説明

気体状の炭化水素中の窒素酸化物の測定方法及びそれを利用したオレフィン含有炭化水素の製造方法

【課題】気体状の炭化水素中の窒素酸化物の濃度を精度良く且つ簡便に測定する方法を提供する。
【解決手段】気体状の炭化水素を、酸化剤が充填された固相カラムに500〜10000h-1の空間速度で導入して、前記気体状の炭化水素中の一酸化窒素を二酸化窒素に変換する工程と、前記固相カラムの出口ガスを、二酸化窒素を吸収して発色する吸収発色液に導入する工程と、前記吸収発色液に対して吸光分析を行って、前記気体状の炭化水素中の窒素酸化物の濃度を求める工程とを含むことを特徴とする、気体状の炭化水素中の窒素酸化物の測定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体状の炭化水素中の窒素酸化物の測定方法及びそれを利用したオレフィン含有炭化水素の製造方法に関し、特には、気体状の炭化水素中の窒素酸化物の濃度を精度良く且つ簡便に測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油精製における流動接触分解で副生するオフガスには、エチレン、プロピレン等のオレフィン留分が含まれており、該オフガスをエチレン製造プラントに供給して、オフガス中のオレフィン留分を回収・利用することが提案されている。流動接触分解で副生するオフガスは、各種吸着塔を経て、硫黄化合物を除去された後、脱水・深冷系において、水素と一部のメタンが分離され、メタン、エチレン、プロピレン等を含む軽質ガスとなる。しかしながら、該軽質ガスは、メタン、エチレン、プロピレン等に加えて、窒素酸化物を含み、エチレン製造プラントの深冷分離装置に蓄積するおそれがあり(下記特許文献1参照)、オレフィン含有ガスからの酸素、酸化窒素、アセチレン、及びジエンの除去方法も提案されている(下記特許文献2参照)。窒素酸化物が深冷分離装置に供給されると、爆発性のあるガムを形成し、これが深冷系に堆積してしまうおそれがあるため、エチレン製造プラントに供給する前に、上記軽質ガス中の窒素酸化物の濃度を測定する必要がある。
【0003】
従来、大気中の窒素酸化物の濃度を測定する方法としては、JIS B 7982、JIS K 0104等の規格が知られており、該規格の中に記載のザルツマン吸光光度法(ザルツマン法)が、上記軽質ガス中の窒素酸化物の濃度の測定にも採用されている。そして、該ザルツマン法においては、上記軽質ガスを吸収発色液(ザルツマン溶液)に通し、該吸収発色液が軽質ガス中の二酸化窒素を吸収して発色し、得られた発色液の吸光度を測定して軽質ガス中の二酸化窒素濃度を測定している。
【0004】
なお、上記軽質ガス中には、窒素酸化物として、二酸化窒素に加え一酸化窒素も含まれるが、ザルツマン法においては、直接的には、軽質ガス中の二酸化窒素の濃度しか測定できない。そのため、上記吸収発色液を通したガスを濃硫酸に通して、ガス中のオレフィン分を除去し、更に過マンガン酸カリウム溶液を通して、ガス中の一酸化窒素を二酸化窒素に酸化し、その後、別の吸収発色液(ザルツマン溶液)に通し、発色液の吸光度を測定して軽質ガス中の一酸化窒素濃度を測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−307133号公報
【特許文献2】国際公開第2008/023051号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JIS B 7982
【非特許文献2】JIS K 0104
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記オレフィン分の吸収処理や、一酸化窒素の二酸化窒素への酸化処理には、多量の濃硫酸及び過マンガン酸カリウム溶液を要し、分析に使用した廃液の処理が問題となる。また、上記の方法では、分析に使用した試薬中に含まれていた窒素化合物が二酸化窒素として検出され、精度の良い分析ができないという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、気体状の炭化水素中の窒素酸化物の濃度を精度良く且つ簡便に測定する方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる窒素酸化物濃度の測定方法を利用したオレフィン含有炭化水素の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、測定対象の気体状炭化水素を、酸化剤が充填された固相カラムに特定の空間速度で導入することで、気体状炭化水素中の一酸化窒素を二酸化窒素に簡便に変換でき、その後、二酸化窒素を吸収して発色する吸収発色液に通して、発色した吸収発色液の吸光度を測定することで、測定対象の気体状炭化水素中の窒素酸化物の濃度を精度良く且つ簡便に測定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明の気体状の炭化水素中の窒素酸化物の測定方法は、
気体状の炭化水素を、酸化剤が充填された固相カラムに500〜10000h-1の空間速度で導入して、前記気体状の炭化水素中の一酸化窒素を二酸化窒素に変換する工程と、
前記固相カラムの出口ガスを、二酸化窒素を吸収して発色する吸収発色液に導入する工程と、
前記吸収発色液に対して吸光分析を行って、前記気体状の炭化水素中の窒素酸化物の濃度を求める工程と
を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の窒素酸化物の測定方法は、
気体状の炭化水素を、二酸化窒素を吸収して発色する第一吸収発色液に導入する工程と、
前記第一吸収発色液に対して吸光分析を行って、前記気体状の炭化水素中の二酸化窒素の濃度を求める工程と、
前記第一吸収発色液を通過したガスを、酸化剤が充填された固相カラムに500〜10000h-1の空間速度で導入して、前記第一吸収発色液を通過したガス中の一酸化窒素を二酸化窒素に変換する工程と、
前記固相カラムの出口ガスを、二酸化窒素を吸収して発色する第二吸収発色液に導入する工程と、
前記第二吸収発色液に対して吸光分析を行って、前記気体状の炭化水素中の一酸化窒素の濃度を求める工程と
を含むことが好ましい。この場合、測定対象の気体状の炭化水素中の二酸化窒素の濃度と、一酸化窒素の濃度のそれぞれを別個に測定することが可能となる。
【0012】
本発明の窒素酸化物の測定方法の好適例においては、前記固相カラムに充填する酸化剤が、無水クロム酸、過マンガン酸カリウム、過よう素酸カリウム、過よう素酸ナトリウム及び硫酸セリウム(IV)四水和物から選ばれる1種以上である。
【0013】
本発明の窒素酸化物の測定方法において、前記気体状の炭化水素は、オレフィン分の含有量が15容量%以下であることが好ましい。この場合、特に精度の高い測定が可能となる。
【0014】
また、本発明のオレフィン含有炭化水素の製造方法は、気体状のオレフィン含有炭化水素の一部をサンプリングして、該オレフィン含有炭化水素中の窒素酸化物の濃度を請求項1〜4のいずれかに記載の方法で測定し、その測定結果を製造工程へフィードバックして製品炭化水素中の窒素酸化物濃度が所定濃度以下となるように製造工程を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測定対象の気体状炭化水素中の窒素酸化物の濃度を精度良く且つ簡便に測定することが可能となる。また、一酸化窒素の二酸化窒素への変換する工程において、従来使用されてきた濃硫酸や過マンガン酸カリウム溶液を使用する必要がないので、多量の廃液がでることもない。また、精度良く且つ簡便に測定することが可能なことから、その結果をオレフィン含有炭化水素の製造工程へフィードバックして製品炭化水素中の窒素酸化物濃度が所定濃度以下となるように製造工程を制御することができ、製造工程を適切に制御・管理・維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<気体状炭化水素中の窒素酸化物の測定>
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の気体状の炭化水素中の窒素酸化物の測定方法は、気体状の炭化水素を、酸化剤が充填された固相カラムに500〜10000h-1の空間速度で導入して、酸化剤によって、気体状の炭化水素中の一酸化窒素を二酸化窒素に酸化する。
【0017】
上記固相カラムに充填する酸化剤としては、無水クロム酸(CrO3)、過マンガン酸カリウム(KMnO4)、過よう素酸カリウム(KIO4)、過よう素酸ナトリウム(NaIO4)及び硫酸セリウム(IV)四水和物(Ce(SO42・4H2O)等が挙げられ、これらの中でも、一酸化窒素の二酸化窒素への酸化効率に優れる点で、無水クロム酸(CrO3)が好ましい。なお、固相カラムに充填する酸化剤は、1種単独でもよいし、2種以上の混合物であってもよい。なお、酸化剤の使用量は、特に限定されるものではないが、気体状炭化水素1Lに対して0.1〜2.0gの範囲が好ましい。
【0018】
上記気体状炭化水素が固相カラムを通過する際の空間速度は、500〜10000h-1であり、好ましくは1000〜6000h-1、より好ましくは2000〜5000h-1である。空間速度が500h-1未満では、一酸化窒素の二酸化窒素への酸化に時間を要する上、検出率が低下し、一方、10000h-1を超えると、一酸化窒素の二酸化窒素への酸化が十分に進まないことがある。なお、固相カラムは、例えば、ガラス管やステンレス管等の管状体に上記酸化剤を充填して準備し、管状体の直径は、酸化剤の使用量や空間速度に応じて適宜選択することができる。
【0019】
本発明の窒素酸化物の測定方法は、次に、上記固相カラムの出口ガスを、二酸化窒素を吸収して発色する吸収発色液に導入し、該吸収発色液が二酸化窒素を吸収して発色する。ここで、二酸化窒素を吸収して発色する吸収発色液としては、芳香族一級アミン、芳香族化合物、酸を含む溶液、特には水溶液が好ましい。ここで、芳香族一級アミンとしては、スルファニル酸、スルファミン、酢酸アニリン等が挙げられ、芳香族化合物としては、N−1−ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩、1−ナフチルアミン、1−ナフチルアミン塩酸塩等が挙げられ、酸としては、酢酸、リン酸、塩酸等が挙げられる。なお、吸収発色液中における芳香族一級アミン、芳香族化合物、酸の濃度は、特に限定されない。酸によって酸性を呈している吸収発色液に溶解した二酸化窒素は、亜硝酸イオンを生成し、該亜硝酸イオンは芳香族一級アミンと反応してジアゾニウム塩を生成する。そして、生成したジアゾニウム塩が芳香族化合物とカップリング反応して、アゾ染料が生成し、吸収発色液が発色する。上記吸収発色液としては、ザルツマン試薬(即ち、スルファニル酸、N−1−ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩、酢酸の水溶液)が特に好ましい。
【0020】
本発明の窒素酸化物の測定方法は、次に、発色した吸収発色液に対して吸光分析を行って、測定対象の気体状炭化水素中の窒素酸化物の濃度を求める。吸収発色液は二酸化窒素を吸収して発色しているので、吸光光度分析、比色分析等の分析を行うことで、生成したアゾ染料の濃度を定量でき、該アゾ染料の濃度から、気体状炭化水素中に存在していた窒素酸化物(当初より二酸化窒素であったものと、一酸化窒素が二酸化窒素に酸化されて検出されたものとの合計)の濃度を計算することができる。なお、吸収発色液として上記ザルツマン試薬を使用した場合、生成するアゾ染料は545nmに吸収波長のピークを示すため、吸収発色液の545nmの吸光度を利用することで、窒素酸化物の濃度を特に精度良く分析することができる。
【0021】
<気体状炭化水素中の一酸化窒素及び二酸化窒素の測定>
本発明の窒素酸化物の測定方法の好適例においては、気体状炭化水素中の二酸化窒素の濃度を求めた後、上述した方法を適用して一酸化窒素を二酸化窒素に変換し、一酸化窒素由来の二酸化窒素を定量することで、気体状炭化水素中の二酸化窒素の濃度と一酸化窒素の濃度のそれぞれを正確に定量することが可能となる。
【0022】
本発明の窒素酸化物の測定方法の好適例においては、まず、測定対象である気体状炭化水素を、二酸化窒素を吸収して発色する第一吸収発色液に導入する。ここで、第一吸収発色液としては、上述した吸収発色液を使用することができ、好ましくは、ザルツマン試薬を使用する。
【0023】
本発明の窒素酸化物の測定方法の好適例においては、次に、上記第一吸収発色液に対して吸光分析を行って、気体状炭化水素中の二酸化窒素の濃度を求める。ここで、第一吸収発色液の吸光分析は、上述した吸光光度分析で行うことが好ましく、第一吸収発色液としてザルツマン試薬を使用した場合、第一吸収発色液の545nmの吸光度を利用することで、二酸化窒素の濃度を特に精度良く分析することができる。
【0024】
本発明の窒素酸化物の測定方法の好適例においては、次に、上記第一吸収発色液を通過したガスを、酸化剤が充填された固相カラムに500〜10000h-1の空間速度で導入して、第一吸収発色液を通過したガス中の一酸化窒素を二酸化窒素に変換する。測定対象の気体状炭化水素中の二酸化窒素は、上記第一吸収発色液に吸収されているため、ここで、生成する二酸化窒素は、気体状炭化水素中の一酸化窒素に由来する。なお、酸化剤の使用量、空間速度等については、上述の通りである。
【0025】
本発明の窒素酸化物の測定方法の好適例においては、次に、上記固相カラムの出口ガスを、二酸化窒素を吸収して発色する第二吸収発色液に導入する。ここで、第二吸収発色液としては、上述した吸収発色液を使用することができ、好ましくは、ザルツマン試薬を使用する。
【0026】
本発明の窒素酸化物の測定方法の好適例においては、次に、上記第二吸収発色液に対して吸光分析を行って、気体状の炭化水素中の一酸化窒素の濃度を求める。ここでは、上記の酸化工程により一酸化窒素由来の二酸化窒素が第二吸収発色液と反応してアゾ染料を生成するため、該アゾ染料の濃度から、測定対象である気体状炭化水素中に存在していた一酸化窒素の濃度を求めることができる。なお、第二吸収発色液の吸光分析は、上述した吸光光度分析で行うことが好ましく、第二吸収発色液としてザルツマン試薬を使用した場合、第一吸収発色液の545nmの吸光度を利用することで、一酸化窒素由来の二酸化窒素の濃度を特に精度良く分析することができる。
【0027】
<測定対象>
本発明の窒素酸化物の測定方法において、測定対象である炭化水素は、測定条件下において気体状であればよい。従って、例えば、室温(25℃)で測定を行う場合は、測定対象の炭化水素は、25℃で気体状である。また、測定対象の気体状炭化水素は、オレフィン分の含有量が15容量%以下であることが好ましく、0〜5容量%の範囲が特に好ましい。オレフィン分の含有量が15容量%以下の場合、測定の精度が特に良好となる。なお、測定対象中のオレフィン分の含有量が15容量%を超える場合は、測定の精度を向上させる観点から、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで希釈し、オレフィン分の含有量が15容量%以下となるように調整することが好ましい。希釈率は、特に限定されず、炭化水素中のオレフィン含有量に応じて適宜選択されるが、通常、1倍を超え且つ20倍以下である。
【0028】
<オレフィン含有炭化水素の製造方法>
本発明のオレフィン含有炭化水素の製造方法は、気体状のオレフィン含有炭化水素の一部をサンプリングして、該オレフィン含有炭化水素中の窒素酸化物の濃度を上述した方法で測定し、その測定結果を製造工程へフィードバックして製品炭化水素中の窒素酸化物濃度が所定濃度以下となるように製造工程を制御することを特徴とする。
【0029】
本発明のオレフィン含有炭化水素の製造方法においては、その一部をサンプリングして、その採取した試料について窒素酸化物濃度を測定するが、測定のタイミングは特に限定されない。但し、測定結果を製造工程へフィードバックして工程管理に用いるという観点から、サンプリング後、早急に分析を行うのが望ましい。
【0030】
本発明のオレフィン含有炭化水素の製造方法によれば、上述の分析方法により得られる測定結果を製品の合否判定のみにだけでなく、工程管理の一助として用い、製造工程へフィードバックして製造工程を適切に制御・管理・維持することにより、所定の窒素酸化物濃度範囲であるオレフィン含有炭化水素を安定して製造することが可能となる。具体的には、不純物である窒素化合物の除去工程へフィードバックし、運転条件の変更や、添加剤、薬剤、触媒等の交換等の指標として用いる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
<ザルツマン試薬及び分析機器>
JIS K 0104に準拠して、ザルツマン試薬(即ち、スルファニル酸5gを、酢酸50mLを含む温水約900mLに溶解し、冷却後、N−1−ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩溶液(1g/L)50mLを加え、水で全量を1000mLとし、褐色瓶に貯える)を調製して、以下の実施例に使用した。また、吸光度の分析には、島津製作所製UV−1600を用いた。
【0033】
(実施例1)
i−ブタン0.855容量%、i−ペンタン0.523容量%、エタン0.314容量%、窒素4.39容量%、n−ペンタン0.313容量%、n−ブタン0.635容量%、プロパン0.641容量%、メタン0.419容量%、残部水素よりなる標準ガスAを準備した。該標準ガスA 5Lを、無水クロム酸(CrO3)0.8gが充填された固相カラム(5mmφ×3cm)に5000h-1の空間速度で導入した後、固相カラムの出口ガスを、ザルツマン試薬からなる吸収発色液に導入し、吸収発色液の545nmの吸光度から、標準ガスA中の窒素酸化物の体積を求めたところ、0.0173μLであった。この結果から、標準ガスA中の窒素酸化物の濃度は、0.01体積ppm未満であり、本発明の方法によれば、信用のできる値が得られることが分かる。
【0034】
(実施例2)
実施例1で準備した標準ガスA 5Lに対して一酸化窒素1.009μLを添加してNO含有標準ガスA’を準備した。該NO含有標準ガスA’を、無水クロム酸(CrO3)0.8gが充填された固相カラム(5mmφ×3cm)に5000h-1の空間速度で導入した後、固相カラムの出口ガスを、ザルツマン試薬からなる吸収発色液に導入し、吸収発色液の545nmの吸光度から、NO含有標準ガスA’中の窒素酸化物の体積を求めたところ、0.9994μLであった。この結果から、添加した一酸化窒素の99.0%が検知されており、本発明の方法によって正確な値が得られることが確認できた。
【0035】
(実施例3)
水素48.6容量%、酸素0.487容量%、窒素19.073容量%、メタン16.4容量%、一酸化炭素5.04容量%、二酸化炭素10.4容量%よりなる標準ガスBを準備した。該標準ガスB 5Lを、無水クロム酸(CrO3)0.8gが充填された固相カラム(5mmφ×3cm)に5000h-1の空間速度で導入した後、固相カラムの出口ガスを、ザルツマン試薬からなる吸収発色液に導入し、吸収発色液の545nmの吸光度から、標準ガスB中の窒素酸化物の体積を求めたところ、0.0183μLであった。この結果から、標準ガスB中の窒素酸化物の濃度は、0.01体積ppm未満であり、本発明の方法によれば、信用のできる値が得られることが分かる。
【0036】
(実施例4)
実施例3で準備した標準ガスB 5Lに対して一酸化窒素1.009μLを添加してNO含有標準ガスB’を準備した。該NO含有標準ガスB’を、無水クロム酸(CrO3)0.8gが充填された固相カラム(5mmφ×3cm)に5000h-1の空間速度で導入した後、固相カラムの出口ガスを、ザルツマン試薬からなる吸収発色液に導入し、吸収発色液の545nmの吸光度から、NO含有標準ガスB’中の窒素酸化物の体積を求めたところ、0.9689μLであった。この結果から、添加した一酸化窒素の96.0%が検知されており、本発明の方法によって正確な値が得られることが確認できた。
【0037】
(比較例1)
実施例2で準備した該NO含有標準ガスA’を、無水クロム酸(CrO3)0.26gが充填された固相カラム(5mmφ×1cm)に12000h-1の空間速度で導入した後、固相カラムの出口ガスを、ザルツマン試薬からなる吸収発色液に導入し、吸収発色液の545nmの吸光度から、NO含有標準ガスA’中の窒素酸化物の体積を求めたところ、0.7621μLであった。この結果は、添加した一酸化窒素の75.5%しか検知されていなく、空間速度が10000h-1を超えると酸化が十分に進まないため検出率が落ちることが分かる。
【0038】
(比較例2)
実施例4で準備したNO含有標準ガスB’を、無水クロム酸(CrO3)20gが充填された固相カラム(シェフィールド管)に200h-1の空間速度で導入した後、固相カラムの出口ガスを、ザルツマン試薬からなる吸収発色液に導入し、吸収発色液の545nmの吸光度から、NO含有標準ガスB’中の窒素酸化物の体積を求めたところ、0.9210μLであった。この結果は、添加した一酸化窒素の91.3%の検知であり、空間速度が500h-1未満のときは時間が掛かるだけでなく検出率が若干落ちることを示している。
【0039】
(実施例5)
窒素又は上記標準ガスA 5Lに対して、一酸化窒素(NO)及び/又は二酸化窒素(NO2)を表1に示す量で添加して窒素酸化物含有ガスを準備し、該ガスをザルツマン試薬からなる第一吸収発色液に導入し、第一吸収発色液の545nmの吸光度から、ガス中の二酸化窒素の体積を求め、更に、第一吸収発色液を通過したガスを、無水クロム酸(CrO3)0.8gが充填された固相カラム(5mmφ×3cm)に5000h-1の空間速度で導入した後、固相カラムの出口ガスを、ザルツマン試薬からなる第二吸収発色液に導入し、第二吸収発色液の545nmの吸光度から、ガス中の一酸化窒素の体積を求めた。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果から、本発明によれば、測定対照中の一酸化窒素及び二酸化窒素の濃度を個々に精度良く定量できることが分かる。
【0042】
(実施例6)
水素13.3容量%、窒素10.7容量%、一酸化炭素2.2容量%、メタン28.9容量%、エタン13.6容量%、プロパン2.3容量%、i−ブタン1.8容量%、n−ブタン0.5容量%、ペンタン0.4容量%、エチレン14.8容量%、プロピレン9.3容量%、1−ブテン及びi−ブテンが合計で0.7容量%、トランス−2−ブテン0.8容量%、シス−2−ブテン0.5容量%、ペンテン0.1容量%からなる混合ガスC(パラフィン含有量47.5容量%、オレフィン含有量26.3容量%)0.05〜1.0Lに一酸化窒素0.484μLを添加し、更に表2に示す希釈倍率で窒素で希釈した。得られた窒素希釈NO含有混合ガスC’を、無水クロム酸(CrO3)6.0gが充填された固相カラム(5mmφ×15cm)に1000h-1の空間速度で導入した後、固相カラムの出口ガスを、ザルツマン試薬からなる吸収発色液に導入し、吸収発色液の545nmの吸光度から、ガス中の一酸化窒素量を求め、該値から一酸化窒素の検出率を求めた。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2の結果から、測定対象のガス中のオレフィン含有量が高い場合、窒素等の不活性ガスで希釈することで、測定精度が向上することが分かる。
【0045】
(実施例7)
表3に示す配合で、混合ガスCに対して、一酸化窒素(NO)を添加し又は添加せずに、更に窒素を添加して、窒素希釈混合ガスC”を調製した。該窒素希釈混合ガスC”をザルツマン試薬からなる第一吸収発色液に導入し、第一吸収発色液の545nmの吸光度から、ガス中の二酸化窒素の体積を求め、更に、第一吸収発色液を通過したガスを、無水クロム酸(CrO3)6.0gが充填された固相カラム(5mmφ×15cm)に1000h-1の空間速度で導入した後、固相カラムの出口ガスを、ザルツマン試薬からなる第二吸収発色液に導入し、第二吸収発色液の545nmの吸光度から、ガス中の一酸化窒素の体積を求めた。結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
表3中の実施例7−1〜7−3(NO未添加)の結果から、混合ガスCの窒素酸化物含有量の平均値が0.012体積ppmであり、標準偏差σが0.003であることが分かった。また、表3中の実施例7−4〜7−8(NO添加)の結果から、NOを添加した混合ガスCの窒素酸化物含有量の平均値が0.070体積ppmであり、標準偏差σが0.010であることが分かった。これらの結果から、本発明の測定方法の定量下限が0.01体積ppmであり、検出下限が非常に低いことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体状の炭化水素を、酸化剤が充填された固相カラムに500〜10000h-1の空間速度で導入して、前記気体状の炭化水素中の一酸化窒素を二酸化窒素に変換する工程と、
前記固相カラムの出口ガスを、二酸化窒素を吸収して発色する吸収発色液に導入する工程と、
前記吸収発色液に対して吸光分析を行って、前記気体状の炭化水素中の窒素酸化物の濃度を求める工程と
を含むことを特徴とする、気体状の炭化水素中の窒素酸化物の測定方法。
【請求項2】
気体状の炭化水素を、二酸化窒素を吸収して発色する第一吸収発色液に導入する工程と、
前記第一吸収発色液に対して吸光分析を行って、前記気体状の炭化水素中の二酸化窒素の濃度を求める工程と、
前記第一吸収発色液を通過したガスを、酸化剤が充填された固相カラムに500〜10000h-1の空間速度で導入して、前記第一吸収発色液を通過したガス中の一酸化窒素を二酸化窒素に変換する工程と、
前記固相カラムの出口ガスを、二酸化窒素を吸収して発色する第二吸収発色液に導入する工程と、
前記第二吸収発色液に対して吸光分析を行って、前記気体状の炭化水素中の一酸化窒素の濃度を求める工程と
を含むことを特徴とする請求項1に記載の窒素酸化物の測定方法。
【請求項3】
前記固相カラムに充填する酸化剤が、無水クロム酸、過マンガン酸カリウム、過よう素酸カリウム、過よう素酸ナトリウム及び硫酸セリウム(IV)四水和物から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒素酸化物の測定方法。
【請求項4】
前記気体状の炭化水素は、オレフィン分の含有量が15容量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の窒素酸化物の測定方法。
【請求項5】
気体状のオレフィン含有炭化水素の一部をサンプリングして、該オレフィン含有炭化水素中の窒素酸化物の濃度を請求項1〜4のいずれかに記載の方法で測定し、その測定結果を製造工程へフィードバックして製品炭化水素中の窒素酸化物濃度が所定濃度以下となるように製造工程を制御するオレフィン含有炭化水素の製造方法。

【公開番号】特開2011−27635(P2011−27635A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175711(P2009−175711)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】