説明

毛から生体物質を抽出する方法及び該方法に用いる毛採取器具

【課題】抜去した毛からRNAやDNA、タンパク、元素等の生体物質を、量的及び質的に安定して抽出するための方法、及び該方法に用いる毛採取器具の提供。
【解決手段】抜去するために所定の基準値以上の引っ張り力を要する毛の毛根から生体物質を抽出する方法、並びに毛を抜去するための毛採取器具であって、毛を挟持する手段と、毛を抜去する際にこれに負荷される引っ張り力を測定する手段と、を備えることを特徴とする毛採取器具を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛の毛根から生体物質を抽出する方法に関する。より詳しくは、抜去するために所定の基準値以上の引っ張り力を要する毛の毛根から、RNA、DNA、タンパク、元素等の生体物質を抽出する方法及び該方法に用いる毛採取器具に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、各種疾患の分子メカニズムの解明や、疾患マーカー及び創薬ターゲットの探索を目的として、DNAマイクロアレイをはじめとした各種遺伝子発現解析が広く普及してきている。
【0003】
DNAマイクロアレイでは、まず検体組織又は細胞からRNAを抽出し、これを鋳型として逆転写酵素によりcDNAを合成する。この際、Cy3、Cy5等の蛍光物質によりcDNAを標識しておき、標識cDNAをアレイ上に固相化したプローブDNAとハイブリダイズさせて、ハイブリダイズしたcDNAの蛍光シグナルに基づいて発現遺伝子を解析する。
【0004】
従来のDNAマイクロアレイでは、上記の標識cDNAを得るために、相当量(数マイクログラムオーダー)のRNAが必要とされていた。従って、解析の対象が比較的大きな組織片や多量の細胞に限られており、バイオプシー(生検)サンプル等の微小組織片や少量の細胞についての解析は難しかった。
【0005】
しかし近年になって、ナノグラムレベルの遺伝子サンプルを測定できる高感度DNAマイクロアレイが開発され、微小組織片や少量の細胞といった微量試料についても遺伝子発現解析が可能となった。さらに、遺伝子多型解析やプロテオーム解析等においても微量試料解析が可能となっていきている。
【0006】
このような微量試料解析は、実際の臨床の場での試料採取を容易にし、試料及びその解析データの蓄積、さらにはこれに伴う迅速な診断方法の確立を可能にするものとして期待が高まっている。
【0007】
例えば、遺伝子多型解析においては、従来、10ml程度の血液を採血して血液中の白血球を集め、白血球を溶解してDNAを抽出し、さらにPCRによりDNAを増幅した上で遺伝子多型解析を行なう必要があった。しかし、現在では、指先を小さく傷付けて得た血液滴や口腔粘膜をごく少量掻き採ったような微量試料から、全自動でDNAの抽出、増幅、遺伝子型の判定までを行なう装置が登場している。
【0008】
このような微量試料からのRNA、DNA、タンパク、元素等の生体物質解析が盛んになるに伴い、試料として上述した血液滴や口腔粘膜に加え、毛髪が注目されるようになってきている。毛髪は、非侵襲的かつ簡便に採取することが可能で、試料提供者(患者)の肉体的及び精神的負担も軽いため、遺伝子の一塩基多型(SNP)解析による薬剤感受性診断等のオーダーメード医療の普及に向け、好適な生体物質抽出源として期待されている。
【0009】
これまでに、体調の異変を診断するための診断方法として、毛根に含有されている元素を検出する診断方法が開発されている(特許文献1参照)。
【0010】
また、特許文献2には、毛髪を含む毛からRNAを回収する方法として、毛を抜去してから直ちに液体窒素を用いて超低温に凍結し、次いでRNA抽出用試薬液と接触させ、しかる後にボルテックス攪拌処理してRNAを抽出する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−45133号公報
【特許文献2】特開2005−192409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の特許文献1に開示される診断方法は、毛根に含有されている元素を検出することにより、体調の異変の簡便な診断を可能とするものであり、また特許文献2に開示されるRNA抽出方法は、毛から簡便かつ高収量、高純度にRNAを抽出することを可能とするものである。
【0012】
しかしながら、RNAやDNA、タンパク、元素等の生体物質の抽出に用いる毛の適切な条件については従来検討されてこなかった。
【0013】
毛は、成長期、退行期、休止期の三期からなる毛周期と呼ばれる周期を繰り返していることが知られており、用いる毛がどの期間にあるかによって毛根の状態は著しく異なる。従って、毛根の状態によって、毛根から抽出されるRNAや、DNA、タンパク、元素等の生体物質の量や質にはバラつきが生じることとなり、これらの生体物質を用いた解析結果の再現性の確保を難しくする要因となっている。
【0014】
さらに、生体物質の量や質のバラつきを防止するために、毛の採取時に必要本数以上の毛を抜去したり、試料提供者(患者)に再度の採取を強いることがあり、効率が悪いうえ、試料提供者とっても負担となっている。
【0015】
そこで、本発明は、抜去した毛からRNAやDNA、タンパク、元素等の生体物質を、量的及び質的に安定して抽出するための方法、及び該方法に用いる毛採取器具を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題解決のため、本発明は、抜去するために所定の基準値以上の引っ張り力を要する毛の毛根からRNA、DNA、タンパク、元素等の生体物質を抽出する方法を提供する。基準値としては、50gが好適となる。 また、本発明は、毛を抜去するための毛採取器具であって、毛を挟持する手段と、毛を抜去する際にこれに負荷される引っ張り力を測定する手段と、を備えることを特徴とする毛採取器具をも提供する。
この毛採取器具は、毛の抜去方向の体表に対する角度を規定する手段、及び、抜去した毛の毛根の形状を拡大観察する手段を備えていてもよい。
また、抜去した毛の毛根画像情報を取得する取得手段と、該取得手段により取得された前記毛根画像情報に基づいて毛根の形状を判定する判定手段と、を備えていてもよい。
さらに、予め取得された基準毛根画像情報を記憶する記憶手段を具備し、判定手段が、取得手段により取得された毛根画像情報と基準毛根画像情報との比較に基づいて、毛根の形状を判定するよう構成してもよい。
この場合、判定手段は、例えば、毛根の輪郭線における変曲点を検出して、変曲点数を算出することにより、取得手段により取得された毛根画像情報と基準毛根画像情報との比較を行う。
【0017】
本発明において、「毛」とは、ヒト又は非ヒト動物の皮膚(体表)を覆う全ての体毛を意味し、例えばヒトを対象とする場合、頭髪や髭、腕や足の毛などが含まれる。また、「毛根」とは、体表内に埋没する側の毛の端部を意味する。抜去された毛の毛根には、内毛根鞘(inner root sheath)、外毛根鞘(outer root sheath)及び毛乳頭(papilla)等を形成する細胞群が付着し得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る生体物質抽出方法を用いることにより、毛からRNAやDNA、タンパク、元素等の生体物質を、量的及び質的に安定して抽出することができる。また本発明に係る毛採取器具は、該抽出方法のために好適に使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
上述の通り、毛根から抽出されるRNAや、DNA、タンパク、元素等の生体物質の量や質は、当該毛が成長期、退行期、休止期のどの毛周期にあるかによって著しく異なる。
【0020】
ここで、図1を参照しながら毛の構造及び毛周期について説明する。
【0021】
図1は、皮膚の断面を示す模式図である。毛は皮膚外部に露出した毛幹と、皮膚真皮に埋没した毛根と、毛根を生み出す元になる毛乳頭細胞(図1符合a)や毛母細胞(同b)などから形成されている。
【0022】
毛周期は、成長期(I)、退行期(II)、休止期(III)の3期に分かれている。成長期(I)においては、毛乳頭細胞aから毛母細胞bへ栄養分が供給され、毛母細胞bは盛んに分裂する。分裂した毛母細胞bは毛細胞となって角化し、次々に形成される毛細胞に押し上げられて毛を形成する。
【0023】
その後退行期(II)に入ると、毛母細胞bは分裂を停止し、さらに休止期(III)に入ると、毛乳頭細胞aから毛母細胞bへの栄養分の供給が止まり、毛母細胞bはアポトーシスにより死滅し、やがて脱毛する。一定期間の休止期(III)を経ると、毛周期は再び成長期(I)に入る。
【0024】
このように、毛周期のうち成長期(I)は、毛根における細胞分裂が最も盛んであり、毛根に存在する細胞数が最も多くなる。従って、毛根から生体物質の抽出を行なう際には、成長期(I)にある毛から抽出を行なうことで、量及び質ともに十分な生体物質を抽出することが望ましい。
【0025】
仮に、退行期(II)や休止期(III)にある毛の毛根から生体物質の抽出を行なうと、これらの期間では毛根の細胞は分裂を停止した状態にあり、例えばRNAの場合、細胞内の転写活性が極めて低い状態となっているために十分な量を抽出することができない。
【0026】
図2に、毛髪を任意に抜去した場合に、それぞれの毛髪の毛根から抽出されるRNA量を示した。図2横軸は、各毛髪のサンプル番号、縦軸は各サンプルから調製されたRNA溶液の濃度(ng/本)を示す。本発明におけるRNAの抽出方法については詳しく後述する。
【0027】
サンプル番号1〜12の毛髪から調製されたRNA溶液の濃度は、数ng/本から40ng/本と非常にばらついており、任意に抜去した毛髪からは安定した量のRNAを抽出することができないことが分かる。
【0028】
本願発明者らは、このようなばらつきを排除するため鋭意検討を行なった結果、抜去するために所定の基準値以上の引っ張り力を要する毛の毛根を選別して生体物質の抽出を行なうことにより、量的及び質的に安定して生体物質を得ることができることを見出した。
【0029】
上述の通り、退行期(II)や休止期(III)においては、毛母細胞bは分裂を停止しアポトーシスにより死滅するため、毛は非常に脱毛し易い状態となっている。これに対して、成長期(I)では、毛母細胞bが盛んに分裂し、毛根は細胞が充実した状態となっているため、毛は抜けにくい。従って、成長期(I)にある毛は、退行期(II)や休止期(III)にある毛に比べて、毛を抜去する際により大きな引っ張り力を要する。すなわち、抜去するために所定の基準値以上の引っ張り力を要した毛は成長期(I)にある毛とみなすことができるため、このような毛を選別することにより、量的及び質的に安定して生体物質を得ることが可能になったものと考えられる。
【0030】
この方法は、ヒト又は非ヒト動物の皮膚を覆う全ての毛に対して適用することが可能であり、特にヒトの毛髪に対して好適に適用することができる。また、採取部位の毛を一旦全て剃った後に、生えてきた毛を選択することで、より確実に成長期(I)にある毛を得ることもできる。
【0031】
この際、成長期(I)にある毛と退行期(II)や休止期(III)にある毛を区別し得る所定の基準値は、本法を適用する動物種や毛の部位により適宜設定することができる。このうち、ヒトの毛髪に適用する場合には、基準値を50gに設定することにより、抽出生体物質の量及び質を最適化し得ることが判明した。
【0032】
ここで、上記基準値をあまりに大きく設定すると、毛が毛幹部で切れたり、毛根が損傷して毛乳頭細胞(図1符合a参照)が皮膚側に残ってしまったりすることが多くなり、毛根からの生体物質の抽出が不良となるおそれが生ずる。
【0033】
また、本発明は、抜去するために所定の基準値以上の引っ張り力を要する毛を選別するための毛採取器具をも提供するものである。
【0034】
以下、本発明に係る毛採取器具の好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0035】
図3は、本発明に係る毛採取器具の第一実施形態の断面図である。
【0036】
図3(A)中、符号Aで示される毛採取器具は、外筒1と、該外筒内部を矢印P方向に移動可能な内筒2と、毛を挟持する手段であるチャック部3を備える。毛採取器具Aは、チャック部3において符号Hで示される毛を挟持して体表Tから抜去する。チャック部3は、後述する生体物質の抽出過程における作業を容易にするため、強力な磁石等を用いて、内筒2と着脱可能な設計とすることが好ましい。本図では、外筒1、内筒2、チャック部3は金属製の部材として示したが、材質については金属製に限定されず、樹脂製であってもよい。本発明において、各部材の材質は特に言及しない限り限定されないものとする。
【0037】
チャック部3により毛Hを挟持する際には、毛Hのうち体表から10mm以内の部位を挟持することが望ましい。これにより、抜去時に毛Hが毛幹で切れたり、毛根が損傷したりするのを防止することが可能である。
【0038】
毛採取器具Aは、さらに毛Hを抜去する際にチャック部3に負荷される引っ張り力を測定する手段として、外筒バネ5を備えている。外筒バネ5は、内筒2を外筒1の他端に位置するバネ力調整ネジ4に接続しており、矢印Qで示される復元力を発揮している。外筒1には内筒制止板11が設けられており、内筒2は初期状態において、上記復元力Qにより該内筒制止板11に係止されている。ここで、外筒バネ5は、バネに替えて、復元力Qを発揮し得る弾性体を広く採用することが可能であり、後述する内筒バネ21についても同様である。
【0039】
毛採取器具Aにより毛Hを引っ張ると、チャック部3及び内筒2に引っ張り力Fが負荷される。
【0040】
引っ張り力Fが上記外筒バネ5によって内筒2に付与される復元力Qよりも小さい場合、すなわちF<Qの場合には、チャック部3及び内筒2は、上述の初期状態(内筒制止板11に係止された状態)に留まる。
【0041】
すなわち、毛Hが抜けやすい状態にあって、毛Hの抜去に要する引っ張り力Fが復元力Qよりも小さい(F<Q)場合には、チャック部3及び内筒2は、上述の初期状態(内筒制止板11に係止された状態)を維持したまま、毛Hは抜去されることとなる。
【0042】
一方、毛Hが抜けにくい状態にあって、引っ張り力Fが復元力Qを超えた場合、すなわちF>Qとなった場合には、チャック部3及び内筒2は、引っ張り力Fにより牽引されて、矢印P方向へ移動することとなる。この際、チャック部3及び内筒2の移動に伴って、外筒バネ5は伸展し、復元力を当初のQからQ(Q>Q)へと増加させる(図3(B)参照)。
【0043】
ここで、内筒2内には、該内筒2の内壁に内筒バネ21により接続されたストッパー22が設けられている。ストッパー22は、内筒バネ21が発揮する復元力qにより、内筒2の壁面に開口するストッパー用窓23を通して、外筒1へ押圧されている。また、外筒1の内壁には、ストッパー22が嵌合し得る陥凹部12が設けられている。
【0044】
図3(C)に示すように、チャック部3及び内筒2が、引っ張り力Fにより矢印P方向へ移動すると、ストッパー22が復元力qによる押圧を受けて陥凹部12に嵌合し、内筒2及びチャック部3の矢印P方向への移動が制限(ロック)される。
【0045】
このときの内筒2及びチャック部3に負荷される引っ張り力Fと拮抗する外筒バネ5の復元力をQsとすると、外筒バネ5は、その復元力(Q、Q、Qs)を基準として、下限値Qから上限値Qsまでの範囲において引っ張り力Fを測定する機能を発揮するということができる。
【0046】
図3(C)に示すように一旦内筒2及びチャック部3がロックされると、チャック部3は復元力Qsとの拮抗を超えて、必要な大きさの引っ張り力Fを発揮し毛Hを抜去する。
【0047】
すなわち、毛Hを抜去するために復元力Qs以上の引っ張り力Fを要した場合には、チャック部3及び内筒2がストッパー22によりロックされた上、毛Hは抜去されることとなる。しかし、毛Hが復元力Qs以下の引っ張り力Fにおいて抜去された場合には、チャック部3及び内筒2はロックされることなく、復元力Qにより初期状態(内筒制止板11に係止された状態)にまで戻ることとなる。
【0048】
このように毛採取器具Aでは、ストッパー22によるロックを1つの指標として、抜去するために所定の基準値(=復元力Qs)以上の引っ張り力Fを要した毛Hのみを選別することが可能である。この際、復元力Qsは、バネ力調整ネジ4により増減することが可能であり、抜去する毛Hの部位等に応じて適宜変更することができる。
【0049】
図4は、本発明に係る毛採取器具の第二実施形態の正面図である。
【0050】
図4中符号Bで示される毛採取器具は、毛Hを抜去する際にチャック部3に負荷される引っ張り力を測定する手段として、外筒1内部に図示しない力センサー部を備え、また外筒1表面には表示部13を備えている。毛採取器具Bは、チャック部3に毛Hを挟持して引っ張ると、力センサー部によりチャック部3に負荷される引っ張り力Fを測定し、該表示部13に引っ張り力Fを数値表示する。
【0051】
既に説明したように、抜去するために所定の基準値以上の引っ張り力を要した毛は成長期(I)(図1参照)にある毛とみなすことができ、このような毛を選別することにより、量的及び質的に安定して生体物質を得ることが可能となった。しかしながら、本願発明者らは、基準値以上であっても過度に大きな引っ張り力で毛を抜去すると、毛が毛幹部で切れたり、毛根部が損傷して毛母細胞(図1符合b参照)が皮膚側に残ってしまったりして、毛根からの生体物質の抽出が不良となることを見出した。従って、引っ張り力の基準値には、下限値に加えて上限値を設けることが望ましい。
【0052】
この点、毛採取器具Bでは、抜去するために要した引っ張り力Fが数値表示されるため、引っ張り力Fが前記下限値と上限値の間に入っているか否かを確認することが可能となっている。さらに毛Hの抜去に要した引っ張り力Fが、所定の下限値と上限値内であった場合には、表示部13に「OK」判定を表示させることにより、一層確認を容易にすることができる。これにより、毛採取器具Bではさらに生体物質の抽出に適した毛を選別することが可能となっている。
【0053】
図5(A)は、本発明に係る毛採取器具の第三実施形態のチャック部3の拡大正面図である。(B)に比較のため、毛採取器具Aのチャック部3の拡大正面図を示した。また(C)は、毛Hが生えている方向の体表Tに対する角度を説明するための図である。
【0054】
図5(A)中符号Cで示される毛採取器具は、毛Hの抜去方向の体表Tに対する角度を規定する手段であるアーム24を備えている。本図において、アーム24は内筒2に連設されているが、これに限らず外筒1(図示なし)その他の部材に連設してもよく特に限定されない。
【0055】
毛根から安定して生体物質を抽出するためには、成長期(I)(図1参照)にある毛を選別することに加え、上述のように、過度の引っ張り力による毛根の損傷を避ける必要がある。さらに、本願発明者らは、毛を引き抜く方向によっても毛根が損傷され得ることを見出し、これを防止するため、毛が生えている方向の体表に対する角度を変化させずに抜去することが有効であることを明らかにした。
【0056】
すなわち、毛採取器具Cは、毛Hの生えている方向の体表に対する角度を変化させずに抜去することを可能とするものである。
【0057】
より具体的には、まず図5(C)において、体表Tに対して毛Hは角度α方向に生えているものとする。このとき、アーム24を具備しない毛採取器具Aにより毛Hを抜去する場合には、毛Hとともに体表Hの一部が引っ張られ、毛Hの体表Hに対する角度はαからβへと変化してしまう。
【0058】
一方、毛採取器具Cの場合には、アーム24が体表Tを押圧するため、体表Tが引っ張られることがなく、体表Tに対する当初角度αを維持したまま毛Hを抜去することが可能である。
【0059】
さらにアーム24を、支持部241と体表当接部242とが屈曲点243により連設された構成とすることにより、毛H及び体表Tの部位に応じて適宜支持部241と体表当接部242がなす角度γを調整することが望ましい。これにより、体表Tに対する当初角度αを維持したまま毛Hを抜去することが一層容易となる。
【0060】
図6(A)に、毛採取器具Aで抜去した毛の毛根の拡大図、(B)に毛採取器具Cで抜去した毛の毛根の拡大図を示す。図6(B)では(A)に比べて、毛根の末端部(毛球)が大きく、多数の細胞(毛母細胞(図1符合b参照))が含まれているものと推察できる。これらの毛根から生体物質の抽出を行なった成績については、実施例で説明する。
【0061】
図7は、本発明に係る毛採取器具の第四実施形態の正面図である。
【0062】
図7中、符号Dで示される毛採取器具は、抜去した毛の毛根の形状を拡大観察する手段である拡大鏡6を備えている。毛採取器具Dにおいては、抜去後チャック部に保持されている毛Hの毛根hを拡大鏡6に設けたレンズ61により拡大観察することが可能である。これにより、図6に示したように、抜去した毛根hの形状を視認の上確認することができる。
【0063】
ここで、毛採取器具Dでは、抜去した毛の毛根hの形状を拡大観察する手段として拡大鏡6を設けたが、拡大鏡6に替えてマイクロスコープなどを配設することも可能である。マイクロスコープなどを用いて毛根hの毛根画像情報を取得し、コンピュータープログラムによって毛根hの形状を自動判定して、その結果を採取者に通知することで、より簡便に良好な生体物質の抽出が可能な毛Hを選別することができる。
【0064】
図8は、本発明に係る毛採取器具の第五実施形態を示す概念図である。
【0065】
図8中、符号Eで示される毛採取器具は、毛根hの毛根画像情報を取得する取得手段81と、予め取得された基準毛根画像情報を記憶する記憶手段82と、取得された毛根画像情報に基づいて毛根の形状を判定する判定手段83と、を備えている。
【0066】
取得手段81により取得された毛根画像情報は、判定手段83へ出力される。取得手段81には、通常用いられるCCDカメラ等の撮影装置を採用することができる。
【0067】
記憶手段82には、予め取得手段81による毛根画像情報を取得した後、生体物質の抽出を行った結果良好な抽出成績が得られた毛根についての毛根画像情報(基準毛根画像情報)が記憶されている。そして、記憶された基準毛根画面情報は、判定手段83へ出力される。
【0068】
判定手段83は、取得手段81から入力される毛根hの毛根画像情報と、記憶手段82から入力される基準毛根画像情報との比較に基づいて、毛根hの形状を判定し、判定結果を表示部13(図4も参照)に出力する。記憶手段82及び判定手段83は、図に示すように別体に構成してもよいが、汎用のコンピューターを用いて一体に構成してもよい。
【0069】
判定手段83による毛根hの毛根画像情報と基準毛根画像情報との比較は、汎用の画像解析プログラム、若しくはこれを改良したものを用いて行えばよい。一例として、毛根画像情報に基づいて、毛根hの輪郭線における変曲点を検出し、その数を算出することにより比較を行う方法や、毛根hの輝度を算出することにより比較を行う方法が考えられる。
【0070】
以下、図9〜図11を参照しながら、毛根hの輪郭線における変曲点を検出し、その数を算出することにより、毛根hの形状を判定する方法について説明する。
【0071】
図9は、判定手段83における判定方法を示すフローチャートである。
【0072】
まず、ステップ1(図中、「S1」で示す。以下同じ。)において、判定手段83は、取得手段81から毛根hの毛根画像情報を獲得する。次にS2で毛根hの毛根画像情報に基づいて毛根hの輪郭線の抽出を行い、さらにS3で輪郭線における変曲点の抽出、S4で変曲点数の算出を行う。
【0073】
ここで、「変曲点」とは、所定の関数の凹凸が変化する境目をいい、所定の関数の一次微分関数の傾きの正負が逆転する点をいう。本発明においては、毛根hの輪郭線の凹凸が変化する境目をいい、輪郭線に対する接線の傾きの正負が逆転する点をいうものとする。
【0074】
図10及び図11は、S2及びS3で抽出される毛根hの輪郭線及びその変曲点の具体例を示す図である。それぞれ(A)は取得手段81により取得される毛根画像を示し、(B)はこの毛根画像から抽出した毛根hの輪郭線と変曲点を示している。(B)中、符号rで示す変曲点の数は、図10では5、図11では1である。
【0075】
続いて、判定手段83は、S5において算出された変曲点数を、同様の方法により基準毛根画像情報から算出された基準変曲点数と比較することで、毛根hの形状を判定し、判定結果を表示部13に出力する(S6)。
【0076】
基準変曲点数は、所望する生体物質の量及び質等に応じて、適宜設定されることとなるが、実施例において後述するように、本願発明者らは、変曲点数が多く毛根hの輪郭線が複雑な形状である場合、良好な生体物質の抽出が可能であることを見出している。従って、判定手段83は、毛根hの変曲点数が基準変曲点数よりも多い場合に、「生体物質の抽出に適した毛である」との判定結果を出力し、その旨を表示部13に表示させる。逆に、毛根hの変曲点数が基準変曲点数よりも少ない場合には、「生体物質の抽出に不適切な毛である」との判定結果を出力し、その旨を表示部13に表示させる。
【0077】
また、判定手段83による毛根hの形状の判定は、毛根画像中における毛根hの輝度を算出することにより比較を行う方法も考えられる。
【0078】
ここで、「輝度」とは、毛根hの画像中における明るさの差をいうものとし、最も明るく撮影された領域の明るさと、最も暗く撮影された領域の明るさとの明るさの比(明るい領域/暗い領域)をいうものとし、この明暗比が大きい程「輝度が大きい」というものとする。なお、明暗比は、毛根hの画像中における濃淡の比(濃い領域/淡い領域)ということもでき、最も濃く撮影された領域の濃さと、最も淡く撮影された領域の濃さとの濃淡の差の大きさと同義にみなすことができる。
【0079】
実施例において後述するように、本願発明者らは、輝度が大きい場合、良好な生体物質の抽出が可能であることを見出している。このことから、判定手段83により、毛根画像情報に基づいて輝度を算出し、基準毛根画像情報から算出された基準輝度と比較することで、毛根hの形状を判定することが可能となる。
【0080】
以上のように、毛採取器具Eでは、毛根の形状を自動で判定し、判定結果を表示することで、生体物質の抽出に適した毛をより的確に選択することが可能とされている。
【0081】
次に、図12に基づいて、抜去した毛から生体物質を抽出するための具体的な方法について説明する。
【0082】
本願発明者は、抜去した毛から簡便かつ確実に生体物質を抽出するためのキットとして、図12に示す抽出キットを案出した。毛から生体物質を抽出する際の問題点として、採取後の毛の取り扱いが困難なため、抽出作業の過程で毛根の損傷や、コンタミネーションによる生体物質の品質劣化が生じていた。このため、これまで説明したような方法により、適切な毛を採取したとしても、解析結果が不安定となることがあった。そこで、作業者が簡単に扱うことができ、採取した毛の毛根を確実に内部に収容することができる抽出キットを提供する。
【0083】
抽出キットの使用方法について以下に具体的に説明する。まず、毛採取器具A〜Dのチャック部3に保持された毛Hを、チャック部3と一体に内筒2(図示なし)から取り外す(図12(A)参照)。チャック部3は、抽出過程における作業を容易にするため、強力な磁石等を用いて、内筒2と着脱可能な設計とすることが好ましい旨上述したが、チャック部3を取り外すことなく作業を行なうことも当然に可能である。
【0084】
続いて、チャック部3に保持された毛Hを、キャップ71に設けた切れ込み72に、キャップ71の中心方向へ押し込むようにして挟み込む(図12(B)参照)。この操作により、抜去した毛Hの一本一本を確実に抽出作業へ進めることが可能となる。なお、図12(B)において、(B)はキャップ71の切れ込み72側の側面図、(B)はキャップ71の上面図を表している。
【0085】
図12(C)に示す本体73は、蓋74を備え、内部に抽出溶液75を満たしている。キャップ71を、前工程において切れ込み72に挟み込まれた状態となっている毛Hとともに、本体73内に嵌め込んでいくと、切れ込み72が閉じて、キャップ71は毛Hをより強固に挟み込むと同時に、抽出溶液75を密封する。このとき、毛Hの毛根hは抽出溶液75中に浸漬される(図12(D)参照)。
【0086】
次に、図12(E)に示すように、キャップ71の上から蓋74を閉め、キャップ71及び抽出溶液75を完全に本体73内に密封した後、本体73を蓋74が下面となるように引っ繰り返す(図12(F)参照)。
【0087】
容器底面には、ピペットチップtの先端で穿孔することが可能なピペット挿入部76が設けられており、ピペット操作により抽出溶液75を攪拌、吸引し、また他の試薬を注入することができるように構成されている。
【0088】
これにより、毛根hからの生体物質の抽出作業を本体73内において完了させることが可能となる。例えば、抽出溶液75内に核酸を吸着する樹脂やシリカビーズ等を含有させておくことにより、抽出溶液75内で毛根hから溶出させた核酸を、該樹脂やシリカビーズに吸着させる。その後、ピペット操作により抽出溶液の吸引、及び洗浄溶液や再溶出溶液の注入を行なうことにより、核酸の抽出を行なう。
【実施例】
【0089】
本発明に係る生体物質抽出方法の効果について以下に検討を行なった。RNA、DNA、タンパク、元素等の生体物質のうち、RNAは特に分解しやすいため取り扱いが難しく、良質なRNAを多量に確保することが、実験の再現性を左右する重要な要素となっている。従って、本実施例においては、以下生体物質として特にRNAを対象として検討を行なった。
【0090】
<実施例1>
引っ張り力の検討
本実施例では、ヒトの毛髪を用いて毛を抜去するために要した引っ張り力と、抽出されたRNAの量及び質との関係を検討した。
【0091】
毛髪は、後頭部のうち両側の耳の間に位置する部分で、かつ耳間中央(正中)部分から抜去した。抜去した毛髪の毛根から、Qiagen社のRNA抽出キット(RNeasy Micro Kit)を使用して、提供プロトコル(RNeasy micro.pdf、p11−16参照)に従いトータルRNA(以下単にRNAという)溶液を調製した。その後Agilent RNA 6000 Nano Kit を用いて、Agilent社のBioanalyzer2100によってRNA濃度の測定を行なった。プロトコルはメーカーの提供プロトコルに従った(RNA6000 nano.pdf参照)。
【0092】
結果を図13に示す。図13横軸は、毛髪を抜去するために要した引っ張り力(g)、縦軸は該毛髪から抽出されたRNA溶液の濃度(ng/本)を示す。
【0093】
50g以上の引っ張り力を要した毛髪(図中A群)では、40ng/本以上の高濃度のRNA溶液が抽出された。これに対して、引っ張り力が35〜40gであった毛髪(B群)及び5gであった毛髪(C群)では、ともにRNA溶液の濃度は25ng/本以下と低濃度であった。なお、C群には、頭髪を手で梳いた際に抜け落ちたものを、引っ張り力5gで抜去された毛髪とみなして用いている。
【0094】
以上より、引っ張り力50gを基準値として、該基準値以上の引っ張り力を要する毛髪の毛根からRNAを抽出することにより、安定して高濃度のRNA溶液を調製できることが示された。
【0095】
次に、上記のA群〜C群の毛髪から抽出されたRNAの質について検討を行なった。
【0096】
既に述べたとおり、RNAは非常に不安定で分解されやすい性質を有する。分解されたRNAでは、メッセンジャーRNA(mRNA)も切断されているため、逆転写酵素によるmRNAからのcDNA合成を行なう際に、cDNA合成が不能となるか、もしくは短い断片のcDNAしか合成することができなくなるといった問題が生じる。この場合、当該cDNAを用いた遺伝子発現解析も難しくなる。
【0097】
RNAの質を確認する手段としては、従来、電気泳動によりRNAを分離して、リボゾーマルRNA(18sRNA及び26sRNA)のバンドを確認することが行なわれている。分解が進んだRNAでは、リボゾーマルRNAのバンドが減少もしくは消失する。これに対して、分解していない良質なRNAでは、リボゾーマルRNAのバンドが明確に確認される。
【0098】
上記のA群〜C群から抽出したRNA溶液を、Agilent RNA 6000 NanoKit を用いて、Agilent社のBioanalyzer2100を利用して電気泳動により分離し、リボゾーマルRNA(18sRNA及び26sRNA)のバンド強度を測定した。プロトコルはメーカの提供プロコルに従った(RNA6000 nano.pdf参照)。
【0099】
結果を図14に示す。図14横軸は電気泳動時間(秒(s))、縦軸はバンド強度(蛍光ユニット(FU))を示す。
【0100】
図14(A)は、図13のA群(50g以上の引っ張り力を要した毛髪)から抽出したRNAの電気泳動パターンである。泳動時間35s付近において、18sRNAに由来するバンド(図中*参照)が4FU以上の高強度で検出されている。同様に、泳動時間40s周辺では、26sRNAに由来するバンド(図中**参照)が高強度に観察される。
【0101】
これに対して、図13のB群(引っ張り力が35〜40gであった毛髪)から抽出したRNAでは、18sRNA及び26sRNAに由来するバンドは、ピークとして観察されるものの、その蛍光強度は18sRNAのバンドで2FU前後と、A群に比べて顕著に低下している(図14(B)参照、縦軸方向のスケールに注意)。このことは、B群では、A群に比してRNAの分解が進んでいることを示している。
【0102】
さらに、図13のC群(引っ張り力が5gであった毛髪)から抽出したRNAでは、18sRNA及び26sRNAに由来するバンドが観察されず、電気泳動によってRNAに由来する蛍光そのものが検出されなかった(図14(C)参照)。
【0103】
以上より、引っ張り力50gを基準値として、該基準値以上の引っ張り力を要する毛髪の毛根からRNAを抽出することにより、安定して高品質のRNA溶液を調製できることが示された。
【0104】
次に、図13のA群(50g以上の引っ張り力を要した毛髪)から抽出したRNAを用いて、遺伝子発現解析結果の再現性について検討を行なった。
【0105】
対照群としては、A群と同様の部位から任意に抜去した毛髪を用いた。A群及び対照群の毛髪から上記の方法によりRNAを抽出し、定法により逆転写酵素を用いたcDNA合成を行い、GAPDH遺伝子の発現量を測定した。GAPDH遺伝子は、いわゆるハウスキーピング遺伝子として知られ、遺伝子発現解析において遺伝子発現量の指標として用いられている。
【0106】
結果を図15に示す。図15横軸はA群及び対照群における毛髪の各サンプル番号、縦軸は各サンプルにおけるGAPDH遺伝子の相対発現量を示す。
【0107】
図中丸印で示されるA群においてGAPDHの発現量は、ひし形で示される対照群に比して、最大値と最小値の幅が小さく、ぶれが小さいことが分かる。すなわち、A群においては各サンプル間で、高い再現性をもってGAPDH遺伝子の発現量を定量することができた。
【0108】
以上より、引っ張り力50gを基準値として、該基準値以上の引っ張り力を要する毛髪の毛根からRNAを抽出することにより、再現性の高い遺伝子発現解析が可能となることが明らかとなった。
【0109】
<実施例2>
抜去方向及び毛根形状の検討 本実施例では、毛の抜去方向の体表に対する角度及び抜去した毛根の形状と、抽出されたRNAの量及び質との関係を検討した。
【0110】
図16には、毛の抜去方向の体表に対する角度を規定する手段を用いて、毛の生えている方向の体表に対する角度を変化させずに抜去した毛髪(A)と、任意の角度で抜去した毛髪(B)の毛根の拡大図及びこれらの毛根から抽出したRNA溶液の濃度(C)を示した。
【0111】
図16(B)では(A)に比べて、毛根の末端部(毛球)が大きく、多数の細胞(毛母細胞(図1符合b参照))が含まれていると推察することができる。
【0112】
これらの毛根から抽出されたRNA量は、角度を規定して抜去した毛髪(B)では93.93ng/本であり、任意の角度で抜去した毛髪(A)の40.14ng/本に比して有意に増加した。
【0113】
以上より、毛の抜去方向の体表に対する角度を規定する手段を用いて毛を抜去することにより、毛根からのRNA抽出量が増加することが示された。
【0114】
図17には、抜去した毛髪について、毛根の輪郭線における変曲点の数が3以上であるもの(D群:(D1)〜(D4))と、2以下であるもの(E群:(E1)〜(E4))を示した。なお、(E4)に示す毛髪は、抜去の際に毛幹部で切断された毛髪である。
【0115】
表1には、D群及びE群の毛根から抽出されたRNAの量及び質を示した。RNA量は、実施例1に記載した方法により調製したRNA溶液の濃度(pg/μl)として示した。なお、(E4)の毛髪については、RNAの抽出が不能であった。
【0116】
RNA品質は、実施例1と同様の方法によりRNAの電気泳動及びバンド強度の測定を行って得たリボゾーマルRNAの存在比(26sRNA/18sRNA)により示した。図18には、各サンプルのRNA電気泳動パターンを示す。26sRNA/18sRNAは、その値が高い程RNAの品質が良いことを意味している。なお、E群に関しては、RNAの抽出量が少なく、品質の評価は不能であった。
【0117】
【表1】

【0118】
表に示すように、変曲点数が3以上であるD群の毛根からは、変曲点数が2以下であるE群毛根に比べて、抽出されるRNAの量及び質がともに優れていることが確認された。このことは、毛根の輪郭線における変曲点の数が多く、複雑な形状を有する毛根ほど、良好な生体物質を抽出し得ることを示している。
【0119】
また、図17から分かるように、D群の毛根は、E群毛根に比べて、輝度(明暗比もしくは濃淡比)が大きかったことから、輝度の大きい毛根ほど、良好な生体物質を抽出し得ることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明に係る生体物質抽出方法は、微量試料を用いた遺伝子発現解析、遺伝子多型解析、プロテオーム解析等の各種解析に用いることが可能であり、疾患メカニズムの解明や、創薬ターゲットの探索等に貢献し得る。また、本発明に係る毛採取器具は、臨床の現場での毛髪採取を容易にし、解析データの蓄積やこれによる診断方法の確立に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】毛周期を説明するための皮膚断面を表す模式図である。
【図2】任意に抜去した毛髪から抽出されたRNA量を示す図である。
【図3】本発明に係る毛採取器具の第一実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明に係る毛採取器具の第二実施形態を示す正面図である。
【図5】本発明に係る毛採取器具の第三実施形態を示す正面図である。
【図6】毛採取器具A及び毛採取器具Cを用いて抜去した毛の毛根の拡大図である。
【図7】本発明に係る毛採取器具の第四実施形態を示す正面図である。
【図8】本発明に係る毛採取器具の第五実施形態を示す概念図である。
【図9】判定手段83における判定方法を示すフローチャートである
【図10】毛根hの輪郭線及びその変曲点の具体例を示す図である。
【図11】毛根hの輪郭線及びその変曲点の具体例を示す図である。
【図12】抜去した毛から生体物質を抽出するためのキットを説明する図である。
【図13】抜去するために要した引っ張り力と、抽出されたRNA量との関係を示す図である。
【図14】抽出されたRNAの電気泳動パターンを示す図である。
【図15】GAPDH遺伝子の遺伝子発現解析の結果を示す図である。
【図16】毛の抜去方向を規定した場合の効果を説明するための図である。
【図17】抜去後の毛髪を、輪郭線における変曲点の数により分類した図である。
【図18】図17に示した各毛髪から抽出されたRNAの電気泳動パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0122】
A、B、C、D、E 毛採取器具
F 引っ張り力
H 毛
h 毛根
T 体表
Q、q 復元力
r 変曲点
1 外筒
11 内筒制止板
12 嵌合部
13 表示部
2 内筒
21 内筒バネ
22 ストッパー
23 ストッパー用窓
24 アーム
241 支持部
242 体表当接部
243 屈曲点
3 チャック部
4 バネ力調整ネジ
5 外筒バネ
6 拡大鏡
61 レンズ
81 取得手段
82 記憶手段
83 判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抜去するために所定の基準値以上の引っ張り力を要する毛の毛根から生体物質を抽出する方法。
【請求項2】
前記基準値が50gであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記生体物質が、RNA、DNA、タンパク、元素のいずれか1つから選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
毛を抜去するための毛採取器具であって、
毛を挟持する手段と、
毛を抜去する際にこれに負荷される引っ張り力を測定する手段と、
を備えることを特徴とする毛採取器具。
【請求項5】
前記毛の抜去方向の体表に対する角度を規定する手段を備えることを特徴とする請求項4記載の毛採取器具。
【請求項6】
抜去した毛の毛根の形状を拡大観察する手段を備えることを特徴とする請求項4記載の毛採取器具。
【請求項7】
抜去した毛の毛根画像情報を取得する取得手段と、
該取得手段により取得された前記毛根画像情報に基づいて毛根の形状を判定する判定手段と、
を備える請求項4記載の毛採取器具。
【請求項8】
さらに、予め取得された基準毛根画像情報を記憶する記憶手段を備え、
前記判定手段は、前記取得手段により取得された前記毛根画像情報と前記基準毛根画像情報との比較に基づいて毛根の形状を判定することを特徴とする請求項7記載の毛採取器具。
【請求項9】
前記判定手段は、毛根の輪郭線における変曲点を検出して、変曲点数を算出することにより、前記比較を行うことを特徴とする請求項8記載の毛採取器具。


【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−241687(P2008−241687A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243237(P2007−243237)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】