説明

比熱容量測定方法及び装置

【課題】 パルス通電加熱法を利用した導電性物質の比熱容量の測定に際して、試料の温度分布と熱伝導損失を考慮することにより正確な比熱容量の測定を可能にする。
【解決手段】 導電性試料にパルス電流を流して加熱し、前記通電加熱された試料の温度を計測することにより試料の比熱容量を測定する方法において、下記の式により比熱容量を計算する。また、パルス通電加熱した後の冷却時においても小電流を試料に流すことにより、冷却時における試料の平均電気抵抗率を測定し、昇温時と降温時の試料全体の平均温度が一致する時間を平均電気抵抗率が一致する時間と見なすことにより特定し、下記の式により比熱容量を計算する。
【数8】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種物質の比熱容量を測定する方法及び装置に関し、特にパルス通電加熱法を利用した比熱容量測定方法及びその方法を実施する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な温度で使用される各種機器の構成材料等について、熱の移動と蓄積に関わる比熱容量を正確に測定することが強く望まれている。近年、導電性物質についての比熱容量の測定に際して、被測定材料である試料に大電流パルスを流して急速に通電加熱し、その際の試料の昇温と降温過程のそれぞれで測定される温度変化率及び加熱時の試料電圧及び電流から比熱容量を決定することを特徴とするパルス通電加熱法を利用した比熱容量測定方法が用いられるようになっている。
【0003】
パルス通電加熱法を利用した比熱容量測定方法においては、例えば図2に示すような装置が用いられる。図2に示す装置においては、大容量のコンデンサやバッテリーから導電性試料にパルス状の大電流(パルス幅が1秒以下)を流す。図2に示す装置においては、試料11に対してバッテリーバンク12から、可変抵抗13、電流供給の開始と終了を制御するリレースイッチ14、標準抵抗15を各々介して所定のパルス電流を試料に流す。このパルス電流は、図示されたリレースイッチ4を短時間だけ閉じることにより発生させ、試料をジュール熱によって急速に直接加熱する。
【0004】
試料に直列接続した標準抵抗15の両端の電位差をADコンバータ16を介した信号記録及びスイッチ制御用コンピュータ18により測定し、その電位差を標準抵抗の電気抵抗値で割ることにより試料11を流れる加熱電流の大きさを決定する。また、試料11の電位差をADコンバータ17を介した信号記録及びスイッチ制御用コンピュータ18により測定する。上記の電流と電位差の積から試料11に発生する単位時間あたりのジュール熱を決定する。
【0005】
上記のようにパルス通電加熱された試料11の温度は、放射温度計19によって連続測定する。その際、試料が加熱されている間の熱収支関係は次式で表される。
【数1】

・・・・(1)
【0006】
一方、リレースイッチ4を開放するかバッテリーバンク12に蓄えられていた電荷が全て放出してジュール熱が発生しなくなることにより生じる試料冷却過程における試料の熱収支関係は以下で表される。
【数2】


・・・・(2)
式中の(dT/dt)cは冷却時の試料温度変化率である。
【0007】
試料の温度が等しい場合の式(1)と式(2)を組み合わせることにより、比熱容量は次式により決定される。
【数3】


・・・・(3)
【0008】
(3)式から明らかなように、1回のパルス通電加熱によって生じる試料の昇温・降温過程それぞれで測定される温度変化率並びに加熱時の試料電圧・電流から比熱容量は決定される。
なお、パルス通電加熱法により比熱容量を測定する技術は、下記特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平3−237346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のように公知の方法である「パルス通電加熱法を利用した導電物質の比熱容量の測定法」では、パルス通電加熱によって生じる急速な昇温・冷却過程においては試料の温度分布は均一であると共に、試料から試料に接触する物体への熱伝導損失は無視できると仮定して比熱容量を導出している。また、試料の温度分布が均一であるとの仮定の上に、試料のごく狭い範囲の温度(通常は試料表面の中心)を放射温度計等の非接触温度計により測定することで試料全体を代表する温度(平均温度)を決定している。
【0010】
しかし、試料の温度分布が均一であるという仮定は少なくとも試料冷却時には成り立たないことが、最近の研究から明らかになってきている。図3はパルス通電終了後の冷却時(t>t0)における試料(試料中心の位置をx = 0とする。)の温度分布の時間変化を模式的に示している。同図に示すように、冷却時には、時間の経過につれて試料を保持する端子や試料の電位差を測定するプローブへの熱伝導損失により、試料の長さ方向の温度分布は弓形に変化する。
【0011】
上記式(3)中で使われる温度変化率やジュール熱は、加熱・冷却時の試料温度(平均温度)が等しい時に測定された値であるべきだが、従来の方法では測定される試料中心の温度が平均温度と等しいと見なしているため、実際には異なる平均温度の時の測定値を用いて比熱容量を算出している。図3に模式的に示すように、熱伝導損失により冷却時には温度分布が弓形になるため、測定する試料表面の中心温度が同じ温度でも試料の平均温度は昇温時の方が高くなる。それゆえ、従来の測定方法は測定原理式に反する。また、試料に有意な温度勾配が存在する場合、従来の方法では無視されている熱伝導の効果を考慮する必要もある。したがって、「パルス通電加熱法を利用した導電物質の比熱容量の測定法」の信頼性を向上するためには、現実に存在する温度勾配と熱伝導損失を考慮した上で比熱容量を決定する必要がある。
【0012】
そこで、本発明は、パルス通電加熱法を利用した導電性物質の比熱容量の測定に際して、試料の温度分布や熱伝導損失を考慮して測定できるようにすることにより、正確な比熱容量の測定を可能にすることを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記従来のパルス通電加熱法を利用した導電物質の比熱容量の測定手法では、試料の温度分布が均一と仮定して測定を行っており、実際には温度分布が均一でないため誤差を生じていたのであるが、本発明では試料に温度勾配が存在するとして比熱容量を導出できる新しい原理式を開発し、更にその原理式によって実際に比熱容量を計測する手法を開発した。
【0014】
以下に本発明による比熱容量測定の新しい原理式について説明する。
加熱中における試料表面中心の微小空間の熱収支式を以下のように表す。
【数4】

・・・・(4)
なお、加熱時には試料の温度分布は均一と仮定して、前記(4)式では試料表面中心の温度は試料全体の平均温度と等しいと見なすと共に熱伝導の効果を無視した。
【0015】
一方、冷却時における試料の温度分布は試料表面中心を極大とする弓形の温度プロファイルと考えられるが、試料の平均温度と等しい温度である試料内微小空間の位置をxavとすると、xavの微小空間の熱収支式は以下のように表される。
【数5】

・・・・(5)
【0016】
もし、
【数6】

となるので、前記(4)式から(5)式を除くと次式に示す関係となり、
【数7】

上式から、比熱容量は次式により求められる。
【数8】

・・・・(6)
【0017】
式(6)により比熱容量を算出するためには、冷却時における試料温度の時間と位置の依存性に関するパラメータが必要となる。試料温度の時間及び位置依存性を直接測定することが困難な場合、試料温度分布の現実の姿に近いと考えられるモデルを仮定して前記必要なパラメータを決定する。温度プロファイルは試料中心を頂点とする弓形になると予想されるので、例えば、冷却時における試料温度分布が次に示す時間と位置の関数で表されると仮定する。
【数9】

・・・・(7)
式中のc(tc)は時間tcにおけるxの2次項の係数、xの原点は試料の中心、Tp,cは放射温度計等で測定される時間tcにおける試料表面の中心温度である。そして、c(tc)を決定するため次に示す試料の平均温度の定義式を用いる。
【数10】

・・・・(8)
式中のLは試料長(試料電位差測定用プローブ間距離)を示す。そして、式(8)に式(7)を代入することにより、c(tc)は、
【数11】

【0018】
時間tcにおける試料の平均温度Tav,cは、平均電気抵抗率が同値である加熱中の時間thにおける試料の平均温度Tav,hと等しい。また、加熱中の試料は温度分布が均一と見なせるので、Tav,hは時間thにおける試料表面の中心温度Tp,hと等しい。結果として、c(tc)は直接測定が容易なTp,h、Tp,c、Lを用いて次式により決定できる。
【数12】

・・・・(9)
時間tcにおける試料の中心温度Tp,cから平均温度Tav,cを引いた値は、次に示すように測定されるTp,hとTp,cの値から間接的に導出できる。
【数13】

これまでの議論から、式(6)により比熱容量を算出するために必要な試料温度の時間と位置の依存性に関するパラメータの値は次のように求められる。
【数14】

【0019】
これらの関係式を用い、比熱容量を算出する式(6)は下記に示す実測可能なパラメータで構成された種々の式で表すことができる。
【数15】

【数16】

【0020】
上述の数[8]「15][16]の各式は試料冷却時における全ての時間で成立するが、試料温度が最大になる時点すなわち加熱終了時/冷却開始時においては、試料の温度勾配は零であると見なせるため、上述の式の分子において、第1項以外の項を無視した次式により比熱容量の算出を行うことができる。
【数17】

【0021】
また、試料の平均電気抵抗率は、試料の電圧Vおよびに試料に流れる電流値を算出するため試料に直列接続した標準抵抗の電圧Vsrの測定値から得られるが、電圧測定誤差ΔV(電圧測定値から差し引くべき誤差電圧)を含むため、本来は一致するべき試料の加熱終了時と冷却開始時の平均電気抵抗率が一致しない事があり、そのような場合、補正すべき電圧測定誤差ΔVは、試料の加熱終了時と冷却開始時の平均電気抵抗率が等しいとする関係を用いることで次式により求められる。
【数18】

試料の加熱終了時の試料電圧値:Vh
試料の加熱終了時の標準抵抗の電圧値:Vsr,h
試料の冷却開始時の試料電圧値:Vc
試料の冷却開始時の標準抵抗の電圧値:Vsr,c

【0022】
本発明は上記のように、試料冷却時においては試料の温度分布が不均一であるとする現実的な前提の基に比熱容量を算出する新しい測定原理式を提案するものである。
また、本発明は前記新しい測定原理式を実施するための方法として電気抵抗率が温度の関数であることに着目し、直接測定が困難な試料全体の平均温度の代わりに直接測定が容易な試料全体の平均電気抵抗率が一致する時の温度変化率を利用して正確な比熱容量の測定を行うことを可能とする。
【0023】
本発明は上記手法を採用するため、従来の方法では、冷却中には試料に電流を流さないのに対して、本発明においては電気抵抗率を測定するために冷却時においてもわずかに電流を流す。
【0024】
上記新しい測定原理を実施するための別の手段として、試料の複数の点について温度(もしくは熱放射強度)を測定し、それにより平均温度が一致する時間を特定する。複数の温度を測定する方法として、別に何台か放射温度計を用いるか高速度カメラ等で熱放射強度の分布を直接測る方法が考えられる。
【0025】
上記のような手法を用いる本発明に係る比熱容量測定方法は、導電性試料にパルス電流を流して直接通電加熱し、前記通電加熱された試料の温度を計測することにより試料の比熱容量を測定する方法において、下記の式により比熱容量を計算することを特徴とする。
【数19】

【0026】
また、本発明に係る他の比熱容量測定方法は、前記比熱容量測定方法における前記式において、試料内での温度勾配が実質的に零である条件により、前記式を簡略化して得られる下記の式により比熱容量を計算することを特徴とする比熱容量測定方法。
【数17】

【0027】
また、本発明に係る他の比熱容量測定方法は、前記比熱容量測定方法において、前記パルス電流を流して直接通電加熱した後の冷却過程においても小電流の通電を継続し、冷却時における試料の平均電気抵抗率を測定することを特徴とする。
【0028】
また、本発明に係る他の比熱容量測定方法は、前記比熱容量測定方法において、導電性試料にパルス電流を流して直接通電加熱し、前記通電加熱された試料の温度を計測することにより試料の比熱容量を測定する方法において、加熱終了時と冷却開始時において平均電気抵抗率を一致させるために補正すべき電圧測定誤差ΔV(電圧測定値から差し引くべき誤差電圧)を下記の式により決定する事を特徴とする。
【数18】

試料の加熱終了時の試料電圧値:Vh
試料の加熱終了時の標準抵抗の電圧値:Vsr,h
試料の冷却開始時の試料電圧値:Vc
試料の冷却開始時の標準抵抗の電圧値:Vsr,c
【0029】
また、本発明に係る他の比熱容量測定方法は、前記比熱容量測定方法において、試料全体の平均電気抵抗率を計測し、試料の加熱時と冷却時における試料全体の平均温度が一致する時間を、試料の平均電気抵抗率が一致する時間として特定することを特徴とする。
【0030】
また、本発明に係る他の比熱容量測定方法は、前記比熱容量測定方法において、前記試料の温度測定に際して、試料の複数の点について温度または熱放射強度を測定し、昇温時と降温時における試料全体の平均温度が一致する時間を特定することを特徴とする。
【0031】
また、本発明に係る他の比熱容量測定方法は、前記比熱容量測定方法において、前記加熱用パルス電流、及び該パルス通電後の冷却時においても試料の平均電気抵抗率を測定するために試料に流す電流の大きさを、電界効果型トランジスタ等の半導体素子により制御することを特徴とする。
【0032】
また、本発明に係る比熱容量測定装置は、導電性試料にパルス電流を流して直接通電加熱する電流供給手段と、前記通電加熱された試料の温度を計測する温度計測手段とを備え、下記の式により比熱容量を計算することを特徴とする。
【数19】

【0033】
また、本発明に係る他の比熱容量測定装置は、前記比熱容量測定装置において、請求項1記載の前記式において、試料内での温度勾配が実質的に零である条件により、前記式を簡略化して得られる下記の式により比熱容量を計算することを特徴とする。
【数17】

【0034】
また、本発明に係る他の比熱容量測定装置は、前記比熱容量測定装置において、前記電流供給手段は、試料をパルス通電加熱した後の冷却時においても小電流の通電を継続し、冷却時における試料の平均電気抵抗率を測定する電気抵抗率測定手段を備えたことを特徴とする。
【0035】
また、本発明に係る他の比熱容量測定装置は、前記比熱容量測定装置において、導電性試料にパルス電流を流して直接通電加熱し、前記通電加熱された試料の温度を計測することにより試料の比熱容量を測定する方法において、加熱終了時と冷却開始時において平均電気抵抗率を一致させるために補正すべき電圧測定誤差ΔV(電圧測定値から差し引くべき誤差電圧)を下記の式により決定する事を特徴とする。
【数18】

試料の加熱終了時の試料電圧値:Vh
試料の加熱終了時の標準抵抗の電圧値:Vsr,h
試料の冷却開始時の試料電圧値:Vc
試料の冷却開始時の標準抵抗の電圧値:Vsr,c
【0036】
また、本発明に係る他の比熱容量測定装置は、前記比熱容量測定装置において、試料の平均電気抵抗率を計測する手段を備え、試料の加熱時と冷却時における試料全体の平均温度が一致する時間を、試料全体の平均電気抵抗率が一致する時間として特定することを特徴とする。
【0037】
また、本発明に係る他の比熱容量測定装置は、前記比熱容量測定装置において、前記温度計測手段は、試料の複数の点について温度または熱放射強度を測定し、前記温度計測手段により試料全体の平均温度が一致する時間を特定することを特徴とする。
【0038】
また、本発明に係る他の比熱容量測定装置は、前記比熱容量測定装置において、前記加熱用パルス電流、及び該パルス通電後の冷却時においても試料の平均電気抵抗率を測定するために試料に流す電流の大きさを制御する電界効果型トランジスタ等の半導体素子を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
試料の温度分布が均一と仮定するため、従来の方法で得られた比熱容量は大きな系統誤差を含むのに対して、本発明は上記のように構成したため、冷却時においては試料の温度分布は不均一であるという現実的な前提を基にして正確な比熱容量を測定できる。試料の温度分布が不均一であるとの前提を基に、熱移動に関係する別の熱物性である半球全放射率を本研究と同様な手法により測定した結果は、温度分布を均一と仮定して測定を行った従来の値より10%以上大きいことを確認した。また、本発明による比熱容量測定方法は、従来の装置の電流制御部について改造するだけで実現できるため、改造コストも安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明による比熱容量測定方法は、パルス通電加熱された試料における温度分布と熱伝導損失を考慮して比熱容量を測定するという課題を解決するために、前記通電加熱された試料の温度と発生するジュール熱を計測することにより試料の比熱容量を測定する際、試料の温度分布と熱伝導損失を考慮した所定の式により比熱容量を計算するようにし、試料をパルス通電加熱すると共にその後の冷却時においても試料の平均電気抵抗率を測定するために小電流の通電を継続することができる電流供給手段と、前記通電加熱された試料の温度を計測する温度計測手段とを備え、所定の式により比熱容量を計算する。
【実施例1】
【0041】
本発明は前記新しい原理式に基づき比熱容量を測定することによって、試料温度分布の不均一性や熱伝導損失を考慮することにより正確な比熱容量を算出することができるものであるが、その測定に際しては例えば図1に示すような装置を用い、以下に述べるような測定手法によって正確な比熱容量を測定することができる。
【0042】
図1に示す例においては、本発明を理解し易くするため、前記従来の装置の構成をできる限り変更することなく実施した例を示しているが、本発明はこの基本原理にしたがって、更に各種の態様で実施することができる。
【0043】
図1に示す装置においても前記図2に示す従来の装置と同様に、導電性の試料1に対して大容量のバッテリーバンクからパルス幅が1秒以下のパルス状の大電流を流す。図1に示す装置においては、バッテリーバンク2から、大電流の高速制御が可能な電界効果トランジスタにより構成された半導体スイッチ4、標準抵抗5を介して所定のパルス電流を流す。この時流すパルス電流は、前記従来の方法と異なり、半導体スイッチ4を制御して大電流を短時間だけ試料1に流して試料を急速に直接通電加熱した後の冷却時においても試料に小電流が流れるように半導体スイッチ4を制御する。
【0044】
前記従来の装置と同様に、標準抵抗5の両端の電位差をADコンバータ6を介して信号記録及びスイッチ制御用コンピュータ8により測定して、試料1を流れる加熱電流の大きさを測定する。また、試料1における電位差をADコンバータ7を介して信号記録及びスイッチ制御用コンピュータ8により測定して、試料1にかかる電位差の大きさを測定する。
【0045】
上記のようにして加熱された試料1の温度を、数十マイクロ秒程度の時間分解能をもつシリコンフォトダイオードを検出素子とする放射温度計9によって測定し、その信号を信号記録及びスイッチ制御用コンピュータ8に入力する。
【0046】
本発明による装置においては、従来の装置では冷却過程は単純に回路中のリレースイッチを開放して試料に流れる電流を零としているため、試料の平均電気抵抗率を冷却時には測定できなかったのに対して、新しく半導体スイッチ4を用いて通電制御を行うことで、完全に通電を停止すること無く試料の冷却過程を実現できるため、冷却時における試料の平均電気抵抗率も測定することができることにより、前記新しい測定原理式に基づく比熱容量の測定を実行することができる。
【0047】
また、前記実施例において試料の温度測定に際して、試料の複数の点について温度(もしくは熱放射強度)を測定することにより実際に試料の平均温度が一致する時間を特定してもよい。平均温度を測定する方法としては種々の手法を採用できるが、例えば別に何台か放射温度計を用いる手法、高速度カメラので熱放射強度の分布を測る手法も用いることができる。
【0048】
以上で述べてきた本発明について所望の効果が得られるかを確認するため、モリブデン(純度99.95重量%)について比熱容量の測定を行い、その結果の1例を図4に示す。同図において本発明の結果を黒丸で示す。図中の菱形と直線は、モリブデンの比熱容量の信頼できる文献データであり、その出典は[著者:A. Cezairliyan、雑誌名:International Journal of Thermophysics、巻数:4、ページ:159-171、掲載年:1983]である。図中のエラーバーは文献データの不確かさの大きさ(±3%)を表しており、本発明を用いた結果はエラーバーの範囲内にあり、良く一致していることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
比熱容量は伝熱シミュレーションを行う際に必要なパラメータであり、本発明により様々な導電性材料の熱的な特性評価を正確かつ迅速に行うことができるため、材料開発における材料評価や構造物の耐熱性能評価等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明によるパルス通電加熱を利用した比熱容量測定方法を実施する装置の実施例を示す図である。
【図2】従来のパルス通電加熱を利用した比熱容量測定装置である。
【図3】パルス通電終了後の冷却時(t>t0)における試料(中心をx = 0とする。)の温度分布の時間変化を示すグラフである。
【図4】本発明の効果を確認した測定例である。
【符号の説明】
【0051】
1 試料
2 バッテリーバンク
4 半導体スイッチ
5 標準抵抗
6 ADコンバータ
7 ADコンバータ
8 信号記録及びスイッチ制御用コンピュータ
9 放射温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性試料にパルス電流を流して直接通電加熱し、前記通電加熱された試料の温度を計測することにより試料の比熱容量を測定する方法において、下記の式により比熱容量を計算することを特徴とする比熱容量測定方法。
【数19】

【請求項2】
請求項1記載の前記式において、試料内での温度勾配が実質的に零である条件により、前記式を簡略化して得られる下記の式により比熱容量を計算することを特徴とする比熱容量測定方法。
【数17】

【請求項3】
前記パルス電流を流して直接通電加熱した後の冷却過程においても小電流の通電を継続し、冷却時における試料の平均電気抵抗率を測定することを特徴とする請求項1または2記載の比熱容量測定方法。
【請求項4】
導電性試料にパルス電流を流して直接通電加熱し、前記通電加熱された試料の温度を計測することにより試料の比熱容量を測定する方法において、加熱終了時と冷却開始時において平均電気抵抗率を一致させるために補正すべき電圧測定誤差ΔVを下記の式により決定する事を特徴とする請求項1または2記載の比熱容量測定方法。
【数18】

試料の加熱終了時の試料電圧値:Vh
試料の加熱終了時の標準抵抗の電圧値:Vsr,h
試料の冷却開始時の試料電圧値:Vc
試料の冷却開始時の標準抵抗の電圧値:Vsr,c
【請求項5】
試料全体の平均電気抵抗率を計測し、試料の加熱時と冷却時における試料全体の平均温度が一致する時間を、試料の平均電気抵抗率が一致する時間として特定することを特徴とする請求項3記載の比熱容量測定方法。
【請求項6】
前記試料の温度測定に際して、試料の複数の点について温度または熱放射強度を測定し、試料全体の平均温度が一致する時間を特定することを特徴とする請求項1または2記載の比熱容量測定方法。
【請求項7】
前記加熱用パルス電流、及び該パルス通電後の冷却時においても試料の平均電気抵抗率を測定するために試料に流す小電流の大きさを、電界効果型トランジスタ等の半導体素子を利用して制御することを特徴とする請求項3記載の比熱容量測定方法。
【請求項8】
導電性試料にパルス電流を流して直接通電加熱する電流供給手段と、
前記通電加熱された試料の温度を計測する温度計測手段とを備え、
下記のいづれかの式により比熱容量を計算することを特徴とする比熱容量測定装置。
【数19】

【請求項9】
請求項8記載の前記式において、試料内での温度勾配が実質的に零である条件により、前記式を簡略化して得られる下記の式により比熱容量を計算することを特徴とする比熱容量測定装置。
【数17】

【請求項10】
前記電流供給手段は、試料のパルス通電加熱後の冷却時においても小電流の通電を継続し、冷却時における試料の電気抵抗率を測定する電気抵抗率測定手段を備えたことを特徴とする請求項8記載の比熱容量測定装置。
【請求項11】
導電性試料にパルス電流を流して直接通電加熱し、前記通電加熱された試料の温度を計測することにより試料の比熱容量を測定する比熱容量測定装置において、加熱終了時と冷却開始時において平均電気抵抗率を一致させるために補正すべき電圧測定誤差ΔVを下記の式により決定する事を特徴とする請求項8または9記載の比熱容量測定装置。
【数18】

試料の加熱終了時の試料電圧値:Vh
試料の加熱終了時の標準抵抗の電圧値:Vsr,h
試料の冷却開始時の試料電圧値:Vc
試料の冷却開始時の標準抵抗の電圧値:Vsr,c

【請求項12】
試料の平均電気抵抗率を計測する手段を備え、
試料の加熱時と冷却時における試料全体の平均温度が一致する時間を、試料全体の平均電気抵抗率が一致する時間として特定することを特徴とする請求項8または9記載の比熱容量測定装置。
【請求項13】
前記温度計測手段は、試料の複数の点について温度または熱放射強度を測定し、
前記温度計測手段により試料全体の平均温度が一致する時間を特定することを特徴とする請求項8または9記載の比熱容量測定装置。
【請求項14】
前記加熱用パルス電流、及び該パルス通電後の冷却時においても電気抵抗率を測定するために試料に流す電流の大きさを制御する電界効果型トランジスタ等の半導体素子を備えたことを特徴とする請求項10記載の比熱容量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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