説明

気体圧縮機

【課題】気体圧縮機において、圧縮機の回転体に作用する荷重のバランスを崩すことなく、比較的簡単な構造で、強度向上と電磁クラッチの適切な断接動作とを両立する。
【解決手段】外部の自動車エンジンからコンプレッサ100の圧縮機本体への駆動力の伝達を断接する電磁クラッチ13が、コイル13aへの通電により発生する磁気吸引力に応じて、アーマチュア13eとプーリ13cとの断接が切り替えられ、プーリ13cに磁気吸着したアーマチュア13eをプーリ13cから切り離す方向に向いた荷重Fをアーマチュア13eに作用させる切離荷重負荷部14(バネ14d、可動ピン14a、止め輪14c)を、プーリ13cの、アーマチュア13eとの磁気吸着摩擦面である端面13bに設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気体圧縮機に関し、詳細には、圧縮機本体への駆動力に伝達を断接する電磁クラッチの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気調和システム(以下、空調システムという。)には、冷媒ガスなどの気体を圧縮して、空調システムに気体を循環させるための気体圧縮機(コンプレッサ)が用いられている。
【0003】
ここで、一般的なコンプレッサの1つとして例えばベーンロータリ形式のコンプレッサが知られている。このベーンロータリ形式のコンプレッサは、ハウジングの内部に、圧縮機本体が収容された構成となっている。
【0004】
圧縮機本体は、回転軸と一体的に回転する略円柱状のロータと、ロータの外方を取り囲むシリンダと、ロータに埋設されて、突出側の先端が、断面輪郭形状が略楕円形のシリンダの内周面に追従するように該ロータの外周面からの突出量が可変とされた板状のベーンと、ロータやベーンを、ロータの両端面側から覆う2つのサイドブロックとを備えている。
【0005】
そして、ロータの回転方向について相前後する2つのベーン、シリンダの内周面、ロータの外周面および両サイドブロックの端面により、ロータの回転に伴ってその容積が変化し、吸入された気体を圧縮して吐出する複数の圧縮室が画成されている。
【0006】
ここで、ベーンロータリ形式のものに限らず、コンプレッサには、外部の動力源からの動力を圧縮機本体の回転軸に伝達する伝達機構が設けられており、動力源が、圧縮機本体の必要に応じて、その駆動状態を任意に変化させることができない種類の動力源の場合、例えば、自動車の空調システム用のコンプレッサを駆動する自動車エンジンなどでは空調システムの負荷に応じて、エンジン回転数を任意に高低させることはできないため、動力源(自動車エンジン等)からの動力の伝達を断接することによって、圧縮機本体の運転状態を調整する必要がある。
【0007】
そこで、動力源からの動力の伝達を断接する機能を有する種類の伝達機構として、電磁クラッチが用いられている。
【0008】
この電磁クラッチは、内部に円環状の空間を有し、円状の外周面に、エンジン等外部の動力源によって循環駆動されるベルト等が掛け回されて回転するプーリと、このプーリの上記円環状空間内に収容され、通電により磁気吸引力を発生するコイルと、回転軸に固定され、所定の間隙を介してプーリの端面に対向して配置された円板状を呈し、コイルが発生する磁気吸引力によってプーリの端面に吸着されるアーマチュアとを備え、コイルへの通電により、アーマチュアはプーリとともに回転して圧縮機本体の回転軸に駆動力を伝達し、一方、コイルへの通電を停止すると、アーマチュアはプーリから離れて回転は停止し、圧縮機本体の回転軸に対して駆動力は伝達されなくなる(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−325732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、プーリの端面(磁気吸着摩擦面)には、コイルで発生した磁力線をアーマチュアに効率よく伝えるために、貫通孔が形成されており、この貫通孔は、効率面から、周方向に長く形成されているのが好ましい。
【0010】
そして、複数個の貫通孔を形成することで、磁力線の通過面積を広く確保し、磁気吸引力をアーマチュアに効率的に作用させることが行われている。
【0011】
しかし、貫通孔間の間隔が狭まると、このプーリの端面部分の強度が低下するため、材質面での強度向上が図られる。具体的には、材料中の炭素含有量を高めることで、プーリの強度向上を図ることができる。
【0012】
しかし、材料中の炭素は残留磁気と密接な関係があり、炭素含有量を増大させると、残留磁気が増大するため、電磁クラッチの切断時に応答遅れが生じる虞がある。
【0013】
そこで、残留磁気に打ち勝って円滑な切断を得るために、プリセット荷重を高めることも可能であるが、そのようにプリセット荷重を高めると、回転体内でのスラスト荷重が増大し、圧縮機本体の回転体(ロータリ、ベーン、回転軸)に作用する荷重や圧力のバランスが崩れてしまうため、根本から設計をやり直す必要があり、作業負荷が過大となる。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、圧縮機の回転体に作用する荷重のバランスを崩すことなく、比較的簡単な構造で、強度向上と電磁クラッチの適切な断接動作とを両立することができる気体圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る気体圧縮機は、プーリとアーマチュアとが吸着する磁気吸着摩擦面に、プーリに磁気吸着したアーマチュアをプーリから切り離す方向への荷重をアーマチュアに作用させる切離荷重負荷手段を備えることで、強度向上と電磁クラッチの適切な断接動作とを両立するものである。
【0016】
すなわち、本発明に係る気体圧縮機は、駆動力の供給により運転される気体圧縮機本体と、外部の動力源から前記気体圧縮機本体への前記駆動力の伝達を断接する電磁クラッチとを備え、前記電磁クラッチは、コイルへの通電により発生する磁気吸引力に応じて、アーマチュアとプーリとの断接が切り替えられ、前記プーリに磁気吸着した前記アーマチュアを該プーリから切り離す方向に向いた荷重を前記アーマチュアに作用させる切離荷重負荷手段を、前記プーリの、前記アーマチュアとの磁気吸着摩擦面に設けたことを特徴とする。
【0017】
ここで、切離荷重負荷手段が、アーマチュアに対して、プーリから切り離す方向に向いた荷重を作用させるのは、アーマチュアとプーリとが離れている状態においてまで作用する必要はなく、少なくとも、アーマチュアがプーリに磁気吸着されている状態において作用すれば十分である。切り離しの瞬間における動作遅れを解消すれば十分だからである。
【0018】
このように構成された気体圧縮機によれば、プリセット荷重を変化させるものではないため圧縮機の回転体に作用する荷重のバランスを崩すことがなく、また、比較的簡単な構造であり、炭素を含有させるなどにより強度向上を図っても、電磁クラッチの適切な断接動作とを両立することができる。
【0019】
本発明に係る気体圧縮機においては、磁気吸着摩擦面に、磁力線通過用の貫通孔が形成されるとともに、炭素が配合されていることが好ましい。
【0020】
このように構成された気体圧縮機によれば、磁気吸着摩擦面に、磁力線通過用の貫通孔が形成されているため、コイルの磁気吸引力を効率的にアーマチュアに作用させて、より強い磁気吸引力でアーマチュアを吸着することができ、一方、磁気吸着摩擦面に貫通孔が形成されてプーリの強度低下の虞があっても、炭素の配合により、プーリの強度低下を補うことができる。
【0021】
本発明に係る気体圧縮機においては、切離荷重負荷手段による切り離す方向に向いた荷重は、炭素の配合によって生じる残留磁気による吸着力よりも大きく、かつ、磁気吸引力よりも小さく設定されていることが好ましい。
【0022】
このように構成された気体圧縮機によれば、切離荷重負荷手段による切り離す方向への荷重が、残留磁気による吸着力に容易に打ち勝って、アーマチュアとプーリとの吸着は容易に解除され、両者を切離することができ、磁気吸引力の低減という影響は小さいものとすることができる。
【0023】
一方、切離荷重負荷手段による切り離す方向への荷重が、磁気吸引力よりも小さく設定されているため、アーマチュアとプーリとの吸着が不用意に解除されることはない。
【0024】
本発明に係る気体圧縮機においては、切離荷重負荷手段が、アーマチュアの回転中心回りに略等角度間隔で複数設けられたことが好ましい。
【0025】
このように構成された気体圧縮機によれば、切離荷重負荷手段が複数設置されたことで、切り離す方向に向いた荷重がアーマチュアの一点にのみ集中するのを防止することができ、荷重が一点にのみ集中した場合に、切り離す方向への荷重がアーマチュアの弾性変形によって吸収されやすくなるのに対して、複数の切離荷重負荷手段が設置されているものでは、荷重による曲げモーメントが大きくなってアーマチュアの弾性変形だけでは吸収されにくくなり、切離しの確実性を高めることができる。
【0026】
しかも、複数の切離荷重負荷手段が略等角度間隔に配置されていることにより、切離し荷重をアーマチュアの吸着摩擦面内で略均等に作用させることができ、不均等な場合に比べて、切離しに必要な個々の荷重を、より小さいものに設定することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る気体圧縮機によれば、プリセット荷重を変化させるものではないため圧縮機の回転体に作用する荷重のバランスを崩すことがなく、また、比較的簡単な構造であり、炭素を含有させるなどにより強度向上を図っても、電磁クラッチの適切な断接動作とを両立することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の気体圧縮機に係る最良の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0029】
図1は、本発明に係る気体圧縮機の第一実施形態であるベーンロータリ式コンプレッサ100を示す縦断面図、図2は図1におけるA−A線に沿った断面を示す図、図3は図1における電磁クラッチのプーリに可動ピン(切離荷重負荷手段)が埋め込まれた状態を示す断面図である。
【0030】
図示のコンプレッサ100は、例えば、冷却媒体の気化熱を利用して冷却を行なう空気調和システム(以下、単に空調システムという。)の一部として構成され、この空調システムの他の構成要素である凝縮器、膨張弁、蒸発器等(いずれも図示を省略する。)とともに、冷却媒体の循環経路上に設けられている。
【0031】
そして、コンプレッサ100は、空調システムの蒸発器から取り入れた気体状の冷却媒体としての冷媒ガスGを圧縮し、この圧縮された冷媒ガスGを空調システムの凝縮器に供給する。凝縮器は、圧縮された冷媒ガスGを液化させ、高圧で液状の冷媒として膨張弁に送出する。
【0032】
高圧で液状の冷媒は、膨張弁で低圧化され、蒸発器に送出される。低圧の液状冷媒は、蒸発器において周囲の空気から吸熱して気化し、この気化熱との熱交換により蒸発器周囲の空気を冷却する。
【0033】
また、コンプレッサ100は、ケース11とフロントヘッド12とからなるハウジングの内部に収容された圧縮機本体と、フロントヘッド12に取り付けられ、図示しない外部の動力源から圧縮機本体への駆動力の伝達を断接する電磁クラッチ13とを備える。そして、圧縮機本体は、複数のボルトによってフロントヘッド12に固定されている。
【0034】
電磁クラッチ13は、ラジアルボールベアリング13gを介して、フロントヘッド12に回転自在に支持され、内部に円環状の空間を有し、円状の外周面に、エンジン等外部の動力源によって循環駆動されるベルト等が掛け回されるプーリ13cと、フロントヘッド12に固定支持され、プーリ13cの上記円環状空間内に収容され、通電により磁気吸引力を発生するコイル13aと、圧縮機本体の後述する回転軸51に固定され、所定の間隙を介してプーリ13cの端面(磁気吸着摩擦面)13bに対向して配置された円板状を呈し、コイル13aが発生する磁気吸引力によってプーリ13cの端面13bに吸着されるアーマチュア13eとを備え、コイル13aへの通電により発生する磁気吸引力に応じて、アーマチュア13eとプーリ13cの端面13bとの断接が切り替えられる。
【0035】
なお、アーマチュア13eには、ダンパ13fが配設されて、回転軸51へのトルクの急激な付加を緩和している。
【0036】
また、プーリ13cは、炭素が配合されており、その端面13bの端壁には、コイル13aが発生する磁力線通過用の貫通孔13dが形成されている。
【0037】
このように端面13bの端壁に、磁力線通過用の貫通孔13dが形成されているため、コイル13aの磁気吸引力を効率的にアーマチュア13eに作用させて、より強い磁気吸引力でアーマチュア13eを端面13bに吸着することができ、一方、端面13bに貫通孔13dが形成されてプーリ13cの強度低下の虞があっても、炭素の配合により、プーリ13cの強度低下を補うことができる。
【0038】
また、プーリ13cの端面13bの端壁には、磁気吸着したアーマチュア13eをプーリ13cから切り離す方向に向いた荷重Fをアーマチュア13eに作用させる切離荷重負荷部14(切離荷重負荷手段)が設けられている。
【0039】
具体的には、端面13bの端壁に形成された穴に、アーマチュア13e方向にスライド自在の可動ピン14aと、可動ピン14aをアーマチュア13eに向けて付勢するバネ14dと、可動ピン14aの鍔部14dが突き当たって、可動ピン14aが端壁から脱落するのを阻止する止め輪14cとを備えた構成であり、可動ピン14aが穴の内部に最も押し込まれた状態では、可動ピン14aの、アーマチュア13eに向いた端面は、端面13bから突出しない位置にあり、可動ピン14aがバネ14dによってアーマチュア13e側に最も突出した状態では、可動ピン14aの、アーマチュア13eに向いた端面は、端面13bから突出した位置にある。
【0040】
このバネ14dの、可動ピン14aを付勢する荷重(付勢力)Fは、プーリ13cへの炭素の配合によって生じる、コイル13dの磁気吸引力の残留磁気による吸着力よりも大きく、かつ、磁気吸引力よりも小さく設定されている。
【0041】
ケース11は、一端開放の筒状体を呈し、フロントヘッド12は、このケース11の開放された部分を覆うように組み付けられている。また、フロントヘッド12には、蒸発器から低圧の冷媒ガスGが吸入される吸入ポート12aが形成され、この吸入ポート12aには、冷媒ガスGの逆流を防ぐ逆止弁12bが設けられている。一方、ケース11には、圧縮機本体で圧縮された高圧の冷媒ガスGを凝縮器に吐出する吐出ポート11aが形成されている。
【0042】
ハウジング内に収容された圧縮機本体は、電磁クラッチ13のアーマチュア13eを介して供給された駆動力によって軸回りに回転する回転軸51と、この回転軸51と一体的に回転する円柱状のロータ50と、ロータ50の外周面の外方を取り囲む断面輪郭略楕円形状の内周面49aを有するとともに、両端が開放されたシリンダ40と、ロータ50の外方に向けて突出可能にロータ50に埋設され、その突出側の先端がシリンダ40の内周面49aに追従するように突出量が可変とされ、回転軸51回りに等角度間隔で配置された5枚の板状のベーン58と、シリンダ40の両側開放端面の外側からそれぞれ開放端面を覆うように固定されたフロントサイドブロック30およびリヤサイドブロック20とからなる。
【0043】
そして、2つのサイドブロック20,30、ロータ50、シリンダ40、および回転軸51の回転方向(図2において時計回りの矢印方向)に相前後する2つのベーン58,58によって画成された各圧縮室48の容積が、回転軸51の回転にしたがって増減を繰り返すことにより、各圧縮室48に吸入された冷媒ガスGを圧縮して吐出するように構成されている。
【0044】
なお、ロータ50の両端面50a,50bからそれぞれ突出した回転軸51の部分のうち一方の部分は、フロントサイドブロック30の軸受部32に軸支されるとともに、フロントヘッド12を貫通して外方まで延び、この貫通部分がフロントヘッド12により軸支され、外方に延びた部分が電磁クラッチ13のアーマチュア13eに連結されている。同様に回転軸51の突出部分のうち他方の側は、リヤサイドブロック20の軸受部22により軸支されており、これらによって、回転軸51は、リヤサイドブロック20およびフロントサイドブロック30に対して回転自在とされている。
【0045】
また、回転軸51のうち、フロントサイドブロック30の軸受部32よりも外側部分であってフロントヘッド12よりも内側の部分には、リップシール15が配置されて、冷凍機油Rが、回転軸51とフロントヘッド12との隙間からフロントヘッド12の外部に漏れるのを阻止している。
【0046】
そして、フロントヘッド12による回転軸51の支持と、ボルトによるフロントヘッド12へのフロントサイドブロック30の固定と、両サイドブロック20,30の外周部がOリングによりケース11,フロントヘッド12の内周面に保持されることとによって、圧縮機本体はハウジング内の所定位置に保持されている。
【0047】
また、圧縮機本体がケース11の内部に収容された状態で、リヤサイドブロック20とケース11とにより、圧縮機本体から高圧の冷媒ガスGが吐出される高圧雰囲気の吐出室21が形成され、一方、フロントサイドブロック30とフロントヘッド12とにより、圧縮機本体に低圧の冷媒ガスGを供給する低圧雰囲気の吸入室34が形成され、吐出室21は吐出ポート11aに連通し、吸入室34は吸入ポート12aに連通している。そして、吸入室34と吐出室21とは、前述したOリング等によって気密に隔絶されている。
【0048】
また、リヤサイドブロック20には、冷凍機油Rを冷媒ガスGから分離するためのサイクロンブロック60が取り付けられており、このサイクロンブロック60は吐出室21内に配置されており、リヤサイドブロック20とサイクロンブロック60との間には、短円柱状の軸背圧空間66が形成されている。
【0049】
吐出室21の下部には、このコンプレッサ100の摺動部等を潤滑、冷却、清浄するとともに、ベーン58をシリンダ40の内周面49aに向けて突出させて、その先端を内周面49aに当接させた状態に付勢するように、ベーン58に背圧を作用させる冷凍機油Rが溜められている。
【0050】
すなわち、ロータ50には、図2に示すように、スリット状のベーン溝56が放射状に、かつロータ50の回転中心回りに等角度間隔で5つ形成され、これらのベーン溝56に、前述のベーン58が挿入され、各ベーン58は、ロータ50の回転によって生じる遠心力と、ベーン溝56およびベーン58の底面によって画成された背圧室59に加えられる冷凍機油Rの油圧とにより、シリンダ40の内周面49aに向けて突出し、このベーン58の突出した先端がシリンダ40の内周面49aに当接した状態に付勢され、回転軸51の回転に伴って、この先端は内周面49aに追従する。
【0051】
これにより、シリンダ40と、ロータ50と、回転軸51の回転方向について相前後する2つのベーン58,58と、フロントサイドブロック30と、リヤサイドブロック20とにより画成された各圧縮室48は、ロータ50の回転にしたがって容積の変化を繰り返す。
【0052】
また、フロントサイドブロック30には、吸入室34と圧縮室48とを連通させるフロント側吸入口31が開口しており、吸入ポート12aから吸入室34に導入された冷媒ガスGは、このフロント側吸入口31を介して圧縮室48に吸入される。
【0053】
一方、シリンダ40の外周の一部には凹部が形成され、この凹部は、両サイドブロック20,30の各内側端面とケース11の内周面とによって囲まれた吐出チャンバ45を形成している。
【0054】
そして、この吐出チャンバ45が形成されて薄肉化されたシリンダ40のうち、冷媒ガスGの圧縮行程に対応した圧縮室48に臨む部分に、圧縮室48内の冷媒ガスGを圧縮室48の外部、すなわち吐出チャンバ45に吐出させる吐出口42が設けられているとともに、圧縮室48の内部圧力に応じて吐出口42を開閉するリードバルブ43が配設されている。
【0055】
リードバルブ43は板ばね状であって、圧縮室48の冷媒ガスGから吐出口42を通じて作用する圧力(詳細には、この圧力と吐出チャンバ45の内部の圧力(さらに、リードバルブ43を吐出口42に付勢している場合には、その付勢力に応じた初期負荷圧力も加算した圧力)との差)に応じて吐出チャンバ45の側に撓むように弾性変形し、この弾性変形によって、閉止していた吐出口42を開放する。
【0056】
また、このリードバルブ43が、過大な撓みにより破損したり、大きな撓みの持続によって永久変形が生じるのを防止するために、リードバルブ43の変形量を規制するバルブサポート44が、リードバルブ43に重ね合わされて、シリンダ40に共締め固定されている。
【0057】
そして、圧縮室48から吐出口42、リードバルブ43を通って吐出チャンバ45に吐出された高圧の冷媒ガスGは、リヤサイドブロック20に形成された連通孔20a、およびリヤサイドブロック20に固定されたサイクロンブロック60のオイルセパレータ60aを経て、吐出室21に吐出される。
【0058】
一方、サイクロンブロック60およびオイルセパレータ60aによって、冷媒ガスGから分離された冷凍機油Rは、吐出室21の底部に滴下し、前述したようにこの底部に溜められる。
【0059】
ここで、ケース11のうち、吐出室21の内壁を形成する部分に、吐出室21の底部に溜められた冷凍機油Rの油面の上方に張り出して、冷凍機油Rが吐出された冷媒ガスGによって巻き上げられるのを抑制する庇状のリブ70が形成されている。
【0060】
さらに、このコンプレッサ100には、回転軸51と軸受部22,32との間の潤滑、ロータ50の各端面と各サイドブロック20,30の内側端面との間の潤滑等する目的と、ベーン58をシリンダ40の内周面49aに付勢すべく背圧空間(背圧室59、後述するサライ溝25および軸背圧空間66)に油圧(背圧)を供給等する目的とにより、吐出室21の下部に貯留した冷凍機油Rを各部位に導く構造を備えている。
【0061】
すなわち、リヤサイドブロック20に、軸受部22に至る油路23が形成され、また、リヤサイドブロック20の内側端面26(ロータ50の端面50aに向いた面)には、軸受部22における油路23の開口から、軸受部22と回転軸51との間の微小隙間(絞り)を通って、ロータ50の背圧室59に連通する凹部であるサライ溝25が形成されている。
【0062】
また、軸受部22まで延びた油路23は、軸受部22と回転軸51との間の微小隙間(絞り)を介して、リヤサイドブロック20とサイクロンブロック60との間に形成された空間である軸背圧空間66にも連通し、この軸背圧空間66は背圧連通路28を介してサライ溝25に、圧力損失なく連通している。
【0063】
これにより、背圧室59、サライ溝25、背圧連通路28および軸背圧空間66は、略同一の圧力Pvとなり、ベーン58の背圧空間を構成している。
【0064】
この背圧空間に作用する圧力Pvは、具体的には、低圧雰囲気の吸入室34の圧力Psよりも高い圧力であって、軸受部22と回転軸51の周面部分との間の微小隙間(絞り)を通過した分だけ、高圧雰囲気の吐出室21の圧力Pdよりも低い中間圧(Ps<Pv<Pd)となる。
【0065】
サライ溝25は、軸受部22の中心回りの所定角度範囲に亘って、略扇形状の輪郭(図2において破線で示す)を有する凹部であり、上述した微小隙間を通過して中間圧Pvまで低下した冷凍機油Rが溜められる。
【0066】
そして、ロータ50の回転に伴って、ロータ50の端面50aに露呈しているベーン溝56の背圧室59がリヤサイドブロック20のサライ溝25を通過している間だけ、ベーン溝56の背圧空間59とサライ溝25とが連通して、ベーン溝56の背圧空間59にサライ溝25の中間圧Pvの冷凍機油Rが供給され、ベーン58はこの供給された冷凍機油Rの中間圧Pvを受けて、シリンダ40の内周面49aに向かって突出する。
【0067】
また、シリンダ40の底部側には、リヤサイドブロック20の油路23に接続する貫通孔46が設けられ、フロントサイドブロック30に、この貫通孔46のフロントサイドブロック30側の開口と軸受部32とを連通させる油路33が形成され、冷凍機油Rは、軸受部32と回転軸51との間の微小隙間を通過して中間圧Pvまで降圧され、フロントサイドブロック30の内側端面に形成された凹部であるサライ溝35等に導かれる。
【0068】
なお、フロントサイドブロック30のサライ溝35も、リヤサイドブロック20のサライ溝25と同様、ロータ50の背圧室59に連通している。
【0069】
サライ溝25,35に供給された冷凍機油Rは、ロータ50のベーン溝58の背圧室59が連通したときに、この背圧室59にベーン58の突出力を作用させるが、背圧室59が連通しない角度範囲も含めて、ロータ50の端面50a,50bと各サイドブロック20,30の端面26,36との間などにそれぞれ浸透して、これらの端面50a,26間、端面50b,36間や、サイドブロック20,30の端面26,36とベーン58の側面との間、ベーン58の先端とシリンダ40の内周面49aとの間など、摺動部分における摺動摩擦力を低減させている。
【0070】
そして、各摺動部分に浸透した冷凍機油Rは、圧縮室48内の冷媒ガスGに混入し、冷媒ガスGとともに圧縮室48から吐出され、サイクロンブロック60を介して吐出室21に吐出される。
【0071】
冷媒ガスGがサイクロンブロック60を通過する間に、この冷媒ガスGに混入していた冷凍機油Rの一部は冷媒ガスGから分離され、冷媒ガスGは吐出室21に吐出され、一方、分離された冷凍機油Rは吐出室21の下部に滴下して溜められるが、冷凍機油Rは、上述したようにコンプレッサ100の内部で必要とされるため、コンプレッサ100の外部のシステム(蒸発器等)に過度に流出しないように、上述した庇状のリブ70が冷凍機油Rの油面を覆うように形成されて、冷凍機油Rが、冷媒ガスGの気流に直接晒されて、この冷媒ガスGの気流によって吐出ポートに巻き上げられるのを抑制している。
【0072】
このように構成された本実施形態のコンプレッサ100によれば、電磁クラッチ13のコイル13aに通電されていないときは、プーリ13cは、例えば自動車エンジンなどの外部動力源からベルトを介して駆動力が伝達されて回転するが、回転軸51に固定されたアーマチュア13eは、プーリ13cと所定の間隙を介してプーリ13cから切り離されているため回転せず、したがって、回転軸51は回転せず、コンプレッサ100は気体圧縮機の機能を発揮しない。
【0073】
一方、コイル13aに通電されると、コイル13aが磁気吸引力を発生し、この磁気吸引力は、プーリ13cの端面13bに形成された貫通孔13dにより、効率よくアーマチュア13eに作用し、アーマチュア13eは、この磁気吸引力によって端面13bに引き寄せられるように弾性変形し、端面13bに当接する。
【0074】
これによって、アーマチュア13eに、プーリ13cの回転が伝達されて、アーマチュア13eは回転し、回転軸51はこのアーマチュア13eの回転に伴って回転し、コンプレッサ100は気体圧縮機の機能を発揮する。
【0075】
このように、電磁クラッチ13は、自動車エンジンのように、コンプレッサ100の必要に応じてその駆動状態を任意に変化させることができない種類の動力源の場合は、自動車エンジン等からの動力の伝達を断接することによって、コンプレッサ100の運転状態を調整することができる。
【0076】
ここで、プーリ13cには、炭素が配合されており、貫通孔13dの形成によってプーリ13cの強度低下を補っているが、炭素の配合が多くなると、プーリ13cに残留する磁気が増大するため、アーマチュア13eの切離しに遅れが生じ、電磁クラッチ13の切断時に応答遅れが生じ、適切な切断タイミングを制御できないおそれがある。
【0077】
これに対して、プーリ13cの端面13bの端壁には、磁気吸着したアーマチュア13eをプーリ13cから切り離す方向に向いた荷重Fをアーマチュア13eに作用させる切離荷重負荷部14が設けられているため、コイル13aへの通電を停止したとき、切離荷重負荷部14のバネ14dが付勢する可動ピン14aが、磁気吸着力に打ち勝って、アーマチュア13eをプーリ13cから切り離す方向に荷重Fを作用させ、これにより、アーマチュア13eの切離しに遅れが生じるのを防止し、電磁クラッチ13の切断時に応答遅れを防止することができる。
【0078】
このように、比較的簡単な構造の切離荷重負荷部14でありながら、炭素を含有させるなどによりプーリ13cの強度向上を図っても、電磁クラッチ13の適切な切断タイミングを逸することがない。しかも、プリセット荷重を変化させるものではないためコンプレッサ100に作用する荷重のバランスを崩すことがない。
【0079】
また、バネ14dの付勢力(荷重F)は、プーリ13cへの炭素の配合によって生じる、コイル13dの磁気吸引力の残留磁気による吸着力よりも大きく、かつ、磁気吸引力よりも小さく設定されているため、切離荷重負荷部14による切り離す方向への荷重Fが、残留磁気による吸着力に容易に打ち勝って、アーマチュアとプーリとの吸着は容易に解除され、両者を切離することができる一方、磁気吸引力の低減という影響は小さいものとすることができる。
【0080】
なお、上述した実施形態の気体圧縮機は、ベーンロータリ形式の気体圧縮機であるが、本発明に係る気体圧縮機は、この実施形態のベーンロータリ形式のものに限定されるものではなく、他の形式の気体圧縮機、例えば、斜板往復動形式やスクロール形式の気体圧縮機にも適用することができる。
【0081】
また、本実施形態のコンプレッサ100においては、図示の都合上、切離荷重負荷部14が、1つしか表示されていないが、実際には、アーマチュア13eの回転中心(回転軸51)回りに略等角度間隔で複数の切離荷重負荷部14が設けられており、これによって、切離荷重負荷部14による切り離す方向に向いた荷重が、アーマチュア13eの一点に集中して、アーマチュア13eに対して切り離す方向への荷重Fが効果的に作用しないのを防止することができる。
【0082】
しかも、複数の切離荷重負荷部14が略等角度間隔に配置されていることにより、切離し荷重をアーマチュア13eの吸着摩擦面内で略均等に作用させることができ、不均等に設置されているものに比べて、切離しに必要な個々の荷重を、より小さいものに設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に係る気体圧縮機の第一実施形態であるベーンロータリ式コンプレッサを示す縦断面図である。
【図2】図1におけるA−A線に沿った面による断面図である。
【図3】図1に示したコンプレッサの電磁クラッチ部分の詳細を示す断面図である。
【符号の説明】
【0084】
13 電磁クラッチ
13a コイル
13c プーリ
13b 端面
13c プーリ
14 切離荷重負荷部(切離荷重負荷手段)
14a 可動ピン
14c 止め輪
14d バネ
100 コンプレッサ(気体圧縮機)
G 冷媒ガス
R 冷凍機油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力の供給により運転される気体圧縮機本体と、外部の動力源から前記気体圧縮機本体への前記駆動力の伝達を断接する電磁クラッチとを備え、
前記電磁クラッチは、コイルへの通電により発生する磁気吸引力に応じて、アーマチュアとプーリとの断接が切り替えられ、前記プーリに磁気吸着した前記アーマチュアを該プーリから切り離す方向に向いた荷重を前記アーマチュアに作用させる切離荷重負荷手段を、前記プーリの、前記アーマチュアとの磁気吸着摩擦面に設けたことを特徴とする気体圧縮機。
【請求項2】
前記磁気吸着摩擦面には、磁力線通過用の貫通孔が形成されるとともに、炭素が配合されていることを特徴とする請求項1に記載の気体圧縮機。
【請求項3】
前記切離荷重負荷手段による前記切り離す方向に向いた荷重は、前記炭素の配合によって生じる残留磁気による吸着力よりも大きく、かつ、前記磁気吸引力よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項2に記載の気体圧縮機。
【請求項4】
前記切離荷重負荷手段は、前記アーマチュアの回転中心回りに略等角度間隔で複数設けられたことを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載の気体圧縮機。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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