説明

気体試料中の酸化窒素用の集積型光電気化学センサ

光化学信号及び光電気化学信号を検出することに基づく気相検出システム。センシングプラットフォームは、低ppbV濃度における酸化窒素の検出に関して特に強力である。光化学分析は、最適材料において起こる化学反応に起因する呈色に基づくものである。電気化学分析は、電気化学センサのドーピングレベル又は酸化還元電位変化に基づき得るものであり、光電気化学的検出は、電気化学的及び光電気化学的な手法の併用に基づき得るものである。それぞれの独立の信号が同時に検出されるため、検出の信頼性を上げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的に化学センサに関し、より詳細には、電気化学的検出、電気的検出及び/又は光学的検出を統合したシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化窒素(NOx)は重大な環境汚染物質である。ヒトの呼気中のそれらのレベルは、喘息等の疾患の重要なバイオマーカでもある。既存の方法及び装置は、未知の検体を検出し得るが、一般的に遅く、高価かつ/又は大型である。小型化されたセンサ及び方法は一般的に、十分な感度、選択性及び/又は信頼性に欠け、周囲空気又はヒトの呼気等の複雑なマトリクス中において1つ又は複数の検体を検出するのに特に不十分な場合がある。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、光学的原理及び電気化学的原理という2つの検出原理の一方又は両方に基づいて酸化窒素を検出するための化学センサ及び方法を含み、これらは、選択性及び信頼性を改善させるために併用してもよい。
【0004】
本発明の検知装置は、電気化学的原理及び光学的原理という2つの異なる原理の統合により酸化窒素を検出することができ、低いppbV及びppmVの検出限界のそれぞれにまで達することができる。本発明の装置は、選択性を改善させるためにシステムを調整するような種々の代替形態を可能とする。
【0005】
本発明のセンサ及び方法の実施の形態の利点としては、単一の検出方法に基づくなどの従来の装置よりも改善された選択性及び信頼性、検体のリアルタイム検出、(例えば、高スループット製造プロセスを伴う)携帯用装置等の他の装置への統合にかかる高い性能及び/又は適合性、偽陽性反応及び偽陰性反応を減らすことによる結果の信頼性の改善、及び/又は環境対策若しくは生物医学的用途にかかる特異的なガスの同時検出が挙げられ得る。
【0006】
本発明のセンサは、環境モニタリングにおいてだけでなく、喘息及び他の疾患のための非侵襲医療診断装置及び非侵襲医療管理装置としても利用され得る。本発明のセンサ及び/又は方法は例えば、研究室ベースの分析装置、手持ち型若しくは携帯用の化学センサ、及び/又は作業等のために構成及び/又は使用され得る。
【0007】
本発明のセンサの実施の形態は、窒素及びそれらの反応生成物の電気化学的検出及び/又は光学的検出を独立で又は組み合わせて実施することができる集積型のセンサ又はセンサ装置を含む。本発明のセンサ及び方法の実施の形態は、電気化学的及び/又は光学的な検知原理を、酸化窒素を検出するための単一の装置に統合し、それによって、改善された選択性及び信頼性を示し得る。本発明のセンサは、例えば、組み合わされた光電気化学信号を得るような、及び/又は独立した光信号及び電気化学信号を得るような複数の方法で構成され得る。酸化窒素の同時検出は、(例えば、同一コンパートメント、又はフィルタ部品により分離され得る異なるコンパートメントにおいて)2つ以上のセンサ素子を実装することによって実現することができる。センサ素子は、酸化還元色素、芳香族ジアミン及び/又は配位錯体プローブを含むか、又はこれらを組み込み得る。
【0008】
本発明のセンサの幾つかの実施の形態は、基板に結合する芳香族アミン化合物と、基板と流体連通するガスフローシステムと、芳香族アミン化合物の光学的変化を検出するように構成される光検出システムとを備える。幾つかの実施の形態では、基板が、セルロース、セルロース誘導体、ガラス、プラスチック、金網、ゼオライト、シリカ粒子、及びアルミナ粒子からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む。
【0009】
幾つかの実施の形態では、基板が多孔質膜を有し、芳香族アミン化合物が多孔質膜に組み込まれる。幾つかの実施の形態では、多孔質膜が、アルミナ粒子を含むセルロース/ポリエステル膜を含む。幾つかの実施の形態では、多孔質膜が検知領域を画定し、芳香族アミンが、材料によって多孔質膜に捕捉される。幾つかの実施の形態では、材料がポリジメチルシロキサンを含む。
【0010】
幾つかの実施の形態では、芳香族アミン化合物が、芳香族モノアミン、芳香族モノアミン誘導体、芳香族ジアミン、1,2−ジアミノベンゼン、芳香族ジアミン誘導体、ナフタレンジアミン及びナフタレンジアミン誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0011】
幾つかの実施の形態では、ガスフローシステムが吸気口及び排気口を備える。幾つかの実施の形態では、ガスフローシステムがフィルタを備える。幾つかの実施の形態では、光検出システムが、光源と光検出器とを備える。幾つかの実施の形態では、光源及び光検出器が、基板の同側面に位置する。
【0012】
幾つかの実施の形態では、基板が多孔質膜を有する。幾つかの実施の形態では、光源が多孔質膜の一側面に位置し、光検出器が、多孔質膜の、光源とは反対側に位置する。
【0013】
幾つかの実施の形態では、光検出システムが光導波路を備える。幾つかの実施の形態では、光源が発光ダイオード(LED)を含む。幾つかの実施の形態では、光検出器が電荷結合素子(CCD)カメラを備える。幾つかの実施の形態では、光検出器が相補型金属酸化膜半導体(CMOS)カメラである。
【0014】
本発明のセンサの幾つかの実施の形態は、基板に結合すると共に第1の電極から離間している第2の電極と、第1の電極を第2の電極に結合させるカプラと、基板に結合する電解質と、基板に結合する検出用物質(detector substance)であって、酸化窒素に感応性であるように構成される、検出用物質と、基板に結合する対向電極と、基板に結合する参照電極と、基板と流体連通するガスフローシステムと、第1の電極、第2の電極、対向電極及び参照電極の少なくとも2つに結合する電気検出器であって、カプラにおける電気的変化を検出するように構成される、電気検出器とを備える。
【0015】
幾つかの実施の形態では、カプラが導電材料又は半導体材料を含む。幾つかの実施の形態では、導電材料又は半導体材料が、金属酸化物、金属酸化物誘導体、ポリピロール、ポリピロール誘導体、ポリアニリン、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン、ポリチオフェン誘導体、及びポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)からなる群から選択される1つ又は複数の材料を含む。
【0016】
幾つかの実施の形態では、電解質が、イオン液体、又は電解質を有する低蒸気圧溶媒を含む。幾つかの実施の形態では、検出用物質が参照電極上に配される。幾つかの実施の形態では、検出用物質が電解質中に配される。幾つかの実施の形態では、検出用物質が、芳香族モノアミン、芳香族モノアミン誘導体、芳香族ジアミン、1,2−ジアミノベンゼン、芳香族ジアミン誘導体、ナフタレンジアミン、ナフタレンジアミン誘導体、ヘムタンパク質、ヘムペプチド(hemopeptides)、金属フタロシアニン、金属フタロシアニン誘導体、金属ポルフィリン、金属ポルフィリン誘導体、カルバミン酸鉄(II)、及びカルバミン酸鉄(II)誘導体からなる群から選択される1つ又は複数の材料を含む。
【0017】
幾つかの実施の形態では、検出用物質が参照電極上に配され、検出用物質が、銀、芳香族モノアミン、芳香族モノアミン誘導体、芳香族ジアミン、1,2−ジアミノベンゼン、芳香族ジアミン誘導体、ナフタレンジアミン、ナフタレンジアミン誘導体、ヘムタンパク質、ヘムペプチド、金属フタロシアニン、金属フタロシアニン誘導体、金属ポルフィリン、金属ポルフィリン誘導体、カルバミン酸鉄(II)、及びカルバミン酸鉄(II)誘導体からなる群から選択される1つ又は複数の材料を含む。
【0018】
幾つかの実施の形態では、ガスフローシステムが吸気口及び排気口を備える。幾つかの実施の形態では、ガスフローシステムがフィルタを備える。
【0019】
幾つかの実施の形態では、電気検出器が、1つ又は複数の結合する電極の1つ又は複数の電気的変化を制御及び測定するように構成される。幾つかの実施の形態では、電気検出器が、第1の電極に結合し、電位変動をもたらすように構成される。幾つかの実施の形態では、電気検出器がバイポテンショスタット(biopotentiostat)を備える。幾つかの実施の形態では、電気検出器が、第1の電極、第2の電極及び参照電極に結合し、電気検出器が、電位シフト、コンダクタンス及び電流からなる群から選択される1つ又は複数の電気的変化及び/又は電気的性質を測定するように構成される。
【0020】
幾つかの実施の形態では、検出用物質が電解質中に混合され、また、1つ又は複数の酸化窒素が電解質に導入されると、検出用物質が1つ又は複数の酸化窒素の少なくとも1つと化学反応して、化学反応と同時に1つ又は複数の電気的変化を測定することができるように、センサが構成される。幾つかの実施の形態では、検出用物質が参照電極上に配され、また、1つ又は複数の酸化窒素が参照電極に導入されると、検出用物質が1つ又は複数の酸化窒素の少なくとも1つと化学反応して、化学反応と同時に1つ又は複数の電気的変化を測定することができるように、センサが構成される。
【0021】
本発明のセンサの幾つかの実施の形態は、基板と、基板に結合する芳香族アミン化合物と、基板に結合する第1の電極と、基板に結合すると共に第1の電極から離間している第2の電極と、第1の電極を第2の電極に結合させるカプラと、基板に結合する電解質と、基板に結合する検出用物質であって、酸化窒素に感応性であるように構成される、検出用物質と、基板に結合する対向電極と、基板に結合する参照電極と、基板と流体連通するガスフローシステムと、芳香族アミン化合物の光学的変化を検出するように構成される光検出システムと、第1の電極、第2の電極、対向電極及び参照電極の少なくとも2つに結合する電気検出器であって、カプラにおける1つ又は複数の電気的変化を検出するように構成される、電気検出器とを備える。
【0022】
本発明の方法の幾つかの実施の形態は、センサ(このセンサは、基板と、基板に結合する芳香族アミン化合物と、芳香族アミン化合物の光学的変化を検出するように構成される光検出システムとを備える)を準備する工程、少なくとも1つの酸化窒素が、基板に結合する芳香族アミン化合物と化学反応するように、少なくとも1つの酸化窒素を含有する試料を、基板と流体連通させる工程、化学反応の反応生成物を検出する工程、光検出システムを用いて芳香族アミン化合物の光学的変化を検出する工程、及び光学的変化から少なくとも1つの酸化窒素を検出する工程を含む。
【0023】
幾つかの実施の形態では、基板が多孔質膜を有し、芳香族アミン化合物が多孔質膜に組み込まれ、試料を基板と流体連通させる工程が、試料を多孔質膜と流体連通させることを含む。幾つかの実施の形態では、試料を基板と流体連通させる工程が、試料を多孔質膜に通過させることを含む。幾つかの実施の形態では、センサの光検出システムが、光源と光検出器とを備え、光検出システムを用いて検出する工程が、光源による光を、多孔質膜の第1の側面から多孔質膜を介して送ると共に、送られた光の少なくとも一部を、多孔質膜の反対側の光検出器によって受光することを含む。
【0024】
幾つかの実施の形態では、センサの光検出システムが、光源と光検出器とを備え、光検出システムを用いて検出する工程が、光の少なくとも一部が多孔質膜により反射されるように、光源による光を多孔質膜の第1の側面から送ると共に、反射された光の少なくとも一部を、多孔質膜の同じ第1の側面の光検出器によって受光することを含む。幾つかの実施の形態では、センサの光検出システムが、光源と光検出器とを備え、光検出器が導波路を介して光を受光するように構成される。
【0025】
本発明の方法の幾つかの実施の形態は、センサ(このセンサは、基板に結合する第1の電極と、基板に結合すると共に第1の電極から離間している第2の電極と、第1の電極を第2の電極に結合させるカプラと、基板に結合する電解質と、基板に結合する検出用物質であって、酸化窒素に感応性であるように構成される、検出用物質と、基板に結合する対向電極と、基板に結合する参照電極と、第1の電極、第2の電極、対向電極及び参照電極の少なくとも2つに結合する電気検出器であって、カプラにおける電気的変化を検出するように構成される、電気検出器とを備える)を準備する工程、少なくとも1つの酸化窒素が、基板に結合する検出用物質と化学反応するように、少なくとも1つの酸化窒素を含有する試料を、基板と流体連通させる工程、化学反応の反応生成物を検出する工程、電気検出器を用いてカプラの電気的変化を検出する工程、及び電気的変化から少なくとも1つの酸化窒素を検出する工程を含む。
【0026】
幾つかの実施の形態では、反応生成物が電解質中に形成されるように、検出用物質を電解質中に配する。幾つかの実施の形態では、反応生成物が参照電極上に形成されるように、検出用物質を参照電極上に配する。
【0027】
本発明の方法の幾つかの実施の形態は、センサ(このセンサは、基板と、基板に結合する芳香族アミン化合物と、基板に結合する第1の電極と、基板に結合すると共に第1の電極から離間している第2の電極と、第1の電極を第2の電極に結合させるカプラと、基板に結合する電解質と、基板に結合する検出用物質であって、酸化窒素に感応性であるように構成される、検出用物質と、基板に結合する対向電極と、基板に結合する参照電極と、基板と流体連通するガスフローシステムと、芳香族アミン化合物の光学的変化を検出するように構成される光検出システムと、第1の電極、第2の電極、対向電極及び参照電極の少なくとも2つに結合する電気検出器であって、カプラにおける1つ又は複数の電気的変化を検出するように構成される、電気検出器とを備える)を準備する工程、少なくとも1つの酸化窒素が、芳香族アミン化合物及び検出用物質と化学反応するように、少なくとも1つの酸化窒素を含有する試料を、基板と流体連通させる工程、化学反応のうちの少なくとも1つの反応生成物を検出する工程、光検出システムを用いて芳香族アミン化合物の光学的変化を検出する工程、電気検出器を用いてカプラの電気的変化を検出する工程、並びに前記光学的変化及び電気的変化の少なくとも一方から少なくとも1つの酸化窒素を検出する工程を含む。
【0028】
本発明の方法のいずれかの任意の実施の形態は、記載の工程、構成要素及び/又は特徴のいずれかを含む(comprise)/備える(include)/含有する/有するというよりも、それらからなるか又はそれらから本質的になり得る。故に、請求項のいずれにおいても、非限定的な連結動詞を別途使用しているものから所与の請求項の範囲を変更するように、「からなる」又は「から本質的になる」という用語を、上記に挙げられる非限定的な連結動詞のいずれかに代えて使用することができる。上記の実施の形態等に付随する詳細は以下に提示する。
【0029】
以下の図面は、限定のためではなく例として示すものである。簡潔かつ明確にするため、所与の構造の全ての特徴が、構造が掲載されている全ての図面で常にラベル付けされているとは限らない。同一の参照番号は必ずしも同一の構造を示しているわけではない。むしろ、同一でない参照番号が使用され得る場合であっても、類似の特徴又は類似の機能を有する特徴を示すために、同様の参照番号を使用する場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1a】本発明のセンサの一実施形態の概略図であり、実施形態1を示す。
【図1b】本発明のセンサの一実施形態の概略図であり、実施形態2を示す。
【図1c】本発明のセンサの一実施形態の概略図であり実施形態1を示す。
【図1d】本発明のセンサの一実施形態の概略図であり、実施形態2を示す。
【図2】酸化窒素とアセトニトリルに溶解させた1,2−ジアミノベンゼン(PDA)との反応時の生成物形成に対応するスペクトルである。バブリング速度=20mL・min−1。NOx濃度(CNOx)=0.50ppmV、PDA濃度=5mM。スペクトルは2分毎に取得した。
【図3】固相における、酸化窒素と1,2−ジアミノベンゼンとの反応によって生じる赤色、緑色及び青色(RGB)の強度変化を示す図である。流量=200mL・min−1。NOx濃度=0.20ppmV(1)、NOx濃度=2.00ppmV(2)、NOx濃度=69.0ppmV(3)。
【図4】イオン電解液相中の酸化窒素の分離の結果としての、ソース−ドレイン間電流(Isd)の電位シフトを示す図である。
【図5】較正プロットである。気相の二酸化窒素の関数としての、最大電流値の半分におけるソース−ドレイン間電流(Isd)の電位シフト(V1/2)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
「結合する」という用語は、必ずしも直接的でなく、また必ずしも機械的ではなくとも、接続していることと規定される。「結合し」ている2つの要素は、互いに一体となっていてもよい。単数形の表記(The terms "a" and "an")は、本開示により別途明確に規定されない限り、1つ又は複数と規定される。「実質的に」、「およそ」及び「約」という用語は、当業者によって認識されるように、完全に一致していなくとも大方明記されるものであると規定される。「含む(comprise)」(並びに、含むの任意の形、例えば「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」)、「有する(have)」(並びに、有するの任意の形、例えば「有する(has)」及び「有する(having)」)、「備える(include)」(並びに、備えるの任意の形、例えば「備える(includes)」及び「備える(including)」)、並びに「含有する(contain)」(並びに、含有するの任意の形、例えば「含有する(contains)」及び「含有する(containing)」)は非限定的な連結動詞である。その結果、1つ又は複数の構成要素を「含む」、「有する」、「備える」又は「含有する」系は、それらの1つ又は複数の構成要素を有するものの、それらの構成要素のみを有するとは限らない。同様に、1つ又は複数の工程を「含む」、「有する」、「備える」又は「含有する」方法は、それらの1つ又は複数の工程を有するものの、それらの1つ又は複数の工程のみを有するとは限らない(例えば、更なる工程を有していてもよい)。
【0032】
さらに、或る特定の様式で構成される装置又は構造は、少なくともその様式で構成されるものの、詳細に記載されたもの以外の様式で構成されていてもよい。ここで、図面、より詳細には図1a〜図1dを参照すると、本発明のセンサの2つの実施形態が示されている。図1a及び図1cは、光電気センサの第1の実施形態10aの水平断面図及び横断面図を表すものである。図1b及び図1dは、光電気センサの第2の実施形態10bの水平断面図及び横断面図を表すものである。実施形態10aと実施形態10bとの間の類似の構成要素は、類似の参照番号でラベル付けされているが、このような構成要素は、2つの実施形態間で必ずしも同一であるわけではなく、むしろ、位置及び/又は構成の点で異なっていてもよいことを認識されたい。
【0033】
センサ10aは、基板14と、基板に結合する電解質18と、基板に結合する(例えば、電解質中に混合又は組み込まれ、電解質を介して基板に結合する)化学プローブ(例えば、芳香族アミン化合物)と、基板に結合すると共に相互離間している2つの(第1の)作用電極(WE1)22及び(第2の)作用電極(WE2)26(例えば、第1の電極22、及び第1の電極22から離間している第2の電極26)と、第1の電極22を第2の電極26に結合させるカプラ30と、基板に結合する(例えば、電解質中に混合又は組み込まれ、電解質を介して基板に結合する)検出用物質とを備える。種々の実施形態では、検出用物質が、少なくとも1つの酸化窒素に感応性であるように構成され得る。
【0034】
基板は、例えば、任意の好適な材料を含んでいてもよく、不透明、半透明及び/又は透明であってもよい。幾つかの実施形態では、基板が、セルロース、セルロース誘導体、ガラス、プラスチック、金網、ゼオライト、シリカ粒子、ゾル・ゲル及びアルミナ粒子からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む。電解質は、例えば、イオン液体、及び/又は電解質を有する低蒸気圧溶媒等の液体、固体又は半固体であってもよい。イオン液体は、熱安定性及び寿命安定性、検体に対する選択性、並びに予備濃縮能をもたらし得る。化学プローブ、すなわち芳香族アミン化合物は、例えば二酸化窒素等の検体の存在下で、(例えば、適切な検体を含む気体試料を基板と流体連通するように設ける(例えば、電解質等を介して芳香族アミン化合物と流体連通させる)と)電解質中で又は電解質により色を変え及び/又は色変化を生じさせるように構成することができる。幾つかの実施形態では、芳香族アミン化合物が、芳香族モノアミン、芳香族モノアミン誘導体、芳香族ジアミン、1,2−ジアミノベンゼン、芳香族ジアミン誘導体、ナフタレンジアミン及びナフタレンジアミン誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0035】
検出用物質は、例えば、芳香族モノアミン、芳香族モノアミン誘導体、芳香族ジアミン、1,2−ジアミノベンゼン、芳香族ジアミン誘導体、ナフタレンジアミン、ナフタレンジアミン誘導体、ヘムタンパク質、ヘムペプチド、金属フタロシアニン、金属フタロシアニン誘導体、金属ポルフィリン、金属ポルフィリン誘導体、カルバミン酸鉄(II)、及びカルバミン酸鉄(II)誘導体からなる群から選択される1つ又は複数の材料を含み得る。カプラ30は、例えば、1つ又は複数の導電材料又は半導体材料を含み得る。幾つかの実施形態では、例えば、1つ又は複数の導電材料又は半導体材料が、金属酸化物、金属酸化物誘導体、ポリピロール、ポリピロール誘導体、ポリアニリン、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン、ポリチオフェン誘導体、及びポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)からなる群から選択される。検出用物質が電解質中に混合又は組み込まれる実施形態では、1つ又は複数の(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10以上の)酸化窒素が電解質中に導入されると(例えば、電解質と流体連通される気体中で)、検出用物質が、1つ又は複数の(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10以上の)酸化窒素の少なくとも1つと化学反応して、化学反応と同時に1つ又は複数の電気的性質及び/又は電気的変化(例えば、カプラ30の)を測定することができるように、センサが構成され得る。
【0036】
センサ10aは、基板に結合する対向電極34と、基板に結合する参照電極38と、基板と流体連通するガスフローシステム42と、芳香族アミン化合物の光学的変化を検出するように構成される光検出システム46と、第1の電極22、第2の電極26、対向電極34及び参照電極38の少なくとも2つ(例えば、2つ以上、最大で全て)に結合する電気検出器50とを更に備える。電気検出器50は、(例えば、電気検出器50が、第1の電極22及び/又は第2の電極26を介してカプラ30と電気的に連絡するように、第1の電極22及び/又は第2の電極26に結合する)カプラ30における1つ又は複数の電気的変化を検出するように構成される。
【0037】
幾つかの実施形態では、検出用物質を参照電極38上に配する(例えば、参照電極38を介して基板に結合する)。検出用物質が参照電極上に配される実施形態では、検出用物質が、例えば、銀、芳香族モノアミン、芳香族モノアミン誘導体、芳香族ジアミン、1,2−ジアミノベンゼン、芳香族ジアミン誘導体、ナフタレンジアミン、ナフタレンジアミン誘導体、ヘムタンパク質、ヘムペプチド、金属フタロシアニン、金属フタロシアニン誘導体、金属ポルフィリン、金属ポルフィリン誘導体、カルバミン酸鉄(II)、及びカルバミン酸鉄(II)誘導体からなる群から選択される1つ又は複数の材料を含み得る。検出用物質が参照電極上に配される実施形態では、1つ又は複数の酸化窒素が参照電極に導入されると(例えば、電極と流体連通するか、電極の周囲に送られるか、又は電極と接触する気体中で)、検出用物質が、1つ又は複数の酸化窒素の少なくとも1つと化学反応して、化学反応と同時に1つ又は複数の電気的性質及び/又は電気的変化(例えば、カプラ30の)を測定することができるように、センサが構成され得る。
【0038】
ガスフローシステム42は、吸気口58と排気口62とを有する筐体54を備える。筐体54は、気体試料又は流体試料が通過するか又は基板と(例えば、電解質及び/又は芳香族アミン化合物と)流体連通させることができる試料チャンバ66の範囲を画定するように、基板14と協動する。このようにして、ガスフローシステム42は基板と流体連通する(例えば、ガスフローシステム42を通じて配され及び/又はガスフローシステム42を流れる気体又は他の流体が、基板、並びに例えば電解質及び/又は化学プローブ等の基板上の任意の材料と流体連通し得る)。
【0039】
第1の作用電極(WE1)22及び第2の作用電極(WE2)26、並びにカプラは、導電性接合部(conducting junction)(例えば、導電性高分子接合部)を形成し、電気検出器50は、カプラ30における1つ又は複数の電気的変化(例えば、コンダクタンス及び/又は電気化学的電位シフト等)を測定するように構成される。幾つかの実施形態では、電気検出器50が、1つ又は複数の電気的性質及び/又は電気的変化を制御及び/又は測定するように構成される。例えば、幾つかの実施形態では、電気検出器が、作用電極22及び作用電極26と対向電極34との間に電流を流すことができるよう、参照電極38に対して、第1の電極22及び第2の電極26の電位を制御するように構成されるポテンショスタット(例えば、バイポテンショスタット)を備える。幾つかの実施形態では、電気検出器が電位変動をもたらすように構成される。
【0040】
上述のように、光検出システム46は、芳香族アミン化合物の光学的変化(例えば、第1の電極22、第2の電極26及び/又は接合部30で及び/又はその近傍等における、検体と芳香族アミン化合物との化学反応に起因する電解質中の光学的変化)を検出するように構成される。光検出システム46は、光源70と光検出器74(受光器(photodetector)又はカメラ)を備える。示される実施形態では、光源70を作動させて、発光させるかさもなければ光を供給すると、光の少なくとも一部が基板を通過又は透過して、基板の反対側の光検出器74によって受光又は検出されるように、光源70が基板の第1の側面に配され、光検出器74が基板の反対側に配される。これは、光が基板を透過する「透過構造(transmission configuration)」とみなされ得る。他の実施形態では、光源を作動させて、光を供給すると、光の少なくとも幾らか(最大で全部)が基板により反射して、基板の同側面の光検出器によって受光されるように、光検出システムが、光源及び光検出器を基板の同側面に配する「反射構造(reflection configuration)」を有していてもよい。幾つかの実施形態では、光検出システム46が、例えば光源及び/又は光検出器に組み込まれ得る1つ又は複数の光導波路(図示せず)を備える。
【0041】
光源は、例えば白色光源、発光ダイオード(LED)等の任意の好適な光源を含み得る。幾つかの実施形態では、センサの光学的検出の選択性を改善することができるように、例えば、既知のスペクトル分布を有するLED、又は狭い発光帯域をもたらすようなバンドパスフィルタと結合した広帯域光源等の光源が、可視スペクトルの或る特定の領域内の発光を有する(光を供給する)ことが望ましい場合がある。光検出器は、電荷結合素子(CCD)カメラ及び/又は相補型金属酸化膜半導体(CMOS)カメラ等を備え得る。幾つかの実施形態では、狭い、すなわち制御された帯域の光源によってもたらされ得るか又は可能とされ得る選択性が増大及び/又は適合するため、Webカメラ又はフィルタ変更型(filter-modified)フォトダイオードアレイが有益であり得る。
【0042】
接合部30は、第1の電極22と第2の電極26との間に蒸着され及び/又は配されて、第1の電極22と第2の電極26との間に導電路を形成する、導電材料又は半導体材料(例えば、高分子及び/又は金属等)を含む。接合部30は、第1の電極22がソース電極でありかつ第2の電極26がドレイン電極であり、またゲート電位(V)が、対向電極34と併せて参照電極38、及び電気検出器50(例えば、ポテンショスタット)を介して印加される電気化学トランジスタ構造において用いられるように構成される。電気検出器(及び/又は検出システム)は、例えば様々なゲート電位値(V)における第1の電極22と第2の電極26との間のバイアス電圧(Vbias)を伴うソース−ドレイン間電流(Isd)をモニタリングし及び/又は使用者にモニタリングさせるように構成される。
【0043】
(例えば、電解質と流体連通する気体試料又は流体試料を介して)酸化窒素を電解質に溶解させると、導電性高分子接合部のコンダクタンス(ドーピングレベル)の変化、又は電解質18及び参照電極38における電気化学的電位の変化が、検体自体によって又は反応生成物によってもたらされ得る。加えて、光学的変化(例えば、色変化)が、上記の光源及び受光器を用いて表示又は記録され得る。
【0044】
図1(b)に示されるように、センサ10bは、幾つかの点でセンサ10aと類似している。例えば、センサ10bは、基板14と、基板14に結合する芳香族アミン化合物と、基板14と流体連通するガスフローシステム42と、芳香族アミン化合物の光学的変化を検出するように構成される光検出システム46とを備える。しかしながら、センサ10bは多孔質膜78を有し、芳香族アミン化合物(又は、上記のプローブ)が、検知区域(例えば、光学的検知区域)と称することができる多孔質膜78に組み込まれ得る。幾つかの実施形態では、多孔質膜78が、芳香族アミン化合物で部分的に(最大で完全に)飽和される。多孔質膜78は、例えば、(例えば、補強等のためにアルミナ粒子を含み得る)セルロース/ポリエステル膜を含み得る。幾つかの実施形態では、材料(例えば、ポリジメチルシロキサン)によって芳香族アミンが検知区域に捕捉される。図のように、センサ10bも、光源70が多孔質膜の一側面に位置し、光検出器74が光源に対して多孔質膜の反対側に位置する光検出システム46を備える。
【0045】
センサ10bはまた、基板に結合する第1の電極22と、基板に結合すると共に、第1の電極から離間している第2の電極26と、第1の電極を第2の電極に結合させるカプラ30と、基板に結合する電解質18と、基板に結合すると共に、酸化窒素に感応性であるように構成される検出用物質と、基板に結合する対向電極34と、基板に結合する参照電極38と、基板と流体連通するガスフローシステム42と、第1の電極、第2の電極、対向電極及び参照電極の少なくとも2つに結合する電気検出器50であって、カプラにおける電気的変化を検出するように構成される、電気検出器50とを備える。
【0046】
センサ10bはまた、ガスフローシステム42が、光学的検知区域と、基板の残りの部分(電気化学的検知に使用される部分)との間にフィルタ82を備える点で幾分異なる。センサ10bの筐体54は、吸気口58が空隙66aに入り、排気口62が空隙66bから出るように、基板14の両側面の(多孔質基板78を介して互いに流体連通する)空隙66a及び空隙66bの範囲を画定することができる。このように、気体は吸気口58を通って空隙66a内へと送られ、多孔質基板78を通って空隙66b内へと送られ、排気口62を介して空隙66bから排気され得る。上記のように、本発明のセンサの実施形態では、吸気口及び排気口を共に基板の一側面に備えるように、基板の一側面にのみ空隙を有していてもよい。
【0047】
センサ10bにおける光学的検知区域及び電気化学的検知区域の分離は、2つの異なる検出原理を用いる2つの独立した方法における酸化窒素の検出及び/又は同定を可能とする。このようにして、センサ10bの選択性は、検知要素の各々にかかる異なる化学反応を用いることによって「調整」又は改善することができる。示される実施形態では、センサ10bが、光学的検出機能及び電気化学的検出機能を共に備える集積型センサである。他の実施形態では、センサが、光学的部分のみ又は電気化学的部分のみを備えていてもよい。
【0048】
本開示は、本発明のセンサの多種多様な実施形態を使用する方法を更に含む。例えば、光学的検出部を有するセンサを使用する方法の一例において、この方法は、基板(例えば14)と、基板に結合する芳香族アミン化合物と、芳香族アミン化合物の光学的変化を検出するように構成される光検出システム(例えば46)とを備えるセンサを準備する工程を含む。この方法は、少なくとも1つの酸化窒素が、基板に結合する芳香族アミン化合物と化学反応するように、(例えば、ガスフローシステム42を介して)少なくとも1つの酸化窒素を含有する試料を、基板と流体連通させる工程、化学反応の反応生成物を検出する工程、光検出システムを用いて、芳香族アミン化合物の光学的変化(例えば、色変化、反射スペクトル及び/又は透過スペクトル等)を検出する工程、及び、光学的変化から少なくとも1つの酸化窒素を検出(例えば、同定)する工程を更に含み得る。幾つかの実施形態では、基板が多孔質膜(例えば78)を含み、芳香族アミン化合物が多孔質膜に組み込まれ、試料を基板と流体連通させる工程が、試料を多孔質膜と流体連通させることを含む。幾つかの実施形態では、試料を基板と流体連通させる工程が、(例えば、センサ10bに関して上記で述べたように)試料を多孔質膜に通過させることを含む。
【0049】
本方法の幾つかの実施形態では、(例えば、センサ10bに関して上記で述べたように)センサの光検出システムが、光源と光検出器とを備え、光検出システムを用いて検出する工程が、光源による光を、多孔質膜の第1の側面から多孔質膜を介して送ると共に、送られた光の少なくとも一部を、多孔質膜の反対側の光検出器によって受光することを含む。他の実施形態では、光検出システムを用いて検出する工程が、光の少なくとも一部が多孔質膜により反射されるように、光源による光を多孔質膜の第1の側面から送ると共に、反射された光の少なくとも一部を、多孔質膜の同じ第1の側面の光検出器によって受光することを含む。幾つかの実施形態では、光検出器が導波路を介して光を受光するように構成される。
【0050】
電気化学的検知部を有するセンサを使用する方法の別の例では、この方法が、基板(例えば14)に結合する第1の電極(例えば22)と、基板に結合すると共に、第1の電極から離間している第2の電極(例えば26)と、第1の電極を第2の電極に結合させるカプラ(例えば30)と、基板に結合する電解質(例えば18)と、基板に結合する検出用物質であって、酸化窒素に感応性であるように構成される、検出用物質と、基板に結合する対向電極(例えば34)と、基板に結合する参照電極(例えば38)と、第1の電極、第2の電極、対向電極及び参照電極の少なくとも2つに結合する電気検出器(例えば50)であって、カプラにおける電気的変化を検出するように構成される、電気検出器とを備えるセンサを準備する工程を含む。この方法は、少なくとも1つの酸化窒素が、基板に結合する検出用物質と化学反応するように、(例えば、ガスフローシステム42を介して)少なくとも1つの酸化窒素を含有する試料を、基板と流体連通させる工程、化学反応の反応生成物を検出する工程、電気検出器を用いてカプラの電気的変化を検出する工程、及び、電気的変化から少なくとも1つの酸化窒素を検出する工程を更に含み得る。幾つかの実施形態では、反応生成物が電解質中に形成されるように、検出用物質を電解質中に配する。他の実施形態では、反応生成物が参照電極上に形成されるように、検出用物質を参照電極上に配する。
【0051】
光学的検知部及び電気化学的検知部の両方を有する集積型センサを使用する方法の別の例では、この方法が、基板(例えば14)と、基板に結合する芳香族アミン化合物と、基板に結合する第1の電極(例えば22)と、基板に結合すると共に、第1の電極から離間している第2の電極(例えば26)と、第1の電極を第2の電極に結合させるカプラ(例えば30)と、基板に結合する電解質(例えば18)と、基板に結合する検出用物質であって、酸化窒素に感応性であるように構成される、検出用物質と、基板に結合する対向電極(例えば34)と、基板に結合する参照電極(例えば38)と、基板と流体連通するガスフローシステム(例えば42)と、芳香族アミン化合物の光学的変化を検出するように構成される光検出システム(例えば46)と、第1の電極、第2の電極、対向電極及び参照電極の少なくとも2つに結合する電気検出器(例えば50)であって、カプラにおける1つ又は複数の電気的変化を検出するように構成される、電気検出器とを備えるセンサを準備する工程を含む。この方法は、少なくとも1つの酸化窒素が、芳香族アミン化合物及び検出用物質と化学反応するように、(例えば、ガスフローシステム42を介して)少なくとも1つの酸化窒素を含有する試料を、基板と流体連通させる工程、化学反応のうちの少なくとも1つの反応生成物を検出する工程、光検出システムを用いて芳香族アミン化合物の光学的変化を検出する工程、電気検出器を用いてカプラの電気的変化を検出する工程、並びに、光学的変化及び電気的変化の少なくとも一方から少なくとも1つの酸化窒素を検出する工程を更に含み得る。
【実施例】
【0052】
実施例及び実験データ
1.光学的検出を用いた、酸化窒素(NOx)の十億分率(ppbV)の検出レベル
A.1,2−ジアミノベンゼン/アセトニトリル溶液中に酸化窒素を吹き込む(Bubbled)
空気中で希釈される酸化窒素を、1,2−ジアミノベンゼン/アセトニトリル溶液中に吹き込んで、可視吸収スペクトルを得た。空気中で希釈される酸化窒素を、1,2−ジアミノベンゼンのアセトニトリル溶液に流すと、はっきりとした呈色が溶液中に観察された。
【0053】
図2は、主可視吸収帯が、580nm付近のより低い波長にショルダーを伴って700nm付近に位置する、対応する可視吸収スペクトルを示している。別の強い帯域が350nmに見受けられる。モル吸光係数の高い値は、極めて低濃度の酸化窒素の検出を可能とする。その上、多帯域吸収スペクトルは、光源発光の最適化を通じて、採用されるセンサの選択性の改善を可能にする。
【0054】
B.1,2−ジアミノベンゼンを含ませた白い布に酸化窒素を流す
1,2−ジアミノベンゼンを組み込んだ白い布に酸化窒素を送った。酸化窒素と1,2−ジアミノベンゼンとの反応が、如何なる添加剤又は媒質による調整を行わずとも固相で同様に起こる。酸化窒素を、固体1,2−ジアミノベンゼンで飽和させた綿布の白い切れ端に流したところ、呈色が同様に観察された。
【0055】
図3は、酸化窒素が流れる際に、固体1,2−ジアミノベンゼンを組み込んだ布の切れ端により生じる、白色LED光源の赤色、緑色及び青色(RGB)の光成分の変化を示している。酸化窒素濃度とはほぼ関係なく、定常状態の信号に達する応答時間はわずか60秒であることを注記することができる。緑色成分を用いた推定検出限界は20ppbV(ノイズレベルの3倍)未満である。
【0056】
2.高分子ナノ接合部(Polymer Nanojunctions)に基づく電気化学センサを用いた、NOxの十億分率の検出レベル
図4は、センサ10a及びセンサ10bに関して上記で述べたものと類似の接合構造にある2つの金微小電極(WE1及びWE1)の間で電解重合されるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)の高分子ナノ接合部に対応する、幾つかのソース−ドレイン間電流(Isd)プロファイルを示している。Isd−V依存性の変化は、高分子ナノ接合部のドーピングレベルの変化、又は電極酸化により生じる、電解質及び参照電極の電気化学的電位の変化のいずれかに起因する可能性がある。この電気化学的な実験は、イオン液体1−ブチル3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート([bmim][PF6])を電解質として用いて行った。極めて低濃度(ppbVレベル)の酸化窒素蒸気をイオン液体層上に流すと、Isd−Vプロファイルがより低いゲート電位にシフトし始め、これにより、50ppbV未満の推定検出限界及び極めて広い動作範囲を可能にする、酸化窒素濃度に対する線形依存性(図5)を示す、所与のVにおけるIsdの変化又は所与のIsdにおける電位シフトのいずれかが規定される可能性がある。
【0057】
本明細書中に開示及び特許請求されるセンサ及び/又は方法は全て、本開示を踏まえて、過度の実験を伴うことなく行うと共に達成することができる。本発明のセンサ及び方法は幾つかの実施形態に関して記載しているが、本発明の概念、精神及び範囲を逸脱することなく、本明細書中に記載の方法の工程又は工程の順序の変更をセンサ及び方法に適用し得ることは、当業者には明らかであろう。
【0058】
本明細書中に記載の様々な例示的な装置、システム及び方法は、開示される特定の形態に限定することを意図するものではない。むしろ、それらは、特許請求の範囲内にある全ての変更形態、均等物及び代替形態を含む。
【0059】
特許請求の範囲は、ミーンズ・プラス・ファンクション又はステップ・プラス・ファンクションの限定を、それぞれ「のための手段」又は「のための工程」という語句(複数可)を用いて所与の請求項にはっきりと記載していない限り、このような限定を含むことを意図するものではなく、またこれらを含むように解釈すべきものでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサであって、
基板(14)と、
前記基板(14)に結合する芳香族アミン化合物と、
前記基板(14)と流体連通するガスフローシステム(42)と、
前記芳香族アミン化合物の光学的変化を検出するように構成される光検出システム(46)と、
を備える、センサ。
【請求項2】
前記基板(14)が、セルロース、セルロース誘導体、ガラス、プラスチック、金網、ゼオライト、シリカ粒子、ゾル・ゲル及びアルミナ粒子からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記基板(14)が多孔質膜(78)を備え、前記芳香族アミン化合物が前記多孔質膜(78)に組み込まれる、請求項1に記載のセンサ。
【請求項4】
前記多孔質膜(78)が、アルミナ粒子を含むセルロース/ポリエステル膜を含む、請求項3に記載のセンサ。
【請求項5】
前記多孔質膜(78)が検知領域を画定し、前記芳香族アミンが、材料によって前記多孔質膜(78)に捕捉される、請求項3に記載のセンサ。
【請求項6】
前記材料がポリジメチルシロキサンを含む、請求項5に記載のセンサ。
【請求項7】
前記芳香族アミン化合物が、芳香族モノアミン、芳香族モノアミン誘導体、芳香族ジアミン、1,2−ジアミノベンゼン、芳香族ジアミン誘導体、ナフタレンジアミン及びナフタレンジアミン誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む、請求項1に記載のセンサ。
【請求項8】
前記ガスフローシステム(42)が吸気口及び排気口を備える、請求項1に記載のセンサ。
【請求項9】
前記ガスフローシステム(42)がフィルタを備える、請求項8に記載のセンサ。
【請求項10】
前記光検出システム(46)が光源と光検出器(74)とを備える、請求項1に記載のセンサ。
【請求項11】
前記光源及び前記光検出器(74)が、前記基板(14)の同側面に位置する、請求項10に記載のセンサ。
【請求項12】
前記基板(14)が多孔質膜(78)を備え、前記光源が前記多孔質膜(78)の一側面に位置し、前記光検出器(74)が、前記多孔質膜(78)の、前記光源とは反対側に位置する、請求項10に記載のセンサ。
【請求項13】
前記光検出システム(46)が光導波路を備える、請求項10に記載のセンサ。
【請求項14】
前記光源が発光ダイオード(LED)を含む、請求項10に記載のセンサ。
【請求項15】
前記光検出器(74)が電荷結合素子(CCD)カメラを備える、請求項10に記載のセンサ。
【請求項16】
前記光検出器(74)が相補型金属酸化膜半導体(CMOS)カメラである、請求項10に記載のセンサ。
【請求項17】
センサであって、
基板(14)に結合する第1の電極(22)と、
前記基板(14)に結合すると共に前記第1の電極(22)から離間している第2の電極(26)と、
前記第1の電極(22)を前記第2の電極(26)に結合させるカプラ(30)と、
前記基板(14)に結合する電解質と、
前記基板(14)に結合する検出用物質であって、酸化窒素に感応性であるように構成される、検出用物質と、
前記基板(14)に結合する対向電極と、
前記基板(14)に結合する参照電極(38)と、
前記基板(14)と流体連通するガスフローシステム(42)と、
前記第1の電極(22)、前記第2の電極(26)、前記対向電極及び前記参照電極(38)の少なくとも2つに結合する電気検出器(50)であって、前記カプラ(30)における電気的変化を検出するように構成される、電気検出器(50)と、
を備える、センサ。
【請求項18】
前記カプラ(30)が導電材料又は半導体材料を含む、請求項17に記載のセンサ。
【請求項19】
前記導電材料又は前記半導体材料が、金属酸化物、金属酸化物誘導体、ポリピロール、ポリピロール誘導体、ポリアニリン、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン、ポリチオフェン誘導体、及びポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)からなる群から選択される1つ又は複数の材料を含む、請求項18に記載のセンサ。
【請求項20】
前記電解質が、イオン液体、又は電解質を有する低蒸気圧溶媒を含む、請求項17に記載のセンサ。
【請求項21】
前記検出用物質が前記参照電極(38)上に配される、請求項17に記載のセンサ。
【請求項22】
前記検出用物質が前記電解質中に配される、請求項17に記載のセンサ。
【請求項23】
前記検出用物質が、芳香族モノアミン、芳香族モノアミン誘導体、芳香族ジアミン、1,2−ジアミノベンゼン、芳香族ジアミン誘導体、ナフタレンジアミン、ナフタレンジアミン誘導体、ヘムタンパク質、ヘムペプチド、金属フタロシアニン、金属フタロシアニン誘導体、金属ポルフィリン、金属ポルフィリン誘導体、カルバミン酸鉄(II)、及びカルバミン酸鉄(II)誘導体からなる群から選択される1つ又は複数の材料を含む、請求項17に記載のセンサ。
【請求項24】
前記検出用物質が前記参照電極(38)上に配され、前記検出用物質が、銀、芳香族モノアミン、芳香族モノアミン誘導体、芳香族ジアミン、1,2−ジアミノベンゼン、芳香族ジアミン誘導体、ナフタレンジアミン、ナフタレンジアミン誘導体、ヘムタンパク質、ヘムペプチド、金属フタロシアニン、金属フタロシアニン誘導体、金属ポルフィリン、金属ポルフィリン誘導体、カルバミン酸鉄(II)、及びカルバミン酸鉄(II)誘導体からなる群から選択される1つ又は複数の材料を含む、請求項17に記載のセンサ。
【請求項25】
前記ガスフローシステム(42)が吸気口及び排気口を備える、請求項17に記載のセンサ。
【請求項26】
前記ガスフローシステム(42)がフィルタを備える、請求項17に記載のセンサ。
【請求項27】
前記電気検出器(50)が、前記1つ又は複数の結合する電極の1つ又は複数の電気的変化を制御及び測定するように構成される、請求項17に記載のセンサ。
【請求項28】
前記電気検出器(50)が、少なくとも前記第1の電極(22)に結合し、前記電気検出器(50)が、電位変動をもたらすように構成される、請求項27に記載のセンサ。
【請求項29】
前記電気検出器(50)がバイポテンショスタットを備える、請求項27に記載のセンサ。
【請求項30】
前記電気検出器(50)が、前記第1の電極(22)、前記第2の電極(26)及び前記参照電極(38)に結合し、前記電気検出器(50)が、電位シフト、コンダクタンス及び電流からなる群から選択される1つ又は複数の電気的変化を測定するように構成される、請求項17に記載のセンサ。
【請求項31】
前記検出用物質が前記電解質中に混合され、また、1つ又は複数の酸化窒素が前記電解質に導入されると、前記検出用物質が前記1つ又は複数の酸化窒素の少なくとも1つと化学反応して、前記化学反応と同時に前記1つ又は複数の電気的変化を測定することができるように、前記センサが構成される、請求項30に記載のセンサ。
【請求項32】
前記検出用物質が前記参照電極(38)上に配され、また、1つ又は複数の酸化窒素が前記参照電極(38)に導入されると、前記検出用物質が前記1つ又は複数の酸化窒素の少なくとも1つと化学反応して、前記化学反応と同時に前記1つ又は複数の電気的変化を測定することができるように、前記センサが構成される、請求項30に記載のセンサ。
【請求項33】
センサであって、
基板(14)と、
前記基板(14)に結合する芳香族アミン化合物と、
前記基板(14)に結合する第1の電極(22)と、
前記基板に結合すると共に前記第1の電極(22)から離間している第2の電極(26)と、
前記第1の電極(22)を前記第2の電極(26)に結合させるカプラ(30)と、
前記基板に結合する電解質と、
前記基板に結合する検出用物質であって、酸化窒素に感応性であるように構成される、検出用物質と、
前記基板に結合する対向電極と、
前記基板に結合する参照電極(38)と、
前記基板と流体連通するガスフローシステム(42)と、
前記芳香族アミン化合物の光学的変化を検出するように構成される光検出システム(46)と、
前記第1の電極(22)、前記第2の電極(26)、前記対向電極及び前記参照電極(38)の少なくとも2つに結合する電気検出器であって、前記カプラ(30)における1つ又は複数の電気的変化を検出するように構成される、電気検出器と、
を備える、センサ。
【請求項34】
方法であって、
基板(14)と、
前記基板(14)に結合する芳香族アミン化合物と、
前記芳香族アミン化合物の光学的変化を検出するように構成される光検出システム(46)と、
を備えるセンサを準備する工程、
少なくとも1つの酸化窒素が、前記基板(14)に結合する前記芳香族アミン化合物と化学反応するように、前記少なくとも1つの酸化窒素を含有する試料を、前記基板(14)と流体連通させる工程、
前記化学反応の反応生成物を検出する工程、
前記光検出システム(46)を用いて前記芳香族アミン化合物の光学的変化を検出する工程、及び
前記光学的変化から前記少なくとも1つの酸化窒素を検出する工程、
を含む、方法。
【請求項35】
前記基板(14)が多孔質膜(78)を有し、前記芳香族アミン化合物が前記多孔質膜(78)に組み込まれ、試料を前記基板(14)と流体連通させる工程が、試料を前記多孔質膜(78)と流体連通させることを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
試料を前記基板(14)と流体連通させる工程が、試料を前記多孔質膜(78)に通過させることを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記センサの前記光検出システム(46)が、光源と光検出器(74)とを備え、前記光検出システム(46)を用いて検出する工程が、前記光源による光を、前記多孔質膜(78)の第1の側面から前記多孔質膜(78)を介して送ると共に、前記送られた光の少なくとも一部を、前記多孔質膜(78)の反対側の前記光検出器(74)によって受光することを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記センサの前記光検出システム(46)が、光源と光検出器(74)とを備え、前記光検出システム(46)を用いて検出する工程が、前記光源による光の少なくとも一部が前記多孔質膜(78)により反射されるように、前記光を前記多孔質膜(78)の第1の側面から送ると共に、前記反射された光の少なくとも一部を、前記多孔質膜(78)の同じ第1の側面の前記光検出器(74)によって受光することを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
前記センサの前記光検出システム(46)が、光源と光検出器(74)とを備え、前記光検出器(74)が導波路を介して光を受光するように構成される、請求項34に記載の方法。
【請求項40】
方法であって、
基板(14)に結合する第1の電極(22)と、
前記基板(14)に結合すると共に前記第1の電極(22)から離間している第2の電極(26)と、
前記第1の電極(22)を前記第2の電極(26)に結合させるカプラ(30)と、
前記基板(14)に結合する電解質と、
前記基板(14)に結合する検出用物質であって、酸化窒素に感応性であるように構成される、検出用物質と、
前記基板(14)に結合する対向電極と、
前記基板(14)に結合する参照電極(38)と、
前記第1の電極(22)、前記第2の電極(26)、前記対向電極及び前記参照電極(38)の少なくとも2つに結合する電気検出器であって、前記カプラ(30)における電気的変化を検出するように構成される、電気検出器と、
を備えるセンサを準備する工程、
少なくとも1つの酸化窒素が、前記基板(14)に結合する前記検出用物質と化学反応するように、前記少なくとも1つの酸化窒素を含有する試料を、前記基板(14)と流体連通させる工程、
前記化学反応の反応生成物を検出する工程、
前記電気検出器を用いて前記カプラ(30)の電気的変化を検出する工程、及び
前記電気的変化から前記少なくとも1つの酸化窒素を検出する工程、
を含む、方法。
【請求項41】
前記反応生成物が前記電解質中に形成されるように、前記検出用物質を前記電解質中に配する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記反応生成物が前記参照電極(38)上に形成されるように、前記検出用物質を前記参照電極(38)上に配する、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
方法であって、
基板(14)と、
前記基板(14)に結合する芳香族アミン化合物と、
前記基板(14)に結合する第1の電極(22)と、
前記基板に結合すると共に前記第1の電極(22)から離間している第2の電極(26)と、
前記第1の電極(22)を前記第2の電極(26)に結合させるカプラ(30)と、
前記基板(14)に結合する電解質と、
前記基板(14)に結合する検出用物質であって、酸化窒素に感応性であるように構成される、検出用物質と、
前記基板(14)に結合する対向電極と、
前記基板(14)に結合する参照電極(38)と、
前記基板(14)と流体連通するガスフローシステム(42)と、
前記芳香族アミン化合物の光学的変化を検出するように構成される光検出システム(46)と、
前記第1の電極(22)、前記第2の電極(26)、前記対向電極及び前記参照電極(38)の少なくとも2つに結合する電気検出器であって、前記カプラ(30)における1つ又は複数の電気的変化を検出するように構成される、電気検出器と、
を備えるセンサを準備する工程、
少なくとも1つの酸化窒素が、前記芳香族アミン化合物及び前記検出用物質と化学反応するように、前記少なくとも1つの酸化窒素を含有する試料を、前記基板(14)と流体連通させる工程、
前記化学反応のうちの少なくとも1つの反応生成物を検出する工程、
前記光検出システム(46)を用いて前記芳香族アミン化合物の光学的変化を検出する工程、
前記電気検出器を用いて前記カプラ(30)の電気的変化を検出する工程、及び
前記光学的変化及び前記電気的変化の少なくとも一方から前記少なくとも1つの酸化窒素を検出する工程、
を含む、方法。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図1c】
image rotate

【図1d】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2012−529056(P2012−529056A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514090(P2012−514090)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/037101
【国際公開番号】WO2010/141610
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(511293939)アリゾナ・ボード・オブ・リージェンツ・アクティング・フォー・アンド・オン・ビハーフ・オブ・アリゾナ・ステイト・ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】