説明

気体中金属元素の測定方法、測定用演算式決定方法および測定システム

【課題】試料ガス中の金属元素濃度を分析装置からの検出信号に基づき求める。
【解決手段】測定対象金属元素と指標用金属元素が既知濃度で溶解された溶液から生成された微粒子が、ガス中に分散されている標準試料ガスと標準指標ガスを、分析装置7に導入し測定対象金属元素と指標用金属元素の検出信号強度を測定する。指標用金属元素が既知高濃度で溶解された溶液から生成された指標ガスの指標用金属元素をフィルタ13により捕集する。捕集された指標用金属元素が溶解された捕集溶液から生成された微粒子がガス中に分散されている捕集ガスを、分析装置7に導入し指標用金属元素の検出信号強度を測定する。各既知濃度、各検出信号強度、捕集溶液の設定容量、フィルタ13への指標ガスの導入設定時間、分析装置への試料ガスの導入時間と導入体積流量、及び分析装置からの測定対象金属元素の検出信号の積算強度から、試料ガスにおける測定対象金属元素濃度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料ガスにおける金属元素の濃度を、試料ガスを分析装置に導入して得られる測定信号に基づき求めるための気体中金属元素の測定方法、測定用演算式決定方法、および測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体等の電子デバイスの生産工程においては、エッチング、成膜、洗浄等の作業で使用するガスは高い清浄度を維持することが要求され、特に、ガス中に浮遊する粒子の組成を精度よく測定する方法が求められている。また、そのようなデバイスの生産設備が設置されるクリーンルーム等の維持管理においても、空気中に浮遊するエアロゾルの組成の測定が必要とされている。また、大気中に浮遊する微小エアロゾルは非常に沈降速度が遅く、長期間に亘って大気中を浮遊することから、気象異常の一因であるとも考えられ、その上、超微粒子は肺胞に沈着して血液循環系へ移行することから、人の健康に害を及ぼすと考えられている。そのため近年においては、PM2.5と呼ばれる粒子径2.5ミクロン以下の粒子の測定が行われており、今後、さらに微細な粒子の測定が必要とされる。さらに、今日にあってはナノ粒子が科学技術の進歩に大きな効果を及ぼすと考えられ、様々な分野で利用されつつあることから、大気中におけるナノ粒子の測定技術を確立することが緊急の課題となっている。
【0003】
そこで、気体中に浮遊するエアロゾルに含有される多元素を高感度にリアルタイムでモニタリングするのに資する技術が開発されている。例えば、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて試料ガスに含まれる金属元素の直接分析を可能にするため、多孔質の内管に微粒子を含む試料ガスを通気しながら、内管を覆う外管にアルゴンガスを試料ガス流動方向とは逆方向に流すことにより、内管における気体の拡散を推進力にガス交換を行い、微粒子を含むアルゴンガスを内管から流出させる技術が提案されている(特許文献1、2参照)。この技術によれば、微粒子の組成を高純度アルゴンプラズマを用いて測定可能になり、試料ガスの組成に起因するスペクトル干渉等の妨害が防止され、極めて信頼性の高い測定を行うことが可能になり、環境大気をはじめとする気体中の微粒子測定技術を大きく変革できる。例えば、1/10000秒単位という極めて高い時間分解能でデータを取得し、刻々と変化する大気環境のリアルタイム多元素モニタリングを実現できる。また、測定に必要な試料ガス量は数百ミリリットル以下と非常に少なくてよいため、容器詰め半導体材料ガスを用いる場合のように、試料ガス量が限られている場合に極めて有効である。さらに、この技術を飛行時間型検出器を備えた高周波誘導結合プラズマ質量分析装置と組合わせることで、試料ガス中に浮遊するエアロゾル粒子の組成をリアルタイムで測定することができ、また、多重検出器付高周波誘導結合プラズマ質量分析装置と組合わせることで、浮遊エアロゾル粒子の同位体比測定も可能になる。
【0004】
上記のような分析装置から出力される金属元素の検出信号の強度は、試料ガスに含まれる金属元素の絶対的な濃度を表すものではなく、試料ガスに含まれる複数の金属元素の相対的な比を表すことができるに過ぎない。そのため、絶対的な濃度を得るためには、その信号強度への値付けが必要である。すなわち、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置や高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置のような分析装置は、本来、試料ガスではなく水溶液試料に含まれる金属元素の分析のために開発されたものであった。そのような水溶液試料に含まれる金属元素の分析に際しては、試料溶液と同じ測定条件下で標準溶液を分析機器に導入して検量線を作成し、その検量線を用いて濃度を算出するという値付けが行われている。しかし、測定対象が気体に含まれる金属元素である場合については、その値付けの方法が確立されていなかった。
【0005】
そこで、気体試料に含まれる金属元素の分析を行うのに適した標準試料ガスとして、温度20℃で昇華圧を有する金属化合物の蒸気と、金属化合物に対して不活性な気体とを含み、金属化合物の蒸気を1ppt〜10ppmの濃度範囲で含むものが提案されている。(特許文献3参照)。この標準試料ガスを試料ガスと同じ測定条件下で分析機器に導入することで、金属元素の相対的な濃度に対応する信号強度から絶対的な濃度を算出するための検量線を作成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4462575号公報
【特許文献2】特許第4315348号公報
【特許文献3】特許第3672267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に開示された技術を用いる場合、金属化合物を昇華させることで標準試料ガスを調整することから、金属化合物の昇華圧が小さいと所望濃度の標準試料ガスを調整することができない。そのため、実質的には、数種類の金属元素の分析に用いる標準試料ガスは調整できるが、その他の金属元素の分析に用いる標準試料ガスを調整するのは困難である。さらに、例えばpptレベルの超低濃度の標準試料ガスの値付けをするためには金属化合物の化学的性質に適した前処理が必要であり、通常の分析室での分析は困難である。また、刻々と変化する環境における金属元素濃度をモニタリングするような場合、少しでも目標測定位置の近くで気体試料を刻々とサンプリングして分析することが望まれるが、従来技術では困難であった。
本発明は、上記のような従来技術の問題を解決できる気体中金属元素の測定方法、測定用演算式決定方法、および測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明による課題を解決するための手段を、括弧を付した図面参照符号と共に説明する。
本発明による測定方法は、試料ガス(G)中の測定対象金属元素(M)を検出する分析装置(7)から出力される検出信号の強度に基づき、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度を求めるものである。
本発明による測定用演算式決定方法は、試料ガス(G)中の測定対象金属元素(M)を検出する分析装置(7)から出力される検出信号の強度に基づき、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度を算出するための演算式を決定するものである。
【0009】
本発明による測定方法および測定用演算式決定方法は、前記測定対象金属元素(M)が既知濃度で溶解された標準溶液(LM 、LMS、LMN、LMNS )から生成された微粒子が、ガス中に分散されている標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )を生成する工程と、前記測定対象金属元素(M)とは異なる指標用金属元素(S)が既知濃度で溶解された指標溶液(LS 、LMS、LMNS )から生成された微粒子が、ガス中に分散されている指標ガス(GS 、GMS、GMNS )を生成する工程と、前記指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における既知濃度よりも低い既知濃度で前記指標用金属元素(S)が溶解された標準指標溶液(λS )から生成された微粒子が、ガス中に分散されている標準指標ガス(γS )を生成する工程と、前記分析装置(7)に前記標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )を一定体積流量で導入することで、前記測定対象金属元素(M)の検出信号の単位時間当たり強度を測定する工程と、前記分析装置(7)に前記標準指標ガス(γS )を前記一定体積流量で導入することで、前記指標用金属元素(S)の検出信号の単位時間当たり強度を測定する工程と、前記指標ガス(GS 、GMS、GMNS )を前記一定体積流量で設定時間だけフィルタ(13)に導入して通過させることで、前記指標用金属元素(S)を前記フィルタ(13)により捕集する工程と、捕集された前記指標用金属元素(S)を設定容量の溶媒中に溶解させることで捕集溶液(LS ′、LMS′、LMNS ′)を生成する工程と、前記捕集溶液(LS ′、LMS′、LMNS ′)から生成された微粒子が、ガス中に分散されている捕集ガス(GS ′、GMS′、GMNS ′)を生成する工程と、前記分析装置(7)に前記捕集ガス(GS ′、GMS′、GMNS ′)を前記一定体積流量で導入することで、前記指標用金属元素(S)の検出信号の単位時間当たり強度を測定する工程とを備える。
これにより、前記標準溶液(LM 、LMS、LMN、LMNS )における測定対象金属元素(M)の既知濃度をdM 、前記指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における指標用金属元素(S)の既知濃度をdS 、前記標準指標溶液(λS )における指標用金属元素(S)の既知濃度をδS 、前記標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )中の前記測定対象金属元素(M)の単位時間当たり検出信号強度をcM 、前記標準指標ガス(γS )中の前記指標用金属元素(S)の単位時間当たり検出信号強度をeS 、前記捕集ガス(GS ′、GMS′、GMNS ′)中の前記指標用金属元素(S)の単位時間当たり検出信号強度をfS 、前記溶媒の設定容量をv、前記フィルタ(13)への前記指標ガス(GS 、GMS、GMNS )の導入設定時間をt、前記分析装置(7)へ前記試料ガス(G)を導入する際の導入時間をx、導入体積流量をy、その導入により前記分析装置(7)から出力される前記測定対象金属元素(M)の検出信号の積算強度をzM 、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度をWM として、(WM ×x×y)/{δS ×(fS /eS )×(v/t)×(dM /dS )}=zM /cM の関係から、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度WM を算出可能である。
また、(WM ×x×y)/{δS ×(fS /eS )×(v/t)×(dM /dS )}=zM /cM で表される関係式に、前記検出信号強度cM 、eS 、fS 、前記既知濃度dM 、dS 、δS 、前記設定時間t、および前記設定容量vを代入することで、前記導入時間x、前記導入体積流量y、および前記検出信号積算強度zM から、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度WM を算出するための演算式を求めることができる。
この構成により試料ガス(G)における測定対象金属元素(M)の濃度WM を求めることができるのは以下の知見による。
【0010】
すなわち、分析装置への試料ガス(G)中の測定対象金属元素(M)の導入質量はWM ×x×yにより表され、この導入質量WM ×x×yは、分析装置から出力される試料ガス(G)中の測定対象金属元素(M)の検出信号の積算強度zM に比例する。
分析装置への標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )中の測定対象金属元素(M)の単位時間当たりの導入質量をQM とすれば、この単位時間当たりの導入質量QM は、分析装置から出力される標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )中の測定対象金属元素(M)の検出信号の単位時間当たり強度cM に比例する。
その測定対象金属元素(M)の導入質量WM ×x×yと単位時間当たりの導入質量QM との比は、測定対象金属元素(M)の検出信号の積算強度zM と検出信号の単位時間当たりの強度cM との比に等しくなる。よって、以下の関係式(1)が成立する。
(WM ×x×y)/QM =zM /cM …(1)
【0011】
フィルタへの指標ガス(GS 、GMS、GMNS )中の指標用金属元素(S)の単位時間当たりの導入質量をRS 、捕集溶液(LS ′、LMS′、LMNS ′)における指標用金属元素(S)の濃度をgS とすれば、この単位時間当たりの導入質量RS はgS ×v/tにより表される。
また、標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )を生成するために用いられる標準溶液(LM 、LMS、LMN、LMNS )中の測定対象金属元素(M)の既知濃度はdM 、指標ガス(GS 、GMS、GMNS )を生成するために用いられる指標溶液(LS 、LMS、LMNS )中の指標用金属元素(S)の既知濃度はdS であるので、分析装置への標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )中の測定対象金属元素(M)の単位時間当たりの導入質量QM とフィルタへの指標ガス(GS 、GMS、GMNS )中の指標用金属元素(S)の単位時間当たりの導入質量RS との比は、dM /dS となる。
よって、以下の関係式(2)が成立する。
M =RS ×(dM /dS )=gS ×(v/t)×(dM /dS )…(2)
【0012】
分析装置への標準指標ガス(γS )中の指標用金属元素(S)の単位時間当たりの導入質量は、標準指標溶液(λS )における指標用金属元素(S)の既知濃度δS と、分析装置から出力される標準指標ガス(γS )中の指標用金属元素(S)の単位時間当たり検出信号強度eS に比例する。
分析装置への捕集ガス(GS ′、GMS′、GMNS ′)中の指標用金属元素(S)の単位時間当たりの導入質量は、捕集溶液(LS ′、LMS′、LMNS ′)における指標用金属元素(S)の濃度gS と、分析装置から出力される捕集ガス(GS ′、GMS′、GMNS ′)中の指標用金属元素(S)の単位時間当たり検出信号強度fS に比例する。
分析装置への標準指標ガス(γS )の導入体積流量と、分析装置への捕集ガス(GS ′、GMS′、GMNS ′)の導入体積流量とは、一定で互いに等しくされている。
よって、標準指標溶液(λS )における指標用金属元素(S)の既知濃度δS と捕集溶液(LS ′、LMS′、LMNS ′)における指標用金属元素(S)の濃度gS との比は、標準指標ガス(γS )中の指標用金属元素(S)の単位時間当たり検出信号強度eS と捕集ガス(GS ′、GMS′、GMNS ′)中の指標用金属元素(S)の単位時間当たり検出信号強度fS との比に等しくなる。これにより、以下の関係式(3)が成立する。
S /δS と=fS /eS …(3)
上記式(1)〜(3)から、試料ガス(G)における測定対象金属元素(M)の濃度WM を求めるための以下の関係式(4)が成立する。
(WM ×x×y)/{δS ×(fS /eS )×(v/t)×(dM /dS )}=zM /cM …(4)
【0013】
上記構成によれば、試料ガス(G)における測定対象金属元素(M)の濃度WM を求めことができる。その際、指標ガス(GS 、GMS、GMNS )における指標用金属元素(S)をフィルタに通気して捕集することで捕集効率を高めることができ、これにより、捕集時間を短縮できると共に捕集量の変動を防止して測定精度を高めることができる。
さらに、上記構成によれば、標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )中の測定対象金属元素(M)の濃度ではなく、指標ガス(GS 、GMS、GMNS )中の指標用金属元素(S)の濃度に基づき、測定対象金属元素(M)の濃度WM を求めるための関係式を求めることができる。これにより、標準溶液(LM 、LMS、LMN、LMNS )における測定対象金属元素(M)の既知濃度dM よりも指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における指標用金属元素(S)の既知濃度dS を高くすることで、指標用金属元素(S)をフィルタにより捕集するのに要する時間を短縮できる。
しかも、標準指標溶液(λS )における指標用金属元素(S)の既知濃度δS は、指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における指標用金属元素(S)の既知濃度dS よりも低いので、濃度測定精度を向上できる。すなわち、フィルタ13により捕集される指標用金属元素(S)は指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における指標用金属元素(S)の一部であり、また、捕集溶液(LS ′、LMS′、LMNS ′)における溶媒量は現実に操作を実行する上では一定以上とする必要がある。そのため、捕集溶液(LS ′、LMS′、LMNS ′)における指標用金属元素(S)の濃度gS は、指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における指標用金属元素(S)の既知濃度dS よりも低くなる。特に既知濃度dS を高くして指標用金属元素(S)をフィルタにより捕集するのに要する時間を短縮する場合、例えば濃度gS は既知濃度dS の1/1000になることもある。よって、既知濃度δS を既知濃度dS よりも低くすることで濃度gS と既知濃度δS との差を低減できるので、gS /δS の値が極端に小さな値になるのを防止し、上記関係式(3)から捕集溶液(LS ′、LMS′、LMNS ′)の濃度gS を精度良く求めることができ、ひいては関係式(4)により試料ガス(G)における測定対象金属元素(M)の濃度WM を精度良く求めることができる。前記指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における指標用金属元素(S)の既知濃度dS が、前記標準指標溶液(λS )における指標用金属元素(S)の既知濃度δS の10〜1000倍であるのが、濃度測定精度を向上して迅速に測定を行う上で好ましい。
【0014】
前記測定対象金属元素(M)とも前記指標用金属元素(S)とも異なる補償用金属元素(N)を一定濃度で含む補償ガス(GMN、GMNS 、GN )を生成する工程と、前記分析装置(7)へ前記標準試料ガス(GMN、GMNS )を導入する際に、同時に、前記補償ガス(GMN、GMNS )を前記分析装置(7)へ導入することで、前記補償用金属元素(N)の検出信号の単位時間当たり強度を測定する工程と、前記分析装置(7)へ前記試料ガス(G)を導入する際に、同時に、前記補償ガス(GN )を前記分析装置(7)へ導入することで、前記補償用金属元素(N)の検出信号の単位時間当たり強度を測定する工程とを備え、前記補償用金属元素(N)の前記分析装置(7)への単位時間当たり導入量が、前記標準試料ガス(GMN、GMNS )と同時に導入される時と前記試料ガス(G)と同時に導入される時とで互いに等しく一定となるように、前記分析装置(7)への前記補償ガス(GMN、GMNS 、GN )の導入体積流量を設定するのが好ましい。
これにより、前記標準試料ガス(GMN、GMNS )と同時に前記分析装置(7)へ導入された前記補償ガス(GMN、GMNS )の中の前記補償用金属元素(N)の単位時間当たり検出信号強度をcN 、前記試料ガス(G)と同時に前記分析装置(7)へ導入された前記補償ガス(GN )の中の前記補償用金属元素(N)の単位時間当たり検出信号強度をcN ′、前記積算強度zM の補正値である補正積算強度をzM ′として、zM ′=zM ×cN /cN ′の関係から求められる前記補正積算強度zM ′を、前記積算強度zM に代えて用いることで、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度WM を算出可能である。
【0015】
すなわち、前記補償用金属元素(N)の分析装置(7)への単位時間当たり導入量が、標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )と同時に導入される時と、試料ガス(G)と同時に導入される時とで互いに等しく一定である場合は、分析装置(7)の出力が変動しなければ、標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )と同時に導入される時の補償用金属元素(N)の単位時間当たり検出信号強度cN と、試料ガス(G)と同時に分析装置(7)へ導入される時の補償用金属元素(N)の単位時間当たり検出信号強度cN ′とは互いに等しくなる。
しかし現実には、分析装置(7)の出力は外乱等により変動する。この場合、試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度WM を上記関係式(4)から求める際に、積算強度zM に代えて、以下の関係式(5)により求めた補正積算強度zM ′を用いることで、分析装置(7)の出力の変動を相殺できる。
M ′=zM ×cN /cN ′…(5)
すなわち、zM ′=zM ×cN /cN ′で表される関係式に、前記検出信号強度cN を代入するすることで、前記検出信号積算強度zM および前記検出信号強度cN ′から前記補正積算強度zM ′を算出するための演算式を求め、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度WM を算出するための前記演算式において、前記積算強度zM に代えて算出された前記前記補正積算強度zM ′を用いる。
【0016】
本発明による測定用演算式決定方法により求められる関係式(4)に対応する前記演算式を用い、前記試料ガス(G)の前記測定対象金属元素(M)の濃度を求めるための測定システムは、移動体(30、30′)と、前記移動体(30、30′)に搭載される吸引ノズル(31b)を有すると共に、前記移動体(30、30′)の周囲雰囲気を前記試料ガス(G)として吸引する吸引手段(31)と、前記演算式、前記導入時間x及び前記導入体積流量yを記憶する演算装置(8)とを備え、前記試料ガス(G)が前記分析装置(7)に導入されるように、前記吸引手段(31)は前記分析装置(7)に接続され、前記演算装置(8)において前記測定対象金属元素(M)の検出信号から前記積算強度zM が演算されるように、前記分析装置(7)と前記演算装置(8)が接続され、前記演算装置(8)により前記演算式から前記測定対象金属元素Mの濃度WM が算出されることを特徴とする。
【0017】
前記積算強度zM に代えて算出された前記前記補正積算強度zM ′を用いる場合、本発明による測定用演算式決定方法により求められる前記演算式を用い、前記試料ガス(G)の前記測定対象金属元素(M)の濃度を求めるための測定システムは、移動体(30、30′)と、前記移動体(30、30′)に搭載される吸引ノズル(31b)を有すると共に、前記移動体(30、30′)の周囲雰囲気を前記試料ガス(G)として吸引する吸引手段(31)と、前記演算式、前記導入時間x及び前記導入体積流量yを記憶する演算装置(8)と、前記分析装置(7)へ前記試料ガス(G)を導入する際に、同時に、前記補償ガス(GN )を前記分析装置(7)へ導入する補償ガス導入手段(32)と、前記補償用金属元素(N)の前記分析装置(7)への単位時間当たり導入量が、前記標準試料ガス(GMN、GMNS )と同時に導入される時と前記試料ガス(G)と同時に導入される時とで互いに等しく一定となるように、前記分析装置(7)への前記補償ガス(GN )の導入体積流量を設定する流量設定手段(33)とを備え、前記試料ガス(G)が前記分析装置(7)に導入されるように、前記吸引手段(31)は前記分析装置(7)に接続され、前記演算装置(8)において前記測定対象金属元素(M)と前記補償用金属元素(N)の検出信号から前記積算強度zM と前記検出信号強度cN ′が演算されるように、前記分析装置(7)と前記演算装置(8)が接続され、前記演算装置(8)により前記演算式から前記測定対象金属元素Mの濃度WM が算出されることを特徴とする。
【0018】
上記の移動体(30)を備えた測定システムによれば、測定位置まで移動体(30)を移動させた後に、移動体(30)の周囲雰囲気を吸引手段(31)により試料ガス(G)として吸引し分析装置(7)に導入し、演算装置(8)により測定対象金属元素Mの濃度WM を算出することができる。よって、刻々と変化する環境における金属元素濃度をモニタリングするような場合に、目標測定位置における気体試料を刻々とサンプリングして分析することができる。
この場合、前記吸引手段(31)は、ガス吸引装置(31a)と、前記吸引ノズル(31b)を前記ガス吸引装置(31a)の吸引側に接続するための可撓性配管(31c)を有し、前記移動体(30′)に前記吸引ノズル(31b)が搭載され、前記ガス吸引装置(31a)は前記移動体(30′)にされないのが好ましい。これにより、移動体(30)は吸引ノズル(31a)のみ搭載すれば足りるので、移動体(30)として小型のものを用いることができ、測定位置が狭い場所にあっても移動体(30)を移動させ、試料ガス(G)をサンプリングすることができる。
また、移動体として放射能防護機能を有する車両や無人走行車両を用いることで、例えば原子力発電所における不具合等により、金属元素としてウランやプルトニウム等の放射性核種が放出された地域や原子炉建屋等の環境において、本発明の測定システムにより移動体の周囲雰囲気における放射性核種の濃度を適時、測定することで、放射性核種の拡散範囲や拡散量を把握でき、安全管理の面からも社会的貢献度が非常に高く有意義なものになる。
【0019】
前記標準試料ガスと前記補償ガスとは、個別に生成してもよいが混合されたガスとして同時に生成してもよい。この場合、前記測定対象金属元素(M)が既知濃度dM で、前記補償用金属元素(N)が既知濃度で、それぞれ溶解された前記標準溶液と前記補償溶液とを兼ねる溶液(LMN)を生成し、この溶液(LMN)から生成された微粒子をガス中に分散させることで、前記標準試料ガスと前記補償ガスとを混合されたガス(GMN)として同時に生成することができる。
【0020】
前記標準試料ガスと前記指標ガスとは、個別に生成してもよいが混合されたガスとして同時に生成してもよい。その場合、前記測定対象金属元素(M)が既知濃度dM で、前記指標用金属元素(S)が既知濃度dS で、それぞれ溶解された前記標準溶液と前記指標溶液とを兼ねる溶液(LMS)を生成し、この溶液(LMS)から生成された微粒子をガス中に分散させることで、前記標準試料ガスと前記指標ガスとを兼ねるガス(GMS、GMNS )を生成することができる。さらに、前記標準試料ガスと前記指標ガスと前記補償ガスとは、個別に生成してもよいが混合されたガスとして同時に生成してもよい。この場合、前記測定対象金属元素(M)が既知濃度dM で、前記指標用金属元素(S)が既知濃度dS で、前記補償用金属元素(N)が既知濃度で、それぞれ溶解された前記標準溶液と前記指標溶液と前記補償溶液とを兼ねる溶液(LMNS )を生成し、この溶液(LMNS )から生成された微粒子をガス中に分散させることで、前記標準試料ガスと前記指標ガスと前記補償ガスとを兼ねるガス(GMNS )を生成することができる。
【0021】
前記指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における指標用金属元素(S)の既知濃度dS が、前記標準溶液(LM 、LMS、LMN、LMNS )における測定対象金属元素(M)の既知濃度dM を超える値とされているのが好ましい。これによって、測定に必要な量の指標用金属元素をフィルタにより迅速に捕集できる。特に前記指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における指標用金属元素(S)の既知濃度dS が、前記標準溶液(LM 、LMS、LMN、LMNS )における測定対象金属元素(M)の既知濃度dM の10〜1000倍であるのが好ましい。
【0022】
本発明における指標用金属元素(S)としては測定対象金属元素(M)と異なるものであればよいが、一般の環境に殆ど存在しないものを選択することで、フィルタ13により捕集して捕集溶液(LS ′、LMS′、LMNS ′)を生成する際や分析装置により分析する際に、周囲環境からの汚染を排除して濃度測定精度が低下するのを防止できる。
また、補償用金属元素(N)としては測定対象金属元素(M)と異なるものであればよいが、さらに、測定条件のふらつきによって生ずる検出信号の変化が測定対象金属元素(M)と似通うものを選択するのが好ましい。一般の環境に殆ど存在しないものを選択することで濃度測定精度が低下するのを防止できる。
一般の環境に殆ど存在しない元素としては、例えばインジウム、イットリウムを挙げることができる。
【0023】
前記フィルター(13)としてシリンジフィルターを用い、前記指標用金属元素(S)を捕集した前記シリンジフィルター(13)に、前記溶媒をシリンジ(20)により注入し、これにより前記シリンジフィルター(13)を通過する液体を前記捕集溶液(LS ′、LMS′、LMNS ′)とするのが好ましい。これにより、指標用金属元素(S)を効率よく捕集できる。
【0024】
本発明システムは、試料ガス(G)中の測定対象金属元素(M)を検出する分析装置(7)から出力される検出信号の強度に基づき、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度を求めるためのシステムであって、前記測定対象金属元素(M)が既知濃度で溶解された標準溶液(LM 、LMS、LMN、LMNS )から生成された微粒子が、ガス中に分散されている標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )、前記測定対象金属元素(M)とは異なる指標用金属元素(S)が既知濃度で溶解された指標溶液(LS 、LMS、LMNS )から生成された微粒子が、ガス中に分散されている指標ガス(GS 、GMS、GMNS )、および前記指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における既知濃度よりも低い既知濃度で前記指標用金属元素(S)が溶解された標準指標溶液(λS )から生成された微粒子が、ガス中に分散されている標準指標ガス(γS )を生成するガス生成装置(10)と、前記指標ガス(GS 、GMS、GMNS )に含まれる指標用金属元素(S)の捕集用フィルタ(13)と、前記ガス生成装置(10)を、前記分析装置(7)と前記フィルタ(13)とに択一的に接続する切り替えバルブ(12)とを備えている。
本発明システムによれば本発明方法を実施できる。
【0025】
本発明の構成によれば、試料ガス(G)における測定対象金属元素(M)の濃度WM を求めることができる。その際、金属元素をフィルタにより捕集することで捕集効率を高めることができ、これにより、捕集時間を短縮できると共に捕集量の変動を防止して測定精度を高めることができる。
【0026】
なお、本発明における関係式においては、濃度、容量、体積流量、時間、信号強度等の物理量の基本単位は統一されており、例えば、濃度はng/m3 、容量はm3 、体積流量はm3 /s、時間はs、単位時間当たり信号強度はcps(count per sec) 、積算信号強度はc(count) とされる。基本単位が統一されていない物理量を用いる場合は、統一のための換算を行うことで本発明における関係式を適用すればよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、試料ガスにおける金属元素の濃度を、試料ガスを分析装置に導入して得られる測定信号に基づき簡便かつ迅速に精度良く求めることで、気体中に浮遊する粒子に含有される金属元素量の測定に貢献でき、さらに、刻々と変化する環境における気体中金属元素濃度のモニタリングに適したシステムを提供でき、特に金属元素としてウランやプルトニウム等の放射性核種の濃度測定に利用できるので社会的貢献度が非常に高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る気体中金属元素の測定システムの構成説明図
【図2】本発明の変形例に係る気体中金属元素の測定システムの構成説明図
【図3】本発明の第1実施形態に係る気体中金属元素の測定方法および測定用演算式決定方法の説明図
【図4】本発明の第2実施形態に係る気体中金属元素の測定方法および測定用演算式決定方法の説明図
【図5】本発明の第3実施形態に係る気体中金属元素の測定方法および測定用演算式決定方法の説明図
【図6】本発明の第4実施形態に係る気体中金属元素の測定方法および測定用演算式決定方法の説明図
【図7】本発明の実施形態に係る移動体を備えた測定システムの構成説明図
【図8】本発明の異なる実施形態に係る移動体を備えた測定システムの構成説明図
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1に示す本発明の実施形態に係る気体中金属元素の測定システムαは、本発明方法を実施するために用いられるものであり、大気等の測定対象金属元素を含む試料ガスを充填した容器等により構成される試料ガス供給源1と、清浄空気等の清浄ガスを充填した容器等により構成される清浄ガス供給源2とが、第1切り替えバルブ3によってダイヤフラムポンプ4に択一的に接続される。ダイヤフラムポンプ4は、両供給源1、2の一方から送られる試料ガスまたは清浄ガスを吸引する。ガス置換装置5は、試料ガスにおける分散媒である空気等を、ガス供給源6から供給されるアルゴンガス等の不活性ガスと、例えば試料ガスと不活性ガスとの分圧差による多孔性隔壁での拡散を介して置換する。ガス置換装置5としては、例えば特許4462575号や特許4315348号に記載されたものを用いるのが好ましい。なお、ガス置換装置5は必須ではない。ガス置換装置5から流出するガスが分析装置7に導入される。
【0030】
さらに測定システムαは、ガス生成装置10により生成されるガスを分析装置7に導入する。本実施形態のガス生成装置10は、ネブライザー10a、サイクロンチャンバー10b、および脱溶媒装置10cを有する。ネブライザー10aは、金属元素が溶解された溶液をアルゴンガス中に分散する液滴とし、サイクロンチャンバー10bに導く。サイクロンチャンバー10bにおいて粒径の大きな液滴が除去された後に、アルゴンガス中に分散する液滴は脱溶媒装置10cに導入される。脱溶媒装置10cは、液滴から金属元素の溶媒成分である水分等を加熱等により除去あるいは低減して微粒子とする。そのような溶媒成分を除去あるいは低減することで、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置や高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置等を用いて分析を行う場合に、その溶媒成分に起因する多原子イオンによるスペクトル干渉等の問題を解決でき、分析装置7の高感度化を図ることができる。なお、ガス生成装置10は、金属元素が溶解された溶液から生成された微粒子が、ガス中に分散されているガスを生成できれば、その構成は特に限定されず、例えば、サイクロンチャンバー10bや脱溶媒装置10cをなくし、金属元素が溶解された溶液を噴霧器によりガス中に分散した液滴とし、その液滴を微粒子として分析装置7に導入するものでもよい。
【0031】
ガス生成装置10は、切り替えバルブ12により分析装置7とフィルタ13とに択一的に接続される。これにより、ガス生成装置10により生成されたガスは、第2切り替えバルブ12により分析装置7とフィルタ13とに択一的に導かれる。フィルタ13は、ガスに含まれる金属元素を捕集するために用いられる。本実施形態のフィルタ13は、膜状のフィルタエレメント13aをシリンジとの接続用ケース13bで覆ったシリンジフィルタにより構成されるが、ガス中の微粒子に含まれる金属元素を捕集できるものであれば他の種類のフィルタを用いてもよい。分析装置7への試料ガス、清浄ガス、ガス生成装置10により生成されるガスそれぞれの導入体積流量は、流量制御バルブ等の流量調節手段(図示省略)により個別に調節可能とされている。また、フィルタ13へのガス生成装置10により生成されるガスの導入体積流量も、流量制御バルブ等の流量調節手段(図示省略)により調節可能とされている。
【0032】
分析装置7としては、例えば高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)や高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)等が採用される。分析装置7は、試料ガス中の測定対象金属元素の検出信号を、試料ガスにおける測定対象金属元素の濃度に比例した強度で演算装置8に出力し、また、ガス生成装置10により生成されたガスに含まれる金属元素の検出信号を、その金属元素の濃度に比例した強度で演算装置8に出力する。演算装置8は、分析装置7から送られる金属元素の検出信号の単位時間当たり強度を例えば単位時間当たりカウント数(cps)として求め、また、積算強度を測定時間内の合計カウント数(c)として求める。さらに演算装置8は、分析装置7から出力される試料ガス中の測定対象金属元素の検出信号の強度に基づき、記憶した検量線を表す演算式を用い、試料ガスにおける測定対象金属元素の濃度を求める。
【0033】
測定システムは、試料ガスとガス生成装置により生成されるガスを分析装置7に導入できれば、その構成は限定されない。例えば、図2に示す変形例に係る測定システムα′は、実施形態に係る測定システムαのダイヤフラムポンプ4に代えてガス置換装置5の下流に配置されるアスピレータ15を有し、アスピレータ15によって試料ガスあるいは清浄ガスを吸引し、それ以外は上記実施形態の測定システムαと同一の構成を有する。なお、ガスを分析装置7に導入する手段はダイヤフラムポンプ4やアスピレータ15に限定されない。
【0034】
図1、図3を参照して本発明の第1実施形態に係る気体中金属元素の測定方法および測定用演算式決定方法を説明する。
図3(1)に示すように、測定対象金属元素Mを既知濃度dM で溶解させた標準溶液LM を準備する。ガス生成装置10によって、その標準溶液LM から生成された微粒子がアルゴンガス中に分散されている標準試料ガスGM を生成する。この際、第1切り替えバルブ3により清浄ガス供給源2を分析装置7に接続し、第2切り替えバルブ12によりガス生成装置10を分析装置7に接続する。これにより、分析装置7に標準試料ガスGM を一定体積流量qで導入することで、測定対象金属元素Mの検出信号の単位時間当たり強度cM を測定する。
【0035】
図3(2)に示すように、指標用金属元素Sを既知濃度dS で溶解させた指標溶液LS を準備する。ガス生成装置10によって、その指標溶液LS から生成された微粒子がアルゴンガス中に分散されている指標ガスGS を生成する。この際、第1切り替えバルブ3により清浄ガス供給源2を分析装置7に接続し、第2切り替えバルブ12によりガス生成装置10をフィルタ13に接続する。これにより、指標ガスGS を上記一定体積流量qで設定時間tだけフィルタ13に導入して通過させることで、指標ガスGS に含まれる指標用金属元素Sをフィルタ13により捕集する。指標溶液LS における指標用金属元素Sの既知濃度dS は、標準溶液LM における測定対象金属元素Mの既知濃度dM を超える値とされるのが好ましく、既知濃度dS が既知濃度dM の10〜1000倍であるのがより好ましく、本実施形態では100倍とされる。指標用金属元素Sは測定対象金属元素と異なるものであればよいが、一般の環境に殆ど存在しないものを選択することで濃度測定精度が低下するのを防止できる。
【0036】
図3(3)に示すように、上記指標用金属元素Sを既知濃度δS で溶解させた標準指標溶液λS を準備する。標準指標溶液λS における指標用金属元素Sの既知濃度δS は、指標溶液LS における指標用金属元素Sの既知濃度dS よりも低くされ、その既知濃度dS は既知濃度δS の10〜1000倍であるのが好ましく、本実施形態では100倍とされる。標準指標溶液λS における指標用金属元素Sの既知濃度δS と測定対象金属元素Mの既知濃度dM との差は小さくするのが好ましい。ガス生成装置10によって、その標準指標溶液λS から生成された微粒子がアルゴンガス中に分散されている標準指標ガスγS を生成する。この際、第1切り替えバルブ3により清浄ガス供給源2を分析装置7に接続し、第2切り替えバルブ12によりガス生成装置10を分析装置7に接続する。これにより、分析装置7に標準指標ガスγS を上記一定体積流量qで導入することで、標準指標ガスγS 中の指標用金属元素Sの検出信号の単位時間当たり強度eS を測定する。
【0037】
図3(4)に示すように、フィルタ13により捕集された指標用金属元素Sを設定容量vの溶媒中に溶解させることで捕集溶液LS ′を生成する。本実施形態ではフィルタ13としてシリンジフィルタを用いることで、シリンジ20により溶媒をフィルタ13に注入し、これによりシリンジフィルター13を通過する液体を捕集溶液LS ′とする。ガス生成装置10によって、捕集溶液LS ′から生成された微粒子がアルゴンガス中に分散されている捕集ガスGS ′を生成する。この際、第1切り替えバルブ3により清浄ガス供給源2を分析装置7に接続し、第2切り替えバルブ12によりガス生成装置10を分析装置7に接続する。これにより、分析装置7に捕集ガスGS ′を上記一定体積流量qで導入することで、指標用金属元素Sの単位時間当たり検出信号強度fS を測定する。なお、捕集溶液LS ′の溶媒は捕集された金属元素を溶解させるものであればよく、例えば酸性液が用いられる。
【0038】
上記の測定された検出信号強度cM 、eS 、fS 、既知濃度dM 、dS 、δS 、設定時間t、および設定容量vを、上記関係式(4)に代入することで、前記導入時間x、前記導入体積流量y、および前記検出信号積算強度zM から、試料ガスにおける測定対象金属元素Mの濃度WM を算出するための検量線を表す演算式を得る。この関係式(4)に対応する演算式を演算装置8に記憶させる。
【0039】
試料ガス中の測定対象金属元素Mの濃度を求める際は、第1切り替えバルブ3により試料ガス供給源1を分析装置7に接続することで、図3(5)に示すように、試料ガスGを分析装置7に導入する。これにより、測定対象金属元素Mの検出信号の積算強度zM が測定される。この際、分析装置7へ試料ガスGを導入する際の導入時間xと導入体積流量yは、予め設定した値として演算装置8に記憶させてもよいし、キーボード等の入力装置(図示省略)から演算装置8に入力することで記憶させてもよい。演算装置8は、その積算強度zM 、導入時間x、導入体積流量yを、関係式(4)に対応する記憶した演算式に代入し、試料ガスGにおける測定対象金属元素Mの濃度WM を算出できる。演算装置8は、ディスプレイ、プリンター、通信機器等の出力機器を有し、算出した濃度WM を出力する。なお、試料ガスGを分析装置7に導入する際、本実施形態ではガス生成装置10を測定に影響する元素を含まないブランク溶液に接続し、第2切り替えバルブ12によりガス生成装置10を分析装置7に接続する。
【0040】
上記構成によれば、試料ガスGにおける測定対象金属元素Mの濃度WM を求めことができる。その際、指標ガスGS における指標用金属元素Sをフィルタ13に通気して捕集することで捕集効率を高めることができ、これにより、捕集時間を短縮できると共に捕集量の変動を防止して測定精度を高めることができる。
【0041】
また、上記構成によれば、標準試料ガスGM 中の測定対象金属元素Mの濃度ではなく、指標ガスGS 中の指標用金属元素Sの濃度に基づき、測定対象金属元素Mの濃度WM を求めるための検量線を表す関係式を求めることができる。これにより、測定対象金属元素Mの既知濃度dM よりも指標用金属元素Sの既知濃度dS を高くすることで、指標用金属元素Sをフィルタ13により捕集するのに要する時間を短縮でき、また、指標用金属元素Sとして大気中における含有率が少ないものを選択することで、周囲環境の影響により濃度測定精度が低下するのを防止できる。例えば、測定対象金属元素Mが溶解された標準溶液LM を0.5ml/分の流量でネブライザーに導入し、噴霧効率5%で噴霧することで標準試料ガスGM を生成し、その標準試料ガスGM をフィルタ13に導入することで測定対象金属元素Mを捕集し、捕集された測定対象金属元素Mを25mlの溶媒で溶解させて捕集溶液を生成したとする。この場合、捕集溶液における測定対象金属元素Mの濃度を元の標準溶液LM における測定対象金属元素Mの濃度と等しくするには、測定対象金属元素Mのフィルタ13による捕集時間として1000分を要する。その測定対象金属元素Mに代えて指標用金属元素Sを溶解した指標溶液LS を用い、その指標溶液LS における指標用金属元素Sの濃度を標準溶液LM の測定対象金属元素Mの100倍とすれば、その捕集時間は10分で足りる。さらに、その捕集用のフィルタ13としてシリンジフィルタを採用することにより、捕集面積(容積)が小さくなるので、捕集溶液LS ′を生成するための溶媒量を例えば5ml程度まで低減でき、その捕集時間は2分で足りる。さらに、標準指標溶液λS における指標用金属元素Sの既知濃度δS は、指標溶液LS における指標用金属元素Sの既知濃度dS よりも低いので、上記のように濃度測定精度を向上できる。
【0042】
さらに、上記のようなガス置換装置5を用い、試料ガスGとしてエアロゾルが分散された環境大気を分析装置7に導入する前に、その環境大気を分析に影響しないアルゴンガス等の不活性ガスと置換することで、環境大気中のエアロゾルのような濃度が刻々と変化する微粒子中金属元素の濃度を、分析装置7の設定条件を変えることなく、簡単かつ迅速に高い時間分解能でリアルタイムモニタリングでき、また、組成が異なる様々な気体中の殆ど全ての金属元素の濃度を求めることもできる。すなわち、大気環境中エアロゾルのモニタリング、ナノ粒子管理や、クリールームの清浄度管理による半導体材料ガス等の品質管理に有益なシステムの構築、放射性核種の測定等に貢献できる。
【0043】
図1、図4を参照して本発明の第2実施形態に係る気体中金属元素の測定方法および測定用演算式決定方法を説明する。
第2実施形態における第1実施形態との相違は、図4(1)に示すように、測定対象金属元素Mが既知濃度dM で、指標用金属元素Sが既知濃度dS で、それぞれ溶解された標準溶液と指標溶液とを兼ねる溶液LMSを準備する。ガス生成装置10によって、その溶液LMSから生成された微粒子をガス中に分散させることで、標準試料ガスと指標ガスとを兼ねるガスGMSを生成している。すなわち、ガスGMSは標準試料ガスでもあり指標ガスでもある。この際、第1切り替えバルブ3により清浄ガス供給源2を分析装置7に接続し、第2切り替えバルブ12によりガス生成装置10を分析装置7に接続する。これにより、分析装置7に標準試料ガスGMSを一定体積流量qで導入することで、測定対象金属元素Mの検出信号の単位時間当たり強度cM を測定する。また、第2切り替えバルブ12によりガス生成装置10をフィルタ13に接続し、指標ガスGMSを上記一定体積流量qで設定時間tだけフィルタ13に導入して通過させることで、指標用金属元素Sをフィルタ13により捕集する。
【0044】
図4(3)に示すように、捕集された指標用金属元素Sを設定容量vの溶媒中に溶解させることで捕集溶液LMS′を生成する。ガス生成装置10によって、捕集溶液LMS′から生成された微粒子がアルゴンガス中に分散されている捕集ガスGMS′を生成する。分析装置7に捕集ガスGMS′を上記一定体積流量qで導入することで、指標用金属元素Sの単位時間当たり検出信号強度fS を測定する。
【0045】
他は第1実施形態と同様で、図4(2)に示すように既知濃度δS の標準指標溶液λS からの標準指標ガスγS の生成と、標準指標ガスγS における指標用金属元素Sの検出信号の単位時間当たり強度eS の測定を行う。また、上記関係式(4)に対応する演算式を演算装置8に記憶させ、図4(4)に示すように試料ガスGを分析装置7に導入時間x、導入体積流量yで導入し、測定対象金属元素Mの検出信号の積算強度zM を測定する。第1実施形態と同様に、演算装置8は、積算強度zM 、導入時間x、導入体積流量yを、関係式(4)に対応する記憶した演算式に代入し、試料ガスGにおける測定対象金属元素Mの濃度WM を算出できる。
【0046】
図1、図5を参照して本発明の第3実施形態に係る気体中金属元素の測定方法および測定用演算式決定方法を説明する。
第3実施形態においては、測定対象金属元素Mとも指標用金属元素Sとも異なる補償用金属元素Nを一定濃度で含む補償ガスを、ガス生成装置10により生成し、分析装置7へ標準試料ガスGMNを導入する時と試料ガスGを導入する時に同時に導入する。
分析装置7へ標準試料ガスGMNを導入する時は、図5(1)に示すように、測定対象金属元素Mを既知濃度dM で、補償用金属元素Nを既知濃度dN で、それぞれ溶解させた標準溶液と補償溶液とを兼ねる溶液LMNを準備する。ガス生成装置10によって、その溶液LMNから生成された微粒子をガス中に分散させることで、標準試料ガスと補償ガスとを兼ねるガスGMNを生成している。この際、第1切り替えバルブ3により清浄ガス供給源2を分析装置7に接続し、第2切り替えバルブ12によりガス生成装置10を分析装置7に接続する。これにより、分析装置7に標準試料ガスと補償ガスとを兼ねるガスGMNを一定体積流量qで導入することで、標準試料ガスと補償ガスとが同時に分析装置7へ導入されることになる。これにより、測定対象金属元素Mの検出信号の単位時間当たり強度cM を測定すると共に、補償用金属元素Nの検出信号の単位時間当たり強度cN を測定する。補償用金属元素Nは測定対象金属元素と異なるものであればよいが、測定条件のふらつきによって生ずる検出信号の変化が測定対象金属元素Mと似通うものを選択するのが好ましく、そのような検出信号の変化が似通うか否かは実験により確認すればよい。さらに、一般の環境に殆ど存在しない元素を選択することで濃度測定精度が低下するのを防止できる。
【0047】
図5(2)〜図5(4)に示すように、既知濃度dS の指標溶液LS からの指標ガスGS の生成、指標用金属元素Sの捕集、既知濃度δS の標準指標溶液λS からの標準指標ガスγS の生成、標準指標ガスγS における指標用金属元素Sの検出信号の単位時間当たり強度eS の測定、捕集ガスGS ′の生成、捕集ガスGS ′における指標用金属元素Sの単位時間当たり検出信号強度fS の測定を行う点は第1実施形態と同様である。
【0048】
第1実施形態と同様に、上記の測定された検出信号強度cM 、eS 、fS 、既知濃度dM 、dS 、δS 、設定時間t、および設定容量vを、上記関係式(4)に代入することで、試料ガスにおける測定対象金属元素Mの濃度WM を算出するための検量線を表す演算式を得る。この関係式(4)に対応する演算式を演算装置8に記憶させる。
【0049】
図5(5)に示すように、本実施形態においては、試料ガスG中の測定対象金属元素Mの濃度を求める際に、ガス生成装置10により、補償用金属元素Nが既知濃度dN で溶解された補償溶液LN から補償ガスGN を生成する。第1切り替えバルブ3により試料ガス供給源1を分析装置7に接続することで、試料ガスGを分析装置7に導入し、同時に、第2切り替えバルブ12によりガス生成装置10を分析装置7に接続することで、補償ガスGN を分析装置7へ導入する。分析装置7に試料ガスGと補償ガスGN が導入されることで、試料ガスG中の測定対象金属元素Mの検出信号の積算強度zM と、補償ガスGN 中の補償用金属元素Nの検出信号の単位時間当たり強度cN ′が測定される。なお、補償ガスGN を溶液LN から生成することなく、予め充填したガスボンベ等の容器から流量制御弁等の流量制御手段を介して分析装置7に導入してもよい。
【0050】
標準試料ガスGMNと同時に導入される時の補償用金属元素Nの分析装置7への単位時間当たり導入量と、試料ガスGと同時に導入される時の補償用金属元素Nの分析装置7への単位時間当たり導入量とが互いに等しく一定となるように、分析装置7への補償ガスGMN、GN の導入体積流量が設定されている。本実施形態では、標準溶液と補償溶液とを兼ねる溶液LMNにおける補償用金属元素Nの既知濃度dN と、溶液LN における補償用金属元素Nの既知濃度dN が互いに等しくされている。よって、試料ガスGと同時に分析装置7へ導入される補償ガスGN の導入体積流量は、標準試料ガスGMNと同時に分析装置7へ導入される時の補償ガスGMNの導入体積流量と等しく一定体積流量qとされる。
【0051】
標準試料ガスGMNと同時に分析装置7に導入された補償用金属元素Nの単位時間当たり検出信号強度cN を、上記関係式(5)に代入することで、前記検出信号積算強度zM および前記検出信号強度cN ′から補正積算強度zM ′を算出するための演算式を得る。この関係式(5)に対応する演算式を演算装置8に記憶させる。演算装置8は、試料ガスGと同時に分析装置7へ導入される補償用金属元素Nの単位時間当たり検出信号強度cN ′と、測定対象金属元素Mの検出信号の積算強度zM を関係式(5)に対応する記憶した演算式に代入し、補正積算強度zM ′を算出する。試料ガスGにおける測定対象金属元素Mの濃度WM を算出するための関係式(4)に対応する記憶した演算式において、その算出された補正積算強度zM ′を積算強度zM に代えて用いる。すなわち、試料ガスGの分析装置7への導入時間x、導入体積流量yを、関係式(4)に対応する記憶した演算式に代入し、また、積算強度zM に代えて算出された補正積算強度zM ′を関係式(4)に対応する記憶した演算式に代入することで、演算装置8は試料ガスGにおける測定対象金属元素Mの濃度WM を算出する。
【0052】
上記第3実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、関係式(5)を用いて求めた補正積算強度zM ′を積算強度zN に代えて用いることで、測定対象金属元素Mの濃度WM を連続的に測定する場合、時間経過に伴って分析装置7から出力される測定対象金属元素Mの検出信号の積算強度zM が外乱等により実際の値から変動しても、その変動は相殺される。これにより、測定対象金属元素Mの濃度を長時間に渡って連続的に測定する場合に、分析装置7の出力が外乱等の影響により変動しても精度良く測定できる。なお、第3実施形態では測定対象金属元素Mと補償用金属元素Nとが溶解された溶液LMNから標準試料ガスと補償ガスとを兼ねるガスGMNを生成したが、測定対象金属元素Mのみが溶解された溶液から生成されたガスと、補償用金属元素Nのみが溶解された溶液から生成されたガスとを混合することで、標準試料ガスと補償ガスとを兼ねるガスGMNを生成してもよい。
【0053】
図1、図6を参照して本発明の第4実施形態に係る気体中金属元素の測定方法および測定用演算式決定方法を説明する。
第4実施形態における第3実施形態との相違は、分析装置7へ標準試料ガスGMNS を導入する時に、図6(1)に示すように、測定対象金属元素Mが既知濃度dM で、補償用金属元素Nが既知濃度dN で、指標用金属元素Sが既知濃度dS で、それぞれ溶解された標準溶液と指標溶液と補償溶液とを兼ねる溶液LMNS を準備する。ガス生成装置10によって、その溶液LMNS から生成された微粒子をガス中に分散させることで、標準試料ガスと指標ガスと補償ガスとを兼ねるガスGMNS を生成している。この際、第1切り替えバルブ3により清浄ガス供給源2を分析装置7に接続し、第2切り替えバルブ12によりガス生成装置10を分析装置7に接続する。これにより、分析装置7に標準試料ガスと指標ガスと補償ガスとを兼ねるガスGMNS を一定体積流量qで導入することで、標準試料ガスと補償ガスとが同時に分析装置7へ導入されることになる。これにより、測定対象金属元素Mの検出信号の単位時間当たり強度cM を測定すると共に、補償用金属元素Nの検出信号の単位時間当たり強度cN を測定する。また、第2切り替えバルブ12によりガス生成装置10をフィルタ13に接続し、指標ガスGMNS を上記一定体積流量qで設定時間tだけフィルタ13に導入して通過させることで、指標用金属元素Sをフィルタ13により捕集する。
【0054】
図6(3)に示すように、捕集された指標用金属元素Sを設定容量vの溶媒中に溶解させることで捕集溶液LMNS ′を生成する。ガス生成装置10によって、捕集溶液LMNS ′から生成された微粒子がアルゴンガス中に分散されている捕集ガスGMNS ′を生成する。分析装置7に捕集ガスGMNS ′を上記一定体積流量qで導入することで、指標用金属元素Sの単位時間当たり検出信号強度fS を測定する。
【0055】
他は第3実施形態と同様で、図6(2)に示すように、既知濃度δS の標準指標溶液λS からの標準指標ガスγS の生成、及び、標準指標ガスγS における指標用金属元素Sの検出信号の単位時間当たり強度eS の測定を行う。また、上記関係式(4)、(5)に対応する演算式を演算装置8に記憶させ、図6(4)に示すように試料ガスGを分析装置7に導入し、同時に、補償ガスGN を分析装置7へ導入する。試料ガスGを分析装置7に導入時間x、導入体積流量yで導入し、測定対象金属元素Mの検出信号の積算強度zM と補償用金属元素Nの検出信号の単位時間当たり強度cN ′を測定する。演算装置8は、補償用金属元素Nの単位時間当たり検出信号強度cN ′と、測定対象金属元素Mの検出信号の積算強度zM を、関係式(5)に対応する記憶した演算式に代入し、補正積算強度zM ′を算出し、また、補正積算強度zM ′、導入時間x、導入体積流量yを、関係式(4)に対応する記憶した演算式に代入し、試料ガスGにおける測定対象金属元素Mの濃度WM を算出する。なお、第4実施形態では測定対象金属元素Mと指標用金属元素Sと補償用金属元素Nとが溶解された溶液LMNS から標準試料ガスと指標ガスと補償ガスとを兼ねるガスGMNを生成したが、測定対象金属元素Mと指標用金属元素Sのみが溶解された溶液から生成されたガスと、補償用金属元素Nのみが溶解された溶液から生成されたガスとを混合することで、標準試料ガスと指標ガスと補償ガスとを兼ねるガスGMNを生成してもよい。
【0056】
第3、第4実施形態において、溶液LN における補償用金属元素Nの既知濃度を、溶液LMN、LMNS における補償用金属元素Nの既知濃度dN と異なるものとしてもよい。例えば、溶液LN における補償用金属元素Nの既知濃度を、溶液LMN、LMNS における既知濃度dN の2倍とする場合、試料ガスGと同時に分析装置7へ導入される補償ガスGN の導入体積流量を、一定体積流量qの1/2とすればよい。要は、補償用金属元素Nの分析装置7への単位時間当たり導入量が、標準試料ガスと同時に導入される時と試料ガスと同時に導入される時とで互いに等しく一定であればよい。
【0057】
図7は、本発明の実施形態に係る移動体30を備えた測定システムβを示す。測定システムβは、関係式(4)に対応する上記演算式および関係式(5)に対応する上記演算式を用い、試料ガスGにおける測定対象金属元素Mの濃度を求めるために用いられる。
【0058】
移動体30は、ドライバーにより運転される陸上走行車両であり、トレーラー30aを有する。トレーラー30aに、吸引手段31、ガス置換装置5、ガス供給源6、分析装置7、演算装置8、補償ガス導入手段32、流量設定手段33、及び流量制御器34が搭載されている。
【0059】
吸引手段31は、ポンプやアスピレータ等のガス吸引装置31aと、ガス吸引装置31aの吸引側に配管を介して接続される吸引ノズル31bを有する。ガス吸引装置31aにより、試料ガスGとして移動体30の周囲雰囲気である大気が、吸引ノズル31bを介して吸引される。吸引された試料ガス(G)が分析装置(7)に導入されるように、吸引手段(31)は分析装置(7)にガス置換装置5を介して接続される。吸引ノズル31bにインパクタ等の分級装置を取り付けてもよい。
【0060】
ガス置換装置5は、ガス吸引装置31aの吐出側と分析装置7に配管接続され、上記実施形態と同様に、試料ガスGにおける分散媒である空気を、ガス供給源6から供給されるアルゴンガス等の不活性ガスと置換する。なお、ガス置換装置5は備えていなくてもよい。
【0061】
補償ガス導入手段32は、分析装置7へ試料ガスGを導入する際に、同時に、補償ガスGN を分析装置7へ導入するために用いられる。補償ガス導入手段32は、例えば、上記のようなガス生成装置10と、補償用金属元素Nが既知濃度dN で溶解された補償溶液LN のタンクとを有し、ガス生成装置10によりタンク内の補償溶液LN から補償ガスGN を生成すると共に、生成された補償ガスGN を分析装置7へ導入するものにより構成できる。
【0062】
流量設定手段33は、補償用金属元素Nの分析装置7への単位時間当たり導入量が、上記演算式を求めるために標準試料ガスGMN、GMNS と同時に導入される時と、本システムβにおいて試料ガスGと同時に導入される時とで互いに等しく一定となるように、分析装置7への補償ガスGN の導入体積流量を設定する。本実施形態の流量設定手段33は、補償ガス導入手段32と分析装置7とを接続する配管に設けられる流量制御器により構成されている。例えば、上記演算式を第3実施形態に係る測定用演算式決定方法により求める場合、演算式を求める際に用いる溶液LMNにおける補償用金属元素Nの既知濃度dN と、補償ガス導入手段32が有するタンク内の溶液LN における補償用金属元素Nの既知濃度dN を互いに等しくする。その上で、試料ガスGと同時に分析装置7へ導入される補償ガスGN の導入体積流量を、流量設定手段33により制御することで、標準試料ガスGMNと同時に分析装置7へ導入される時の補償ガスGMNの導入体積流量と等しい一定体積流量qとする。
【0063】
分析装置7として、例えば高周波誘導結合プラズマ質量分析装置や高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置が用いられる。分析装置7が演算装置8に接続されることにより、分析装置7に導入される試料ガスGに含まれる測定対象金属元素Mの濃度に比例した強度の検出信号と、導入される補償ガスGN に含まれる補償用金属元素Nの濃度に比例した強度の検出信号とが、演算装置8に入力される。演算装置8は、測定対象金属元素Mの検出信号から積算強度zM を演算し、補償用金属元素Nの検出信号から検出信号強度cN ′を演算する。
【0064】
演算装置8は、関係式(4)に対応する演算式および関係式(5)に対応する演算式を記憶し、また、上記導入時間xおよび上記導入体積流量yを記憶する。本実施形態においては、分析装置7への試料ガスGの導入体積流量yは、流量制御器34により設定可能とされている。分析装置7への試料ガスGの導入時間xは、例えば演算装置8が有するタイマーにより測定され、キーボード等から入力される導入開始信号と導入終了信号により演算装置8に記憶されてもよい。あるいは、ガス吸引装置31aによる試料ガスGの一回の吸引時間が一定とされることで導入時間xが予め定められた一定値とされ、演算装置8に予め記憶されてもよい。流量制御器34から出力される導入体積流量yに対応する信号が演算装置8に入力されることで、演算装置8に導入体積流量yが記憶されてもよい。あるいは、導入体積流量yが予め定められた一定値とされ、演算装置8に予め記憶されてもよい。なお、吸引手段31が導入体積流量yを設定する機能を有していてもよく、その場合は流量制御器34は不要である。
【0065】
演算装置8は、検出信号強度cN ′と、測定対象金属元素Mの検出信号の積算強度zM を、関係式(5)に対応する演算式に代入することで、補正積算強度zM ′を算出する。さらに演算装置8は、関係式(4)に対応する演算式に、導入時間xと導入体積流量yを代入すると共に、積算強度zM に代えて算出された補正積算強度zM ′を代入することで、試料ガスGにおける測定対象金属元素Mの濃度WM を算出する。演算装置8は、ディスプレイ、プリンター、通信機器等の出力機器を有し、算出した濃度WM を出力する。
【0066】
上記測定システムβによれば、測定位置まで移動体30を移動させた後に、移動体30の周囲雰囲気を吸引手段31により試料ガスGとして吸引して分析装置7に導入し、演算装置8により測定対象金属元素Mの濃度WM を算出することができる。よって、刻々と変化する環境における金属元素濃度をモニタリングするような場合に、測定位置における気体試料を刻々とサンプリングして分析することができる。
【0067】
図8は、本発明の異なる実施形態に係る移動体30′を備えた測定システムβ′を示し、上記実施形態と同様部分は同一符号で示す。上記実施形態の測定システムβとの相違点として、まず、移動体30′が無人走行車両とされている。移動体30′は自律的に走行するものでもよいし、人により遠隔操作されることで走行するものでもよい。また、本実施形態における吸引手段31は、吸引ノズル31bをガス吸引装置31aの吸引側に接続するための配管として可撓性配管31cを有する。さらに本実施形態においては、移動体30には吸引ノズル31bのみが搭載され、ガス吸引装置31a、ガス置換装置5、ガス供給源6、分析装置7、演算装置8、補償ガス導入手段32、流量設定手段33、及び流量制御器34は、移動体30には搭載されず、例えば定置されたり上記のようなトレーラー30a等に搭載される。他は上記実施形態の測定システムβと同様とされる。
【0068】
本実施形態の測定システムβ′によれば、上記実施形態の測定システムβと同様の作用効果を奏することができる。さらに、移動体30′は吸引ノズル31aのみ搭載すれば足りるので、移動体30′として小型のものを用いることができる。これにより、測定位置が狭い環境にあっても移動体30′を移動させ、試料ガスGをサンプリングすることができる。さらに、移動体30′が無人走行することで、人が接近困難な劣悪な環境における大気を試料ガスGとしてサンプリングするのに適する。
【0069】
測定システムβ、β′において、測定対象金属元素Mの濃度を、関係式(5)に対応する演算式を用いることなく、関係式(4)に対応する演算式のみを用いて求めてもよい。この場合、補償ガス導入手段32と流量設定手段33は不要であり、測定システムβ、β′は移動体30、30′、吸引手段31、31′、分析装置7、および演算装置8を備えていれば足りる。また、演算装置8は、関係式(4)に対応する演算式を記憶していれば関係式(5)に対応する演算式を記憶する必要はない。演算装置8は、積算強度zM 、導入時間x、導入体積流量yを、関係式(4)に対応する記憶した演算式に代入し、試料ガスGにおける測定対象金属元素Mの濃度WM を算出する。他は測定システムβ、β′と同様とすればよい。
【0070】
測定システムβ、β′における移動体30、30′は、陸上走行車両に限定されず、例えば船舶、飛行体、歩行ロボット等であってもよい。
【0071】
測定システムβ′において、移動体30′に吸引ノズル31b以外のガス吸引装置31a、ガス置換装置5、ガス供給源6、分析装置7、演算装置8、補償ガス導入手段32、及び流量設定手段33の中の何れか又は全てが搭載されてもよい。すなわち、移動体30′に少なくとも吸引ノズル31bが搭載されていればよい。
【0072】
フィルターによるガス中金属元素の捕集効率を、インピンジャーによるガス中金属元素の捕集効率と比較する実験を行った。
すなわち、カドミウム(Cd)が濃度35(ng/ml)で溶解された溶液から実施形態と同様のガス生成装置によって、ガス中に微粒子が分散する標準試料ガスを生成した。その標準試料ガスを、直列に配置した2本のインピンジャーに60分間通過させた。これにより、各インピンジャー内の硝酸溶液(25ml)にカドミウムを溶解させることで捕集溶液を生成した。各インピンジャー内の捕集溶液からガス生成装置10によって生成した捕集ガスを、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置に導入してカドミウムの検出信号強度を測定した。さらに、インピンジャーの下流にフィルタを配置し、インピンジャーを通過した標準試料ガスを通過させ、フィルタを通過した標準試料ガスを高周波誘導結合プラズマ質量分析装置に導入してカドミウムの検出信号強度を測定し、カドミウムが実質的に検出されないことを確認した。
分析装置へのガス導入体積流量が300ml/minでは、上流のインピンジャーによるカドミウムの回収率は5.4%、下流のインピンジャーによるカドミウムの回収率は5.1%、フィルタによるカドミウムの回収率は89.5%であった。分析装置へのガス導入体積流量が1000ml/minでは、上流のインピンジャーによるカドミウムの回収率は4.8%、下流のインピンジャーによるカドミウムの回収率は4.6%、フィルタによるカドミウムの回収率は90.6%であった。
また、標準試料ガスにおける粒子径を大きくするため、インピンジャー内の溶液に100ppmのアンモニア水を添加したところ、分析装置へのガス導入体積流量が300ml/minでは、上流のインピンジャーによるカドミウムの回収率は26.3%、下流のインピンジャーによるカドミウムの回収率は20.3%、フィルタによるカドミウムの回収率は53.4%であり、分析装置へのガス導入体積流量が1000ml/minでは、上流のインピンジャーによるカドミウムの回収率は40.0%、下流のインピンジャーによるカドミウムの回収率は23.6%、フィルタによるカドミウムの回収率は36.4%であった。
よって、インピンジャーではガス中の金属元素を完全に捕集することは困難であり、インピンジャーを用いると捕集に長時間を要することが確認された。
【0073】
また、ガス中の2種類の金属元素をシリンジフィルタにより捕集する実験を行った。
(実験1)
カドミウム(Cd)が既知濃度50.0(ng/ml)で、インジウム(In)が既知濃度50.0(ng/ml)で、それぞれ溶解された標準溶液から実施形態と同様のガス生成装置によって、ガス中に微粒子が分散する標準試料ガスを生成した。その標準試料ガスを、一定体積流量で高周波誘導結合プラズマ質量分析装置に導入し、カドミウムの検出信号強度とインジウムの検出信号強度を測定した。
また、その標準試料ガスを直列に配置した2つのシリンジフィルタに2分間通過させ、カドミウムとインジウムを捕集した。各シリンジフィルタそれぞれにシリンジによって5mlの硝酸溶液を注入し、捕集された金属元素が硝酸溶液に溶解された捕集溶液を生成した。この捕集溶液の1回目の生成後に、同じシリンジフィルタに再びシリンジにより5mlの硝酸溶液を注入し、捕集溶液を生成した。さらに、この捕集溶液の2回目の生成後に、同じシリンジフィルタに再びシリンジにより5mlの硝酸溶液を注入し、捕集溶液を生成した。
生成された捕集溶液からガス生成装置10によって生成した捕集ガスを、上記一定体積流量で高周波誘導結合プラズマ質量分析装置に導入し、カドミウムの検出信号強度とインジウムの検出信号強度を測定した。
カドミウムとインジウムの各既知濃度と測定した各検出信号強度から、各捕集溶液におけるカドミウムとインジウムそれぞれの濃度を算出した。
その結果、上流のシリンジフィルタにおいて、1回目に生成された捕集溶液のカドミウム濃度は0.147(ng/ml)、インジウム濃度は0.146(ng/ml)、2回目に生成された捕集溶液のカドミウム濃度は0.001(ng/ml)、インジウム濃度は0.001(ng/ml)、3回目に生成された捕集溶液のカドミウム濃度は0.000(ng/ml)、インジウム濃度は0.000(ng/ml)であった。また、下流のシリンジフィルタにおいて、1回目に生成された捕集溶液のカドミウム濃度は0.001(ng/ml)、インジウム濃度は0.001(ng/ml)、2回目に生成された捕集溶液のカドミウム濃度は0.000(ng/ml)、インジウム濃度は0.000(ng/ml)、3回目に生成された捕集溶液のカドミウム濃度は0.000(ng/ml)、インジウム濃度は0.000(ng/ml)であった。
すなわち、上流のシリンジフィルタにより捕集されて1回目に生成された捕集溶液に含まれるカドミウムとインジウムが、捕集されたカドミウムとインジウムの略全てであり、また、カドミウムとインジウムの比は標準溶液と捕集溶液とで実質的に相等しいことが確認された。
【0074】
(実験2)
標準溶液におけるカドミウムの既知濃度を5.0(ng/ml)にした以外は実験1と同様の実験をおこなった。
その結果、上流のシリンジフィルタにおいて、1回目に生成された捕集溶液のカドミウム濃度は0.0146(ng/ml)、インジウム濃度は0.147(ng/ml)、2回目に生成された捕集溶液のカドミウム濃度は0.0002(ng/ml)、インジウム濃度は0.001(ng/ml)、3回目に生成された捕集溶液のカドミウム濃度は0.000(ng/ml)、インジウム濃度は0.000(ng/ml)であった。また、下流のシリンジフィルタにおいて、1回目に生成された捕集溶液のカドミウム濃度は0.0002(ng/ml)、インジウム濃度は0.001(ng/ml)、2回目に生成された捕集溶液のカドミウム濃度は0.000(ng/ml)、インジウム濃度は0.000(ng/ml)、3回目に生成された捕集溶液のカドミウム濃度は0.000(ng/ml)、インジウム濃度は0.000(ng/ml)であった。
すなわち、上流のシリンジフィルタにより捕集されて1回目に生成された捕集溶液に含まれるカドミウムとインジウムが、捕集されたカドミウムとインジウムの略全てであり、また、カドミウムとインジウムの比は標準溶液と捕集溶液とで実質的に相等しいことが確認された。
【0075】
本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、標準試料ガスを生成するための溶液に同時に複数種類の測定対象金属元素を、それぞれ既知濃度で溶解させ、分析装置により測定対象金属元素それぞれの検出信号の単位時間当たり強度を測定することで、試料ガスにおける複数種類の測定対象金属元素それぞれの濃度を算出するための関係式を求めてもよい。この場合、第1実施形態においては、測定対象元素が例えば数十種類に及ぶ場合においても、一つの指標用金属元素の濃度を測定するだけで良いので、操作が極めて簡便になる。これにより、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置や高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置等の特徴である多元素同時分析を、極めて迅速かつ簡単に実現することができる。また、第3、第4実施形態において、分析装置への補償ガス(GN )の導入体積流量を試料ガス(G)の導入体積流量yとは異なる値y′としてもよい。
【符号の説明】
【0076】
α、α′…測定システム、7…分析装置、10…ガス生成装置、12…切り替えバルブ、13…フィルタ、30、30′…移動体、31…吸引手段、31a…ガス吸引装置、31b…吸引ノズル、31c…可撓性配管、32…補償ガス導入手段、33…流量設定手段、G…試料ガス、GM 、GMS、GMN、GMNS …標準試料ガス、GS 、GMS、GMNS …指標ガス、GS ′、GMS′、GMNS ′、GM ′、GMN′…捕集ガス、GN …補償ガス、LM 、LMN…標準溶液、LS …指標溶液、LMS、LMNS …標準溶液兼指標溶液、LS ′、LMS′、LMNS ′、LM ′、LMN′…捕集溶液、M…測定対象金属元素、S…指標用金属元素、N…補償用金属元素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガス(G)中の測定対象金属元素(M)を検出する分析装置(7)から出力される検出信号の強度に基づき、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度を求める方法であって、
前記測定対象金属元素(M)が既知濃度で溶解された標準溶液(LM 、LMS、LMN、LMNS )から生成された微粒子が、ガス中に分散されている標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )を生成する工程と、
前記測定対象金属元素(M)とは異なる指標用金属元素(S)が既知濃度で溶解された指標溶液(LS 、LMS、LMNS )から生成された微粒子が、ガス中に分散されている指標ガス(GS 、GMS、GMNS )を生成する工程と、
前記指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における既知濃度よりも低い既知濃度で前記指標用金属元素(S)が溶解された標準指標溶液(λS )から生成された微粒子が、ガス中に分散されている標準指標ガス(γS )を生成する工程と、
前記分析装置(7)に前記標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )を一定体積流量で導入することで、前記測定対象金属元素(M)の検出信号の単位時間当たり強度を測定する工程と、
前記分析装置(7)に前記標準指標ガス(γS )を前記一定体積流量で導入することで、前記指標用金属元素(S)の検出信号の単位時間当たり強度を測定する工程と、
前記指標ガス(GS 、GMS、GMNS )を前記一定体積流量で設定時間だけフィルタ(13)に導入して通過させることで、前記指標用金属元素(S)を前記フィルタ(13)により捕集する工程と、
捕集された前記指標用金属元素(S)を設定容量の溶媒中に溶解させることで捕集溶液(LS ′、LMS′、LMNS ′)を生成する工程と、
前記捕集溶液(LS ′、LMS′、LMNS ′)から生成された微粒子が、ガス中に分散されている捕集ガス(GS ′、GMS′、GMNS ′)を生成する工程と、
前記分析装置(7)に前記捕集ガス(GS ′、GMS′、GMNS ′)を前記一定体積流量で導入することで、前記指標用金属元素(S)の検出信号の単位時間当たり強度を測定する工程とを備え、
前記標準溶液(LM 、LMS、LMN、LMNS )における測定対象金属元素(M)の既知濃度をdM 、前記指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における指標用金属元素(S)の既知濃度をdS 、前記標準指標溶液(λS )における指標用金属元素(S)の既知濃度をδS 、前記標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )中の前記測定対象金属元素(M)の単位時間当たり検出信号強度をcM 、前記標準指標ガス(γS )中の前記指標用金属元素(S)の単位時間当たり検出信号強度をeS 、前記捕集ガス(GS ′、GMS′、GMNS ′)中の前記指標用金属元素(S)の単位時間当たり検出信号強度をfS 、前記溶媒の設定容量をv、前記フィルタ(13)への前記指標ガス(GS 、GMS、GMNS )の導入設定時間をt、前記分析装置(7)へ前記試料ガス(G)を導入する際の導入時間をx、導入体積流量をy、その導入により前記分析装置(7)から出力される前記測定対象金属元素(M)の検出信号の積算強度をzM 、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度をWM として、
(WM ×x×y)/{δS ×(fS /eS )×(v/t)×(dM /dS )}=zM /cM の関係から、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度WM を算出可能な気体中金属元素の測定方法。
【請求項2】
前記測定対象金属元素(M)とも前記指標用金属元素(S)とも異なる補償用金属元素(N)を一定濃度で含む補償ガス(GMN、GMNS 、GN )を生成する工程と、
前記分析装置(7)へ前記標準試料ガス(GMN、GMNS )を導入する際に、同時に、前記補償ガス(GMN、GMNS )を前記分析装置(7)へ導入することで、前記補償用金属元素(N)の検出信号の単位時間当たり強度を測定する工程と、
前記分析装置(7)へ前記試料ガス(G)を導入する際に、同時に、前記補償ガス(GN )を前記分析装置(7)へ導入することで、前記補償用金属元素(N)の検出信号の単位時間当たり強度を測定する工程とを備え、
前記補償用金属元素(N)の前記分析装置(7)への単位時間当たり導入量が、前記標準試料ガス(GMN、GMNS )と同時に導入される時と前記試料ガス(G)と同時に導入される時とで互いに等しく一定となるように、前記分析装置(7)への前記補償ガス(GMN、GMNS 、GN )の導入体積流量を設定し、
前記標準試料ガス(GMN、GMNS )と同時に前記分析装置(7)へ導入された前記補償ガス(GMN、GMNS )の中の前記補償用金属元素(N)の単位時間当たり検出信号強度をcN 、前記試料ガス(G)と同時に前記分析装置(7)へ導入された前記補償ガス(GN )の中の前記補償用金属元素(N)の単位時間当たり検出信号強度をcN ′、前記積算強度zM の補正値である補正積算強度をzM ′として、
M ′=zM ×cN /cN ′の関係から求められる前記補正積算強度zM ′を、前記積算強度zM に代えて用いることで、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度WM を算出可能な請求項1に記載の気体中金属元素の測定方法。
【請求項3】
前記測定対象金属元素(M)が既知濃度dM で、前記補償用金属元素(N)が既知濃度で、それぞれ溶解された前記標準溶液と前記補償溶液とを兼ねる溶液(LMN)を生成し、この溶液(LMN)から生成された微粒子をガス中に分散させることで、前記標準試料ガスと前記補償ガスとを兼ねるガス(GMN)を生成する請求項2に記載の気体中金属元素の測定方法。
【請求項4】
前記測定対象金属元素(M)が既知濃度dM で、前記指標用金属元素(S)が既知濃度dS で、それぞれ溶解された前記標準溶液と前記指標溶液とを兼ねる溶液(LMS、LMNS )を生成し、この溶液(LMS、LMNS )から生成された微粒子をガス中に分散させることで、前記標準試料ガスと前記指標ガスとを兼ねるガス(GMS、GMNS )を生成する請求項1〜3の中の何れか1項に記載の気体中金属元素の測定方法。
【請求項5】
前記指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における指標用金属元素(S)の既知濃度dS が、前記標準溶液(LM 、LMS、LMN、LMNS )における測定対象金属元素(M)の既知濃度dM を超える値とされている請求項1〜4の中の何れか1項に記載の気体中金属元素の測定方法。
【請求項6】
前記指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における指標用金属元素(S)の既知濃度dS が、前記標準溶液(LM 、LMS、LMN、LMNS )における測定対象金属元素(M)の既知濃度dM の10〜1000倍である請求項5に記載の気体中金属元素の測定方法。
【請求項7】
前記指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における指標用金属元素(S)の既知濃度dS が、前記標準指標溶液(λS )における指標用金属元素(S)の既知濃度δS の10〜1000倍である請求項1〜6の中の何れか1項に記載の気体中金属元素の測定方法。
【請求項8】
前記フィルター(13)としてシリンジフィルターを用い、前記指標用金属元素(S)を捕集した前記シリンジフィルター(13)に、前記溶媒をシリンジ(20)により注入し、これにより前記シリンジフィルター(13)を通過する液体を前記捕集溶液(LS ′、LMS′、LMNS ′)とする請求項1〜7の中の何れか1項に記載の気体中金属元素の測定方法。
【請求項9】
試料ガス(G)中の測定対象金属元素(M)を検出する分析装置(7)から出力される検出信号の強度に基づき、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度を算出するための演算式の決定方法であって、
前記測定対象金属元素(M)が既知濃度で溶解された標準溶液(LM 、LMS、LMN、LMNS )から生成された微粒子が、ガス中に分散されている標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )を生成する工程と、
前記測定対象金属元素(M)とは異なる指標用金属元素(S)が既知濃度で溶解された指標溶液(LS 、LMS、LMNS )から生成された微粒子が、ガス中に分散されている指標ガス(GS 、GMS、GMNS )を生成する工程と、
前記指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における既知濃度よりも低い既知濃度で前記指標用金属元素(S)が溶解された標準指標溶液(λS )から生成された微粒子が、ガス中に分散されている標準指標ガス(γS )を生成する工程と、
前記分析装置(7)に前記標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )を一定体積流量で導入することで、前記測定対象金属元素(M)の検出信号の単位時間当たり強度を測定する工程と、
前記分析装置(7)に前記標準指標ガス(γS )を前記一定体積流量で導入することで、前記指標用金属元素(S)の検出信号の単位時間当たり強度を測定する工程と、
前記指標ガス(GS 、GMS、GMNS )を前記一定体積流量で設定時間だけフィルタ(13)に導入して通過させることで、前記指標用金属元素(S)を前記フィルタ(13)により捕集する工程と、
捕集された前記指標用金属元素(S)を設定容量の溶媒中に溶解させることで捕集溶液(LS ′、LMS′、LMNS ′)を生成する工程と、
前記捕集溶液(LS ′、LMS′、LMNS ′)から生成された微粒子が、ガス中に分散されている捕集ガス(GS ′、GMS′、GMNS ′)を生成する工程と、
前記分析装置(7)に前記捕集ガス(GS ′、GMS′、GMNS ′)を前記一定体積流量で導入することで、前記指標用金属元素(S)の検出信号の単位時間当たり強度を測定する工程とを備え、
前記標準溶液(LM 、LMS、LMN、LMNS )における測定対象金属元素(M)の既知濃度をdM 、前記指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における指標用金属元素(S)の既知濃度をdS 、前記標準指標溶液(λS )における指標用金属元素(S)の既知濃度をδS 、前記標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )中の前記測定対象金属元素(M)の単位時間当たり検出信号強度をcM 、前記標準指標ガス(γS )中の前記指標用金属元素(S)の単位時間当たり検出信号強度をeS 、前記捕集ガス(GS ′、GMS′、GMNS ′)中の前記指標用金属元素(S)の単位時間当たり検出信号強度をfS 、前記溶媒の設定容量をv、前記フィルタ(13)への前記指標ガス(GS 、GMS、GMNS )の導入設定時間をt、前記分析装置(7)へ前記試料ガス(G)を導入する際の導入時間をx、導入体積流量をy、その導入により前記分析装置(7)から出力される前記測定対象金属元素(M)の検出信号の積算強度をzM 、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度をWM として、
(WM ×x×y)/{δS ×(fS /eS )×(v/t)×(dM /dS )}=zM /cM で表される関係式に、前記検出信号強度cM 、eS 、fS 、前記既知濃度dM 、dS 、δS 、前記設定時間t、および前記設定容量vを代入することで、前記導入時間x、前記導入体積流量y、および前記検出信号積算強度zM から、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度WM を算出するための演算式を求める気体中金属元素の測定用演算式決定方法。
【請求項10】
前記測定対象金属元素(M)とも前記指標用金属元素(S)とも異なる補償用金属元素(N)を一定濃度で含む補償ガス(GMN、GMNS 、GN )を生成する工程と、
前記分析装置(7)へ前記標準試料ガス(GMN、GMNS )を導入する際に、同時に、前記補償ガス(GMN、GMNS )を前記分析装置(7)へ導入することで、前記補償用金属元素(N)の検出信号の単位時間当たり強度を測定する工程と、
前記分析装置(7)へ前記試料ガス(G)を導入する際に、同時に、前記補償ガス(GN )を前記分析装置(7)へ導入することで、前記補償用金属元素(N)の検出信号の単位時間当たり強度を測定する工程とを備え、
前記補償用金属元素(N)の前記分析装置(7)への単位時間当たり導入量が、前記標準試料ガス(GMN、GMNS )と同時に導入される時と前記試料ガス(G)と同時に導入される時とで互いに等しく一定となるように、前記分析装置(7)への前記補償ガス(GMN、GMNS 、GN )の導入体積流量を設定し、
前記標準試料ガス(GMN、GMNS )と同時に前記分析装置(7)へ導入された前記補償ガス(GMN、GMNS )の中の前記補償用金属元素(N)の単位時間当たり検出信号強度をcN 、前記試料ガス(G)と同時に前記分析装置(7)へ導入された前記補償ガス(GN )の中の前記補償用金属元素(N)の単位時間当たり検出信号強度をcN ′、前記積算強度zM の補正値である補正積算強度をzM ′として、
M ′=zM ×cN /cN ′で表される関係式に、前記検出信号強度cN を代入するすることで、前記検出信号積算強度zM および前記検出信号強度cN ′から、前記補正積算強度zM ′を算出するための演算式を求め、
前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度WM を算出するための前記演算式において、前記積算強度zM に代えて算出された前記前記補正積算強度zM ′を用いる請求項9に記載の気体中金属元素の測定用演算式決定方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法により求められる前記演算式を用い、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度を求めるためのシステムであって、
移動体(30、30′)と、
前記移動体(30、30′)に搭載される吸引ノズル(31b)を有すると共に、前記移動体(30、30′)の周囲雰囲気を前記試料ガス(G)として吸引する吸引手段(31)と、
前記演算式、前記導入時間x及び前記導入体積流量yを記憶する演算装置(8)とを備え、
前記試料ガス(G)が前記分析装置(7)に導入されるように、前記吸引手段(31)は前記分析装置(7)に接続され、
前記演算装置(8)において前記測定対象金属元素(M)の検出信号から前記積算強度zM が演算されるように、前記分析装置(7)と前記演算装置(8)が接続され、
前記演算装置(8)により前記演算式から前記測定対象金属元素Mの濃度WM が算出される気体中金属元素の測定システム。
【請求項12】
請求項10に記載の方法により求められる前記演算式を用い、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度を求めるためのシステムであって、
移動体(30、30′)と、
前記移動体(30、30′)に搭載される吸引ノズル(31b)を有すると共に、前記移動体(30、30′)の周囲雰囲気を前記試料ガス(G)として吸引する吸引手段(31)と、
前記演算式、前記導入時間x及び前記導入体積流量yを記憶する演算装置(8)と、
前記分析装置(7)へ前記試料ガス(G)を導入する際に、同時に、前記補償ガス(GN )を前記分析装置(7)へ導入する補償ガス導入手段(32)と、
前記補償用金属元素(N)の前記分析装置(7)への単位時間当たり導入量が、前記標準試料ガス(GMN、GMNS )と同時に導入される時と前記試料ガス(G)と同時に導入される時とで互いに等しく一定となるように、前記分析装置(7)への前記補償ガス(GN )の導入体積流量を設定する流量設定手段(33)とを備え、
前記試料ガス(G)が前記分析装置(7)に導入されるように、前記吸引手段(31)は前記分析装置(7)に接続され、
前記演算装置(8)において前記測定対象金属元素(M)と前記補償用金属元素(N)の検出信号から前記積算強度zM と前記検出信号強度cN ′が演算されるように、前記分析装置(7)と前記演算装置(8)が接続され、
前記演算装置(8)により前記演算式から前記測定対象金属元素Mの濃度WM が算出される気体中金属元素の測定システム。
【請求項13】
前記吸引手段(31)は、ガス吸引装置(31a)と、前記吸引ノズル(31b)を前記ガス吸引装置(31a)の吸引側に接続するための可撓性配管(31c)を有し、
前記移動体(30′)に前記吸引ノズル(31b)が搭載され、前記ガス吸引装置(31a)は前記移動体(30′)にされない請求項11又は12に記載の気体中金属元素の測定システム。
【請求項14】
試料ガス(G)中の測定対象金属元素(M)を検出する分析装置(7)から出力される検出信号の強度に基づき、前記試料ガス(G)における前記測定対象金属元素(M)の濃度を求めるためのシステムであって、
前記測定対象金属元素(M)が既知濃度で溶解された標準溶液(LM 、LMS、LMN、LMNS )から生成された微粒子が、ガス中に分散されている標準試料ガス(GM 、GMS、GMN、GMNS )、前記測定対象金属元素(M)とは異なる指標用金属元素(S)が既知濃度で溶解された指標溶液(LS 、LMS、LMNS )から生成された微粒子が、ガス中に分散されている指標ガス(GS 、GMS、GMNS )、および前記指標溶液(LS 、LMS、LMNS )における既知濃度よりも低い既知濃度で前記指標用金属元素(S)が溶解された標準指標溶液(λS )から生成された微粒子が、ガス中に分散されている標準指標ガス(γS )を生成するガス生成装置(10)と、
前記指標ガス(GS 、GMS、GMNS )に含まれる指標用金属元素(S)の捕集用フィルタ(13)と、
前記ガス生成装置(10)を、前記分析装置(7)と前記フィルタ(13)とに択一的に接続する切り替えバルブ(12)とを備える気体中金属元素の測定システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−189582(P2012−189582A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−16574(P2012−16574)
【出願日】平成24年1月30日(2012.1.30)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】