説明

毛髪保護剤並びにそれを用いた毛髪化粧料、毛髪処理方法、染毛方法及び毛髪のパーマネント処理方法

【課題】シリコーン等のコーティング剤により一時的に毛髪のダメージを隠蔽することはできるが、根本的な解決には至らず、また長期間の使用においては、毛髪に更なるダメージを与えることもあるため、生体及び環境適合性に優れた天然物由来成分を有効成分とする毛髪保護剤が求められている。
【解決手段】褐藻類を、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、およびtert−ブチルアルコール、並びにこれらの混合物からなる群から選択される低級アルコールを含む溶媒を用いて抽出して得られた抽出物からなる毛髪保護剤により上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪保護剤並びにそれを用いた毛髪化粧料、毛髪処理方法、染毛方法及び毛髪のパーマネント処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪は紫外線、乾燥、洗髪、パーマ、染色、老化等の要因により様々なダメージを受け、次第にそのしなやかさや色艶を喪失する。毛髪の最もダメージを受けやすい部位は最外層を形成しているエピキューティクルである。エピキューティクルは疎水性の薄膜で、これがダメージを受けると、毛髪の親水層が露出し毛髪の内部構成成分の流出を招く。結果として、毛髪の保水性、しなやかさ、色艶が損なわれる。また、毛髪は、パーマ剤やヘアカラー剤等の使用によって化学的損傷を受け、ヘアドライヤーやヘアアイロン等の使用によって毛髪は物理的損傷を受け、このような化学的、物理的損傷を受けた毛髪は、その内部からケラチンタンパク質、細胞間脂質および油性成分が流出し、また、損傷を受けた毛髪の表面では、脂質等の油分が流出すると共にキューティクルが剥がれ、特にパーマ剤やヘアカラー剤の繰り返し使用によって、毛先部分がパサつき、まとまりが悪くなり易いとされている(特許文献1等参照)。これらを保護・改善する方法として種々の物質が提案され、アニオン界面活性剤、カチオン性高分子、シリコーン等の成分が使用されている。
【0003】
前記シリコーン等のコーティング剤により一時的に毛髪のダメージを隠蔽することはできる。しかしながら、根本的な解決には至らない。長期間の使用においては、毛髪に更なるダメージを与えることもある。そこで、従来から、生体及び環境適合性に優れた天然物由来成分を有効成分とする毛髪保護剤が求められている。
【0004】
一方、生体及び環境適合性に優れ、医薬品、健康食品等に添加される有効な天然物由来成分として褐藻類のモズクから得られるフコイダンが知られている(例えば、特許文献2等参照。)。前記フコイダンは、沖縄やトンガ王国等のモズクから得られたものがよく知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4065282号公報
【特許文献2】特許第3452894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記シリコーン等のコーティング剤により一時的に毛髪のダメージを隠蔽することはできるが、根本的な解決には至らない。またそれらを長期間使用した場合、毛髪に更なるダメージを与えることもある。そこで、従来から、生体及び環境適合性に優れた天然物由来成分を有効成分とする毛髪保護剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは褐藻類から特定の方法で抽出した抽出物が、毛髪との親和性が高く、パーマネント処理や染毛時の染色の施術効果を高め、その際に生じる毛髪の深刻なダメージを緩和するばかりではなく、パーマネント処理や染毛の染色を長期間維持できること、更に、医薬品、健康食品等に添加される有効な天然物由来成分として知られている褐藻類のモズクから得られるフコイダンを併用することで、前記効果を更に高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1は、褐藻類を、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、およびtert−ブチルアルコール、並びにこれらの混合物からなる群から選択される低級アルコールを含む溶媒を用いて抽出して得られた抽出物からなる毛髪保護剤である。前記抽出物が、上記の如き毛髪のダメージの保護作用や染色時のカラーリングの安定性、保持性を有することについては、従来、全く知られていなかった。
【0009】
好ましい実施態様としては、前記抽出物を乾燥、粉末化し、これを水に溶解して毛髪保護剤とする。
【0010】
本発明に用いる前記低級アルコールとしては、エタノールを用いることが好ましい。
【0011】
前記褐藻類としては、褐藻植物(Phaeophyceas)の、ナガマツモ科(Chordariaceae)、ニセモズク科(Acrohtricaeae)及びモズク科(Spermatochnaceae)に属する藻類から選ばれた少なくとも1種の藻類を用いることができる。
【0012】
好ましい実施形態としては、前記褐藻類として、モズクを用いる。
【0013】
本発明の第2は、フコイダンを含む毛髪保護剤と、上記抽出物からなる本発明の毛髪保護剤との2剤からなる毛髪保護剤である。
【0014】
本発明の第3は、フコイダンを含む毛髪保護剤と、上記抽出物からなる本発明の毛髪保護剤と、更に前記上記抽出物からなる本発明の毛髪保護剤との3剤からなる毛髪保護剤である。
【0015】
本発明の第4は、フコイダンを含む毛髪保護剤と、上記抽出物からなる本発明の毛髪保護剤とを混合してなる毛髪保護剤である。
【0016】
本発明の第5は、上記抽出物からなる本発明の毛髪保護剤を有効成分とする毛髪化粧料。
【0017】
本発明の第6は、フコイダンを含む毛髪保護剤と、上記抽出物からなる本発明の毛髪保護剤とを有効成分とする毛髪化粧料である。
【0018】
本発明の第7は、上記本発明の毛髪保護剤又は毛髪化粧料を用いてなる毛髪処理方法である。
【0019】
上記毛髪処理方法の好ましい実施態様としては、フコイダンを含む毛髪保護剤を含む第1液と、上記抽出物からなる本発明の毛髪保護剤を含む第2液とを用いる。
【0020】
また、上記毛髪処理方法の好ましい実施形態としては、フコイダンを含む毛髪保護剤を含む第1液と、上記抽出物からなる本発明の毛髪保護剤を含む第2液と、上記抽出物からなる本発明の毛髪保護剤を含む第3液とを用いる。
【0021】
また、上記毛髪処理方法の好ましい実施態様としては、第1液が、アルカリ水とフコイダンを含む毛髪保護剤を含む。
【0022】
また、上記毛髪処理方法の好ましい実施態様としては、第2液及び/又は第3液が、酸性水と請求項1〜8のいずれかに記載の毛髪保護剤を含む。
【0023】
上記本発明の毛髪処理方法は、染毛時に施術するとよい。
【0024】
また、上記本発明の毛髪処理方法は、パーマネント処理時に施術するとよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の毛髪保護剤及び毛髪保護化粧料を用いることにより、パーマネント処理、染毛、老化、紫外線、シャンプー等によってダメージを受けやすい毛髪のエピキューティクルを保護し、美しく艶のある健康的な毛髪を維持できる。さらには既にダメージを受けている毛髪を健康な状態に改善するのにも非常に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る毛髪保護剤は褐藻類から特定の方法で抽出されるものである。
【0027】
本発明に係る毛髪保護剤の出発原料として用いることのできる褐藻類としては、例えば、褐藻植物(Phaeophyceas)の、ナガマツモ科(Chordariaceae)、ニセモズク科(Acrohtricaeae)またはモズク科(Spermatochnaceae)に属する藻、例えばモズク(Nemacystus decipiens OKAM)を含む。また、天然モズク、養殖モズクのいずれでもよく、収穫直後の新鮮モズク、収穫後特別な処理を行っていない生モズクの他、冷蔵モズク、冷凍モズク、塩蔵モズク等の処理・加工等されたモズクでもよい。
【0028】
本発明に係る毛髪保護剤は、前記褐藻類から低級アルコールを含む溶媒を用いて抽出される。本発明で用いることのできる低級アルコールは、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、およびtert−ブチルアルコール、並びにこれらの混合物を含む。安全性、コスト等の観点から、エタノールが好ましい。
【0029】
本発明で用いられる溶媒のアルコール濃度は適宜決定することができる。上限値は、原料褐藻類中の有用な成分(例えば、フロロタンニン類やフコイダンなど)の溶出の有無、原料褐藻類の水分含量、コストなどに応じて決定してもよい。下限値は、好ましくは最終アルコール濃度が約10〜95%、更に好ましくは約40〜80%、最も好ましくは約45〜60%である。本明細書において、褐藻類の抽出処理に関して「最終アルコール(またはエタノール)濃度」(単に「アルコール濃度」ということもある)というときは、特別の場合を除き、式:最終アルコール濃度(%)=[(アルコール容積)/(アルコール容積+水容積)]×100により得られる容積に基づいた濃度(v/v)をいう。
【0030】
また、抽出処理する褐藻類とアルコールを含む溶媒との比も適宜決定することができる。コスト、処理のための時間、アルコール濃度、原料褐藻類の水分含量、褐藻類中の有用な成分(例えば、フロトタンニン類やフコイダンなど)の溶出の有無などに応じて決定してもよい。具体的には、例えば、原料褐藻類1(重量)に対して、好ましくは約0.1〜10,000倍、更に好ましくは約0.5〜1,000倍、最も好ましくは、約1〜100倍量(容積)の溶媒を加える。
【0031】
本発明に係る毛髪保護剤の有効成分である褐藻類の抽出物の抽出の過程では、褐藻類に含まれる有効成分のひとつであるフコイダンを多量に含む乾燥モズクとして得ることもできる。従って、上記本発明の抽出工程では、得られる乾燥モズクに新鮮モズクの特徴的色調である褐〜緑色を維持させる観点から、溶媒にアルカリを添加するとよい。本明細書でいう「アルカリ」は、溶媒pHを塩基性側に変動させうるものであり、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを含むアルカリ金属水酸化物、並びに水酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムを含むアルカリ土金属の水酸化物を包含する。アルカリ濃度は、適宜設定することができる。好ましくは、溶媒における最終濃度が約0.01〜1000mM、より好ましくは約0.1〜100mM、最も好ましくは、約1〜50mMである。または、溶媒のpHを弱アルカリ付近とする量であり、例えばpHを約7.1〜9.0、好ましくは約7.1〜8.5、より好ましくは約7.5〜8.0とする量である。
【0032】
本発明の抽出工程では、撹拌、振とう、および浸漬・搬出の繰り返し、並びにこれらの組合せ等の操作を適宜行うことができる。抽出のための時間も適宜設定することができる。
【0033】
抽出工程は、主としてアルコールの有する脱水作用及びモズクなどの原料褐藻類の保水力を消失させる作用に基づいて、褐藻類を脱水処理する工程である。本工程の処理を経た褐藻類の脱水率は、アルコール濃度および/または処理時間等を変動させることにより目的の値とすることができる。乾燥モズクを得る後工程において簡易に乾燥を行うためには、抽出工程処理後の残渣物としての脱水された褐藻類(モズクなど)の脱水率は、好ましくは約20%以上(例えば約20%〜99.9%)、より好ましくは約40%以上(例えば約40%〜99.9%)、さらに好ましくは約60%以上(例えば約60%〜99.9%)である。なお、前記脱水率(%)とは、式:脱水率(%)=[(原料褐藻類の重量)−(処理後の褐藻類重量)]/(原料褐藻類の重量)×100により得られた値をいう。ここでいう原料とは、抽出工程に供する前の処理前の褐藻類であり、処理後の褐藻類とは低級アルコールを含む溶媒による抽出工程を経た直後、すなわち、前記抽出残渣物から乾燥モズクなどの乾燥物を得るための乾燥工程等を経ていない褐藻類(モズクなど)をいう。重量測定は、当業者が通常行う方法による。軽く水切りすることが適切な場合もある。
【0034】
上記低級アルコールを含む溶媒による抽出操作によれば、また、原料褐藻類からのNaClなどのミネラル成分の抽出も行われる。従って、残滓物である抽出後の褐藻類については、アルギン酸やフコイダン等の有用成分を消失することなく脱塩を行うことができ、抽出残滓物から乾燥モズクなどを製造する過程での脱塩工程を省略することができる。
【0035】
前記のように、本発明に係る毛髪保護剤の有効成分は、褐藻類を低級アルコールを含む溶媒で抽出して得られるが、抽出残渣物に更に低級アルコールを含む溶媒を添加し、前記と同様の抽出操作をすることで、目的とする抽出物をより高収率で得ることができると同時に、抽出残滓物である脱水褐藻類(モズク)の脱水率をより高めることにもなる。
【0036】
前記のようにして褐藻類から低級アルコールを含む溶媒により抽出された抽出物は、抽出液の状態でそのまま用いてもよいが、該抽出液から脱塩処理を行ったものを用いてもよい。脱塩処理は、たとえば、イオン交換膜を用いた周知の電気透析装置を利用することができる。また本発明では、溶媒を完全に除去し毛髪保護剤として使用した時の毛髪等への悪影響をなくす観点から、上記のように脱塩処理された抽出液を乾燥、粉末化し、これを水に溶解して用いてもよい。前記抽出液の乾燥、粉末化を行う方法としては、例えば噴霧乾燥(スプレードライ)法、凍結乾燥法、流動層造粒法、又は賦形剤を用いた粉末化法などの従来公知の方法を適宜採用することができる。中でも、噴霧乾燥法は、公知の噴霧乾燥装置(スプレードライヤー)を用いて安価で大量生産が容易であることから好ましい。
【0037】
上記のようにして得られた褐藻類からの抽出物は、そのまま単独で毛髪保護剤として使用してもよいし、他の添加物などを適宜添加して使用してもよいし、更に水を添加して使用してもよい。この場合に使用する水としては、酸性水が好ましい。これは、以下のような理由による。当該毛髪保護剤ないしその含有液は、後述する毛髪処理において、パーマネントのI液(通常アルカリ性を示す。)による処理後、パーマネントのII液(通常酸性を示す。)による毛髪の処理前に使用するものである。そのため、酸性であるパーマネントのII液による処理を妨げることがないように、その処理前に用いる毛髪保護剤の含有液を酸性にするのが好ましいからである。
【0038】
なお、前記酸性水とは、電解水のうち−イオンを有するものである。すなわち、殺菌力を有する水を生成する装置として、水を、酸性水とアルカリ水とに分離する装置が開発されている。この装置は、水を酸性水とアルカリ水とに分離する電解槽を備え、電解槽は、内部に対向し設けた電極の間を隔壁で区画している。隔壁は、酸性水とアルカリ水とに分離された水が混合するのを防止するもので、イオンを通過させて、水を自由に通過させない微多孔膜が使用されている。この装置は、電解槽に流入される水に通電すると、対向した一対の電極の一方の+電極の近傍には塩素イオン等の−イオンが集まって酸性水となり、他方の−電極の近傍にはナトリウムやカルシウム等の+イオンが集まってアルカリ水となる。
【0039】
更に、本発明の抽出物は、フコイダンを有効成分として含む毛髪処理剤等と組み合わせてもよい。これにより、より効果的な毛髪保護剤を得ることができる。このようなフコイダンは、所望の褐藻類等を公知の方法で処理して得られたものを用いることができる。例えば、前述の出発原料として用いる褐藻類を、熱水或いは冷水により抽出する方法、酸或いはアルカリ水溶液により抽出する方法などが挙げられる。熱水抽出法は、前記褐藻類を熱水(例えば60〜100℃)に懸濁して抽出を行い、懸濁液から沈殿を除いて上清を得て、必要に応じ上清について塩析、ろ過及び/又は透析等の精製操作を行い、更に必要に応じて凍結乾燥等の操作を行ってフコイダンを得るものであり、酸抽出法は、前記褐藻類を塩酸等の酸水溶液に懸濁して抽出を行った後、前記熱水抽出の場合と同様の懸濁液等の処理を行いフコイダンを得るものである。これらの方法において、必要により活性炭、多孔性吸着樹脂、イオン交換樹脂、透析、限外ろ過、エタノールによる分別等をさらに行う工程を追加してもよい。
【0040】
この場合、前記褐藻類としては、本発明の上記抽出工程で得られる残渣物をそのまま用いても良いし、当該抽出残渣物を脱水、更には乾燥する工程を経て得られる褐藻類(乾燥モズクなど)を使用してもよい。後者(乾燥する工程を経て得られる褐藻類)の場合、フコイダンなどの有効成分を多量に含む乾燥褐藻類(乾燥モズク)を得ることができる。前記抽出残渣物から、フコイダンなどの有効成分を多量に含む乾燥褐藻類(乾燥モズク)を得る工程は、本発明の抽出工程において残渣物として残った褐藻類を乾燥させて、乾燥した褐藻類(乾燥モズクなど)を得るための工程である。前記「乾燥」とは、水分含量を低下させるような処理(例えば、水切り)を広く含む。本工程の乾燥には、従来技術を用いることができる。例えば、遠心、圧搾、吸収体との接触またはメッシュ上に維持すること等による水分除去、天日乾燥、温風乾燥、冷風乾燥、および減圧乾燥、並びにこれらの組合せを用いることができる。水戻しの際、生の褐藻類と同様の食感を再現し、製造コストを低減させる観点からは、約40〜50℃の温風乾燥が好ましい。この方法によれば、本発明の抽出工程を経ることにより、残滓物としての褐藻類の脱水に要する時間を通常より短くすることができる。また、乾燥の際の温度等の条件を穏やかなものとすることができる。このことは、時間、労力、費用、設備削減等の点で好ましいばかりでなく、新鮮な褐藻類の色調、風味、食感を維持したままで乾燥した褐藻類を得ることができる点でも好ましい。この方法により得られた乾燥した褐藻類(乾燥モズクなど)は、水で戻したときに、新鮮な褐藻類(モズクなど)に近い色調、風味、食感を呈する。
【0041】
前記乾燥した褐藻類(乾燥モズク)は、特許文献2(特許第3452894号公報)で得られる乾燥モズクと同様であり、新鮮モズクと比較して遜色のない、高品質の乾燥モズクである。この乾燥モズクは、食品にも直接利用できるとともに、一般的な調理目的の利用以外に、フコイダンの原料として注目されている。この乾燥モズクは、食用、食品材料としてのみならず、フコイダン原料としても有用であり、安価で安全性のより高いフコイダンの製造を可能にする。
【0042】
本発明では上記抽出工程で残渣物から得られるフコイダンを有効成分とする毛髪保護剤を、前記褐藻類から低級アルコールを含む溶媒により抽出して得られた抽出物を有効成分として含む毛髪保護剤と併用、混合して用いてもよい。これにより、パーマネント処理、染毛、老化、紫外線、シャンプー等によってダメージを受けやすい毛髪のエピキューティクルを保護し、美しく艶のある健康的な毛髪を維持する効果がより向上する。さらに、既にダメージを受けている毛髪を健康な状態に改善するのにも極めて有効となる。前記乾燥モズクを原料として毛髪保護剤を調製する際には、上記した電解水のアルカリ水と酸性水のうちのアルカリ水を用いることが好ましい。その理由は以下のとおりである。即ち、当該毛髪保護剤ないし含有液は、後述する毛髪処理において、パーマネントのI液(以下、パーマI液という場合がある。)による処理の前に用いられるが、このようにアルカリ水を使用して調製した前記毛髪保護剤の含有液を用いると、その後の通常アルカリ性を示すパーマI液による毛髪の処理を妨げることがないためである。
【0043】
本発明に係る褐藻類からの低級アルコール抽出物を有効成分とする毛髪保護剤は、これを単独で使用してもよいし、前記したようにフコイダンを有効成分とする毛髪保護剤と併用してもよいし、更には両者を混合して使用してもよい。
【0044】
例えば、本発明に係る毛髪処理方法としては、前記フコイダンを含む毛髪保護剤を含む第1液と、本発明に係る抽出物を有効成分とする毛髪保護剤を含む第2液とを用いてなる方法、前記フコイダンを含む毛髪保護剤を含む第1液と、本発明に係る抽出物を有効成分とする毛髪保護剤を含む第2液と、同じく本発明に係る抽出物を有効成分とする毛髪保護剤を含む第3液とを用いる方法などが挙げられる。
【0045】
毛髪処理の例としては、カラー(染毛)、パーマネント(ウェーブ、ストレートなど)が挙げられる。これら毛髪処理の具体的な施術方法としては、まず、定法どおりにシャンプーを行う。このとき、パーマI液による毛髪の処理を効果的に行う観点から、シャンプーとアルカリ水とを1:1の割合で用いることが好ましい。次に、フコイダンを含むアルカリ水(毛髪処理剤)を髪全体に、頭皮を含めてまんべんなく塗布する。フコイダンを含むアルカリ水の濃度は特に限定されないが、毛髪のダメージが大きいほど高濃度とすることが好ましい。次に、ウェットのまま、カラー剤あるいはパーマI液を塗布する。その後、パーマネント処理にあっては本発明の抽出物を含む毛髪保護剤またはこれを希釈した化粧料により中間リンスを施した後、パーマネントのII液(以下、パーマII液という場合がある。)を塗布、放置する。ストレートの場合は、放置の後すすぎを行う。一方、カラー(染毛)の場合には、適宜シャンプーを行う。これらの処理の後、本発明に係る抽出物を有効成分とする毛髪保護剤、好ましくは酸性水を用いた毛髪化粧料を髪全体にもみこむ。すすぎを行った後、適宜トリートメントを行う。使用するトリートメントは市販のものでよい。
【0046】
前記のような、本発明に係る、褐藻類の抽出物を有効成分とする毛髪保護剤、更にはフコイダンを有効成分とする毛髪保護剤を用いることで、パーマネント処理、染毛、老化、紫外線、シャンプー等によってダメージを受けやすい毛髪のエピキューティクルを保護し、美しく艶のある健康的な毛髪を維持でき、また、既にダメージを受けている毛髪を健康な状態に改善することもできる。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
<毛髪保護剤の調製>
[褐藻類の低級アルコール含有溶媒抽出]
褐藻類(トンガ王国産モズク全藻)に等量の99.5%エタノールを加え、充分に撹拌した後、室温にて30分〜1時間放置し、溶媒可溶成分を抽出した。これをろ過して残渣物と抽出液(濾液)とに分離し、抽出液を電気透析装置により脱塩およびエタノール除去を行った。得られた液を、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、乾燥粉末を得た。該乾燥粉末をその含有量が3重量%となるように精製水に溶解し、毛髪保護剤Aを得た。
【0048】
[褐藻類からのフコイダンの抽出]
前記残渣物に10倍量の精製水を加え、80℃で7〜8時間加熱し、水溶性成分を抽出した。次いでフィルタープレス機にて清澄化した後、限外濾過し、得られた濾液を95℃で10分殺菌し、毛髪保護剤B(フコイダン含有量:1.2重量%)を得た。
【0049】
(実施例2)
<ストレートパーマ>
10代女性1(傷みの激しい毛髪)の洗髪後の髪全体に、第1液としてアルカリ水と前記毛髪保護剤Bから成る毛髪化粧料ア(B含有率10wt%)をまんべんなく塗布し、さらに市販のパーマI液を塗布した。一定時間放置し、軟化確認後、洗髪し、第2液として酸性水と前記毛髪保護剤Aから成る毛髪化粧料イ(A含有率3wt%)を髪全体にまんべんなく塗布し、乾燥させた。次に、アイロン処理し、市販のパーマII液を塗布し、一定時間放置後、水ですすぎ洗いした。その後、さらに第3液として毛髪化粧料イを髪全体に塗布し、もみ込んだ。その後水ですすぎ洗いして、トリートメントを行った。本発明の保護剤を使用し当該毛髪処理を行うことにより、指通り、艶、張りとも改善され、1週間経過後も、殆ど変化がなかった。
【0050】
(実施例3)
<ストレートパーマ>
30代女性2(傷みの激しい毛髪)に対し、実施例2と同様にして、ストレートパーマを行った。本発明の保護剤を使用し当該毛髪処理を行うことにより、指通り、艶、張りのいずれも改善され、1ヶ月経過後も、殆ど変化がなかった。
【0051】
(実施例4)
<ウェーブパーマ>
40代女性3(傷みのある毛髪)の洗髪後の髪全体に、第1液として毛髪化粧料アをまんべんなく塗布し、さらに市販のパーマI液を塗布し、ワインディングを行った。5〜10分間放置した後、第2液として毛髪化粧料イを髪全体にまんべんなく塗布し、さらに市販のパーマII液を塗布し、一定時間放置後、水ですすぎ洗いした。その後、さらに第3液として毛髪化粧料イを髪全体に塗布し、もみ込んだ。その後水ですすぎ洗いし、トリートメントを行い乾燥させた。本発明の保護剤を使用し当該毛髪処理を行うことにより、傷みのあった髪にハリ、コシが出て、なおかつ軽い仕上がりとなり、ロッドサイズでウェーブがしっかりとかかっていた。
【0052】
(実施例5)
<カラー(染毛)>
30代女性4の洗髪後の髪全体に、第1液として毛髪化粧料アをまんべんなく塗布し、さらに市販のカラー剤を塗布して20〜30分自然放置した。市販のシャンプーに同量のアルカリ水を添加した混合液でまんべんなく毛髪を乳化処理してカラー剤を除去し、さらに水ですすいだ。その後、前記シャンプーとアルカリ水の混合液を用いて洗髪後、第2液として毛髪化粧料イを髪全体に塗布し、もみ込んだ。その後水ですすぎ洗いし、トリートメントを行った。本発明の保護剤を使用し当該毛髪処理を行うことにより、毛先部分がパサつくことも、まとまりが悪くなることもなかった。
【0053】
(実施例6)
<ストレートパーマ>
被験者が20代女性5(傷みの激しい毛髪)であること、第2液および第3液として毛髪化粧料イに代えて、酸性水、前記毛髪保護剤Aおよび前記毛髪保護剤Bからなる毛髪化粧料エ(A含有率3wt%、B含有率10wt%)を用いたことを除き、実施例2と同様にしてストレートパーマを行った。本保護剤を使用し当該毛髪処理を行うことにより、指通り、艶、張りのいずれも、毛髪化粧料イを用いた場合よりもさらに改善され、1〜2ヶ月経過後も、殆ど変化がなかった。
【0054】
(実施例7)
<ウェーブパーマ>
被験者が20代女性6(傷みの激しい毛髪)であること、第2液および第3液として毛髪化粧料イに代えて、毛髪化粧料エを用いたことを除き、実施例4と同様にしてウェーブパーマを行った。本保護剤を使用し当該毛髪処理を行うことにより、毛髪化粧料イを用いた場合よりもさらに傷みのあった髪にハリ、コシが出て、なおかつ軽い仕上がりとなり、ロッドサイズでウェーブがしっかりとかかっていた。
【0055】
(実施例8)
<カラー(染毛)>
被験者が20代女性7であること、前記第2液として毛髪化粧料イに代えて毛髪化粧料エを用いたことを除き、実施例5と同様にしてカラー(染毛)を行った。本保護剤を使用し当該毛髪処理を行うことにより、毛髪化粧料イを用いた場合よりもさらに毛先部分がパサつくことも、まとまりが悪くなることもなかった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
褐藻類を、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、およびtert−ブチルアルコール、並びにこれらの混合物からなる群から選択される低級アルコールを含む溶媒を用いて抽出して得られた抽出物からなる毛髪保護剤。
【請求項2】
前記抽出物を乾燥、粉末化し、これを水に溶解してなる請求項1記載の毛髪保護剤。
【請求項3】
前記低級アルコールがエタノールである請求項1または2に記載の毛髪保護剤。
【請求項4】
前記褐藻類が、褐藻植物(Phaeophyceas)の、ナガマツモ科(Chordariaceae)、ニセモズク科(Acrohtricaeae)及びモズク科(Spermatochnaceae)に属する藻類から選ばれた少なくとも1種の藻類である請求項1〜3のいずれかに記載の毛髪保護剤。
【請求項5】
前記褐藻類が、モズクである請求項4に記載の毛髪保護剤。
【請求項6】
フコイダンを含む毛髪保護剤と、請求項1〜5のいずれかに記載の毛髪保護剤との2剤からなる毛髪保護剤。
【請求項7】
フコイダンを含む毛髪保護剤と、請求項1〜5のいずれかに記載の毛髪保護剤と、更に請求項1〜5のいずれかに記載の毛髪保護剤との3剤からなる毛髪保護剤。
【請求項8】
フコイダンを含む毛髪保護剤と、請求項1〜5のいずれかに記載の毛髪保護剤とを混合してなる毛髪保護剤。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の毛髪保護剤を有効成分とする毛髪化粧料。
【請求項10】
フコイダンを含む毛髪保護剤と、請求項1〜5のいずれかに記載の毛髪保護剤とを有効成分とする毛髪化粧料。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の毛髪保護剤又は毛髪化粧料を用いてなる毛髪処理方法。
【請求項12】
フコイダンを含む毛髪保護剤を含む第1液と、請求項1〜5のいずれかに記載の毛髪保護剤を含む第2液とを用いてなる請求項11に記載の毛髪処理方法。
【請求項13】
フコイダンを含む毛髪保護剤を含む第1液と、請求項1〜5のいずれかに記載の毛髪保護剤を含む第2液と、請求項1〜5のいずれかに記載の毛髪保護剤を含む第3液とを用いてなる請求項11に記載の毛髪処理方法。
【請求項14】
第1液が、アルカリ水とフコイダンを含む毛髪保護剤を含む請求項12又は13に記載の毛髪処理方法。
【請求項15】
第2液及び/又は第3液が、酸性水と請求項1〜5のいずれかに記載の毛髪保護剤を含む請求項12〜14のいずれかに記載の毛髪処理方法。
【請求項16】
染毛時に、請求項11〜15のいずれかに記載の毛髪処理を行う染毛方法。
【請求項17】
パーマネント処理時に、請求項11〜15のいずれかに記載の毛髪処理を行う毛髪に対するパーマネント処理方法。



【公開番号】特開2010−248121(P2010−248121A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99041(P2009−99041)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(509108478)
【Fターム(参考)】