説明

毛芯地用溶着フィラメント糸条

【課題】馬尾毛に極めて近似した曲げ反発力を有し、芯地を形成するに好適な特徴を有する毛芯地用フィラメント糸条を提供する。
【解決手段】芯鞘複合繊維において、鞘成分を200〜230℃の融点を有するイソフタル酸共重合コポリエステル、芯成分を250〜260℃の融点を有するポリエステルホモポリマーとし、繊維断面の芯/鞘重量比率が85:15〜50:50の範囲のマルチフィラメントとし、該マルチフィラメントを溶着させて200〜600dtex、曲げ反発力を1.0〜2.0cNとすることにより、馬尾毛に極めて近似した曲げ反発力を有し、芯地を形成するに好適な特徴を有する毛芯地用溶着フィラメント糸条とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛芯地用溶着フィラメント糸条に関する。更に詳しくは、馬尾毛に極めて近似した曲げ反発力を有し、芯地を形成するに好適な特徴を有する毛芯地用溶着フィラメント糸条に関する。
【背景技術】
【0002】
芯地は衣服の骨格となるもので、シルエットを保つための張り、着用や洗濯による型くずれの防止などの役割を持っており、衣服の形態保持のために欠くことのできないものである。なかでも緯糸に馬尾毛を使用した毛芯地は、あまり厚ぼったくなくて、適度のハリ、コシがあることから、紳士用服地、特にスーツやコートなど厚手の衣服で好まれて使われている。但し、近年における動物愛護の観点から馬尾毛に変わる合成繊維が求められてきた。
【0003】
例えば特開平4−352833号公報には、構成単繊維の直径が50μm以上(好ましくは600〜1200dtex/単糸)の非着色のマルチフィラメントと、それより太さの小さな茶色ないし黒色に着色したマルチフィラメント同士を撚りもしくはカバリングにより複合構造繊維糸とする方法が提案されている。この方法は特に外観的に高級色調を表現する点で効果はあるものの、単糸繊度が太いため撚りやカバリングが難しい又生産性が悪いという問題点がある。
【0004】
一方馬尾毛繊維の芯地の特徴であるハリ、コシは、一つの力学的特性として馬尾毛繊維の曲げ反発力から由来している。合成繊維では、曲げ反発力は単繊維直径に大きく相関しており、馬尾毛の直径に単繊維直径を近づけるには400dtex/単糸以上の単繊維直径を必要とするが、乾式紡糸法では冷却能力の問題により400dtex/単糸以上の操業化は困難であった。
【特許文献1】特開平4−352833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来技術を背景になされたものであり、その目的は、馬尾毛に極めて近似した曲げ反発力を有し、芯地を形成するに好適な特徴を有する毛芯地用フィラメント糸条を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は毛芯地用ポリエステルフィラメント糸条について鋭意研究し、乾式紡糸法により得られた特定組成の芯鞘複合繊維マルチフィラメントを溶着させ、馬尾毛に極めて近似した特定の曲げ反発力を有する溶着ポリエステルフィラメント糸条とすることにより達成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により極めて簡単な方法で適度な曲げ反発力を有する馬尾毛芯地用ポリエステルフィラメント糸条が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明でいうポリエステルフィラメント糸条には、各種の添加剤、例えば、酸化チタンなどの艶消し剤、熱安定剤、紫外線吸収剤などが必要に応じて含まれていてもよい。本発明に用いるポリマーの固有粘度は0.4〜0.8が好ましく、より好ましくは0.5〜0.7であり、この範囲で、強度、紡糸性などに優れた繊維を得ることができる。
【0009】
本発明の毛芯地用溶着ポリエステルフィラメント糸条は、繊維を構成するポリマー成分の少なくとも90モル%以上がポリエチレンテレフタレート単位で構成され、繊維の長さ方向に直交する断面の形状が芯、鞘成分ともに円形である同心円芯鞘断面形状を有する芯鞘複合繊維が複数本溶着されたものであって、芯成分がポリマーの融点が250〜260℃の範囲にあるホモポリマーからなり、鞘成分がポリマーの融点が200℃〜230℃の範囲であり、ポリマー酸成分のうち20モル%以下の割合でイソフタル酸が共重合されているコポリマーからなり、芯部と鞘部の重量比が85:15〜50:50であり、溶着処理後のポリエステルマルチフィラメントの繊度が200〜600dtex、曲げ反発力が1.0〜2.0cNでであることを特徴とする毛芯地用溶着フィラメント糸条である。
【0010】
鞘成分のポリマーは、融点が200℃〜230℃の範囲にあるようにポリマー酸成分のうち20モル%以下の割合でイソフタル酸が共重合されているコポリマーであることが必要である。鞘成分のポリマーの融点が200℃以下の場合、コポリマーの結晶化点が消滅し、コポリマーチップの結晶化が出来ないことで紡糸乾燥工程でのチップの溶着や溶融エクストルーダーでのチップの溶着が発生し、それを防ぐ為に無乾燥チップを使用したベント方式溶融エクストルーダーの使用など、多大な設備投資が必要となる。又鞘成分のポリマーの融点が230℃を超える場合、芯成分のポリマーと融点温度差が小さいことにより溶着工程での糸切れが多発し、著しく工程通過性を悪化させる。鞘成分のポリマー融点は好ましくは200℃〜220℃である。
【0011】
芯成分のポリマーの融点は250〜260℃の範囲にあるホモポリマーからなることが必要である。250℃未満では鞘成分との融点温度差が小さくなることにより溶着工程での糸切れが多発し、又260℃を超えることは組成上困難である。
【0012】
また芯部と鞘部の重量比が85:15〜50:50であることが重要である。鞘比率が10%以下の場合、溶着工程での溶着性が乏しく、溶着糸として使用出来ない。鞘比率が50%以上の場合、溶着工程での溶着性は高く、一旦溶着した後も剥離し難いが、紡糸熱セットローラー上での繊維収縮による糸揺れが大きく糸切れが多くなり工程通過性が悪くなる。芯部と鞘部の重量比は好ましくは80:20〜70:30である。
【0013】
溶着方法は特に限定されるものではなく、例えば加熱ヒーターを鞘成分ポリマーを融着させる温度に設定し、接触時間を調整することにより行うことが好ましい。必要に応じ溶着時軽くマルチフィラメント糸条を加圧することもできる。
【0014】
溶着処理後のフィラメント糸条の繊度は200〜600dtexであることが好ましい。200dtex未満の場合、馬尾毛に対し、芯地にした時薄くなりすぎて好ましくない。又溶着処理後のフィラメント糸条の繊度が600dtexを超える場合、芯地にした時厚ぼったくなり好ましくない。溶着処理後のフィラメント糸条の繊度は好ましくは300〜500dtexの範囲である。
【0015】
溶着処理後のフィラメント糸条の曲げ反発力は1.0〜2.0cNであることが必要である。1.0cN未満では芯地にした時馬尾毛に比べハリコシが弱く好ましくない。又2.0cNを超える場合は芯地にした時馬尾毛に比べハリコシが強く好ましくない。
【0016】
また本発明の毛芯地用溶着フィラメント糸条の製造方法は、特に規定されるものではないが、紡糸口金より同心円芯鞘断面形状として吐出した溶融マルチフィラメントを、紡糸口金直下に設けた50〜270℃の雰囲気温度に保持した長さ50〜200mmの保温領域を通過させて急激な冷却を抑制した後、この溶融マルチフィラメントを冷却風による急冷して固体マルチフィラメントに変え、オイリングローラーにてモノフィラメントの状態でオイリングを施した後にマルチフィラメントの状態にして70℃〜110℃に加熱した第一ローラーで500〜3000m/minにて巻き付け、次に巻き取ることなく110〜150℃に加熱した第二ローラーに巻き付け、第一ローラーと第一ローラーより速度を速めた第二ローラーの間で1.2〜4.5倍に延伸し、第二ローラーよりも低速で巻き取ってチーズ状のパッケージを得る。得られたパッケージを100〜300m/min.の速度で任意の繊度になるよう合糸して解舒し、圧空マイグレーションノズルにて糸条に集束性を持たせ、鞘成分ポリマー融点のプラス10〜20度℃に加熱した長さ1mの接触式ヒーターにてマルチフィラメントを溶着させた後、巻き取って得られることができる。
【実施例】
【0017】
以下実施例により具体的に説明する。なお、実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
(1)固有粘度
ポリエステルポリマーの固有粘度は、オルソクロロフェノール溶液について、35℃において測定した粘度の値から求めた。
(2)曲げ反発力(cN)
130mmの溶着糸を輪状糸として、糸端から65mmの中間点を東洋ボールドウィン社製のテンシロン(UTM−II−20)のロードセルに毎分2cmの速度で押し当てていき、その反発力の最高値を曲げ反発力とした。
【0018】
[実施例1]
ο−クロロフェノールにて35℃で測定した固有粘度0.650のポリエチレンテレフタレートペレットを融点257℃のホモポリマーAとし、ホモポリマーAにイソフタル酸をポリマー成分の17mol%の割合で共重合させた固有粘度0.650のポリエチレンテレフタレートペレットを融点210℃のコポリマーBとし、それぞれ140℃で5時間乾燥した後、吐出孔5ホールが同心円状に配列してある紡糸口金から、ポリマー吐出温度280℃とし、芯部と鞘部の重量比が80:20の同心円芯鞘断面形状として単一吐出孔での吐出量が8.0g/分となるように押し出して、モノフィラメントの状態でオイリングをおこない、100℃に加熱した第一ゴデットローラーで10ターンさせ700m/分で引き取りつつ第一ローラーの4.4倍の速度で第二ゴデットロールに10ターンさせ5本のマルチフィラメントを巻き取った。巻き取ったマルチフィラメントのチーズを3本合わせて405dtex/15フィラメントのマルチフィラメントとして300m/min.の速度で解舒し、圧空マイグレーションノズルにて糸条に集束性を持たせ、鞘成分ポリマー融点のプラス20℃に加熱した長さ1mの接触式ヒーターにてマルチフィラメントを溶着させた後、巻き取った。紡糸、溶着工程での工程通過性も良好であり、得られた溶着フィラメント糸条は曲げ反発力も良好で1.78cNであった。
【0019】
[実施例2]
融点200℃のコポリマーBとした以外は実施例1と同様にして得られた溶着フィラメントであり、紡糸、溶着工程での工程通過性も良好であり、曲げ反発力も良好で1.72cNであった。
【0020】
[実施例3]
芯部と鞘部の重量比が60:40の同心円芯鞘断面形状とした以外は実施例1と同様にして得られた溶着フィラメントであり、紡糸、溶着工程での工程通過性も良好であり、曲げ反発力も良好で1.65cNであった。
【0021】
[比較例1]
融点240℃のコポリマーBとした以外は実施例1と同様にして得られた溶着フィラメントであり、溶着工程での糸切れで巻き取り不可能であった。
【0022】
[比較例2]
135dtex/5フィラメントのマルチフィラメントとして溶着工程で溶着フィラメントを得た以外は実施例1と同様にして得られた溶着フィラメントであり、紡糸、溶着工程での工程通過性は良好であるが、曲げ反発力が弱く0.65cNであった。
【0023】
[比較例3]
675dtex/25フィラメントのマルチフィラメントとして溶着工程で溶着フィラメントを得た以外は実施例1と同様にして得られた溶着フィラメントであり、紡糸、溶着工程での工程通過性は良好であるが、曲げ反発力が強すぎる結果で2.80cNであった。
【0024】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0025】
紳士服地、特にスーツやコートなどの厚手の衣服でのフロント芯地、肩増し芯地、胸増し芯地用として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を構成するポリマー成分の少なくとも90モル%以上がポリエチレンテレフタレート単位で構成される同心円芯鞘断面形状を有する芯鞘構造複合繊維を複数本溶着されてなる溶着フィラメント糸条であって、下記要件を満足することを特徴とする毛芯地用溶着フィラメント糸条。
a)芯鞘構造複合繊維の芯成分がポリマーの融点が250〜260℃の範囲にあるホモポリマーからなること。
b)芯鞘構造複合繊維の鞘成分がポリマーの融点が200℃〜230℃の範囲にあり、ポリマー成分の20モル%以下の割合でイソフタル酸が共重合されて含まれているコポリマーからなること。
c)芯部と鞘部の重量比が85:15〜50:50であること。
d)溶着後のフィラメント糸条の曲げ反発力が1.0〜2.0cNであること。
e)溶着後のフィラメント糸条の繊度が200〜600dtexであること。

【公開番号】特開2008−174870(P2008−174870A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10004(P2007−10004)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】