説明

毛髪中の強固に結合した水を増加させるための組成物及び方法

ヒト毛髪中の三次構造に影響を及ぼし(ジスルフィドの破壊)、毛髪タンパク質の二次構造での変化をもたらす波長で電磁波放射する物質を含む、毛髪保湿用局所用組成物である。放射の強度は、タンパク質構造の変化を引き起こすか又は促進するために制御され、それに十分である。本発明は、そのような局所用組成物の使用方法を含む。試験により、毛髪中の強固に結合した水のレベルが増大し、熱及び化学的処置に特徴的な種の毛髪に対するダメージはないことが示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年2月19日出願の米国特許出願61/153,828の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、毛髪のコンディショニング及び保護の分野に属する。より詳細には、本発明は、化学物質を用いない手段による毛髪のコンディショニング及び保護の分野に属する。
【背景技術】
【0003】
ヒト毛髪
米国特許第5,395,490号は、その全体を参照により本明細書中に援用する。米国特許第5,395,490号の図1、2A、2B、4A及び4Bは、ヒト毛髪繊維の構造、毛髪のタンパク質成分、及びジスルフィド結合のエネルギーレベルを図示している。
【0004】
ヒト毛髪の繊維は、以下の3種類の主要な形態形成成分:毛小皮(キューティクル)、毛皮質(コルテックス)、及び細胞膜複合体を含み、細胞膜複合体は、それ自体がシステインなどのケラチンペプチド鎖のタンパク質マトリックスからなる。毛髄質(メデュラ)も存在する。これらのペプチド鎖は、ジスルフィド結合によって互いに連結している。ヒト毛髪繊維の天然形状及び構造的な完全性は、部分的には、タンパク質鎖を連結しているジスルフィド結合の方向に依存する。また、毛髪の健康及び状態は毛髪中の含水量にも依存する。
【0005】
攻撃を受ける毛髪
様々な理由のため、毛髪は日常的に高温への曝露及び/又は毛髪と反応性の化学物質への曝露により攻撃を受けている。例えば、毛髪は、ヘアドライヤー、ストレートアイロンカーラー、又は太陽からの熱ダメージに曝されうる。毛髪はこれらの熱源により日常的に達成される温度、例えば150〜250℃において変性を開始する。毛髪は、例えば直毛化、パーマ、カラーリング、又は他の化粧用処置の過程で化学物質ダメージに意図的に曝されうる。毛髪はまた、例えば汚染などにより、意図的ではなく化学物質に曝されることもある。熱又は化学物質は、毛髪の水分を失わせうる。
【0006】
化学的薬剤で毛髪を処置することによるヘアスタイリング(すなわち、直毛化及び巻き毛化)並びにヘアカラーリングは周知である。これらには、例えば、毛髪中のタンパク質分子を連結するジスルフィド結合を還元しかつ再酸化させる試薬を使用する処置が含まれる。そのような試薬としては、メルカプタン、アルカリ、アルデヒド等が挙げられる。これらの及び他の化学的処置は、有効ではあるが、ヒトの毛髪に対して苛酷で、ダメージを与えるものであると考えられている。ヘアスタイリングの一部の負の効果としては、乾燥した、傷みやすいか又は弱った毛髪;輝き及び/又は色が失われること;頭皮へのダメージ及びジスルフィド結合以外の毛髪中のタンパク質結合へのダメージが挙げられる。毛皮質外の脂質へのダメージ、毛髪繊維の膨張及び毛皮質の浮き上がりも生じる。さらに、化学的処置は、大ざっぱなやり方で局所的に施され、このことは、ダメージが広く分布することを意味する。
【0007】
光を用いる処置
ヒト毛髪の形状を変化させる又はヒト毛髪をカラーリングするための電磁波放射の使用も公知である。毛髪中のタンパク質分子を連結しているジスルフィド結合に直接的に影響を与えるために光を用いる技術があり、ジスルフィド結合の他の操作に対する補助として(すなわち、1以上の化学的プロセスを加速するために)、光を用いる技術がある。つまり、「直接的に影響を与える」又は「直接的な影響」とは、ある物質が、最初にいずれかの他の物質に吸収されることなく、ジスルフィド結合に吸収され、かつこれを励起する、電磁波放射を生じさせることを意味する。
【0008】
米国特許第5,395,490号には、毛髪内のジスルフィド結合を再構築させるために電磁波照射を用いることによる、ヒト毛髪の再成形方法が開示されている。ジスルフィド相互作用は、毛髪タンパク質の三次構造の一部である。毛髪が電磁エネルギーに曝露されている間、毛髪に応力がかけられる。結果として、ジスルフィド結合が破壊されれば、それぞれのS原子は、いずれかの他の解離したS原子と、別の結合を形成することが可能である。新たな結合の構造は、部分的にはその応力により決定される。遊離したジスルフィド結合をその基底状態から連続体(continuum)に引き上げるのに必要とされるエネルギー(すなわち、解離エネルギー)は、報告では約2.2eVである。連続体に引き上げられる所与の結合(すなわち、結合が切断される)に対して、このエネルギーは、1個の光子から、又は光子の連続から供給することができる。ジスルフィド結合を切断するのに用いることができる一定範囲の光子周波数があるが、最も効率的な方法は、共鳴状態を利用する。米国特許第5,395,490号には、遊離したS2分子のエネルギーレベルは、2×1013〜1×1015Hzの周波数範囲(約0.30〜15μmの波長又は約0.08〜4.13eVに対応する)内に入ることが示唆されている。しかしながら、米国特許第5,395,490号は、毛髪では、ジスルフィド結合に他の力がかかっており、したがって、1×1013〜2×1015Hzの周波数範囲(約0.15〜30μmの波長又は0.04〜8.3eVに対応する)が好ましいことが示唆されている。一定時間にわたって、この共鳴周波数の範囲で毛髪に光子を照射することにより、ジスルフィド結合が、その天然のエネルギー状態(又は振動のモード)と、連続状態に励起された一部の結合との間を移動するであろう。
【0009】
それにもかかわらず、米国特許第5,395,490号には、20μm付近の波長範囲で放射することができる物質を含む組成物は開示されていない。この文献には、毛髪に組成物を塗布するステップは開示されていない。この文献には、20μm付近の波長範囲で放射するように組成物中の物質を活性化するステップは開示されていない。この文献には、本明細書中に開示される毛髪の処置方法は記載されていない。さらに、米国特許第5,395,490号では、複雑な高・低周波数波形発生器及び補助的な電子機器からジスルフィド結合に放射する。実際に、本発明は、ヘアドライヤーより複雑なデバイスは示唆していない。また、米国特許第5,395,490号は、光子エネルギー範囲0.04〜8.3eVを開示しており、これは、S2の解離エネルギーである約2.2eVを含む。このことは、2.2eVで光子を生成することが可能なデバイスは必要なく、好ましくもない本発明とは異なる。
【0010】
WO/1994/010873及びWO/1994/010874には、美容目的で、毛髪、特にヒト頭髪を処置する方法が開示されている。毛髪は、毛髪のタンパク質構造を変化させて所望の美容効果がもたらされるように選択された一定強度及び波長の光に曝露される。WO/1994/010873では、効果は毛髪の成形である。しかしながら、この参考文献には、本発明に記載されている約20μmよりも十分に短い400〜600nm(0.4〜0.6μm)の波長の光を用いることが開示されている。400〜600nmの波長を有する単一光子は、約2.05〜3.0eVのエネルギー(これは、上記の米国特許第5,395,490号の0.04〜8.3eVの範囲内に入る)を「運搬する(carry)」。記載したように、ジスルフィド結合をその基底状態から連続体に引き上げるのに必要なエネルギーは、報告では、約2.2eVである。つまり、WO/1994/010873には、米国特許第5,395,490号よりも狭いが、S2の解離エネルギー付近に集中している周波数範囲を用いることが示唆されている。米国特許第5,395,490号に開示された、より広い周波数範囲の方が、WO/1994/010873に開示された狭い周波数範囲よりも、ジスルフィド結合を切断するのに有効であると予測することは、合理的である。
【0011】
WO/1994/010874では、考慮されている美容効果は、ヘアカラーリングの改良である。特に、頭髪の化学的カラーリングの補助のために、約600nm〜1200nmの波長を有する光を用いて、酵素の協働の変化及び/又は酸化還元電位の変化がもたらされるようにする。ヘアカラーリングが改良される、すなわち、光の影響がない場合よりも色がはっきりし、通常のカラーリングよりも少ない着色剤で済むことが報告されている。600〜1200nm(0.6〜1.2μm)は、本発明で用いる約20μmよりも十分に短い。
【0012】
さらに、WO/1994/010873及びWO/1994/010874には、20μm付近の波長範囲で放射することができる物質を含む組成物は開示されていない。これらの文献には、毛髪にそのような組成物を塗布するステップは開示されていない。これらの文献には、20μm付近の波長範囲で放射するように組成物中の物質を活性化するステップは開示されていない。これらの文献には、本明細書中に開示される毛髪の処置方法は記載されていない。WO/1994/010873及びWO/1994/010874では、電磁エネルギーを、デバイス(例えば、アルゴンレーザー)により供給する。このことは、2.2eVで光子を生成することが可能なデバイスは必要なく、好ましくもない本発明とは異なる。さらに、本発明は、これらの特許に記載されているように、ジスルフィド結合に放射を当てるためにレーザー及び補助的電子機器は必要としない。実際に、本発明は、ヘアドライヤーより複雑なデバイスは示唆していない。
【0013】
米国特許第5,858,179号には、哺乳動物又はヒト毛髪などのケラチン系繊維の物理特性を変化させるために用いる化学物質と電磁波放射との組み合わせが開示されている。非刺激性・非反応性のジスルフィド(溶液又はゲルの形態で)を最初に毛髪に接触させる。続いて、電磁波放射を毛髪に当てて、ジスルフィドを光化学的にジチオールに変換する。ジチオールは毛髪中のジスルフィド結合を破壊し、それにより毛髪は永続的に再成形される。米国特許第5,858,179号には、20μm付近の波長範囲で放射することができる物質を含む組成物は開示されていない。この文献には、毛髪にそのような組成物を塗布するステップは開示されていない。この文献には、20μm付近の波長範囲で放射するように組成物中の物質を活性化するステップは開示されていない。この文献には、本明細書中に開示される毛髪の処置方法は記載されていない。米国特許第5,858,179号では、結合を破壊するためにジスルフィド結合に対する直接的な電磁波放射は用いない。むしろ、用いられる放射は、200〜530nm(2.3〜6.2eV)の報告された波長を用いて遊離のジスルフィドをジチオールに変換するために選択される。さらに、本発明は、特定の周波数で電磁波放射をもたらすためのデバイスを必要としない。むしろ、本発明は、ヘアドライヤーより複雑なデバイスは示唆していない。
【0014】
米国特許第3,863,653号には、高周波数電流が供給された共鳴空洞に繊維を封入することにより、繊維を処理するための方法及び装置が開示されており、該空洞の共鳴周波数及びインピーダンスは、その供給源のものに適合している。この方法は、実際には、化学的処置方法の補助である。米国特許第3,863,653号では、毛髪を内側から加熱するために高周波数放射が用いられ、それにより化学反応を加速し、潜在的にダメージがある化学物質に毛髪を曝露しなければならない時間を短縮する。開示されている放射の周波数は、10〜4000MHzであり、本発明での使用には全く好適でない。
【0015】
トルマリン
トルマリンは、四面体六員環を特徴とする偏心菱面体ホウケイ酸塩である。これは半貴石であり、アルミニウム、鉄、マグネシウム、ナトリウム、リチウム、又はカリウムなどの元素が様々な量で配合された結晶ケイ酸塩である。
【0016】
トルマリンの組成は幅広く、1つの一般的な化学式は、以下のように記載される:
XY3Z6(T6O18)(BO3)3V3W
[式中、
X=Ca、Na、K、空孔;Y=Li、Mg、Fe2+、Mn2+、Zn、Al、Cr3+、V3+、Fe3+、Ti4+;Z=Mg、Al、Fe3+、Cr3+、V3+;T=Si、Al、B;B=B、空孔;V=OH、O;W=OH、F、O(Hawthorne and Henry 1999, Classification of the minerals of the tourmaline group. European Journal of Mineralogy, 11, 201-215)]。
【0017】
14種類の最終的なメンバーが国際鉱物学協会(IMA)により認識されており、Hawthorne及びHenry(1999)がそれらをX位の優勢な占有元素に基づいて3つの主要な群に分類している。これらの群は、アルカリ群、カルシウム群及びX位空孔群である。アップデートされた情報を含む下記の表は、http://www.geol.lsu.edu/henry/Research/tourmaline/TourmalineClassification.htmから再生成されている。
【表1】

【0018】
Hawthorne及びHenry(1999)は、まだ確認されていない少なくとも27種類の他のトルマリンも仮定している。つまり、トルマリンについて説明する場合、種類によってかなりの差異(並びに類似点)がある。トルマリンの一部の報告されている特性としては、以下が挙げられる:比重:2.96〜3.31;屈折率:1.610〜1.735;複屈折:0.016〜0.080;多色性:全ての種で強い;硬度:7.0〜7.5。
【0019】
本発明に関して、ある種類と別の種類とで特性は異なり得る。特に、放射率及び吸収スペクトルは、ある種類と別の種類とで異なり得る。また、放射強度及び活性化エネルギーも、ある種類と別の種類とで異なり得る。本発明の組成物中で粒子状で用いる場合、トルマリンのこれらの特性は、粒径及び濃度にも依存するであろう。
【0020】
トルマリン含有製品
ヘア用製品でのトルマリンの使用は公知である。例えば、Jonathan Product社により販売されているIB Shield Humidity Lock-Out Shineスプレーと称される製品では、「トルマリン&アメジスト:髪の輝き、なめらかさ、扱いやすさを改善することが知られている、荷電イオン性結晶ブレンド」とそのトルマリンの使用を説明している。さらなる説明は、「荷電イオン&遠赤外線エネルギーが、頭皮を活性化し、最適な髪の健康を維持するのを助けます」との文言を含む。
【0021】
Angles BeautyCare Groupにより販売されているHai Flat Iron Fluidはトルマリンを含有し、製造業者は、「美しく整えられた髪のために重さのない潤いと高い吸収性を与え、熱ダメージから髪を保護し、静電気を減らし、カラーを長持ちさせ、素晴らしい輝きをもたらすと言われています」と述べている。
【0022】
これらの製品の説明のいずれにおいても、20μm付近の波長範囲で放射することができるトルマリン(又はいずれかの他の物質)を含む組成物は示唆されておらず、いずれも、20μm付近の波長範囲で放射するようにそのような物質を活性化するステップを示唆していない。トルマリンがこの範囲で放射するとしても、先行技術のいずれも、その強度が熱又は化学的処置により生じるダメージから毛髪を保護するのに十分であることを示唆していない。出願人の知識の限りでは、これらの製品並びにその他の製品では、トルマリンが毛髪中の含水量を増加させることは報告されていない。
【0023】
トルマリンヘアドライヤーも公知である。そのようなヘアドライヤーは、トルマリン結晶を含み、それが陰イオン及び遠赤外線熱を与え、報告では、遠赤外線熱は毛髪を内側から乾かす。結果として、毛髪をより速く乾かすことができ、毛髪は最適な扱いやすさを伴って健康で輝きを保つ。毛髪を成形するためのストレートアイロンも、トルマリンを含むことが知られている。典型的には、トルマリンが陰イオンを供給し、これがより柔らかく輝きを持った毛髪をもたらし、赤外線熱が、毛髪の潤い及び艶の改善に関連することが報告されている。トルマリンを含むヘアブラシ及びヘアセット用ローラーが公知である。多くの場合、トルマリンによる恩恵は、イオン効果による縮れの低減である。それらの電化製品のいずれも、20μm付近の波長範囲で、又は毛髪を熱若しくは化学的処置により生じるダメージから保護するのに十分な強度で、放射することができる物質を含む組成物を示唆していない。出願人の知識の限りでは、これらの製品及び他の製品において、トルマリンは毛髪中の含水量を増加させると報告されていない。
【発明の概要】
【0024】
本発明は、ヒト毛髪の含水量を増加させる局所用組成物である。該組成物は、特定の波長で、電磁波を放射する、又は電磁波放射するように誘導される、1種以上の物質を含む。利用される光子エネルギーは、基底状態のジスルフィド結合の解離エネルギーよりも十分に低い。放射の強度は制御され、この方法は明らかに毛髪の含水量を増加させる。該処置は、それ自体、又は補助として、有効であり得る。本明細書に開示する技術は、化学物質を用いない。
【0025】
本発明は、ある時間経過後、毛髪から洗い落とすことができる組成物、及び追加的な又は延長した恩恵のために毛髪に残すことが意図される組成物を含む。本発明は、毛髪の含水量の増加を導く波長で電磁波を放射するか、又は電磁波放射するように誘導される、1種以上の物質を含む局所用組成物の使用方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】78℃での赤色トルマリンの放射率を波長に対して示したグラフである。
【図2】78℃での赤色トルマリンの放射輝度を波長に対して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、化学物質を用いない手段を介して、トルマリン含有局所用組成物により供給される電磁的エネルギーを用いて毛髪の水分を増加させることができるという予期せぬ知見に基づく。「化学物質を用いない」(non-chemical)とは、本明細書に開示する組成物中の物質が、毛髪に試薬又は触媒として作用しないことを意味する。「化学物質を用いない」とはまた、純粋なエネルギーが毛髪に供給されることを意味する。本発明の文脈では、「局所用」は、毛髪、特にヒト頭髪の表面に塗布されることを意味する。
【0028】
本発明はまた、一部の物質は、ヒト頭髪の水分を増加させるのに十分な量で、安定な、商業的に許容できる、局所用毛髪用製品に組み込むことができるという驚くべき知見にも基づく。毛髪を保湿することにより、化学物質及び熱への曝露のダメージ作用を含むダメージ作用から毛髪が保護される。
【0029】
本明細書を通して、「含む」は、対象物の集合が、記載されたものに限定される必要がないことを意味する。
【0030】
好適な物質及び組成物のための基準
リーズナブルな価格に留まり、健康上及び規制上の条件を満たす、ヒト毛髪の水分を有意に増加させるために十分なエネルギーを供給する、商業的に許容可能なパーソナルケア用組成物を求めるならば、該組成物に対する必要条件の長いリストが生じる。本明細書中で論じられる基準を、満足に満たすことができることは、驚くべきことである。
【0031】
a. 波長、強度、温度
本発明者は、一定の波長及び強度の電磁波放射を供給する組成物による処置後に、ヒト毛髪中の強固に結合した水が増加することを観察した。
【0032】
パーソナルケア用組成物において考慮することができるいかなる所与の物質に関しても、温度は波長及び強度の両方に影響する最も重要な因子である。多くの場合、物質の温度が、該物質により発せられる放射の強度及び波長分布を決定する。本発明の組成物は、一般的に、約25℃〜175℃の温度に曝露されるであろう。したがって、好適な物質は、約25℃〜175℃で、毛髪の含水量の増加を導くことができる波長範囲で、電磁波を放射するものである。本発明者は、約0.15〜30μmの波長範囲を用いて有意な予期せぬ結果を達成した。この波長範囲はジスルフィド結合(三次構造)を切断するのに有用であることが知られているが、本発明者らは、毛髪の二次構造の変化も観察している。0.15〜30μmは、近赤外線及び中赤外線のほとんどをカバーする。分類(いくつかある)によっては、この範囲は、約1000μmの波長まで広がっている遠赤外線の小さな一部分(約3%)もカバーする場合がある。一方で、一部の分類では、中赤外線が40μmまで広がっていることが示唆される。本発明の時点では、重要な点は、「近赤外線、中赤外線及び遠赤外線の領域の境界は、見解が一致しておらず、変わり得る」ということである(“CoolCosmos Infrared Astronomy Tutorial: Near, Mid, and Far Infrared” - http://coolcosmos.ipac.caltech.edu/cosmic_classroom/ir_tutorial/irregions.htmlを参照されたい)。
【0033】
上記のように、本発明の好適な物質は、約25℃〜175℃で、ヒト毛髪中の水分を増加させるのに有用な強度で、電磁波を放射するものである。処置された毛髪が商業的に許容可能な時間内に水分の有意な増加に至る場合、強度は、「ヒト毛髪中の水分を増加させるのに有用」であるとみなされる。「商業的に許容可能な時間」とは、約1時間未満、より好ましくは約30分未満、さらにより好ましくは約10分未満、最も好ましくは約5分未満を意味する。水分を増加させるためのこの時間は、組成物を頭上におき、活性化された瞬間から測定する。したがって、別の点では有用な物質が所望の変化をもたらすために許容できない長時間(例えば、3時間)を要する場合、その物質は、本発明での使用のためにあまり有用でないか、又は全く有用ではなく、これはそのような製品が、低い商業的実用性しか有しないためである。
【0034】
ここで、物質の強度(又は、より良好には、放射輝度)は、単位立体角に向かって、該物質の単位面積から発せられる1秒あたりのエネルギーである。放射輝度は、物質の温度に依存する。したがって、好適な物質を見出すために、種々の物質の放射輝度 対 波長の曲線を観察することから始めて、対象となる温度範囲(すなわち、25℃〜175℃又は40℃〜60℃又は60℃〜80℃など)に加熱した場合に、0.15〜30μmの波長範囲で、より優れた強度を有する物質を見出すことができる。有用な強度はどのようなものかは、試行錯誤によって最もよく決定することができる。候補物質を毛髪用基本組成物に組み込み、商業的に合理的な量で毛髪に塗布することができる。商業的に許容可能な時間で毛髪を保湿する(すなわちケラチン構造における強固に結合した水の増加)ことができれば、強度は有用であるとみなすことができる。
【0035】
本発明において好適な物質を見出すために努力する場合、波長及び強度に加えて、他のパラメータを考慮すべきである。
【0036】
b. 放射率
米国特許第5,395,490号及び他の先行技術では、放射源は、独自の電源を有する、最新式の、複数の周波数の電磁波を発生できる電子機器である。意図的に、供給される電力のほとんどが電磁エネルギーに変換され、所与の波長での放射強度は、適宜、高精度まで制御することができる。このことは本発明とは全く異なり、本発明では、エネルギー源(power source)は好適な物質に供給される熱であり(ヘアドライヤー又はストレートアイロンからのものとして)、この熱はその物質に特徴的な波長-強度スペクトルで再放射される。入力エネルギーは、一般的な消費者向けヘアドライヤー又はストレートアイロンから安全に供給されるものに限定される。つまり、本質的に無限のエネルギー供給を有しないので、強度が有用なものであるように、好適な物質が比較的効率よくエネルギーを再放射し、このエネルギーを吸収することは重要である。つまり、可能性のある好適な物質の放射輝度を観察することに加えて、放射率(物質が吸収したエネルギーを放射する該物質の能力の尺度)も観察すべきである。本発明のために有効でない物質の例は、好適な波長で放射するが、毛髪中の水分を増加させるために必要とされる物質の量が商業的及び/又は化粧品として実用不可能な物質である。
【0037】
放射輝度と同様に、物質の放射率も、物質の温度に依存する。つまり、放射輝度 対 波長に加えて、放射率 対 波長の曲線を観察して、対象となる温度範囲(すなわち、25℃〜175℃又は40℃〜60℃又は60℃〜80℃など)で、0.15〜30μmの波長範囲で、高い放射率を有する物質を見出すことができる。好適な物質は、約0.50より大きな放射率を有する。好ましい物質は、約0.80より大きな放射率を有する。最も好ましい物質は、約0.90より大きな放射率を有する。
【0038】
つまり、好適な物質に対する初期条件としては、以下のものが挙げられる:約0.50より大きな放射率を有する物質であって、それにより、25℃〜175℃に加熱された際に、該物質が、0.15〜3.0μmの波長範囲で、商業的に許容可能な時間でヒト毛髪中の水分を増加させるのに有用な強度で放射する。そのような物質が存在すべきこと、又はヒト毛髪が熱によって活性化された物質に由来する放射線によって保湿されうることは完全には不明である。これは、一般的に、我々が熱及び放射線がヒト毛髪にダメージ及び乾燥を与えるものと考えているためである。
【0039】
c. 商業上の留意事項
好適な物質であるためには、該物質を、有効なままで、化粧用製品での使用のために商業的に合理的な量で用いることができる必要がある。何が「商業的に合理的である」かは、コスト、製造困難性、組成物を安定化する能力、組成物の外観、感触、匂い及び全体的な印象などに依存する。したがって、例えば、他の点では有用な物質が、その中に組み込まれる組成物に不快な匂いをもたらす場合、該物質はあまり好適でないか、又は全く好適でない。あるいは、他の点では有用な物質が、その中に組み込まれる組成物を不安定化する場合、該物質はあまり好適でないか、又は全く好適でない。当業者であれば、許容可能でない消費者品質又は商業的な実用性が低い組成物を特定することができ、したがって、商業的に合理的でない物質を避けることができる。
【0040】
さらに、好適な物質は、化粧用製品に対する全ての関連する制御規制を最低限満たして、安全性の観点から、化粧品調製物での使用のために好適であるものである。したがって、他の点では有用な物質が、全て又は一部の規制当局により禁止されている場合、その物質は、あまり好適でないか、又は全く好適でなく、なぜなら、商業用の製品に達することができないからである。本明細書中で論じられる物理的条件、処方上の条件、及び商業的条件の全てを満たす物質を見出すことができたことは、驚くべきことであった。
【0041】
d. 好適な物質の活性化/不活性化
さらに、好ましい好適な物質は、ヒト毛髪の強固に結合した水分含量に有意に影響を与える前に活性化されなければならず、不活性化して該影響を停止することができるものである。室温であっても、多くの物質が、0.15〜30μmの波長範囲で、いくぶんかの放射をすることがわかっている。しかしながら、「活性化された」とは、好適な物質による放射の強度が、「商業的に許容可能な時間」で、「ヒト毛髪中の水分を増加させるのに有用」であることを意味する。つまり、好適な物質が0.15〜30μmの波長範囲で放射しているが、有意な保湿が約24時間以内に生じない、より好ましくは約12時間以内、よりさらに好ましくは約1時間以内、最も好ましくは約30分以内に生じないような強度である場合、該物質は、本明細書中で定義されるように「活性化された」ものではない。
【0042】
活性化及び不活性化の好ましい方法は、消費者の使用に好適なものでなければならず、パーソナルケア製品の市場で商業的に実用的でなければならない。したがって、例えば、他の点では有用な物質が、消費者の立場からは不便な、又は大量のエネルギーを要する活性化/不活性化を必要とする場合、該物質は好適でない場合がある。好ましい活性化方法は、手持ち型のヘアドライヤー又はヘアサロンで典型的に見られる市販のヘアドライヤーのいずれかのヘアドライヤーによる加熱である。消費者が通常の手入れ又は美容上のルーチンを行なうときに、本発明の組成物がヘアドライヤー又は毛髪成形用ツールからの熱に曝されるであろうことは既に予測されているので、この活性化方法は好ましい。したがって、好ましい好適な物質は、該物質が40℃〜60℃まで、より好ましくは80℃より高く、最も好ましくは60℃〜80℃に加熱されるまで、有効な波長及び/又は強度を生成しないものである。最小限の40℃は、該組成物の望ましくない活性化を防ぐのに有用である。80℃より高い温度は、好適な物質を活性化するのに用いることができるが、この温度自体が毛髪に有害な作用を有し始める。したがって、最も好ましい活性化温度は、約60℃〜80℃である。これらの温度は、熱風の発生源が毛髪から数インチであり、熱風流が毛髪の同じ部分に継続的に向いていなくても、手持ち型のヘアドライヤーで達成可能である。好ましくは、活性化は、10分以内のブロー乾燥、より好ましくは5分以内のブロー乾燥、最も好ましくは1分以内のブロー乾燥で達成可能である。ヘアドライヤー以外の機器(例えば、ストレートアイロン)を用いることができることを記載しておく。しかしながら、ストレートアイロンを用いる場合、過剰な熱からのいかなるダメージ又は乾燥も限定するように、好適な物質をその最も好ましい温度まで加熱し、それ以上にしないように好ましく用いられる。
【0043】
本発明者らは、放射性物質によっては、活性化が光によって達成可能な場合があることも予測している。この実施形態では、好適な物質への可視光(赤色、青色、緑色など)照射が、好適な物質が0.15〜30μmの波長範囲で放射することを引き起こす。一般に、放射強度は、可視光活性化の発生源の強度に依存する。しかし、本発明者らは、有効かつ商業的な実用性を有する可視光源と好適な放射物質との組み合わせを見出し得ると予測している。不活性化は、可視光発生源を除去することにより達成することができる。この方法による活性化及び不活性化は、基本的に即時的なものであり、なぜなら、好適な物質が加熱されるまで待つことはないからである。
【0044】
好適な物質としてのトルマリン
予期せぬことに、本発明者らは、トルマリンが本発明の組成物中で非常に有用であることを見出した。図1を参照すると、この特定の赤色トルマリンは、78℃に加熱されると、本発明者らが問題とする波長範囲で、0.9を十分に超える放射率を有する。20μmの波長では、放射率は約0.93である。示していないが、20μmでのこの物質の放射率は、温度が約44℃まで下がると、約0.75まで低下する。
【0045】
図2を参照すると、78℃まで加熱されたこの特定の赤色トルマリンのエネルギー出力は、約10〜20μmの波長でピークとなる。78℃は、ヘアスタイリングで普通でない温度ではない。
【0046】
正しい波長及び高い放射率を有する物質(赤色トルマリン)を特定したが、残される疑問は、強度が商業的製品を製造するのに十分であるかである。言い換えれば、赤色トルマリンのどれだけの表面積が、商業的に許容可能な時間でヒト毛髪中の水分を効率よく増加させるのに十分なエネルギーを発するであろうか? また、商業的に実用的な製品に組み込むことができるトルマリンの重量で、その表面積は達成することができるか? 本発明者は、この両方の疑問に肯定的な回答をすることができることを見い出した。本発明者は、ヒト頭髪中の強固に結合した水のレベルの増大が、1種以上のトルマリンを含む局所用組成物を用いて達成することができることを、初めて実証する。この処置は、化学物質を用いないとみなされる。「化学物質を用いない」ことによって、本発明者らは、光子吸収ではなく、分子相互作用を通して毛髪と相互作用する既知の商業的処置と区別する。
【0047】
驚くべきことに、安全で、安定かつ商業的に許容可能で、並びに有効な、トルマリン組成物が達成された。トルマリンは、商業的な化粧用製品にとって合理的な量で用いられ、それでも、トルマリンは、ケラチン水分の増加を行なうのに十分な電磁エネルギーを供給する。トルマリンは、毛髪に有意に影響を与える前に活性化しなければならず、不活性化してさらなる作用を停止させることができる。
【0048】
別の実施形態では、トルマリンの活性化は、トルマリンに可視光を照射することによって達成される。例えば、赤色トルマリン及びピンク色トルマリンは、458nm及び451nmの吸収線、並びに緑色スペクトル中の広い吸収バンドを有することを記載しておく。青色トルマリン及び緑色トルマリンは、498nmでの強い、狭い吸収バンド及び640nmまでの赤色のほとんど完全な吸収を有する。同様に、これらの物質は、0.15〜30μmの波長範囲での入射光エネルギーの一部分を再放射し、したがって、ヒト毛髪中の水分の増加を行なうのに有用であり得る。好適な可視光の発生源としては、LED及びレーザーが挙げられる。これらのデバイスを用いれば、光を集中させ、目的物に向かわせることができる。
【0049】
DSC分析
タンパク質変性は、ある程度の外部ストレス又は化合物、例えば強酸若しくは塩基、濃縮無機塩、有機溶媒(例えばアルコール若しくはクロロホルム)、又は熱などの適用によってタンパク質がその二次、三次又は四次構造を損なうが、アミノ酸間のペプチド結合(一次構造)は無傷で残るプロセスである。三次構造の変性には、アミノ側鎖間の相互作用、例えばシステイン基の間の共有ジスルフィド架橋、極性基の間の非共有双極子間相互作用、及び側鎖における非極性基の間のファンデルワールス相互作用など、の破壊が含まれる。二次構造の変性とは、タンパク質が規則的な反復パターン(例えばαへリックス構造及びβプリーツシートなど)の全てを損ない、ランダムコイル立体配置をとることを意味する。毛髪中のらせん状ケラチン部分の熱変性は約210〜260℃で起こる。
【0050】
文献では、毛髪中の緩く結合した水について、約100℃で開始し約140℃までに毛髪で追い出される水(吸熱遷移を生じる)はDSCサーモグラムにおいて容易に観察されると記載されている。強く結合した水は、約220℃から約260℃において毛髪で追い出されると記載されている。DSCは、遷移温度、並びに吸熱反応(発熱体)及び発熱反応(熱の排出体)のための変換の熱(エンタルピー)を測定するために使用される熱分析技術である。DSCは、典型的に、種々の融解又は冷却速度における融解温度及び固化温度を測定するために用いられる。示差走査熱量測定によってケラチンの含水量及びタンパク質変性を検出できることが報告されている。
【0051】
含水量(水分含量)の測定を、未処置毛髪(対照)、基本製剤(トルマリン非含有)、基本製剤中の5%赤色トルマリン、及びMIZANI(登録商標) Rhelaxer(市販の水酸化ナトリウム毛髪直毛化コンディショニング製品)において行った。5%トルマリンで処置した毛髪サンプルは、トルマリン組成物を毛髪に塗布した後、ブロー乾燥を行った。サンプルは、毛髪の小さな切片(2〜10mg)を50μlアルミニウムパンに配置し、続いてアルミニウム蓋及び圧縮ツールを用いて各パンを密封することによりDCSのために調製した。Perkin Elmer Pyris 1 DSCは、以下の熱プロフィーを実行するようにプログラミングした:すなわち、25℃にて2分間の安定化、毎分10℃で260℃まで加熱、試験終了、及び25℃への復帰。吸熱反応の計算は、遷移の開始温度と遷移の終了温度とを求めることにより行った。それぞれの遷移曲線下の面積(エンタルピー)を、サンプル重量及び遷移過程で要したエネルギーに基づいて算出した。遷移温度のピーク及び遷移開始温度は、エンタルピーの算出過程で生成した。結果は以下の通りである。
【表2】

【0052】
結果は、5%トルマリン組成物及びブロー乾燥による処置は、対照と比較して、毛髪ケラチン中の強固に結合した水を増加させる(約32%増加、そのうち一部のみが基本製剤に起因しうる)ことを示している。対照的に、MIZANI(登録商標)処置の結果として、強固に結合した水は対照と同じままであった。従って、本発明者は、活性化トルマリン組成物により処置された毛髪が、毛髪中の強固に結合した水を増加させるのに有効であることを見出した。
【0053】
毛髪の寸法
本発明者はまた、種々の処置の結果としての繊維寸法の変化を測定した。それぞれ60本の毛髪繊維の4群を、以下のように準備した。1群は対照であり、Bumble and Bumble Alojobaシャンプーで洗浄し、リンスし、ブロー乾燥した。1群は、MIZANI(登録商標) Rhelaxerで処置した(各繊維に0.3mLを塗布)。1群は、クリーム基材中の2%赤色トルマリン(処方1を参照されたい)で処置し(各繊維に0.2mLを塗布)、続いてブロードライヤーで約5分間加熱した。1群は、ゲル基材中の2%赤色トルマリン(処方2を参照されたい)で処置し(各繊維に0.2mLを塗布)、続いてブロードライヤーで約5分間加熱した。
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
続いて、繊維を80%相対湿度に平衡化した。Fibre Dimensional System(FDAS765、Dia-Stron)を用いて断面直径を測定した。処置前及び処置後の平均断面の値を以下の表に示す。
【表5】

【0056】
対照は、処置後の直径について有意差を示さなかった。2%トルマリンゲルでは、直径が61%増大し、これはp<0.001で非常に有意であった。2%トルマリンクリームでは、直径が55%増大し、これもまたp<0.001で有意であった。対照的に、Mizani(登録商標)製品は有意な程度で直径の増大を生じなかった。
【0057】
X線散乱
広角X線散乱(WAXS)及び小角X線散乱(SAXS)を用いて、種々の処置後の毛髪繊維のタンパク質ケラチン構造を決定した。
【0058】
5種類のサンプルを準備した。対照サンプルは処置しなかった;1種類のサンプルは、基本製剤で処置し、ブロー乾燥した;1種類のサンプルは、基本製剤中の2%トルマリンで処置し、ブロー乾燥した;1種類のサンプルは、2%NaOH(pH=13.45)で処置し、ブロー乾燥した;1種類のサンプルは、基本製剤中の4%尿素(pH=7)で処置し、ブロー乾燥した。
【0059】
WAXSデータは、毛髪繊維のα、β、α+β等のタンパク質ケラチン二次構造についての情報をもたらし、SAXSデータは、コイルドコイル、不定型、整列した糖タンパク質分子等の1〜100nmの毛髪繊維中の長手距離構造についての情報をもたらす。以下の分析に関して、「強」とは、サンプルの優勢な/シャープなタンパク質構造と定義され、「弱」とは、存在する/ブロードな/はっきりしないタンパク質構造と定義され、「不存在」とは、毛髪繊維中に構造が存在しないことを意味する。「出現」とは、X線がタンパク質構造を測定した空間と定義される。2次元X線散乱画像では、強、弱及び不存在のタンパク質構造をはっきりと区別することができた。これらは、散乱ベクトルqの一定の値で、強、弱又は不存在の反射(円弧/点/環)として現れている。q値を含む結果を、以下の2つの表に列挙する。
【表6】

【0060】
【表7】

【0061】
対照サンプルは、強いαケラチン構造、弱いβ構造、及び弱いα+β構造を有する。これはコイルドコイル構造を有する。WAXSは、このサンプルについて0.40nmで非常に弱いピークを示したが、そのタンパク質構造は明らかになっておらず、不均一な毛髪構造による可能性があることに留意すべきである。SAXSデータは、対照サンプルが6.7nmの子午線反射を有することを示し、これは、コイル-コイルケラチン構造に対応する。
【0062】
基本製剤サンプルは、強いαケラチン構造を有し、広角X線散乱領域での2つの独特の特徴を有する:(1) 1.15nmを中心とするブロードな赤道上のスポット、これは、αヘリックスの軸と軸の間の平均距離又は間隔に対応する、及び(2) 0.58nmでのはっきりした子午線円弧、これは、コイルドコイルの軸に沿ったαヘリックスのピッチの予測に関連し、あまりきちんと並んでいないコイルドコイルの0.57nm付近の広い円弧より大きい。サンプルは、コイルドコイル構造及び整列した糖タンパク質分子を有しない。SAXSデータは、サンプル0について5.8nm及び4.0nmで構造を示したが、これらの形状は明らかになっていない。これは、不均一な毛髪構造による可能性がある。
【0063】
WAXSデータは、2%トルマリンサンプルが、強いα構造、強いβ構造、及び強いα+β構造を有することを示す。SAXSデータは、コイルドコイル構造及び整列した糖タンパク質分子の両方を示す。
【0064】
2%NaOHサンプルは、他のものとは異なる。これはαケラチン構造を有さず、1.58nm付近の子午線円弧を有さず、赤道上のスポットも有しない。弱いベータ構造(0.52nmでの赤道上円弧)及び弱いα+β構造が観察される。WAXSは、サンプル2について0.36nmでの非常に弱いピークを示すが、そのタンパク質構造は明らかになっておらず、不均一な毛髪構造による可能性があることに留意すべきである。SAXSデータは、サンプル2が整列した分子タンパク質構造を有しないことを示す。
【0065】
4%尿素サンプルは、強いα構造、強いβ構造、及び弱いα+β構造を有する。コイルドコイル構造及び2%トルマリンサンプルのものよりも明白な4.7nmピーク(整列した糖タンパク質分子)の両方を有する。
【0066】
WAXSデータに基づけば、2%トルマリン処置の影響は、強いβ構造及び強いα+β構造の形成であるようである。
【0067】
SAXSデータに基づけば、2%トルマリン処置の影響は、コイルドコイル構造及び整列した糖タンパク質分子の形成であるようである。
【0068】
ジスルフィド相互作用は三次構造であるため、新たな二次構造の形成を、毛髪中のジスルフィド結合の破壊及び/又は再構築により説明することができないとは考えにくい。しかし、この場合はそうではない。例えば、一部の他の薬剤が二次構造に影響することができるのは、十分な数のジスルフィド結合が破壊された後のみであり得る。いずれにせよ、本発明者らは、活性化されたトルマリンが、ジスルフィド結合を切断し、二次構造を強化し、ヒトケラチンの強固に結合した水分含量を増加させることを間違いなく観察している。何らかの理論に拘束されることを望むものではないが、追加的な二次構造の形成は、上で観察されたように含水量の増加の少なくとも一部を説明するのに十分である。追加的な構造は、水を保持する状況をより多く付与するだろう。
【0069】
他の好適な物質
これらの概念実証試験によってのみ、赤色トルマリン以外の物質が本発明で有用であると考えられることが明らかになる。例えば、種々の他のトルマリン(すなわち、黒色、緑色、ピンク色、褐色、青色)は、赤色トルマリンと同様に有用であると予想される。近赤外及び中赤外で放射し、本明細書中に記載された実用温度で90%を超える放射率を有する、様々なセラミック及び非金属も、有用であり得る。グラファイト、石こう及びクレイは、有用な非金属の例である。いずれの候補物質も、上述した基準を満たさなくてはならない。
【0070】
組成物
本発明の組成物は、一定の基準を満たさなければならない。例えば、組成物は、化粧品として許容可能であり、かつ商業的に実用的でなければならない。「化粧品として許容可能」及び「商業的に実用的」などは、通常、製造、流通及び消費者の使用の典型的な条件で、組成物が安定であることを意味する。「安定」とは、パーソナルケア用組成物の1以上の特性が、製造後のある最低限の時間内に許容できないレベルまで悪化しないことを意味する。好ましくは、その最低限の時間は、製造から6ヵ月、より好ましくは製造から1年、最も好ましくは製造から2年以上である。
【0071】
本発明に係る有効な組成物としては、ヒト毛髪中の水を増加させる強度及び波長範囲で光子を発するか又は発するように誘導される組成物が含まれる。本発明の組成物は、合理的な量で用いた場合に有効でなければならない。組成物は、毛髪に塗布される組成物の量が、消費者が合理的であると考えるであろうものである場合にのみ、有効であるとみなされる。例えば、ローション組成物が毛髪中の水を増加させるが、1ガロンの組成物が必要である場合、これは本発明において有効な組成物ではない。パーソナルケア用毛髪用製品の分野の当業者は、消費者が合理的であると考えるであろうものの非常によいアイデアを有する。1回の処置に必要な本発明の組成物の量は、処置される毛髪のタイプ及び量に依存する。しかしながら、経験から、好ましくは約5オンス以下、より好ましくは約2.0オンス以下、最も好ましくは約1.0オンス以下の本発明の組成物が、頭部全体の毛髪の処置を完了するのに有効であることが示唆される。これらの量は、商業的理由及び消費者側の理由に対して好ましいが、本発明は、状況が必要とすれば、より大きな量も想定している。
【0072】
本明細書中で論じるガイドラインの範囲内では、実質的には、ヒト毛髪に対して有益又は安全である、化粧品として許容可能又は商業的に実用的ないかなる組成物でも、基本組成物として機能することができる。一般的には、基本組成物は好適な物質により放射される電磁波をあまり多く吸収してはならず、また、基本組成物は好適な物質の活性化又は不活性化を妨害してはならないと言うことができる。それらの制限を伴って、本発明の組成物は、毛髪に恩恵をもたらすことが知られているいかなる成分、安定な製品をもたらすのに必要ないかなる成分、及び製品をより化粧品として許容可能又は商業的に実用的にするいかなる成分も、含有することができる。
【0073】
本発明の組成物は、本明細書中に開示した化学物質を用いないメカニズムに対する補助として、化学的保湿剤を含有することができる。しかしながら、好ましくは、本発明の組成物は、所望ではない又は予期できない他の作用を有する可能性があることから、化学的保湿剤を有しない。好ましくは、毛髪の含水量を増加させる唯一のメカニズムは、組成物中のトルマリン又は他の好適な物質から供給される電磁波放射への曝露によるものである。
【0074】
本発明の組成物は、化学的毛髪着色剤又は化学的毛髪成形剤を有利に含む場合がある。当技術分野で周知のこのタイプの化学的毛髪着色反応及び毛髪成形反応は、毛髪にダメージを与え、乾燥させる傾向があり、そのため本明細書に開示する技術の使用によってダメージを弱めることが予想される。
【0075】
組成物は、処置される毛髪の区画にわたって、かつ根本から先端までのその長さに沿って、組成物を広げることができる限り、実質的にはいかなる形状も(固体又は半固体でさえも)有し得る。
【0076】
好適な物質は、基本組成物に添加することができるし、あるいは、状況が必要とするか又は許し得るいずれの様式でも、基本組成物の製造中に添加することができる。一部の好適な物質は、簡単な混合により組成物に組み込むことができ、他のものは前処理を必要とする場合がある。組成物は、数例を挙げると、混合物、懸濁物、エマルジョン、固体、液体、エアロゾル、ゲル、又はムースであり得る。組成物は、シャンプー又はコンディショナーの形態であり得る。組成物は、含水性であるか、又は実質的に無水であり得る。「実質的に無水」とは、約10%未満の総含水量を意味する。
【0077】
トルマリンは、約1%ほども低い濃度で有用であると予測される。上限に関して、一般的には、トルマリン又は他の好適な物質の濃度に対する実際的な上限がある。しかしながら、いずれの特定の好適な物質の実際的な上限は多くの因子に依存し、そのうちの重要なものは、ある結果を得ることを予期して、消費者がどれだけの量の製品を塗布するかである。つまり、市販製品では、試行錯誤又は消費者使用試験が、好適な物質の濃度を決定するための最良の方法である。管理された試行錯誤実験の例は、漸増濃度の好適な物質を含む既定量の組成物を用いて毛髪サンプルを強化し、かつ追加的な恩恵がもたらされない濃度を観察することであり得る。既定量は、所与の量及びタイプの毛髪に対して、どれだけの量の製品を消費者がよく使うかについての市場知識に基づくべきである。有用な組成物は、約1%までの1種以上のトルマリン、好ましくは約2%までの1種以上のトルマリン、より好ましくは約5%までの1種以上のトルマリンを含有するであろう。トルマリンは、組成物の少なくとも約10%までの濃度で有用であると予測される。他のより効率のよい放射性物質(より高い放射率)は1%よりもずっと低い濃度で有用であり得、効率の低い物質(より低い放射率)はより高い濃度(例えば、約5%超、又は例えば、約10%超でさえ)でのみ有用であり得る。
【0078】
処方3は、5%トルマリンを含有する、化粧品として許容可能、商業的に実用的な、有効な本発明の組成物の例である。
【表8】

【0079】
手順:
順序1:主ケトル中で、水及びAristoflex(登録商標)を添加する。透明になり均一となるまで室温で混合する。混合を継続し、グリセリン、フェノキシエタノール、PVP及びグリセリン/水/PCAナトリウム/尿素/トレハロース/ポリクオタニウム-51/ヒアルロン酸ナトリウムをゆっくりと添加する。温度を70〜75℃まで上昇開始する。
【0080】
順序2:別のケトル中で、セテアリルアルコール、ステアリン酸PEG-100、セチルアルコール、ワセリン及びシアバターを添加する。温度を75℃まで上昇させ、溶液が透明になるまで混合する。
【0081】
順序2を順序1に添加し、温度を40〜45℃まで低下させる。混合を継続し、ポリクオタニウム-7及び赤色トルマリンを添加する。混合を継続し、室温まで冷却する。
【0082】
方法
本発明は、本明細書中に記載される組成物の使用方法を含む。基本的な方法は、本発明の組成物を準備するステップ;光子を発するように該組成物を活性化するステップ;及び光子を毛髪中のジスルフィド結合により直接的に吸収させるステップを含む。塗布する組成物の量は、好ましくは約5オンス以下、より好ましくは約2オンス以下、最も好ましくは約1オンス以下である。組成物を塗布するステップは、処置される毛髪の区画にわたって、根本から先端までのその長さに沿って、組成物を広げるステップを含む。活性化ステップは、組成物を活性化するのに十分な時間にわたり、毛髪の区画に温風流を向けるステップを含むことができる。あるいは、活性化ステップは、LED又はレーザーなどからの可視光を、毛髪の一区画に照射するステップを含むことができる。方法は、処置の前又は後に毛髪を洗浄するステップを含むことができる。方法は、毛髪の同じ区画への塗布を繰り返すステップ又は毛髪の同じ区画に補助的処置を用いるステップを含むことができる。
【0083】
熱により活性化される放射を介して毛髪を保護し毛髪中の含水量を増加させる、商業的に実用的で、局所的に塗布される、安全かつ安定な組成物の概念は、新規であり、かつ自明ではない。達成された結果は、予測されたものではなく、先行技術のいずれとも似ていなかった。毛髪は、きつい化学物質に曝露されず、いやな匂いは生じない。新規性及び非自明性は、以下の事実によっても一部分実証される:この課題が明らかになったのはこれが初めてであり;本明細書が該課題に対する解決手段が満たすべき基準のリストの最初の開示であり;それらの基準を満たす組成物が開示されたのはこれが初めてである。言い換えれば、本発明者らは、課題を明らかにし、いくつかの解決手段を見出し、さらに該課題に対する全ての他の解決手段に対する基準を定義した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト毛髪の強固に結合した水含量を増加させるのに有効な強度及び波長範囲で光子を発するか又は発するように誘導される、局所用毛髪組成物。
【請求項2】
波長範囲が0.15〜30μmである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
40℃〜80℃に加熱された際に、0.15〜30μmの波長範囲で、少なくとも0.80の放射率を有する物質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記物質がトルマリンである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
1%〜10%トルマリンを含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
消費者の観点から、安全、安定かつ商業的に実用的である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
1種以上のフィルム形成剤をさらに含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
1種以上のポリビニルピロリドンベースのフィルム形成剤を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
以下のステップ:
請求項1に記載の組成物の一定量を準備するステップ;
光子を発するように該組成物を活性化するステップ;及び
光子を毛髪中のジスルフィド結合により直接的に吸収させるステップ
を含む、ヒト毛髪の強固に結合した水含量を増加させる方法。
【請求項10】
前記組成物の一定量が、約2オンス以下である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
活性化ステップが、前記毛髪の一区画を少なくとも40℃に加熱するステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
活性化ステップが、前記毛髪の一区画を少なくとも60℃に加熱するステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
加熱ステップが、前記組成物を活性化して、ヒト毛髪の強固に結合した水含量を増加させるのに十分な時間にわたり、前記毛髪の一区画に温風流を向けるステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
温風流がヘアドライヤーにより供給される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記十分な時間が約30分未満である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記十分な時間が約10分未満である、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−518644(P2012−518644A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551233(P2011−551233)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/024655
【国際公開番号】WO2010/096610
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(598100128)イーエルシー マネージメント エルエルシー (112)
【Fターム(参考)】