説明

毛の成長を調節する方法

【課題】本発明は、被検体において毛の成長を促進する方法の提供を課題とする。
【解決手段】前記方法は、Wntタンパク質レベルを増加させるか、またはWntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣する薬剤を投与することによってWntで促進されるシグナル伝達の効果を誘導または模倣する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
関連出願
本願は、2001年1月12日に出願された米国特許仮出願第60/261,690号および2000年3月31日に出願された同第60/193,771号(両方とも参照として本明細書に組み入れられる)の利益を主張する。
【0002】
発明の背景
毛包は、次の成長期に新たな毛幹が既存の毛包に生じるまで、毛の成長(成長期)、それに続く退行(退行期)、および休止(休止期)の周期を経る。ハーディ(Hardy)ら(1992)Trends in Genetics 8:55-61。毛幹は毛包の基部にある上皮マトリックス細胞に由来するが、マトリックス細胞の鞘で覆われた真皮細胞群(真皮乳頭(DP)として知られる)が、毛の成長に必要とされる誘導シグナルを供給すると考えられる。表皮からの相互シグナル伝達が真皮乳頭の形成に必要とされ、これはまた、毛周期の間に観察される毛包の上皮成分および真皮成分の協調した形態学的変化の説明となる可能性がある。
【0003】
本発明は、Wntタンパク質レベルの増加が、毛の成長を促進する真皮乳頭(DP)細胞の能力を正に調節することができるという発見に一部、基づいている。Wnt発現細胞とDP細胞の共培養は毛の誘導性を維持することが発見された。さらに、Wntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害またはβ-カテニンの蓄積)を模倣することができる薬剤(例えば、GSK3βキナーゼ阻害剤(例えば、塩化リチウムまたは類似する小さなイオン))は、毛の成長を促進するDP細胞の能力を調節することができることが発見された。
【0004】
従って、1つの局面において、本発明は、被検体において毛の成長を促進する方法を特徴とする。前記方法は、例えば、Wntタンパク質レベルを増加させるか、またはWntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害またはβ-カテニンの蓄積)を模倣する薬剤を投与することによって、Wntで促進されるシグナル伝達の効果を誘導または模倣し、それによって毛の成長を促進する段階を含む。
【0005】
好ましい態様において、Wntタンパク質は、Wnt3(例えば、Wnt3aまたはWnt3b);Wnt4;Wnt7(例えば、Wnt7aまたは7b)である。特に好ましい態様において、Wntタンパク質はWnt3であり、最も好ましくはWnt3aである。
【0006】
好ましい態様において、Wntは、Wntタンパク質の産生および/または活性のレベルを増加させる薬剤を投与することによって増加する。Wntタンパク質レベルを増加させる、および/またはWntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣する薬剤は、以下の1つまたはそれ以上でもよい:Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体;Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体をコードするヌクレオチド配列;Wnt核酸発現を増加させる薬剤(例えば、Wntプロモーター領域に結合する小分子);Wntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害またはβ-カテニンの蓄積)を模倣する薬剤。Wntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣することができる薬剤の例として、GSK3βキナーゼ阻害剤(例えば、塩化リチウムまたは類似する小さなイオン)、フリズルド(Frizzled)(Frz)(細胞表面受容体)に結合し、Wnt結合を模倣する薬剤(例えば、抗フリズルド抗体または他の天然もしくは非天然のフリズルド結合リガンド)が挙げられる。
【0007】
好ましい態様において、Wntは、被検体の特定の細胞(例えば、表皮細胞またはDP細胞)に、Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体をコードするヌクレオチド配列を投与する(例えば、導入する)ことによって増加する。ヌクレオチド配列はゲノム配列でもcDNA配列でもよい。ヌクレオチド配列として、Wntコード領域;プロモーター配列(例えば、Wnt遺伝子または別の遺伝子に由来するプロモーター配列);エンハンサー配列(例えば、5'非翻訳領域(UTR)(例えば、Wnt遺伝子または別の遺伝子に由来する5'UTR)、3'UTR(例えば、Wnt遺伝子または別の遺伝子に由来する3'UTR));ポリアデニル化部位;インシュレーター配列が挙げられ得る。
【0008】
別の好ましい態様において、Wntタンパク質レベルは、内因性Wnt遺伝子の発現レベルを増加させることによって(例えば、Wnt遺伝子の転写を増加させることによって)増加する。好ましい態様において、 (例えば、エンハンサーもしくは転写活性化因子のDNA結合部位などの正の調節エレメントの付加、転写抑制因子のDNA結合部位などの負の調節エレメントの欠失、および/または内因性調節配列もしくはそこに含まれるエレメントと別の遺伝子の内因性調節配列もしくはそこに含まれるエレメントとの交換を行うことにより) 内因性Wnt遺伝子の調節配列を変えて、Wnt遺伝子のコード領域をより効率的に転写させることによって、Wnt遺伝子の転写が増加する。
【0009】
別の態様において、前記方法は、細胞(例えば、Wnt発現細胞)を被検体に導入する段階を含んでもよい。好ましい態様において、細胞はWntタンパク質(例えば、Wnt3、Wnt4、もしくはWnt7またはその断片もしくは類似体)を発現する。別の好ましい態様において、細胞は、Wntを発現するように遺伝子操作されている。例えば、細胞は、Wntタンパク質またはその断片もしくは類似体を発現するように遺伝子操作されているか、内因性Wntの発現を引き起こすかまたは増加させる核酸配列(例えば、調節配列(例えば、プロモーターまたはエンハンサー))を導入するように遺伝子操作されている。好ましい態様において、内因性Wnt遺伝子のプロモーターが別のプロモーター(例えば、別の遺伝子に由来するプロモーター)と交換されている。細胞は自己由来細胞でもよく、同種異系細胞でもよく、または異種細胞でもよいが、好ましくは自己由来細胞である。自己由来細胞は、好ましくは、毛の喪失を特徴とする被検体に由来する。操作される細胞はどの細胞タイプでもよい(例えば、線維芽細胞、ケラチノサイト、上皮細胞、内皮細胞、グリア細胞、神経細胞、リンパ球、骨髄細胞、および筋細胞)。好ましくは、細胞は、上皮細胞(例えば、表皮細胞、毛包細胞、真皮乳頭細胞)である。細胞は、Wnt活性を増加させるために被検体に導入することができる。
【0010】
好ましい態様において、Wnt(例えば、Wnt3、Wnt4、またはWnt7)レベルは、ある期間(例えば、2日、10日、14日、30日、60日、90日、もしくは180日またはそれ以上の期間)にわたり持続して増加する。例えば、Wntタンパク質、断片、または類似体を発現する細胞を、例えば、本明細書に記載の任意の方法によって供給することができ、それによって、Wntは、ある期間(例えば、2日、10日、14日、30日、60日、90日、もしくは180日またはそれ以上の期間)にわたり持続して放出される。
【0011】
好ましい態様において、Wntタンパク質レベルを増加させる薬剤またはWntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣する薬剤が、例えば、薬剤を局所投与することによって、薬剤を全身投与することによって、薬剤を経口投与することによって、または薬剤を(好ましくは真皮もしくは皮下に)注射することによって投与される。好ましい態様において、化合物は、適切な送達ビヒクル(例えば、界面活性剤)または皮膚の浸透性を高める薬剤(例えば、SDSもしくはDMSO含有処方物)を用いて投与される。好ましくは、薬剤は局所使用のための組成物に含まれ、例えば、この組成物はゲル、クリーム、または液体である。好ましい態様において、薬剤は連続投与によって投与される。例えば、薬剤は、Wntタンパク質レベルまたはWntで促進されるシグナル伝達に及ぼす影響が選択された期間(例えば、10日、20日、30日、50日、90日、180日、365日またはそれ以上)維持されるように十分な頻度で投与される。別の好ましい態様において、薬剤の投与は繰り返され、例えば、少なくとも1回、2回、3回、5回、10回、20回またはそれ以上繰り返される。
【0012】
好ましい態様において、毛の成長は、被検体の頭皮、被検体の顔において促進される。例えば、あごひげおよび/または口ひげの顔の毛の成長が促進される。
【0013】
好ましい態様において、被検体は毛の量または毛の成長速度が不十分である。好ましい態様において、被検体は遺伝的禿頭症にかかっているか、毛の成長が遅くなるホルモン障害にかかっているか、治療(例えば、放射線もしくは化学療法)を受けたか、または毛の成長を阻害する薬物を与えられたか、または毛の成長を必要とする外科的処置(例えば、皮膚移植)を受けたことがある。
【0014】
別の局面において、本発明は、被検体において毛の成長を阻害する方法を特徴とする。この方法は、被検体において、Wntタンパク質レベルを阻害する段階またはWntで促進されるシグナル伝達の効果を阻害する段階を含む。
【0015】
好ましい態様において、Wntタンパク質は、Wnt3(例えば、Wnt3aまたはWnt3b);Wnt4;Wnt7(例えば、Wnt7aまたは7b)である。特に好ましい態様において、Wntタンパク質はWnt3であり、最も好ましくはWnt3aである。
【0016】
好ましい態様において、Wntは、Wntタンパク質の産生レベルを阻害する、および/またはWnt拮抗薬である薬剤を投与することによって阻害される。Wntを阻害する薬剤は、以下の1つまたはそれ以上でもよい:フリズルドタンパク質またはそのWnt結合部分;細胞Wnt核酸配列(例えば、mRNA)に結合し、タンパク質発現を阻害することができるWnt核酸分子(例えば、アンチセンス分子またはWntリボザイム);Wntタンパク質に特異的に結合する抗体(例えば、Wntがその天然細胞標的に結合する能力を破壊する抗体(例えば、Wntがフリズルドに結合する能力を破壊する抗体));フリズルドに特異的に結合する抗体(例えば、フリズルドがWntに結合する能力を破壊する抗体);フリズルドに結合するが、Wntシグナル経路を活性化しない、変異不活性型Wntタンパク質または断片;Wnt遺伝子発現を減少させる薬剤(例えば、Wntプロモーターに結合する小分子)。
【0017】
別の好ましい態様において、Wntは、内因性Wnt遺伝子の発現レベルを減少させることによって(例えば、Wnt遺伝子の転写を減少させることによって)阻害される。好ましい態様において、内因性Wnt遺伝子の調節配列を変えることによって(例えば、転写抑制因子のDNA結合部位などの負の調節配列の付加によって)、Wnt遺伝子の転写を減少させることができる。
【0018】
好ましい態様において、Wntタンパク質レベルを減少させる薬剤またはWntで促進されるシグナル伝達の効果を阻害する薬剤が、例えば、薬剤を局所投与することによって、薬剤を全身投与することによって、薬剤を経口投与することによって、または薬剤を(好ましくは真皮もしくは皮下に)注射することによって投与される。好ましい態様において、化合物は、適切な送達ビヒクル(例えば、界面活性剤)または皮膚の浸透性を高める薬剤(例えば、SDSもしくはDMSO含有処方物)を用いて投与される。好ましくは、薬剤は局所使用のための組成物に含まれ、例えば、この組成物はゲル、クリーム、または液体である。好ましい態様において、薬剤は連続投与によって投与される。例えば、薬剤は、Wntタンパク質レベルまたはWntで促進されるシグナル伝達に及ぼす影響が選択された期間(例えば、10日、20日、30日、50日、90日、180日、365日またはそれ以上)維持されるように十分な頻度で投与される。別の好ましい態様において、薬剤の投与は繰り返され、例えば、少なくとも1回、2回、3回、5回、10回、20回またはそれ以上繰り返される。
【0019】
好ましい態様において、毛の成長は、被検体の頭皮、被検体の顔において阻害される。例えば、あごひげおよび/もしくは口ひげの顔の毛の成長または眉毛の成長が阻害される。被検体の体毛の成長が阻害される。例えば、毛の成長は、被検体の背中、足、胸、腋窩において阻害される。
【0020】
別の局面において、本発明は、被検体において毛の成長を促進する方法を特徴とする。この方法は、Wnt-β-カテニンシグナル経路を活性化するか、またはWnt-β-カテニンシグナル経路の活性化を増大させる段階を含む。
【0021】
好ましい態様において、Wnt-β-カテニン経路の活性化は、Wntタンパク質の産生レベルを増加させる、および/またはWntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害もしくはβ-カテニンの蓄積)を模倣する薬剤を投与することによって増大する。Wntタンパク質レベルを増加させる、および/またはWntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣する薬剤は、以下の1つまたはそれ以上でもよい:本明細書に記載のWntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体;本明細書に記載のWntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体をコードするヌクレオチド配列;Wnt核酸発現を増加させる薬剤(例えば、Wntプロモーター領域に結合する小分子);Wntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害またはβ-カテニンの蓄積)を模倣する薬剤。Wntで促進されるシグナル伝達を模倣することができる薬剤の例として、GSK3β阻害剤(例えば、塩化リチウムまたは類似する小さなイオン)、フリズルドに結合し、Wnt結合を模倣する薬剤(例えば、抗フリズルド抗体または他の天然もしくは非天然のフリズルド結合リガンド)が挙げられる。他の態様において、Wntタンパク質レベルは、内因性Wnt遺伝子の発現レベルを増加させることによって(例えば、本明細書に記載のようにWnt遺伝子の転写を増加させることによって)増加することができる。別の好ましい態様において、Wnt-β-カテニン経路の活性化は、β-カテニンタンパク質の産生または活性を増加させる薬剤(例えば、β-カテニンリン酸化を減少させる、および/またはβ-カテニン蓄積を増加させる薬剤(例えば、β-カテニンポリペプチドまたはその断片もしくは類似体、β-カテニンポリペプチドまたはその断片もしくは類似体をコードする核酸配列));LEF-1タンパク質の産生および/または活性を増加させる薬剤(例えば、LEF-1ポリペプチドまたはその断片もしくは類似体、LEF-1ポリペプチドまたはその断片もしくは類似体をコードする核酸配列))を投与することによって増大する。
【0022】
別の好ましい態様において、前記方法は、細胞(例えば、Wnt-β-カテニンシグナル経路の活性化に関与するタンパク質を発現する(好ましくは分泌する)細胞)を被検体に導入する段階を含んでもよい。別の好ましい態様において、細胞は、Wntタンパク質またはその断片もしくは類似体;β-カテニンタンパク質またはその断片もしくは類似体;LEF-1タンパク質またはその断片もしくは類似体を発現するように遺伝子操作されている。好ましい態様において、細胞は、Wntタンパク質(例えば、Wnt3、Wnt4、もしくはWnt7、またはその断片もしくは類似体)を発現する。別の好ましい態様において、細胞はWntを発現するように遺伝子操作されている。例えば、細胞は、Wntタンパク質またはその断片もしくは類似体を発現するように遺伝子操作されているか、内因性Wntの発現を引き起こすかまたは増加させる核酸配列(例えば、調節配列(例えば、プロモーターまたはエンハンサー))を導入するように遺伝子操作されている。好ましい態様において、内因性Wnt遺伝子のプロモーターが別のプロモーター(例えば、別の遺伝子に由来するプロモーター)と交換されている。細胞は自己由来細胞でもよく、同種異系細胞でもよく、または異種細胞でもよいが、好ましくは自己由来細胞である。自己由来細胞は、好ましくは、毛の喪失を特徴とする被検体に由来する。操作される細胞はどの細胞タイプでもよい(例えば、線維芽細胞、ケラチノサイト、上皮細胞)。好ましくは、細胞は、上皮細胞(例えば、表皮細胞、毛包細胞、真皮乳頭細胞)である。細胞は、Wnt活性を増加させるために被検体に導入することができる。
【0023】
好ましい態様において、Wnt(例えば、Wnt3、Wnt4、またはWnt7)のレベルは、ある期間(例えば、2日、10日、14日、30日、60日、90日、もしくは180日またはそれ以上の期間)にわたり持続して増加する。例えば、Wntタンパク質、断片、または類似体を発現する細胞を、例えば、本明細書に記載の任意の方法によって供給することができ、それによって、Wntは、ある期間(例えば、2日、10日、14日、30日、60日、90日、もしくは180日またはそれ以上の期間)にわたり持続して放出される。例えば、Wnt-β-カテニンシグナル経路の活性化に関与するタンパク質のレベルを増加させるために、細胞を被検体に導入することができる。
【0024】
好ましい態様において、薬剤は、例えば、薬剤を局所投与することによって、薬剤を全身投与することによって、薬剤を経口投与することによって、または薬剤を(好ましくは真皮もしくは皮下に)注射することによって投与される。好ましい態様において、化合物は、適切な送達ビヒクル(例えば、界面活性剤)または皮膚の浸透性を高める薬剤(例えば、SDSもしくはDMSO含有処方物)を用いて投与される。好ましくは、薬剤は局所使用のための組成物に含まれ、例えば、この組成物はゲル、クリーム、または液体である。好ましい態様において、薬剤は連続投与によって投与される。例えば、薬剤はWnt-β-カテニンシグナル経路に及ぼす影響が選択された期間(例えば、10日、20日、30日、50日、90日、180日、365日またはそれ以上)維持されるように十分な頻度で投与される。別の好ましい態様において、薬剤の投与は繰り返され、例えば、少なくとも1回、2回、3回、5回、10回、20回またはそれ以上繰り返される。
【0025】
好ましい態様において、毛の成長は、被検体の頭皮、被検体の顔において促進される。例えば、あごひげおよび/または口ひげの顔の毛の成長が促進される。
【0026】
好ましい態様において、被検体は毛の量または毛の成長速度が不十分である。好ましい態様において、被検体は、遺伝的禿頭症にかかっているか、毛の成長が遅くなるホルモン障害にかかっているか、治療(例えば、放射線もしくは化学療法)を受けたか、または毛の成長を阻害する薬物を与えられたか、または毛の成長を必要とする外科的処置(例えば、皮膚移植)を受けたことがある。
【0027】
別の局面において、本発明は被検体において毛の成長を阻害する方法を特徴とする。この方法は、Wnt-β-カテニンシグナル経路の活性化を阻害する段階を含む。
【0028】
好ましい態様において、Wnt-β-カテニン経路の活性化は、Wntタンパク質の産生レベルを減少させる、および/またはWntで促進されるシグナル伝達の効果を減少させる薬剤を投与することによって阻害される。Wntタンパク質レベルを阻害する薬剤またはWnt拮抗薬である薬剤は、以下の1つまたはそれ以上でもよい:フリズルドタンパク質またはそのWnt結合部分;細胞Wnt核酸配列(例えば、mRNA)に結合し、タンパク質発現を阻害することができるWnt核酸分子(例えば、アンチセンス分子またはWntリボザイム);Wntタンパク質に特異的に結合する抗体(例えば、Wntがその天然細胞標的に結合する能力を破壊する抗体(例えば、Wntがフリズルド受容体タンパク質に結合する能力を破壊する抗体));フリズルドに特異的に結合する抗体(例えば、フリズルドがWntに結合する能力を破壊する抗体);フリズルドに結合するが、Wntシグナル経路を活性化しない、変異不活性型Wntタンパク質または断片;Wnt遺伝子発現を減少させる薬剤(例えば、Wntプロモーターに結合する小分子);Wnt活性を減少させる薬剤(例えば、β-カテニンリン酸化を増加させる薬剤)。他の態様において、Wntタンパク質レベルは、内因性Wnt遺伝子の発現レベルを減少させることによって(例えば、本明細書に記載のWnt遺伝子の転写を減少させることによって)阻害することができる。別の好ましい態様において、Wnt-β-カテニン経路の活性化は、β-カテニンタンパク質の産生を阻害する薬剤またはWntで促進されるシグナル伝達の効果を阻害する薬剤(例えば、β-カテニンリン酸化を増加させる、および/またはβ-カテニン蓄積を減少させる薬剤);LEF-1タンパク質の産生および/または活性を阻害する薬剤を投与することによって阻害される。
【0029】
好ましい態様において、薬剤は、例えば、薬剤を局所投与することによって、薬剤を全身投与することによって、薬剤を経口投与することによって、または薬剤を(好ましくは真皮もしくは皮下に)注射することによって投与される。好ましい態様において、化合物は、適切な送達ビヒクル(例えば、界面活性剤)または皮膚の浸透性を高める薬剤(例えば、SDSもしくはDMSO含有処方物)を用いて投与される。好ましくは、薬剤は局所使用のための組成物に含まれ、例えば、この組成物はゲル、クリーム、または液体である。好ましい態様において、薬剤は連続投与によって投与される。例えば、薬剤は、Wnt-β-カテニンシグナル経路に及ぼす影響が選択された期間(例えば、10日、20日、30日、50日、90日、180日、365日またはそれ以上)維持されるように十分な頻度で投与される。別の好ましい態様において、薬剤の投与は繰り返され、例えば、少なくとも1回、2回、3回、5回、10回、20回またはそれ以上繰り返される。
【0030】
好ましい態様において、毛の成長は、被検体の頭皮、被検体の顔において阻害される。例えば、あごひげおよび/もしくは口ひげの顔の毛の成長または眉毛の成長が阻害される。被検体の体毛の成長が阻害される。例えば、毛の成長は、被検体の背中、足、胸、腋窩において阻害される。
【0031】
別の局面において、本発明は、被検体の毛の成長/毛の喪失の状態を評価する方法を特徴とする。この方法は、Wnt遺伝子の遺伝子傷害の有無を評価する(例えば、検出する)段階、またはWnt遺伝子の誤った発現を評価する(例えば、検出する)段階を含む。
【0032】
1つの態様において、前記方法は、被検体に毛が喪失する危険性があるかどうかを評価する段階を含む。前記方法は、Wnt遺伝子の遺伝子傷害を評価して(例えば、検出して)、またはWnt遺伝子の過小発現を評価して(例えば、検出して)、被検体に毛が喪失する危険性があるかどうかを確かめる段階を含む。
【0033】
好ましい態様において、Wnt遺伝子またはタンパク質は、Wnt3(例えば、Wnt3aまたはWnt3b);Wnt4;Wnt7(例えば、Wnt7aまたは7b)である。特に好ましい態様において、Wntタンパク質はWnt3であり、最も好ましくはWnt3aである。
【0034】
好ましい態様において、前記方法は、被検体からの細胞試料を遺伝子傷害(例えば、Wntタンパク質をコードする遺伝子の変異)の有無について評価する段階を含む。遺伝子傷害の存在は、被検体の毛が喪失する危険性を示す。細胞試料はどの細胞タイプでもよい(例えば、線維芽細胞、ケラチノサイト、上皮細胞、内皮細胞、グリア細胞、神経細胞、リンパ球、骨髄細胞、および筋細胞)。
【0035】
別の好ましい態様において、前記方法は、過小発現を確かめるために、細胞試料(例えば、被検体の毛包からの表皮細胞試料)をWnt発現レベルについて評価する段階を含む。Wntの過小発現は毛が喪失する危険性を示す。
【0036】
好ましい態様において、遺伝子傷害は、試料と、Wnt mRNAにハイブリダイズすることができる核酸プローブ(例えば、標識プローブ)を接触させることによって評価される。別の好ましい態様において、Wntの発現は、Wntタンパク質に結合することができる抗体(例えば、標識抗体)を用いて評価される。
【0037】
別の態様において、前記方法は、被検体において毛の成長を評価する段階を含む。前記方法は、Wnt遺伝子の遺伝子傷害の有無を評価して(例えば、検出して)、またはWnt遺伝子の過剰発現を評価して(例えば、検出して)、被検体において毛が成長する見込みがあるかどうかを評価する段階を含む。
【0038】
好ましい態様において、Wnt遺伝子またはタンパク質は、Wnt3(例えば、Wnt3aまたはWnt3b);Wnt4;Wnt7(例えば、Wnt7aまたは7b)である。特に好ましい態様において、Wntタンパク質はWnt3であり、最も好ましくはWnt3aである。
【0039】
好ましい態様において、前記方法は、被検体からの細胞試料を遺伝子傷害(例えば、Wntタンパク質をコードする遺伝子の変異)の有無について評価する段階を含む。遺伝子傷害が無いことは毛が成長する可能性を示す。細胞試料はどの細胞タイプでもよい(例えば、線維芽細胞、ケラチノサイト、上皮細胞、内皮細胞、グリア細胞、神経細胞、リンパ球、骨髄細胞、および筋細胞)。
【0040】
別の好ましい態様において、前記方法は、過剰発現を確かめるために、細胞試料(例えば、被検体の毛包からの表皮細胞試料)をWnt発現レベルについて評価する段階を含む。Wntの過剰発現は毛が成長する可能性を示す。
【0041】
好ましい態様において、遺伝子傷害は、試料と、Wnt mRNAにハイブリダイズすることができる核酸プローブ(例えば、標識プローブ)を接触させることによって評価される。別の好ましい態様において、Wntの発現は、Wntタンパク質に結合することができる抗体(例えば、標識抗体)を用いて評価される。
【0042】
別の局面において、本発明は、被検体において表皮細胞が毛の成長または毛の喪失を促進する能力を評価する方法を特徴とする。前記方法は、Wnt遺伝子の遺伝子傷害の有無を評価する(例えば、検出する)段階、またはWnt遺伝子の誤った発現を評価する(例えば、検出する)段階を含む。
【0043】
好ましい態様において、表皮細胞が毛の成長または毛の喪失を促進する能力はインビトロで評価される。
【0044】
1つの態様において、前記方法は、表皮細胞が毛の喪失を促進する能力を評価する段階を含む。前記方法は、Wnt遺伝子の遺伝子傷害を評価する(例えば、検出する)段階、またはWnt遺伝子の過小発現を評価する(例えば、検出する)段階を含む。
【0045】
好ましい態様において、Wnt遺伝子またはタンパク質は、Wnt3(例えば、Wnt3aまたはWnt3b);Wnt4;Wnt7(例えば、Wnt7aまたは7b)である。特に好ましい態様において、Wntタンパク質はWnt3であり、最も好ましくはWnt3aである。
【0046】
好ましい態様において、前記方法は、被検体からの表皮細胞試料を遺伝子傷害(例えば、Wntタンパク質をコードする遺伝子の変異)の有無について評価する段階を含む。遺伝子傷害の存在は、被検体の毛が喪失する危険性を示す。
【0047】
別の好ましい態様において、前記方法は、過小発現を確かめるために、表皮細胞試料をWnt発現レベルについて評価する段階を含む。Wntの過小発現は毛が喪失する危険性を示す。
【0048】
好ましい態様において、遺伝子傷害は、試料と、Wnt mRNAにハイブリダイズすることができる核酸プローブ(例えば、標識プローブ)を接触させることによって評価される。別の好ましい態様において、Wntの発現は、Wntタンパク質に結合することができる抗体(例えば、標識抗体)を用いて評価される。
【0049】
別の態様において、前記方法は、表皮細胞が毛の成長を促進する能力を評価する段階を含む。前記方法は、Wnt遺伝子の遺伝子傷害の有無を評価する(例えば、検出する)段階、またはWnt遺伝子の過剰発現を評価する(例えば、検出する)段階を含む。
【0050】
好ましい態様において、Wnt遺伝子またはタンパク質は、Wnt3(例えば、Wnt3aまたはWnt3b);Wnt4;Wnt7(例えば、Wnt7aまたは7b)である。特に好ましい態様において、Wntタンパク質はWnt3であり、最も好ましくはWnt3aである。
【0051】
好ましい態様において、前記方法は、被検体からの表皮細胞試料を遺伝子傷害(例えば、Wntタンパク質をコードする遺伝子の変異)の有無について評価する段階を含む。遺伝子傷害が無いことは毛が成長する可能性を示す。
【0052】
別の好ましい態様において、前記方法は、過剰発現を確かめるために、表皮細胞試料をWnt発現レベルについて評価する段階を含む。Wntの過剰発現は毛が成長する可能性を示す。
【0053】
好ましい態様において、遺伝子傷害は、試料と、Wnt mRNAにハイブリダイズすることができる核酸プローブ(例えば、標識プローブ)を接触させることによって評価される。別の好ましい態様において、Wntの発現は、Wntタンパク質に結合することができる抗体(例えば、標識抗体)を用いて評価される。
【0054】
別の局面において、本発明は、毛の成長を促進することができる化合物を同定する方法を特徴とする。前記方法は、Wntポリペプチドを発現することができる細胞と試験化合物を接触させる段階、およびWntポリペプチドまたは核酸の発現レベルを確かめる段階を含み、Wntポリペプチドまたは核酸の発現を増加させることができる化合物は、毛の成長を促進することができる化合物を示す。
【0055】
好ましい態様において、Wntタンパク質は、Wnt3(例えば、Wnt3aまたはWnt3b);Wnt4;Wnt7(例えば、Wnt7aまたは7b)である。特に好ましい態様において、Wntタンパク質はWnt3であり、最も好ましくはWnt3aである。
【0056】
好ましい態様において、化合物はWnt断片または類似体である。
【0057】
好ましい態様において、前記方法は、対照細胞(例えば、化合物で処理されていない同一の細胞)を評価する段階をさらに含む。
【0058】
好ましい態様において、細胞は、表皮細胞(例えば、毛包からの表皮細胞)、DP細胞である。
【0059】
好ましい態様において、Wnt核酸の発現は、Wnt核酸分子(例えば、Wnt mRNA)にハイブリダイズすることができる核酸プローブ(例えば、標識プローブ)を用いて評価される。好ましい態様において、Wnt核酸の発現(例えば、DNA発現)は、化合物とWnt核酸分子(例えば、Wnt核酸分子の調節配列)を接触させ、インビトロまたはインビボでWnt転写を評価することによって評価される。例えば、Wnt転写は、例えば、Wnt調節配列に融合されたマーカー遺伝子(例えば、lacZ遺伝子または緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子)を用いて細胞活性を確かめ、マーカー産生を追跡することによって評価される。
【0060】
好ましい態様において、Wntポリペプチドの発現は、抗Wnt抗体(例えば、標識抗Wnt抗体)を用いて評価される。
【0061】
別の局面において、本発明は、毛の成長を阻害することができる化合物を同定する方法を特徴とする。前記方法は、Wntポリペプチドを発現することができる細胞と試験化合物を接触させる段階、ならびに化合物の存在下および非存在下でWntポリペプチドまたは核酸の発現レベルを確かめる段階を含み、Wntポリペプチドまたは核酸の発現を減少させることができる化合物は、毛の成長を阻害することができる化合物を示す。
【0062】
好ましい態様において、WntポリペプチドはWnt3(例えば、Wnt3aまたはWnt3b);Wnt4;Wnt7(例えば、Wnt7aまたは7b)である。特に好ましい態様において、Wntタンパク質はWnt3であり、最も好ましくはWnt3aである。
【0063】
好ましい態様において、Wnt核酸の発現は、Wnt核酸分子(例えば、Wnt mRNA)にハイブリダイズすることができる核酸プローブ(例えば、標識プローブ)を用いて評価される。好ましい態様において、Wnt核酸の発現(例えば、DNA発現)は、化合物とWnt核酸分子(例えば、Wnt核酸分子の調節配列)を接触させ、インビトロまたはインビボでWnt転写を評価することによって評価される。Wnt転写は、例えば、Wnt調節配列に融合されたマーカー遺伝子(例えば、lacZ遺伝子またはGFP遺伝子)を用いて細胞活性を確かめ、マーカー産生を追跡することによって評価される。
【0064】
好ましい態様において、Wntポリペプチドの発現は、抗Wnt抗体(例えば、標識抗Wnt抗体)を用いて評価される。
【0065】
別の局面において、本発明は、DP細胞(例えば、ヒトまたは非ヒト(例えば、げっ歯類(例えば、ラットもしくはマウス))のDP細胞)を培養する方法を特徴とする。前記方法は、増加したレベルのWnt、Wnt-β-カテニンシグナル経路の活性化に関与する別のタンパク質(例えば、β-カテニンおよび/もしくはLEF-1)、ならびに/またはWntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害もしくはβ-カテニンの蓄積)を模倣する薬剤の存在下でDP細胞を培養する段階を含む。
【0066】
好ましい態様において、Wntレベルは、Wnt非存在下のDP細胞より増加している。
【0067】
好ましい態様において、Wntタンパク質はWnt3(例えば、Wnt3aまたはWnt3b);Wnt4;Wnt7(例えば、Wnt7aまたは7b)である。特に好ましい態様において、Wntタンパク質はWnt3であり、最も好ましくはWnt3aである。
【0068】
好ましい態様において、DP細胞はインビトロで増殖される。好ましい態様において、DP細胞はDP細胞の数を増すように培養される。
【0069】
好ましい態様において、Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体が培養物に添加される。別の好ましい態様において、Wntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害またはβ-カテニンの蓄積)を模倣する薬剤が培養物に添加される。Wntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣することができる薬剤の例として、GSK3βキナーゼ阻害剤(例えば、塩化リチウムまたは類似する小さなイオン)が挙げられる。
【0070】
別の好ましい態様において、DP細胞は、Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体を発現する細胞の存在下で培養される。
【0071】
好ましい態様において、DP細胞は被検体から得られ、増加したレベルのWnt、または、Wntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害もしくはβ-カテニンの蓄積)を模倣する薬剤と共に培養され、次いで、同じ被検体または異なる被検体に戻される。
【0072】
好ましい態様において、DP細胞は培養状態で維持され、次いで、培養されたDP細胞は、個体における毛の成長量を増加させるために同じ被検体または異なる被検体に戻される。
【0073】
別の好ましい態様において、本発明は、真皮乳頭細胞移植片(例えば、植毛手術用のDP移植片)を作成および維持する方法を特徴とする。前記方法は、Wntまたはその断片もしくは類似体、Wnt-β-カテニンシグナル経路の活性化に関与する別のタンパク質(例えば、β-カテニンおよび/またはLEF-1)またはその断片もしくは類似体、および/または、Wntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害またはβ-カテニンの蓄積)を模倣する薬剤の存在下で、1つまたはそれ以上のDP細胞を培養する段階を含む。
【0074】
好ましい態様において、DP細胞はインビトロで増殖される。好ましい態様において、DP細胞はDP細胞の数を増すようにインビトロで培養される。
【0075】
好ましい態様において、Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体が培養物に添加される。別の好ましい態様において、Wntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害またはβ-カテニンの蓄積)を模倣する薬剤が培養物に添加される。Wntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣する薬剤の例として、GSK3βキナーゼ阻害剤(例えば、塩化リチウムまたは類似する小さなイオン)が挙げられる。
【0076】
別の好ましい態様において、DP細胞は、Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体を発現する細胞の存在下で培養される。
【0077】
好ましい態様において、DP細胞は被検体から得られ、増加したレベルのWnt、またはWntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害もしくはβ-カテニンの蓄積)を模倣する薬剤と共に培養され、次いで、同じ被検体または異なる被検体に戻される。
【0078】
別の局面において、本発明は、Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体、またはWntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害もしくはβ-カテニンの蓄積)を模倣する薬剤を含む、DP細胞を培養するための培地を特徴とする。Wntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣する薬剤の例として、GSK3βキナーゼ阻害剤(例えば、塩化リチウムまたは類似する小さなイオン)が挙げられる。
【0079】
別の局面において、本発明は、DP細胞の成長期遺伝子発現を促進または維持する方法を特徴とする。前記方法は、Wntタンパク質レベルを増加させて、またはWntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害もしくはβ-カテニンの蓄積)を模倣して、DP細胞の成長期遺伝子発現を促進または維持する段階を含む。別の好ましい態様において、前記方法は、Wnt-β-カテニンシグナル経路の活性化を増大させて、DP細胞の成長期遺伝子発現を促進または維持する段階を含む。
【0080】
好ましい態様において、Wntタンパク質はWnt3(例えば、Wnt3aまたはWnt3b);Wnt4;Wnt7(例えば、Wnt7aまたは7b)である。特に好ましい態様において、Wntタンパク質はWnt3であり、最も好ましくはWnt3aである。
【0081】
好ましい態様において、Wntタンパク質の産生レベルを増加させる、および/または、Wntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害またはβ-カテニンの蓄積)を模倣する薬剤を投与することによって、Wntレベルが増加するか、またはWntで促進されるシグナル伝達の効果が模倣される。Wntタンパク質レベルを増加させる、および/またはWntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣する薬剤は、以下の1つまたはそれ以上でもよい:本明細書に記載のWntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体;本明細書に記載のWntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体をコードするヌクレオチド配列;Wnt核酸発現を増加させる薬剤(例えば、Wntプロモーター領域に結合する小分子);Wntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害またはβ-カテニンの蓄積)を模倣する薬剤。Wntで促進されるシグナル伝達を模倣することができる薬剤の例として、GSK3β阻害剤(例えば、塩化リチウムまたは類似する小さなイオン)、フリズルドに結合し、Wnt結合を模倣する薬剤(例えば、抗フリズルド抗体または他の天然もしくは非天然のフリズルド結合リガンド)が挙げられる。
【0082】
好ましい態様において、前記方法はインビトロまたはインビボで行うことができる。例えば、DP細胞を培養状態で成長期に維持し、次いで、例えば、毛の成長を速めるために、被検体に投与することができる。このような方法は、WntまたはWntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害もしくはβ-カテニンの蓄積)を模倣する薬剤の存在下で、DP細胞を培養状態で維持する段階を含んでもよい。1つの態様において、Wntおよび/またはWntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣する薬剤(例えば、GSK3βキナーゼ阻害剤(例えば、塩化リチウムもしくは類似する小さなイオン))を培養物に添加することができる。別の態様において、DP細胞は、Wntを発現する細胞(例えば、Wntを天然に発現する細胞、またはWntを発現するように遺伝子操作されている細胞)と共に共培養することができる。次いで、成長期に維持されたDP細胞は、例えば、DP移植処置において使用することができる。DP細胞は、DP移植を受けている被検体から得られてもよく(すなわち、自己由来細胞)、異なる被検体から得られてもよい(例えば、同種異系細胞または異種細胞)。
【0083】
好ましい態様において、Wntは、特定の細胞(例えば、表皮細胞もしくはDP細胞)および/または被検体に、Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体をコードするヌクレオチド配列を投与する(例えば、導入する)ことによって増加する。ヌクレオチド配列はゲノム配列でもcDNA配列でもよい。ヌクレオチド配列として、Wntコード領域;プロモーター配列(例えば、Wnt遺伝子または別の遺伝子に由来するプロモーター配列);エンハンサー配列(例えば、5'非翻訳領域(UTR)(例えば、Wnt遺伝子または別の遺伝子に由来する5'UTR)、3'UTR(例えば、Wnt遺伝子または別の遺伝子に由来する3'UTR));ポリアデニル化部位;インシュレーター配列が挙げられ得る。
【0084】
別の好ましい態様において、Wntタンパク質レベルは、内因性Wnt遺伝子の発現レベルを増加させることによって(例えば、Wnt遺伝子の転写を増加させることによって)増加する。好ましい態様において、 (例えば、エンハンサーもしくは転写活性化因子のDNA結合部位などの正の調節エレメントの付加、転写抑制因子のDNA結合部位などの負の調節エレメントの欠失、および/または内因性調節配列もしくはそこに含まれるエレメントと別の遺伝子の内因性調節配列もしくはそこに含まれるエレメントとの交換を行うことにより) 内因性Wnt遺伝子の調節配列を変えて、Wnt遺伝子のコード領域をより効率的に転写させることによって、Wnt遺伝子の転写が増加する。
【0085】
別の好ましい態様において、前記方法は、細胞(例えば、Wntタンパク質を発現する(好ましくは分泌する)細胞)を被検体に導入する段階を含んでもよい。別の好ましい態様において、細胞は、Wntタンパク質またはその断片もしくは類似体を発現するように遺伝子操作されている。細胞は自己由来細胞でもよく、同種異系細胞でもよく、または異種細胞でもよいが、好ましくは自己由来細胞である。細胞はどの細胞タイプでもよい(例えば、線維芽細胞、ケラチノサイト、上皮細胞、内皮細胞)。好ましくは、細胞は、上皮細胞(例えば、表皮細胞またはDP細胞)である。細胞は、Wntタンパク質レベルを増加させるために被検体に導入することができる。
【0086】
好ましい態様において、Wntタンパク質レベルを増加させる、および/またはWntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣する薬剤が、例えば、薬剤を局所投与することによって、薬剤を全身投与することによって、薬剤を経口投与することによって、または薬剤を(好ましくは真皮もしくは皮下に)注射することによって投与される。好ましい態様において、化合物は、適切な送達ビヒクル(例えば、界面活性剤)または皮膚の浸透性を高める薬剤(例えば、SDSもしくはDMSO含有処方物)を用いて投与される。好ましくは、薬剤は局所使用のための組成物に含まれ、例えば、この組成物はゲル、クリーム、または液体である。好ましい態様において、薬剤は連続投与によって投与される。例えば、薬剤は、Wntタンパク質レベルに及ぼす影響が選択された期間(例えば、10日、20日、30日、50日、90日、180日、365日またはそれ以上)維持されるように十分な頻度で投与される。別の好ましい態様において、薬剤の投与は繰り返され、例えば、少なくとも1回、2回、3回、5回、10回、20回またはそれ以上繰り返される。
【0087】
好ましい態様において、成長期遺伝子発現は、被検体の頭皮、被検体の顔(例えば、上唇および/または、おとがい)において促進または維持される。
【0088】
別の局面において、本発明は、毛の誘導活性を促進または維持する方法を特徴とする。前記方法は、Wntタンパク質レベルを増加させて、および/またはWntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害もしくはβ-カテニンの蓄積)を模倣して、毛の誘導活性を促進または維持する段階を含む。
【0089】
好ましい態様において、Wntタンパク質はWnt3(例えば、Wnt3aまたはWnt3b);Wnt4;Wnt7(例えば、Wnt7aまたは7b)である。特に好ましい態様において、Wntタンパク質はWnt3であり、最も好ましくはWnt3aである。
【0090】
好ましい態様において、Wntは、Wntタンパク質の産生および/または活性のレベルを増加させる薬剤を投与することによって増加する。Wntタンパク質レベルを増加させる薬剤は、以下の1つまたはそれ以上でもよい: Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体; Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体をコードするヌクレオチド配列;Wnt核酸発現を増加させる薬剤(例えば、Wntプロモーター領域に結合する小分子);Wntで促進されるシグナル伝達の効果(例えば、(例えば、GSK3βキナーゼの阻害による)β-カテニンリン酸化の阻害またはβ-カテニンの蓄積)を模倣する薬剤。Wntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣する薬剤の例として、GSK3βキナーゼ阻害剤(例えば、塩化リチウムまたは類似する小さなイオン)挙げられる。
【0091】
好ましい態様において、Wntは、被検体の特定の細胞(例えば、表皮細胞もしくはDP細胞)に、Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体をコードするヌクレオチド配列を投与する(例えば、導入する)ことによって増加する。ヌクレオチド配列はゲノム配列でもcDNA配列でもよい。ヌクレオチド配列として、Wntコード領域;プロモーター配列(例えば、Wnt遺伝子または別の遺伝子に由来するプロモーター配列);エンハンサー配列(例えば、5'非翻訳領域(UTR)(例えば、Wnt遺伝子または別の遺伝子に由来する5'UTR)、3'UTR(例えば、Wnt遺伝子または別の遺伝子に由来する3'UTR));ポリアデニル化部位;インシュレーター配列が挙げられ得る。
【0092】
別の好ましい態様において、Wntタンパク質レベルは、内因性Wnt遺伝子の発現レベルを増加させることによって(例えば、Wnt遺伝子の転写を増加させることによって)増加する。好ましい態様において、 (例えば、エンハンサーもしくは転写活性化因子のDNA結合部位などの正の調節エレメントの付加、転写抑制因子のDNA結合部位などの負の調節エレメントの欠失、および/または内因性調節配列もしくはそこに含まれるエレメントと別の遺伝子の内因性調節配列もしくはそこに含まれるエレメントとの交換を行うことにより) 内因性Wnt遺伝子の調節配列を変えて、Wnt遺伝子のコード領域をより効率的に転写させることによって、Wnt遺伝子の転写が増加する。
【0093】
別の好ましい態様において、前記方法は、細胞(例えば、Wntタンパク質を発現する(好ましくは分泌する)細胞)を被検体に導入する段階を含んでもよい。好ましい態様において、細胞は、Wntタンパク質またはその断片もしくは類似体を発現するように遺伝子操作されている。細胞は自己由来細胞でもよく、同種異系細胞でもよく、または異種細胞でもよいが、好ましくは自己由来細胞である。細胞はどの細胞タイプでもよい(例えば、線維芽細胞、ケラチノサイト、上皮細胞、内皮細胞)。好ましくは、細胞は、上皮細胞(例えば、表皮細胞またはDP細胞)である。細胞は、Wntタンパク質レベルを増加させる、および/またはWntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣するために被検体に導入することができる。
【0094】
好ましい態様において、Wntタンパク質レベルを増加させる、および/またはWntで促進されるシグナル伝達を模倣する薬剤が、例えば、薬剤を局所投与することによって、薬剤を全身投与することによって、薬剤を経口投与することによって、または薬剤を(好ましくは真皮もしくは皮下に)注射することによって投与される。好ましい態様において、化合物は、適切な送達ビヒクル(例えば、界面活性剤)または皮膚の浸透性を高める薬剤(例えば、SDSもしくはDMSO含有処方物)を用いて投与される。好ましくは、薬剤は局所使用のための組成物に含まれ、例えば、この組成物はゲル、クリーム、または液体である。好ましい態様において、薬剤は連続投与によって投与される。例えば、薬剤は、Wntタンパク質レベルおよび/またはWntシグナル経路に及ぼす影響が選択された期間(例えば、10日、20日、30日、50日、90日、180日、365日またはそれ以上)維持されるように十分な頻度で投与される。別の好ましい態様において、薬剤の投与は繰り返され、例えば、少なくとも1回、2回、3回、5回、10回、20回またはそれ以上繰り返される。
【0095】
好ましい態様において、毛の誘導活性は、被検体の頭皮、被検体の顔(例えば、上唇および/または、おとがい)において促進または維持される。
【0096】
本明細書で使用する「治療」は、任意の治療的処置(例えば、治療剤または治療物質(例えば、薬物)の投与)を含む。
【0097】
本明細書で使用する「毛の成長を速める」という用語は、毛包または毛幹の数もしくは密度を増加させるか、または分布を広げること、または毛の成長を速めることを意味する。
【0098】
本明細書で使用する「被検体」という用語は、動物(例えば、哺乳動物(例えば、ヒト))を意味する。哺乳動物は、ヒトでも非ヒト哺乳動物(例えば、ブタ、鳥類、ネコ、イヌ、サル、ヤギ、またはげっ歯類(例えば、ラットもしくはマウス))でもよい。動物は、トランスジェニック動物(例えば、トランスジェニックげっ歯類(例えば、トランスジェニックラットまたはトランスジェニックマウス))でもよい。
【0099】
「調節配列」は、遺伝子発現を制御するDNA配列のいずれかまたは全てを意味する。調節配列の例として、プロモーター、正の調節エレメント(例えば、エンハンサーもしくは転写活性化因子のDNA結合部位);負の調節エレメント(例えば、転写抑制因子のDNA結合部位)、およびインシュレーターが挙げられる。
【0100】
「異種」は、異なる種に由来するDNAまたは組織を意味する。
【0101】
「異種調節配列」は、遺伝子の通常の調節配列ではない配列を意味する。
【0102】
「ペプチド」、「タンパク質」、および「ポリペプチド」という用語は本明細書で同義に用いられる。
【0103】
本明細書で使用する「小分子」という用語は、分子量2,000未満の、好ましくは1,000未満の、ペプチド、ペプチド模倣体、または非ペプチド化合物(例えば、有機分子)を含む。
【0104】
「Wntで促進されるシグナル伝達の効果」という用語は、Wntシグナル伝達(例えば、フリズルドへのWnt結合)により開始される細胞(例えば、DP細胞)における生化学的効果(例えば、タンパク質結合相互作用、リン酸化、または転写の調節)の1つまたはそれ以上を意味する。Wntで促進されるシグナル伝達の効果として、フリズルドへのWnt結合;GSK3βを介したリン酸化の阻害;リン酸化依存性β-カテニン分解の阻害;細胞質におけるβ-カテニンタンパク質の蓄積;細胞β-カテニンの安定化;細胞質におけるβ-カテニン蓄積;Lef1へのβ-カテニン結合;核へのβ-カテニン-Lef1複合体の移動;および関連遺伝子からの転写の刺激が挙げられ得る。Wntで促進されるシグナル伝達の成分として、フリズルドタンパク質(例えば、フリズルド-7(frz-7))、ディシュベルド(disheveled)タンパク質(例えば、ディシュベルド-2(dsh-2))、GSK3、β-カテニン、Lef1、およびLef/TFCが挙げられ得る。Wntシグナル経路の他の効果および成分は、参照として本明細書に組み入れられるアリアス(Arias)ら(1999)Curr.Opin.Genet.&Dev.9:447-454で述べられている。
【0105】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかであろう。
【0106】
発明の詳細な説明
本発明は、毛胞上皮において発現するWntタンパク質が真皮乳頭細胞における成長期遺伝子発現を維持し、毛の誘導活性もWntシグナル伝達によって維持されるという発見に一部、基づいている。
【0107】
胚発生間の毛包の形成と、毛周期間の毛幹の周期的な成長、休止、および再生は両方とも、毛包の表皮成分と真皮成分との間の相互シグナル伝達に依存している。
【0108】
Wntシグナル経路において、可溶性分子Wntは、様々なタイプの細胞上で見出される細胞表面受容体フリズルド(Frz)に結合する。disshelvedの存在下で、WntがFrzに結合すると、GSK3βを介したβ-カテニンリン酸化、その後のリン酸化依存性β-カテニン分解が阻害される。従って、Wntの結合は細胞β-カテニンを安定化する。Wnt結合の存在下で、β-カテニンは細胞質に蓄積し、Lef1に結合する。次いで、β-カテニン-Lef1複合体は核に移動し、そこで転写活性化を媒介する。
【0109】
DP細胞において緑色蛍光タンパク質を発現するトランスジェニックマウスの作成
緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するDP細胞を精製し、GFP発現の維持に必要とされるシグナルを研究するために、毛周期の成長(成長)期にDP細胞においてGFPを特異的に発現するトランスジェニックマウス系統を使用した。キシモト(Kishimoto)ら(1999)Proc.Natl.Acad.Sci USA 96:7336-7341に記載のように、トランスジェニックマウス系統を作成した。単離されたトランスジェニック成長期毛包はDPにおいてGFP蛍光を示すことが見出された。バーシカン-GFP導入遺伝子は成長期に活発であるが、毛の成長の退行期および休止期では活発でない。従って、導入遺伝子発現は、DPにおける誘導活性の推定プロフィールと相関した。
【0110】
RT-PCR分析
総RNAを単離し、キシモトら(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:7336-7341に記載のように、58℃のアニーリング温度を用いてRT PCRを行った。使用したプライマーを以下に列挙する。Wnt4、5および7以外は、マウスオーソログとニワトリオーソログを区別するようにプライマーを設計し、ニワトリ配列との交差反応の無いことがフィーダー細胞のみからのcDNAにおいて確認された。
【化1】

【0111】
細胞培養
キシモトら、前記において以前に述べられたように、高速セルソーティング(MoFLO)によって、新鮮なマウス毛衣DP細胞をバーシカンGFPトランスジェニック新生仔皮膚から得た。モルガン(Morgan)ら、「細胞生物学における方法(Method in Cell Biology)」(ボナー-フラセール(Bonner-Fraser)編)185-218頁(Academic Press、San Diego、1996)に記載のように、ニワトリShh(リドル(Riddle)ら(1993)Cell 75:1401-1416に記載)、Wnt3a(ケンガク(Kengaku)ら(1998)Science 280:1274-1277に記載)、Wnt4、Wnt5a(ノラムリー(Noramly)およびモルガン、出版準備中)、もしくはWnt7a(リドルら(1995)Cell 83:631-640)をコードするRCASBP(A)レトロウイルスベクターまたはベクターのみを、ニワトリ胚線維芽細胞(CEFs)に感染させた。1:3(マウス:ニワトリ)の比になるように、GFP陽性マウスDP細胞を30〜50%コンフルエントフィーダー細胞の上に添加した。フローサイトメトリー分析のために、細胞を24ウェルディッシュにおいて48〜96時間、共培養した。移植実験のために、各移植に必要とされる2×106細胞を得るために、共培養細胞を10cmディッシュにおいて2〜3回継代した。
【0112】
フローサイトメトリー
細胞をトリプシン処理し、1%BSAを含むPBS 0.5mlに再懸濁した。フローサイトメトリー分析をFACScan(ベクトンディキンソン(Becton Dickinson))によって行った。DP細胞をマウスMHCクラスIIモノクローナル抗体で標識し、PE 結合二次IgGと共にインキュベートした。PE陰性鳥類細胞は図3の下部ゲートの下に落ち、GFP発現分析から除外された。
【0113】
再構成アッセイ
キシモトら、前記に記載のように再構成アッセイを行った。初代ケラチノサイトを移植片1個につき2匹の新生仔から調製し、移植チャンバー内で2×106 DP細胞と混合した。毛の成長を、移植2週間後、その後毎週モニターした。
【0114】
GFP発現DP細胞の細胞培養物の作成
蛍光活性化セルソーターを用いて、前記トランスジェニックマウスの皮膚に由来する成長期真皮乳頭細胞を均一になるまで精製し、この細胞は皮膚再構成アッセイにおいて毛の誘導活性を保持することが示された。しかしながら、単離直後および培養して90時間後のDP細胞におけるGFP発現のフローサイトメトリー分析を用いて、DP細胞の誘導活性およびGFP発現は培養中に急速に失われることが見出された。これは、表皮細胞により通常供給される因子がDP細胞を成長期状態に維持するのに必要であったことを示唆している。
【0115】
成長期におけるShhの役割の分析
表皮細胞により供給されるシグナルの1つの候補が、毛包の表皮成分において発現し、胚発生間の真皮乳頭の維持に必要とされるShhであった。例えば、セントジャック(St.Jacques)(1998)Curr.Biol.8:1058-1068を参照のこと。毛周期の間に、外因性Shhは、休止期から成長期への移行を促進することができる。サトウ(Sato)ら(1999)J.Clin.Invest.104:855-864。Shh、パッチド(patched)-1(ptc-1)、Gli-1、および対照β-アクチン遺伝子の発現を、単離直後および培養して3回継代した後のDP細胞において分析した。活発に毛が成長している新生仔トランスジェニックマウスに由来する皮膚において、Shh mRNAは、毛包表皮を含む選別された細胞のGFP陰性集団において検出され、真皮乳頭細胞には無かった。Ptc-1およびGli-1は単離DPにおいて発現するが、転写レベルは培養状態で継代すると減少した。Shhシグナル伝達カスケードの転写フィードバックによって、その成分の2つパッチド(ptc)およびGli-1をコードするmRNAの蓄積がShhシグナリングに反応して増加する。この誘導は、Shhシグナルに対する反応を示すものとして役立つ。グッドリッチ(Goodrich)ら(1996)Genes Dev.10:301-312;マリゴ(Marigo)ら、(1996)Development 122:1225-1233。両遺伝子からのメッセージは、選別されたばかりのDP細胞において容易に検出されるが、単離DP細胞を毛包上皮の非存在下で培養すると、両メッセージの量は検出不可能なレベルまで減少する。従って、毛包上皮から真皮乳頭へのShhシグナル伝達が毛包において起こり、成長期でのDP活性化を引き起こすことができる。従って、Shhシグナル伝達が、培養状態で維持されたDP細胞におけるGFP遺伝子発現または毛の誘導活性を救出(rescue)するのに十分であるかどうかを評価した。単離されたばかりのDP細胞を、Shhを発現するCEFsまたは対照ベクターを感染させたCEFsと共培養した。異種特異的フィーダー細胞を使用すると、種特異的プライマーを用いたPCRによってDP細胞における遺伝子発現を分析することができ、ptc-1およびGli-1両方の誘導および維持により証明されるようにDP細胞がShhシグナルを受け取ったことが確認されるが、一方、対照フィーダーと共培養されたDP細胞では両遺伝子の発現は減少する。cDNA投入量を標準化するのにβ-アクチン配列を使用し、DP細胞集団の遺伝子発現とフィーダー細胞集団の遺伝子発現を区別するのにマウス特異的プライマーを使用した。しかしながら、Wnt3もしくはShhを産生するフィーダー層または対照ベクターを感染させたフィーダー層とのDP細胞共培養物のフローサイトメトリー分析により証明されたように、GFP発現は、Shh処理集団および対照集団において同じ速度で低下した。さらに、各処理についてGFP陽性細胞とGFP陰性細胞の比が確かめられた。GFP発現と成長期状態の維持との相関関係を確かめるために、これらの細胞をケラチノサイトと混合し、ヌードマウス宿主の背中にある泡箱(bubble chamber)に移植した。このアッセイにおいて、DP細胞がShhの存在下で培養されても培養されてなくても、活発なDP細胞の非存在下で形成する毛のない皮膚が観察された。対照DP細胞またはShh処理DP細胞の移植片は両方とも、ヌードマウスモデルに移植した3週間後、ところどころにしか毛を示さなかった。表1を参照のこと。
【0116】
インビボ実験によってShhは休止期から成長期への移行を刺激することが示唆されたので、Shhシグナル伝達が、GFP発現および毛の誘導活性が失われた点で休止期DP細胞と外見的に類似するまで培養状態で維持された単離DP細胞を活性化するのに十分であるかどうかも評価した。これもまた、どちらの特性にも変化は観察されなかった。従って、Shhはインビボで成長期を開始することができるが、部分的に間接的に(恐らく、表皮における二次シグナルの誘導によって)DPに作用する可能性が高い。
【0117】
成長期におけるWntの役割の分析
DPにおいてGFP発現を駆動するのに使用されたバーシカンエンハンサー内の配列の検索によってLef/TCF結合モチーフが明らかになり、Wntが、DP細胞を活性化する表皮シグナルとして働く可能性があることが示唆された。この領域が発現構築物から欠失された場合に、GFP発現が10個の独立したトランスジェニック系統において観察されなかったので、この結合部位はGFP発現に必要であるように思われる。しかしながら、構築物における他の領域からの欠失はトランスジェニックマウスにおけるGFP発現に影響を及ぼさなかった。Lef/TCF DNA結合タンパク質ファミリーは、β-カテニン経路を介してWntシグナル伝達の転写効果を媒介する。アリアスら(1999)Curr.Opin.Genet.&Dev.9:447-454。Wntは、フリズルドに結合する分泌型糖タンパク質である。ディシュベルドタンパク質に依存したプロセスにおいて、フリズルド受容体の会合は、GSK3を含む複合体によるβ-カテニンリン酸化を阻害する。これは、細胞質におけるβ-カテニンタンパク質の蓄積および核への移動をもたらし、核においてβ-カテニンはLef/TCFに結合し、関連遺伝子からの転写を刺激することができる。単離されたばかりのDP細胞において、フリズルド-7(frz-7)、ディシュベルド-2(dsh-2)、GSK3、β-カテニン、Lef1、およびGFP導入遺伝子が全て発現している。従って、単離されたばかりのDP細胞において、このシグナル伝達カスケードの成分が発現していた。3回継代した後、frz-7、dsv-2、およびLef1の発現は低下する。さらに、Wnt3aは毛包マトリックス細胞において発現し、Wnt3a、5a、および7a転写物は、切り離された皮膚(成長期毛包からの毛包上皮を含む)からのGFP陰性集団において検出された。従って、これらのWntの全てが、真皮乳頭へのシグナル伝達を媒介する候補である。
【0118】
単離されたばかりのDP細胞におけるWntシグナル伝達の効果を試験するために、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、またはWnt7aを発現するフィーダー細胞を使用した。Wnt3aまたはWnt7aとの共培養によって、FACS分析により証明されたようにDP細胞の大部分においてGFP蛍光が維持された。RT PCRによって、これは、コードされるタンパク質の安定化ではなく、増大したレベルのGFP RNAを反映することが確認された。特に、GFP RNAレベルはWnt3aへの暴露によって維持されるが、Shhフィーダー層への暴露によっても対照フィーダー層への暴露によっても維持されない。Wnt4発現細胞もまたある程度のGFP発現維持を示したが、Wnt3a、7aのどちらよりも効果が弱く、その一方、Wnt5aはDP GFP発現に影響を及ぼさなかった。GFP発現により示唆されたように、DP細胞の毛の誘導活性もまたWntシグナル伝達によって培養中に維持された。マウスDP細胞を再選別し、ケラチノサイトと混合し、ヌードマウス宿主において皮膚を再構成するのに使用した場合、Wnt3aまたは7aで処理された細胞は、対照フィーダーまたはShh発現細胞と共培養された細胞と比較して毛の成長の劇的な増加を示した。対照およびShh処理DP細胞の移植片は、移植の3週間後、ところどころに毛を示すだけであったが、Wnt3aに暴露されたDP細胞は移植片において密度の濃い毛の区画を形成した。表1を参照のこと。
【0119】
Wnt3aはDP細胞を成長期状態に維持するのに十分であるが、GFP発現または毛の誘導活性を培養中に失った細胞において、これらの特性を再活性化することができない(データ示さず)。Wntシグナル伝達カスケードの成分をコードする転写物の分析によって、Wntの非存在下で培養状態で維持した後に、Lef-1、ディシュベルド-2、およびフリズルド-7が全て下方制御されることが明らかになった。このことは、外因性Wntがこれらの細胞においてGFP発現を再活性化しないことの説明となる可能性がある。表皮において局部的に発現される他の因子による、Wntシグナル伝達に必要とされるタンパク質の発現の維持が、毛包における形態形成の協調に寄与する可能性がある。ここで報告した発見は、表皮において発現するたった1つのWntが真皮および表皮の両方における発生を協調する可能性を示唆している。
【0120】
結果は、成長期毛包において発現するWnt3a(恐らく他のWnt)が真皮乳頭を成長期状態に維持する誘導シグナルとして働くことができることを証明している。結果はまた、Shhシグナル伝達がDP細胞の成長期状態を開始または維持するのに十分でなく、従って、インビボで成長期への移行を少なくとも部分的に間接的に促進するように作用する可能性があることが示唆している。最後に、これらの結果は、これらのトランスジェニックDP細胞におけるGFP発現と毛の成長を誘導する能力との相関関係を展開し、従って、形態形成を協調する上皮と間葉と間のシグナル伝達を詳細に調べるための、このアプローチのさらなる使用を示唆する。
【0121】
WntポリペプチドおよびWntをコードする核酸配列
Wntポリペプチドは、Wntの単離または遺伝子操作法によるWntをコードする配列の発現を含む、いくつかの方法で得ることができる。様々な種に由来する様々なWntタンパク質のヌクレオチド配列が知られている。例えば、ガビン(Gavin)ら(1990)Genes Dev.4:2319-2332;リ(Lee)ら(1995)Proc.Natl.Acad.Sci USA 92:2268-2272;およびクリスチャンセン(Christiansen)ら(1995)Mech.Dev.51:341-350(例えば、マウスWnt1、Wnt2、Wnt3a、Wnt3b、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt10b、Wnt11、Wnt12について述べている)ならびにヴァンベール(Vant Veer)ら(1984)Mol.Cell Biol.4:2532-2534;ウェーンライト(Wainwright)ら、(1988)EMBO J.7:1743-1748;および国際公開公報第95/17416号(例えば、ヒトWnt1、Wnt2、Wnt3、Wnt4、Wnt5a、Wnt7a、およびWnt7bについて述べている)を参照のこと。
【0122】
WntまたはWnt-β-カテニンシグナル経路に関与する他のタンパク質の類似体
類似体は、アミノ酸配列の点で、配列に関与しない点で、またはその両方の点で天然のタンパク質と異なってもよい。非配列修飾として、タンパク質のインビボまたはインビトロでの化学的誘導体化が挙げられる。非配列修飾として、アセチル化、メチル化、リン酸化、カルボキシル化、またはグリコシル化の変化が挙げられる。
【0123】
好ましい類似体として、1つもしくはそれ以上の保存的アミノ酸置換または生物学的活性を無効にしない1つもしくはそれ以上の非保存的アミノ酸置換、欠失、もしくは挿入によって配列が野生型配列とは異なるタンパク質(例えば、Wnt)(またはその生物学的に活性な断片)が挙げられる。好ましい態様において、配列は野生型配列と1、2、3、5、10個(20〜30個以下)のアミノ酸残基が異なってもよい。保存的置換は、一般的に、あるアミノ酸を類似する特徴を有する別のアミノ酸で置換すること(例えば、以下の群内:バリン、グリシン;グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシンで置換すること)を含む。他の保存的置換を以下の表から選ぶことができる。
【0124】
【表1】

保存的アミノ酸置換
【0125】
本発明の範囲内の他の類似体は、ペプチド安定性を高める修飾を有する類似体である。このような類似体は、例えば、ペプチド配列内の(ペプチド結合を置換する)1つまたはそれ以上の非ペプチド結合を含んでもよい。天然のL-アミノ酸以外の残基(例えば、D-アミノ酸)または非天然もしくは合成のアミノ酸(例えば、βもしくはγアミノ酸)および環状類似体も含まれる。
【0126】
断片および類似体の作成
断片の作成
タンパク質の断片はいくつかの方法で(例えば、組換えにより、タンパク質分解消化により、または化学合成により)作成することができる。ポリペプチドをコードする核酸の一端(末端断片の場合)または両端(内部断片の場合)から1つまたはそれ以上のヌクレオチドを除去することによって、ポリペプチドの内部断片または末端断片を作成することができる。変異誘発されたDNAの発現によってポリペプチド断片が産生される。従って、「末端を少しずつ削り取る(end-nibbling)」エンドヌクレアーゼを用いた消化によって、多数の断片をコードするDNAが作成される。タンパク質断片をコードするDNAはまた、ランダムな剪断、制限消化、または前記方法の組み合わせによって作成することができる。
【0127】
断片はまた、従来のメリフィールド(Merrifield)固相f-Mocまたはt-Boc化学などの当技術分野において周知の方法を用いて化学合成することができる。例えば、本発明のペプチドを任意に、断片重複のない望ましい長さの断片に分けてもよく、望ましい長さの重複断片に分けてもよい。
【0128】
類似体の作成:ランダム法による変化したDNA配列およびペプチド配列の作成
タンパク質のアミノ酸配列異型は、タンパク質またはタンパク質の特定のドメインもしくは領域をコードするDNAのランダム変異誘発によって調製することができる。有用な方法として、PCR変異誘発および飽和変異誘発(saturation mutagenesis)が挙げられる。ランダムアミノ酸配列異型のライブラリーはまた、一組の縮重オリゴヌクレオチド配列の合成によって作成することができる(異型ライブラリーにおいてタンパク質をスクリーニングする方法は本明細書の他の箇所に示す)。
【0129】
PCR変異誘発
PCR変異誘発では、ランダム変異をクローニングされたDNA断片に導入するために、Taqポリメラーゼ忠実度の低下が用いられる(レウング(Leung)ら、1989、Technique 1:11-15)。これは、非常に強力かつ比較的迅速なランダム変異導入法である。Taq DNAポリメラーゼによるDNA合成の忠実度を(例えば、5のdGTP/dATP比を使用し、PCR反応物にMn2+を添加することによって)低下させる条件下でのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、変異誘発しようとするDNA領域を増幅する。増幅DNA断片のプールを適切なクローニングベクターに挿入して、ランダム変異体ライブラリーを得る。
【0130】
飽和変異誘発
飽和変異誘発を用いると、多数の一塩基置換をクローニングされたDNA断片に迅速に導入することができる(メイヤーズ(Mayers)ら、1985、Science 229:242)。この方法は、(例えば、インビトロでの一本鎖DNAの化学処理または放射線照射による)変異の生成および相補DNA鎖の合成を含む。変異頻度は、処理の厳しさを調節することによって調節することができ、本質的に全ての可能な塩基置換を得ることができる。この手順は変異体断片の遺伝学的選択を伴わないので、中立置換ならびに機能を変える変異の両方が得られる。点変異の分布は保存配列エレメントに偏らない。
【0131】
縮重オリゴヌクレオチド
相同体ライブラリーはまた、一組の縮重オリゴヌクレオチド配列から作成することができる。縮重配列の化学合成を自動DNA合成機において行い、次いで、合成遺伝子を適切な発現ベクターに連結することができる。縮重オリゴヌクレオチドの合成は当技術分野において周知である(例えば、ナラング(Narang)、SA(1983)Tetrahedron 39:3;イタクラ(Itakura)ら(1981)Recombinant DNA、Proc 3rd Cleveland Sympos.Macromolecules、AG Walton編、Amsterdam:Elsevier 273-289頁;イタクラら(1984)Annu.Rev.Biochem.53:323;イタクラら(1984)Science 198:1056;イケ(Ike)ら(1983)Nucleic Acid Res.11:477.を参照のこと)。このような方法は、他のタンパク質の定方向進化(directed evolution)に用いられている(例えば、スコット(Scott)ら(1990)Science 249:386-390;ロバーツ(Roberts)ら(1992)PNAS 89:2429-2433;デブリン(Devlin)ら(1990)Science 249:404-406;クビルラ(Cwirla)ら(1990)PNAS 87:6378-6382;ならびに米国特許第5,223,409号、同第5,198,346号、および同第5,096,815号を参照のこと)。
【0132】
類似体の作成:特異的変異誘発(directed mutagenesis)による変化したDNA配列およびペプチド配列の作成
特定の領域において特定の配列または変異を生じるために、ランダムでない、または特異的な変異誘発法を使用することができる。これらの方法は、例えば、タンパク質の既知のアミノ酸配列の残基の欠失、挿入、または置換を含む異型を作成するのに使用することができる。例えば、(1)第1のアミノ酸を保存アミノ酸で置換し、次に、得られる結果に応じてより過激な選択肢で置換することによって、(2)標的残基を欠失させることによって、(3)特定部位に隣接して同じクラスもしくは異なるクラスの残基を挿入することによって、または選択肢1〜3の組み合わせによって、変異のための部位を個々にまたは連続して改変することができる。
【0133】
アラニンスキャニング変異誘発
アラニンスキャニング変異誘発は、変異誘発に好ましい位置またはドメインである、望ましいタンパク質のある特定の残基または領域を同定するのに有用な方法である(カニングハム(Cunningham)およびウェルス(Wells)(Science 244:1081-1085、1989))。アラニンスキャニングにおいて、1個の残基または標的残基群(例えば、Arg、Asp、His、Lys、およびGluなどの荷電残基)が同定され、中性または負に荷電したアミノ酸(最も好ましくは、アラニンまたはポリアラニン)で置換される。アミノ酸の置換は、そのアミノ酸と細胞内または細胞外の周囲の水性環境との相互作用に影響を及ぼすことがある。次いで、置換に対して機能的感受性を示したドメインは、さらなる異型もしくは他の異型を、置換部位でまたは置換部位の代わりに導入することによって精密化される。従って、アミノ酸配列変化を導入する部位が予め決定されるが、変異の性質それ自体が予め決定される必要はない。例えば、所定の部位での変異の性能を最適化するために、標的コドンまたは標的領域でアラニンスキャニングまたはランダム変異誘発を行うことができ、発現された望ましいタンパク質サブユニット異型が、望ましい活性の最適な組み合わせについてスクリーニングされる。
【0134】
オリゴヌクレオチドを介した変異誘発
オリゴヌクレオチドを介した変異誘発は、DNAの置換、欠失、挿入異型を調製するのに有用な方法である(例えば、アデルマン(Adelman)ら(DNA 2:183、1983)を参照のこと)。簡単に述べると、変異をコードするオリゴヌクレオチドとDNA鋳型をハイブリダイズさせることによって、所望のDNAが変えられる。ここで、鋳型は、所望のタンパク質の変化していないDNA配列または天然型DNA配列を含む一本鎖形態のプラスミドまたはバクテリオファージである。ハイブリダイゼーション後、DNAポリメラーゼを使用して、鋳型の第2の相補鎖全体を合成する。従って、この相補鎖はオリゴヌクレオチドプライマーを組み込んでおり、所望のタンパク質DNAにおいて選択された変化をコードする。一般的に、少なくとも25ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドが使用される。最適なオリゴヌクレオチドは、変異をコードするヌクレオチドの両側に、鋳型と完全に相補的な12〜15ヌクレオチドを有する。これは、オリゴヌクレオチドが一本鎖DNA鋳型分子に適切にハイブリダイズするのを確かなものにする。オリゴヌクレオチドは、クレア(Crea)ら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、75:5765[1978])に記載の方法などの当技術分野において周知の方法を用いて容易に合成される。
【0135】
カセット変異誘発
異型を調製する別の方法であるカセット変異誘発は、ウェルスら(Gene、34:315[1985])に記載の方法に基づいている。出発材料は、変異させようとするタンパク質サブユニットDNAを含むプラスミド(または他のベクター)である。変異させようとするタンパク質サブユニットDNAにおいて1つまたはそれ以上のコドンが特定される。1つまたはそれ以上の特定された変異部位の両側に独特の制限エンドヌクレアーゼ部位がなければならない。このような制限部位が存在しない場合、望ましいタンパク質サブユニットDNAの適切な位置に制限部位を導入するように前記のオリゴヌクレオチドを介した変異誘発法を用いて、制限部位を作成することができる。制限部位がプラスミドに導入された後、これらの部位でプラスミドを切断して、線状化する。制限部位間のDNAの配列をコードするが、1つまたはそれ以上の望ましい変異を含む二本鎖オリゴヌクレオチドが標準的な手順を用いて合成される。標準的な方法を用いて2本の鎖を別々に合成し、次いで、ハイブリダイズさせる。この二本鎖オリゴヌクレオチドはカセットと呼ばれる。このカセットは、プラスミドに直接連結できるように、線状化プラスミドの末端と相補的な3'末端および5'末端を有するように設計される。このプラスミドは、この時、変異した望ましいタンパク質サブユニットDNA配列を含む。
【0136】
組み合わせ変異誘発
組み合わせ変異誘発もまた変異体を作成するのに使用することができる。好ましくは、可能な最高の相同性を高めるように、例えば、1グループの相同体または他の関連タンパク質のアミノ酸配列をアラインメントする。組み合わせ配列の縮重セットを作成するために、アラインメントされた配列の所定の位置で現れるアミノ酸の全てを選択することができる。変化に富む異型ライブラリーが核酸レベルでの組み合わせ変異誘発によって作成され、変化に富む遺伝子ライブラリーによりコードされる。例えば、可能性のある配列の縮重セットが個々のペプチドとして、または縮重配列セットを含むより大きな融合タンパク質セットとして発現することができるように、合成オリゴヌクレオチドの混合物を酵素的に連結して遺伝子配列にすることができる。
【0137】
ペプチド断片または相同体のライブラリーをスクリーニングするための一次ハイスループット法
作成された変異遺伝子産物をスクリーニングするための様々な方法が当技術分野において周知である。大きな遺伝子ライブラリーをスクリーニングする方法は、多くの場合、遺伝子ライブラリーを複製可能な発現ベクターにクローニングする段階、結果として生じたベクターライブラリーで適切な細胞を形質転換する段階、および望ましい活性の検出、3量体分子への集合、天然リガンド(例えば、Frz受容体または基質)への結合が、産物が検出される遺伝子をコードするベクターの比較的簡単な単離を容易にする条件下で、遺伝子を発現させる段階を含む。以下に記載の各方法が、(例えば、ランダム変異誘発法によって)作成された多数の配列をスクリーニングするためのハイスループット分析に適用することができる。
【0138】
ツーハイブリッドシステム
Wntと相互作用するタンパク質を同定するのに、ツーハイブリッド(相互作用トラップ)アッセイを使用することができる。これらのアッセイは、作用薬、スーパーアゴニスト(superagonist)、および拮抗薬を含んでもよい(本発明のタンパク質はベイトタンパク質として用いられ、本発明のタンパク質が相互作用するタンパク質はフィッシュタンパク質として用いられる)。これらのアッセイは、ベイトタンパク質とのタンパク質-タンパク質相互作用を介した機能的転写活性化因子の再構成を検出することに依存している。特に、これらのアッセイは、ハイブリッドタンパク質を発現するキメラ遺伝子を使用する。第1のハイブリッドは、DNA結合ドメインとベイトタンパク質(例えば、Wnt分子またはその断片)との融合を含む。第2のハイブリッドタンパク質は、転写活性化ドメインと「フィッシュ」タンパク質(例えば、発現ライブラリー)との融合を含む。フィッシュタンパク質およびベイトタンパク質が相互作用できるのであれば、DNA結合ドメインおよび転写活性化ドメインをきわめて近くに引き寄せる。この近い距離は、DNA結合ドメインが認識する転写調節部位に作動可能に連結されたレポーター遺伝子の転写を引き起こすのに十分であり、マーカー遺伝子の発現を検出し、ベイトタンパク質と別のタンパク質との相互作用を評価するのに使用することができる。
【0139】
ディスプレイライブラリー
スクリーニングアッセイの1つのアプローチでは、候補ペプチドを細胞またはウイルス粒子の表面上に提示し、提示された産物を介して特定の細胞またはウイルス粒子が適切な受容体タンパク質に結合する能力を「パンニングアッセイ」において検出する。例えば、遺伝子ライブラリーを細菌細胞の表面膜タンパク質遺伝子にクローニングし、結果として生じる融合タンパク質をパンニングによって検出することができる(ラドナー(Ladner)ら、国際公開公報第88/06630号;フカス(Fuchs)ら(1991)Bio/Technology 9:1370-1371;およびゴワード(Goward)ら(1992)TIBS 18:136-140)。同様に、潜在的に機能的なペプチド相同体を評価するのに、検出可能に標識されたリガンドを使用することができる。リガンド結合活性を保持する相同体を検出するのに、蛍光標識されたリガンド(例えば、受容体)を使用することができる。蛍光標識リガンドを使用すると、細胞を蛍光顕微鏡下で視覚的に検査および分離することができ、または細胞の形態が許す場合、蛍光活性化セルソーターによって分離することができる。
【0140】
遺伝子ライブラリーは、ウイルス粒子の表面上に融合タンパク質として発現することができる。例えば、繊維状ファージ系では、外来ペプチド配列は感染性ファージの表面上に発現し、それによって2つの重大な利点を付与することができる。第1に、これらのファージは1013ファージ/mlを大幅に上回る濃度でアフィニティマトリックスに適用することができるので、一度に多数のファージをスクリーニングすることができる。第2に、それぞれの感染性ファージがその表面上に遺伝子産物を提示するので、特定のファージが低い収量でアフィニティマトリックスから回収された場合、もう1回の感染によってファージを増幅することができる。ほとんど同一の大腸菌繊維状ファージ群M13、fd.、およびf1がファージディスプレイライブラリーに最もよく用いられる。ファージgIIIまたはgVIIIコートタンパク質はいずれも、ウイルス粒子の最終的なパッケージングを妨害することなく融合タンパク質を生成するのに使用することができる。外来エピトープをpIIIのNH2末端に発現させ、このようなエピトープを有するファージを、このエピトープを欠く大過剰量のファージから回収することができる(ラドナーら、国際公開公報第90/02909号;ガラード(Garrard)ら、国際公開公報第92/09690号;マークス(Marks)ら(1992)J.Biol.Chem.267:16007-16010;グリフィス(Griffiths)ら(1993)EMBO J 12:725-734;クラックソン(Clackson)ら(1991)Nature 352:624-628;およびバーバス(Barbas)ら(1992)PNAS 89:4457-4461)。
【0141】
一般的なアプローチでは、ペプチド融合パートナーとして大腸菌マルトース受容体(外膜タンパク質、LamB)を使用する(チャルビット(Charbit)ら(1986)EMBO 5、3029-3037)。このタンパク質の細胞外ループの1つに融合されたペプチドを産生するように、LamB遺伝子をコードするプラスミドにオリゴヌクレオチドが挿入されている。これらのペプチドはリガンド(例えば、抗体)に結合することができ、細胞が動物に投与された場合に免疫応答を誘発することができる。他の細胞表面タンパク質(例えば、OmpA(スコール(Schorr)ら(1991)Vaccines 91、387-392頁)、PhoE(アグテルベルグ(Agterberg)ら(1990)Gene 88、37-45)、およびPAL(フカスら(1991)Bio/Tech 9、1369-1372))ならびに大きな細菌表面構造が、ペプチドディスプレイの媒体として役立っている。ペプチドは、ピリン(重合して、遺伝情報の細菌間交換のための線毛-一導管を形成するタンパク質)と融合することができる(チリ(Thiry)ら(1989)Appl.Environ.Microbiol.55、984-993)。他の細胞との相互作用における役割のために、線毛はペプチドを細胞外環境に提示するのに有用な支援をもたらす。ペプチドディプレイに用いられる別の大きな表面構造は、細菌の運動器官である鞭毛である。ペプチドとサブユニットタンパク質フラジェリンとの融合は、宿主細胞上に多数のペプチドコピーをもたらす(クワジマ(Kuwajima)ら(1988)Bio/Tech.6、1080-1083)。他の細菌種の表面タンパク質もまたペプチド融合パートナーとして役立っている。例として、ブドウ球菌(Staphylococcus)プロテインAおよびナイセリア(Neisseria)外膜プロテアーゼIgAが挙げられる(ハンソン(Hansson)ら(1992)J.Bacteriol.174、4239-4245およびクラウザー(Klauser)ら(1990)EMBO J.9、1991-1999)。
【0142】
前記の繊維状ファージ系およびLamB系では、ペプチドとそれをコードするDNAとの物理的な関係が、表面上にペプチドを有する粒子(細胞またはファージ)の内にDNAを含めることによって生じる。ペプチドを捕獲すると、粒子および粒子内のDNAが捕獲される。代替法では、ペプチドとDNAとの関係を生じさせるためにDNA結合タンパク質LacIを使用する(カル(Cull)ら(1992)PNAS USA 89:1865-1869)。この系は、3'末端にオリゴヌクレオチドクローニング部位を有するLacI遺伝子を含むプラスミドを使用する。アラビノースによる制御された誘導のもとで、LacI-ペプチド融合タンパク質が産生される。この融合は、LacIがLacOオペレーター(LacO)として知られる短いDNA配列に結合する天然の能力を保持している。発現プラスミドに2コピーのLacOを取り付けることによって、LacI-ペプチド融合は、LacOをコードするプラスミドにしっかりと結合する。各細胞内のプラスミドが1種類のオリゴヌクレオチド配列しか含まず、各細胞が1種類のペプチド配列しか発現しないので、ペプチドは、その合成を指示したDNA配列と特異的かつ安定に結合するようになる。ライブラリーの細胞を穏やかに溶解し、ペプチド-DNA複合体を、固定化された受容体のマトリックスに暴露して、活性ペプチドを含む複合体を回収する。次いで、ペプチドリガンドの同一性を決定するための増幅およびDNA配列決定のために、結合したプラスミドDNAを細胞に再導入する。この方法の実用性の証明として、ドデカペプチドの大きなランダムライブラリーを作成し、オピオイドペプチドであるダイノルフィンBに対するモノクローナル抗体によって選択した。ペプチドの一団が回収され、ダイノルフィンBの6残基部分に対応する共通配列によって全てが関連付けられた(カルら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.89-1869)。
【0143】
この手法は、時としてペプチズオンプラスミズ(peptides-on-plasmids)と呼ばれ、2つの重要な点でファージディスプレイ法と異なる。第1に、ペプチドは融合タンパク質のC末端に結合され、その結果、ライブラリーメンバーは遊離カルボキシル末端を有するペプチドとして提示される。繊維状ファージコートタンパク質pIIIおよびpVIIIは両方ともそのC末端を介してファージに固定され、ゲストペプチドは外側に伸びるN末端ドメインに配置される。設計によっては、ファージディスプレイされるペプチドは融合タンパク質のアミノ末端側に提示される(クウィルラ(Cwirla)ら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87、6378-6382)。第2の違いは、ライブラリーに実際に存在するペプチド集団に影響を及ぼす一組の生物学的偏りである。LacI融合分子は宿主細胞の細胞質に限定される。ファージコート融合は翻訳間に細胞質にちょっとの間暴露されるが、内膜を通ってペリプラズム区画に迅速に分泌され、そのC末端疎水性ドメインによって膜に固定されたままになり、ペプチドを含むN末端は、ファージ粒子への集合を待つ間、ペリプラズムに突出している。LacIおよびファージライブラリーのペプチドは、異なるタンパク質分解活性への暴露の結果として大きく異なる可能性がある。ファージコートタンパク質は、ファージへの組み込みの前段階として、内膜を横断する輸送およびシグナルペプチダーゼプロセシングを必要とする。ある特定のペプチドはこれらのプロセスに悪影響を及ぼし、ライブラリーにおいて過小に提示される(ギャロップ(Gallop)ら(1994)J.Med.Chem.37(9):1233-1251)。これらの特定の偏りはLacIディスプレイ系の要因ではない。
【0144】
組換えランダムライブラリーに利用可能な小ペプチドの数は膨大である。107〜109個の独立したクローンからなるライブラリーが日常的に作成される。1011個という大きな組換え体ライブラリーが作成されているが、このサイズは、クローンライブラリーの実質的な限界に達している。このライブラリーサイズの限界は、ランダムセグメントを含むDNAを形質転換によって宿主細菌細胞に導入する段階で起こる。この限界を回避するために、ポリソーム複合体における新生ペプチドの提示に基づくインビトロ系が最近開発された。このディスプレイライブラリー法は、現在利用可能なファージ/ファージミドライブラリーまたはプラスミドライブラリーより3〜6桁大きなライブラリーを作成する能力を有する。さらに、ライブラリーの構築、ペプチドの発現、およびスクリーニングは完全に無細胞の形式で行われる。
【0145】
この方法の1つの応用(ギャロップら(1994)J.Med.Chem.37(9):1233-1251)では、1012個のデカペプチドをコードする分子DNAライブラリーが構築され、ライブラリーは大腸菌S30インビトロ共役転写/翻訳系において発現された。リボソームがmRNA上で立ち往生し、ポリソームにおいて大量のRNAが蓄積し、新生ペプチドをコードするRNAに依然として連結している新生ペプチドを含む複合体が得られるように条件を選択する。ポリソームは、従来の組換えペプチドライブラリーがスクリーニングされるのとほぼ同じように、固定された受容体上でアフィニティ精製できるほど十分に強固である。結合複合体からRNAを回収し、cDNAに変換し、PCRで増幅して、次回の合成およびスクリーニングのための鋳型を得る。ポリソームディスプレイ法はファージディスプレイ系と一緒に行うことができる。数回のスクリーニングの後に、ポリソームの濃縮プールからのcDNAがファージミドベクターにクローニングされた。このベクターは、ペプチドとコートタンパク質の融合を提示するペプチド発現ベクターと、ペプチド同定用のDNA配列決定ベクターの両方として役立つ。ポリソーム由来ペプチドをファージ上で発現させることによって、この形式でアフィニティ選択手順を続けてもよく、ファージELISAで結合活性について、または完了ファージELISA(completion phage ELISA)で結合特異性について個々のクローンのペプチドをアッセイしてもよい(バレット(Barret)ら(1992)Anal.Biochem 204、357-364)。活性ペプチドの配列を同定するために、ファージミド宿主により産生されたDNAを配列決定する。
【0146】
二次スクリーニング
前記のハイスループットの後に、さらなる生物学的活性(例えば、当業者が作用薬と拮抗薬を区別するのを可能にする生物学的活性)を同定するために二次スクリーニングを行うことができる。使用される二次スクリーニングのタイプは、試験を必要とする望ましい活性によって決まる。例えば、前記の一次スクリーニングの1つによって単離されたペプチド断片群から拮抗薬を同定するために、目的のタンパク質とその各リガンドとの相互作用を阻害する能力を使用することができるアッセイを開発することができる。
【0147】
従って、断片および類似体を作成し、それらの活性を試験する方法が当技術分野において周知である。一旦、目的のコア配列が同定されたら、当業者が類似体および断片を得るのは日常的な仕事である。
【0148】
ペプチド模倣体
本発明はまた、模倣体(例えば、ペプチド薬剤または非ペプチド薬剤)を作成するために、本発明のWntポリペプチドのタンパク質結合ドメインを縮小する。例えば、「網膜芽腫遺伝子タンパク質に結合するヒトパピローマウイルスタンパク質のペプチド阻害剤(Peptide inhibitors of human papillomavirus protein binding to retinoblastoma gene protein)」欧州特許出願第EP-412,762A号および同第EP-B31,080A号を参照のこと。
【0149】
重要な残基の非加水分解型ペプチド類似体は、ベンゾジアゼピン(例えば、フレイディンガー(Freidinger)ら、「ペプチド:化学および生物学(Peptides: Chemistry and Biology)」、G.R.マーシャル(Marshall)編、ESCOM Publisher:Leiden、Netherlands、1988を参照のこと)、アゼピン(例えば、ハフマン(Huffman)ら、「ペプチド:化学および生物学」、G.R.マーシャル編、ESCOM Publisher:Leiden、Netherlands、1988を参照のこと)、置換γ-ラクタム環(ガーベイ(Garvey)ら、「ペプチド:化学および生物学」、G.R.マーシャル編、ESCOM Publisher:Leiden、Netherlands、1988)、ケトメチレンプソイドペプチド(エヴェンソン(Ewenson)ら(1986)J Med Chem 29:295;およびエヴェンソンら、「ペプチド:構造および機能(Peptides:Structure and Function)(Proceedings of the 9th American Peptide Symposium)」Pierce Chemical Co.Rockland、IL、1985)、βターンジペプチドコア(ナガイ(Nagai)ら(1985)Tetrahedron Lett 26:647;およびサトウら(1986)J Chem Soc Perkin Trans 1:1231)、ならびにβ-アミノアルコール(ゴードン(Gordon)ら(1985)Biochem Biophys Res Commun 126:419;およびダン(Dann)ら(1986)Biochem Biophys Res Commun 134:71)を用いて作成することができる。
【0150】
融合タンパク質
Wntタンパク質レベルを調節するポリペプチドを、別のタンパク質またはその一部と融合することができる。例えば、Wntタンパク質またはその一部(例えば、Wntのフリズルド結合部分)を、溶解度を高める別のポリペプチド部分と作動可能に連結することができる。Wntまたはその一部と融合することができるタンパク質の例として、Wntの循環半減期を改善することができる血漿タンパク質またはその一部が挙げられる。例えば、融合タンパク質は、Wnt配列が、免疫グロブリンスーパーファミリーから得られた配列と融合しているWnt-免疫グロブリン(Ig)融合タンパク質でもよい。細胞表面糖タンパク質の細胞外ドメインが免疫グロブリン定常F(c)領域と融合している、いくつかの可溶性融合タンパク質構築物が開示されている。例えば、カポン(Capon)ら(1989)Nature 337(9):525-531は、CD4と免疫グロブリン(IgG1)との融合によって長寿命のCD4類似体を作成する案内を示している。カポンら、米国特許第5,116,964号および同第5,428,130号(CD4-IgG融合構築物);リンスレイ(Linsley)ら、米国特許第5,434,131号(CTLA4-IgG1およびB7-IgG1融合構築物);リンスレイら(1991)J.Exp.Med 174:561-569(CTLA4-IgG1融合構築物);ならびにリンスレイら(1991)J.Exp.Med 173:721-730(CD28-IgG1およびB7-IgG1融合構築物)も参照のこと。このような融合タンパク質は、受容体-リガンド相互作用の調節、およびインビボでの炎症の軽減に有用であることが実証されている。例えば、細胞表面腫瘍壊死因子受容体(TNFR)タンパク質の細胞外ドメインが免疫グロブリン定常(Fc)領域と融合している融合タンパク質がインビボで用いられている。例えば、モアランド(Moreland)ら(1997)N.Engl.J.Med.337(3):141-147;およびファンデルポール(van der Poll)ら(1997)Blood 89(10):3727-3734)を参照のこと。
【0151】
抗体
本発明はまた、本発明のWntポリペプチドまたはフリズルドと特異的に反応する抗体ならびにWnt-β-カテニンシグナル経路の他のタンパク質と特異的に反応する抗体(例えば、細胞内発現抗体)を含む。標準的なプロトコールを用いて、本明細書に記載のように、抗タンパク質/抗ペプチド抗血清またはモノクローナル抗体を作成することができる(例えば、「抗体:実験マニュアル(Antibodies:A Laboratory Manual)」ハーロー(Harlow)およびレーン(Lane)編(Cold Spring Harbor Press:1988)を参照のこと)。
【0152】
標準的なポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体調製法を用いてWntに結合する抗体を作成するための免疫原として、Wntタンパク質またはその一部もしくは断片を使用することができる。免疫原として完全長Wntタンパク質を使用してもよく、Wntの抗原性ペプチド断片を使用してもよい。
【0153】
一般的に、適切な被検体(例えば、ウサギ、ヤギ、マウス、または他の哺乳動物)を免疫原で免疫化することによって抗体を調製するのに、WntまたはWntペプチドが使用される。適切な免疫原調製物は、例えば、組換えWntペプチドまたは化学合成Wntペプチドを含んでもよい。例えば、その全体が参照として本明細書にはっきりと組み入れられる、米国特許第5,460,959号、ならびに同時係属中の米国特許出願第08/334,797号、同第08/231,439号、同第08/334,455号、および同第08/928,881号を参照のこと。Wntのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は既知であり、例えば、バントベールら(1984)Mol.Cell.Biol.4:2532-2534;ガビンら(1992)Gene Dev.4:2319-2332;リーら(1995)Proc. Natl.Acad.Sci.USA 92:2268-2272;クリスチャンセンら(1995)Mech.Dev.51:341-350;ウェインライトら(1988)EMBO J.7:1743-1748;および国際公開公報第95/17416号に記載されている。Wnt-β-カテニンシグナル経路の他のメンバーのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列も既知である。調製物は、フロイントの完全アジュバントもしくは不完全アジュバントなどのアジュバント、または同様の免疫刺激剤をさらに含んでもよい。免疫原性Wnt調製物による適切な被検体の免疫化は、ポリクローナル抗Wnt抗体応答を誘導する。
【0154】
Wntタンパク質レベルを阻害するのに抗Wnt抗体またはその断片を使用することができる。抗Wnt抗体断片の例としてF(v)、Fab、Fab'、およびF(ab')2断片が挙げられ、これらは、抗体をペプシンなどの酵素で処理することによって作成することができる。本明細書で使用する「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、Wntの特定のエピトープと免疫反応することができる1種類の抗原結合部位しか含まない抗体分子の集団を意味する。従って、モノクローナル抗体組成物は、一般的に、免疫反応する特定のWntタンパク質に対してただ一つの結合親和性を示す。
【0155】
さらに、遺伝子操作法によって産生された抗Wnt抗体(例えば、標準的な組換えDNA技術を用いて作成することができる、ヒト部分および非ヒト部分を含むキメラモノクローナル抗体およびヒト化モノクローナル抗体)を使用することができる。このようなキメラモノクローナル抗体およびヒト化モノクローナル抗体は、当技術分野において周知の標準的なDNA技術を用いた(例えば、ロビンソン(Robinson)ら、国際特許出願番号PCT/US86/02269号;アキラ(Akira)ら、欧州特許出願第184,187号;タニグチ(Taniguchi),M.、欧州特許出願第171,496号;モリソン(Morrison)ら、欧州特許出願第173,494号;ノイベルゲール(Neuberger)ら、国際公開公報第86/01533号;カビリー(Cabilly)ら、米国特許第4,816,567号;カビリーら、欧州特許出願第125,023号;ベター(Better)ら、Science 240:1041-1043、1988;リウ(Liu)ら、PNAS 84:3439-3443、1987;リウら、J.Immunol.139:3521-3526、1987;サン(Sun)ら、PNAS 84:214-218、1987;ニシムラ(Nishimura)ら、Canc.Res.47:999-1005、1987;ウッド(Wood)ら、Nature 314:446-449、1985;およびシャウ(Shaw)ら、J.Natl.Cancer Inst.80:1553-1559、1988);モリソン(Morrison),S.L.、Science 229:1202-1207、1985;オイ(Oi)ら、BioTechniques 4:214、1986;ウインター(Winter)米国特許第5,225,539号;ジョーンズ(Jones)ら、Nature 321:552-525、1986;ベルホイヤン(Verhoeyan)ら、Science 239:1534、1988;およびベイドラー(Beidler)ら、J.Immunol.141:4053-4060、1988に記載の方法を用いた)遺伝子操作によって産生することができる。
【0156】
さらに、標準的な方法を用いて、Wntに対するヒトモノクローナル抗体を作成することができる。例えば、ヒトモノクローナル抗体は、トランスジェニックマウスまたは抗体産生ヒト細胞が移植された免疫不全マウスにおいて作成することができる。このようなマウスを作成する方法は、例えば、ウッドら、国際公開公報第91/00906号;クンヒャーラパチ(Kucherlapati)ら、国際公開公報第号91/10741号;ロンベルグ(Lonberg)ら、国際公開公報第92/03918号;ケイ(Kay)ら、国際公開公報第92/03917号;ケイら、国際公開公報第93/12227号;ケイら、PCT公報第94/25585号;ラジェウスキー(Rajewsky)ら、国際公開公報第94/04667号;ジチュリオ(Ditullio)ら、国際公開公報第95/17085号;ロンベルグ,N.ら(1994)Nature 368:856-859;グリーン(Green),L.L.ら(1994)Nature Genet.7:13-21;モリソン,S.L.ら(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851-6855;ブルゲマン(Bruggeman)ら(1993)Year Immunol 7:33-40;チョイ(Choi)ら(1993)Nature Genet.4:117-123;チュアイロン(Tuaillon)ら(1993)PNAS 90:3720-3724;ブルゲマンら(1991)Eur J lmnauraol 21:1323-1326);デュコサル(Duchosal)ら、国際公開公報第93/05796号;米国特許第5,411,749号;ミクーン(McCune)ら(1988)Science 241:1632-1639);カメルレイド(Kamel-Reid)ら(1988)Science 242:1706;スパノポウロウ(Spanopoulou)(1994)Genes&Development 8:1030-1042;シンカイ(Shinkai)ら(1992)Cell 68:855-868)に記載されている。ヒト抗体トランスジェニックマウスまたはヒト抗体産生細胞もしくは組織が移植された免疫不全マウスをWntまたは抗原性Wntペプチドで免疫化し、次いで、これらの免疫化マウスからの脾細胞を使用してハイブリドーマを作成することができる。ハイブリドーマを作成する方法は周知である。
【0157】
Wntに対するヒトモノクローナル抗体はまた、被検体のリンパ球から得られたmRNAから調製された免疫グロブリン軽鎖cDNAおよび重鎖cDNAを用いてコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリー(例えば、FabファージディスプレイライブラリーまたはscFvファージディスプレイライブラリー)を構築することによって調製することができる。例えば、ミカフェルティ(McCafferty)ら、国際公開公報第92/01047号、マークス(Marks)ら(1991)J Mol.Biol.222:581-597、およびグリフィス(Griffths)ら(1993)EMBO J 12:725-734を参照のこと。さらに、既知のヒト抗体を変異させることによって、抗体可変領域コンビナトリアルライブラリーを作成することができる。例えば、Wntに結合するかどうかスクリーニングできる変異可変領域ライブラリーを作成するために、Wntに結合することが知られているヒト抗体の可変領域を(例えば、ランダムに変えられた変異オリゴヌクレオチドを使用することによって)変異させることができる。免疫グロビン重鎖および/または軽鎖のCDR領域内でランダム変異誘発を誘発する方法、ランダムに選ばれた重鎖および軽鎖を掛け合わせて対を形成する方法、ならびにスクリーニング法が、例えば、バーバス(Barbas)、国際公開公報第96/07754号、バーバスら(1992)Proc.Nat'l Acad.Sci.USA 89:4457-4461で見られる。
【0158】
抗体ディスプレイライブラリーを形成するために、(好ましくは、繊維状ファージから得られた)ディスプレイパッケージの集団によって免疫グロブリンライブラリーを発現させることができる。抗体ディスプレイライブラリーの作成における使用に特に適している方法および試薬の例は、例えば、ラドナー(Ladner)ら、米国特許第5,223,409号;カン(Kang)ら、国際公開公報第92/18619号;ダウアー(Dower)ら、国際公開公報第91/17271号;ウインターら、国際公開公報第92/20791号;マークランド(Markland)ら、国際公開公報第92/15679号;ブレイトリング(Breitling)ら、国際公開公報第93/01288号;ミカフェルティら、国際公開公報第92/01047号、ガラードら、国際公開公報第92/09690号;ラドナーら、国際公開公報第90/02809号;フカスら(1991) Bio/Technology 9:1370-1372;ハイ(Hay)ら(1992)Hum Antibod Hybridomas 3:81-85;フセ(Huse)ら(1989)Science 246:1275-1281;グリフィスら(1993)前記;ホーキンス(Hawkins)ら(1992)J Mol Biol 226:889-896;クラックソンら(1991)Nature 352:624-628;グラム(Gram)ら(1992)PNAS 89:3576-3580;ガラードら(1991)Bio/Technology 9:1373-1377;ホーゲンブーム(Hoogenboom)ら(1991)Nuc Acid Res 19:4133-4137;およびバルバス(Barbas)ら(1991)PNAS 88:7978-7982で見られる。一旦、抗体ライブラリーをディスプレイパッケージ(例えば、繊維状ファージ)の表面上に提示したら、Wntに結合する抗体を発現するパッケージを同定および単離するために抗体ライブラリーをスクリーニングする。好ましい態様において、ライブラリーの一次スクリーニングは固定化Wntを用いたパンニングを伴い、固定化Wntに結合する抗体を発現するディスプレイパッケージが選択される。
【0159】
アンチセンスWnt核酸配列
Wntをコードするヌクレオチドに対するアンチセンスである核酸分子は、Wnt発現を阻害する薬剤として使用することができる。「アンチセンス」核酸は、Wntをコードする「センス」核酸に相補的な(例えば、二本鎖cDNA分子のコード鎖に相補的な) ヌクレオチド配列またはmRNA配列に相補的なヌクレオチド配列を含む。従って、アンチセンス核酸は、センス核酸と水素結合を形成することができる。アンチセンス核酸は全Wntコード鎖に相補的でもよく、その一部にのみ相補的でもよい。例えば、Wntをコードするヌクレオチド配列のコード鎖のコード領域に対してアンチセンスであるアンチセンス核酸分子を使用することができる。
【0160】
Wntをコードするコード鎖配列は既知である。例えば、少なくとも7種類のWnt遺伝子(Wnt-1、2、3、4、5a、7a、および7b)がヒトにおいて同定されている。例えば、バントベールら(1984)Mol.Cell.Biol.4:2532-2534;ガビンら(1992)Gene Dev.4:2319-2332;リーら(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:2268-2272;クリスチャンセンら(1995)Mech.Dev.51:341-350、ウェインライトら(1988)EMBO J.7:1743-1748;および国際公開公報第95/17416号を参照のこと。Wntをコードするコード鎖配列がある場合、ワトソン(Watson)およびクリック(Crick)の塩基対形成の規則に従って、アンチセンス核酸を設計することができる。アンチセンス核酸分子はWnt mRNAの全コード領域に相補的であってもよいが、より好ましくは、Wnt mRNAのコード領域または非コード領域の一部だけに対してアンチセンスであるオリゴヌクレオチドである。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、Wnt mRNAの翻訳開始部位周囲の領域に相補的であってもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、約5、10、15、20、25、30、35、40、45、または50ヌクレオチド長でもよい。アンチセンス核酸は、当技術分野において周知の手順を用いた化学合成および酵素的連結反応を用いて構築することができる。例えば、アンチセンス核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然ヌクレオチド、または分子の生物学的安定性を高めるように設計された、もしくはアンチセンス核酸とセンス核酸との間で形成される二重鎖の物理的安定性を高めるように設計された様々な修飾ヌクレオチドを用いて化学合成することができる。例えば、ホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチドを使用することができる。アンチセンス核酸を作成するために使用することができる修飾ヌクレオチドの例として、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-クロロウラシル、5-ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β-D-ガラクトシルクエオシン(galactosylqueosine)、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-アデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルクエオシン(mannosylqueosine)、5'-メトキシカルボキシメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン、プソイドウラシル、クエオシン(queosine)、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸(v)、5-メチル-2-チオウラシル、3-(3-アミノ-3-N-2-カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、および2,6-ジアミノプリンが挙げられる。または、核酸がアンチセンス方向にサブクローニングされている(すなわち、挿入核酸から転写されるRNAが目的の標的核酸に対してアンチセンス方向のRNAである)発現ベクターを用いて、アンチセンス核酸を生物学的に産生することができる。
【0161】
遺伝子治療
本発明の遺伝子構築物はまた、作用薬形態または拮抗薬形態のWntポリペプチドをコードする核酸を送達するための遺伝子治療プロトコールの一部として使用することができる。本発明は、ポリペプチドが誤って発現される細胞においてWntポリペプチドの機能を再構成するように、またはWntポリペプチドの機能に拮抗するように、特定の細胞タイプにおいてWntポリペプチドをインビボでトランスフェクションおよび発現するための発現ベクターを特徴とする。Wntポリペプチドの発現構築物は、任意の生物学的に有効な担体(例えば、インビボでWnt遺伝子を細胞に効果的に送達することができる任意の処方物または組成物)の中に組み込んで投与することができる。アプローチとして、ウイルスベクター(組換えレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、および単純ヘルペスウイルス-1を含む)または組換え細菌プラスミドもしくは真核生物プラスミドへの本発明の遺伝子の挿入が挙げられる。ウイルスベクターは細胞を直接トランスフェクトする。プラスミドDNAは、例えば、カチオン性リポソーム(リポフェクチン)もしくは誘導体化(例えば、抗体結合)ポリリジンコンジュゲート、グラマシジンS、人工ウイルスエンベロープ、または他のこのような細胞内担体の助けによって送達することができ、ならびに遺伝子構築物の直接注射またはCaPO4沈殿がインビボで行われる。
【0162】
核酸を細胞にインビボで導入する好ましいアプローチは、Wntポリペプチドをコードする核酸(例えば、cDNA)を含むウイルスベクターを用いたアプローチである。ウイルスベクターによる細胞の感染には、標的細胞の大部分が核酸を受け取ることができるという利点がある。さらに、ウイルスベクター核酸を吸収した細胞において、 (例えば、ウイルスベクターに含まれるcDNAによって) ウイルスベクター内にコードされる分子が効率的に発現される。
【0163】
レトロウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターは、インビボで外因性遺伝子を特にヒトに導入するための組換え遺伝子送達系として使用することができる。これらのベクターは細胞への効率的な遺伝子送達をもたらし、導入された核酸は宿主染色体DNAに安定に組み込まれる。複製欠損レトロウイルスのみを産生する特殊な細胞株(「パッケージング細胞」と呼ばれる)の開発は遺伝子治療のためのレトロウイルスの有用性を高め、遺伝子治療のための遺伝子導入に使用するための欠損レトロウイルスが特徴付けられている(概説については、ミラー(Miller),A.D.(1990)Blood 76:271を参照のこと)。標準的な方法によってヘルパーウイルスを用いることで、複製欠損レトロウイルスを、標的細胞に感染させるのに使用することができるビリオンにパッケージングすることができる。組換えレトロウイルスを産生させ、インビトロまたはインビボでこのようなウイルスを細胞に感染させるプロトコールは、「分子生物学の最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」アウスベル(Ausubel),F.M.ら(編)Greene Publishing Associates、(1989)、セクション9.10-9.14および他の標準的な実験マニュアルで見られる。適切なレトロウイルスの例として、当業者に周知のpLJ、pZIP、pWE、およびpEMが挙げられる。エコトロピックレトロウイルス系および両栄養性レトロウイルス系の両方を調製するのに適したパッケージングウイルス株の例として、ψCrip、ψCre、ψ2、およびψAmが挙げられる。レトロウイルスは、様々な遺伝子を、上皮細胞を含む多くの異なる細胞タイプにインビトロおよび/またはインビボで導入するのに使用されている(例えば、エグリティス(Eglitis)ら(1985)Science 230:1395-1398;ダノス(Danos)およびムリガン(Mulligan)(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:6460-6464;ウィルソン(Wilson)ら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:3014-3018;アルメンタノ(Armentano)ら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:6141-6145;フーバー(Huber)ら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8039-8043;フェリー(Ferry)ら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8377-8381;コウドハリー(Chowdhury)ら(1991)Science 254:1802-1805;バンベウシェム(van Beusechem)ら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7640-7644;カイ(Kay)ら(1992)Human Gene Therapy 3:641-647;ダイ(Dai)ら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10892-10895;フー(Hwu)ら(1993)J.Immunol.150:4104-4115;米国特許第4,868,116号;米国特許第4,980,286号;PCT出願国際公開公報第89/07136号;PCT出願国際公開公報第89/02468号;PCT出願国際公開公報第89/05345号;およびPCT出願国際公開公報第92/07573号を参照のこと)。
【0164】
本発明において有用な別のウイルス遺伝子送達系はアデノウイルスに由来するベクターを利用する。アデノウイルスゲノムは、目的の遺伝子産物をコードおよび発現するが、正常な溶菌ウイルス生活環において複製する能力が不活化されるように操作することができる。例えば、バークナー(Berkner)ら(1988)BioTechniques 6:616;ローゼンフェルド(Rosenfeld)ら(1991)Science 252:431-434;およびローゼンフェルドら(1992)Cell 68:143-155を参照のこと。アデノウイルス株Ad 5型dl324または他のアデノウイルス株(例えば、Ad2、Ad3、Ad7など)から得られた適切なアデノウイルスベクターが当業者に周知である。ある特定の状況では、組換えアデノウイルスは、非分裂細胞に感染することができず、上皮細胞を含む広範囲の細胞タイプに感染させるのに使用することができる点で有利な場合がある(ローゼンフェルドら(1992)前記)。さらに、このウイルス粒子は比較的安定であり、精製および濃縮することができ、前記のように、感染スペクトルに影響を及ぼすように改変することができる。さらに、導入されたアデノウイルスDNA(およびそれに含まれる外来DNA)は宿主細胞ゲノムに組み込まれないが、エピソームのままの状態になり、それによって、導入されたDNAが宿主ゲノム(例えば、レトロウイルスDNA)に組み込まれている場合、インサイチューでの挿入変異誘発の結果として起こり得る潜在的な問題が回避される。さらに、アデノウイルスゲノムの外来DNA運搬能力は他の遺伝子送達ベクターと比較して大きい(8キロ塩基まで)(バークナー(Berkner)ら、前記;ハジアマンド(Haj-Ahmand)およびグラハム(Graham)(1986)J.Virol.57:267)。
【0165】
本発明の遺伝子を送達するのに有用なさらに別のウイルスベクター系はアデノ随伴ウイルス(AAV)である。アデノ随伴ウイルスは、効率的な複製および増殖生活環のために別のウイルス(例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)をヘルパーウイルスとして必要とする天然の欠損ウイルスである(概説については、ミュージカ(Muzyczka)ら(1992)Curr.Topics in Micro.and Immunol. 158:97-129を参照のこと)。アデノ随伴ウイルスはまた、自身のDNAを非分裂細胞に組み込むことができ、高頻度の安定な組み込みを示す、ごくわずかなウイルスの1つである(例えば、フロッテ(Flotte)ら(1992)Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.7:349-356;サムルスキー(Samulski)ら(1989)J.Virol.63:3822-3828;ミラウグリン(McLaughlin)ら(1989)J.Virol.62:1963-1973を参照のこと)。300塩基対という小さなAAVを含むベクターがパッケージングされ、組み込むことができる。外因性DNAの空間は約4.5kbに限られる。DNAを細胞に導入するために、トラトシン(Tratschin)ら(1985)Mol.Cell.Biol.5:3251-3260に記載のようなAAVベクターを使用することができる。AAVベクターを用いて、様々な核酸が様々な細胞タイプに導入されている(例えば、ヘルモナト(Hermonat)ら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6466-6470;トラトシンら(1985)Mol.Cell.Biol.4:2072-2081;ウォンジスフォード(Wondisford)ら(1988)Mol.Endocrinol.2:32-39;トラトシンら(1984)J.Virol.51:611-619;およびフロッテら(1993)J.Biol.Chem.268:3781-3790を参照のこと)。
【0166】
前記のようなウイルス導入法に加えて、Wntポリペプチドを動物組織において発現させるために非ウイルス法も使用することができる。大部分の非ウイルス遺伝子導入法は、哺乳動物細胞が巨大分子を吸収および細胞内輸送するために使用する通常機構に依存している。好ましい態様において、本発明の非ウイルス遺伝子送達系は、標的細胞が本発明のWnt遺伝子を吸収するためのエンドサイトーシス経路に依存している。このタイプの例示的な遺伝子送達系として、リポソームから得られた系、ポリリジンコンジュゲート、および人工ウイルスエンベロープが挙げられる。
【0167】
代表的な態様において、Wntポリペプチドをコードする遺伝子は、表面に正電荷を有し(例えば、リポフェクチン)、(選択的に)標的組織の細胞表面抗原に対する抗体でタグ化されているリポソームに閉じ込めることができる(ミズノ(Mizuno)ら(1992)No Shinkei Geka 20:547-551;国際公開公報第91/06309号;特願平10-47381;および欧州特許出願第EP-A-43075号)。
【0168】
臨床の場では、治療用Wnt遺伝子のための遺伝子送達系は、多くの方法のいずれによっても患者に導入することができる。前記方法のいずれも当技術分野においてよく知られている。例えば、遺伝子送達系の薬学的製剤は(例えば、静脈内注射によって)全身に導入することができ、標的細胞におけるタンパク質の特異的形質導入は、主として、遺伝子送達ビヒクルによるトランスフェクションの特異性、受容体遺伝子の発現を制御する転写調節配列による細胞タイプ発現もしくは組織タイプ発現、またはその組み合わせから生じる。他の態様において、組換え遺伝子の最初の送達はかなり限られており、動物への導入は極めて局部的である。例えば、遺伝子送達ビヒクルは、カテーテル(米国特許第5,328,470号を参照のこと)または定位注射(例えば、チェン(Chen)ら(1994)PNAS 91:3054-3057)によって導入することができる。
【0169】
遺伝子治療構築物の薬学的製剤は、許容される希釈剤に溶解した遺伝子送達系から本質的になってもよく、遺伝子送達ビヒクルが埋め込まれた徐放性マトリックスを含んでもよい。または、完全な遺伝子送達系を組換え細胞(例えば、レトロウイルスベクター)からインタクトに産生することができる場合、薬学的製剤は、遺伝子送達系を産生する1つまたはそれ以上の細胞を含んでもよい。
【0170】
他の好ましい態様において、エクスビボ遺伝子治療アプローチを使用することができる。
【0171】
細胞療法
Wntはまた、細胞(例えば、線維芽細胞、ケラチノサイト、上皮細胞(例えば、毛包細胞、例えば、DP細胞))に、Wnt産生を調節するヌクレオチド配列(例えば、Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体をコードするヌクレオチド配列)、プロモーター配列(例えば、Wnt遺伝子もしくは別の遺伝子に由来するプロモーター配列);エンハンサー配列(例えば、5'非翻訳領域(UTR)(例えば、Wnt遺伝子もしくは別の遺伝子に由来する5'UTR)、3'UTR(例えば、Wnt遺伝子もしくは別の遺伝子に由来する3'UTR);ポリアデニル化部位;インシュレーター配列;またはWnt発現を調節する別の配列を導入することによって、被検体において増加することができる。次いで、細胞を被検体に導入することができる。
【0172】
遺伝子操作しようとする初代細胞および二次細胞は様々な組織から得ることができ、培養状態で維持および増殖することができる細胞タイプを含む。例えば、初代細胞および二次細胞として、線維芽細胞、ケラチノサイト、上皮細胞(例えば、DP細胞)、内皮細胞、グリア細胞、神経細胞、血液の有形成分(例えば、リンパ球、骨髄細胞)、筋細胞(筋芽細胞)、およびこれらの体細胞タイプの前駆体が挙げられる。初代細胞は、好ましくは、遺伝子操作された初代細胞または二次細胞が投与される個体から得られる。しかしながら、初代細胞は、同種または別種(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、鳥類、ヒツジ、ヤギ、ウマ)の(レシピエント以外の)ドナーから得られてもよい。
【0173】
「初代細胞」という用語は、脊椎動物組織供給源から単離された細胞の懸濁液に存在する細胞(プレートされる前の、すなわち、ディッシュまたはフラスコなどの組織培養支持体に付着される前の細胞)、組織から得られた外植片に存在する細胞、初めてプレートされた前記細胞タイプの両方、およびこれらのプレートされた細胞から得られた細胞懸濁液を含む。「二次細胞」または「細胞株」という用語は、培養においてその後の全ての段階にある細胞を意味する。すなわち、初めてプレートされた初代細胞が培養支持体から取り出され、再プレート(継代)された時に、この細胞は、その後の継代における全ての細胞と同様に本明細書では二次細胞と呼ばれる。二次細胞は、一回またはそれ以上の回数で継代された二次細胞からなる細胞株である。細胞株は、1)一回またはそれ以上の回数で継代された;2)培養において有限数の平均集団倍加を示す;3)接触阻害され足場依存性の増殖の特性を示す(足場依存性は懸濁培養において増殖された細胞に適用されない);および4)不死化されていない、二次細胞からなる。「クローン細胞株」は単一の始祖細胞から得られた細胞株と定義される。「異種細胞株」は、2種類またはそれ以上の始祖細胞から得られた細胞株と定義される。
【0174】
脊椎動物(特に、哺乳動物)起源の初代細胞または二次細胞は、シグナルペプチドおよび/または異種核酸配列をコードする(例えば、Wntをコードする)核酸配列を含む外因性核酸配列でトランスフェクトされ、コードされる産物をインビトロおよびインビボで安定かつ再現可能に長期間にわたって産生することができる。異種アミノ酸はまた、内因性Wnt配列の発現(例えば、誘導性発現またはアップレギュレーション)を引き起こす調節配列(例えば、プロモーター)でもよい。外因性核酸配列は、例えば、米国特許第5,641,670号(この内容は参照として本明細書に組み入れられる)に記載のような相同組換えによって初代細胞または二次細胞に導入することができる。
【0175】
トランスフェクトされた初代細胞または二次細胞はまた、選択可能な表現型を初代細胞または二次細胞に付与し、初代細胞または二次細胞の同定および単離を容易にする選択マーカーをコードするDNAを含んでもよい。外因性合成DNAを安定に発現するトランスフェクトされた初代細胞および二次細胞を作成する方法、このようなトランスフェクトされた細胞のクローン細胞株および異種細胞株を作成する方法、クローン異種細胞株を作成する方法、ならびにトランスフェクトされた初代細胞または二次細胞の集団を使用して異常な状態または望ましくない状態を治療または予防する方法は本発明の一部である。
【0176】
クローン細胞株または異種細胞株である初代細胞または二次細胞のトランスフェクション
脊椎動物組織は、パンチ生検または目的の初代細胞タイプの組織供給源を得る他の外科的方法などの標準的な方法によって得ることができる。例えば、線維芽細胞、ケラチノサイト、または内皮細胞(例えば、毛包細胞もしくはDP細胞)の供給源を得るためにパンチ生検または毛包の採取が用いられる。酵素的消化または外植などの既知の方法を用いて、初代細胞の混合物が組織から得られる。酵素的消化が用いられる場合、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼ、ジスパーゼ(dispase)、プロナーゼ、トリプシン、エラスターゼ、およびキモトリプシンなどの酵素を使用することができる。
【0177】
結果として生じる初代細胞混合物を直接トランスフェクトしてもよく、最初に培養し、培養プレートから取り出し、再懸濁した後にトランスフェクションを行ってもよい。初代細胞または二次細胞を、例えば、細胞ゲノムに安定に組み込むように外因性核酸配列と混合し、トランスフェクションを達成するように処理する。外因性核酸配列は、選択的に、選択マーカーをコードするDNAを含んでもよい。外因性核酸配列および選択マーカーをコードするDNAは別々の構築物にあってもよく、単一の構築物にあってもよい。外因性DNAを含み、適切に発現する少なくとも1個の安定にトランスフェクトされた細胞が生成されるのを確かなものとするために、適量のDNAが用いられる。一般的に、約0.1〜500μgのDNAが用いられる。
【0178】
本明細書で使用する「トランスフェクション」という用語は、リン酸カルシウム沈殿もしくは塩化カルシウム沈殿、マイクロインジェクション、DEAE-デキストリンを介したトランスフェクション、リポフェクション、またはエレクトロポレーションを含む、外因性核酸を細胞に導入するための様々な方法を含む。
【0179】
エレクトロポレーションは、DNA構築物を初代細胞または二次細胞に侵入させるのに適した電圧およびキャパシタンス(および対応する時定数)で行われる。エレクトロポレーションは、広範囲の電圧(例えば、50〜2000ボルト)および対応するキャパシタンスで行うことができる。約0.1〜500μgの総DNAが一般的に用いられる。
【0180】
リン酸カルシウム沈殿、改良したリン酸カルシウム沈殿であるポリブレン沈殿、リポソーム融合、および受容体を介した遺伝子送達などの方法もまた細胞をトランスフェクトするのに使用することができる。初代細胞または二次細胞はまたマイクロインジェクションを用いてトランスフェクトすることができる。次いで、安定にトランスフェクトされた細胞を単離し、培養条件下で、および安定にトランスフェクトされた二次細胞を増殖させ、トランスフェクトされた二次細胞のクローン細胞株を作成するのに十分な時間、培養および継代培養することができる。または、1種類を超えるトランスフェクトされた細胞を培養および継代培養し、異種細胞株を作成することができる。
【0181】
トランスフェクトされた初代細胞または二次細胞は、有効量の治療タンパク質を個体に供給するのに十分な量のクローン細胞株または異種細胞株を作成するのに十分な回数の倍加を受ける。一般的に、例えば、0.1cm2の皮膚が生検材料であり、1,000,000個の細胞を含むと見なされる。クローン細胞株を作成するのに1個の細胞が用いられ、1億個のトランスフェクトされた二次細胞を作成するのに約27回の倍加を受ける。異種細胞株が、約1000,000個の細胞からなる元々のトランスフェクト集団から作成される場合、1億個のトランスフェクトされた細胞を作成するのに10回の倍加しか必要としない。
【0182】
トランスフェクトされたクローン異種細胞株において必要とされる細胞の数は一定でなく、様々な要因(トランスフェクトされた細胞の用途、トランスフェクトされた細胞における外因性DNAの機能レベル、トランスフェクトされた細胞の移植部位(例えば、使用することができる細胞数は移植の解剖学的部位によって制限される)、ならびに患者の年齢、表面積、および臨床状態を含むが、これに限定されない)によって決まる。これらの要因を全体的に見ると、成長ホルモン単独欠損症を有し、それ以外では健常な10kg患者において治療レベルのヒト成長ホルモンを送達するために、約1億〜5億個のトランスフェクトされた線維芽細胞が必要である(これらの細胞の体積は患者の親指の先端の体積とほぼ同じである)。
【0183】
トランスフェクトされた二次細胞のクローン細胞株または異種細胞株の移植
トランスフェクトされた細胞(例えば、本明細書に記載のように作成された細胞)は、その産物を送達しようとする個体に導入することができる。次いで、クローン細胞株または異種細胞株が個体に導入される。様々な投与経路および様々な部位(例えば、腎臓被膜下、皮下、中枢神経系(クモ膜下を含む)、血管内、肝臓内、内臓内、腹腔内(大網内を含む)、筋肉内移植)を使用すことができる。一旦、個体に移植されると、トランスフェクトされた細胞は異種DNAによりコードされる産物を産生するか、異種DNAそれ自体の影響を受ける。例えば、望ましくない脈管形成に関連する病気に罹患している個体は、Wnt産生細胞を移植する候補である。
【0184】
個体に小さな皮膚生検を行うことができる。これは、外来患者に行うことができる簡単な処置である。皮膚片が、例えば、腕の下から採取され、採取するのに約1分かかる場合がある。試料を処理し、患者の細胞(例えば、線維芽細胞)を単離し、WntまたはWnt産生を誘導する別のタンパク質もしくは分子を産生するように遺伝子操作する。患者の年齢、体重、および臨床状態に基づいて、必要とされる細胞数を大量培養で増殖させる。全プロセスは4〜6週間かかかるはずであり、その終わりに、適切な数の遺伝子操作された細胞を、もう一度、外来患者として個体に(例えば、患者の(例えば、頭皮または顔の)皮膚下に細胞を注射で戻すことによって)導入する。患者は、毛が喪失する症状を改善することができるWntを産生することができる。
【0185】
1回の治療で終わる人もいれば、複数回の細胞療法の治療が必要な人もいる。
【0186】
この例が示唆するように、使用される細胞は、一般的に、患者特異的な遺伝子操作細胞である。しかしながら、同種または異なる種の別の個体から細胞を得ることが可能である。このような細胞の使用は、免疫抑制剤の投与、組織適合抗原の変化、または移植細胞の拒絶を予防するためのバリアー装置の使用を必要とする可能性がある。
【0187】
トランスフェクトされた初代細胞または二次細胞は、単独で、またはレシピエント被検体における細胞に対する免疫応答を阻害するためのバリアーもしくは薬剤と併用して投与することができる。例えば、被検体における正常な応答を阻害または妨害するために、免疫抑制剤を被検体に投与することができる。好ましくは、免疫抑制剤は、被検体におけるT細胞活性またはB細胞活性を阻害する免疫抑制薬である。このような市販の免疫抑制薬の例(例えば、シクロスポリンAがサンド社(Sandoz Corp.)East Hanover、NJから市販されている)。
【0188】
免疫抑制剤(例えば、免疫抑制薬)は、望ましい治療効果(例えば、細胞拒絶の阻害)を達成するのに十分な投与量で被検体に投与することができる。免疫抑制薬の投与量範囲は当技術分野において周知である。例えば、フリード(Freed)ら(1992)N.Engl.J.Med.327:1549;スペンサー(Spencer)ら(1992)N.Engl.J.Med.327:1541;ウィドナー(Widner)ら(1992)n.Engl.J.Med.327:1556)を参照のこと。投与量の値は、個体の疾患状態、年齢、性別、および体重などの要因によって異なってもよい。
【0189】
被検体におけるT細胞活性を阻害するのに使用することができる別の薬剤は、抗体またはその断片もしくは誘導体である。インビボでT細胞を枯渇または隔離することができる抗体は当技術分野において周知である。ポリクローナル抗血清(例えば、抗リンパ球血清)を使用してもよい。または、1つまたはそれ以上の種類のモノクローナル抗体を使用してもよい。好ましいT細胞枯渇抗体として、細胞表面上のリガンドであるCD2、CD3、CD4、CD8、CD40、CD40に結合するモノクローナル抗体が挙げられる。このような抗体は当技術分野において周知であり、例えば、米国菌培養収集所(American Type Culture Collection)から市販されている。ヒトT細胞上のCD3に結合する好ましい抗体は、OKT3(ATCC CRL 8001)である。
【0190】
レシピエント被検体内のT細胞を枯渇、隔離、または阻害する抗体は、移植の際の細胞拒絶を阻害するのに適した時間、ある用量で投与することができる。抗体は、好ましくは、希釈剤(例えば、食塩溶液)の薬学的に許容される担体に溶解して静脈内投与される。
【0191】
トランスフェクトされた二次細胞を使用する利点は、個体に導入される細胞数を制御することによって、身体に送達されるタンパク質の量を制御できることである。さらに、場合によっては、もはや産物が必要とされないトランスフェクト細胞を除去することが可能である。本発明のトランスフェクトされた初代細胞または二次細胞を使用した治療のさらなる利点は、例えば、亜鉛、ステロイド、またはタンパク質、産物、もしくは核酸産物の転写に影響を及ぼす薬剤、または核酸産物の安定性に影響を及ぼす薬剤の投与によって、治療用産物の産生を調節できることである。
【0192】
投与
Wntタンパク質の発現レベルを調節する薬剤は、標準的な方法によって被検体に投与することができる。例えば、薬剤は、多くの異なる経路(静脈内経路、皮内経路、皮下経路、経口経路(例えば、吸入)、経皮(局所)経路、および経粘膜経路を含む)のいずれでも投与することができる。1つの態様において、Wntを調節する薬剤を局所投与することができる。
【0193】
Wntタンパク質レベルを調節する薬剤(例えば、核酸分子、Wntポリペプチド、断片または類似体、Wntモジュレーター、および抗Wnt抗体(本明細書で「活性化合物」とも呼ばれる)は、被検体(例えば、ヒト)への投与に適した薬学的組成物に組み込むことができる。このような組成物は、一般的に、核酸分子、ポリペプチド、モジュレーター、または抗体、および薬学的に許容される担体を含む。本明細書で使用する言葉「薬学的に許容される担体」は、薬学的投与に適合した、任意のおよび全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含むことが意図される。薬学的に活性な物質のための、このような媒質および薬剤の使用は周知である。任意の従来の媒質または薬剤が活性化合物と適合しない場合を除いて、このような媒質を本発明の組成物に使用することができる。補助的な活性化合物も組成物に組み入れることができる。
【0194】
意図した投与経路と適合するように薬学的組成物を処方することができる。非経口適用、皮内適用、または皮下適用に使用される液剤または懸濁剤は、以下の成分を含んでもよい:滅菌希釈剤(例えば、注射用の水、食塩溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒);抗菌剤(例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン);酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸);緩衝剤(例えば、酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩)、および張性を調節するための薬剤(例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース)。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基を用いて調節することができる。非経口製剤は、ガラスまたはプラスチックでできたアンプル、使い捨て注射器、または複数回投与用バイアルに入れることができる。
【0195】
注射で使用するのに適した薬学的組成物は、滅菌水溶液(水溶性の場合)または滅菌注射液または滅菌注射分散液の即時調合用の分散剤および滅菌粉末を含む。静脈内投与に適した担体として、生理学的食塩水、静菌水、クレモフォアEL(Cremophor EL)(登録商標)(BASF、Parsippany、NJ)、またはリン酸緩衝食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合において、組成物は滅菌されてなければならず、容易な注射可能性が存在する程度まで液状であるべきである。これは製造および保存の条件下で安定でなければならず、細菌および菌類などの微生物の汚染作用を防ぐように保存されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、ならびにその適切な混合物を含む溶媒または分散媒でもよい。例えば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、分散液の場合では必要とされる粒径を維持することによって、および界面活性剤を使用することによって、適切な流動性を維持することができる。微生物の作用は、様々な抗菌剤および抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなど)によって防止することができる。多くの場合、組成物に等張剤(例えば、糖、ポリアルコール(例えば、マンニトール、ソルビトール)、塩化ナトリウム)を含めることが好ましい。組成物に吸収を遅延する薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン)を含めることによって、注射可能な組成物を長期間吸収させることができる。
【0196】
必要量の活性化合物(例えば、Wntポリペプチドまたは抗Wnt抗体)を、必要に応じて前記成分の1つまたは組み合わせと共に適切な溶媒に含め、その後、濾過滅菌を行うことによって、注射可能な滅菌溶液を調製することができる。一般的に、活性化合物を、基本分散媒および必要とされる前記からの他の成分を含む滅菌ビヒクルに含めることによって、分散液が調製される。注射可能な滅菌溶液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製法は、予め滅菌濾過された溶液から、活性成分および任意のさらなる望ましい成分の粉末を生じる真空乾燥および凍結乾燥である。
【0197】
経口組成物は、一般的に、不活性希釈剤または食べられる担体を含む。経口組成物はゼラチンカプセルに入れてもよく、錠剤に圧縮してもよい。経口治療投与のために、活性化合物を賦形剤と共に含め、錠剤、トローチ剤、またはカプセルの形で使用することができる。経口組成物はまた、うがい薬として使用するために液状担体を用いて調製することができる。ここで、液状担体に溶解した化合物は経口適用され、口から出されるか、咳をして吐き出されるか、または飲み込まれる。薬学的に適合する結合剤および/またはアジュバント物質を組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸剤、カプセル、トローチ剤などは、以下の任意の成分または似た性質の化合物を含んでもよい:微結晶性セルロース、トラガカントゴム、もしくはゼラチンなどの結合剤;デンプンもしくはラクトースなどの賦形剤;アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、コーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはステローテス(Sterotes)などの潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤(glidant);スクロースもしくはサッカリンなどの甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチル、もしくはオレンジ着香料などの着香料。
【0198】
全身投与はまた経粘膜手段または経皮手段によって行うことができる。経粘膜投与または経皮投与のために、浸透しようとする障壁に適した浸透剤が処方物に使用される。このような浸透剤は一般的に周知であり、例えば、経粘膜投与の場合、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻内噴霧または座薬を使用して達成することができる。経皮投与の場合、活性化合物は、当技術分野において一般に知られている軟膏、膏薬、ゲル、またはクリームに処方することができる。このような経皮処方物は、毛の成長を促進または阻害するために皮膚に適用することができる。
【0199】
1つの態様において、活性化合物は、身体からの急速な排泄から化合物を保護する担体と共に調製される(例えば、移植片およびマイクロカプセル送達系を含む徐放性処方物)。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができる。このような処方物を調製する方法は当業者に明らかである。前記の材料はまた、アルザコーポレーション(Alza Corporation)およびノバファーマシューティカルズインク(Nova Pharmaceuticals,Inc.)から商業的に入手することができる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体によって感染細胞に標的化されるリポソームを含む)もまた薬学的に許容される担体として使用することができる。これらは、当業者に周知の方法(例えば、米国特許第4,522,811号に記載の方法)に従って調製することができる。
【0200】
本明細書に記載の核酸分子はベクターに挿入し、遺伝子治療ベクターとして使用することができる。遺伝子治療ベクターは、例えば、静脈内注射、局部投与(米国特許第5,328,470号を参照のこと)、または定位注射(例えば、チェンら、PNAS 91:3054-3057、1994を参照のこと)によって被検体に送達することができる。遺伝子治療ベクターの薬学的製剤は、許容される希釈剤に溶解した遺伝子治療ベクターを含んでもよく、遺伝子送達ビヒクルが埋め込まれた徐放性マトリックスを含んでもよい。または、完全な遺伝子送達ベクターを組換え細胞(例えば、レトロウイルスベクター)からそのまま産生することができる場合、薬学的製剤は、遺伝子送達系を産生する1つまたはそれ以上の種類の細胞を含んでもよい。
【0201】
薬学的組成物は、投与のための説明書と共に、容器、パック、またはディスペンサーに含めることができる。
【0202】
Wntタンパク質レベルを調節する薬剤は局部投与(例えば、局所投与)によって投与することができる。薬剤を一回適用してもよく、連続的に投与してもよい。例えば、Wntタンパク質レベルに及ぼす影響が選択された期間(例えば、5日、10日、20日、30日、50日、90日、180日、365日またはそれ以上)維持されるように十分な頻度で、薬剤を投与する。Wntタンパク質(例えば、Wntポリペプチド)または抗Wnt抗体のレベルを調節する(例えば、増加させるか、または阻害する)薬剤の投与もまた繰り返すことができる。
【0203】
他の態様
本発明は、本発明の詳細な説明と共に説明されたが、前述の説明は本発明の範囲の例示であり、本発明の範囲を限定ないと意図されることが理解される。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって限定される。他の局面、利点、および変更は、以下の特許請求の範囲内である。
【0204】
本明細書で引用された全ての特許および参考文献は、その全てが参照として組み込まれる。他の態様は、以下の特許請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体において毛の成長を促進する方法であって、以下の段階を含む方法:
被検体においてWntで促進されるシグナル伝達の効果を誘導または模倣し、それによって毛の成長を促進する段階。
【請求項2】
Wntで促進されるシグナル伝達が被検体の真皮乳頭細胞において誘導または模倣される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
Wntで促進されるシグナル伝達の効果が、Wntタンパク質の産生または活性のレベルを増加させる薬剤を被検体に投与することによって誘導される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
薬剤が、Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
薬剤が、Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体をコードするヌクレオチド配列である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
WntポリペプチドがWnt3、Wnt4、またはWnt7である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
Wntで促進されるシグナル伝達の効果が、β-カテニンリン酸化を阻害する薬剤またはGSK3βキナーゼを阻害する薬剤を被検体に投与することによって模倣される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
薬剤が塩化リチウムである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
Wntで促進されるシグナル伝達の効果が、β-カテニンの細胞質蓄積を増加させる薬剤を被検体に投与することによって模倣される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
Wntで促進されるシグナル伝達の効果が、フリズルド(Frizzled)受容体と相互作用する薬剤よって模倣される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
薬剤が抗体である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
被検体において毛の成長を阻害する方法であって、以下の段階を含む方法:
被検体においてWntタンパク質レベルを阻害するか、またはWntで促進されるシグナル伝達の効果を阻害する段階。
【請求項13】
Wntタンパク質レベルまたはWntで促進されるシグナル伝達が真皮乳頭細胞において阻害される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
Wntで促進されるシグナル伝達の効果が、Wntタンパク質の産生または活性のレベルを減少させる薬剤を被検体に投与することによって阻害される、請求項12記載の方法。
【請求項15】
Wntタンパク質がWnt3、Wnt4、またはWnt7である、請求項12記載の方法。
【請求項16】
Wntで促進されるシグナル伝達の効果が、β-カテニンリン酸化を増加させる薬剤またはGSK3βキナーゼ活性を誘導する薬剤によって阻害される、請求項12記載の方法。
【請求項17】
Wntで促進されるシグナル伝達の効果が、β-カテニンの細胞質蓄積を減少させる薬剤を被検体に投与することによって阻害される、請求項12記載の方法。
【請求項18】
被検体に毛が喪失する危険性があるかどうかを評価する方法であって、以下の段階を含む方法:
Wnt遺伝子の遺伝子傷害の有無またはWnt遺伝子の誤った発現を検出し、それによって被検体に毛が喪失する危険性があるかどうかを評価する段階。
【請求項19】
Wnt遺伝子がWnt3、Wnt4、またはWnt7である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
遺伝子傷害または誤った発現が被検体の毛包において検出される、請求項18記載の方法。
【請求項21】
Wntの過小発現が毛が喪失する危険性を示す、請求項18記載の方法。
【請求項22】
毛の成長を促進することができる化合物を同定する方法であって、以下の段階を含む方法:
Wntポリペプチドを発現することができる細胞と試験化合物を接触させる段階;および
細胞におけるWntポリペプチドまたは核酸の発現レベルを確かめ、それによって毛の成長を促進することができる化合物を同定する段階であって、Wntポリペプチドまたは核酸の発現を増加させることができる化合物が毛の成長を促進することができる化合物を示す段階。
【請求項23】
WntポリペプチドがWnt3、Wnt4、またはWnt7である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
試験化合物がWnt断片または類似体である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
細胞が毛包細胞である、請求項22記載の方法。
【請求項26】
毛の成長を阻害することができる化合物を同定する方法であって、以下の段階を含む方法:
Wntポリペプチドを発現することができる細胞と試験化合物を接触させる段階;および
細胞におけるWntポリペプチドまたは核酸の発現レベルを確かめ、それによって毛の成長を阻害することができる化合物を同定する段階であって、Wntポリペプチドまたは核酸の発現を減少するができる化合物が毛の成長を阻害することができる化合物を示す段階。
【請求項27】
WntポリペプチドがWnt3、Wnt4、またはWnt7である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
試験化合物がWnt拮抗薬である、請求項26記載の方法。
【請求項29】
細胞が毛包細胞である、請求項26記載の方法。
【請求項30】
真皮乳頭(DP)細胞を培養する方法であって、以下の段階を含む方法:
増加したレベルのWntまたはWntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣する薬剤の存在下で、DP細胞を培養する段階。
【請求項31】
薬剤が塩化リチウムである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体が培養物に添加される、請求項30記載の方法。
【請求項33】
DP細胞が、Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体を発現する細胞の存在下で培養される、請求項30記載の方法。
【請求項34】
Wntポリペプチドまたはその機能的断片もしくは類似体またはWntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣する薬剤を含む、真皮乳頭(DP)細胞用の培地。
【請求項35】
薬剤が塩化リチウムである、請求項34記載の培地。
【請求項36】
真皮乳頭(DP)細胞において成長期遺伝子発現を促進または維持する方法であって、以下の段階を含む方法:
DP細胞においてWntタンパク質レベルを増加させる段階、またはWntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣する段階。
【請求項37】
Wntタンパク質がWnt3、Wnt4、またはWnt7である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
Wntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣する段階が、DP細胞におけるβ-カテニンリン酸化を阻害する段階を含む、請求項37記載の方法。
【請求項39】
DP細胞においてWntで促進されるシグナル伝達の効果を模倣する段階が、細胞と塩化リチウムを接触させる段階を含む、請求項38記載の方法。
【請求項40】
真皮乳頭(DP)細胞移植片を提供および維持する方法であって、以下の段階を含む方法:
被検体からDP細胞を提供する段階;および
Wntで促進されるシグナル伝達の効果を誘導または模倣する条件下でDP細胞を培養し、それによって真皮乳頭(DP)細胞移植片を提供および維持する段階。
【請求項41】
真皮乳頭細胞がWntまたはその断片もしくは類似体の存在下で培養される、請求項40記載の方法。
【請求項42】
真皮乳頭細胞が塩化リチウムの存在下で培養される、請求項40記載の方法。
【請求項43】
真皮乳頭細胞がβ-カテニンおよび/またはLEF-1の存在下で培養される、請求項40記載の方法。
【請求項44】
真皮乳頭細胞が、β-カテニンリン酸化を阻害する薬剤の存在下で培養される、請求項40記載の方法。
【請求項45】
真皮乳頭細胞が、GSK3βキナーゼを阻害する薬剤の存在下で培養される、請求項40記載の方法。
【請求項46】
真皮乳頭細胞が、β-カテニンの蓄積を促進する薬剤の存在下で培養される、請求項40記載の方法。
【請求項47】
DP細胞を同じ被検体または異なる被検体に戻す段階をさらに含む、請求項40記載の方法。

【公開番号】特開2011−207908(P2011−207908A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132510(P2011−132510)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【分割の表示】特願2001−571928(P2001−571928)の分割
【原出願日】平成13年3月30日(2001.3.30)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】