説明

気体透過性複合材料及びその製造方法、それを用いた気体透過膜用支持体

【課題】 ガスの透過性に優れ機械的特性を有する実用性の高い気体透過性材料及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 カーボンと金属をカーボン含有率が10〜90体積%であるように複合化してなり、前記カーボンと金属の界面あるいは、前記カーボンとカーボンの空隙により気孔を形成して、ヘリウムリーク量が1×10−11Pa・m3/sec以上であり、かつ曲げ強さが10MPa以上である気体透過性材料である。カーボンと金属を混合する工程と、該混合物を焼結により一体化する工程を有する、あるいはカーボン構造体を製造する工程と、前記カーボン構造体に金属を溶浸する工程を有する気体透過性材料の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体の透過性に優れた気体透過性複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気等の混合ガスから単体ガスあるいはその濃度を高めたガスを分離し、各種分野に用いることが行われている。例えば燃焼炉、加熱炉、ボイラー、鍛造炉、ガラス溶解炉、金属処理炉、セラミック焼成炉、焼却炉等の各種高温炉には空気中から分離した酸素あるいはその濃度を高めたガスがその高温を得るために用いられ、また、医療用、健康用等にも吸入用に酸素が用いられ、さらには排水処理を行う際の曝気にも酸素が用いられている。一方、空気中の窒素等の不活性ガスは防曝用、シール用、食品貯蔵用等に用いられている。このように空気等の混合ガスから単体ガスあるいはその濃度を高めたガスを分離するには、例えば液化空気から酸素と窒素を分離する冷却凝集蒸留法、吸着体に混合ガスを吸着させその吸着能の弱いものから順次脱着させ分離する吸着分離法、溶媒に混合ガスを通してその単体ガスの溶解性の違いにより分離する溶媒抽出分離法など種々の方法が知られているが、これらの方法においては複雑な設備と多大のエネルギーを必要とし、大規模なものにならざるを得ず、手軽にどこでも利用できるといえるものではない。
【0003】
そこで、近年、高分子素材からなる膜に混合ガスを通すことによりその単体ガスを分離する方法を用い、エネルギー消費を低減しようとする試みが盛んに行われるようになってきている。このような高分子素材からなる膜を用いて混合ガスからその単体ガスを分離する方法としては、気体の選択的透過性,特に酸素分子の選択的透過性に優れるポリオルガノシロキサン膜を利用する方法があるが、その膜単独では混合ガスを透過させる圧力に耐える強度を有しないので、その膜強度を高めるために、他の高分子化合物、例えばポリカーボネートやポリウレタン、ポリスチレン、ポリフェニレンオキシドなどとブレンドした膜、あるいはこれらの高分子化合物をそれぞれの原料モノマーの共重(縮)合により得る際にポリオルガノシロキサンの原料の各種モノマーを併用して共重(縮)合させた高分子化合物を得、その膜を利用するもの(特開昭48−64193号公報、特開昭48−163403号公報、特開昭58−14926号公報など)、発泡処理等による多孔性の高分子素材からなる膜を利用するもの、セラミック等の多孔質の支持体の表面に上記のポリオルガノシロキサン膜等を設けた透過膜複合体を利用するもの(特公昭58−3201号公報など)、上記の膜の細孔にオルガノシロキサン系重合体を含浸させた材料を利用するものなどが知られている。
【0004】
【特許文献1】特開昭48−64193号公報
【特許文献2】特開昭48−163403号公報
【特許文献3】特開昭58−14926号公報
【特許文献4】特公昭58−3201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の方法は、分離しようとするガスの透過性が十分ではなく、その透過量を上げるためにはその透過圧力を高くするか、透過時間を長くしなければならず、前者はエネルギー消費が多くなる点、後者は作業能率が良くない点でいずれもコスト高になるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の第1の目的は、ガスの透過性が良い気体透過性材料あるいは気体透過膜用の支持体に用いる気体透過材料及びその製造方法を提供することにある。
本発明の第2の目的は、機械的強度が大きく、混合ガスを分離する際のガスの加圧エネルギー損失の少ない実用性の高い気体透過性材料あるいは気体透過膜用支持体及びその製造方法を提供することにある。
本発明の第3の目的は、上記の材料を用いて製造の容易な低コストの実用性の高い気体透過性材料あるいは気体透過膜用支持体を提供することにある。
本発明の材料そのものにも気体透過性としての機能があるが、本材料で気体透過性としての機能が満足できない場合は、本材料が高い強度を有しているので、本材料表面に所望の気体透過性膜を形成し、気体透過性複合体として使用することができる気体透過膜の支持体としての機能がある。つまり、本材料表面に種々の気体透過性膜を形成することにより、容易にかつ安価に様々な気体透過性を有する複合体を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、カーボンと金属を複合化してなり、前記カーボンと金属の界面あるいは、前記カーボンとカーボンの空隙に気孔を形成してなる気体透過性複合材料である。
本発明の気体透過性複合材料は、前記カーボン含有率が10〜90体積%である。
本発明の気体透過性複合材料は、ヘリウムリーク量が1×10−11Pa・m3/sec以上である。
本発明の気体透過性複合材料は、曲げ強さが10MPa以上である。
【0008】
本発明は、カーボンと金属を混合する工程と、該混合物を焼結にて一体化する工程を有し、前記カーボンと金属の界面あるいは、前記カーボンとカーボンの空隙に気孔を形成してなる気体透過性複合材料の製造方法である。
本発明は、カーボン構造体を製造する工程と、前記カーボン構造体に金属を溶浸する工程を有し、前記カーボンと金属の界面あるいは、前記カーボンとカーボンの空隙に気孔を形成してなる気体透過性複合材料の製造方法である。
また、本発明の上記気体透過性複合材料は、その表面に気体透過性膜を形成して気体透過性複合体とするのに適した気体透過膜用支持体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、黒鉛と金属の複合体に微少細孔、気孔を均等に分布させることができるので、透過しようとするガスの透過性が良い気体透過性複合材料を提供することができる。また、強度が確保されているので気体透過膜を形成した支持体としての利用ができる。そして、安価な材料であるのでコストのかからない実用性の高い気体透過性材料を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、混合工程、焼結工程、あるいはプリフォームとなるカーボン構造体を作製する工程、金属を溶浸する工程とからなり、簡単な製造方法により気体透過性複合材料を容易に提供することができ、この点からも低コストの気体透過膜及びその支持体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、カーボンとは非晶質カーボン、結晶性カーボンのことである。非晶質カーボンとは、コークス、ピッチ等を炭素化した状態のもの、カーボンブラック、炭素繊維などが含まれる、結晶性カーボンとは、天然黒鉛、人造黒鉛、フラーレン、カーボンナノチューブ、黒鉛化した炭素繊維などである。カーボンと金属の複合化方法は、粉末冶金法、溶浸法などがある。用いる金属は、使用する環境により異なる。必要とする耐熱温度よりも高い融点を有する金属を使用する必要がある。粉末冶金法の場合、緻密化し易い金属であれば、特に特定されることはないが、比較的低い融点を有する金属の方が緻密化は容易である。例えば、銅、銅合金、真鍮、Mg、Al、Al合金、Znなどが好ましい。 溶浸法の場合も、比較的融点の低い金属、例えば、銅、銅合金、真鍮、Mg、Al、Al合金、Znなどが低コストで複合化が容易で好ましい。
複合化した気体透過性材料のカーボンの含有率は10〜90体積%の範囲が好ましい。より好ましくは30〜85体積%、さらに好ましくは60〜80体積%である。カーボンの含有率が10体積%より少ない場合は、気体透過性が得られず、90体積%より多いと貫通孔が大きくなりすぎて、気体透過性材料としての強度が得られない。
また、複合化した気体透過性材料のヘリウムリーク量は1×10−11Pa・m3/sec以上であることが好ましい。ヘリウムリーク量が1×10−11Pa・m3/secより少ない場合、ヘリウム以外の気体透過性が得られない。また、ヘリウムの透過量としても充分ではない。
また、複合化した気体透過性材料の曲げ強さは10MPa以上であることが好ましい。曲げ強さが10MPaより小さいと気体透過膜としての機能は有しているが、気体透過膜用支持体としての使用ができない。
【0011】
前記気体透過性材料の製造方法は、カーボンと金属を混合する工程と、該混合物を焼結にて一体化する工程を有しているが、カーボンとしては、非晶質カーボン、結晶質カーボンを用いるのがよい。非晶質カーボンとしては、カーボンブラック、炭素繊維など、結晶質カーボンとしては、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化した気相成長炭素繊維やカーボンナノチューブや炭素繊維などである。混合の際には粒状、短繊維状とするのが好ましい。そのようなカーボンと金属粉末を混合し、混合粉を成形後、真空焼結法、ホットプレス焼結法、HIP焼結法、パルス通電加圧焼結法などにより焼結して得られる。また、カーボン構造体を製造するプリフォーム作製工程とこのプリフォームに上記金属を溶浸する工程を有する製造方法も可能である。
【0012】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、各実施例における特に記述のないパーセントはいずれも体積%である。また、ヘリウムリーク量の測定は、ヘリウムリークディテクタにて行った。真空脱気後、ヘリウムを測定試料に吹き付けて、リークメーターの指示がある一定値に停止して、次に吹き付けをやめたときのメーターの指示値からリーク量を評価した。
【0013】
(実施例1)
繊維径0.02μmの気相成長炭素繊維20%、銅粉末80%をボールミルにて乾式混合し混合粉を得た。得られた混合粉を黒鉛型に詰めた後、パルス加圧通電焼結炉にて焼結した。焼結条件は、加圧力60MPa、1000℃×10minにておこなった。得られた複合体のヘリウムリーク量と曲げ強さを測定した。それを、表1に示す。
【0014】
(実施例2)
繊維径6μmの気相成長炭素繊維40%、Al−12Si%粉末60%をボールミルにて乾式混合し混合粉を得た。得られた混合粉を黒鉛型に詰めた後、ホットプレス焼結炉にて焼結した。焼結条件は、加圧力50MPa、700℃×60minにておこなった。得られた複合体のヘリウムリーク量と曲げ強さを測定した。それを、表1に示す。
【0015】
(実施例3)
平均粒径50μmの人造黒鉛粒子70%、銅粉末30%をボールミルにて乾式混合し混合粉を得た。得られた混合粉をパルス通電加圧焼結炉にて焼結した。焼結条件は、加圧力60MPa、1100℃×1minにておこなった。得られた複合体のヘリウムリーク量と曲げ強さを測定した。それを、表1に示す。
【0016】
(実施例4)
繊維径10μmのピッチ系炭素繊維とフェノール樹脂5wt%を混合した後、170℃の熱間で固化させ、50%の黒鉛成形体を得た。得られた成形体を真空中、1000℃×1hrにて熱処理し、フェノール樹脂を炭化し、プリフォームとした。得られたプリフォームをアルゴン雰囲気中にて700℃に予備加熱した後、金型に置き、750℃のアルミ溶湯を金型内へ投入し、50MPaの圧力で含浸し、冷却後、周囲のアルミを除去した。得られた複合体のヘリウムリーク量と曲げ強さを測定した。それを、表1に示す。
【0017】
(実施例5)
コークスとピッチを混合し混捏物を得た。得られた混捏物を横押しプレスでノズルから押し出し成形体を得た。成形品は1000℃にて焼成したのち、再度ピッチを充填、焼成した後、2800℃にて黒鉛化し、78%黒鉛質成形体をプリフォームとした。得られたプリフォームをアルゴン雰囲気中、1300℃にて予備加熱した後、金型内へ設置し、1300℃の銅溶湯を金型内へ投入し、100MPaの圧力で含浸し、冷却後、周囲の銅を除去した。得られた複合体のヘリウムリーク量と曲げ強さを測定した。それを、表1に示す。
【0018】
(実施例6)
コークスとピッチを混合し混捏物を得た。得られた混捏物をCIP成形した。成形品は1000℃にて焼成したのち、再度ピッチを充填、焼成した後、2800℃にて黒鉛化し、75%黒鉛質成形体をプリフォームとした。得られたプリフォームをアルゴン雰囲気中、1300℃にて予備加熱した後、金型内へ設置し、1300℃の銅溶湯を金型内へ投入し、100MPaの圧力で含浸し、冷却後、周囲の銅を除去した。得られた複合体のヘリウムリーク量と曲げ強さを測定した。それを、表1に示す。
【0019】
(比較例1)
プロピレン系樹脂組成物からなり、一軸方向に延伸した延伸ポリプロピレンフィルムを気体透過膜としたもののヘリウムリーク量と曲げ強さを測定した。それを、表1に示す。
【0020】
(比較例2)
抄紙に架橋性オルガノシロキサン系重合体を架橋化し、不十分な架橋体を溶剤により除去し、空隙を形成した気体透過膜としたもの。このヘリウムリーク量と曲げ強さを測定した。それを、表1に示す。
【0021】
【表1】

*:測定不可とは、測定のため試料をヘリウムリークディテクタに取り付け、真空脱気した際に破損してしまい、リーク量の測定に至らなかったことを示す。
【0022】
以上の実施例によれば、複合体には微少空隙、細孔を均等に分布形成できており、適度なリーク量を備えて透過しようとするガスの透過性が良い気体透過性材料とすることができている。また、強度が確保されているので気体透過膜を形成した支持体としての利用ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンと金属を複合化してなり、前記カーボンと金属の界面あるいは、前記カーボンとカーボンの空隙に気孔を形成してなる気体透過性複合材料。
【請求項2】
前記カーボン含有率が10〜90体積%であることを特徴とする請求項1記載の気体透過性複合材料。
【請求項3】
ヘリウムリーク量が1×10−11Pa・m3/sec以上であることを特徴とする請求項1または2記載の気体透過性材料。
【請求項4】
曲げ強さが10MPa以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の気体透過性複合材料。
【請求項5】
カーボンと金属を混合する工程と、該混合物を焼結にて一体化する工程を有し、前記カーボンと金属の界面あるいは、前記カーボンとカーボンの空隙に気孔を形成してなることを特徴とする気体透過性複合材料の製造方法。
【請求項6】
カーボン構造体を製造する工程と、前記カーボン構造体に金属を溶浸する工程を有し、前記カーボンと金属の界面あるいは、前記カーボンとカーボンの空隙に気孔を形成してなることを特徴とする気体透過性複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4の何れかの気体透過性複合材料の表面に気体透過性膜を形成してなる気体透過性複合体に適した気体透過膜用支持体。

【公開番号】特開2006−2179(P2006−2179A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177212(P2004−177212)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】