説明

気体測定用装置

【課題】任意温度や任意雰囲気に置かれた材料から放散される化学物質放散量が測定可能な気体測定用装置を提供する。
【解決手段】被測定物12と第1気体流通手段1および第2気体流通手段2と、流通気体を供給する第1気体供給手段3および第2気体供給手段4と、流通気体を浄化する第1気体浄化手段5および第2気体浄化手段6と、流通気体の流量を制御する第1流量制御手段7および第2流量制御手段8と、第1気体流通手段1および第2気体流通手段2から流出する気体を捕集する第1気体捕集手段9および第2気体捕集手段10と、被測定物12を温度制御する温度制御手段11を備える構成とすることにより、雰囲気や温度および供給気体流量あるいは被測定物面積などを変化させた時の被測定物12からの放散ガスを捕集することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭用機器などに使用される材料から揮発する化学物質放散量を測定するための気体測定用装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の揮発性化合物量の測定は、被測定物を一定容積の容器に設定し、所定の温湿度において一定の換気条件の下、気体中の化学物質量を定性定量分析することで行われ、これに必要な気体測定用装置は、温度や不純物濃度などの所定の測定条件を満足するために、測定対象となる物体(被測定物)を設置する容器を備え、また容器内部とその容器を設置する空間の気体浄化や温湿度制御が可能な手段を有している(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
図3は、非特許文献1に記載された従来の気体測定用装置を示すものである。図3に示すように、従来の気体測定用装置は、所定の内部体積を有する容器13と、空気供給手段14と、空気清浄手段15と、流量制御手段16、温度制御手段17、空調手段18などから構成されている。
【0004】
被測定物からの揮発性化合物の放散量は、温度によって変化するため、測定時の温度は重要な要因であり、可能な限り一定に維持しなければならない。従って、気体測定用装置において温度制御手段は重要な構成要素となっている。
【0005】
また従来の気体測定用装置によれば、単一材料だけでなく複数の材料や部品から構成される物品からの化学物質量の測定も可能である。
【非特許文献1】監修 村上周三、編集委員長 田辺新一、「シックハウス対策に役立つ小型チャンバー法 解説[JIS A 1901]」、日本規格協会発行、2003年4月21日、P.37−51
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような気体測定用装置を必要とする分野は多岐にわたり、例えば種々の家庭用機器において、それらを構成する材料や部品等からの化学物質放散量を求める必要性が高まっている。それらの中には、プラスチック成型品や表面処理を施した材料などがあり、材料温度や雰囲気条件によって放散物質の量や種類が異なる。
【0007】
これに対して上記従来の装置構成では、種々の材料からの化学物質放散量を測定することは可能であるが、昇温状態での放散量や、あるいは大気や室内空気とは異なる雰囲気での化学物質放散量を測定するには、十分な対応がなされていなかった。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、目的とする材料について、任意温度や任意雰囲気で放散される化学物質や、その放散量を測定できる気体測定用装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の気体測定用装置は、被測定物と第1気体流通手段および第2気体流通手段と、流通気体を供給する第1気体供給手段および第2気体供給手段と、流通気体を浄化する第1気体浄化手段および第2気体浄化手段と、流通気体の流量を制御する第1流量制御手段および第2流量制御手段と、前記第1気体流通手段および第2気体流通手段から流出する気体を捕集する第1気体捕集手段および第2気体捕集手段と、被測定物温度を制御する温度制御手段を備える構成としたものである。
【0010】
これによって、被測定物から放散される化学物質やその放散量を、任意温度あるいは任意雰囲気の条件の下で求めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の気体測定用装置は、被測定物に対する気体供給手段や温度制御手段を備えることにより、任意の材料を種々の雰囲気に配置した時、あるいは昇温させた時に放散される化学物質の特定や量的評価が可能となり、化学物質放散による材料の特性変化の抑制や、化学物質放散量の低減化など環境保全分野等での有効な技術開発に役立てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
第1の発明は、被測定物と第1気体流通手段および第2気体流通手段と、流通気体を供給する第1気体供給手段および第2気体供給手段と、流通気体を浄化する第1気体浄化手段および第2気体浄化手段と、流通気体の流量を制御する第1流量制御手段および第2流量制御手段と、第1気体流通手段および第2気体流通手段から流出する気体を捕集する第1気体捕集手段および第2気体捕集手段と、被測定物温度を制御する温度制御手段を備える構成とすることにより、任意の気体に暴露し、かつ任意温度に設定された被測定物からの放散物質を流通気体と共に捕集することができる。
【0013】
第2の発明は、特に第1の発明の気体測定用装置で、第1気体流通手段および第2気体流通手段を、石英ガラスあるいは表面を不活性化処理したガラスあるいは表面を不活性化した金属あるいはフッ素樹脂などの耐熱性の管状材料で構成することにより、捕集する気体への不純物の混入を低減化できる。
【0014】
第3の発明は、特に第1または第2の発明の気体測定用装置で、第1気体供給手段および第2気体供給手段は、被測定物の表面近傍を不活性雰囲気あるいは還元性雰囲気あるいは酸化性雰囲気など任意の雰囲気に制御可能な気体を供給する構成とすることにより、
大気や室内空気とは異なる雰囲気での被測定物質からの放散物質を捕集することができる。
【0015】
第4の発明は、特に第1から第3の発明の気体測定用装置で、第1気体供給手段および第2気体供給手段から種類が異なる気体を供給する構成とすることにより、一つの被測定物に対して、異なる雰囲気条件で放散される物質を同時に捕集することができる。
【0016】
第5の発明は、特に第1〜第4の発明の気体測定用装置で、被測定物の温度を昇温させることで、最終設定温度に至るまでの各温度毎に被測定物からの放散物質を捕集することが可能となる。
【0017】
第6の発明は、特に第1から第4の発明の気体測定用装置で、被測定物を昇温させ、最終昇温温度に至った後、被測定物温度をステップ状に降温させ最終降温温度に至らせることにより、最終設定温度に至るまでの各温度毎に被測定物からの放散物質を捕集することが可能となる。
【0018】
第7の発明は、特に第1から第4の発明の気体測定用装置で、被測定物の昇温降温過程を繰り返し反復することにより、各温度毎に被測定物からの放散物質を繰り返し捕集することが可能となる。
【0019】
第8の発明は、特に第1から第4の発明の気体測定用装置で、供給気体を不活性気体から還元性気体に可変可能とすることにより、それぞれの雰囲気での放散物質の変化を知ることが可能となる。
【0020】
第9の発明は、特に第1から第4の発明の気体測定用装置で、供給気体を不活性気体から酸化性気体に可変可能とすることにより、それぞれの雰囲気での放散物質の変化を知ることが可能となる。
【0021】
第10の発明は、特に第1から第9の発明の気体測定用装置で、被測定物が供給気体に暴露される面積を任意に設定できる構成することにより、放散物質の面積依存性や表面状態への依存性を知ることができる。
【0022】
第11の発明は、特に請求項3、4、8、9の発明の気体測定用装置で、不活性気体を、ヘリウム、窒素、アルゴンのいずれか1種としたことにより、被測定物を不活性雰囲気に置くことが可能となる。
【0023】
第12の発明は、特に請求項3または4または8の発明の気体測定用装置で、還元性気体を、水素あるいは一酸化炭素を不活性気体中に所定濃度で混合した気体としたことにより、被測定物を還元性雰囲気に置くことが可能となる。
【0024】
第13の発明は、特に請求項3または4または9の発明の気体測定用装置で、酸化性気体を、酸素を不活性気体中に所定濃度で混合した気体としたことにより、被測定物を酸化性雰囲気に置くことが可能となる。
【0025】
第14の発明は、特に第1から第13の発明の気体測定用装置で、第1流量制御手段および第2流量制御手段によって気体の流量を増減させることにより、被測定物の表面近傍への気体供給量と放散物質の相関を知ることが可能となる。
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における気体測定用装置の模式的構成図であり、図2は、同じく気体測定用装置の第1および第2気体流通手段の模式的構成図である。
【0028】
図1において、第1気体流通手段1と第2気体流通手段2とは、被測定物12に対して被測定物12表面の両側から挟むように配置され被測定物12を固定する。この時、被測定物12との接触部は、気体の流出入が最小になるように可能な限り空隙を小さくする。
【0029】
第1気体流通手段1の上流側に第1気体供給手段3および第1流量制御手段7と第1気体浄化手段5が配置され、同様に、第2気体流通手段2の上流側に第2気体供給手段4および第1流量制御手段8と第1気体浄化手段6が配置され、それぞれの気体流通手段に対して、任意流量に制御した清浄気体を供給する。
【0030】
第1気体流通手段1の下流側には第1気体捕集手段9と、第2気体流通手段2の下流側には第2気体捕集手段10が配置され、被測定物12からの放散物質を含んだ流通気体をそれぞれの捕集手段で採取する。被測定物12は温度制御手段11によって加熱昇温され任意温度に制御される。
【0031】
図2において、第1気体流通手段1は、気体流入管1aから清浄気体が流入し、気体噴出し口1bから清浄気体が被測定物12の表面近傍に流出拡散する。保護管1fは、被測定物12を挟むように固定する他、その内部で清浄気体と放散物質が混合拡散し、気体流出管1cを経由して気体流出口1dと気体捕集口1eに移動する。第2流通手段2の構成も同様である。
【0032】
被測定物12からの放散物質を捕集するには、被測定物以外から放散される不純物の混入を可能な限り抑制しなければならない。従って、第1気体流通手段1と第2気体流通手段2とは、表面を清浄にした石英ガラスや不活性化処理したガラスあるいは不活性化処理した金属、さらにはフッ素樹脂などの耐熱性の材料を使用することが好ましい。不活性処理は良好な酸化ケイ素被膜を形成するなど化学物質に対する吸着性が低いものが良い。また、第1気体流通手段1と第2気体流通手段2の形状は気体を流通させるのに適した管状にすれば、気体の偏流抑制と均一拡散に有効である。
【0033】
同様に、不純物による汚染抑制の目的で、本装置を構成する第1気体流通手段1と第2気体流通手段2以外の気体流路について、石英もしくはポリテトラフルオロエチレン、あるいは内面を不活性処理したガラスまたはステンレス等の管状材料で構成することが望ましい。
【0034】
また、気体流路の接合部についても、汚染を抑制できる素材もしくは抑制可能な手段を用いて構成しなければならない。また、第1流量制御手段7と第2流量制御手段8が第1気体流通手段1と第2気体流通手段2の上流側に配置されているので、流量制御手段の下流側での流量の安定性を確保するために、流路各部での気体の漏れがないようにしなければならない。
【0035】
気体噴出し口1b,2bから流出した気体は、被測定物12からの放散物質と共に気体流通手段の流路内に拡散する。被測定物12からの放散量は、表面近傍の気体流速の影響を受けるため、噴出し口は、被測定物12の表面から適正な距離をおいて配置することが望ましい。特に流速が大なる場合は、気体噴出し口1b,2bと被測定物12表面の間に気流拡散板を設けてもよい。また、噴出し口の面積を広くし流速を小さくしてもよい。これらは、気体流れの均一化にも有効である。
【0036】
第1気体供給手段3と第2気体供給手段4は、高圧ガスボンベあるいはエアポンプなど圧送式のものでよい。いずれの場合も、気体流路内の圧力は、大気レベルとなるようにする。図1の構成では、流路の終端が開放であるので、圧力は概ね大気レベルに維持できる。
【0037】
供給気体が空気の場合は、大気或いは室内空気を供給源にしてよい。エアポンプは市販のものでよい。高圧ガスボンベは、気体の質が安定している点で有効である。不活性雰囲気あるいは還元性雰囲気あるいは酸化性雰囲気を用いる場合は、高圧ガスボンベの使用が適している。
【0038】
被測定物12から放散される物質は、被測定物12の表面状態や雰囲気によって影響を受けることがあるので、種々の雰囲気条件における放散の差異を明らかにすることは有用である。従って、第1気体供給手段1と第2気体供給手段2は、不活性気体あるいは還元性気体あるいは酸化性気体などを任意に混合制御し供給できることが好ましい。
【0039】
不活性気体は、ヘリウム、窒素、アルゴンのいずれか、還元性気体は、水素あるいは一酸化炭素を不活性気体中に所定濃度で混合した気体、酸化性気体は、酸素を不活性気体中に所定濃度で混合した気体などであれば利便性が高い。
【0040】
また、第1気体流通手段1および第2気体流通手段2とは、それぞれの流路が独立していることから、それぞれ異なる種類の気体を供給してよい。これによって、被測定物12の相対する表面を、同時に異なる雰囲気に暴露することができる。この場合、被測定物12内部の気体拡散や貫通孔などによる双方の流路内への気体漏洩がないようにする。
【0041】
第1流量制御手段7および第2流量制御手段8は、調整バルブ付フロート式流量計、あるいはそれと同等のものでよい。流量計によっては、供給気体を汚染することがあるので注意が必要である。
【0042】
第1気体浄化手段5および第2気体浄化手段6は、供給気体中の不純物成分を除去するために配置する。除去方式は、活性炭等の吸着剤を用いた吸着除去方式もしくは同等の手段でよい。その場合、予め気体流量と除去効率を評価し、高い除去率を長時間維持できるだけの吸着剤を使用するなどの工夫が必要である。具体的には、石英管やステンレス管などの筐体内に顆粒状活性炭を適量充填し、粉塵飛散防止のためのフィルターを浄化手段の出入り口に設置したものである。
【0043】
被測定物12から放散される物質量は、被測定物12の温度によって変化する。一般的には、温度の上昇と共に放散量が増加する。従って、温度制御手段11によって被測定物温度を加熱昇温させ、所定の温度に維持制御することが有用である。昇温過程は、一般的な制御方法で問題はなく、ステップ状の昇温制御でよい。また昇温後は、温度制御手段11で温度降下させ、昇温過程との比較を行うことも好ましい。
【0044】
さらに、昇温過程と降温過程とを反復して繰り返すことによって、放散量の変化をより詳細に知ることは実用面からみても有効な知見を得ることができるので有用である。
【0045】
前述したように、被測定物12から放散される物質は、雰囲気によって影響を受ける可能性があることから、第1気体供給手段1と第2気体供給手段2から供給する気体の種類を、時間的に変化させることが有用になる。例えば、はじめに不活性気体を供給し、所定時間の経過後に、還元性気体に切り替えるるあるいは酸化性気体に切り替えれば、雰囲気の変化による放散物質の変化を知ることになる。
【0046】
被測定物12からの放散物質量は、一般的には被測定物12の面積に比例する。従って、保護管1fと保護管2fとが、被測定物12と接する面の間に、面積の異なるスペーサを挿入し、被測定物12の供給気体への露出面積を変化させることで、放散量の面積依存性を知ることができる。
【0047】
被測定物12から放散される物質量は、被測定物12表面近傍の気体の流速によって変化するので、第1気体供給手段1と第2気体供給手段2から供給する気体の流量を、それぞれ第1流量制御手段7と第2流量制御手段8によって増減することで、放散量の流量依存性を知ることができる。
【0048】
放散量は、流速に比例することが一般的である。これは、放散物質の気体中の分圧の大小が、放散速度に影響することによる。分圧の大小と、放散速度の大小は逆比例する。従って、例えば放散量を増大させるには、気体流速を大きくして、気体中に拡散した放散物質の分圧を小さくすればよい。
【0049】
第1気体捕集手段9と第2気体捕集手段10は、定量吸引が可能な吸引ポンプもしくは同等品でよい。化学物質は捕集剤に捕集し、その定性定量分析は、ガスクロマトグラフ−質量分析装置などを用いて行う。
【0050】
供給する気体流量は、気体捕集手段の吸引量以上に設定し、気体流出口1d,2dからは気体が常時流出している状態を維持し、流量超過分のベント流路とする。
【0051】
以上のように構成された気体測定用装置について、以下その動作、作用を説明する。
【0052】
放散は、被測定物12を構成する材料からの揮発性物質の周辺気体中への揮発によっておこるが、それら揮発物質は主に被測定物12の最表面および表面近傍から放散される。しかし、被測定物12の形状や表面および内部構造によっては、内部からの放散も十分に考えられる。そのような挙動を知ることは、放散物質の抑制を意図するような場合に特に重要となる。
【0053】
そのために、被測定物12を第1気体流通手段1と第2気体流通手段2との間に、図2のように配置する。第1気体流通手段1と第2気体流通手段2の被測定物12との接触部は、フランジ形状を設けるなど、固定しやすい構造にすることが好ましい。また、被測定物12の形状は、平板上であれば容易に固定しやすいが、それ以外の形状の場合、被測定物12の固定用品を作成し利用すればよい。いずれの場合も、第1気体流通手段1と第2気体流通手段2によって設けられる被測定物12の両側につくられた空間にある気体が混合しない様にしなければならない。
【0054】
本装置にある第1気体流通手段1と第2気体流通手段2を含む全ての気体流路は、気体中への不純物混入を防止する、あるいは抑制するために、揮発物が少ない材料で構成する。また、気体中の化学物質が気体流路表面に吸着しないように、可能な限り不活性な材料を用いなければならない。これらのことによって、被測定物12からの放散物質の測定誤差を少なくできる。
【0055】
使用に適した材料は、石英ガラスや表面を不活性化処理したガラスあるいは表面を不活性化処理した金属または、ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂などである。被測定物12を昇温させるので耐熱性を有することも必要である。
【0056】
不純物の混入は、好ましくないので予め本装置がもつ不純物量を評価しておくことが好ましい。これには、被測定物12として石英ガラスやステンレスなど放散性が低い材料を使用するとよい。被測定物12からの放散を可能な限り少量にすることで本装置自身の流路内の評価が可能である。この状態を、本装置のブランクとして扱うことも可能となる。
【0057】
被測定物12には、樹脂成型品や金属成型品など多様な材料を使うことができる。コーティングのような表面処理を施すことに対しても問題はない。ただし、材料以外の物質が付着あるいは混入することのない様にしなければならない。
【0058】
供給気体は通常は空気でよいが、これに限定しない。第1気体流通手段1の上流側に第1気体供給手段3および第1流量制御手段7と第1気体浄化手段5が配置され、同様に、第2気体流通手段2の上流側に第2気体供給手段4および第1流量制御手段8と第1気体浄化手段6が配置されており、それぞれの気体流通手段には、任意流量に制御された清浄気体が供給される。空気の場合は、大気あるいは室内空気を利用できる。
【0059】
本装置の気体流路内部を不活性雰囲気にするには、ヘリウム、窒素、アルゴンのような不活性気体を高圧ガス容器から供給すればよい。被測定物12の化学的変化を抑制したい時には、特に有効である。また、特定物質と被測定物12との相互作用による放散物質への影響を評価したい場合に、不活性気体中に特定物質を拡散供給することもできる。
【0060】
本装置の気体流路内部を還元性雰囲気にするには、水素や一酸化炭素の使用が可能である。使用時の安全性の点を考慮すると、水素は不活性気体で適正濃度に希釈して供給する方が良い。また、一酸化炭素の場合も同様に、不活性気体で適正濃度に希釈して供給する方が良い。ただし、一酸化炭素は空気で希釈して使用してもよい。
【0061】
本装置の気体流路内部を酸化性雰囲気にするには、酸素を利用するが、この場合も不活性気体で適正濃度に希釈して供給することになる。空気でも良いが、酸素濃度依存性を知るには前者のような濃度調整した気体がよい。
【0062】
また、第1気体流通手段1および第2気体流通手段2とは、それぞれの流路が独立していることから、それぞれ異なる種類の気体を被測定物12に供給できる。例えば、第1気体流通手段1は不活性雰囲気に、第2気体流通手段2は酸化性雰囲気にすることで、被測定物12の相対する表面を、同時に異なる雰囲気に暴露して、各雰囲気中での放散挙動を知ることができる。これは、それぞれの雰囲気に対して被測定物12の個体を代えて行うことなく、同一個体でできるので測定の効率化の点からも有効である。ただし、被測定物12内部の気体拡散や貫通孔などによる双方の流路内への気体漏洩がないようにしなければならない。
【0063】
さらに、被測定物12の状態によっては、同一表面からの放散挙動を、雰囲気を代えて知ることが必要な場合もあるため、第1気体流通手段1および第2気体流通手段2のそれぞれにおいて、複数の供給気体を連続して切り替える構成とすることも可能である。この場合は、はじめに不活性気体に暴露させ、その後、還元性気体もしくは酸化性気体に切り替える方が好ましい。これは、還元性気体および酸化性気体によって、被測定物12が不可逆的な化学変化を生じる可能性を否定できないことによる。
【0064】
本装置は、流通系であるが、供給気体流量は、調整バルブ付フロート式流量計を使用した第1流量制御手段7と第2流量制御手段8によって第1気体流通手段1および第2気体流通手段2の内部が所定の換気回数になるように調整する。これによって、被測定物12表面での雰囲気気体の流速を可変制御して、放散量の流速依存性を知ることができる。
【0065】
流通系とする他の理由は、放散物質の雰囲気中における分圧の過剰な上昇や飽和を防ぐためである。分圧が高い状態は、被測定物12からの放散速度の抑制を生じるため、放散量を知るには不適切であるといえる。これを回避するには、供給気体の流量によって被測定物12からの放散物質を外部へ移動させる必要がある。これに対して流通系が有効に機能する。
【0066】
放散は、被測定物表面近傍あるいは内部からの化学物質の揮発であるから、温度への依存性は強い。従って、被測定物12の使用上限温度以下で、放散挙動を知ることは実用面で重要である。
【0067】
温度制御手段11によって被測定物12を任意温度に保持制御する場合、まず室温において雰囲気を安定させた後、温度変化させることが望ましい。温度変化に際しては、第1気体流通手段1および第2気体流通手段2と被測定物12の接触部において、外部からの気体の混入が発生しない様にしなければならない。従って、気体流出口1d,2dからは、特に気体捕集口1e,2eからの捕集量も考慮して、常に気体が流出している状態を保たねばならない。
【0068】
第1気体流通手段1および第2気体流通手段2に流通する放散物質を含む気体は、気体捕集口1e,2eに配置した第1気体捕集手段9および第2気体捕集手段10によって捕集剤に捕集され、捕集後に化学物質の定性定量評価がなされる。捕集剤は、揮発性有機化合物に対して市販されているTENAXあるいは活性炭などがある。捕集気体の分析は、一般的に揮発性有機化合物にはガスクロマトグラフ−質量分析装置(GCMS)を使用する。その具体方法は、JIS A 1901などを参照できる。
【0069】
自明であるが、同一材料の場合、その放散量は、放散面積に比例する。単位面積あたりの放散量を知る場合、被測定物12としての面積を変えることも有効である。但し、面積が大きくなると、揮発物質の分圧が高まり、放散量を抑制するほど高くなることが考えられるので、面積可変領域について適正範囲を考慮しなければならない。
【0070】
以上説明したような種々の条件下での化学物質放散の時間変化を追跡することも有効である。
【0071】
以上のように、本実施の形態においては、被測定物12に対して第1気体流通手段1と第2気体流通手段2とで、雰囲気や温度、供給気体流量、被測定物面積を可変制御することで、被測定物12から放散される化学物質の捕集と定性定量分析ができる。これによって、種々の材料に起因する放散物質の定性的あるいは定量的な相関関係が明らかになる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、本発明にかかる気体測定用装置は、種々の条件下での材料が放散する化学物質を測定できるので、放散量の低減化など環境保全分野での有効な技術開発やその評価等、様々の用途展開ができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態1における気体測定用装置の模式的構成図
【図2】本発明の実施の形態1における気体測定用装置の一部拡大模式図
【図3】従来の気体測定用装置の概略構成図
【符号の説明】
【0074】
1 第1気体流通手段
1a 気体流入管
1b 気体噴出し口
1c 気体流出管
1d 気体流出口
1e 気体捕集口
1f 保護管
2 第2気体流通手段
2a 気体流入管
2b 気体噴出し口
2c 気体流出管
2d 気体流出口
2e 気体捕集口
2f 保護管
3 第1気体供給手段
4 第2気体供給手段
5 第1気体浄化手段
6 第2気体浄化手段
7 第1流量制御手段
8 第2流量制御手段
9 第1気体捕集手段
10 第2気体捕集手段
11 温度制御手段
12 被測定物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物と第1気体流通手段および第2気体流通手段と、流通気体を供給する第1気体供給手段および第2気体供給手段と、流通気体を浄化する第1気体浄化手段および第2気体浄化手段と、流通気体の流量を制御する第1流量制御手段および第2流量制御手段と、前記第1気体流通手段および第2気体流通手段から流出する気体を捕集する第1気体捕集手段および第2気体捕集手段と、被測定物温度を制御する温度制御手段を備えた気体測定用装置。
【請求項2】
第1気体流通手段および第2気体流通手段は、石英ガラスあるいは表面を不活性化処理したガラスあるいは表面を不活性化した金属あるいはフッ素樹脂などの耐熱性の管状材料で構成される請求項1記載の気体測定用装置。
【請求項3】
第1気体供給手段および第2気体供給手段は、被測定物の表面近傍を不活性気体あるいは還元性気体あるいは酸化性気体など任意の雰囲気に制御可能な気体を供給する請求項1または2に記載の気体測定用装置。
【請求項4】
第1気体供給手段および第2気体供給手段から種類が異なる気体を供給する請求項1から3のいずれか1項に記載の気体測定用装置。
【請求項5】
被測定物の温度を昇温させる請求項1から4のいずれか1項に記載の気体測定用装置。
【請求項6】
被測定物を昇温させ、最終昇温温度に至った後、被測定物温度を降温させ最終降温温度に至らせる請求項1から4のいずれか1項に記載の気体測定用装置。
【請求項7】
被測定物の昇温降温過程を繰り返し反復する請求項1から4のいずれか1項に記載の気体測定用装置。
【請求項8】
供給気体を不活性気体から還元性気体に可変可能な請求項1から4のいずれか1項に記載の気体測定用装置。
【請求項9】
供給気体を不活性気体から酸化性気体に可変可能な請求項1から4のいずれか1項に記載の気体測定用装置。
【請求項10】
被測定物が供給気体に暴露される面積を任意に設定できる請求項1から9のいずれか1項に記載の気体測定用装置。
【請求項11】
不活性気体は、ヘリウム、窒素、アルゴンのいずれか1種である請求項3、4、8、9のいずれか1項に記載の気体測定用装置。
【請求項12】
還元性気体は、水素あるいは一酸化炭素を不活性気体中に所定濃度で混合した気体である請求項3または4または8のいずれか1項に記載の気体測定用装置。
【請求項13】
酸化性気体は、酸素を不活性気体中に所定濃度で混合した気体である請求項3または4または9のいずれか1項に記載の気体測定用装置。
【請求項14】
第1流量制御手段および第2流量制御手段によって気体の流量を増減させる請求項1から3のいずれか1項に記載の気体測定用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−139353(P2010−139353A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315377(P2008−315377)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】