説明

気動車用発電機

【課題】複数個のバランサを複数個のバランサごと外周で囲む保持バンドの焼嵌めを支障なく行えるとともに、保持バンドがバランサから外れるのを効果的に防止し得る気動車用発電機の提供。
【解決手段】インナーコア3と、インナーコア3の径方向外縁部における軸方向両側の端面に周方向に所定間隔置きに配置される複数個のバランサ4と、複数個のバランサ4を外周で囲むように焼嵌めされる金属製の保持バンド5A、5Bと、インナーコア3及びバランサどうしを締結するための複数組の締結手段6とを備え、各締結手段6は、頭付ボルト60と、ワッシャ61と、ナット部材62とを備え、複数組の締結手段における頭付ボルト60のうち少なくとも一本は軸方向一方側のバランサ4から挿通され且つ少なくとも一本は軸方向他方側のバランサ4から挿通され、ワッシャ61の外周で保持バンド5A、5Bの脱落を防止する気動車用発電機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気動車用発電機に関し、特にその回転子構造に関する。
【背景技術】
【0002】
インナーロータ型の気動車用発電機として、回転子のインナーコアの軸方向両側に、回転子の回転バランスを調節するための複数のバランサがそれぞれ取付けられた気動車用発電機が提案されている。
【0003】
バランサは、インナーコアの径方向外縁部の軸方向一端面に、周方向に等間隔置きに配置されている。また、インナーコアの軸方向他端面にも周方向に等間隔置きにバランサが配置されている。ここでは、インナーコアの軸方向一端面に周方向に等間隔置きに配置されているバランサを総称して、一端側バランサ群と称し、インナーコアの軸方向他端面に周方向に等間隔置きに配置されているバランサを総称して、他端側バランサ群と称する。
【0004】
気動車用発電機は、車両に搭載する使用下では、バランサを含む回転子は高速回転し、また車両からの振動が伝わる等の過酷な状況に晒される。このような状況下では、回転による遠心力や振動で、バランサが軸方向や径方向に変移して回転子全体の回転バランスが崩れ易いから、バランサの軸方向位置及び径方向位置を位置決めする必要がある。
【0005】
そこで従来は、一端側バランサ群のバランサ、インナーコア、他端側バランサ群のバランサの軸方向での位置決めを、複数の締結手段を用いて行っている。各締結手段は、頭付ボルト、ワッシャ、及びナットから構成されている。また、一端側バランサ群の各バランサの径方向での位置決め、及び他端側バランサ群の各バランサの径方向での位置決めは、それぞれ金属製の一方側の保持バンド及び他方側の保持バンドで行っている。すなわち、保持バンドは、複数個のバランサを複数個のバランサごと外周で囲む部材である。
【0006】
一端側バランサ群の一個のバランサと他端側バランサ群の一個のバランサの軸方向での位置決めは、頭付ボルトを一端側バランサ群の一個のバランサからインナーコア、そして他端側バランサ群の一個のバランサに挿通し、バランサから突出した頭付ボルトの雄ねじ部にワッシャを通し、さらに雄ねじ部にナット部材を螺合して締結することで行っており、このような位置決めは、残りのバランサにおいてもなされる。また、バランサの径方向での位置決めは、一端側バランサ群の外周に一方側の保持バンドを焼嵌めすることで行うとともに、他端側バランサ群の外周に他方側の保持バンドを焼嵌めすることで行っている。
【0007】
なお、本願出願にあたり従来技術を鋭意調査した結果、比較すべき適当な文献は発見できなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記気動車用発電機では、これを駆動するとインナーコアは発熱し、インナーコアに接触している軸方向一方側の複数個のバランサ(一端側バランサ群)及び軸方向他方側の複数個のバランサ(他端側バランサ群)が加熱される。そしてその熱は保持バンドにさらに伝わり、これらが加熱されて熱膨張すると、保持バンドの締め付けが緩まり、外れ易い。そして保持バンドは、高速回転による遠心力や、振動が働く状況下や油冷環境下において、更に外れ易い。
【0009】
そして保持バンドが外れる現象は、一方側の保持バンドで起こる。これは、他端側バランサ群の各バランサの軸方向端面にはワッシャが当接しており、各ワッシャの外周部がバランサよりも径方向外方に突出して該外周部が他方側の保持バンドの軸方向端面に当接することで抜止めになるのに対し、一端側バランサ群では、頭付ボルトの頭部が各バランサの軸方向端面に当接しているだけでワッシャは用いられておらず、抜止めがないからである。
【0010】
そこで、頭付ボルトの一端側(頭部側)にもワッシャを用いて、該ワッシャを一方側の保持バンドの抜止めとして用いることが考えられる。しかし、次の理由から、頭付ボルトの一端側にワッシャを用いることはできない。
【0011】
すなわち、インナーコアの一端面及び他端面のそれぞれに複数のバランサを位置決め(固定)するには、まず、締結手段の頭付ボルトを、一端側バランサ群のバランサからインナーコア、そして他端側バランサ群のバランサに挿通して仮止めをする。この仮止め状態において一端側バランサ群に一方側の保持バンドを焼嵌めし、他端側バランサ群に他方側の保持バンドを焼嵌めする。つまり、仮止めでは、まだワッシャを頭付ボルトに通していないから、各保持バンドを焼嵌めするのに邪魔をするものがない。しかしながら、頭付ボルトの一端側にも上述した抜止め用のワッシャを用いるとすると、一方側の保持バンドの焼嵌め前の仮止め状態において頭付ボルトに該ワッシャを通しておく必要がある。そうなると、仮止め後に一方側の保持バンドを一端側バランサ群に焼嵌めしようとしても、ワッシャが邪魔になってできない。
【0012】
そこで本発明は、複数個のバランサを複数個のバランサごと外周で囲む保持バンドの焼嵌めを支障なく行えるとともに、保持バンドがバランサから外れるのを効果的に防止し得る気動車用発電機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の気動車用発電機は、アウターコアと同心に配置されるインナーコアと、該インナーコアの径方向外縁部における軸方向両側の端面に配置され且つインナーコアの径方向外縁部の周方向に所定間隔置きに配置される複数個のバランサと、前記各端面に配置された複数個のバランサを該複数個のバランサごとそれらの外周で囲むように焼嵌めされる金属製の保持バンドと、前記インナーコア及び各端面のバランサのうちの軸方向で対応するバランサどうしを締結するための複数組の締結手段とを備え、前記締結手段は、インナーコアの周方向に離間して複数組配置され、各締結手段は、前記インナーコア及び各端面のバランサのうちの軸方向で対応するバランサを挿通する頭付ボルトと、前記保持バンドの脱落を防止するための保持バンド脱落防止部材と、前記頭付ボルトの雄ねじ部に螺合されるナット部材とを備え、複数組の前記締結手段における頭付ボルトのうち少なくとも一本は軸方向一方側のバランサから挿通され且つ少なくとも一本は軸方向他方側のバランサから挿通され、前記保持バンド脱落防止部材は、バランサから軸方向に突出した各頭付ボルトの雄ねじ部に外嵌されるとともに、前記ナット部材を各頭付ボルトの雄ねじ部に螺合することで前記何れかの保持バンドの軸方向外端面に当接可能に軸方向で位置決めされることを特徴としている。
【0014】
上記構成において、インナーコアの径方向外縁部へのバランサの仮止めのために、頭付ボルトを軸方向一方側のバランサ、インナーコア、及び軸方向他方側のバランサに挿通する際に、頭付ボルトのうち少なくとも一本を軸方向一方側のバランサから挿通し、少なくとも一本を軸方向他方側のバランサから挿通しても、脱落防止部材を頭付ボルトに通さない。このため、仮止め後に、軸方向一方側の複数のバランサに複数個のバランサごと一方側の保持バンドを焼嵌めし、軸方向他方側の複数のバランサに複数個のバランサごと他方側の保持バンドを焼嵌めする際にバランサよりも径方向外方に突出するものがなく、したがってバランサに各保持バンドの焼嵌めを支障なく行える。
【0015】
また、気動車用発電機を駆動することでインナーコアは発熱し、このためインナーコアに接触している軸方向一方側及び軸方向他方側のバランサが加熱され、焼嵌めされている金属製の保持バンドが加熱されて熱膨張し、各保持バンドの締め付けが緩まる。しかしながら、複数本の頭付ボルトのうち少なくとも一本が軸方向一方側のバランサから挿通され、少なくとも一本が軸方向他方側のバランサから挿通されており、ナット部材が雄ねじ部に螺合することで、バランサに脱落防止部材が固定されているから、脱落防止部材が保持バンドの軸方向外端面に当接することで、一方側の保持バンドが軸方向一方側のバランサから軸方向に外れず、他方側の保持バンドが軸方向他方側のバランサから軸方向に外れない。
【0016】
本発明の気動車用発電機では、前記頭付ボルトが逆方向から挿通されている締結手段と、前記他の締結手段とが周方向で交互に設けられている構成を採用することができる。
【0017】
この種の気動車用発電機では、バランサによって回転子の回転バランスの微妙な調節を行うが、上記構成のように、頭付ボルトが逆方向から挿通されている締結手段と他の締結手段とが周方向で交互に設けられていれば、締結手段の重量によるアンバランスが発生しないから、回転バランスの調節が高精度に行える。
【発明の効果】
【0018】
本発明の気動車用発電機では、インナーコアの径方向外縁部へのバランサの仮止めのために、頭付ボルトを軸方向一方側のバランサ、インナーコア、及び軸方向他方側のバランサに挿通する際に、頭付ボルトのうち少なくとも一本を軸方向一方側のバランサから挿通し、少なくとも一本を軸方向他方側のバランサから挿通しても、脱落防止部材を頭付ボルトに通さない。このため、仮止め後に、軸方向一方側の複数のバランサに複数個のバランサごと一方側の保持バンドを焼嵌めし、軸方向他方側の複数のバランサに複数個のバランサごと他方側の保持バンドを焼嵌めする際にバランサよりも径方向外方に突出するものがなく、したがってバランサに各保持バンドの焼嵌めを支障なく行える。
【0019】
また、気動車用発電機を駆動することでインナーコアは発熱し、このためインナーコアに接触している軸方向一方側及び軸方向他方側のバランサが加熱され、焼嵌めされている金属製の保持バンドが加熱されて熱膨張し、各保持バンドの締め付けが緩まる。しかしながら、複数本の頭付ボルトのうち少なくとも一本が軸方向一方側のバランサから挿通され、少なくとも一本が軸方向他方側のバランサから挿通されており、ナット部材が雄ねじ部に螺合することで、バランサに脱落防止部材が固定されているから、脱落防止部材が保持バンドの軸方向外端面に当接することで、一方側の保持バンドが軸方向一方側のバランサから軸方向に外れず、他方側の保持バンドが軸方向他方側のバランサから軸方向に外れない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態を表す気動車用発電機の回転子の側面図である。
【図2】同気動車用発電機の回転子の要部拡大図を含む一部正面断面図である。
【図3】同気動車用発電機の回転子の組立て手順を表す一部正面断面図である。
【図4】同気動車用発電機の回転子の組立て手順を表す一部正面断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態を表す気動車用発電機の、回転子の要部拡大図を含む側面図である。
【図6】本発明のさらに他の実施形態を表す気動車用発電機の、要部拡大図を含む一部正面断面図である。
【図7】同気動車用発電機の要部拡大図を表す一部拡大側面図であり、(a)は特殊ワッシャの回避姿勢を表す拡大側面図、(b)は特殊ワッシャの阻止姿勢を表す拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図1及び図2を参照しつつ説明する。これらの図に示すように、気動車用発電機1は、インナーロータ型の発電機であり、回転子2が、不図示のアウターコアと同心に配置されるインナーコア3とを備える。インナーコア3は、軸部(符号省略)と、該軸部よりも大径に形成され、コイルCを巻回するための磁極部30とを備える。また、気動車用発電機1は、磁極部30の軸方向両側の径方向外縁部にそれぞれ配置された複数個のバランサ4を備える。以下、軸方向一方側の複数個のバランサ4からなる一群のバランサ4を総称して一端側バランサ群40Aと称し、軸方向他方側の複数個のバランサ4からなる一群のバランサ4を総称して他端側バランサ群40Bと称する。
【0022】
気動車用発電機1は、一端側バランサ群40Aの外周に焼嵌めされた(軸方向一端側の複数個のバランサ4に、複数個のバランサ4ごと外周で囲むよう焼嵌めされた)金属製の一方側保持バンド5Aと、他端側バランサ群40Bの外周に焼嵌めされた(軸方向他端側の複数個のバランサ4に、複数個のバランサ4ごと外周で囲むよう焼嵌めされた)金属製の他方側保持バンド5Bと、磁極部30及びバランサ4(一端側バランサ群40A、他端側バランサ群40B)を軸方向で一体化させる複数の締結手段6とを、さらに備えている。
【0023】
インナーコア3は、積層鋼板3Aを軸方向に重ねることで形成され、磁極部30は軸部の外周に等間隔で複数個配置されている。また、各磁極部30は、軸方向両側を開放した筒状の金属製カバー7で外装されている。
【0024】
一端側バランサ群40Aを構成する一端側のバランサ4、及び他端側バランサ群40Bを構成する他端側のバランサ4は、それぞれ八個ずつ設けられており、磁極部30を介して軸方向端面に一対一で対応するよう配置されている。また、一端側のバランサ4及び他端側のバランサ4は、それぞれ磁極部30の周方向に所定間隔置きに配置されている。
【0025】
一端側のバランサ4及び他端側のバランサ4は、同様の構成のものが用いられている。すなわち各バランサ4は、側面視して磁極部30の径方向外方部側面に対応する形状に形成され、軸方向に所定の厚みに形成されている。さらに具体的には、各バランサ4の径方向外端面4aは、磁極部30の外周面30aに沿う円弧状に形成され、回転子2の回転バランス調節用のバランス孔4cが複数形成されている。各バランサ4の径方向内端面4bは、磁極部30の外周面を弧とする仮想の弦に沿う平面に形成されている。また、各バランサ4の周方向中心には、締結手段6の構成要素である頭付ボルト60が挿通されるボルト孔60aが、軸方向に貫通して形成されている。そして、各バランサ4は、磁極部30の径方向外方部側面に、締結手段6によって取付けられた状態では、径方向外端面4aが磁極部30の外周面30aよりも径方向内方にあり、径方向内端面4bがコイルCのモールド材C1に当接している。
【0026】
前記締結手段6は、軸方向で対応する位置にある一端側のバランサ4及び他端側のバランサ4毎に用いられている。すなわち一個の締結手段6は、頭付ボルト60と、脱落防止部材であるワッシャ61と、ナット部材62とから構成されている。頭付ボルト60の胴部602の片側に頭部600が形成され、反対側に雄ねじ部601が形成されている。頭付ボルト60は、胴部602を一個の一端側のバランサ4、磁極部30、及び一個の他端側のバランサ4に挿通するよう用いられる。頭付ボルト60は、胴部602を一個の一端側のバランサ4、磁極部30、及び一個の他端側のバランサ4に挿通させると、頭部600の外周部がバランサ4の径方向外端面4aよりも径方向外方に突出しないように、径方向位置及び頭部600の径が設定されている。
【0027】
ワッシャ61は、頭付ボルト60を一個の一端側のバランサ4(ボルト孔60a)、磁極部30、及び一個の他端側のバランサ4(ボルト孔60a)に挿通させた状態でバランサ4から軸方向に突出する雄ねじ部601を外嵌するよう通される。ワッシャ61は、円形環状の平ワッシャである。ワッシャ61は、雄ねじ部601に外嵌させると、外周部61aがバランサ4の径方向外端面4aよりも径方向外方に突出する径に設定されている。つまり、一方側保持バンド5Aの軸方向外端面5a、他方側保持バンド5Bの軸方向外端面5bに当接可能な径に形成されている。ナット部材62は、ワッシャ61に重ねられるよう雄ねじ部601に螺合される。
【0028】
前述のように、締結手段6は、一端側のバランサ4及び他端側のバランサ4の対応するバランサ4毎に用いられており、頭付ボルト60のうち少なくとも一本は、他の頭付ボルト60と逆方向から挿通されている。換言すれば、頭付ボルト60のうち少なくとも一本が、一端側のバランサ4から磁極部30、他端側のバランサ4に挿通され、頭付ボルト60のうち少なくとも一本が他端側のバランサ4から磁極部30、一端側のバランサ4に挿通されている。具体的には、頭付ボルト60が逆方向から挿通されている締結手段6と、他の締結手段6とが周方向で交互に設けられている(一端側のバランサ4から挿通される頭付ボルト60と、他端側のバランサ4側から挿通される頭付ボルト60とが、周方向で一つ置きに逆方向から挿通されている)。
【0029】
回転子2の組立て手順を、図3及び図4に基づいて説明する。まず、頭付ボルト60の胴部602を一端側の各バランサ4(ボルト孔60a)、磁極部30、他端側の各バランサ4(ボルト孔60a)に通すことで、一端側の各バランサ4及び他端側の各バランサ4を磁極部30に仮止めする。このとき、頭付ボルト60は、一端側全てのバランサ4から通すのではなく、バランサ一個置きに通す。そして、雄ねじ部601を他端側のバランサ4から突出させておく。また、この時点では、ワッシャ61及びナット部材62は装着しないでおく(図3参照)。
【0030】
続いて、頭付ボルト60が挿通されていない他端側のバランサ4(ボルト孔60a)から、磁極部30、一端側のバランサ4(ボルト孔60a)に通すことで、残りの各バランサ4を磁極部30に仮止めする。また、この時点では、ワッシャ61及びナット部材62は装着しないでおく。
【0031】
上記のようにして、全てのバランサ4を磁極部30に仮止めした状態で、図4で示すように、一端側バランサ群40Aの外周に一方側保持バンド5Aを、他端側バランサ群40Bの外周に他方側保持バンド5Bを、それぞれ焼嵌めする。各バランサ4の径方向外端面4aは、各バランサ4が磁極部30の径方向外方部側面に締結手段6によって取付けられた状態では、磁極部30の外周面30aよりも径方向内方にあるから、各バランサ群40A,40Bに各保持バンド5A,5Bを焼嵌めしても、各保持バンド5A,5Bが磁極部30(金属製カバー7)から大きく径方向外方に突出することはない。
【0032】
そして、バランサ4を磁極部30へ仮止めするために、頭付ボルト60を一端側のバランサ4、磁極部30、及び他端側のバランサ4に挿通する際に、頭付ボルト60のうち少なくとも一本を他の頭付ボルト60と逆方向から挿通してもワッシャ61を頭付ボルト60に通さないことで、仮止め後に一端側バランサ群40Aに一方側保持バンド5Aを、他端側バランサ群40Bに他方側保持バンド5Bを焼嵌めするのに、バランサ4よりも径方向外方に突出するものがなく、従って、各バランサ群40A,40Bに各保持バンド5A,5Bの焼嵌めを支障なく行うことができる。
【0033】
次に、同図に示すように、各頭付ボルト60の雄ねじ部601にワッシャ61を外嵌挿通し、ワッシャ61の軸方向外方からナット部材62を雄ねじ部601に螺合して締め付ける。このようにすることにより、仮止め状態にあった各バランサ4を、磁極部30の軸方向両側の各端面に軸方向で強固に固定することができる。
【0034】
上記のようにして回転子2を組立てることで、一端側のバランサ4側から挿通された頭付ボルト60と、他端側のバランサ4側から挿通された頭付ボルト60とが、周方向一個置きに交互に設けられた構成となる。そして、一方側保持バンド5A及び他方側保持バンド5Bの双方側にワッシャ61が存在し、ワッシャ61は、その外周部61aがバランサ4の径方向外端面4aよりも径方向外方に突出しているから、外周部61aが当接部となって一方側保持バンド5Aの軸方向外端面5a、他方側保持バンド5Bの軸方向外端面5bに当接する。
【0035】
従って、気動車用発電機を駆動することで一方側保持バンド5A及び他方側保持バンド5Bが熱膨張しても、ワッシャ61の外周部61aが一方側保持バンド5Aの軸方向外端面5a、他方側保持バンド5Bの軸方向外端面5bに当接することで、一端側バランサ群40Aあるいは他端側バランサ群40Bから軸方向に脱落する(外れる)のを防止することができる。このため、回転子2が軸心回りに高速回転したり、振動を受けたり、あるいは油冷環境下で使用しても、バランサ4が、径方向外方へ不測に変移してしまうのを防止することができる。
【0036】
さらに、バランサ4は、回転子2の回転バランスの微妙な調節を行う部材であるが、上記構成のように、一端側のバランサ4から挿通する頭付ボルト60と、他端側のバランサ4から挿通する頭付ボルト60とを周方向で交互に配置していれば、締結手段6の重量によるアンバランスが発生しない。このため、締結手段6の重量を加味したバランス調節が不要であり、回転子2の回転バランスの調節を高精度に行うことができる。
【0037】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0038】
例えば、上記実施形態では、ワッシャ61は、ナット部材62が重ねられる環状の平ワッシャを使用した。しかしながら脱落防止部材は平ワッシャに限定されず、図5に示す他の実施形態のように、特別に形成した変形ワッシャ63を用いることもできる。この変形ワッシャ63は、六角形の環状に形成され、頭付ボルト60の胴部602を挿通しうる孔が偏心して形成されている。そして、磁極部30の端面とナット部材62により挟持された状態で、平面状の径方向内端面63aがモールド材C1側(インナーコア3の中心軸側)にあり、径方向外端部63cの平面状の径方向外端面63bが、一方側保持バンド5A及び他方側保持バンド5Bの外周面と同等位置、あるいはわずかに該外周面から径方向外方に突出するよう構成されている。そして、径方向外端面63bが、一方側保持バンド5A及び他方側保持バンド5Bの外周面と同等位置、あるいはわずかに該外周面から径方向外方に突出するよう構成されている。
【0039】
この構成により、一方側保持バンド5A及び他方側保持バンド5Bが熱膨張しても、その軸方向外端面5a,5bが変形ワッシャ63における当接部である径方向外端部63cに当接することで、一方側保持バンド5A及び他方側保持バンド5Bがバランサ群40から外れるのを防止することができる。特に、変形ワッシャ63は、円形環状ではなく、六角形の環状であるから、その分だけ、円形環状のワッシャ61に比べて一方側保持バンド5A、他方側保持バンド5Bの軸方向外端面5a,5bに接触する面積(軸方向外端面5a,5bが当接する当接部の面積)が大きくなる。このため、効果的に一方側保持バンド5A及び他方側保持バンド5Bの脱落を防止することができる。
【0040】
さらに、複数本の頭付ボルト60の全部を、一端側のバランサ4のみから挿通する場合でも、図6及び図7の他の実施形態に示すように、頭付ボルト60の頭部600が軸方向で重ねられる特殊ワッシャ64を用いることで、一方側保持バンド5Aの脱落を防止することができる。
【0041】
この場合、特殊ワッシャ64は、矩形(正方形)の平板状に形成されている。そして、各バランサ4を磁極部30に仮止めする際に、特殊ワッシャ64に頭付ボルト60の胴部602を通して、特殊ワッシャ64に頭部600を軸方向に重ねた状態としておく。あるいは予め特殊ワッシャ64を頭付ボルト60の胴部602に通しておき、仮止めを行い、特殊ワッシャ64に頭部600を軸方向に重ねた状態としておく。
【0042】
そして、一方側保持バンド5Aを焼嵌めする際には、図7(a)に示すように、特殊ワッシャ64は、外周の一辺部64bが磁極部30の外周面を弧とする仮想の弦に沿う回避姿勢Aにしておく。特殊ワッシャ64を回避姿勢Aとしておくことで、特殊ワッシャ64の外周の角部64aがバランサ4の径方向外方に突出しないようにする。このようにすることで、頭付ボルト60の頭部600に特殊ワッシャ64を軸方向で重ねたとしても、これが邪魔になって一方側保持バンド5Aをバランサ群40に焼嵌めできないといった状態を回避することができる。
【0043】
一方側保持バンド5Aの焼嵌めが終了し、ナット部材62を締結する際には、図7(b)に示すように、特殊ワッシャ64を頭付ボルト60の胴部602回りに45°回転させ阻止姿勢Bとする。この阻止姿勢Bは、特殊ワッシャ64の角部64aがバランサ4の外周面よりも径方向外方に突出する姿勢である。特殊ワッシャ64の角部64aを、バランサ4の外周面よりも径方向外方に突出させて、ナット部材62を締め付けることで特殊ワッシャ64の阻止姿勢Bを保持させておけば、角部64aが当接部となって、一方側保持バンド5Aの脱落を防止することができる。
【0044】
上記各実施形態では、締結手段6として頭付ボルト60を用いた。しかしながら本発明は頭付ボルト60に限定されず、頭部600を有しないボルト(図示せず)を用いることもできる。この場合のボルトは、軸方向両側に雄ねじ部を形成している。そして、バランサ4の仮止めは、該ボルトを一端側のバランサ4、磁極部30、及び他端側のバランサ4に挿通した状態とする。このようなボルトを用いれば、仮止め状態においてバランサ4の径方向外端面4aよりも径方向外方に突出するものがないから、一方側保持バンド5A、他方側保持バンド5Bの焼嵌めを支障なく行うことができる。そして、一方側保持バンド5A、他方側保持バンド5Bを焼嵌めした後は、ボルトの軸方向両側にワッシャを通し、ナット部材を螺合することで、各バランサ4を磁極部30に固定することができる。
【0045】
なお、上記各実施形態では、ワッシャ(脱落防止部材)とナット部材は別体である構成で説明したが、ワッシャとナット部材が一体化されたものを用いて、保持バンドが外れるのを防止することも可能である。
【符号の説明】
【0046】
1…気動車用発電機、2…回転子、3…インナーコア、4…バランサ、5A…一方側保持バンド、5B…他方側保持バンド、5a…軸方向外端面、5b…軸方向外端面、6…締結手段、40A…一端側バランサ群、40B…他端側バランサ群、60…頭付ボルト、61…ワッシャ、61a…外周部、62…ナット部材、600…頭部、601…雄ねじ部、602…胴部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターコアと同心に配置されるインナーコアと、該インナーコアの径方向外縁部における軸方向両側の端面に配置され且つインナーコアの径方向外縁部の周方向に所定間隔置きに配置される複数個のバランサと、前記各端面に配置された複数個のバランサを該複数個のバランサごとそれらの外周で囲むように焼嵌めされる金属製の保持バンドと、前記インナーコア及び各端面のバランサのうちの軸方向で対応するバランサどうしを締結するための複数組の締結手段とを備え、
前記締結手段は、インナーコアの周方向に離間して複数組配置され、各締結手段は、前記インナーコア及び各端面のバランサのうちの軸方向で対応するバランサを挿通する頭付ボルトと、前記保持バンドの脱落を防止するための保持バンド脱落防止部材と、前記頭付ボルトの雄ねじ部に螺合されるナット部材とを備え、
複数組の前記締結手段における頭付ボルトのうち少なくとも一本は軸方向一方側のバランサから挿通され且つ少なくとも一本は軸方向他方側のバランサから挿通され、
前記保持バンド脱落防止部材は、バランサから軸方向に突出した各頭付ボルトの雄ねじ部に外嵌されるとともに、前記ナット部材を各頭付ボルトの雄ねじ部に螺合することで前記何れかの保持バンドの軸方向外端面に当接可能に軸方向で位置決めされることを特徴とする気動車用発電機。
【請求項2】
複数組の締結手段において、頭付ボルトは周方向で交互に逆方向から挿通されていることを特徴とする請求項1記載の気動車用発電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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