説明

気体中微粒子検出装置

【課題】本発明は、気体中に存在する微粒子を迅速に検出でき、また、その微粒子の粒径を幅広いレンジで正確に測定できる装置を提供することを目的とする。
【解決手段】検査対象となる気体中に含まれる微粒子を捕捉するディスクと、前記ディスクを回転させる回転手段と、前記ディスクに光を照射する光照射手段と、前記ディスクから反射された光を検出する検出手段と備え、前記検出手段で検出される信号の時間的長さと前記ディスクの回転速度から算出される大きさから前記光照射手段から照射される光のスポット径を差し引くことによって、前記微粒子の大きさを算出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体中に浮遊する微粒子を検出する検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中に浮遊する微小な物質の検出器としては、パーティクルカウンターが一般に用いられており、多く市販されている。パーティクルカウンターでは、個々の粒子の粒径及び個数を測定する為に、粒子と光との相互作用を利用している。一般に、パーティクルカウンターは、内蔵しているポンプによって空気を一定の流量で吸引し細い噴流とした後、レーザー光と交差させ、空気中の粒子1個1個が光線を横切る際に散乱する光を光学系で測定することによって粒子を検出する。ただし、パーティクルカウンターは、同じ直径の粒子でも、光学的性質の違い、特に粒子の光吸収の度合いによって信号強度が変化するため、必ずしも正確な粒径を計測できるわけではない。また、一般に可視光を用いて測定するため、検出対象となる粒子の大きさが0.1μm程度以下になると検出が非常に困難になる。そのため、チリや埃は比較的容易に検出できるが、粒径が0.1μm程度であるウイルスなどの検出は非常に困難である。また、計測された粒子が何であるかを特定することも困難である。
特許文献1や特許文献2に空気中ウイルスの検出方法及び検出装置が開示されている。特許文献1では、一旦ウイルスを液体媒体中か、霧状媒体中かまたは基板上に捕捉した後、ウイルスを分離してから、蛍光検出法、免疫クロマトグラフィー法、培養法等でウイルスを検出する手法が開示されている。特許文献2では空気中のウイルスをフィルタなどで捉えた後、溶出液中に取り出し、遺伝子解析を行って検出する方法が開示されている。これらの手法では、空気中のウイルスを検出はできるが、検出までに様々な工程が必要であり、煩雑であるという問題点がある。
一方で、微小なドットパターンを高感度で読み取る技術として、光ディスク再生技術が挙げられる。コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、Blu−rayディクスなどが市販されているが、いずれもディクスに書き込まれた微小ピット(信号を記録するために形成された点)を読むことができる技術であり、超解像再生技術を用いれば、20nm程度の微小なピットを読みとることが可能である。特許文献3及び特許文献4に光ディスクを用いた空気中の塵埃検出装置が開示されている。しかしながら、開示されているこれらの手法では、空気中の塵埃の量を検出することは可能であるが、1つ1つの塵埃の大きさ、つまり微粒子の大きさや種類を特定することはできない。
光ディスク技術を用いて、溶液中の分子を識別する手法が特許文献5〜8に報告されている。しかし、報告されている技術は、検出対象となる物質(分子)を含む液体を光ディスク上に滴下または塗布し、特定の物質が光ディスク上に付着したものを検出するものであり、やはり空気中の微粒子を測定することはできない。また、特許文献5では、分子の検出が可能とされているが、単一分子の検出ができるという意味ではなく、分子の種類が見分けられることを意味しており、特許文献5〜8のいずれにおいてもやはり微粒子の粒径が0.1μm程度以下になる場合に関しては、その検出の可能性は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−152109号公報
【特許文献2】特開2005−102686号公報
【特許文献3】特開2002−257710号公報
【特許文献4】特開2002−257741号公報
【特許文献5】特許第4670015号公報
【特許文献6】特表2002−521666号公報
【特許文献7】特表2002−530786号公報
【特許文献8】特表2000−515632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明では、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、気体中に存在する微粒子を迅速に検出でき、また、その微粒子の粒径を数十nm程度までの幅広いレンジで正確に測定できる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の気体中微粒子検出手段は、検査対象となる気体中に含まれる微粒子を捕捉するディスクと、前記ディスクを回転させる回転手段と、前記ディスクに光を照射する光照射手段と、前記ディスクから反射された光を検出する検出手段とを有し、捕捉した微粒子が存在している部分からの光の反射率が変化することを利用し、前記検出手段で検出される信号により反射率の変化が観測された時間的長さとディスクの回転速度から算出される大きさから光照射手段から照射される光のスポット径を差し引くことによって、微粒子の大きさを算出することを特徴とする。
また、本発明は、前記気体中微粒子検出装置において、前記ディスクの微粒子を捕捉する面に、前記微粒子を効率よく捕捉する捕捉物質が塗布または化学修飾されていることを特徴とする。
また、本発明は、前記気体中微粒子検出装置において、前記捕捉物質は、抗体またはアプタマーであることを特徴とする。
また、本発明は、前記気体中微粒子検出装置において、前記ディスクは円盤状の基板からなることを特徴とする。
また、本発明は、前記気体中微粒子検出装置において、ディスクは円盤状の基板上に、前記基板と屈折率の異なる薄膜層が1層以上配され、前記薄膜層が配された側の面が微粒子を捕捉する面となることを特徴とする。
また、本発明は、前記気体中微粒子検出装置において、前記基板は表面にトラッキングを取るための溝構造を有することを特徴とする。
また、本発明は、前記気体中微粒子検出装置において、前記溝構造の表面は樹脂によってコーティングされていることを特徴とする。
また、本発明は、前記気体中微粒子検出装置において、前記光照射手段から発せられる光は、トラッキングを取るため及び微粒子を検出するための両方に用いられることを特徴とする。
また、本発明は、前記気体中微粒子検出装置において、前記光照射手段は、トラッキングを取るために用いられる光と、微粒子を検出するために用いられる光をそれぞれ別々に照射することを特徴とする。
また、本発明は、前記気体中微粒子検出装置において、前記微粒子は、ウイルス、菌、又は、花粉であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、ディスク表面で微粒子を捕捉し、瞬時にその捕捉粒子の粒径を正確に測定することができ、なお且つその測定検出感度は、数十nm程度の微粒子まで検出可能である気体中微粒子検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態に係る気体中微粒子検出装置を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る気体中微粒子検出装置の検出原理を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る微粒子検出用ディスクの断面図である。
【図4】本発明の更に他の実施形態に係る微粒子検出用ディスクの断面図である。
【図5】本発明の更に他の実施形態に係る微粒子検出用ディスクの断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る気体中微粒子検出装置の微粒子の大きさを測定する原理を示す説明図である。
【図7】本発明の実施例に用いた円盤状部材の斜視図である。
【図8】本発明の実施例におけるポリスチレンビーズが吸着した微粒子検出用ディスク表面の電子顕顕微鏡写真である。
【図9】本発明の実施例に係る気体中微粒子検出装置を用いて観測した反射光強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の気体中微粒子検出装置は、検査対象となる気体中に含まれる微粒子を捕捉する微粒子検出用ディスクと、微粒子検出用ディスクを回転させる回転手段と、光照射手段と、光検出手段と、必要に応じて、その他の部材とを有する。図1は気体中微粒子検出装置の概略を示す。気中に浮遊する微粒子が吸気口から取り込まれ、微粒子検出用ディスクの表面に付着すると、前記光照射手段から発せられ前記微粒子検出用ディスクにて反射される光の強度、つまり反射率に変化が生じる。この反射率の変化を光検出手段にて検出することによって、微粒子を検出する。
本発明の気体中微粒子検出装置では、目的物質として、例えば、ウイルス、菌、花粉、埃、チリ、などの気中に浮遊する微小な物質を検出することができる。検査対象となる気体としては、空気、ガスボンベ中のガス、ガス配管中のガス、ガス貯蔵庫中のガスなど、あらゆる気体を検査対象とすることができる。
【0009】
(1)吸気口
吸気口は検査対象となる気体を吸い込む部材としてなる。
前記吸気口の形状及び材質としては、検査対象となる気体を吸入可能である限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。効率よく気体を吸入するため、ファンなどの送風装置を備えていることが好ましい。
図1に示した装置では、検査対象となる気体を取り込む吸気口を設けているが、吸気口に代えて穴に外から検査対象となる気体を吹き込んだり、あるいは、予め患者の呼気などの検査対象となる気体を微粒子検出用ディスクに直接吹きかけるようにしてもよい。
【0010】
(2)微粒子検出用ディスク
微粒子検出用ディスクは、その円盤状部材からなり、必要に応じて、その他の部材を有する。
(2−1)円盤状部材
前記円盤状部材の形成材料としては、円盤状の板に加工可能な材料であれば特に制限はなく、目的に応じ適宜選択することができる。この円盤状部材で構成される微粒子検出用ディスクに光を照射し、反射してくる光の強弱、つまり反射率の変化、で微粒子の存在を検知する。微粒子は、円盤状部材の表面か裏面のいずれか一方の面で捕捉される。微粒子を捕捉する側の面を微粒子捕捉面と呼ぶ。光は、微粒子捕捉面側から照射しても良いし、微粒子捕捉面とは反対側の面から照射しても良い。但し、微粒子捕捉面側から光を照射する場合、光照射手段を気体が吸引されてくる側に配置することとなってしまい、構造上、邪魔になる恐れがあることから、光は、微粒子捕捉面とは反対側の面から照射することが好ましい。図1では、微粒子検出用ディスクにおいて、微粒子捕捉面とは反対側の面から光照射を行う場合を図示している。
微粒子捕捉面とは反対側の面から光照射を行う場合、前記円盤状部材の形成材料は光透過性を有することが好ましく、例えば、射出成型技術を用いて量産が可能なポリカーボネート、アクリル、ポリスチレンなどのポリマー材料、高い透明性が確保できるガラス材料が好ましい。
【0011】
(2−2)捕捉物質
前記円盤状部材の微粒子捕捉面の最表面には、微粒子を捕捉するための捕捉物質を付けておくことも好ましい。例えば、粘着性のある物質を捕捉物質として微粒子捕捉面に塗布しておき、捕捉した微粒子が微粒子捕捉面から取れにくくすれば、より正確に微粒子の存在を検出することができる。
また、ウイルスや菌などの生体物質を検出する場合、例えば、グルタルアルデヒドを捕捉物質として微粒子捕捉面に化学修飾すれば、生体物質を効率よく捕捉することができる。また、特定のウイルスや菌などを選択的に捕捉したい場合、微粒子捕捉面に、そのウイルスや菌などを特異的に捉える抗体やアプタマーを捕捉物質として表面修飾によって固定化しておくことも有効である。
【0012】
(2−3)薄膜層
前記光照射手段から発せられ前記微粒子検出用ディスクにて反射される光の反射率は、前記円盤状部材の屈折率によって決まる。もし微粒子捕捉面に前記捕捉物質がある場合は前記捕捉物質の屈折率と厚さもこの反射率に影響を与える。この時得られる反射率が、必ずしも微粒子検出に最適であるとは限らない。
微粒子検出を行う際には、例えば、微粒子が微粒子捕捉面に捕捉された時に、より大きな反射率変化が得られるように設定することが好ましい。または、微粒子捕捉時に、必ず反射率が減少するか、または必ず反射率が増加するように設定することも、捕捉の有無を判定する上で好ましい。このような設定は、前記円盤状部材の微粒子捕捉面側に前記円盤状部材と屈折率の異なる材料で形成される薄膜層を形成することによって実現できる。
図2は、ポリカーボネートで形成された円盤状部材の上に薄膜層としてZnS−SiO2を堆積した時の反射率とZnS−SiO2層の厚さ(t)の関係を示す。また、図中には、このZnS−SiO2層上に微粒子が捕捉された際、反射率がどのように変化するかも示す。ここで、照射する光の波長は405nmとし、ZnS−SiO2層が形成されていない方の面から入射するとした。
図2から分かるように、tの変化によって反射率が上下する。微粒子はこのZnS−SiO2層の上に捕捉される。微粒子が捕捉された時、反射率は、tが見掛け上厚くなった場合と同じ挙動を取る。例えば、微粒子が捕捉される前の反射率が図2中で最も高くなる点、つまりA点となるようにtを選択すると、微粒子捕捉時には反射率は低下する。よって、この場合、反射率の減少を捉えることによって微粒子を検出する。微粒子が捕捉される前の反射率が図2中で最も低くなる点、つまり図2中のB点となるようにtを選択すれば、微粒子捕捉時には反射率は上昇する。よって、この場合、反射率の増加を捉えることによって微粒子を検出する。
図2中で、tの増加に対して反射率が増加している領域、例えばtが84nmから126nmの範囲内では、微粒子捕捉時に反射率は増加する。この時、変曲点、つまり図2中のC点となるようにtを選択すると、微粒子捕捉時の反射率の増加量が最も大きくなる。一方、図2中で、tの増加に対して反射率が減少している領域、例えばtが42nmから84nmの範囲内では、微粒子捕捉時に反射率は減少する。この時、変曲点、つまり図2中のD点となるようにtを選択すると、微粒子捕捉時の反射率の減少量が最も大きくなる。
但しtに対して反射率はサインカーブ的に変化することに注意しなければならない。微粒子が図2における反射率の増減の半周期に相当する厚さの大きい場合、反射率の変化量から粒子の大きさを見積もることができなくなってしまう。例えば、もともとの反射率が、Aとなるように設定してあった場合で、ZnS−SiO2と同等の屈折率を持った微粒子が付着した場合、この粒子の大きさが22nmであった場合と64nmであった場合とでは、得られる反射率変化量が同じになってしまい、区別できなくなってしまう。このような場合には、下記<回転手段>の項で詳述する、微粒子検出用ディスクの回転速度と反射率変化が観測された時間から、微粒子の大きさを特定する。
図3に、前記円盤状部材の上に前記薄膜層が形成され、さらにその上に前記捕捉物質が乗っている微粒子検出用ディスクの断面図を示す。
【0013】
(2−4)溝構造
前記微粒子検出用ディスクは、光ディスクと同様に、そのディスクを回転させることによって、ディスク表面の様々な位置に捕捉された微粒子の存在を検知する。つまり、光照射手段から照射される光は、前記微粒子検出用ディスクが回転することによって、前記微粒子検出用ディスク上の広い範囲に照射され、よって、前記微粒子検出用ディスク上を走査することができる。ただ、このディスク表面に設定された微粒子を検出するための部位全体を走査するには、光ディスク同様、トラッキングを取る必要がある。よって、前記円盤状部材の表面にはトラッキングを取るための溝構造が形成されていることが好ましい。
このトラッキングを取るための溝構造は、トラッキングを取ることが可能である限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、光ディスクで用いられているような、ランドとグルーブと呼ばれる溝構造をディスクの中心を中心軸としたスパイラル状に配した構造や、ドット形状を連ねる形で形成した溝構造をディスクの中心を中心軸としたスパイラル状に配した構造を、円盤状部材の表面に形成することが好ましい。
図4は、ランドとグルーブと呼ばれる溝構造が形成された円盤状部材の上に前記薄膜層が形成され、さらにその上に前記捕捉物質が乗っている微粒子検出用ディスクの断面図を示す。
トラッキングを取るための光照射の手法は、トラッキングを取ることが可能である限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、光ディスクで用いられているような光照射手法を用いることが可能である。トラッキングを取るために照射する光は、検出に用いられる光を用いてもよいし、別途光照射手段を設け、トラッキング用の光を照射してもよい。
トラッキング用の光照射手段を別途設ける場合、その光は、微粒子捕捉面側から照射しても良いし、微粒子捕捉面とは反対側の面から照射しても良い。但し、微粒子捕捉面側から光を照射する場合、前記光照射手段を気体が吸引されてくる側に配置することとなってしまい、構造上、邪魔になる恐れがあることから、光は、微粒子捕捉面とは反対側の面から照射することが好ましい。
前記溝構造を形成すると、その断面は図4に示すように、前記溝構造を反映した形状となってしまう。微粒子を捕捉し、安定した信号を得るには、前記微粒子検出用ディスクの微粒子捕捉面は、平らであることが好ましい。よって、溝構造は、樹脂などによってコーティングし、埋めてしまっても良い。この溝構造を埋める手法としては、溝部分を埋めて平らな表面を形成可能である限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、流動性があり、熱硬化性または光硬化性のある樹脂を溝構造上部に塗布後、加熱するか又は光を照射して樹脂を硬化させることによって溝部分を埋める方法が好ましい。図5は、ランドとグルーブと呼ばれる溝構造が形成された円盤状部材の上に、樹脂を塗布して溝構造を埋め、その上に前記薄膜層が形成され、さらにその上に前記捕捉物質が乗っている微粒子検出用ディスクの断面図を示す。
図5に示したような断面構造を持つ微粒子検出用ディスクの場合、トラッキングを取るために照射する光は、検出に用いることができないため、光照射手段は、トラッキング用の光と検出用の光とをそれぞれ別々に照射することが必要となる。
【0014】
(3)回転手段
既述の通り、微粒子検出用ディスクはその微粒子捕捉面を走査するために、回転機構によって回転させられる。前記回転機構としては、微粒子検出用ディスクの中心を軸に微粒子検出用ディスクを回転可能である限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、光ディスクで用いられている回転機構が好ましい。
微粒子検出用ディスクを回転させる時、一般的な回転方式として、線速が一定となるように回転させる方式と、回転数が一定となるように回転させる方式とが挙げられる。線速が一定となるように回転させる方式は、光ディスクでよく用いられる回転方式であり、光ディクスにおいて、ある一定時間に、光が当たっている部分を通過する光ディクスの距離が一定となるように回転させる方式である。つまり光が当たる部分がディスクの外周側の場合、ディスクは遅く回転し、光が当たる部分がディスクの内周側の場合、ディスクは早く回転する。回転数が一定となるように回転させる方式では、常に同じ回転数でディスクが回転する。
線速が一定となるように回転させる方式を用いた場合、反射率の変化が観測された時間と線速から微粒子の大きさが推測できる。図6に示すように、微粒子がビームスポット内に入った直後から信号が出始め、ビームスポットが微粒子を通り過ぎるときに信号が消える。よって、反射率変化が観測された時間をX秒とし、線速を毎秒Yメートルとすると、微粒子の大きさは、X×Yメートルからビームスポット径を差し引いた値となる。
回転数が一定となるように回転させる方式では、反射率の変化が観測された時間と回転数と微粒子が検出された位置のディスク中心からの距離から微粒子の大きさが推測できる。反射率変化が観測された時間をE秒とし、回転数を毎秒F回転とし、微粒子が検出された位置のディスク中心からの距離をGメートルとすると、微粒子の大きさは、2πG×F×Eメートルからビームスポット径を差し引いた値となる。
微粒子検出用ディスクは動作中、常に回転している必要はない。回転は、微粒子検出用ディスクの微粒子捕捉面を光で走査する為に行なうものであることから、微粒子の捕捉に長時間を要するような場合や、微粒子の捕捉と前記走査を個別に行う場合には、微粒子を捕捉している間は、微粒子検出用ディスクは回転していなくてもよい。場合によっては、微粒子の捕捉は、微粒子検出用ディスクを回転機構から取り外した状態で行い、微粒子捕捉後に微粒子検出用ディスクを回転機構にセットしてもよい。
【0015】
(4)光照射手段及び光検出装置
前記光照射手段は、微粒子検出用ディスクに対して検出用の光を照射可能である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、光を発する光源と、その光を集光して微粒子捕捉面に照射する光学部品とで構成される。また、検出用の光に加え、別途、トラッキングを取る光を照射する場合、前記光照射手段は、微粒子検出用ディスクに対してトラッキング用の光を照射可能である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、光を発する光源と、その光を集光して微粒子捕捉面に照射する光学部品とで構成される。
前記光検出手段は、微粒子検出用ディスクに対して照射された検出用の光の反射光の強度を検出可能である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、反射光を集光して集める光学部品と、光を検出する光検出器とで構成される。
前記照射手段及び前記光検出手段には、光ディスクに用いられるような光ピックアップと呼ばれる光学素子が適用可能である。また、光ディスクに用いられているトラッキングを取る機構も適宜適用可能である。
【0016】
(5)その他の部材
前記その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エアフィルタが挙げられる。
エアフィルタとしては、目的に応じて様々な機能を持つエアフィルタを用いることができる。例えば、ウイルスや菌などの小さい粒子を検出する場合で、大きな埃やチリが検出を妨げる恐れある場合には、検出対象である、ウイルスや菌は通過し、大きな埃やチリは捕獲除去される目の大きさのエアフィルタを用いるとよい。
エアフィルタは吸気口付近または、吸気口と微粒子検出用ディスクとの間に設置されることが好ましい。
【実施例】
【0017】
微粒子検出用ディスク形成には、円盤状部材として、直径12cm、厚さ0.6mmのポリカーボネート製の円板を用いた。円板の表面には、トラッキングを取るために、円板の中心を中心軸とするスパイラル状の溝が形成されている。溝は深さが39nm、幅340nmである、溝と溝の間隔は340nmとした。円板の中心には、直径15mmの穴があけられており、この部分を用いて回転機構にセットし、微粒子検出用ディスクを回転させる。図7は円盤状部材の斜視図を示す。
この円盤状部材の溝構造の上に、薄膜層として、厚さ120nmのZnS−SiO2層と厚さ5nmのSiO2層をこの順番で堆積した。いずれの層もスパッタリング法にて形成した。これらの層は、前記薄膜層として形成したものであり、これらの層を形成することによって、微粒子検出用ディスクからの反射率は、図2のA点と同等の特性を示すように設定した。また、表面に形成されたSiO2層はシランカップリング材などを用いた表面修飾が容易であり、捕捉物質を表面に付ける際に有効である。
【0018】
検出対象物質には、直径100nmのポリスチレンビーズを用いた。ポリスチレンビーズが吸着した微粒子検出用ディスクの表面を電子顕微鏡で観測した結果を図8に示す。図8中の点線で囲った部分(トラック)を走査した結果を図9に示す。走査は、ディクスを線速4.9m/sで回転させながら、このトラック部分の裏側から光照射手段にて波長405nmの光を照射し、その反射光の強度を測定することによって行った。走査方向は、図8の左から右方向に向かって走査がなされるように設定した。図9の縦軸は、反射光強度をフォトディテクタで検出した際の電気信号強度を示す。横軸は走査時間である。図9中にA、B、C、の3つの信号が観測される。これは、図8中のポリスチレンビーズA、B、Cに対応する。このように、直径100nmの微粒子を容易に検出可能であることが分かる。
図9に示すように、各ビーズからの信号は0.15μ秒間観測された。線速4.9m/sであることから、信号を距離に換算すると735nmとなる。今回使用したビームのスポット径は約620nmであったことから、ビーズの大きさは、信号から得た距離からビームスポット径620nmを差し引き、115nmとなる。これは使用したビーズの大きさとほぼ同じであることから、本手法では、100nm程度の物質の大きさを精度良くかつ簡易に計測可能であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象となる気体中に含まれる微粒子を捕捉するディスクと、前記ディスクを回転させる回転手段と、前記ディスクに光を照射する光照射手段と、前記ディスクから反射された光を検出する検出手段とを有し、
捕捉した微粒子が存在している部分からの光の反射率が変化することを利用し、前記検出手段で検出される信号により反射率の変化が観測された時間的長さとディスクの回転速度から算出される大きさから光照射手段から照射される光のスポット径を差し引くことによって、微粒子の大きさを算出することを特徴とする気体中微粒子検出装置。
【請求項2】
前記ディスクの微粒子を捕捉する面に、前記微粒子を効率よく捕捉する捕捉物質が塗布または化学修飾されていることを特徴とする請求項1に記載の気体中微粒子検出装置。
【請求項3】
前記捕捉物質は、抗体またはアプタマーであることを特徴とする請求項2に記載の気体中微粒子検出装置。
【請求項4】
前記ディスクは円盤状の基板からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の気体中微粒子検出装置。
【請求項5】
ディスクは円盤状の基板上に、前記基板と屈折率の異なる薄膜層が1層以上配され、前記薄膜層が配された側の面が微粒子を捕捉する面となることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の気体中微粒子検出装置。
【請求項6】
前記基板は表面にトラッキングを取るための溝構造を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の気体中微粒子検出装置。
【請求項7】
前記溝構造の表面は樹脂によってコーティングされていることを特徴とする請求項6に記載の気体中微粒子検出装置。
【請求項8】
前記光照射手段から発せられる光は、トラッキングを取るため及び微粒子を検出するための両方に用いられることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の気体中微粒子検出装置。
【請求項9】
前記光照射手段は、トラッキングを取るために用いられる光と、微粒子を検出するために用いられる光をそれぞれ別々に照射することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の気体中微粒子検出装置。
【請求項10】
前記微粒子は、ウイルス、菌、又は、花粉であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の気体中微粒子検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−108752(P2013−108752A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247298(P2011−247298)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】