説明

気体組成推算プログラム及び気体組成推算装置

【課題】任意組成の多成分系液化ガスから気化した気化ガスの組成を定量的且つ容易に推算する気体組成推算プログラム及び気体組成推算装置を提供する。
【解決手段】本発明の気体組成推算装置は、入力手段,数値仮定手段,モル分率算出手段,モル密度算出手段,フガシティー算出手段,分配率算出手段,条件判定手段,繰り返し手段,及び出力手段を備えており、多成分系の液化ガスを所定温度下で所定容積のボンベに仕込んだ場合の、ボンベ内の気相の組成を推算する装置である。気体組成推算装置に温度T,密閉空間の容積V,液化ガスの仕込物質量F,及び液化ガスを構成する各成分のモル分率zを入力すると、圧力P,物質量比ξ,分配率Kが仮定され、気相及び液相の各成分の組成xi ,yi 及び圧力Pが試行錯誤法により算出され、出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意組成の多成分系液化ガスから気化した気化ガスの組成を定量的に推算するプログラム及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プロパン,ブタン等の炭化水素化合物を主成分とする液化石油ガス(LPG)と他の燃料成分とを混合した液化混合燃料ガスをボンベに充填した場合は、揮発性の高い成分を多く含む気化ガスが生成してボンベ外に供給されるため、ボンベからの気化ガスの消費に伴って気化ガスの組成が徐々に変化することとなる。よって、上記のような液化混合燃料ガスから発生した気化ガスを燃焼させるガス燃焼器(例えば内燃機関,ボイラー,ガスコンロ)は、気化ガスの組成の変化に応じて燃焼条件の設定を自動的に最適化する機構や、気化ガスの組成が変化しても問題なく気化ガスを燃焼させることが可能な構造を備えている必要がある。
【0003】
前記のような機構や構造を備えるガス燃焼器を開発する場合には、気化ガスの組成がどのように変化するのか、そのデータが予め必要である。例えば、加藤らや大井らは、1970年代に、LPGボンベからの自然気化モデルとして、LPGボンベの内圧が70kPaに到達する時間を外気温,風速,及び湿度の影響を考慮して予測する方法を提案している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Benedict et al., J. Chem. Phys., 8, 334(1940)
【非特許文献2】Cooper et al., Hydrocarbon Processing, 46, 142(1967)
【非特許文献3】Tsuji et al., Proceeding of AIChE Annual Meeting, San Francisco (2006)
【非特許文献4】Joffe, Chemical Engineering Process, 45,160(1949)
【非特許文献5】Reid et al., Properties of Gases & Liquids 4th Ed., McGraw Hill(1986)
【非特許文献6】Younglove et al., J. Phys. Chem. Ref. Data, 16, 577(1987)
【非特許文献7】Stotler et al., Chem. Eng. Progr. Symp. Ser. No. 6, 49, 25(1953)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液化混合燃料ガスから自然気化して発生した気化ガスの組成を推算する方法は従来知られていたものの、共沸組成のような気液組成が合致するようなごく限られた場合にしか適用できないものであり、任意組成の多成分系液化混合燃料ガスから自然気化して発生した気化ガスの組成を、定量的且つ容易に推算する方法は知られていなかった。そのため、前記のような機構や構造を備えるガス燃焼器を開発する場合には、気化ガスのあらゆる組成を想定して実験する必要があるため、多大な時間と労力を要していた。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、任意組成の多成分系液化ガスから気化した気化ガスの組成を定量的且つ容易に推算するプログラム及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る気体組成推算プログラムは、少なくとも1種類の炭化水素化合物を含有する多成分系の液化ガスを、所定温度下で所定容積の密閉空間内に仕込んだ場合の、前記密閉空間内の気相の組成を推算するプログラムであって、前記温度T,前記密閉空間の容積V,前記液化ガスの仕込物質量F,及び仕込んだ前記液化ガスを構成する各成分のモル分率zの入力を待つ入力ステップと、前記入力ステップで入力された前記温度T,前記密閉空間の容積V,前記仕込物質量F,及び前記各成分のモル分率zに基づいて前記密閉空間内の圧力Pを仮定するとともに、前記密閉空間内の気相の物質量Dと前記仕込物質量Fとの比D/F、及び、前記密閉空間内の気相の各成分のモル分率yと液相の各成分のモル分率xとの比y/xを任意の数値に仮定する数値仮定ステップと、前記数値仮定ステップで仮定した前記比D/Fを物質量比ξ、前記比y/xを分配率Kとし、式x=z/{1+(K−1)ξ}を用いて前記各成分の前記モル分率xをそれぞれ算出するとともに、算出した前記モル分率xを式K=y/xに代入して前記各成分の前記モル分率yをそれぞれ算出するモル分率算出ステップと、前記モル分率算出ステップで算出した前記モル分率x,yを、Benedict-Webb-Rubin 状態方程式に代入して、前記密閉空間内の液相のモル密度ρL 及び気相のモル密度ρV をそれぞれ算出するモル密度算出ステップと、前記密閉空間内の液相のフガシティーをfL 、気相のフガシティーをfV とし、下記式1(ただし、該式1中のnは物質量、Zは圧縮係数であり、iは成分の種類を表す)を用いて前記各成分のfL /(xP)、fV /(yP)をそれぞれ算出するフガシティー算出ステップと、前記フガシティー算出ステップで算出したfL /(xP)及びfV /(yP)から前記各成分の{fL /(xP)}/{fV /(yP)}を算出し、K’とする分配率算出ステップと、前記分配率算出ステップで算出した前記各成分のK’が前記分配率Kとそれぞれ等しいという第一条件、前記モル分率算出ステップで算出した前記各成分の前記モル分率xの総和が1に等しいという第二条件、前記モル分率算出ステップで算出した前記各成分の前記モル分率yの総和が1に等しいという第三条件、並びに、前記モル密度算出ステップで算出した前記モル密度ρL ,ρV が下記式2を満足するという第四条件がそれぞれ満たされているかを判定する条件判定ステップと、前記条件判定ステップにおいて前記第一条件から前記第四条件までの4つの条件のうち少なくとも1つが満たされていなかった場合は、前記数値仮定ステップに戻って前記圧力P,前記物質量比ξ,及び前記分配率Kを別の数値に変更し、前記モル分率算出ステップ,前記モル密度算出ステップ,前記フガシティー算出ステップ,及び前記分配率算出ステップの計算を再度行い、前記4つの条件が全て満たされるまで前記数値仮定ステップ,前記モル分率算出ステップ,前記モル密度算出ステップ,前記フガシティー算出ステップ,及び前記分配率算出ステップの操作を繰り返す繰り返しステップと、前記条件判定ステップにおいて前記4つの条件が全て満たされた場合は、前記モル分率算出ステップで算出した前記各成分の前記モル分率xをそれぞれ出力する出力ステップと、を有する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0007】
【数1】

【0008】
【数2】

【0009】
また、本発明に係る気体組成推算装置は、少なくとも1種類の炭化水素化合物を含有する多成分系の液化ガスを、所定温度下で所定容積の密閉空間内に仕込んだ場合の、前記密閉空間内の気相の組成を推算する装置であって、前記温度T,前記密閉空間の容積V,前記液化ガスの仕込物質量F,及び仕込んだ前記液化ガスを構成する各成分のモル分率zを入力する入力手段と、前記入力手段により入力された前記温度T,前記密閉空間の容積V,前記仕込物質量F,及び前記各成分のモル分率zに基づいて前記密閉空間内の圧力Pを仮定するとともに、前記密閉空間内の気相の物質量Dと前記仕込物質量Fとの比D/F、及び、前記密閉空間内の気相の各成分のモル分率yと液相の各成分のモル分率xとの比y/xを任意の数値に仮定する数値仮定手段と、前記数値仮定手段により仮定した前記比D/Fを物質量比ξ、前記比y/xを分配率Kとし、式x=z/{1+(K−1)ξ}を用いて前記各成分の前記モル分率xをそれぞれ算出するとともに、算出した前記モル分率xを式K=y/xに代入して前記各成分の前記モル分率yをそれぞれ算出するモル分率算出手段と、前記モル分率算出手段により算出した前記モル分率x,yを、Benedict-Webb-Rubin 状態方程式に代入して、前記密閉空間内の液相のモル密度ρL 及び気相のモル密度ρV をそれぞれ算出するモル密度算出手段と、前記密閉空間内の液相のフガシティーをfL 、気相のフガシティーをfV とし、下記式1(ただし、該式1中のnは物質量、Zは圧縮係数であり、iは成分の種類を表す)を用いて前記各成分のfL /(xP)、fV /(yP)をそれぞれ算出するフガシティー算出手段と、前記フガシティー算出手段により算出したfL /(xP)及びfV /(yP)から前記各成分の{fL /(xP)}/{fV /(yP)}を算出し、K’とする分配率算出手段と、前記分配率算出手段により算出した前記各成分のK’が前記分配率Kとそれぞれ等しいという第一条件、前記モル分率算出手段により算出した前記各成分の前記モル分率xの総和が1に等しいという第二条件、前記モル分率算出手段により算出した前記各成分の前記モル分率yの総和が1に等しいという第三条件、並びに、前記モル密度算出手段により算出した前記モル密度ρL ,ρV が下記式2を満足するという第四条件がそれぞれ満たされているかを判定する条件判定手段と、前記条件判定手段による判定で前記第一条件から前記第四条件までの4つの条件のうち少なくとも1つが満たされていなかった場合は、前記数値仮定手段により前記圧力P,前記物質量比ξ,及び前記分配率Kを別の数値に変更し、前記モル分率算出手段,前記モル密度算出手段,前記フガシティー算出手段,及び前記分配率算出手段による計算を再度行い、前記4つの条件が全て満たされるまで前記数値仮定手段,前記モル分率算出手段,前記モル密度算出手段,前記フガシティー算出手段,及び前記分配率算出手段による操作を繰り返す繰り返し手段と、前記条件判定手段による判定で前記4つの条件が全て満たされた場合は、前記モル分率算出手段により算出した前記各成分の前記モル分率xをそれぞれ出力する出力手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
【数3】

【0011】
【数4】

【発明の効果】
【0012】
本発明の気体組成推算プログラム及び気体組成推算装置によれば、任意組成の多成分系液化ガスから気化した気化ガスの組成を定量的且つ容易に推算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】プロパンのP−V−T関係を示すグラフである。
【図2】ジメチルエーテルのP−V−T関係を示すグラフである。
【図3】純物質の飽和蒸気圧を計算するフローチャートである。
【図4】プロパン及びブタンの飽和蒸気圧を示すグラフである。
【図5】ジメチルエーテルの飽和蒸気圧を示すグラフである。
【図6】2成分系気液平衡関係を計算するフローチャートである。
【図7】プロパン−ジメチルエーテル混合系の気液平衡関係を示すグラフである。
【図8】3成分系気液平衡関係の気液共存領域を示す三角線図である。
【図9】3成分系気液平衡関係のフラッシュ計算の概念を示す図である。
【図10】3成分系気液平衡関係を計算するフローチャートである。
【図11】プロパン−ジメチルエーテル−ブタン混合系の気液平衡関係を示すグラフである。
【図12】体積収支を考慮した場合の3成分系気液平衡関係のフラッシュ計算の概念を示す図である。
【図13】体積収支を考慮した場合の3成分系気液平衡関係を計算するフローチャートである。
【図14】実施例1の計算結果を示すグラフである。
【図15】実施例2の計算結果を示すグラフである。
【図16】実施例3の計算結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る気体組成推算プログラム及び気体組成推算装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
ボンベ等の密閉空間内に多成分系の液化ガスを仕込むと、気相と液相とが形成される。本実施形態の気体組成推算プログラム及び気体組成推算装置は、少なくとも1種類の炭化水素化合物を含有する多成分系の液化ガスを、所定温度下で所定容積の密閉空間内に仕込んだ場合に形成される気相及び液相のそれぞれについて、組成及び物質量を定量的且つ容易に推算することができる上、密閉空間の内圧も推算することができる。
液化ガスを構成する成分の数は特に限定されるものではなく、2成分,3成分でも、あるいは4成分以上でも、問題なく推算を行うことができる。ただし、本発明に係る気体組成推算プログラム及び気体組成推算装置は、3成分以上の液化ガスに対して特に好適である。
【0015】
また、複数の成分を含有する液化ガスの組成は特に限定されるものではなく(例えば共沸組成に限定されるものではなく)、任意組成の液化ガスを密閉空間内に仕込んだ場合の気相の組成等を推算することができる。
さらに、成分の種類は、複数の成分のうち少なくとも1種類が炭化水素化合物であり、残りの成分の種類は特に限定されない。つまり、液化ガスは、複数種の炭化水素化合物の混合物であってもよいし、1種又は複数種の炭化水素化合物と他種の化合物との混合物であってもよい。炭化水素化合物の種類は特に限定されるものではなく、エタン,プロパン,ブタン等を例示することができる。また、他種の化合物としては、例えば、エーテル類(ジメチルエーテル等),アルコール類(メチルアルコール等)があげられる。
【0016】
密閉空間内に仕込む液化ガスの代表例としては、液化石油ガス(LPG),液化天然ガス(LNG)のような液化燃料ガスや、該液化燃料ガスにエーテル類,アルコール類を添加した液化混合燃料ガスがあげられる。ただし、本発明において使用可能な液化ガスは、燃料用の液化ガスに限定されるものではなく、他の用途の液化ガスを問題なく使用可能である。
本実施形態の気体組成推算装置は、後に詳述する入力手段,数値仮定手段,モル分率算出手段,モル密度算出手段,フガシティー算出手段,分配率算出手段,条件判定手段,繰り返し手段,及び出力手段を備えている。
【0017】
入力手段により、温度T,密閉空間の容積V,液化ガスの仕込物質量F,及び仕込んだ液化ガスを構成する各成分のモル分率zを気体組成推算装置に入力すると、これらの入力値に基づいて、数値仮定手段が密閉空間内の圧力Pを仮定するとともに、密閉空間内の気相の物質量Dと仕込物質量Fとの比D/Fで定義される物質量比ξ、及び、密閉空間内の気相の各成分のモル分率yと液相の各成分のモル分率xとの比y/xで定義される分配率Kを任意の数値に仮定する。
すると、モル分率算出手段が、入力手段により入力された各成分のモル分率zと、数値仮定手段により仮定された物質量比ξ,分配率Kと、式x=z/{1+(K−1)ξ}とを用いて気相の各成分のモル分率xをそれぞれ算出するとともに、算出したモル分率xを式K=y/xに代入して液相の各成分のモル分率yをそれぞれ算出する。
【0018】
次に、モル密度算出手段が、モル分率算出手段により算出されたモル分率x,yと、Benedict-Webb-Rubin 状態方程式(以降においては、BWR式と記すこともある)とを用いて、密閉空間内の液相のモル密度ρL 及び気相のモル密度ρV をそれぞれ算出する。BWR式の定数は物質によって異なる固有の数値であるが、計算の都度入力手段により入力するようにしてもよいし、気体組成推算プログラム又は気体組成推算装置にデータとして格納しておき、計算時にデータを取り出して使用するようにしてもよい。
モル分率算出手段及びモル密度算出手段の計算とは別に、フガシティー算出手段が前記式1を用いて各成分のfL /(xP)、fV /(yP)をそれぞれ算出する。fL は密閉空間内の液相のフガシティーであり、fV は気相のフガシティーである。
【0019】
次に、分配率算出手段が、フガシティー算出手段により算出されたfL /(xP)及びfV /(yP)から各成分の{fL /(xP)}/{fV /(yP)}(=K’)を算出する。
なお、モル分率算出手段及びモル密度算出手段の計算と、フガシティー算出手段及び分配率算出手段の計算との時間的順序は特に問わない。すなわち、いずれか一方の計算を先に行ってもよいし、両計算を平行して行ってもよい。
【0020】
次に、これらの計算が終了したら、条件判定手段が下記の4つの条件について判定を行う。
第一条件:分配率算出手段により算出した各成分のK’が分配率Kとそれぞれ等しい。
第二条件:モル分率算出手段により算出した各成分のモル分率xの総和が1に等しい。
第三条件:モル分率算出手段により算出した各成分のモル分率yの総和が1に等しい。
第四条件:モル密度算出手段により算出したモル密度ρL ,ρV が前記式2を満足する。
【0021】
これらの判定を行って、前記4つの条件のうち1つでも満たされていない条件があった場合は、繰り返し手段が作動し、数値仮定手段が圧力P,物質量比ξ,及び分配率Kを別の数値に変更し、変更された数値を用いてモル分率算出手段,モル密度算出手段,フガシティー算出手段,及び分配率算出手段が上記計算を再度行う。そして、再計算が終了したら、条件判定手段が前記4つの条件について再判定を行う。前記4つの条件が全て満たされないと繰り返し手段が作動するようになっているので、数値仮定手段,モル分率算出手段,モル密度算出手段,フガシティー算出手段,及び分配率算出手段による操作が繰り返される。
【0022】
条件判定手段による判定で前記4つの条件が全て満たされた場合は、繰り返し手段が作動しないようになっているので、モル分率算出手段により算出した気相の各成分のモル分率xが出力手段により出力される。
なお、圧力P,物質量比ξ,及び分配率Kを仮定して計算を行い、4つの条件が満たされなかった場合には、前記3つの数値の全てを別の数値に変更して再計算を行ってもよいが、数値の変更を段階的に行って再計算を行ってもよい。すなわち、前記3つの数値のうち2つは変更せず1つを順次変更して再計算を行い、4つの条件を満たす組み合わせが発見できなかった場合は別の1つの数値を順次変更して再計算を行うという方法(試行錯誤法)である。
【0023】
このとき、圧力Pは、取り得る最高圧力と最低圧力が分かっているし(詳細は後述する)、物質量比ξは0と1の間の数値であるから、最初に圧力P及び物質量比ξを仮定する際には、上記上限値と下限値の中間の値を設定することが好ましい。そして、計算の結果、4つの条件が満たされなかったら、圧力Pや物質量比ξを別の数値に変更するが、その際の変更値は、前記上限値と前記中間の値との間の中間値、及び、前記下限値と前記中間の値との間の中間値のうち、前記計算結果から考えて4つの条件が一致する可能性が高いと思われる方とすることが好ましい。再計算の結果、4つの条件が満たされなかったら、再度同様にして数値の変更を行い、再計算を続けて4つの条件を満たす数値を探すとよい。このようにして数値を仮定すれば、全体の計算量を少なくすることができる。
【0024】
また、条件判定手段による判定においては、誤差を考慮することが好ましい。例えば、K’がKと等しいという第一条件を満足するか否かの判定に際しては、K’とKとが完全に一致する可能性は低いので、一定の誤差範囲内で一致すれば第一条件を満足すると判定することが好ましい。この誤差範囲は、計算の都度所望の値に設定してもよいし、全ての計算において固定してもよい。
【0025】
この気体組成推算装置は、入力手段,数値仮定手段,モル分率算出手段,モル密度算出手段,フガシティー算出手段,分配率算出手段,条件判定手段,繰り返し手段,及び出力手段などをソフトウェア上で実現するためのコンピュータシステムを備えている。このコンピュータシステムのハードウェア構成は、例えば、各種制御や演算処理を担う中央演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、主記憶装置(Main Storage)を構成するRAM(Random Access Memory)と、読み出し専用の記憶装置であるROM(Read Only Memory)と、HDD(Hard Disk Drive)等の外部記憶装置(Secondary Storage)と、印刷装置,ディスプレイ装置等の出力装置と、操作パネル,マウス,キーボード,スキャナ等の入力装置と、を接続したものである。
【0026】
そして、電源を投入すると、ROMに予め記憶されたコンピュータプログラム(気体組成推算プログラム)、又は、CD−ROM,DVD−ROM,フレキシブルディスク(FD)等の記憶媒体を介して若しくはインターネット等の通信回線を介して記憶装置にインストールされたコンピュータプログラム(気体組成推算プログラム)がRAMにロードされる。そのRAMにロードされたプログラムに記述された命令に従って、CPUが所定の制御及び演算処理を行うことによって、前述のような各手段の各機能をソフトウェア上で実現できるようになっている。
【0027】
なお、液化ガスの仕込物質量F及び仕込んだ液化ガスを構成する各成分のモル分率zを入力する代わりに、液化ガスの仕込質量及び仕込んだ液化ガスを構成する各成分の質量分率を入力し、これらの仕込質量及び質量分率から仕込物質量F及び各成分のモル分率zを算出してもよい。この算出に際しては、液化ガスを構成する各成分の分子量が必要となるが、この分子量の数値は入力手段により入力してもよいし、気体組成推算プログラム又は気体組成推算装置にデータとして格納しておき、計算時にデータを取り出して使用してもよい。
【0028】
〔Benedict-Webb-Rubin 状態方程式について〕
まず、本発明において用いるBenedict-Webb-Rubin 状態方程式について説明する。BWR式(下記の式3及び非特許文献1を参照)は、LPGの主成分である炭化水素化合物(例えばプロパン,ブタン)や、LPGに燃料成分として添加されるエーテル類(例えばジメチルエーテル),アルコール類(例えばメチルアルコール)の何れに対しても十分な精度を有することが確認されている、ビリアル展開型の状態方程式である。
ここで、P,R,T,ρはそれぞれ圧力,気体定数,温度,及びモル密度である。また、A0 ,B0 ,C0 ,a ,b ,c ,α,γの8定数は物質固有の値であり、プロパン及びブタンについてはCooperらの文献値(非特許文献2を参照)により容易に入手することができる。
【0029】
【数5】

【0030】
一方、ジメチルエーテルの値については報告されていなかったが、近年Tsuji らがJoffe の対応状態原理(非特許文献4を参照)とLee-Keslarの方法(非特許文献5を参照)とを併用し、さらに402.00KにおけるP−V−T関係の実測値を用いて、前記8定数を決定している(非特許文献3を参照)。プロパン,ジメチルエーテル,及びブタンに対するBWR式の8定数を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
また、プロパン及びジメチルエーテルに対するP−V−T関係の文献値と計算値の比較を、図1,2のグラフに示す。実線が、BWR式を用いた計算値である。また、白丸印(○印)がTsuji らの実測値であり、黒丸印(●印)がYounglove らのプロパン標準値(非特許文献6を参照)である。図1,2のグラフから、点線で示した臨界点の近傍を含めて、気相のP−V−T関係について推算結果は良好であることが分かる。
【0033】
〔純物質の飽和蒸気圧について〕
一般に、純物質(1成分系)において気液両相が平衡状態にあるとき、次式4が成立する。すなわち、液相のフガシティーfL と気相のフガシティーfV とが一致する。なお、本発明においては、フガシティーの場合に限らず、添え字のL,Vはそれぞれ液相,気相を表す。
【0034】
【数6】

【0035】
ここでフガシティーfは、液相,気相ともに、BWR式が圧力Pに対して与えられる場合は、次式5を適用する。ここで、Vは体積、nは物質量、Z(=PV/nRT)は圧縮係数である。
【0036】
【数7】

【0037】
すなわち、任意の温度に対して、式4,5を同時に満たすρL ,ρV が、それぞれ液相,気相の飽和密度に対応する。計算のフローチャートを図3に示す。はじめに温度Tを入力した後に圧力Pを仮定し、液相のモル密度ρL 及び気相のモル密度ρV を求める。これは、同一圧力において正の大きい値は液相の比容積1/ρL である。そして、式5を用いてfL とfV を算出し、ρL ,ρV に対して式4の成立を確認したら、平衡圧力が決定する。
【0038】
式4が不成立の場合は、圧力Pを別の値に変更して、前記と同様にfL とfV を再度算出する。そして、式4が成立するまで圧力Pの変更を繰り返す。なお、温度Tを変化させた際の圧力軌跡は蒸気圧曲線となる。
ここで、プロパン,ブタン,及びジメチルエーテルのそれぞれの飽和蒸気圧の計算結果を、図4,5に示す。実線が、上記のようにして求めた計算値である。また、図4の白丸印(○印)がYounglove らの実測値である。さらに、図5の白丸印(○印)がTsuji らの実測値であり、黒丸印(●印)がHolldorff らの実測値である。図4,5から、飽和蒸気圧についても推算結果は良好であることが分かる。
【0039】
〔2成分系気液平衡関係の計算について〕
多成分系の平衡条件は、純物質の場合と同様に各相の各成分のフガシティーが等しいことに帰着する(式6を参照)。
【0040】
【数8】

【0041】
純物質と異なるのは、式6が各成分すべてに対して成立しなければならず、2成分系では2元、3成分系では3元の連立方程式を満たしていなければならない。また、多成分系に対するフガシティーも純物質とは多少異なる次式1で与えられる。
【0042】
【数9】

【0043】
一方、多成分系にBWR式を適用するには、8つの定数を混合則と呼ばれる組成関数化する必要がある。ここでは、混合則として次式7〜14に示すStotler-Benedict式(非特許文献7を参照)を用いた。
【0044】
【数10】

【0045】
【数11】

【0046】
【数12】

【0047】
【数13】

【0048】
【数14】

【0049】
【数15】

【0050】
【数16】

【0051】
【数17】

【0052】
ここで、mijは異種分子間パラメータである。添え字i,jは成分の種類を表す。プロパン−ジメチルエーテル混合系、ジメチルエーテル−ブタン混合系、及びブタン−プロパン混合系の2成分系の異種分子間パラメータを表2に示す。これは、298.15Kにおけるデータを用いて最適化したものである。
【0053】
【表2】

【0054】
気液平衡関係を計算するフローチャートを、図6に示す。はじめに温度T及び圧力Pを入力し、次に気相及び液相の組成(モル分率)xi ,yi を仮定する。ここで、各成分の分配率Ki (気相の各成分のモル分率yi と液相の各成分のモル分率xi との比yi /xi )も予め計算しておく。さらに、気相及び液相の個々に混合則を適用し、それぞれ異なる定数から気相及び液相のモル密度ρL ,ρV を得る。
【0055】
フガシティーが等しくなることを利用し、式1から気液相の分配率K’i を算出し、はじめに仮定した分配率Ki と誤差範囲内において同じになる組成を見出す。すなわち、K’i =Ki が成立する組成xi ,yi を見出し、それらを出力する。K’i =Ki が不成立の場合は、仮定した組成xi ,yi を別の値に変更して、前記と同様にK’i を再度算出する。そして、K’i =Ki が成立するまで組成xi ,yi の変更を繰り返す。さらに、このとき純物質と同様に飽和密度も同時に求めていることになる。
計算結果の一例として、298.15Kにおけるプロパン−ジメチルエーテル混合系の気液平衡関係の実測値と計算値を、図7のグラフに示す。図7のグラフより、実線で示した計算値は、Tsuji らの実測値(○印)を良く再現していることがわかる。
【0056】
〔3成分系気液平衡関係の計算について〕
Gibbs の相律によると3成分3相系では自由度は3となり、3成分系気液平衡関係を求めるには、温度及び圧力の他に組成を与える必要がある。3成分系気液平衡関係の気液共存領域を、図8の三角線図に示した。
一般に3成分系では温度及び圧力を与えると、いわゆる露点線と沸点線が決まる。すなわち、気液平衡は、平衡な露点と沸点を結ぶタイラインが無数に存在し、その軌跡が露点線と沸点線になる。例えば温度及び圧力の他に気相における第1成分の組成y1 、又は液相における第1成分の組成x1 を与えると、沸点線又は露点線と交差して、その点を通るタイラインが得られる。しかし、BWR式を用いた解法では、2成分系で示したように温度及び圧力を与えるのみで組成を与えない。そこで、仕込点Fを通るタイラインは必ず1本のみ定まることを利用して、物質収支を考えてフラッシュ計算を行うものである。
図9にフラッシュ計算の概念を示した。フラッシュ計算では、仕込物質量F,組成(モル分率)z1 ,z2 ,z3 の3成分系液化ガスを温度Tのボンベにフラッシュさせて、圧力がPになるようにする。ここで、成分iの物質収支を考えると、下記の式15が成立する。
【0057】
【数18】

【0058】
一方、成分iの気相及び液相の分配率Ki は、次式16で定義される。
【0059】
【数19】

【0060】
したがって、気相及び液相のモル分率は次式17,18となる。
【0061】
【数20】

【0062】
【数21】

【0063】
ここで、ξ(=D/F)は、全体に対する気相の物質量比となる。これを三角線図で考えると、次式19に対応している。
【0064】
【数22】

【0065】
実際の計算のフローチャートを図10に示した。はじめにT,P,zi を入力して、次にξを仮定し、さらにKi を仮定する。なお、ξは0〜1の数値である。前述の2成分系の場合とほぼ同様に、式1,17,18,20から気液相の分配率K’i を算出し、はじめに仮定した分配率Ki と誤差範囲内において同じになるか否か判定する。K’i =Ki が不成立の場合は、先ほど仮定したKi を別の値に変更し、Ki =K’i を満たすKi を試行錯誤法により求める(前述の2成分系の場合とほぼ同様に、数値の変更と再計算を繰り返す)。
【0066】
【数23】

【0067】
ただし、K’i =Ki が成立しても、T,P,zi ,ξより得た液相及び気相のモル分率xi ,yi は、各成分の総和が必ずしも1とはならないので、次式21を用いて確認を行う。なお、式21中の「i」は、多成分系液化ガス中の第i成分を意味する。また、式21の総和記号は、気相又は液相の各成分の組成x又は組成y(モル分率)を、第1成分から第i成分まで総和することを意味している。他の式の総和記号についても、ほぼ同様の意味である。
【0068】
【数24】

【0069】
図10のフローチャートに示すように、式21が成立するまで、先ほど仮定したξを別の値に変更して、前記と同様にK’i を再度算出する操作を繰り返す。そして、K’i =Ki が成立し且つ式21が成立したら、組成xi ,yi を出力する。
計算結果の一例として、298.15Kにおけるプロパン−ジメチルエーテル−ブタン混合系の気液平衡関係を、図11に示した。
【0070】
〔体積収支を考慮した場合の3成分系気液平衡関係の計算について〕
前述のフラッシュ計算では、ある組成の仕込物質量に対して温度及び圧力を与えることにより3成分気液平衡関係が求まることを示した。しかしながら、実際の運用を考えると、ボンベ等の密閉空間への液化ガスの充填前に圧力が規定されることは少なく、温度と内容積が既知の密閉空間に組成と質量を定めた液化ガスを仕込むことが多い。
ここでは、温度と密閉空間の内容積が既知の場合に、気相組成,液相組成,及び圧力を求める方法を考える。BWR式による推算では、媒介変数として気相及び液相の比容積が算出されるので、これを考慮して体積収支を考えると次式2となる。
【0071】
【数25】

【0072】
体積収支を考慮したフラッシュ計算の概念を図12に示すともに、計算フローチャートを図13に示した。計算方法は基本的には前述の3成分系の場合と同様であるが、圧力が定まっていないので、その値を仮定する。仮定する範囲としては、仕込点が露点上にある場合の圧力(最低圧力Pmin )と、沸点線上にある場合の圧力(最高圧力Pmax )との範囲内である。この間で圧力Pの値を少しづつ変化させて、式2を満たすξを求めることになる。実際には、P,ξ,Ki を少しづつ変化させて試行錯誤的に求めることになるので、計算量はさらに多くなる。
【0073】
実際の計算においては、はじめにT,V,zi を入力して、次にP,ξ,Ki を仮定する。なお、ξは0〜1の数値である。前述の3成分系の場合とほぼ同様に、式1,17,18,20から気液の分配率K’i を算出し、はじめに仮定した分配率Ki と誤差範囲内において同じになるか否か判定する。K’i =Ki が不成立の場合は、先ほど仮定したKi を別の値に変更し、Ki =K’i を満たすKi を試行錯誤法により求める(前述の3成分系の場合とほぼ同様に、数値の変更と再計算を繰り返す)。
さらに、前述の3成分系の場合と同様に、K’i =Ki が成立してもT,V,P,zi ,ξより得た液相及び気相のモル分率xi ,yi は、各成分の総和が必ずしも1とはならないので、式21を用いて確認を行う。
【0074】
図13のフローチャートに示すように、式21が成立するまで、ξを別の値に変更して前記と同様にK’i を再度算出する操作を繰り返す。そして、K’i =Ki が成立し且つ式21が成立したら、さらに式2の成立を確認する。式2が不成立の場合は、Pを別の値に変更し、式2が成立するように数値の変更と再計算を繰り返す。そして、K’i =Ki が成立し且つ式21,式2が成立したら、組成xi ,yi を出力する。なお、圧力P等の他の数値を同時に出力してもよい。
【実施例】
【0075】
次に、プロパン−ジメチルエーテル−ブタンの3成分系液化ガスを、温度298.15K(25℃)下で容積117.5Lのボンベに仕込んだ場合に形成される気相及び液相のそれぞれについて、組成及び物質量を推算した。
まず、前述した本実施形態の気体組成推算装置を起動し、コンピュータシステム上で本実施形態の気体組成推算プログラムを実行させる。すると、入力ステップにより数値入力待ち状態となるので、温度T(298.15K)、ボンベの容積V(117.5L)、仕込んだ液化ガスの質量w(50kg)、及び液化ガスの各成分(プロパン,ジメチルエーテル,ブタン)の質量分率zwiを入力する。
【0076】
プロパン,ジメチルエーテル,ブタンの分子量をそれぞれMw1 ,Mw2 ,Mw3 とすると、仕込物質量Fと液化ガスの各成分のモル分率zi は次式22,23となるので、これらの式に従って仕込物質量Fと各成分のモル分率zi を算出する。なお、分子量Mw1 ,Mw2 ,Mw3 は、計算の都度入力してもよいが、気体組成推算装置のROM,HDD等に予め格納されたデータを読み出して計算に使用してもよい。また、仕込物質量Fと液化ガスの各成分のモル分率zi は、このように算出せずに入力するようにしてもよい。
【0077】
【数26】

【0078】
【数27】

【0079】
次に、入力された各数値や算出された各成分のモル分率zi を数値仮定ステップに与えて、均一気相の圧力を求める。このとき、ξ=1であり、得られた均一気相の圧力は最低圧力Pmin になる。そこで、数値仮定ステップにより、Pmin よりも僅かに大きい値を圧力Pとして仮定するとともに、さらにξを0から1の間の任意の数値に、Ki を任意の数値にそれぞれ仮定して、これらの仮定した数値をモル分率算出ステップに送る。
【0080】
モル分率算出ステップでは、これらの仮定した数値から前述と同様にして気相及び液相のモル分率xi ,yi を算出する。さらに、入力された各数値や仮定した各数値や算出されたモル分率xi ,yi を、モル密度算出ステップやフガシティー算出ステップに送り、前述と同様にして気相及び液相のモル密度ρL ,ρV を算出するとともに、各成分のfL /(xP)、fV /(yP)をそれぞれ算出する。さらに、フガシティー算出ステップで算出したfL /(xP)及びfV /(yP)を分配率算出ステップに送り、前述と同様にして分配率K’を算出する。
【0081】
次に、得られた分配率K’i を条件判定ステップに送り、はじめに仮定した分配率Ki と誤差範囲内において同じになるか判定する。K’i =Ki が不成立の場合は、繰り返しステップによって処理が数値仮定ステップに戻る。そして、数値仮定ステップによりKi を別の値に変更して、Ki =K’i が成立するまでKi の変更を繰り返す。
K’i =Ki が成立した場合は、条件判定ステップにより、液相及び気相の各成分のモル分率xi ,yi の総和がそれぞれ1になるか否か判定する(前述の式21を参照)。式21が不成立の場合は、繰り返しステップによって処理が数値仮定ステップに戻る。そして、数値仮定ステップによりξを別の値に変更して、式21が成立するまでξの変更を繰り返す。
【0082】
さらに、K’i =Ki が成立し且つ式21が成立したら、条件判定ステップにより前述の式2の成立を確認する。式2が不成立の場合は、繰り返しステップによって処理が数値仮定ステップに戻る。そして、数値仮定ステップにより圧力Pを別の値に変更し、式2が成立するまで圧力Pの変更を繰り返す。
そして、K’i =Ki が成立し且つ式21,式2が成立したら計算を終了し、組成xi ,yi や圧力P等を出力ステップに送って、印刷装置,ディスプレイ装置等の出力装置に出力する。
【0083】
次に、気相の一部をボンベから抜き出した状態を仮定する。気相の一部を抜き出すと、ボンベ内の液化ガスの質量及び液化ガスの各成分(プロパン,ジメチルエーテル,ブタン)の質量分率が変化するが、抜き出し後のボンベ内に残る液化ガスの新しい質量wnew 及び液化ガスの各成分の新しい質量分率zwinew は、次式24,25により計算できる。なお、式24,25中のΔDは、抜き出した気化ガスの質量(消費量)である。
【0084】
【数28】

【0085】
【数29】

【0086】
そして、式24,25の計算結果を当てはめることにより、気相の一部を抜き出した後の組成xi ,yi や圧力Pを、前述と同様にして推算することができる。この抜き出し及び推算を繰り返せば、液化ガスを仕込んだボンベから気相の気化ガスを徐々に抜き出していった場合のボンベ内の液化ガスの質量、圧力、組成xi ,yi 等を推算することができる。なお、計算量が膨大になるため、気化速度は熱移動に追随して影響を及ぼさない範囲で計算する。また、計算は、ボンベ内の圧力が70kPaゲージ圧となるまで、又は、液相が消滅までとする。
【0087】
表3の実施例1のような条件において上記のような推算を行った結果を、図14のグラフに実線で示す。グラフの横軸は、抜き出した気化ガスの量(ガス消費量)ΔDであり、縦軸は、気相のジメチルエーテルの質量分率である。なお、液化ガスがプロパン90質量%とジメチルエーテル10質量%の2成分系である場合の推算結果を、図14のグラフに破線で示してある。
【0088】
【表3】

【0089】
図14のグラフから、ジメチルエーテルの濃縮の過程が再現されていることが分かる。また、ブタンの混入により、気相におけるジメチルエーテルの濃縮がやや緩慢になる傾向にあることが分かる。ただし、現在の計算プログラムでは、ボンベ内の液化ガスの残量が2.89kg付近になると、気液共存領域の追跡が困難となるため、最終的にボンベ内が気相のみになる場合の気化ガスの組成は得られていない。
【0090】
また、表3の実施例2,3のような条件において上記のような推算を行った結果を、図15,16のグラフに実線で示す。なお、図15,16のグラフにおいても、液化ガスがプロパン90質量%とジメチルエーテル10質量%の2成分系である場合の推算結果を、図14のグラフと同様に破線で示してある。また、図15,16のグラフには、アタム技研株式会社で行われた実測データをプロット(○印)してある。
【0091】
実施例2では、3成分系の推算結果よりも2成分系の推算結果の方が実測値を良く再現していると言える。一方、実施例3では全く異なる傾向となり、3成分系の推算結果の方が実測値を良く再現している。これらの結果から、ブタンの質量分率が1質量%程度と低い場合は、2成分系として計算しても差し支えないが、ブタンの質量分率が5質量%程度と多くなると、3成分系の計算が必要と思われる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の気体組成推算プログラム及び気体組成推算装置は、液化ガスから発生した気化ガスを燃焼させるガス燃焼器(例えば、自動車等のエンジン,ボイラー,湯沸かし器,ガスコンロ,ガスストーブ)の設計、ボイラーの運転制御、ガスエンジンへのガス噴射タイミングの設定等に好適に利用可能である。
例えば、ガス燃焼器においては、ボンベからの消費に伴って組成が徐々に変化する気化ガスを最適な条件で燃焼させる必要があるので、気化ガスの組成の変化に応じて空気混合比等の燃焼条件の設定を自動的に最適化する機構や、気化ガスの組成が変化しても問題なく気化ガスを燃焼させることが可能な構造を開発する必要があるが、本発明の気体組成推算プログラム及び気体組成推算装置は、上記のような機構や構造の開発に好適に利用可能である。
【0093】
また、家庭用,業務用ガスボンベに使用される燃料ガス、都市ガス、ガスライター用ガス、モータガス(タクシー用燃料)、燃料電池用ガス(燃料電池の水素源)の製造にも好適に利用可能である。
例えば、多成分系の液化ガスをボンベに充填して気化ガスを使用し、ボンベ内の液化ガスが少量になったら液化ガスを再充填して再使用する場合は、ボンベ内に残存している液化ガスと再充填される液化ガスの組成が異なるので、再充填を繰り返すうちにボンベ内の液化ガスの組成が元の液化ガスとは大きく異なってしまい、燃料ガスとして使用困難な組成になってしまうおそれがある。このような場合に、本発明の気体組成推算プログラム及び気体組成推算装置を利用すれば、再充填を何回繰り返すとボンベ内の液化ガスの組成が燃料ガスとして使用困難な組成になるのか、実験しなくても予測することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の炭化水素化合物を含有する多成分系の液化ガスを、所定温度下で所定容積の密閉空間内に仕込んだ場合の、前記密閉空間内の気相の組成を推算するプログラムであって、
前記温度T,前記密閉空間の容積V,前記液化ガスの仕込物質量F,及び仕込んだ前記液化ガスを構成する各成分のモル分率zの入力を待つ入力ステップと、
前記入力ステップで入力された前記温度T,前記密閉空間の容積V,前記仕込物質量F,及び前記各成分のモル分率zに基づいて前記密閉空間内の圧力Pを仮定するとともに、前記密閉空間内の気相の物質量Dと前記仕込物質量Fとの比D/F、及び、前記密閉空間内の気相の各成分のモル分率yと液相の各成分のモル分率xとの比y/xを任意の数値に仮定する数値仮定ステップと、
前記数値仮定ステップで仮定した前記比D/Fを物質量比ξ、前記比y/xを分配率Kとし、式x=z/{1+(K−1)ξ}を用いて前記各成分の前記モル分率xをそれぞれ算出するとともに、算出した前記モル分率xを式K=y/xに代入して前記各成分の前記モル分率yをそれぞれ算出するモル分率算出ステップと、
前記モル分率算出ステップで算出した前記モル分率x,yを、Benedict-Webb-Rubin 状態方程式に代入して、前記密閉空間内の液相のモル密度ρL 及び気相のモル密度ρV をそれぞれ算出するモル密度算出ステップと、
前記密閉空間内の液相のフガシティーをfL 、気相のフガシティーをfV とし、下記式1(ただし、該式1中のnは物質量、Zは圧縮係数であり、iは成分の種類を表す)を用いて前記各成分のfL /(xP)、fV /(yP)をそれぞれ算出するフガシティー算出ステップと、
【数1】

前記フガシティー算出ステップで算出したfL /(xP)及びfV /(yP)から前記各成分の{fL /(xP)}/{fV /(yP)}を算出し、K’とする分配率算出ステップと、
前記分配率算出ステップで算出した前記各成分のK’が前記分配率Kとそれぞれ等しいという第一条件、前記モル分率算出ステップで算出した前記各成分の前記モル分率xの総和が1に等しいという第二条件、前記モル分率算出ステップで算出した前記各成分の前記モル分率yの総和が1に等しいという第三条件、並びに、前記モル密度算出ステップで算出した前記モル密度ρL ,ρV が下記式2を満足するという第四条件がそれぞれ満たされているかを判定する条件判定ステップと、
【数2】

前記条件判定ステップにおいて前記第一条件から前記第四条件までの4つの条件のうち少なくとも1つが満たされていなかった場合は、前記数値仮定ステップに戻って前記圧力P,前記物質量比ξ,及び前記分配率Kを別の数値に変更し、前記モル分率算出ステップ,前記モル密度算出ステップ,前記フガシティー算出ステップ,及び前記分配率算出ステップの計算を再度行い、前記4つの条件が全て満たされるまで前記数値仮定ステップ,前記モル分率算出ステップ,前記モル密度算出ステップ,前記フガシティー算出ステップ,及び前記分配率算出ステップの操作を繰り返す繰り返しステップと、
前記条件判定ステップにおいて前記4つの条件が全て満たされた場合は、前記モル分率算出ステップで算出した前記各成分の前記モル分率xをそれぞれ出力する出力ステップと、
を有する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする気体組成推算プログラム。
【請求項2】
少なくとも1種類の炭化水素化合物を含有する多成分系の液化ガスを、所定温度下で所定容積の密閉空間内に仕込んだ場合の、前記密閉空間内の気相の組成を推算する装置であって、
前記温度T,前記密閉空間の容積V,前記液化ガスの仕込物質量F,及び仕込んだ前記液化ガスを構成する各成分のモル分率zを入力する入力手段と、
前記入力手段により入力された前記温度T,前記密閉空間の容積V,前記仕込物質量F,及び前記各成分のモル分率zに基づいて前記密閉空間内の圧力Pを仮定するとともに、前記密閉空間内の気相の物質量Dと前記仕込物質量Fとの比D/F、及び、前記密閉空間内の気相の各成分のモル分率yと液相の各成分のモル分率xとの比y/xを任意の数値に仮定する数値仮定手段と、
前記数値仮定手段により仮定した前記比D/Fを物質量比ξ、前記比y/xを分配率Kとし、式x=z/{1+(K−1)ξ}を用いて前記各成分の前記モル分率xをそれぞれ算出するとともに、算出した前記モル分率xを式K=y/xに代入して前記各成分の前記モル分率yをそれぞれ算出するモル分率算出手段と、
前記モル分率算出手段により算出した前記モル分率x,yを、Benedict-Webb-Rubin 状態方程式に代入して、前記密閉空間内の液相のモル密度ρL 及び気相のモル密度ρV をそれぞれ算出するモル密度算出手段と、
前記密閉空間内の液相のフガシティーをfL 、気相のフガシティーをfV とし、下記式1(ただし、該式1中のnは物質量、Zは圧縮係数であり、iは成分の種類を表す)を用いて前記各成分のfL /(xP)、fV /(yP)をそれぞれ算出するフガシティー算出手段と、
【数3】

前記フガシティー算出手段により算出したfL /(xP)及びfV /(yP)から前記各成分の{fL /(xP)}/{fV /(yP)}を算出し、K’とする分配率算出手段と、
前記分配率算出手段により算出した前記各成分のK’が前記分配率Kとそれぞれ等しいという第一条件、前記モル分率算出手段により算出した前記各成分の前記モル分率xの総和が1に等しいという第二条件、前記モル分率算出手段により算出した前記各成分の前記モル分率yの総和が1に等しいという第三条件、並びに、前記モル密度算出手段により算出した前記モル密度ρL ,ρV が下記式2を満足するという第四条件がそれぞれ満たされているかを判定する条件判定手段と、
【数4】

前記条件判定手段による判定で前記第一条件から前記第四条件までの4つの条件のうち少なくとも1つが満たされていなかった場合は、前記数値仮定手段により前記圧力P,前記物質量比ξ,及び前記分配率Kを別の数値に変更し、前記モル分率算出手段,前記モル密度算出手段,前記フガシティー算出手段,及び前記分配率算出手段による計算を再度行い、前記4つの条件が全て満たされるまで前記数値仮定手段,前記モル分率算出手段,前記モル密度算出手段,前記フガシティー算出手段,及び前記分配率算出手段による操作を繰り返す繰り返し手段と、
前記条件判定手段による判定で前記4つの条件が全て満たされた場合は、前記モル分率算出手段により算出した前記各成分の前記モル分率xをそれぞれ出力する出力手段と、
を備えることを特徴とする気体組成推算装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−126965(P2011−126965A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285084(P2009−285084)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、資源エネルギー庁、DME混合燃料利用技術調査に関する委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(502379767)財団法人エルピーガス振興センター (1)