説明

気体中の微量物質の定量分析方法、その定量分析装置、そのサンプリング方法およびそのサンプリング装置

【課題】 面倒な化学的前処理を必要とすることなく気体中の微量金属元素を高感度で精度よくかつ迅速に定量できるとともに、環境にやさしい気体中の微量物質の定量分析方法、その定量分析装置、そのサンプリング方法およびそのサンプリング装置を提供すること。
【解決手段】 気体Aに含まれる微量物質Mを捕集体2によって捕集し、微量物質Mを捕集した捕集体2を不活性ガス中で高温に加熱して捕集した微量物質Mを気化させ、この気化により生じた気体Gをプラズマ化した後分析することにより、前記微量物質Mの濃度を求めるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、気体中の微量物質、例えば大気中の粉塵や、自動車エンジン、ボイラーからの排ガスに微量に含まれるZn,Cd,Pb,Co,Niなどの金属物質を定量分析する気体中の微量物質の定量分析方法、その定量分析装置、そのサンプリング方法およびそのサンプリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
健康環境保全のため、より高感度の環境計測機器が必要とされている。そのうち、大気中の微量浮遊物質である金属はこれを吸収液に吸収溶解して原子吸光度分析やICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析さらにICP質量分析計で測定している。また、微粒子の元素分析にはカスケードインパクターやフィルタサンプラーを用いて捕集した試料を酸で溶解した後、原子吸光度分析やICP発光分光分析で測定している。これらは、サンプリングした試料を溶液化しており、少量(通常例えば100μL以下)の溶液を対象とした方法である。この溶液化による手法は、高感度分析において採取した試料を均一化して計測することに意義がある反面、溶液化による手法は、試料重量に対して通常1000倍以上の溶液で希釈された状態となるので、所望の感度が得られず精度がよくないという欠点がある。
【0003】
また、大気中の気体成分のサンプリングの一つに、気体成分を固体に吸着させる方法があるが、気体成分を固体に吸着させた後、溶媒で抽出するのが一般的であり、溶媒を使用するので、健康環境保全の観点からよくない。また、固体試料のサンプリングは、通常計量誤差や溶液化での損失を低減するために全量で10〜100mg程度のサンプリング量が必要であり分析の迅速化に問題がある。
【0004】
ところで、本出願人は、大気中に微量に含まれる金属を定量分析する方法として、特許文献1に示すものを提案している。この定量分析方法は、フィルタを複数枚重ねてなる捕集体をに対して金属を含む気体を通過させて前記金属を前記捕集体にそれぞれ捕集し、これら捕集体をそれぞれX線分析装置などの表面分析装置で測定して金属の濃度を求めるようにしたものである。この定量分析方法によれば、捕集体の捕集効率の変動影響を受けることがないので、金属の定量分析を高精度で行うことができるとともに、分析に供する試料に対してなんら前処理を行う必要がなく、きわめて簡単に所望の定量分析を行うことができる。
【0005】
【特許文献1】特開2004−157014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に係る定量分析方法においては、微量物質の濃度を高精度に求めるのに、微量物質をそれぞれ捕集した捕集体を一つずつ表面分析装置で測定するだけではなく、捕集体をそれぞれ表面分析装置で測定したときに得られる複数の測定結果に基づいて連立方程式を作成し、この連立方程式を解く必要があった。
【0007】
この発明は、上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、面倒な化学的前処理を必要とすることなく気体中に微量に含まれる物質を高感度で精度よくかつ迅速に定量できるとともに、環境にやさしい、気体中の微量物質の定量分析方法、その定量分析装置、そのサンプリング方法およびそのサンプリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、この発明の気体中の微量物質の定量分析方法は、気体に含まれる微量物質を捕集体によって捕集し、微量物質を捕集した捕集体を不活性ガス中で高温に加熱して捕集した微量物質を気化させ、この気化により生じた気体をプラズマ化した後分析することにより、前記微量物質の濃度を求めるようにしたことを特徴としている(請求項1)。
【0009】
捕集体が粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、メッシュ状の抵抗発熱体であるのが好ましい(請求項2)。
【0010】
捕集体が上流側、下流側に分離して設けられ、上流側の捕集体は、微量物質の大きさにより分級する機能を有し、下流側の捕集体は、粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、メッシュ状の抵抗発熱体よりなるのが好ましい(請求項3)。
【0011】
そして、この発明の気体中の微量物質の定量分析装置は、気体に含まれる微量物質を捕集する捕集体と、微量物質を捕集した捕集体を不活性ガス中で高温に加熱して、前記捕集体によって捕集された微量物質を気化させる気化器と、前記微量物質の濃度を求めるために、気化により生じた気体をプラズマ化した後分析する分析部とを備えたことを特徴としている(請求項4)。
【0012】
そして、請求項4に係る発明において、捕集体が粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、メッシュ状の抵抗発熱体であるのが好ましい(請求項5)。
【0013】
また、請求項4に係る発明において、捕集体が上流側、下流側に分離して設けられ、上流側の捕集体は、微量物質の大きさにより分級する機能を有し、下流側の捕集体は、粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、メッシュ状の抵抗発熱体よりなるのが好ましい(請求項6)。
【0014】
また、この発明の気体中の微量物質のサンプリング方法は、気化により生じた気体をプラズマ化した後分析することにより、気体に含まれる微量物質の濃度を分析部において求めるときに用いられる気体中の微量物質のサンプリング方法であって、捕集体に対して微量物質を含む気体を通過させて前記微量物質を前記捕集体に捕集し、続いて、前記微量物質が捕集された捕集体を不活性ガスの供給下で高温に加熱して前記微量物質を気化させることを特徴としている(請求項7)。
【0015】
請求項8に係る発明において、捕集体が粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、メッシュ状の抵抗発熱体であるのが好ましい(請求項8)。
【0016】
請求項9に係る発明において、捕集体が上流側、下流側に分離して設けられ、上流側の捕集体は、微量物質の大きさにより分級する機能を有し、下流側の捕集体は、粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、メッシュ状の抵抗発熱体よりなるのが好ましい(請求項9)。
【0017】
さらに、この発明の気体中の微量物質のサンプリング装置は、気化により生じた気体をプラズマ化した後分析することにより、気体に含まれる微量物質の濃度を分析部において求めるときに用いられる気体中の微量物質のサンプリング装置であって、気体を通過させることにより気体に含まれる微量物質を捕集する捕集体と、前記微量物質が捕集された捕集体を不活性ガスの供給下で高温に加熱して前記微量物質を気化させる気化器とを備えたことを特徴としている(請求項10)。
【0018】
そして、請求項11に係る発明において、捕集体が粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、メッシュ状の抵抗発熱体であるのが好ましい(請求項11)。
【0019】
また、請求項12に係る発明において、捕集体が上流側、下流側に分離して設けられ、上流側の捕集体は、微量物質の大きさにより分級する機能を有し、下流側の捕集体は、粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、メッシュ状の抵抗発熱体よりなるのが好ましい(請求項12)。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明では、捕集体によって、気体に含まれる微量物質を直接捕集し、この微量物質を捕集した捕集体を不活性ガス中で、例えば瞬時に高温に加熱することにより、前記捕集された微量物質を気化させるので、サンプリングした試料を溶液に溶かすような煩雑な化学的前処理を行う必要がないだけではなく、溶液化の場合に比べて気体に含まれる微量物質を高感度で精度よく測定することができる。すなわち、溶液化を行う場合、10〜100mg程度のサンプリング量が必要であったが、この発明では、溶液化が必要でないため、気体に含まれる測定対象である微量物質のサンプリング量が溶液化の場合に比べて4〜5桁少なくて済むことになり、迅速に定量分析できるとともに、ngレベル(ナノグラムレベル,10-9gレベル)の感度を得ることができる。
【0021】
そして、この発明では、溶媒を使用しないため、クリーンケミストリとして環境を配慮した環境にやさしいといった利点がある。また、この発明では、気化により生じた気体を分析するのに気体をプラズマ化するようにしているので、溶液化を行う場合に比べてさらなる高感度が期待できる。すなわち、この発明では、上述した従来技術に比べて簡便に定量分析できる上に、プラズマ化による計測手法により、高感度化が可能となり、例えばpgレベル(ピコグラムレベル,10 -12gレベル)といったより高感度の測定が可能になる。
【0022】
請求項2に記載の発明では、気体に含まれる微量物質を粉状または顆粒状の炭素の層よりなる捕集体、または、メッシュ状の抵抗発熱体で構成した捕集体にて直接捕集するだけなので、サンプリングした試料を溶液に溶かすような煩雑な化学的前処理を行うことなく微量物質を気化させることができる。そして、捕集体をメッシュ状の抵抗発熱体で構成した場合には、これに直接通電することにより、微量物質を捕集した抵抗発熱体を直接高温に加熱できるので、捕集体を収容する容器を必要とすることなく、また、微量物質を捕集した捕集体の前記容器から気化器内への移し替えも不要にできるとともに、黒鉛るつぼを不要にできて捕集ならびに加熱のための構成や操作が簡単になるといった特有の効果を奏する。また、気化器内に予め粉状または顆粒状の炭素の層よりなる捕集体を設けた場合、捕集体を収容する容器を必要とすることなく、また、微量物質を捕集した捕集体の前記容器から気化器内への移し替えも不要にできるといった特有の効果を奏する。
【0023】
請求項3に記載の発明では、請求項1に記載の発明における上記効果に加えて、より高感度で精度のよい定量分析を行うことができる。すなわち、請求項3に記載の発明では、微量物質の大きさにより分級する機能を有する上流側の捕集体と、粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、メッシュ状の抵抗発熱体よりなる下流側の捕集体とによって捕集するという二段構えの捕集方式を採用している。そのため、上流側の捕集体によって、気体に含まれる微量物質を直接捕集するとともに、捕集しきれなかったより小径の微量物質を下流側の捕集体によって、直接捕集することができる。例えば前記微量物質を塩化物や酸化物などに微量に含まれる金属とした場合、同一金属元素でも粒径の異なるものが含まれており、前記の金属うち、例えば上流側の捕集体で比較的粒径の大きな金属を捕集するとともに、下流側の捕集体で比較的粒径の小さな金属を捕集できるので、連続的に前記金属の濃度変化を知ることが可能になるとともに、気化により生じた気体をプラズマ化した後分析することから、fgレベル(ヘムトグラムレベル,10 -15gレベル)といったそらに高感度の測定を行うことができる。
【0024】
請求項4に記載の発明では、気体に含まれる微量物質を捕集する捕集体と、微量物質を捕集した捕集体を不活性ガス中で高温に加熱して、前記捕集体によって捕集された微量物質を気化させる気化器と、前記微量物質の濃度を求めるために、気化により生じた気体をプラズマ化した後分析する分析部とを備えたものを気体中の微量物質の定量分析装置として用いるので、請求項1に記載の発明と同様の効果を奏するとともに、シンプルな構成で、定量分析が簡単に行うことができる。
【0025】
請求項5に記載の発明では、請求項2に記載の発明と同様の効果を奏する。すなわち、気化器内に予め粉状または顆粒状の炭素の層よりなる捕集体を設けて気化器を微量物質の気化以外に捕集にも使うように構成するので、別途微量物質を捕集した捕集体を気化器内に設置する必要はなくなり、作業性を向上できる。また、直接通電により、メッシュ状の抵抗発熱体を高温に加熱できるので、前述したように、捕集体を収容する容器を必要とすることなく、また、微量物質を捕集した捕集体の前記容器から気化器内への移し替えも不要にできる。
【0026】
請求項6に記載の発明では、請求項3に記載の発明と同様の効果を奏する。
【0027】
請求項7に記載の発明では、捕集体に対して微量物質を含む気体を通過させて前記微量物質を前記捕集体に捕集し、続いて、前記微量物質が捕集された捕集体を不活性ガスの供給下で高温に加熱して前記微量物質を気化させるので、サンプリングした試料を溶液に溶かすような煩雑な化学的前処理を行う必要がなく、サンプリングが簡単にでき、結果として、気化した気体をプラズマ化した後分析することから、溶液化の場合に比べて気体に含まれる微量物質を高感度で精度よく測定でき、請求項1に記載の発明と同様を奏する。
【0028】
請求項8に記載の発明では、結果として、請求項2,5に記載の発明と同様の効果を奏する。
【0029】
請求項9に記載の発明では、結果として、請求項3,6に記載の発明と同様の効果を奏する。
【0030】
請求項10に記載の発明では、気体を通過させることにより気体に含まれる微量物質を捕集する捕集体と、前記微量物質が捕集された捕集体を不活性ガスの供給下で高温に加熱して前記微量物質を気化させる気化器とを備えたものを気体中の微量物質のサンプリング装置として用いるので、請求項1に記載の発明と同様の効果を奏するとともに、シンプルな構成で、定量分析が簡単に行えるサンプリング装置を提供できる。
【0031】
請求項11に記載の発明では、結果として、請求項2,5,8に記載の発明と同様の効果を奏する。
【0032】
請求項12に記載の発明では、結果として、請求項3,6,9に記載の発明と同様を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、この発明の詳細を、図を参照しながら説明する。以下の実施の形態においては、微量物質が大気中に存在する金属または金属化合物である場合の定量分析について説明する。
【0034】
図1は、この発明の第1の実施の形態に係る気体中の微量物質の定量分析装置(以下、定量分析装置という)を示す。図1において、1は例えば大気A中の粉塵に微量に含まれるZn,Cd,Pb,Co,Niなどの金属物質Mを定量分析するための装置である。金属物質Mは、Zn,Cd,Pb,Co,Niそれぞれの金属化合物も含む。この定量分析装置1は、金属物質Mを捕集する捕集体2と、金属物質Mを捕集した捕集体2を不活性ガス〔例えばアルゴンガス(Arガス)〕中で高温に加熱して、金属物質Mを気化させる気化器4と、気化により生じたガスGをプラズマ化した後、分析する分析部5とを主として備えている。
【0035】
まず、捕集体2の構成を説明すると、この捕集体2は、例えば、粒径の大きな多数の炭素粒6,7よりなる上下層と、粒径の小さな粒が多数集った炭素粒8よりなる中間層とから構成され、容器9に積層状態で収容されている。
【0036】
容器9は、上部が開口9aした、有底筒状に形成されており、例えば、高温(1000℃以上)に耐えることができる耐熱性の素材(例えば炭素)よりなる。この容器9の底部には、その全面にわたって平均して複数の通気孔10が開設されており、これらの通気孔10は、少なくとも捕集体2のうち下層を構成するより大径の炭素粒7が通らない大きさに設定されている。なお、大気A中に微量に含まれる金属物質Mは、捕集体2によって吸着により捕集されるが、従来のような10〜100mg程度の多いサンプリング量ではなく、非常に小さなngレベルのサンプリング量で済むように捕集体2の積層配置量や粒径が適宜選択される。
【0037】
11は金属製または合成樹脂製のホルダで、例えば、容器9をほぼ隙間なく収容することのできる比較的大径の収容部12と、この収容部12の下流側に段差部13を介して連設され、収容部12よりも小径に形成された管部14からなる。この管部14に連なる排出流路15には、吸引用のポンプPが設けられており、大気Aを吸引するよう構成されている。
【0038】
16はサンプリングポイント(場所)で採取される大気Aのサンプリングポートで、そのサンプリング流路17には、例えば二方電磁弁などの開閉弁18が設けられている。
【0039】
次に、気化器4の構成を説明すると、この気化器4は、Oリングなどのシール部材19を介して上下に設けられた上部材20および下部材21と、加熱容器(抵抗体)としての黒鉛るつぼ22とを備えている。この実施の形態では、気化器4は、これとは別の場所で金属物質Mが捕集体2によって捕集され、この捕集体2を容器9と共に黒鉛るつぼ22内に収容して高温に加熱することによりガスGを生成させるように構成されている。
【0040】
上部材20には、ガス導入口23と、黒鉛るつぼ22内で気化により生じたガスGがArガスと共に導出されるガス導出口24と、上部電極25と、冷却水が通る流路26とが設けられ、下部材21には下部電極27と冷却水が通る流路28とが設けられている。そして、下部材21は、図示しない駆動機構によって上部材20に対して直線的に上下動して、シール部材19を介して上部材20と密着した状態または上部材20と適宜離れた状態になるよう構成されている。
【0041】
前記電極25,27は、所定の高熱に耐える材料からなる。29は電極25,27に所定の電圧を印加するための加熱電源である。30はガス導入口23に接続されるガス導入路で、ストップ弁としての例えば二方電磁弁31が設けられている。32はArガスボンベである。また、33はガス導出口24に接続されるガス導出路で、三方切換弁としての例えば三方電磁弁34が設けられている。この三方電磁弁34の下流側の一方の流路33Aには分析部5が設けられ、三方電磁弁34の下流側の他方の流路35はガス排出路35として機能する。そして、このガス排出路35には、吸引用のポンプP1 が設けられており、ガスを吸引するよう構成される。
【0042】
黒鉛るつぼ22は、例えば断面ほぼU字状の有底筒形状に形成されており、その筒部22aの側壁上部には、黒鉛るつぼ22内で気化により生じたガスGがArガスと共に通過するための複数のガス流出孔36が形成されている。このガス流出孔36は、ガス導出口24に対向する部位に設けられているのが好ましい。
【0043】
なお、黒鉛るつぼ22の容量は、炭素製の容器9の容量に比べて大きく、好ましくは2倍以上である。また、容器9を黒鉛るつぼ22と同じ材料で構成してあってもよいが、炭素以外の耐熱性素材で構成してあってもよい。
【0044】
また、前記気化器4として、黒鉛るつぼ22自体を抵抗体としてこれを熱源として抵抗加熱する例を示しているが、この構成に限られるものではなく、インパルス炉、誘導加熱炉など種々の形式のものに構成することができる。
【0045】
次に分析部5の構成を説明すると、この分析部5は、ICPプラズマ発光分光分析装置として構成されている。この装置5は、気化器4のガス導出口24に接続されたガス導出路33の下流端に三方電磁弁34を介して設けられ、ガス導出口24からArガスと共に導出されたガスGを励起させるICPプラズマトーチ37と、ガスGの励起によって生じる光Lを分光する分光器38と、この分光器38によって分光された光の検出器39とを備えている。なお、40は、ICPプラズマトーチ37によって生じるプラズマ炎である。
【0046】
ICPプラズマトーチ37は、例えば石英の三重管よりなり、気化器4において生じたガスGが流れるガス流路41、Arガスが流れるプラズマガス流路42および冷却ガス(例えばArガス)が流れる冷却ガス流路43がこの順に内部から外部に同心配置されると共に、その先端部近傍の外周にはICPプラズマトーチ37の加熱電源44に接続された誘導コイル45が周設されており、この誘導コイル45による高周波磁界によってICPプラズマトーチ37に供給されるガスGがプラズマ化し、プラズマ発光するように構成されている。
【0047】
46は、装置全体を制御する制御演算装置としてのコンピュータ(例えばパソコン)である。このコンピュータ46は、誘導コイル45に高周波電力を供給してプラズマ炎40を発生させるために加熱電源44を制御したり、また、下部材21の上下動や加熱電源29を制御することにより両電極25,27間に電流を流すなどの気化器4の電源操作を行ったり、また、ガスGの発生に先立って、ICPプラズマトーチ37のプラズマガス流路42および冷却ガス流路43に適宜の流量のArガスを流すために設けたプラズマトーチ用の電磁弁(図示していない)など各種の電磁弁を開閉制御する等の機能を有するとともに、入力される分光スペクトルを解析することにより、ガスG中の金属物質Mを定量分析し、その結果を表示し。メモリする機能を備えている。
【0048】
次に、上記構成の定量分析装置1を用いて大気A中に微量に含まれる金属物質Mを定量分析する動作について説明する。
【0049】
まず、大気Aをサンプリングする。すなわち、捕集体2が層状に収容されている容器9をホルダ11に保持させた状態で、ポンプPを吸引動作させることにより、例えば10mL/minの吸引量で約10分程度、大気Aをサンプリングする。このサンプリングに際しては、捕集体2を層状に収容した容器9は、環状の段差部13の上面13aと容器9の底部下面9aとが所定の間隔をあけた状態で収容部12内に収容される。このようにすることにより、通気孔10を通過し、筒部14を介して排出流路15から排出され、大気Aの流れが良好になる。そして、ポンプPの吸引力により容器9が筒部14側に摺動しても、容器9の底部下面9aが段差部13の上面13aに当たることによって、容器9の移動が停止される。大気Aのサンプリング後、金属物質Mが吸着された捕集体2が収容されている容器9をホルダ11から取り出し、容器9ごと黒鉛るつぼ22内に収容する。このサンプリングにおける金属物質Mの捕集体2への吸着量は、ngのレベルである。
【0050】
続いて、例えばArガスでパージを行う。このArガスによるパージは、気化器4内にArガスを例えば5分程度流して気化器4内の付着物を取り除くための予備パージを行う。すなわち、ガス導入路30からガス導入口23を経て気化器4内に導入されるArガスは、黒鉛るつぼ22内からガス流出孔36を介して空間47内に至り、この空間47内を経てガス導出口24からガス導出路33に至り、ガス導出路33の三方電磁弁34を介してガス排出路35から排出される。前記パージ後、Arガスを流し始めてから2〜5分以内に加熱電源29を動作させて黒鉛るつぼ22に通電を行って、黒鉛るつぼ22を発熱させる。この場合、三方電磁弁34は、ICPプラズマトーチ37の側に切り換えておく。この切り換えと前記パージと通電はコンピュータ46によって制御される。前記通電により、黒鉛るつぼ22の抵抗加熱によってこれを所定の温度に加熱される。すなわち、黒鉛るつぼ22を、例えば1000℃以上、好ましくは通電後1秒以内に3000℃近くといっ高温に加熱する。これによって、黒鉛るつぼ22内の捕集体2に捕集されていた金属物質Mが加熱融解され、金属物質Mがその沸点よりも高温になり、きわめて短い時間に一気に気化してガスGとなり、ガスGはArガスと共にガス導出口24からガス導出路33の三方電磁弁34を介してICPプラズマトーチ37に至る。
【0051】
一方、コンピュータ46は、ガスGの発生に先立ってICPプラズマトーチ用の電磁弁を開状態に制御することにより、ICPプラズマトーチ37のプラズマガス流路42および冷却ガス流路43に適宜の流量のArガスを流すと共に、加熱電源44を制御することにより誘導コイル45に高周波電力を供給してプラズマ炎40を発生させる。
【0052】
そして、ガスGがArガスの流れによってガス流路41内に流入し、プラズマ炎40内においてプラズマ化される。このとき、ガスGがそれぞれ独特の波長の光Lをプラズマ発光し、分光器38によってこの光Lを分光し、この分光された各波長の光は、検出器39によって検出される。
【0053】
検出器39の出力信号はコンピュータ46に送られ、コンピュータ46においては、所定のアルゴリズムによって分光スペクトルが解析されることにより、大気A中に含まれる金属物質Mが定量分析される。この定量分析は、パージ終了後約5分以内で行われる。
【0054】
図2は、この発明の第2の実施の形態に係る定量分析装置1を示す。図2において、図1に示す符号と同一のものは同一または相当物である。上記第1の実施の形態では、ICPプラズマトーチ37の後段に分光器38を設けてなるICP発光分光分析装置を用いて発光スペクトル強度の計測により定量分析を行ったが、この第2の実施の形態ではプラズマトーチ37の後段に例えば質量分析計48を設けて、プラズマでイオン化された原子種を質量分析計48に導入して定量分析を行うようにしている。すなわち、図2において、46Aは、計測・制御ユニットで、前記コンピュータ46と同様の機能を有する。その他の構成は上記第1の実施の形態と同じである。
【0055】
図2において、第1の実施の形態と同様に、Arガスを流しながら高温加熱し、この加熱により発生したガスGをガス流路41内に流入させ、プラズマ炎40内においてプラズマ化する。このとき、プラズマでイオン化された原子種を質量分析計48に導入することにより、質量分析計48において大気A中に含まれる金属物質Mの定量分析が行われる。この場合、プラズマでイオン化された原子種が質量分析計48において定量分析されるので、上記第1の実施の形態で用いたICP発光分光分析装置に比べて3桁(例えば1000倍以上)高い検出感度で定量分析することができる。
【0056】
図3は、この発明の第3の実施の形態に係る定量分析装置1を示す。図3において、図1、図2に示す符号と同一のものは同一または相当物である。この実施の形態においては上記第1の実施の形態と同様に、分析部としてICP発光分光分析装置を用いており、プラズマから得られる、励起エネルギに相当する光Lを分光器38に導入して分光し、分光された光を検出器39によって検出して発光スペクトル強度を計測することによって定量分析を行うようにしているが、相違点は、前記サンプリング装置とは異なるサンプリング装置を備えている点である。以下、このサンプリング装置について説明する。
【0057】
図3において、51は大気A中の粉塵に微量に含まれる金属物質Mを吸着により捕集する捕集体で、例えば粉状の炭素の層よりなる。すなわち、この捕集体51は、適宜の大きさの粒径を持った多数の炭素粒52よりなる。この捕集体51は、前記ホルダ11内に水平に設けられている炭素製の多孔板(多孔フィルタ)53上に積層配置されている。すなわち、多孔板53は、ホルダ11内に設置、取り出し自在に板状部材で形成されている。多孔板53には、1〜10μmの径を有する多数の孔が形成されている。そして、この多孔板53の上に捕集体51が所定の高さを有するように層状態で配置される。
【0058】
次に、上記構成の定量分析装置1を用いて大気A中に微量に含まれる金属物質Mを定量分析する動作について簡単に説明する。
【0059】
まず、大気Aをサンプリングする。すなわち、ホルダ11内に設けた多孔板(多孔フィルタ)53の上面に捕集体51を積層した状態で、ポンプPを吸引動作させることにより、例えば10mL/minの吸引量で約10分程度、大気Aをサンプリングする。サンプリング後、金属物質Mを捕集した捕集体51をホルダ11内から黒鉛るつぼ22内に移し替える。そして、第1の実施の形態と同様に、例えばArガスでパージを行い、このパージ後、Arガスを流し始めてから2〜5分以内に加熱電源29を動作させて黒鉛るつぼ22に通電を行って、黒鉛るつぼ22を発熱させる。この加熱により発生したガスGを分析部5に供給することにより、所定の金属物質Mの定量分析が行われる。
【0060】
図4は、この発明の第4の実施の形態に係る定量分析装置1を示す。図4において、図1〜図3に示す符号と同一のものは同一または相当物である。この実施の形態は、上記第2の実施の形態と同様に、分析部5としてICPプラズマトーチ37と質量分析計48を用いており、プラズマでイオン化された原子種を質量分析計48に導入して定量分析を行うようにするとともに、第3の実施の形態で用いたサンプリング装置を備えている。したがって、この実施の形態の定量分析装置1によるサンプリング部および分析部の作用効果は、第2,第3の実施の形態の作用効果と同じであるので、それらの説明を省略する。
【0061】
上記第1〜第4の実施の形態では、金属物質Mが捕集された捕集体2、51を手動で黒鉛るつぼ22内に収容する場合の気体中の微量成分の定量分析方法および定量分析装置1について説明したが、この発明はこれらに限定されるものではなく、以下に示すように構成してもよい。
【0062】
図5は、この発明の第5の実施の形態に係る定量分析装置1を示す。図5において、図1〜図4に示す符号と同一のものは同一または相当物である。
【0063】
上記第1〜4の実施の形態では、捕集体2、51を気化器4の外部に設け、捕集体2、51に大気Aを流すようにして大気A中の金属物質Mを捕集させていたが、この第5の実施の形態では、捕集体を気化器内に設け、その状態で大気中の金属物質を捕集できるようにしている。すなわち、図5において、60は三方切換弁としての例えば三方電磁弁で、第1流路61と第2流路62とをガス導入路30に対して択一的に機能するように切換えるものである。第1流路61の上流側は例えば4つのサンプリング流路17A〜17Dに分岐されており、各サンプリング流路17A〜17Dにはストップ弁としての例えば二方電磁弁18A〜18Dが設けられているとともに、各サンプリングポイント(場所)で採取される大気A1 ,A2 ,A3 ,A4 のサンプリングポート16A〜16Dがそれぞれ一端に設けられている。
【0064】
22Aは黒鉛るつぼで、例えば断面ほぼU字状の有底筒形状であり、気化器4内に設けられる。黒鉛るつぼ22Aの底部22bには、黒鉛るつぼ22A内で気化により生じたガスGがArガスと共に通過するための複数のガス流出孔36Aが形成されている。ガス流出孔36Aは、ガス導出口24の高さ位置に対応する位置になるように形成されているのが好ましい。
【0065】
74は捕集体で、粒径の小さな多数の炭素粒75よりなる上層と、粒径の大きな多数の炭素粒76よりなる下層とよりなる。そして、前記ガス流出孔36Aは、捕集体74のうち下層を構成する各炭素粒76が通らない大きさに設定されている。
【0066】
次に、上記構成の定量分析装置1を用いて大気中に微量に含まれる金属物質Mを定量分析する動作について説明する。例えば三方電磁弁60を大気導入モード(第1流路61とガス導入路30が連通した状態)に設定する。また、ガス導出路33とガス排出路35が連通するよう三方電磁弁34を吸引モードに設定する。例えば、二方電磁弁18Aのみを開いて大気A1 を例えば10ml/minの吸引量で約10分程度サンプリングする。
【0067】
続いて、三方電磁弁60を大気導入モードからArガス導入モード(第2流路62とガス導入路30が連通した状態)に切替えて、Arガスでパージを行う。このArガスによるパージは、気化器4内にArガスを例えば5分程度流して気化器4内の付着物を取り除くための予備パージを行う。すなわち、ガス導入路30からガス導入口23を経て気化器4内に導入されるArガスは、黒鉛るつぼ22A内からガス流出孔36Aを介して空間47内を経てガス導出口24からガス導出路33に至り、ガス導出路33の三方電磁弁34を介してガス排出路35から排出される。
【0068】
前記パージ後、Arガスを流し始めてから2〜5分以内に加熱電源29を動作させて黒鉛るつぼ22Aに通電を行って、黒鉛るつぼ22Aを発熱させる。すなわち、三方電磁弁34を吸引モードから分析モードに切替える。この状態でArガスを供給しながら黒鉛るつぼ22Aに通電を行う。黒鉛るつぼ22A内の捕集体74に捕集されていた金属物質Mが加熱融解し、金属物質Mがその沸点よりも高温になり、きわめて短い時間に一気に気化してガスGとなり、ガスGはArガスと共にガス導出口24からガス導出路33の三方電磁弁34を介してICPプラズマトーチ37に至る。そして、ガスGがArガスの流れによってガス流路41内に流入し、プラズマ炎40内においてプラズマ化される。このとき、ガスGがそれぞれ独特の波長の光Lをプラズマ発光し、分光器38によってこの光Lを分光し、この分光された各波長の光は、検出器39によって検出される。検出器39の出力信号はコンピュータ46に送られ、コンピュータ46においては、所定のアルゴリズムによって分光スペクトルが解析されることにより、大気A中に含まれる金属物質Mが定量分析される。この定量分析は、パージ終了後約5分以内で行われる。
【0069】
そして、定量終了後、三方電磁弁34を分析モードから吸引モードに切替えてArガスでパージを行う。
【0070】
続いて、例えば大気A2 中の微量の金属物質Mを分析するには、三方電磁弁60を大気導入モードに設定する。二方電磁弁18Bのみを開いてサンプリングを行い、同様にしてArガスでパージを行い、通電による黒鉛るつぼ22Aの加熱を開始して分析を行う。
【0071】
以上のように、この実施の形態では、異なる4つのサンプリングポイント(場所)で採取される各大気A1 ,A2 ,A3 ,A4 に含まれる金属物質Mの濃度を各別に求めることができる。そして、この実施の形態では、黒鉛るつぼ22A内には、金属物質Mを捕集する捕集体74が予め収容されており、三方電磁弁60を切替える必要があるものの、上記第1〜第4の実施の形態と異なり、捕集体74を黒鉛るつぼ22Aに移し替える動作は不要である。
【0072】
図6は、この発明の第6の実施の形態に係る定量分析装置1を示す。図6において、図1〜図5に示す符号と同一のものは同一または相当物である。上記第5の実施の形態では、ICPプラズマトーチ37の後段に分光器38を設けてなるICP発光分光分析装置を用いて発光スペクトル強度の計測により定量分析を行ったが、この第6の実施の形態ではプラズマトーチ37の後段に例えば質量分析計48を設けて、プラズマでイオン化された原子種を質量分析計48に導入して定量分析を行うようにしている。
【0073】
図6において、第5の実施の形態と同様に、Arガスを流しながら高温加熱し、この加熱により発生したガスGをガス流路41内に流入させ、プラズマ炎40内においてプラズマ化する。このとき、プラズマでイオン化された原子種を質量分析計48に導入することにより、質量分析計48において大気A中に含まれる金属物質Mの定量分析が行われる。この実施の形態でも、各大気A1 ,A2 ,A3 ,A4 に含まれる金属物質Mの濃度を各別に求めることができる。
【0074】
なお、第5、第6の実施の形態では、多点のサンプリングを連続に行ったものを示したが、単一のサンプリングを行う場合にも適用できることは言うまでもない。
【0075】
図7は、この発明の第7の実施の形態に係る定量分析装置1を示す。図7において、図1〜図6に示す符号と同一のものは同一または相当物である。
【0076】
この実施の形態では、二つの気化器4A,4Bを用い、各気化器4A,4Bにそれぞれ捕集体80,75を収容して、大気A中の粉塵に微量に含まれる金属物質Mのうち、比較的粒径の大きな金属物質Mを上流側の捕集体80で捕集し、比較的粒径の小さな金属Mを下流側の捕集体75で捕集することによって、連続的に金属物質Mの濃度変化を知ることが可能になる。
【0077】
図7において、4A,4Bは気化器4と同様の構造を有する気化器で、互いに上流側、下流側に位置するように設けられている。そして、上流側の気化器4A内には、加熱容器(抵抗体)としての黒鉛るつぼ22Bが設けられる。この黒鉛るつぼ22Bは、例えば断面ほぼU字状の有底筒形状である。黒鉛るつぼ22Bの底部には、黒鉛るつぼ22B内で気化により生じたガスGがArガスと共に流出するためのガス流出孔36Bが形成されている。ガス流出孔36Bは、ガス導出口24の高さ位置に対応する位置になるように形成されているのが好ましい。
【0078】
80は上流側の黒鉛るつぼ22B内に設けられる捕集体で、この捕集体80は、分級器としての機能を有する。そして、この捕集体80は、黒鉛るつぼ22B内の適宜位置に保持されている。捕集体80は、例えば上中下の三層構造になっており、上部の板体81と、下部の板体82と、板体81,82間にそれぞれ隙間を有する状態で設けた板体83とより構成される。そして、板体81は複数の大きな孔81aを有し、板体83は、孔81aよりも小さな複数の孔83aを有し、板体82は、孔83aよりもさらに小さな複数の孔82aを有する。
【0079】
そして、上部の板体81に形成された孔81aは、最初に大気Aが入る孔で、孔81aを通った大気Aは、下側に位置する板体83に当たり、屈曲して板体81,83間に形成される隙間を通り、続いて、孔83aを通って直下の板体82に当たり、屈曲して板体83,82間に形成される隙間を通り、最後に孔82aを通って出て行くように構成されている。すなわち、上側に位置する孔81aと下側に位置する孔83aは、相互にずれた位置に形成されるとともに、上側に位置する83aと下側に位置する孔82aも、相互にずれた位置に形成されている。
【0080】
そのため、孔81aを通った大気A中の金属物質Mのうち、比較的粒径の大きな金属物質Mが板体83上に捕集される。そして、孔83aを通った比較的粒径の小さな金属物質Mが板体82上に捕集される。なお、板体81の上面にはガス導入口23に導入された大気Aが板体81の上面に当たることにより、大気Aのうち、板体83上に捕集される金属物質Mよりも更に粒径の大きな金属物質Mが捕集される。
【0081】
90は、気化器4Aのガス導出口24と気化器4Bのガス導入口23を連通する流路である。この流路90には、三方電磁弁91が設けられている。92は、吸引モードと分析モードを切替える三方電磁弁34Aと前記三方電磁弁91を接続する流路である。34Bは吸引モードと分析モードを切替える三方電磁弁で、三方電磁弁34A,34Bはガス排出路35に設けられている。
【0082】
サンプリングに際しては、ポンプP1 に引かれて、大気Aが、三方電磁弁60からガス導入路30を経て上流側の気化器4Aを通り、この気化器4Aのガス導出口24から三方電磁弁91を介して下流側の気化器4Bに至り、さらに、この気化器4Bのガス導出口24から三方電磁弁34Bを介して排出される。この際、捕集体80では、捕集体75よりも粒径の大きな金属物質Mが捕集されるとともに、捕集体80が分級器としての機能を有することから、捕集体80で捕集される粒径の大きな金属物質Mのうち、板体81に捕集される金属物質Mよりは粒径の小さな金属物質Mが板体83に捕集されるとともに、板体83に捕集される金属物質Mよりは更に粒径の小さな金属物質Mが板体82に捕集される。
【0083】
パージに際しては、ポンプP1 に引かれて、Arガスがサンプリングのときと同様の路を辿る。
【0084】
そして、それぞれ捕集体80,75を別々にArガス中で高温に加熱し、それぞれ捕集体80,75において捕集した金属物質Mを気化させ、この気化により生じた気体をプラズマ化した後分析する。この実施の形態では、通電後1秒以内に3000℃近くに昇温し捕集した金属物質Mを気化できるように構成される。
【0085】
すなわち、金属物質Mが捕集されている捕集体80の加熱は、気化器4A内にArガスを送り込みながら、三方電磁弁91および三方電磁弁34Aを分析モードにしながら行う。また、金属物質Mが捕集されている捕集体75の加熱は、気化器4A内の黒鉛るつぼ22Bを取り払った後、気化器4B内にArガスを送り込みながら、三方電磁弁34Bを分析モードにしながら行う。そして、加熱により発生したそれぞれのガスGをガス流路41内に流入させ、プラズマ炎45内においてプラズマ化する。このとき、このとき、プラズマでイオン化された原子種を質量分析計48に導入することにより、質量分析計48ににおいて大気A中に含まれる金属物質Mの定量分析が行われる。なお、ICPプラズマトーチ37の後段に分光器38を設けてなるICP発光分光分析装置を用いて発光スペクトル強度の計測により定量分析を行ってもよい。
【0086】
この実施の形態では、金属物質Mを粒径別に分けて定量でき、連続的に金属Mの濃度変化を知ることが可能になる。すなわち、大と小に分級した状態の金属物質Mを測定できる。
【0087】
なお、一つのサンプリングポート16から大気Aのサンプリングを行う場合を示したが、この発明は、多点のサンプリングを行う場合にも適用できることは言うまでもない。
【0088】
図8は、この発明の第8の実施の形態に係る定量分析装置1を示す。図8において、図1〜図7に示す符号と同一のものは同一または相当物である。この実施の形態では、捕集体としてメッシュ状の抵抗発熱体95を用いている。気化器4は、Oリング19を介して上下に設けられた上部材20Aおよび下部材21Aと、捕集体95とを備えている。捕集体95は、平板状に構成されており、例えば2.5μmの目合いを有する。また、捕集体95は、炭素(C)、タングステン(W)、タンタル(Ta)等の高耐熱性、高融点金属からなる。そして、金属物質Mが捕集された捕集体95にArガス雰囲気中で直接電流を流し、発生するジュール熱で金属物質Mを気化させることができるよう構成される。そのため、上記第1〜第7の実施の形態で用いたような黒鉛るつぼほ不要にできるとともに、捕集ならびに加熱のための操作が簡単になる。
【0089】
なお、上記第1〜6の各実施の形態および上記第8の実施の形態においては、気化器4と分析部5を結ぶガス導出路33に三方電磁弁34を設けたものを示したが、この発明では前記三方電磁弁34は必ずしも必要ではない。Arガスでパージを行う際に分析部5のガス流路41にArガスを流してもよいからである。また、上記第7の実施の形態においては、気化器4Bと分析部5を結ぶガス導出路33に三方電磁弁34Bを設けたものを示したが、この場合も前記三方電磁弁34Bは必ずしも必要ではない。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】この発明の第1の実施の形態を説明するための構成説明図である。
【図2】この発明の第2の実施の形態を説明するための構成説明図である。
【図3】この発明の第3の実施の形態を説明するための構成説明図である。
【図4】この発明の第4の実施の形態を説明するための構成説明図である。
【図5】この発明の第5の実施の形態を説明するための構成説明図である。
【図6】この発明の第6の実施の形態を説明するための構成説明図である。
【図7】この発明の第7の実施の形態を説明するための構成説明図である。
【図8】この発明の第8の実施の形態を説明するための構成説明図である。
【符号の説明】
【0091】
2 捕集体
4 気化器
5 分析部
37 プラズマトーチ
A 気体
M 微量物質
G 発生ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体に含まれる微量物質を捕集体によって捕集し、微量物質を捕集した捕集体を不活性ガス中で高温に加熱して捕集した微量物質を気化させ、この気化により生じた気体をプラズマ化した後分析することにより、前記微量物質の濃度を求めるようにしたことを特徴とする気体中の微量物質の定量分析方法。
【請求項2】
捕集体が粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、メッシュ状の抵抗発熱体である請求項1に記載の気体中の微量物質の定量分析方法。
【請求項3】
捕集体が上流側、下流側に分離して設けられ、上流側の捕集体は、微量物質の大きさにより分級する機能を有し、下流側の捕集体は、粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、メッシュ状の抵抗発熱体よりなる請求項1に記載の気体中の微量物質の定量分析方法。
【請求項4】
気体に含まれる微量物質を捕集する捕集体と、微量物質を捕集した捕集体を不活性ガス中で高温に加熱して、前記捕集体によって捕集された微量物質を気化させる気化器と、前記微量物質の濃度を求めるために、気化により生じた気体をプラズマ化した後分析する分析部とを備えたことを特徴とする気体中の微量物質の定量分析装置。
【請求項5】
捕集体が粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、捕集体がメッシュ状の抵抗発熱体である請求項4に記載の気体中の微量物質の定量分析装置。
【請求項6】
捕集体が上流側、下流側に分離して設けられ、上流側の捕集体は、微量物質の大きさにより分級する機能を有し、下流側の捕集体は、粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、メッシュ状の抵抗発熱体よりなる請求項4に記載の気体中の微量物質の定量分析装置。
【請求項7】
気化により生じた気体をプラズマ化した後分析することにより、気体に含まれる微量物質の濃度を分析部において求めるときに用いられる気体中の微量物質のサンプリング方法であって、捕集体に対して微量物質を含む気体を通過させて前記微量物質を前記捕集体に捕集し、続いて、前記微量物質が捕集された捕集体を不活性ガスの供給下で高温に加熱して前記微量物質を気化させることを特徴とする気体中の微量物質のサンプリング方法。
【請求項8】
捕集体が粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、捕集体がメッシュ状の抵抗発熱体である請求項7に記載の気体中の微量物質のサンプリング方法。
【請求項9】
捕集体が上流側、下流側に分離して設けられ、上流側の捕集体は、微量物質の大きさにより分級する機能を有し、下流側の捕集体は、粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、メッシュ状の抵抗発熱体よりなる請求項7に記載の気体中の微量物質のサンプリング方法。
【請求項10】
気化により生じた気体をプラズマ化した後分析することにより、気体に含まれる微量物質の濃度を分析部において求めるときに用いられる気体中の微量物質のサンプリング装置であって、気体を通過させることにより気体に含まれる微量物質を捕集する捕集体と、前記微量物質が捕集された捕集体を不活性ガスの供給下で高温に加熱して前記微量物質を気化させる気化器とを備えたことを特徴とする気体中の微量物質のサンプリング装置。
【請求項11】
捕集体が粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、捕集体がメッシュ状の抵抗発熱体である請求項10に記載の気体中の微量物質のサンプリング装置。
【請求項12】
捕集体が上流側、下流側に分離して設けられ、上流側の捕集体は、微量物質の大きさにより分級する機能を有し、下流側の捕集体は、粉状または顆粒状の炭素の層よりなるか、または、メッシュ状の抵抗発熱体よりなる請求項10に記載の気体中の微量物質のサンプリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−47232(P2006−47232A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231817(P2004−231817)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】