説明

比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット

【課題】ハードディスクの高密度磁気記録媒体に適用される磁気記録膜、特に垂直磁気記録媒体に適用される磁気記録膜を形成するための比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成を有するスパッタリングターゲットであって、このスパッタリングターゲットはCo−Cr二元系合金相1の一部または全表面が薄い非磁性酸化物相2により包囲されている複合相3がPt相素地4中に均一分散している組織を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハードディスクの高密度磁気記録媒体に適用される磁気記録膜、特に高密度の垂直磁気記録媒体に適用される磁気記録膜を形成するための比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置は一般にコンピューターやデジタル家電等の外部記録装置として用いられているが、高画質ビデオ映像の記録など大量のデータを扱うニーズの拡大に伴い、記録密度の一層の向上が求められている。そのため、近年、超高密度の記録を実現できる垂直磁気記録方式が採用されている。この垂直磁気記録方式のハードディスク媒体の記録層に適用されている材料の一つとしてCoCrPt−SiOグラニュラ磁気記録膜があり、このCoCrPt−SiOグラニュラ磁気記録膜はCrおよびPtを含むCo基焼結合金相と二酸化珪素相の混合相を有するスパッタリングターゲットを用いてマグネトロンスパッタ法により作製することが知られている(非特許文献1参照)。
このスパッタリングターゲットは、通常、二酸化珪素粉末、Cr粉末、Pt粉末およびCo粉末を、二酸化珪素:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coからなる組成となるように配合し混合したのち、真空ホットプレスまたは熱間静水圧プレスすることにより作製されることが知られており、その他に市販のCrおよびPtを含むCo基合金粉末または急冷凝固して作製したCrおよびPtを含むCo基合金粉末と二酸化珪素粉末を二酸化珪素:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coからなる組成となるように配合し混合したのち、真空ホットプレスまたは熱間静水圧プレスすることにより作製されることが知られている(特許文献1、特許文献2などを参照)。
さらに前記SiOの他にTiO、Cr、TiO、Ta、Al、BeO、MgO、ThO、ZrO、CeO、Yなどの非磁性酸化物が使用できることが知られている(特許文献3、4参照)。
【非特許文献1】「富士時報」Vol.75No.3 2002(169〜172ページ)
【特許文献1】特開2001‐236643号公報
【特許文献2】特開2004‐339586号公報
【特許文献3】特開2003‐36525号公報
【特許文献4】特開2006‐24346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、この従来の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットは、強磁性合金であるCrおよびPtを含むCo基合金を素地とし、この素地中にSiOなどの非磁性酸化物が均一分散している組織を有するために、非磁性体ターゲットと比較して磁束がターゲット内部を通過する割合が大きく、ターゲット上空に漏れ出る磁束が極めて少ない。このことはターゲット下部に磁気回路を配置し、ターゲット上空に漏れ出る磁束を利用して希ガスの電離効率を高めることで放電を安定化させ、成膜速度を向上させているマグネトロンスパッタリング法にとっては大きな問題となる。すなわち、ターゲット上空に漏れ出る磁束が少ない漏洩磁束密度の低いターゲット(すなわち比透磁率の高いターゲット)を用いてマグネトロンスパッタリングを行なうと、放電が安定しないかあるいは放電できても成膜速度が極端に遅くなるなどの問題を引き起こすからである。
この問題点を解消するための手段の一つとして、ターゲットの厚さを薄くして磁束をターゲット上空へ抜けやすくする方法が取られている。しかし、ターゲットを薄くすると、ターゲットの交換頻度が頻繁になるので成膜効率が悪くなり、コスト的に好ましくない。
また、漏洩磁束密度の低いターゲットは、一旦マグネトロンスパッタリングを行ってエロージョンが形成されると、エロージョン部分から磁束が集中的に漏洩し、その部分だけが益々集中的にスパッタされていくためにターゲットの利用効率が低下したり、成膜速度が経時変化したり、基板面内に膜厚のばらつきが生じたり、さらにターゲット上への再デポ膜の大量付着が生じるなどといった問題を引き起こしやすい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者らは、ターゲットの厚さを薄くすることなく比透磁率の低いスパッタリングターゲットを得るべく研究を行なった。その結果、
(イ)非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成を有するスパッタリングターゲットであって、このスパッタリングターゲットは強磁性成分のCoをCrとのCo−Cr二元系合金相、Pt相および非磁性酸化物相からなり、前記Co−Cr二元系合金相の表面を非磁性酸化物相により包囲した複合相とし、この複合相をPt相素地中に分散させた組織を有するターゲットは比透磁率が一層低下する、
(ロ)前記複合相は、Co−Cr二元系合金相の全表面を非磁性酸化物相により包囲することが最も好ましいが、Co−Cr二元系合金相の一部表面を非磁性酸化物相により包囲していてもよい、などの研究結果が得られたのである。
【0005】
この発明は、これら知見に基づいてなされたものであって、
(1)非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成を有するスパッタリングターゲットであって、Co−Cr二元系合金相の周囲の一部または全表面が薄い非磁性酸化物相により包囲されている複合相が形成されており、この複合相がPt相素地中に均一分散している組織を有する比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0006】
一般に、比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットにおける非磁性酸化物としてSiO、TiO、Cr、TiO、Ta、Al、BeO、MgO、ThO、ZrO、CeO、Yのうちのいずれかを使用することはすでに知られており、前記(1)記載の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットにおける非磁性酸化物も酸化珪素、酸化チタン、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化トリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムおよび酸化イットリウムのうちのいずれかを使用する。
【0007】
したがって、この発明は、
(2)前記非磁性酸化物は、酸化珪素、酸化チタン、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化トリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムおよび酸化イットリウムの内のいずれかである前記(1)記載の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0008】
この発明の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを製造するには、原料粉末としてCo−Cr二元系合金粉末の一部または全表面に非磁性酸化物層を被覆した複合粉末を用意し、さらに原料粉末としてPt粉末を用意し、これら原料粉末を非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、混合し、得られた混合粉末を加圧焼結することにより作製する。
したがって、この発明は、
(3)Co−Cr二元系合金粉末の一部または全表面を非磁性酸化物層により包囲した複合粉末を用意し、この複合粉末にPt粉末を非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成を有するように配合し混合して混合粉末を作製し、得られた混合粉末を加圧焼結する比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法、に特徴を有するものである。
【0009】
前記(3)に記載の製造方法により作製した前記(1)および(2)記載の垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットは比透磁率が低くなる理由として、一般に純CoあるいはCoCr合金に本ターゲットの組成範囲である30原子%程度までのPtが固溶すると、CoまたはCoCrの透磁率が上昇するが、この複合粉末にPt粉末を混合して得られた混合粉末を加圧焼結しても、複合粉末の非磁性酸化物層がバリア相として作用し、加圧焼結中にPtと複合粉末のCo−Cr二元系合金粉末との間の相互拡散がなく、結果としてターゲットの組織が低透磁率あるいは非磁性のPt、酸化物から構成されることとなり、低比透磁率のターゲットが得られることによるものと考えられる。したがって、前記(3)に記載の製造方法で使用する複合粉末はCo−Cr二元系合金粉末の表面の一部に非磁性酸化物層を被覆した複合粉末を使用しても効果があるが、Co−Cr二元系合金粉末の全表面に非磁性酸化物層を被覆した複合粉末を使用することが最も好ましい。
【0010】
この発明の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを製造するために使用する前記Co−Cr二元系合金粉末の一部または全表面に非磁性酸化物層を被覆した複合粉末は、Co−Cr二元系合金粉末の表面に物理蒸着、化学蒸着、スパッタリング、化学メッキなどの方法により薄い非磁性酸化物層を形成することにより作製することができるが、Co−Cr二元系合金粉末とこのCo−Cr二元系合金粉末の粒径よりも格段に小さな粒径を有する非磁性酸化物粉末とを混合し撹拌してCo−Cr二元系合金粉末の表面に非磁性酸化物粉末を付着させ、Co−Cr二元系合金粉末の一部または全表面に非磁性酸化物粉末の積層体からなる非磁性酸化物層を形成して前記複合粉末を作製することが一層効率的に製造することができる。
前記Co−Cr二元系合金粉末はCr:4.2〜33.3原子%を含有し、残部がCoからなる成分組成を有することが好ましい。かかる成分組成を有するCo−Cr二元系合金粉末の一部または全表面に非磁性酸化物層を被覆した複合粉末を原料粉末として使用する。この複合粉末を図3の断面説明図に基づいて説明する。原料粉末として使用する複合粉末5は、図3(a)の断面図に示されるように、Co−Cr二元系合金粉末6の表面全面が非磁性酸化物層7により被覆された構造を有している。非磁性酸化物層7はCo−Cr二元系合金粉末6の全表面を被覆していることが最も好ましいが、図3(b)の断面図に示されるように、Co−Cr二元系合金粉末6の一部表面を被覆していても効果がある。かかる構造を有する複合粉末をPt粉末と共に混合し加圧焼結すると、Pt相素地を生成し、Co−Cr二元系合金相の周囲を非磁性酸化物相で被覆した複合相がPt相素地中に均一分散している組織を有するこの発明の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットが作られる。
【0011】
この発明の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法において原料粉末とし使用する複合粉末を構成する非磁性酸化物層は、二酸化珪素、酸化タンタル、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化トリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムおよび酸化イットリウムのうちのいずれかである。そして、この発明の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法で実施する加圧焼結は真空ホットプレスまたは熱間静水圧プレスであることが好ましい。
したがって、この発明は、
(4)前記非磁性酸化物は、酸化珪素、酸化チタン、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化トリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムおよび酸化イットリウムの内のいずれかである前記(3)記載の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法、
(5)前記加圧焼結は真空ホットプレスまたは熱間静水圧プレスである前記(3)記載の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法、に特徴を有するものである。
【0012】
さらに、この発明の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法において使用する前記複合粉末は原料粉末として新規なものであり、この発明は、前記複合粉末をも含むものである。したがって、この発明は、(6)Co−Cr二元系合金粉末の一部または全表面に非磁性酸化物層を被覆した複合粉末からなる比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを製造するための原料粉末、
(7)前記非磁性酸化物は、酸化珪素、酸化チタン、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化トリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムおよび酸化イットリウムの内のいずれかである前記(6)記載の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを製造するための原料粉末、に特徴を有するものである。
【0013】
前記Co−Cr二元系合金粉末はCr:4.2〜33.3原子%を含有し、残部がCoからなる組成を有することが好まく、したがって、この発明の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの素地中に分散しているCo−Cr二元系合金相もCr:4.2〜33.3原子%を含有し、残部がCoからなる組成を有している。このCo−Cr二元系合金粉末の成分組成および素地中に均一分散しているCo−Cr二元系合金相の成分組成はこの発明の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの成分組成によって決定される。
【発明の効果】
【0014】
この発明の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを用いると、マグネトロンスパッタリングを効率よく行なうことができ、コンピューター並びにデジタル家電等の産業の発展に大いに貢献し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
実施例1
原料粉末として、Cr:13.3原子%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成並びに平均粒径:32μmを有するCo−Cr二元系合金アトマイズ粉末を用意し、さらに非磁性酸化物粉末として平均粒径:3μmのSiO粉末を用意し、このCo−Cr二元系合金アトマイズ粉末とSiO粉末をボールミルに装入し、ボールミル内の雰囲気をArガス雰囲気に保持しながら20時間回転させることによりCo−Cr二元系合金アトマイズ粉末の表面にSiO粉末が積層して付着した複合粉末を作製した。得られた複合粉末に対して平均粒径:20μmのPt粉末を、Cr:10.1%、Pt:15.6%、SiO:8.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末をボールミルに装入し、ボールミル内の雰囲気をArガス雰囲気に保持しながら3時間回転させることにより混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:1100℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
【0016】
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する本発明ターゲット1を作製した。さらにこの本発明ターゲット1を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、Pt相、SiO相およびCo−Cr二元系合金相が見られ、Co−Cr二元系合金相の周囲をSiO相が包囲している複合相がPt相素地中に均一分散している組織が見られた。
さらに、この本発明ターゲット1についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表1に示した。
【0017】
従来例1
Co粉末、Cr粉末、Pt粉末およびSiO粉末を用意し、これら粉末をCr:10.1%、Pt:15.6%、SiO:8.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末をボールミルに装入し、ボールミル内の雰囲気をArガス雰囲気に保持し、ボールミルを20時間回転させ、混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:1100℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する従来ターゲット1を作製し、さらにこの従来ターゲット1を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、Co−Cr−Pt合金相中にSiO粒子が均一分散している組織が見られた。さらにこの従来ターゲット1についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表1に示した。
【0018】
実施例2
原料粉末として、Cr:16.9原子%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成並びに平均粒径:63μmを有するCo−Cr二元系合金アトマイズ粉末を用意し、さらに非磁性酸化物粉末として平均粒径:2μmのTiO粉末を用意し、このCo−Cr二元系合金アトマイズ粉末とTiO粉末をボールミルに装入し、ボールミル内の雰囲気をArガス雰囲気に保持しながら20時間回転させることによりCo−Cr二元系合金アトマイズ粉末の表面にTiO粉末が積層して付着した複合粉末を作製した。得られた複合粉末に対して平均粒径:20μmのPt粉末をCr:12.6%、Pt:15.3%、TiO:10.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末をボールミルに装入し、ボールミル内の雰囲気をArガス雰囲気に保持しながら3時間回転させ、混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:1000℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
【0019】
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する本発明ターゲット2を作製した。さらにこの本発明ターゲット2を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、Pt相、TiO相およびCo−Cr二元系合金相が見られ、Co−Cr二元系合金相の周囲をTiO相が包囲している複合相がPt相素地中に均一分散している組織が見られた。前記EPMAにより観察した際の組織写真を図1に示し、さらにこの時の写生図を図2に示し、図2により図1の組織を説明した。図1の組織写真から、本発明ターゲット2はCo−Cr二元系合金相1の周囲をTiO相2が包囲している複合相3がPt相素地4の中に均一分散している組織を有することがわかる。
さらにこの本発明ターゲット2についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表1に示した。
【0020】
従来例2
Co粉末、Cr粉末、Pt粉末およびTiO粉末を、Cr:12.6%、Pt:15.3%、TiO:10.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末をボールミルに装入し、ボールミル内の雰囲気をArガス雰囲気に保持し、ボールミルを20時間回転させ、混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:1000℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する従来ターゲット2を作製した。さらにこの従来ターゲット2を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、Co−Cr−Pt合金相中にTiO粒子が均一分散している組織が見られた。この従来ターゲット2についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表1に示した。
【0021】
実施例3
原料粉末として、Cr:21.4原子%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成並びに平均粒径:45μmを有するCo−Cr二元系合金アトマイズ粉末を用意し、さらに非磁性酸化物粉末として平均粒径:1.5μmのTa粉末を用意し、このCo−Cr二元系合金アトマイズ粉末とTa粉末をボールミルに装入し、ボールミル内の雰囲気をArガス雰囲気に保持しながら20時間回転させることによりCo−Cr二元系合金アトマイズ粉末の表面にTa粉末が積層して付着している複合粉末を作製した。得られた複合粉末に対して平均粒径:20μmのPt粉末をCr:17.3%、Pt:15.4%、Ta:4.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末をボールミルに装入し、ボールミル内の雰囲気をArガス雰囲気に保持しながら3時間回転させ、混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:1050℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
【0022】
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する本発明ターゲット3を作製した。さらにこの本発明ターゲット3を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、Pt相、Ta相およびCo−Cr二元系合金相が見られ、Co−Cr二元系合金相の周囲をTa相が包囲している複合相がPt相素地中に均一分散している組織が見られた。
さらにこの本発明ターゲット3についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表1に示した。
【0023】
従来例3
Co粉末、Cr粉末、Pt粉末およびTa粉末を、Cr:17.3%、Pt:15.4%、Ta:4.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末をボールミルに装入し、ボールミル内の雰囲気をArガス雰囲気に保持し、ボールミルを20時間回転させ、混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:1050℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する従来ターゲット3を作製した。さらにこの従来ターゲット3を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、Co−Cr−Pt合金相中にTa粒子が均一分散している組織が見られた。さらにこの従来ターゲット3についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表1に示した。
【0024】
実施例4
原料粉末として、Cr:23.8原子%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成並びに平均粒径:53μmを有するCo−Cr二元系合金アトマイズ粉末を用意し、さらに非磁性酸化物粉末として平均粒径:1μmのAl粉末を用意し、このCo−Cr二元系合金アトマイズ粉末とAl粉末をボールミルに装入し、ボールミル内の雰囲気をArガス雰囲気に保持しながら20時間回転させることによりCo−Cr二元系合金アトマイズ粉末の表面にAl粉末が積層して付着している複合粉末を作製した。得られた複合粉末に対して平均粒径:20μmのPt粉末をCr:17.6%、Pt:14.1%、Al:12.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末をボールミルに装入し、ボールミル内の雰囲気をArガス雰囲気に保持しながら20時間回転させ、混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:1150℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
【0025】
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する本発明ターゲット4を作製した。さらにこの本発明ターゲット4を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、Pt相、Al相およびCo−Cr二元系合金相が見られ、Co−Cr二元系合金相の周囲をAl相が包囲している複合相がPt相素地中に均一分散している組織が見られた。
さらにこの本発明ターゲット4についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表1に示した。
【0026】
従来例4
Co粉末、Cr粉末、Pt粉末およびAl粉末を、Cr:17.6%、Pt:14.1%、Al:12.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末をボールミルに装入し、ボールミル内の雰囲気をArガス雰囲気に保持し、ボールミルを20時間回転させ、混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:1150℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する従来ターゲット4を作製した。さらにこの従来ターゲット4を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、Co−Cr−Pt合金相中にAl粒子が均一分散している組織が見られた。さらにこの従来ターゲット4についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表1に示した。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示される結果から、Pt相素地中に複合相が均一分散している本発明ターゲット1は従来ターゲット1に比べて、成分組成が同じであるにもかかわらず、比透磁率が小さいところから、スパッタリングに際して漏洩磁束密度が大きく、したがって、本発明ターゲット1は従来ターゲット1に比べて効率よくスパッタできることが分かる。同様にして発明ターゲット2〜4と従来ターゲット2〜4をそれぞれ比較すると、成分組成が同じであるにもかかわらず、比透磁率が小さいところから、スパッタリングに際して漏洩磁束密度が大きく、したがって、本発明ターゲット2〜4はそれぞれ従来ターゲット2〜4に比べて効率よくスパッタできることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】EPMAによる組織写真である。
【図2】実施例2で作製した本発明ターゲット2の組織の写生図である。
【図3】この発明の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを作製するために使用する複合粉末の断面説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1:Co−Cr二元系合金相
2:TiO
3:複合相
4:Pt合金相素地
5:複合粉末
6:Co−Cr二元系合金粉末
7:非磁性酸化物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成を有するスパッタリングターゲットであって、このスパッタリングターゲットは、Co−Cr二元系合金相の一部または全表面が薄い非磁性酸化物相により包囲されている複合相がPt相素地中に均一分散している組織を有することを特徴とする比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記非磁性酸化物は、酸化珪素、酸化チタン、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化トリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムおよび酸化イットリウムの内のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
Co−Cr二元系合金粉末の一部または全表面が非磁性酸化物層により被覆されている複合粉末を用意し、この複合粉末にPt粉末を非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成を有するように配合し混合して混合粉末を作製し、得られた混合粉末を加圧焼結することを特徴とする比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
前記非磁性酸化物は、酸化珪素、酸化チタン、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化トリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムおよび酸化イットリウムの内のいずれかであることを特徴とする請求項3記載の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
前記加圧焼結は真空ホットプレスまたは熱間静水圧プレスであることを特徴とする請求項3記載の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
Co−Cr二元系合金粉末の一部または全表面に非磁性酸化物層を被覆した複合粉末からなることを特徴とする比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを製造するための原料粉末。
【請求項7】
前記非磁性酸化物は、酸化珪素、酸化チタン、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化トリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムおよび酸化イットリウムの内のいずれかであることを特徴とする請求項6記載の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを製造するための原料粉末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−132975(P2009−132975A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310222(P2007−310222)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】