説明

気体の検出および同定のための、方法および装置

【課題】 簡易な構成を有し瞬時的かつ同時的にテスト化合物の検出を可能とする、気体の同定および対応する装置に関し、材料特有の移動度の同定と、電場強度の関数としての上記移動度の変化とを用いる一般的な方法を向上させること。
【解決手段】 非対称の交流電場が重ねて印加された直流電場である合成電場により、各々イオン化された分子が、部分的に増大または減少されるドリフト速度を有するようにすることで、上記課題が解決され得る。気体の検出および同定に関する、上記方法および関連する装置は、化合物を同定または検出することに用いられ、例えば、非常に小さい濃度での検出が必要な、爆発物、及び/又は、健康を害する物質または化合物に対して用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに従う気体の同定方法、及び請求項11のプリアンブルに従う、上記方法に対応する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気体の検出および同定のための、方法およびそれに対応する装置は、化学物質や化合物を検出および同定するために用いられ、特に非常に小さい濃度で、爆発物、及び/又は、健康に害のある物質または化合物が検出される。
【0003】
爆発物、及び/又は、有害化学物質の上記検出は、pptからppbレンジの検出限界での測定技術を要求する。そこで、これらの化合物の検出および同定には、分光計がたびたび用いられる。プラズマクロマトグラフとしても称される、イオン移動度分光計(IMS)の利用が好ましく、なぜならば、上記分光計は、質量分析計などの他のものとは異なり、化学物質や化合物を検出するための真空状態をつくる真空ポンプを要しないからである。このため、IMSは、他の分光計に比して、小型かつ安価である。IMSは、多数の適用先に用いられており、例えば患者の呼気検査などの医療分野から、例えばコーヒー焙煎設備の品質管理などの生産監視、例えば化学兵器の検出などの軍事分野にまで用いられている。IMS及びその適用の一般的なレビューは、例えばG.A. Eiceman and Z. Karpas "Ion Mobility Spectrometry"(2nd. Edition, CRC, Boca Raton, 2005)で見ることができる。
【0004】
上記IMSの構造および操作は、多数の出版物に記載されている。例えば、US 3,621,240には、大気圧でのイオン移動度が異なることを生かした、古典的な飛行時間型のIMSが記載されている。そのターゲット化合物は、放射能による放射、光イオン化、又は、コロナ放電の何れかによるイオン源にて、連続的にイオン化がなされる。しばしば用いられるのは、空気分子を直接的にイオン化する放射能源である。上記イオン化した空気分子は、水分子と更に反応し、その水分子とともに所謂反応イオンを形成する。上記反応イオンは、プロトン移動、電子移動、又は、プロトン引き抜き反応により、関心のある化合物と反応し、所謂生成イオンを形成する。上記生成イオンは、略200マイクロ秒の非常に短い時間スパンの間に、電気グリッドの補助をうけてドリフト管に導入される。このドリフト管は、電場を有し、ドリフト気体(典型的には、大気圧のフィルタされた空気)内のイオンを加速させるようになっている。ドリフト空間の電場極性を変化させることにより、陽性操作モードでは陽イオンが検出され得、陰性操作モードでは陰イオンが検出され得る。上記導入された生成イオンは、上記電場により連続的に加速され、上記ドリフト気体内の中性分子との衝突を介し連続的に減速される。同じ電荷をもつイオン全ては、上記電場では同一の引力を受ける。上記生成イオンは、異なるパラメータおよび異なる形状を有しているため、上記生成イオンは、異なるドリフト速度も有する。上記ドリフト管の末端では、上記異なるドリフト速度をもって上記生成イオンが検出器に衝突する。上記ドリフト管を通過する上記生成イオンの異なる飛行時間(典型的には、5から30ミリ秒のレンジ内にある。)から、テスト化合物について結論を導き出すことが可能となる。
【0005】
上記古典的な飛行時間型のIMSにおける、ドリフト速度を測定するためのスタートパルスは、上記電気グリッドのスイッチング処理により生成され、この処理のみにより、イオンの一部がドリフト空間に導入される。周囲空気の分子との衝突は、上記導入されるイオンの拡散を広める原因となる。上記検出器で測定された信号は、その形状としてガウス釣鐘曲線をとる。上記ドリフト速度は、上記測定される飛行時間から、又は、上記釣鐘曲線の最大値でのドリフト時間と既知のドリフト空間の長さとから、決定され得る。それによって得られるスペクトルが、化学物質や化合物を同定するために用いられ得る。
【0006】
上記ドリフト管を通過する生成イオンの飛行時間は、上記生成イオンが検出器に衝突するときの上記ドリフト速度に比例する。上記ドリフト速度は、上記電場での加速および上記ドリフトガス内でのイオンと中性分子間の衝突を介した減速により、ひいてはイオンの質量、又は、イオンの大きさ及びイオンの形状に依存する。
【0007】
上記生成イオンのドリフト速度vdは、小さい電場強度E(例えばE=200V/cm)にて、電場強度にリニアに依存する。上記小さい電場強度では、上記生成イオンの移動度Kは上記電場強度に独立で、次のように表すことができる。
K = vd / E.
【0008】
上記イオンのドリフト速度は、上記ドリフト管内の温度および圧力にも依存するので、化合物の同定および検出に対し、上記生成イオンの移動度は常に標準状態(標準温度T0 = 273°K、及び標準圧力p0 = 1013 hPa)に標準化される。上記生成イオンの、低減または標準化された移動度は、次のように表すことができる。
K0 = K ・ (T0 / T) ・ (p / p0) = K ・ (273°K/T) ・ (p / 1013 hPa)
【0009】
上記古典的な飛行時間型のIMSを用いると、テスト化合物の検出および評価に対し、上記生成イオンのうち少数のみしか利用できないという不利がある。上記電気グリッドのスタートパルスは、上記イオンのドリフト時間に比して非常に短いため、上記生成イオンのうち少数のみが上記グリッドを介しドリフト管に侵入する。上記生成イオンのうち多数は、上記グリッドが閉鎖されたときに同グリッドに衝突して、同グリッドにて中性化する。
【0010】
結果として、イオンビームの変調とグリッドのイオン遮蔽との組み合わせで上記イオンのスループットを増加させることにより、上記ドリフト管に到達する生成イオンの収率、即ち、テスト化学物質またはテスト化合物の検出限界も増加させることができる。上記イオンビームの変調については、例えばDE 19515270 C2のように、数学的変換(アダマール変換やフーリエ変換)の手法によりIMSの飛行時間スペクトルの計算を可能とするよう提案されている。
【0011】
不都合なことに、上述のIMSでは、陽イオンまたは陰イオンのみが測定可能であり、分離管の極性を変化させることが要求される。このことは、測定時間を増加させることになる。加えて、幾つかの毒性の工業化学薬品(例えばベンゼン)は、放射能源では測定することができない。なぜなら、上記生成イオンが上記反応イオンと同時に上記検出器に衝突するからである。
【0012】
US 5420424、US 6495823、又はUS 6504149には、微分移動度分光計(DMS)や電場非対称性イオン移動度分光計(FAIMS−分光計)が開示されていて、これらは、イオン源、電極、及び検出器により構成されている。ここにおいて、イオンが形成された後、上記イオンは、一定のガス流にて中性分子と一緒に、2つの平行な電極間を通過する。上記電極は、平面平行または軸対称のうち何れとなっていてもよい。上記電極には、高電圧および低電圧が択一的に印加される。電場は、上記古典的な飛行時間型のIMSとは異なり、イオンの流れ方向に対し垂直に作用する。非対称な交流電圧を用いるのは、平均電圧が打ち消しあうためである。例えばSU 966583にて、大きな電場強度でのイオン移動度の異なる変化に基づく、イオン分離のための、上記交流電圧に関する記載を見つけることができる。"Transport Properties of Ions in Gases" (Wiley, New York, 1988)の記載の中では、E.A. Mason 及び E.W. McDanielによれば、非常に大きい電場強度(例えばE > 5000 V/cm)では上記移動度はもはや電場強度から独立となるとされている。
【0013】
DMSによれば、大小の電場強度におけるイオン移動度の異なる変化を利用して、上記イオンが分離される。この点が古典的な飛行時間型のIMSと異なる。上記イオンの分離は、イオン移動度K(Elow)とK(Ehigh)の違いによるものである。上記イオン移動度K(Elow)とK(Ehigh)の違いは、化合物が異なれば異なるので、DMSでは、電場の関数としての、物質依存のイオン移動度の物性が使用され得る。
【0014】
上記大きい電場強度でのイオンのドリフト速度は、次のように表すことができる。
vd = K(E) * E
【0015】
定数でない移動度K(E)は、多項式係数を用い級数展開により表すことができる。
K(E) = K + k1*E2 + k2* E4+.......
【0016】
又は関数α(E)により、次のように表すことができる。
K(E) = K * ( 1 + α(E) )
【0017】
関数α(E)は、電場にノンリニアな依存性を規定する。この依存性は、化合物毎に異なる。例えば、上記関数α(E)は、電場強度を増加させると増加する場合、電場強度を増加させると減少する場合、電場強度を増加させるとはじめは増加して大きい電場強度にて再び減少する場合がある。従って、化合物は、上記電場強度の依存性によって3つのカテゴリに分類される。タイプAのイオンでは、電場強度を増加させるとイオン移動度が増加し、タイプCのイオンでは、電場強度を増加させるとイオン移動度が減少する一方、タイプBのイオンでは、電場強度を増加させるとはじめは移動度が増加して大きな電場強度にて再び減少する。
【0018】
上記電場強度を増加させたときのイオン移動度の減少(即ち、タイプCでの減少)は、高温で衝突頻度が増加するため、上記移動度の温度依存性により生じるものである。上記電場強度での上記移動度の増加(即ち、タイプAでの増加)は、大きい電場強度でのイオンサイズの減少によるものである。測定されるある分子のイオンM+は、常に大気圧で水分子に取り囲まれるため、通常2から3個の水分子が上記分子の周囲に配置された、水のクラスタMH+(H2O)nとして表される。ここで、上記水分子は上記分子のイオンに弱く結合するのみである。このため、幾つかの化合物における水分子は、非常に大きい電場強度で大きいドリフト速度になるため分離し得る。この結果、形状及び質量が低減して、上記分子の生成イオンがドリフト気体中をより速く移動し得るようになる。上記ドリフト気体からの水分子は、小さな電場強度では、衝突工程により再びデポジットする。
【0019】
上記非対称の交流電圧によれば、一方の極性の小さい電圧は、他方の極性の大きい電圧よりも、著しく長く上記イオンに作用する。移動度が依存する電場がない場合、イオンは、偏向することなく直接的に検出器に到達する。ほとんどの化合物の移動度は、上記電場強度に依存するため、振動するイオンは平均的には偏向する。このため、例えば、タイプAのイオンは、大きい電場強度の方向へ偏向する。上記検出器にてこれらのイオンを検出するため、上記交流電圧を有する電極に、直流電圧または偏向電圧が重ねて印加されることで、上記イオンを上記検出器に到達させ得る。補償電圧としての上記直流電圧の徐変により、α(E)値に対応する所定のイオンのみを通過させることができる。この電圧が鋸歯形状で印加される場合、x軸が上記ドリフト時間ではなく、上記補償電圧を表すスペクトルが生成される。上記古典的な飛行時間型のIMSを用いるのとは異なり、絶対的な移動度に基づいては上記分離が実施されない。なぜならば、電場に依存しない異なる移動度(即ち、K(Elow)=K(Ehigh))をもつ化合物は、平均的に上記偏向が打ち消しあうため、上記非対称の交流電場により分離されないからである。
【0020】
DMSでは、イオンがガス流によってのみ輸送されるので、陽イオンおよび陰イオンは、同時に分離場に到達する。末端に、極性が異なる2つの検出器を配置させることで、上記IMSでも、陽イオンおよび陰イオンが同時に検出され得る。
【0021】
上記電極の平面平行構造において、上記電極間の距離は、例えば僅か0.5mmである。これにより、Ehigh=略20kV/cmおよびElow=略1kV/cmの典型的な略矩形波の交流電圧が、1MHzの周波数で印加され得る。上記構造により、上記補償電圧が−15Vから+10Vまで、数秒で増加される。
【0022】
上記補償電圧に加えて上記電場強度が変化する場合、即ち上記Ehigh値も変化する場合、所謂分散プロットでまとめられ得た結果により、上記イオンの分離が追加的に最適化され得る。ここにおいて、上記プロットは、大きい電場強度の関数としてプロットされたものであり、検出器信号の強度は色彩表示がなされる。
【0023】
DMSを使用する場合、未知の化学物質を測定する際に、不都合なことに上記測定に長い時間を要する。なぜならば、上記分散プロットの調整のために、時間のかかる上記補償電圧および上記交流電圧の振幅の変更が必要だからである。加えて、大きめのイオンの分解能および分離(例えばリン系有機化合物を分離する場合)においては、古典的な飛行時間型のIMSの使用よりも、DMSを使用する方が不利であり、このことは例えばWO2005/106450として開示されている。
【0024】
このため、WO2005/067582は、少なくとも1つのDMSと、古典的な飛行時間型のIMSとを組み合わせることを提案している。1の実施形態では、1つのDMSと、1つの古典的な飛行時間型のIMSとが、イオン源の後方にて並列に配置され、両分光器は、互いに独立的に作動する。
【0025】
他の実施形態では、1つの古典的な飛行時間型のIMS、又は、2つの相互に並列した古典的な飛行時間型のIMSが、択一的にDMSシステムの後方に配置されている。ここにおいて、後者の実施形態は、上記DMSシステムを抜け出たところの陽イオンおよび陰イオンの、同時測定を可能にしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
しかしながら、不都合なことに、上記DMSと古典的な飛行時間型のIMSとの組み合わせは、技術的に非常に複雑である。なぜならば、特に後者の実施形態では、2つの古典的な飛行時間型のIMSにおけるドリフト管と、1つのDMSとが構成され組み合わされる必要があるからである。加えて、DMSと、古典的な飛行時間型のIMSとの上記組み合わせでは、測定時間が長く、テスト化合物の瞬時的な検出が不可能である。なぜならば、上記DMSが、最初の分離システムとして、数秒から数分を要する上記補償電圧(の印加)を、少なくとも完了しなければならないからである。
【0027】
上記を鑑み、本発明の目的は、気体の同定および対応する装置であって、簡易な構成を有し瞬時的かつ同時的にテスト化合物の検出を可能とするものに関し、上述した方式における一般的な方法を向上させることである。ここにおいて、上述した方式とは、材料特有の移動度の同定と、電場強度の関数としての上記移動度の変化と、を用いるものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記目的は、請求項1の特徴を特徴付ける方法、及び請求項11の特徴を特徴付ける装置で達成される。有利な形態は、従属項2〜10及び12〜20に列挙される。
【0029】
気体の同定および対応する装置に対する新規な方法は、上述した現状の技術における不利益を除去する。上記気体の同定に対する新規な方法によれば、各々のイオン化分子は、合成電場により、部分的に増加又は減少するドリフト速度を都合よく有する。ここにおいて、上記合成電場は、直流電圧場に非対称の交流電圧場が重ね合わされたものである。その結果生じる上記ドリフト速度の変化(即ち、部分的に増加または減少するドリフト速度)は、以下の事実によるものである。この事実は、上記合成電場にて、各々のイオン化分子が、一定のドリフト運動に振動運動が重ね合わされた挙動を示すというものである。上記イオン化分子のドリフト速度が、部分的に増加または減少するか否かは、イオンの特性によるものであり、分子の物性に依存する。上記部分的に増加または減少するイオン化分子のドリフト速度は、上記イオン化分子の中で特徴付けおよび差異付けするために用いられる。ドリフト空間に沿った上記イオン化分子のドリフト時間は、上記ドリフト運動から測定および評価がなされる。
【0030】
好ましくは、各々のイオン化分子は、平均的に上記分子の物性に応じて、数回加速および減速がなされる。この場合、上記加速は上記減速よりも大きいか、又は、小さくてもよい。上記イオン化分子は、ドリフト空間に関するドリフト管の異なる操作モード、又は、異なる極性をもつ2つのドリフト管操作の何れかを用いて、陽イオン及び/又は陰イオンとされ得る。上記ドリフト時間は、上記合成電場によりイオン化分子を加速させてから、上記イオン化分子の速度が一定のドリフト速度に到達するまで、によって測定される。その後追加的に、上記分子は、部分的な加速または減速、又は、数回の加速または減速がなされる。ここにおいて、上記イオンの1の平均飛行時間は、交流電場なしの飛行時間に比して、長くても又は短くてもよい。上記合成電場は、非対称の交流電圧場が重ねて印加された直流電圧場である。古典的な飛行時間型のIMSとは異なり、上記非対称の交流電圧場は、上記ドリフト運動に追加的な振動運動を重ね合わせるので、上記古典的な飛行時間型のIMSでは同一の移動度をもつため分離不可能であるイオンであっても、大きい電場強度にて大きい移動度を持たせ得るため分離され得る。
【0031】
特に好ましい形態としては、上記合成電場が、パラレルな交流電圧場が局所的に重ねて印加された直流電圧場である。これにより、上記イオン化分子は、一方向へのドリフト運動、及びパラレルなドリフト運動に重ね合わされた振動運動の挙動をとる。
【0032】
好ましくは、上記直流電圧場は小さい電場強度を有し、上記非対称の交流電圧場は(上記小さい電場強度よりも)大きい電場強度を有する。上記非対称の交流電圧場が一時的に非常に大きな電場強度を有することで、異なるα(E) 依存性を有するイオンの、追加的な加速または減速がもたらされる。好ましくは、上記非対称の交流電圧の振幅は徐変され、結果として生じた上記ドリフト時間の変化は、測定される化学物質または化合物を同定するための追加的な特徴として利用される。
【0033】
好ましくは、上記測定されるドリフト時間の評価および上記化合物の同定に対して、上記測定されるドリフト時間は、予め決められた既知の化合物のドリフト時間と比較されてもよく、及び/又は、上記測定されるドリフト時間と、上記既知の化学物質および化合物のドリフト時間とが、数学的手法または統計的手法(例えば、規定に基づくアルゴリズム、又は、ニューラルネットワークなど)を用いて比較されてもよい。
【0034】
好ましくは、上記イオン化分子のドリフト時間は、電場強度の関数として上記移動度の変化に依存する。なぜならば、上記イオン化分子は、上記交流電圧の電極により生成される大きい電場強度の電場におけるドリフト空間内にて、小さい電場強度を有する電場の場合とは、異なる軌跡を有するからである。好ましくは、同じ移動度かつ小さい電場強度での上記イオン化分子のドリフト時間は、上記交流電圧の電極により生成される大きい電場強度での上記非対称の交流電圧場が追加された後の、上記イオン化分子のドリフト時間と比較される。ここにおいて、測定されるドリフト時間は、化合物を同定するための、予め決められたドリフト時間と比較される。
【0035】
好ましくは、上記気体の同定のための新規装置を使用する場合、少なくとも1つのドリフト管は、一方が入り口システムにより区切られ、且つ、他方がそれぞれの検出器により区切られるようになっている。ここにおいて、上記ドリフト管をドリフト空間と反応空間とに区画する開閉グリッドは、それぞれのドリフト管に配設される。ここにおいて、上記反応空間にイオン源が配置され、上記ドリフト空間にシールドグリッドが配置される。ここにおいて、上記ドリフト管は、上記ドリフト空間にて配置された、幾つかの、直流電圧電極および交流電圧電極を備える。
【0036】
好ましくは、追加的なドリフト管は、一方が入り口システムにより区切られ、他方が追加的な検出器により区切られるようになっている。ここにおいて、上記追加的なドリフト管は、その他のものとは異なる極性を有する。このようにして、陽イオンおよび陰イオンが、対応するドリフト管にて同時的にそれぞれ測定され得る。
【0037】
好ましくは、上記ドリフト管は、交互に配置された金属リングおよび絶縁体リングから構成される。ここにおいて、それぞれの金属リングは、上記ドリフト空間周辺にて、対応する直流電圧の電極を形成する。また、上記ドリフト管は、小さい電気伝導度を有する1または複数の管から構成されてもよい。
【0038】
好ましくは、上記ドリフト管は、細いワイヤのグリッドから構成された電極であって、上記ドリフト空間周辺に配置された、幾つかの交流電圧の電極を備えていてもよい。ここにおいて、上記交流電圧の電極は、上記ドリフト空間の長さに沿って分配され、上記ドリフト空間を横切るように伸長する。択一的には、上記ドリフト管は、好適には上記ドリフト空間に配置される少なくとも1つの任意の電極を備える。ここにおいて、イオン化分子のドリフト速度に、異なる手法で影響を与える上記任意の電極にて、追加的な補償電圧が生成されてもよい。
【0039】
特に好ましい形態では、追加的なドリフト管は、一方が入り口システムにより区切られ、他方が追加的な検出器により区切られるようになっている。ここにおいて、上記追加的なドリフト管は、その他のものとは異なる極性を有する。このようにして、陽イオンおよび陰イオンが、対応するドリフト管にて同時的にそれぞれ測定され得る。
【0040】
上記気体を同定するための新規方法および対応する装置は、異なる手法で実施されてもよい。発明にかかる思想は、実施形態を参照し説明される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ドリフト管の概略図である。
【図2】図1に記載のドリフト管の長手方向の断面における、例示的な電位分布である。
【図3】図1に記載のドリフト管における、固定時間での例示的な電位分布である。
【図4】図1に記載のドリフト管における、例示的なイオンの軌跡である。
【図5】交流電圧が印可されない場合の、例示的なスペクトルである。
【図6】交流電圧が印可される場合の、例示的なスペクトルである。
【図7】2つのドリフト管の概略図である。
【図8】任意の電極を備えたドリフト管の概略図である。
【符号の説明】
【0042】
1 ドリフト管
2 入り口システム
3 検出器
4 開閉グリッド
5 反応空間
6 ドリフト空間
7 イオン源
8 シールドグリッド
9 金属リング
10 絶縁体リング
11 電極
12 交流場電極
13 金属コーム
14 軌跡
15 軌跡
16 飛行時間の分布
17 飛行時間の分布
18 任意の電極
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1に記載の実施形態によれば、上記気体を同定するための新規装置は、ドリフト管1を備えており、このドリフト管1は、一方が入り口システム2により区切られ、他方が伝導性の平盤に形成された検出器3により区切られるようになっている。電気により開閉する開閉グリッド4は、上記ドリフト管1に配設されており、ドリフト管1の内部空間を、反応空間5と、ドリフト空間6と区画するようになっている。上記反応空間5は、上記入り口システム2により区切られ、上記ドリフト空間6は、上記検出器3により区切られている。加えて、イオン源7は、上記反応空間5の上記入り口システム2近傍に配置され、シールドグリッド8は、上記ドリフト空間6の上記検出器3前面に配置されている。上記イオン源7は、放射性のNi63の箔を備え、上記シールドグリッド8は、容量性デカップリングのために備えられる。上記開閉グリッド4は、所謂ブラッドベリ−ニールセングリッドであり、電気伝導性を持つ2つの金属コーム13であって、上記ドリフト管1を横切って平面的に伸長するように配置されている金属コーム13を備えている。上記金属コーム13は、お互いに接触しないよう、他の金属コーム13から所定のオフセットを有する。
【0044】
上記ドリフト管1は、金属リング9と絶縁体リング10とが交互に配置されることで構成されている。上記金属リング9は、他の金属リング9と抵抗をもって電気的に接続され、このため、直流電圧の電極11として備えられていることになる。上記直流電圧の電極11への印加電圧は、上記反応空間5およびドリフト空間6の内それぞれにて、定常の電場強度を生成するように選択される。加えて、上記ドリフト管1は、細い金属ワイヤで形成された複数の交流電圧の電極12を備えており、その電極12は、上記ドリフト空間6の周辺に配置されドリフト空間6の長さに沿って分配されており、且つ、上記ドリフト空間6を横切って伸長するようになっている。
【0045】
上記第1の実施形態に従った、気体を同定するための新規装置の操作について説明する。テストされる化合物は、周囲空気を含みつつ、上記入り口システム2を介して上記イオン源7へ導入される。上記入り口システム2は、小さな開口を備えていてもよく、また、移動式システムにおいては、シリコン膜を備えていてもよい。
【0046】
上記イオン源7のNi63の箔からの放射は、上記周囲空気からの空気分子をほとんどイオン化する。後続反応及びデポジットにより、水分子を伴う所謂反応イオンが形成される。この反応イオンは、プロトンまたはプロトン引き抜き反応を介して、後続的に生成イオンを形成し、これにより、テスト化合物の分子がイオン化される。上記生成イオンは、上記直流電圧の電極11により生成された電場中にて、上記反応空間5から上記開閉グリッド4まで進行する。上記開閉グリッド4は、2つのスイッチング状態を有している。第1のスイッチング状態では、上記開閉グリッド4は閉鎖される。上記開閉グリッド4の複数の金属コーム13は、互いに異なる電位となり、上記金属コーム13間の電位差は略100Vである。上記電位差は、大きい電場強度を生成し、イオンが上記開閉グリッドを通過することが規制される。上記反応空間5からのイオンは、この結果、上記ドリフト空間6に進入することができなくなる。第2のスイッチング状態では、上記開閉グリッド4は開放される。上記金属コーム13間の電位差は、その後、数マイクロ秒以内に低減されて、これにより、イオンが開閉グリッド4を通過することが許容されるとともに、上記反応空間5から上記ドリフト空間6に進入できるようになる。
【0047】
上記開閉グリッド4は、通常は閉鎖されており、上記金属コーム13間の電位差を一時的に低減することにより、定められた時間間隔にて一時的に開放されるようになっている。上記開閉グリッド4の開放状態では、イオンは、上記直流電圧の電極11の電場により、上記反応空間5から上記ドリフト空間6へと上記検出器3の方向に引き寄せられる。上記検出器3へイオンが引き寄せられる途中、上記イオンは、上記直流電圧の電極11および上記交流電圧の電極12の電場を必ず通過し、これらの電場は、同一の電荷をもつ全てのイオンに、同一の引力を与える。いずれにしても、上記イオンは、中性空気分子と連続的に衝突するため、上記電場中のイオンの速度は、イオンの質量、例えばイオンのサイズ、イオンの形状などに依存する。
【0048】
上記直流電圧の電極11は、小さい電場強度をもった電場を生成し、これにより、同一の径および形状を有するイオンが、同一のドリフト速度となるよう加速される。一方、異なる径および形状を有するイオンは、異なるドリフト速度となるよう加速される。上記ドリフト空間6の範囲において、同一の座標軸に沿って操作する、大きい電場強度の非対称の交流電場は、上記直流電圧の電極11により生成される小さい電場強度の電場に重ねて印加される。これは、上記交流電圧の電極12の間にあるイオンに対し、追加的な力が印加されるようにするためである。上記イオンは、その後追加的に減速または加速され、これにより、上記イオンは、上記交流電圧の電極12の間にて振動運動の挙動を示すようになる。
【0049】
上記イオンは、上記ドリフト空間6においては定常の基本運動の挙動を示し、上記交流電圧の電極12の間においては、その運動に振動運動が重ね合わされる。これは、異なるα(E)値を有する上記イオンが、上記振動運動により分離されるようにするためである。上記α(E)値は、上記電場の加速方向のノンリニアな依存性を示し、この依存性は、化合物が異なれば、異なるようになっている。例えば、上記α(E)値は、電場強度を増加させると徐々に増加する場合、電場強度を増加させると減少する場合、また、電場強度を増加させるとはじめは増加し、それから大きい電場強度で再び減少する場合がある。従って、化合物は、上記電場強度の依存性によって3つのカテゴリに分類される。タイプAのイオンでは、電場強度を増加させるとイオン移動度が増加し、タイプCのイオンでは、電場強度を増加させるとイオン移動度が減少し、タイプBのイオンでは、電場強度を増加させるとはじめは移動度が増加し、それから大きい電場強度で再び減少する。定常の基本運動と、振動運動とで構成される運動をするイオンであって、例えば、タイプAとタイプCのイオンは、タイプAとタイプCのイオンの運動が異なることから、上記ドリフト空間6にて分離される。なぜならば、上記非対称の交流電場にて、上記タイプAのイオンが追加的に加速され、上記タイプCのイオンが追加的に減速されるからである。
【0050】
上記イオンは、上記ドリフト空間6の末端にて上記検出器3に衝突する。上記検出器3は、ファラデーコレクタである。検出器3前面のイオンと検出器3との間に容量性デカップリングを生成するために、上記シールドグリッド8が、上記検出器3の前面に配置されている。
【0051】
上記検出器3の測定信号は、図1に図示しない評価ユニットにて評価され、上記ドリフト空間6を介したイオン化分子のドリフト時間は、開閉グリッド4の開放時間および上記検出器3へのイオンの衝突時間から決定される。上記測定されたドリフト時間は、測定されたドリフト時間を、既知の化合物の予め決められたドリフト時間と比較することにより、評価される。ここにおいて、同一のドリフト時間であれば、上記イオン化分子と、(既知の)化合物とが同一であるといえる。
【0052】
図2は、図1に記載のドリフト管1における、固定時間での電位の曲線を示している。上記交流電圧の電極12の位置にて電位は著しく増大し、上記交流電圧の電極12の外側では電位は着実に減少することが判る。このことは、図示された例における上記交流電圧の電極12を、ドリフト管1内の任意の場所に位置させることはできないことを示唆している。例えば、上記ドリフト空間6の開始端にて不十分に小さい電位が存在すると、上記交流の電場強度が過大となり、イオンが検出器3に到達するのを妨げることになるからである。
【0053】
図3は、図1に記載のドリフト管1における、例示的な電位の曲線を示している。ここにおいて、上記電位は、固定時点での、上記ドリフト空間6におけるイオンの進行距離xで参照される。これによれば、5つの交流電圧の電極12を有する図1に記載のドリフト管1を参照すると、上記交流電場は1つ目、3つ目、及び5つ目の交流電圧の電極に印加される一方、2つ目と4つ目の交流電圧の電極12は直流電位となっていることが判る。
【0054】
図4は、上記ドリフト管1の隣り合う交流電圧の電極12間における、上記ドリフト空間6内の、例示的なイオンの軌跡を示している。ここにおいて、上記ドリフト空間6におけるイオンの進行距離xは、時間tで参照される。軌跡14は、大きいα(E)値をもつイオンの軌跡を示し、軌跡15は、小さいα(E)値をもつイオンの軌跡を示している。2つのイオンの軌跡は、小さい電場強度で同一の移動度(即ち同一のK(Elow))をもつが、大きい電場強度では異なる移動度K(Ehigh)をもつ。電場方向に垂直な偏向は発生しないが、詳細を明瞭にするためのみの理由で、同偏向も図中に記載してある。
【0055】
図4によれば、上記交流電圧の電極12(電極12は、原理的には上記イオンを上記イオンの軌跡方向のみに偏向させる)の前の領域にて分離されないイオンは、上記交流電圧の電極12の領域にて、大きい非対称の交流電圧の効果により異なる距離を進行する。これにより分離を可能としている。このことはまた、以下のことを示している。即ち、異なるα(E)値をもつイオンは、小さい電場強度にて同一の移動度を有するが、大きい電場強度では異なる移動度を有するため、上記イオンは、上記大きい非対称の交流電圧が印加されているときに、上記ドリフト空間6中で異なる飛行時間を有し、異なる時間に上記検出器3に到達する。
【0056】
上記イオンのドリフト速度は、測定されたドリフト空間6中のイオンの飛行時間により、又は、上記釣鐘曲線の最大値におけるドリフト時間と既知のドリフト区間の長さとにより決定され得る。上記飛行時間は数ミリ秒であるため、数回の測定にて平均化されたスペクトルが、ガウス釣鐘曲線の形状で秒毎に表示される。図5および図6にて、上記検出器3にて測定される例示的な信号を示す。図5および図6は、上記検出器3にて測定された例示的なスペクトルを示している。ここにおいて、図5は、上記交流電圧の電極12に小さい直流電圧を印加した場合の、それぞれの直流電圧の電位に対応する例示的なスペクトルを示している一方、図6は、上記交流電圧の電極12に大きい電場強度の非対称の交流電圧を印加した場合の、例示的なスペクトルを示している。
【0057】
図5は、上記ドリフト管1のドリフト空間6での、小さい電場強度の定常電場における、同一の移動度をもつイオンの飛行時間16,17を示している。化合物のイオン化分子であって同一の移動度を有するものは、小さい電場強度K(Elow)では互いに分離することができない。このため、上記飛行時間の分布は、一方が他方の上に重なるよう位置する。
【0058】
図6は、上記ドリフト管1のドリフト空間6での、大きい電場強度の非対称の交流電場の影響下の小さな電場強度における、同一の移動度をもつイオンの飛行時間16,17を示している。化合物のイオン化分子であって同一の移動度を有するものでも、この場合小さい電場強度で互いに分離することができる。このため、上記飛行時間の分布は、明確に互いに隣り合うように位置する。
【0059】
上記電極11の極性を変化させることにより、陽性操作モードでは、上記ドリフト管1をもって、陽イオンが上記検出器3にて検出され得、陰性操作モードでは、陰イオンが検出され得る。
【0060】
また、短い時間間隔で連続的に電場の極性を変化させることにより、陽イオンおよび陰イオンを測定することが実現可能となる。電極間の電場方向も逆転させることにより、所定の時間間隔で極性を変化させるように、上記直流電圧が上記電極11に印加される。
【0061】
図7によれば、2つのドリフト管1の組み合わせもまた実現可能である。ここにおいて、第1のドリフト管1の電極11間の電場は、第2のドリフト管1の電極11間の電場がもつ方向に対抗する方向をもっている。対極をもつ上記2つのドリフト管1の組み合わせにより、陽イオンおよび陰イオンが、対応する各1つのドリフト管1にて同時的に測定され得る。
【0062】
特に好ましい形態では、上記交流電圧の振幅が変化可能とされる。上記ドリフト時間もまた変化し、上記ドリフト時間の変化は、テスト化合物を同定するための追加的な特徴として使用され得る。上記測定されたドリフト時間は、測定されたドリフト時間を、既知の化学物質または化合物の予め決められたドリフト時間と比較することにより、評価され得る。ここにおいて、上記ドリフト時間は、上記交流電圧の振幅を変化させた場合、及び、変化させない場合にて得られるものである。
【0063】
図1に記載の5つの交流電圧の電極12を備えるドリフト管1に代えて、ドリフト管1が、多数の交流電圧の電極12を備え、及び/又は、印加される交流電圧が変化するようになされてもよい。
【0064】
また、金属リングおよび絶縁体リングの交互配置ではなく、代わりに、上述したように小さい電気伝導性をもつ均一な材料で、円筒形状のドリフト管を構成することも実現可能である。この材料として、伝導性グラス、伝導性セラミック、又は、伝導性プラスチックが利用され得るが、ドリフト管を電気伝導性の材料で表面コートした電気絶縁構造としてもよい。
【0065】
別の形態では、図8のように、追加的な補償電圧を生成するために、任意の電極18が、上記ドリフト管1のドリフト空間6に配置されてもよい。このことは、上記イオン化分子のドリフト時間の追加的な変更をもたらし、テストされる化学物質や化合物の同定のための、追加的な特徴として利用され得る。
【0066】
また、上記イオン源7で発生する変換プロセスは、他の適したプロセスによっても置き換えられ得る。例えば、放射能による放射に代えて、光イオン化またはコロナ放電などによってイオンが生成されてもよい。
【0067】
上記開閉グリッド4のスタートパルスは上記ドリフト時間に比して非常に短く、イオン化分子が閉鎖されたグリッドにて中性化されるために、イオンの大部分が使用できない。このため、現行の手法が、(検出器3に到達するイオンの)収率および検出限界を最適化するために代替的に利用され得る。上記現行の手法として以下のものが用いられ得る。例えば、イオンの上記開閉グリッド4におけるスループットを増大させてもよい。また、例えば、数学的変換を用いることにより、上記開閉グリッド4の時間を切換えてイオンビームを変調し得るようにしてもよい。また、例えば、アダマール変換またはフーリエ変換により、上記検出器3で測定された信号から上記飛行時間のスペクトルが算出されてもよい。
【0068】
別の形態では、上記ドリフト管1の選択性は、追加的な反応気体(例えばドーパント気体)を用いることにより最適化されてもよい。この場合の化学反応は、上記反応気体にて影響を受け得、例えば陽イオンに対してプロトンの親和力、又は、陰イオンに対して電気陰性度により制御される。これにより、上記手法の選択性に影響を与える。追加的には、大きい電場強度でのイオンに、上記反応気体または他の電気的に中性な気体を、蓄積及びデポジットさせるプロセスにより、上記ドリフト管1の選択性が影響を受けるようにされてもよい。
【0069】
加えて、上記ドリフト管1に、他のセンサまたは他の検出器、及び/又は、上記選択性を増大させるための追加的な手法(例えば、ドリフト管1の上流のガスクロマトグラフ)を組み合わせることも考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を同定するための方法であって、前記同定される気体の分子をイオン化し、ドリフト管(6)を通過する前記イオン化された分子のドリフト時間を測定し、前記測定されたドリフト時間を評価する方法において、
前記ドリフト時間の測定のために、合成電場により、前記イオン化された分子をドリフト速度まで加速する方法であって、
各々の前記イオン化された分子は、前記合成電場によって部分的に増大又は減少したドリフト速度を有し、前記合成電場は、非対称の交流電圧場が重ねて印加された直流電圧場であることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記ドリフト速度の変化は、前記各々のイオン化された分子が、前記合成電場により、定常の前記ドリフト運動に前記振動運動が重ね合わされた挙動を示すことによることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の方法であって、
陽イオン及び/又は陰イオンが、前記イオン化された分子として用いられることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の方法であって、
前記各々のイオン化された分子は、数回加速および減速され、平均すると、前記分子の材料特性に依存して、前記加速が前記減速よりも大きいか又は小さいことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の方法であって、
前記合成電場は、非対称の交流電圧場が重ねて印加された直流電圧場であり、これにより、前記イオン化された分子が、1方向の平行なドリフト運動に振動運動が重ね合わされた挙動を示すことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、
前記直流電圧場は、小さな電場強度を有し、前記非対称の交流電圧場は、大きい電場強度を有することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の方法であって、
前記非対称の交流電圧の振幅が、前記ドリフト時間の測定の間に変化されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載の方法であって、
前記化合物の同定において、前記測定されたドリフト時間は、予め決められたドリフト時間であって、既知の化合物のドリフト時間と比較されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
前記測定されたドリフト時間と、前記既知の化合物のドリフト時間との前記比較は、数学的手法または統計的手法であって、特に、規定に基づいたアルゴリズムまたは人工ニューラルネットワークの手法を使用して実行されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9の何れか一項に記載の方法であって、
小さな電場強度にて同一の移動度を有するイオン化された分子の前記ドリフト時間は、前記イオン化された分子の前記ドリフト時間であって、切り替えられた前記交流電圧の電極(12)により生成される大きい電場強度をもった前記非対称の交流電圧場が印加された後のものと比較されることを特徴とする方法。
【請求項11】
入り口システム(2)と、少なくとも1つの検出器(3)とを備えた気体の同定のための装置であって、
一方が前記入り口システム(2)により区切られ、他方が対応する前記検出器(3)により区切られた少なくとも1つのドリフト管(1)と、各々の前記ドリフト管(1)に配置され、前記ドリフト管(1)を反応空間(5)とドリフト空間(6)とに区画する開閉グリッド(4)とを備え、イオン源(7)が前記反応空間(5)に配置され、シールドグリッド(8)が前記ドリフト空間(6)に配置され、前記ドリフト管(1)は、前記ドリフト空間(6)周辺に配置された、数個の直流電圧の電極(11)および交流電圧の電極(12)を備えたことを特徴とする装置。
【請求項12】
請求項11に記載の装置であって、
追加的なドリフト管(1)は、一方が前記入り口システム(2)により区切られ、他方が追加的な検出器(3)により区切られ、これらのドリフト管(1)は、互いに異なる極性を有することを特徴とする装置。
【請求項13】
請求項11又は請求項12に記載の装置であって、
前記ドリフト管(1)は、それぞれ交互に配置された金属リング(9)および絶縁体リング(10)を備え、前記各々の金属リング(9)は、前記ドリフト空間(6)周辺にて電気的に接続され、それぞれ前記直流電圧の電極(11)として形成されることを特徴とする装置。
【請求項14】
請求項11又は請求項12に記載の装置であって、
前記ドリフト管(1)は、低電気伝導度をもつ1またはそれ以上の管を備えることを特徴とする装置。
【請求項15】
請求項11乃至請求項14の何れか一項に記載の装置であって、
前記交流電圧の電極(12)は、前記ドリフト空間(6)の長さに沿って分配されるとともに、前記ドリフト空間(6)を横切って伸長する細いワイヤのグリッドを備えることを特徴とする装置。
【請求項16】
請求項11乃至請求項15の何れか一項に記載の装置であって、
前記開閉グリッド(4)は、前記ドリフト管(1)を横切って伸長する平面にて配置された、電気的伝導性を有する2つの金属コーム(13)を備え、前記金属コーム(13)は、他の前記金属コーム(13)に対し微小なオフセットを有し、互いに接触しないようになされたことを特徴とする装置。
【請求項17】
請求項16に記載の装置であって、
前記開閉グリッド(4)は、2つのスイッチング状態の2つのスイッチング状態を有し、
第1のスイッチング状態にて、前記各金属コーム(13)が異なる電位となり、前記電位差が大きい電場強度を生成するため、前記開閉グリッド(4)が閉鎖されて、前記イオンが前記開閉グリッド(4)を通過することが規制され、
第2のスイッチング状態にて、前記各金属コーム(13)が同一の電位となり、電場が全く無くなるか、又は、前記小さい電場強度が生成されるのみであるため、前記開閉グリッドが開放されて、前記イオンが前記開閉グリッド(4)を通過することが許容される、
ことを特徴とする装置。
【請求項18】
請求項11乃至請求項17の何れか一項に記載の装置であって、
前記シールドグリッド(8)は、前記検出器(3)の前面に配置され、容量性デカップリングを生成することを特徴とする装置。
【請求項19】
請求項11乃至請求項18の何れか一項に記載の装置であって、
前記ドリフト管(1)は、追加的な補償電圧を生成するための、前記ドリフト空間(6)に配置される、少なくとも1つの任意の電極(18)を備えることを特徴とする装置。
【請求項20】
請求項11乃至請求項19の何れか一項に記載の装置であって、
前記ドリフト管(1)は、少なくとも3つの前記交流電圧の電極(12)を前記ドリフト空間(6)に備え、前記ドリフト管(1)は、好ましくは円筒として構成されることを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−510273(P2011−510273A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−542510(P2010−542510)
【出願日】平成21年1月12日(2009.1.12)
【国際出願番号】PCT/DE2009/000023
【国際公開番号】WO2009/089818
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(500399105)エアセンス アナリティクス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (3)
【氏名又は名称原語表記】Airsense Analytics GmbH
【住所又は居所原語表記】Hagenower Strasse 73, D−19061 Schwerin, Germany
【Fターム(参考)】