説明

気分障害改善剤

【課題】うつ状態(抑うつ気分)の改善作用を有する気分障害改善剤を提供する。
【解決手段】ハマウツボ科のオニク(Boschniakia rossica)の抽出物を含有する気分障害改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハマウツボ科のオニクの抽出物を含有する気分障害改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、気分障害に悩む人の数が増加している。また、仮面うつ病とも呼ばれる精神症状が表に出ないものまで含めると、その患者数は非常に多く、日本人の5人に一人は一生のうちで一度は気分障害を経験すると言われている。
【0003】
気分障害の一つとしてうつ病があり、その原因は様々ではっきりとわかっていないのが現状である。生物学的要因、性格的要因に限らず、現代の社会環境の激しい変化、弱者切捨ての社会構造、少子高齢化などによる家庭環境の変化もうつ病患者増加と無縁ではないと考えられる。
【0004】
うつ病の治療としては、まず休養が勧められ、次いで薬物治療が併用されることが一般的である。しかしながら、現実には十分な休養等をとることが難しく、抗うつ薬などの薬物治療のみに頼ってしまうことが少なくない。
【0005】
抗うつ薬は、うつ病を中心とした気分障害の治療を目的として、使用される頻度の高い薬剤である。三環系抗うつ薬や四環系抗うつ薬に比べれば適用が広く、安全性も高いという理由からSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が多く用いられているが、頭痛、下痢、口渇、排尿困難や血圧低下などの副作用が依然として報告されており、より副作用が少なく安全性の高い抗うつ剤の開発が期待されている。
【0006】
一方、天然物の抽出物を用いてストレス負荷した動物の肉体的機能亢進を明らかにした報告は多い。例えば、ストレス負荷したマウスでは、性行動と学習記憶行動が低下することが認められている。そこで、ハマウツボ科のニクジュヨウ(別名:ホンオニク、学名:Cistanche salsa)から抽出した抽出物をストレス負荷したマウスに投与すると、これらの機能が改善することが明らかになっている(特許文献1及び2)。しかし、これらの実験結果は明らかな肉体疲労に起因する行動障害の改善を見たものであり、自発運動や探索運動の低下を引き起こす気分障害(精神疲労)の改善は評価されていない。
【0007】
また、ハマウツボ科のオニク(学名:Boschniakia rossica)は、ニクジュヨウの代用品として、肉体疲労の改善や滋養強壮を目的に使用されてきた。しかし、これまでに気分障害(精神疲労)の改善や抗うつ作用を目的に研究開発されたことはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−45526号公報
【特許文献2】特開2008−74792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、うつ状態(抑うつ気分)の改善作用を有する気分障害改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、マウスに絶望感を与えて不動時間を指標とし、自発運動や探索運動の低下状態の改善を評価する試験において、ハマウツボ科のオニク(Boschniakia rossica)の抽出物にその改善効果(気分障害改善作用、抗うつ作用)を見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
1.ハマウツボ科のオニク(Boschniakia rossica)の抽出物を含有する気分障害改善剤。
2.抑うつ気分改善剤である、前記項1の気分障害改善剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の気分障害改善剤は、気分障害において、とりわけ抑うつ気分を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】オニク抽出物の投与用量の違いによる、強制遊泳後の累積不動時間を表したグラフである。
【図2】オニク抽出物の投与の有無の違いによる、強制遊泳後の累積不動時間の変化を表したグラフである。
【図3】オニク抽出物投与と人参抽出物投与の違いによる、強制遊泳後の累積不動時間を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について説明する。
(1)気分障害
気分障害とは、躁鬱病及び感情障害等と呼ばれる一群の精神疾患である。
【0015】
本発明における気分障害とは、特に、ある程度の期間にわたって持続する気分(感情)の変調により、苦痛を感じたり、日常生活に何らかの支障をきたしたりする状態のことをいう。その気分障害の症状としては、例えば、喜怒哀楽の感情表出の異常;憂鬱感、悲壮感、罪責感及び絶望感等の抑うつ気分;精神運動制止;不安焦燥感;並びに、睡眠障害、食欲不振、性欲減退、便秘、口渇及び頭痛等の身体症状等が挙げられる。
【0016】
本発明は、その様な気分障害を改善することにより、これらの症状を改善することができる。本発明の気分障害改善剤は、とりわけ、抑うつ気分の改善に資する剤である。
【0017】
ここで、肉体疲労及び精神疲労(気分障害)について説明する。日本疲労学会の抗疲労臨床評価ガイドラインによれば、肉体疲労は、「病的疲労を伴わない健常者において身体に運動などの負荷が生じた際に発現する短期的な疲労を指す。」と定義される。また、精神疲労は、「中枢神経系を活発に使うことによって起こる機能低下。考えたり気力を出したりすることが困難になる。」と定義される。そして、一般的に、休むことによって肉体疲労は回復するものの、精神疲労は回復し難いものである。
【0018】
(2)オニクの抽出物
オニク(学名:Boschniakia rossica)は、ハマウツボ科の植物であり、別名、クサジュヨウ(草じゅ蓉)、キムラタケ又はワニクジュヨウ(和肉じゅ蓉)とも呼ばれる。オニクは、亜高山〜高山に生える1年草であり、葉緑素のない寄生植物で、ミヤマハンノキの根に寄生する。
【0019】
植物体の抽出する部位は限定されないが、例えば、植物の全体を用いるほか、花、葉(及び葉柄)、茎(及び肉質茎)、根(根及び気根)、果実、果穂、果皮及び種子等の部位を用いることができる。原料収量と抽出効率の点から、植物の全体を用いることが好ましい。
【0020】
抽出する植物体は、葉、果実、種子、幹若しくは根を生の状態のもの(未乾燥物)、乾燥させた後適切な大きさに細砕し粉末化したもの(乾燥物)、若しくは、凍結したもの(凍結物)を用いることができる。
【0021】
本発明に関する植物体の抽出物を作製する方法としては、抽出工程及び分離工程を組み合わせる方法、上記方法に更に分画工程を組み合わせる方法等があげられるが、これらに限定されない。
【0022】
抽出工程は、植物体から抽出溶媒を用いて、抽出物として必要な成分を取り出す工程であり、抽出方法や抽出条件は特に限定されない。
【0023】
抽出溶媒の種類は特に限定されないが、水、有機溶媒及びこれらを混合した混合溶媒等があげられる。上記の水としては、冷水、常温水、温水、熱水及び水蒸気等の全ての温度における水の状態があげられ、また、殺菌処理、イオン交換処理、浸透圧調整又は緩衝化されていてもよい。有機溶媒としては、親水性有機溶媒が好ましく、例えば、炭素数1〜5の1価アルコール(エタノール、メタノール、プロパノール及びイソプロパノール等)、炭素数2〜5の多価アルコール(グリセリン、イソプロピレングリコール、プロピレングリコール及びブチレングリコール等)、エステル(酢酸メチル等)及びケトン(アセトン等)等を用いることができる。これらの親水性有機溶媒は、1種のみを用いても、或いは2種以上を併用してもよい。本発明では、安全性及び有効成分の抽出効率の点からエタノール又は含水エタノールを用いることが好ましい。
【0024】
抽出手法としては、浸漬抽出、攪拌抽出、還流抽出、振とう抽出及び超音波抽出があげられ、抽出条件としては、室温抽出、加熱抽出(加温抽出ともいう)、加圧抽出、超臨界抽出等があげられるが、好ましくは、加温抽出である。抽出温度は抽出溶媒の種類等により適宜決定できる。本発明の抽出を加温抽出で行う場合の具体的な抽出条件としては、30〜100℃程度で良く、沸騰状態で行っても良い。抽出時間は特に限定されないが、例えば、5分〜6時間程度で良く、より好ましくは10分〜3時間程度である。また、pH調整してもよい。上記抽出操作は1回でもよく、抽出操作を行った後に得られる抽出残渣を再度抽出することを複数回数繰り返すことにより複数回行ってもよい。さらに、工程の前後に、必要に応じて濾過等の処理を行ってもよい。
【0025】
分離工程は、上記で得られた抽出物から、抽出残渣である不溶物と抽出物を分離する方法であり、例えば、遠心分離、フィルタプレス、濾過(加圧、常圧)及びクロマトグラフィー等の吸着剤・吸収剤を用いた抽出分離等による方法があげられる。抽出液から分取された抽出物はそのまま用いてもよく、さらに、分画等により精製してもよい。
【0026】
分画工程は、上記で得られた分離物から必要な成分を分画して精製及び濃縮する方法である。分画工程に用いられる方法としては、担体として陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂、シリカゲル、芳香族化合物を吸着するポリスチレン系の樹脂などを用いるクロマトグラフィー、透析、分子ふるいや減圧濃縮、凍結乾燥等の方法があげられるがこれらに限定されない。さらに、本工程後に、必要に応じて遠心分離等により上清を回収する工程を行ってもよい。なお、上記各工程の前後に、必要に応じて濾過等の処理を行ってもよい。濾過には、ガーゼや濾過フィルター、市販の濾過器等を用いることができる。また、必要に応じて、滅菌処理等を施すことができる。
【0027】
上記方法により、本発明の抽出物を得ることができる。得られた抽出物は、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の乾燥工程により粉末化することもできる。
【0028】
(3)気分障害改善剤
本発明の気分障害改善剤は、前記オニクの抽出物を含有する。
【0029】
本発明の気分障害改善剤(医薬品の形態)の投与方法は特に限定されるものではないが、経口投与可能な剤形が好ましい。例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁剤、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤及びエリキシル剤とすることができるが、経口摂取可能な形態であれば良く、特に限定されない。
【0030】
非経口投与としては、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、関節内投与及び膣内投与等が挙げられ、その場合は、丸剤、軟膏、ゲル、ペースト、クリーム、噴霧剤、溶液剤及び懸濁液剤等とすることができる。また、注射により投与する場合、局所注入、腹腔内投与、選択的静脈注入、静脈注射、皮下注射、臓器灌流液注入等の方法が選択することができる。
【0031】
製剤には薬剤的に許容できる種々の担体を加えることができる。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、コーティング剤、ビタミンC及び抗酸化剤を含むことができるが、これらに限定されない。
【0032】
本発明の気分障害改善剤の投与量は、気分障害を改善できる効果を発揮する量であれば良く、一般的には、オニク抽出物に換算して、成人1日用量として、好ましくは2.5〜50g(50〜1000mg/kg体重)、より好ましくは5.0〜25g(100〜500mg/kg体重)を使用する。もちろん個別的に、投与されるヒトの年齢、体重、症状、投与経路、投与期間及び治療経過等に応じて変化させることもできる。1日あたりの量を数回に分けて投与することもできる。また、他の抗うつ剤や治療法と組み合わせて投与することもできる。
【0033】
また、本発明の気分障害改善剤は、一成分として食品に配合させることもできる。その場合は、本発明の気分障害改善剤を、例えば、食品添加物の形態とすることもできる。
【0034】
(4)気分障害改善効果の評価方法
オニク抽出物が有する気分障害改善効果(抑うつ気分改善効果)は、抗うつ効果を有する薬剤の代表的なスクリーニング方法であるマウス強制遊泳試験法により評価することができる。マウスをある逃れられない容器の中に水を満たして強制遊泳させると、一定時間後に不動状態が出現する。不動状態は動物が水から逃避を放棄した一種の絶望状態と考えられており、人間におけるうつ状態に近い状態にあると考えられているからである。
【0035】
そして、気分障害改善効果は、Porsolt等の抗うつ病動物モデル試験法(Porsolt RD, Bertin A, Jalfre M. Behavioral despair in mice: a primary screening test for antidepressants. Arch Int Pharmacodyn Ther. 1977,229(2):327-336.)に基づくマウス強制遊泳試験法により、その評価を行うことができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0037】
(1)オニク抽出物の調製
良く乾燥したオニク(学名:Boschniakia rossica)を細かく刻み、その粉砕物に8倍量の75%エタノールを加えて、2時間沸騰状態を保ちながらエタノール抽出液を得た。そのエタノール抽出液をろ過し、エタノール抽出液中の残渣をろ別した。その残渣に対して、上記抽出操作を繰り返した。
【0038】
この様にして得られた2回分のエタノール抽出液を合わせて減圧濃縮した後、70℃にて減圧乾燥し、オニク抽出物を得た。
【0039】
(2)マウスを用いた強制遊泳試験法
本試験は、前述のPorsolt等抗うつ病動物モデル試験法に基づき行った。
(2−1)使用動物
早期老化マウスとして知られるSAM系統のマウスのうち、老化過程において抑うつ傾向を示すことを特徴とするSAMP10を用いた。6ヶ月齢SAMP10の雄を使用した。
【0040】
ここで、SAM系統のマウスは、老化促進モデルマウス(senescence-accelerated mouse:SAM)と呼ばれる一群の関連近交系マウスであり、促進老化を具体的に示したモデル動物である(Takeda, T. et al. Mech. Ageing Dev., 17 183-194, 1981)。そして、SAMP10が加齢するに従い示す病態としては、学習・記憶能障害、抑うつ状態、嗅球・前頭部萎縮がある(細川昌則 「SAM系統マウスの老化の特性」 実験医学 Vol.16 No.18(増刊) 1998 p.86-90)。
【0041】
(2−2)動物飼育
購入した動物を7日間馴化した。馴化期間中の体重及び一般状態の観察により異常のないことを確認し、健康な動物を用いた。飼育条件は、温度(24±2℃)と湿度(50±20%)とを保ち、1ケージ中に1個体の条件で、照明は12時間周期で点灯と消灯を繰り返した(明期:6:00〜18:00)。また、飼料(マウス繁殖用飼料1035、北京華阜康生物科技有限公司)と飲用水はともに自由摂取とした。
【0042】
(2−3)試験例I
試験例Iでは、オニク抽出物の投与量の違いによる投与効果を確認した。
【0043】
SAMP10の雄8匹を1群として、対照(0mg/kg)群、オニク抽出物100mg/kg群、同200mg/kg群及び同400mg/kg群の4群に群分けした。
【0044】
次に、オニク抽出物の投与用量を、夫々0mg/kg(対照群)、100mg/kg、200mg/kg及び400mg/kgとし、オニク抽出物を5%(W/W)アラビアゴム末水溶液に懸濁させ、固定時間(朝9時)に、一日1回10mL/kgの液量で強制経口投与した。薬物投与は連続で4週間行った。
【0045】
次に、薬物投与開始から4週間後、25℃の水を深さ15cmまで入れた円筒中で、7分間の強制遊泳試験を行い、上記各群のマウスを強制遊泳させた。上記各群のマウスに対して、初めの2分間強制遊泳した後、続く5分間に観察される不動時間の累積時間(累積不動時間)を測定した。
【0046】
数値(累積不動時間)は平均値±標準誤差で表し、対照群と被験物群の平均値の差の検定には、一元配置の分散分析後、ANOVAの統計学的処理方法を用いた。累積不動時間については有意差検定を行った。いずれの場合も危険率が5%未満(p<0.05)の場合を有意差ありと判定した。
【0047】
また、上記試験期間中、各群のマウスの体重は正常に推移した。
【0048】
図1に、試験例Iにおける薬物投与4週間後の各群の累積不動時間(秒)の結果を示した。*はp<0.05を、**はp<0.01を示す。
【0049】
(2−4)試験例II
試験例IIでは、オニク抽出物の投与効果の経時変化を確認した。
【0050】
SAMP10の雄8匹を1群として、対照(0mg/kg)群及びオニク抽出物200mg/kgに群分けした。
【0051】
次に、オニク抽出物の投与用量を、夫々0mg/kg(対照群)及び200mg/kgとし、オニク抽出物を5%(W/W)アラビアゴム末水溶液に懸濁させ、固定時間(朝9時)に、一日1回10mL/kgの液量で強制経口投与した。薬物投与は連続で4週間行った。
【0052】
次に、薬物投与(対照群は非投与)開始から毎週1回、25℃の水を深さ15cmまで入れた円筒中で、7分間の強制遊泳試験を行い、上記各群のマウスを強制遊泳させた。上記各群のマウスに対して、初めの2分間強制遊泳した後、続く5分間に観察される不動時間の累積時間(累積不動時間)を測定した。薬物投与(対照群は非投与)開始から、1、2、3及び4週目の各時点での累積不動時間を測定した。
【0053】
数値(累積不動時間)は、試験例Iと同様に、ANOVAの統計学的処理方法を用いた。累積不動時間については有意差検定を行った。いずれの場合も危険率が5%未満(p<0.05)の場合を有意差ありと判定した。
【0054】
また、上記試験期間中、各群のマウスの体重は正常に推移した。
【0055】
図2に、試験例IIにおける毎週の各群の累積不動時間(秒)の結果を示した。*はp<0.05を示す。
【0056】
(2−5)試験例III
試験例IIIでは、オニク抽出物と人参抽出物との投与効果の違いを確認した。
【0057】
SAMP10の雄8匹を1群として、A:対照(0mg/kg)群、B:人参抽出物200mg/kg群及びC:オニク抽出物200mg/kg群に群分けした。人参抽出物は白参軟エキス(天津中一製薬社製)を用いた。
【0058】
次に、対照群Aは抽出物の投与無し、人参抽出物(B群)及びオニク抽出物(C群)の投与用量を、夫々200mg/kgとし、各抽出物を5%(W/W)アラビアゴム末水溶液に懸濁させ、固定時間(朝9時)に、一日1回10mL/kgの液量で強制経口投与した。薬物投与は連続で3週間行った。
【0059】
次に、薬物投与開始から3週間後、25℃の水を深さ15cmまで入れた円筒中で、7分間の強制遊泳試験を行い、上記各群のマウスを強制遊泳させた。上記各群のマウスに対して、初めの2分間強制遊泳した後、続く5分間に観察される不動時間の累積時間(累積不動時間)を測定した。
【0060】
数値(累積不動時間)は、試験例Iと同様に、ANOVAの統計学的処理方法を用いた。累積不動時間については有意差検定を行った。いずれの場合も危険率が5%未満(p<0.05)の場合を有意差ありと判定した。
【0061】
また、上記試験期間中、各群のマウスの体重は正常に推移した。
【0062】
図3に、試験例IIIにおける薬物投与3週間後の各群の累積不動時間(秒)の結果を示した。*はp<0.05を示す。
【0063】
4週間連続投与した結果の説明をする。
【0064】
試験例Iの結果から、オニク抽出物の投与用量100、200及び400mg/Kgの全てにおいて投与効果が確認され、オニク抽出物の至適投与用量は200mg/kgであることが明らかになった。また、試験例IIの結果において、投与開始1週目は対照群とオニク抽出物群に累積不動時間の有意差は見られず、2週目から投与効果が確認された。更に、3週目からオニク抽出物群の累積不動時間が、対照群のそれと比べて有意に短縮され、4週目も有意差がみられた。これらの結果から、オニク抽出物投与により老化マウスの気分障害(うつ状態)を改善することが明らかになった。
【0065】
この3週目からオニク抽出物投与効果が発現した効果を考察する。
【0066】
この効果は、抗うつ作用の発現には1〜2週間の連続的な薬物投与が必要であるところ、殆どの抗うつ薬は、服薬を開始してから2週間程度は経たなければ本来の効果が発現しないとされている、ことに一致するものである(新田淳美 「うつ病の病態生理と抗うつ薬の薬理の理解を深めるキーワード」 薬局 2007, Vol.58, No.3 p.41-42)。これは、抗うつ薬の抗うつ作用は、神経間隙におけるモノアミン量を単純に増やすことによるものではなく、モノアミン量の変化によるシナプス後レセプターの密度や感受性の変化など、二次的なものが大きく関わっているからとも推測されている。
【0067】
試験例IIIの結果から、オニク抽出物投与により、対照群と比較して有意に累積不動時間を短縮し、人参抽出物投与群よりも不動時間が短くなることが確認された。このことから、肉体疲労の改善や滋養強壮を目的に広く使用されている人参抽出物は、累積不動時間短縮に有意な効果を示さないことが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハマウツボ科のオニク(Boschniakia rossica)の抽出物を含有する気分障害改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−211098(P2012−211098A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77093(P2011−77093)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】