ酸の間から独立に選択される。
【0033】
好ましくは、Xaaは独立に、Ala, Arg, Asp, Glu, Gly, His, Ile, Leu, Met, Pro又はThr、より好ましくはArg, Asp, Glu, Gly, His又はThrの間から選択されたアミノ酸残基を表す。
【0034】
好ましくは、Xaa’は独立に、Ala, Asn, Asp, Glu, Leu, Lys, Phe, Pro, Thr又はVal、より好ましくはAsp, Lys, Pro又はThrの間から選択されたアミノ酸残基を表す。
【0035】
Xaa’がPro残基を表す場合には、コラーゲン反復Gly - Xaa - Proは「完全」なコラーゲン反復であると示され、他のコラーゲン反復は「不完全」であると示されている。
【0036】
本発明の好ましい態様によると、コラーゲン反復の鎖は少なくとも完全なコラーゲン反復を含み、より好ましくは少なくとも5つの完全なコラーゲン反復を含む。
【0037】
本発明の好ましい態様によると、nは15から35、より好ましくは20から30、最も好ましくは21、22、23又は24の整数である。
【0038】
本発明によるとコラーゲン反復の鎖は、2つの隣接したコラーゲン反復の間に挿入された3つまでの「非コラーゲン残基」を含むことがある。これらの「非コラーゲン残基」は1、2又は3つのアミノ酸残基からなるが、但し「非コラーゲン残基」が3つのアミノ酸残基からなる時には、最初のアミノ酸はGlyではない。
【0039】
本発明の好ましい態様によれば、TPは22のコラーゲン反復の連続鎖からなる。より好ましくは、WO 96/39429の配列番号2に表された通り、TPは配列番号1の22コラーゲン反復の鎖からなり、mACRP30のアミノ酸45から110に相当する。
Gly Ile Pro Gly His Pro Gly His Asn Gly Thr Pro Gly Arg Asp Gly Arg Asp Gly Thr Pro Gly Glu Lys Gly Glu Lys Gly Asp Ala Gly Leu Leu Gly Pro Lys Gly Glu Thr Gly Asp Val Gly Met Thr Gly Ala Glu Gly Pro Arg Gly Phe Pro Gly Thr Pro Gly Arg Lys Gly Glu Pro Gly Glu Ala
【0040】
本発明の他の態様によればTPは、WO 96/39429の配列番号7に表されたような、hACRP30のアミノ酸42から1107に相当する22コラーゲン反復の鎖からなる。
【0041】
DPは本分野で知られており、免疫グロブリンの2量体断片(Fc断片)、オステオプロテゲリンのC末端2量体化ドメイン(受容体:δN-OPG; アミノ酸187−401)、又は少なくとも6、好ましくは8から30のアミノ酸からなるポリペプチド配列であって2量体化することができるものを含む。これらのペプチドは一般的に、ジスルフィド結合を形成できるシステイン残基を少なくとも含む。本発明のDPとして有用な他のペプチドは、7残基毎に存在するロイシン残基を含んでいる「ロイシンジッパー」として表されるペプチドである。
【0042】
少なくとも一つのシステイン残基を含むそのようなペプチドの例は、下記のペプチドを含む。
・ Val Asp Leu Glu Gly Ser Thr Ser Asn Gly Arg Gln Cys Ala Gly Ile Arg Leu
・ Glu Asp Asp Val Thr Thr Thr Glu Glu Leu Ala Pro Ala Leu Val Pro Pro Pro Lys Gly Thr Cys Ala Gly Trp Met Ala
・ Gly His Asp Gln Glu Thr Thr Thr Gln Gly Pro Gly Val Leu Leu Pro Leu Pro Lys Gly Ala Cys Thr Gly Trp Met Ala
【0043】
上記の2番目の配列は、WO 96/39429の配列番号2において表されるmACRP30のアミノ酸17から44に対応し、上記の3番目の配列はWO 96/39429の配列番号7のアミノ酸15から41に対応する。
【0044】
少なくとも一つのシステイン残基を含む他のペプチドは、WO 99/10492, WO 99/59618, WO 99/59619, WO 99/64629, WO 00/26363, WO 00/48625, WO 00/63376, WO 00/63377, WO 00/73446, WO 00/73448又はWO 01/32868において開示されているようなACRP30と類似構造(ACRP30様)を有する分子のコラーゲン反復鎖の上流アミノ酸配列において見出される。
【0045】
ロイシンジッパーは本分野において良く知られており、天然蛋白質中に見出され、本分野の当業者が入手できる生物情報科学の道具を用いて最終的に同定される(http://www.bioinf.man.ac.uk/zip/faq.shtml; http://2zip.molgen.mpg.de/; Hirst, J.D., Vieth, M., Skolnick, J. & Brooks, C.L. III, Predicting Leucine Zipper Structures from Sequence, Protein Engineering, 9, 657-662 (1996))。
【0046】
本発明において、式I, Ia, Ib又はIcのポリペプチドにおける構成要素L, H, HP, TP及び/又はDPはペプチド結合によって結合している。それらは、本発明のポリペプチドの機能性、それが6量体を形成してリガンドLに相当する受容体と結合する能力には影響しない「リンカー」により分離されていてもよい。その様なリンカーは分子生物学の分野において良く知られている。
【0047】
本発明のポリペプチドはそのN末端及び/又はC末端上に、本発明のポリペプチドの機能に影響しないペプチド配列も含んでもよい。これらのペプチドは、本発明のポリペプチドを精製又は検出するために、親和性タグを備えてもよい。そのような親和性タグは本分野で良く知られており、FLAGペプチド(Hopp et al., Biotechnology 6: 1204 (1988))又はMyc-Hisタグを含む。
【0048】
本発明の好適な態様によると、Hは2量体ペプチド(DP)および3量体ペプチド(TP)を含み、最も好ましくは下記の式によって表され、
DP- TP - L(Ib)
ここでR, DP及びTPは上記と下記において規定されている。
【0049】
より好ましくは、DPとTPは共に、WO 96/39429の配列番号2において示されたmACRP30のアミノ酸17から110、又はWO 96/39429の配列番号7において示されたhACRP30のアミノ酸15から107を表す。
【0050】
本発明好ましい態様で該ポリペプチドは、mACRP30:hFasL, mACRP30:hTRAIL, mACRP30:TNFα及びmACRP30:hCD40Lの間で選択された融合蛋白質からなる。その様なポリペプチドとそれらの調製物はWO 01/49866において開示され、その内容をこの中で参照として本願明細書に援用する。
【0051】
本発明の他の態様によると6量体部分は、WO 03/068977において開示されたようなgi2765420のアミノ酸248から473からなる、IgGのFc部分からなり、その内容をこの中で参照として本願明細書に援用する。
【0052】
本発明の方法において多量体型のリガンドは、前記多量体型のリガンドを含む薬剤組成物の形で注射され、該組成物は前記多量体型のリガンドを、それを注射により投与するのに適した薬学的に許容される担体中に含んでいる。
【0053】
薬剤組成物の調製に使用される適切な担体、アジュバント、保存剤等は本分野で良く知られている(Gennaro (ed.), Remington’s Pharmaceutical Sciences, 19th Edition (Mack Publishing Company 1995))。
【0054】
本発明の多量体型のリガンドは、その濃度がそれらの同族の受容体と結合して細胞死を誘導するのに十分となるような態様で患者に投与される。
【0055】
本発明の好適な態様として薬剤組成物は、該薬剤組成物の全重量に基づいて、本発明の多量体型のリガンドを0.1から0.01重量%、より好ましくは2.5から100%含む。本発明の組成物が多量体型のリガンドを100%含むときには、それは好ましくは凍結乾燥した形においてである。
【0056】
多量体型のリガンドは、一日あたりの全用量が0.0001から0.2mg/Kg/日、好ましくは0.001から0.1mg/Kg/日となるために十分なレベルで、毎日1回から4回投与される。
【0057】
本発明の方法において多量体型のリガンドを、単独で、あるいは一つ又はそれ以上の他の治療手段と組み合わせて使用することができる。
【0058】
「治療手段」とは、本発明において、同じ疾患の治療に適した他の分子又は組成物のみならず、放射線療法、科学療法、又は最終的には手術のような、同じ疾患の治療の分野で知られている他の手段も含むものと解されるものである。
【0059】
同じ疾患の治療に適した他の分子又は組成物は本分野で良く知られており、「腫瘍学」の表題の下でビダール辞典(2003年版)の中で、メルクインデックスの中で、又は医師用添付文書集の中で列挙されたいずれかの分子あるいは組成物などがある。
【0060】
他の分子又は組成物には、細胞のアポトーシス感受性を促進する事ができる様な分子又は組成物も含まれる。WO 98/44104の中で開示されたFLIP分子のような、細胞死の制御に関与している細胞内蛋白質も本分野で知られている。細胞中におけるFLIP蛋白質の過剰発現はアポトーシスを阻害できることが示された。逆にFLIPの阻害又はFLIP発現の阻害は、アポトーシスへの細胞の感受性を促進することができた。FLIP又はFLIP発現を阻害する分子は本分野で知られており、それは例えばWO 98/44104の中で開示されたアンチセンス分子、又は本分野で良く知られた方法で調製された干渉RNA分子(RNAi又はdsRNA)であり、そのような方法は例えばWO 00/44895, WO 02/55692又はWO 02/55693の中で開示され、その内容をこの中で参照として本願明細書に援用する。本発明の方法では、多量体型のリガンドをFLIP発現を阻害するアンチセンス又はdsRNA等と組み合わせて注射することができる。
【0061】
本発明において他の手段と組み合わせての注射又は「使用」とは、多量体型のリガンドと他の手段を、同時に、別々に又は順次に使用することからなる。同時使用のために、多量体化したリガンドと他の手段、好ましくは他の分子又は組成物を、同じ薬剤組成物中で共に注射することも可能であり、又は2つの別の組成物として注射前にその場で混合するやり方で注射することも可能である。順次投与においては、多量体型のリガンドと他の手段、好ましくは他の分子又は組成物は、2つの別個の組成物である。他の分子又は組成物を、経口投与又は静脈注射などの通常の方法によって使用することができる。
【0062】
本発明は、細胞増殖が制御されなければならない疾患の治療の目的で、適切な体腔へ注射するために、上記で規定したようなTNFファミリーの上記多量体型のリガンドを薬剤を調製するために使用する方法にも関連する。
【実施例】
【0063】
本発明を下記の実施例で更に説明する。述べられた以外では、全ての実施例は、分子及び/又は細胞生物学の当業者に良く知られている標準的な技術を用いて実施された(即ち、T, Maniatis, E. F. Fritsch, J. Sambrook, Molecular Cloning, 1982.; M Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Eds., Willey, New York, 2000)。
【0064】
実施例1:腹腔内対静脈注射のマウスにおけるメガ-FasLの毒性の試験
実験設計:
下記に示す様に8から10週齢の雌のBalb/cマウスを10の処理グループの一つに振り分けた。生理食塩水溶液又はメガ-FasLのいずれかの腹腔又は静脈注射をマウスに施す。1日目にマウスに注射をし、2時間、6時間、24時間及び48時間後に出血させるか、又はALTとASTの定量化をする。48時間後に生存率を測定してマウスを屠殺する。
【0065】

【0066】
肝機能試験:
注射して2時間、6時間、24時間及び48時間後にマウスを出血させた(注射した日は0日目である)。20μgのヘパリンを含んでいるエッペンドルフチューブに血液(200μl)を採取する(リクエミン ロッシュ:Liquemine Roche)。卓上型遠心機でエッペンドルフを3分間5000rpmで遠心する。新たなチューブに血漿を採取して-80℃で貯蔵する。
【0067】
結果を下記の表に表す。表1はメガ-FasLを静脈投与した(グループ1から5)後の、所定の時間(2、6、24と48時間)におけるマウスのALTレベルを表す。表2は、メガ-FasLを腹腔内投与した(グループ6から10)後の、所定の時間(2、6、24と24時間)におけるマウスのALTレベルを表す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
本発明における腹腔内投与の後における所定の時間でのALTレベルは、静脈投与と比較して10倍以上も低かった。対照のALTレベルは、35と51 U/lの間であった。48時間後における生存率を測定して下記の表3に報告した。
【0071】
【表3】

【0072】
血漿中のALTレベルは肝機能を表す。増加したALTレベルは特異的に肝障害を示す。そこで表2に表した結果は、本発明により腹腔内注射されたメガ-FasLは、緩和な肝障害を引き起こすが、一方、静脈注射されたメガ-FasLは、グループ2と3において見られるように、死に至る重篤な肝障害を引き起こす。
【0073】
本発明による多量体型のTNFファミリーのリガンドを投与すると、低いALTレベルと100%の生存率で、より高い用量のリガンドを投与することができるが、同じ用量を静脈注射した時には0%の生存率が観察された。
【0074】
実施例2:メガ-FasLでSKOV3異種移植腫瘍を治療するための最小の治療時間間隔の決定
SKOV3細胞株は卵巣癌のモデルとして広く使用されている。メガ-FasLは、インビトロ(IC50 100ng/ml)でSKOV3のプログラムされた細胞死を引き起こす。そこで、インビボで移植されたSKOV3腫瘍におけるメガ-FasLの有効性を試験することは興味深い。
【0075】
実験設計
下記に示すようにマウスを4つの処理のグループの一つに振り分けた。前処理として0日目に、グループ1から4のマウスは0.5mlのSKOV3細胞の腹腔内注射を受けた。各グループを下記のプロトコールに従って処理した。マウスを22日目に屠殺し、癌の成長を検死により評価した。
【0076】

【0077】
動物
マウスの系統:アシミックヌード(Athymic nude) 性別:雌
年齢:6週齢 起源:ハーラン(Harlan)
グループあたりの動物数:6
グループの数:4
マウスの総数:24
【0078】
動物の追跡調査
体重
顕微解剖+腫瘍重量、組織学、凍結組織学
腹膜壁の写真
【0079】
手順
前処置(癌注射)
グループ:1−4(24匹のマウス)
細胞株:SKOV3 型:卵巣癌 起源:細胞培養物
マウスあたりの細胞用量: 500μlのPBS中に5 x 106細胞 腹腔内投与
必要とされる総細胞数:適用せず(N/A)
注射のスケジュ−ル:0日目(2004年1月26日)
細胞:PBS中で5 x 106のSKOV3細胞
処置
グループ1:メガ-FasL0日目
メガ-FasLで処置するために、10μgのメガ-FasLのバイアルを10μlの水の中に希釈する(1μg/μlの貯蔵溶液)。90μlのPBSの中に10μlの貯蔵溶液を希釈することにより、作業溶液を作る(0.1μg/μlの作業溶液)。適切な量のメガ-FasL作業溶液をPBSと混合することにより処置溶液を調製する(処置表を見よ)。500μlのメガ-FasL処置溶液をマウスに腹腔内注射する。最終的なメガ-FasL用量:25μg/kg
グループ2:メガ-FasL2日目
グループ1であり、同様に2日目に開始する。
グループ3:メガ-FasL7日目
グループ1と同様であり、7日目に開始する。
グループ4:マウスあたり500μlのPBS
【0080】
スケジュール
0日目:1月26日 SKOV3細胞を回収する。5 x 106細胞/mlで再懸濁する。前処置:
500μlの細胞をマウスへ腹腔内注射する
処置:グループ1と4:グループに対応する処置の注射
1日目:1月27日 処置:グループ1と4:グループに対応する処置の注射
2日目:1月28日 処置:グループ1、2と4:グループに対応する処置の注射
3日目:1月29日 処置:グループ2:グループに対応する処置の注射
4日目:1月30日 処置:グループ2:グループに対応する処置の注射
7日目:2月2日 処置:グループ1から4に対応する処置の注射
8日目:2月3日 処置:グループ1から4に対応する処置の注射
9日目:2月4日 処置:グループ1から4に対応する処置の注射
14日目:2月9日 処置:グループ1から4に対応する処置の注射
15日目:2月10日 処置:グループ1から4に対応する処置の注射
16日目:2月11日 処置:グループ1から4に対応する処置の注射
22日目:2月17日 分析:マウス検死
【0081】

【0082】
メガ-FasLを腹腔内投与すると腹膜の癌の移植が阻害され、卵巣癌のSKOV3異種移植モデルにおいて固形癌の負荷を軽減させた。0日目にメガ-FasLで処置をした後には癌の負荷は最小である(グループ1)。メガ-FasL処理をする時間の間隔が長くなると癌の負荷は増加するが、7日目においてもなおコントロールと比較すると低かった。
【0083】
実施例3:メガ-FasLによりSKOV3を治療する経路と用量を比較する
実験設計
下記に示すようにマウスを4つの処理グループの一つに振り分けた。前処理として、グループ1から4のマウスは0.5mlのSKOV3細胞の腹腔内注射を0日目に受けた。各グループを下記のプロトコールに従って処理した。マウスを22日目に屠殺し、癌の成長を検死の後に評価した。
【0084】

【0085】
動物
マウスの系統:アシミックヌード(Athymic nude) 性別:雌
年齢:6週齢 起源:ハーラン(Harlan)
グループあたりの動物数:6
グループの数:4
マウスの総数:24
【0086】
動物の追跡調査
体重
検死における肉眼検査
検死における顕微解剖、組織学、凍結組織学
【0087】
1.前処置(癌注射)
グループ:1−4(24匹のマウス)
細胞株:SKOV3 型:卵巣癌 起源:細胞培養物
マウスあたりの細胞用量: 500μlのPBS中に5 x 106細胞 腹腔内投与
必要とされる総細胞数:120 x 106
注射のスケジュ−ル:0日目(2004年3月1日)
細胞:PBS中で107細胞/mlのSKOV細胞
【0088】
処置
メガ-FasLで処置をするために、100μgのメガ-FasLのバイアルを100μlの水の中に希釈する(1μg/μlの貯蔵溶液)。900μlのPBSの中に100μlの貯蔵溶液を希釈することにより、作業溶液を作る(0.1μg/μlの作業溶液)。適切な量のメガ-FasL作業溶液をPBSと混合することにより処置溶液を調製する(処置表を見よ)。500μlまたは200μlのメガ-FasL処置溶液をそれぞれ、マウスに腹腔内注射または静脈注射する。
グループ1:マウスあたりPBS 500μl
グループ2:メガ-FasL0日目/ 25μg/kg / 腹腔内投与
グループ1と同様であり、2日目に開始する。
グループ3:メガ-FasL0日目/ 5μg/kg / 腹腔内投与
グループ1と同様であり、7日目に開始する。
グループ4:メガ-FasL0日目/ 25μg/kg / 静脈投与
【0089】
スケジュール
0日:3月1日 SKOV3細胞を回収する。5 x 106細胞/mlで再懸濁する。
前処置:500μlの細胞をマウスへ腹腔内注射する
処置:グループ1から4:グループに対応する処置の注射
1日:3月2日 処置:グループ1から4:グループに対応する処置の注射
2日:2月3日 処置:グループ1から4:グループに対応する処置の注射
7日:3月8日 処置:グループ1から4:グループに対応する処置の注射
8日:3月9日 処置:グループ1から4:グループに対応する処置の注射
9日:3月10日 処置:グループ1から4に対応する処置の注射
14日:3月15日 処置:グループ1から4に対応する処置の注射
15日:3月16日 処置:グループ1から4に対応する処置の注射
16日:3月17日 処置:グループ1から4に対応する処置の注射
31日:4月1日 分析:マウス検死
【0090】
結果を下記に要約する。
PBS 大きな腹膜壁の腫瘍結節。脾臓、肝ストークと横隔膜:腫瘍沈着
グループ2 腹膜壁の腫瘍移植なし。脾臓、肝ストークと横隔膜の腫瘍沈着少ない(数と大きさ)。炎症性滲出液(腹膜癒着)。
グループ3 腹膜壁の腫瘍結節(コントロール以下)。固形癌沈着物(コントロール以下)。炎症性滲出液なし。
グループ4 腹膜壁の腫瘍結節。固形癌沈着物。炎症性滲出液なし。
【0091】
腹腔内投与した後に、メガ-FasLは5μg/kgよりも25μg/kgで効果がより大きかった。25μg/kgで、腹腔内注射の経路は静脈注射よりも効果がより大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞増殖が制御されなければならない疾患を治療する目的で、適切な体腔へ注入するための薬物を調製するための、多量体型のTNFファミリーのリガンドの使用方法であって、TNFファミリーの該リガンドがFasリガンド、CD40L, TRAILとAPRILの間から選択された前記使用方法。
【請求項2】
前記体腔が、腹腔、胸腔、心嚢、気道(上部及び下部気道)、上部消化管(口腔を含む)、尿路(膀胱を含む)、関節空間及び中枢神経系の間から選択される、請求項1記載の使用方法。
【請求項3】
上記体腔の疾患又は病理が、それを制御及び/又は治療するために細胞死が誘導されなければならない病理を含む、請求項1又は請求項2記載の使用方法。
【請求項4】
前記疾患又は病理が、前記体腔の癌、グリア芽腫又は中皮腫(胸膜性及び腹膜性)のような一次性腫瘍、又は卵巣転移性腫瘍及び結腸直腸癌のような上記の体腔中に転移する任意の癌の形態に由来する二次性腫瘍である、請求項3記載の使用方法。
【請求項5】
前記多量体型のTNFファミリーのリガンドは、TNFファミリーのリガンドの可溶型細胞外画分を少なくとも4つ、好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは6つ、更により好ましくは多量体化した部分と結合したTNFファミリーのリガンドの可溶型細胞外画分を6つ含む、請求項1から請求項4のいずれか一つの請求項記載の使用方法。
【請求項6】
前記多量体型のTNFファミリーのリガンドは6つのモノマーからなる6量体であり、互いに集合し、モノマーの各々は式(I)のポリペプチドからなり、
H-L(I)
ここで、LはTNFファミリーのリガンドの可溶性細胞外画分からなるC末端のリガンド部分を表し、且つ、HはN末端の6量体部分を表す、請求項1から請求項5のいずれか一つの請求項記載の使用方法。
【請求項7】
LがヒトFasリガンドである請求項6記載の使用方法。
【請求項8】
HがmACRP30のアミノ酸17から110又はhACRP30のアミノ酸15から107からなる、請求項6又は請求項7記載の使用方法。
【請求項9】
前記TNFファミリーのリガンドがヒトFasリガンドである、請求項1から請求項5のいずれか一つの請求項記載の使用方法。
【請求項10】
Fasリガンドが、ヒトFasリガンド(hFasL)の細胞外ドメインであり、hFasLのGlu139からleu281からなる、請求項6から請求項9のいずれか一つの請求項記載の使用方法。

【公開番号】特開2011−102322(P2011−102322A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−10153(P2011−10153)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【分割の表示】特願2004−156432(P2004−156432)の分割
【原出願日】平成16年5月26日(2004.5.26)
【出願人】(508204490)トポターゲット、スウィッツァランド、ソシエテ、アノニム (2)
【氏名又は名称原語表記】TOPOTARGET SWITZERLAND SA
【Fターム(参考)】