説明

気泡除去装置

【課題】市販品のようなインクカートリッジ内にある気泡を除去分離する気泡除去装置を提供する。
【解決手段】モータ13により回転駆動される回転体16と、回転体16に対して支軸17により回転可能になされ、太陽歯車11に沿って回転するように配置される複数個の遊星歯車18と、インクカートリッジ20が着脱可能に保持されるインクカートリッジ保持部19と、を備え、モータ13が回転体16を回転させて太陽歯車11に沿って遊星歯車18を遊星運動させ、インクカートリッジ20を自転とともに公転させてインク内にある微細な気泡を浮上させ、インク内から気泡を除去させる気泡除去装置1とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク内に含まれる気泡を除去する気泡除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハのチップ(半導体素子)製造工程においては、半導体ウェハ上のチップの電気的特性をLSIテスタで検査し、不良があるチップに対してインクによるマーキングを行い、後に不良品であるチップが判断できるようにしている。全てのチップに対して検査を行い、順次インクによりマーキングが行われていく。
【0003】
この際、チップは微小面積であるため、インクが流れすぎるとインクが広がって隣接する良品チップへインクが達してしまうインク流れが起きるおそれがある。
さらに、インクマーキングに用いるインクが乾燥すると、不良品のチップに対してマーキング動作を行ったにも拘わらずインクなしやインクかすれが起きる場合もある。
【0004】
そこでこれらの事象が起こらないようにするため、インクマーキングでは、乾燥しにくい特殊なインクを充填したインクカートリッジに対して電気制御やエア制御を行い、最適なインク量となるように調節しつつインクを吐出している。このような制御によりインク流れ、インクなしやインクかすれを起こりにくくしてマーキングが確実に行われるようにしている。
【0005】
さて、このようなインクカートリッジにはまれに微小な気泡が混入していることがある。このような気泡が存在すると電気制御やエア制御にも拘わらず本来あるべきインクに代えて気泡が吐出されるため、かすれが生じるおそれがある。そこで、このような気泡をインク中から除去したいという要請があった。
【0006】
気泡の除去に関する従来技術として、例えば、特許文献1(特開2006−289812号,発明の名称;インクジェット装置のエア除去方法及びインクジェット装置)に記載の手法が知られている。特許文献1に記載の発明では、負圧を利用することで気泡を除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−289812号公報(段落番号[0081],[0082],図1,図2,図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先に説明したように、特許文献1の装置では、インクが溜まる容器等の内部空間を負圧にして気泡を除去するというものであり、充分に硬い専用の容器を用いたり真空ポンプ等の負圧発生装置が準備できる環境でないと、気泡が除去できないというものであった。例えば、市販品のインクカートリッジ等に充填されているインクからは気泡を除去できないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、市販品のような容器型のインク内にある気泡を除去分離する気泡除去装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る気泡除去装置は、
気泡をインク内から分離除去する気泡除去装置であって、
固定車と、
固定車が支持固定される固定車支持部と、
モータと、
モータが支持固定されるモータ支持部と、
モータの駆動軸に固定される回転体と、
モータの駆動軸を中心軸としてn箇所(nは2以上の自然数)で回転体に対して支軸により回転可能になされ、固定車に沿って回転するように配置されるn個の遊星車と、
遊星車に固定されており、インクの容器が着脱可能に保持されるインク容器保持部と、
を備え、
モータが回転体を回転させることにより固定車に沿って遊星車を遊星運動させ、インク容器を自転とともに公転させ、インクの攪拌によりインク内にある微細な気泡を浮上させ、インク内から気泡を除去させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項2に係る気泡除去装置は、
請求項1に記載の気泡除去装置において、
前記固定車は、太陽車または内車であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項3に係る気泡除去装置は、
請求項1または請求項2に記載の気泡除去装置において、
前記固定車および前記遊星車は歯車であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項4に係る気泡除去装置は、
請求項1または請求項2に記載の気泡除去装置において、
前記固定車および前記遊星車は摩擦車であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、市販品のような容器型のインク内にある気泡を除去分離する気泡除去装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を実施するための形態の気泡除去装置の正面図である。
【図2】本発明を実施するための形態の気泡除去装置のA−A矢視図である。
【図3】インクカートリッジの説明図である。
【図4】本発明を実施するための形態の気泡除去装置のブロック回路図である。
【図5】本発明を実施するための他の形態の気泡除去装置のA−A矢視図である。
【図6】本発明を実施するための他の形態の気泡除去装置のA−A矢視図である。
【図7】本発明を実施するための他の形態の気泡除去装置のA−A矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
続いて、本発明を実施するための形態の気泡除去装置について図を参照しつつ以下に説明する。気泡除去装置1は、図1の外観図に示すように、ベース部10、太陽歯車11、太陽歯車支持部12、モータ13、モータ支持部14、駆動軸15、回転体16、支軸17、遊星歯車18、インクカートリッジ保持部19、を備える。インクカートリッジ保持部19がインクカートリッジ20を保持する。
【0017】
続いて各部について説明する。
ベース部10は、堅牢な基台である。回転体16やインクカートリッジ20の回転により発生する力に抗して安定した状態を維持する。
太陽歯車11は、本発明の固定車の具体例であって、外周に歯面が形成された歯車である。
【0018】
太陽歯車支持部12は、本発明の固定車支持部の一具体例の円柱体であって、下端がベース部10に固定されており、その上端に太陽歯車11が固定されている。したがって、太陽歯車11は回転しない固定歯車である。
モータ13は、後述するような制御駆動部により電力が供給され、回転駆動する。
【0019】
モータ支持部14は、堅牢な構造体であって少なくとも太陽歯車11の上側を覆うような部材を有し、下側でベース部10に固定されており、その上側の部材でモータ13が固定されている。
駆動軸15は、モータ13から下方へ突出している。
【0020】
回転体16は、例えば板体であって駆動軸15に固定されている。したがって、回転体16は、モータ13の駆動制御により回転する。
支軸17は、回転体16に対して回転可能となるように支持されている。
【0021】
遊星歯車18は、本発明の遊星車の具体例で外周に歯面が形成された歯車であって、支軸17と一体に固定されている。そして、図2のA−A矢視図に示すように、遊星歯車18は太陽歯車11と噛合している。モータ13の駆動軸15を中心軸として360°をn等分したn等角(本形態ではnは2であり360°を2等分した二等角、つまり180°毎に配置される。)に分割された状態で回転体16に回転可能に軸支される。形が対称であるため、回転時には安定して回転する。このような遊星歯車18は太陽歯車11を挟んで対向する位置に2個設けられている。
【0022】
インクカートリッジ保持部19は、本発明のインク容器保持部の具体例であって、遊星歯車18と一体に固定されており、遊星歯車18の回転とともに回転する。インクカートリッジ保持部19は、インクカートリッジ20を保持する機能を有している。このような機能の実現は各種構成を採用することができるが、例えば、インクカートリッジ保持部19はインクカートリッジ20の上端を両側から挟み込んで固定するというものである。
【0023】
インクカートリッジ20は、本発明のインク容器の具体例であって、例えば図3で示すような構造であり、インク貯蔵部21、吐出針22を備えている。インク貯蔵部21内にインクが貯蔵され、電気制御やエア制御により吐出針22の先端(図3では最下)からインクが吐出される。
【0024】
このような気泡除去装置1の回路ブロック系は、例えば図4で示すように、入力スイッチ23、駆動制御部24を備える。駆動制御部24には入力スイッチ23、モータ13が接続されている。
入力スイッチ23は気泡除去装置の駆動・停止を入力する機能を有しており、例えば、モータ13の回転駆動指示、モータ13の回転停止指示を行う。入力スイッチ23からの指令は駆動制御部24により受信される。
駆動制御部24は、入力スイッチ23からの指令を受けて、モータ13の駆動・停止を行う。このような駆動制御部24は、モータ13を回転駆動する駆動電力系回路を含む。また、駆動電力系回路を制御する制御系回路を含む。
【0025】
例えば、入力スイッチ23を通じて駆動制御部24へ回転指示が入力されると、駆動制御部24はモータ13へ電力供給して所定期間(例えば15分)にわたり回転させ、そして所定期間経過後にモータ13への電力を遮断して自動的に停止する。
【0026】
続いて気泡除去機能について説明する。
モータ13が駆動軸15を介して回転体16を回転させると、遊星歯車18は太陽歯車11と噛み合っているため支軸17を回転中心として自転し、また、駆動軸15を回転中心として太陽歯車11の周りを公転する。このようにモータ回転による公転運動、および、遊星歯車回転による自転運動、を同時に行う遊星運動が行われる。支軸17と同軸であってインクカートリッジ保持部19の下側にあるインクカートリッジ20も同様の軌跡で自転しつつ公転する。このため、インクカートリッジ20内のインクは自転および公転で付与される力により攪拌され、微小な気泡が集合して浮上し、インク内からは気泡が減少する。また、万が一、大きい気泡が入っていたとしても攪拌により浮上し、やはりインク内からは気泡が減少する。
【0027】
なお、回転は同じ方向に回転させても気泡を除去できるが、駆動制御部24は、回転を所定期間毎に反転させるようにしても良い。
インクカートリッジ20内のインクは自転・公転で遠心力を受けてインクの攪拌が行われ、また、反転させることにより異なる方向に遠心力を受けてインクの攪拌が行われ、気泡を確実に移動させて気泡除去効果を高める。
【0028】
また、駆動制御部24は、上記のように一方向回転や反転回転の途中で回転速度を変えるようにしても良い。インクカートリッジ20内のインクは自転・公転で遠心力を受けてインクの攪拌が行われ、また、回転速度の変化に応じて遠心力を変化させてより不均一なインクの攪拌が行われ、気泡を確実に移動させて気泡除去効果を高める。これら反転や速度変更があればさらに気泡の移動が見込める。
【0029】
続いて、本発明を実施するための気泡除去装置1の他の形態について図5を参照しつつ以下に説明する。先の形態では遊星歯車が2個ある形態について説明した。本形態では遊星歯車18が3個ある形態、すなわち本発明でn=3とした形態である。回転体25は120°毎に3本の板体25aが配置されており、それぞれ板体25aに遊星歯車18が配置されている。モータ13の駆動軸15を中心軸として360°をn等分したn等角(本形態ではnは3であり360°を3等分した三等角、つまり120°毎に配置される。)に分割された状態で回転体25に回転可能に軸支される。形が対称であるため、回転時には安定して回転する。3個の遊星歯車18は太陽歯車11と噛合しており、回転体25の回転とともに公転・自転が行われる。回転制御方法は先に説明した形態と同様に行われる。本形態では3個の遊星歯車18に保持される3個のインクカートリッジ20の気泡除去が同時に行えるため、利便性を高めている。
【0030】
続いて、本発明を実施するための気泡除去装置1の他の形態について図6を参照しつつ以下に説明する。先の形態では遊星歯車が3個ある形態について説明した。本形態では遊星歯車18が4個ある形態、すなわち本発明でn=4とした形態である。回転体26は90°毎に4本の板体26aが配置されており、それぞれ板体26aに遊星歯車18が配置されている。モータ13の駆動軸15を中心軸として360°をn等分したn等角(本形態ではnは4であり360°を4等分した四等角、つまり90°毎に配置される。)に分割された状態で回転体26に回転可能に軸支される。形が対称であるため、回転時には安定して回転する。4個の遊星歯車18は太陽歯車11と噛合しており、回転体26の回転とともに公転・自転が行われる。回転制御方法は先に説明した形態と同様に行われる。本形態では4個の遊星歯車18に保持される4個のインクカートリッジ20の気泡除去が同時に行えるため、利便性を高めている。
【0031】
続いて、本発明を実施するための気泡除去装置1の他の形態について図7を参照しつつ以下に説明する。先の形態では複数個の遊星歯車が太陽歯車と噛み合う形態について説明した。本形態では太陽歯車に代えて内歯車27を採用した形態である。図示しないが太陽歯車支持部に代えて円筒状の内歯車支持部を備え、内歯車27が固定されている。内歯車27は本発明の固定車(内車)であり、内歯車支持部は本発明の固定車支持部である。回転体25は120°毎に3本の板体25aが配置されており、3個の遊星歯車18が配置されている。3個の遊星歯車18は内歯車27と噛合しており、回転体25の回転とともに公転・自転が行われる。なお、図7の回転体25に代えて他の回転体を採用することもでき、例えば回転体は180°毎に2本の板体が配置されて2個の遊星歯車が配置された形態(図2の回転体16を用いる形態)や、90°毎に4本の板体が配置されて4個の遊星歯車が配置された形態(図6の回転体26を用いる形態)を採用しても良い。このような形態を採用しても本発明の効果を奏しうる。
【0032】
続いて、本発明を実施するための気泡除去装置1の他の形態について説明する。先に説明した各形態の気泡除去装置では内歯車、太陽歯車、遊星歯車を採用した形態である。本形態ではこれら歯車に代えて摩擦車を採用したものである、例えば先に説明した全ての形態の内歯車、太陽歯車、遊星歯車に代えて内摩擦車、太陽摩擦車、遊星摩擦車を採用する。噛み合い箇所は摩擦接触箇所になる。歯車で噛み合わせるのではなく、単なる回転体である摩擦車を摩擦力により接するようにしたものであるが、動作的には同様の遊星運動を行うため、上記したような気泡除去効果が見込める。また、構造が安価になるという利点がある。
【0033】
以上本形態の気泡除去装置について説明した。
上記した各形態では各種の変形形態が可能である。例えば、インクカートリッジに代えてインクが充填された袋体のような容器に適用することもできる。また、太陽歯車に対して遊星歯車の歯数を小さくすることで、公転一周時の自転数が増大するため、インクの攪拌能力を高める。このような構成を採用しても良い。
【0034】
以上説明したような本発明の気泡除去装置によれば、特にインクカートリッジのような容器内に滞留する気泡を攪拌により移動集合の上で浮上させ、インクから外側へ除去するという効果が見込める。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の気泡除去装置は、例えば半導体ウェハのチップ(半導体素子)の検査用のインクから気泡を除去する際に適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1:気泡除去装置
10:ベース部
11:太陽歯車
12:太陽歯車支持部
13:モータ
14:モータ支持部
15:駆動軸
16:回転体
17:支軸
18:遊星歯車
19:インクカートリッジ保持部
20:インクカートリッジ
21:インク貯蔵部
22:吐出針
23:入力スイッチ
24:駆動制御部
25:回転体
25a:板体
26:回転体
26a:板体
27:内歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡をインク内から分離除去する気泡除去装置であって、
固定車と、
固定車が支持固定される固定車支持部と、
モータと、
モータが支持固定されるモータ支持部と、
モータの駆動軸に固定される回転体と、
モータの駆動軸を中心軸としてn箇所(nは2以上の自然数)で回転体に対して支軸により回転可能になされ、固定車に沿って回転するように配置されるn個の遊星車と、
遊星車に固定されており、インクの容器が着脱可能に保持されるインク容器保持部と、
を備え、
モータが回転体を回転させることにより固定車に沿って遊星車を遊星運動させ、インク容器を自転とともに公転させ、インクの攪拌によりインク内にある微細な気泡を浮上させ、インク内から気泡を除去させることを特徴とする気泡除去装置。
【請求項2】
請求項1に記載の気泡除去装置において、
前記固定車は、太陽車または内車であることを特徴とする気泡除去装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の気泡除去装置において、
前記固定車および前記遊星車は歯車であることを特徴とする気泡除去装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の気泡除去装置において、
前記固定車および前記遊星車は摩擦車であることを特徴とする気泡除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−86102(P2012−86102A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232198(P2010−232198)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(591252781)ヒューグルエレクトロニクス株式会社 (40)
【Fターム(参考)】