説明

気泡を含む硬化体の製造方法

【課題】施工性、断熱性、および耐火性等に優れた気泡を含む硬化体の材料粉体および気泡を含む硬化体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明になる気泡を含む硬化体の製造方法は、粉末状の形態を呈する珪酸ソーダ100重量部と、シリカ3重量部〜30重量部と、硬化材30重量部〜80重量部と、充填材30重量部〜70重量部とを備える材料粉体を用意する工程と、施工現場で予め用意した材料粉体に対して水を加えてスラリーを製造する工程と、スラリーを施工対象物上に塗工する工程と、施工対象物上で塗工したスラリーを自己発泡させて硬化させる工程とを備え、スラリー製造工程の完了から塗工工程の完了までを所定時間内で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の保温性を向上させて火災時には建築物の壁体および鉄骨を火炎から保護する耐火断熱材として利用可能であり、あるいは他の用途にも利用可能な、気泡を含む硬化体の製造方法、およびこの気泡を含む硬化体を製造するための材料に関する。
【背景技術】
【0002】
建築現場において断熱材料を躯体に吹き付けて塗工する際、取り扱いが容易であって断熱性を有する発泡ウレタンを用いるのが一般的である。例として特開平11−343681号公報(特許文献1)、特開平11−029996号公報(特許文献2)および特開平08−253976号公報(特許文献3)に記載の技術を列挙することができる。
【0003】
発泡ウレタンは断熱性を有するものの、プラスチックであるため熱に弱く、耐火性に劣る。しかも火災時には有毒ガスが発生するという問題がある。そこで、例えば特開平11−93296号公報(特許文献4)に記載のような技術が提案されている。特許文献4に記載の発泡性無機耐火被覆材は、珪酸塩と微粉状シリカを主たる成分として含み、火災発生時に発泡層を形成して鉄骨の温度上昇を遅延させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−343681号公報
【特許文献2】特開平11−029996号公報
【特許文献3】特開平08−253976号公報
【特許文献4】特開平11−93296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献4に記載の発泡性無機耐火被覆材は、加熱しない限り発泡しない耐火材にすぎず、発泡ウレタンのように室温で断熱材として機能しない。したがって建築物の断熱施工を行う場合には、発泡ウレタンまたはグラスウールといった断熱材料を別途準備して施工しなければならず、施工に工数を要していた。
【0006】
また特許文献4に記載の発泡性無機耐火被覆材は、液体のまま施工現場に搬入しなければならず、取り扱いが不便であった。
【0007】
本発明は、上述の実情に鑑み、取り扱いが容易であり、断熱材として使用できる他、高温に耐える耐火材として建物の躯体を火災から保護することができる建築材料として好適な、気泡を含む硬化体の製造方法と、気泡を含む硬化体を製造するための材料粉体および材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のため本発明による気泡を含む硬化体の材料粉体は、粉末状の形態を呈し、水に溶くことによってゾル状スラリーとなり、所定時間経過後に自己発泡して硬化する硬化体の材料であって、粉末状の形態を呈する珪酸ソーダ100重量部に対して、シリカ3〜30重量部と、高炉スラグ、セメント、石こう、珪酸カルシウム、パーライト、発泡火山灰、セピオライト、ホワイトカーボンおよびゼオライトからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む硬化材30〜80重量部と、炭酸カルシウム、ベントナイト、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、珪砂、珪石、珪藻土、無機系繊維、有機系繊維および酸化チタンからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む充填材30〜70重量部とを備える。
【0009】
かかる本発明の材料粉体によれば、硬化体の材料が粉体であることから、施工現場における取り扱いが容易になる。粉体は液体よりも取り扱いが容易であり、液状の建築材料や、2液混合の建築材料と比較してこぼれたり、品質が劣化したり変質したりする懸念が少ないためである。
【0010】
しかも、この材料粉体に加える水の量を厳格に計量測定しなくてもよく、現場で水の量を調節することができることから、施工が容易であり、施工性が向上する。
【0011】
また本発明によれば、施工現場において加える水量を調整することにより、気泡の大きさを調整することができる。したがって施工現場の裁量で、発泡率を大きくして比重の軽い硬化体としての耐火断熱材を得ることができるし、発泡率を小さくして比重の重い硬化体としての耐火断熱材を得ることもできる。
【0012】
また本発明によれば、施工現場にハンドミキサーまたはモルタルミキサー等の攪拌装置を準備しておき、粉体の材料と水とを施工現場に持ち込んで両者を攪拌混合することによって、気泡を含む硬化体の硬化前の不定形状態を容易に得られる。かかる硬化前の状態はスラリー状であり、コテ塗りすることによって、容易に耐火断熱施工を行うことができる。そして、現場に合わせた形状の硬化体を容易に得られる。またかかる実施形態によれば、水量を調整することによって気泡の大きさを施工現場で調整することができる。
【0013】
また、本発明の材料粉体に水を加えたスラリーが自己発泡および硬化することにより硬化体が形成され、かかる硬化体を耐火断熱材として利用することができる。硬化体は、単位体積中の気泡数のうち80%以上の気泡が、隣り合う気泡から独立している。かかる硬化体によれば、独立した気泡が多数形成されることから、硬化体の内部で熱対流が生じない。したがって、熱伝導率が低く、壁材として使用することにより、結露を防止することが可能になり、人体のアレルギー症状を引き起こすカビの繁殖を防止することができる。
【0014】
また形成される硬化体は気泡を多数含むことから、軽量であり、保温機能、および遮熱機能、遮音機能等を有する。したがって本発明によれば、保温室、遮熱材、および遮音壁を施工現場で容易に製造することができる。気泡を含む硬化体は、建築用途に限られるものではなく、電熱器の底板等、工夫次第であらゆる用途に利用可能である。
【0015】
また本発明による気泡を含む硬化体の材料は、液体および粉体を混合攪拌することによってゾル状スラリーとなり、所定時間経過後に自己発泡して硬化する硬化体の材料であって、液体材料および粉体材料の組み合わせである。すなわち、1材料として液体の珪酸ソーダ100重量部よりなる液体材料を備える。他の1材料として、シリカ3〜30重量部と、高炉スラグ、セメント、石こう、珪酸カルシウム、パーライト、発泡火山灰、セピオライト、ホワイトカーボンおよびゼオライトからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む硬化材30〜80重量部と、炭酸カルシウム、ベントナイト、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、珪砂、珪石、珪藻土、無機系繊維、有機系繊維および酸化チタンからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む充填材30〜70重量部とを有する粉体材料を備える。
【0016】
かかる本発明の材料によれば、施工現場で液体材料および粉体材料を混合攪拌することによって、耐火性能および断熱性能を備えた気泡を含む硬化体を施工現場で容易に製造することができる。しかも、現場に合わせた形状の硬化体を容易に得られる。また、軽量であり、保温機能、遮熱機能、および遮音機能等を備えた気泡を含む硬化体を施工現場で容易に製造することができる。気泡を含む硬化体は、建築用途に限られるものではなく、電熱器の底板等、工夫次第であらゆる用途に利用可能である。
【0017】
本発明は1実施形態に限定されず、硬化材は高炉スラグを含み、充填材は炭酸カルシウム、ベントナイトおよび酸化チタンを含むものであってもよい。かかる実施形態によれば、高炉スラグを含むことからコスト上有利である。また酸化チタンを含むことから抗菌性能および最終的な硬化体の強度が向上する。
【0018】
また本発明による気泡を含む硬化体の製造方法は、粉末状の形態を呈する珪酸ソーダ100重量部と、シリカ3重量部〜30重量部と、高炉スラグ、セメント、石こう、珪酸カルシウム、パーライト、発泡火山灰、セピオライト、ホワイトカーボンおよびゼオライトからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む硬化材30重量部〜80重量部と、炭酸カルシウム、ベントナイト、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、珪砂、珪石、珪藻土、無機系繊維、有機系繊維および酸化チタンからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む充填材30重量部〜70重量部とを備える材料粉体を用意する工程と、予め用意した材料粉体に対して水を加えてスラリーを製造するスラリー製造工程と、スラリーを対象領域に塗工または流し込む塗工工程と、塗工または流し込んだスラリーを自己発泡させて硬化させる工程とを備え、スラリー製造工程の完了から塗工工程の完了までを所定時間内で行う。
【0019】
かかる本発明の製造方法によれば、粉体の材料を用意すればよいことから、施工現場へ容易に搬入することが可能になり、取り扱いが容易になる。また、本発明の材料粉体を施工現場に搬入し、施工現場にて水を加えて攪拌混合することによってスラリーを作成し、スラリーを施工の対象領域となる鉄骨または壁体に塗工することによって容易に施工することができる。本発明の材料粉体から作られるゾル状スラリーは大気温で化学反応を起こして自己発泡および硬化するため、発泡および硬化のために特別な処置(加熱など)および器具を必要とせず、施工性が極めてよい。しかも、この自己発泡および硬化は数十分で完了することから、施工に要する時間が短くて済む。
【0020】
また本発明によれば、従来の発泡ウレタンと比較して耐火性能が飛躍的に向上し、しかも従来の耐火被覆材が室温で断熱性能を有しないという欠点を補う硬化体を得ることができる。なお、本発明の製造方法において、施工の対象領域は建築施工に限られず、例えば、電気器具の底板や、保温、遮熱等の必要な部位などに塗工することができる。
【0021】
また、本発明の製造方法は、施工現場に限られず、工場等で型枠にスラリーを流し込み、硬化後に型枠から取り出される成型体にも適用可能である。工場等で製造された気泡を含む硬化体の成型体は、建築資材として施工現場に搬入されてもよい。また、工場等で電気器具の部品に塗工されてもよい。
【0022】
スラリー製造工程において加える水の量は40〜120重量部である。加える水の量を調節することによって、硬化体の中の気泡の大きさを制御するとよい。ここで加える水の量を40〜120重量部と規定したのは、水が多すぎると発泡率が大きすぎて最終的な硬化体の中に含まれる気泡が大きくなりすぎるためであり、水が少なすぎると発泡率が小さすぎて最終的な硬化体の中に含まれる気泡が小さくなりすぎるためである。なお水の加え方は、粉体に水を少しずつ投入する方法であっても、水に粉体を少しずつ投入する方法であっても、粉体および水を混合攪拌容器へ同時に投入する方法であってもよく、特に規定はない。
【0023】
また本発明による気泡を含む硬化体の製造方法は、シリカ3重量部〜30重量部と、高炉スラグ、セメント、石こう、珪酸カルシウム、パーライト、発泡火山灰、セピオライト、ホワイトカーボンおよびゼオライトからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む硬化材30重量部〜80重量部と、炭酸カルシウム、ベントナイト、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、珪砂、珪石、珪藻土、無機系繊維、有機系繊維および酸化チタンからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む充填材30重量部〜70重量部とを有する粉体を用意する工程と、予め用意した粉体に対して液体の珪酸ソーダ100重量部を加えてスラリーを製造するスラリー製造工程と、スラリーを対象領域に塗工または流し込む塗工工程と、塗工または流し込んだスラリーを自己発泡させて硬化させる工程とを備え、スラリー製造工程の完了から前記塗工工程の完了までを所定時間内で行う。
【0024】
かかる本発明の製造方法によれば、本発明の粉体を施工現場に搬入し、施工現場にて液体の珪酸ソーダを加えて攪拌混合することによってスラリーを作成し、スラリーを施工の対象領域となる鉄骨または壁体に塗工することによって容易に施工することができる。本発明の粉体および液体の珪酸ソーダから作られるゾル状スラリーは大気温で化学反応を起こして自己発泡および硬化するため、発泡および硬化のために特別な処置(加熱など)および器具を必要とせず、施工性が極めてよい。しかも、この自己発泡および硬化は数十分で完了することから、施工に要する時間が短くて済む。
【0025】
また本発明によれば、従来の発泡ウレタンと比較して耐火性能が飛躍的に向上し、しかも従来の耐火被覆材が室温で断熱性能を有しないという欠点を補う硬化体を得ることができる。なお、本発明の製造方法において、施工の対象領域は建築施工に限られず、例えば、電気器具の底板や、保温や、遮熱等の必要な部位などに塗工することができる。
【0026】
また、本発明の製造方法は、施工現場に限られず、工場等で型枠にスラリーを流し込み、硬化後に型枠から取り出される成型体にも適用可能である。工場等で製造された気泡を含む硬化体の成型体は、建築資材として施工現場に搬入されてもよい。また、工場等で電気器具の部品に塗工されてもよい。
【0027】
塗工工程において、コテを使ってスラリーを鉄骨表面や壁面といった建築物の表面に塗工してもよい。あるいは、スラリーをスプレーガンで施工対象物上に吹き付けることを含む。かかる実施形態によれば、市販される一般的なスプレーガンを用いることが可能であり、簡便な施工方法によって建築物の耐火施工および断熱施工を同時に行うことができる。
【発明の効果】
【0028】
このように本発明は、1の反応材としての珪酸ソーダと、他の反応材としてのシリカとを攪拌混合することによってこれら反応材が化学反応し自己発泡および硬化する。本発明はスラリー自らの発泡により気泡を形成して硬化することから、施工性に優れるとともに優れた断熱性能を備える。また本発明から得られる気泡を含む硬化体は無機材料であり火炎に強く、優れた耐火性能を備えている。しかも火災時に燃えず有毒なガスが発生しない。本発明は多数の独立気泡を有することから硬化体の内部で熱対流が生じず、軽量であり、高層建築物の耐火断熱材の材料として特に有利である。かかる本発明によれば、一度の施工によって耐火性能および断熱性能の双方を実現することが可能であり、施工現場の効率化および建築物の機能向上に寄与することができる。
【0029】
また、本発明の材料粉体および材料から得られる気泡を含む硬化体は、軽量であり、保温機能、遮熱機能、および遮音機能等を有する。したがって、保温室、遮熱材、および遮音壁等にも利用することができる。本発明の材料粉体および材料から得られる気泡を含む硬化体は、建築材の用途の他、電熱器の底板等、工夫次第であらゆる用途に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施例の気泡を含む硬化体の材料から得られる硬化体を示す断面図である。
【図2】同実施例の硬化体を拡大して示す斜視図である。
【図3】17mm厚の壁状の硬化体の断熱試験結果を示すグラフである。
【図4】30mm厚の壁状の硬化体の断熱試験結果を示すグラフである。
【図5】断熱試験結果をまとめた図表である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を、実施例に基づき詳細に説明する。
【0032】
まず、一実施例となる気泡を含む硬化体の材料粉体につき説明すると、反応材として粉体の珪酸ソーダ(日本化学工業株式会社製 商品名「粉末3号珪酸ソーダ」)を100重量部と、シリカ(フェロシリカ)15重量部とを用意する。珪酸ナトリウムは粉体であれば、他の商品であってもよい。
【0033】
硬化材として、粉体の高炉スラグを60重量部用意する。硬化材として高炉スラグの他、セメント、石こう、珪酸カルシウム、パーライト、発泡火山灰(シラスバルーン)、セピオライト、ホワイトカーボン、ゼオライトのうち少なくとも1つ以上の粉体材料を含んでいてもよい。完成する耐火断熱材が適切な強度となるよう、用意する硬化材は30重量部〜80重量部の範囲でよい。
【0034】
充填材として、粉体の炭酸カルシウム10重量部と、粉体のベントナイト10重量部と、粉体の酸化チタン15重量部とを用意する。充填材は、炭酸カルシウム、ベントナイト、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、珪砂、珪石、珪藻土、無機系繊維、有機系繊維、酸化チタンのうち少なくとも1つ以上の粉体材料を含んでいればよい。無機系繊維は、ひび割れ、収縮防止を目的として充填材に含めることができ、たとえばセピオライト、ワラストナイト、マイクロカーボン、カーボンナノチューブ等を充填材に加える。あるいは、無機系繊維を主体としつつ、木粉といった植物質繊維、羽毛といった動物質繊維、セルロース、ポリプロピレン等の有機系繊維を充填材に加えてもよい。完成する耐火断熱材が適切な強度となるよう、用意する充填材は30重量部〜70重量部の範囲でよい。
【0035】
なお、上述した酸化チタンを含むことにより、酸化チタンの熱反射効果および防カビ効果を享受することができる。また酸化チタンを加えることによって硬化後の強度が大きくなる。耐火断熱材は酸化チタンを含むことによって白色に近い色合いとなる。
【0036】
上述したこれら反応材と、硬化材と、充填材とを混合した材料粉体は、持ち運びが可能であり、この粉体自体は運搬中に化学反応を起こすことがない。
【0037】
次に、この気泡を含む硬化体の材料粉体から硬化体を作成して耐火断熱材として利用する、耐火断熱材の施工方法について説明する。
【0038】
上述した材料粉体を施工現場に搬入し、施工現場では水を用意する。上述した珪酸ソーダ100重量部に対して50重量部の水を施工現場で混合し、水と材料粉体が均一になるまで攪拌する。攪拌は市販のハンドミキサーでよい。材料粉体および水を混ぜ合わせることによってゾル状スラリーを作成する。
【0039】
なお、ゾル状スラリーの粘度は、前述した硬化材および充填材の量を加減することによって容易に調整可能である。
【0040】
水を加えることによってゾル状スラリーは自己発泡および硬化の化学反応を開始する。気泡の大きさは、加える水量に比例する。このため、気泡を大きくして硬化体の比重を軽くしたい場合には、水を多めに加えるとよい。反対に、気泡を小さくして硬化体の強度を大きくしたい場合には、水を少なめに加えるとよい。気泡の大きさが適切となるように加える水量は40重量部〜120重量部の範囲になる。
【0041】
攪拌混合が完了したら、ゾル状スラリーを直ちに施工対象に塗工する。建築物の塗工対象は垂直面であっても水平面であってもよく、また鉄骨およびモルタル壁に対して、ゾル状スラリーは液垂れすることなく確りと付着する。本実施例では、硬化材や充填材の量を適宜加減することによりゾル状スラリーの粘度を調整して、垂れにくい性状とすることが可能であり、モルタル壁および鉄骨以外の表面が円滑な壁体などの鉛直面への塗工にも好適である。
【0042】
塗工にあたっては、コテを用いて塗る方法や、スプレーガンなどのノンガスのガンで吹き付ける方法でよい。吹き付け工法の場合は、ゾル状スラリーを圧縮して吹き付けてもよく、フロンガスや可燃性ガスなど格別のスプレーガスを必要としない。
【0043】
施工の季節にもよるが、攪拌混合の完了から10分〜20分ぐらいすると、ゾル状スラリーが化学反応により自己発泡および硬化を開始する。したがって、スラリー製造工程の完了から塗工工程の完了までを所定時間内で行う。気温が低い冬場であれば、攪拌混合の完了から20分以内に塗工を完了させることが好ましい。反対に気温が高い夏場であれば、攪拌混合の完了から10分以内に塗工を完了させることが好ましい。また、スラリーの温度を管理する等、何らかの促進手段または遅延手段を用いて、スラリー製造工程の完了から塗工工程の完了までの所定時間を調整してもよい。
【0044】
発泡プロセスは、以下の化学式で表すことができる。反応材としての珪酸ソーダ(SiO2)の一部が化1に示すように加水分解する。
【0045】
Na2O・SiO2 + H2O →← NaOH + NaHSiO3 ・・・・(化1) このNaHSiO3はゾルであり、化2に示すように一部がさらに加水分解する。
【0046】
NaHSiO3+ H2O →← NaOH + H2SiO3 ・・・・(化2)
このNaSiO3はゾルである。なお、化1および化2の「→←」は、反応が左辺から右辺へ進む他、右辺から左辺へも進み得ることを示す。
【0047】
反応材としてのシリカ(Si)は、水酸化ナトリウム(NaOH)と水(H2O)の存在において、化3に示すように水素ガス(H2)を発生する。
【0048】
2 NaOH + Si + H2O → Na2O・SiO2 + 2H2 ・・・・(化3) 化3に示すように水酸化ナトリウムが消費されると化1右辺および化2右辺の水酸化ナトリウムが不足し、これら化1および化2の平衡が破れて加水分解が右辺へ向かって進行する。化3の化学反応は左辺の水および珪素が無くなるまで続く。また化3は発熱を伴う反応であり、蒸発によっても左辺の水が無くなる。以上より、本実施例のゾル状スラリーは硬化する。
【0049】
化3で生成される水素ガスは、ゾル状スラリーの中で気泡を形成する。かかる気泡は、隣り合う気泡同士で連通しない独立した気泡を多く含む。このようにゾル状スラリーは自己発泡する。
【0050】
なお、施工現場で粉体材料に水を加えることの利点として、水の攪拌混合からしばらく経って自己発泡および硬化が開始することが挙げられる。つまり、水の攪拌混合後すぐには化学反応が開始しないため、塗工に必要な時間を確保することができる。
【0051】
このようにして、塗工完了後30分〜40分程度経つとゾル状スラリーの自己発泡および硬化が完了する。つまり、攪拌混合完了から自己発泡および硬化が完了するまでの時間は40分〜1時間程度である。気温が低い冬場であれば、攪拌混合完了から自己発泡および硬化が完了するまで1時間ほど要する。反対に気温が高い夏場であれば、攪拌混合完了から自己発泡および硬化が完了するまで40分ほど要する。なお、ゾル状スラリーの自己発泡および硬化には外部からの加熱を一切要しない。
【0052】
このように本実施例の気泡を含む硬化体の製造方法における化学反応は40分〜1時間で完了し、最終的な耐火断熱材としての硬化体が完成する。化学反応自体が完了しても硬化体が湿り気を帯びている場合もあるが、4時間程度で完全に乾燥および硬化する。本実施例は特殊なスプレーガンを用いてゾル状スラリーにガスを連行して強制的に気泡を作成するものではない。したがって本実施例によれば、市販される一般的なスプレーガンで吹き付け塗工することができる。完成した硬化体は、化学的に安定であり、時間とともに変質することなく存在する。
【0053】
図1は本実施例の製造方法から得られる最終的な硬化体を示す断面図であり、図2は同実施例の硬化体を拡大して示す斜視図である。図1に示すように、7mm厚で塗工したゾル状スラリーは、自己発泡によって20mm厚に増大する。また、形成された気泡の多くは、それぞれが独立し、互いに連通しているものは少ない。したがって、硬化体の内部で熱対流が起こらず、断熱性能に優れ、結露が生じない。
【0054】
本実施例の硬化体は、独立した気泡を多数含み、比重が0.5〜0.6であることから軽量であり、高層建築物の耐火断熱材として有利である。本実施例の硬化体は、図2に示すように表面が凹凸形状になる。したがってこの凹凸形状を建築意匠として取り入れることができる。あるいは、硬化前に当て板で押さえることによって、表面を円滑にすることも可能である。
【0055】
なお、美観の更なる向上のため等の理由により、本実施例の硬化体に表面処理が要求される場合、硬化体の表面に漆喰をさらに塗工してもよい。硬化体の表面に漆喰を塗工すること自体、何ら問題ない。本実施例の硬化体を外壁として施工した場合、硬化体の表面に漆喰を塗工することにより防水性能が向上する。あるいは本実施例の硬化体を内装材として用いる場合、硬化体の上にパネルを貼り付けること自体、何ら問題ない。
【0056】
また本実施例の硬化体は無機質の材料で形成されており、1300度の高温にも耐えることができる。したがって、すぐれた耐火性能を有する。
【0057】
本実施例の硬化体につき、断熱性能を測定する試験を行った。まず供試体として、自己発泡および硬化状態で17mm厚の壁状の硬化体と、30mm厚の壁状の硬化体の2体を用意した。各供試体につき、一方壁面には赤外線電球を向けておき、他方壁面を断熱材からなる箱で覆い、一方壁面および他方壁面に熱電対を取り付けた。そして室温(22〜26度)で、一方壁面に赤外線を照射して一方壁面を加熱し、一方壁面の受熱温度および他方壁面の温度を、加熱開始から240分が経過するまでの間、それぞれ計測した。
【0058】
図3は17mm厚の壁状の硬化体の断熱試験結果を示すグラフであり、図4は30mm厚の壁状の硬化体の断熱試験結果を示すグラフであり、図5は、断熱試験結果をまとめた図表である。
【0059】
17mm厚の壁状の硬化体は、図3および図5に示すように、加熱開始後10分経過後の一方壁面温度(受熱温度)と他方壁面温度(試験体裏面温)との差(断熱温度)は平均6.4度であった。また加熱開始後2時間以上経ち、一方壁面温度(受熱温度)が摂氏50度かつ幅2度の範囲で安定する間の断熱温度は平均6.5度であった。この安定時の断熱度は、6.5度を50度で除算して13%になる。
【0060】
30mm厚の壁状の硬化体は、図4および図5に示すように、加熱開始後10分経過後の断熱温度は平均10.4度であった。また加熱開始後3時間以上経ち、一方壁面温度(受熱温度)が摂氏56度かつ幅2度の範囲で安定する間の断熱温度は平均10.7度であった。この安定時の断熱度は、10.7度を56度で除算して19%になる。
【0061】
次に、他の実施例となる気泡を含む硬化体の材料を説明すると、前述した粉体の珪酸ソーダに代えて、液体の珪酸ソーダ(日本工業規格K1408:珪酸ナトリウム3号 大阪珪曹株式会社製)を100重量部用意する。珪酸ナトリウム3号は水あめ状のほぼ透明な液体である。これに代えて珪酸ナトリウム2号あるいは1号でもよい。
【0062】
液体の珪酸ソーダとは別に、反応材としてのシリカ、硬化材、および充填材を、上述した重量部と同量それぞれ用意する。これらの粉体は別々に用意しても、予め混合しておいてもよい。
【0063】
そして、液体の珪酸ソーダと、粉体のシリカ、硬化材および充填材とをそれぞれ施工現場に搬入し、施工現場で攪拌混合する。攪拌は市販のハンドミキサーでよい。これらを混ぜ合わせることによって、硬化体が硬化する前のゾル状スラリーを作成する。
【0064】
ゾル状スラリーは上述した化1〜化3の化学反応によって自己発泡および硬化を開始する。
【0065】
自己発泡および硬化が完了すると、前述した実施例と同じ耐火断熱機能を備えた硬化体が完成する。
【0066】
本実施例になる気泡を含む硬化体の用途および効果につきまとめる。
【0067】
1.屋根に吹き付けることによる断熱効果および消音効果
工場および倉庫の屋根材に本実施例を適用する。これにより、建築物内部の断熱効果、夏季の断熱、輻射熱遮断、冬季の保温、火災対策および消音(特に雨の音)という効果を発揮する。
【0068】
2.高温の排気ダクトの断熱効果
工場等の排気ダクトの周囲に本実施例を適用する。これにより、排気ダクトから発生する熱の遮断と火傷防止および消音(特に雨の音)という効果を発揮する。
【0069】
3.工場熱源の壁に吹き付けることによる断熱効果
熱源を有する工場等において、熱源に面した壁に本実施例を適用する。これにより、熱を遮断し、作業環境快適化と冷房費削減、CO削減という効果を発揮する。さらに火傷防止の効果も期待できる。
【0070】
4.熱を使用した機器及び器具に吹き付けることによる断熱効果
工場等の内部の乾燥機に本実施例を適用する。これにより、乾燥機から発生する熱の遮断による作業環境快適化、冷房費削減、CO削減という効果を発揮する。さらに火傷防止の効果も期待できる。
【0071】
5.炉の内部材としての断熱材
炉の内部材と外装材の間に本実施例のスラリーを流し込んで施工する。これにより、炉の保温及び外装材の加熱防止による周辺環境改善、火傷防止という効果を発揮する。
【0072】
6.街中に存する公共電気機器の外気(高低温)からの保護
キュービクル等の対象物の内部に本実施例のスラリーを吹き付けて施工する。これにより、気泡による断熱効果を活用して外部環境の高低温から保護する。さらには、夏季の断熱、輻射熱遮断、冬季の保温、火災対策という効果を発揮する。
【0073】
7.冷蔵機器、冷凍機器の断熱・保冷
冷蔵機器、冷凍機器に本実施例を適用する。これにより、無機物特有の強固な気泡が断熱・保冷を果たし、また結露からも保護するという効果を発揮する。
【0074】
8.冷蔵、冷凍貯蔵施設の断熱、耐火保護
冷蔵、冷凍貯蔵施設の壁の内側面に本実施例のスラリーを吹き付けて施工する。これにより、低温での断熱に加えて建物の耐火に活用することができる。加えて結露防止効果も得ることができる。
【0075】
9.耐火レンガ、耐火パネルへの転用
本実施例になる気泡を含む硬化体からなる耐火レンガおよびパネルを製造する。これにより、耐火レンガおよびパネルの大幅な軽量化を実現することができる。型枠に本実施例のスラリーを流し込む製造方法によれば、自由な成形が可能となる。
【0076】
10.消音への展開
本実施例になる気泡を含む硬化体からなる防音壁を構築する。これにより、防音効果を得ることができる。
【0077】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。これら実施例の気泡を含む硬化体は、上述した耐火断熱機能に加え、軽量であり、保温機能、遮熱機能、遮音機能等を備える。したがって、耐火断熱材として利用可能である他、保温室、遮熱材、防音壁として利用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
この発明になる気泡を含む硬化体の材料粉体、気泡を含む硬化体の材料、および気泡を含む硬化体の製造方法は、耐火または遮熱を必要とする建築施工、電熱器、汎用品、および日用品において有利に利用される。また防音壁等、工夫次第でさまざまな製品に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の形態を呈し、水に溶くことによってゾル状スラリーとなり、所定時間経過後に自己発泡して硬化する硬化体の材料であって、
粉末状の形態を呈する珪酸ソーダ100重量部と、
シリカ3〜30重量部と、
高炉スラグ、セメント、石こう、珪酸カルシウム、パーライト、発泡火山灰、セピオライト、ホワイトカーボンおよびゼオライトからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む硬化材30〜80重量部と、
炭酸カルシウム、ベントナイト、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、珪砂、珪石、珪藻土、無機系繊維、有機系繊維および酸化チタンからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む充填材30〜70重量部とを備える、気泡を含む硬化体の材料粉体。
【請求項2】
液体および粉体を混合攪拌することによってゾル状スラリーとなり、所定時間経過後に自己発泡して硬化する硬化体の材料であって、
液体の珪酸ソーダ100重量部よりなる液体材料と、
シリカ3〜30重量部と、
高炉スラグ、セメント、石こう、珪酸カルシウム、パーライト、発泡火山灰、セピオライト、ホワイトカーボンおよびゼオライトからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む硬化材30〜80重量部と、
炭酸カルシウム、ベントナイト、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、珪砂、珪石、珪藻土、無機系繊維、有機系繊維および酸化チタンからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む充填材30〜70重量部とを有する粉体材料とを備える、気泡を含む硬化体の材料。
【請求項3】
前記硬化材は高炉スラグを含み、
前記充填材は炭酸カルシウム、ベントナイトおよび酸化チタンを含む、請求項2に記載の気泡を含む硬化体の材料。
【請求項4】
粉末状の形態を呈する珪酸ソーダ100重量部と、シリカ3重量部〜30重量部と、高炉スラグ、セメント、石こう、珪酸カルシウム、パーライト、発泡火山灰、セピオライト、ホワイトカーボンおよびゼオライトからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む硬化材30重量部〜80重量部と、炭酸カルシウム、ベントナイト、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、珪砂、珪石、珪藻土、無機系繊維、有機系繊維および酸化チタンからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む充填材30重量部〜70重量部とを有する材料粉体を用意する工程と、
予め用意した前記材料粉体に対して水を加えてスラリーを製造するスラリー製造工程と、
前記スラリーを対象領域に塗工または流し込む塗工工程と、
前記塗工または流し込んだスラリーを自己発泡させて硬化させる工程とを備え、
前記スラリー製造工程の完了から前記塗工工程の完了までを所定時間内で行う、気泡を含む硬化体の製造方法。
【請求項5】
前記スラリー製造工程において加える水の量は40〜120重量部である、請求項4に記載の気泡を含む硬化体の製造方法。
【請求項6】
前記加える水の量を調節することによって、硬化体中の気泡の大きさを制御する、請求項5に記載の気泡を含む硬化体の製造方法。
【請求項7】
シリカ3重量部〜30重量部と、高炉スラグ、セメント、石こう、珪酸カルシウム、パーライト、発泡火山灰、セピオライト、ホワイトカーボンおよびゼオライトからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む硬化材30重量部〜80重量部と、炭酸カルシウム、ベントナイト、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、珪砂、珪石、珪藻土、無機系繊維、有機系繊維および酸化チタンからなる群から選ばれた少なくとも1つ以上の材料を含む充填材30重量部〜70重量部とを有する粉体を用意する工程と、
予め用意した前記粉体に対して液体の珪酸ソーダ100重量部を加えてスラリーを製造するスラリー製造工程と、
前記スラリーを対象領域に塗工または流し込む塗工工程と、
前記塗工または流し込んだスラリーを自己発泡させて硬化させる工程とを備え、
前記スラリー製造工程の完了から前記塗工工程の完了までを所定時間内で行う、気泡を含む硬化体の製造方法。
【請求項8】
前記塗工工程における塗工は、前記スラリーをスプレーガンで対象領域に吹き付けることを含む、請求項7に記載の気泡を含む硬化体の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−180122(P2010−180122A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274693(P2009−274693)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(509008053)サンライズ産業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】