説明

毛髪処理剤

【課題】特定の蛋白質誘導体と共に防腐剤が配合された組成物の外観色が黄色に着色することを抑える技術の提供。
【解決手段】下記式(I)〜(III)で表される構造及びこれらの構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える変性ペプチド、非塩形態の防腐剤、並びに水が配合された液状の組成物。
−S−S−(CH−COOH (I)
(式(I)中、nは1又は2である。)
−S−S−CH(CH)−COOH (II)
−S−S−CH(COOH)−CH−COOH (III)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチルジスルフィド基等を有する側鎖を備える特定のペプチドが配合された組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
毛髪へのブラッシング、ハンドドライヤー、熱アイロン、ヘアカラー、パーマネントウェーブなどの物理的又は化学的処理により毛髪が損傷し、毛髪の手触りの悪化、艶の低下、ハリの低下などをもたらす。そのような毛髪を補修することを目的として、蛋白質の誘導体が各種毛髪用処理剤に配合することが知られている。
【0003】
特許文献1には蛋白質誘導体の一種が開示されており、その蛋白質誘導体は、水に不溶な蛋白質のジスルフィド結合をメルカプト基(−SH)に還元し、還元されたメルカプト基の一部又は全部をカルボキシメチルジスルフィド基に変換したものである。そして、特許文献2では、毛髪処理剤に上記特許文献1で開示されている蛋白質誘導体を配合することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−126296号公報
【特許文献2】特開2010−155823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複数の化合物が配合された組成物の外観色が経時的に変化することは、たとえその組成物の品質問題とならないとしても、品質不安を需要者に抱かせることがある。この品質不安を解消するためには、外観色の変化を完全に抑制するか、同変化の程度を抑えることが必要となる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、特定の蛋白質誘導体と共に防腐剤が配合された組成物の外観色が黄色に着色することを抑える技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等が鋭意検討を行った結果、特定の蛋白質誘導体である変性ペプチド及び水と共に防腐剤を配合して液状の組成物を製造する際に、その防腐剤として非塩形態のものを選定すれば、得られた組成物の継時的な黄着色が抑えられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(I)〜(III)で表される構造及びこれらの構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える変性ペプチド、非塩形態の防腐剤、並びに水が配合された液状の組成物に係るものである。
−S−S−(CH−COOH (I)
(式(I)中、nは1又は2である。)
−S−S−CH(CH)−COOH (II)
−S−S−CH(COOH)−CH−COOH (III)
【0009】
ここで、本発明における「変性ペプチド」とは、上記式(I)〜(III)で表される構造及びこれらの構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備えるペプチドであり、「ペプチド」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合したものであり、ケラチン蛋白質などの蛋白質もペプチドに該当する。また、「防腐剤」とは、厚生労働省告示「化粧品基準別表3」に収載されている化合物である。
【0010】
本発明に係る組成物のpHは、5.0以上11.0以下が良い。pHが5.0未満であると、変性ペプチドの沈殿が生じることがある(この沈殿は、変性ペプチドの分子量が大きなほど生じやすい。)。一方、pHが11.0を越えると、変性ペプチドのアルカリ加水分解の促進と、本発明に係る組成物の黄着色進行の虞がある。
【0011】
本発明に係る組成物は、公知の蛋白質誘導体を含有する組成物と同様、毛髪処理剤を製造する際に用いる原料としても良い。この原料として本発明に係る組成物を保管しても、黄色に着色する程度が抑えられるので、需要者の品質不安が低減される。
【0012】
本発明に係る組成物における変性ペプチドの濃度は、低濃度であるほど保管場所を広く要することになるので、例えば0.05質量%以上である。
【0013】
本発明に係る組成物に任意配合される無機塩の量は、0質量%以上1.0%質量%未満が好ましい。無機塩を配合することで沈殿が生じやすくなり、配合する無機塩の量が少ないほど沈殿が生じ難い。
【0014】
前記非塩形態の防腐剤として、フェノキシエタノール及びパラオキシ安息香酸エステルから選ばれた一種又は二種以上を本発明に係る組成物に配合するのが好適である。このような防腐剤の配合が、本発明に係る組成物の継時的な黄着色の抑制に特に優れる。
【0015】
本発明に係る組成物は、炭素数2以上6以下の一価、二価、及び三価の水溶性アルコールから選ばれた一種又は二種以上が配合されたものであっても良い。この水溶性アルコールにより、非塩形態の防腐剤を本発明に係る組成物中に溶解させることが容易になると共に同組成物の防腐が良化するか、又は、非塩形態の防腐剤を本発明に係る組成物中に溶解させることが容易になる。
【0016】
また、本発明に係る組成物は、アニオン界面活性剤が配合されたものが好ましい。アニオン界面活性剤が配合されていると、本発明に係る組成物の透明性が高まる上に、この透明性維持がより良好となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る液状の組成物は、特定のペプチド共に非塩形態の防腐剤が配合されたものなので、継時的に黄色く着色する程度が抑制されるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明における変性ペプチドの製造方法例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態の組成物に基づき、本発明を以下に説明する。
本実施形態に係る組成物は、所定の側鎖基を備える変性ペプチド及び非塩形態の防腐剤が水に配合された液状のものである(水の濃度は、例えば60.00質量%以上99.95質量%以下。)。また、本実施形態の組成物には、他の化合物が任意原料として配合されたものであっても良い。
【0020】
本実施形態の組成物のpHは、特に限定されないが、5.0以上11.0以下が良く、6.0以上10.0以下が好ましく、6.5以上9.0以下がより好ましく、6.5以上8.0以下が更に好ましい。pHが5.0未満であると変性ペプチドの沈殿が生じやすく、pHが11.0以上であると変性ペプチドの加水分解の促進と、組成物の黄着色進行の虞がある。なお、pHの調整のためには、有機酸、無機酸、アルカリ金属の水酸化物等を用いると良い。
【0021】
本実施形態に係る組成物を製造するために用いられる化合物の詳細は、以下の通りである。
(変性ペプチド)
変性ペプチドは、複数のアミノ酸のペプチド結合によって形成された主鎖と、この主鎖に結合する側鎖基を備える。
【0022】
変性ペプチドの主鎖は、特に限定されない。この主鎖の例としては、システインを構成アミノ酸の一種としているペプチドの主鎖と同じものが挙げられる。また、システインを構成アミノ酸の一種としているペプチドの例としては、ケラチン、カゼインが挙げられる。ケラチンは、天然物由来のペプチドの中でもシステイン比率が高いものとして知られており、当該変性ペプチドが効率よく得られる原料となる。かかる観点から、変性ペプチドの主鎖はケラチンの主鎖と同じものが好適である。
【0023】
変性ペプチドは、下記式(I)〜(III)で表される構造及びこれらの構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える。
−S−S−(CH−COOH (I)
(式(I)中、nは1又は2である。)
−S−S−CH(CH)−COOH (II)
−S−S−CH(COOH)−CH−COOH (III)
【0024】
上記(I)〜(III)で表される構造の塩は、カルボキシラートアニオンとカチオンとのイオン結合体である。そのカチオンとなる単位としては、例えば、NHなどのアンモニウム;Na、Kなどの金属原子;が挙げられる。
【0025】
変性ペプチド分子が小さいほど、本実施形態の組成物に溶解し易く、同組成物のpHを低下させた際の溶解性への影響が小さい。そのため、変性ペプチドの水への溶解性の観点から、当該変性ペプチドの分子量は、70000以下が良く、50000以下が好ましく、10000以下がより好ましく、7000以下が更に好ましい。同分子量の下限は、特に限定されないが、例えば1000である。ここで、変性ペプチドの分子量については、Sodium Dodecyl Sulfate−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE法)による変性ペプチドのバンドと分子量マーカーのバンドとの相対距離から算出した分子量を、変性ペプチドの分子量とみなして採用する。
【0026】
本実施形態に係る組成物における変性ペプチド配合量の下限は、配合量が少なすぎると組成物の保管場所を広くしなければならないので、0.05質量%以上が良く、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、3.0質量%以上が更に好ましい。一方、変性ペプチド配合量の上限は、多量配合によるコスト上昇を抑制する観点から、60質量%以下が良く、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましく、10質量%以下がより更に好ましい。なお、変性ペプチドの分子量が小さなほど水への溶解度が高くなることは上記の通りであるところ、本実施形態の組成物における変性ペプチドの配合量については、当該変性ペプチドの分子量に応じて適宜設定すると良い。
【0027】
次に、変性ペプチドの製造方法例として、ケラチンを原料とした変性ペプチドの製造方法について説明する。当該変性ペプチドの製造方法は、図1に示すように、還元工程(STP1)、酸化剤混合工程(STP2)、固液分離工程(STP3)、及び回収工程L(STP4)を有する。図1に示す全工程を備える方法では、酸化剤混合工程(STP2)にて変性ペプチド(図1に示す液体部Lに溶解している変性ペプチド、及び固体部Sに含まれる変性ペプチド)が生成するので、固液分離工程(STP3)及び回収工程L(STP4)を設けなくても変性ペプチドが製造されることになる。
【0028】
ケラチン:
原料であるケラチンとしては、これを構成蛋白質として含む羊毛(メリノ種羊毛、リンカーン種羊毛等)、人毛、獣毛、羽毛、爪等が挙げられる。中でも、変性ペプチドを安価かつ安定的に入手するために、羊毛を原料とすることが好ましい。この羊毛等の原料については、殺菌、脱脂、洗浄、切断、粉砕及び乾燥を適宜に組み合わせて、予め処理するとよい。
【0029】
還元工程(STP1):
還元工程(STP1)は、還元剤とケラチンと水とを混合する工程である。かかる還元工程(STP1)において、ケラチンが有するジスルフィド基(−S−S−)をメルカプト基(−SH HS−)に還元する。
【0030】
還元工程(STP1)で用いる還元剤は、チオグリコール酸、チオグリコール酸塩、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸塩、チオ乳酸、チオ乳酸塩、チオリンゴ酸、及びチオリンゴ酸塩から選択される一種又は二種以上である。二種以上の還元剤を使用する場合の還元剤の組合せは、任意の組合せで良く、例えば、チオグリコール酸とチオグリコール酸塩一種との組合せ、チオグリコール酸塩二種の組合せ、メルカプトプロピオン酸とメルカプトプロピオン酸塩一種との組合せ、メルカプトプロピオン酸塩二種の組合せ、チオ乳酸とチオ乳酸塩一種との組合せ、チオ乳酸塩二種の組合せ、チオリンゴ酸とチオリンゴ酸塩一種との組合せ、チオリンゴ酸塩二種との組合せ、チオグリコール酸塩一種とメルカプトプロピオン酸塩一種の組合せ、チオグリコール酸塩一種とチオ乳酸塩一種の組合せ、チオグリコール酸塩一種とチオリンゴ酸塩一種の組合せ、メルカプトプロピオン酸塩一種とチオ乳酸塩一種の組合せ、メルカプトプロピオン酸塩一種とチオリンゴ酸塩一種の組合せ、チオ乳酸塩一種とチオリンゴ酸塩一種、チオグリコール酸塩一種とチオ乳酸塩一種とチオリンゴ酸塩一種の組合せが挙げられる。
【0031】
チオグリコール酸塩としては、例えば、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリコール酸カリウム、チオグリコール酸リチウム、チオグリコール酸アンモニウムが挙げられる。メルカプトプロピオン酸塩としては、例えば、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、メルカプトプロピオン酸リチウム、メルカプトプロピオン酸アンモニウムが挙げられる。チオ乳酸塩としては、例えば、チオ乳酸ナトリウム、チオ乳酸カリウム、チオ乳酸リチウム、チオ乳酸アンモニウムが挙げられる。チオリンゴ酸塩としては、例えば、チオリンゴ酸ナトリウム、チオリンゴ酸カリウム、チオリンゴ酸リチウム、チオリンゴ酸アンモニウムが挙げられる。
【0032】
上記所定の還元剤の使用量としては、羊毛等の原料1gを基準として、0.005モル以上0.02モル以下であると良い。また、被処理液(ケラチン又はケラチン由来である処理物を含み、各工程での反応系となる液。以下、同じ。)の容量を基準とした場合の還元剤の使用量は、0.1mol/L以上0.4mol/L以下であると良い。
【0033】
水の量は、特に限定されないが、例えば、羊毛等の原料1質量部に対して、20容量部以上200容量部以下であると良い。
【0034】
還元工程(STP1)においては、一種又は二種以上のアルカリ性化合物を被処理液に混合するとよい。アルカリ性化合物とは、水に添加することで、その水をアルカリ性にすることができる化合物である。このアルカリ性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0035】
上記アルカリ性化合物の混合量は、特に限定はされないが、還元工程(STP1)における被処理液のpHを下記範囲に調整する量である。還元工程(STP1)でのpHの下限としては、9が好ましく、10がより好ましい。一方、還元工程(STP1)でのpHの上限としては、13が好ましく、12がより好ましい。還元工程(STP1)でのpHを上記下限以上にすることで、ケラチンの還元を効率良く行うことができる。また、pHを上記上限以下にすることで、ケラチン主鎖の切断を抑制できる(ケラチン主鎖の切断を促進することを目的とする場合は、被処理液のpHが13を超えるように調整すればよい。)。
【0036】
還元工程(STP1)の温度条件は、特に限定されないが、35℃以上60℃以下が良く、40℃以上50℃以下が好ましい。温度条件が35℃未満であると、ジスルフィド基をメルカプト基に変換するための還元反応速度が低下し、ケラチンを十分に還元できないことがある。一方、60℃を超えると、ケラチン主鎖が切断されやすくなる。また、還元工程(STP1)の時間は、設定温度が低いほど長時間となり、設定温度が高いほど短時間となる。
【0037】
酸化剤混合工程(STP2):
酸化剤混合工程(STP2)は、還元工程(STP1)を経た処理物(ケラチン由来物)と酸化剤とを混合し、変性ペプチドを生成させる工程である。かかる酸化剤の混合は、処理物のメルカプト基を変性する酸化反応を促進するために行われる。通常、還元工程(STP1)を経た処理物を含む被処理液に、酸化剤を混合する。
【0038】
酸化剤としては、例えば、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム、過酸化水素等が挙げられる。用いる酸化剤は、一種又は二種以上である。
【0039】
酸化剤の使用量は、特に限定されないが、羊毛等の原料1gを基準として、0.001モル以上0.02モル以下であると良く、酸化剤混合工程(STP2)の被処理液の容量を基準として、0.02mol/L以上1mol/L以下であると良い。
【0040】
酸化剤を被処理液に混合する際には、この酸化剤が被処理液中で局所的に高濃度化することを避けるため、1mol/L以上5mol/L以下程度の酸化剤溶液を例えば10分から6時間かけて連続的と断続的とを問わず徐々に混合するとよい。
【0041】
pH9以上の被処理液に混合する酸化剤量(A)を、pH7以上9未満の被処理液に混合する酸化剤量(B)より多くするのが好適である。これにより、変性ペプチド生成時間が短縮化する。上記酸化剤量(A)及び(B)の合計に対する酸化剤量(B)の割合は、20mol%以下が好ましく、10mol%以下がより好ましく、5mol%以下が更に好ましく、0mol%が特に好ましい。
【0042】
酸化剤混合工程(STP2)での被処理液のpHは、本工程の進行に応じて調整される。酸化剤の混合を開始する際のpHは、9以上が好ましく、10以上がより好ましい。また、そのpHは、13以下が良く、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。pH9以上であれば、変性ペプチドの生成効率が良く、pH13以下であれば、ケラチン由来の処理物の主鎖の切断を抑制できる。酸化剤混合工程(STP2)終了時のpHは、特に限定されないが、7程度で良い。
【0043】
酸化剤混合工程(STP2)において、pH9以上の時間がpH7以上9未満の時間よりも長いことが好ましく、pH9以上12以下の時間がpH7以上9未満の時間より長いことがより好ましく、pH10以上11以下の時間がpH7以上9未満の時間より長いことがさらに好ましい。このような手順を採用した場合、変性ペプチドの生成効率が高まる。
【0044】
被処理液のpHを調整するための酸としては、有機酸及び無機酸から選択された一種又は二種以上を使用するとよい。有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、コハク酸、酢酸が挙げられ、無機酸としては、例えば、塩酸、リン酸が挙げられる。酸の混合量は、被処理液のpHを監視しつつ、適宜設定すると良い。酸を被処理液に混合する際には、被処理液において局所的にpHが低下すると、処理物のメルカプト基同士がジスルフィド基になるおそれがあるため、被処理液に酸を徐々に混合することが好ましい。
【0045】
酸化剤混合工程(STP2)での温度条件は、10℃以上60℃以下が良く、40℃以下が好ましい。温度を上記範囲に制御することで、副生成物であるシスチンモノオキシド等の生成を抑制できる。
【0046】
酸化剤混合工程(STP2)での反応式を、還元工程(STP1)での還元剤としてチオグリコール酸若しくはその塩、メルカプトプロピオン酸若しくはその塩、チオ乳酸若しくはその塩、又は、リオリンゴ酸若しくはその塩を用いた場合、その還元剤の順の通り挙げれば次の通りである。
【化1】

【0047】
固液分離工程(STP3):
固液分離工程(STP3)は、酸化剤混合工程(STP2)後の被処理液を液体部Lと固体部Sとに分離する工程である。固液分離工程(STP3)では、濾過、遠心分離、圧搾分離、沈降分離、浮上分離等の公知の固液分離手段を採用することができ、必要に応じてイオン交換や電気透析等による脱塩等を行うとよい。
【0048】
回収工程L(STP4):
回収工程L(STP4)は、固液分離工程(STP3)で得た液体部Lに溶解する変性ペプチドLを固形状のものとして回収する工程である。この回収工程L(STP4)における固形状変性ペプチドLの回収方法としては、(1)液体部Lを凍結乾燥することによる回収、(2)液体部Lを噴霧乾燥することによる回収、(3)塩酸等の酸を液体部Lに添加して、液体部LのpHを2.5から4.0程度に低下させることにより生じた変性ペプチドL沈殿物の回収などが挙げられる。回収した固形状の変性ペプチドLについては、必要に応じて、水や酸性水溶液による洗浄、乾燥等を行う。
【0049】
加水分解工程:
上記の通り、酸化剤混合工程(STP2)での処理を終えることで、被処理液に溶解している変性ペプチドと、同液に溶解していない変性ペプチドが得られる。これら変性ペプチドを低分子化すれば、水への溶解性が高まる。低分子化する態様としては、(1)固液分離工程(STP3)で得られた固体部Sを加水分解する態様、(2)固液分離工程(STP3)で得られた液体部Lに溶解している変性ペプチドLを加水分解する態様、(3)回収工程Lにより回収した変性ペプチドLを加水分解する態様、(4)変性ペプチドLと固体部Sを一括して加水分解する態様、が挙げられる。また、その他に加水分解による低分子化を図る方法としては、還元工程(STP1)の前、還元工程(STP1)と同時、還元工程(STP1)と酸化剤混合工程(STP2)との間に、低分子化のための加水分解を行うことが挙げられる。
【0050】
変性ペプチドを加水分解する方法としては、ペプチドの加水分解として公知の(a)酵素による加水分解、(b)酸による加水分解及び(c)アルカリによる加水分解が挙げられる。
【0051】
(a)酵素による加水分解
加水分解のための酵素としては、例えば、ペプシン、プロテアーゼA、プロテアーゼBなどの酸性蛋白質分解酵素;パパイン、プロメライン、サーモライシン、プロナーゼ、トリプシン、キモトリプシンなどの中性乃至アルカリ性蛋白質分解酵素等が挙げられる。
【0052】
上記酵素による加水分解時のpHは、酸性蛋白質分解酵素の場合には1以上3以下に調整するとよく、中性乃至アルカリ性蛋白質分解酵素の場合には5以上11以下に調整するとよい。このpHを上記範囲とすることにより、酵素活性が向上する。
【0053】
上記酵素による加水分解時の反応温度は30℃以上60℃以下、反応時間は10分以上24時間以内で適宜設定される。この酵素による加水分解を停止させるには、温度を70℃以上にして酵素を失活させるとよい。
【0054】
(b)酸による加水分解
加水分解のために用いられる酸としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、臭化水素酸等の無機酸、又は蟻酸、シュウ酸等の有機酸が挙げられ、これらの中から適宜選択される。この加水分解の条件は、例えばpH4以下、反応温度40℃以上100℃以下、反応時間2時間以上24時間以内である。
【0055】
(c)アルカリによる加水分解
加水分解のために用いられるアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム等が挙げられる。この加水分解の条件は、例えばpH8.0以上、反応温度50℃以上100℃以下、反応時間20分以上24時間以内である。
【0056】
加水分解された変性ペプチドを回収するためには、上記回収工程L(STP4)と同様の方法を採用できる。ただし、pHが2.5から4.0程度になるように酸を添加する回収方法では、変性ペプチドが加水分解により低分子化しているので、回収困難であるか回収不能な場合がある。
【0057】
(防腐剤)
防腐剤から非塩形態のものを一種又は二種以上選定して、本実施形態の組成物に配合する。
【0058】
非塩形態の防腐剤は、厚生労働省告示「化粧品基準別表3」に挙げられている。例えば、安息香酸、パラオキシ安息香酸エステル(パラベン)、サリチル酸、デヒドロ酢酸、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、ヒノキチオール、フェノキシエタノール、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンが挙げられる。本実施形態の組成物の継時的に黄色に着色することを抑制するために好ましい防腐剤は、例えば、フェノキシエタノール;及びパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸ベンジル等のパラオキシ安息香酸エステル;から選ばれた一種又は二種以上である。
【0059】
非塩形態の防腐剤の配合濃度は、本実施形態の組成物において、例えば0.05質量%以上3.0質量%以下であり、通常1.5質量%以下である。
【0060】
(任意原料)
本実施形態の組成物に配合する任意原料としては、後記の通り、水溶性アルコール、アニオン界面活性剤、無機塩、公知の毛髪処理剤原料などが挙げられる。
【0061】
炭素数2以上6以下の一価、二価、及び三価の水溶性アルコールから選択された一種又は二種以上を、本実施形態の組成物に配合しても良い。その一価及び二価の水溶性アルコールは、防腐剤には劣るものの静菌乃至防腐作用を有する上に、防腐剤の水への溶解性を容易とする。三価の水溶性アルコールは、防腐剤の水への溶解性を容易とする。
【0062】
上記水溶性アルコールとしては、例えば、エタノール、n−プロピルアルコール等の直鎖状一価アルコール;イソプロピルアルコール等の分枝状一価アルコール;1,2−アルカンジオール(例えば、1,2−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール)、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール等の直鎖状二価アルコール;イソペンチルジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等の分枝状二価アルコール;2,2’−ジヒドロキシプロピルエーテル等のエーテル型二価アルコール;グリセリン等の三価アルコールが挙げられる。
【0063】
上記炭素数2以上6以下の水溶性アルコールの配合濃度は、本実施形態の組成物において、例えば0.1質量%以上10.0質量%以下であり、通常1.0質量%以上6.0質量%以下である。
【0064】
アニオン界面活性剤から選択された一種又は二種以上を任意原料として選択すれば、本実施形態の組成物の透明性が高まると共に、この透明性維持がより良好となる。
【0065】
本実施形態の組成物に任意配合されるアニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルエーテルカルボン酸塩、脂肪酸アミドエーテルカルボン酸塩、脂肪酸アミドエーテルカルボン酸、アシル乳酸塩、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルスルホ酢酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、脂肪酸モノグリセリド硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩が挙げられる。
【0066】
アニオン界面活性剤の配合濃度は、本実施形態の組成物において、例えば0.1質量%以上20質量%以下である。
【0067】
塩化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等の無機塩から選択された一種又は二種以上を本実施形態の組成物に配合しても良いが、無機塩の配合量が増加するほど、沈殿が生じやすくなる。そのため、無機塩の配合量は、1.0質量%未満が良く、0.5質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。上記の沈殿が生じることを避けるためには、無機塩を配合しないことが望ましい。
【0068】
上記以外の任意原料は、本実施形態の組成物の用途に応じて適宜選定される。その任意原料例を挙げれば、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤、高級アルコール、糖類、油脂、エステル油、脂肪酸、炭化水素、ロウ、シリコーン、合成高分子化合物、半合成高分子化合物、天然高分子化合物、アミノ酸、動植物抽出物、微生物由来物、香料、紫外線吸収剤、色素などである。
【0069】
(用途)
任意原料を適宜配合した本実施形態の組成物については、シャンプー、リンス、コンディショナー、トリートメント(例えば、洗い流さないトリートメント、洗い流すトリートメント、整髪兼用トリートメント、多剤式トリートメントの一構成剤、パーマの前処理のためのトリートメント、パーマの後処理のためのトリートメント、カラーリングの前処理のためのトリートメント、カラーリングの後処理のためのトリートメント、ブリーチの前処理のためのトリートメント、ブリーチの後処理のためのトリートメント)、整髪剤等の毛髪処理剤として用いることができる。
【0070】
また、本実施形態の組成物は、毛髪処理剤を製造するための原料、蛋白質フィルムを製造するための原料等としても良い。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱することがない限り、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
実施例、比較例、及び参考例で用いた変性ペプチドL、Hの水溶液は、以下の還元工程、酸化剤混合工程、固液分離工程、回収工程、及び加水分解工程に従い製造した。
【0073】
(変性ペプチドL水溶液)
還元工程:
中性洗剤で洗浄、乾燥させたメリノ種羊毛を、約5mmに切断した。この羊毛5.0質量部、30質量%チオグリコール酸ナトリウム水溶液15.4質量部及び6mol/L水酸化ナトリウム水溶液8.5質量部を混合し、さらに水を混合して全量150質量部、pH11の被処理液を調製した。この被処理液を、45℃、1時間の条件で攪拌した。次いで、さらに水を混合して全量を200質量部とし、45℃、2時間の条件で放置し、その後、液温が常温になるまで自然冷却した。
【0074】
酸化剤混合工程:
還元工程後の被処理液を攪拌しながら、当該液に、35質量%過酸化水素水を15.26質量部配合した水溶液178質量部を、約30分かけて攪拌しながら混合した(過酸化水素水の混合に伴って被処理液のpHは上昇することになるが、その上昇は約20質量%酢酸水溶液を混合することでpH10以上11以下の範囲に調整した。)。その後、約20質量%酢酸水溶液を徐々に混合し、被処理液のpHが漸次11から7になるように調整した。以上により変性ペプチド溶液を得た。
【0075】
固液分離工程及び回収工程:
変性ペプチド溶液をろ過することによりその溶液の不溶物を除去した。その後、回収した液体部(ろ液)に36質量%塩酸水溶液97.2質量部を配合した水溶液160質量部を添加して変性ペプチド溶液のpHを7から3.8にすることにより、変性ペプチドの沈殿を生じさせた。この沈殿を回収、水洗し、固形状の変性ペプチドを得た。
【0076】
加水分解工程:
回収工程で得た固形状変性ペプチドが1質量%、かつ、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールでpH10.5とした水溶液を、55℃に加熱した。この55℃の液に、蛋白質分解酵素(ヤクルト薬品工業社製「アロアーゼXA−10」)を0.25mg/mlとなるように添加し、5分間の加水分解を行った。その後、80℃、30分間の条件により蛋白質分解酵素の失活処理を行った。次に、その失活後の液をろ過し、変性ペプチドL水溶液を得た。
【0077】
(変性ペプチドH水溶液)
加水分解工程を次の通り行った以外は上記変性ペプチドL水溶液と同様にして、変性ペプチドH水溶液を得た。なお、変性ペプチドHは、変性ペプチドLよりも分子量が大きいものであることがSDS−PAGE法により確認されている。
【0078】
変性ペプチドH水溶液を得るための加水分解工程では、回収工程で得た固形状変性ペプチドが1質量%、かつ、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールでpH10.5とした水溶液を、80℃で2時間加熱した。この加熱後の液をろ過し、変性ペプチドH水溶液を得た。
【0079】
下記の通り、実施例、比較例、及び参考例の組成物を調製し、一部の組成物に対して経時試験を行った。
【0080】
(経時試験)
実施例等の組成物50ml程度をガラス製容器に収容、密栓し、表1〜3の経時試験条件で試験を行った。この経時試験では、試験前後の組成物の外観を目視確認したと共に、pHを測定した。
【0081】
(実施例1a〜1d、比較例1、参考例1)
下記表1の通りの防腐剤を変性ペプチド水溶液Lに配合し、実施例1a〜1d及び比較例1の組成物を調製した。この組成物の調製では、当該組成物において3質量%となる1,3−ブタンジオールに防腐剤を溶解させ、これを変性ペプチド水溶液Lに添加した。その後、フィルター(ADVANTEC社製「DISMIC−25cs」、フィルター孔径45μm)で調製した組成物をろ過し、実施例1a〜1d、比較例1、及び参考例1の液状組成物として回収した。
【0082】
下記表1において、非イオン形態の防腐剤を用いた実施例1a〜1dの組成物では、比較例1の組成物に比して、経時試験後の外観の黄色着色の程度が抑えられていたことを確認できる。
【表1】

【0083】
(実施例2a〜2d)
下記表2の通りの防腐剤を、実施例1aと同様にして、変性ペプチドH溶液に配合した。更に、乳酸を用いてpHを調整し、実施例2a〜2dの組成物を調製した。
【0084】
下記表2において、経時試験前の外観は、pH7.0以下であると透明性が低下することを確認できる。
【表2】

【0085】
(実施例3a〜3f)
下記表3の通りの防腐剤を、実施例1aと同様にして、変性ペプチドH溶液に配合した。更に、表3の通りの添加物を配合すると共に乳酸を用いてpHを7.0に調整した後、フィルター(ADVANTEC社製「DISMIC−25cs」、フィルター孔径45μm)で調製した組成物をろ過し、実施例3a〜3fの組成物として回収した。なお、ろ過前の実施例3d〜3fの組成物には沈殿物が確認され、実施例3fの組成物については前記ろ過を行うことができなかった。
【0086】
下記表3に示す通り、アニオン界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム)を配合した実施例3bの組成物は、経時試験前後で透明性が高かったことを確認できる。また、添加物として塩を配合した実施例3d〜3fでは、その配合により沈殿物が生じたことから、塩の添加を避けることが望ましいことを確認できる。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)〜(III)で表される構造及びこれらの構造の塩から選ばれた単位を有する側鎖基を一種又は二種以上備える変性ペプチド、非塩形態の防腐剤、並びに水が配合された液状の組成物。
−S−S−(CH−COOH (I)
(式(I)中、nは1又は2である。)
−S−S−CH(CH)−COOH (II)
−S−S−CH(COOH)−CH−COOH (III)
【請求項2】
pHが5.0以上11.0以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
毛髪処理剤の原料として用いられる請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記変性ペプチドの濃度が0.05質量%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
無機塩の配合量が0質量%以上1.0質量%未満である請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
フェノキシエタノール及びパラオキシ安息香酸エステルから選ばれた一種又は二種以上が、前記防腐剤として配合された請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
炭素数2以上6以下の一価、二価、及び三価の水溶性アルコールから選ばれた一種又は二種以上が配合された請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
アニオン界面活性剤が配合された請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−56855(P2012−56855A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198529(P2010−198529)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(592255176)株式会社ミルボン (138)
【Fターム(参考)】