説明

気体提示装置及び気体提示方法

【課題】複数種類の気体を互いに混じることなく提示できる気体提示装置を提供する。
【解決手段】ニオイを提示するための提示用マスク20と、ニオイを提示用マスク20に導入するニオイライン11と、ニオイライン11にニオイを導入するニオイ導入部2a、2bとを備えた嗅覚刺激提示装置1であって、ニオイライン11と、無臭空気が導入される無臭空気ライン12とを提示用マスク20に接続する接続部10を備え、接続部10は、ニオイライン11内の流体を提示用マスク20に導入するか否かを制御する三方電磁弁31と、無臭空気ライン12内の流体を提示用マスク20に導入するか否かを制御する三方電磁弁32と、を備えており、ニオイライン11には、ニオイライン11に外気を導入する外気取り込みライン16が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
気体を提示するための気体提示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ニオイを有する気体などの供試気体を被験者に提示し、該供試気体に対する被験者の嗅覚を客観的に判定するための装置が知られている。
【0003】
特許文献1及び2には、供試気体、及び呼吸用気体の供給源と、該供給源から気体を被験者に導く流路とを備えた嗅覚認識判定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】昭63−79636号公報(1988年4月9日公開)
【特許文献2】平4−174645号公報(1992年6月22日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような従来技術では、複数種類の気体を交互に提示する場合には、一つの気体を提示した後に、この気体の濃度が充分(例えば人間が感知できる濃度の閾値以下)に下がる前に、次の別種類の気体の提示が行われてしまう可能性が高い。したがって、提示される気体に、別の種類の気体が混じってしまうという問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数種類の気体を互いに混じることなく提示できる気体提示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係る気体提示装置は、第1の気体を提示するための提示部と、当該第1の気体を当該提示部に導入する第1の流路と、当該第1の流路に当該第1の気体を導入する第1の気体導入手段とを備えた気体提示装置であって、上記第1の流路と、第2の気体が導入される第2の流路とを上記提示部に接続する接続手段を備え、上記接続手段は、上記第1の流路内の流体を上記提示部に導入するか否かを制御する第1の接続弁と、上記第2の流路内の流体を上記提示部に導入するか否かを制御する第2の接続弁と、を備えており、上記第1の流路には、上記第1の流路に洗浄ガスを導入する洗浄ガス導入手段が設けられていることを特徴とする。
【0008】
上記の構成であれば、第1の接続弁が第1の流路内の流体を提示部に導入するように制御することにより、提示部に第1の気体を提示することができる。また、洗浄ガス導入手段により第1の流路に洗浄ガスを導入すれば、第1の流路内を洗浄することができる。このとき、第1の接続弁が第1の流路内の流体を提示部に導入しないように制御し、かつ第2の接続弁が第2の流路内の流体を提示部に導入するように制御することにより、提示部には第2の気体が提示され、第1の流路内を洗浄したガスが提示されることを防ぐことができる。
【0009】
したがって、提示部に複数種類の第1の気体を交互に提示する場合には、第1の流路に当該複数種類の第1の気体を交互に導入することになるが、それぞれの第1の気体を導入した後に第1の流路内を洗浄することが可能であるため、当該複数種類の第1の気体を互いに混じることなく提示部に提示することができる。
【0010】
また、本発明に係る気体提示装置では、上記第1の気体導入手段を複数備え、複数の上記第1の気体導入手段が、異なる種類の上記第1の気体をそれぞれ上記提示部に提示することが好ましい。
【0011】
上記の構成であれば、複数の種類の第1の気体をそれぞれ提示部に提示することができる。
【0012】
また、本発明に係る気体提示装置では、上記第1の気体導入手段は、上記第1の気体が導入される容器と、上記容器内の上記第1の気体を上記第1の流路内に導く第3の流路と、上記第3の流路に設けられた開閉弁とにより構成されていることが好ましい。
【0013】
上記の構成であれば、開閉弁を開閉することにより、第1の気体の第1の流路内への導入を容易に開始したり停止したりできる。
【0014】
また、本発明に係る気体提示装置では、上記容器には、注射器により流体を注入するための注入口が設けられていることが好ましい。
【0015】
上記の構成であれば、第1の気体、または第1の気体を発生する原液などの流体を、微量において容器内に注入することができるので、容器内の第1の気体を所望の濃度とすることが容易になる。したがって、正確な濃度の第1の気体を提示することが可能になる。
【0016】
また、気体提示装置内に提供される第1の気体が、所望の濃度よりも高濃度となることを防止できるので、気体提示装置内に第1の気体が残留することを防止できるため、複数種類の第1の気体が互いに混じることをさらに防ぐことができる。
【0017】
また、本発明に係る気体提示装置では、上記第3の流路は、上記第1の流路と継手を介して接続されており、上記開閉弁は、上記継手に直接接続されていることが好ましい。
【0018】
ここで、第1の流路と開閉弁との間に残留した気体は、洗浄ガスにより洗浄されにくいが、上記の構成であれば、第1の流路と開閉弁との間の距離が狭いため、この部分に残留する第1の気体の量を少なくできる。したがって、複数種類の第1の気体を交互に提示する場合には、これらの気体が互いに混じることをより防止できる。
【0019】
また、本発明に係る気体提示装置では、上記第1の流路内の気体を送出するポンプをさらに備えていることが好ましい。
【0020】
上記の構成であれば、第1の流路内の気体の送出のために高圧ガスを用いる設備が必要ないため、取り扱いが容易な気体提示装置を提供できる。
【0021】
本発明に係る気体提示方法は、第1の流路を提示部に接続するとともに当該第1の流路に第1の気体を導入して、当該提示部に当該第1の気体を提示する気体提示工程を有する気体提示方法であって、上記気体提示工程の後に、上記第1の流路と切り替えて、第2の流路を上記提示部に接続するとともに当該第2の流路に第2の気体を導入し、かつ上記第1の流路に洗浄ガスを導入する、洗浄工程を有していることを特徴とする。
【0022】
上記の構成であれば、気体提示工程においては、提示部に第1の気体を提示することができる。また、洗浄工程において、第1の流路に洗浄ガスを導入し、第1の流路内を洗浄することができるとともに、このとき提示部に第2の流路が接続されているので、提示部には第2の気体が提示されるため、第1の流路内を洗浄したガスを提示部に供給することを防ぐことができる。
【0023】
したがって、提示部に複数種類の第1の気体を交互に提示する場合には、第1の流路に当該複数種類の第1の気体を交互に導入することになるが、それぞれの第1の気体を導入した後に第1の流路内を洗浄することが可能であるため、当該複数種類の第1の気体を互いに混じることなく提示部に提示することができる。
【0024】
また、本発明に係る気体提示方法では、上記気体提示工程の前に、上記第2の流路を上記提示部に接続するとともに、上記第1の流路に上記第1の気体を導入する前処理工程を行うことが好ましい。
【0025】
上記の構成であれば、気体提示工程の前に、第1の流路内に第1の気体を予め導入することができるので、気体提示工程において第1の気体を効率よく提示することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る気体提示装置は、以上のように、第1の気体を提示するための提示部と、当該第1の気体を当該提示部に導入する第1の流路と、当該第1の流路に当該第1の気体を導入する第1の気体導入手段とを備えた気体提示装置であって、上記第1の流路と、第2の気体が導入される第2の流路とを上記提示部に接続する接続手段を備え、上記接続手段は、上記第1の流路内の流体を上記提示部に導入するか否かを制御する第1の接続弁と、上記第2の流路内の流体を上記提示部に導入するか否かを制御する第2の接続弁と、を備えており、上記第1の流路には、上記第1の流路に洗浄ガスを導入する洗浄ガス導入手段が設けられているので、複数種類の気体を互いに混じることなく提示できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)〜(b)は、本発明の一実施形態における嗅覚刺激提示装置の構成を模式的に示す図であり、(a)はニオイライン洗浄工程における嗅覚刺激提示装置の構成を示し、(b)はニオイ提示工程における嗅覚刺激提示装置の構成を示す。
【図2】本発明の一実施形態における嗅覚刺激提示方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る気体提示装置の一実施形態として、嗅覚刺激提示装置について以下に詳細に説明する。
【0029】
なお、本発明において気体提示装置とは、複数種類の気体を交互に提示する装置である。本発明は、提示される気体が低濃度で作用するようなものである場合に、特に適している。このような気体としては、例えば、以下の実施形態のような嗅覚を刺激する気体などが挙げられる。
【0030】
〔嗅覚刺激提示装置〕
本実施形態における嗅覚刺激提示装置1(気体提示装置)の構成について、図1(a)〜(b)を参照して説明する。図1(a)〜(b)は、本発明の一実施形態における嗅覚刺激提示装置の構成を模式的に示す図であり、図1(a)はニオイライン洗浄工程における嗅覚刺激提示装置の構成を示し、図1(b)はニオイ提示工程における嗅覚刺激提示装置の構成を示す。なお、図1(a)〜(b)において、接続されている経路を太線で示し、接続されていない経路を細線で示す。
【0031】
嗅覚刺激提示装置1は、ニオイを提示する装置であり、特に複数種類のニオイを提示する場合に適している。なお、本明細書中「ニオイ」とは、有臭の気体等、嗅覚を刺激する気体をさす。本実施形態における嗅覚刺激提示装置1は、例えば、被験者に複数種類の有臭の気体を提示し、それぞれの気体による嗅覚刺激に対する被験者の反応等を調査する場合等に好適に適用できる。
【0032】
図1(a)〜(b)に示すように、嗅覚刺激提示装置1は、主に、ニオイライン11(第1の流路)と、無臭空気ライン12(第2の流路)と、提示用マスク20(提示部)とにより構成される。なお、ニオイライン11は、後述する継手29cから三方電磁弁31(第1の接続弁)までを連結する一本の流路であり、無臭空気ライン12は、後述する空気ポンプ22から三方電磁弁32(第2の接続弁)までを連結する一本の流路である。
【0033】
なお、本明細書中「上流側」及び「下流側」とは、流路において内部の気体の流れの上流側及び下流側をさす。すなわちニオイライン11において上流側とは継手29c側をさし、無臭空気ライン12において上流側とは空気ポンプ22側をさす。
【0034】
ニオイライン11と無臭空気ライン12とは、それぞれ下流側の端が提示ライン13に接続可能に構成されており、接続部10(接続手段)により切り替えられて提示ライン13に接続され、提示ライン13を介して提示用マスク20に接続される。
【0035】
提示用マスク20は、被験者に対してニオイまたは無臭空気を提示するためのマスクであり、例えば被験者の口及び鼻を覆うように構成されている。これにより、被験者にニオイを提示して嗅覚刺激を与えることが可能となっている。なお、本発明に係る気体提示装置が第1の気体を提示する対象は、被験者等のヒトのみならず、その他の動物等の被験体、又は、ニオイの測定装置等のように第1の気体を測定するための装置であってもよい。
【0036】
提示ライン13は、提示用マスク20に接続され、導入されたニオイ、無臭空気などの気体流13aを提示用マスク20に導く流路である。提示ライン13には、流量計25及びヒーター26が設けられている。流量計25は提示ライン13内の気体の流量を測定する計器であり、提示ライン13内の気体の流量を把握することができる。また、ヒーター26は、提示ライン13内の気体を加熱するものであり、提示ライン13内の気体を、好ましい温度に調節することができる。
【0037】
接続部10は、ニオイライン11の下流側の末端に設けられた三方電磁弁31と、無臭空気ライン12の下流側の末端に設けられた三方電磁弁32とからなっている。三方電磁弁31は、ニオイライン11を、提示ライン13と排気ライン14とのいずれかに接続させる電磁弁である。これにより、三方電磁弁31は、ニオイライン11内の流体を提示用マスク20に導入するか否かを制御する。また、三方電磁弁32は、無臭空気ライン12を、提示ライン13かと排気ライン15とのいずれかに接続させる電磁弁である。これにより、三方電磁弁32は、無臭空気ライン12内の流体を提示用マスク20に導入するか否かを制御する。
【0038】
図1(b)のように三方電磁弁31がニオイライン11を提示ライン13に接続させている場合には、三方電磁弁32は、無臭空気ライン12を排気ライン15に接続させることができる。一方、図1(a)のように三方電磁弁32が無臭空気ライン12を提示ライン13に接続させている場合には、三方電磁弁31は、ニオイライン11を排気ライン14に接続させることができる。このように、接続部10は、三方電磁弁31、32を備えることにより、ニオイライン11と無臭空気ライン12とを、提示ライン13に切り替えて接続させることができるものである。
【0039】
排気ライン14は、ニオイライン11内の気体を排気するための流路であり、排気ライン15は、無臭空気ライン12内の気体を排気するための流路である。排気ライン14、15には、それぞれ気体の流量を調節するためのニードルバルブ36、37が設けられている。なお、排気ライン14、15には、排気するための吸引ポンプが設けられていてもよい。これにより、ニオイライン11及び無臭空気ライン12は、提示ライン13に接続されないときには排気ライン14、15に接続され、内部の気体が排気される。
【0040】
ニオイライン11は、ニオイ導入部2a、2b(第1の気体導入手段)と提示用マスク20とを接続させる流路であり、すなわちニオイ(第1の気体)を導くための流路である。ニオイライン11には、ニオイライン11の上流側の端と下流側の端との間に設けられたニオイ導入部からニオイが導入される。また、ニオイライン11の上流側の端には、外気取り込みライン16(洗浄ガス導入手段)が接続されており、ニオイライン11中のニオイ導入部より下流側には、空気ポンプ23(ポンプ)及びバッファー24が設けられている。
【0041】
ニオイ導入部2a、2bは、それぞれ、ニオイ袋21a、21b(容器)と、ニオイ導入ライン17、18(第3の流路)と、二方電磁弁34、35(開閉弁)とにより構成されており、ニオイ袋21a、21bに接続したニオイ導入ライン17、18がニオイライン11に接続されている。
【0042】
ニオイ袋21a、21bは、ニオイが導入される容器であり、ニオイ導入ライン17、18を介してニオイライン11にニオイを導入する。なお、複数のニオイ袋21a、21bのそれぞれに導入されるニオイは、異なる種類、濃度等であってよい。また、ニオイ導入部の数は、上述したものに特に限定されず、1個であってもよいし、3個以上であってもよい。
【0043】
ニオイ袋21a、21bに「ニオイが導入される」とは、ニオイ袋21a、21b内においてニオイが存在する状態となることをさす。したがって、ニオイ袋21a、21bに導入されるニオイとは、ニオイ袋21a、21b内に直接注入されたものであってもよいが、ニオイを発生するニオイの原液などが注入されることによりニオイ袋21a、21b内で発生したものであってもよい。ニオイの原液とは、例えば蒸発してニオイとなる気体を発生するなど、ニオイを発生し得るものであればよい。
【0044】
ニオイ袋21a、21bには、それぞれシリンジ(注射器)を用いて、ニオイまたはニオイの原液などの流体を注入するための注入口28a、28bが設けられている。シリンジには、例えばマイクロシリンジ等を用いることができる。これにより、ニオイまたはニオイの原液などの流体を微量においてニオイ袋21a、21b内に注入することができるので、ニオイが高濃度になることを防止できる。また、ニオイ袋21a、21b内に注入するニオイまたはニオイの原液などの質量等を正確に測定することができるので、ニオイ袋21a、21b内のニオイを所望の濃度とすることが容易になる。したがって、正確な濃度のニオイを提示することが可能になる。
【0045】
ここで、従来は、例えば上述した特許文献1に記載されているように、ニオイ物質(液体)に無臭気体を送り込み、バブリングさせることにより、無臭気体をキャリアガスとして有臭気体を発生させる。しかしこの方法では、有臭気体を所望の濃度とすることが困難である。また、ニオイ物質をバブリングさせると、多くの場合、有臭気体の濃度が所望の濃度よりも高くなりやすく、濃度を薄める機構が必要になるとともに、高濃度の有臭気体が装置内に供給された場合には、有臭気体が残留して他の気体と混じるおそれがある。
【0046】
これに対して本実施形態では、ニオイ袋21a、21b内のニオイを所望の濃度とすることができるので、濃度を薄める機構が不要であるとともに、装置内にニオイが残留して他のニオイと混じることを防止することができる。
【0047】
ニオイ導入ライン17、18は、継手29a、29bを介してニオイライン11に接続されており、二方電磁弁34、35の開閉によって、ニオイ袋21a、21b内からニオイライン11へのニオイの導入が調節される。
【0048】
なお、継手29a、29bには、メイルブランチティ等のT字型の継手を用いることが好ましい。また、二方電磁弁34、35と継手29a、29bとの距離(例えば、図1(a)にAにて示す)は、できるだけ短いことが好ましい。二方電磁弁34、35が継手29a、29bに直接接続されていれば、距離Aがより短くなるためより好ましい。
【0049】
ここで、距離Aの部分にあるニオイは、後述する洗浄工程において洗浄されずに残留しやすく、また残留したニオイは、他のニオイ提示時等にニオイライン11に流れ出してしまうおそれがある。しかし、距離Aが短ければ、この部分に残留するニオイの量を少なくできるため、複数種類のニオイが交互にニオイライン11に導入される場合に、これらのニオイが互いに混じることを防止できる。
【0050】
空気ポンプ23は、ニオイライン11中の気体を送出するポンプである。空気ポンプ23は、ニオイライン11中の気体に接する接気部分がテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂等により構成されていることが好ましい。これにより、空気ポンプ23にニオイが付着しにくいため、複数のニオイが互いに混じることをさらに防止できる。
【0051】
ここで、従来は、例えばMFC(mass flow controler)により気体の送出における流量の制御を行う場合があるが、MFCを動作させるためには高圧ガスの圧力源となる圧力ボンベ、コンプレッサー等、高圧ガスを用いる設備が必要である。このような設備は、安全管理のために設置に許可が必要であるなど、設置、管理等をすることが困難であるため、これらの設備を備える装置の取り扱いには困難が伴う。
【0052】
これに対し、本実施形態では、空気ポンプ23を備えているので、高圧ガスを用いる設備を設ける必要がないため、従来と比較して、取り扱いが容易な嗅覚刺激提示装置1を提供できる。
【0053】
バッファー24は、空気ポンプ23により送出される気体に生じる脈波を除去するための容器である。バッファー24としては、抵抗が小さいものであることが好ましい。
【0054】
外気取り込みライン16は、ニオイライン11に外気(洗浄ガス)を導入する流路であり、上流側の端は外部に向かって開口され、下流側の端はニオイライン11に継手29cを介して接続される。外気取り込みライン16には、二方電磁弁33が設けられており、二方電磁弁33が開いたときには、空気ポンプ23の作用により外部から外気が取り込まれる。取り込まれた外気は、ニオイライン11に導入される。
【0055】
本実施形態では、外気取り込みライン16が設けられているため、ニオイライン11内に外気を導入して洗浄することができる。なお、洗浄ガスは、提示される気体の性質に影響を及ぼさないものであれば、特に外気には限定されない。例えば提示される気体がニオイであれば、洗浄ガスは無臭の気体等であることが好ましく、また提示される気体が反応性を有するものであれば、洗浄ガスは不活性ガス、窒素等の反応性が低いものなどであることが好ましい。
【0056】
これにより、本実施形態では、提示用マスク20に複数種類のニオイを交互に提示する場合には、ニオイライン11に当該複数種類のニオイを交互に導入することになるが、それぞれのニオイを導入した後にニオイライン11内を洗浄することが可能であるため、当該複数種類のニオイを互いに混じることなく提示用マスク20に提示することができる。
【0057】
ニオイライン11内を洗浄する際には、ニオイライン11の下流側は排気ライン14に接続されていることが好ましい。これにより、ニオイライン11内を洗浄したガスを提示用マスク20に提示することを防止できる。
【0058】
無臭空気ライン12は、無臭空気(第2の気体)が導入される流路である。無臭空気ライン12の上流側の端には、無臭空気ライン12に無臭空気を導入する空気ポンプ22と、導入された無臭空気を活性炭に通すための活性炭槽27とが設けられている。空気ポンプ22としては、例えばコンプレッサー等を用いることができる。また、無臭空気ライン12中には気体の流量を調節するためのニードルバルブ38が設けられている。
【0059】
活性炭槽27は、活性炭を含む容器である。活性炭槽27により、無臭空気中に僅かに含まれている有臭成分等を除去することができる。例えば、空気ポンプ22が外気を取り込む際に、空気ポンプ22の内部のオイル等の有臭成分が無臭空気中に混入した場合に、これを除去することができる。このようにして生じた無臭空気流12aは、無臭空気ライン12を通って下流側へと導かれる。
【0060】
〔嗅覚刺激提示方法〕
次に、上述した嗅覚刺激提示装置1を用いてニオイを提示する嗅覚刺激提示方法について説明するとともに、本発明に係る気体提示方法について説明する。
【0061】
本実施形態における嗅覚刺激提示方法(気体提示方法)は、ニオイ提示工程(気体提示工程)とニオイライン洗浄工程(洗浄工程)とを有する。
【0062】
ニオイ提示工程とは、提示用マスク20にニオイを提示する工程である。また、ニオイライン洗浄工程とは、ニオイライン11を洗浄する工程である。ニオイ提示工程とニオイライン洗浄工程とは、以下に示すように三方電磁弁31、32、及び二方電磁弁33、34、35を調節することによって実現可能である。
【0063】
なお、ここでは、ニオイ提示工程及びニオイライン洗浄工程において、空気ポンプ22及び23は常に駆動しており、ニオイライン11及び無臭空気ライン12内の気体は常に流れている場合について説明するが、特にこれに限定されない。また、ニオイ袋21a、21bには、それぞれ提示するためのニオイが予め導入されていることが好ましい。
【0064】
ニオイ提示工程では、図1(b)に示すように、三方電磁弁31を、ニオイライン11と提示ライン13とを接続させるように調節し、三方電磁弁32を、無臭空気ライン12と排気ライン15とを接続させるように調節する。また、二方電磁弁34、35のいずれかを開くように調節する。例えば、ニオイ袋21a内のニオイを提示する場合には、二方電磁弁34を開き、それ以外の二方電磁弁35を閉じるように調節する。さらに、二方電磁弁33を閉じるよう調節する。これにより、ニオイライン11が提示ライン13に接続されるとともに、ニオイライン11にニオイが導入されるので、ニオイが提示用マスク20に導かれ、被験者に対して提示される。また、無臭空気ライン12に導入される無臭空気は、排気ライン15により排気される。
【0065】
ニオイライン洗浄工程では、図1(a)に示すように、三方電磁弁31を、ニオイライン11と排気ライン14とを接続させるように調節するとともに、三方電磁弁32を、無臭空気ライン12と提示ライン13とを接続させるように調節する。また、二方電磁弁34、35を閉じ、二方電磁弁33を開くように調節する。これにより、ニオイライン11と切り替えられて無臭空気ライン12が提示ライン13に接続されるので、無臭空気が提示用マスク20に導かれ、被験者に対して提示される。また、ニオイライン11には、外気取り込みライン16から外気が導入される。外気は、ニオイライン11を通って排気ライン14により排気される。これにより、ニオイライン11内を洗浄することができる。
【0066】
このように、ニオイライン洗浄工程では、提示用マスク20に無臭空気が提示されるため、ニオイライン11内を洗浄したガスを提示用マスク20に提示することを防ぐことができる。
【0067】
また、複数種類のニオイを交互に提示する場合には、上述したニオイ提示工程とニオイライン洗浄工程とを交互に行う。例えばニオイ袋21aに導入されたニオイを提示した後に、ニオイ袋21bに導入されたニオイを提示する場合には、ニオイ提示工程によりニオイ袋21a内のニオイを提示した後にニオイライン洗浄工程を行い、その後ニオイ提示工程によりニオイ袋21b内のニオイを提示することができる。また、その後再度ニオイライン洗浄工程を行った後、ニオイ提示工程によりさらに別のニオイ袋内のニオイを提示することもできる。これを繰り返すことにより、複数種類のニオイを互いに混じることなく提示用マスク20に交互に提示できる。
【0068】
また、ニオイ提示工程の前、例えばニオイライン洗浄工程後であってニオイ提示工程の直前に、前処理工程を行ってもよい。前処理工程では、三方電磁弁31を、ニオイライン11と排気ライン14とを接続させるように調節するとともに、三方電磁弁32を、無臭空気ライン12と提示ライン13とを接続させるように調節する。また、二方電磁弁34、35のいずれかを開くように調節する。例えば、その後のニオイ提示工程においてニオイ袋21a内のニオイを提示する場合には、二方電磁弁34を開くように調節する。さらに、二方電磁弁33を閉じるよう調節する。これにより、無臭空気ライン12が提示ライン13に接続されるとともに、ニオイライン11が排気ライン14に接続され、ニオイライン11にニオイ袋21a内のニオイが導入される。したがって、ニオイライン11内にニオイを予め導入し、いわゆるニオイによるとも洗いをすることができるので、その後のニオイ提示工程において効率よくニオイを提示することができる。
【0069】
本実施形態における嗅覚刺激提示方法の一例について図2を参照して説明する。図2は、本発明の一実施形態における嗅覚刺激提示方法の一例を示す図である。なお、図2は、複数種類のニオイを交互に提示する場合において、そのうちの1つのニオイを提示するニオイ提示工程、及びその前後のニオイライン洗浄工程のみを示す。
【0070】
図2の時間tまでは、あるニオイ袋内のニオイを提示するニオイ提示工程の前の、ニオイライン洗浄工程を行う。これは、例えばさらにその前のニオイ提示工程において提示したニオイを洗浄するために行うものである。このときには、被験者には無臭空気が提示され、ニオイライン11内には外気が導入されている。
【0071】
次に時間tからtの間に、前処理工程Bを行う。このときには、被験者には無臭空気が提示されたままであり、ニオイライン11内には、次のニオイ提示工程において提示するニオイが導入される。
【0072】
次に時間tからtの間に、ニオイ提示工程を行う。このときには、被験者にはニオイが提示され、ニオイライン11内にはニオイが導入される。
【0073】
次に時間t以降に、ニオイライン洗浄工程を行う。このときには、被験者には無臭空気が提示され、ニオイライン11内には外気が導入される。
【0074】
このように、ニオイライン11内にニオイを通過させるニオイ提示工程及び前処理工程以外の時間は、ニオイライン洗浄工程をし続けることが好ましい。これにより、ニオイライン11内にニオイを通過させる時間を最小限に抑えることができるとともに、ニオイライン11を効率よく洗浄できるため、複数種類のニオイを互いに混じることなく提示することができる。
【0075】
ニオイ等の嗅覚を刺激する気体は、極めて低濃度(例えばppm、ppbのオーダー)であっても生物により感知される可能性が高い。それゆえに、複数種類のニオイ等を交互に提示する嗅覚刺激提示装置においては、互いのニオイが混じらないように、装置内に残留するニオイをできる限り除去することが重要である。本発明は、上述したような気体の提示機構及び提示のタイミングにより、提示される複数種類の気体を互いに混じらないように提示することを可能にするものである。
【0076】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、複数種類の気体を互いに混じることなく提示できるので、例えば有臭気体等の嗅覚刺激を調査する必要性がある産業分野など、気体を提示する必要性がある産業分野に利用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 嗅覚刺激提示装置(気体提示装置)
2a、2b ニオイ導入部(第1の気体導入手段)
10 接続部(接続手段)
11 ニオイライン(第1の流路)
12 無臭空気ライン(第2の流路)
16 外気取り込みライン(洗浄ガス導入手段)
17、18 ニオイ導入ライン(第3の流路)
20 提示用マスク(提示部)
21a、21b ニオイ袋(容器)
23 空気ポンプ(ポンプ)
28a、28b 注入口
29a、29b 継手
31 三方電磁弁(第1の接続弁)
32 三方電磁弁(第2の接続弁)
34、35 二方電磁弁(開閉弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の気体を提示するための提示部と、当該第1の気体を当該提示部に導入する第1の流路と、当該第1の流路に当該第1の気体を導入する第1の気体導入手段とを備えた気体提示装置であって、
上記第1の流路と、第2の気体が導入される第2の流路とを上記提示部に接続する接続手段を備え、
上記接続手段は、上記第1の流路内の流体を上記提示部に導入するか否かを制御する第1の接続弁と、上記第2の流路内の流体を上記提示部に導入するか否かを制御する第2の接続弁と、を備えており、
上記第1の流路には、上記第1の流路に洗浄ガスを導入する洗浄ガス導入手段が設けられていることを特徴とする気体提示装置。
【請求項2】
上記第1の気体導入手段を複数備え、
複数の上記第1の気体導入手段が、異なる種類の上記第1の気体をそれぞれ上記提示部に提示することを特徴とする請求項1に記載の気体提示装置。
【請求項3】
上記第1の気体導入手段は、
上記第1の気体が導入される容器と、
上記容器内の上記第1の気体を上記第1の流路内に導く第3の流路と、
上記第3の流路に設けられた開閉弁とにより構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の気体提示装置。
【請求項4】
上記容器には、注射器により流体を注入するための注入口が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の気体提示装置。
【請求項5】
上記第3の流路は、上記第1の流路と継手を介して接続されており、
上記開閉弁は、上記継手に直接接続されていることを特徴とする請求項3または4に記載の気体提示装置。
【請求項6】
上記第1の流路内の気体を送出するポンプをさらに備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の気体提示装置。
【請求項7】
第1の流路を提示部に接続するとともに当該第1の流路に第1の気体を導入して、当該提示部に当該第1の気体を提示する気体提示工程を有する気体提示方法であって、
上記気体提示工程の後に、上記第1の流路と切り替えて、第2の流路を上記提示部に接続するとともに当該第2の流路に第2の気体を導入し、かつ上記第1の流路に洗浄ガスを導入する、洗浄工程を有していることを特徴とする気体提示方法。
【請求項8】
上記気体提示工程の前に、上記第2の流路を上記提示部に接続するとともに、上記第1の流路に上記第1の気体を導入する前処理工程を行うことを特徴とする請求項7に記載の気体提示方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−75389(P2011−75389A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226724(P2009−226724)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「2009年度日本味と匂学会第43回大会」 発行日 平成21年9月2日〜4日 発行所 日本味と匂学会
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】