説明

毛髪のトリートメント方法及びヘアトリートメントキット

【課題】毛髪に対して、潤いのあるしっとり感と滑らか感と十分な光沢とを付与しつつ、毛髪の強度を高め得るトリートメント方法を提供する。
【解決手段】ケラチン加水分解物を含む第一のヘアトリートメント組成物を毛髪に接触させた後、ケラチン加水分解物よりも重量平均分子量が小さなケラチンアミノ酸を含んで酸性域に調整された第二のヘアトリートメント組成物を、第一のヘアトリートメント組成物が接触せしめられたままの毛髪に対して、更に接触させて、毛髪のトリートメントを行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪のトリートメント方法及びヘアトリートメントキットに係り、特に、より優れたトリートメント効果が得られる毛髪のトリートメント方法と、そのような毛髪のトリートメント方法に使用されるヘアトリートメント組成物を含むヘアトリートメントキットとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、毛髪は、汚れや太陽の紫外線等によるストレスを絶えず受けており、それ以外にも、ヘアドライヤの熱や、パーマや染毛等の美容処理によっても、過酷なストレスを受ける。そして、それらのストレスでダメージを受けた毛髪は、潤いのないパサついた状態や、滑らかさや光沢に欠ける状態となり、しかも、強度が低下してしまうことが、知られている。
【0003】
そこで、一般には、毛髪をシャンプーした後、かかる毛髪に、ヘアトリートメント組成物を付着乃至吸着させるように接触させて(適用して)、毛髪をトリートメントすることにより、ストレスによるダメージからの毛髪の保護や、ダメージを受けた毛髪の修復等が図られている。
【0004】
そして、近年では、保湿成分や柔軟成分、油性成分、防腐成分等の一般的な配合成分に加えて、特別な成分が含有されてなるヘアトリートメント組成物を用いて、毛髪のトリートメントを行うことにより、毛髪に対して、潤いのあるしっとり感と滑らか感と十分な光沢とを付与するといったトリートメント効果の更なる向上を図る試みが、為されている。例えば、8000以上の大きな重量平均分子量(例えば、ゲル濾過法によって測定される)を有するケラチンの加水分解物を含むヘアトリートメント組成物を用いて、毛髪のトリートメントを行うことが、提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0005】
よく知られているように、ケラチンは、脊椎動物の毛髪、羽毛、羊毛、表皮、爪、角等の上皮系組織を構成する硬タンパク質であり、毛髪の保湿、造膜作用や、ダメージ修復作用を発揮する。そのため、そのようなケラチンの加水分解物が含まれるヘアトリートメント組成物を毛髪に塗布する等して、接触させて、毛髪をトリートメントすれば、より一層高いトリートメント効果を得ることが出来るのである。しかも、かかるトリートメント方法に用いられる従来のヘアトリートメント組成物においては、それに含まれるケラチンの加水分解物として、8000以上の大きな重量平均分子量を有するものが選択されて、使用されているため、ヘアトリートメント組成物が、例えば水溶液の状態で使用される際に、かかる水溶液中で、ケラチン加水分解物が、十分に高い分散性を発揮し、それによって、ケラチン加水分解物の毛髪に対する吸着性が向上せしめられ、以て、高いトリートメント効果が、より確実に発揮され得るのである。
【0006】
ところが、本発明者等が、そのような従来のヘアトリートメント組成物を用いて、毛髪をトリートメントした際に得られるトリートメント効果について、更に詳しく調べたところ、単に、ケラチン加水分解物を含む従来のヘアトリートメント組成物を用いただけでは、ダメージを受けた毛髪の強度を、十分に満足し得る程度にまで高めるのが困難であることが、明らかとなったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/095439号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、毛髪に対して、潤いのあるしっとり感と滑らか感と十分な光沢とを付与しつつ、毛髪の強度を効果的に高めることが出来る毛髪のトリートメント方法を提供することにある。また、そのような毛髪のトリートメント方法に有利に使用可能なヘアトリートメントキットを提供することをも、その解決課題とするところである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、かかる課題の解決のために、本発明者が様々な実験を行った結果、従来のヘアトリートメント組成物に含まれるケラチン加水分解物よりも重量平均分子量の小さなケラチンアミノ酸が、毛髪の強度の向上に有効であることが、判明した。しかしながら、これまで、重量平均分子量の小さなケラチン加水分解物は、分散性に乏しく、溶液中で沈殿し易いといった理由から、水溶液等の溶液の形態で使用されるヘアトリートメント組成物の含有成分として、何等使用されていなかった。そこで、本発明者が、重量平均分子量の小さなケラチンアミノ酸の分散性を高める方策を種々模索したところ、ケラチンアミノ酸を含むヘアトリートメント組成物を酸性域に調整することで、かかるヘアトリートメント組成物の溶液中でのケラチンアミノ酸の分散性が飛躍的に高められ得ることを、見出した。また、それに加えて、従来から一般に使用される重量平均分子量の大きなケラチン加水分解物を含むヘアトリートメント組成物が、接触せしめられて、付着されたままの毛髪に対して、重量平均分子量の小さなケラチンアミノ酸を含むヘアトリートメント組成物を更に接触させることによって、ダメージを受けた毛髪の強度低下の問題が、効果的に改善されることも、また、見出した。かくして、本発明は、それらの知見に基づいて更に実施された本発明者による研究の結果、完成に至ったのである。
【0010】
かかる本発明にあっては、上記した課題、又は本明細書全体の記載や図面から把握される課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものである。なお、以下に記載の各態様は、任意の組合せにおいても、採用可能であり、また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載並びに図面に開示の発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0011】
<1> (a)ケラチン加水分解物を含む第一のヘアトリートメント組成物を毛髪に接触させるステップと、(b)前記ケラチン加水分解物よりも重量平均分子量が小さなケラチンアミノ酸を含んで酸性域に調整された第二のヘアトリートメント組成物を、前記第一のヘアトリートメント組成物が接触せしめられたままの毛髪に対して、更に接触させるステップとを含むことを特徴とする毛髪のトリートメント方法。
【0012】
<2> 前記第一のトリートメント組成物を前記毛髪に接触させる前に、該毛髪をシャンプーで洗浄することを特徴とする上記態様<1>に記載の毛髪のトリートメント方法。
【0013】
<3> 前記第一のヘアトリートメント組成物が接触せしめられたままの毛髪に前記第二のヘアトリートメント組成物を接触させた後、該毛髪をシャンプーで洗浄することを特徴とする上記態様<1>又は<2>に記載の毛髪のトリートメント方法。
【0014】
<4> 前記第一のヘアトリートメント組成物と前記第二のヘアトリートメント組成物とが接触せしめられた前記毛髪をシャンプーで洗浄した後、該毛髪に対して、リンス組成物を接触させることを特徴とする上記態様<3>に記載の毛髪のトリートメント方法。
【0015】
<5> 前記リンス組成物を前記毛髪に接触せしめた後、該毛髪のすすぎを行い、その後、該毛髪をシャンプーで洗浄することを特徴とする上記態様<4>に記載の毛髪のトリートメント方法。
【0016】
<6> 前記第一のヘアトリートメント組成物中に含まれる前記ケラチン加水分解物の重量平均分子量が8000〜20000の範囲内の値であり、且つ前記第二のヘアトリートメント組成物中に含まれる前記ケラチンアミノ酸の重量平均分子量が90〜200の範囲内の値である上記態様<1>乃至<5>のうちの何れか一つに記載の毛髪のトリートメント方法。
【0017】
<7> 前記第二のヘアトリートメント組成物が、pH値が2〜6の範囲内の値となる酸性域に調整されている上記態様<1>乃至<6>のうちの何れか一つに記載の毛髪のトリートメント方法。
【0018】
<8> 前記第一のヘアトリートメント組成物中の前記ケラチン加水分解物の含有量が、0.01〜30重量%であり、且つ前記第二のヘアトリートメント組成物中の前記ケラチンアミノ酸の含有量が、0.1〜10重量%である上記態様<1>乃至<7>のうちの何れか一つに記載の毛髪のトリートメント方法。
【0019】
<9> 前記第一のヘアトリートメント組成物中の前記ケラチン加水分解物が、羽毛由来のものであり、且つ前記第二のヘアトリートメント組成物中の前記ケラチンアミノ酸が、人毛由来のものである上記態様<1>乃至<8>のうちの何れか一つに記載の毛髪のトリートメント方法。
【0020】
<10> 前記第二のヘアトリートメント組成物が、界面活性剤を含んでいる上記態様<1>乃至<9>のうちの何れか一つに記載の毛髪のトリートメント方法。
【0021】
<11> 上記態様<1>乃至<10>のうちの何れか一つに記載の毛髪のトリートメント方法に用いられる前記第一のヘアトリートメント組成物が収容される第一の容器と、前記第二のヘアトリートメント組成物が収容される、該第一の容器とは別個の第二の容器とを含むことを特徴とするヘアトリートメントキット。
【発明の効果】
【0022】
すなわち、本発明に従う毛髪のトリートメント方法にあっては、先ず、第一のヘアトリートメント組成物を毛髪に接触させることによって、第一のヘアトリートメント組成物中に含まれる重量平均分子量の大きなケラチン加水分解物を、毛髪に確実に付着乃至は吸着させることが出来、以て、毛髪に対して、潤いのあるしっとり感と滑らか感と十分な光沢とを付与することが可能となる。次いで、第一のヘアトリートメント組成物が接触せしめられたまま(付着乃至は吸着されたまま)の毛髪に対して、第二のヘアトリートメント組成物を接触させることによって、第二のヘアトリートメント組成物中に含まれる重量平均分子量の小さなケラチンアミノ酸を、毛髪に容易に浸透させることが出来、その結果、毛髪の強度を、効果的に高めることが可能となる。
【0023】
しかも、本発明方法では、第二のヘアトリートメント組成物が酸性域に調整されているところから、第二のヘアトリートメント組成物に含まれる重量平均分子量の小さなケラチンアミノ酸の分散性が有利に高められ、それによって、第二のヘアトリートメント組成物の溶液中でのケラチンアミノ酸の沈殿等が有利に解消されて、第二のヘアトリートメント組成物の使用性の向上はもとより、ケラチンアミノ酸の毛髪への浸透性や吸着性が、効果的に高められ、以て、ケラチンアミノ酸による毛髪強度の向上効果が、より一層高いレベルで有効に確保され得る。
【0024】
従って、かくの如き本発明に従う毛髪のトリートメント方法によれば、毛髪に対して、潤いのあるしっとり感と滑らか感と十分な光沢とを効果的に付与し得るだけでなく、毛髪の強度を、より高いレベルで、確実に且つ安定的に高めることが可能となるのである。
【0025】
また、本発明に従うヘアトリートメントキットにあっては、第一のヘアトリートメント組成物と第二のヘアトリートメント組成物とがそれぞれ別個に収容された容器を含んで構成されているところから、それら2種類のヘアトリートメント組成物の使用が容易となり、それによって、前記せる如き優れた特徴を発揮する毛髪のトリートメント方法が容易に実施可能となる。従って、かかる毛髪のトリートメント方法によって奏される作用・効果と実質的に同一の作用・効果が、容易且つ有効に享受され得ることとなるのである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1において得られた、第一及び第二のヘアトリートメント組成物とリンス組成物とシャンプー組成物とを用いてトリートメントされた毛髪サンプルと、何等トリートメントされていない毛髪サンプルのそれぞれの引張強度を示すグラフである。
【図2】実施例2において得られた、リンス組成物を用いることなく、第一及び第二のヘアトリートメント組成物とシャンプー組成物とを用いてトリートメントされた毛髪サンプルと、何等トリートメントされていない毛髪サンプルのそれぞれの引張強度を示すグラフである。
【図3】実施例3において得られた、第一のヘアトリートメント組成物を第二のヘアトリートメント組成物よりも先に用いてトリートメントされた毛髪サンプルと、第二のヘアトリートメント組成物を第一のヘアトリートメント組成物よりも先に用いてトリートメントされた毛髪サンプルのそれぞれの引張強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
ところで、本発明に従う毛髪のヘアトリートメント方法で用いられる第一及び第二の2種類のヘアトリートメント組成物のうち、第一のヘアトリートメント組成物には、必須成分として、ケラチンを加水分解して得られるケラチン加水分解物が含有され、このケラチン加水分解物によって、毛髪の保護作用や保湿作用、修復作用等が、有効に発揮されるようになる。
【0028】
そのようなケラチン加水分解物を得るためのケラチン材料としては、例えば、羊毛等の獣毛や鳥の羽毛、人毛の他、爪、角、蹄、表皮等のケラチンを含むあらゆる材料が、使用される。また、かかるケラチン材料には、上記の材料を利用して得られる二次製品、例えば、羽毛寝具や羽毛衣類、羊毛寝具や羊毛衣類等も含まれる。それらのケラチン材料は、例示されたものの中から1種のものが、単独で、或いは2種類以上のものが適宜に組み合わされて、使用されることとなる。そして、そのようなケラチン材料の中でも、特に、羽毛が、好適に用いられる。これは、羽毛をケラチン材料として用いて得られる加水分解物が、殆ど無色、無臭であり、皮膚刺激性がなく、しかも優れた毛髪保護作用及び保湿性、修復作用等を発揮するからである。
【0029】
ケラチン材料を加水分解する方法としては、従来より公知の手法が、何れも採用され得るのであり、例えば、国際公開第2005/095439号パンフレットに開示される手法等が、採用される。そして、そのようにして得られたケラチンアミノ酸のうち、8000〜20000の比較的に大きな重量平均分子量を有するケラチン加水分解物が、第一のヘアトリートメント組成物の必須成分として、好適に用いられるのである。そのようなケラチン加水分解物として、東洋羽毛工業(株)社製の「ケラタイド」(商品名)などが具体例として挙げられる。
【0030】
重量平均分子量が8000〜20000のケラチン加水分解物が好適とされる理由は、以下のとおりである。即ち、前記せるように、重量平均分子量が小さいケラチン加水分解物は、それを含む組成物の溶液中での分散性が低くなる。それ故、第一のヘアトリートメント組成物に含まれるケラチン加水分解物が、8000未満の比較的に小さな重量平均分子量を有する場合には、第一のヘアトリートメント組成物の溶液中でのケラチン加水分解物の分散性が低くなって、かかる溶液中で、ケラチン加水分解物の沈殿が生じ易くなり、そのために、第一のヘアトリートメント組成物が使用性に劣るものとなるばかりでなく、ケラチン加水分解物の毛髪への吸着性が低下してしまい、その結果、毛髪の保護作用や保湿作用、修復作用による所望のトリートメント効果を十分に得ることが困難となってしまう恐れがあるからである。一方、第一のヘアトリートメント組成物中のケラチン加水分解物が、20000を超える重量平均分子量を有する場合にあっても、かかるケラチン加水分解物の重量平均分子量が大き過ぎるために、ケラチン加水分解物の毛髪への吸着性が低下して、所望のトリートメント効果を十分に得ることが困難となってしまう恐れがある。
【0031】
また、第一のヘアトリートメント組成物中のケラチン加水分解物の含有量も、特に限定されるものではないものの、好ましくは、0.1〜30重量%程度の範囲内の値とされる。何故なら、第一のヘアトリートメント組成物中のケラチン加水分解物の含有量が0.1重量%未満の場合には、第一のヘアトリートメント組成物中のケラチン加水分解物の含有量が少な過ぎるために、ケラチン加水分解物による毛髪の保護作用や保湿作用、修復作用等が、十分に発揮され得られなくなってしまうからである。また、そのようなケラチン加水分解物の第一のヘアトリートメント組成物への含有による効果(トリートメント効果)は、ケラチン加水分解物の含有量の上昇に伴って増強される傾向を示すが、かかる効果の増強の度合いは、第一のヘアトリートメント組成物中のケラチン加水分解物の含有量が30重量%に近づくに従って、徐々に鈍化し、その含有量が30重量%を超えるようになると、ケラチン加水分解物の含有量が上昇しても、ケラチン加水分解物の第一のヘアトリートメント組成物への含有による効果の増強は殆ど認められなくなり、却って、ケラチン加水分解物の使用量の増大によるコストの高騰が顕著なものとなる。それ故、第一のヘアトリートメント組成物の製造コストを抑制しつつ、ケラチン加水分解物の含有によって得られる効果を十分に確保する上から、第一のヘアトリートメント組成物中のケラチン加水分解物の含有量が、0.1〜30重量%とされていることが、好ましいのである。なお、第一のヘアトリートメント組成物中のケラチン加水分解物の含有量は、1〜20重量%とされていることが、より好ましい。
【0032】
そして、このような第一のヘアトリートメント組成物中には、重量平均分子量の大きなケラチン加水分解物の他に、アニオン界面活性剤やカチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等の各種界面活性剤や、保湿剤、油剤、防腐剤、香料等、一般的なヘアトリートメント組成物に含まれる各種の成分が、本発明の効果を損なわない限りにおいて、任意成分として含まれる。
【0033】
一方、第二のヘアトリートメント組成物には、必須成分として、ケラチンアミノ酸が含有され、このケラチンアミノ酸によって、毛髪の保護作用や保湿作用、修復作用等に加えて、毛髪の強度の向上作用が、有効に発揮されるようになる。
【0034】
そのようなケラチンアミノ酸を得るためのケラチン材料としては、第一のヘアトリートメント組成物に含まれるケラチン加水分解物を得る際に用いられる、先に例示されたケラチン材料が、何れも使用可能である。そして、そのようなケラチン材料にあっても、例示されたものの中から1種のものが、単独で、或いは2種類以上のものが適宜に組み合わされて、使用されることとなるが、ケラチンアミノ酸を得るためのケラチン材料には、特に、人毛が、単独で、好適に用いられる。何故なら、人毛由来のケラチンアミノ酸は、人毛以外のケラチン材料から得られたケラチンアミノ酸よりも、毛髪の強度の向上作用を、より一層高いレベルで発揮するようになるからである。
【0035】
それら各種のケラチン材料からケラチンアミノ酸を得る方法には、ケラチン材料を加水分解する方法を始めとした、公知の各種の方法が、採用され得る。そして、そのようにして得られたケラチンアミノ酸のうち、第一のヘアトリートメント組成物に含まれるケラチン加水分解物よりも重量平均分子量の小さなケラチンアミノ酸が、第二のヘアトリートメント組成物の必須成分として、用いられるのである。
【0036】
なお、第二のヘアトリートメント組成物に含まれるケラチンアミノ酸の重量平均分子量は、特に限定されるものではないものの、好ましくは90〜200程度の範囲内の値とされる。何故なら、重量平均分子量が200を超えるケラチンアミノ酸を使用した場合には、そのようなケラチンアミノ酸の毛髪への浸透性が低下して、ケラチンアミノ酸の浸透による毛髪の強度の向上効果が低くなってしまうからである。また、90を下回る極めて小さな重量平均分子量を有するケラチンアミノ酸を使用したときには、ケラチンアミノ酸の重量平均分子量が余りに小さいために、毛髪に対する吸着性が著しく低下し、これによっても、毛髪の強度の十分な向上が望めなくなってしまうからである。このような重量平均分子量が90〜200の人毛由来のケラチンアミノ酸としては、例えば、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、チロシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、リジン、ヒスチジン、メチオニン等の単独のもの、或いはそれらの混合物が、挙げられる。
【0037】
そして、そのようなケラチンアミノ酸が含まれる第二のヘアトリートメント組成物は、例えば水溶液として用いられることとなるが、この第二のヘアトリートメント組成物は、酸性域に調整されていなければならない。何故なら、第二のヘアトリートメント組成物中には、従来では、ヘアトリートメント組成物の溶液中での分散性に劣ること等を理由として用いられることのなかった重量平均分子量の小さな(第一のヘアトリートメント組成物に含まれるケラチン加水分解物よりも重量平均分子量の小さな)ケラチンアミノ酸が含有されているが、このケラチンアミノ酸は、酸性域に調整された組成物の溶液中でのみ、高い分散性が発揮されるようになるからである。
【0038】
なお、この酸性域に調整された第二のヘアトリートメント組成物の具体的なpH値は、特に限定されるものではないものの、好ましくは、pH値が2〜6程度の範囲内の値とされる。何故なら、第二のヘアトリートメント組成物のpH値が6を超える場合には、第二のヘアトリートメント組成物が弱酸性となって、第二のヘアトリートメント組成物中(溶液中)でのケラチンアミノ酸の分散性を十分に確保することが困難となる恐れがあるからであり、また、pH値が2未満であると、トリートメントの性状形成が困難になり、また、毛髪にダメージを与える危険性があるといった不具合を生ずる懸念があるからである。なお、この第二のヘアトリートメント組成物のpH値は、4.0〜5.5の範囲内の値とされていることが、より望ましい。この第二のヘアトリートメント組成物のpH値の調整は、例えば、酸性又はアルカリ性を示す各種の含有成分のそれぞれの濃度を調整したり、或いは公知のpH調整剤を第二のヘアトリートメント組成物に添加すること等によって、実施される。
【0039】
また、第二のヘアトリートメント組成物中のケラチンアミノ酸の含有量も、何等限定されるものではないものの、好ましくは、0.1〜10重量%程度の範囲内の値とされる。何故なら、第二のヘアトリートメント組成物中のケラチンアミノ酸の含有量が0.1重量%未満の場合には、第二のヘアトリートメント組成物中のケラチンアミノ酸の含有量が少な過ぎるために、ケラチンアミノ酸による毛髪の強度向上作用等が、十分に発揮され得られなくなってしまうからである。また、そのようなケラチンアミノ酸の第二のヘアトリートメント組成物への含有によって発揮される毛髪の強度向上作用は、ケラチンアミノ酸の含有量の上昇に伴って増強される傾向を示すが、かかる効果の増強の度合いは、第二のヘアトリートメント組成物中のケラチンアミノ酸の含有量が10重量%に近づくに従って、徐々に鈍化し、その含有量が10重量%を超えるようになると、ケラチンアミノ酸の含有量が上昇しても、ケラチンアミノ酸の第二のヘアトリートメント組成物への含有による毛髪の強度向上作用の増強は殆ど認められなくなり、却って、ケラチンアミノ酸の使用量の増大によるコストの高騰が顕著なものとなる。それ故、第二のヘアトリートメント組成物の製造コストを抑制しつつ、ケラチンアミノ酸の含有によって得られる毛髪の強度向上効果を十分に確保する上から、第二のヘアトリートメント組成物中のケラチンアミノ酸の含有量が、0.1〜10重量%とされていることが、好ましいのである。なお、第二のヘアトリートメント組成物中のケラチンアミノ酸の含有量は、1.0〜5.0重量%とされていることが、より好ましい。
【0040】
そして、このような第二のヘアトリートメント組成物中には、重量平均分子量の小さなケラチンアミノ酸の他、第一のヘアトリートメント組成物と同様に、アニオン界面活性剤やカチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等の各種界面活性剤や、保湿剤、油剤、防腐剤、香料等、一般的なヘアトリートメント組成物に含まれる各種の成分が、任意成分として含まれる。特に、各種の界面活性剤が含有されることで、重量平均分子量の小さなケラチンアミノ酸の分散性が、より効果的に高められ得ることとなる。
【0041】
而して、重量平均分子量の大きなケラチン加水分解物を含む第一のヘアトリートメント組成物と、かかるケラチン加水分解物よりも重量平均分子量の小さなケラチンアミノ酸を含む第二のヘアトリートメント組成物とが、例えば、合成樹脂製やガラス製で、互いに異なる別個の容器内にそれぞれ収容されて、それら2種類のヘアトリートメント組成物を1セットとして、そのままの形態で、或いはそれらが、更に所定のケース等に梱包された上で、ヘアトリートメントキットとして、一般に提供されることとなる。それによって、第一のヘアトリートメント組成物と第二のヘアトリートメント組成物との流通形態が最適化され得る。また、それら第一のヘアトリートメント組成物と第二のヘアトリートメント組成物の両方を、使用者が、容易に入手可能となって、それら2種類のヘアトリートメント組成物を用いた毛髪のトリートメント方法が、簡単に且つ確実に実施可能となる。
【0042】
ところで、かくの如き第一のヘアトリートメント組成物と第二のヘアトリートメント組成物とを用いて、毛髪のトリートメントを行う際には、例えば、以下に示す手順に従って、その操作が進められることとなる。
【0043】
すなわち、先ず、トリートメントされるべき毛髪をシャンプーで洗浄した後、タオルドライ等して、毛髪に付着する水分を除去する。なお、ここで用いられるシャンプー組成物は、その種類が、何等限定されるものではなく、公知のシャンプー組成物の中から適宜に選択されて、用いられる。
【0044】
その後、シャンプーで洗浄された毛髪に対して、第一のヘアトリートメント組成物を接触させて、付着させる。第一のヘアトリートメント組成物を毛髪に接触させて、付着させる方法は、如何なる方法であっても良く、例えば、第一のヘアトリートメント組成物の適量を、毛髪や手の平に載せた後、手の平で、或いは櫛や刷毛等を用いて、第一のヘアトリートメント組成物を引き延ばしつつ(拡げつつ)、毛髪に塗布するようにして、付着させる方法や、霧吹き器具等を用いて、第一のヘアトリートメント組成物を毛髪に噴霧して、付着させる方法等が、採用される。また、ここで使用される第一のヘアトリートメント組成物の量も、第一のヘアトリートメント組成物が、毛髪の全体に付着せしめられ得る量であれば良く、具体的な使用量は、トリートメントされるべき毛髪の長さや量に応じて、適宜に決定されるところである。
【0045】
そして、第一のヘアトリートメント組成物を毛髪の全体に付着させたら、第一のヘアトリートメント組成物が毛髪の全体に十分に行き渡るように、毛髪を揉み込んだ後、3〜5分程度の間放置する。これによって、第一のヘアトリートメント組成物を毛髪に馴染ませて、第一のヘアトリートメント組成物に含まれるケラチン加水分解物を、毛髪の全体に確実且つ十分に吸着させる。以て、毛髪に対して、ケラチン加水分解物による毛髪の保護作用と保湿作用と修復作用とを効果的に発揮させる。
【0046】
次いで、第一のヘアトリートメント組成物が付着せしめられたままの毛髪に対して、第二のヘアトリートメント組成物を、更に接触させて、毛髪の全体に付着させる。これによって、第二のヘアトリートメント組成物に含まれるケラチンアミノ酸を、毛髪の内部に浸透させる。以て、毛髪に対して、ケラチンアミノ酸による毛髪の保護作用と保湿作用と修復作用とに加えて、毛髪の強度向上作用を効果的に発揮させる。
【0047】
なお、第二のヘアトリートメント組成物を毛髪に接触させて、付着させる方法は、第一のヘアトリートメント組成物を毛髪に接触させる方法と同様な方法が、採用される。また第二のヘアトリートメント組成物の使用量も、第二のヘアトリートメント組成物が、毛髪の全体に付着せしめられ得るように、トリートメントされるべき毛髪の長さや量に応じて、適宜に決定される。
【0048】
そして、第二のヘアトリートメント組成物が、毛髪の全体に満遍なく付着せしめられたら、毛髪をシャンプーで洗浄して、毛髪に付着した第一のヘアトリートメント組成物と第二のヘアトリートメント組成物とを洗い流す。ここで用いられるシャンプー組成物も、特に限定されるものではない。
【0049】
その後、タオルで水分を拭き取った後、必要に応じて、リンス組成物を毛髪に接触させて、付着させる。これによって、リンス組成物による毛髪表面への油分の補給作用や毛髪の柔軟性の向上作用を発揮させる。なお、ここで使用されるリンス組成物は、その種類が、何等限定されるものではなく、公知のリンス組成物の中から適宜に選択されて、用いられる。
【0050】
そして、リンス組成物を毛髪に接触させた場合には、毛髪をすすいだ後、毛髪をシャンプーで洗浄する。このとき使用されるシャンプー組成物も、公知のものが、何れも使用可能である。
【0051】
このように、第一のヘアトリートメント組成物を毛髪に接触させて、付着せしめた後、第一のヘアトリートメント組成物が付着したままの毛髪に対して、第二のヘアトリートメント組成物を接触させて、付着させることにより、第一のヘアトリートメント組成物に含まれるケラチン加水分解物による毛髪の保護作用と保湿作用と修復作用が効果的に発揮され、それに加えて、第二のヘアトリートメント組成物に含まれるケラチンアミノ酸による毛髪の強度向上作用が、十分に発揮される。従って、毛髪に対して、潤いのあるしっとり感と滑らか感と十分な光沢とが効果的に付与され得るだけでなく、毛髪の強度が、より高いレベルで、確実に且つ安定的に高められ得ることとなるのである。
【0052】
また、第一のヘアトリートメント組成物が毛髪に接触せしめられるのに先立って、毛髪をシャンプーで洗浄することによって、毛髪に対するトリートメントが実施される前に、毛髪の汚れが十分に除去される。その結果、第一及び第二のヘアトリートメント組成物の使用によるトリートメント効果が、より十分に得られることとなる。
【0053】
さらに、第一のヘアトリートメント組成物と第二のヘアトリートメント組成物とを毛髪に接触させて、付着せしめた後、かかる毛髪をシャンプーで洗浄することにより、それら第一及び第二のヘアトリートメント組成物のうち、特に、粘性が大きな第二のヘアトリートメント組成物が、確実に洗い流される。その結果、第二のヘアトリートメント組成物が洗い落とされずに、毛髪に付着されたままとされることで生ずる毛髪のべたつきの発生が、効果的に解消され得る。
【0054】
更にまた、第一及び第二のヘアトリートメント組成物を使用して、トリートメントされた毛髪に対して、リンス組成物を更に接触させることで、リンス組成物による毛髪表面への油分の補給作用や毛髪の柔軟性の向上作用に基づいて、毛髪のしなやかで柔らかい感触が、効果的に高められ得る。
【0055】
更にまた、そのようなリンス組成物を毛髪に接触させた後、毛髪をすすぎ、その後、毛髪をシャンプーで洗浄することにより、リンス組成物が確実に洗い流される。その結果、リンス組成物が洗い落とされずに、毛髪に付着されたままとされることで生ずる毛髪のべたつきの発生が、効果的に解消され得る。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には、上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。なお、以下の実施例において、特に断りのない限り、部や比、百分率は、何れも重量基準にて示されている。
【0057】
<試料の調製>
先ず、ケラチン加水分解物を得るためのケラチン材料として、水鳥の羽毛を用い、これを国際公開第2005/095439号パンフレットに記載される方法に従って加水分解した、羽毛由来のケラチン加水分解物(商品名:ケラタイド、東洋羽毛工業(株)社製)を所定量用意した。このケラチン加水分解物の重量平均分子量を、公知のゲル濾過法によって測定したところ、その値が9074であった。なお、ゲル濾過法による重量平均分子量の測定条件は以下のとおりである。
・カラム:G2000SWXL 7.8×300mm(東ソー(株)社製)
・移動相:0.1Mリン酸緩衝液 pH6.8(0.3M NaCl含む)
・流速:0.6mL/min
・カラム温度:40℃
・検出器:UV230nm
・分子量マーカー:アルドラーゼ(Mw158,000)
:牛血清アルブミン(Mw68,000)
:オボアルブミン(Mw45,000)
:キモトリプシノーゲン(Mw25,000)
:シトクロム(Mw12,500)
:インシュリン(Mw5,500)
【0058】
また、上記のケラチン加水分解物とは別に、ケラチンアミノ酸を得るためのケラチン材料として、人毛を用い、これを公知の手法により加水分解した人毛由来のケラチンアミノ酸を所定量用意した。このケラチンアミノ酸の重量平均分子量を、上記のケラチン加水分解物の重量平均分子量の測定方法と同様に、公知のゲル濾過法によって測定したところ、その値が90〜200の間であった。なお、ゲル濾過法による重量平均分子量の測定条件は以下のとおりである。
・カラム:Shodex KW−803(昭和電工(株)社製)
・移動相:0.05Mリン酸緩衝液 pH7.0(0.1M NaCl含む)
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:40℃
・検出器:Optilab DSP(RI)、miniDAWN
・分子量マーカー:インシュリン(Mw500)
【0059】
次いで、下記表1に示される組成に従って、ケラチン加水分解物の含有量が互いに異なる4種類の第一のヘアトリートメント組成物を調製した。そして、それら4種類の第一のヘアトリートメント組成物のうち、ケラチン加水分解物の含有量が0.01重量%であるものを第一のヘアトリートメント組成物A、1.0重量%であるものを第一のヘアトリートメント組成物B、5.0重量%であるものを第一のヘアトリートメント組成物C、10重量%であるものを第一のヘアトリートメント組成物Dとした。
【0060】
【表1】

【0061】
また、それら4種類の第一のヘアトリートメント組成物A〜Dとは別に、下記表2に示される組成に従って、ケラチンアミノ酸の含有量が互いに異なる3種類の第二のヘアトリートメント組成物を調製した。そして、それら3種類の第二のヘアトリートメント組成物のうち、ケラチンアミノ酸の含有量が0.1重量%であるものを第二のヘアトリートメント組成物A、1.0重量%であるものを第二のヘアトリートメント組成物B、5.0重量%であるものを第二のヘアトリートメント組成物Cとした。また、それら3種類の第二のヘアトリートメント組成物A〜Cについては、pH調製剤として、乳酸を所定の量において添加することで、各組成物のpH値を5.0となるように調整した。
【0062】
【表2】

【0063】
さらに、下記表3に示される組成に従って、リンス組成物を調製した。
【0064】
【表3】

【0065】
<実施例1>
そして、かくして調整された4種類の第一のヘアトリートメント組成物A〜Dと3種類の第二のヘアトリートメント組成物A〜Cのそれぞれ1種類ずつを、下記表4に示される12個の組合せで用い、更に、それらとは別個に調製されたリンス組成物をシャンプー組成物も用いながら、以下に示す手順に従って、人毛の毛髪サンプル(毛束)に対するトリートメントを実施した。なお、下記表4には、12個の組合せを、それぞれ組合せ1〜12として、示した。
【0066】
【表4】

【0067】
毛髪サンプルに対するトリートメントの実施に際しては、先ず、毛髪サンプルをシャンプー組成物で洗浄した後、タオルで水分を拭き取るタオルドライを行った。次いで、霧吹きを用いて、第一のヘアトリートメント組成物を毛髪サンプルの全体に噴霧し、更に毛髪をもみ込んだ後、3〜5分間放置した。引き続き、第一のヘアトリートメント組成物が付着したままの毛髪サンプルの全体に、第二のヘアトリートメント組成物を塗布した後、シャンプー組成物で洗浄して、毛髪に付着している第一のヘアトリートメント組成物と第二のヘアトリートメント組成物とを洗い流し、その後、毛髪サンプルに対するタオルドライを行った。次いで、毛髪サンプルの全体にリンス組成物を塗布して、すすぎを行った後、毛髪サンプルを再びシャンプー組成物で洗浄した。その後、温風ドライヤーを用いて、毛髪サンプルを乾燥させ、以て、毛髪サンプルに対するトリートメントを終了した。
【0068】
そして、互いに異なる12種類の組合せ(組合せ1〜12)で、第一のヘアトリートメント組成物と第二のヘアトリートメント組成物とを用いると共に、リンス組成物とシャンプー組成物を用いて、上記の手順によりトリートメントされた毛髪サンプルのそれぞれの強度を調べるために、先ず、組合せ1に従って、第一のヘアトリートメント組成物と第二のヘアトリートメント組成物が用いられてトリートメントされた毛髪サンプルから、無作為に、0.08mmの同一口径の毛髪を複数本切り取った。その後、かくして得られた複数本の毛髪から30本だけ選び出し、それら30本の毛髪の1本ずつに対して、温度:23℃、湿度:60%の環境下で、公知の毛髪引張り試験機[KES−G1−SH高感度毛髪引張り試験機(株)カトーテック製]を用いた引張り試験を行って、それぞれの毛髪の破断時の荷重値を調べた。そして、それら30本の毛髪のそれぞれにおける破断時の荷重値の平均値を算出した。その結果を、図1に示した。
【0069】
また、組合せ2〜12に従って、第一のヘアトリートメント組成物と第二のヘアトリートメント組成物とを用いると共に、リンス組成物とシャンプー組成物も用いて、トリートメントされた11種類の毛髪サンプルのそれぞれから切り取った毛髪に対しても、上記と同様にして、引っ張り試験を行って、それぞれの破断時の荷重を調べ、更に、その平均値を、各毛髪サンプル毎に算出した。更に、比較のために、前記せる如きトリートメントが何等実施されていない毛髪サンプルから切り取った複数本の毛髪に対しても、上記と同様にして、引っ張り試験を行って、それぞれの破断時の荷重を調べ、更に、その平均値を算出した。それらの結果を、図1に併せて示した。なお、図1に示される発明例1〜12のそれぞれの平均荷重値は、組合せ1〜12に従って、第一及び第二のヘアトリートメント組成物とリンス組成物とシャンプー組成物とが用いられて、トリートメントされた毛髪の破断時の平均荷重値を、それぞれ示す。また、比較例1の平均荷重値は、何等トリートメントされていない無処理の毛髪の破断時の平均荷重値を示す。
【0070】
かかる図1から明らかなように、何等トリートメントされていない毛髪サンプルから採取された毛髪は、引張り試験による破断時の荷重値の平均値(比較例の値)が95.78gとなっていた。これに対して、ケラチン加水分解物を含む第一のヘアトリートメント組成物A〜Dの何れかと、かかるケラチン加水分解物よりも重量平均分子量の小さなケラチンアミノ酸を含み、且つ酸性域に調整された第二のヘアトリートメント組成物A〜Cの何れかとを用いてトリートメントされた毛髪サンプルから採取された毛髪は、引張り試験による破断時の荷重値の平均値(発明例1〜12の値)が、最小のもので114.90g、最大のもので140.32gとなっていた。これは、本発明手法に従って、毛髪に対するトリートメントを行うことによって、毛髪の強度が向上することを、如実に示している。
【0071】
また、図1に示される結果から、第一のヘアトリートメント組成物中のケラチン加水分解物の含有量の増加や、第二のヘアトリートメント組成物中のケラチンアミノ酸の含有量の増加に伴って、毛髪の強度の向上効果が増大せしめられることが、認識され得る。
【0072】
<実施例2>
次に、第一のヘアトリートメント組成物と第二のヘアトリートメント組成物とを用いて、毛髪のトリートメントを行った後、毛髪に対するリンス処理を行わない場合における毛髪の強度向上効果を調べるために、以下の試験を行った。
【0073】
すなわち、先ず、毛髪サンプルを、実施例1で調製されたシャンプー組成物で洗浄した後、タオルで水分を拭き取るタオルドライを行った。次いで、霧吹きを用いて、実施例1で調製された第一のヘアトリートメント組成物Cを毛髪サンプルの全体に噴霧して、毛髪をもみ込んだ後、3〜5分間放置した。引き続き、第一のヘアトリートメント組成物Cが付着したままの毛髪サンプルの全体に、実施例1で調製した第二のヘアトリートメント組成物Cを塗布した後、実施例1で調製されたシャンプー組成物で、毛髪サンプルを再び洗浄して、毛髪に付着している第一のヘアトリートメント組成物Cと第二のヘアトリートメント組成物Cとを洗い流した。その後、毛髪サンプルに対するタオルドライを行った後、温風ドライヤーを用いて、毛髪サンプルを乾燥させ、以て、毛髪サンプルに対するトリートメントを終了した。
【0074】
そして、かくしてトリートメントされた毛髪サンプルから複数本の毛髪を採取した後、実施例1と同様にして、それらの毛髪に対する引っ張り試験を行って、それぞれの破断時の荷重を調べ、更に、その平均値を算出した。その結果を図2に示した。なお、図2に示される発明例13の平均荷重値は、上記のように、第一のヘアトリートメント組成物Cと第二のヘアトリートメント組成物Cとが用いられてトリートメントされた毛髪の破断時の平均荷重値を示す。また、比較例1の平均荷重値は、何等トリートメントされていない無処理の毛髪の破断時の平均荷重値を示す。
【0075】
かかる図2から明らかなように、何等トリートメントされていない毛髪サンプルから採取された毛髪は、引張り試験による破断時の荷重値の平均値(比較例の値)が95.78gとなっていた。これに対して、第一のヘアトリートメント組成物Cと第二のヘアトリートメント組成物Cとを用いてトリートメントされた毛髪サンプルから採取された毛髪は、引張り試験による破断時の荷重値の平均値(発明例13の値)が132.51gとなっていた。これによって、本発明手法に従って、ケラチン加水分解物を含む第一のヘアトリートメント組成物と、かかるケラチン加水分解物よりも重量平均分子量の小さなケラチンアミノ酸を含む、酸性に調整された第二のヘアトリートメント組成物とを用いて毛髪をトリートメントすれば、リンス組成物を敢えて用いなくとも、毛髪の強度向上効果が十分に確保され得ることが、明確に認識され得る。
【0076】
また、実施例1において、第一のヘアトリートメント組成物Cと第二のヘアトリートメント組成物Cに加えてリンス組成物を用いてトリートメントされた毛髪サンプルから採取された毛髪は、引張り試験による破断時の荷重値の平均値(発明例9の値)が137.88gで、上記せる発明例13の値よりも僅かに大きな値となっている。これは、第一のヘアトリートメント組成物と第二のヘアトリートメント組成物に加えて、リンス組成物を用いて、毛髪をトリートメントすることによって、毛髪の強度が、より高められ得ることを示している。
【0077】
<実施例3>
次に、第一のヘアトリートメント組成物と第二のヘアトリートメント組成物の使用順序を変更して、毛髪のトリートメントを行った場合における毛髪の強度向上効果を調べるために、以下の試験を行った。
【0078】
すなわち、先ず、先に調製されたケラチン加水分解物とケラチンアミノ酸とを用いて、下記表5と表6とにそれぞれ示される組成に従って、ケラチン加水分解物を含む第一のヘアトリートメント組成物Eとケラチンアミノ酸を含む第二のヘアトリートメント組成物Dとを、それぞれ調製した。
【0079】
【表5】

【0080】
【表6】

【0081】
そして、先ず、毛髪サンプルを、実施例1で調製されたシャンプー組成物で洗浄した後、タオルで水分を拭き取るタオルドライを行った。次いで、霧吹きを用いて、第二のヘアトリートメント組成物Dを毛髪サンプルの全体に噴霧して、毛髪をもみ込んだ後、3〜5分間放置した。引き続き、第二のヘアトリートメント組成物Dが付着したままの毛髪サンプルの全体に、第一のヘアトリートメント組成物Eを塗布した後、実施例1で調製されたシャンプー組成物で、毛髪サンプルを再び洗浄して、毛髪に付着している第二のヘアトリートメント組成物Dと第一のヘアトリートメント組成物Eとを洗い流した。その後、毛髪サンプルに対するタオルドライを行った後、温風ドライヤーを用いて、毛髪サンプルを乾燥させ、以て、毛髪サンプルに対するトリートメントを終了した。
【0082】
そして、かくしてトリートメントされた毛髪サンプルから複数本の毛髪を採取した後、実施例1と同様にして、それらの毛髪に対する引っ張り試験を行って、それぞれの破断時の荷重を調べ、更に、その平均値を算出した。その結果を図3に示した。なお、図3に示される発明例14の平均荷重値は、実施例2において、第一のヘアトリートメント組成物C(ケラチン加水分解物の含有量が、第一のヘアトリートメント組成物Eと同じ5.0重量%のもの)と第二のヘアトリートメント組成物C(ケラチンアミノ酸の含有量が、第二のヘアトリートメント組成物Dと同じ5.0重量%のもの)とが、前者を先の順番で用いられてトリートメントされた毛髪の破断時の平均荷重値を示す。また、比較例2の平均荷重値は、第一のヘアトリートメント組成物Eと第二のヘアトリートメント組成物Dとが、後者を先の順番で用いられてトリートメントされた毛髪の破断時の平均荷重値を示す。
【0083】
図3から明らかなように、第二のヘアトリートメント組成物Dを第一のヘアトリートメント組成物Eよりも先に用いてトリートメントされた毛髪は、引張り試験による破断時の荷重値の平均値(比較例2の値)が124.98gとなっていた。これに対して、第一のヘアトリートメント組成物Cを第二のヘアトリートメント組成物Cよりも先に用いてトリートメントされた毛髪サンプルから採取された毛髪は、引張り試験による破断時の荷重値の平均値(発明例14の値)が132.51gとなっていた。
【0084】
これは、本発明手法に従って、先ず、ケラチン加水分解物を含む第一のヘアトリートメント組成物を、毛髪に接触させた後、かかるケラチン加水分解物よりも重量平均分子量の小さなケラチンアミノ酸を含む、酸性に調整された第二のヘアトリートメント組成物を毛髪に接触させてトリートメントする方が、その逆の順番で、第一及び第二のヘアトリートメント組成物を用いて毛髪のトリートメントを行うよりも、毛髪の強度向上において高い効果が得られることを、如実に示している。
【0085】
<実施例4>
次に、第一のヘアトリートメント組成物に用いられる原料であるケラチン加水分解物と、第二のヘアトリートメント組成物に用いられる原料であるケラチンアミノ酸とを、それぞれ複数種類用意し、各原料の様々な組合せにおける毛髪の強度向上効果を調べるために、以下の試験を行った。
【0086】
先ず、第一のヘアトリートメント組成物に用いられるケラチン加水分解物として、二種類のケラチン加水分解物を用意した。即ち、上述の<実施例1>〜<実施例3>で用いたケラチン加水分解物と同一の、羽毛由来で重量平均分子量が8000〜20000のケラチン加水分解物A(商品名:ケラタイド、東洋羽毛工業(株)社製)と、羊毛由来で重量平均分子量が100000のケラチン加水分解物Bである。一方、第二のヘアトリートメント組成物に用いられるケラチンアミノ酸としては、次の二種類のケラチンアミノ酸を用意した。即ち、<実施例1>〜<実施例3>で用いたケラチンアミノ酸と同一の、人毛由来で重量平均分子量が90〜200のケラチンアミノ酸Aと、羊毛由来で重量平均分子量が400のケラチンアミノ酸Bである。そして、これらの各二種類のケラチン加水分解物A,Bとケラチンアミノ酸A,Bを、以下の表7に示す四通りの組合せで試験に用いた。なお、ケラチンアミノ酸A,Bは、何れも酸性域に調整したものを使用している。
【0087】
【表7】

【0088】
試験に使用する毛髪サンプル(人毛)としては、サンプル用毛束から直径0.08mmの毛髪を20本選定して一束とした毛束を、5束用意した。そして、用意した毛束のうち4束を、それぞれ上記表7に示す組合せに従って、先ず、ケラチン加水分解物A又はBに10分間浸し、その後10分間空気中で放置し、更に、ケラチンアミノ酸A又はBに10分間浸した。これらの浸漬処理後、毛束を水ですすぎ、温風ドライヤーを用いて乾燥させた。以上の工程を各5回繰り返した後、温度:23℃、湿度:60%の環境下で、公知の毛髪引張り試験機[KES−G1−SH高感度毛髪引張り試験機(株)カトーテック製]を用いた引張り試験を行って、各毛束における20本それぞれの毛髪の破断時の荷重値を調べた。また、比較例として、水によるすすぎと温風乾燥のみを各5回数繰り返した毛束に対して、同様の引張試験を行った。それらの結果を、以下の表8に示す。なお、試験結果を標準化するため、最高値から3回、最低値から3回分の数値は削除している。
【0089】
【表8】

【0090】
表8に示す結果から、本発明方法において用いられるケラチン加水分解物とケラチンアミノ酸との組合せとしては、羽毛由来で重量平均分子量が8000〜20000のケラチン加水分解物A(商品名:ケラタイド、東洋羽毛工業(株)社製)と、人毛由来で重量平均分子量が90〜200のケラチンアミノ酸Aとの組合せが特に好適であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケラチン加水分解物を含む第一のヘアトリートメント組成物を毛髪に接触させるステップと、
前記ケラチン加水分解物よりも重量平均分子量が小さなケラチンアミノ酸を含んで酸性域に調整された第二のヘアトリートメント組成物を、前記第一のヘアトリートメント組成物が接触せしめられたままの毛髪に対して、更に接触させるステップと、
を含むことを特徴とする毛髪のトリートメント方法。
【請求項2】
前記第一のトリートメント組成物を前記毛髪に接触させる前に、該毛髪をシャンプーで洗浄することを特徴とする請求項1に記載の毛髪のトリートメント方法。
【請求項3】
前記第一のヘアトリートメント組成物が接触せしめられたままの毛髪に前記第二のヘアトリートメント組成物を接触させた後、該毛髪をシャンプーで洗浄することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の毛髪のトリートメント方法。
【請求項4】
前記第一のヘアトリートメント組成物と前記第二のヘアトリートメント組成物とが接触せしめられた前記毛髪をシャンプーで洗浄した後、該毛髪に対して、リンス組成物を接触させることを特徴とする請求項3に記載の毛髪のトリートメント方法。
【請求項5】
前記リンス組成物を前記毛髪に接触せしめた後、該毛髪のすすぎを行い、その後、該毛髪をシャンプーで洗浄することを特徴とする請求項4に記載の毛髪のトリートメント方法。
【請求項6】
前記第一のヘアトリートメント組成物中に含まれる前記ケラチン加水分解物の重量平均分子量が8000〜20000の範囲内の値であり、且つ前記第二のヘアトリートメント組成物中に含まれる前記ケラチンアミノ酸の重量平均分子量が90〜200の範囲内の値である請求項1乃至請求項5のうちの何れか1項に記載の毛髪のトリートメント方法。
【請求項7】
前記第二のヘアトリートメント組成物が、pH値が2〜6の範囲内の値となる酸性域に調整されている請求項1乃至請求項6のうちの何れか1項に記載の毛髪のトリートメント方法。
【請求項8】
前記第一のヘアトリートメント組成物中の前記ケラチン加水分解物の含有量が、0.01〜30重量%であり、且つ前記第二のヘアトリートメント組成物中の前記ケラチンアミノ酸の含有量が、0.1〜10重量%である請求項1乃至請求項7のうちの何れか1項に記載の毛髪のトリートメント方法。
【請求項9】
前記第一のヘアトリートメント組成物中の前記ケラチン加水分解物が、羽毛由来のものであり、且つ前記第二のヘアトリートメント組成物中の前記ケラチンアミノ酸が、人毛由来のものである請求項1乃至請求項8のうちの何れか1項に記載の毛髪のトリートメント方法。
【請求項10】
前記第二のヘアトリートメント組成物が、界面活性剤を含んでいる請求項1乃至請求項9のうちの何れか1項に記載の毛髪のトリートメント方法。
【請求項11】
前記請求項1乃至請求項10のうちの何れか1項に記載の毛髪のトリートメント方法に用いられる前記第一のヘアトリートメント組成物が収容される第一の容器と、前記第二のヘアトリートメント組成物が収容される、該第一の容器とは別個の第二の容器とを含むことを特徴とするヘアトリートメントキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−90109(P2010−90109A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170143(P2009−170143)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(503139669)株式会社アスター美容 (3)
【Fターム(参考)】