説明

毛成長抑制剤

【課題】本発明は、毛の成長あるいは発育を効果的に抑制することのできる毛成長抑制剤、及びこれを含有する化粧品、医薬品、医薬部外品などの外用組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】ヤマブシタケの抽出物を有効成分として含有させることによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤマブシタケ抽出物を含有する毛成長抑制剤、並びに当該毛成長抑制剤を含んでなる外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
人体が有する頭髪あるいは体毛は、本来生物学的には頭部、胸部、手足等の重要な器官を防護するためのものであるが、衣服や保護具等の防護手段が現れ、それらを人類が活用し発達するに従って、体毛が担う器官防護機能は重要ではなくなってきているのが現状である。
【0003】
また、一般に頭髪や睫毛は豊かであることが望まれているのに対し、近年、頭髪や睫毛以外の体毛、特に手足、脇の下等における体毛は、美的外観上は無い方が好ましいとする傾向が高まり、このため各種の体毛除去方法が開発され、利用されている。具体的には、シェーバー、抜毛器等を用いる機械的除去方法、脱毛剤を用いてその体毛を毛根から抜去する方法、並びにレーザーを用いて毛根を焼失させる方法などが挙げられる。
【0004】
しかしながら、これらの体毛除去方法は、皮膚に対して物理的、化学的又は熱的刺激を伴うものであり、また、体毛除去方法によって多少の差はあるものの体毛除去効果の持続性には限度がある。このため、一定期間経過後には再び体毛除去処理を行わなければならず、体毛除去処理作業の軽減化が望まれており、毛の成長を抑制する物質についてスクリーニングが行われており(特許文献1)、いくつかの植物の抽出物がこのような毛の成長を抑制する効果を有することが見出されている(特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-282035号公報
【特許文献2】特開2002-363038号公報
【特許文献3】特開2000-169333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、毛の成長あるいは発育を効果的に抑制することのできる毛成長抑制剤、及びこれを含有する外用化粧組成物又は外用医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明者は、器官培養された毛に対する各種生薬の抽出物の毛成長抑制能を鋭意研究したところ、驚くべきことにヤマブシタケ(Hericium erinaceum)の抽出物が、器官培養された毛の成長を抑制する効果を発揮することを見出し、毛成長抑制剤に係る本発明に到った。
【0008】
したがって、本願発明は、以下の発明を包含する:
(1)ヤマブシタケ抽出物を含んでなる、毛成長抑制剤。
(2)前記抽出物が、有機溶媒抽出により得られる、項目(1)に記載の毛成長抑制剤。
(3)前記有機溶媒抽出が、C1−C4アルコール抽出である、項目(2)に記載の毛成長抑制剤。
(4)前記C1−C4アルコール抽出が、エタノール抽出である、項目(3)に記載の毛成長抑制剤。
(5)前記エタノール抽出が、40〜60v/v%エタノール水溶液を用いる、項目(4)に記載の毛成長抑制剤。
(6)項目(1)〜(5)のいずれか一項に記載の毛成長抑制剤を含んでなる、外用組成物。
(7)前記外用組成物が、毛の成長を抑制するためのものである、項目(6)に記載の外用組成物。
(8)前記外用組成物が、外用化粧組成物である、項目(7)に記載の外用組成物。
(9)前記外用組成物が、多毛症の治療用の外用医薬組成物である、項目(7)に記載の外用組成物。
(10)美容目的でヤマブシタケ抽出物を外用することを含む、毛成長抑制方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の毛成長抑制剤は、毛の成長を抑制することができ、いわゆる抑毛効果を発揮する。これにより、毛の伸張速度の低下、発毛の抑制、毛径の低減、及び休止期の延長が生じる。したがって、本発明の毛成長抑制剤は、体毛除去処理後の再度の体毛除去処理を軽減することもできるし、またむだ毛を目立たなくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は毛包を含む毛根部の構成を示す図である。
【図2】図2はヤマブシタケ抽出物の毛伸張抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の毛成長抑制剤は、ヤマブシタケの抽出物を含有することを特徴とする。本発明において抑制される毛は、美的外観上好ましくない毛(いわゆるむだ毛)であればいずれの毛であってもよく、例えば腕、手、足、首、体に生えている体毛や、顔に生える産毛、髭などの毛が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
毛は、皮膚表面に出ている部分である毛幹(hair shaft)と、皮膚内部に入り込んでいる部分の毛根(hair root)に分けられ、毛根の下の膨らんだ部分を毛球(hair bulb)といい、毛球の中央部にある間葉系細胞からなる部分を毛乳頭(dermal papilla)という。毛乳頭には毛細血管や神経が入り込んでいて、食物からの栄養や酸素を取り入れ、毛の発生や成長をつかさどっている。毛乳頭に接したところに毛母細胞(hairmatrix)があり毛はここでつくられている(図1)。すなわち毛母細胞は、毛乳頭に入っている毛細血管から栄養や酸素を取り込み、分裂を繰り返すことにより毛が形成される。
【0013】
本願発明の毛成長抑制剤は、毛の成長を抑制することができ、毛の成長の抑制には、毛の伸張速度の低下、発毛の抑制、及び毛径の低減が包含される。結果として、毛の長さ、密度、及び毛の太さを低減し、そして毛を目立たなくすることができる。したがって、本願発明の毛成長抑制剤は、抑毛剤、毛伸張抑制剤、又は発毛抑制剤でもある。
【0014】
本発明において、ヤマブシタケは、サンゴハリタケ属のヤマブシタケ(Hericium erinaceum)の子実体のことをいい、野生のもの、原木栽培されたもの、及び菌床栽培されたもののいずれであってもよい。大量生産の観点から、原木栽培または菌床栽培されたものが好ましい。
【0015】
本発明のヤマブシタケの抽出物には、ヤマブシタケをそのまま又は乾燥後に粉砕又はホモジェナイズし、その粉砕物又はホモジェネートを溶媒抽出することにより得られる抽出液、その希釈液、その濃縮液、またはその乾燥物が含まれる。
【0016】
上記抽出法により得られたヤマブシタケ抽出物は、本発明の毛成長抑制剤の有効成分として抽出液のまま用いることもできるが、当該抽出物を希釈、濃縮もしくは凍結乾燥した後、粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。また、クロマトグラフィーなどの一般的に用いられる精製技術により、上記抽出物から不活性な夾雑物を除去して用いることもでき、不活性成分を取り除き、活性成分の濃度を高めるという観点から、精製された抽出物を用いることが好ましい。
【0017】
本発明に係るヤマブシタケの抽出物は、生薬の有効成分の抽出において一般に使用される抽出方法により取得可能である(特許文献2及び3)。例えば、10〜50倍量、好ましくは10〜20倍量の抽出溶媒と共に浸漬または加熱還流した後、濾過し濃縮して得ることができる。浸漬が好ましく、0℃〜室温で、浸漬時間は、求める収率により変わるが、少なくとも30分間、1時間、2時間、3時間、6時間、12時間、24時間、2日間、3日間、又は1週間にわたり浸漬される。還流する場合、少なくとも30分間、1時間、2時間、3時間、6時間、12時間、24時間、2日間、3日間、又は1週間にわたり還流される。浸漬又は還流は、好ましくは攪拌下で行われる。使用される抽出溶媒としては、生薬の有効成分の抽出に通常用いられる溶媒であれば任意に用いることができ、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のアルコール類;含水アルコール類、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;アセトン、酢酸エチル、ヘキサンなどの一般的に用いられる有機溶媒が挙げられ、これらは単独あるいは組み合わせて用いることができる。好ましくはアルコール溶液、特にエタノール水溶液が用いられる。エタノール水溶液のエタノールの濃度範囲の下限値は、40、50、60、又は70v/v%のいずれかであり、上限値が60、70、80、90、95、99、100v/v%のいずれか(但し上限値は下限値を超えることはない)であることが好ましい。特に好ましくは、エタノールの濃度範囲は、40〜60v/v%の範囲であり、特に好ましい抽出溶液は、50v/v%エタノール水溶液である。
【0018】
ヤマブシタケは、漢方薬として人体に長年にわたり使用されており、また食材として使用されていることから、安全性が高いといえる。よって、ヤマブシタケ抽出物は、副作用が無いか又は少ない毛成長抑制剤の有効成分として好適に使用することができ、また、その毛成長抑制剤は、化粧品、医薬品、又は医薬部外品などの外用組成物に使用することができる。本発明の毛の成長を抑制するための外用組成物は、医薬組成物又は化粧組成物であってもよく、好ましくは化粧組成物である。
【0019】
ヤマブシタケ抽出物を毛成長抑制剤として含む外用組成物におけるヤマブシタケ抽出物の配合量は、外用組成物全量中に乾燥重量として10〜0.0001重量%とするのが好ましく、より好ましくは0.1〜0.001重量%、特には0.01重量%とするのがよい。
【0020】
ヤマブシタケ抽出物を毛成長抑制剤として含む外用組成物は、ヤマブシタケ抽出物に加えて、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常化粧品や医薬品等の外用組成物に用いられる他の成分、例えば油分、湿潤剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、防腐剤、保湿剤、香料、水、アルコール、増粘剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0021】
また、本発明の毛成長抑制剤は、外皮に適用される化粧品、医薬品、医薬部外品等に配合して使用することができ、特に化粧料には広く好適に使用することが可能である。本発明の毛成長抑制剤、又は当該抑制剤を含有する外用化粧組成物は、好ましくは脱毛処理の後又は前に美的外観上好ましくない毛(いわゆるむだ毛)が生えている領域、例えば腕、手、足、首、体、又は顔に外用される。本発明の毛成長抑制剤、又は当該抑制剤を含有する外用組成物は、多毛症の治療のため、又は美容の目的で用いられるが、美容の目的で用いられることが好ましい。したがって、本発明は、本発明の毛成長抑制剤を外用することにより美容目的で毛の成長を抑制する方法にも関する。
【0022】
本発明の毛成長抑制剤を含有する化粧組成物の好ましい製品形態としては、化粧水、乳液、クリーム、パック、ファンデーション、メーク用化粧品、浴用剤、又は脱毛若しくは髭剃り関連化粧品が挙げられるが、それらに特に限定されるものではない。脱毛若しくは髭剃り関連化粧品としては、ペースト状、クリーム状、エアゾール状、ワックス状、ジェル状、シート状等の脱毛剤、脱毛の後処理に用いるローション、クリーム等の後処理料、プレシェーブローション、クリーム等の髭剃り前処理料、シェービングクリーム、ジェル等の髭剃り料、アフターシェーブローション、クリーム等の髭剃り後処理料などが挙げられる。
【0023】
本発明の毛成長抑制剤を含む外用組成物は、毛の成長を抑制することから、多毛症の治療のための医薬組成物として用いることができる。多毛症の治療のための医薬組成物は、さらに多毛症の治療に用いられるフルタミドなどの抗アンドロゲン剤や脱毛剤の投与と併せて外用されてもよい。
【0024】
なお、本発明の毛成長抑制剤を配合する化粧料等の外用組成物のとり得る剤型、製品形態及び具体的製品は、前記した具体的剤型、製品形態及び製品に限定されないことはいうまでもない。
【実施例】
【0025】
実施例1:ヤマブシタケ抽出物の調製
市販のヤマブシタケ(ホクトメディカル株式会社)238.23g(湿重量)を3日間凍結乾燥処理して乾燥ヤマブシタケ24.85gを得た。乾燥させたヤマブシタケ10.90gをブレンダーで粉砕した。ヤマブシタケ粉砕物2.00gを室温遮光下で下記の溶媒30ml(15倍容量)に3日間浸漬した。抽出液を吸引ろ過し(桐山ろ紙5C)、残渣を適量の溶媒で洗浄した。ろ液と洗液とを合わせてロータリーエバポレーター(湯浴温約35℃)を使用し溶媒を留去した後、真空ポンプを使用し室温で減圧乾燥してヤマブシタケ抽出物を得た。なお、抽出溶媒として、以下の4種:100%エタノール、90v/v%エタノール水溶液、70v/v%エタノール水溶液、50v/v%エタノール水溶液を用いた。
【表1】

【0026】
実施例2:ヒト毛包の器官培養
実体顕微鏡下でマイクロせん刃を用いて、ヒト頭皮から成長期の毛包を単離した。単離した毛包を、Williams E培地(Gibco)に抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン及びファンギゾン)、10ng/mlヒドロコルチゾン、10μg/mlのインスリン、10ng/mlの亜セレン酸ナトリウム及び10μg/mlのトランスフェリンを添加した培地(以下、OCM(+)培地という。)で洗浄した後に長さを測定し、OCM(+)培地(24穴のマイクロプレートを使用:1穴あたり1ml)中に沈ませて、37℃、5%CO2を含む空気の気相条件下で一晩培養した(前培養)。再度長さを測定した後、伸張が0.25mm以上の毛包を選択し、伸張が均等になるように5または6本の2つの群に分けた。毛包の伸張の測定は、接眼鏡部にミクロメーターを挿入した倒立顕微鏡下で前記マイクロプレートを観察することにより行った。
【0027】
実施例3:ヤマブシタケ抽出物の評価
実施例1で得られたヤマブシタケ抽出物のうち、収率が高い50v/v%エタノール水溶液で抽出して得られたヤマブシタケ抽出物を10mgスクリュー管中で秤量し、50%エタノール水溶液で1%溶液になるように調製した。このヤマブシタケ抽出物の50%エタノール溶液を100倍量のOCM(+)培地に添加して、ヤマブシタケ抽出物100ppmの溶液(エタノール0.5%)(以下、ヤマブシタケ抽出物培地とする)を得た。同様に、OCM(+)培地に50%エタノールを終濃度0.5%となるように添加して対照培地を調製した。器官培養された2つの毛包群の培地をヤマブシタケ抽出物培地と対照培地にそれぞれ交換し、7日間、37℃5%CO2を含む空気の気相条件下で培養を行った。培地交換後、2日目、4日目、及び7日目で毛包の長さを測定した。結果を図2に示す。4日目と7日目において、ヤマブシタケ抽出物培地で毛包を培養した場合に、毛伸張が有意に抑制される事が示された(図2)。これにより、ヤマブシタケ抽出物が、ヒトの毛の成長抑制作用を有することが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤマブシタケ抽出物を含んでなる、毛成長抑制剤。
【請求項2】
前記抽出物が、C1−C4アルコール抽出により得られる、請求項1に記載の毛成長抑制剤。
【請求項3】
前記C1−C4アルコールが、エタノールである、請求項1に記載の毛成長抑制剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の毛成長抑制剤を含んでなる、毛の成長を抑制するための外用組成物。
【請求項5】
前記外用組成物が、外用化粧組成物である、請求項4に記載の外用組成物。
【請求項6】
前記外用組成物が、多毛症の治療のための医薬組成物である、請求項4に記載の外用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−10696(P2013−10696A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142674(P2011−142674)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】