説明

気体試料採集方法及び装置

【課題】携帯も可能な小型で電池電源も使用可能なアクティブ気体採集方法及び装置を提供すること。
【解決手段】ハウジングと、該ハウジング内に配置され、内部に吸着媒体を配置した筒体と、前記ハウジング内に配置され、該筒体の排出口に接続されたチューブポンプと、前記ハウジング内に配置された電源とを有し、前記チューブポンプを作動させて前記筒体の吸入口から気体試料を吸入して前記吸着媒体に試料を吸着させることを特徴とする気体試料採集装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体試料採集方法及び装置、さらに詳しく、小型で、携帯可能にも構成できるアクティブ(能動的)すなわち自身で強制的に試料を吸引吸着する気体試料採集方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(VOCs)等の環境中ガス成分を測定する方法として、アクティブサンプリング方法及びパッシブサンプリング方法が実用化されている。
【0003】
アクティブサンプリング方法は、真空ポンプ等の吸引ポンプを使用して試料含有の気体を吸引あるいは濃縮する方法である(例えば、特許文献1及び2参照)。すなわち、アクティブサンプリング方法は、例えば、自動車の排気管や工場の煙突等からの排煙、飛散粉塵等のように、大気中に存在して人の健康、特に呼吸器官に悪影響を及ぼす浮遊粒子状物質の質量濃度の測定すること、該浮遊粒子状物質に含まれている炭化水素系化合物や各種イオン等の成分分析すること、呼気中の成分に被検者体内で生成した微量代謝物が含まれており、疾患の有無などにより、その微量代謝物の濃度や生成物そのものが変化することに鑑み、呼気中の微量代謝物の成分を捕集して、分析することにより病気の診断行うこと等のために実施されている。
アクティブサンプリング装置は真空ポンプを使用するため、一般に、大型で重量のあるものとして形成されている。
【0004】
パッシブサンプリング方法は、試料含有の気体の自由拡散性を利用して、静的状態で試料の採集を行う方法である。アクティブサンプリング装置は、ワッペン型(バッチ型)等として使用され、吸引ポンプやその駆動源を必要とせず、アクティブサンプリング装置に比較して、簡易構造であり小型で軽量で、操作も簡単である(例えば、特許文献3及び4参照)。
【0005】
このような状況から、大気中等大きな空間に含有されている試料を短時間に気体試料採集する場合には、アクティブサンプリング方法が採用さている。一方、シックハウス症候群の原因ガス分析等室内の比較的狭い空間における長時間にわたる気体試料採集する場合には、パッシブサンプリング方法が採用されている。
【0006】
ところで、アクティブサンプリング方法及びパッシブサンプリング方法においては、気体試料採集後に、吸着媒体から試料成分を抽出することによってガスクロマトグラフ装置へ採集試料を導入する際、溶媒抽出や熱脱着等の前処理をしなければならないという煩わしさがある。
【0007】
アクティブサンプリング方法及びパッシブサンプリング方法による溶媒抽出や熱脱着等の前処理の煩わしさを軽減するため、マイクロ固相抽出(Solid phase microextraction)操作法が実施されている(例えば、特許文献5参照)。マイクロ固相抽出操作法は、細いニードルに結合された固相すなわちファイバーに試料を吸着させ、吸着後のファイバーをガスクロマトグラフ装置(GC)やガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)の注入口に直接挿入して、試料を加熱脱着する。
【0008】
マイクロ固相抽出操作法は、ガスクロマトグラフ測定のための前処理は、試料のファイバーへの吸着操作のみであるから、極めて少量の試料を用いて短時間に測定を開始することができる。また、通常のスプリット・スプリットレス注入口を用いて測定が可能であり特殊な注入装置を必要としない。さらに、汚濁の著しい試料を分析する場合でも、キャピラーカラムを損傷し難い利点がある。
【0009】
マイクロ固相抽出操作法のニードルすなわち注射針として、モノマー成分がメタクリル酸と二メタクリル酸エチレングリコールのみからなるコポリマーであって、メタクリル酸と二メタクリル酸エチレングリコールのモル比が1:1〜10であるコポリマー吸着剤として充填した固相マイクロ抽出用注射針が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0010】
本発明で使用するチューブポンプは、チューブを円筒室の内周面に沿わせてリング状に配置し、チューブの内側に設けたリング状の加圧部材の偏心運動によりチューブを一方向に順次圧迫してチューブ内の流体を送出するチューブポンプである(例えば、特許文献 6及び7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−255914号公報
【特許文献2】特開2008−102048号公報
【特許文献3】特開2008−8834号公報
【特許文献4】特開2002−328077号公報
【特許文献5】特許第3917052号公報
【特許文献6】特許第3984606号公報
【特許文献7】特許第4035119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来のアクティブ気体採集方法及び装置においては、装置が大型で重量のあり、駆動のための電力消費も大きく、固定式すなわち非携帯型であり、実際上固定式あるいは机上型として使用されている。
【0013】
本発明は、従来のアクティブ気体採集方法及び装置の上述した問題点に鑑みなされたものであって、携帯も可能な小型で電池電源も使用可能なアクティブ気体採集方法及び装置、例えば、塗装現場の作業者が吸引するベンゼン、トルエン等の有機溶媒成分の蓄積や、皮膚から発散される皮膚ガスの微量成分を、被測定者に大きな負担を強いることなく高精度に測定可能なアクティブ気体採集方法及び装置を提供することを目的とする。
【0014】
本発明はまた、試料採取後煩雑な前処理を行う必要のない、しかも採取装置が簡易な構造のアクティブ気体採集方法及び装置を提供することを目的とする。
さらに、試料採取後短時間で測定を開始することができ、極めて少量の試料を用いて高精度に分析可能で、キャピラーカラムを損傷し難いアクティブ気体採集方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1発明は、筒体の排出口にチューブポンプを接続し、前記筒体の内部に吸着媒体を配置し、前記チューブポンプを作動させて前記筒体の吸入口から気体試料を吸入して前記吸着媒体に吸着させることを特徴とする気体試料採集方法である。
【0016】
第2発明は、ハウジングと、該ハウジング内に配置され、内部に吸着媒体を配置した筒体と、前記ハウジング内に配置され、該筒体の排出口に接続されたチューブポンプと、前記ハウジング内に配置された電源とを有し、前記チューブポンプを作動させて前記筒体の吸入口から気体試料を吸入して前記吸着媒体に試料を吸着させることを特徴とする気体試料採集装置である。
【0017】
本発明の実施態様は以下のとおりである。
前記筒体が、注射針構造である。このような構成により、溶媒抽出操作時に発生しやすい不用意なコンタミネーションを防ぐことができ、また、従来に比較して微少量の吸着媒体で済み、さらにコンデショニングすることで繰り返し使用することができる利点を得ることができる。
【0018】
前記吸着媒体が、一次粒子の粒径が20〜50μmのビーズ状であることを特徴とする。一次粒子の粒径がこの下限を超えた場合、二次粒子を形成し難いという問題が発生する。一次粒子の粒径をこの上限を超えるように形成することは、極めて困難である。
【0019】
前記吸着媒体が、二次粒子の粒径が100〜250μmのビーズ状であることを特徴とする。二次粒子の粒径がこの下限を超えた場合、気体が筒体内を通過する速度が極端に遅くなり、測定時間が長くなる等好ましくない。二次粒子の粒径がこの上限を超えた場合、粒子を筒体に充填する際に、筒体の内壁の途中に引っかかる等して均一に充填できないという問題が発生する。
【0020】
前記吸着媒体が、ポリマーまたは活性炭であることを特徴とする。このように構成することにより、測定すなわち吸着したい物質の特性に応じた吸着媒体を任意に選択して熱脱着を効率的に行うことができるという利点を得ることができる。
ポリマーとしては、例えば、モノマー成分がメタクリル酸と二メタクリル酸エチレングリコールのみからなるコポリマーであって、メタクリル酸と二メタクリル酸エチレングリコールのモル比が1:1〜10であるコポリマーが挙げられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のアクティブ気体採集方法及び装置は、携帯も可能な小型で電池電源も使用可能である効果を有する。すなわち、本発明は、塗装現場の作業者が吸引する有機溶媒成分の蓄積や、皮膚から発散される皮膚ガスの微量成分を被測定者に大きな負担を強いることなく高精度に測定可能であるという効果を有する。
本発明のアクティブ気体採集方法及び装置は、また、採取後煩雑な前処理を行う必要のない、しかも採取装置が簡易な構造を実現できる効果を有する。
さらに、本発明のアクティブ気体採集方法及び装置は、試料採取後短時間で測定を開始することができ、極めて少量の試料を用いて高精度に分析可能で、キャピラーカラムを損傷し難い効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態の気体試料採集装置の内部構造の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態の気体試料採集装置の、図1の線II−IIに沿った断面図である。
【図3】本発明の実施形態の気体試料採集装置のチューブポンプの断面図である。
【図4】本発明の実施形態の気体試料採集装置の注射針型吸着部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態の気体試料採集装置1は、図1及び図2に示すように、円筒形のハウジング10(図1においては想像線で示す)内に、電池12、モータ14及びチューブポンプ16を直線状に配置して収容してなる。ハウジング10と電池12の間には、ハウジング10の中心軸線と平行に、注射針型の吸着筒体18が配置されている。
ハウジング10は、本体部20と蓋部22が螺合しており、電池12の交換を可能にしている。ハウジング10の下端面には、嵌合筒部23付きの気体吸入孔24が設けられている。ハウジング10の上端面には、スイッチ26と、気体排出孔28が設けられている。
【0024】
チューブポンプ16は、図3に示すように、柔軟性チューブ30を円筒室32の内周面34に沿わせてリング状に配置している。柔軟性チューブ30の内側に設けたリング状の偏心加圧部材36は、モータ14の回転駆動力によって偏心運動させられる。この偏心運動によって、柔軟性チューブ30の押し潰された部分が円筒室32に沿って移動し、柔軟性チューブ30内の気体等が搬送される。
【0025】
吸着筒体18は、図4に示すように、ステンレス製で内径0.2〜0.6mm、外径0.5〜0.8mmの筒部材40の内部に、ポリマーまたは活性炭で粒径が20〜100μmのビーズ状の吸着体42を収容し、シリカウール、ステンレスファイバ不織布、耐熱性繊維等の閉塞部材44によって吸着集合体46の両側を塞いでいる。吸着筒体18の基端部50は、吸着筒体18を第1連通パイプ52と接合するための嵌合部材54が取付けられている。吸着筒体18は、気体吸入孔24の嵌合筒部23の嵌合される。
【0026】
吸着筒体18は、第1連通パイプ52によってチューブポンプ16の吸入口60に連通接続される。チューブポンプ16の排出口62に連通接続された第2連通パイプ56は、気体排出孔28を通して外部に出て解放されている。
【0027】
上述した構成の気体試料採集装置1は、例えば、作業服のポケットに入れたり、皮膚に接して固定して測定する。
塗装現場の作業者が吸引する有機溶媒成分の蓄積量は、気体試料採集装置1を作業服のポケットに入れ、例えば、チューブポンプ16の回転数30rpmで、吐出量0.2ml/minで、始業から終業まで連続して気体を吸入する。終業後、気体試料採集装置1から吸着筒体18を取り出し、取り出された吸着筒体18はガスクロマトグラフ装置(GC)やガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)の注入口に直接挿入されて、試料を加熱脱着する。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、人体から発散されるガスの測定や作業環境測定に限られず、電池駆動で小型であるという特徴を活かして、作業員の入れない狭い空間や危険な空間を測定したり、下水管内の有毒ガスの検出することができ、遠隔サンプリングデバイスとして有効に利用することができる。また、筒体を直接土中等に差し込むことによって、土中等内の微量ガスを確実に測定することもできる。
【符号の説明】
【0029】
1 気体試料採集装置
10 ハウジング
14 モータ
16 チューブポンプ
18 吸着筒体
20 本体部
22 蓋部
23 嵌合筒部
24 気体吸入孔
28 気体排出孔
30 柔軟性チューブ
32 円筒室
34 内周面
36 偏心加圧部材
40 筒部材
42 吸着体
44 閉塞部材
46 吸着集合体
50 基端部
60 吸入口
62 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体の排出口にチューブポンプを接続し、前記筒体の内部に吸着媒体を配置し、前記チューブポンプを作動させて前記筒体の吸入口から気体試料を吸入して前記吸着媒体に吸着させることを特徴とする気体試料採集方法。
【請求項2】
前記筒体が、注射針構造であることを特徴とする請求項1に記載の気体試料採集方法。
【請求項3】
前記吸着媒体が、一次粒子の粒径が0.1〜1.0μmのビーズ状であることを特徴とする請求項1に記載の気体試料採集方法。
【請求項4】
前記吸着媒体が、二次粒子の粒径が20〜100μmのビーズ状であることを特徴とする請求項1に記載の気体試料採集方法。
【請求項5】
前記吸着媒体が、ポリマーまたは活性炭であることを特徴とする請求項1に記載の気体試料採集方法。
【請求項6】
ハウジングと、該ハウジング内に配置され、内部に吸着媒体を配置した筒体と、前記ハウジング内に配置され、該筒体の排出口に接続されたチューブポンプと、前記ハウジング内に配置された電源とを有し、前記チューブポンプを作動させて前記筒体の吸入口から気体試料を吸入して前記吸着媒体に試料を吸着させることを特徴とする気体試料採集装置。
【請求項7】
前記筒体が、注射針構造であることを特徴とする請求項6に記載の気体試料採集装置。
【請求項8】
前記吸着媒体が、一次粒子の粒径が0.1〜1.0μmのビーズ状であることを特徴とする請求項6に記載の気体試料採集装置。
【請求項9】
前記吸着媒体が、二次粒子の粒径が20〜100μmのビーズ状であることを特徴とする請求項6に記載の気体試料採集装置。
【請求項10】
前記吸着媒体が、ポリマーまたは活性炭であることを特徴とする請求項6に記載の気体試料採集装置。
【請求項11】
前記ハウジングが、クリップ付きペン型であることを特徴とする請求項6に記載の気体試料採集装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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