説明

比色定量法によって二酸化珪素の量を測定する装置の目盛りの基点を標準に合致させるための方法

分析対象の二酸化珪素溶液のサンプル中に含まれる二酸化珪素の量を比色定量法によって測定する装置の目盛りの基点を標準に合致させるための方法であり、その比色定量法というのは、前記サンプル中に、モリブデン酸塩溶液、現像液、試薬を導入することから成るものである。その目盛りの基点を標準に合致させるために、前記分析対象の二酸化珪素溶液サンプルの中に、まず前記現像液つぎに前記モリブデン酸塩溶液そして最後に前記還元剤を導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比色定量法によって二酸化珪素の量を測定する装置の目盛りの基点を標準に合致させるための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ここで念のために申し添えると、わずかな濃度で溶けている二酸化珪素を測定することは、特に電化製品製造業や半導体産業の分野において極めて重要な測定である。
【0003】
事実、水中に二酸化珪素が存在すると、発電所のタービンの上で水蒸気が放出される際に、または、半導体製造の際のディスクもしくは「ウエハー」処理段階の幾つかにおいて、該二酸化珪素が沈殿することがある。
【0004】
また、鉱物質を除去した水の中に二酸化珪素が存在するということが、つまりは、脱イオン樹脂の効力がなくなったのだということを示す指標として用いられることもある。二酸化珪素がこのように存在するということが前提となって、とりわけナトリウム・イオン、塩素イオン等の一価イオンの塩析が常に生じる。
【0005】
溶液中の二酸化珪素の、このような量を測定するために用いるのが比色定量法であり、そのために、これから測定しようとする二酸化珪素に特有の錯体を作りだすのであるが、該錯体が展開する色も二酸化珪素に固有のものである。
【0006】
そのような溶液中に照射される光は錯体によって吸収され、該錯体はその濃度に比例して、以下のランベルト・ベールの法則に従って生成される。
【0007】
l=l0exp(−kLC) (1)
【0008】
該法則において、
・lは、溶液を通して受けた光量の測定値であり、
・10は、その溶液の中に照射した光量であり、
・Lは、その光が通った光路の長さであり、
・Cは、生成した錯体の濃度であり、
・kは、その測定装置と、分析対象である溶液のモル吸収係数とに関連のある定数である。
【0009】
ランベルト・ベールの法則は、濃度と多量の吸光量測定値との間の相関関係を表すものである。換言すれば、該法則が表すのは、濃度が、次のような一つの線形法則によって、吸光量の測定値に関係しているという事実である。
【0010】
C=C0+K・log(l0/l) (2)
【0011】
該法則において、
・C0は、測定基準値と呼ばれるものであり、
・Kは、測定値の傾きであり、
・l0は、照射した光の強度の測定値であり、
・lは、その溶液を通して受けた光の強度の測定値である。
【0012】
上記の関係式(2)から分かることは、濃度と吸光の光学的測定値とを関連づける線形方程式の係数を決定するためには、以下の二つの方法が考えられるということである。
・該測定に必要な試薬を含むが二酸化珪素は含まない溶液の吸光量を測定し、それにより目盛りの基点を決定して、つぎにその装置の測定範囲内における高濃度の二酸化珪素の溶液による吸光量を測定し、それにより傾きを決定する。
・二酸化珪素の、濃度が既知である二つの溶液の吸光量を測定する。
【0013】
そのような方法では、いずれにしても、ゼロや傾きといった係数の計算をするための基準液を用意するための手段として、当初、水中に二酸化珪素が、どのくらいの濃度で含まれているかが分かっていなければならない。ところで、この濃度は分かっていない。しかしながら、以下の二つの線形方程式(3)及び(4)により、二酸化珪素の測定を標準と合致させることができる筈である。
【0014】
1+X=C0+K・log(l0/l1) (3)
【0015】
2+X=C0+K・log(l0/l2) (4)
【0016】
該方程式において、
・l0は、構成単位内に存在する溶液に応じた光量の測定値であり、
・l1は、標準合致溶液1の既知の濃度であり、
・l2は、標準合致溶液2の既知の濃度であり、
・Xは二酸化珪素濃度の低い調整された溶液1及び2の濃度であって、その濃度は未知である
【0017】
これら二つの線形方程式(3)及び(4)には、三つの未知数C0、KおよびXがあるので解くことはできない。
【0018】
それゆえ、上記に示したように、用意した溶液の単純調整を元にして、その測定値の実際の傾きおよび目盛りの基点を容易に知ることは不可能である。
【0019】
更に、二酸化珪素の濃度の低い溶液を測定するための、その他の既知の単純な方法では、二酸化珪素の濃度の絶対的測定値は得られない上、該方法全てにそのような同じ欠点がある。
【0020】
二酸化珪素の測定を標準に合致させるために用いる方法の中でも、特に以下の二つの方法を挙げておく。
【0021】
第一の方法によると、希釈水中の二酸化珪素の残滓は質量分析器(ICP−MS:Inductively Coupled Plasma−Mass Spectrometry)によって測定可能である。この方法は実施するのが難しく、一貫した産業的措置としては経済的に使用可能ではないように思われる。
【0022】
第二の方法によると、濃度の高い溶液を測定することにより傾きを決定するのだが、該濃度の高い溶液は、そのような溶液を調整する上での誤差や測定の目盛りの基点についての誤差が、その濃度を前にして無視できるものである。そのためには、標準合致溶液を二つ作っておき、そのうちの濃度の高い方の溶液は、係数Nが少なくとも20である第一の溶液を予備濃縮することで得られ、それを制御された極超短波によって加熱し気化させる。この方法では、二つの溶液の濃度はXおよびN.Xということになるが、そこでNは、予備濃縮係数であり、それは即ち、気化の前後の体積の比である。そのようにして以下の線形方程式(5)および(6)が得られる。
【0023】
X=C0+K・log(l0/l1) (5)
【0024】
N.X=C0+K・log(l0/l2) (6)
【0025】
該方程式において、パラメーターの値は、等式(3)および(4)におけるものと同じである。
【0026】
この方法により方程式(5)および(6)を解くことができ、該方程式から装置の目盛りの基点を導き出すことができるのだが、但しKは既知であるとする。しかしながら該方法には、(予備濃縮の過程がゆっくりとしていて制御されたものでなくてはならないということで)反応時間が極めて長いという欠点があり、これまた産業環境でプロセス制御に実行することはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
そういうわけで、本発明の目的の一つは、比色定量法によって二酸化珪素の量を測定する装置の目盛りの基点を標準に合致させるための方法を提供することであり、それにより、そのような標準合致を認容可能な期限内で行えるようにすることである。
【0028】
本発明のもう一つの目的は、簡単に実施できるそのような方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
そのような目的も、後述する他の目的も、比色定量法によって分析しようとする二酸化珪素溶液のサンプル中に含まれる二酸化珪素の量を測定する装置の目盛りの基点を標準に合致させるための方法により達成されるのであり、該比色定量法というのは、そのサンプル中に、モリブデン酸塩溶液、現像液、試薬を導入するというものであり、該方法の特徴は、本発明によると、分析対象の二酸化珪素溶液サンプルの中に、まず現像液、つぎにモリブデン酸塩溶液、そして最後に還元剤を続けざまに導入するということである。
【0030】
溶液中に含まれる二酸化珪素の分析機器の中で、分析対象のサンプルが循環するループは急速であり、それによりそのサンプルの更新を迅速に行うことができる。流量の調節には、ニードル・バルブで行う。その分析の始めに、電磁弁を用いて、サンプルを測定用の測定セルに入れる。つぎにモリブデン酸塩溶液を加えると、該溶液がサンプル中に含まれる二酸化珪素と反応し、そのようにして珪モリブデン錯体が得られる。反応時間は(300秒程度で)比較的長時間である。
【0031】
現像液は例えばシュウ酸のようなもので、それをつぎに加えることにより、リン酸塩の影響を回避し、珪モリブデン錯体の色を現像して色濃くする。
【0032】
この珪モリブデン錯体を、最後に、鉄イオンを介して青いモリブデン錯体に還元する。
【0033】
反応終了時点で吸光量測定を行う。
【0034】
溶液中に溶解している二酸化珪素は、具体的には、サリチル酸または様々な種類の珪酸塩として存在している。そういうわけで、酸性のモリブデン酸塩が溶液中の二酸化珪素と反応すると、黄色の珪モリブデン錯体が形成され、該黄色のモリブデン錯体は吸光量の測定により検出可能であり、数mg/l[ppm:百万分率]の濃度を検出することができる。還元した後では、その黄色い化合物は青い錯体に変わって、該青い錯体により、二酸化珪素濃度を更に敏感にμg/l[ppb:兆分率]のレベルで検出することができる。
【0035】
上記の分析法を実施するそのような機器の目盛りの基点を標準に合致させるために、分析対象の溶液サンプル中に(現像液である)シュウ酸、つぎにモリブデン酸塩溶液、そして最後に還元剤を導入する。
【発明の効果】
【0036】
そのようにして、本発明の方法により、
・着色により、そして場合によっては試薬の濁り度から生じる吸光を補正し、
・モリブデン酸塩溶液中に含まれる二酸化珪素から形成される青い珪モリブデン錯体により生じる吸光を補正し、
・目盛りの基点の標準合致に役立つ調整時点での水中に含まれる二酸化珪素が、反応したり青い珪モリブデン錯体を形成したりしないようにすることができる。
【0037】
実験を行ったところ判明したのは、光lの吸光量の測定値は、溶解した二酸化珪素0.5μg/lから200μg/lの間に含まれる溶液につき1/1000の誤差で不変であるということである。該実験から、珪モリブデン化合物を導き出す反応は生じ得ないということが証明される。
【0038】
この基準測定は、機器の目盛りの基点を計算することができるようにするもので、該測定対象の珪素が解けた溶液の濃度に左右されないものであるが、該測定はつぎに、前述した予備濃縮の方法に関連づけられる。二つの方法により得られた測定値は同じである。
【0039】
以下の目盛りの基点決定例の目的は、当業者が本発明による方法の実施をよりよく理解出来るようにすることである。
【実施例1】
【0040】
タンクの中にあるサンプルは、そこから溢れて、測定セルに導入されるが、該測定セルの容積は約8.5mlである。つぎに、40gのシュウ酸2水和物の溶液250μlを加える。
【0041】
そのようにして得られた混合物を常に攪拌している状態に維持することによって、できるだけ早く均質にする。測定セルは、熱伝導性の素材で作ったものであり、25℃の一定温度に維持される。
【0042】
そのシュウ酸を導入してから約二分後に、その単位容器内で吸光量の最初の測定を行う。その測定値l0は、以下に再度引用するランベルト・ベール公式での照射光の強度の測定値である。
【0043】
つぎに、モリブデン酸塩溶液250μlを導入するが、該モリブデン酸塩溶液1リットル当たりの組成は以下の通りである。
・モリブデン酸ナトリウム、4水和物 35g
・硫酸水素ナトリウム、1水和物 80g
・無水硫酸水素ナトリウム 70g
・濃硫酸 25g
【0044】
つぎに一分後に、一リットル当たりの組成が以下の通りの還元剤を加える。
・濃硫酸 12.5g
・モール塩(硫酸鉄アンモニウム、6水和物) 20g
【0045】
光lの吸光量の二度目の測定は、還元剤を加えて一分後に行う。
【0046】
サンプル中の二酸化珪素濃度と光量吸収量測定値との間の比例関係を示すランベルト・ベール公式を適用し、測定機器の目盛りの基点を決定する。
【0047】
目盛りの基点を標準に合致させるのは同じ方法によって行うことができるが、比色定量によって二酸化珪素を測定するのに用いられる他の試薬を用いて行うことができる。そのようにして、モリブデン酸塩、クエン酸塩混合物、つぎにアミノナフトールスルホン酸のような還元剤を活用する比色定量法において、本発明による目盛りの基点の決定は、そのサンプル中に、クエン酸塩混合物、モリブデン酸塩、つぎに還元剤を導入して実現される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
比色定量法によって分析しようとする二酸化珪素溶液のサンプル中に含まれる二酸化珪素の量を測定する装置の目盛りの基点を標準に合致させるための方法であり、その比色定量法というのは、前記サンプル中に、モリブデン酸塩溶液、現像液、試薬を導入することから成り、前記分析対象の二酸化珪素溶液サンプルの中に、まず前記現像液つぎに前記モリブデン酸塩溶液そして最後に前記還元剤を導入するということを特徴とする標準合致方法。


【公表番号】特表2006−501459(P2006−501459A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540894(P2004−540894)
【出願日】平成15年10月3日(2003.10.3)
【国際出願番号】PCT/FR2003/002917
【国際公開番号】WO2004/031751
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(505121464)
【氏名又は名称原語表記】HACH SAS
【Fターム(参考)】