説明

毛髪用美容剤、美容剤用容器、毛髪美容システム、および毛髪用美容剤の製造方法

【課題】 染毛剤16を用いながらも、毛髪につやとさらさら感とを与え、アレルギー反応が出難く、面倒な作業が不要で、肌にもやさしく、染毛時間を適度な長さで規定可能な美容剤を提供する。
【解決手段】 撹拌部材11を有する攪拌容器10を用意し(a)、ここに、ヘアトリートメント剤12を入れ(b)、pH調整剤13を入れ(c)、精油14を入れる(d)。つぎに、撹拌部材11を用いて、ヘアトリートメント剤12とpH調整剤13と精油14とを撹拌することによって、ベース15を作成する(図1(e))。撹拌容器10内に、染毛剤16を入れ(f)、撹拌容器10内に精油17を入れ(g)、撹拌容器10の撹拌部材11を用いて、ベース15と染毛剤16と精油17とを撹拌することによって、美容剤18を作成する(h)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、ヘアトリートメント剤および/または変色剤とを含む毛髪用美容剤、毛髪美容システムおよび美容剤用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、毛髪を染める場合には、おおよそ、以下のような手順を踏む。すなわち、
(1)毛髪に付着している汚れを落とす、汚れ落とし用シャンプーを行う。
(2)染毛剤が肌に付着することで肌がかぶれることを防止するために、フェイスライン等にコールドクリームを塗布する。
(3)pH12程度のアルカリ性の染毛剤を毛髪に塗布する。
(4)染毛剤を塗布してある毛髪をキャップで覆った状態で、赤外線などを照射して約20分を上限に加温する。
(5)染毛剤をきちんと落とす、染毛剤落とし用シャンプーを通常念入りに2回目行う。
(6)染毛剤により痛んだ毛髪にたんぱく質等を補うために、トリートメント剤を用いて、ヘアトリートメントを行う。
(7)毛髪の静電気の発生を防ぐために、リンス剤を用いて、ヘアリンスを行う。
【0003】
ここで、手順(3)において染毛剤を毛髪に塗布し、手順(4)において染毛剤を塗布してある毛髪を加温することで、毛髪中のメラニン色素で化学変化が生じ、これにより染毛がなされる。
【0004】
手順(1)における1回目のシャンプーを行ってから手順(3)における染毛剤の塗布を行うまでの間に、リンス剤やトリートメント剤を使用しない。もし、これらを使用すると、毛髪表面がこれらによってコーティングされてしまう。すると、毛髪に染毛剤がきちんと塗布されず、十分な染毛を行うことができない。したがって、従来の染毛の際には、手順(1)におけるシャンプーの後に、ヘアトリートメントやヘアリンスを意図的に行わないようにする必要がある。この点は、特に、染毛の知識に乏しい理美容師以外の者が自ら染毛を行うような、家庭における使用時には注意が必要である。
【0005】
また、手順(4)における毛髪の加温によって、上記化学変化を促進することができる。この点からすると、約20分を上限とせずに、これよりも長い時間行うことが望ましい。しかし、20分以上の加温は、強アルカリ性の染毛剤の付着時間が長くなることに起因して、毛髪および頭皮にダメージを与える可能性がある。したがって、従来の染毛剤を用いている場合には、実際には、20分を超える加温を行うことができない。この点も、家庭における使用時には注意が必要である。
【0006】
また、従来の手法では、毛髪に染ムラが生じることがある。これは、pH12という強アルカリ性の染毛剤により毛髪表面のキューティクルが非常に開いた状態で加温するということ、および、加温手段から毛髪の根元までの長さと加温手段から毛髪の先までの長さとが異なることなどに起因している。具体的には、毛髪の根元の方が、加温手段に近いので、より化学変化が起こり、発色が促進されやすい。染ムラを回避するために、まず、発色しにくい部分にだけ先に染毛剤を塗布して加温した後に、発色しやすい部分にも染毛剤を塗布して加温するという、2度塗り作業を行うという手法が採用されている。
【0007】
さらに、染毛してから数ヵ月後すると、新たに毛髪が生えてくるので、その部分と既に染毛してある部分との色が異なるという事態が発生する。このため、新たに生えてきた部分を染毛する「リタッチ」という手法が用いられている。リタッチは、毛髪の染毛部分と新たに生えてきた部分との色が同じ色になるように、逐次、染まり具合をチェックしたり、これらの部分の境目がわかりにくくなるように塗布したりという作業が必要である。
【0008】
また、染毛される者の不都合な点としては、以下のようなものがある。たとえ、上記手順で染毛を行ったとしても、毛髪等へのダメージは避けられない。染毛後の毛髪は、つやがなく、さらさら感がなくなることも多い。頭皮には、染毛剤のにおいが2〜3日残ることがある。アトピー性皮膚炎等の肌の弱い人は、染毛剤の付着により頭皮等がかぶれる場合がある。染毛剤の中には、化学物質過敏症および呼吸器疾患などのアレルギー性疾患者等には適していない化学物質等が含有されているものもある。
【0009】
理容師、美容師の不都合な点は、以下のようなものがある。従来の手法では、コールドクリームを塗布する、毛髪をキャップで覆う、2度塗りするなどの面倒な作業が必要である。染毛剤を毛髪に塗布する際に、手に染毛剤が付着すると、手が荒れることがある。
【0010】
特許文献1、特許文献2には、天然染料である植物染料を有する染毛剤が、提案されている。特許文献1には、ヘナの粉末とアイの粉末とからなる毛髪用調整剤が記載されている。特許文献2には、ヘナ乾燥粉末とインド藍の葉の乾燥粉末とを配合した染毛料が記載されている。
【0011】
特に、特許文献2に記載されている染毛料は、ヘナ乾燥粉末とインド藍の葉の乾燥粉末との相乗効果により、茶褐色から黒に近いこげ茶色までの所望の色に染毛でき、良好なヘアトリートメント効果が得られる、とされている。
【0012】
しかし、上記特許文献2に記載されている染毛料は、染毛剤とは異なるので、発色度合いを規定しにくく彩色効果が低い。また、染毛料は、カラーバリエーションが少なく、染められる色が制限される。さらに、染毛料は、染毛時間が最低でも1〜3時間という長時間が必須となる。しかも、植物アレルギーを有している人は使用できないという点で、アレルギーに対する抜本的な解決には至っていない。
【0013】
【特許文献1】特開昭61−143315号公報
【特許文献2】特開2003−300845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上説明したように、従来の染毛剤では、
(1)毛髪および頭皮が痛む、
(2)面倒な作業が多い、
(3)家庭における使用時には注意すべき事項が多い、というデメリットがある。
【0015】
一方、従来の染毛料では、
(1)彩色効果が低い、
(2)染められる色が少ない、
(3)染毛時間が長い、というデメリットがある。
【0016】
そこで、本発明は、従来の染毛剤と従来の染毛料との双方のメリットを有し、かつ、双方のデメリットが少ない美容剤を提供することを課題とする。具体的には、毛髪および頭皮が痛まず、面倒な作業が不要で、家庭においても気軽に使用でき、かつ、彩色効果が高く、染められる色が多く、染毛時間が適当である、美容剤を提供することを課題とする。
【0017】
また、本発明は、染毛剤を用いながらも、毛髪につやとさらさら感とを与え、面倒な作業が不要で、肌にもやさしく、染毛時間を適度な長さで規定可能な美容剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の美容剤は、毛髪の色を変える変色剤と、美容剤本体のpHを7.0〜9.0に調整するヘアトリートメント剤および/またはpH調整剤とを含むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の毛髪美容システムは、上記毛髪用美容剤と、前記毛髪用美容材を塗布した状態の毛髪を加温する加温手段とを備えることを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明の美容剤用容器は、請求項1から3のいずれかの毛髪用美容剤が収容されており、容器内から前記毛髪用美容剤を出したときに空気が入らないような構造であることを特徴とする。
【0021】
さらにまた、本発明の毛髪用美容剤の製造方法は、毛髪の色を変色する変色剤と、ヘアトリートメント剤および/またはpH調整剤とを混合してなる美容剤の製造方法であって、前記美容剤のpHを7.0〜9.0に調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の美容剤は、ヘアトリートメント剤および/またはpH調整剤を含むので、染毛剤に比して相対的にpHが低く、毛髪およびへ肌のダメージが少なくなるし、コールドクリームを塗布するなどという面倒な作業が不要になるし、家庭においても気軽に使用することができる。また、この美容剤は、染毛剤を含むので、彩色効果が高く、染められる色が多く、染毛時間が染毛料に比して相対的に短くすることができる。
【0023】
また、本発明の美容剤は、染毛剤に比して相対的に長めに加温することが可能である。こうすることにより、トリートメント効果を高めることができる。なお、加温時間を短くしたければ、加温温度を制御することで調整できる。
【0024】
さらに、本発明は、ヘアトリートメント剤を含むので、毛髪につやとさらさら感とを与えることが可能となる。
【0025】
本発明は、特に、所要のアロマオイル(精油)を用いると、アレルギー性疾患者でも、その症状が生じにくくなるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態の美容剤18の模式的な製造方法を示す模式図である。ここでは、一人用の分量を例に説明する。
【0028】
まず、たとえば、上部が回転するまたは全体が上下運動するような撹拌部材11を有する攪拌容器10を用意する(図1(a))。つぎに、撹拌容器10内に、ヘアトリートメント剤12を90cc〜120cc程度入れる(図1(b))。つづいて、撹拌容器10内に、pH調整剤13を80cc〜100cc程度入れる(図1(c))。つぎに、ヘアトリートメント剤12とpH調整剤13とを混合しやすいように、攪拌容器10内に精油14を20cc〜30cc程度入れる(図1(d))。
【0029】
ここで、ヘアトリートメント剤12は、水、セタノール、ミンク油、アボガド油、コーン油、ホホバ油、オリーブ油、コムギ胚芽油、ブドウ種子油、オレンジ油、チョウジ油、ウイキョウ油、ラベンダー油、エタノール、尿素、カルナウバロウ、ステアルトリモニウムクロリド、スクワラン、ミネラルオイル、ベヘントリモニウムクロリド、トリラウレス-4リン酸ナトリウム、カルボマー、水酸化ナトリウム、セトリモニウムクロリド、ラノリン酸脂肪酸コレステリル、メトキシケイヒ酸オクチル、アラニン、アルギニン、フェノキシエタノール、パルチミン酸イソプロピル、ステアリン酸グリセリル、メチルパラベン、プロピルパラベン、グリセリン、ブチルパラベン、グリシン、グルタミン酸、セリン、トレオニン、プロリン、ベタイン、リジン、ソルビトール、ヂブチルヒドロキシトルエン、ポリオレイン酸スクロース、香料、ミツロウ、ステアリン酸グルセリル、ラノリン、レシチン、コラーゲン、ケラチン、ヒアルロン酸ナトリウム、メトキシケイヒ酸オクチル、ヘキシルデカノール、ジメチルPABAオクチル、プロピルパラベン、トコフェロール、乳酸、ポリシロキサン、アジピン酸ジイソブチル、ジメチコン、オクタン酸セチル、ミリスチルアルコール、コメチルステアリルアミン、イソペンチルジオール、ステアリルアルコール、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸、セトリモニウムブロミド、種々のエキスなどのいくつかを含む。
【0030】
ここでは、ヘアトリートメント剤12は、pH5.0〜6.0くらいのものを用いている。実際にクリーム状のヘアトリートメント剤を単独または組み合わせて美容剤18を作成した。また、泥状のヘアトリートメント剤を単独または組み合わせて美容剤18を作成した。その結果、いずれのヘアトリートメント剤であっても、所要の効果が得られることを確認した。ただし、一般的に、泥状のヘアトリートメント剤の方が、クリーム状のヘアトリートメント剤の方よりも、つやとさらさら感などを、より毛髪へ与える傾向にあることがわかった。また、ヘアトリートメント剤12は、クリーム状であろうと泥状であろうと、単独で用いるよりも、組み合わせて用いる方が、多くの成分を備えることになるので、つやとさらさら感などを、より毛髪へ与える傾向にあることがわかった。
【0031】
pH調整剤13は、毛髪への更なるトリートメント効果を与えるために、トリートメント成分を有すると好適である。特に、このトリートメント成分が、ヘアトリートメント剤12のトリートメント成分と異なると、毛髪への相乗効果が高まるため好ましい。なお、ヘアトリートメント剤12およびpH調整剤13のトリートメント成分には、石油系、アミノ酸系、水系、馬油系等のいずれの表面活性剤が含まれていてもよい。
【0032】
pH調整剤13は、美容剤18そのもののpHを、7.0〜9.0に調整できるものであればよい。pH調整剤13の分量は、pH調整剤13そのもののpH等に応じて、決定すればよい。本実施形態では、pH調整剤13として、3%〜6%程度の過酸化水素水とpH4.0〜5.0程度のトリートメント剤とを用いている。
【0033】
精油14は、単に、トリートメント剤12とpH調整剤13との混合の作業性を向上させるだけではなく、トリートメント剤12と相まって、毛髪をより良くするように働きかけるように、トリートメント効果を備えるものを用いている。精油14は、水、乳酸ナトリウム、ケラチン、コラーゲン、尿素、ヂブチルヒドロキシトルエン、ジメチコン、エタノール、シクロメチコン、加水分解野菜タンパク、加水分解コムギタンパク、加水分解コムギデンプン、ポリクオタニウム、ポリアクリルアミド、水添ポリイソブテン、ソルビン酸カリウム、フェノキシエタノール、メチルパラベン、プロピルパラベン、香料、セタノール、イソノナン酸イソノニル、セテス、ベヘントリモニウムクロリド、イソステアリン酸ヘキシルデシル、イソプロパノール、セテアリルアルコール、セトリモニウムメトサルフェート、リシン、パンテノール、パンテニルエチル、ヒスチジン、クエン酸、種々のエキスなどのいくつかを含む。精油14は、pH5.0〜6.0くらいのものを用いている。
【0034】
つぎに、撹拌容器10の撹拌部材11を用いて、ヘアトリートメント剤12とpH調整剤13と精油14とを撹拌することによって、ベース15を作成する(図1(e))。引き続き、撹拌容器10内に、変色剤であるところの染毛剤16を80cc程度入れる(図1(f))。それから、撹拌容器10内に精油17を必要に応じて入れる(図1(g))。その後、撹拌容器10の撹拌部材11を用いて、ベース15と染毛剤16と精油17とを撹拌することによって、美容剤18を作成する(図1(h))。
【0035】
ここで、染毛剤16は、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、セトルテアリルアルコール、パラフェニレンジアミン、ポリエチレングリコール、ステアリルアルコール、トコフェロール、セタノール、プロピレングリコール、オルトアミノフェノール、ステアルトリモニウムクロリド、グルコース、モノエタノールアミン、エデト塩酸、パラベン、香料、パラフェニレンジアミン、パラアミノフェノール、パラアミノオルトクレゾールなどのいくつかを含む。染毛剤16は、pH12くらいであり、クリーム状のものを用いている。
【0036】
なお、染毛剤16は、脱色剤、脱染剤、非酸化染毛剤、酸化染毛剤などに大別されるが、いずれのものを用いてもよい。染毛剤16は、染毛したい色に応じて複数色を混ぜ合わせたものでもよい。また、染毛剤16に代えて、染毛料を用いることもできる。たとえば、酸性の染毛剤等であってもよく、この場合には、pH調整剤13等は、pHが高めのものを使用するか、使用量を増やすことになる。
【0037】
精油17は、オリーブ、ユーカリ、イランイラン、ローズ、ローズマリー、クラリセージ、ライム、カモミール、ラベンダー、ハーブなどの、いわゆるアロマオイルを用いる。これにより、ストレス解消、鎮静作用、毛髪のダメージ改善、脱毛防止、アレルギー反応の抑制などの効果が得られる。
【0038】
なお、本実施形態では、攪拌容器10に、ヘアトリートメント剤12、pH調整剤13、精油14、染毛剤16、精油17の順番で入れていく場合を例に説明したが、順番はこれに限定されるものではない。例えば、染毛剤16、精油14、ヘアトリートメント剤12、pH調整剤13の順番、精油17の順番としてもよい。ベース15に、精油17が含まれていてもよい。また、上記の例では、美容剤18の中間生成物として、ベース15を作成する例を説明したが、ベース15を作成することは必須でない。ただし、ベース15を中間生成物として作成することにより、以下のようなメリットがある。すなわち、染毛剤16は、相対的にpHが高いため、酸化しやすい。染毛剤16は、酸化すると染毛作用が低下するので、真空状態で保存する必要がある。したがって、ベース15という中間生成物を経ずに美容剤18を作成すると、美容剤18を酸化させないように真空状態で保存するという取り扱いをしなければならない。
【0039】
換言すると、ベース15には、染毛剤16が入っていないので、真空状態での保存がふ用になるという点で、取り扱いが容易になる。ベース15を作成する場合には、ベース15を美容室で量産できるし、また作り置きもできる。よって、美容剤18は、染毛される者の毛髪に塗布する直前に、ベース15と染毛剤16等とを適切な分量で混合するだけで作成できるというメリットがある。なお、美容剤18は、安定しており、真空保存すれば変質しないので、美容師等が美容剤18を作成する手間が省けるように、最終生成物を後述する容器30に収容してもよい。
【0040】
図2は、図1に示す手順で作成した美容剤18を用いて染毛方法を示す図である。まず、別の容器22に移した美容剤18を刷毛21に含めて、染毛される者20の毛髪にまんべんなく塗布していく(図2(a))。引き続き、加温手段23を用いて、美容剤18が塗布されている毛髪を約40分加温する(図2(b))。
【0041】
加温手段23は、染毛される者20の頭部の周辺に位置するドーナツ状の赤外線照射部24と、赤外線照射部24を可動する支持部25とを含む。なお、加温時間は、加温温度とトレードオフの関係にあり、20分程度でも加温温度を高くすることにより、充分な染毛効果およびヘアトリートメント効果を得ることも可能である。
【0042】
なお、実際には、図2(a)に示す美容剤18を染毛される者20の毛髪に塗布するのに先だって、染毛される者20の毛髪に付着している汚れを落とすために、汚れ落とし用シャンプーを行う。汚れ落とし用シャンプーの後には、ヘアリンスやヘアトリートメントを行っても構わない。一方、コールドクリームを塗布したり、毛髪をキャップで覆ったり等の作業は不要である。また、図2(b)に示す加温の後には、美容剤18を落とすために、染毛剤落とし用シャンプーを1回行えばよい。なお、染毛剤落とし用シャンプー後に、ヘアトリートメントを行う必要はなく、ヘアリンスを行うだけでよい。
【0043】
図2には、美容室での染毛方法を示したが、家庭での染毛方法も同様に行うことができる。家庭で染毛する場合には、加温手段23として、例えば、ドライヤーとヘアキャップとを用いればよい。また、加温手段23による加温は、染毛のためには必須の工程ではない。美容剤18を毛髪に塗布した状態で、加温せずに放置しておいても、毛髪中のメラニン色素で化学変化が生じ、染毛が行われる。
【0044】
図1を参照して説明した上記の手順によって製造した美容剤18のpHは、約7.0〜9.0になる。美容剤18のpHが、約7.0〜9.0の範囲にあると、毛髪表面のキューティクルが適度に開き、そこから、美容剤18、すなわち、トリートメント剤12と精油14と染毛剤16と精油17とが浸透し、優れた染毛効果とトリートメント効果とを奏することがわかった。美容剤18のpHは、約7.0〜7.5の範囲にあると、更にトリートメント効果が優れ、好適であることもわかった。したがって、既述のように、たとえば、酸性の染毛剤を用いても、美容液18そのもののpHが、約7.0〜9.0(特に、約7.0〜7.5)の範囲にあれば、毛髪表面のキューティクルが適度に開き、そこから、美容剤18が浸透し、優れた染毛効果とトリートメント効果とを奏する。さらに、染毛剤16とpH調整剤13とだけを用いて、pHが約7.0〜9.0の範囲の美容剤18を作成し、図2に示す手順で染毛したところ、強アルカリ性である従来の染毛材を用いて染毛した場合よりも、毛髪および頭皮へのダメージが少ないことがわかった。
【0045】
また、本実施形態の美容剤18を用いると、従来必要であった2度塗り作業が不要である。これは、おそらくトリートメント剤12の塗布により、毛髪が加温手段23からの熱によるダメージを受けにくいことなどに起因して、毛髪の根元と毛髪の先との温度差が是正されるからであると考えられる。実際には、染毛直後には若干の染ムラが生じているものの、一週間もすれば毛髪の先側でも十分に染毛が進行し、染ムラがなくなる。
【0046】
また、本実施形態の美容剤10を用いると、面倒なリタッチが不要である。新たに毛髪が生えてきた場合には、図2に示す手法と同じ手法で、毛髪全体に再度美容剤18を塗布し、加温すればよい。こうすれば、毛髪の染毛部分と新たに生えてきた部分の境目がわかりにくくなるだけではなく、更に毛髪全体がトリートメントされる。
【0047】
図3は、図1に示す美容剤18を収容しておく美容剤用容器30の模式図である。図3(a)には、アルミニウムや紙などを材料としたラミネート部31と、プラスチックなどを材料としたキャップ部32とを備えるラミネートチューブ30を示している。美容剤18は、ラミネート部31を押すことによって、ラミネートチューブ30内からを絞り出す。ラミネート部31はアルミニウム等を材料としているので、押すと変形する。このため、ラミネート部31を押した後に、ラミネート部31が元の形に戻らず、ラミネートチューブ30内に空気が入らない。したがって、美容剤18内の染毛剤16が酸化することを防止できる。
【0048】
なお、美容剤18は、一つの容器30に収容せずに、例えばベース15とそれ以外とをそれぞれ別々の容器に分けて収容したり、染毛剤16とそれ以外とをそれぞれ別々の容器に分けて収容したりしてもよい。
【0049】
図3(b)には、円筒状の本体部36と、本体部36内に隙間なく取り付けられている蓋部33と、本体部36の底部側に設けられている美容剤18の抽出部35と、抽出部35に取り付けられている蛇口部34とを備えるシリンジ状の容器30を示している。で美容剤18は、例えば蛇口部34を開放した状態で、蓋部33を上から押下することで、本体部36内から押し出すことができる。したがって、容器30内から美容剤18を押し出しても、容器30内に空気が入らず、美容剤18内の染毛剤16が酸化することを防止できる。
【0050】
なお、美容剤用容器30への美容剤18の注入を含めた製造工程は、真空中で行うことが好ましい。しかし、大気中で美容剤18を製造し、それから例えば5分以内に、美容剤用容器30への注入を行うことでも、充分な染毛効果、トリートメント効果を有する美容剤18を製造することが可能である。ちなみに、一般的には、10分も大気中に放置しておけば、美容剤18内の染毛剤16は、充分な染毛効果が得られない程度まで酸化してしまう。
【0051】
以上、本実施形態では、東洋人のように毛髪が黒髪である場合に適した美容剤18について説明した。西洋人のように毛髪が金髪である場合に適した美容剤は、pHを高めにする必要がある。
【0052】
実際に、ヘアトリートメント剤12として株式会社マッドプロダクツジャパン販売元のマッドヘアエステベースマッド(商品名)を約100cc用い、pH調整剤13として6%過酸化水素水を約80ccおよびpH5.0程度のトリートメント剤を約80cc用い、精油14として株式会社マッドプロダクツジャパン販売元のマッドヘアエステNMF(商品名)を約20cc用い、染毛剤16として株式会社ピアセラボが発売元のフォーミュレイト(商品名)を約80g用いて、美容剤18を作成したところ、pHが7.0程度のものが得られた。また、pH調整剤13としてのpH5.0程度のトリートメント剤を約100cc用いるという点だけ変更して美容剤18を作成したところ、そのpHは7.5程度になった。
【0053】
この美容剤18を、被験者の毛髪に塗布した状態で、約45分間、赤外線を照射すると、きれいに染毛でき、かつ、毛髪につやとさらさら感とが与えられることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、理容業、美容業に利用することが可能であり、理美容室業務における理容のみならず、家庭においても用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態の美容剤の模式的な製造方法を示す模式図である。
【図2】図1に示す手順で作成した美容剤を用いて染毛方法を示す図である。
【図3】図1に示す美容剤を収容しておく美容剤用容器の模式図である。
【符号の説明】
【0056】
10 攪拌容器
11 撹拌部材
12 ヘアトリートメント剤
13 pH調整剤
14 精油
15 ベース
16 染毛剤
17 精油(アロマオイル)
18 美容剤
21 刷毛
22 容器
23 加温手段
30 美容剤用容器(ラミネートチューブ)
31 ラミネート部
32 キャップ部
33 蓋部
34 蛇口部
35 抽出部
36 本体部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪の色を変える変色剤と、美容剤本体のpHを7.0〜9.0に調整するヘアトリートメント剤および/またはpH調整剤とを含むことを特徴とする毛髪用美容剤。
【請求項2】
さらに、精油を含むことを特徴とする請求項1記載の毛髪用美容剤。
【請求項3】
前記pH調整剤は、ヘアトリートメント剤を含むことを特徴とする請求項1または2記載の毛髪用美容剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの毛髪用美容剤と、前記毛髪用美容材を塗布した状態の毛髪を加温する加温手段とを備えることを特徴とする毛髪美容システム。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかの毛髪用美容剤が収容されており、容器内から前記毛髪用美容剤を出したときに空気が入らないような構造であることを特徴とする美容剤用容器。
【請求項6】
毛髪の色を変色する変色剤と、ヘアトリートメント剤および/またはpH調整剤とを混合してなる美容剤の製造方法であって、前記美容剤のpHを7.0〜9.0に調整することを特徴とする毛髪用美容剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−131523(P2006−131523A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321020(P2004−321020)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(504409808)
【Fターム(参考)】