説明

気体モニタリングシステム

【課題】製造環境の気体モニタリングシステムにおいて、クリーンルーム環境または装置内に存在する気体の中で特定の基板表面に選択的に付着する成分を一定周期で検出し、その中で基板の透過率を低下させる成分を効率的にモニタリングする気体モニタリングシステムの提供。
【解決手段】製造環境の気体の中で、特定の基板表面に付着する成分を収集する成分収集手段と、収集された成分を少なくとも定性及び定量分析する分析手段と、該分析結果に基づいてモニタリング項目におけるシミュレーションを行うシミュレーション手段と、を有し、前記シミュレーション手段のモニタリング項目が、特定波長における分析物質の光吸収スペクトル及び分光特性の算出する気体モニタリングシステムを具備する装置、及び該装置を用いて、付着する成分中で基板の透過率を低下させる成分をモニタリングする気体モニタリングシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体集積回路などの製造工程において、回路パターンの転写に用いるレチクルおよびフォトマスクのプロセス環境を清浄に維持する為のモニタリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体集積回路などの製造工程において、回路パターンの転写に用いられるレチクルおよびフォトマスク(以下、これらを併せてマスクと記す)では、その回路パターンが高集積化及び微細化となり、そのプロセス環境が清浄度を維持するためにクリーンルーム環境中で製造されている。
【0003】
半導体集積回路などの製造工程において、マスク用基板上、又はシリコンウェハ上に回路パターンを形成するフォトリソグラフィ技術において、近年LSIの高集積化に伴い、より狭い線幅で微細な回路パターンを露光するための技術が要求されており、これに対応するため露光光源の短波長化が進められている。例えば、露光光源は、KrFエキシマレーザー(波長248nm)、ArFエキシマレーザー(波長193nm)へと移行されている。また、さらに短波長のF2エキシマレーザー(波長157nm)や軟X線(波長13.5nm)を露光光源とする開発も行われている。
【0004】
前記マスク用基板上、又はシリコンウェハ上に回路パターンを形成する製造環境では、波長が短くなるに従って、粒子状物質のみならず微小な分子状物質である有機物等が露光光学系の透過率を低下させる汚染対象となる。これらの有機物はシーリング剤、接着剤、塗料等からのアウトガスとしてクリーンルーム環境中に多数存在し、マスク表面に付着すると露光光を吸収して透過率を低下させるなどといった問題が生じる。
【0005】
そこで、クリーンルーム環境または装置内に存在する気体をモニタリングし、マスクに悪影響を及ぼす成分が発生した場合、早急に対応できるようにする必要がある。分子状物質のモニタリング用としてはSAWまたはQCMセンサーを用いた装置が存在する。しかし、この装置からは定量的な情報しか得られず、どのような成分が存在しているのかといった定性的な情報は得られない。
【0006】
定性的な情報を得ることが可能なシステムとしては、特許文献1の環境中の気体を採取して特定物質の含有状況をリアルタイムにモニタリングするシステムが提案されている。しかし、フタル酸エステル類など気体中で微量にしか存在しない成分でもマスク表面には多量に付着することが知られており、前記特許文献1のモニタリングシステムだけでどのような成分を制御すべきかを判断することは不十分であると考えられる。
【0007】
特許文献2では、被加工の材料、例えばマスク用基板上、又はシリコンウェハ上に製造環境中の成分を直接付着させ、その成分分析を実施するという手段を報告している。しかし、マスク用基板の場合は、基板に付着した全ての成分が問題となるわけではなく、露光光を低下させる成分が問題となるため基板付着成分の中で露光波長付近に吸収を持つ成分を特定し、その成分を制御することが必要である。
【0008】
以下に公知文献を記す。
【特許文献1】特開2003−166733号公報
【特許文献2】特開2004−20293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、クリーンルーム環境または装置内等の製造環境に存在する気体の中で特定の基板表面に選択的に付着する成分を一定周期で検出し、さらにその中で特定波長の光を吸収し、基板の透過率を低下させる成分を効率的にモニタリングする気体モニタリングシステムの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、本発明の請求項1に係る発明は、クリーンルーム環境及び装置内の製造環境の気体の中での特定成分を検出する気体モニタリングシステムにおいて、特定の基板表面に付着する成分を収集する成分収集手段と、収集された成分を少なくとも定性及び定量分析する分析手段と、該分析結果に基づいてモニタリング項目におけるシミュレーションを行うシミュレーション手段と、を有することを特徴とする気体モニタリングシステムである。
【0011】
本発明の請求項2に係る発明は、前記シミュレーション手段のモニタリング項目は、特定波長における成分の光吸収スペクトル及び分光特性の算出であることを特徴とする請求項1に記載の気体モニタリングシステムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、クリーンルーム環境または装置内の製造環境下に存在する気体の中で特定の基板表面に選択的に付着する成分を捕集することができ、その捕集成分中で前記特定の基板の透過率を低下させる成分を効率的にモニタリングし、クリーンルーム環境や装置内の製造環境の状況を常に把握することができる。よって、製造環境で何らかのトラブル発生時でも瞬時に対応することが可能となるため、歩留りの低下等を最小限に食い止めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の気体モニタリングシステムについて詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の気体モニタリングシステムの装置(以下装置と記す)の一例を示す構成図である。本発明の装置は、基板曝露及び加熱脱離部1の密閉槽10を備え、定性及び定量分析する分析部2の分析装置部位20と、光学特性を算出するシミュレーション部3の演算装置部位30と、モニタリング項目毎にリアルタイムで表示する表示部4の表示装置部位40と、装置部位相互間のネットワーク配線を介して装置管理する装置制御部位50と、から構成されている。前記密閉槽10と分析装置部位20とは連結管で配管され、分析装置部位20は、連結管を介して脱離した成分を取り込み、定性及び定量分析する。前記分析装置部位20と前記演算装置部位30と表示装置部位40とはネットワーク配線を介して結果データを送受信する。装置全体はネットワーク配線を介して各手段及び動作の手順を制御する。本発明の装置は、本発明の気体モニタリングシステムを実行する機能がある。
【0015】
前記密閉槽10では、特定の基板5を載置する載置部位と、基板製造環境の気体の中で、特定の基板表面に成分を付着させる基板曝露部位と、付着成分を基板5上から揮発させる加熱脱離部部位とを具備した基板曝露及び加熱脱離部1を備えている。前記分析装置部位20では、密閉槽10と連結管で配管され、該連結管を介して脱離した成分を取り込み、定性及び定量等分析する分析部2を備えている。前記演算装置部位30では、分析装置部位20とネットワーク配線を介して分析結果を送受信し、同定した成分より光学特性を
算出するシミュレーション部3を備えている。前記表示装置部位40では、演算装置部位30とネットワーク配線を介して演算結果を送受信し、演算結果よりモニタリング項目毎にリアルタイムで表示する表示部4を備えている。前記装置制御部位50では、装置部位相互間のネットワーク配線を介して装置管理する機能を備えている。以上から構成されたことを特徴とする気体モニタリングシステムの装置。
【0016】
図1参照して、本発明の気体モニタリングシステムの一例を説明する。気体モニタリングシステムは、特定の基板5に製造環境雰囲気中の成分を付着させる役割と分析する際に付着成分を基板5上から揮発させる役割とを担う基板曝露及び加熱脱離部1と、付着成分がどのような成分であるかを同定する分析部2と、同定された成分の光学特性を算出するシミュレーション部3と、その結果をリアルタイムで表示する表示部4から構成される。
【0017】
前記基板曝露及び加熱脱離部1は、成分収集手段を実行する部分である。前記分析部2は、付着成分を同定する分析手段を実行する部分である。前記シミュレーション部3は、同定された成分の光学特性を算出するシミュレーション手段を実行する部分である。
【0018】
図2は、本発明の気体モニタリングシステムの処理手段の工程フロー図である。図2参照して以下に説明する。
【0019】
最初は、成分収集手段(図2a参照)である。前記基板曝露及び加熱脱離部1には、製造環境下の雰囲気捕集用バルブ6分析ガス用バルブ部7が取りつけられている。基板は、基板曝露及び加熱脱離部1内に載置されている。最初に、基板5に製造環境雰囲気中の成分を付着させる段階では、雰囲気捕集用バルブ6を開き、製造環境雰囲気を基板曝露及び加熱脱離1内部に取りこむ基板曝露の手段を実行する(図2のa3参照)。次いで、基板6上から付着成分を揮発させる段階では、雰囲気捕集用バルブ6を閉じ、分析ガス用バルブ部7と分析部へ繋がるバルブ8を開いて、分析ガスを流し、揮発成分を分析部へ送る加熱脱離の手段を実行する(図2のa8参照)。前記分析ガスは、少なくとも反応性の低いガスとする。例としては、N2ガス、またはAr及びHe等の希ガスを用いることができる。
【0020】
基板上から付着成分を揮発させる方法の加熱脱離の手段は、基板曝露及び加熱脱離部1内をヒーター器具などを用いて加熱し、装置内部の気体全体を暖める方法を用いる。基板を直接暖めてしまうと基板上から揮発した成分が温度の低い装置内に再付着してしまい、分析部に送られる成分が非常に少量になり、分析感度低下に繋がるため不適当である。前記加熱温度は、50〜300℃程度が好ましい。基板曝露及び加熱脱離部1は、その温度で劣化したり、変形しない、且つ化学的に安定でアウトガスが少ない材料で構成されていることが重要となる。
【0021】
前記基板5は、基板曝露及び加熱脱離部1内の載置位置に設置される。基板5の材質は、少なくとも付着成分を揮発させる際に燃焼、溶融、変形、および劣化することがないものであればよい。製造環境下で用いる被加工基板と同種の基板を設置すると効率的なモニタリングが可能となる。
【0022】
次いで分析手段(図2b参照)である。前記分析部2では、基板5から揮発させた成分の定性・定量分析を行う。分析方法としては、少なくとも微量有機物の定性・定量に適した方法であればよく、一例としてはガスクロマト質量分析が挙げられる。前記ガスクロマト質量分析装置では、定性分析・定量分析の両方を行なうことが可能である。分析部2で同定された各々の成分のデータは、シミュレーション部3に送られる(図2b1〜b3参照)。
【0023】
次いでシミュレーション手段(図2c参照)である。前記シミュレーション部3では、計算ソフトを用い、量子化学的な計算によって少なくとも真空紫外領域から可視領域における同定された各々の成分有機物の光吸収スペクトルおよび分光特性を求めることができる。計算ソフトとしては、少なくとも真空紫外領域から可視領域における有機物の光吸収スペクトルおよび分光特性を算出できる機能が必要とされる。一例としては、Gaussian(Gaussian社製)やWinMOPAC(富士通(株)社製)等の外販のソフトウエアが挙げられる(図2c1参照)。
【0024】
前記各々成分有機物毎に、光吸収スペクトルおよび分光特性の算出データを解析し、品質低下の有無及び品質低下する場合の管理の基準を規定し、当該管理基準に準じてデータを算出し、当該有機物成分をモニタリング項目とする(図2c2参照)。以下モニタリング項目の結果データとして表示部4へ転送する。
【0025】
次いでモニタリング項目表示手段(図2d参照)である。前記表示部4では、分析部2の同定された各々の成分の定性・定量データが表示される。さらにシミュレーション部3のデータから検出成分中で露光波長など目的とする波長での光吸収のある物質を選択して表示することもでき、前記物質のうち、基板に付着すると透過率低下を引き起こす成分のみを効率的にモニタリングすることが可能となる(図2d1参照)。
【0026】
以上図2a1〜a8、b1〜b3、c1〜c3、d1により製造環境下の本発明の気体モニタリングシステムを稼働させ、常時監視、例えばF2エキシマレーザー(波長157nm)の波長近傍での透過率低下を誘因する成分を監視し、製品での透過率が高精度となる製造環境を安定して維持することができる。この場合、モニタリング項目は、透過率低下させる成分となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の気体モニタリングシステムの装置一例を示す構成図である。
【図2】本発明の気体モニタリングシステムの処理手段の工程フロー図である。
【符号の説明】
【0028】
1…基板曝露及び加熱脱離部
2…分析部
3…シミュレーション部
4…表示部
5…基板
6…雰囲気捕集用バルブ
7…分析ガス用バルブ
8…バルブ
9…ネットワーク配線
10…密閉槽
20…分析装置部位
30…演算装置部位
40…表示装置部位
50…装置制御部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリーンルーム環境及び装置内の製造環境の気体の中での特定成分を検出する気体モニタリングシステムにおいて、特定の基板表面に付着する成分を収集する成分収集手段と、収集された成分を少なくとも定性及び定量分析する分析手段と、該分析結果に基づいてモニタリング項目におけるシミュレーションを行うシミュレーション手段と、を有することを特徴とする気体モニタリングシステム。
【請求項2】
前記シミュレーション手段のモニタリング項目は、特定波長における成分の光吸収スペクトル及び分光特性の算出であることを特徴とする請求項1に記載の気体モニタリングシステム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−64647(P2007−64647A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247347(P2005−247347)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】