説明

気液分離器およびそれを用いた分析装置

【課題】 試料の条件に対応し気液の分離を確実に行うとともに、露点の低い試料には試料の条件に対応した加湿を行うことができる、簡易かつコンパクトな気液分離器およびそれを用いた分析装置を提供すること。
【解決手段】 気液が共存する試料を導入する入口部2、試料が通過する所定の容積を有する空間部3、試料と気液接触が可能な所定の容積を有する液溜部6、気体を主成分とする試料を排出する出口部4、及び分離液を排出するドレン排出部5を有する気液分離器1であって、前記空間部の容積または/および液溜部の容積を変更可能な構造を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液分離器に関するもので、例えば、燃焼排気ガス中の特定成分分析装置の前処理部等として特に有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、発生源用測定装置や環境大気用測定装置あるいは自動車排気ガス測定装置などの大気汚染測定装置においては、図6に示すように、試料採取点から分析計Aまでの間に試料流体中の除湿や除塵あるいは定流量化などを目的として、フィルタF、導管B、気液分離器1及び1’、切換弁V、圧力スイッチPs、吸引ポンプPなどが設けられるとともに、各部材を配管で接続した試料流路を形成している。このとき、試料中の凝縮水や飛沫などの水分は分析計等に種々の悪影響を及ぼすことから、気液分離器1によって確実に除去する必要がある。(例えば特許文献1参照)。
【0003】
一般に、図7に示すように、気液分離器1としては、気液が共存する試料を導入する入口(入口部)2、試料が通過する所定の容積を有する空間部3、気体を主成分とする試料を排出する出口(出口部)4、及び分離液(ドレン)を排出するドレン出口(ドレン排出部)5を有する構造体が用いられる(例えば非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−101721号公報
【非特許文献1】日本工業規格 JIS K0095−1994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の気液分離器は、例えばガスと凝縮水が混在している試料を例にとると、上記の機能のように試料から凝縮水を分離すると同時に、冬季あるいは試料自体が乾燥している場合などは、凝縮水によってガスが加湿されて試料中の水分を略一定にする、いわゆる緩衝効果を有している。
【0005】
しかしながら、乾燥した試料が長時間気液分離器に導入された場合には、空間部の凝縮水は殆んど存在せず、こうした緩衝効果は機能しなくなる。特に、従来の気液分離器の構成では、気体と液体とを分離した後気液が再度接触することは全くないことから、上記のように気液分離器後段に分析計が接続されている場合には、試料中の水分の急激な変化が直接分析計に導入される試料の変化となることとなり、分析計の水分干渉影響あるいは試料中の水分の分圧変化による測定誤差を生じる場合がある。具体的には、ボイラ排ガス分析装置については、ボイラにおけるDSS(Daily Start and Stop)またはWSS(Weekly Start and Stop)運転時の試料のDry化による場合などを挙げることができる。
【0006】
こうした測定誤差を回避するため、分析計の前段に別途加湿器を設けることも可能であるが、加湿器用の水分供給手段を別途設ける必要があり、分析装置の前処理部の構成において、前処理の煩雑化を招きコスト面での負担も大きくなる場合がある。
【0007】
また、新たな気液接触手段の追加は、試料中の測定成分が溶解性の強い物質、例えば、二酸化硫黄(SO)や二酸化窒素(NO)などのような物質の場合には、溶解損失や応答遅れを増大することになり、測定精度の面からも好ましいものといえない。
【0008】
さらに、従来の気液分離器は、気体と液体とを分離するための空間部が一定の容積を有する構造となっており、試料中の気体と液体との比率や試料温度などの条件が変化しても対応できず、通常液体の比率が最大の場合を許容範囲として気液分離器の容積を設定することが多い。その結果、気液分離器が分析装置の前処理部のコンパクト化の阻害要因となることもある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、試料の条件に対応し気液の分離を確実に行うとともに、露点の低い試料には試料の条件に対応した加湿を行うことができる、簡易かつコンパクトな気液分離器およびそれを用いた分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、気液分離器について鋭意研究したところ、下記の気液分離器およびそれを用いた分析装置によって上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、気液分離器であって、気液が共存する試料を導入する入口部、試料が通過する所定の容積を有する空間部、試料と気液接触が可能な所定の容積を有する液溜部、気体を主成分とする試料を排出する出口部、及び分離液を排出するドレン排出部を有する気液分離器であって、前記空間部の容積または/および液溜部の容積を変更可能な構造を有することを特徴とする。
【0012】
上記のように、試料中の共存成分あるいは周囲温度などの条件によって、気液分離器として要求される機能が異なる。本発明では、空間部の容積を可変させることによって、試料の条件に対応した気液の分離を確実に行うことができる。例えば、所定の気液の分離効率を確保するには、試料流量が多い場合には大きな容積を要し、試料流量が少ない場合には小さな容量で十分である。また、試料の露点が低い場合には、液溜部の容積を可変させることによって、試料の条件に対応した適切な加湿を行うことができる。例えば、所定の気液の加湿効率を確保するには、試料流量が多い場合には大きな容量を要し、試料流量が少ない場合には小さな容量で十分である。
【0013】
従って、本発明に係る気液分離器においては、こうした機能のいずれかまたは両方を有することによって、気液分離器の使用条件に対応することができる、簡易かつコンパクトな気液分離器を提供することが可能となる。なお、ここでいう「ドレン」は、試料採取部から導管において凝縮発生する分離液および気液分離器において発生する凝縮液を含め、さらには気液分離器以降において電子冷却器などの冷却手段によって生じる、試料中のあらゆる液状の分離成分をいう。
【0014】
本発明は、上記気液分離器であって、前記液溜部に貯留液を補充可能な手段を有することを特徴とする。
【0015】
通常の使用においては、液溜部に貯留液は試料中の凝縮液あるいは気液分離器において凝縮する溶液の一部を供することで十分確保される。また、加湿用の乾燥した試料が長時間気液分離器に導入された場合であっても、上記のように、本発明の気液分離器にあっては、液溜部の貯留液によって十分な加湿効果を得ることが可能である。しかし、さらに液溜部の貯留液が枯渇する状態にまでの長期間の使用あるいは前処理部のパージなどの処理に対しては、貯留液を補充する必要がある。本発明においては、こうした事態を考慮し、予め貯留液の補充が可能な手段(貯留液補充手段)を付加あるいは別途用意することによって、気液分離器にとって過酷な条件下にあっても、本発明に係る気液分離器の上記機能を確保することが可能となる。具体的な貯留液補充手段としては、新たな液の供給用の配管などの手段や、後述するドレンを供給する手段がある。
【0016】
本発明は、上記気液分離器であって、前記補充される貯留液が、試料に共存する液状物あるいは前記ドレンの一部であることを特徴とする。
【0017】
新たな貯留液補充手段の設置は、当該気液分離器の稼動場所によっては困難な場合があり、新たな水などの溶液の追加は試料中の水溶性成分の溶解損失を招くことがある。その一方、その水溶性成分の溶存したドレンが排水路に存在する。本発明は、こうしたドレンを上記の貯留液の補充用として利用することによって、別途補充水を準備する必要がなくなり、あるいは補充水を大幅に減少させることができる。また、ドレンを補充することによって、水溶性成分の溶解損失を大幅に低減させ、分離液の処理の負荷も低減することができる。
【0018】
本発明は、上記気液分離器であって、前記液溜部の内部側面の一部あるいは全部が、上部に広がる傾斜形状を有する構造であることを特徴とする。
【0019】
試料の加湿効果は、気液分離器内の貯留液の表面積に大きく依存する。例えば、所定の気液の加湿効率を確保するには、試料流量が多い場合には大きな表面積を要し、試料流量が少ない場合には小さな表面積で十分である。また、含有量の多い試料の場合には小さな表面積で十分であり、含有量の少ない試料の場合には大きな表面積を要する。例えば、液溜部の内部が逆円錐形のような構造であれば、液表面の高さを変更すれば貯留液の表面積を変更することができる。
【0020】
従って、本発明に係る気液分離器においては、こうした液溜部の内部側面の一部あるいは全部が、上部に広がる傾斜形状を有する構造とすることによって、気液分離器の使用条件あるいは試料の状態に対応し適切な加湿効果を得る状態に可変することができる、簡易かつコンパクトな気液分離器を提供することが可能となる。なお、当該傾斜形状は、側面全体に形成することは必要ではなく、その一部に設けることによって、十分機能する。
【0021】
本発明は、上記気液分離器であって、前記液溜部の液面の一部あるいは全部を多孔性の溶液保持部材によって覆うことを特徴とする。
【0022】
試料の加湿効果向上には、液の表面を通過する試料との接触面積を増大し、かつその接触部に問う液が存在する方法が有力である。本発明は、液溜部の液面を多孔性の溶液保持部材で覆い、実質的に表面積を増大し、かつ溶液保持部材の表面に常に溶液が存在することによって、加湿効果を向上することができる。このとき、当該部材は、液面を全部覆うことは必要ではなく、その一部、特に試料が直接液面に当たる場合のその部分、に設けることによって、十分機能する。ここで、「多孔性の溶液保持部材」とは、多孔性を有し、溶液を含浸あるいは浸透することができる部材であって、繊維状の水分保持部材などが該当する。詳細は後述する。
【0023】
また、本発明は、以上のような気液分離器を搭載する分析装置であって、試料の前処理を行うことが好適である。
【0024】
簡便な構造で気液分離および加湿を適切に行うことによって、試料の前処理初段の確実な気液分離および加湿を行い、後段での前処理を容易にすることができ、その結果測定精度の高い分析装置の供給が可能となる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、気液分離器の空間部または液溜部の容積を変更可能な構造にすることによって、試料の条件に対応し気液の分離を確実に行うとともに、露点の低い試料には試料の条件に対応した加湿を行うことが可能な、簡易かつコンパクトな気液分離器およびそれを用いた分析装置を提供することができる。
【0026】
特に、加湿機能は試料の溶液との接触面積と密接に関連することから、貯留液の表面積の変更や多孔性の溶液保持部材の活用によって、さらなる加湿効果の向上を図っている。
【0027】
さらに、試料に共存するドレンなどを貯留液として利用することによって、溶解損失を低減することができ、水溶性成分の測定におけるガス分析装置の応答性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0029】
<気液分離器の実施形態>
本発明に係る気液分離器を、図1に例示する概略構造によって説明する。
図1(A)に示すように、本発明に係る気液分離器1は、試料を導入する入口部2、試料が通過する空間部3、試料を排出する出口部4、及びドレン排出部5とともに、液溜部6を有する。ドレン排出部5は、気液分離器1の下部に取り付けられた継手7を介して挿入される挿入管8によって形成される。
【0030】
気液分離器1は、通常、ガラスや金属あるいは樹脂などを素材とするが、加工の容易さおよび放熱効果を考慮するとガラス製が好ましい。腐蝕性の試料の場合には、ガラスの他、ステンレス鋼やチタンなどの耐蝕性金属、塩化ビニルやポリエチレンなどの耐蝕性樹脂が用いられる。
【0031】
また、気液分離器1を冷却ファンなど(図示せず)によって強制空冷を行うことも好ましい。さらに、気液分離器1と冷却ファンの中間部に水分を所定量保持することができる部材を設け、冷風をさらに下げ、周囲温度以下の露点での凝縮および気液分離を行うことも可能である。
【0032】
液溜部6は、挿入管8を気液分離器1内部に挿入することによって形成され、挿入管8と継手7とによってシールされるとともに、挿入管8の挿入量を変更することによって、その容積を変更することができる構造としている。通常入口部2から導入された試料中に含まれる凝縮液が徐々に液溜部6に溜り、その容量を超えた場合には挿入管8の上部から落下し、ドレン排出部5から排出されることで、略一定量の液を貯留する。ここで、試料が液溜部6の貯留液表面を通過すると、気液平衡によって略一定の蒸気圧を有し、加湿された状態となり、出口部4を介して後段の処理が行われる。
【0033】
また、液溜部6に液を貯留した状態で、挿入管8の挿入量を変更することによって、貯留液の量を変更することができると同時に、空間部3の容積も変化する。つまり、図1(B)に示すように、挿入管8の先端を、液溜部6の最下部から高さaの位置から高さbの位置まで下げた場合、液溜部6の貯留液は挿入管8の仕切りがなくなった分上部から排出される。従って、液溜部6の容積は排出された液量分減少することになる一方、空間部3の容積はその分増加することになる。なお、液溜部6つまり加湿を必要としない試料の場合には、挿入管8を最下部に配することによって、従来と同様の気液分離機能のみを有する気液分離器1として使用することも可能である。
【0034】
さらに、図1(C)に例示するような構造によって、空間部3の容積のみを変更することも可能である。つまり、空間部3を嵌装可能で嵌装位置を変更することが可能な上部材3aと下部材3bに分割し、シール部材3cおよび固定部材3dにて所定の状態で固定することによって、任意の容積の空間部3を構成することができる。従って、大量の水分を含む試料の場合は拡大し、少量の水分の場合には縮小するという、試料の条件に合致した気液分離器1を形成することが可能となる。
【0035】
同様に、図1(D)に例示するような構造によって、液溜部6の容積のみを変更することも可能である。例えば、図1(C)における空間部3を液溜部6に代えた、嵌合構造によって任意の容積の液溜部6を構成することができる。つまり、嵌装可能で嵌装位置を変更することが可能な上部材6aと下部材6bに分割し、シール部材6c、6dおよび固定部材6eにて所定の状態で固定することによって、任意の容積の液溜部6を構成することができる。従って、少量の水分の場合には液溜部6の容積を拡大し、大量の水分を含む試料の場合は加湿機能が不要であり縮小するという、試料の条件に合致した加湿機能を有する気液分離器1を形成することが可能となる。
【0036】
試料の変化に迅速に応答することが求められる分析装置などに用いられる気液分離器1としては、その内容積は極力小さいことが好ましく、試料の滞留による遅れのない構造が好適である。その一方、気液の分離効率にとっては、所定の内容積を必要とし、小容量は却って不利な条件となる場合がある。本発明の構成は、空間部3の容積を変更可能な構造を有することによってこうした機能を十分カバーし、気液分離器1の使用条件に対応した効率的な気液の分離を可能にしたものである。
【0037】
また、上述のように、試料が非常にドライな場合には、加湿によって貯留液が減少するが、この状態が長期継続すると貯留液による加湿ができなくなる。従って、図2(A)に例示するような構造が好ましい。具体的には、貯留液の補充を目的として液溜部6に連通するように、補充口9を気液分離器1に設ける構造を挙げることができる。補充液は、別途新たな供給路を設ける場合や、後述するような分析装置にあっては、自己のドレンを利用することができる。また、貯留液の給補は、別途溶液や工業用水などを準備して行うことも可能であるが、後述する共存する液状物あるいは前記ドレンの一部を利用することも可能である。
【0038】
さらに、液溜部6の内部側面の一部あるいは全部を、上部に広がる傾斜形状を有する構造であることが好ましい。具体的には、図2(B)に例示するような、液溜部の内部が逆円錐形となるような構造を挙げることができる。αは傾斜角を示し、液面移動距離と液表面積の関係は、この傾斜角に依存する。貯留液の液面が高い程、液表面積を大きくすることができるとともに、液面を上下することによって、液表面積を制御することができる。つまり、試料の加湿効果は、液表面積に大きく依存することから、例えば試料流量との関係で液面を調整する方法が挙げられる。試料流量が少ない場合には液面が低い状態であっても十分加湿されるが、試料流量が多い場合には液面を上げることによって大きな表面積を確保し、十分な加湿効果を得ることができる。このように、液面を上下させることによって、気液分離器の使用条件あるいは試料の状態に対応した適切な加湿効果を得ることができる。
【0039】
また、傾斜形状の傾斜角αを予め設定しておくことで、液面移動距離と液表面積の関係を調整することができる。例えば、傾斜角αを大きくすることによって、空間部3の容積変化を小さくしたままで加湿調整を行うことができる。また、傾斜角αを小さくすることによって、空間部3の容積変化を小さくしたままで加湿調整を行うことができる。
【0040】
なお、こうした液溜部6の傾斜部は、側面全体を形成する必要はなく、図2(C)や図2(D)に例示するように、その一部に傾斜形状を有する構造とすることによって、同様の効果を得ることができる。
【0041】
ここで、前記液溜部の周囲の一部あるいは全部を多孔性の溶液保持部材によって覆うことが好適である。図2(E)に例示するように、多孔性部材による表面積の増大、溶液保持部材10による部材表面での気液接触の確保をすることができることを利用したもので、溶液保持部材10によって被覆された前記液溜部6を通過する試料の加湿効果を向上させることができる。従って、加湿機能を、従来に比べ大幅に小さな容積の空間部3において効率よく行うことが可能となる。
【0042】
溶液保持部材としては、通常、ポリエステル系、レーヨン、アクリル系やアクリレート系などの吸湿性繊維製の織布あるいは綿や紙を利用した網状体などを利用することが可能である。また、グラスウールのような保水性を有する多孔質についても利用することができる。
【0043】
上記図1(A)〜(D)あるいは図2(A)〜(E)に示す気液分離器1においては、挿入管8の挿入量によって貯留液の大小を調整する方法を例示したが、図3に、本発明に係る気液分離器の別の構成例を示す。図3(A)および(B)に例示するように、気液分離器1の外部に、液溜部6とドレン排出部5とを調整弁11を介して接続するバイパスライン12を有する構成を形成している。上述のような挿入管8の挿入量の調整に代えて、調整弁11の絞り量を調整することによって、貯留液の量を簡便に調整することができる。
【0044】
このとき、図3(A)において、調整弁11を「閉」操作することによって、挿入管8の先端部まで凝縮液を貯留することができ、加湿機能を有する気液分離器1を構成することができる。また、調整弁11を「開」操作することによって、図3(B)に示すように、気液分離器1に流入する凝縮液を液溜部6、バイパスライン12を経由してドレン排出部5から排出することができる。調整弁11を「全開状態」にしたときは、実質的に従来の気液分離器と同様の機能を有することとなる。さらに、調整弁11を中間状態に操作することによって、一定量の凝縮液を排出しながら貯留液の量を調整することが可能となる。
【0045】
このような調整弁11の操作により種々の機能を形成することが可能な構成によって、例えば排気ガス分析装置の稼動状態において、ボイラやプラントなどの運転状態あるいは休止状態に対応して、気液分離器の使用目的を変更することが容易になる。
【0046】
また、試料採取ラインの保守において液溜部6に残留した貯留液の排出を簡単に行うことができ、作業効率の向上を図ることができる。さらに、試料条件によっては凝縮液が腐蝕性や危険性を有する場合があり、このときの貯留液を非接触で排出することができることから作業環境上においても優位性が高い。
【0047】
なお、挿入管8の挿入量の調整機能を保持したまま、バイパスライン12を有する構成を形成することも可能であり、試料中の水分量や発生するドレン量など、気液分離器1の使用条件に対応した幅広い調整が可能となる。
【0048】
<気液分離器を用いた分析装置の実施形態>
上記の気液分離器を用いた分析装置の実施態様の例を図4に示し、説明する。
図4は、本発明の一例を示す試料処理部を用いた排ガス中の分析装置の構成図である。気液分離器1によって、試料中の凝縮水(凝縮液)を除去するとともに、水分(溶剤)を加湿調整した後、一定濃度に除湿して分析計20に導入することによって、測定誤差の少ない安定性の高い分析装置を構成することができる。例えば、排ガス中の分析装置においては、通常約0.5〜2L/minの試料が採取される。
【0049】
具体的には、試料は、試料採取部21から吸引され導管22を介して気液分離器1に導入される。気液分離器1において1次的に水分調整と接し加湿された試料は、フィルタ23を介して吸引ポンプ24によって圧送され、絞り弁25によってほぼ一定流量に調整された後、除湿手段26にて除湿され、分析計20に導入される。このとき、気液分離器1によって分離され、あるいは気液分離器1において発生した凝縮水は、安全トラップ27を経由して定圧トラップ28に落下貯留される。また、除湿手段26によって発生した凝縮水は定圧トラップ28に落下貯留される。
【0050】
つまり、通常気液分離器1は常温状態で使用されることから、試料中の水分が多い場合には、試料採取部21および導管22において一部凝縮するとともに、試料は気液分離器1において常温まで冷却される。従って、試料中の水分を常温飽和まで低下させ、凝縮した水は気液分離器1よって分離される。このとき、空間部3を大きくするように調整することによって、気液の分離効率を上げることができるとともに、気液分離器1としては、加湿機能は必要とされない。
【0051】
また、上記のように、気液分離器1を冷却ファンなど(図示せず)による強制空冷を行うこと、さらには、気液分離器1と冷却ファンの中間部に水分を所定量保持することができる部材を設けて冷風をさらに下げることによって、周囲温度以下の露点での凝縮および気液分離を行い気液分離の効率を向上させることも可能である。
【0052】
さらに、試料中の水分が少ない場合には、試料採取部21、導管22、および気液分離器1の試料流路は乾燥状態となる。ここで、気液分離器1内にある液溜部6の貯留水を試料が接することによって、試料中の水分を常温飽和まで上昇させることができ、気液分離器1の加湿能力が機能する。このとき、液表面積を増大するように液面調整あるいは溶液保持部材の設置によって、加湿効率を上げることができる。気液分離器1としては、気液分離能力は機能していない。
【0053】
ここで、例えばボイラ排ガス分析装置の場合に、気液分離器1における貯留液の量あるいは傾斜形状を有する液溜部6の液表面積は、ボイラの休転時間、試料採取流量、大気湿度、および環境温度を基に計算上得ることが可能である。環境温度は、通常分析装置内の温度によって代表することができる。
【0054】
なお、導管22、フィルタ23、吸引ポンプ24、絞り弁25、除湿手段26、安全トラップ27および定圧トラップ28などの部材の配列、数量、素材などについては、限定するものではなく、試料処理部が用いられる装置の仕様によって設定される。
【0055】
除湿手段26としては、電子冷却器を用いることが一般的であるが、半透膜除湿器も多用されている。また、安全トラップ28は、試料採取部21における試料の圧力が大きく減少した場合には外部から空気を導入して試料流路にドレンの混入することを防止し、加圧状態になった場合には安全トラップ27あるいは定圧トラップ28から試料の一部を放出し前処理部および分析計20の負荷を軽減するために設けられている。
【0056】
次に、貯留水の補充として、試料に共存する水分あるいはドレンの一部を利用する場合を、図5に示す構成例を参考に説明する。気液分離器1の加湿用の水分として既に分離されたドレンを利用することによって、別途補充液を準備する必要がなくなり、ドレンの処理の負荷も低減することができる。
【0057】
具体的には、図5に示すように、定圧トラップ28に収容されたドレンの一部をポンプ29によって気液分離器1に再度戻す構成が採られる。1次的に気液分離器1によって分離された凝縮水、および除湿手段26によって発生した凝縮水は定圧トラップ28に落下貯留されるが、その一部の凝縮水を還流するもので、試料中の水分が少ない場合などにおいて気液分離器1内の水量が減少しても、除湿手段26によって発生した凝縮水によって補充されるため、常に所定の加湿効果を得ることができる。
【0058】
本発明は、ボイラや燃焼機器あるいは自動車などを対象とする燃焼排気ガス中の特定成分分析装置などのように、対象設備が定期的あるいは不定期に燃焼を停止し、排ガス中の水分が極端にDry化する場合に有用であり、特に、現場設置型の分析装置として、その機能を十分に発揮することができる。また、運転状態によって排ガス中の水分量が極端に異なる場合にあっても、その条件に合致した最適の気液分離、試料の前処理を行うことができる。その結果、試料の前処理初段の確実な気液分離を行い、後段での前処理を容易にすることができ、その結果測定精度の高い分析装置の供給が可能となる。
【0059】
<その他の実施形態>
上記装置の使用前に、液溜部の貯留液に、緩衝材、例えば、リン酸を注入することによって、SOやNOなどの初期的な溶解損失を低減することができる。また、使用していくにつれて試料中のドレンや凝縮水によってリン酸濃度は低下するが、同時に徐々に溶解した成分によって貯留液の酸性度は所定の範囲で略安定し、溶解量の増加を招くことはない。つまり、気液分離器内で新たに発生する凝縮水への溶解による損失に抑制することができることから、溶解損失を低減しつつ、溶解損失を安定な条件に保つことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上は、主に燃焼排気ガス中の特定成分分析装置の前処理部などについて述べたが、同様の技術は、半導体等各種プロセス用分析装置などについても適用されるものであり、上記に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0061】
また、「気液分離」の液体を、試料中に含まれる水分を中心に説明したが、むろんこれに限定されるものではなく、有機溶媒など分離器において分離可能な種々の物質について適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る気液分離器の構成例を示す説明図。
【図2】本発明に係る気液分離器の他の構成例を示す説明図。
【図3】本発明に係る気液分離器の他の構成例を示す説明図。
【図4】本発明に係る気液分離器を用いた分析装置の構成例を示す説明図。
【図5】本発明に係る気液分離器を用いた分析装置の他の構成例を示す説明図。
【図6】燃焼排気ガス中の特定成分分析装置の一例を示す説明図。
【図7】従来の気液分離器の一例を示す説明図。
【符号の説明】
【0063】
1 気液分離器
3 空間部
6 液溜部
8 挿入管
10 溶液保持部材
20 分析計


【特許請求の範囲】
【請求項1】
気液が共存する試料を導入する入口部、試料が通過する所定の容積を有する空間部、試料と気液接触が可能な所定の容積を有する液溜部、気体を主成分とする試料を排出する出口部、及び分離液を排出するドレン排出部を有する気液分離器であって、前記空間部の容積または/および液溜部の容積を変更可能な構造を有することを特徴とする気液分離器。
【請求項2】
前記液溜部に貯留液を補充可能な手段を有することを特徴とする請求項1に記載の気液分離器。
【請求項3】
前記補充される貯留液が、試料に共存する液状物あるいは前記ドレンの一部であることを特徴とする請求項1または2記載の気液分離器。
【請求項4】
前記液溜部の内部側面の一部あるいは全部が、上部に広がる傾斜形状を有する構造であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の気液分離器。
【請求項5】
前記液溜部の液面の一部あるいは全部を多孔性の溶液保持部材によって覆うことを特徴とする請求項1に記載の気液分離器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の気液分離器を搭載し、試料の前処理を行うことを特徴とする分析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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