説明

毛髪処理剤

【課題】
毛髪の保水性を向上させることにより、毛髪が帯電するのを抑制しつつも、毛髪の触感を損なうことなく、むしろパサつき感を軽減して触感を改善することが可能な毛髪処理剤を提供する。
【解決手段】
数平均分子量が4000〜45000であるセリシン加水分解物および/またはケラチン加水分解物を含有する毛髪処理剤であって、カチオン性基を有する界面活性剤を含有する毛髪処理剤による処理前に毛髪に処理されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は毛髪処理剤に関する。詳しくは、毛髪の保水性を向上させることにより、毛髪が帯電するのを抑制するとともに、毛髪のパサつき感を軽減して触感を改善することが可能な毛髪処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
損傷などにより保水性が低下した毛髪は、水分の出入りが激しくなるためうねり易く、また、静電気を帯び易いため広がり易い。その結果、スタイリングやヘアスタイルの維持が困難となる。また、毛髪本来のしっとり感が失われ、パサついた状態となって、毛髪の触感が損なわれる。さらに、毛髪の帯電は、物理的損傷を加速させるといった悪循環を招く。したがって、毛髪の保水性を向上させることにより、毛髪が帯電するのを抑制するとともに、毛髪のパサつき感を軽減して触感を改善する技術が求められていた。
【0003】
毛髪の保水性向上を目的とした従来技術の一つに、タンパク質加水分解物を毛髪処理剤に配合することが知られている。毛髪表面にタンパク質加水分解物を保持させることにより、保水性を向上させようとするものであるが、タンパク質加水分解物は水溶性が高いため、すすぎ洗いによりその多くが流し落されてしまい、十分な効果は得られないでいた。
【0004】
さらに、毛髪処理剤としては、2種類の剤を組み合わせ、これらを順次毛髪に塗布し、毛髪の表面および内部で不溶性の物質を生成させることにより、毛髪の状態を改善する技術も知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、タンパク質加水分解物およびアニオン性高分子を含有する毛髪処理剤であって、ヘアリンスまたはヘアトリートメント(これらは、通常、カチオン性界面活性剤を含有している)施用前に使用することを特徴とする毛髪処理剤が開示されている。
特許文献2には、平均分子量10万以上のタンパク質加水分解物を含有する第1剤と、カチオン性界面活性剤および/またはカチオン性高分子化合物を含有する第2剤とからなることを特徴とする2剤式毛髪処理剤が開示されている。
特許文献3には、数平均分子量1000以上のタンパク質加水分解物を含有する第1剤と、前記タンパク質加水分解物を変性させるための変性剤として酸を含有する第2剤とからなることを特徴とする2剤式毛髪処理剤が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の毛髪処理剤は、毛髪表面に皮膜状に形成される、アニオン性高分子とカチオン性界面活性剤とのコンプレックスに起因して、不快なべたつき感を生じるものであった。また、特許文献2に開示の毛髪処理剤も、タンパク質加水分解物に求められる平均分子量が10万以上と大きいため、不快なごわつき感を生じるものであった。このように、従来の毛髪処理剤は、たとえ毛髪の保水性向上に幾分かの効果を発揮することができても、触感面においては却って悪化するという問題があった。さらに、本発明者らが求める毛髪の保水性向上効果、およびこれに伴う毛髪の帯電防止効果、毛髪の触感改善効果の点からも、未だ満足できるレベルには至っていなかった。
また、特許文献3に開示の毛髪処理剤は、酸によって生じるタンパク質加水分解物の凝集物のpH安定性が低いため、すすぎ洗いによるpH変化で容易に流し落されてしまい、十分な効果は得られなかった。
【0007】
【特許文献1】特公平4−60564号公報
【特許文献2】特許第3542878号公報
【特許文献3】特許第3774166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる現状に鑑みてなされたものであり、毛髪の保水性を向上させることにより、毛髪が帯電するのを抑制しつつも、毛髪の触感を損なうことなく、むしろパサつき感を軽減して触感を改善することが可能な毛髪処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
毛髪の触感を損なうことなく毛髪の保水性を向上させるには、保水性が高く、かつ、分子量が比較的小さなポリペプチド、好ましくはタンパク質加水分解物を毛髪に保持させることにより、達成可能と考えられた。本発明者らは今般、上記観点に着目して鋭意検討を重ねた結果、数平均分子量が4000〜45000であるセリシン加水分解物および/またはケラチン加水分解物を毛髪に接触させ、毛髪との間で緩やかな水素結合やイオン結合を形成させた後、カチオン性基を有する界面活性剤と接触させて不溶化させ、毛髪に固着させることにより、上記課題を達成できることを見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0010】
すなわち、本発明は、数平均分子量が4000〜45000であるセリシン加水分解物および/またはケラチン加水分解物を含有する毛髪処理剤であって、カチオン性基を有する界面活性剤を含有する毛髪処理剤による処理前に毛髪に処理されることを特徴とする毛髪処理剤である。
【0011】
毛髪処理剤のpHは3〜8であることが好ましい。
また、毛髪処理剤は、毛髪の保水性を向上させるのに有利に用いられる。
【0012】
本発明の別の態様によれば、数平均分子量が4000〜45000であるセリシン加水分解物および/またはケラチン加水分解物を含有する第1剤と、カチオン性基を有する界面活性剤を含有する第2剤とからなり、この順序で毛髪に処理されることを特徴とする2剤式毛髪処理剤が提供される。
【0013】
本発明のさらに別の態様によれば、数平均分子量が4000〜45000であるセリシン加水分解物および/またはケラチン加水分解物を含有する第1剤を毛髪に塗布し、所定時間放置した後、カチオン性基を有する界面活性剤を含有する第2剤を重ねて塗布し、所定時間放置し、しかる後に洗い流すことを特徴とする、毛髪の処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の毛髪処理剤によれば、損傷などにより保水性が低下した毛髪の保水性を、毛髪の触感を損なうことなく向上させることができる。本発明の毛髪処理剤は、毛髪が帯電するのを抑制する効果、および、毛髪のパサつき感を軽減して触感を改善する効果に優れ、毛髪のケアに極めて有効である。本発明の毛髪処理剤は、安全性の高い原料から構成されるとともに、処理操作が簡便であるため、洗髪時など日々のケアに無理なく取り入れることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の毛髪処理剤は、数平均分子量が4000〜45000であるセリシン加水分解物および/またはケラチン加水分解物を含有する毛髪処理剤であって、カチオン性基を有する界面活性剤を含有する毛髪処理剤による処理前に毛髪に処理されることを特徴とする。
【0016】
タンパク質やその加水分解物は、分子内にアミノ基(塩基性)とカルボキシル基(酸性)を有し、負電荷と正電荷を併せ持つ。また、ヒドロキシル基など極性の官能基を有するものもある。一方、毛髪の主成分もまた、ケラチンと呼ばれるタンパク質である。このため、水素結合やイオン結合などの相互作用により、タンパク質類は毛髪の表面および内部に緩やかに結合することができる。
【0017】
本発明において用いられるセリシン加水分解物は、繭糸に存在する天然タンパク質セリシンに由来するもので、セリシン加水分解物もまた、前述の通り、毛髪の表面および内部に緩やかに結合することができる。
さらに、セリシン加水分解物を構成するアミノ酸には、グルタミン酸、アスパラギン酸などカルボキシル基を有するアミノ酸の割合が多いという特性がある。このため、毛髪に緩やかに結合したセリシン加水分解物は、中性を含む広いpH領域(酸性〜弱アルカリ性)においてカチオン性基を有する界面活性剤と強くイオン結合して不溶化し、毛髪に強固に固着することができる。
さらにまた、セリン、スレオニンなどヒドロキシル基を有するアミノ酸の割合が多いため、水との親和性が非常に高く、毛髪に固着することで、毛髪の保水性を効果的に向上させることができ、もって、毛髪が帯電するのを抑制するとともに、毛髪のパサつき感を軽減して触感を改善することができる。
かかるセリシン加水分解物は、蚕繭、生糸などの原料から、慣用の方法(後述する)に従い容易に得ることができる。
【0018】
また、本発明において用いられるケラチン加水分解物は、毛(獣毛、羽毛、毛髪など)、角、爪、蹄などを構成する主要な天然タンパク質ケラチンに由来するもので、ケラチン加水分解物もまた、前述の通り、毛髪の表面および内部に緩やかに結合することができる。
さらに、セリシン加水分解物と同様、カルボキシル基を有するアミノ酸の割合が多いため、毛髪に緩やかに結合したケラチン加水分解物は、カチオン性基を有する界面活性剤とのイオン結合により不溶化し、毛髪に強固に固着することができる。
さらにまた、システインなど含硫アミノ酸の割合が多いため、ポリペプチド鎖間でジスルフィド結合して網目構造を形成する。こうして、水分を保持しやすい空間が形成される。このようなケラチン加水分解物が毛髪に固着することで、毛髪の保水性を向上させることができ、もって、毛髪が帯電するのを抑制するとともに、毛髪のパサつき感を軽減して触感を改善することができる。
かかるケラチン加水分解物は、毛、角、爪、蹄などの原料から、慣用の方法(後述する)に従い容易に得ることができる。上記原料のなかでも、羊毛は入手が容易であるため好ましい。
【0019】
このように、本発明においては、選択するタンパク質加水分解物のアミノ酸組成が重要である。例えば、化粧品用原料として用いられることの多いコラーゲン加水分解物やフィブロイン加水分解物などは、毛髪の表面および内部に緩やかに結合することができるものの、カルボキシル基を有するアミノ酸の割合が低いため、カチオン性基を有する界面活性剤とイオン結合し難く十分に不溶化しないため、毛髪に十分に固着することができない。さらに、ヒドロキシル基を有するアミノ酸の割合が低いため、ポリペプチド自体の親水性が十分でなく、また、含硫アミノ酸の割合が低いため、網目構造を形成することもなく、したがって、毛髪の保水性を向上させることができない。
【0020】
一方、コムギタンパク質加水分解物やカゼイン加水分解物など(これらも、化粧品用原料として用いられることがある)は、毛髪の表面および内部に緩やかに結合することができ、さらに、カルボキシル基を有するアミノ酸の割合が多いため、カチオン性基を有する界面活性剤とのイオン結合により不溶化し、毛髪に固着することができる。しかしながら、ヒドロキシル基を有するアミノ酸や含硫アミノ酸の割合が低いため、毛髪の保水性を向上させることができない。さらには、頭皮との接触によりアレルギーを引き起こす虞がある。これに対し、本発明において用いられるセリシン加水分解物やケラチン加水分解物は、化粧品用原料としての使用実績が高く、安全性の高いことが確認されている。
【0021】
セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物を得るには、上記原料を、例えば、塩酸、硫酸、リン酸などを使用した酸加水分解法、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどを使用したアルカリ加水分解法、または、微生物や植物由来のプロテアーゼを使用した酵素分解法に付すことにより、原料中の所望のタンパク質を部分加水分解して溶出させればよい。これを公知のタンパク質分離精製手法に従って精製することによって、高純度のタンパク質加水分解物の水溶液を得ることができる。さらに、熱風乾燥、減圧乾燥、または凍結乾燥などの処理に付して乾燥させ、固体としてもよい。なお、セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物として市販品を用いることもできる。
【0022】
セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物の数平均分子量は、4000〜45000であることが求められ、好ましくは6000〜40000であり、より好ましくは8000〜35000である。数平均分子量が4000未満であると、ポリペプチド鎖が短いためにカチオン性基を有する界面活性剤との相互作用が弱く、毛髪の表面および内部に十分に固着することができないため、毛髪に対する効果が十分に得られない虞がある。数平均分子量が45000を超えると、ごわつき感などの好ましくない触感を生じる虞がある。
【0023】
セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物の含有量は、求められる使用感に応じて調整することができるが、毛髪処理剤全量に対して0.01〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜3重量%である。含有量が0.01重量%未満であると、毛髪に対する効果が十分に得られない虞がある。含有量が5重量%を超えると、毛髪にべたつき感やごわつき感などの好ましくない触感を与える虞がある。なお、セリシン加水分解物とケラチン加水分解物は併用してもよく、その場合の含有量としては、合計量が上記範囲にあることが好ましい。
【0024】
本発明の毛髪処理剤は、セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物を必須成分として含有するものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて、通常の化粧品などに用いられる他の成分を適宜含有してもよい。このような任意成分としては、ヒドロキシエチルセルロース等の増粘剤;コラーゲン加水分解物、フィブロイン加水分解物等のタンパク質加水分解物;カチオン化セルロース、カチオン性ポリマー等のコンディショニング成分;セタノール、ステアリルアルコール等の高級アルコール;ジメチルポシロキサン、アミノ変形シリコーン等のシリコーン誘導体;界面活性剤、香料、パール化剤、色素、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、油剤、pH調整剤などを挙げることができる。
なお、これら成分の溶媒としては水が用いられる。
【0025】
本発明の毛髪処理剤のpHは、3〜8であることが好ましく、より好ましくは4〜7である。pHが上記範囲外であると、セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物とカチオン性基を有する界面活性剤とのイオン結合が阻害され、毛髪の表面および内部に十分に固着することができないため、毛髪に対する効果が十分に得られない虞がある。さらには、毛髪に対して化学的損傷を与える虞がある。
【0026】
毛髪処理剤のpHを上記範囲に調整するためのpH調整剤として、例えば、酸性物質としては、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸や、クエン酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸などを挙げることができ、アルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等の無機アルカリや、モノエタノールアミン等の有機アルカリ、クエン酸ナトリウム等の有機酸塩などを挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0027】
本発明の毛髪処理剤の剤型は、毛髪に塗布できる性状のものである限り特に限定されない。例えば、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状の剤型とすることができる。また、専用の容器に収容することで、ミスト状、フォーム(泡)状として毛髪に塗布してもよい。これら毛髪処理剤は、常法に従い調製することができる。
【0028】
次に、本発明の毛髪処理剤による処理後に毛髪に処理される、カチオン性基を有する界面活性剤を含有する毛髪処理剤について説明する。カチオン性基を有する界面活性剤を含有する毛髪処理剤は、中性を含む広いpH領域(酸性〜弱アルカリ性)において、毛髪の表面および内部に緩やかに結合しているセリシン加水分解物またはケラチン加水分解物と、カチオン性基を有する界面活性剤とがイオン結合することにより、セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物を不溶化させ、毛髪に固着させるために用いられるものである。
【0029】
カチオン性基を有する界面活性剤は特に限定されるものでなく、典型的には、通常のカチオン性界面活性剤を挙げることができる。さらに、pHの調整によっては、両性界面活性剤を用いることもできる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等のアルキル4級アンモニウム塩、これら4級アンモニウム塩をアルキルピリジニウム塩、あるいはアミン塩に変えたものなどを挙げることができる。両性界面活性剤としては、例えば、2−ヘプタデシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等のベタイン系界面活性剤などを挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、中性を含む広いpH領域(酸性〜弱アルカリ性)において、カチオン性基を安定して解離することが可能であるという点で、アルキル4級アンモニウム塩が好ましい。
【0030】
これらカチオン性基を有する界面活性剤は、毛髪ケア領域において広く利用されている成分であり、特に、ヘアトリートメント、コンディショナー、リンスなどの主要成分である。そのため、カチオン性基を有する界面活性剤を含有する毛髪処理剤として、一般的なヘアトリートメント、コンディショナー、リンスなども使用可能である。
【0031】
カチオン性基を有する界面活性剤の含有量は、毛髪処理剤全量に対して0.01〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜7重量%である。含有量が0.01重量%未満であると、セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物が毛髪の表面および内部に十分に固着することができないため、毛髪に対する効果が十分に得られない虞がある。含有量が10重量%を超えると、毛髪にべたつき感やごわつき感などの好ましくない触感を与える虞がある。
【0032】
カチオン性基を有する界面活性剤を含有する毛髪処理剤は、セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物を含有する本発明の毛髪処理剤と同様、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて、通常の化粧品などに用いられる他の成分を適宜含有してもよい。pHも、本発明の毛髪処理剤と同様、3〜8であることが好ましく、より好ましくは4〜7である。剤型も、毛髪に塗布できる性状のものである限り特に限定されない。
【0033】
次に、本発明の毛髪処理剤による毛髪の処理方法について説明する。
処理方法としては、例えば、セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物を含有する本発明の毛髪処理剤を毛髪に塗布し、所定時間放置した後、洗い流すことなく、カチオン性界面活性剤を含有する毛髪処理剤を重ねて塗布し、所定時間放置し、しかる後に洗い流す、というものである。
【0034】
本発明の毛髪処理剤は、損傷などにより保水性が低下した毛髪に塗布し処理することで、本発明の効果を最大限に発揮させることができる。処理する毛髪は、乾燥した状態でも、洗髪などにより湿った状態でもよい。また、適用するタイミングも特に限定されないが、洗髪時、シャンプー処理およびすすぎ洗いにより汚れが除去された毛髪に適用すると、本発明の効果をより一層発揮させることができ好ましい。また、引き続き、カチオン性基を有する界面活性剤を含有する毛髪処理剤として一般的なヘアトリートメント、コンディショナー、リンスなどにより処理することで、本発明の毛髪処理剤を適用することによる工程負荷を、最小限に抑えることができる。
【0035】
セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物を含有する本発明の毛髪処理剤、および、カチオン性界面活性剤を含有する毛髪処理剤の塗布量は特に限定されるものでなく、剤型や処理すべき毛髪の量に応じて適宜調整することができる。また、これら毛髪処理剤を毛髪に塗布した後の放置時間も特に限定されるものではなく、1〜10分間放置すればよい。
【0036】
セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物と、カチオン性基を有する界面活性剤は、中性を含む広いpH領域(酸性〜弱アルカリ性)において強くイオン結合して不溶化し、毛髪の表面および内部に強固に固着するため、すすぎ洗いによりpHが変化しても洗い流されることがない。
【0037】
本発明の効果は、セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物を含有する本発明の毛髪処理剤と、カチオン性基を有する界面活性剤を含有する毛髪処理剤を、この順序で毛髪に適用することによってはじめて発揮されるものである。これは、セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物が、まず、水素結合やイオン結合などの相互作用により、毛髪の表面および内部に緩やかに結合し、しかる後に、カチオン性基を有する界面活性剤と強くイオン結合して不溶化し、固着力を発揮するというメカニズムによると考えられる。したがって、本発明の毛髪処理剤を単独で適用する場合や、2剤の適用順序を逆にする場合、2剤をあらかじめ混合したものを適用する場合には、本発明で意図された効果は得られないのである。
【0038】
以上説明したように、本発明の別の態様によれば、数平均分子量が4000〜45000であるセリシン加水分解物および/またはケラチン加水分解物を含有する第1剤と、カチオン性基を有する界面活性剤を含有する第2剤とからなり、この順序で毛髪に処理されることを特徴とする2剤式毛髪処理剤が提供される。
【実施例】
【0039】
本発明を以下の例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
1.実施例1〜4および比較例1〜8
(1)タンパク質加水分解物の調製
セリシン加水分解物の調製は、以下の方法に従った。すなわち、生糸からなる絹織物を、0.2重量%炭酸ナトリウム水溶液(pH11〜12)に浸漬して95℃にて2時間処理し、セリシンを部分加水分解して抽出した。得られた抽出液を平均孔径0.2μmのフィルターで濾過し、凝集物を除去した後、濾液を透析膜により脱塩し、濃度0.2重量%のセリシン加水分解物精製液を得た。この精製液を、エバポレーターを用いて濃度約2重量%まで濃縮した後、凍結乾燥して、数平均分子量が14000のセリシン加水分解物の粉末を得た。また、0.2重量%炭酸ナトリウム水溶液による処理時間を4時間とすることで、数平均分子量6000のセリシン加水分解物の粉末を得た。
なお、得られたセリシン加水分解物の数平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィー法により測定した。測定機器としてLC−9A(株式会社島津製作所より入手可)、カラムとしてSuperdex 75HR 10/30(ファルマシア社より入手可)を用いた。溶離液には、0.2M NaCl・0.05M Tris HCl Buffer(pH7.0)を用い、流速0.7ml/min、カラム温度25℃、ペプチド検出波長275nmの条件で測定した。分子量マーカーには、 Gel Filtraion Calibration Kit LMW(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社より入手可)とAprotinin(シグマアルドリッチ社より入手可)を併せて使用した。
【0041】
その他のタンパク質加水分解物は、化粧品用原料として市販されているものを用いた。詳細は、表1に示す通りである。なお、数平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィー法(前記同様)による実際の測定値であり、カタログ記載値と異なる場合がある。
【0042】
【表1】

【0043】
(2)毛髪処理剤の調製
前述のタンパク質加水分解物を用いて、表2に示す処方の毛髪処理剤A〜Iを調製した。また、タンパク質加水分解物以外の成分については、化粧品用として市販されているものを用いた。
表中の塩酸および水酸化ナトリウムの含有量を示す適量とは、pHを6.5に調整するために必要な量を意味し、精製水の含有量を示す残量とは、合計を100重量%とするために必要な量を意味する。
毛髪処理剤A〜Iを、表3に示す組み合わせで毛髪に適用することにより、評価に供した。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
(3)損傷毛髪の作製
以下のような組成1および組成2の薬剤をそれぞれ調製した。ここで、組成2の水酸化ナトリウムの含有量を示す適量とは、pHを3.0に調整するために必要な量を意味し、組成1および組成2の精製水の含有量を示す残量とは、合計を100重量%とするために必要な量を意味する。
組成1および組成2の薬剤を、使用直前にそれぞれ2:3の割合で混合し、ブリーチ用処理剤とした。
【0047】
組成1
28重量%アンモニア水 4.0(重量%)
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム 0.7
炭酸水素ナトリウム 2.6
EDTA−2Na 0.1
精製水 残量
【0048】
組成2
30重量%過酸化水素 20.0(重量%)
クエン酸 1.7
水酸化ナトリウム 適量
精製水 残量
【0049】
化学的に処理されていない健常な毛髪(株式会社ビューラックス製、人毛黒髪)を用いて、重さ15g、長さ30cmの毛束を作製した。
この毛束を市販のシャンプーで洗浄し、一定流量の水道水で1分間すすいだ後、前述のブリーチ用処理剤100mlに毛束を浸漬させて、60℃で20分間放置した。その後、一定流量の水道水で1分間すすぎ、室温で自然乾燥させることにより、損傷毛髪を作製した。
【0050】
(4)評価試験
前述の損傷毛髪を用いて、重さ1g、長さ17cmの毛束を作製した。この毛束に、表3に示す第1剤3mlを塗布し、室温で3分間放置した。次いで、表3に示す第2剤3mlを重ねて塗布し、室温で3分間放置した。次いで、一定流量の水道水で2分間すすぎ、毛髪に固着されていないタンパク質加水分解物を除去した後、ドライヤーで乾燥させた。
また、健常毛髪についても同様に処理した。
得られた処理毛髪を用いて、以下の項目を評価した。
【0051】
a.保水性
健常毛髪の表面は、疎水性構造を有するキューティクルに覆われているため疎水性であるが、セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物が固着することにより保水性が向上した毛髪の表面は、親水性を増している。そこで、健常毛髪を毛髪処理剤により処理したものを試料とし、毛髪に対する水の接触角を測定することにより、親水性、すわなち保水性の指標とした。ここで、接触角が小さいほど、親水性が高い、すなわち保水性が高いことを意味する。なお、毛髪の表面が損傷した場合においても、キューティクルの剥離・損傷に起因して毛髪の親水性化が起こることが知られているが、本試験では毛髪に対する物理的および化学的な損傷を与えていないため、ここで観察される毛髪の親水性化は、毛髪の保水性の向上に伴うものである。
【0052】
毛髪処理剤により処理した健常毛髪の毛束から毛髪8本を無作為に抽出し、1本ずつ水平にテンションをかけて固定した。精製水2μlを毛髪に乗せ、この状態のまま室温で20秒間放置した後、毛髪と水滴との接触角を測定し、その平均値を求めた。結果は表3に示される通りであった。
【0053】
b.帯電防止性
静電気を帯びた毛髪は広がり易い。ここでは、損傷毛髪を毛髪処理剤により処理したものを試料とし、広がりに対する抑制力を評価することにより、帯電防止性を評価した。
毛髪処理剤により処理した損傷毛髪の毛束を、25℃、30%RHの恒温恒湿室中に一端を固定して吊り下げ、金属片を接触させることにより放電した(この状態を「帯電前」とする)。
その後、ポリエチレン製の手袋を装着して毛束を親指と人差指で挟んで5回擦った後(この状態を「帯電後」とする)、毛髪の広がり状態を以下の基準に従って評価した。この操作を3回行い、その平均値を求めた。結果は表3に示される通りであった。
【0054】
<評価基準>
未処理の損傷毛髪の帯電前の広がり状態を「良い(評価点5)」、未処理の損傷毛髪の帯電後の広がり状態を「悪い(評価点2)」とし、5段階で相対評価した。
1:非常に悪い
2:悪い(未処理の損傷毛髪の帯電後の広がり状態と同等である)
3:やや悪い
4:やや良い
5:良い(未処理の損傷毛髪の帯電前の広がり状態と同等である)
【0055】
c.パサつき感
損傷毛髪を毛髪処理剤により処理したものを試料とした。
毛髪処理剤により処理した損傷毛髪の毛束を、60℃で20分間放置して水分を除去した後、パサつき感(外観、触感)を以下の基準に従って評価した。評価は、専門パネラー3名によって行い、その平均値を求めた。結果は表3に示される通りであった。
【0056】
<評価基準>
未処理の損傷毛髪のパサつき感を「悪い(評価点2)」とし、4段階で相対評価した。
1:非常に悪い
2:悪い(未処理の損傷毛髪のパサつき感と同等である)
3:やや良い
4:良い
【0057】
表3から明らかなように、数平均分子量が4000〜45000であるセリシン加水分解物またはケラチン加水分解物を含有する本発明の毛髪処理剤と、カチオン性基を有する界面活性剤を含有する毛髪処理剤を、この順序で適用した場合(実施例1〜4)は、毛髪の保水性が向上し、これに伴って、帯電の抑制、およびパサつき感の軽減が認められた。
一方、本発明の毛髪処理剤を単独で適用した場合(比較例3)や、2剤の適用順序を逆にした場合(比較例4)、2剤をあらかじめ混合したものを適用した場合(比較例5)、セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物の数平均分子量が4000〜45000の範囲外である場合(比較例6)、セリシン加水分解物またはケラチン加水分解物以外のタンパク質加水分解物を用いた場合(比較例7、8)においては、効果が十分に得られなかった。
【0058】
2.実施例5〜7
以下に示す処方の毛髪処理剤J〜Mを調製した。
【0059】
毛髪処理剤J:実施例5の第1剤
セリシン加水分解物(数平均分子量14000) 1.0(重量%)
グリセリン 5.0
ヒドロキシエチルセルロース 1.2
硫酸マグネシウム七水和物 1.0
クエン酸 0.05
エタノール 0.9
パラオキシ安息香酸メチル 0.15
水酸化ナトリウム 適量
香料 適量
精製水 残量
(pH6.0)
【0060】
毛髪処理剤K:実施例6の第1剤
ケラチン加水分解物(数平均分子量10000) 0.5(重量%)
セリシン加水分解物(数平均分子量6000) 0.5
グリセリン 7.0
1,3−ブチレングリコール 1.0
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.1
エタノール 0.9
パラオキシ安息香酸メチル 0.15
クエン酸 適量
香料 適量
精製水 残量
(pH4.7)
【0061】
毛髪処理剤L:実施例7の第1剤
ケラチン加水分解物(数平均分子量19000) 1.5(重量%)
ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム 0.1
グリセリン 3.0
プロピレングリコール 1.0
ヒドロキシエチルセルロース 0.9
クエン酸 0.5
クエン酸ナトリウム 0.75
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
香料 適量
精製水 残量
(pH5.3)
【0062】
毛髪処理剤M:実施例5〜7の第2剤
塩化ステアリルトリメチルアンモニウム 0.5(重量%)
ヒドロキシエチルセルロース 1.0
クエン酸 0.1
炭酸ナトリウム 適量
精製水 残量
(pH6.0)
【0063】
毛髪のパサつきを自覚するパネラーを対象に、使用試験を行った。シャンプー処理およびすすぎ洗いにより湿った状態の毛髪に対し、第1剤として毛髪処理剤J〜Lの適量を塗布し、1〜2分間放置する。次いで、第2剤として毛髪処理剤Mの適量を重ねて塗布し、1〜2分間放置した後、水道水ですすぐ、という方法で使用させた。その結果、全般にパサつき感の軽減が認められた。一方で、これらの毛髪処理剤の使用による触感の悪化は認められなかった。また、毛髪処理剤を使用することによる皮膚の異常は認められず、製剤安定性にも問題はなかった。なお、第2剤として市販のヘアコンディショナーを使用した場合においても、毛髪処理剤Mを使用した場合と同様の効果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が4000〜45000であるセリシン加水分解物および/またはケラチン加水分解物を含有する毛髪処理剤であって、カチオン性基を有する界面活性剤を含有する毛髪処理剤による処理前に毛髪に処理されることを特徴とする毛髪処理剤。
【請求項2】
pHが3〜8であることを特徴とする、請求項1に記載の毛髪処理剤。
【請求項3】
毛髪の保水性を向上させるために用いられる、請求項1または2に記載の毛髪処理剤。
【請求項4】
数平均分子量が4000〜45000であるセリシン加水分解物および/またはケラチン加水分解物を含有する第1剤と、カチオン性基を有する界面活性剤を含有する第2剤とからなり、この順序で毛髪に処理されることを特徴とする2剤式毛髪処理剤。
【請求項5】
数平均分子量が4000〜45000であるセリシン加水分解物および/またはケラチン加水分解物を含有する第1剤を毛髪に塗布し、所定時間放置した後、カチオン性基を有する界面活性剤を含有する第2剤を重ねて塗布し、所定時間放置し、しかる後に洗い流すことを特徴とする、毛髪の処理方法。

【公開番号】特開2010−105926(P2010−105926A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277099(P2008−277099)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】